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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2025113786
(43)【公開日】2025-08-04
(54)【発明の名称】内燃機関
(51)【国際特許分類】
   F02M 25/028 20060101AFI20250728BHJP
   F02B 29/04 20060101ALI20250728BHJP
   F02M 31/20 20060101ALI20250728BHJP
   F02M 31/04 20060101ALI20250728BHJP
   F02M 31/10 20060101ALI20250728BHJP
   F23L 15/00 20060101ALI20250728BHJP
【FI】
F02M25/028
F02B29/04 M
F02M31/20 A
F02M31/04 A
F02M31/10 A
F02M31/10 D
F23L15/00 Z
【審査請求】未請求
【請求項の数】2
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2024008114
(22)【出願日】2024-01-23
(71)【出願人】
【識別番号】000002967
【氏名又は名称】ダイハツ工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100099966
【弁理士】
【氏名又は名称】西 博幸
(74)【代理人】
【識別番号】100134751
【弁理士】
【氏名又は名称】渡辺 隆一
(72)【発明者】
【氏名】奥井 和仁
【テーマコード(参考)】
3K023
【Fターム(参考)】
3K023QA18
3K023QB05
3K023QB17
(57)【要約】
【課題】1つの装置で吸気を昇温及び降温できて温度調節効率にも優れた吸気温度制御装置を提供する。
【解決手段】吸気温度制御装置33は、吸気マニホールド28の枝管27などに配置された散水ノズル34及び受水部35を有しており、散水ノズル34に温水又は冷水が送水ポンプ37を介して選択的に供給される。冷間始動時には温水によって吸気を昇温させて燃焼性(着火性)を高め、吸気の温度が過剰に高くなったら冷水で降温させて高い充填効率を確保する。吸気を水に晒す直接熱交換方式であるため、コンパクトでありながら吸気をしっかりと昇温・降温できると共に応答性も高い。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
吸気を吸気通路内において水に曝して当該吸気の温度を変化させる吸気温度制御装置を備えており、
前記吸気温度制御装置は、水を前記吸気通路において前記吸気の流れ方向と交差した方向に通過させる散水手段を有し、前記水の温度を異ならせることにより、前記吸気を昇温させることと降温させることとを選択可能になっている、
内燃機関。
【請求項2】
前記吸気温度制御装置は、温水タンクと冷水タンクとを備えており、機関温度又はこれに代替する温度に基づいて、前記温水タンクから前記散水手段への給水と前記冷水タンクから前記散水手段への給水とが切り替えられる、
請求項1に記載した内燃機関。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本願発明は、吸気温度制御装置を備えた内燃機関に関するものである。
【背景技術】
【0002】
内燃機関において、出力向上のためには、シリンダボア(燃焼室)に流入する吸気の空気密度を高めること(すなわち充填効率を高めること)が有利である。そのためには、吸気の温度はできるだけ低いのが好ましいが、特に過給機を備えている場合、吸気の温度が高くなる傾向を呈する。そこで、過給機の下流側に空冷式又は水冷式のインタクーラを配置することが広く行われている。
【0003】
他方、寒冷環境下での冷間始動の場合、吸気の温度が低いと燃料への着火性が低下して始動不良や始動後のエンジンストールが発生することがあり、そこで、吸気通路にインテークヒータを介在させて、冷間始動時(暖機運転時)に吸気をインテークヒータで加温することも提案されている。
【0004】
