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特開2025-11376心理的距離推定装置、心理的距離推定方法、心理的距離推定プログラム
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2025011376
(43)【公開日】2025-01-24
(54)【発明の名称】心理的距離推定装置、心理的距離推定方法、心理的距離推定プログラム
(51)【国際特許分類】
   A61B 5/16 20060101AFI20250117BHJP
   A61B 5/00 20060101ALI20250117BHJP
   A61B 5/0245 20060101ALI20250117BHJP
【FI】
A61B5/16 100
A61B5/00 G
A61B5/0245 B
【審査請求】未請求
【請求項の数】5
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023113438
(22)【出願日】2023-07-11
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第2項適用申請有り 令和5年5月18日~20日に開催された第62回日本生体医工学会にて、令和5年5月20日に発表した。
(71)【出願人】
【識別番号】593006630
【氏名又は名称】学校法人立命館
(74)【代理人】
【識別番号】100154014
【弁理士】
【氏名又は名称】正木 裕士
(74)【代理人】
【識別番号】100154520
【弁理士】
【氏名又は名称】三上 祐子
(72)【発明者】
【氏名】岡田 志麻
(72)【発明者】
【氏名】山浦 一保
(72)【発明者】
【氏名】塩澤 成弘
(72)【発明者】
【氏名】山本 一天
(72)【発明者】
【氏名】福家 健太
【テーマコード(参考)】
4C017
4C038
4C117
【Fターム(参考)】
4C017AA02
4C017AA10
4C017BC11
4C038PP03
4C038PS00
4C117XB01
4C117XB18
4C117XC13
4C117XD15
4C117XE06
4C117XE13
4C117XE15
4C117XE23
4C117XE24
4C117XJ18
(57)【要約】
【課題】人間関係を推定することができる心理的距離推定装置を提供する。
【解決手段】複数の測定対象者それぞれの自律神経系活動におけるバイタルデータを所定時間毎に取得するバイタルデータ取得部32を備えている。そして、バイタルデータ取得部32にて取得したバイタルデータを正規化する標準正規化部33を備えている。さらに、標準正規化部33にて正規化したバイタルデータに基づいて、複数の測定対象者における測定対象者同士の同期度合いを算定する同期度合い算定部35を備えている。
【選択図】図2
【特許請求の範囲】
【請求項1】
複数の測定対象者それぞれの自律神経系活動におけるバイタルデータを所定時間毎に取得する取得手段と、
前記取得手段にて取得した前記バイタルデータに基づいて、前記複数の測定対象者における測定対象者同士の同期度合いを算定する算定手段と、を有してなる心理的距離推定装置。
【請求項2】
前記算定手段にて算定した同期度合いに基づいて、自己組織化マップを生成する生成手段を、さらに有してなる請求項1に記載の心理的距離推定装置。
【請求項3】
前記取得手段にて取得した前記バイタルデータを正規化する標準正規化手段をさらに有し、
前記算定手段は、前記標準正規化手段にて正規化した前記バイタルデータに基づいて、前記複数の測定対象者における測定対象者同士の同期度合いを算定してなる請求項1又は2に記載の心理的距離推定装置。
【請求項4】
所定の装置を用いて実行される心理的距離推定方法において、
複数の測定対象者それぞれの自律神経系活動におけるバイタルデータを所定時間毎に取得するステップと、
前記取得した前記バイタルデータに基づいて、前記複数の測定対象者における測定対象者同士の同期度合いを算定するステップと、を含んでなる心理的距離推定方法。
【請求項5】
コンピュータに、
複数の測定対象者それぞれの自律神経系活動におけるバイタルデータを所定時間毎に取得する第1処理と、
前記第1処理にて取得した前記バイタルデータに基づいて、前記複数の測定対象者における測定対象者同士の同期度合いを算定する第2処理と、を実行させる心理的距離推定プログラム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、心理的距離推定装置、心理的距離推定方法、心理的距離推定プログラムに関する。
