(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2025113832
(43)【公開日】2025-08-04
(54)【発明の名称】磁性体およびインダクタ
(51)【国際特許分類】
H01F 17/04 20060101AFI20250728BHJP
H01F 1/14 20060101ALI20250728BHJP
H01F 1/147 20060101ALI20250728BHJP
【FI】
H01F17/04 F
H01F1/14
H01F1/147 166
【審査請求】未請求
【請求項の数】13
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2024008196
(22)【出願日】2024-01-23
(71)【出願人】
【識別番号】000006231
【氏名又は名称】株式会社村田製作所
(74)【代理人】
【識別番号】100145403
【弁理士】
【氏名又は名称】山尾 憲人
(74)【代理人】
【識別番号】100187584
【弁理士】
【氏名又は名称】村石 桂一
(72)【発明者】
【氏名】北川 征樹
(72)【発明者】
【氏名】森内 祥行
【テーマコード(参考)】
5E041
5E070
【Fターム(参考)】
5E041AA02
5E041AA11
5E041BD13
5E041NN01
5E070AA01
5E070AB03
5E070BB03
(57)【要約】
【課題】μ値の低下を抑制しつつ、H
sat20を向上させた磁性体およびインダクタを提供する。
【解決手段】本開示の磁性体1は、第1金属磁性粒子MP1と、第1金属磁性粒子MP1よりもメジアン粒径が大きい第2金属磁性粒子MP2と、樹脂と、を含み、第1金属磁性粒子MP1は、第1絶縁被膜IM1によって被覆され、第2金属磁性粒子MP2は、第2絶縁被膜IM2によって被覆され、第1金属磁性粒子MP1のメジアン粒径をD1、第1絶縁被膜IM1の平均厚みをT1、第2金属磁性粒子MP2のメジアン粒径をD2、第2絶縁被膜IM2の平均厚みをT2としたときに、2.5≦(T1/D1)/(T2/D2)≦3.9、T2≦39.4nmの両方を充足する。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
第1金属磁性粒子と、前記第1金属磁性粒子よりもメジアン粒径が大きい第2金属磁性粒子と、樹脂と、を含み、
前記第1金属磁性粒子は、第1絶縁被膜によって被覆され、
前記第2金属磁性粒子は、第2絶縁被膜によって被覆され、
前記第1金属磁性粒子のメジアン粒径をD1、前記第1絶縁被膜の平均厚みをT1、前記第2金属磁性粒子のメジアン粒径をD2、前記第2絶縁被膜の平均厚みをT2としたときに、
2.5≦(T1/D1)/(T2/D2)≦3.9
T2≦39.4nm
の両方を充足する、磁性体。
【請求項2】
前記第1金属磁性粒子のメジアン粒径D1は、4μm以下である、請求項1に記載の磁性体。
【請求項3】
前記第2金属磁性粒子のメジアン粒径D2は、10μm以上である、請求項1に記載の磁性体。
【請求項4】
前記第1絶縁被膜の平均厚みT1は、5nm以上である、請求項1に記載の磁性体。
【請求項5】
前記第1金属磁性粒子と前記第2金属磁性粒子との重量配合比率は、
前記第1金属磁性粒子の重量:前記第2金属磁性粒子の重量が、35:65以上20:80以下である、請求項1に記載の磁性体。
【請求項6】
前記樹脂は、前記磁性体全体基準において、2.3重量%以上3.6重量%以下である、請求項1に記載の磁性体。
【請求項7】
前記第1金属磁性粒子は、Feを含有し、前記第2金属磁性粒子は、FeおよびSiを含有する、請求項1に記載の磁性体。
【請求項8】
前記第1金属磁性粒子は、前記第1金属磁性粒子の全体基準で97重量%以上の結晶性のFeを含有する、請求項7に記載の磁性体。
【請求項9】
前記第2金属磁性粒子は、前記第2金属磁性粒子の全体基準で2重量%以上8重量%以下のSiを含有する、請求項7に記載の磁性体。
【請求項10】
前記第1絶縁被膜は、シリカを含有する、請求項1に記載の磁性体。
【請求項11】
前記第2絶縁被膜は、無機ガラスを含有する、請求項1に記載の磁性体。
【請求項12】
前記樹脂は、熱硬化性樹脂である、請求項1に記載の磁性体。
【請求項13】
請求項1~12のいずれか1項に記載の磁性体を備えたインダクタ。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、磁性体およびインダクタに関する。
【背景技術】
【0002】
近年、電子機器の高密度実装化と高速処理化に伴い、インダクタにおいても小型化及び高出力化が求められている。インダクタの小型化を図ると、インダクタの磁性材料を含むコアの体積が減少し、インダクタンス(L値)の低下および/または直流重畳特性の悪化を招きやすい。
【0003】
特許文献1には、平均粒径が異なる2つの粒子群を配合させて得た粒度分布を有する金属粉末、この金属粉末を用いて製造されたコア(磁性成形体)およびこのコアを用いて製造されたインダクタが記載されている。
【0004】
特許文献1によれば、大粒径粒子同士の間にできる空隙に小粒径粒子を充填させることで、大粒子と小粒子を合わせた軟磁性粒子の充填率を高くし、高い透磁率と良好な直流重畳特性が得られる、とされている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
特許文献1に記載のインダクタにおいて、大粒子は磁束が集中しやすく、Hsat20を低下させる(直流重畳特性を悪くする)傾向がある。なお、本明細書でいうHsat20とは、直流電流が0のときのμ値を算出し、当該μ値から20%低下したときの電流値Isat20と、磁性成形体の寸法と、銅線の巻回数と、に基づいて算出される、μ値が20%低下したときの磁場を意図している。
