(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2025113806
(43)【公開日】2025-08-04
(54)【発明の名称】車両の駆動力制御方法および駆動力制御装置
(51)【国際特許分類】
B60L 15/20 20060101AFI20250728BHJP
B60W 30/02 20120101ALI20250728BHJP
B60W 30/188 20120101ALI20250728BHJP
【FI】
B60L15/20 J
B60W30/02
B60W30/188
【審査請求】未請求
【請求項の数】6
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2024008149
(22)【出願日】2024-01-23
(71)【出願人】
【識別番号】000003997
【氏名又は名称】日産自動車株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000637
【氏名又は名称】弁理士法人樹之下知的財産事務所
(72)【発明者】
【氏名】吉本 竜太
【テーマコード(参考)】
3D241
5H125
【Fターム(参考)】
3D241BA51
3D241CA03
3D241CA08
3D241CC03
3D241CE05
3D241DA13Z
3D241DB02Z
3D241DC02Z
5H125AA01
5H125BA00
5H125CA01
5H125CC07
5H125DD12
5H125EE42
5H125EE52
5H125EE66
(57)【要約】
【課題】運転者のスキルに応じて駆動力を制御できる車両の駆動力制御方法および駆動力制御装置を提供する。
【解決手段】アクセル操作量に応じた駆動力を発生させる車両の駆動力制御方法は、車両のアクセル操作量を検出し、車両が所定の走行状態にあるときにアクセル操作量の変動幅および変動周期が閾値を超えると、駆動力を補正する。
【選択図】
図3
【特許請求の範囲】
【請求項1】
アクセル操作量に応じた駆動力を発生させる車両の駆動力制御方法であって、
前記車両のアクセル操作量を検出し、
前記車両が所定の走行状態にあるときに前記アクセル操作量の変動幅および変動周期が閾値を超えると、前記駆動力を補正する駆動力制御方法。
【請求項2】
請求項1に記載の駆動力制御方法において、
前記車両の速度の変動量が閾値内にある状態が所定時間継続した場合に、前記車両が所定の走行状態にあると判定する駆動力制御方法。
【請求項3】
請求項2に記載の駆動力制御方法において、
さらに前記車両の前方を走行する前走車との車間距離が閾値を超えている状態が所定時間継続した場合に、前記車両が所定の走行状態にあると判定する駆動力制御方法。
【請求項4】
請求項1または請求項2に記載の駆動力制御方法において、
前記車両の電子キーに前記駆動力の補正が必要であることが関連付けられている場合に、前記駆動力を補正する駆動力制御方法。
【請求項5】
請求項1または請求項2に記載の駆動力制御方法において、
運転者情報記憶装置に記憶されている中から選択された運転者情報に前記駆動力の補正が必要であることが関連付けられている場合に、前記駆動力を補正する駆動力制御方法。
【請求項6】
アクセル操作量に応じた駆動力を発生させる車両の駆動力制御装置であって、
前記車両のアクセル操作量を検出するセンサと、
前記車両が所定の走行状態にあるときに前記アクセル操作量の変動幅および変動周期が閾値を超えると、前記駆動力を補正するコントローラとを備えている駆動力制御装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、車両の駆動力制御方法および駆動力制御装置に関する。
【背景技術】
【0002】
運転者の操作に応じて車両の駆動力を制御する駆動力制御装置が知られている(例えば、特許文献1参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