【背景技術】
【0002】
心身ともに健康で満足した生活を送るためには、身体の健康のみならず、人間関係の質に関係する人と人とのこころのつながりが重要であると指摘されている。コロナ禍の影響により、行動制限などで、コミュニケーションをとる機会が減った中で、他人とのつながりの指標となるこころの距離を数値的に示すことが重要である。
【0003】
この点、人のこころの状況を知るために、画像を用いた感情推定や脳波や心拍といった自律神経指標を用いた個人の感情を知る技術が提案されている。
【0004】
しかしながら、自由活動下での自律神経活動は、身体的、精神的活動を分離することが難しいことから自律神経や中枢神経のみで、こころの変動を捉えることは困難とされてきた。そのため、上記の技術は、刺激(入力)が特定された中での、1対1の感情をとらえるものであり、集団におけるこころの距離を示すことは困難であった。
【0005】
そこで、上記のような問題を解決すべく、特許文献1に記載のような技術が提案されている。この特許文献1に記載の発明は、同行した複数の対象者同士の関係性を推定できるようにしたものである。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特許第6126540号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかしながら、上記特許文献1に記載の技術は、歩数などの人の活動状態を検出し、人の活動状態しか判断していない。そのため、人と人の相互作用、つまり、人間関係までは推定できないという問題があった。すなわち、誰と誰が、仲が悪く、誰と誰が、仲が良いのか等、人の活動状態だけでは判断がつかない、人と人の相互作用、つまり、人間関係までは推定できないという問題があった。
【0008】
そこで、本発明は、上記問題に鑑み、人間関係を推定することができる心理的距離推定装置、心理的距離推定方法、心理的距離推定プログラムを提供することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記本発明の目的は、以下の手段によって達成される。なお、括弧内は、後述する実施形態の参照符号を付したものであるが、本発明はこれに限定されるものではない。
【0010】
請求項1に係る心理的距離推定装置は、複数の測定対象者それぞれの自律神経系活動におけるバイタルデータ(例えば、脈拍データ)を所定時間毎に取得する取得手段(例えば、図2に示すバイタルデータ取得部32)と、
前記取得手段(例えば、図2に示すバイタルデータ取得部32)にて取得した前記バイタルデータ(例えば、脈拍データ)に基づいて、前記複数の測定対象者における測定対象者同士の同期度合いを算定する算定手段(例えば、図2に示す同期度合い算定部35)と、を有してなることを特徴としている。
【0011】
請求項2に係る心理的距離推定装置は、上記請求項1に記載の心理的距離推定装置において、前記算定手段(例えば、図2に示す同期度合い算定部35)にて算定した同期度合いに基づいて、自己組織化マップを生成する生成手段(例えば、図2に示す自己組織化マップ生成部36)を、さらに有してなることを特徴としている。
【0012】
請求項3に係る心理的距離推定装置は、上記請求項1又は2に記載の心理的距離推定装置において、前記取得手段(例えば、図2に示すバイタルデータ取得部32)にて取得した前記バイタルデータ(例えば、脈拍データ)を正規化する標準正規化手段(例えば、図2に示す標準正規化部33)をさらに有し、
前記算定手段(例えば、図2に示す同期度合い算定部35)は、前記標準正規化手段(例えば、図2に示す標準正規化部33)にて正規化した前記バイタルデータ(例えば、脈拍データ)に基づいて、前記複数の測定対象者における測定対象者同士の同期度合いを算定してなることを特徴としている。
【0013】
請求項4に係る心理的距離推定方法は、所定の装置(例えば、図1に示す心理的距離推定装置3)を用いて実行される心理的距離推定方法において、
複数の測定対象者それぞれの自律神経系活動におけるバイタルデータ(例えば、脈拍データ)を所定時間毎に取得するステップ(例えば、図3に示すステップS1)と、
前記取得した前記バイタルデータ(例えば、脈拍データ)に基づいて、前記複数の測定対象者における測定対象者同士の同期度合いを算定するステップ(例えば、図3に示すステップS4)と、を含んでなることを特徴としている。
