IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ デクセリアルズ株式会社の特許一覧

特開2025-11407熱伝導性樹脂組成物および熱伝導性シート
<>
  • 特開-熱伝導性樹脂組成物および熱伝導性シート 図1
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2025011407
(43)【公開日】2025-01-24
(54)【発明の名称】熱伝導性樹脂組成物および熱伝導性シート
(51)【国際特許分類】
   C08L 83/07 20060101AFI20250117BHJP
   C08K 3/013 20180101ALI20250117BHJP
   C08L 83/06 20060101ALI20250117BHJP
   C08K 5/5415 20060101ALI20250117BHJP
【FI】
C08L83/07
C08K3/013
C08L83/06
C08K5/5415
【審査請求】未請求
【請求項の数】11
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023113504
(22)【出願日】2023-07-11
(71)【出願人】
【識別番号】000108410
【氏名又は名称】デクセリアルズ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100113424
【弁理士】
【氏名又は名称】野口 信博
(74)【代理人】
【識別番号】100185845
【弁理士】
【氏名又は名称】穂谷野 聡
(72)【発明者】
【氏名】松島 昌幸
【テーマコード(参考)】
4J002
【Fターム(参考)】
4J002CP05X
4J002CP06X
4J002CP14W
4J002DA016
4J002DA076
4J002DA096
4J002DA116
4J002DE076
4J002DE146
4J002DF016
4J002DL006
4J002EJ029
4J002EJ068
4J002EV049
4J002EX037
4J002FA046
4J002FD016
4J002GQ00
(57)【要約】
【課題】耐熱信頼性が良好な熱伝導性樹脂組成物および熱伝導性シートを提供する。
【解決手段】熱伝導性樹脂組成物は、付加反応型シリコーン樹脂と、熱伝導性充填材と、アルコキシシランと、分子鎖片末端に2つ以上の水酸基を有するジメチルポリシロキサンとを含有する。熱伝導性シートは、付加反応型シリコーン樹脂と、熱伝導性充填材と、アルコキシシランと、分子鎖片末端に2つ以上の水酸基を有するジメチルポリシロキサンとを含有する熱伝導性樹脂組成物の硬化物を含む。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
付加反応型シリコーン樹脂と、
熱伝導性充填材と、
アルコキシシランと、
分子鎖片末端に2つ以上の水酸基を有するジメチルポリシロキサンとを含有する、熱伝導性樹脂組成物。
【請求項2】
上記ジメチルポリシロキサンが、下記式1で表されるシロキサン化合物である、請求項1に記載の熱伝導性樹脂組成物。
(式1)
【化1】
式1中、nは、0~100の整数であり、Rはアルキル基であり、Rはアルキレン鎖またはアルキレンオキサイド鎖であり、R~Rはそれぞれ独立してアルキレン鎖であり、Rは水素原子またはアルキル基である。
【請求項3】
上記ジメチルポリシロキサンが、下記式2で表されるシロキサン化合物である、請求項1に記載の熱伝導性樹脂組成物。
(式2)
【化2】
式2中、nは、1以上の整数であり、Rは、アルキル基である。
【請求項4】
上記熱伝導性充填材が、不定形の熱伝導性充填材を含有する、請求項1または2に記載の熱伝導性樹脂組成物。
【請求項5】
上記熱伝導性充填材が、酸化マグネシウムを含有する、請求項4に記載の熱伝導性樹脂組成物。
【請求項6】
エステル結合を有するフェノール系酸化防止剤をさらに含有する、請求項1または2に記載の熱伝導性樹脂組成物。
【請求項7】
硫黄系酸化防止剤をさらに含有する、請求項1または2に記載の熱伝導性樹脂組成物。
【請求項8】
請求項1または2に記載の熱伝導性樹脂組成物の硬化物を含む、熱伝導性シート。
【請求項9】
熱伝導率が4.0W/(m・K)以上である、請求項8に記載の熱伝導性シート。
【請求項10】
アスカーC硬度が8~24である、請求項8に記載の熱伝導性シート。
【請求項11】
170℃の環境下に1000時間投入後のアスカーC硬度が30~59である、請求項8に記載の熱伝導性シート。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本技術は、熱伝導性樹脂組成物および熱伝導性シートに関する。
【背景技術】
【0002】
一般に、サーマルインターフェースマテリアルは、熱伝導性充填材をエポキシ樹脂やシリコーン樹脂などの樹脂に分散した複合材料である。熱伝導性充填材としては、金属酸化物が多く用いられている。しかし、金属酸化物を用いた複合材料により成形されるシート状成形体は、厚み方向の熱伝導率が1~3W/(m・K)程度に留まる。そのため、より高い熱伝導率を有するシート状成形体が要求されており、例えば、より高熱伝導性の熱伝導性充填材を熱伝導性樹脂組成物に高充填する方法が考えられる。一般的に用いられる熱伝導性充填材としては、アルミナ、窒化アルミ、酸化亜鉛、酸化マグネシウム(マグネシア)、水酸化アルミニウム、窒化ホウ素などが挙げられる。
【0003】
地球温暖化への意識の高まりから、自動車業界では、温室効果ガス低減を目的として、ハイブリット車、プラグインハイブリット車、電気自動車などの環境対策車の開発が進んでいる。それらの環境対策車の燃費性能をより向上させる目的で、車両に搭載されるインバータが高性能化・小型化されている。それに伴い、インバータ内のICやリアクトルなどの部品も小型化され、発熱量もより増大している。
【0004】
このような発熱する部品に対しては、例えば、発熱部品と冷却器との間に1~3W/(m・K)程度の熱伝導性シリコーングリース組成物、熱伝導性シリコーンゲル組成物、熱伝導性シリコーンポッティング組成物などの熱伝導性シリコーン組成物を介在させることで、部品の冷却効率を向上させて部品を保護する方法が挙げられる(例えば、特許文献1を参照)。しかし、発熱量のさらなる増大のため、5W/(m・K)以上の熱伝導性樹脂組成物の開発が要求されている。同時に、高熱伝導率の実現とともに、製造コストが低廉であることも要求される。
【0005】