特許文献1に記載された駆動力制御装置では、駆動力を設定するための制御モードが設定されているが、運転者のスキルによらずに駆動力が設定されるため、運転者のスキルに応じて駆動力を制御することができない。そのため、例えば、運転者のスキルが高くない場合のように、アクセル操作が必要以上に繰り返されてしまうと、駆動力の変動が大きくなり過ぎてしまう。
【0005】
本発明の目的は、運転者のスキルに応じて駆動力を制御できる車両の駆動力制御方法および駆動力制御装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明の一態様は、アクセル操作量に応じた駆動力を発生させる車両の駆動力制御方法であって、前記車両のアクセル操作量を検出し、前記車両が所定の走行状態にあるときに前記アクセル操作量の変動幅および変動周期が閾値を超えると、前記駆動力を補正する。
【0007】
上記態様によれば、車両が所定の走行状態にあるときにアクセル操作量の変動幅および変動周期が閾値を超えると、駆動力を補正するので、運転者のスキルに応じて駆動力を制御することができる。
【図面の簡単な説明】
【0008】
【
図2】本発明の第1実施形態に係るコントローラの制御ブロック図である。
【
図3】コントローラが実行する制御のフローチャートである。
【
図4】アクセル操作量および車両速度の推移を示す図である。
【
図6】アクセル操作量およびその平均値の推移を示す図である。
【
図7】アクセル操作量およびその平均値の推移を示す図である。
【
図8】運転者によるアクセル操作の違いを示す図である。
【
図9】本発明の第2実施形態に係るコントローラの制御ブロック図である。
【
図10】コントローラが実行する制御のフローチャートである。
【
図11】本発明の第3実施形態に係るコントローラの制御ブロック図である。
【
図12】コントローラが実行する制御のフローチャートである。
【
図13】本発明の第4実施形態に係るコントローラの制御ブロック図である。
【
図14】コントローラが実行する制御のフローチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0009】
以下、図面を参照しながら、本発明の実施形態を説明する。
なお、以下では、アクセルペダル等の駆動力要求操作手段による運転者の駆動力要求操作を「アクセル操作」といい、その操作量を「アクセル操作量」という。
また、第2実施形態以降において、既に説明した実施形態の構成と同じものには、その構成と同じ番号を付し、または図示を省略し、それらの説明を簡略化または省略する。
【0010】
[第1実施形態]
図1は、車両10の概略構成を示す模式図である。
車両10は、電子キー1と、運転者情報記憶装置2と、駆動源3と、車輪4と、車間距離センサ5と、駆動力制御装置6とを備えている。車両10は、ネットワークを介してサーバ8と通信可能となっている。
【0011】
電子キー1は、車両10の使用を開始するために必要な非接触タイプの鍵である。電子キー1は、車両10の電子キー1であることを示すID情報を記憶したメモリと、送受信アンテナとを備え、メモリと駆動力制御装置6との間で情報の送受信が可能とされている。
【0012】
運転者情報記憶装置2は、車両10の運転者情報を記憶している。運転者情報記憶装置2は、CPU(Central Processing Unit)やGPU(Graphics Processing Unit)等の演算部、ROMおよびRAM等の記憶部、およびディスプレイを備え、運転者情報の選択、閲覧、書き込み、更新等が可能となっている。運転者情報記憶装置2としては、例えば、ナビゲーション、インターネット接続、マルチメディア等のサービスを提供する装置があり、本実施形態ではナビゲーション装置である。なお、運転者情報には、電子キー1のID情報、運転者の氏名や愛称等、運転者に関する情報が含まれる。なお、運転者情報は、サーバ8にも記憶されている。
【0013】
駆動源3は、電動機31と、インバータ32とを備えている。駆動源3は、インバータ32を介して電動機31を駆動することで、電動機31から車輪4に駆動力を付与する。即ち、車両10は、電動機31を駆動源3とする電気自動車である。
【0014】