【0014】
請求項5に係る心理的距離推定プログラムは、
コンピュータ(例えば、図1に示す心理的距離推定装置3)に、
複数の測定対象者それぞれの自律神経系活動におけるバイタルデータ(例えば、脈拍データ)を所定時間毎に取得する第1処理(例えば、図2に示すバイタルデータ取得部32参照)と、
前記第1処理にて取得した前記バイタルデータ(例えば、脈拍データ)に基づいて、前記複数の測定対象者における測定対象者同士の同期度合いを算定する第2処理(例えば、図2に示す同期度合い算定部35参照)と、を実行させることを特徴としている。
【発明の効果】
【0015】
次に、本発明の効果について、図面の参照符号を付して説明する。なお、括弧内は、後述する実施形態の参照符号を付したものであるが、本発明はこれに限定されるものではない。
【0016】
請求項1,4,5に係る発明によれば、取得したバイタルデータ(例えば、脈拍データ)に基づいて、複数の測定対象者における測定対象者同士の同期度合いを算定しているから、人間関係を推定することができる。
【0017】
請求項2に係る発明によれば、算定した同期度合いに基づいて、自己組織化マップを生成しているから、一見して、人間関係を推定することができる。
【0018】
請求項3に係る発明によれば、取得したバイタルデータ(例えば、脈拍データ)を正規化しているから、後のデータ処理の精度が向上することとなる。
【図面の簡単な説明】
【0019】
図1】本発明の一実施形態に係る心理的距離可視化システムの概略全体図である。
図2】同実施形態に係る心理的距離推定装置の機能構成図である。
図3】同実施形態に係る心理的距離推定装置の処理内容を示すフローチャート図である。
図4図3に示す同期度合いの作成を示すフローチャート図である。
図5図3に示す自己組織化マップの作成を示すフローチャート図である。
図6】(a)は、複数人の測定対象者のうち、一人の測定対象者の心拍数の波形を示し、(b)は、複数人の測定対象者のうち、一人の測定対象者の心拍数におけるトレンドを抽出した波形を示す図である。
図7】複数人の測定対象者のうち、3人の脈拍データにおけるトレンドの時系列を揃えた際の波形を示す図である。
図8】(a)は、「テント設営」時のヒートマップによる相関解析結果を示し、(b)は、「食事」時のヒートマップによる相関解析結果を示し、(c)は、「焚火」時のヒートマップによる相関解析結果を示す図である。
図9】「テント設営」時の自己組織化マップを示し、(a)は、緑色と赤色の色の濃度によって測定対象者のクラスタリングを表し、(b)は、2つのニューロンに対する近さで測定対象者のクラスタリングを表している図である。
図10】「食事」時の自己組織化マップを示し、(a)は、緑色と赤色の色の濃度によって測定対象者のクラスタリングを表し、(b)は、2つのニューロンに対する近さで測定対象者のクラスタリングを表している図である。
図11】「焚火」時の自己組織化マップを示し、(a)は、緑色と赤色の色の濃度によって測定対象者のクラスタリングを表し、(b)は、2つのニューロンに対する近さで測定対象者のクラスタリングを表している図である。
図12】脈拍以外の自律神経系活動におけるバイタルデータを計測して生成した1対1の自己組織化マップを示し、(a)は、緑色と赤色の色の濃度によって測定対象者のクラスタリングを表し、(b)は、2つのニューロンに対する近さで測定対象者のクラスタリングを表している図である。
図13】脈拍以外の自律神経系活動におけるバイタルデータを計測して生成した多人数の自己組織化マップを示し、(a)は、緑色と赤色の色の濃度によって測定対象者のクラスタリングを表し、(b)は、2つのニューロンに対する近さで測定対象者のクラスタリングを表している図である。
【発明を実施するための形態】
【0020】
以下、本発明に係る心理的距離推定装置を用いた心理的距離可視化システムの一実施形態を、図面を参照して具体的に説明する。なお、以下の説明において、上下左右の方向を示す場合は、図示正面から見た場合の上下左右をいうものとする。
【0021】
<心理的距離可視化システムの概略説明>
本実施形態に係る心理的距離可視化システムは、人間関係を推定することができるものである。この点、詳しく説明すると、先行研究(Dimitris Xygalatas,“Quantifying collective effervescence : Heart-rate dynamics at a fire-walking ritual”,BIOLOGY,Nov 2011)で、儀式で集まった人の心拍変動は類似度が高まることが知られている。すなわち、自律神経行動の同調現象が個人間(測定対象者間)で起きることが知られている。
