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特開2025-113883インダクタ、及びインダクタの製造方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2025113883
(43)【公開日】2025-08-04
(54)【発明の名称】インダクタ、及びインダクタの製造方法
(51)【国際特許分類】
   H01F 27/29 20060101AFI20250728BHJP
   H01F 41/10 20060101ALI20250728BHJP
【FI】
H01F27/29 123
H01F27/29 U
H01F41/10 C
【審査請求】未請求
【請求項の数】11
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2024008271
(22)【出願日】2024-01-23
(71)【出願人】
【識別番号】000006231
【氏名又は名称】株式会社村田製作所
(74)【代理人】
【識別番号】110001081
【氏名又は名称】弁理士法人クシブチ国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】野村 善行
(72)【発明者】
【氏名】松村 篤幸
【テーマコード(参考)】
5E043
5E062
5E070
【Fターム(参考)】
5E043EB06
5E062FF02
5E062FG12
5E070AA01
5E070BB03
5E070EA01
5E070EB04
(57)【要約】
【課題】金属磁性粒子を含む素体の表面に外部電極として形成されるCuめっき層の、素体に対する固着強度を向上する。
【解決手段】
インダクタは、金属磁性粒子と樹脂とを含有し、コイル導体を内包する素体と、素体の表面に配されてコイル導体に接続される、銅めっき層を含む外部電極と、を備え、金属磁性粒子は、鉄(Fe)を含有する粒子を含み、素体の表面と外部電極の銅めっき層との間に、リン(P)と酸素(O)とを含む、又は硫黄(S)と酸素(O)とを含む、中間層を有する。
【選択図】図6
【特許請求の範囲】
【請求項1】
金属磁性粒子と樹脂とを含有し、コイル導体を内包する素体と、
前記素体の表面に配されて前記コイル導体に接続される、銅めっき層を含む外部電極と、
を備え、
前記金属磁性粒子は、鉄(Fe)を含有する粒子を含み、
前記素体の表面と前記外部電極の前記銅めっき層との間に、リン(P)と酸素(O)とを含む、又は硫黄(S)と酸素(O)とを含む、中間層を有する、
インダクタ。
【請求項2】
前記中間層は、少なくとも前記金属磁性粒子と前記銅めっき層との間に配されている、
請求項1に記載のインダクタ。
【請求項3】
前記素体の表面のうち、前記外部電極が形成される領域以外の領域には、絶縁膜である素体保護層が配されている、
請求項1に記載のインダクタ。
【請求項4】
前記中間層は、前記素体と前記素体保護層との間には配されていない、
請求項3に記載のインダクタ。
【請求項5】
前記外部電極は、前記中間層を介して前記素体の表面に形成された前記銅めっき層の上に、ニッケル(Ni)めっき層、及びスズ(Sn)めっき層を有する、
請求項1に記載のインダクタ。
【請求項6】
前記中間層は、カリウム(K)を更に含む、
請求項1に記載のインダクタ。
【請求項7】
前記中間層の厚みは、前記素体の表面に沿って一様ではない、
請求項1に記載のインダクタ。
【請求項8】
前記中間層は、前記素体の表面に沿って不連続である、
請求項1に記載のインダクタ。
【請求項9】
前記素体の表面は、算術平均粗さRaで示される表面粗さが1.0μm以上10μm以下である、
請求項1に記載のインダクタ。
【請求項10】
前記中間層の平均厚みは、20μm以下である、
請求項1ないし9のいずれか一項に記載のインダクタ。
【請求項11】
1対の引出部を有するコイルを作製する工程と、
鉄(Fe)を含む金属磁性粒子と樹脂とを含有する素体に、前記コイルを、前記コイルの前記引出部が前記素体の表面から露出する様に埋設する工程と、
前記素体の表面上の、前記素体から露出した前記引出部を含む外部電極形成領域に、リン(P)と酸素(O)とを含む、又は硫黄(S)と酸素(O)とを含む中間層を、少なくとも部分的に形成する工程と、
少なくとも部分的に前記中間層が形成された前記外部電極形成領域に、銅(Cu)めっき層を含む外部電極を形成する工程と、
を有する、
インダクタの製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、インダクタ、及びインダクタの製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
特許文献1には、金属磁性粒子と樹脂とを含む素体と、素体内に配置されたコイル導体と、素体の表面上に形成されたCu(銅)めっき層を含む外部電極と、を備えるインダクタが開示されている。上記Cuめっき層は、例えば、電解めっきにより形成される。
【0003】