車間距離センサ5は、車両10に搭載され、前走車との車間距離を検出する。本実施形態の場合、車間距離センサ5は、カメラ51と、レーダ52とを備え、カメラ51で認識した前走車との車間距離をレーダ52で検出する。なお、レーダ52としては、レーザレーダ、ミリ波レーダ、LiDAR(Light Detection And Ranging)等を用いることができる。
【0015】
駆動力制御装置6は、車間距離センサ5と、車両10のアクセル操作量を検出するセンサとしてのアクセルポジションセンサ61と、車両10の速度(以下、車速という)を検出する車速センサ62と、コントローラ7とを備えている。
【0016】
アクセルポジションセンサ61は、例えば、ペダルストロークセンサで構成され、駆動力要求操作手段としてのアクセルペダル63の操作量(以下、アクセル操作量という)を検出する。
【0017】
車速センサ62は、例えば、車輪4の回転速度センサで構成され、車速を検出する。
【0018】
コントローラ7は、車速およびアクセル操作量等に基づいて、駆動源3で発生させる駆動力を制御する。コントローラ7は、例えば、CPUやGPU等の演算部、ROMおよびRAM等の記憶部、並びに入出力インターフェース等の入出力部を備えたマイクロコンピュータにより実現される。コントローラ7には、電子キー1、運転者情報記憶装置2、駆動源3、車間距離センサ5、およびサーバ8が電気的にまたは通信可能に接続されている。
【0019】
図2は、コントローラ7の制御ブロック図である。
図2に示すように、コントローラ7は、記憶部71と、アクセル操作状態量演算部72と、補正要否判定部73と、レスポンス要求判定部74と、駆動力設定用アクセル操作量演算部75と、駆動力設定部76とを備えている。
【0020】
記憶部71は、コントローラ7を機能させるためのコンピュータプログラム、制御に使用される各種マップ、および各種閾値等を記憶している。記憶部71が記憶しているマップとしては、例えば、アクセル操作量および車速と駆動力との関係を規定したマップがある。
【0021】
アクセル操作状態量演算部72は、アクセルポジションセンサ61から取得したアクセル操作量に基づいて、アクセル操作状態に関する各種状態量を算出する。本実施形態の場合、アクセル操作状態量演算部72は、アクセル操作状態に関する状態量として、所定時間PTの間のアクセル操作量の変動幅AAおよび変動周期AT(
図4参照)、並びにアクセル操作量の時間平均値TA(
図6参照)を演算する。
【0022】
補正要否判定部73は、車速センサ62から取得した車速、並びにアクセル操作量の変動幅AAおよび変動周期ATに基づいて、駆動力の補正要否を判定する。補正要否判定部73は、車両10が所定の走行状態にあるときにアクセル操作量の変動幅AAおよび変動周期ATが閾値を超えると、アクセル操作量に応じて設定される駆動力を補正する必要があると判定する。
【0023】
レスポンス要求判定部74は、運転者がアクセル操作に対する駆動力のレスポンスを要求しているか否かを判定する。本実施形態の場合、レスポンス要求判定部74は、取得した実際のアクセル操作量とアクセル操作量の時間平均値TAとの差ΔAPに基づいて、レスポンス要求の有無を判定する。
【0024】
駆動力設定用アクセル操作量演算部75は、取得したアクセル操作量、補正要否判定部73の判定結果、およびレスポンス要求判定部74の判定結果に基づいて、駆動力設定部76での駆動力設定に用いられるアクセル操作量(以下、駆動力設定用アクセル操作量という)を演算する。この際、駆動力設定用アクセル操作量演算部75は、レスポンス要求判定部74の判定結果に応じて、アクセル操作量を補正し、補正後のアクセル操作量を駆動力設定用アクセル操作量とする。アクセル操作量の補正は、アクセル操作量に1次遅れフィルタ等のフィルタを施したり、実際のアクセル操作量に比べて1次遅れ特性を有するような補正後のアクセル操作量のマップから、実際のアクセル操作量に対応する補正後のアクセル操作量を求めたり、アクセル操作量の増減量、即ちアクセル操作量の変化量を制限したりすることで対応できる。
【0025】