【0022】
そこで、本発明者らは、行動、心理活動の総合的な結果が自律神経系活動に反映されるのではないかと仮定した。そして、その仮定に基づき、本発明者らは、自律神経系活動を計測し、その個人間(測定対象者間)の同調(共感に向く度合い)を観察することで、心理的距離を可視化することができるのではないかという考えに至り、図1に示すような心理的距離可視化システム1を発明するに至ったものである。以下、図面を参照し、心理的距離可視化システム1の内容について詳しく説明する。
【0023】
図1に示すように、心理的距離可視化システム1は、バイタル計測装置2と、心理的距離推定装置3と、で構成されている。以下、各構成について詳しく説明する。
【0024】
<バイタル計測装置の説明>
バイタル計測装置2は、図1に示すような、Apple Watch(登録商標)、Fitbit(登録商標)等の腕時計タイプなどの生体センサからなるものである。このようなバイタル計測装置2は、測定対象者が、腕などの身体に身に着けることにより、測定対象者の自律神経系活動におけるバイタル(脈拍、血圧、微小発汗、体温、呼吸など)を計測することができるようになっている。そして、このバイタル計測装置2は、その計測したバイタルのデータ、すなわち、バイタルデータを、図1に示す心理的距離推定装置3に出力できるようになっている。
【0025】
<心理的距離推定装置の説明>
心理的距離推定装置3は、スマートフォンやPC(Personal Computer)等で構成されている。具体的には、図1に示すように、心理的距離推定装置3が備える各機能を実行、制御するCPU3aと、マウスやキーボード、タッチパネル等にて外部から所定データを心理的距離推定装置3に入力することができる入力部3bと、心理的距離推定装置3外に所定データを出力することができる出力部3cと、所定のプログラム等を格納した書込み可能なフラッシュROM等からなるROM3dと、作業領域やバッファメモリ等として機能するRAM3eと、LCD(Liquid Crystal Display)等からなる表示部3fと、で構成されている。なお、後述する心理的距離推定装置3の機能や処理は、CPU3aがROM3dに格納されているプログラムを読み出し、このプログラムを実行することにより実現することとなる。
【0026】
<心理的距離推定装置の機能構成の説明>
次に、図2を用いて、心理的距離推定装置3の機能構成について説明する。図2に示すように、心理的距離推定装置3の機能構成としては、判断部30と、記憶部31と、バイタルデータ取得部32と、標準正規化部33と、トレンド抽出部34と、同期度合い算定部35と、自己組織化マップ生成部36と、で構成されている。以下、各構成について説明する。
【0027】
判断部30は、判断部30が保持する状態または、各機能ブロックが保持する状態に基づいて、各機能ブロック間との情報をやり取りするものである。そしてさらに、判断部30は、バイタル計測装置2とのやり取りも行うようになっている。
【0028】
記憶部31は、処理に必要なデータ等を記憶するものである。
【0029】
バイタルデータ取得部32は、バイタル計測装置2にて計測した測定対象者の自律神経系活動におけるバイタルデータを所定時間毎(例えば、5分毎)に取得するものである。
【0030】
標準正規化部33は、バイタルデータ取得部32にて所定時間毎に取得したバイタルデータを、後述するトレンド抽出部34や同期度合い算定部35、自己組織化マップ生成部36での算出処理のためのデータ前処理として正規化を行うものである。特に、本実施形態においては、正規化の処理として標準化(例えば、平均0,分散1)を実施するようにしている。
【0031】
トレンド抽出部34は、標準正規化部33にて正規化したバイタルデータにおける測定対象者の個人差を無くし、短時間での自律神経反応の影響を低減するため、バイタルデータにおけるトレンドを抽出するようにするものである。具体的には、トレンド抽出部34は、標準正規化部33にて正規化したバイタルデータにおける所定時間(例えば、300秒)での移動平均を算出し、バイタルデータにおけるトレンドを抽出するようにしている。
【0032】
同期度合い算定部35は、トレンド抽出部34にて抽出したトレンドにおける測定対象者同士の同期度合いを算定するものである。具体的には、トレンド抽出部34にて抽出したトレンドは、図6(b)に示すような波形で表されることとなる。そのため、同期度合い算定部35は、図6(b)に示すような波形で表された測定対象者同士の同期度合いを、既知の手法である、相関係数、最小二乗法、蔵元モデル、動的時間伸縮法(Dynamic Time Warping,DTW)などを用いて算定することとなる。
