(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2025114186
(43)【公開日】2025-08-05
(54)【発明の名称】エンボス加工用の金型およびエンボス加工品の製造方法
(51)【国際特許分類】
B29C 33/42 20060101AFI20250729BHJP
B29C 59/02 20060101ALI20250729BHJP
【FI】
B29C33/42
B29C59/02 Z
【審査請求】未請求
【請求項の数】5
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2024008712
(22)【出願日】2024-01-24
(71)【出願人】
【識別番号】000119232
【氏名又は名称】株式会社イノアックコーポレーション
(74)【代理人】
【識別番号】110002424
【氏名又は名称】ケー・ティー・アンド・エス弁理士法人
(72)【発明者】
【氏名】田中 良
【テーマコード(参考)】
4F202
4F209
【Fターム(参考)】
4F202AA04
4F202AA31
4F202AB02
4F202AC03
4F202AF01
4F202AG03
4F202AG05
4F202AH26
4F202AK09
4F202AR07
4F202AR12
4F202CA19
4F202CB01
4F202CK12
4F202CN01
4F202CN18
4F209AD17
4F209AD20
4F209AF01
4F209AG02
4F209AG03
4F209AG05
4F209AH26
4F209PA02
4F209PB01
4F209PC06
4F209PG05
4F209PG06
4F209PN03
4F209PN06
4F209PQ11
(57)【要約】
【課題】エンボス加工品の意匠性を向上させる新規のエンボス加工用の金型および金型を用いたエンボス加工品の製造方法を提供する。
【解決手段】エンボス加工用の金型は、基板と、前記基板から突出する意匠用凸部と、前記基板から突出し、前記意匠用凸部を囲う枠部と、を備え、前記枠部の前記基板からの突出長さ(L1)と、前記意匠用凸部の前記基板からの最大突出長さ(L2)は、L1≧L2を満足する。
【選択図】
図3
【特許請求の範囲】
【請求項1】
基板と、
前記基板から突出する意匠用凸部と、
前記基板から突出し、前記意匠用凸部を囲う枠部と、
を備え、
前記枠部の前記基板からの突出長さ(L1)と、前記意匠用凸部の前記基板からの最大突出長さ(L2)は、L1≧L2を満足する、
エンボス加工用の金型。
【請求項2】
前記枠部は、先端が前記基板と平行である、
請求項1に記載のエンボス加工用の金型。
【請求項3】
前記枠部は、前記意匠用凸部を連続的に囲う、
請求項1に記載のエンボス加工用の金型。
【請求項4】
請求項1から3に記載のエンボス加工用の金型を用い、樹脂シートを熱圧縮してエンボス加工を行う、
エンボス加工品の製造方法。
【請求項5】
前記樹脂シートは、表皮材層及び発泡樹脂層を備える、
請求項4に記載のエンボス加工品の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、エンボス加工用の金型およびエンボス加工品の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
特許文献1は、表皮材と発泡体を積層した樹脂シートに金型を押圧して意匠加工を施すエンボス加工方法を開示している。
【0003】
このエンボス加工方法では、金型は、加熱した樹脂シートを押圧する。これにより、樹脂シートの表皮材は、金型の外表面の形状にあわせて溶融し変形するとともに、発泡体は熱圧縮され、樹脂シートの表面に凹凸模様を含む意匠が表れる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