駆動力設定部76は、駆動力設定用アクセル操作量演算部75で演算された駆動力設定用アクセル操作量と、車速とに基づいて駆動力を設定し、設定された駆動力が出力されるような指令を駆動源3に出力する。
【0026】
図3は、コントローラ7が実行する制御のフローチャートである。フローチャートで示す制御ルーチンは、予めプログラムされ、このプログラムがコントローラ7にインストールされている。コントローラ7は、プログラムに則って、下記の制御ルーチンを例えば10ミリ秒程度の演算サイクルで繰り返し実行する。
【0027】
図3のステップS1において、コントローラ7は、アクセルポジションセンサ61からその検出値、即ちアクセル操作量を取得する。
【0028】
続くステップS2において、アクセル操作状態量演算部72は、取得したアクセル操作量に基づいて、所定時間PTの間のアクセル操作量の変動幅AAおよび変動周期AT、並びにアクセル操作量の時間平均値TAを演算する。
【0029】
図4は、アクセル操作量および車速の推移を示した図で、安定した運転者のものが破線で、不安定な運転者のものが実線で示されている。アクセル操作状態量演算部72は、
図4に示すように、アクセル操作量が増加から減少に転じた場合は、その後増加に転じた後再び減少に転じるまでの時間の長さをアクセル操作量の変動周期ATとして演算し、アクセル操作量が減少から増加に転じた場合は、その後減少に転じた後再び増加に転じるまでの時間の長さをアクセル操作量の変動周期ATとして演算する。また、アクセル操作状態量演算部72は、変動周期AT内のアクセル操作量の最大値と最小値との差をアクセル操作量の変動幅AAとして演算する。
【0030】
図3に戻り、ステップS3において補正要否判定部73は、
図4に示すように、車速の変動量が閾値ST内にある状態が所定時間継続しているか否かを判定する。補正要否判定部73は、車速の変動量が閾値ST内にある状態が所定時間PT継続した場合は、車両10が所定の走行状態にあると判断する。
図3のステップS3において、車速の変動量が閾値ST内にある状態が所定時間PT継続していると判定された場合はステップS4に進み、そうでない場合はステップS7に進む。
【0031】
ステップS4において、補正要否判定部73は、所定時間PTの間のアクセル操作量の変動幅AAおよび変動周期ATが各々の閾値を超えたか否かを判定する。補正要否判定部73は、ステップS4において、アクセル操作量の変動幅AAおよび変動周期ATが閾値を超えたと判定した場合、ステップS5で補正要フラグをセットし、そうでない場合、ステップS6で補正要フラグをリセットする。その後、コントローラ7は、ステップS7で駆動力制御を実施する。
【0032】
次いで、
図5のフローチャートを参照し、駆動力制御について説明する。
図5のステップS71において、コントローラ7は、先ず補正要フラグがセットされているか否かを判定する。ステップS71で補正要フラグがセットされていないと判定された場合、駆動力設定用アクセル操作量演算部75は、ステップS72において、実際のアクセル操作量を駆動力設定用アクセル操作量とする。この場合、続くステップS78で、実際のアクセル操作量と車速とに基づいて駆動力が設定され、駆動力の補正は行われない。
【0033】
これに対し、ステップS71で補正要フラグがセットされていると判定された場合、続くステップS73、S74において、レスポンス要求判定部74は、
図6に示すように、アクセル操作量とアクセル操作量の時間平均値TAとの差ΔAPを参照し、この差ΔAPに基づいてレスポンス要求の有無を判定する。レスポンス要求判定部74は、先ず
図5のステップS73において、アクセル操作量の時間平均値TAとの差ΔAPが第1閾値AT1を超えているか否かを判定する。ステップS73でアクセル操作量の時間平均値TAとの差ΔAPが第1閾値AT1を超えていると判定された場合、駆動力設定用アクセル操作量演算部75は、ステップS75において、アクセル操作量に応答性の低下度合いが小さい第1補正を行い、第1補正後のアクセル操作量を駆動力設定用アクセル操作量とする。この場合、続くステップS78では、第1補正後のアクセル操作量と車速とに基づいて駆動力が設定されることになり、駆動力が補正される。
