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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2025011374
(43)【公開日】2025-01-24
(54)【発明の名称】気体圧縮機
(51)【国際特許分類】
   F04B 39/00 20060101AFI20250117BHJP
【FI】
F04B39/00 107J
F04B39/00 104D
F04B39/00 107A
【審査請求】未請求
【請求項の数】8
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023113433
(22)【出願日】2023-07-11
(71)【出願人】
【識別番号】502129933
【氏名又は名称】株式会社日立産機システム
(74)【代理人】
【識別番号】110001829
【氏名又は名称】弁理士法人開知
(72)【発明者】
【氏名】野崎 務
(72)【発明者】
【氏名】成澤 伸之
(72)【発明者】
【氏名】須藤 浩介
【テーマコード(参考)】
3H003
【Fターム(参考)】
3H003AA02
3H003AB07
3H003AC02
3H003AD03
3H003BC03
3H003CB01
3H003CB08
(57)【要約】
【課題】ピストンリングのシール性の向上を図る。
【解決手段】気体圧縮機は、シリンダと、シリンダの内側で揺動しながら往復動するピストン104と、ピストン104の外周に設けられたピストンリング149と、ピストン104を駆動する駆動機構が設けられるクランク室と、を備え、ピストンリング149は、ピストンリング149の外周のクランク室側に傾斜面149eを有し、傾斜面149eは、ピストンリング149の軸心との成す角度である傾斜角度θ2がピストン104の圧縮工程における最大揺動角度β(270)よりも大きい傾斜面領域を有する。
【選択図】図10
【特許請求の範囲】
【請求項1】
シリンダと、
前記シリンダの内側で揺動しながら往復動するピストンと、
前記ピストンの外周に設けられたピストンリングと、
前記ピストンを駆動する駆動機構が設けられるクランク室と、を備え、
前記ピストンリングは、前記ピストンリングの外周の前記クランク室側に傾斜面を有し、
前記傾斜面は、前記ピストンリングの軸心との成す角度である傾斜角度が前記ピストンの圧縮工程における最大揺動角度よりも大きい傾斜面領域を有する、気体圧縮機。
【請求項2】
請求項1に記載の気体圧縮機において、
前記傾斜面の前記傾斜角度は、該傾斜面の面内の位置によらず一定で、かつ、前記最大揺動角度よりも大きく設定される、気体圧縮機。
【請求項3】
請求項1に記載の気体圧縮機において、
前記傾斜面の前記傾斜角度は、該傾斜面における前記クランク室とは反対側の第1端部から前記クランク室側の第2端部に近づくに従って大きくなり、かつ、前記第2端部では前記最大揺動角度よりも大きく設定される、気体圧縮機。
【請求項4】
請求項1に記載の気体圧縮機において、
前記傾斜面の形成範囲は、前記最大揺動角度の場合に前記クランク室から最も遠ざかる周方向位置を中央とし、該中央を含む周方向所定角度範囲に設定される、気体圧縮機。
【請求項5】
請求項4に記載の気体圧縮機において、
前記周方向所定角度範囲は180度よりも大きく設定される、気体圧縮機。
【請求項6】
請求項4に記載の気体圧縮機において、
前記ピストンリングは、前記周方向所定角度範囲の前記中央から周方向角度が180度ずれた位置に、合口を有し、
前記ピストンリングの周方向において、前記周方向所定角度範囲と前記合口の形成領域とは離間している、気体圧縮機。
【請求項7】
請求項4に記載の気体圧縮機において、
前記傾斜面のピストンリング軸心方向の寸法は、前記周方向所定角度範囲の前記中央において最も大きく設定される、気体圧縮機。
【請求項8】
請求項1に記載の気体圧縮機において、
前記傾斜面のピストンリング軸心方向の寸法である第1寸法tと、前記ピストンリングのピストンリング軸心方向の寸法である第2寸法Tとは、(t/T)>1/4に設定される、気体圧縮機。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、気体圧縮機に関する。
【背景技術】
【0002】
レシプロ式圧縮機は、空気圧縮機や冷凍空調用圧縮機として広く普及している。ところで、レシプロ式圧縮機において圧縮中の作動流体が作動室からクランク室へ漏洩すると、圧縮機効率が低下してしまう。そこで、ピストンとシリンダの隙間から作動流体の漏洩を防ぐ方法として、ピストンリングをピストン外周に設け、作動室の圧力を利用してピストンリングをシリンダ内周面に押し付ける方法が知られている(特許文献1参照)。
【0003】
また、レシプロ式圧縮機においては、特許文献2に記載されているような揺動ピストン式レシプロ圧縮機が知られている。揺動ピストン式レシプロ圧縮機では、ピストンは揺動運動をしながらシリンダ内を往復動する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】WO2015/098924
【特許文献2】特開2006-152960号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
ところで、特許文献1に記載のような作動室の圧力を利用するピストンリングを、揺動ピストン式レシプロ圧縮機に適用した場合、ピストンが揺動した際にピストンリングをシリンダ内周面に押し付ける力が不十分となり、シール性能に問題が生じるおそれがある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明の一態様による気体圧縮機は、シリンダと、前記シリンダの内側で揺動しながら往復動するピストンと、前記ピストンの外周に設けられたピストンリングと、前記ピストンを駆動する駆動機構が設けられるクランク室と、を備え、前記ピストンリングは、前記ピストンリングの外周のクランク室側に傾斜面を有し、前記傾斜面は、前記ピストンリングの軸心との成す角度である傾斜角度が前記ピストンの圧縮工程における最大揺動角度よりも大きい傾斜面領域を有する。