安価で高熱伝導率を実現できる熱伝導性樹脂組成物を得るためには、例えば、熱伝導性充填材として、従来使用されていた窒化アルミやアルミ粉は極力使用せずに、より安価な破砕アルミナなどの金属酸化物を多用することが考えられる。しかし、破砕アルミナなどの金属酸化物は、窒化アルミやアルミ粉と比べて熱伝導性が低いため、破砕アルミナなどの金属酸化物を多用して高熱伝導率を実現するためには、熱伝導性樹脂組成物中の熱伝導性充填材の総量をより増やす必要があると考えられる。熱伝導性樹脂組成物中の熱伝導性充填材の充填量を増やすためには、アルコキシシランが用いられることがある。
【0006】
熱伝導性樹脂組成物中には、アルコキシシランや、熱伝導性充填材によって持ち込まれるイオン成分、金属成分、N、P、Sなどの元素を含む有機化合物が通常含まれる。熱伝導性樹脂組成物中の熱伝導性充填材の充填量が65体積%程度までであれば、上記物質(アルコキシシランや、イオン成分、金属成分、N、P、Sなどの元素を含む有機化合物)の影響は無視しても差し支えないと考えられる。
【0007】
しかし、アルコキシシランには、加水分解性があり、アルコキシシランの加水分解、加水分解に続く脱水縮合、未反応成分の揮発などによって、高温下での使用に伴い熱伝導性樹脂組成物の耐熱信頼性の低下が促進されるおそれがある。また、例えば、付加重合型のシリコーン樹脂をバインダ成分とした熱伝導性組成物において、上述したイオン分や金属成分は、付加重合型のシリコーン樹脂の重合反応の触媒となる白金触媒に対して阻害要因となりうる。この時、重合に寄与しなかったシリコーン樹脂は、高温下での酸化(老化)を生じうる。さらに、熱伝導性樹脂組成物の硬化後において、重合に寄与しなかったシリコーン樹脂は、解重合などの反応が生じ、耐熱信頼性の低下につながるおそれがある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】特開2021-113290号公報
【特許文献2】特許第6610429号
【特許文献3】特許第6613462号
【特許文献4】特開2021-176945号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
本技術は、このような従来の実情に鑑みて提案されたものであり、耐熱信頼性が良好な熱伝導性樹脂組成物および熱伝導性シートを提供する。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本技術に係る熱伝導性樹脂組成物は、付加反応型シリコーン樹脂と、熱伝導性充填材と、アルコキシシランと、分子鎖片末端に2つ以上の水酸基を有するジメチルポリシロキサンとを含有する。
【0011】
本技術に係る熱伝導性シートは、付加反応型シリコーン樹脂と、熱伝導性充填材と、アルコキシシランと、分子鎖片末端に2つ以上の水酸基を有するジメチルポリシロキサンとを含有する熱伝導性樹脂組成物の硬化物を含む。
【発明の効果】
【0012】
本技術は、耐熱信頼性が良好な熱伝導性樹脂組成物を提供できる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
図1図1は、熱伝導性シートを適用した半導体装置の一例を示す断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
本明細書において、熱伝導性充填材の平均粒子径(D50)(以下、単に「平均粒子径」という。)とは、熱伝導性充填材の粒子径分布全体を100%とした場合に、粒子径分布の小粒子径側から粒子径の値の累積カーブを求めたとき、その累積値が50%となるときの粒子径をいう。なお、本明細書における粒度分布(粒子径分布)は、体積基準によって求められたものである。粒度分布の測定方法としては、例えば、レーザー回折型粒度分布測定機を用いる方法が挙げられる。
【0015】
<熱伝導性樹脂組成物>
本技術に係る熱伝導性樹脂組成物は、付加反応型シリコーン樹脂(以下、「成分a」ともいう。)と、熱伝導性充填材(以下、「成分b」ともいう。)と、アルコキシシラン(以下、「成分c」ともいう。)と、分子鎖片末端に2つ以上の水酸基を有するジメチルポリシロキサン(以下、「成分d」ともいう。)とを含有する。
【0016】
ここで、成分aと、成分bと、成分cとからなる熱伝導性樹脂組成物は、混錬性が良好であり、低粘度とすることができる。しかし、成分aと、成分bと、成分cとからなる熱伝導性樹脂組成物は、耐熱信頼性が良好ではなく、例えば、熱伝導性シートとしたときに、170℃の環境下に1000時間投入すると劣化が進み、熱伝導性シートの硬さ(例えばアスカーC硬度)が3~4倍程度上昇してしまう。
【0017】
そこで、本技術に係る熱伝導性樹脂組成物は、成分a~成分cに加えて、成分dをさらに含有することにより、耐熱信頼性を良好にすることができる。熱伝導性樹脂組成物は、成分a~成分cに加えて、成分dを含有することにより、安価な熱伝導性充填材(例えば後述する不定形の熱伝導性充填材)を用いた場合でも混錬性が良好であるとともに、低粘度とすることができる。また、熱伝導性樹脂組成物は、成分dを含有することにより、熱伝導性シートとしたときの熱伝導性と柔軟性も良好にすることができる。さらに、熱伝導性樹脂組成物は、成分cと成分dを併用することにより、熱伝導性シートとしたときの耐熱信頼性、例えば、170℃の環境下に1000時間投入後も劣化が進みにくく、熱伝導性シートの硬さ(例えばアスカーC硬度)の上昇を抑制できる。このように、本技術に係る熱伝導性樹脂組成物は、高温環境下であっても良好な柔軟性を維持できる。
【0018】
<成分a>
本技術に係る熱伝導性樹脂組成物は、成分aとして、成形加工性及び耐候性に優れるとともに、電子部品に対する密着性及び追従性が良好である理由から、バインダ樹脂としてシリコーン樹脂を用いる。特に、成形加工性、耐候性、密着性を良好にする観点から、液状シリコーンゲルの主剤と、硬化剤とから構成されるシリコーン樹脂を用いることが好ましい。
【0019】
そのようなシリコーン樹脂としては、例えば、付加反応型シリコーン樹脂、過酸化物を加硫に用いる熱加硫型ミラブルタイプのシリコーン樹脂(ミラブルゴム)等が挙げられる。特に、熱伝導性樹脂組成物を、発熱体と放熱部材との間に挟持される熱伝導性シートに適用する場合には、例えば、電子部品の発熱面とヒートシンク面との密着性が要求されるため、付加反応型シリコーン樹脂(付加反応型液状シリコーン樹脂)が好ましい。
【0020】
付加反応型シリコーン樹脂としては、例えば、(i)アルケニル基を有するシリコーンを主成分とし、(ii)硬化触媒を含有する主剤と、(iii)ヒドロシリル基(Si-H基)を有する硬化剤とからなる、2液型の付加反応型シリコーン樹脂が挙げられる。