素体と外部電極との固着強度は、そのインダクタの耐環境性(例えば、温度、湿度、振動、衝撃等に対する耐性)や長期信頼性を大きく左右し得る。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2023-72640号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明の目的は、金属磁性粒子と樹脂とを含む素体と、素体内に配置されたコイル導体と、素体の表面上に形成された外部電極と、を備えるインダクタにおいて、素体表面における外部電極の固着強度を向上することである。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明の一の態様は、金属磁性粒子と樹脂とを含有し、コイル導体を内包する素体と、前記素体の表面に配されて前記コイル導体に接続される、銅めっき層を含む外部電極と、を備え、前記金属磁性粒子は、鉄(Fe)を含有する粒子を含み、前記素体の表面と前記外部電極の前記銅めっき層との間に、リン(P)と酸素(O)とを含む、又は硫黄(S)と酸素(O)とを含む、中間層を有する、インダクタである。
本発明の他の態様は、1対の引出部を有するコイルを作製する工程と、鉄(Fe)を含む金属磁性粒子と樹脂とを含有する素体に、前記コイルを、前記コイルの前記引出部が前記素体の表面から露出する様に埋設する工程と、前記素体の表面上の、前記素体から露出した前記引出部を含む外部電極形成領域に、リン(P)と酸素(O)とを含む、又は硫黄(S)と酸素(O)とを含む中間層を、少なくとも部分的に形成する工程と、少なくとも部分的に前記中間層が形成された前記外部電極形成領域に、銅(Cu)めっき層を含む外部電極を形成する工程と、を有する、インダクタの製造方法である。
【発明の効果】
【0007】
本発明によれば、金属磁性粒子と樹脂とを含む素体と、素体内に配置されたコイル導体と、素体の表面上に形成された外部電極と、を備えるインダクタにおいて、素体表面における外部電極の固着強度を向上することができる。
【図面の簡単な説明】
【0008】
図1】本発明の実施形態に係るインダクタを上面の側から視た斜視図である。
図2】インダクタを底面の側から視た斜視図である。
図3】インダクタの内部構成を示す透視斜視図である。
図4図3に示すインダクタを上面の側から視た平面透視図である。
図5図4に示すインダクタのV-V断面図である。
図6図5に示す断面におけるA部の部分詳細図である。
図7】インダクタの製造工程を示す図である。
図8】中間層の膜中元素の評価に用いられたインダクタの、断面のSEM画像の例である。
図9】中間層の膜中元素の評価に用いられた、インダクタの断面に関するEDX分析画像の例である。
【発明を実施するための形態】
【0009】
金属磁性粒子と樹脂とを含む素体の表面上に、外部電極を構成するCuめっき層を電気めっきにより形成する場合、素体表面上におけるCuめっき層の固着強度は、電解めっきプロセスが開始される際の素体表面の状態に左右される。
【0010】
発明者は、素体表面における外部電極の固着強度について鋭意検討し、素体をCu電解めっき液に浸漬したときに素体表面上に形成されるCuの置換めっき層が、その後の電解めっきプロセスにより形成されるCuめっき層の、素体表面に対する固着強度を低下させる一つの要因となっていることを確認した。
【0011】
このような、Cu置換めっき層は、素体をCu電解めっき液に浸漬した後の僅かな時間(例えば、数秒間)で生じ得るものであり、めっきプロセスの工夫のみでは防止することは困難である。
本発明は、上記の知見に基づいて成されたものであり、インダクタ構成の側面から、Cu置換めっき層形成に伴うCu電解めっき層の固着強度の低下を抑制して、外部電極の接続強度を向上する。
【0012】
以下、図面を参照して本発明の実施形態について説明する。
[1.インダクタの構成]
まず、本実施形態に係るインダクタ1の構成について説明する。
[1.1 インダクタの全体構成]
図1図2、及び図3は、インダクタ1の全体構成を示す図である。
図1は、インダクタ1を上面12の側から視た斜視図であり、図2はインダクタ1を底面10の側から視た斜視図である。
本実施形態のインダクタ1は、表面実装型の電子部品として構成されており、略六面体形状の一態様である略直方体形状の素体2と、当該素体2の表面に設けられた一対の外部電極4とを備えている。
【0013】
以下、素体2において、実装時に図示しない実装基板に向けられる第1の主面を底面10と定義し、底面10に対向する第2の主面を上面12と言い、底面10に直交する一対の第3の主面を端面14と言い、これら底面10、及び一対の端面14に直交する一対の第4の主面を側面16と言う。
図1に示すように、底面10から上面12までの距離を素体2の厚みTと定義し、一対の側面16の間の距離を素体2の幅Wと定義し、一対の端面14の間の距離を素体2の長さLと定義する。また、厚みTの方向を厚み方向DTと定義し、幅Wの方向を幅方向DWと定義し、長さ距離の方向を長さ方向DLと定義する。
インダクタの大きさは、例えば、長さL寸法が2.0mm、幅W寸法が1.2mm、厚みT寸法が0.9mmである。
【0014】
図3は、インダクタの内部構成を示す透視斜視図である。
素体2は、コイル導体20と、当該コイル導体20が埋設された略六面体形状のコア30と、を備え、かかるコイル導体20をコア30に封入したモールドインダクタとして構成されている。
【0015】
コア30は、金属磁性粒子30a及び樹脂30b(図6参照)を混合した混合粉を、コイル導体20を内包した状態で加圧及び加熱することで略六面体形状に圧縮成型された成型体である。混合粉は、溶剤及び又は硬化剤を含んでもよい。混合粉は、さらに、潤滑剤等の添加剤を含んでもよい。
【0016】