【発明の効果】
【0007】
本発明によれば、揺動ピストン式の気体圧縮機において、ピストンリングのシール性の向上を図ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0008】
図1】気体圧縮機の構成を示す図である。
図2】圧縮機本体の概略構成を示す図である。
図3】ピストンおよび連接棒の構成を示す図である。
図4】クランク角度とピストンの状態との関係を説明する図である。
図5】クランク角度と揺動角度との関係を示す模式図である。
図6】ピストンの分解斜視図である。
図7】ピストンリングの斜視図である。
図8】ピストンリングの下面側を示す平面図である。
図9A図7のピストンリングの位置A1における周方向に垂直な断面を示す図である。
図9B図7のピストンリングの位置A4における周方向に垂直な断面を示す図である。
図10】ピストンリングに作用する気体圧力を説明するための模式図である。
図11図10に示すピストンリングを、連接棒の軸心に沿う方向から見た模式図である。
図12】比較例を示す図である。
図13A図9Aにおいてθ2<β(270)と設定した場合を示す図であって、β=0の場合を示す。
図13B図9Aにおいてθ2<β(270)と設定した場合を示す図であって、β=0の場合を示す。
図14A】第2の実施形態におけるピストンリングの断面図であり、位置A1における断面を示したものである。
図14B】第2の実施形態におけるピストンリングの断面図であり、位置A4における断面を示したものである。
図15】最大揺動角度β(270)における、ピストンリングとシリンダ内周面との接触位置を説明する図である。
図16A】第2の実施形態における比較例を示す図であり、揺動角度βが0<β<β(270)の場合を示す。
図16B】第2の実施形態における比較例を示す図であり、揺動角度βがβ=β(270)の場合を示す。
【発明を実施するための形態】
【0009】
(第1の実施形態)
図1図13Bを参照して、本発明の第1の実施形態について説明する。なお、実質的に同一又は類似の構成には同一の符号を付し、説明が重複する場合には、その説明を省略する場合がある。
【0010】
図1は気体圧縮機1の構成を示す図である。気体圧縮機1は、気体(例えば、空気)を圧縮する圧縮機本体10と、それを駆動する電動機2と、圧縮機本体10が吐出する気体を貯留するタンク3と、を備える。
【0011】
圧縮機本体10および電動機2はタンク3上に設置されている。圧縮機本体10に設けられた付図示のクランクシャフトには、圧縮機プーリ4が固定されている。電動機2の回転軸には電動機プーリ5が固定されている。圧縮機プーリ4と電動機プーリ5とには伝動ベルト6が掛け回されている。電動機2が回転駆動されて電動機プーリ5が回転すると、圧縮機プーリ4が回転駆動されて圧縮機本体10のクランクシャフトが回転する。その結果、圧縮機本体10による気体圧縮動作が行われる。圧縮気体は、シリンダ110の頂部に設けられたシリンダヘッド113内の排気室から、配管7を通じてタンク3へ吐出される。
【0012】
図2は、圧縮機本体10の概略構成を示す図である。圧縮機本体10は、クランクシャフト160と、シリンダ110と、シリンダ110内を往復動するピストン104と、クランクシャフト160とピストン104とを接続する連接棒102とを備える。シリンダ本体111はクランクケース109に接続され、クランクケース109によって形成されるクランク室109aはシリンダ本体111の内部に連通している。クランクケース109には、クランク室109aとクランクケース109の外部とを繋ぐ呼吸孔109bが形成されている。
【0013】
上述した圧縮機プーリ4と接続されるクランクシャフト160は、クランクジャーナル161と、クランクピン162と、クランクウエイト163と、クランクアーム164とを備える。クランクジャーナル161は、クランクケース109により回転自在に支持される。クランクシャフト160は、クランクジャーナル161の軸心Csを回転中心として回転する。クランクジャーナル161に設けられたクランクアーム164の一端には、連接棒102に連結されるクランクピン162が設けられている。
【0014】
クランクジャーナル161の軸心Csを中心にクランクシャフトが回転すると、クランクピン162の軸心Cbは円形軌跡P上を移動する。例えば、クランクシャフト160が反時計回りに回転すると、クランクピン162の軸心Cbは、円形軌跡P上を反時計回りに移動する。その結果、連接棒102の先端に固定されたピストン104は、シリンダ本体111内を揺動しつつ往復運動する。すなわち、ピストン104は、連接棒102と一体となってシリンダ内を揺動しながら往復する揺動型ピストンである。なお、クランクジャーナル161の軸心Csの位置は、シリンダ本体111の軸心Ccに対してオフセット量δだけ図示左側にオフセットしている。
【0015】
連接棒102の基端部121には、圧縮室119(図2参照)内の気体圧力に基づく圧縮反力が加わる。このため、連接棒102の基端部121には、機械的強度が求められる。機械的強度の高い材料の一例としては、鉄系材料、アルミ系材料などの金属材料がある。
【0016】
図3は、ピストン104および連接棒102の構成を示す図である。連接棒102は、円筒状の基端部121と、半球状の先端部129と、基端部121と先端部129とを接続する直棒部120とを備える。先端部129は、球面側が直棒部120に接続され、平面側にピストン104が固定される。なお、ピストン104と先端部129との固定には、ボルト締結、溶接、圧入等が用いられる。
【0017】