【0021】
(i)アルケニル基を有するシリコーンとしては、例えば、ビニル基を有するポリオルガノシロキサンを用いることができる。(ii)硬化触媒は、(i)アルケニル基を有するシリコーン中のアルケニル基と、(iii)ヒドロシリル基を有する硬化剤中のヒドロシリル基との付加反応を促進するための触媒である。(ii)硬化触媒としては、ヒドロシリル化反応に用いられる触媒として周知の触媒が挙げられ、例えば、白金族系硬化触媒、例えば白金、ロジウム、パラジウムなどの白金族金属単体や塩化白金などを用いることができる。(iii)ヒドロシリル基を有する硬化剤としては、例えば、ヒドロシリル基を有するポリオルガノシロキサンを用いることができる。このような構成とすることで、成分bを高充填し易く、また触媒等により硬化温度を容易に調整できる。
【0022】
付加反応型シリコーン樹脂は、例えば、熱伝導性樹脂組成物を硬化させた硬化物が有する硬度などを考慮して、所望の市販品を用いることができる。付加反応型シリコーン樹脂の市販品としては、例えば、CY52-276、CY52-272、EG-3100、EG-4000、EG-4100(以上、ダウ・東レ社製)、KE-1800T、KE-1031、KE-1051J(以上、信越化学工業社製)などが挙げられる。付加反応型シリコーン樹脂は、1種単独で用いてもよいし、2種以上を併用してもよい。
【0023】
<成分b>
本技術に係る熱伝導性樹脂組成物は、成分bとして、熱伝導性充填材を含有する。成分bは、成分a中に分散している。成分bは、所望とする熱伝導率や充填性を鑑み、公知の物から選択することができ、例えば、水酸化アルミニウム、水酸化マグネシウムなどの金属水酸化物、アルミニウム、銅、銀などの金属、アルミナ、酸化マグネシウムなどの金属酸化物、窒化アルミニウム、窒化ホウ素、窒化珪素などの金属窒化物、カーボンナノチューブ、金属シリコン、繊維フィラー(ガラス繊維、炭素繊維)が挙げられる。成分bは、1種単独で用いてもよいし、2種以上を併用してもよい。
【0024】
熱伝導性樹脂組成物の熱伝導性を良好にするとともに、熱伝導性樹脂組成物の製造コストを下げる観点では、比較的高価な熱伝導性充填材(例えば、窒化アルミニウムやアルミニウム)を極力使用せずに、比較的安価な熱伝導性充填材(例えば、アルミナや酸化マグネシウムなどの金属酸化物)を多用することが好ましい。例えば、成分bとしては、酸化マグネシウムおよびアルミナの少なくとも1種を用いることが好ましく、酸化マグネシウムを含有することが好ましく、アルミナと酸化マグネシウムとを併用することがより好ましく、アルミナと酸化マグネシウムのみを用いてもよい。
【0025】
熱伝導性樹脂組成物の熱伝導性を良好にする観点では、熱伝導性樹脂組成物は、成分bとして、球状の熱伝導性充填材を含有することが好ましい。ここで、球状とは、完全な球形の他に、ほぼ球形、楕円形などの形状も含み、例えば、球形度が0.8以上であってもよい。球状の熱伝導性充填材の一例である球状の酸化マグネシウムの平均粒子径は、例えば、0.1~150μmの範囲とすることができ、70~140μmの範囲とすることもできる。また、球状の熱伝導性充填材の一例である球状のアルミナの平均粒子径は、例えば、0.1~50μmの範囲とすることができ、5~25μmの範囲とすることもできる。
【0026】
また、熱伝導性樹脂組成物の製造コストを下げる観点では、熱伝導性樹脂組成物は、成分bとして、球状の熱伝導性充填材の他に、不定形の熱伝導性充填材を含有することが好ましい。すなわち、熱伝導性樹脂組成物は、成分bとして、球状の熱伝導性充填材と不定形の熱伝導性充填材とを併用することが好ましい。不定形とは、球状に該当せず、形状および大きさが一定ではない形状であり、薄片状、針状、多面体などの形状を含む。不定形の熱伝導性充填材は、例えば、複数個の、結晶相と粒界相を有する熱伝導性充填材の一次粒子の少なくとも一部が粒界相により互いに融着した二次粒子を個数基準で70%以上含み、レーザー回折散乱法によって得られる平均粒子径が300μm以下であり、走査型電子顕微鏡によって撮影された画像の解析によって得られる熱伝導性充填材の一次粒子の体積平均円相当径に対する平均粒子径の比が2.8以上5.0以下の範囲内にあるものが、不定形でありつつ、塊状の原料ないし粒子径の大きい粒子を破砕して得られる粒子よりも小粒子径の粒子が少ないため、より好ましい。
【0027】
不定形の熱伝導性充填材は、熱伝導性の観点では、例えば、不定形の酸化マグネシウムや、不定形のアルミナが好ましい。また、不定形の熱伝導性充填材は、平均粒子径が0.1~150μmの範囲であってもよく、10~150μmの範囲であってもよく、0.1~50μmの範囲であってもよく、60~130μmの範囲であってもよい。不定形の熱伝導性充填材は、BET比表面積が5m/g以下であってもよく、1m/g以下であってもよく、0.1~5m/gの範囲であってもよい。
【0028】
成分bの態様としては、球状のアルミナと不定形のアルミナと球状の酸化マグネシウムとの併用であってもよく、球状のアルミナと、不定形のアルミナと、結晶相と粒界相を有する不定形の酸化マグネシウムとの併用であってもよい。
【0029】
上述のように、熱伝導性樹脂組成物の熱伝導性を良好にするとともに、熱伝導性樹脂組成物の製造コストを下げる観点では、比較的高価な熱伝導性充填材(例えば、窒化アルミニウムやアルミニウム)を極力使用せずに、比較的安価な熱伝導性充填材(例えば、アルミナや酸化マグネシウムなどの金属酸化物)を多用することが好ましい。しかし、比較的安価な熱伝導性充填材は、比較的高価な熱伝導性充填材と比べて熱伝導性が低いため、比較的高価な熱伝導性充填材のみを用いる場合と比べて、熱伝導性充填材の総充填量をより多くする必要がある。このような観点を考慮すると、熱伝導性樹脂組成物中の成分bの含有量は、例えば、熱伝導性樹脂組成物中における質量含有量として70~95質量%とすることができ、75~95質量%であってもよく、80~95質量%であってもよく、85~95質量%であってもよく、90~95質量%であってもよい。熱伝導性樹脂組成物中の成分bの含有量が70質量%未満であると、十分な熱伝導率を得るのが難しい傾向にある。また、熱伝導性樹脂組成物中の成分bの含有量が95質量%を超えると、混錬性を良好にするのが難しい傾向にある。2種以上の熱伝導性充填材を併用するときは、その合計量が上記含有量の範囲を満たすことが好ましい。
【0030】
不定形の熱伝導性充填材は、球状の熱伝導性充填材と比べて比表面積が大きいため、不定形の熱伝導性充填材を多用すると、熱伝導性樹脂組成物の混錬性を良好にするのが困難な傾向にある。そのため、熱伝導性樹脂組成物中の成分bの合計量に対して、不定形の熱伝導性充填材の含有量は、80質量%以下が好ましい。