【0033】
自己組織化マップ生成部36は、同期度合い算定部35にて算定した測定対象者同士の同期度合いを自己組織化マップのニューラルネットワークを使用して、測定対象者のクラスタリングを表す自己組織化マップを生成するものである。なお、自己組織化マップとは、プロセス解析や、制御、検索システム、さらには経営のための情報分析など、実社会における重要な分野に応用されるニューラルネットワークの一種であり、高次元の入力データを、教師信号(入力データに対して理想的と考えられる出力)などの予備情報なしにクラスタリングするためのアルゴリズムである。
【0034】
<心理的距離可視化システムの一使用例の説明>
次に、図3図5に示すフローチャートも参照し、本実施形態に示す心理的距離可視化システム1の一使用例について説明する。なお、以下では、具体例を示すことにより、本実施形態に示す心理的距離可視化システム1の内容をより理解できるようにする。
【0035】
前提として、本実施形態の一使用例では、測定対象者として複数人(本実施例では、10人)集まってもらい、キャンプ活動を行ってもらった。この際、複数人の測定対象者全員に、図1に示すバイタル計測装置2を身に着けてもらったうえで、キャンプ活動を行ってもらった。なお、本実施例では、バイタルデータとして、バイタル計測装置2にて測定対象者の脈拍を計測するようにする。
【0036】
かくして、この状態で、図2に示す判断部30は、バイタル計測装置2にて計測された測定対象者の脈拍データを受信し、図2に示すバイタルデータ取得部32に出力する。これを受けて、バイタルデータ取得部32は、所定時間毎(例えば、5分毎)に、複数人の測定対象者それぞれの脈拍データを取得する(ステップS1)。この結果が、図6(a)に示す波形である。なお、この図6(a)に示す波形は、複数人の測定対象者のうち、一人の測定対象者の心拍数の波形を示している。
【0037】
次に、判断部30は、図2に示すバイタルデータ取得部32にて取得された複数人の測定対象者それぞれの脈拍データをバイタルデータ取得部32から受けて、図2に示す標準正規化部33に出力する。これを受けて、標準正規化部33は、バイタルデータ取得部32にて所定時間毎に取得した複数人の測定対象者それぞれの脈拍データを、標準化(例えば、平均0,分散1)することによって正規化する(ステップS2)。
【0038】
次に、判断部30は、図2に示す標準正規化部33にて正規化された複数人の測定対象者それぞれの脈拍データを標準正規化部33から受けて、図2に示すトレンド抽出部34に出力する。これを受けて、トレンド抽出部34は、正規化された複数人の測定対象者それぞれの脈拍データにおける所定時間(例えば、300秒)での移動平均を算出し、複数人の測定対象者それぞれの脈拍データにおけるトレンドを抽出する(ステップS3)。この結果が、図6(b)に示す波形である。なお、この図6(b)に示す波形は、複数人の測定対象者のうち、一人の測定対象者の心拍数におけるトレンドを抽出した波形を示している。
【0039】
次に、判断部30は、図2に示すトレンド抽出部34にて抽出された複数人の測定対象者それぞれの脈拍データにおけるトレンドをトレンド抽出部34から受けて、図2に示す同期度合い算定部35に出力する。これを受けて、同期度合い算定部35は、図2に示すトレンド抽出部34にて抽出された複数人の測定対象者それぞれの脈拍データにおけるトレンドの同期度合いを算定する(ステップS4)。この点、具体例を用いて説明すると、図4に示すように、同期度合い算定部35は、まず、所定時間(例えば、300秒)での移動平均したデータの時系列を揃えるようにする(ステップS10)。具体的には、図7に示すように、複数人の測定対象者それぞれの脈拍データにおけるトレンドの時系列を揃えるようにする。なお、図7では、複数人の測定対象者のうち、3人(図示では、sub5,sub7,sub8と例示)の脈拍データにおけるトレンドの時系列を揃えている。
【0040】
次に、同期度合い算定部35は、シーン毎の測定対象間の相関係数を算定するようにする(ステップS11)。具体的には、図7に示すように、60分付近のトレンドは、キャンプ活動のうち「テント設営」をしているシーンを示し、180分~240分付近のトレンドは、キャンプ活動のうち「食事」をしているシーンを示し、300分付近のトレンドは、キャンプ活動のうち「焚火」をしているシーンを示している。そこで、同期度合い算定部35は、既知の手法である、本実施例では相関係数を、図7に示すシーン毎の測定対象間にて算定する。