連接棒102の基端部121には軸受128が設けられている。軸受128には、転がり軸受、滑り軸受などが用いされる。図2に示したクランクピン162は、軸受128の内輪に固定される。基端部121に設けられた軸受128の軸心は、図3の紙面に直交しており、かつ、連接棒102の軸心C1上に配置されている。ピストン104は、ピストン本体140とピストンリング149とを有する。ピストンリング149は、ピストン本体140の外周に形成された環状溝141に装着される。ピストン104の詳細については後述する。
【0018】
図2に戻って、シリンダ110について説明する。シリンダ110は、円筒状のシリンダ本体111と、バルブプレート112と、バルブプレート112とを備える。シリンダ110はクランクケース109に固定される。シリンダ本体111の上部開口端部を塞ぐように設けられるバルブプレート112は、シリンダ本体111とシリンダヘッド113とで挟持される。クランクシャフト160が回転すると、クランクピン162で連結された連接棒102の先端に固定されたピストン104が、シリンダ本体111内を揺動しながら往復動する。
【0019】
シリンダ本体111内には、ピストン104、シリンダ本体111およびバルブプレート112によって圧縮室119が形成される。シリンダヘッド113には、吸気室113aと排気室113bとが形成されている。吸気室113aは、バルブプレート112に形成された吸入孔112aを介して、シリンダ本体111に形成された圧縮室119に連通している。一方、排気室113bは、バルブプレート112に形成された吐出孔112bを介して、シリンダ本体111に形成された圧縮室119に連通している。
【0020】
バルブプレート112には、リード弁タイプの吸入弁112cおよび吐出弁112dが取り付けられている。吸入弁112cは、吸入孔112aの圧縮室119側の開口に対向して設けられ、吸入孔112aを閉じている。吐出弁112dは、吐出孔112bの排気室113b側の開口に対向して設けられ、吐出孔112bを閉じている。
【0021】
ピストン104がシリンダ110内を図示下方に移動することで、圧縮室119内の気体が膨張して圧縮室119の圧力が吸気室113aの圧力よりも低くなると、それらの差圧により吸入弁112cが開く。その結果、吸入孔112aを介して吸気室113aの気体が圧縮室119内へ流入する。逆に、ピストン104がシリンダ110内を図示上方に移動することで、圧縮室119内の気体が圧縮されて圧縮室119の圧力が排気室113bの圧力よりも高くなると、それらの差圧により吐出弁112dが開く。その結果、吐出孔112bを介して圧縮室119内の気体が排気室113bへ流入する。
【0022】
図4は、クランクシャフト160のクランク角度αとピストン104の状態との関係を説明する図である。図4において、状態(a)はクランク角度αが0度の場合を示し、状態(b)はα=90度の場合を示し、状態(c)はα=180度の場合を示し、状態(d)はα=270度の場合を示し、状態(e)はα=360度の場合を示す。ピストン104は、状態(a),(e)で上死点となり、状態(c)で下死点となる。状態(a)から状態(c)までが吸入工程で、状態(c)から状態(e)までが圧縮行程である。
【0023】
ピストン104が上死点から下死点へ向かう吸入工程では、圧縮室119の気体が膨張し、吸入弁112cが開いて圧縮室119内に気体が吸い込まれるとともに、クランク室109a側の気体が、ピストン104とシリンダ110との間の隙間を通じて圧縮室119内に気体が吸い込まれる。ピストン104が下死点から上死点へ向かう圧縮工程では、圧縮室119の気体が圧縮され吐出弁112dから排出される。
【0024】
なお、図2に示した例では、クランクシャフト160の回転中心(すなわち、クランクジャーナル161の軸心Cs)は、シリンダ本体111の軸心Cc(y軸)に対して図示左側にオフセットしている。一方、図4では、説明を簡単にするためにオフセット量δが0の場合を例に示した。
【0025】
クランクシャフト160は、図2において反時計回りに回転駆動されるものとする。図4では、説明の便宜上、クランクジャーナル161を通るx軸、y軸で区切られる4つの領域を第1象限、第2象限、第3象限、第4象限とする。y軸はシリンダ本体111の軸心に一致している。
【0026】
クランク角度αが0度の状態(a)では、クランクピン162はy軸のプラス側軸上に位置しており、ピストン104は上死点に位置する。状態(a)では、ピストン104およびピストンリング149は水平状態となる。
【0027】
クランクシャフト160が反時計回りに回転してクランク角度αが0度から増加すると、クランクピン162はy軸上から第2象限に移動するとともに、圧縮室119の容積が増加する。連接棒102の先端に固定されたピストン104は、シリンダ本体111の軸心に直交する方向への移動がシリンダ本体111の内壁によって規制される。そのため、クランクピン162が第2象限に移動すると、ピストン104は、ピストン104の図示右側が図示下側(図2のクランク室109aの方向)に傾くように揺動する。
【0028】
クランク角度αが90度の状態(b)になると、クランクピン162はx軸上のマイナス側に位置し、吸入工程において最も揺動角度が大きくなる。ここでは、クランク角度αのときの揺動角度βをβ(α)のように表すことにする。すなわち、状態(b)における揺動角度はβ(90)と表される。揺動中心C0はピストン104の略中央に位置し、状態(d)のように連接棒102が揺動中心C0に対して図示右側に振れるように揺動した場合の揺動角度をプラスとし、逆に、状態(b)のように図示左側に振れている場合の揺動角度をマイナスとする。すなわち、β(90)<0である。
【0029】