本実施形態の金属磁性粒子30aは、平均粒径が比較的大きな大粒子の第1磁性粒子と、平均粒径が比較的小さな小粒子の第2磁性粒子との2種類の粒度の粒子を含む。これにより、圧縮成型時において、大粒子の第1磁性粒子の間に、小粒子である第2磁性粒子が樹脂とともに入り込むことでコア30における金属磁性粒子30aの充填率を大きくし、また透磁率も高めることができる。
【0017】
本実施形態において、第1磁性粒子および第2磁性粒子の金属粒子のD50粒径(メディアン径)はそれぞれ28μmおよび4.0μmである。なお、第1磁性粒子のD50粒径は10μm以上50μm以下が好ましく、第2磁性粒子のD50粒径は1μm以上5μm以下が好ましい。また、磁性粒子が第1磁性粒子および第2磁性粒子と異なる平均粒径の粒子を含むことで、3種類以上の粒度の粒子を含んでもよい。
【0018】
第1磁性粒子及び第2磁性粒子はいずれも、金属粒子と、その表面を覆う絶縁膜とを有した粒子である。金属粒子が絶縁膜で覆われることで、絶縁抵抗と耐電圧とが高められる。
【0019】
第1磁性粒子及び第2磁性粒子の金属粒子には、例えば、Fe(純鉄)またはFe合金などの、Fe系の金属磁性粒子が用いられる。Fe合金の一例として、FeおよびNiを含む合金、FeおよびCoを含む合金、FeおよびSiを含む合金、Fe、SiおよびCrを含む合金、Fe、SiおよびAlを含む合金、Fe、Si、BおよびCrを含む合金ならびにFe、P、Cr、Si、B、NbおよびCを含む合金からなる群から選択される1以上の合金を用いることができる。
【0020】
第1磁性粒子の金属粒子の組成と、第2磁性粒子の金属粒子の組成とは、同じであってもよいし、互いに異なっていてもよい。
第1磁性粒子及び第2磁性粒子の金属粒子の表面に形成する絶縁膜は、例えば、無機ガラス被膜、有機-無機ハイブリッド被膜、および金属アルコキシドのゾルゲル反応により形成された無機系絶縁性被膜から成る群から選択される1以上の絶縁性被膜であり得る。
【0021】
本実施形態では、第1磁性粒子には、金属粒子としてFe-Si-Crアモルファス合金粉が用いられ、第2磁性粒子には、金属粒子としてFe-Si-Crアモルファス合金粉が用いられている。
【0022】
上記混合粉において、樹脂の材料には、エポキシ樹脂、フェノール樹脂、ポリエステル樹脂、ポリイミド樹脂、ポリオレフィン樹脂およびシリコーン樹脂からなる群から選択される少なくとも1つを用いることができる。なかでも、樹脂としてエポキシ樹脂を用いた場合、電気絶縁性及び又は機械的強度の高い磁性成形体を得ることができる。上記のほか、樹脂の材料には、ポリアミドイミド、ポリフェニレンスルファイド、及び又は液晶ポリマー等の熱可塑性樹脂を用いてもよい。硬化反応は、熱によるものが好ましい。つまり、樹脂は熱硬化性樹脂であることが好ましい。一例として熱硬化性エポキシ樹脂が挙げられる。このような樹脂を用いれば、簡易な方法によって硬化反応を生じさせることができる。
【0023】
混合粉には、金属磁性粒子30a及び樹脂30bを混合してスラリーを得るための溶剤を加えることができる。溶剤は、有機溶剤であることが好ましい。例えば、溶剤は、トルエンまたはキシレン等の芳香族炭化水素類;アセトン、メチルエチルケトン、または、メチルイソブチルケトン、等のケトン類;メタノール、エタノール、または、イソプロピルアルコール等のアルコール類;プロピレングリコールモノメチルエーテル、または、プロピレングリコールモノメチルエーテルアセテート等のグリコールエーテル類のいずれかを含んでよい。
【0024】
混合粉には、樹脂を硬化させるための硬化剤を加えてもよい。一例として、硬化剤は、イミダゾール系硬化剤、アミン系硬化剤、または、グアニジン系硬化剤(例えば、ジシアンジアミド)のいずれかを含んでよい。
【0025】
混合粉には、第1磁性粒子および第2磁性粒子の潤滑性を向上させ、充填率を向上させるため潤滑剤を加えてもよい。潤滑剤は、成形時に金型からの離形を容易にする目的で加えることもできる。潤滑剤としては、例えば、ナノシリカ、硫酸バリウム、または、ステアリン酸化合物(ステアリン酸リチウム、ステアリン酸マグネシウム、ステアリン酸亜鉛、または、ステアリン酸カリウム等)のいずれかを含んでよい。
【0026】
また、混合粉に含まれる各原料の重量比は、第1磁性粒子および第2磁性粒子は、全体基準で94重量%以上98重量%以下、樹脂および硬化剤は、全体基準で1重量%以上5重量%以下、残りを潤滑剤および溶剤としてよい。第1磁性原料粒子および第2磁性原料粒子の割合は、第1磁性原料粒子の重量:第2磁性原料粒子の重量=10:90以上50:50以下であることが好ましい。樹脂と硬化剤の割合は、樹脂の重量:硬化剤の重量=95:5以上98:2以下であることが好ましい。
【0027】
コイル導体20は、図3に示すように、導線が巻回された巻回部22と、当該巻回部22から引き出されて少なくとも一部が素体2から露出した一対の引出部24とを備える。
コイル導体20は、導線と、導線の表面に形成された被覆層とで構成される。導線は、銅を材質とする断面が矩形の帯状導線(いわゆる、平角導線)である。
なお、コイル導体20は必ずしも巻回されている必要はなく、直線形状、ミアンダ形状などでもよい。
【0028】
コイル導体20の巻回部22は、帯状導線(以下、単に導線ともいう)の両端が外周に引き出され、かつ内周で互いに繋がるように導線を渦巻き状に巻回して形成される。素体2の内部において、コイル導体20は、巻回部22の中心軸が素体2の厚み方向DTに沿う姿勢でコア30に埋設されている。引出部24は、巻回部22から一対の端面14のそれぞれまで引き出され、その一方の主面が素体2から露出し、他方の主面が素体2に埋設されている。引出部24の、素体2から露出した上記一方の主面は、外部電極4に電気的に接続されている。