【0031】
<成分c>
本技術に係る熱伝導性樹脂組成物は、成分cとして、アルコキシシラン(アルコキシシラン化合物)を含有する。アルコキシシランは、カップリング剤(分散剤)として機能する。アルコキシシランは、加水分解を経てシラノールとなり、このシラノールが熱伝導性充填材の表面と結合して、熱伝導性樹脂組成物中における熱伝導性充填材の分散性をより良好にすることに寄与する。
【0032】
アルコキシシランは、例えば、ケイ素原子(Si)が持つ4個の結合のうち、1~3個がアルコキシ基と結合し、残余の結合が有機置換基と結合した構造を有する化合物である。
【0033】
アルコキシシランが有するアルコキシ基としては、例えば、メトキシ基、エトキシ基、プロトキシ基、ブトキシ基、ペントキシ基およびヘキサトキシ基が挙げられる。アルコキシシランは、熱伝導性樹脂組成物(または後述する熱伝導性シート)中に二量体として含まれていてもよい。アルコキシシランは、入手容易性の観点では、メトキシ基またはエトキシ基を有することが好ましい。アルコキシシランが有するアルコキシ基の数は、熱伝導性充填材との親和性をより高める観点では3つであることが好ましい。アルコキシシランの具体例としては、トリメトキシシラン化合物およびトリエトキシシラン化合物から選ばれる少なくとも1種が好ましい。
【0034】
アルコキシシランが有する有機置換基に含まれる官能基は、例えば、アクリロイル基、アルキル基、カルボキシル基、ビニル基、メタクリル基、芳香族基、アミノ基、イソシアネート基、イソシアヌレート基、エポキシ基、ヒドロキシル基、メルカプト基が挙げられる。ここで、上述した成分aとして、例えば白金触媒を含む付加反応型のオルガノポリシロキサンを用いる場合、アルコキシシランは、オルガノポリシロキサンの硬化反応に影響を与え難いものが好ましい。具体的には、白金触媒を含む付加反応型のオルガノポリシロキサンを用いる場合、アルコキシシランの有機置換基は、アミノ基、イソシアネート基、イソシアヌレート基、ヒドロキシル基、またはメルカプト基を含まないことが好ましい。
【0035】
熱伝導性充填材の分散性をより高めて、熱伝導性充填材をより高充填し易くする観点では、アルコキシシランは、ケイ素原子に結合したアルキル基を有するアルキルアルコキシシラン、すなわち、アルキル基含有アルコキシシランが好ましい。アルキル基含有アルコキシシランにおいて、ケイ素原子に結合したアルキル基の炭素数は4以上であることが好ましく、6以上であってもよく、8以上であってもよく、10以上であってもよい。また、熱伝導性樹脂組成物の粘度をより抑制する観点では、アルキル基含有アルコキシシランにおいてケイ素原子に結合したアルキル基の炭素数は、16以下であることが好ましく、14以下であってもよく、12以下であってもよい。アルキル基含有アルコキシシランにおいて、ケイ素原子に結合したアルキル基は、直鎖状であってもよいし、分岐状であってもよいし、環状であってもよい。
【0036】
アルコキシシランの具体例として、下記式Aで表される化合物も挙げられる。
【0037】
(式A)
CH(CHSiX
【0038】
式A中、nは5~15の整数を表し、Xはメトキシ基またはエトキシ基を表す。式A中のXは、同種であってもよいし、異種であってもよい。
【0039】
アルコキシシランの具体例としては、アルキル基含有アルコキシシラン以外に、ビニル基含有アルコキシシラン、アクリロイル基含有アルコキシシラン、メタクリル基含有アルコキシシラン、芳香族基含有アルコキシシラン、アミノ基含有アルコキシシラン、イソシアネート基含有アルコキシシラン、イソシアヌレート基含有アルコキシシラン、エポキシ基含有アルコキシシラン、メルカプト基含有アルコキシシランなどが挙げられる。アルキル基含有アルコキシシランとしては、例えば、メチルトリメトキシシラン、ジメチルジメトキシシラン、トリメチルメトキシシラン、メチルトリエトキシシラン、ジメチルジエトキシシラン、エチルトリメトキシシラン、n-プロピルトリメトキシシラン、n-プロピルトリエトキシシラン、イソブチルトリメトキシシラン、イソブチルトリエトキシシラン、n-ヘキシルトリメトキシシラン、n-ヘキシルトリエトキシシラン、シクロヘキシルメチルジメトキシシラン、n-オクチルトリエトキシシラン、n-デシルトリメトキシシラン、ヘキサデシルトリメトキシシランなどが挙げられる。アルキル基含有アルコキシシランの中でも、イソブチルトリメトキシシラン、イソブチルトリエトキシシラン、n-ヘキシルトリメトキシシラン、n-ヘキシルトリエトキシシラン、シクロヘキシルメチルジメトキシシラン、n-オクチルトリエトキシシラン、n-デシルトリメトキシシラン、および、ヘキサデシルトリメトキシシランから選ばれる少なくとも1種が好ましく、n-デシルトリメトキシシランおよびヘキサデシルトリメトキシシランの少なくとも1種がより好ましい。アルコキシシランは、1種単独で用いてもよいし、2種以上を併用してもよい。
【0040】
熱伝導性樹脂組成物中の成分cの含有量は、例えば、熱伝導性充填材100質量部に対して、0.1~2.0質量部の範囲とすることができ、0.2~1.0質量部の範囲であってもよい。アルコキシシランを2種以上併用するときは、その合計量が上記含有量の範囲を満たすことが好ましい。
【0041】
<成分d>
本技術に係る熱伝導性樹脂組成物は、成分dとして、分子鎖片末端に2つ以上の水酸基を有するジメチルポリシロキサンを含有する。成分dは、分散剤としても機能する。熱伝導性樹脂組成物は、成分a~成分cに加えて、成分dを含有することにより、上述のように、安価な熱伝導性充填材を用いた場合でも混錬性が良好であり、低粘度とすることができる。また、熱伝導性樹脂組成物は、成分dを含有することにより、柔軟性も良好にすることができ、耐熱信頼性、例えば、高温環境下であっても良好な柔軟性を維持することができる。そして、熱伝導性樹脂組成物は、分散剤としても機能する成分dを含有することにより、成分bである熱伝導性充填材をより高充填することができ、熱伝導性シートとしたときの熱伝導性をより良好にすることができる。
【0042】
成分dは、分子鎖片末端に2つ以上の水酸基を有しており、水酸基を2つ有していてもよいし、3つ有していてもよい。成分dは、下記式1で表されるシロキサン化合物であることが好ましい。
【0043】
(式1)
【化1】
式1中、nは、0~100の整数であり、Rはアルキル基であり、Rはアルキレン鎖またはアルキレンオキサイド鎖であり、R~Rはそれぞれ独立してアルキレン鎖であり、Rは水素原子またはアルキル基である。
【0044】