クランク角度αが180度の状態(c)になると、クランクピン162の位置はy軸上となり、揺動角度β(180)は0度となる。なお、β(180)は、クランク角度が180度の場合の揺動角度を表す。ピストン104は下死点の位置となり、ピストン104およびピストンリング149は水平状態となる。クランク角度αが180度を超えると圧縮室119の容積の縮小が開始され,圧縮室119内の気体が圧縮される。
【0030】
クランク角度αが270度の状態(d)になると、クランクピン162はx軸上のプラス側に位置し、圧縮工程において最も揺動角度βが大きくなる。連接棒102は揺動中心C0に対して図示右側に振れるように揺動しているので、β(270)>0である。図4に示す例では、シリンダ本体111の軸心(y軸)に対するクランクジャーナル161の軸心のオフセット量δが0なので、β(270)=-β(90)の関係が成り立っている。
【0031】
クランク角度αが360度となって状態(e)になると、ピストン104はシリンダ本体111内を一往復して上死点に戻り、圧縮された気体の吐出しが完了する。
【0032】
図5は、クランク角度αと揺動角度βとの関係を模式的に示した図である。図5において、実線L1は図2に示したオフセット量δがゼロでない場合(図2に示す構成の場合)を示し、破線L2はオフセット量δ=0の場合(図4に示す構成の場合)を示す。ここでは、図2の場合の揺動角度をβ1とし、図4の場合の揺動角度をβ2と表すことにする。
【0033】
オフセット量δがゼロの場合(図4)もゼロでない場合(図2)も、揺動角度β1,β2はクランク角度αが90度で最小となり、270度で最大となる。すなわち、揺動角度β1,β2の絶対値|β1|,|β2|は、吸入工程ではα=90度で最大となり、圧縮工程ではα=270度で最大となる。また、上死点および下死点となるクランク角度αは、オフセット量δがゼロの場合もゼロでない場合も、上死点は0度,360度で下死点は180度である。
【0034】
一方、揺動角度β1,β2がゼロとなるクランク角度αは、オフセット量δがゼロの場合はα=0度であるが、オフセット量δがゼロでない場合には180度-α1および360度-α1となる。ここで、角度α1は、図2に示すようにクランクピン162の軸心Cbがシリンダ本体111の軸心Cc上に位置する場合における、軸心Cc,Cbを通る直線と軸心Ccとの成す角度である。
【0035】
図6は、ピストン104の分解斜視図である。ピストン104は略円板状に形成され、ピストン104の外周にはピストンリング149が装着される環状溝141が形成されている。ピストンリング149は略C字形状の部材であって、端部が上下に重なり合う合口149aを有する。符号Bで示す範囲が、ピストンリング外周側における合口149aの範囲である。図2に示すように、ピストンリング149は、シリンダ内に形成された圧縮室119とクランク室側の空間との間を封止するシール部材として機能する。
【0036】
図4に示したように、ピストン104は、シリンダ本体111の軸心Ccに直交する方向の移動に関してはシリンダ内周面により拘束された状態で、シリンダ本体111内を揺動しつつ往復運動する。そのため、ピストン104は、円筒状のシリンダ内周面に対して揺動可能な形状であることが要求される。ピストン104の側周面142a,142bは、円筒形のシリンダ内周面に対して滑らかに揺動しつつ往復運動するように、球面状に形成されている。例えば、側周面142a,142bは、図4の揺動中心C0を中心とする球面の一部で構成される。
【0037】
また、ピストン104の揺動に伴って、ピストンリング149はシリンダ内周面に対して水平状態だけでなく傾いた状態となるので、そのような傾いた状態においても十分なシール性が要求される。そのため、ピストンリング149を後述するような形状とすることで、圧縮工程における圧縮室119の気密性の向上を図るようにした。
【0038】
本実施形態では、ピストン104のピストン本体140は、固体潤滑性の優れた材料で形成される。固体潤滑性の優れた材料の一例としては、ポリテトラフルオロエチレンなどのフッ素樹脂に、強度などの機械的特性を改善するためにグラスファイバーなどの充填剤を入れた材料がある。ピストン本体140に固体潤滑性の優れた材料を用いることで、潤滑油を用いない構成とすることが可能である。潤滑油を用いない構成では、圧縮室119内の気体に潤滑油が混入することがなくなるという利点を有する。なお、本実施形態では、ピストンリング149は、ピストン本体140と同じ材料で形成される。
【0039】
図7図9Bを参照して、第1の実施形態におけるピストンリング149の形状の詳細について説明する。図7は、ピストンリング149の斜視図である。図7は、図4の状態(a)におけるピストンリング149を示したもので、座標軸x、y、zは図4の場合と同様に設定されている。図7に示すピストンリング149において、x軸に沿う方向はピストン104の揺動方向であり、z軸に沿う方向は揺動方向と直交する方向である。
【0040】
なお、以下では、図4図7におけるx軸のマイナス方向を揺動方向の一方と定義し、x軸のプラス方向を揺動方向の他方と定義する。また、図7のピストンリング149において、x軸マイナス側の領域を揺動方向一方側と呼び、x軸のプラス側の領域を揺動方向他方側と呼ぶことにする。さらに、図7のピストンリング149において、x軸プラス側に一致する位置を位置A1、x軸マイナス側に一致する位置を位置A2、z軸プラス側に一致する位置を位置A3、z軸マイナス側に一致する位置を位置A4と呼ぶことにする。
【0041】
図7に示すように、合口149aは、ピストンリング149の位置A2を含む揺動方向一方側(x軸のプラス側)に形成されている。ピストンリング149の内周面149cは、ピストンリング149の上面149b1に垂直な円筒状の曲面である。ピストンリング149の外周側は、上面149b1に垂直な円筒状の外周面149dと、外周面149dからピストンリング149の軸心側に傾斜した傾斜面149eとから成る。傾斜面149eは、ピストンリング149の位置A1を含む周方向所定範囲に亘って形成される。ピストンリング149において、位置A1は、図4の状態(d)においてクランク室109aから最も遠ざかる位置である。