【0007】
Hsat20を向上させるには、大粒子の比率を減らすことが考えられるが、磁性材料の占有率(充填率)の悪化やμ値の高い大粒子の減少により成形体(磁性体)全体のμ値が低下する問題が生じる。
【0008】
本開示は、かかる課題に鑑みて為されたものである。即ち、本開示の主たる目的は、μ値の低下を抑制しつつ、Hsat20を向上させた磁性体およびインダクタを提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本開示の磁性体は、
第1金属磁性粒子と、前記第1金属磁性粒子よりもメジアン粒径が大きい第2金属磁性粒子と、樹脂と、を含み、
前記第1金属磁性粒子は、第1被膜によって被覆され、
前記第2金属磁性粒子は、第2被膜によって被覆され、
前記第1金属磁性粒子のメジアン粒径をD1、前記第1被膜の平均厚みをT1、前記第2金属磁性粒子のメジアン粒径をD2、前記第2被膜の平均厚みをT2としたときに、
2.5≦(T1/D1)/(T2/D2)≦3.9
T2≦39.4nm
の両方を充足する。
【0010】
本開示のインダクタは、上述の磁性体を備えている。
【発明の効果】
【0011】
本開示の磁性体によれば、μ値の低下を抑制しつつ、Hsat20を向上させることができる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【
図1】
図1は、本開示の磁性体の拡大断面図である。
【
図3】
図3は、本開示の磁性体の製造方法の製造フローである。
【
図4A】
図4Aは、本開示の磁性体の製造方法を模式的に示す工程図である。
【
図4B】
図4Bは、本開示の磁性体の製造方法を模式的に示す工程図である。
【
図6】
図6は、インダクタの製造方法を模式的に示す工程斜視図である。
【
図7】
図7は、本開示のインダクタの斜視図である。
【
図8】
図8は、本開示の磁性体に関する実証試験結果を示す表である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下、本開示の磁性体およびインダクタについて説明する。なお、本開示は、以下の構成に限定されるものではなく、本開示の要旨を逸脱しない範囲において適宜変更されてもよい。また、以下において記載する個々の好ましい構成を複数組み合わせたものもまた本開示である。
【0014】
以下に示す図面は模式図であり、その寸法、縦横比の縮尺等は実際の製品と異なる場合がある。
【0015】
[磁性体]
以下、本開示の磁性体について説明する。なお、本明細書でいう「磁性体」とは、広義には、インダクタ等の磁場を発生させるデバイスにおいて、磁場を高めるために用いられるものである。狭義には、インダクタにおけるコイル(導線)の被覆や、コイルのコアに用いられるものをいう。
【0016】
本開示の磁性体1は、第1金属磁性粒子MP1と、第1金属磁性粒子MP1よりもメジアン粒径が大きい第2金属磁性粒子MP2と、樹脂Rと、を含む。
【0017】
-第1金属磁性粒子-
第1金属磁性粒子MP1は、Fe系の金属磁性粒子を用いてよい。例えば、結晶性粉末を用いてよい。結晶性粉末としては、例えば、カルボニル鉄粉、センダスト磁性粉末やFe-Si-Cr系金属粉末、Fe-Si金属粉末等のFe基磁性金属粉末、パーマロイ磁性粉末等のFe-Ni系磁性金属粉末、パーメンジュール等のFe-Co系磁性金属粉末等が挙げられる。言い換えると、第1金属磁性粒子MP1に用いられる結晶系材料の一例として、FeSi系合金、FeSiCr系合金、FeSiAl系合金、FeCo系合金およびFeNi系合金からなる群から選択される少なくとも1種の合金を含む結晶系材料が挙げられる。また、混合系材料(ナノ結晶系材料を含む)を用いてもよい。ナノ結晶系材料としては、例えば、Fe-Si-B-Nb-Cu系ナノ結晶磁性金属粉末等が挙げられる。あくまでも一例として、第1金属磁性粒子は、Fe:97wt%以上の結晶性のカルボニル鉄粉を用いてよい。なお、第1金属磁性粒子MP1は、結晶性粉末が好ましいが、後述するアモルファス粉末を用いてもよい。
【0018】
第1金属磁性粒子MP1は、第1絶縁被膜IM1によって被覆されている。第1絶縁被膜IM1によって第1金属磁性粒子MP1が被覆されることで、第1金属磁性粒子MP1間が絶縁されている。本明細書でいう「絶縁性」とは、体積抵抗率が1MΩcm以上であることを意図している。第1絶縁被膜IM1は、例えば、金属アルコキシドのゾルゲル反応により形成された無機系絶縁性被膜としてよい。あくまでも一例として、シリカを成分として含んでいてよい。
【0019】
-第2金属磁性粒子-
第2磁性原料粒子としては、Fe系の金属磁性粒子を用いてよく、例えば、Fe合金としてよい。Fe合金の一例として、FeおよびNiを含む合金、FeおよびCoを含む合金、FeおよびSiを含む合金、Fe、SiおよびCrを含む合金、Fe、SiおよびAlを含む合金、Fe、Si、BおよびCrを含む合金ならびにFe、P、Cr、Si、B、Nb、CuおよびCを含む合金からなる群から選択される1以上の金属磁性材料の粒子であってよい。あくまでも一例として、FeSiCrBC系アモルファス合金、または、FeSiCrNbBPCu系アモルファス合金が挙げられる。より具体的には、Fe:93wt%、Si:3.5wt%、B:3wt、残部:0.5wt%のアモルファス粉末が用いられてよい。なお、第2金属磁性粒子MP2は、アモルファス粉末が好ましいが、前述した結晶性粉末または混合系材料(ナノ結晶系材料を含む)を用いてもよい。
【0020】