【0029】
一対の外部電極4は、素体2の端面14のそれぞれから底面10に亘って延びるL字状部材で構成された、いわゆるL字電極である。外部電極4はそれぞれ、端面14においてコイル導体20の引出部24と接続され、また底面10に延出した部分4A(図2)がはんだなどの適宜の実装手段によって回路基板の配線に電気的に接続される。
【0030】
また、外部電極4の範囲を除く素体2の表面には、絶縁膜である素体保護層5(図5参照。図1ないし図4には不図示。)が形成されている。素体保護層5は、例えば、エポキシ樹脂、フェノキシ樹脂、およびノボラック樹脂であり、フィラーとして金属酸化物微粒子を含む材料を用いることができる。本実施形態では、素体保護層5は、金属酸化物微粒子となる二酸化ケイ素のフィラーとエポキシ樹脂とを含む。素体保護層5は、上記材料のほか、ウレタン、アクリル、ポリイミド、ポリイミドアミド、ポリアミド等の樹脂、あるいは、ガラス、酸化物膜でもよい。
【0031】
かかる構成のインダクタは、磁性粒子に軟磁性材料を用いることにより、直流重畳特性を改善できるので、大電流が流れる電気回路の電子部品、DC-DCコンバータ回路や電源回路のチョークコイルとして用いられ、また、パソコン、DVDプレーヤー、デジカメ、TV、携帯電話、スマートフォン、カーエレクトロニクス、医療用・産業用機械などの電子機器の電子部品に用いられる。ただし、インダクタの用途はこれに限られず、例えば、同調回路、フィルタ回路や整流平滑回路などにも用いることもできる。
【0032】
[1.2 素体表面と外部電極との境界部分の構成]
次に、素体2の表面と外部電極4との境界部分の構成について更に説明する。
図4は、図1及び図3に示すインダクタ1を上面12の側から視た平面透視図である。図5は、図4に示すインダクタ1のV-V断面矢視図であり、図6は、図5に示す断面におけるP部の部分詳細図である。
【0033】
図6を参照し、外部電極4は、素体表面に最も近い最下層として、Cu(銅)めっき層41を含む。Cuめっき層41は、素体2の表面に露出したコイル導体20の引出部24(図6には不図示)に接続される。本実施形態では、Cuめっき層41は、電解めっきにより形成される。
【0034】
外部電極4は、また、Cuめっき層41の上に形成されたNi(ニッケル)めっき層42と、Niめっき層42の上に形成されたSn(スズ)めっき層43と、を含んでも良い。Niめっき層42とSnめっき層43とにより、外部電極4の防食性とはんだ濡れ性が向上する。Niめっき層42及びSnめっき層43も、電解めっきにより形成され得る。
【0035】
本実施形態では、特に、Cuめっき層41の形成に際して素体2が電解めっき液に浸漬された際に、素体2の表面から露出したFeを含む金属磁性粒子の表面にCu置換めっきが形成されるのを防止するため、素体2の表面とCuめっき層41との間に、中間層6が配されている。
【0036】
後述するように、中間層6は、リン(P)と酸素(O)とを含むか、又は硫黄(S)と酸素(O)とを含む構成とすることで、Cu置換めっき層の形成を抑制してCuめっき層41と素体2の表面との固着力を向上し得る。後述するように、リン(P)と酸素(O)とを含む中間層6は、Cu電解めっき液の作製に一般的に用いられ得るピロリン酸(化学式:H)を用いて形成することができ、硫黄(S)と酸素(O)とを含む中間層6は、Ni電解めっき液の作製に一般的に用いられ得る硫酸アンモニウム(化学式:(NHSO)を用いて形成することができる。すなわち、リン(P)と酸素(O)とを含むか、又は硫黄(S)と酸素(O)とを含む中間層6は、外部電極4の形成に用いられる薬剤を流用して容易に作製し得る、という利点を有する。
【0037】
また、中間層6は、カリウム(K)を更に含んでも良い。リン(P)と酸素(O)とカリウム(K)とを含む中間層6は、Cu電解めっき液に一般的に用いられ得るピロリン酸カリウム(化学式:K)を用いて形成することができ、硫黄(S)と酸素(O)とカリウム(K)とを含む中間層6は、Ni電解めっき液に一般的に用いられ得る硫酸カリウム(化学式:KSO)を用いて形成することができる。特に、リン(P)と酸素(O)とカリウム(K)とを含む中間層6は、Cu電解めっき液に用いられ得るピロリン酸カリウムを用いるので、中間層6の形成工程と、Cuめっき層41の形成工程との間での素体2の洗浄を省略して、工程を簡略化することができる。
【0038】
素体2の表面に露出した金属磁性粒子30aの表面へのCu置換めっき層の形成を防止する観点からは、中間層6は、少なくとも金属磁性粒子30aとCuめっき層41との間に配されていればよく、必ずしも素体2のコア30を構成する樹脂30bの上に形成されている必要はない。金属磁性粒子30aとCuめっき層41との間に中間層6を配することで、Cuめっき層41の形成工程におけるFe-Cu置換反応に起因したCuめっき層41と素体2との間の固着強度の低下をより効果的に防止して、外部電極4と素体2との接続強度を向上することができる。
【0039】
また、中間層6は、素体2と素体2の表面を覆う素体保護層5との間には配されない。これにより、素体2の表面と素体保護層5との間に中間層6が存在した場合に発生し得る、素体2と素体保護層5との密着強度への悪影響が防止され得る。
【0040】