【0042】
図8は、ピストンリング149の下面149b2側を示す平面図である。ここで、ピストンリング149の下面149b2とは、図2のようにピストン104に装着された状態において、圧縮室119とは反対側のクランク室109a側を向く面である。傾斜面149eは、位置A1を中央位置として180度よりも大きな角度θ1の範囲に形成されている。傾斜面149eの周方向の一方の端部149e1は、揺動方向と直交する方向(z軸方向)の位置A3と合口149aの範囲Bの図示上側の端部との間に位置する。傾斜面149eの周方向の他方の端部149e2は、揺動方向と直交する方向(z軸方向)の位置A4と合口149aの範囲Bの図示下側の端部との間に位置する。
【0043】
図9Aは、図7のピストンリング149の位置A1における周方向に垂直な断面を、z軸のプラス方向から見た断面図である。図9Bは、図7のピストンリング149の位置A4における周方向に垂直な断面を、x軸のプラス方向から見た断面図である。
【0044】
ピストンリング149の厚さ方向の寸法(以下では、厚さ寸法と呼ぶ)はTである。外周面149dに対する傾斜面149eの傾斜角度θ2は、図8に示した端部149e1から端部149e2までの全域において一定値に設定されている。なお、ここでは、傾斜角度θ2のことを外周面149dに対する傾斜角度と呼んでいるが、ピストンリング149の軸心に対する傾斜角度でもある。すなわち、軸心を含む面でピストンリング149を断面した場合の傾斜面149eを表す直線と軸心との成す角度は、傾斜角度と同一値である。
【0045】
また、傾斜面149eの厚さ方向の寸法t(以下では、高さ寸法と呼ぶ)は、位置A1において最大値tmaxに設定され、位置A1から端部149e1,149e2に近づくほど小さくなる。もちろん、傾斜面149eの高さ寸法tを、位置A1から端部149e1,149e2まで同一に設定しても構わない。
【0046】
図10は、図4の状態(d)においてピストンリング149に作用する気体圧力を説明するための模式図である。状態(d)は圧縮工程なので、ピストン104はy軸プラス方向に上昇し、圧縮室119内の気体を圧縮する。ピストン104は図5で説明したように、状態(d)のクランク角度α(=270度)においては、圧縮工程における揺動角度βの絶対値が最も大きくなる。
【0047】
環状溝141の溝幅Wは、ピストンリング149の厚さ寸法T(図9A参照)よりも大きく設定されている。環状溝141内には、ピストンリング149の上面149b1と環状溝141との隙間を通して圧縮室119の気体が入り込む。その結果、ピストンリング149の内周面149cには、圧縮室119の気体の圧力Pcが負荷される。
【0048】
図7,8に示したように、ピストンリング149のx軸マイナス側の領域(揺動方向一方側)の外周は円筒状の外周面149dで構成され、x軸プラス側の領域(揺動方向他方側)の外周は外周面149dと傾斜面149eとで構成される。ピストンリング149の揺動方向一方側では、外周面149dの上端エッジ部がシリンダ内周面111aに接触している。そのため、外周面149dに負荷されるクランク室側の圧力P0と内周面149cに負荷される圧縮室119の圧力Pcとの圧力差によって、ピストンリング149がシリンダ内周面111aに押し付けられることになる。
【0049】
一方、ピストンリング149の揺動方向他方側では、外周面149dと傾斜面149eとの境界の部分のエッジがシリンダ内周面111aに接触している。そのため、外周面149dには圧縮室119の圧力Pcが負荷され、傾斜面149eにはクランク室側の圧力P0が負荷される。図10の断面において、傾斜面149eに負荷される圧力P0における内周面149cに垂直な方向の圧力成分は、P0×cos(θ2)となる。P0×cos(θ2)はPcよりも小さいので、揺動方向他方側においても、気体の差圧によってピストンリング149はシリンダ内周面111aに押し付けられることになる。
【0050】
このとき、ピストンリング149に作用する押付け力は、内周面149cの高さ寸法tの領域の圧力Pcによる力と、傾斜面149eにおける圧力成分P0×cos(θ2)による力との差と見做せる。そのため、押付け力はt/Tに比例することになる。押付け力の値は圧力差にも依存するが、実験等によれば、圧力差により十分な押付け力を得るためには、t/T>1/4程度に設定するのが好ましい。
【0051】
図11は、図10に示すピストンリング149を、連接棒102の軸心C1(図3参照)に沿う方向から見た模式図である。破線で示す円は環状溝141の底面を示している。図10に示すようにピストン104は揺動角度βだけ傾いているので、気体の圧力差によりシリンダ内周面111aに押し付けられるピストンリング149は、図11に示すような楕円形状に変形する。楕円形状は長径が揺動方向であって,短径(=シリンダ内径)をDCとすると長径はDC/cosβである。
【0052】
ピストン104が下死点から上昇するに従って揺動角度βも大きくなるので、ピストンリング149の揺動方向の寸法(=DC/cosβ)も増加する。その結果、ピストンリング149の外周がシリンダ内周面111aに隙間なく密着する。このとき、ピストンリング149の外周においてシリンダ内周面111aに接触する部分(シール部)は、揺動方向の他方側(図示右側)においては傾斜面149eと外周面149dとの境界領域(図10参照)で、揺動方向の一方側(図示左側)においては外周面149dの上側エッジ部分である。
【0053】
揺動方向と直交する方向(位置A3,A4)は上述のシール部が切り替わる領域で、押付け力が不安定となりやすい。そのため、図7,8に示すように傾斜面149eを揺動方向と直交する方向の領域まで形成することで、圧力差による押付け力がピストンリング149に確実に負荷されるようにした。
【0054】
