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特開2025-11388反射防止フィルム及びそれを用いた成形品
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2025011388
(43)【公開日】2025-01-24
(54)【発明の名称】反射防止フィルム及びそれを用いた成形品
(51)【国際特許分類】
   G02B 1/111 20150101AFI20250117BHJP
   C08F 290/06 20060101ALI20250117BHJP
   C08F 2/50 20060101ALI20250117BHJP
   C08F 2/44 20060101ALI20250117BHJP
   B32B 27/30 20060101ALI20250117BHJP
   B32B 27/20 20060101ALI20250117BHJP
【FI】
G02B1/111
C08F290/06
C08F2/50
C08F2/44 A
B32B27/30 A
B32B27/20 Z
【審査請求】未請求
【請求項の数】5
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023113474
(22)【出願日】2023-07-11
(71)【出願人】
【識別番号】000100698
【氏名又は名称】アイカ工業株式会社
(72)【発明者】
【氏名】青谷 光
【テーマコード(参考)】
2K009
4F100
4J011
4J127
【Fターム(参考)】
2K009AA05
2K009AA15
2K009CC09
2K009CC24
2K009CC35
2K009DD02
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4F100AA20C
4F100AK25C
4F100AK51C
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4F100AR00B
4F100AR00C
4F100BA03
4F100BA07
4F100BA10A
4F100BA10C
4F100CA30C
4F100DE01C
4F100JK09
4F100JK12B
4F100JL06
4F100JN01A
4F100JN06
4F100JN18C
4F100YY00C
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4J011QB25
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4J011SA14
4J011SA16
4J011SA20
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4J127BG272
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4J127BG28X
4J127BG312
4J127BG31Y
4J127DA06
4J127DA12
4J127FA08
4J127FA21
(57)【要約】
【課題】良好な反射防止特性を有し、且つ破断伸度が高く成形性が良好であり、延伸しても白化しにくい、インモールド成形やアウトモールド成形などに適した反射防止フィルム及びそれを用いた成形品を提供する。
【解決手段】光透過性を有する基材フィルムにハードコート層と低屈折率層がこの順に積層されており、前記低屈折率層が、ウレタン(メタ)アクリレートと、中空シリカと、アルミナ微粒子と、表面調整剤と、光重合開始剤と、を含む低屈折率樹脂組成物の硬化物であって、前記ウレタン(メタ)アクリレートがエチレングリコールとイソホロンジイソシアネートを反応させたジイソシアネートに、ペンタエリスリトールトリアクリレートを更に反応させた構造を有するウレタンアクリレートと、9官能以下のウレタン(メタ)アクリレートを含むことを特徴とする反射防止フィルムである。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