中間層6は、また、その厚みが素体2の表面に沿って一様でなくてもよい。中間層6は、厚みが一様でなくても、金属磁性粒子30aの表面上にあれば、当該表面へのCu置換めっき層の形成を阻み得るためである。また、中間層6を素体2の表面に沿って一様な厚みを有するように形成する必要がないので、中間層6を容易に形成することができる。
【0041】
また、中間層6は、素体2の表面に沿って連続的に形成されている必要はなく、図6に示すように、素体2の表面に沿って不連続であってもよい。中間層6は、不連続に形成されていても、金属磁性粒子30aの表面上を覆っている領域においてはCu置換めっき層の形成を阻み得るので、Cuめっき層41の全体としての、素体2表面に対する固着力の低下を阻止し得る。また、中間層6を素体2の表面に沿って連続的に形成する必要がないことは、中間層6を形成を容易にし得る。
【0042】
Cuめっき層41が形成される領域における中間層6の平均厚みは、0.01μm以上50μm以下が好ましく、0.5μm以上20μm以下がさらに好ましい。中間層6は、薄すぎるとCu置換めっき層の形成阻止の効果が薄くなり、厚すぎると、インダクタ1の外形寸法を許容範囲内に収めるべく素体2の外形寸法を縮小して電気特性を犠牲にする必要が生じ得るためである。
【0043】
また、素体2の表面のうちCuめっき層41が形成される領域における、算術平均粗さRaで示される表面粗さは、1.0μm以上10μm以下が好ましい。これにより、素体2の表面が平滑でないことによるアンカー効果により、中間層6と素体2の表面との間の固着力、又は中間層6及びCuめっき層41と素体2の表面との間の固着力を更に高めて、外部電極4と素体2の表面との固着強度を更に向上することができる。
【0044】
また、中間層6の抵抗率(例えば、体積抵抗率)は、導体又は絶縁体のいずれの数値範囲にあってもよく、必ずしも素体2の表面に沿って一定でなくてもよい。
【0045】
[2.インダクタの製造工程]
インダクタ1は、以下のように作製され得る。
図7は、インダクタ1の製造工程を示す図である。
インダクタ1の製造工程は、コイル導体形成工程(S1)、予備成型体形成工程(S2)、素体成型工程(S3)、バレル研磨工程(S4)、表面処理工程(S5)、中間層形成工程(S6)、及び、外部電極形成工程(S7)を含み得る。
【0046】
コイル導体形成工程(S1)は、導線からコイル導体20を形成する工程である。当該工程において、コイル導体20は、「アルファ巻」と称される巻き方で導線を巻回することにより、上述した巻回部22、及び一対の引出部24を有した形状に形成される。アルファ巻とは、導体として機能する導線の巻始めと巻終わりの引出部24が外周に位置するように渦巻き状に2段に巻回された状態を言う。コイル導体20のターン数は、特に限定されるものではない。
【0047】
予備成型体形成工程(S2)は、タブレットと称される予備成型体を形成する工程である。
予備成型体は、素体2の材料である上記混合粉を加圧することで、取り扱いが容易な固形状に成型したものであり、本実施形態では、コイル導体20が入り込む溝を有した適宜形状(例えばE型など)の第1タブレットと、この第1タブレットの溝を覆う適宜形状(例えばI型や板状など)の第2タブレットとの2種類のタブレットが形成される。
【0048】
素体成型工程(S3)では、第1タブレット、コイル導体、及び第2タブレットを成型金型にセットし、熱を加えながら、第1タブレットと第2タブレットの重なり方向に加圧し、これらを硬化させることとで、第1タブレット、コイル導体、及び第2タブレットを一体化する。これにより、コイル導体20をコア30に内包した素体2が成型される。
【0049】
バレル研磨工程(S4)では、ドラム内に複数の素体2を充填し、過度に強い衝撃が加わらないように、ドラムを回転させる。また、素体保護層5となるコーティング液をスプレーで噴霧する。これにより、素体2の角部へのR付けと、素体2へのコーティング液の塗布が行われる。コーティング液は、本実施形態では、金属酸化物微粒子となる二酸化ケイ素のフィラーと有機樹脂となるエポキシ樹脂とを含んでいる。
【0050】
次に、コーティング液が塗布された素体2をドラムから取り出して熱処理することで素体2の表面に素体保護層5が形成される。
【0051】
なお、素体保護層5の形成は、上記に限らず、バレル研磨工程(S4)とは別個の工程を設けて、素体2へのコーティング液のスプレー、コーティング液への素体2のディップ、素体2表面へのディスペンサを介したコーティング液の供給、及び又は各種の印刷手法による素体2表面へのコーティング材料の印刷など、種々の手法により行うものとすることができる。
【0052】
表面処理工程(S5)は、コア30の表面の電極予定箇所にレーザ光を照射することで電極予定箇所の表面を改質する工程である。ここで、電極予定箇所とは、コア30の表面のうち外部電極4を形成すべき範囲をいい、引出部24が露出されている部分を含む。具体的には、レーザ光を照射することにより、電極予定箇所の範囲において、コア30の表面の素体保護層5およびコイル導体20の引出部24の被覆層を除去すると共に、コア30の表面の樹脂30bを除去し、且つ、コア30から露出している金属磁性粒子30aの表面の絶縁膜を除去する。これにより、コア30の表面のうち電極予定箇所の部分は、コア30の他の表面部分に比べて、コア30の表面の単位面積あたりの金属磁性粒子30aの金属の露出面積が大きくなる。
【0053】