また、高温環境下での運転や高負荷運転などにおいて異常燃焼(デトネーション)が発生することがあり、そこで、燃焼室の冷却を目的として霧化した水を燃焼室に噴射することも行われている。燃焼室に水を噴射することは、排気ガスの成分悪化防止を目的にして行われることもあり、その例として特許文献1には、吸気通路のうち燃料噴射インジェクタよりも上流側に湿潤タワーを介在させて、湿潤タワーにおいて蒸気を吸気に混合させることが開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特表平09-509714号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
既述のとおり、出力向上のためには吸気温度を低くして充填効率を上げるのが好ましく、従って、インタクーラは充填効率の向上に有益であるが、インタクーラは吸気を昇温させることはできないため、冷間始動時の燃焼性向上の対策にはならない。さりとて、インタクーラとインテークヒータとを併設すると、コストが嵩む問題や大きなスペースを要して全体として嵩張る問題などがある。
【0007】
更に、より本質的な問題として、インタクーラもインテークヒータもエレメントを介して吸気と間接的に熱交換する方式であるため、単体体積当たりの降温効率や昇温効率が悪いという問題がある。すなわち、嵩張る割には昇温・降温の効率が悪いという問題がある。
【0008】
他方、特許文献1は、蒸気を吸気に混合させることにより、過過給下での二酸化窒素の発生抑制を目的とするものであり、吸気の温度を変化させる機能は持たないため、充填効率の向上や冷間始動時の燃焼性向上(着火性向上)の効果は期待できないと云える。
【0009】
本願発明は、このような現状を改善すべく成されたものである。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本願発明の内燃機関は、
「吸気を吸気通路内において水に曝して当該吸気の温度を変化させる吸気温度制御装置を備えており、
前記吸気温度制御装置は、水を前記吸気通路において前記吸気の流れ方向と交差した方向に通過させる散水手段を有し、前記水の温度を異ならせることにより、前記吸気を昇温させることと降温させることとを選択可能になっている」
という構成になっている。
【0011】
本願発明は様々に展開できる。その例として請求項2では、
「前記吸気温度制御装置は、温水タンクと冷水タンクとを備えており、機関温度又はこれに代替する温度に基づいて、前記温水タンクから前記散水手段への給水と前記冷水タンクから前記散水手段への給水とが切り替えられる」
という構成を採用している。機関温度の検出手段としては、シリンダブロックやシリンダヘッドなどの温度を直接検出することも可能であるし、冷却水温度で代替することも可能である。
【0012】
なお、請求項で特定している冷水タンクの「冷水」とは、吸気の温度よりも低い温度の水という意味であり、例えば冷蔵庫で冷やしたような温度の水を意味するものではない。一般的には、加熱していない大気温の水である場合が多いが、高温環境下での運転の場合は、ラジエータなどで冷却処理することは可能である。
【0013】
本願発明において、吸気通路を通過する液体の状態は任意に設定できる。1つの態様はノズルから噴霧することである。ミスト化することにより、水の総表面積を増大させて吸気との熱交換効率を向上できる。この場合、粒度や噴霧速度を調節することにより、水の粒子が吸気に乗ってシリンダボアに流れないように設定できる。
【0014】
或いは、過負荷運転や高EGR運転などによって燃焼室やピストンが異常昇温している場合、冷却のために水の一部を燃焼室に送り込むことも可能であるが、ノズルを使用すると、噴射圧力(噴射速度)を調節するなどして、水の一部を燃焼室に送ることを実現できる。吸気通路に機能が異なる複数種類の散水手段を設けて、状況に応じて使い分けることも可能である。
【0015】
水を吸気に乗せずに吸気通路を通過させる手段としては、吸気通路に通気性が高い網状体や綿状体のような流水ガイド体を配置して、流水ガイド体に水を伝い流すといったことも可能である。或いは、流水ガイド体を使用せずに、水を吸気に乗らない程度に大粒化して雨垂れ状に流すといったことも可能である。いうまでもないが、吸気通路を通過した水は回収される(循環させるのが好ましい。)。
【発明の効果】
【0016】
本願発明では、1つの装置で吸気を加温したり冷却したりすることができるため、過給時やオーバーヒート気味のときには吸気を冷却して充填効率を向上させることができる一方、冷間始動時には吸気を加温して燃焼性・始動性を向上できる。そして、吸気を液体(水)に直接接触させて熱交換するものであるため、コンパクト化しつつ高い熱交換効率を発揮できる。結果として、出力向上や燃費向上に貢献できる。インタクーラとインテークヒータとを併有する場合に比べて、コスト抑制にも貢献できる。
【0017】