また、合口149aの領域まで傾斜面149eを設けると,シリンダ内周面111aとピストンリング149との間に隙間が生じるので、揺動方向と直交する方向の各位置A3,A4と合口149aとの中間領域に傾斜面149eの端部149e1,149e2を配置するのが好ましい。また、揺動方向他方側である位置A1が傾斜面149eの中央となるように設定しているので、図7,8に示すように、傾斜面領域から最も遠い位置となる位置A2に合口149aを配置するのが好ましい。
【0055】
上述した図10では、一断面に関して作用する圧力の状況について説明した。しかし、図7図9Bに示すような形状を有する本実施形態のピストンリング149においては、他の断面においても、気体の圧力差によりピストンリング149がシリンダ内周面111aに押し付けられる。
【0056】
また、外周面149dに対する傾斜面149eの傾斜角度θ2は、図7の状態(d)における最大揺動角度β(270)よりも大きく設定される。θ2>β(270)のように設定することで、傾斜面149eがシリンダ内周面111aと接触することがなく、ピストンリング149をシリンダ内周面111aに押し付ける上述の圧力関係が、圧縮工程において常に満足される。
【0057】
なお、図7図9Bに示す例では、傾斜面149eの傾斜角度は一方の端部149e1から他方の端部149e2まで同一値に設定されているが、位置A1から遠ざかるにつれて傾斜角度を徐々に小さくするようにしても良い。ただし、その場合も、各周方向位置における傾斜角度はその周方向位置における最大揺動角度β(270)よりも大きく、すなわち、傾斜角度θ2>β(270)のように設定される。
【0058】
図12は、本実施形態に対する比較例を示す図である。比較例におけるピストンリング149Bは、一般的なピストンリングのように外周が円筒状の外周面149dだけで構成されている。ピストンリング149Bのその他の形状は、上述したピストンリング149と同様である。ピストンリング149Bの場合には、ピストン104が図12のように揺動すると、ピストンリング149のx軸マイナス側の領域(揺動方向一方側)では、外周面149dの上端エッジ部がシリンダ内周面111aに接触する。一方、ピストンリング149Bのx軸プラス側の領域(揺動方向他方側)では、外周面149dの下端エッジ部がシリンダ内周面111aに接触する。
【0059】
そのため、ピストンリング149Bの揺動方向一方側では、上述したピストンリング149の場合と同様に、内周面149cに負荷される圧力Pcと外周面149dに負荷される圧力P0との圧力差により、ピストンリング149がシリンダ内周面111aに押し付けられることになる。一方、ピストンリング149の揺動方向他方側では、内周面149cおよび外周面149dのいずれにも圧力Pcが負荷され、圧力差による押付け力がゼロになり、シリンダ内周面111aへのピストンリング149の押付け力が不足する。そのため、圧縮室119からクランク室側へと圧縮ガスが漏れる可能性があり、上述したピストンリング149の場合と比べてシール性能の面で劣る。
【0060】
図13A図13Bは、図9Aにおいて傾斜面149eの傾斜角度θ2を、θ2<β(270)のように設定した場合を示す。図13Aは揺動角度βがβ=β(0)=0の場合であり、図13Bはβ=β(270)=0の場合である。図13Aの場合には、外周面149dがシリンダ内周面111aと接触する。揺動角度βがβ=0から増加すると、外周面149dがシリンダ内周面111aから離れ、外周面149dと傾斜面149eとの境界E1がシリンダ内周面111aと接触するようになる。その結果、境界E1よりも図示上側の外周面149dには圧縮室側の圧力Pcが負荷され、境界E1よりも図示下側の傾斜面149eにはクランク室側の圧力P0が負荷される。
【0061】
さらに揺動角度βが増加すると、ピストンリング149とシリンダ内周面111aとの接触位置が、境界E1から傾斜面149eの下端E2へと変化する。下端E2がシリンダ内周面111aと接触する状態は、図13Bに示す最大揺動角度β(270)まで継続する。図13Bに示す状態では、外周面149dおよび傾斜面149eの両方に圧縮室側の圧力Pcが負荷されることになる。すなわち、図12に示す比較例の場合と同様の圧力負荷状況となり、揺動方向他端側におけるピストンリング149の押付け力が不足してしまう。
【0062】
上述したように、第1の実施形態では、傾斜面149eの傾斜角度θ2は、傾斜面149eの面内の位置によらず一定で、かつ、圧縮工程における最大揺動角度β(270)よりも大きく設定されている。例えば、ピストンリング149の軸心を含む平面(例えば、図10におけるxy平面)と傾斜面149eとの第1交線(図9Aの符号149eで示す直線)は直線で、xy平面と外周面149dとの第2交線(図9Aの符号149dで示す直線)に対する傾斜角度θ2が圧縮工程における最大揺動角度β(270)よりも大きく設定されている。
【0063】
そのため、ピストン104が最大揺動角度β(270)である場合に、ピストンリング149の傾斜面149eにクランク室側の圧力P0が負荷されることになる。その結果、気体の圧力差によって、ピストンリング149がシリンダ内周面111aへと押し付けられ、ピストンリング149のシール性向上を図ることができる。
【0064】
(第2の実施形態)
図14図16は、本発明の第2の実施形態を説明する図である。図14A,14Bは、第2の実施形態におけるピストンリング149の断面を示したものであり、第1の実施形態の図9A,9Bに相当する図である。図14Aは位置A1(図7参照)における断面を示したものであり、図14Bは位置A4における断面を示したものである。
【0065】