【0034】
一方、ステップS73でアクセル操作量とアクセル操作量の時間平均値TAとの差ΔAPが第1閾値AT1を超えていないと判定された場合、レスポンス要求判定部74は、ステップS74において、アクセル操作量の時間平均値TAとの差ΔAPが、第1閾値AT1よりも小さい第2閾値AT2を超えているか否かを判定する。ステップS74でアクセル操作量の時間平均値TAとの差ΔAPが第2閾値AT2を超えていると判定された場合、駆動力設定用アクセル操作量演算部75は、ステップS76において、アクセル操作量に応答性の低下度合いが第1補正よりも大きい第2補正を行い、第2補正後のアクセル操作量を駆動力設定用アクセル操作量とする。続くステップS78では、第2補正後のアクセル操作量と車速とに基づいて駆動力が設定されることになり、駆動力が補正される。なお、第2補正は、フィルタを施したり、アクセル操作量マップを用いたりする場合であれば、第1補正よりも大きな時定数を有するフィルタまたはアクセル操作量マップを使用すればよいし、アクセル操作量の変化量を制限する場合であれば、第1補正よりも小さな変化量で制限すればよい。
【0035】
そして、ステップS74でアクセル操作量とアクセル操作量の時間平均値TAとの差ΔAPが第2閾値AT2を超えていないと判定された場合、駆動力設定用アクセル操作量演算部75は、ステップS77において、アクセル操作量に応答性の低下度合いが第2補正よりも大きい第3補正を行い、第3補正後のアクセル操作量を駆動力設定用アクセル操作量とする。続くステップS78では、第3補正後のアクセル操作量と車速とに基づいて駆動力が設定されることになり、駆動力が補正される。なお、第3補正は、フィルタを施したり、アクセル操作量マップを用いたりする場合であれば、第2補正よりも大きな時定数を有するフィルタまたはアクセル操作量マップを使用すればよいし、アクセル操作量の変化量を制限する場合であれば、第2補正よりも小さな変化量で制限すればよい。
【0036】
例えば、
図7に示すように、アクセル操作量の推移が操作ラインAL1となるようにアクセル操作を行った場合、アクセル操作量とアクセル操作量の時間平均値TAとの差ΔAPが第1閾値AT1を超えるので、レスポンス要求があると判定される。このため駆動力設定用アクセル操作量演算部75は、アクセル操作量に応答性の低下度合いが小さい第1補正を行う。同様に、アクセル操作量が操作ラインAL2となるようにアクセル操作を行った場合、アクセル操作量の時間平均値TAとの差ΔAPが第1閾値AT1を下回るものの、第2閾値AT2を超えるので、レスポンス要求があると判定され、アクセル操作量に応答性の低下度合いが第3補正ほど大きくない第2補正を行う。一方、アクセル操作量が操作ラインAL3となるようにアクセル操作を行った場合、アクセル操作量の時間平均値TAとの差ΔAPが第2閾値AT2を下回るので、レスポンス要求がないと判定され、アクセル操作量に応答性の低下度合いが大きい第3補正を行う。
【0037】
ここで、レスポンス要求は、アクセル操作量とアクセル操作量の時間平均値TAとの差ΔAPに対する閾値が小さいほど速やかに判定することができるが、閾値が小さすぎると、信号ノイズ等との兼ね合いで誤判定するリスクが高くなる。そこで、本実施形態では、アクセル操作量の変化速度に応じた複数の閾値AT1、AT2を設定し、レスポンス要求の有無を段階的に判定することで、判定の迅速性と誤判定とのバランスを図っている。即ち、
図7に示すように、アクセル操作量がアクセル操作の時間平均値TAに対して増加し始めて第1時間T1経過してから第1閾値AT1で、第1時間T1よりも長い第2時間T2経過以降は第1閾値AT1よりも小さい第2閾値AT2で、レスポンス要求の判定を行う。第1時間T1、第2時間T2は、例えば、コントローラ7の演算サイクル1回分、4回分の長さであり、演算サイクルが10msであれば10ms、40msとなる。なお、レスポンス要求の有無にかかわらず、補正要と判定されれば、補正後のアクセル操作量が駆動力設定用アクセル操作量とされ、駆動力が補正される。
【0038】