式1中、nは、1~100の整数であってもよい。
【0045】
式1中、Rであるアルキル基の炭素数は、1~12の範囲であってもよく、1~10の範囲であってもよく、1~8の範囲であってもよく、1~6の範囲であってもよく、1~5の範囲であってもよく、1~4の範囲であってもよい。アルキル基は、直鎖状のアルキル基であってもよいし、分岐鎖状のアルキル基であってもよい。式1中のRの具体例としては、メチル基、エチル基、プロピル基、ブチル基が挙げられる。
【0046】
式1中、Rがアルキレン鎖である場合、アルキレン鎖の炭素数は、2~12の範囲であってもよく、2~10の範囲であってもよく、2~8の範囲であってもよく、2~6の範囲であってもよく、3~10の範囲であってもよく、4~10の範囲であってもよい。また、式1中、Rがアルキレンオキサイド鎖である場合、アルキレンオキサイド鎖を構成するアルキレン鎖の炭素数は、2~12の範囲であってもよく、2~10の範囲であってもよく、2~8の範囲であってもよく、2~6の範囲であってもよく、3~10の範囲であってもよく、4~10の範囲であってもよい。アルキレン鎖は、直鎖状であってもよいし、分岐鎖状であってもよい。また、式1中、Rがアルキレンオキサイド鎖である場合、アルキレンオキサイド鎖を構成する酸素原子数は、1つであってもよく、2つ以上であってもよく、1~3つの範囲であってもよい。式1中のRの具体例としては、炭素数2~4のアルキレン鎖と酸素原子からなるアルキレンオキサイド鎖が挙げられる。
【0047】
式1中、R~Rであるアルキレン鎖の炭素数は1~10の範囲であってもよく、1~8の範囲であってもよく、1~6の範囲であってもよく、1~4の範囲であってもよく、1~3の範囲であってもよい。アルキレン鎖は、直鎖状であってもよいし、分岐鎖状であってもよい。式1中のR~Rの具体例としては、メチレン鎖が挙げられる。
【0048】
式1中、Rがアルキル基である場合、アルキル基の炭素数は、1~10の範囲であってもよく、1~8の範囲であってもよく、1~6の範囲であってもよく、1~4の範囲であってもよく、1~2の範囲であってもよい。アルキル基は、直鎖状であってもよいし、分岐鎖状であってもよい。式1中のRがアルキル基である場合の具体例としては、エチル基が挙げられる。
【0049】
また、成分dは、下記式2で表されるシロキサン化合物であってもよい。
【0050】
(式2)
【化2】
式2中、nは、1以上の整数であり、Rは、アルキル基である。
【0051】
式2中、nは、1~99の整数であってもよい。
【0052】
式2中、Rであるアルキル基の炭素数は、1~10の範囲であってもよく、1~8の範囲であってもよく、1~6の範囲であってもよく、1~5の範囲であってもよく、1~4の範囲であってもよい。アルキル基は、直鎖状のアルキル基であってもよいし、分岐鎖状のアルキル基であってもよい。Rの具体例としては、メチル基、エチル基、プロピル基、ブチル基が挙げられる。
【0053】
成分dは、数平均分子量(Mn)が1000~10000の範囲であってもよく、1000~7000の範囲であってもよく、1000~5000の範囲であってもよい。成分dの数平均分子量は、ゲルパーミエーションクロマトグラフィー(GPC)で測定された値をいう(標準ポリスチレン分子量換算)。
【0054】
成分dの市販品としては、FM-DA11、FM-DA21(以上、JNC社製)、X-22-176DX(信越シリコーン社製)、X-22-176F(信越シリコーン社製)が挙げられる。
【0055】
熱伝導性樹脂組成物中、成分dの含有量は、0.1質量%以上であってもよく、0.2質量%以上であってもよく、0.3質量%以上であってもよく、0.4質量%以上であってもよく、0.5質量%以上であってもよい。また、熱伝導性樹脂組成物中、成分dの含有量は、2質量%以下であってもよく、1.5質量%以下であってもよく、1.3質量%以下であってもよく、1.2質量%以下であってもよく、1.1質量%以下であってもよい。また、熱伝導性樹脂組成物中、成分dの含有量は、0.3~1.2質量%の範囲であってもよい。2種以上の成分dを併用する場合、その合計量が上記範囲を満たすことが好ましい。
【0056】
熱伝導性樹脂組成物は、上述した成分a~成分d以外の成分をさらに含有してもよい。例えば、熱伝導性樹脂組成物は、酸化防止剤として、エステル結合を有するフェノール系酸化防止剤(以下、「成分e」ともいう。)さらに含有してもよく、成分eと硫黄系酸化防止剤(以下、「成分f」ともいう。)を併用してもよい。また、熱伝導性樹脂組成物は、必要に応じて、熱伝導性樹脂組成物や熱伝導性シートの性能をより向上させる目的で、補強材、着色剤、耐熱向上剤、界面活性剤、分散剤、難燃剤、触媒、硬化遅延剤、劣化防止剤、可塑剤などの添加剤をさらに含有していてもよい。
【0057】
<成分e>
耐熱信頼性により優れた熱伝導性樹脂組成物を得る観点では、成分eとして、ヒンダードフェノール系酸化防止剤用いることが好ましい。ヒンダードフェノール系酸化防止剤とは、その活性点であるフェノール性水酸基の2つのオルト位に、それぞれ立体的に嵩高い基(例えばt-ブチル基)が2つ存在する。フェノール系酸化防止剤の具体例としては、ヒンダードフェノール骨格として下記式3で表される構造を有するものが挙げられる。ヒンダードフェノール系酸化防止剤は、下記式3で表される骨格を1つ以上有することが好ましく、下記式3で表される骨格を2つ以上有していてもよい。
【0058】
(式3)
【化3】
【0059】
式3中、RおよびRがt-ブチル基を表し、Rが水素原子を表す場合(ヒンダードタイプ)、Rがメチル基を表し、Rがt-ブチル基を表し、Rが水素原子を表す場合(セミヒンダードタイプ)、Rが水素原子を表し、Rがt-ブチル基を表し、Rがメチル基を表す場合(レスヒンダードタイプ)が好ましい。高温環境下での長期熱安定性の観点からは、セミヒンダードタイプまたはヒンダードタイプが好ましい。また、ヒンダードフェノール系酸化防止剤は、1分子中に、式3で表される骨格を3つ以上有し、3つ以上の式3で表される骨格が、炭化水素基、または、炭化水素基と-O-と-CO-との組み合わせからなる基で連結された構造であることが好ましい。炭化水素基は、直鎖状、分岐鎖状または環状のいずれであってもよい。炭化水素基の炭素数は、例えば3~8とすることができる。ヒンダードフェノール系酸化防止剤の分子量は、例えば300~850とすることができ、500~800とすることもできる。
【0060】