レーザ光の波長は、例えば、180nm以上3000nm以下であり、より好ましくは、532nm以上1064nm以下である。また、レーザ光の照射エネルギーは、1W/mm以上30W/mm以下が好ましく、5W/mm以上12W/mm以下がより好ましい。
【0054】
中間層形成工程(S6)では、素体2を処理液に浸漬して、素体2のコア30の電極予定箇所に、中間層6を形成する。処理液は、例えば、中間層6としてリン(P)と酸素(O)とを含む層を形成する場合は、ポリリン酸を含む溶液を用いることができる。また、中間層6として硫黄(S)と酸素(O)とを含む層を形成する場合は、処理液として、例えば、硫酸イオンを含む溶液を用いることができる。
【0055】
より具体的には、ポリリン酸を含む処理液として、例えば、ピロリン酸又はピロリン酸カリウムの水溶液を用いることができる。また、硫酸イオンを含む処理液として、例えば、硫酸アンモニウム又は硫酸カリウムの水溶液を用いることができる。
上述したように、ピロリン酸カリウム又は硫酸カリウムを含む用いた場合には、中間層6として、更にカリウム(K)を含んだ層が形成され得る。
【0056】
中間層6の厚みは、処理液の濃度、温度、及び又は処理液への素体2の浸漬時間を調整することで制御し得る。
【0057】
外部電極形成工程(S7)では、中間層6が形成されたコア30上の電極予定箇所に、外部電極4が形成される。具体的には、まず、中間層6が形成されたコア30上の電極予定箇所に、電解めっきによりCuめっき層41が形成される。続いて、Cuめっき層41の上に、Niめっき層42およびSnめっき層43が、電解めっきにより形成され得る。
【0058】
Cuめっき層41の形成手法は、電解銅めっきとして、例えば、硫酸銅めっき、ピロリン酸銅めっき、シアン化銅めっきを用いることができる。
【0059】
Niめっき層42及びSnめっき層43の形成に際し、めっき液に光沢材等の添加剤を加えても良い。
【0060】
[3.実施例]
次に、インダクタ1の実施例について説明する。
表1に示す実施例及び比較例を作製し、素体2に対する外部電極4の固着強度を評価した。実施例1ないし6は、上述した図7に示す製造工程により、同一の作製条件により作製されているが、中間層形成工程(S6)における中間層6の作製条件が互いに異なる。比較例1は、中間層6のないサンプルであり、中間形成工程が実行されないことを除き、実施例1ないし6と同一の作製条件により作製されている。作成数は、実施例1ないし6及び比較例において、それぞれ30個である。
【0061】
【表1】
【0062】
[3.1 実施例及び比較例の作製]
<素体の作製>
実施例1ないし6及び比較例において、予備成型体形成工程(S2)における混合粉の構成は、下記のとおりである。
金属磁性粒子30a:
第1磁性粒子 : D50粒径28μm
Fe-6.7Si-2.5Crアモルファス合金
(Fe:Si:Cr=90.8:6.7:2.5(重量比))
第2磁性粒子 : D50粒径4.0μm
Fe-6.7Si-2.5Crアモルファス合金
(Fe:Si:Cr=90.8:6.7:2.5(重量比))
樹脂30b: 熱硬化性エポキシ樹脂
硬化剤 : イミダゾール
潤滑剤 : ナノシリカ(直径50nmφ)、粒子形状
【0063】
混合粉における第1磁性粒子および第2磁性粒子の重量比は、混合粉全体基準で96.0重量%、樹脂および硬化剤の重量比は、混合粉全体基準で3.6重量%、潤滑剤は、混合粉全体基準で0.4重量%である。
【0064】
素体成型工程(S3)における素体2の加圧成形条件は、温度180℃、加圧力20Mpa、加圧時間600秒である。成型後の素体2のコア30において、第1磁性粒子の重量比:第2磁性粒子の重量比=25:75であり、樹脂の重量比:硬化剤の重量比=97.4:2.6である。
【0065】
バレル研磨工程(S4)により素体2の表面に素体保護層5を形成したのち、表面処理工程(S5)において、素体2表面のうちコイル導体20の引出部24の露出箇所を含む電極予定箇所に、レーザ光照射を行った。レーザ光の照射エネルギーは、12W/mmである。
【0066】
<中間層の形成>
実施例1ないし実施例6では、中間層形成工程(S6)により中間層6を形成した。
実施例1ないし実施例6のそれぞれにおける、中間層6の形成に用いた処理液の種類、処理液温度、及び処理液への素体2の浸漬時間は、表1のとおりである。
【0067】
<外部電極の形成>
実施例1ないし6及び比較例について、上述した外部電極形成工程(S7)により、外部電極4を形成した。まず、素体2をCuめっき槽(ピロリン酸銅めっき液)に投入し、電解めっきによりCuめっき層41を形成した。Cuめっき層41の、素体2の表面に沿った平均厚みは30μmである。その後、素体2をCuめっき槽から引き揚げて水洗したのち、Niめっき槽(ワット浴)に投入し、電解めっきによりNiめっき層42を形成した。Niめっき層42の、素体2の表面に沿った平均厚みは5μmである。その後、素体2をNiめっき槽から引き揚げて水洗したのち、更にSnめっき槽(中性浴)に投入し、電解めっきにより半光沢のSnめっき層43を形成した。Snめっき層43の、素体2の表面に沿った平均厚みは5μmである。
【0068】
[3.2 評価]
作製した実施例1ないし6について、形成された中間層6の平均膜厚の測定、及び中間層6の膜中元素の分析を行った。実施例1ないし実施例7及び比較例について、外部電極4の固着試験を行った。
[3.2.1 評価方法]
評価は、下記の方法により行った。
<平均膜厚の測定及び膜中元素の分析>