図8は、安定した運転者によるアクセル操作と、不安定な運転者によるアクセル操作の違いを示す図である。概ね一定の車速で走行しているようなとき、即ち車速の変動量が閾値ST内にある状態が継続しているときは、
図8に示すように、安定した運転者の場合、アクセル操作量の変動が小さい。これに対し、不安定な運転者の場合、
図8中実線で示すように、アクセル操作量の変動が大きく、車両10をスムーズに走行させることができない。そこで、コントローラ7は、不安定な運転者が行う傾向にあるこのようなアクセル操作を、
図3のステップS3~S6の処理によって検知し、
図5のステップS73~S77の処理によって、
図8中二点鎖線で示すように、アクセル操作量を補正する。これにより、駆動力が補正され、不安定な運転者であっても、車両10をスムーズに走行させることができる。
【0039】
以上のような実施形態によれば、車両10が所定の走行状態にあるときにアクセル操作量の変動幅AAおよび変動周期ATが閾値を超えると、駆動力を補正するので、運転者のスキルに応じて駆動力を制御することができる。
【0040】
また、アクセル操作量の補正の程度をアクセル操作量の時間平均値TAとの差ΔAPの大きさに応じて変更するので、運転者のスキルに応じて駆動力をより適切に制御することができる。
【0041】
[第2実施形態]
図9は、本実施形態のコントローラ7Aの制御ブロック図である。本実施形態において、コントローラ7Aは、補正要否の判定にあたって車両10が所定の走行状態にあるか否かを判断する際、車速の変動量に加えて、前走車との車間距離も考慮する。
【0042】
コントローラ7Aにおいて、補正要否判定部73は、車間距離センサ5から取得した車間距離、車速センサ62から取得した車速、並びにアクセル操作量の変動幅AAおよび変動周期ATに基づいて、駆動力の補正要否を判定する。
【0043】
車間距離に余裕があり、運転者の心理的な負荷が低い場面では、運転者のスキル以外にアクセル操作量の変動を生じさせる要因が考えられにくいのに対し、車間距離が詰まっていて、運転者の心理的な負荷が高い場面では、運転のスキル以外の心理的要因によってアクセル操作量の変動が生じやすい。つまり、車間距離が詰まっている場合は、運転のスキルにかかわらず、アクセル操作を繰り返さなければならないことがあり、アクセル操作量の変動が生じやすい。このような場合にアクセル操作量の補正を行い、駆動力を補正してしまうと、アクセル操作に対する駆動力のレスポンスを必要以上に低下させてしまう可能性がある。そのため、本実施形態では、補正要否の判定にあたって、前走車との車間距離も考慮している。
【0044】
図10は、コントローラ7Aが実行する制御のフローチャートである。
図10において、ステップS3A以外の処理は、第1実施形態と同じであるため、ステップS3Aの処理について説明する。ステップS3で車速の変動量が閾値ST内にある状態が所定時間PT継続したと判定された場合、補正要否判定部73は、続くステップS3Aにおいて、前走車との車間距離が閾値を超えている状態が所定時間PT継続しているか否かをさらに判定することで、車両10が所定の走行状態にあるか否かを判断する。ステップS3Aにおいて、前走車との車間距離が閾値を超えている状態が所定時間PT継続していると判定された場合はステップS4に進み、そうでない場合はステップS7に進む。
【0045】
以上のような実施形態によれば、補正要否の判定にあたって、前走車との車間距離も考慮するため、運転のスキル以外の心理的要因によるアクセル操作量の変動に起因して駆動力が補正されてしまうことを防止できる。
【0046】
[第3実施形態]
図11は、本実施形態のコントローラ7Bの制御ブロック図である。本実施形態において、コントローラ7Bは、駆動力の補正が必要であることが電子キー1に関連付けて記憶されている場合に、駆動力を補正する。
【0047】
コントローラ7Bは、運転者情報処理部77を備えている。運転者情報処理部77は、電子キー1に関連付けられた運転者情報を処理する。運転者情報には、電子キー1のID情報、駆動力の補正要否等の情報が含まれる。
【0048】
図12は、コントローラ7Bが実行する制御のフローチャートである。