本技術では、ヒンダードフェノール系酸化防止剤が、その構造中に、エステル結合を有するもの、すなわち、エステル結合を有するヒンダードフェノール系酸化防止剤を用いることが好ましい。成分aとして付加反応型シリコーン樹脂を用いる場合、エステル結合を有するヒンダードフェノール系酸化防止剤を用いることにより、付加反応型シリコーン樹脂の酸化をより効果的に防止でき、耐熱信頼性により優れた熱伝導性樹脂組成物が得られやすい。このようなエステル結合を有するヒンダードフェノール系酸化防止剤としては、3-(3,5-ジ-tert-ブチル-4-ヒドロキシフェニル)プロピオン酸ステアリル、テトラキス[3-(3’,5’-ジ-t-ブチル-4’-ヒドロキシフェニル)プロピオン酸]ペンタエリトリトール、2,2’-ジメチル-2,2’-(2,4,8,10-テトラオキサスピロ[5.5]ウンデカン-3,9-ジイル)ジプロパン-1,1’-ジイル=ビス[3-(3-tert-ブチル-4-ヒドロキシ-5-メチルフェニル)プロパノアート]、3,9-ビス[1,1-ジメチル-2-[β-(3-t-ブチル-4-ヒドロキシ-5-メチルフェニル)プロピオニルオキシ]エチル]2,4,8,10―テトラオキサスピロ[5,5]-ウンデカンなどが挙げられる。
【0061】
エステル結合を有するヒンダードフェノール系酸化防止剤の市販品としては、アデカスタブAO-50(3-(3,5-ジ-tert-ブチル-4-ヒドロキシフェニル)プロピオン酸ステアリル)、アデカスタブAO-60(テトラキス[3-(3’,5’-ジ-t-ブチル-4’-ヒドロキシフェニル)プロピオン酸]ペンタエリトリトール)、アデカスタブAO-80(3,9-ビス[1,1-ジメチル-2-[β-(3-t-ブチル-4-ヒドロキシ-5-メチルフェニル)プロピオニルオキシ]エチル]2,4,8,10―テトラオキサスピロ[5,5]-ウンデカン)(以上、ADEKA社製)、Irganox245、Irganox1010(テトラキス[3-(3’,5’-ジ-t-ブチル-4’-ヒドロキシフェニル)プロピオン酸]ペンタエリトリトール)、Irganox1035(2,2-チオ[ジエチルビス-3(3,5-ジ-t-ブチル-4-ヒドロキシフェニル)プロピオネート])、Irganox1076(3-(3,5-ジ-tert-ブチル-4-ヒドロキシフェニル)プロピオン酸ステアリル)、Irganox1135(3-(4-ヒドロキシ-3,5-ジイソプロピルフェニル)プロピオン酸オクチル)(以上、BASF社製)、スミライザーGA-80(2,2’-ジメチル-2,2’-(2,4,8,10-テトラオキサスピロ[5.5]ウンデカン-3,9-ジイル)ジプロパン-1,1’-ジイル=ビス[3-(3-tert-ブチル-4-ヒドロキシ-5-メチルフェニル)プロパノアート])(住友化学社製)などが挙げられる。成分eは、1種単独で用いてもよいし、2種以上を併用してもよい。
【0062】
熱伝導性樹脂組成物が成分eを含有する場合、熱伝導性樹脂組成物中、成分eの含有量は、例えば、熱伝導性樹脂組成物中の成分aの含有量を100質量部としたときに、0.1質量部以上であってもよく、0.5質量部以上であってもよく、1質量部以上であってもよく、2質量部以上であってもよい。また、熱伝導性樹脂組成物中、成分eの含有量は、例えば、熱伝導性樹脂組成物中の成分aの含有量を100質量部としたときに、10質量部以下であってもよく、5質量部以下であってもよく、3質量部以下であってもよく、2質量部以下であってもよい。成分eを2種以上併用するときは、その合計量が上記含有量の範囲を満たすことが好ましい。
【0063】
<成分f>
耐熱信頼性により優れた熱伝導性樹脂組成物を得る観点では、成分fとして、チオエーテル骨格を有するタイプや、ヒンダードフェノール骨格を有するタイプの硫黄系酸化防止剤を用いることができる。例えば、成分fとしては、3,3’-チオビスプロピオン酸ジトリデシル、テトラキス[3-(ドデシルチオ)プロピオン酸]ペンタエリトリトール、4,6-ビス(オクチルチオメチル)-o-クレゾール等が挙げられる。
【0064】
成分fの市販品としては、アデカスタブAO-412S、アデカスタブAO-503(3,3’-チオビスプロピオン酸ジトリデシル、)、アデカスタブAO-26(以上、ADEKA社製)、スミライザーTP-D(住友化学社製)、Irganox1520L(4,6-ビス(オクチルチオメチル)-o-クレゾール)(BASFジャパン社製)などが挙げられる。これらの中でも、より硬化阻害が少ない点から、テトラキス[3-(ドデシルチオ)プロピオン酸]ペンタエリトリトール(市販品:アデカスタブAO-412S、SUMILIZER(登録商標)TP-D)が好ましい。成分fは、1種単独で用いてもよいし、2種以上を併用してもよい。
【0065】
熱伝導性樹脂組成物が成分fを含有する場合、成分eと併用することが好ましく、熱伝導性樹脂組成物中の成分fの含有量を、成分eと同量程度とするか、成分eよりも多くすることが好ましい。例えば、熱伝導性樹脂組成物中、成分fの含有量は、熱伝導性樹脂組成物中の成分aの含有量を100質量部としたときに、0.1質量部以上とすることができ、0.5質量部以上であってもよく、1質量部以上であってもよい。また、熱伝導性樹脂組成物中、成分fの含有量は、熱伝導性樹脂組成物中の成分aの含有量を100質量部としたときに、20質量部以下とすることができ、10質量部以下であってもよく、5質量部以下であってもよい。成分fを2種以上併用するときは、その合計量が上記含有量の範囲を満たすことが好ましい。
【0066】
本技術に係る熱伝導性樹脂組成物は、上述のように、混錬性が良好である。熱伝導性樹脂組成物の混錬性は、後述する実施例に記載の方法で評価できる。
【0067】
本技術に係る熱伝導性樹脂組成物は、かたさが良好である。換言すると、本技術に係る熱伝導性樹脂組成物は、低粘度とすることができる。そのため、本技術に係る熱伝導性樹脂組成物は、例えば、一般的なコータで塗布することが可能である。熱伝導性樹脂組成物のかたさは、後述する実施例に記載の方法で評価した場合に、22N以下とすることができ、21N以下とすることもでき、20N以下とすることもでき、17N以下とすることもでき、15N以下とすることもでき、15N以下とすることもでき、15~21Nの範囲とすることもできる。
【0068】
<熱伝導性シート>
本技術に係る熱伝導性シートは、上述した熱伝導性樹脂組成物の硬化物を含む。本技術に係る熱伝導性シートは、上述した熱伝導性樹脂組成物の硬化物からなるものであってもよい。本技術に係る熱伝導性シートは、高熱伝導化の観点では熱伝導率が高いほど好ましく、例えば、厚み方向の熱伝導率(初期熱伝導率)を4.0W/(m・K)以上とすることができ、4.9W/(m・K)以上とすることもでき、5.0W/(m・K)以上とすることもでき、5.1W/(m・K)以上とすることもでき、5.2W/(m・K)以上とすることもでき、5.3W/(m・K)以上とすることもでき、4.9~6.0W/(m・K)の範囲とすることもでき、5.0~6.0W/(m・K)の範囲とすることもでき、5.0~5.3W/(m・K)の範囲とすることもできる。熱伝導性シートの熱伝導率は、後述する実施例に記載の方法で測定できる。