まず、実施例1ないし6について、素体2をDW方向(図1参照)に研磨し、DW方向の中心線に沿ったDT方向及びDL方向を含む断面(以下、LT断面)を得た。次に、得られたLT断面の、中間層6が形成されている範囲内の任意の5点において中間層6の厚みを測定し、それらの測定値の平均値を、中間層6の平均膜厚とした。
【0069】
その後、上記LT断面において、外部電極4と素体2との境界部分を含む領域についてのSEM-EDX分析を行って、中間層6の膜中元素を分析した。
【0070】
図8は、実施例3における中間層6の膜中元素の評価に用いられた、インダクタ1のLT断面のSEM(電子顕微鏡)画像の例である。図8の画像には、コイル導体20とコア30とを含む素体2と、素体2の左右の端面14に形成された外部電極4と、が示されている。図9は、膜中元素の評価に用いられた、素体2のLT断面における外部電極4と素体2との境界部分を含む領域のSEM(電子顕微鏡)画像及びEDX分析画像の例である。図9は、具体的には、図8のSEM画像において図示点線矩形で示すQ部についての、SEM拡大画像及びEDX画像である。
【0071】
図9において、(A)はQ部のSEM画像である。また、図9の(B)は、Q部についてのEDX分析の際に観測された、元素Cu(銅)の存在を示す特性X線の画像であり、Cuめっき層41に対応する領域に元素Cuの存在を示す輝点が集中して、当該領域が明るく示されている。図9の(C)、(D)、及び(E)は、それぞれ、Q部についてのEDX分析の際に観測された、元素O(酸素)、P(リン)、及びK(カリウム)の存在を示す特性X線の画像である。図9の(C)、(D)、及び(E)の画像には、それぞれ、Cuめっき層41と素体2との境界部に、元素O(酸素)、P(リン)、及びK(カリウム)の存在を示す輝点を見ることができる。これにより、Cuめっき層41と素体2との境界部に、膜中元素としてO(酸素)、P(リン)、及びK(カリウム)を含む中間層6が形成されていることがわかる。
【0072】
また、元素O(酸素)、P(リン)、及びK(カリウム)の存在を示す輝点群が、それぞれ、素体2の表面に沿って不連続であり、かつ、輝点群の外縁が成す形状が矩形でないことから、中間層6は、素体2の表面に沿って不連続に形成されており、且つその厚みは、素体2の表面に沿って一様でないことがわかる。
なお、中間層6に含まれていない元素の特性X線画像は、輝点を含まない黒い画像が得られる。例えば、実施例1の中間層6のEDX分析では、図9の(E)に相当するK(カリウム)の特性X線画像は、輝点を含まない黒い画像となっている。
【0073】
<外部電極の固着力の評価>
AEC(Automotive Electronics Council、車載電子部品評議会)が定める車載用受動部品の信頼性に関する規格であるAEC-Q200 Rev Eに記載された固着性(せん断強さ)試験に準拠して、素体2に対する外部電極4の固着力を評価した。具体的には、実施例1ないし6及び比較例のインダクタ1のそれぞれの外部電極4を、リフローにより試験用基板(FR-4)にはんだ付けしたのち、それぞれのインダクタ1の側面に対し垂直に17.7Nの押し力を60秒間印加して、試験基板からのインダクタ1の剥離の有無を評価した。
【0074】
[3.2.2 評価結果]
評価結果を表2に示す。
【表2】
【0075】
表2に示すように、中間層6のない比較例では、固着試験において、30個のサンプルのうち5個について、外部電極4の剥離が認められた。これに対し、中間層6を有する実施例1ないし6では、それぞれ、全30個のインダクタ1において、外部電極4の剥離は認められなかった。これにより、膜中元素としてリン及び酸素、又は硫黄及び酸素を含む中間層6が、外部電極4のCuめっき層41の、素体2への固着強度を向上させる効果を有することが確認できた。
【0076】
また、実施例3ないし6と、実施例2、3と、の比較から、中間層6が膜中元素として更にKを含む場合にも、Kを含まない場合と同様に、素体2に対するCuめっき層41の固着強度の向上効果が得られることが確認できた。
【0077】
さらに、実施例3、5、及び6の比較から、中間層形成工程(S6)における処理液中への素体2の浸漬時間が長いほど、より厚みの厚い中間層6が形成されること、及び、中間層6は、少なくとも平均厚みが20μm以下の範囲において、Cuめっき層41の固着強度向上の効果を発揮し得ることが確認できた。
【0078】
[5.他の実施形態]
上述した実施形態では、コア30は、金属磁性粒子30aとして、平均粒径の異なる2種類の磁性粒子を含むものとしたが、1種類の磁性粒子で構成されるものとしてもよい。
また、上述した実施形態では、Cuめっき層41は、電解めっきにより形成されるものとしたが、無電解銅めっきにより形成されてもよい。
【0079】
なお、上述した全ての実施形態および実施例は、本発明の一態様を例示したものであって、本発明の趣旨を逸脱しない範囲において任意に変形及び応用が可能である。
また、上述した実施形態における水平、及び垂直等の方向や各種の数値、形状、材料は、特段の断りがない限り、それら方向や数値、形状、材料と同じ作用効果を奏する範囲(いわゆる均等の範囲)を含む。
【0080】
[6.上記実施形態及び実施例によりサポートされる構成]
上述した実施形態及び実施例は、以下の構成をサポートする。
【0081】