第2金属磁性粒子MP2は、第2絶縁被膜IM2によって被覆されている。第2絶縁被膜IM2によって第2金属磁性粒子MP2が被覆されることで、第2金属磁性粒子MP2間が絶縁されている。第2絶縁被膜IM2は、例えば、メカノケミカル法で形成される無機ガラス被膜であってよい。無機ガラス被膜は、例えば、リン酸塩ガラスであってよい。
【0021】
-樹脂-
樹脂Rは、硬化反応に寄与する官能基を含有してよい。つまり、樹脂Rの硬化反応によって硬化されて磁性体1の製造を可能としてよい。より具体的には、磁性体1を製造する前段階の樹脂Rは、未硬化のものである。本明細書でいう「未硬化」とは、ほぼ完全に硬化された状態の前段階のものをいい、半硬化状態のものを包含する。樹脂Rの一例として、エポキシ樹脂、シリコーン樹脂、ポリエステル樹脂、ポリイミド樹脂、ポリオレフィン樹脂およびフェノール樹脂からなる群から選択される少なくとも1つであってよい。なかでも、樹脂Rとしてエポキシ樹脂を用いた場合、電気絶縁性および/または機械的強度の高い磁性体1を得ることができる。別法として、ポリアミドイミド、ポリフェニレンスルファイドおよび/または液晶ポリマー等の熱可塑性樹脂を用いてもよい。硬化反応は、熱によるものが好ましい。つまり、樹脂Rは熱硬化性樹脂であることが好ましい。一例として熱硬化性エポキシ樹脂が挙げられる。このような樹脂を用いれば、簡易な方法によって硬化反応を生じさせることができる。
【0022】
溶剤は、上記原料(第1金属磁性粒子MP1、第2金属磁性粒子MP2、および、樹脂R)を混合してスラリーを得るために用いられ、有機溶剤であることが好ましい。例えば、トルエンまたはキシレン等の芳香族炭化水素類;アセトン、メチルエチルケトン、または、メチルイソブチルケトン、等のケトン類;メタノール、エタノール、または、イソプロピルアルコール等のアルコール類;プロピレングリコールモノメチルエーテル、または、プロピレングリコールモノメチルエーテルアセテート等のグリコールエーテル類のいずれかを含んでよい。
【0023】
硬化剤は、樹脂を硬化させるために用いられるものであってよい。一例として、イミダゾール系硬化剤、アミン系硬化剤、または、グアニジン系硬化剤(例えば、ジシアンジアミド)のいずれかを含んでよい。
【0024】
潤滑剤は、第1金属磁性粒子MP1および第2金属磁性粒子MP2の潤滑性を向上させ、充填率を向上させるために用いられてよい。さらに、潤滑剤によって成形時に金型からの離形を容易するために用いられてよい。潤滑剤としては、例えば、ナノシリカ、硫酸バリウム、または、ステアリン酸化合物(ステアリン酸リチウム、ステアリン酸マグネシウム、ステアリン酸亜鉛、または、ステアリン酸カリウム等)のいずれかを含んでよい。
【0025】
本開示の磁性体1において、第1金属磁性粒子MP1のメジアン粒径をD1、第1絶縁被膜IM1の平均厚みをT1、第2金属磁性粒子MP2のメジアン粒径をD2、第2絶縁被膜IM2の平均厚みをT2としたときに、
2.5≦(T1/D1)/(T2/D2)≦3.9
T2≦39.4nm
の両方を充足する。
【0026】
以下において、上述の磁性体1の解析手法(メジアン粒径D1,D2の測定手法および平均厚みT1,T2の測定手法)を説明する。なお、本明細書でいう「メジアン粒径」は、体積基準の累積百分率50%相当粒径を意図している。
【0027】
-メジアン粒径の測定手法-
磁性体1の第1金属磁性粒子MP1および第2金属磁性粒子MP2のメジアン粒径D1,D2は、製造後の磁性体1の断面を撮影したSEM(走査型電子顕微鏡)画像を解析することにより求めることができる。
【0028】
まず、磁性体1の断面をワイヤーソー等で切り出し、個片化する。ミリング装置等を用いて断面を平坦に加工した後、SEMにより300倍像および1000倍像の反射電子画像を5視野ずつ取得する。なお、300倍像(低倍率画像)および1000倍像(高倍率画像)の両方を取得する理由は、第1金属磁性粒子MP1(小粒子)の粒径および第2金属磁性粒子MP2(大粒子)の粒径の両方を精度よく解析するためである。
【0029】
次に、画像解析ソフトを用いて、取得したSEM画像の2値化処理を行い、粒子断面の円相当径を求める。画像解析により求めた円相当径について頻度をカウントして、ヒストグラムを得る。300倍像と1000倍像とでは、倍率の差に由来する頻度の差が存在する。1000倍像における頻度を300倍像における頻度に揃えるために、1000倍像における頻度に(1000/300)の2乗を乗じる。さらに、1000倍像のヒストグラムのばらつきが300倍像のヒストグラムのばらつきより大きくなる粒径の値を求め、この粒径以上の粒径の頻度については300倍像の値を採用し、この粒径より小さい粒径の頻度については1000倍像の値を採用して、1つのヒストグラムとする。
【0030】
ヒストグラムの頻度を体積基準の分布とするため、計量形態学に基づいて、頻度に対して粒径区間から計算した体積を乗じ、粒径で除する計算を行う(参考文献:R.T.DeHoff、F.N.Rhines著、牧島邦夫、篠原靖忠、小森尚志訳、「計量形態学」、内田老鶴圃新社、1972年、167~203頁)。上述の計算は、小さい断面積の粒子ほど頻度が高く現れるとされる計量形態学の研究に基づくものである。ここで、頻度の総和が1となるように、頻度の総和により各区間の頻度を除して規格化する。
【0031】
このようにして求めた体積基準のヒストグラムについて、2つの対数正規分布の和(第1金属磁性粒子MP1の対数正規分布および第2金属磁性粒子MP2の対数正規分布の和)でフィッティングすることにより、第1金属磁性粒子MP1および第2金属磁性粒子MP2それぞれのメジアン径D50、ならびに第1金属磁性粒子MP1と第2金属磁性粒子MP2との体積比率(配合比率)を計算する。対数正規分布の確率密度関数は、下記の式で与えられる。