既述のように、水の一部を燃焼室に送り込むことも可能であり、これにより、充填効率の更なる向上や異常燃焼(ノッキング)の抑制、排ガスの成分悪化防止といった効果を享受可能である。
【0018】
本願発明において、吸気を昇温させる場合、タンクにストックしている水を流路の途中で加温(加熱)して吸気通路に供給することも可能であるが、この場合は、応答性や温度安定性が問題になることが懸念される。
【0019】
これに対して 請求項2のように温水タンクと冷水タンクとを常備しておくと、吸気の加温や冷却に即座に対応できると共に温度も安定化できて好適である。特に、温水としてシリンダヘッドを通過した後の冷却水を利用すると、加熱手段を不要にできるため特に好適である(クランキング時のみヒータで加熱するというように、電熱式ヒータを併用することは可能である。)。
【図面の簡単な説明】
【0020】
図1】第1実施形態を示す図で、(A)は構造とブロックとを組合せた模式図、(B)は(A)のB-B視図である。
図2】第1実施形態の変形例である第2実施形態を示す模式図である。
図3】散水手段の別例である第3実施形態及び第4実施形態を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0021】
次に、本願発明の実施形態を図面に基づいて説明する。本実施形態は自動車用内燃機関(ガソリン機関)に適用しており、車内の暖房の熱源としてエンジンを巡って昇温した冷却水が使用されている。すなわち、ヒータコアに冷却水が流れる仕様になっている。以下では方向を特定するため前後の文言を使用するが、前後方向はクランク軸線方向で、タイミングチェーンが配置されている側を前、ミッションケースが配置されている側を後ろとしている。
【0022】
(1).内燃機関の基本構造
図1では、第1実施形態を示している。図1(A)において、a部では内燃機関の概略側面図を表示して、b部で本願発明の要部をクランク軸線方向から見た断面図として表示している。
【0023】
内燃機関の基本構造は従来と同様であり、内燃機関は、ピストン1が嵌挿されたシリンダボア2をクランク軸線方向に並べて複数形成したシリンダブロック3と、シリンダブロック3の上面にガスケットを介して固定されたシリンダヘッド4とを備えており、シリンダヘッド4の上面にはヘッドカバー5が固定されて、シリンダブロック3の下面にはオイルパン6が固定されている。シリンダヘッド4とシリンダブロック3とオイルパン6の前面には、タイミングチェーンを覆うチェーンカバー(フロントカバー)7が固定されており、シリンダヘッド4及びオイルパン6の後面には、ミッションケース8が固定されている。
【0024】
本実施形態の内燃機関は、クランク軸を車幅方向に長い姿勢とした横置きでエンジンルームに配置されており、a部に一点鎖線で示すように、内燃機関の後部前方にラジエータ9を配置している。a部において、符号10はクランクプーリを示し、符号11はウォータポンプを示している。シリンダヘッド4の後端に、ラジエータ送りポート12とヒータ送りポート13、及びヒータ戻りポート14が配置されている。
【0025】
ラジエータ送りポート12は、ラジエータ送り管路15によってラジエータ9のアッパタンク16に接続されて、ラジエータ9のロアタンク17がラジエータ戻り管路18によってウォータポンプ11に接続されている。但し、ラジエータ戻り管路18の一部はシリンダブロック3に内蔵されている場合が多い。
【0026】
シリンダヘッド4には、シリンダボア2に対応した下向き開口の凹所(燃焼室)20と、凹所20と吸気側面4aとに開口した吸気ポート21の群と、凹所20と排気側面(図示せず)とに開口した排気ポート22の群とが形成されている。吸気ポート21は1つのシリンダボア2に対応して前後2つずつ形成されており、各吸気ポート21は、それぞれ吸気バルブ23によって開閉される。吸気ポート21は、下流側に向けて低くなるように(シリンダブロック3に近づくように)、シリンダボア軸心に対して傾斜している。
【0027】
排気ポート22も1つのシリンダボア2に対応して前後2つずつ形成されており、各排気ポート22は、それぞれ排気バルブ24によって開閉される。吸気バルブ23及び排気バルブ24は、ばね25で閉じ方向に付勢されている。
【0028】
吸気バルブ23と排気バルブ24とは、クランク軸線方向から見て、上に向けて互いの間隔が離れるようにシリンダボア軸心に対して傾斜している。シリンダヘッド4のうち各吸気ポート21の上の部位には、霧化燃料を吸気ポート21に向けて噴出させるインジェクタ26がそれぞれ取付けられている。従って、実施形態の内燃機関は、デュアルポート・デュアルインジェクタのタイプであるが、デュアルポート・シングルインジェクタのタイプも採用可能である。シリンダヘッド4の吸気側面4aには、吸気ポート21と連通する枝管27を有する吸気マニホールド28が固定されている。