光透過性を有する基材フィルムにハードコート層と低屈折率層がこの順に積層されており、前記低屈折率層が、ウレタン(メタ)アクリレート(A)と、中空シリカ(B)と、アルミナ微粒子(C)と、表面調整剤(D)と、光重合開始剤(E)と、を含む低屈折率樹脂組成物の硬化物であって、前記(A)がエチレングリコールとイソホロンジイソシアネートを反応させたジイソシアネートに、ペンタエリスリトールトリアクリレートを更に反応させた構造を有するウレタンアクリレート(a1)と、9官能以下のウレタン(メタ)アクリレート(a2)(但し(a1)を除く)を含むことを特徴とする反射防止フィルム。
【請求項2】
前記(D)の配合量が組成物の固形分全量に対し20~45重量%であることを特徴とする請求項1記載の反射防止フィルム。
【請求項3】
前記(A)における(a1)の配合比率が、(A)固形分全量に対し15~35重量%であることを特徴とする請求項1記載の反射防止フィルム。
【請求項4】
成形用のフィルムであることを特徴とする請求項1~3いずれか記載の反射防止フィルム。
【請求項5】
請求項4記載の反射防止フィルムを用いて成形された成形品。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明はハードコート層と低屈折率層が積層された反射防止フィルム及びそれを用いて成形された成形品に関する。
【背景技術】
【0002】
アクリル系の光硬化型樹脂は、プラスチックフィルムやプラスチック成形物表面に特別な性能を付与するために多くの分野で用いられており、例えばPET(ポリエチレンテレフタレート)フィルム上に塗布して高硬度を付与したハードコートフィルムは、タッチパネル用フィルムや成形用フィルムとして大量に使用されている。
【0003】
これらのなかで特に成形用としては、フィルム表面に絵柄を印刷後、加熱により軟化させた状態で3次元成形を行うインサートフィルムが良く知られているが、フィルムに塗布されたハードコート樹脂層を硬くすると、立体形状に加工する際に曲面においてマイクロクラックが入りやすくなり、加工形状には制約があった。そのため過去に出願人は、表面硬度と成形性を両立させるインサート成形用のハードコート樹脂として、トリアジン環含有(メタ)アクリレートプレポリマーと平均一次粒子径が80~500nmの有機微粒子を含むハードコート剤を発明した(特許文献1)。このハードコート剤は膜厚が1~10μmで十分な柔軟性と表面物性が両立可能な優れるものであった。
【0004】
こうした成形用途に適したハードコート剤を選定することで、加工面での制約はある程度緩和されてはきたが、近年では更に反射防止特性を要求される場合もでてきている。反射防止特性を有するフィルムとしては、例えばハードコート層(又は高屈折率層)上に低屈折率の反射防止層が形成された構成が知られている。このような反射防止フィルムを成形フィルムとして用いると、反射防止層の延伸性が不足し、成形時に皮膜が白化する場合があった。そのため、良好な反射防止特性に加えて、耐摩耗性と成形性を併せ持ち、延伸しても白化しにくいような反射防止フィルムとするには改善の余地があった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特許第4848200号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明の課題は良好な反射防止特性を有し、且つ破断伸度が高く成形性が良好であり、延伸しても白化しにくい、インモールド成形やアウトモールド成形などに適した反射防止フィルム及びそれを用いた成形品を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記の課題を解決するため請求項1の発明は、光透過性を有する基材フィルムにハードコート層と低屈折率層がこの順に積層されており、前記低屈折率層が、ウレタン(メタ)アクリレート(A)と、中空シリカ(B)と、アルミナ微粒子(C)と、表面調整剤(D)と、光重合開始剤(E)と、を含む低屈折率樹脂組成物の硬化物であって、前記(A)がエチレングリコールとイソホロンジイソシアネートを反応させたジイソシアネートに、ペンタエリスリトールトリアクリレートを更に反応させた構造を有するウレタンアクリレート(a1)と、9官能以下のウレタン(メタ)アクリレート(a2)(但し(a1)を除く)を含むことを特徴とする反射防止フィルムを提供する。
【0008】