【0032】
【0033】
上記式において、変数xはデータ区間、σは分散、μは平均に対応する。この確率密度関数が第1金属磁性粒子MP1と第2金属磁性粒子MP2のそれぞれについて表現されるため、変数はそれぞれ、x1、x2、σ1、σ2、μ1、μ2となる。なお、各変数の末尾の「1」は、第1金属磁性粒子MP1、「2」は、第2金属磁性粒子MP2を意味する。さらに、第1金属磁性粒子MP1の確率密度関数と第2金属磁性粒子MP2の確率密度関数とを1つの確率密度関数として表現するために、所定の割合(p1、p2とする)をそれぞれの確率密度関数に乗じて和をとる。このようにして得られた、第1金属磁性粒子MP1と第2金属磁性粒子MP2とを合成した確率密度関数は、体積基準のヒストグラムとフィッティングすることができるように規格化しておく。
【0034】
確率密度関数の変数のうち、データ区間x1およびx2は体積基準のヒストグラムのデータ区間により与えられる。したがって、合成した確率密度関数により体積基準のヒストグラムをフィッティングするため、両者の差分が最小になるように、分散σ1およびσ2、平均μ1およびμ2、ならびに割合p1およびp2を変数として、最小二乗法により最適化する。このように最適化した変数で与えられる第1金属磁性粒子MP1および第2金属磁性粒子MP2それぞれの確率密度関数から、規格化した密度関数を累積して0.5(体積基準の累積百分率50%)となるデータ区間の値を求め、第1金属磁性粒子MP1および第2金属磁性粒子MP2それぞれのメジアン径D50を得る。さらに、最適化したp1とp2との比率から、第1金属磁性粒子MP1と第2金属磁性粒子MP2との体積基準の配合比率(体積比率)を得る。
【0035】
上述した解析方法は、市販されているインダクタ等の製品のチップ断面から第1金属磁性粒子MP1と第2金属磁性粒子MP2との体積比率、および、第1金属磁性粒子MP1および第2金属磁性粒子MP2のメジアン径D50を求める場合にも適用することができる。
【0036】
-平均厚みの測定手法-
第1絶縁被膜IM1の平均厚みおよび第2絶縁被膜IM2の平均厚みの測定は、STEM/EDX(走査型透過電子顕微鏡/エネルギー分散型X線分析)を用いて行うことができる。まず、測定する粒子(第1金属磁性粒子MP1または第2金属磁性粒子MP2)を樹脂埋めして研磨し、FIB(集束イオンビーム)加工によりSTEM/EDX観察用サンプルを作製する。STEM/EDXにより、倍率400k倍で絶縁性被膜に含まれる元素のEDX像を得る。1個の粒子につきEDX画像を3視野分撮影し、それぞれのEDX画像について、絶縁被膜の厚みを、コア部の表面上で30nmの等間隔の4点において設定して測定する。3個の粒子について上述の測定を行い、全ての点(3視野×4点×3個=36点)で測定した絶縁被膜の厚みから計算した平均値を絶縁被膜の平均厚みとする。なお、第1金属磁性粒子MP1および第2金属磁性粒子MP2の絶縁被膜の厚みは、磁性体で構成される成形体の断面において、上述の方法と同様の手順でSTEM/EDXによる解析を行うことによって求めることもできる。絶縁被膜の厚みは成形の前後でほぼ同一の値であってよい。
【0037】
上述の測定手法によって、第1金属磁性粒子MP1のメジアン粒径をD1、第1絶縁被膜IM1の平均厚みをT1、第2金属磁性粒子MP2のメジアン粒径をD2、第2絶縁被膜IM2の平均厚みをT2としたときに、本開示の磁性体1は、2.5≦(T1/D1)/(T2/D2)≦3.9およびT2≦39.4nmを充足する。したがって、μ値の低下を抑制し、Hsat20を向上させつつ、磁性材料の充填率を向上させることができる。実際に測定したμ値およびHsat20および充填率の指標(流動性)は、[実施例]にて詳述する。
【0038】
-磁性体の付加的構成-
磁性体の好適な構成として、第1金属磁性粒子MP1のメジアン粒径D1は、4μm以下であってよい。メジアン粒径D1が4μm以下であれば、磁性体1を製造する際に、第1金属磁性粒子MP1が好適に流動するため、磁性体1内の第1金属磁性粒子MP1の充填率を向上させることができる。なお、メジアン粒径D1の下限について特に限定はないが、メジアン粒径D1が小さすぎると第2金属磁性粒子MP2との間の比表面積が増加し、磁性体1製造時に金型K(
図4Aおよび
図4B参照)内での第1金属磁性粒子MP1の流動性が低下するため、メジアン粒径D1の下限は1μm程度とすることが好ましい。
【0039】
第2金属磁性粒子MP2のメジアン粒径D2は、10μm以上であってよい。メジアン粒径D2が10μm未満であってもよいが、10μm以上とすることにより、第1金属磁性粒子MP1との間の比表面積を低下させ、金型K内での流動性を向上させることができる。なお、メジアン粒径D2の上限について特に限定はないが、メジアン粒径D2が大きすぎるとインダクタの直流重畳特性(インダクタの直流電流を増加させると磁性体に磁気飽和が生じてインダクタンス値が低下する特性)が悪化する。具体的に、磁気飽和によるインダクタンス値の低下が大きくなる。そのため、メジアン粒径D2の上限は30μm程度とすることが好ましい。
【0040】
第1金属磁性粒子MP1と第2金属磁性粒子MP2との間の重合配合比率において、第1金属磁性粒子MP1の重量:第2金属磁性粒子MP2の重量が、35:65以上20:80以下であってよい。一例として、第1金属磁性粒子MP1の重量:第2金属磁性粒子MP2の重量が25:75であってよい。このような重合配合比率とすることにより、磁性体の製造時に第1金属磁性粒子MP1および第2金属磁性粒子MP2を金型K内で適切に流動させることができる。