【0041】
次に、同期度合い算定部35は、図7に示すシーン毎の測定対象間の相関係数を算定した値に基づき、ヒートマップを作成する(ステップS12)。その結果が、図8に示すものである。図8(a)は、キャンプ活動のうち「テント設営」時のヒートマップによる相関解析結果を示し、図8(b)は、キャンプ活動のうち「食事」時のヒートマップによる相関解析結果を示し、図8(c)は、キャンプ活動のうち「焚火」時のヒートマップによる相関解析結果を示すものである。なお、図8に示すヒートマップによる相関解析結果は、図1に示す表示部3fに表示されることとなる。
【0042】
ところで、このようなヒートマップによる相関解析結果を確認するにあたっては、以下のように確認することができる。例えば、複数人の測定対象者のうち、sub7とsub15に着目し、図8に示すヒートマップを見ると、測定対象者のsub7及びsub15は、何れも、図8(a)に示す「テント設営」時、他の測定対象者との相関係数が低いことが分かる。このことから、測定対象者のsub7及びsub15は、この時点で、他の測定対象者と心理的距離があることが分かる。
【0043】
一方、測定対象者のsub7は、図8(b)に示す「食事」時の相関係数を見ると、図8(a)に示す相関係数と比べ大幅に相関係数が高くなっていることが分かる。このことから、測定対象者のsub7は、この時点で、他の測定対象者と心理的距離が縮まったことが分かる。
【0044】
他方、測定対象者のsub15は、図8(b)に示す「食事」時の相関係数を見ると、図8(a)に示す相関係数と比べ若干相関係数が高くなっていることが分かる。このことから、測定対象者のsub15は、この時点で、他の測定対象者と図8(a)に示す「テント設営」時と比べ、心理的距離が若干縮まったことが分かる。
【0045】
一方、測定対象者のsub7は、図8(c)に示す「焚火」時の相関係数を見ると、図8(b)に示す相関係数と比べ、さらに相関係数が高くなっていることが分かる。このことから、測定対象者のsub7は、この時点で、他の測定対象者と心理的距離がかなり縮まったことが分かる。
【0046】
他方、測定対象者のsub15は、図8(c)に示す「焚火」時の相関係数を見ると、図8(b)に示す相関係数と比べ相関係数が高くなっていることが分かる。このことから、測定対象者のsub15は、この時点で、他の測定対象者と図8(b)に示す「食事」時と比べ、心理的距離がかなり縮まったことが分かる。
【0047】
したがって、測定対象者のsub7及びsub15は、「テント設営」時と比べると、「焚火」時に相関係数が高まっていることから、「焚火」時に、他の測定対象者との心理的距離がかなり縮まったことが分かる。
【0048】
この点、測定対象者全員に事前に、楽しかったシーンはどこかとアンケートをとったところ、測定対象者のsub7及びsub15は、いずれも「焚火」と回答していた。そのため、このアンケート結果より、同じ心理状態の測定対象者の脈拍には相関がみられることが分かった。
【0049】
かくして、このようにすれば、人間関係を推定することが可能となる。
【0050】
しかしながら、上記のように、同期度合い算定部35にて、複数人の測定対象者それぞれの脈拍データにおけるトレンドの同期度合いを算定(本実施例では、相関係数を算定)しただけでは、数値を確認していかないと、人間関係を推定することが困難である。すなわち、一見して、人間関係を推定することは困難である。
【0051】
そこで、本実施形態においては、一見して、人間関係を推定することができるように、図3に示す同期度合いの作成(ステップS4)の処理を終えた後、図3に示すように、自己組織化マップの作成を行っている。
【0052】
具体的には、判断部30は、図2に示す同期度合い算定部35にて算定された複数人の測定対象者それぞれの脈拍データにおけるトレンドの同期度合いを同期度合い算定部35から受けて、図2に示す自己組織化マップ生成部36に出力する。これを受けて、自己組織化マップ生成部36は、同期度合い算定部35にて算定した測定対象者同士の同期度合いを自己組織化マップのニューラルネットワークを使用して、測定対象者のクラスタリングを表す自己組織化マップを生成する(ステップS5)。この点、具体例を用いて説明すると、図5に示すように、自己組織化マップ生成部36は、まず、参照ベクトルを設定する(ステップS20)。具体的には、同期度合い算定部35にて算定した図8に示す相関係数のうち、例えば、sub7とsub15との相関係数の値を参照ベクトルとして設定する。