請求項2の発明は、前記(D)の配合量が組成物の固形分全量に対し20~45重量%であることを特徴とする請求項1記載の反射防止フィルムを提供する。
【0009】
請求項3の発明は、前記(A)における(a1)の配合比率が、(A)固形分全量に対し15~35重量%であることを特徴とする請求項1記載の反射防止フィルムを提供する。
【0010】
請求項4の発明は、成形用のフィルムであることを特徴とする請求項1~3いずれか記載の反射防止フィルムを提供する。
【0011】
請求項5の発明は、請求項4記載の反射防止フィルムを用いて成形された成形品を提供する。
【発明の効果】
【0012】
本発明の反射防止フィルムは、良好な反射防止特性を有し、且つ破断伸度が高く成形性が良好であり、延伸しても白化しにくいため、インモールド成形やアウトモールド成形などに適した成形用フィルムとして有用である。
【発明を実施するための最良の形態】
【0013】
本発明の反射防止フィルムは、基材フィルムにハードコート層(以下HC層という)と低屈折率層(以下低屈層という)がこの順に積層されており、その低屈層は、ウレタン(メタ)アクリレート(A)と、中空シリカ(B)と、アルミナ微粒子(C)と、光重合開始剤(E)を含む低屈折率樹脂組成物(以下低屈樹脂という)の硬化物である。なお、本明細書において(メタ)アクリレートは、アクリレートとメタクリレートとの双方を包含する。
【0014】
本発明に使用されるウレタン(メタ)アクリレート(A)は、エチレングリコールとイソホロンジイソシアネート(以下IPDIという)を反応させたジイソシアネートに、ペンタエリスリトールトリアクリレート(以下PETAという)を更に反応させた構造を有するウレタンアクリレート(a1)と、9官能以下のウレタン(メタ)アクリレート(a2)(但し(a1)を除く)の少なくとも2種類を含む。
【0015】
本発明に使用される(a1)は低屈層の延伸性を向上させる目的で配合する。(a1)の合成で使用する脂環式ジイソシアネートのIPDIは、黄変が無く耐候安定性に優れると同時に剛性が高く、硬化物の硬度を上げることができる。また炭素鎖が非常に短いエチレングリコールと反応させることで、分子内のウレタン結合濃度を高くすることが可能となり、耐薬品性に優れた剛性の高い直鎖構造の主骨格を形成できる。
【0016】
前記(a1)の合成方法としては特に制限はなく、公知の方法を用いることができる。反応は無溶媒下でも良いが、(a1)の分子量が大きくなるにつれて攪拌が困難となる場合があるため、MEK等のケトン類、キシレン等の芳香族不活性溶媒などを用いても良い。またエチレングリコール及びPETAの水酸基と、イソシアネート基との反応には、触媒を用いることが好ましい。その場合の例としては、ジブチルスズジラウレート等の錫系、ナフテン酸コバルト等の金属アルコキシド系が挙げられる。反応温度は適宜設定可能であるが40~120℃が好ましく、60~100℃が更に好ましい。
【0017】
前記(a1)の重量平均分子量(以下Mwという)は1,500~30,000が好ましく、2,000~15,000が更に好ましく、3,000~10,000が特に好ましい。1,500以上とすることで充分な延伸性を確保でき、30,000以下とすることで十分な耐摩耗性を確保でき、また作業性の良い粘度に調整しやすくなる。(a1)のMwは、反応させるエチレングリコールとIPDIのモル比により調整が可能で、エチレングリコールに対するIPDIのモル比を近づけると、Mwは大きくなる傾向がある。なおMwは、ゲル浸透クロマトグラフィーにより、スチレンジビニルベンゼン基材の充填剤を用いたカラムでテトラハイドロフラン溶離液を用いて、標準ポリスチレン換算の分子量を測定、算出した。
【0018】
低屈樹脂における前記(a1)の配合量は、固形分全量に対し3~15重量%が好ましく、5~10重量%が更に好ましい。3重量%以上とすることで十分な延伸性を確保することができ、15重量%以下とすることで十分な耐摩耗性を確保することができる。また(A)における(a1)の配合量は、(A)固形分全量に対し15~35重量%が好ましく、18~30重量%が好ましい。
【0019】
本発明に使用される(a2)は低屈層の耐摩耗性を向上させる目的で配合する。官能基数は9官能以下であり、4~9官能であることが好ましい。9官能超では架橋密度が上がりすぎ、延伸時に白化しやすい傾向が有る。またウレタン(メタ)アクリレートではなく、アクリル系のモノマーを用いる場合も同様に延伸時に白化しやすい傾向が有る。