【0041】
第1金属磁性粒子MP1および第2金属磁性粒子MP2の磁性材料について、第1金属磁性粒子MP1は、Feを含有し、第2金属磁性粒子MP2は、FeおよびSiを含有してよい。上記磁性材料を採用すると、製造される磁性体のμ値およびHsat20について、所望のインダクタンス特性を得ることができる。
【0042】
具体的な第1金属磁性粒子MP1の磁性材料として、第1金属磁性粒子MP1は、第1金属磁性粒子MP1の全体基準で97重量%以上のFeを含有してよい。より具体的には、結晶性のカルボニル鉄粉としてよい。上記材料を第1金属磁性粒子MP1に用いることにより、製造される磁性体のμ値およびHsat20について、所望のインダクタンス特性を得ることができる。
【0043】
具体的な第2金属磁性粒子MP2の磁性材料として、第2金属磁性粒子MP2は、前記第2金属磁性粒子の全体基準で2重量%以上8重量%以下のSiを含有してよい。より具体的には、Fe:93wt%、Si:3.5wt%、B:3wt、残部:0.5wt%のアモルファスFe-Si系合金粒子としてよい。上記材料を第2金属磁性粒子MP2に用いることにより、製造される磁性体のμ値およびHsat20について、所望のインダクタンス特性を得ることができる。
【0044】
第1絶縁被膜IM1の平均厚みT1は、5nm以上であってよい。第1金属磁性粒子MP1間の絶縁性および流動性の向上(粒子間の摩擦力の低下のため)の観点から平均厚みT1は厚い方が好ましいが、平均厚みT1が5nm以上あれば、絶縁性および流動性を担保することができる。なお、平均厚みT1の上限について特に限定はないが、平均厚みT1が大きすぎるとインダクタの直流重畳特性が悪化する。具体的に、磁気飽和によるインダクタンス値の低下が大きくなる。そのため、平均厚みT1の上限は30nm程度とすることが好ましい。
【0045】
第1絶縁被膜IM1の材料として、第1絶縁被膜IM1は、シリカを含有していてよい。より具体的には、金属アルコキシド(例えば、テトラエトキシシラン(TEOS))のゾルゲル反応により形成されたシリカ含有絶縁被膜としてよい。上記材料を第1絶縁被膜IM1に用いることにより、比較的に小径である第1金属磁性粒子MP1に対し、ゾルゲル反応によって適切に絶縁被膜を設けることができる。また、第1絶縁被膜IM1は、表面にアルキル基が付与されていてよい。第1絶縁被膜IM1の表面にアルキル基が付与されていると、磁性体の製造時に金型に第1金属磁性粒子MP1および第2金属磁性粒子MP2を流動させると、粒子間の摩擦を低減することができ、流動性を向上させることができる。
【0046】
第2絶縁被膜IM2の平均厚みT2は、上述したとおり、39.4nm以下である。平均厚みT2を39.4nmより大きくすると、磁性体1を製造する際に、第2金属磁性粒子MP2の流動が悪化する。従って、第2絶縁被膜IM2の平均厚みT2の上限は39.4nmと設定した。なお、第2絶縁被膜IM2の平均厚みT2は、絶縁性の向上の観点から5nm以上であることが好ましい。実際に測定した流動性評価は、[実施例]にて詳述する。
【0047】
第2絶縁被膜IM2の材料として、第2絶縁被膜IM2は、無機ガラスを含有していてよい。より具体的には、メカノケミカル法により形成されたリン酸塩ガラスとしてよい。上記材料を第2絶縁被膜IM2に用いることにより、比較的に大径である第2金属磁性粒子MP2に対し、メカノケミカル法によって適切に絶縁被膜を設けることができる。
【0048】
磁性体を硬化させるために用いる樹脂Rの態様として、樹脂Rは、磁性体全体基準において、2.3重量%以上3.6重量%以下であってよい。言い換えると、磁性体全体基準において96.4重量%以上97.7重量%以下が磁性材料(第1金属磁性粒子および第2金属磁性粒子)に相当する。磁性体1が上記重量比率で樹脂Rを含有していると、適切に磁性体を硬化させることができる。
【0049】
樹脂Rは、熱硬化性樹脂であってよい。熱硬化性樹脂を採用することにより、簡易な方法によって硬化反応を生じさせることができる。硬化反応を生じさせる際、磁性体1を硬化させる硬化剤(一例としてイミダゾール系硬化剤)を使用してよい。また、硬化剤は、主剤(エポキシ樹脂)に対して3wt%程度添加されていてよい。このような重量配合比率であれば、適切に硬化反応を生じさせることができる。
【0050】
[磁性体の製造方法]
次に、上述した磁性体1の製造方法について説明する。以下に説明する方法は一例に過ぎず、本実施形態に係る磁性体1の製造方法は、以下の方法に限定されるものではない。
【0051】
-第1金属磁性粒子の準備-
まず、粒径が第2金属磁性粒子MP2よりも小さい第1金属磁性粒子MP1を準備する。一例として、結晶性のカルボニル鉄粉(Fe:97wt%以上)を準備する。第1金属磁性粒子MP1は、第2金属磁性粒子MP2と比較してメジアン粒径が小さい粒子である。そのため、例えば、不活性ガス環境下での気流分級によって粒径を調節することができる。
【0052】
次に、第1金属磁性粒子MP1に第1絶縁被膜IM1を形成する。具体的な手順は、以下のとおりである。
【0053】
イソプロピルアルコールとアンモニア水を混ぜて撹拌し、分散液1を作製する。そして、上述のように準備した結晶性のカルボニル鉄粉を所定量秤量し、イソプロピルアルコールを添加し、超音波振動を与えてカルボニル鉄粉を分散させて分散液2を作製する。分散液1を分散液2へ添加し、撹拌機を用いて攪拌して分散液3とする。
【0054】
さらに、イソプロピルアルコールにテトラエトキシシラン(TEOS)を加えて混合し、表面処理液1を作製する。この表面処理液1を、分散液3に添加して反応液1とし、これを撹拌機により攪拌してゾルゲル反応させ、カルボニル鉄粉表面に第1絶縁被膜IM1(シリカ絶縁被膜)を形成する。なお、第1絶縁被膜IM1の厚みは、例えば、ゾルゲル反応の時間、金属アルコキシドおよび溶媒の添加量等を調整することによって制御することができる。