図9A,9Bに示したピストンリング149では、傾斜面149eの断面形状が直線であった。一方、図14A,14Bに示すピストンリング149では、傾斜面149fの断面形状(符号149fを付した曲線)を下面149b2の側に凸の曲線とした。例えば、傾斜面149fの断面形状を円弧とする。傾斜面149fの傾斜角度は、外周面149dに対する傾斜面149fの接線の傾斜角度である。ピストンリング149の軸心との関係で表現すると、傾斜面149fの接線と軸心との成す角度が傾斜角度に対応している。
【0066】
図14Aの位置F0での傾斜面149fの傾斜角度は、位置F0における傾斜面149fの接線の外周面149dに対する角度θ3である。傾斜角度θ3は、傾斜面149fの圧縮室側の第1端部(外周面149dとの交点)F10からクランク室側の第2端部(下面149b2との交点)F20に近づくに従って大きくなる。傾斜面149fは、面形状が傾斜面149eと異なっているが、図7,8の位置A1を中央とする周方向の形成範囲は傾斜面149eと同一に設定されている。
【0067】
また、傾斜面149fの高さ寸法tは、位置A1において最大値tmaxに設定され、位置A1から周方向端部に近づくほど小さくなる。もちろん、傾斜面149fの高さ寸法tを、位置A1から周方向端部まで同一に設定しても構わない。傾斜面149f以外の構成は、第1の実施形態に記載のピストンリング149と同様である。
【0068】
図15は、揺動角度βが最大揺動角度β(270)である図4の状態(d)の場合における、ピストンリング149とシリンダ内周面111aとの接触位置を説明する図である。最大揺動角度β(270)においては、傾斜面149fの位置F2においてシリンダ内周面111aと接触している。そのため、傾斜面149fの位置F1から位置F2の間の領域と外周面149dとに、圧縮室側の圧力Pcが負荷される。一方、傾斜面149fの位置F1よりも図示下側の領域にクランク室側の圧力P0が負荷されることになる。その結果、ピストンリング149は、気体の圧力差による押付け力を得ることができる。
【0069】
一方、ピストン104が下死点および上死点に位置する場合、すなわち、揺動角度βが0度の場合には、シリンダ内周面111aとの接触位置は位置F1になる。そのため、図4の状態(c)から状態(d)に移動する際には、接触位置は位置F1から位置F2へと移動する。そして、図4の状態(d)から状態(e)に移動する際には、接触位置は位置F2から位置F1へと移動する。傾斜面149fの場合も押付け力はt/Tに比例するので、圧縮工程におけるピストンリング149の押付け力は最大揺動角度β(270)で最大となり、接触位置が位置F2から位置F1へ移動するにつれて低下する。
【0070】
なお、図14A,14B,15に示した例では、各断面図において(すなわち、位置A1において)円筒形状の外周面149dを設けたが、外周面149dを設けなくても良い。すなわち、ピストンリング149の上面149b1の厚さ方向の位置を、位置F1に設定しても良い。このことは第1の実施形態の場合も同様であって、図9Aにおける上面149b1の位置を傾斜面149eの上端位置に設定しても良い。
【0071】
図16A、16Bは、傾斜面149fを傾斜面149f1で置き換えた比較例を示す図である。傾斜面149f1は、上端から下端に近づくに従って接線の傾斜角度が大きくなっているが、下端における接線の傾斜角度は最大揺動角度β(270)よりも小さく設定されている。
【0072】
図16Aは、揺動角度βが0<β<β(270)の場合における、傾斜面149f1とシリンダ内周面111aとの関係を示したものである。傾斜面149f1上の位置F30がシリンダ内周面111aと接触している。そのため、傾斜面149f1の位置F30よりも図示上側の領域と外周面149dとに圧縮室側の圧力Pcが負荷され、傾斜面149f1の位置F30よりも図示下側の領域にクランク室側の圧力P0が負荷される。
【0073】
なお、β=0においては、傾斜面149f1上の上端の位置F0がシリンダ内周面111aと接触する。そのため、外周面149dには圧縮室側の圧力Pcが負荷され、傾斜面149f1にはクランク室側の圧力P0が負荷される。
【0074】
図16Bは、揺動角度βがβ=β(270)の場合における、傾斜面149f1とシリンダ内周面111aとの関係を示したものである。ピストンリング149は、傾斜面149f1の下端の位置F31がシリンダ内周面111aと接触している。そのため、ピストンリング149の外周全体(外周面149dと傾斜面149f1)に、圧縮室側の圧力Pcが負荷されることになる。すなわち、図12に示す比較例の場合と同様の圧力負荷状況となり、揺動方向他端側におけるピストンリング149の押付け力が不足してしまう。
【0075】
上述したように、第2の実施形態では、傾斜面149fの傾斜角度θ3は、傾斜面149fにおけるクランク室109aとは反対側の第1端部F10からクランク室側の第2端部F20に近づくに従って大きくなり、かつ、前記第2端部F20では最大揺動角度β(270)よりも大きく設定されている。
【0076】
言い換えると、ピストンリング149の軸心を含む平面(例えば、図10におけるxy平面)でピストンリング149を断面した時の、そのxy平面と外周面149dとの交線(図9Aの符号149dで示す直線)およびxy平面と傾斜面149eとの交線(符号149eで示す直線)をそれぞれ第1交線および第2交線とする。そして、第2交線(149e)は、第1交線(149d)に対する第2交線の接線の傾斜角度が、第1交線と第2交線との交点から離れるに従って大きくなり、第2交線の端部では最大揺動角度βよりも大きくなるように設定する。
【0077】
その結果、圧縮工程においてはピストンリング149の外周のクランク室側の領域にクランク室側の圧力P0が負荷される。そのため、ピストンリング149は、内外周に負荷される気体の圧力の圧力差によりシリンダ内周面111aに押し付けられることになり、シール性向上を図ることができる。
【0078】
上述した実施形態によれば、以下のような作用効果を奏する。
【0079】