図12において、ステップS1~S7の処理は、第1実施形態と同じであるため、それ以外の処理について説明する。
図12のステップS1Aで、運転者情報処理部77は、電子キー1から取得したID情報を照合して電子キー1が車両10のものであることを識別した後、ID情報に対応する運転者情報をサーバ8から取得し、補正要であることが電子キー1に関連付けられているか否かを判定する。ステップS1Aにおいて、補正要であることが電子キー1に関連付けられていると判定された場合は、ステップS1Bに進んで運転者情報処理部77が補正要フラグをセットし、そうでない場合はステップS1に進む。
【0049】
ステップS1~S7の処理が実行された後、続くステップS8において、運転者情報処理部77は、車両10の使用が終了したか否かを判定する。ステップS8において、車両10の使用が終了したと判定された場合はステップS9に進み、そうでない場合はステップS1に進む。
【0050】
ステップS9において、運転者情報処理部77は、補正要フラグがセットされているか否かを判定する。ステップS9において、補正要フラグがセットされていると判定された場合、運転者情報処理部77は、ステップS10において、補正要であることを電子キー1に関連付けて記憶する。即ち、運転者情報処理部77は、サーバ8にアクセスし、電子キー1のID情報に対応する運転者情報に補正要であることを記憶させる。一方、ステップS9において、補正要フラグがセットされていないと判定された場合、運転者情報処理部77は、ステップS11において、補正不要であることを運転者情報に関連付けてサーバ8に記憶させる。
【0051】
以上のような実施形態によれば、補正要否の情報が電子キー1に関連付けて記憶されているため、電子キー1を保持しているだけで、駆動力の補正要否を判定することができる。
【0052】
[第4実施形態]
図13は、本実施形態のコントローラ7Cの制御ブロック図である。本実施形態において、コントローラ7Cは、運転者情報記憶装置2に記憶されている中から選択された運転者情報に駆動力の補正が必要であることが関連付けられている場合に、駆動力を補正する。
【0053】
コントローラ7Cにおいて、運転者情報処理部77は、運転者情報記憶装置2に記憶されている運転者情報を処理する。なお、運転者情報には、運転者の氏名や愛称、駆動力の補正要否等の情報が含まれる。
【0054】
図14は、コントローラ7Cが実行する制御のフローチャートである。
図14において、ステップS1~S7の処理は、第1実施形態と同じであるため、それ以外の処理について説明する。
図14のステップS1Cで、運転者情報処理部77は、運転者情報記憶装置2で運転者によって選択された運転者情報を運転者情報記憶装置2から取得した後、補正要であることが運転者情報に関連付けられているか否かを判定する。ステップS1Cにおいて、補正要であることが運転者情報に関連付けられていると判定された場合は、ステップS1Dに進んで運転者情報処理部77が補正要フラグをセットし、そうでない場合はステップS1に進む。
【0055】
ステップS1~S8の処理が実行され、続くステップS9において、補正要フラグがセットされていると判定された場合、運転者情報処理部77は、ステップS12において、補正要であることを運転者情報に関連付けて記憶する。即ち、運転者情報処理部77は、運転者情報記憶装置2にアクセスし、補正要であることを運転者情報に関連付けて記憶させる。一方、ステップS9において、補正要フラグがセットされていないと判定された場合、運転者情報処理部77は、ステップS13において、補正不要であることを運転者情報に関連付けて運転者情報記憶装置2に記憶させる。
【0056】
以上のような実施形態によれば、補正要否の情報が運転者情報に関連付けて記憶されているため、運転者情報記憶装置2で運転者を選択するだけで、駆動力の補正要否を判定することができる。
【0057】