【0020】
前記(a2)は、例えばポリオールと過剰なポリイソシアネートを反応させて得られるウレタンプレポリマーに水酸基を有する(メタ)アクリレートを反応させたり、ポリイソシアネートと水酸基を有する(メタ)アクリレートを反応させたりして得ることができる。これらの中では、比較的Mwを小さくでき、成形性を低下させずに耐摩耗性を向上できる点で、ポリイソシアネートと水酸基を有する(メタ)アクリレートを反応させたウレタン(メタ)アクリレートが好ましい。(a2)の合成方法としては特に制限はなく、(a1)同様に公知の方法を用いることができる。
【0021】
(a2)の合成で用いられるポリイソシアネートとしては、ヘキサメチレンジイソシアネート(以下HDIという)、IPDI、ジフェニルメタンジイソシアネート、トリレンジイソシアネート、ジシクロヘキシルメタン-4,4’-ジイソシアネート、水添キシリレンジイソシアネート、メチルシクロヘキシレンジイソシアネート、HDIイソシアヌレート体、IPDIイソシアヌレート体などがあり、これらを単独で用いてもよいし2種以上を併用してもよい。これらの中では耐候性が高く黄変しにくい脂肪族及び脂環族のジイソシアネートが好ましく、特にそれらの中では延伸性が高いHDIが、剛性が高い点でIPDI、及びこれらの3量体であるイソシアヌレート体が好ましい。
【0022】
また(a2)の合成で用いられる水酸基を有する(メタ)アクリレートとしては、例えば2-ヒドロキシエチル(メタ)アクリレート等の単官能(メタ)アクリレート、グリセリンジ(メタ)アクリレート等の2官能(メタ)アクリレート、ペンタエリスリトールトリ(メタ)アクリレート等の3官能(メタ)アクリレート、ジペンタエリスリトールテトラ(メタ)アクリレート等の4官能(メタ)アクリレート等が挙げられ、単独あるいは2種類を組み合わせて使用することができる。これらの中では反応性が高く、また延伸時に皮膜が白化しにくい点で2~3官能が好ましく、特に反応性が良好で高硬度な皮膜を得ることができる点でPETAが好ましい。
【0023】
低屈樹脂における前記(a2)の配合量は、固形分全量に対し10~25重量%が好ましく、15~23重量%が更に好ましい。10重量%以上とすることで十分な耐摩耗性を確保することができ、25重量%以下とすることで十分な延伸性を確保することができる。また(a1)と(a2)を含む(A)の配合量は、低屈樹脂の固形分全量に対し20~45重量%が好ましく、25~40重量%が更に好ましい。20重量%以上とすることで十分な成形性を確保でき、45重量%以下とすることで十分な低反射特性と耐摩耗性を確保できる。
【0024】
本発明に使用される中空ナノシリカ(B)は低屈折率層の塗膜強度を保持しつつ、その屈折率を下げる機能を有し、内部に屈折率1の空気を含む空洞を有するシリカ粒子である。中実シリカ粒子の屈折率が1.45程度に対し、(B)の屈折率は内部の空洞の占有率が高くなるにつれて低下し、1.20~1.40程度である。
【0025】
前記(B)の一次粒子径は5~150nmが好ましく、10~100nmが更に好ましく、40~80nmが特に好ましい。この範囲とすることで、低屈折率層の透明性を損なうことなく、良好な分散性を得られる。特に40~80nmであれば、強度不足とならない外殻の厚みを確保しつつ、空洞の占有率を上げて屈折率を下げることができる。市販品としてはスルーリア4320(商品名:日揮触媒化成社製、一次平均粒子径60nm)が挙げられる。
【0026】
低屈樹脂における前記(B)の配合量は、固形分全量に対し15~35重量%が好ましく、20~30重量%が更に好ましい。15重量%以上とすることで最小反射率を十分に小さし、十分な全光線透過率を確保することが可能となり、35重量%以下とすることで十分な耐擦傷性を確保することが可能となる。
【0027】
本発明で使用するアルミナ微粒子(C)は、硬化層の硬度を上げて耐摩耗性を向上させる目的で配合する。(C)の一次平均粒子径は1~100nmが好ましく、5~50nmが更に好ましく、10~30nmが特に好ましい。1nm以上とすることで耐摩耗性の向上が期待でき、100nm以下とすることでヘイズを高くすることなく十分な全光線透過率を確保することができる。
【0028】