【0053】
次に、自己組織化マップ生成部36は、入力データと参照ベクトルを比較する(ステップS21)。すなわち、入力データとして、例えば、図8(a)に示す「テント設営」時のsub2と、他の測定対象者との相関係数を入力データとすると、自己組織化マップ生成部36は、図8(a)に示す「テント設営」時のsub2と、他の測定対象者との相関係数とステップS20にて設定した参照ベクトルと比較を行う。
【0054】
次に、自己組織化マップ生成部36は、ステップS21にて比較した入力データのうち、参照ベクトルと最も近いベクトルを勝利ベクトルとする(ステップS22)。
【0055】
次に、自己組織化マップ生成部36は、勝利ベクトルの位置に入力データを置き換え(ステップS23)、周囲のベクトルも、勝利ベクトルの近似値に更新する(ステップS24)。
【0056】
かくして、このようにして、自己組織化マップ生成部36は、図8(a)に示す「テント設営」時のsub3と、他の測定対象者との相関係数、「テント設営」時のsub5と、他の測定対象者との相関係数・・・というように、全ての入力を終えるまで(ステップS25:NO)、ステップS21~ステップS24の処理を繰り返し行う。そして、自己組織化マップ生成部36は、全ての入力を終えたら(ステップS25:YES)、処理を終える。
【0057】
かくして、この結果、図9図11に示すような自己組織化マップが生成されることとなる。具体的には、図9は、「テント設営」時の自己組織化マップで、図9(a)は、緑色と赤色の色の濃度によって測定対象者のクラスタリングを表し、図9(b)は、2つのニューロンに対する近さで測定対象者のクラスタリングを表している。また、図10は、「食事」時の自己組織化マップで、図10(a)は、緑色と赤色の色の濃度によって測定対象者のクラスタリングを表し、図10(b)は、2つのニューロンに対する近さで測定対象者のクラスタリングを表している。さらに、図11は、「焚火」時の自己組織化マップで、図11(a)は、緑色と赤色の色の濃度によって測定対象者のクラスタリングを表し、図11(b)は、2つのニューロンに対する近さで測定対象者のクラスタリングを表している。なお、図9図11に示す自己組織化マップは、図1に示す表示部3fに表示されることとなる。
【0058】
ところで、このような自己組織化マップを確認するにあたっては、以下のように確認することができる。例えば、複数人の測定対象者のうち、sub7とsub15に着目すると、図9(b)に示すように、「テント設営」時、sub7とsub15は、他の測定対象者と比べ離れた位置に配置されていることから、心理的距離がかなり遠いことが一目で分かる。この点、図9(a)では、赤色が濃いほど深い溝が存在することを示しているが、sub7とsub15は、他の測定対象者との間に深い溝が存在していることが一目で分かる。
【0059】
一方、「食事」時、図10(b)を見ると、sub7は、他の測定対象者の近くの位置に配置されていることから、他の測定対象者と心理的距離がかなり近づいていることが一目で分かる。他方で、図10(b)を見ると、sub15は、sub13の近くに配置されているため、sub13とは心理的距離が近づいていることが分かるが、それ以外の測定対象者からは離れた位置に配置されていることから、sub13以外の測定対象者とは心理的距離がまだあることが一目で分かる。この点、図10(a)を見ると、sub7は、他の測定対象者との間の溝を示す赤色が薄くなっていることが一目で分かる。その一方で、sub15は、sub13以外の他の測定対象者との間に濃い赤色が存在しているため、まだ、深い溝が存在していることが一目で分かる。
【0060】
一方、「焚火」時、図11(b)を見ると、sub7は、図10(b)と比べ、他の測定対象者のさらに近くの位置に配置されていることから、他の測定対象者と心理的距離がかなりさらに近づいていることが一目で分かる。他方で、図11(b)を見ると、sub15は、他の測定対象者の近くの位置に配置されていることから、他の測定対象者と心理的距離がかなり近づいていることが一目で分かる。この点、図11(a)を見ると、sub7及びsub15何れも、他の測定対象者との間の溝を示す赤色が薄くなっていることが一目で分かる。
【0061】
以上のことから、sub15は、「焚火」時、他の測定対象と心理的距離が近づいていることが一目で分かる。さらに、sub7は、sub15に比べ、コミュニケーション能力が高いことが推定できる。