【0055】
反応液1をメンブレンフィルタにより吸引ろ過することによって、第1絶縁被膜IM1(シリカ絶縁被膜)が形成された粒子を分離する。分離した粒子をアセトンにより適宜洗浄し、常温自然環境にて乾燥する。以上により、乾燥した粒子を金属メッシュにより濾し、第1金属磁性粒子MP1を準備できる。
【0056】
-第2金属磁性粒子の準備-
まず、粒径が第1金属磁性粒子MP1よりも大きい第2金属磁性粒子MP2を準備する。一例として、アモルファス粉末(Fe:93wt%、Si:3.5wt%、B:3wt、残部:0.5wt%)を準備する。第2金属磁性粒子MP2は、第1金属磁性粒子MP1と比較してメジアン粒径が大きい粒子である。そのため、例えば、ふるい分級によって粒径を調節してよい。
【0057】
次に、第2金属磁性粒子MP2に第2絶縁被膜IM2を形成する。具体的な手順は、以下のとおりである。
【0058】
第2絶縁被膜IM2は、メカノケミカル法によって形成する。メカノケミカル法は、低コストであり、大きい粒径を有する粒子に対して比較的厚みが厚い絶縁被膜を形成するのに特に適した手法である。絶縁被膜の材料として無機ガラス(例えば、リン酸塩ガラス)を投入し、メカノケミカル処理を施すことによって、第2絶縁被膜IM2で被覆された第2金属磁性粒子MP2を準備できる。なお、第2絶縁被膜IM2の膜厚は、メカノケミカル処理時のリン酸塩ガラスの投入量によって調節できる。
【0059】
-スラリーの準備および金型へのスラリーの供給-
準備した第1金属磁性粒子MP1および第2金属磁性粒子MP2を、樹脂R、溶剤および硬化剤を含む粒子原料を混合してスラリーを作製する。そして、磁性体を製造するための金型Kにスラリーを充填する。
【0060】
ここで、本実施形態に係る磁性体1は、E型コアとして説明する。なお、磁性体の形状は、E型コアに限定するものではなく、例えば、I型コア、T型コア、板状のコア、および、トロイダルリング形状のコアから成る群から選択される少なくとも1つであってよい。
【0061】
金型Kに作製したスラリーSを充填する(
図4A参照)。そして、金型Kを加圧成形機に導入し、20℃以上40℃以下、50MPa以上150MPa以下、30s以下の環境下で加圧してよい(
図4B参照)。ここで、スラリーSの一例として熱硬化性樹脂を含む場合、加圧時の温度が20℃以上40℃以下と比較的低温であるため、硬化反応は進まず未硬化もしくは半硬化の状態としてよい。そして、加圧を終えた後、金型Kから磁性体を取り出してよい。
【0062】
このように、本実施形態の磁性体は、樹脂が未硬化もしくは半硬化の状態のまま保管してもよい。つまり、製品としてほぼ完全に硬化された磁性体の製造が必要となったときに、半硬化状態の磁性体1を金型Kとは別の金型に充填し、ほぼ完全に硬化させる硬化条件として、150℃以上200℃以下、5MPa以上50MPa以下、60s以上1800s以下の環境下で樹脂を硬化させて磁性体を製造してよい(
図5A~C参照)。なお、本開示の磁性体1は、樹脂を未硬化または半硬化の状態のまま保管せずに完全に硬化させた磁性体1としてもよい。また、磁性体は、スラリーSを含むシートを成形し、複数のシートを積層、圧着および熱硬化させることで作製してもよい。
【0063】
以上の工程を経ることによって、磁性体1を製造することができる。
【0064】
[インダクタについて]
次に、上述した磁性体を用いたインダクタについて説明する。まず、インダクタの製造方法について
図6および
図7を参照しながら説明する。
図6は、本実施形態に係るインダクタの製造方法を模式的に示す工程斜視図、
図7は、本実施形態に係るインダクタの斜視図である。
【0065】
-インダクタの製造方法-
磁性体1に巻き付ける導線20を準備する。導線20は、金属線(例えば、平角銅線)を樹脂等によって被覆して構成されていることが好ましく、この場合、上述した磁性体1内に含有された樹脂と相俟って導線20を強固にモールドすることができる。導線20は、巻始めと巻終わりを外側に向かって同時に巻回するアルファ巻きによって巻回されることが好ましい。導線20をアルファ巻きによって巻回することにより巻終わりが外側に配置されるため、引き出し部の取り回しを容易に行うことができる。
【0066】
次に、上述した樹脂が未硬化もしくは半硬化状態の磁性体1を準備する。この磁性体1にアルファ巻きされた導線20を収容する。つまり、コイル導体の巻き芯部に磁性体1が配置される。このとき、導線20の巻き芯部にE型コアの一部が挿入される(
図6参照)。さらに、上述したスラリーSを更に用い、スラリーSによって導線20が隠れるように被覆するようにしてよい。これら導線20、磁性体1およびスラリーSを上述の金型に収容した後に加圧成形機に導入する。そして、150℃以上200℃以下、5MPa以上50MPa以下、60s以上1800s以下の環境下で磁性体1に含有された樹脂を硬化させ、インダクタの素体を形成する。
【0067】
次に、素体に対してバレル研磨を行い、素体のエッジを丸める加工を施してよい。エッジが丸められることによって、その後に形成される外部電極の断線を抑えることができる。その後、素体に外部電極30を形成する(
図7参照)。外部電極30の形成方法は、めっき処理により形成する手法、導電性ペーストを素体に塗布し、焼き付けることにより形成する手法、スパッタリング等によって形成する手法を用いてよい。なお、外部電極30の一例として、Ag粉を含有する導電性樹脂ペーストを熱硬化させたもの、NiめっきおよびSnめっき等が挙げられる。また、外部電極30はそれらを複数層積層した構造でもよい。