このようなエンボス加工方法では、樹脂シートの表面に表れる凹凸模様の意匠性を向上させるために、金型は、樹脂シートに対して平行な姿勢を保って、均等に樹脂シートを押圧することが好ましい。
【0006】
本開示の課題は、エンボス加工品の意匠性を向上させる新規のエンボス加工用の金型および金型を用いたエンボス加工品の製造方法を提供することである。
【0007】
本開示の一態様に係るエンボス加工用の金型は、基板と、前記基板から突出する意匠用凸部と、前記基板から突出し、前記意匠用凸部を囲う枠部と、を備え、前記枠部の前記基板からの突出長さ(L1)と、前記意匠用凸部の前記基板からの最大突出長さ(L2)は、L1≧L2を満足する、エンボス加工用の金型である。
【0008】
さらに本開示の他の態様に係るエンボス加工品の製造方法は、本開示の一態様に係るエンボス加工用の金型を用い、樹脂シートを熱圧縮してエンボス加工を行う。
【発明の効果】
【0009】
本開示によれば、エンボス加工品の意匠性を向上させる新規のエンボス加工用の金型およびエンボス加工品の製造方法を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【
図2】金型の第1実施形態を示す下面図および断面図。
【
図5】金型を用いたエンボス加工品の製造方法を示す説明図。
【
図6】金型を用いたエンボス加工品の製造方法を示す説明図。
【
図7】金型を用いたエンボス加工品の製造方法を示す説明図。
【発明を実施するための形態】
【0011】
まず、
図1から
図3を用いて、本開示の一実施形態による金型1と金型1を使用するエンボス加工品の製造装置Mについて説明する。
【0012】
製造装置Mは、樹脂シートSに意匠の凹凸模様を表わすエンボス加工を施しエンボス加工品を製造する。エンボス加工品は、例えば、車両のシート、ドアトリム、インストルメントパネルなどの車両用内装部材を覆う表面材として使用される。
【0013】
図1に示すように、製造装置Mは、エンボス加工用の金型1と、金型1に対向して配置される基台3と、金型1を移動させるアクチュエータ5と、加熱部7と、を備える。
【0014】
図2(a)に示すように、金型1は、基板10と、枠部11と、枠部11に囲われた意匠用凸部12と、を備える。
【0015】
基板10は、例えば、幅方向(
図2(a)の矢印X方向)および奥行方向(
図2(a)の矢印Y方向)の大きさが1000mm以上2000mm以下、上下方向(
図2(b)の矢印Z方向)の大きさが50mm以上100mm以下の板状である。
【0016】
図2(b)に示すように、基板10は、基台3(
図1を参照)に対向する第1面10aと、第1面10aの反対側の第2面10bと、を含む。
【0017】
図2(a)に示すように、枠部11は、第1直線部11aと、第1直線部11aと交差する第2直線部11bと、第1直線部11aと第2直線部11bを接続する角部11cと、を含む。本実施形態の枠部11は、平行な2つの第1直線部11aと、平行な2つの第2直線部11bと、4つの角部11cとを含む環状の形状を有する。
【0018】
これに限らず、枠部11は、環状の一部が途切れた形状であってもよい。例えば、枠部11の第1直線部11aおよび第2直線部11bの一部は、途切れた形状であってもよい。
【0019】
枠部11は、水平方向(
図2(a)の矢印X方向および矢印Y方向)において、基板10の外縁10cと意匠用凸部12の間に配置され、意匠用凸部12を囲う。枠部11は、例えば、水平方向において、基板10の外縁10cから10mm以上50mm以下の距離を置いて配置される。
【0020】
第1直線部11aの幅d1および第2直線部11bの幅d2は、例えば、3mm以上10mm以下である。第1直線部11aの幅d1および第2直線部11bの幅d2は、枠部11の全域にわたって一定であってもよいし、異なっていてもよい。
【0021】
図2(b)に示すように、枠部11は、基板10の第1面10aから突出する。
【0022】