低屈樹脂における前記(C)の配合量は、固形分全量に対し2.0~10.0重量%が好ましく、3.0~8.0重量%が更に好ましい。2.0重量%以上とすることで十分な耐摩耗性を確保することができ、10.0重量%以下とすることで反射率を十分に低く保つことができる。市販品としてはALMIBK30WT%-M47(商品名:CIKナノテック社製、固形分30%、平均粒子径20nm)が挙げられる。
【0029】
本発明に使用される表面調整剤(D)は、塗工時のレベリング特性を向上させると共に、硬化層のスリップ性を向上させて耐摩耗性を向上させ、更に撥水撥油性を上げて防汚性を向上させる目的で配合される。また(D)の配合により、延伸時の白化(ヘイズ上昇)を抑えることも可能となる。硬化後の皮膜からブリード等により経時的に欠落することが無く、耐候性の効果を長期的に持続できる点で、バインダー樹脂と重合して硬化塗膜を形成できる反応性官能基を有することが好ましい。
【0030】
前記(D)としては、例えばフッ素系、シリコーン系、フッ素シリコーン系化合物等が挙げられ、単独あるいは2種類以上を組み合わせて使用することができる。これらの中では、フッ素系化合物が低い表面自由エネルギーを有するため塗工~乾燥後に塗膜表面に偏析しやすい点で好ましく、特にフッ素系シリコーン化合物が耐摩耗性及び防汚性を長期にわたり安定化させることができる点で好ましい。
【0031】
低屈樹脂における前記(D)の配合量は、固形分全量に対し20~45重量%が好ましく、25~40重量%が更に好ましく、30~38重量%が特に好ましい。20重量%以上とすることで延伸時の白化を抑えると共に耐摩耗性と防汚性を向上させることが期待でき、45重量%以下とすることで十分な硬化性を確保することができる。市販品としてはX-71-1203M(商品名:信越化学工業社製、固形分20%、反応性官能基を有するフッ素系シリコーン化合物)が挙げられる。
【0032】
本発明で使用する光重合開始剤(E)は、紫外線や電子線などの照射でラジカルを生じ、そのラジカルが重合反応のきっかけとなるもので、ベンジルケタール系、アセトフェノン系、フォスフィンオキサイド系等汎用の光重合開始剤が使用できる。重合開始剤の光吸収波長を任意に選択することによって、紫外線領域から可視光領域にいたる広い波長範囲にわたって硬化性を付与することができる。具体的にはベンジルケタール系として2.2-ジメトキシ-1.2-ジフェニルエタン-1-オンが、α-ヒドロキシアセトフェノン系として1-ヒドロキシ-シクロヘキシル-フェニル-ケトン及び1-[4-(2-ヒドロキシエトキシ)-フェニル]-2-ヒドロキシ-2-メチル-1-プロパン-1-オンが、α-アミノアセトフェノン系として2-メチル-1-(4-メチルチオフェニル)-2-モルフォリノプロパン-1-オンが、アシルフォスフィンオキサイド系として2.4.6-トリメチルベンゾイル-ジフェニル-フォスフィンオキサイド及びビス(2.4.6‐トリメチルベンゾイル)‐フェニルフォスフィンオキサイド等があり、単独または2種以上を組み合わせて使用できる。
【0033】
これらの中では、黄変しにくいα-ヒドロキシアセトフェノン系を含むことが好ましく、特に酸素による重合阻害を受けにくい点でOmnirad127D(2‐ヒドロキシ-1-{4-[4-(2-ヒドロキシ-2-メチル-プロピオニル)-ベンジル]-フェニル}-2-メチル-プロパン-1-オン)が好ましい。(E)の光重合性分100重量部に対する配合は3~15重量部が好ましく、5~10重量部が更に好ましい。
【0034】
本発明の低屈樹脂には、性能を損なわない範囲で必要に応じて、反応性希釈剤、紫外線吸収剤、密着促進剤、酸化防止剤、ブルーイング剤、顔料、消泡剤、沈澱防止剤、帯電防止剤、防曇剤、抗菌剤、ワックス、つや消し剤、有機微粒子等を添加してもよい。
【0035】
上記反応性希釈剤としては6官能未満の(メタ)アクリレートモノマーが好ましい。例えばブチル(メタ)アクリレート、イソボルニル(メタ)アクリレート、ヒドロキシエチル(メタ)アクリレート、(ポリ)エチレングリコールジ(メタ)アクリレート、トリメチロールプロパントリ(メタ)アクリレート、ペンタエリスリトールトリ(メタ)アクリレート、ジトリメチロールプロパンテトラ(メタ)アクリレート、ペンタエリスルトールテトラ(メタ)アクリレート、ジペンタエリスリトールテトラ(メタ)アクリレート、ジグリセリンテトラ(メタ)アクリレート、ジペンタエリスリトールペンタ(メタ)アクリレート等が挙げられ、単独あるいは2種以上を組み合わせて使用することができる。反応性希釈剤の配合比率としては全固形分に対し20重量%以下が好ましく、5重量%以下が更に好ましい。