【0069】
本技術に係る熱伝導性シートは、上述した熱伝導性樹脂組成物を用いるため、柔軟性を良好とすることができる。例えば、本技術に係る熱伝導性シートは、アスカーC硬度を25以下とすることができ、21以下とすることもでき、20以下とすることもでき、19以下とすることもでき、8~24の範囲とすることもできる。熱伝導性シートのアスカーC硬度は、後述する実施例に記載の方法で測定できる。
【0070】
本技術に係る熱伝導性シートは、耐熱信頼性が良好であり、例えば、170℃の環境下に1000時間投入後のアスカーC硬度を70以下とすることができ、59以下とすることもでき、56以下とすることもでき、49以下とすることもでき、30~59の範囲とすることもできる。熱伝導性シートのアスカーC硬度は、後述する実施例に記載の方法で測定できる。
【0071】
本技術に係る熱伝導性シートは、例えば、PET(ポリエチレンテレフタレート)、PEN(ポリエチレンナフタレート)、ポリオレフィン、ポリメチルペンテン、グラシン紙等から形成された剥離フィルム上に、熱伝導性樹脂組成物を所望の厚みで塗布し、加熱することで、成分aを硬化させて得ることができる。熱伝導性シートの厚みは、目的に応じて適宜選択することができ、例えば、0.05~5mmの範囲とすることができる。
【0072】
<電子機器>
本技術に係る熱伝導性シートは、例えば、発熱体と放熱体との間に配置させることにより、発熱体で生じた熱を放熱体に逃がすためにそれらの間に配された構造の電子機器(サーマルデバイス)とすることができる。電子機器は、発熱体と放熱体と熱伝導性シートとを少なくとも有し、必要に応じて、その他の部材をさらに有してもよい。
【0073】
発熱体としては、特に限定されず、例えば、CPU、GPU(Graphics Processing Unit)、DRAM(Dynamic Random Access Memory)、フラッシュメモリなどの集積回路素子、トランジスタ、抵抗器など、電気回路において発熱する電子部品等が挙げられる。また、発熱体には、通信機器における光トランシーバ等の光信号を受信する部品も含まれる。また、発熱体には、上述した熱伝導性樹脂組成物の用途として記載したパワーデバイス等も含まれる。
【0074】
放熱体としては、特に限定されず、例えば、ヒートシンクやヒートスプレッダなど、集積回路素子やトランジスタ、光トランシーバ筐体などと組み合わされて用いられるものが挙げられる。ヒートシンクやヒートスプレッダの材質としては、例えば、銅、アルミニウムなどが挙げられる。放熱体としては、ヒートスプレッダやヒートシンク以外にも、熱源から発生する熱を伝導して外部に放散させるものであればよく、例えば、放熱器、冷却器、ダイパッド、プリント基板、冷却ファン、ペルチェ素子、ヒートパイプ、ベーパーチャンバー、金属カバー、筐体等が挙げられる。ヒートパイプは、例えば、円筒状、略円筒状または扁平筒状の中空構造体である。
【0075】
図1は、熱伝導性シートを適用した半導体装置の一例を示す断面図である。例えば、熱伝導性シート1は、図1に示すように、各種電子機器に内蔵される半導体装置50に実装され、発熱体と放熱体との間に挟持される。図1に示す半導体装置50は、電子部品51と、ヒートスプレッダ52と、熱伝導性シート1とを備え、熱伝導性シート1がヒートスプレッダ52と電子部品51との間に挟持される。熱伝導性シート1が、ヒートスプレッダ52とヒートシンク53との間に挟持されることにより、ヒートスプレッダ52とともに、電子部品51の熱を放熱する放熱部材を構成する。熱伝導性シート1の実装場所は、ヒートスプレッダ52と電子部品51との間や、ヒートスプレッダ52とヒートシンク53との間に限らず、電子機器や半導体装置の構成に応じて、適宜選択できる。ヒートスプレッダ52は、例えば方形板状に形成され、電子部品51と対峙する主面52aと、主面52aの外周に沿って立設された側壁52bとを有する。ヒートスプレッダ52は、側壁52bに囲まれた主面52aに熱伝導性シート1が設けられ、主面52aと反対側の他面52cに熱伝導性シート1を介してヒートシンク53が設けられる。
【実施例0076】
以下、本技術の実施例について説明する。なお、本技術は、これらの実施例に限定されるものではない。
【0077】
<熱伝導性樹脂組成物の作製>
熱伝導性樹脂組成物の作製に用いた原料は、以下の通りである。
【0078】
<付加反応型シリコーン樹脂>
アルケニル基を有するオルガノポリシロキサンと、白金触媒と、ヒドロシリル基を有するオルガノポリシロキサンとの混合物からなる付加反応型シリコーン樹脂
【0079】
<熱伝導性充填材>
球状アルミナ(平均粒子径5~25μm)
不定形アルミナ(平均粒子径0.1~50μm)
球状マグネシア(平均粒子径70~140μm)
結晶相と粒界相を有する不定形マグネシア(平均粒子径60~130μm)
【0080】
<アルコキシシラン>
Z-6210:n-デシルアルコキシシラン(ダウ・東レ社製)、沸点115℃
Dynasylan 9116:ヘキサデシルアルコキシシラン(エボニック・ジャパン社製)
【0081】
<分子鎖片末端に2つ以上の水酸基を有するジメチルポリシロキサン>
FM-DA11:片末端ジオール(JNC社製)、数平均分子量(Mn)1000(下記式4で表される化合物)
FM-DA21:片末端ジオール(JNC社製)、数平均分子量(Mn)2000(下記式4で表される化合物)
X-22-176DX:片末端ジオール(信越シリコーン社製、下記式4で表される化合物)
【0082】
(式4)
【化4】
【0083】
<酸化防止剤>
AO-80:ヒンダードフェノール系酸化防止剤(ADEKA社製)
AO-412S:チオエーテル系酸化防止剤(ADEKA社製)
【0084】
<その他の成分>
FM-0421:片末端カルビノール(JNC社製)
KP-578:アクリルポリマーとジメチルポリシロキサンからなるグラフト共重合体(信越シリコーン社製)
KC-6003:両末端カルビノール(信越化学社製)
FM-9915:両末端シラノール(JNC社製)
ZS-90:重金属不活性化剤(ADEKA社製)
【0085】
<熱伝導性樹脂組成物の作製>