図3に示すように、枠部11は、さらに、基部11dと、基部11dの先端に設けられる頂面11eと、を含む。基部11dは、例えば、基板10の第1面10aに対して垂直に形成される。頂面11eは、基板10の第1面10aに対して平行である。
【0023】
これに限らず、基部11dは、基板10の第1面10aに対して傾斜して形成されてもよい。基部11dは、例えば、基板10の第1面10aに対して3度以上7度以下の傾斜を有してもよい。なお、基部11dの第1面10aに対する傾斜角度は、適宜変更可能である。
【0024】
枠部11の第1面10aからの突出長さL1は、上下方向(
図3の矢印Z方向)における基板10の第1面10aから頂面11eまでの距離である。突出長さL1は、例えば、5mm以上50mm以下である。本実施形態では、枠部11の突出長さL1は、枠部11の全域にわたって一定である。すなわち、突出長さL1は、第1直線部11a、第2直線部11bおよび角部11c(いずれも
図2(a)を参照)のいずれにおいても一定である。
【0025】
図2(a)に示すように、意匠用凸部12は、水平方向(
図2(a)の矢印X方向および矢印Y方向)において、基板10の中央部10dに配置され、枠部11に囲われる。意匠用凸部12は、例えば、水平方向において、枠部11の内縁11fから10mm以上50mm以下の距離を置いて配置される。
【0026】
意匠用凸部12は、樹脂シートSを押圧して、樹脂シートSに意匠の凹凸模様を形成する。
図2(b)に示すように、意匠用凸部12は、枠部11と同様に、基板10の第1面10aから突出する。意匠用凸部12の形状および数量は、樹脂シートSに形成されるべき意匠に応じて設計される。本実施形態では、樹脂シートSに形成されるべき意匠が4本の平行線であるため、金型1は4本の平行な意匠用凸部12を有する。
【0027】
図3に示すように、意匠用凸部12は、基部12aと、基部12aの先端に設けられる頂面12bと、を含む。
【0028】
基部12aは、基板10の第1面10aに対して垂直に形成されることが好ましい。これに限らず、基部12aは、基板10の第1面10aに対して傾斜して形成されてもよい。基部12aは、例えば、基板10の第1面10aに対して3度以上7度以下の傾斜を有してもよい。なお、基部12aの第1面10aに対する傾斜角度は、適宜変更可能である。
【0029】
頂面12bは、エンボス加工品に表す凹凸模様の意匠に対応した形状であり、平面または曲面に形成されてもよい。なお、基部12aおよび頂面12bは、従来公知のエンボス加工用金型の構成を適用可能である。
【0030】
意匠用凸部12の第1面10aからの最大突出長さL2は、上下方向(
図4の矢印Z方向)における基板10の第1面10aから頂面12bまでの距離のうち、最大となる距離である。本実施形態では、頂面12bが基板10の第1面10aに平行である。そのため、頂面12bのどの箇所においても基板10の第1面10aから頂面12bまでの距離は同じである。ただし、樹脂シートSに形成されるべき意匠によっては、頂面12bが基板の第1面10aから傾斜している、あるいは、頂面12bが曲面であることにより、基板10の第1面10aから頂面12bまでの距離が複数の数値を取り得ることがある。最大突出長さL2は、これらの最大となる距離である。意匠用凸部12の最大突出長さL2は、枠部11の突出長さL1との関係において、L1≧L2を満足する。本実施形態では、意匠用凸部12の最大突出長さL2は枠部11の突出長さL1と等しい。最大突出長さL2は、枠部11の突出長さL1と同様に、例えば、10mm以上50mm以下である。
【0031】
図1に示すように、基台3は、金型1に対向する第1面30aを有する基板30と、樹脂シートSが載置される載置部31と、基板30の第1面30aから突出する複数の凸部32と、を含む。
【0032】
載置部31は、水平方向(
図1の矢印X方向)において、第1面30aの中央部30bに設けられる。載置部31は、金型1の意匠用凸部12と対向する。
【0033】
凸部32は、水平方向(