【0036】
本発明の低屈層を、光透過性を有する基材フィルムに積層されたHC層上に更に積層することで、反射防止フィルムとすることができる。ここでHC層を形成するためのHC樹脂としては特に制限はないが、延伸性や耐摩耗性のバランスが取れている点で、バインダーとして多官能ウレタン(メタ)アクリレート(以下多官能ウレアク)を含むことが好ましい。特に成形性に優れた市販品としてはZ-607-33(商品名:アイカ工業社製、6官能ウレアクを含むHC剤)等が挙げられる。
【0037】
HC樹脂及び低屈樹脂を透明支持体上に塗工する際には、塗工特性を向上させるため溶剤にて希釈してもよい。希釈溶剤としては、例えばエタノール、n-プロピルアルコール、イソプロピルアルコール(以下IPA)、n-ブチルアルコール、イソブチルアルコール、ジアセトンアルコール等のアルコール系溶媒、アセトン、メチルエチルケトン、メチルイソブチルケトン(以下MIBK)、シクロヘキサノン等のケトン系溶剤、酢酸エチル、酢酸ブチル等のエステル系溶媒、PGM,ジエチルエーテル、ジイソプロピルエーテル等のエーテル系溶媒等があげられ、単独あるいは2種類以上を組み合わせて使用できる。
【0038】
希釈する場合の固形分としては特に指定は無く、塗工しやすい粘度となるように適宜設定可能である。HC樹脂の場合、固形分として10~50重量%が例示され、揮発性と相溶性とのバランスが良好で外観が良好な皮膜を形成できる点で酢酸ブチル及びPGMの混合溶媒が好ましい。また低屈樹脂の場合、固形分として0.5~10重量%が例示され、揮発性と相溶性とのバランスが良好で外観が良好な皮膜を形成できる点でMIBKが好ましい。
【0039】
HC樹脂が塗布される光透過性を有する基材フィルムとしては、ポリエステルフィルム、トリアセチルセルロースフィルム、ポリカーボネート(以下PCと表記)フィルム、ポリスルフォンフィルム、ナイロンフィルム、シクロオレフィンフィルム、アクリル(以下PMMAと表記)フィルム、ポリイミドフィルム、ABSフィルム、ポリオレフィンフィルム、PVCフィルム、PVAフィルム等を挙げることができる。なかでも耐候性、加工性、寸法安定性などの点から二軸延伸処理されたポリエステルフィルムが好ましく用いられる。更に自動車加飾用では、PMMAフィルムやPCフィルム及びこれらの積層フィルムが好ましく用いられる。フィルムの厚みは概ね20μm~500μmであればよい。
【0040】
前記基材フィルムは、HC樹脂との密着性を向上させる目的で、プライマー処理やサンドブラスト法、溶剤処理法などによる表面の凹凸化処理、あるいはコロナ放電処理、クロム酸処理、オゾン・紫外線照射処理などの表面の酸化処理などの表面処理を施すことができる。
【0041】
HC樹脂及び低屈樹脂を塗布する方法は、特に制限はなく、公知のスプレーコート、ロールコート、ダイコート、エアナイフコート、ブレードコート、スピンコート、リバースコート、グラビアコート、ワイヤーバーなどの塗工法またはグラビア印刷、スクリーン印刷、オフセット印刷、インクジェット印刷などの印刷法により形成できる。
【0042】
HC樹脂の膜厚は乾燥時で1μm~10μmが例示できるが、これに限定されるものではない。又HC樹脂層上に塗布する低屈樹脂の膜厚は乾燥時で50~200nmであることが好ましく、80~150nmであることが更に好ましい。低屈層の厚さがこの範囲であれば、反射率を十分低くすることが可能となる。
【0043】
HC樹脂及び低屈樹脂を硬化させる際に用いる紫外線照射の光源としては、低圧水銀ランプ、高圧水銀ランプ、超高圧水銀ランプ、カーボンアーク灯、キセノンランプ、メタルハライドランプ、LEDランプ、無電極紫外線ランプなどがあり、また照射する雰囲気は空気中でもよいし、窒素、アルゴンなどの不活性ガス中でもよい。また紫外線照射時にバックロールの加温や、IRヒーターなどにより塗膜を加熱することで、より硬化性を上げることができる。照射条件としては照射強度500mW/cm~3000mW/cm、露光量50~400mJ/cmが例示されるが、これに限定されるものではない。
【0044】