【0062】
かくして、このように、自己組織化マップを生成するようにすれば、一見して、人間関係を推定することが可能となる。
【0063】
したがって、以上説明してきた本実施形態によれば、人間関係を推定することが可能となる。
【0064】
<変形例の説明>
なお、本実施形態において示した形状等はあくまで一例であり、特許請求の範囲に記載された本発明の要旨の範囲内において、種々の変形・変更が可能である。本実施例では、バイタルデータとして、脈拍を例示したが、血圧、微小発汗、体温、呼吸など測定対象者の自律神経系活動におけるバイタルデータであれば、どのようなものでも良い。
【0065】
また、本実施形態においては、バイタル計測装置2は、腕時計タイプを例示したが、自律神経系活動におけるバイタルデータを計測できれば、どのようなものでも良い。例えば、測定対象者の顔をカメラで撮像し、そのカメラで撮像した撮像画像から測定対象者の血管の拡張、収縮状態を検出することで、測定対象者の自律神経系活動におけるバイタルデータを計測することもできる。このように計測したバイタルデータを用いて、上記説明した図3に示すステップS2~ステップS5の処理を行うことで得た結果が、図12図13に示すような自己組織化マップである。図12(a)及び図13(a)は、緑色と赤色の色の濃度によって測定対象者のクラスタリングを表し、図12(b)及び図13(b)は、2つのニューロンに対する近さで測定対象者のクラスタリングを表している。図12では、sub14とsub21の2名の心理的距離を示しており、図12(a)を見ると、sub14とsub21との間には、溝を示す赤色が横たわっていることが分かる。さらに、図12(b)を見ると、sub14とsub21との距離が離れていることが分かる。これにより、sub14とsub21との間には、心理的距離がまだあることが一目で分かる。他方で、図13では、多人数の心理的距離を示している。この点、「21.0」に着目して説明すると、図13(a)を見ると、「21.0」と他の測定対象者との間には、溝を示す赤色が存在していることが分かる。さらに、図13(b)を見ると、「21.0」と他の測定対象者との距離が離れていることが分かる。これにより、「21.0」と他の測定対象者との間には、心理的距離があることが一目で分かる。したがって、このように、脈拍以外のバイタルデータであっても、人間関係を推定することが可能である。そのため、測定対象者の自律神経系活動におけるバイタルデータ(例えば、上記例示した、血圧、微小発汗、体温、呼吸など)であれば、どのようなものでも良い。
【0066】
また、本実施形態においては、トレンド抽出部34を用いて、バイタルデータにおけるトレンドを抽出するようにしたが、不要であれば、トレンドを抽出しなくとも良い。
【0067】
また、本実施形態においては、データ前処理として標準正規化部33にて正規化を行う例を示したが、正規化を行わなくとも良い。しかしながら、正規化を行った方が、後のデータ処理の精度が向上するため、正規化を行った方が好ましい。
【0068】
また、本実施例では、同期度合い算定部35の算定方法として、相関係数を用いた例を示したが、最小二乗法、蔵元モデル、動的時間伸縮法(Dynamic Time Warping,DTW)など、同期度合いを算定できれば、どのようなものでも良い。
【0069】
また、本実施形態において例示した心理的距離推定装置3としては、本実施形態のような心理的距離推定装置3として提供しても良いし、クラウド上に設置しても良い。また、アプリケーションプログラムとして提供し、既存のスマートフォンやPC等にインストールして、心理的距離推定装置3として使用できるようにしても良い。
【産業上の利用可能性】
【0070】
ところで、本実施形態における心理的距離可視化システムとしては、学校や老人ホーム、或いは、マッチングアプリなど、人間関係の把握や改善等に使用できるものであれば、どのようなところでも使用することができる。また、1対1の人間関係の把握や改善等にも使用することができる。
【符号の説明】
【0071】
1 心理的距離可視化システム
3 心理的距離推定装置(所定の装置、コンピュータ)
32 バイタルデータ取得部(取得手段、第1処理)
33 標準正規化部(標準正規化手段)
35 同期度合い算定部(算定手段、第2処理)
36 自己組織化マップ生成部(生成手段)
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