図1の矢印X方向)において、第1面30aの外縁部30cに設けられる。凸部32は、金型1の基板10に当接することにより、金型1の基板10と基台3の基板30の間の距離を適切に維持するスペーサである。
【0034】
凸部32は、基部32aと、基部32aの先端に設けられる頂面32bと、を含む。基部32aは、基板30の第1面30aに対して垂直に形成される。頂面32bは、基板30の第1面30aに対して平行である。
【0035】
凸部32の第1面30aからの突出長さL3は、上下方向(
図2の矢印Z方向)における基板30の第1面30aから頂面32bまでの距離である。突出長さL3は、金型1の枠部11の突出長さL1との関係において、L3≧L1を満足する。また、突出長さL3は、金型1の意匠用凸部12の最大突出長さL2との関係においても同様に、L3≧L2を満足する。突出長さL3は、例えば、12mm以上60mm以下である。突出長さL3は、凸部32の全域にわたって一定である。
【0036】
アクチュエータ5は、金型1を上下方向(
図1の矢印Z方向)に沿って移動させ、金型1と基台3の間の距離を変更する。
【0037】
アクチュエータ5は、金型1の第2面10bの中央部10dに設けられ、金型1を空中に吊った状態で移動させる。アクチュエータ5は、例えば、油圧シリンダである。
【0038】
アクチュエータ5は、金型1を、実線で示した初期位置と破線で示した押圧位置の間で移動させる。
【0039】
初期位置において、金型1と基台3は離間して配置される。すなわち、金型1の枠部11の頂面11eおよび意匠用凸部12の頂面12bは、基台3の凸部32の頂面32bに対して完全に非接触である。
【0040】
押圧位置において、金型1の第1面10aは、基台3の凸部32の頂面32bと接触する。金型1の枠部11の頂面11eと基台3の第1面30aは、隙間h1が生じてもよい。また、金型1の意匠用凸部の頂面12bと基台3の第1面30aは、隙間h2が生じる。
【0041】
本実施形態では、押圧位置において、金型1の枠部11の頂面11eと基台3の第1面30aの間には隙間h1が生じ、金型1の意匠用凸部12の頂面12bと基台3の第1面30aの間には隙間h2が生じる。さらに、隙間h1と隙間h2は等しい。
【0042】
加熱部7は、金型1、基台3または樹脂シートSを加熱する。本実施形態の加熱部7は、金型1および基台3と一体に設けられ、金型1および基台3を加熱する電熱ヒーターである。
【0043】
次に、
図4から
図8を用いて、製造装置Mによるエンボス加工品の製造方法について説明する。製造方法は、樹脂シートSを製造装置Mに配置する工程S1と、金型1を移動させる工程S2と、樹脂シートSを金型1で押圧する工程S3と、を備える。
【0044】
まず、工程S1では、樹脂シートSを用意する。
【0045】
図4は、樹脂シートSの積層構造を示した断面図である。
図4に示すように、樹脂シートSは、発泡樹脂層21と、発泡樹脂層21に積層される表皮材層22と、を含む。
【0046】
発泡樹脂層21は、発泡樹脂材料で形成されたシート状である。発泡樹脂材料は、例えば、軟質ポリウレタンフォーム、ポリエチレンフォーム、EVAフォーム等を選択可能である。発泡樹脂層81は、1種類または複数の種類の発泡樹脂材料で形成されてもよく、複数の発泡樹脂材料を積層してもよい。
【0047】
本実施形態の発泡樹脂層21は、軟質ポリウレタンフォームで形成され、厚み(
図4の矢印Z方向)が1.3mm以上30mm以下のシート状である。さらに、発泡樹脂層81の厚みは、10mm以上とすることが好ましい。
【0048】
表皮材層22は、樹脂シートSひいてはエンボス加工品の意匠面を形成する。表皮材層22は、発泡樹脂層21より薄肉に形成され、厚み(
図4の矢印Z方向)が0.5mm以上3mm以下のシート状である。
【0049】
表皮材層22は、エンボス加工による凹凸模様が形成される表面層22aと、表面層22aと発泡樹脂層21の間に設けられる着色樹脂層22bと、を含む。
【0050】