【0029】
b部において符号29で示すのは、シリンダヘッド4に設けた冷却水ジャケットである。冷間始動時には、冷却水の温度が所定温度まで上昇する間は、冷却水はその全量又は大部分がシリンダヘッド4の冷却水ジャケット29を前から後ろに向けて流れて、シリンダヘッド4から排出された冷却水の一部はヒータ送り管路30を通って車両暖房用のヒータコア31に流れて、残りはリターン通路(図示せず)を介してウォータポンプ11に還流する。冷却水の温度が所定温度に至ると、サーモ弁が開いて冷却水はラジエータ9に流れ始めると共に、シリンダブロック3の冷却水ジャケットにも通水される。
【0030】
(2).第1実施形態の吸気温度制御装置
b部に示すように、シリンダヘッド4の吸気側面4aには、吸気マニホールド28の枝管27が固定されている。吸気マニホールド28の枝管27は、2本の吸気ポート21に対応して各気筒ごとに分離している場合と、1本の枝管27が2本の吸気ポート21に連通している場合との2種類があるが、本実施形態は両方を含んでいる(構造の簡単化のためには、1本の枝管27から2本の吸気ポート21に分流させるのが好ましい。)。
【0031】
図示していないが、吸気マニホールド28はサージタンクを備えており、サージタンクの吸気入口にスロットルボデー(スロットルバルブ)が固定されている。自然吸気の内燃機関の場合は、エアクリーナとスロットルボデーとが吸気ダクトで接続されており、過給機付き内燃機関の場合は、エアクリーナを出た吸気は過給機のコンプレッサを経由してスロットボデーに送られる。本実施形態では両方の方式を含んでいる。
【0032】
そして、本実施形態の内燃機関は、吸気マニホールド28の枝管27を通過する吸気の温度を制御する吸気温度制御装置33を備えている。吸気温度制御装置33は、吸気マニホールド28の各枝管27に配置した散水ノズル(噴霧ノズル)34と、散水ノズル34から噴射された水(制御液)を受ける受水部35と、受水部35に接続された冷水タンク36と、水を循環させる電動式の送水ポンプ37とを備えている。冷水タンク36には水位センサ38を設けている。散水ノズル34は散水手段の一例である。
【0033】
送水ポンプ37と散水ノズル34とを繋ぐ第1管路39には、逆流防止のための逆止弁40を介在させている。冷水タンク36と送水ポンプ37とは第2管路41で接続されており、温水タンク44に接続された第3管路42aと既述の第2管路41とが第1三方弁43を介して接続されている。温水タンク44には、加温手段の一例としての電熱ヒータ44aを設けている。
【0034】
温水タンク44はその全体が加温タンク45で包まれており、加温タンク45は、ヒータ送り管路30とヒータ戻り管路53とを繋ぐ加温管路42bに介在している。従って、温水タンク44の温水は、電熱ヒータ44aで加温可能であると共に、シリンダヘッド4を通過して昇温した冷却水によっても加温可能である。
【0035】
この場合、加温管路42bのうち加温タンク45よりも上流側の部位にON・OFF式の切り替え弁を配置して、機関が停止すると切り替え弁を開き状態に所定時間保持することによって加温タンク45を空にし、それから切り替え弁を閉じて加温タンクを空にした状態を維持しておき、機関を始動して冷却水が予め設定した所定温度に昇温したら、切り替え弁を開いてヒータ送り管路30から昇温した冷却水を加温タンク45に受け入れて温水タンク44を加温する、といった制御が可能である。
【0036】
更に、吸気温度制御装置33は、受水部35から温水を温水タンク44に逃がすための温水戻し管路51を備えており、温水戻し管路51と冷水タンク36とは第2三方弁52を介して接続されている。従って、受水部35に集まった水は、温水タンク44を経由して循環する態様と、冷水タンク36を経由して循環する態様との2つの態様を取り得る。
もとより、冷水も温水も循環しない態様も選択可能である。なお、加温タンク45を経由した温水をシリンダヘッド4の配水部にダイレクトに戻すことも可能である。
【0037】
また、第2管路41のうち第1三方弁43よりも下流側の部位には分岐状の冷水補給管路46が接続されており、冷水補給管路46は、排気管47のうち消音器48よりも上流側の部位に設けた凝縮水タンク49に接続されている。冷水補給管路46にはON・OFF方式の切り替え弁50を設けている。凝縮水タンク49は排気ガスに含まれている水分を凝縮させて集めるもので、排気ガスは空気によって冷却される。