【0068】
以上により、上述の磁性体1を用いたインダクタ10を製造することができる。
【実施例0069】
以下、本開示の磁性体に関して実証試験を行った。具体的には、以下に示す実施例1~5および比較例1~11の磁性体を製造した。
【0070】
実施例1~5および比較例1~11に関する磁性体の原料を以下に示す。
第1金属磁性粒子:結晶性カルボニア鉄粉
Fe:97wt%以上
第1絶縁被膜 :シリカ絶縁被膜
第2金属磁性粒子:Fe-Siアモルファス合金
Fe:93wt%,Si:3.5wt%,B:3wt%,その他:0.5wt%
第2絶縁被膜 :リン酸塩ガラス
樹脂 :熱硬化性エポキシ樹脂
【0071】
また、実施例1~5および比較例1~11の磁性体において、第1金属磁性粒子のメジアン粒径D1、第1絶縁被膜の平均厚みをT1、第2金属磁性粒子のメジアン粒径D2、第2絶縁被膜の平均厚みT2は以下のとおりである。なお、第1金属磁性粒子のメジアン粒径D1は、気流分級によって粒径を調整し、第2金属磁性粒子のメジアン粒径D2は、ふるい分級によって粒径を調整した。また、第1絶縁被膜の平均厚みT1は、TEOS投入量およびゾルゲル反応時間によって調整し、第2絶縁被膜の平均厚みT2は、メカノケミカル処理時のリン酸塩ガラスの投入量によって調整した。
【0072】
<実施例1>
第1金属磁性粒子のメジアン粒径D1を1.7μmとした。
第1絶縁被膜の平均厚みT1を8.0nmとした。
第2金属磁性粒子のメジアン粒径D2を20.5μmとした。
第2絶縁被膜の平均厚みT2を39.0nmとした。
【0073】
<実施例2>
第1金属磁性粒子のメジアン粒径D1を1.7μmとした。
第1絶縁被膜の平均厚みT1を8.0nmとした。
第2金属磁性粒子のメジアン粒径D2を24.8μmとした。
第2絶縁被膜の平均厚みT2を39.0nmとした。
【0074】
<実施例3>
第1金属磁性粒子のメジアン粒径D1を1.5μmとした。
第1絶縁被膜の平均厚みT1を10.0nmとした。
第2金属磁性粒子のメジアン粒径D2を21.7μmとした。
第2絶縁被膜の平均厚みT2を39.4nmとした。
【0075】
<実施例4>
第1金属磁性粒子のメジアン粒径D1を1.5μmとした。
第1絶縁被膜の平均厚みT1を10.0nmとした。
第2金属磁性粒子のメジアン粒径D2を22.0μmとした。
第2絶縁被膜の平均厚みT2を37.8nmとした。
【0076】
<実施例5>
第1金属磁性粒子のメジアン粒径D1を1.5μmとした。
第1絶縁被膜の平均厚みT1を10.0nmとした。
第2金属磁性粒子のメジアン粒径D2を21.6μmとした。
第2絶縁被膜の平均厚みT2を37.1nmとした。
【0077】
<比較例1>
第1金属磁性粒子のメジアン粒径D1を1.5μmとした。
第1絶縁被膜の平均厚みT1を10.0nmとした。
第2金属磁性粒子のメジアン粒径D2を27.8μmとした。
第2絶縁被膜の平均厚みT2を39.0nmとした。
【0078】
<比較例2>
第1金属磁性粒子のメジアン粒径D1を1.3μmとした。
第1絶縁被膜の平均厚みT1を10.0nmとした。
第2金属磁性粒子のメジアン粒径D2を27.8μmとした。
第2絶縁被膜の平均厚みT2を39.0nmとした。
【0079】
<比較例3>
第1金属磁性粒子のメジアン粒径D1を1.5μmとした。
第1絶縁被膜の平均厚みT1を10.0nmとした。
第2金属磁性粒子のメジアン粒径D2を27.8μmとした。
第2絶縁被膜の平均厚みT2を22.9nmとした。
【0080】
<比較例4>
第1金属磁性粒子のメジアン粒径D1を1.5μmとした。
第1絶縁被膜の平均厚みT1を10.0nmとした。
第2金属磁性粒子のメジアン粒径D2を21.6μmとした。
第2絶縁被膜の平均厚みT2を12.5nmとした。
【0081】
<比較例5>
第1金属磁性粒子のメジアン粒径D1を1.5μmとした。
第1絶縁被膜の平均厚みT1を10.0nmとした。
第2金属磁性粒子のメジアン粒径D2を27.8μmとした。
第2絶縁被膜の平均厚みT2を12.9nmとした。
【0082】
<比較例6>
第1金属磁性粒子のメジアン粒径D1を1.3μmとした。
第1絶縁被膜の平均厚みT1を10.0nmとした。
第2金属磁性粒子のメジアン粒径D2を27.8μmとした。
第2絶縁被膜の平均厚みT2を12.9nmとした。
【0083】
<比較例7>
第1金属磁性粒子のメジアン粒径D1を1.5μmとした。
第1絶縁被膜の平均厚みT1を10.0nmとした。
第2金属磁性粒子のメジアン粒径D2を22.0μmとした。
第2絶縁被膜の平均厚みT2を55.0nmとした。
【0084】
<比較例8>
第1金属磁性粒子のメジアン粒径D1を1.5μmとした。
第1絶縁被膜の平均厚みT1を10.0nmとした。
第2金属磁性粒子のメジアン粒径D2を22.0μmとした。
第2絶縁被膜の平均厚みT2を80.0nmとした。
【0085】
<比較例9>
第1金属磁性粒子のメジアン粒径D1を1.5μmとした。
第1絶縁被膜の平均厚みT1を10.0nmとした。
第2金属磁性粒子のメジアン粒径D2を22.0μmとした。
第2絶縁被膜の平均厚みT2を100.0nmとした。
【0086】
<比較例10>
第1金属磁性粒子のメジアン粒径D1を2.5μmとした。
第1絶縁被膜の平均厚みT1を8.0nmとした。
第2金属磁性粒子のメジアン粒径D2は、12.0μmであった。
第2絶縁被膜の平均厚みT2を39.0nmとした。
【0087】
<比較例11>
第1金属磁性粒子のメジアン粒径D1を1.7μmとした。
第1絶縁被膜の平均厚みT1を8.0nmとした。