表面層22aは、可撓性および伸縮性を有する編布や織布、不織布等の繊維を主体とする繊維製のシートや、合成皮革や天然皮革等で形成されたシートである。
【0051】
繊維製のシートは、例えば、トリコット、ジャージ、ダブルラッセル等の編布、伸縮性を有する弾性繊維を有する繊維で形成された織布・不織布、多数のエンボス部が形成された不織布原反を延伸加工して伸縮性を付与したもの、繊維を螺旋状に捲縮し伸縮性に優れたニードルパンチ不織布などを選択可能である。
【0052】
また、繊維製のシートは、例えば、木綿や麻、羊毛等の天然繊維や、レーヨンやアセテート、ポリアミド、ポリアクリロニトリル、ポリエチレンテレフタレート、ビニロン等の合成繊維を選択可能である。
【0053】
さらに、合成皮革のシートは、編布や織布、不織布等で形成された基材にポリ塩化ビニルや熱硬化性のポリウレタン等の合成樹脂を含侵・塗布する従来公知の方法により形成することができる。
【0054】
着色樹脂層22bは、着色剤や顔料で色彩を付与された熱可塑性の合成樹脂により形成される。合成樹脂は、特に限定されるものではなく、ポリエチレンやポリ塩化ビニル、ポリエチレンテレフタレート、その他の従来公知の熱可塑性の合成樹脂を選択可能である。
【0055】
着色樹脂層22bの厚み(
図4の矢印Z方向)は、表面層22aの厚みの4分の1以上2倍以下に形成されてもよい。着色樹脂層22bの厚みは、例えば、表面層22aの厚みの2分の1以上1.5倍以下である。
【0056】
なお、本実施形態の樹脂シートSは、発泡樹脂層21と表皮材層22とを含む場合を例に説明したが、本開示はこれに限定されない。樹脂シートSは、発泡樹脂層21の表皮材層22とは反対側にさらに基布を積層してもよい。基布は、伸縮性の少ない織布や不織布で形成されてもよい。
【0057】
さらに、
図5に示すように、工程S1では、樹脂シートSが基台3の載置部31に配置される。樹脂シートSは、発泡樹脂層21が基台3の第1面30aに面するように配置される。これにより、樹脂シートSの表皮材層22は、金型1の意匠用凸部12に対向する。
【0058】
また、工程S1では、加熱部7は、基台3、ひいては基台3に配置された樹脂シートSを加熱してもよい。樹脂シートSの発泡樹脂層81は、例えば、150℃以上190℃以下に加熱され、表皮材層82は、例えば、50℃以上200℃以下に加熱される。なお、加熱部7は、基台3とともに金型1を加熱してもよい。
【0059】
次に、工程S2では、アクチュエータ5が金型1を初期位置から押圧位置(いずれも
図2を参照)まで移動させる。
【0060】
図6は、アクチュエータ5による金型1の移動の様子を示した説明図である。
図6(a)はアクチュエータ5による移動中の金型1の状態を示した模式図である。
【0061】
図6(a)に示すように、アクチュエータ5は、金型1の基板10の中央部10dに設けられる。金型1は、基板10の中央部10dをアクチュエータ5によって吊られている。このため、金型1の中央部10dはアクチュエータ5によって保持される一方で、金型1の外縁10cは左右上下に変位可能となる。これにより、金型1は、アクチュエータ5が設けられた中央部10dを中心に水平方向(
図6(a)の矢印X方向)および上下方向(
図6(a)の矢印Z方向)に回転または傾斜する場合がある。
【0062】
図6(a)では、金型1が中央部10dを中心に上下方向に傾斜する場合を黒矢印で示す。金型1は、例えば、破線で示した水平方向(
図6(a)の矢印X方向)に対して平行な姿勢である水平状態W0に対して、傾斜角度θでわずかに傾斜した姿勢Wで移動する。なお、傾斜角度θの大きさは、アクチュエータ5による金型1の移動に伴い変化する。
【0063】
姿勢Wで移動する金型1の水平状態W0に対する上下方向(
図6(a)の矢印Z方向)の変位量は、アクチュエータ5ひいては中央部10dからの距離が大きくなるに従って増大する。すなわち、金型1が傾斜角度θで傾斜した金型1では、枠部11における変位量は、意匠用凸部12における変位量より大きくなる。