【0038】
受水部35には、散水ノズル34から噴射された水が飛散することを防止するための水撥ね防止具54を配置している。水撥ね防止具54としてハニカム構造体を採用しているが、目が粗い金属不織布又は樹脂不織布や、線材又は樹脂繊維を絡ませた立体網状体、或いは金網の積層体なども採用できる。多数の上向き突起を設けた剣山状体も採用可能である。
【0039】
内燃機関はEGR機能を備えているが、EGRガスは、吸気通路のうち散水ノズル34よりも上流側の部位(例えばサージタンク)に還流するようになっている。
【0040】
吸気マニホールド28における枝管27の断面形状は楕円形又は真円状であり、水は吸気の流れと交差して上から下に流れる。そして、散水ノズル34は水を円形に広げて噴射させることも可能であるが、吸気の昇温・高温作用の効率の点からは、水が枝管27の全体にまんべんなく広がるので好ましい。この点、(B)に一点鎖線で示すように、散水ノズル34を枝管27の軸線と交差する方向に長い形状に形成すると好適である。円形に噴射する散水ノズル34を吸気ポート21の幅方向に複数個配置しても、同様の効果を享受できる。
【0041】
(3).まとめ
内燃機関はECU(エンジン・コントロール・ユニット)を備えており、送水ポンプ37や、水位センサ38、三方弁43,52、切り替え弁50、電熱ヒータ44aなどはECUと電気的に接続されている。また、内燃機関は基本的な制御要素として回転センサや負荷センサ、冷却水温度サンサ、吸気温度センサ、吸気圧センサ、スロットル開度センサ、EGRバルブ、排気ターボ過給機を備えている場合のウエイストゲートバルブ、ノックセンサなども備えており、これらの制御要素もECUと電気的に接続されている。
【0042】
冷間始動時には、混合気を加温して燃焼性を高めるのが好ましい。そこで、冷間始動して冷却水温度が所定温度に上昇するまでの暖機運転中は、(A)に点線矢印で示すように、第1三方弁43は、第3管路42aと第2管路41とが連通するように制御すると共に、第2三方弁52は受水部35と温水戻し管路51とが連通した状態に制御することにより、温水タンク44の温水を循環させて、散水ノズル34から散水された温水で吸気を昇温させる。
【0043】
この場合、クランキングと同時に温水タンク44の電熱ヒータ44aに通電して、始動してからなるべく速い時間に枝管27に温水を噴射できるようにするのが好ましい。電熱ヒータ44aの制御としては、温水タンク44の温度が所定温度に昇温したら通電を遮断して、冷却水による昇温・保温に切り替えるのが好ましい。従って、温水タンク44に水温センサを設けておくのが好適である。自動車の運転席側ドアが開くのと同時に電熱ヒータ44aに通電することにより、温水タンク44の水を早期昇温させることも可能である。
【0044】
また、温水タンク44の水はシリンダヘッド4を通過した冷却水によっても昇温(及び保温)できるが、既述のように加温管路42bに切り替え弁を介在させておいて、冷却水が所定温度に昇温するまでは加温タンク45は空にしておくと、吸気を早期昇温できて好適である。また、応答性の点からは、管路39,41の長さはできるだけ短くして、温水タンク44の容量は必要最小限度に設定しておくのが好ましい。
【0045】
実施形態では、温水の管路は閉じた回路になっているが、ヒータ送り管路30の冷却水を温水タンク44に導いて、受水部35に戻った水は、温水戻し管路51からヒータ戻り管路53又はシリンダヘッド4の配水部に戻すことも可能である(この場合、低温環境下で内燃機関が停止していると管路の水が冷えていることから、冷間始動の直後に冷水が枝管27を通過することになるが、この点については、第1管路39の終端部とヒータ戻り管路53又はシリンダヘッド4の配水部とをバイパス通路で接続して、クランキング直後の所定時間だけバイパス通路を開くことにより、温水のみを枝管27に流すことで対応できる。)。
【0046】
内燃機関がオーバーヒート気味になるなどした場合は、(A)に実線矢印で示すように、冷却水が第2管路41のみを流れるように第1三方弁43を切り替えると共に、第2三方弁52は受水部35と冷水タンク36とが連通した状態に切りえ変えることにより、枝管27に冷水を噴射させる。これにより、吸気を降温させて充填効率を向上できる。その結果、高負荷状態や高温状態でも出力を向上できる。また、高EGR化による排気ガス成分向上にも貢献できる。冷水タンク36の容量が基準レベルまで低下したら、切り替え弁50を開いて凝縮水を供給する。これにより、外部からの補給無しで冷水を自給できる。