第2金属磁性粒子のメジアン粒径D2を14.9μmとした。
第2絶縁被膜の平均厚みT2を39.0nmとした。
【0088】
磁性体の製造方法は、上述の[磁性体の製造方法]で説明したとおりである。なお、磁性体は、トロイダルリングの形態とした。
【0089】
上述の実施例1~5および比較例1~11の磁性体に対し、[インダクタンス特性評価]、および、[磁性体製造時のスラリーの流動性評価]について、下記のとおり評価した。
【0090】
[インダクタンス特性評価]
インダクタンス特性として、比透磁率μ’および、Hsat20をインピーダンスアナライザで測定し、μ’×Hsat20を計算し、当該計算値を用いて磁性体のインダクタンス特性を評価した。
【0091】
比透磁率μ’の評価は、インピーダンスアナライザ(Keysight社製E4991A)を用いて行った。比透磁率測定では1MHzの値を採用した。なお、比透磁率μ’は値が大きいほどインダクタンス特性が優れていることを示す。
【0092】
Hsat20の評価は、LCRメーター(Keysight社製4284A)を用いて行った。まず、実施例1~5および比較例1~11の磁性体に対し、銅線で巻き線をした。銅線は直径0.35mmのものを使用し、巻回数は24とした。銅線に0~30Aの直流電流を印加してインダクタンス(L値)を取得した。L値から比透磁率(μ値)を計算し、電流がゼロのときのμ値から80%のμ値に低下したときの電流値(Isat20)を得た。Isat20、リングの寸法および銅線の巻回数より、μ値が80%となる磁場(Hsat20)を計算した。なお、Hsat20は、値が大きいほど直流重畳特性が優れていることを示す。
【0093】
[磁性体製造時のスラリーの流動性評価]
スラリーの流動性評価は、磁性体を製造する工程において、金型にスラリーを導入する際の金型内のスラリーの流動のし易さを評価した。流動性が小さいと磁性体の成形時に金型内でスラリーの充填不良が生じるため、流動性は大きい方が好ましい。
【0094】
具体的な流動性の評価は、フローテスタ(島津製作所製CFT500EX)を使用し、測定ダイ:φ3mm×1mm厚、仕込み量5gとし、シリンダー温度130℃、予熱時間60s、試験力20MPaの条件下で、フローレート3mm~5mmでの平均値を測定した。
【0095】
[評価結果]
実施例1~5および比較例1~11に対する[インダクタンス特性評価]、および、[磁性体製造時のスラリーの流動性評価]の結果を
図8に示す。なお、μ’×H
sat20の評価基準は、450kA/m以上を合格とし、450kA/m未満を不合格とした。比透磁率のμ’の評価基準は、24.5以上を合格とし、24.5未満を不合格とした。流動性の評価基準は、0.25cc/s以上を合格とし、0.25cc/s未満を不合格とした。
【0096】
実施例1~5の磁性体は、[インダクタンス特性評価]および[磁性体製造時のスラリーの流動性評価]いずれも良好な結果が得られた。一方で、比較例1~11の磁性体は、[インダクタンス特性評価]および[磁性体製造時のスラリーの流動性評価]のいずれか一方または両方について、上記の評価基準を満たさなかった。
【0097】
なお、今回開示した実施態様は、すべての点で例示であって、限定的な解釈の根拠となるものではない。したがって、本開示の技術的範囲は、上記した実施態様のみによって解釈されるものではなく、特許請求の範囲の記載に基づいて画定される。また、本開示の技術的範囲には、特許請求の範囲と均等の意味および範囲内でのすべての変更が含まれる。
【0098】
本開示のコイル部品の態様は、以下のとおりである。
<1>第1金属磁性粒子と、前記第1金属磁性粒子よりもメジアン粒径が大きい第2金属磁性粒子と、樹脂と、を含み、
前記第1金属磁性粒子は、第1絶縁被膜によって被覆され、
前記第2金属磁性粒子は、第2絶縁被膜によって被覆され、
前記第1金属磁性粒子のメジアン粒径をD1、前記第1絶縁被膜の平均厚みをT1、前記第2金属磁性粒子のメジアン粒径をD2、前記第2絶縁被膜の平均厚みをT2としたときに、
2.5≦(T1/D1)/(T2/D2)≦3.9
T2≦39.4nm
の両方を充足する、磁性体。
<2>前記第1金属磁性粒子のメジアン粒径D1は、4μm以下である、<1>に記載の磁性体。
<3>前記第2金属磁性粒子のメジアン粒径D2は、10μm以上である、<1>または<2>に記載の磁性体。
<4>前記第1絶縁被膜の平均厚みT1は、5nm以上である、<1>~<3>のいずれか1つに記載の磁性体。
<5>前記第1金属磁性粒子と前記第2金属磁性粒子との重量配合比率は、
前記第1金属磁性粒子の重量:前記第2金属磁性粒子の重量が、35:65以上20:80以下である、<1>~<4>のいずれか1つに記載の磁性体。
<6>前記樹脂は、前記磁性体全体基準において、2.3重量%以上3.6重量%以下である、<1>~<5>のいずれか1つに記載の磁性体。
<7>前記第1金属磁性粒子は、Feを含有し、前記第2金属磁性粒子は、FeおよびSiを含有する、<1>~<6>のいずれか1つに記載の磁性体。
<8>前記第1金属磁性粒子は、前記第1金属磁性粒子の全体基準で97重量%以上の結晶性のFeを含有する、<7>に記載の磁性体。
<9>前記第2金属磁性粒子は、前記第2金属磁性粒子の全体基準で2重量%以上8重量%以下のSiを含有する、<7>または<8>に記載の磁性体。
<10>前記第1絶縁被膜は、シリカを含有する、<1>~<9>のいずれか1つに記載の磁性体。
<11>前記第2絶縁被膜は、無機ガラスを含有する、<1>~<10>のいずれか1つに記載の磁性体。
<12>前記樹脂は、熱硬化性樹脂である、<1>~<11>のいずれか1つに記載の磁性体。
<13><1>~<12>のいずれか1つに記載の磁性体を備えたインダクタ。