本発明の反射防止フィルムは、130℃雰囲気下での破断伸度が100%以上であることが好ましく、200%以上が更に好ましい。破断伸度が100%未満では、深絞りのある用途で成型時にひび割れが発生する場合がある。
【0045】
本発明の反射防止フィルムは、130℃雰囲気下で100%延伸した時のヘイズが0.5以下であることが好ましく、0.3以下が更に好ましい。延伸時のヘイズが0.5超となる場合は、成形後に加飾層の色合いに変化が生じ、外観が微妙に異なるという不具合が発生する場合がある。
【0046】
本発明の反射防止フィルムは、水接触角が100°以上であることが好ましく、110°以上であることが更に好ましい。水接触角が100°未満となる場合は、使用時に防汚性が不足していると感じる場合がある。
【0047】
以下、本発明について実施例、比較例を挙げて詳細に説明するが、具体例を示すものであって、特にこれらに限定するものではない。なお表記が無い場合は、室温は25℃相対湿度65%の条件下で測定を行った。また配合表の単位は重量部を示す。
【実施例0048】
ウレタン(メタ)アクリレート(以下ウレアク)1の調製
エチレングリコール(以下EG)200重量部とIPDI(住化バイエルウレタン株式会社製 商品名デスモジュールI NCO基37.5%)922重量部とを、触媒と共にMEK溶剤中(固形分60%)に加え30℃で30分攪拌・反応させ、赤外吸収分析でイソシアネート基のピークが所定の量になった時点で反応を終了させた。次にPETA(日本化薬株式会社製 商品名PET30 固形分100%)400重量部を添加し、10℃で30分攪拌・反応させた後、60℃で30分攪拌・反応させ、赤外吸収分析でイソシアネート基の消滅したことを確認し、MEKにより固形分を60%に調整して、Mw.4,200の6官能のウレアク1を得た。
【0049】
ウレアク2の調製
エチレングリコール(以下EG)200重量部とIPDI(住化バイエルウレタン株式会社製 商品名デスモジュールI NCO基37.5%)798重量部とを、触媒と共にMEK溶剤中(固形分40%)に加え30℃で30分攪拌・反応させ、赤外吸収分析でイソシアネート基のピークが所定の量になった時点で反応を終了させた。次にPETA(日本化薬株式会社製 商品名PET30 固形分100%)150重量部を添加し、10℃で30分攪拌・反応させた後、60℃で30分攪拌・反応させ、赤外吸収分析でイソシアネート基の消滅したことを確認し、MEKにより固形分を60%に調整して、Mw.8,000の6官能のウレアク2を得た。
【0050】
公知製法により、以下を反応させた骨格を有するウレアクを得た。
ウレアク3:PETA-HDI-PETA骨格、6官能、固形分100%
ウレアク4:PETA-IPDI-PETA骨格、6官能、固形分100%
ウレアク5:HDIイソシアヌレート(※1)-PETA骨格、9官能、固形分100%
ウレアクA:DPPA(※2)-HDI-DPPA骨格、10官能、固形分100%
ウレアクB:HDIイソシアヌレート-DPPA骨格、15官能、固形分100%
(※1)イソシアヌレートとアクリレートとの反応結合点は3箇所となる。
(※2)ジペンタエリスリトールペンタアクリレートを示す。
【0051】
実施例1~6
前記(a1)としてウレアク1~2(6官能、固形分60%)を、(a2)としてウレアク3~4(6官能、固形分100%)及びウレアク5(9官能、固形分100%)を、(B)としてスルーリア4320(商品名:日揮触媒化成社製、固形分20%、一次平均粒子径60nm)を、(C)としてALMIBK30WT%-M47(商品名:CIKナノテック社製、固形分30%、平均粒子径20nm)を、(D)としてX-71-1203M(商品名:信越化学工業社製、固形分20%、反応性官能基を有するフッ素系シリコーン化合物)を、(E)としてOmnirad127D(商品名:IGM Resins社製)を用い、表1記載となるよう配合し、更に固形分が1.5重量%となるようMIBKで希釈して、均一に溶解・分散するまで撹拌し実施例1~6の樹脂組成物を得た。
【0052】
比較例1~8
実施例で用いた材料の他、バインダーとしてウレアクA(10官能、固形分100%)、ウレアクB(15官能、固形分100%)及びKAYARAD DPHA(商品名:日本化薬社製、ジペンタエリスリトールペンタアクリレートとジペンタエリスリトールヘキサアクリレートの混合物)を用い、表2記載となるよう配合し、更に固形分が1.5重量%となるようMIBKで希釈して、均一に溶解・分散するまで撹拌し比較例1~8の樹脂組成物を得た。