【0064】
図6(a)の第1位置P1は枠部11の頂面11eを示し、第2位置P2は意匠用凸部12の頂面12bの位置を示す。変位量b1は、第1位置P1における水平状態W0に対する上下方向(
図6(a)の矢印Z方向)の変位量を示す。変位量b2は、第2位置P2における水平状態W0に対する上下方向の変位量を示す。変位量b1と変位量b2は、b1≧b2を満足する。すなわち、金型1の第1位置P1は、第2位置P2より下方に位置した状態で移動する。
【0065】
図6(b)は、金型1が傾斜角度θで傾斜した姿勢Wのまま押圧位置(
図1を参照)付近まで到達し、樹脂シートSと接触する様子を示す。
図6(b)に示すように、金型1の第1位置P1は、第2位置P2に先んじて樹脂シートSに到達する。すなわち、金型1の枠部11の頂面11eは、意匠用凸部12の頂面12bより先に樹脂シートSに到達する。
【0066】
枠部11の頂面11eが樹脂シートSに接する際、金型1は傾斜角度θを有して傾斜するため、枠部11の頂面11eもまた樹脂シートSに対して傾斜角度θを有して傾斜する。このため、枠部11の頂面11eの外縁11gが、最初に樹脂シートSに接触する。
【0067】
枠部11の頂面11eの外縁11gが樹脂シートSに接触した後、アクチュエータ5は、金型1をさらに下方(
図6(b)の矢印Zの反対方向)に移動させる。これにより、枠部11には、上方(
図6(b)の矢印Z方向)から押圧する力と、樹脂シートSとの接触箇所から受ける反力が作用する。
【0068】
これにより、
図6(b)に黒矢印で示すように、枠部11の外縁11gは、樹脂シートS上を、金型1の外側に向けて滑る。このため、枠部11の頂面11eは、樹脂シートSに対して水平となる。この結果、枠部11は、樹脂シートSに対して垂直となり、ひいては、金型1全体が傾斜角度θで傾斜した姿勢Wから水平状態W0へ調整される。
【0069】
アクチュエータ5は、金型1の水平状態W0を保ったまま、金型1を押圧位置(
図1を参照)まで移動させる。
【0070】
図6では、矢印X方向に対して傾斜する場合を例に説明したが、金型1は、幅方向、奥行方向および上下方向(それぞれ
図2の矢印X、Y,Z方向を参照)のいずれか、または、全てに対して傾斜した姿勢Wであっても、枠部11の頂面11eが意匠用凸部12に先んじて樹脂シートSに接触する。これにより、枠部11は、樹脂シートS上を滑りながら移動し、金型1の姿勢を水平状態W0へと調整する。この結果、金型1は、樹脂シートSに対して、意匠用凸部12を垂直に接触させ、押圧位置(
図1を参照)に到達することができる。
【0071】
図7および
図8は、押圧位置において金型1が樹脂シートSを押圧する様子を示した模式図である。
図7および
図8に示すように、工程S3では、金型1は、樹脂シートSを押圧し、樹脂シートSを熱圧縮する。金型1の意匠用凸部12は、加熱された樹脂シートSを上方(
図7の矢印Z方向)から押圧する。
【0072】
図8に示すように、樹脂シートSの表皮材層22には意匠用凸部12の頂面12bが垂直に押し当てられる。これにより、表皮材層22は溶融しながら意匠用凸部12の頂面12bおよび基部12aの一部の表面形状にあわせて変形する。さらに、樹脂シートSの発泡樹脂層21もまた意匠用凸部12の頂面12bに押圧され熱圧縮される。これにより、樹脂シートSの意匠用凸部12で押圧された箇所における厚み(
図8の矢印Z方向)は、押圧位置における金型1の意匠用凸部12の頂面12bと基台3の第1面30aの間に生じる隙間h2と等しくなる。この結果、樹脂シートSには、意匠用凸部12で押圧された箇所とそれ以外の箇所で金型1の意匠用凸部12に対応した凹凸模様が形成される。
【0073】
工程S3では、金型1は水平状態W0に保ったまま、樹脂シートSを押圧する。これにより、意匠用凸部12の頂面12bは、樹脂シートSを頂面12bの全域で均等に押圧することができる。このため、樹脂シートSは、意匠用凸部12によって均等に熱圧縮され、意匠用凸部12の表面形状に対応する凹凸模様が明瞭かつ均等に形成される。この結果、樹脂シートSに凹凸模様を施した意匠性の高いエンボス加工品を得ることができる。