(構成1)金属磁性粒子と樹脂とを含有し、コイル導体を内包する素体と、前記素体の表面に配されて前記コイル導体に接続される、銅めっき層を含む外部電極と、を備え、前記金属磁性粒子は、鉄(Fe)を含有する粒子を含み、前記素体の表面と前記外部電極の前記銅めっき層との間に、リン(P)と酸素(O)とを含む、又は硫黄(S)と酸素(O)とを含む、中間層を有する、インダクタ。
構成1のインダクタによれば、銅めっき層の形成工程において素体をめっき液へ浸漬した際に生じ得るめっき液中の銅と素体表面の金属磁性粒子の鉄(Fe)との置換反応に起因した、銅めっき層と素体との間の固着強度の低下を効果的に防止して、銅めっき層を含む外部電極と素体との接続強度を向上することができる。
【0082】
(構成2)前記中間層は、少なくとも前記金属磁性粒子と前記銅めっき層との間に配されている、構成1に記載のインダクタ。
構成2のインダクタによれば、銅めっき層の形成工程におけるFe-Cu置換反応に起因した銅めっき層と素体との間の固着強度の低下をより効果的に防止して、外部電極と素体との接続強度を向上することができる。
【0083】
(構成3)前記素体の表面のうち、前記外部電極が形成される領域以外の領域には、絶縁膜である素体保護層が配されている、構成1又は2に記載のインダクタ。
構成3のインダクタによれば、素体表面のうち外部電極が形成されない領域に不要な銅めっき層が形成されてしまうのを防止することができる。
【0084】
(構成4)前記中間層は、前記素体と前記素体保護層との間には配されていない、構成3に記載のインダクタ。
構成4のインダクタによれば、素体表面と素体保護層との間に中間層が存在した場合に発生し得る、素体と素体保護層との密着強度への悪影響を防止することができる。
【0085】
(構成5)前記外部電極は、前記中間層を介して前記素体の表面に形成された前記銅めっき層の上に、ニッケル(Ni)めっき層、及びスズ(Sn)めっき層を有する、構成1ないし4のいずれかに記載のインダクタ。
構成5のインダクタによれば、外部電極と素体との固着強度を向上しつつ、防食性及びはんだ濡れ性に優れた外部電極を構成し得る。
【0086】
(構成6)前記中間層は、カリウム(K)を更に含む、構成1ないし5のいずれかに記載のインダクタ。
構成6のインダクタによれば、銅めっき層の形成工程において通常用いられ得るカリウムを含んだ銅めっき液と同様の成分を含む薬剤を用いて中間層を形成することができる。このため、構成6のインダクタによれば、(新たな薬剤成分を導入することなく、)中間層形成工程(S6)と、その後の銅めっき層工程との間の洗浄工程を省略して、外部電極を容易に形成することができる。
【0087】
(構成7)前記中間層の厚みは、前記素体の表面に沿って一様ではない、構成1ないし6のいずれかに記載のインダクタ。
構成7のインダクタによれば、中間層を、素体表面に沿って一様な厚みを有するように形成する必要がない。従い、構成7のインダクタによれば、中間層を容易に形成することができる。
【0088】
(構成8)前記中間層は、前記素体の表面に沿って不連続である、構成1ないし7のいずれかに記載のインダクタ。
構成8のインダクタによれば、中間層を、素体表面に沿って連続的に形成する必要がない。従い、構成8のインダクタによれば、中間層を容易に形成することができる。
【0089】
(構成9)前記素体の表面は、算術平均粗さRaで示される表面粗さが1.0μm以上10μm以下である、構成1ないし8のいずれかに記載のインダクタ。
構成9のインダクタによれば、素体の表面が平滑でないことによるアンカー効果により、中間層と素体表面との固着力、又は中間層及び銅めっき層と素体表面との固着力を更に高めて、外部電極と素体表面との接続強度を更に向上することができる。
【0090】
(構成10)前記中間層の平均厚みは、20μm以下である、構成1ないし9のいずれかに記載のインダクタ。
構成10のインダクタによれば、インダクタ全体として求められる外形寸法の許容範囲内において、中間層の存在により素体の体積が不要に制限されるのを回避しつつ(従って、インダクタとしての電気特性が不要に制限されるのを回避しつつ)、外部電極と素体表面との接続強度を向上することができる。
【0091】
(構成11)1対の引出部を有するコイルを作製する工程と、鉄(Fe)を含む金属磁性粒子と樹脂とを含有する素体に、前記コイルを、前記コイルの前記引出部が前記素体の表面から露出する様に埋設する工程と、前記素体の表面上の、前記素体から露出した前記引出部を含む外部電極形成領域に、リン(P)と酸素(O)とを含む、又は硫黄(S)と酸素(O)とを含む中間層を、少なくとも部分的に形成する工程と、少なくとも部分的に前記中間層が形成された前記外部電極形成領域に、銅(Cu)めっき層を含む外部電極を形成する工程と、を有する、インダクタの製造方法。
構成11のインダクタの製造方法によれば、銅めっき層の形成工程において素体をめっき液へ浸漬した際に生じ得るめっき液中の銅と素体表面の金属磁性粒子の鉄(Fe)との置換反応に起因した銅めっき層と素体との間の固着強度の低下を効果的に防止して、銅めっき層を含む外部電極と素体との接続強度を向上することのできるインダクタを製造することできる。
【符号の説明】
【0092】
1…インダクタ、2…素体、4…外部電極、5…素体保護層、6…中間層、10…底面、12…上面、14…端面、16…側面、20…コイル導体、22…巻回部、24…引出部、30…コア、30a…金属磁性粒子、30b…樹脂、41…Cuめっき層、42…Niめっき層、43…Snめっき層。
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9