以上のように、本発明を実施するための最良の構成、方法等は、前記記載で開示されているが、本発明は、これに限定されるものではない。すなわち、本発明は、主に特定の実施形態に関して特に図示され、かつ説明されているが、本発明の技術的思想および目的の範囲から逸脱することなく、以上述べた実施形態に対し、形状、材質、数量、その他の詳細な構成において、当業者が様々な変形を加えることができるものである。また、上記に開示した形状、材質などを限定した記載は、本発明の理解を容易にするために例示的に記載したものであり、本発明を限定するものではないから、それらの形状、材質などの限定の一部もしくは全部の限定を外した部材の名称での記載は、本発明に含まれる。
【0058】
運転者情報記憶装置2は、運転者情報を記憶可能なものであれば、どのような装置でもよく、例えば、音楽や動画等のマルチメディア再生や、インターネット接続等が可能な車載インフォテインメント装置であってもよい。
【0059】
駆動源3は、内燃機関を備え、内燃機関で発電機を駆動して電動機31に電力供給することにより、電動機31で車輪4を駆動してもよいし、電動機31と内燃機関とで車輪4を駆動してもよい。即ち、車両10は、いわゆるシリーズハイブリッド車両やパラレルハイブリッド車両であってもよい。
【0060】
車間距離センサ5は、カメラ51およびレーダ52の一方のみを備えていてもよく、例えば、複数のカメラ51を備え、レーダ52を備えていなくてもよいし、複数のレーダ52を備え、カメラ51を備えていなくてもよい。
【0061】
駆動力制御装置6は、駆動力要求操作手段がアクセルペダル63で構成され、アクセル操作量を検出するセンサがアクセルポジションセンサ61で構成されていたが、他の構成とされてもよい。例えば、駆動力要求操作手段が操作レバーや操作ダイヤル等で構成され、これらの操作量を検出するストロークセンサやポテンショメータ等のセンサでアクセル操作量を検出する構成とされてもよい。
車速センサ62は、特に限定されず、例えば、対地速度センサであってもよい。
【0062】
コントローラ7、7A、7B、7Cは、実施形態以外の方法で駆動力を補正してもよく、例えば、駆動力設定用のアクセル操作量を演算せずに、駆動力設定部76で実際のアクセル操作量と車速とに基づいて駆動力を設定した後、この駆動力自体を補正してもよい。即ち、駆動力設定部76は、例えば、実際のアクセル操作量と車速とに基づいて設定した駆動力に1次遅れフィルタ等のフィルタを施したり、駆動力の変化量を制限したりすることで、駆動力を補正してもよい。
【0063】
コントローラ7、7A、7B、7Cにおいて、レスポンス要求判定部74は、アクセル操作量がアクセル操作の時間平均値TAに対して増加し始めてから第1時間T1経過後、第2時間T2経過後にレスポンス要求の判定を行うことに代えて、アクセル操作量とアクセル操作量の時間平均値TAとの差ΔAPの変化速度、またはアクセル操作量の変化速度を考慮してレスポンス要求の判定を行ってもよい。即ち、レスポンス要求判定部74は、アクセル操作量とアクセル操作量の時間平均値TAとの差ΔAPが第1閾値AT1を超え、かつ差ΔAPの変化速度またはアクセル操作量の変化速度が第1変化速度閾値を超えた場合に、第1補正後のアクセル操作量を駆動力設定用アクセル操作量とし、差ΔAPが第2閾値AT2を超え、かつ差ΔAPの変化速度またはアクセル操作量の変化速度が第1変化速度閾値よりも小さい第2変化速度閾値を超えた場合に、第2補正後のアクセル操作量を駆動力設定用アクセル操作量とし、それ以外の場合に、第3補正後のアクセル操作量を駆動力設定用アクセル操作量としてもよい。
【0064】
コントローラ7、7A、7B、7Cにおいて、駆動力設定用アクセル操作量演算部75は、アクセルポジションセンサ61から取得した実際のアクセル操作量の増加時および減少時の両方でアクセル操作量や駆動力自体を補正してもよいし、実際のアクセル操作量の増加時にのみアクセル操作量や駆動力自体を補正してもよい。
【0065】
コントローラ7B、7Cにおいて、補正要否判定部73は、コントローラ7Aのように、車間距離センサ5から取得した車間距離を考慮して、駆動力の補正要否を判定してもよい。
【符号の説明】
【0066】
1…電子キー、2…運転者情報記憶装置、3…駆動源、4…車輪、5…車間距離センサ、6…駆動力制御装置、7、7A、7B、7C…コントローラ、10…車両、61…アクセルポジションセンサ(センサ)、AA…変動幅、AT…変動周期。