【0047】
そして、本実施形態では、吸気は温水又は冷水にダイレクトに曝されるため、熱交換の効率に優れていて、吸気を効率よくかつ応答性よく昇温又は高温できる。実施形態のように冷水タンク36と温水タンク44とを設けておくと、温水又は冷水を速やかにかつ必要量だけ的確に送水できる利点がある。吸気量に応じて水の噴射量を制御することも可能である。この場合は、スロットルバルブの開度と送水ポンプ37の送水量とをリンクさせたらよい。
【0048】
また、散水ノズル34から噴射した水が吸気に乗ってシリンダボア2に流入することを防止するためには、水滴の大きさと噴射速度とのうちいずれか一方又は両方を制御したらよい。水滴の大きさと噴射速度とは、予め設定して散水ノズル34を設計してもよいし、散水ノズル34をソレノイドやモータで制御される可変式として、吸気の流速や風量に応じて最適モードに調整することも可能である。
【0049】
過過給状態や過負荷によって異常燃焼(デトネーション)に至ることが予想される場合は、冷水の一部を霧化してシリンダボアに送ることも可能である。この点は、散水ノズル34を可変式にすることや、専用のノズルを併設することで対応できる。シリンダボア2に霧化水を送ることは、窒素酸化物発生抑制の点からも好適である。なお、実施形態の吸気マニホールド28は合成樹脂製であるので、錆の問題はない。
【0050】
(4).他の実施形態
図2では第2実施形態を示している。第1実施形態との相違点は温水タンク44を備えていない点であり、温水はヒータ送り管路30から散水ノズル34に供給されて、温水戻し管路51からヒータ戻り管路53等に戻る。従って、この実施形態では、第1実施形態に比べて構造が簡単になっている。この実施形態において、第1管路39の下流端部にヒータ付きタンクを介在させて、冷間始動してから冷却水が所定温度に昇温するまでヒータに通電して加温することが可能である。
【0051】
図3では、散水手段の別例を示している。このうち(A)に示す第3実施形態では、散水手段として、水が伝い流れる流水ガイド体55を枝管27に配置している。流水ガイド体55としては、目が粗い不織布状体や金網の積層体、曲がりくねった多数の樹脂繊維を絡ませて接合した立体網状体、すだれ状の部材などを使用できる。いずれにしても、流水ガイド体55は、吸気が殆ど抵抗無しに通過できる程度の空隙率になっている。
【0052】
流水ガイド体55を伝い流れる水は霧化していないため、吸気の流れに乗って一部がシリンダボア2に流入することはない。従って、水がシリンダボア2に侵入することによる問題を防止できる。
【0053】
図3(B)に示す第4実施形態では、散水手段として、水滴を噴出させる第1散水ノズル56と、ミスト水を噴出させる第2散水ノズル57とを、枝管27の長手方向に並べて配置している。
【0054】
この実施形態では、吸気を加温する状態や通常の降温状態では第1散水ノズル56のみを使用して、燃焼室が異常高温化したり、異常高温が予想される場合は、第2散水ノズル57からも霧化水を噴出させてその一部をシリンダボア2に送るように制御できる。これにより、充填効率は維持しつつ燃焼室の温度を下げて異常燃焼を防止できる。
【0055】
以上、本願発明の実施形態を説明したが、本願発明は他にも様々に具体化できる。例えば、吸気ポートの内面に樹脂コートなどの防錆処理を施すことができる。散水手段として散水ノズルを設ける場合、霧化水が下流側に流れることを考慮して、受水部を散水ノズルの後端よりも下流側に長く延びる形態とすることも可能である。直噴方式のガソリン機関やディーゼル機関の場合は、散水手段を吸気ポートに配置することも可能である。
【産業上の利用可能性】
【0056】
本願発明は、内燃機関に具体化できる。従って、産業上利用できる。
【符号の説明】
【0057】
1 ピストン
2 シリンダボア
3 シリンダブロック
4 シリンダヘッド
9 ラジエータ
21 吸気ポート
26 インジェクタ
27 吸気通路を構成する吸気マニホールドの枝管
28 吸気マニホールド
29 シリンダヘッドの冷却水ジャケット
31 ヒータコア
33 吸気温度制御装置
34,56,57 散水手段の一例としての散水ノズル
35 受水部
36 冷水タンク
37 送水ポンプ
38 水位センサ
39 第1管路
41 第2管路
42a 第3管路
43 第1三方弁
44 温水タンク
44a 電熱ヒータ
45 加温タンク
46 冷水補給管路
49 凝縮水タンク
50 切り替え弁
51 温水戻し管路
52 第2三方弁
53 ヒータ戻り管路
54 水撥ね防止具
55 流水ガイド体
図1
図2
図3