(1)図2,10,9A,9B,15等に示すように、シリンダ110と、シリンダ110の内側で揺動しながら往復動するピストン104と、ピストン104の外周に設けられたピストンリング149と、ピストン104を駆動する駆動機構が設けられるクランク室109aと、を備え、ピストンリング149は、ピストンリング149の外周のクランク室側に傾斜面149e,149fを有し、傾斜面149e,149fは、ピストンリング149の軸心との成す角度である傾斜角度θ2、θ3がピストン104の圧縮工程における最大揺動角度β(270)よりも大きい傾斜面領域を有する。例えば、図9Aの傾斜面149e、図15の傾斜面149fにおける位置F2より図示下側の領域が、最大揺動角度β(270)よりも大きい傾斜面領域に相当する。
【0080】
上述した最大揺動角度β(270)よりも大きい傾斜面領域には、圧縮工程において常にクランク室側の圧力P0が負荷される。それにより、ピストンリング149には、ピストンリング149の内外周に負荷される圧力の差によるシリンダ内周面111aへの押付け力が加わる。この気体の圧力差により十分な押付け力が得られ、ピストンリング149のシール性の向上が図られる。
【0081】
(2)上記(1)において、図9A,9B等に示すように、傾斜面149eの傾斜角度θ2は、傾斜面149eの面内の位置によらず一定で、かつ、最大揺動角度β(270)よりも大きく設定される。圧縮工程においては、図9Aの外周面149dには圧縮室側の圧力Pcが負荷され、傾斜面149eにはクランク室側の圧力P0が負荷される。その結果、圧力差による押付け力が発生し、ピストンリング149をシリンダ内周面111aに押し付ける十分な押付け力が得られる。
【0082】
(3)上記(1)において、図14A,14B,15等に示すように、傾斜面149fの傾斜角度θ3は、傾斜面149fにおけるクランク室109aとは反対側の第1端部F10からクランク室109a側の第2端部F20に近づくに従って大きくなり、かつ、第2端部F20では最大揺動角度β(270)よりも大きく設定される。
【0083】
そのように設定することで、傾斜面149fにおいて、傾斜角度θ3が最大揺動角度β(270)よりも大きな領域にはクランク室側の圧力P0が常に負荷される。その結果、ピストンリング149は、内外周に負荷される気体の圧力の圧力差によりシリンダ内周面111aに押し付けられることになり、シール性向上を図ることができる。
【0084】
(4)上記(1)において、図7,8,14A,14B等に示すように、傾斜面149e,149fの形成範囲は、最大揺動角度β(270)の場合にクランク室109aから最も遠ざかる周方向の位置A1を中央とし、その中央(位置A1)を含む周方向所定角度範囲(θ1)に形成されるのが好ましい。気体の圧力差による押付け力は位置A1において最も小さくなるので、その位置A1を中央とする周方向所定角度範囲(θ1)に傾斜面149e,149fを形成することで、押付け力の不足を確実に解消できる。
【0085】
(5)上記(4)において、図7,8等に示すように、周方向所定角度範囲(θ1)は180度よりも大きく設定される。図7,8の揺動方向と直交する方向(z軸方向)の位置A3,A4は、ピストンリング149のシール部が切り替わる領域で、押付け力が不安定となりやすい。そのため、傾斜面149eの周方向所定角度範囲(θ1)を180度よりも大きく設定することで、圧力差による押付け力がピストンリング149に確実に負荷され、揺動方向と直交する方向におけるシール性能が確実に確保される。
【0086】
(6)上記(4)において、図7,8等に示すように、ピストンリング149は、周方向所定角度範囲(θ1)の中央から周方向角度が180度ずれた位置に、合口149aを有する。そして、ピストンリング149の周方向において、周方向所定角度範囲(θ1)と合口149aの形成領域(B)とは離間している。合口149aをこのよう形成することで、合口149aが傾斜面149eとせず、合口149aにおけるシール性が確保される。
【0087】
(7)上記(4)において、図9A,14A等に示すように、傾斜面149e,149fのピストンリング軸心方向の寸法は、周方向所定角度範囲(θ1)の中央(位置A1)において最も大きく設定される。このように設定することで、ピストンリング149の位置A1(揺動方向他方側)における押し付け力が大きくなり、シール性が確実に確保される。
【0088】
(8)上記(1)において、図9A,14A等に示すように、傾斜面149e,149fのピストンリング軸心方向の寸法である第1寸法tと、前記ピストンリングのピストンリング軸心方向の寸法である第2寸法Tとは、(t/T)>1/4に設定するのが好ましい。このように設定することで、圧力差により十分な押付け力を得ることができる。
【0089】
以上、本発明の実施形態について説明したが、上記実施形態は本発明の適用例の一部を示したに過ぎず、本発明の技術的範囲を上記実施形態の具体的構成に限定する趣旨ではない。
【符号の説明】
【0090】
1…気体圧縮機、2…電動機、3…タンク、4…圧縮機プーリ、5…電動機プーリ、6…伝動ベルト、7…配管、10…圧縮機本体、102…連接棒、104…ピストン、109…クランクケース、109a…クランク室、110…シリンダ、111…シリンダ本体、111a…シリンダ内周面、112…バルブプレート、113…シリンダヘッド、119…圧縮室、128…軸受、140…ピストン本体、141…環状溝、149,149B…ピストンリング、149a…合口、120…直棒部、160…クランクシャフト、161…クランクジャーナル、162…クランクピン、163…クランクウエイト、164…クランクアーム、F10…第1端部、F20…第2端部、α…クランク角度、β,β(α)…揺動角度、β(270)…最大揺動角度、θ2、θ3…傾斜角度
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9A
図9B
図10
図11
図12
図13A
図13B
図14A
図14B
図15
図16A
図16B