【0074】
最後に、アクチュエータ5は、金型1を初期位置まで移動させる。以上により、エンボス加工品を得る。エンボス加工品は、その中央領域に意匠用凸部12により形成された凹凸模様を有し、中央領域を囲む周囲領域に枠部11により形成された凹部を有する。周囲領域が中央領域から除去されることにより凹凸模様を有する製品が形成される。
<金型の第2実施形態>
【0075】
次に、
図9を用いて、本開示の第2実施形態である金型101について説明する。なお、金型1と共通する構成については説明を省略する。
図9に示すように、金型101は、枠部111を備える。枠部111は、第1直線部11aと第2直線部11bを接続するアール部111cを有する。
【0076】
アール部111cは、第1直線部111aと第2直線部111bを滑らかに接続する円弧形状である。これにより、アール部111cが最初に樹脂シートSに到達したときに、アール部111cが樹脂シートS上を滑らかに滑る。
【0077】
本開示のエンボス加工用の金型1(101)は、基板10と、基板10から突出する意匠用凸部12と、基板10から突出し、意匠用凸部12を囲う枠部11(111)と、を備え、枠部11(111)の基板10からの突出長さL1と、意匠用凸部12の基板10からの最大突出長さL2は、L1≧L2を満足する。
【0078】
これにより、金型1(101)は、水平状態W0に対して傾斜角度θで傾斜しながら基台3に接触する際に、意匠用凸部12に先んじて枠部11(111)を基台3の第1面30aに接触させることができる。枠部11(111)は、基台3の第1面30a上を滑りながら移動し、金型1(101)全体を水平状態W0へと調整することができる。この結果、金型1(101)は、意匠用凸部12を樹脂シートSに対して垂直に接触させ、均等に押圧することができる。
【0079】
さらに、枠部11(111)は、先端が基板10と平行である。
【0080】
これにより、枠部11(111)は、基台3の第1面30aに接触すると、第1面30a上を滑りながら、枠部11(111)の頂面11eと第1面30aが平行になるように移動する。これにより、枠部11(111)全体を基台3に対して垂直な状態とし、ひいては、金型1(101)全体を水平状態W0へと調整することができる。
【0081】
また、枠部11(111)は、意匠用凸部12を連続的に囲う。
【0082】
これにより、枠部11(111)は、金型1(101)が水平状態W0に対して上下左右のいずれに傾斜した状態でも、意匠用凸部12に先んじて基台3の第1面30aに接触することができる。
【0083】
さらに、エンボス加工品の製造方法は、エンボス加工用の金型1(101)を用い、樹脂シートSを熱圧縮してエンボス加工を行う。
【0084】
これにより、金型1(101)は、水平状態W0に対して傾斜しながら基台3に接触しても、意匠用凸部12に先んじて枠部11(111)を基台3の第1面30aに接触させることができる。枠部11(111)は、基台3の第1面30a上を滑りながら移動し、金型1(101)全体を水平状態W0へと調整することができる。この結果、金型1(101)は、意匠用凸部12を樹脂シートSに対して垂直に接触させ、均等に押圧することができる。
【0085】
以上の通り、本開示によれば、エンボス加工品の意匠性を向上させる新規のエンボス加工用の金型1(101)および金型1(101)を用いたエンボス加工品の製造方法を提供することができる。
【0086】
以上、本開示の実施形態について説明したが、本開示は上記実施形態に限定されるものではなく、発明の要旨を逸脱しない範囲で種々の変更が可能である。特に、本明細書に書かれた複数の変形例は必要に応じて任意に組合せ可能である。
【符号の説明】
【0087】
1(101):金型 10:基板 11(111):枠部 12:意匠用凸部
M:製造方法 S:樹脂シート