【0053】
表1
【0054】
表2
【0055】
評価方法は以下の通りとした。
【0056】
HCフィルムの作成
HC剤としてZ-607-33(商品名:アイカ工業社製、6官能ウレアクを含む成形用ハードコート剤)を用い、PMMA/PCフィルムC003(商品名:住友化学社製、厚み300μm)のPMMA面に乾燥膜厚で3.0μmとなるように光硬化性樹脂を塗布して、80℃で1分乾燥後、高圧水銀ランプで出力1300mW/cm、積算光量が200mJの条件で硬化させHCフィルムとした。
【0057】
反射防止フィルムの作成
表1及び2の低屈樹脂組成物を用い、上記で作成したHC層上に乾燥後の膜厚で100nmとなるよう塗布し、80℃で1分乾燥後、窒素雰囲気下、高圧水銀ランプで出力1300mW/cm、積算光量が200mJの条件で硬化させ反射防止フィルムとした。
【0058】
全光線透過率:上記反射防止フィルムを、東洋精機製作所製のヘイズメーターHaze-GARD2を用いJISK7361-1に準拠して測定し、評価は92%以上を○、92%未満を×とした。
【0059】
ヘイズ:上記反射防止フィルムを、東洋精機製作所社製のヘイズメーターHaze-GARD2を用いJIS K7136に準拠して測定し、0.5%以下を○、0.5%超を×とした。
【0060】
最小反射率:塗工面とは反対面を紙やすりで擦り傷を付け、黒色顔料マーカーで塗りつぶし、更に黒色PETを貼り合せ反対面側の反射率を0%とする。その後HC面側を分光光度計にて380nm~780nmの範囲で1nm毎に反射率をプロットし、最低の反射率を測定した。反射率が1.5%未満を◎、1.5~2.0%を〇、2.0%超を×とした。
【0061】
成形性:反射防止フィルムを横25mm×縦110mmにカットし、ミネベア社製TechnoGraph TGI-1KNを用い、チャック間距離50mmで雰囲気温度130℃、引っ張り速度300mm/分で引っ張り試験を行った。評価は目視で割れを確認し、伸び率が100%以上を〇、100%未満を×とした。
計算式:50mmを基準として何mm伸びたかで計算。
伸びた長さ(mm)/50mm×100=伸び率%
【0062】
ヘイズ(延伸時):反射防止フィルムを横25mm×縦110mmにカットし、ミネベア社製TechnoGraph TGI-1KNを用い、チャック間距離50mmで雰囲気温度130℃、引っ張り速度300mm/分で伸び率が100%になるよう延伸した。その後上記と同様の方法でヘイズを測定し、0.30%未満を◎、0.3~0.50%を〇、0.50%超を×とした。
【0063】
耐摩耗性:スガ試験機製の摩擦試験機FR-IBSを用い、反射防止フィルムの樹脂組成物塗布面を、試験用白綿布(カナキン3号)を取り付けた摩擦子(直径16mm)で9Nの荷重をかけて1往復/1秒の速さで100mm往復させ、1000往復後の外観を確認し、反射防止層の剥離無しを○、剥離有りを×とした。


【0064】
水接触角:JIS R 3257:1999の静滴法に準じ、協和界面科学社製のDMs-400により、常態及び1時間煮沸後のサンプルを用い、室温で水を滴下し30秒静置後の接触角を測定し、100°以上を〇、100°未満を×とした。
【0065】
防汚性:油性マーカーのマッキーケア超極細(商品名:ゼブラ社製)を用い連続した円弧を描き、直ぐにウエスを用いて拭き取り、完全に拭き取れた場合を〇、拭き残りが生じた場合を×とした。
【0066】
評価結果
表3

【0067】
表4
【0068】
実施例は全光線透過率、ヘイズ、最小反射率、成形性、ヘイズ(延伸時)、耐摩耗性、水接触角、防汚性全ての面で問題はなく良好であった。
【0069】
一方(a2)の代わりにモノマーを用いた比較例1は延伸時のヘイズが高く、(a2)を含まない比較例2は耐摩耗性と防汚性が劣り、(a1)を含まない比較例3は延伸時のヘイズが高かった。また(B)を含まない比較例4は最小反射率が高く全光線透過率も低く、(C)を含まない比較例5は耐摩耗性が低かった。更に(D)を含まない比較例6は延伸時のヘイズ、耐摩耗性、水接触角、防汚性が劣り、(a2)が異なる比較例7及び8は延伸時のヘイズが高く、いずれも本願発明に適さないものであった。