表1に示す各成分からなる熱伝導性樹脂組成物を調製した。攪拌には自転公転式撹拌機を用い、回転数は1200rpmとした。表1中、特記なき場合は実施例または比較例の列に記載された各成分の量は質量部を表す。表1中、「質量部(a)」の欄は、熱伝導性樹脂組成物を構成する各成分の合計質量を表す。また、表1中、「フィラー含有量(質量部)(b)」の欄は、熱伝導性樹脂組成物中の熱伝導性充填材の合計質量を表す。また、表1中、「フィラー質量%(c)=(b)/(a)」の欄は、熱伝導性樹脂組成物中における熱伝導性充填材の割合(質量%)を表す。また、表1中、「不定形フィラー含有量(質量部)(d)」とは、熱伝導性樹脂組成物中の不定形である熱伝導性充填材の合計質量を表す。また、表1中、「不定形フィラーのフィラー中の質量%(e)=(d)/(b)」の欄は、熱伝導性樹脂組成物中における、熱伝導性充填材の合計質量に対する、不定形の熱伝導性充填材の合計質量の割合(質量%)を表す。
【0086】
<熱伝導性シートの作製>
剥離処理を施した100μm厚のPET製ベースフィルムと、剥離処理を施した30μm厚のPET製カバーフィルムの間に熱伝導性樹脂組成物を挟み、厚みが2mmとなるようにバーコーターを通過させて熱伝導性シートの前駆体を得た。この前駆体を80℃で6時間加熱することで硬化させ、熱伝導性シートを得た。
【0087】
<混錬性>
熱伝導性樹脂組成物の混錬性は、目視で判断した。具体的には、混錬した組成物に光沢があるか、気泡はないか、粒子が凝集しないかを目視で判断した。熱伝導性樹脂組成物の混錬性が良好であった場合、すなわち、混錬した組成物に光沢があり、気泡がなく、粒子が凝集していない場合をOKと評価し、それ以外の場合をNGと評価した。結果を表1に示す。
【0088】
<かたさ>
卓上型物性測定器(山電社製、型番:TPU-2D)を用いて、テクスチャー測定モードにて、プランジャー(円柱型、直径16mm、高さ25mm、接触面積直径16mm、サンプル高さ13mm)、クリアランス設定:2.0mm、測定速度5mm/secの条件で熱伝導性樹脂組成物の最大荷重値(N)を熱伝導性樹脂組成物のかたさとして評価した。結果を表1に示す。塗工性の観点では、熱伝導性樹脂組成物のかたさは22N以下であることが好ましい。
【0089】
<初期熱伝導率>
ASTM-D5470に準拠した熱抵抗測定装置を用いて、荷重1kgf/cmをかけて熱伝導性シートの厚み方向の初期熱伝導率(W/(m・K))を測定した。測定時のシート温度は25℃であった。結果を表1に示す。実用上、熱伝導性シートの初期熱伝導率は、4.0W/(m・K)以上であることが好ましい。
【0090】
<柔軟性(アスカーC硬度)>
熱伝導性シートの柔軟性として、熱伝導性シートのアスカーC硬度をJIS K7312の規格に準じて測定した。具体的には、温度25℃の条件下で、デュロメータ(高分子計器社製;商品名「アスカーゴム硬度計C型」)を用いてアスカーC硬度の測定を行った。結果を表1に示す。熱伝導性シートのアスカーC硬度は、密着性や作業性の観点では25以下であることが好ましい。
【0091】
<耐熱信頼性(アスカーC硬度)>
熱伝導性シートの耐熱信頼性として、170℃、1000時間の超耐熱試験後の熱伝導性シートのアスカーC硬度を測定した。すなわち、170℃の環境下に1000時間投入後の熱伝導性シートのアスカーC硬度をJIS K7312の規格に準じて測定した。具体的には、温度25℃の条件下で、170℃の環境下に1000時間投入後の熱伝導性シートを、25℃で1時間静置後、デュロメータ(高分子計器社製;商品名「アスカーゴム硬度計C型」)を用いてアスカーC硬度の測定を行った。結果を表1に示す。170℃の環境下に1000時間投入後の熱伝導性シートのアスカーC硬度は、熱伝導性や柔軟性の維持の観点では、70以下であることが好ましく、59以下がより好ましい。
【0092】
【表1】
【0093】
実施例1~8では、付加反応型シリコーン樹脂と、熱伝導性充填材と、アルコキシシランと、分子鎖片末端に2つ以上の水酸基を有するジメチルポリシロキサンとを含有する熱伝導性樹脂組成物を用いることにより、耐熱信頼性が良好であることが分かった。具体的には、実施例1~8の熱伝導性樹脂組成物を用いた熱伝導性シートは、高温下に置いても柔軟性が良好であることが分かった。
【0094】
また、実施例1~8の熱伝導性樹脂組成物を用いた熱伝導性シートは、初期熱伝導率も良好であることが分かった。さらに、実施例1~8の熱伝導性樹脂組成物は、かたさも良好であることが分かった。そして、実施例1~8の熱伝導性樹脂組成物は、混錬性も良好であることが分かった。
【0095】
比較例1~4,6では、付加反応型シリコーン樹脂と、アルコキシシランとを含有し、かつ、分子鎖片末端に2つ以上の水酸基を有するジメチルポリシロキサンを含有しない熱伝導性樹脂組成物を用いたため、耐熱信頼性を良好にするのが困難であることが分かった。具体的には、比較例1~4,6の熱伝導性樹脂組成物を用いた熱伝導性シートは、高温下に置くと柔軟性が良好ではないことが分かった。
【0096】
また、比較例1の熱伝導性樹脂組成物は、耐熱信頼性を良好にするのが困難であることに加えて、かたさが良好ではないことが分かった。また、比較例1の熱伝導性樹脂組成物を用いた熱伝導性シートは、高温下に置く前も柔軟性が良好ではないことが分かった。
【0097】
また、比較例2では、熱伝導性樹脂組成物のかたさも良好ではないことが分かった。
【0098】
また、比較例3では、熱伝導性樹脂組成物の混錬性が良好ではなく、熱伝導性シートを作製するのが困難であることが分かった。そのため、比較例3では、熱伝導性樹脂組成物の混錬性以外の評価を行うことができなかった。
【0099】
また、比較例4では、熱伝導性シートを高温下に置く前も柔軟性が良好ではないことが分かった。
【0100】
また、比較例6では、熱伝導性樹脂組成物のかたさも良好ではないことが分かった。また、比較例6では、熱伝導性シートを高温下に置く前の柔軟性も良好ではないことが分かった。
【0101】
比較例5では、付加反応型シリコーン樹脂と、熱伝導性充填材と、分子鎖片末端に2つ以上の水酸基を有するジメチルポリシロキサンとを含有し、かつ、アルコキシシランを含有しない熱伝導性樹脂組成物を用いたため、耐熱信頼性を良好にするのが困難であることが分かった。具体的には、比較例5の熱伝導性樹脂組成物を用いた熱伝導性シートは、高温下に置くと柔軟性が良好ではないことが分かった。また、比較例5では、熱伝導性シートを高温下に置く前の柔軟性も良好ではないことが分かった。さらに、比較例5では、熱伝導性シートの初期熱伝導率も良好ではないことが分かった。
【符号の説明】
【0102】
1 熱伝導性シート、
50 半導体装置、
51 電子部品、
52 ヒートスプレッダ、
52a 主面、
52b 側壁、
52c 他面、
53 ヒートシンク
図1