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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2025114222
(43)【公開日】2025-08-05
(54)【発明の名称】把持装置および制御方法
(51)【国際特許分類】
   B25J 19/06 20060101AFI20250729BHJP
   H02P 8/38 20060101ALI20250729BHJP
【FI】
B25J19/06
H02P8/38
【審査請求】未請求
【請求項の数】6
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2024008782
(22)【出願日】2024-01-24
(71)【出願人】
【識別番号】000114215
【氏名又は名称】ミネベアミツミ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100114890
【弁理士】
【氏名又は名称】アインゼル・フェリックス=ラインハルト
(74)【代理人】
【識別番号】100116403
【弁理士】
【氏名又は名称】前川 純一
(74)【代理人】
【識別番号】100162880
【弁理士】
【氏名又は名称】上島 類
(72)【発明者】
【氏名】宇野 寿一
(72)【発明者】
【氏名】中澤 一瑛
【テーマコード(参考)】
3C707
5H580
【Fターム(参考)】
3C707ES03
3C707ET08
3C707EU05
3C707EW07
3C707HS27
3C707MS25
3C707NS17
5H580AA03
5H580BB06
5H580CA02
5H580CA12
5H580CA16
5H580CB03
5H580FA14
5H580FA22
5H580FD13
5H580GG04
5H580HH22
5H580HH23
5H580HH39
5H580JJ02
5H580JJ09
(57)【要約】
【課題】把持した対象物の脱落を防止する。
【解決手段】把持装置1は、対象物200を把持するための把持部7と、把持部7をモータ5の回転力に応じて駆動するとともに、モータ5の通電が停止した状態において把持部7の移動を制限するセルフロック機能を有する駆動機構6と、モータ5を駆動するモータ駆動制御装置2と、を備える。モータ駆動制御装置2は、把持部7の駆動を指示する情報を含む駆動指令信号Scが入力された場合に、把持部7が対象物200を把持するようにモータ5を駆動し、モータ5の脱調が検出された場合に、脱調の検出前にモータ5に供給した電流より小さい電流をモータ5に供給して、モータ5のロータ50を固定する。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
モータと、
対象物を把持するための把持部と、
前記モータの回転力に応じて前記把持部を駆動するとともに、前記モータの通電が停止した状態において前記把持部の移動を制限するセルフロック機能を有する駆動機構と、
前記モータを駆動するモータ駆動制御装置と、を備え、
前記モータ駆動制御装置は、駆動制御信号に基づいて前記モータに電流を供給することにより前記モータを駆動する駆動回路と、駆動指令信号に基づいて前記駆動制御信号を生成する制御回路とを有し、
前記制御回路は、
前記駆動制御信号を生成する駆動制御信号生成部と、
前記モータの脱調を検出する脱調検出部と、を含み、
前記駆動制御信号生成部は、前記把持部の駆動を指示する情報を含む前記駆動指令信号が入力された場合に、前記把持部が前記対象物を把持するように前記把持部を駆動する前記駆動制御信号を生成し、前記脱調検出部によって前記モータの脱調が検出された場合に、前記モータのロータを固定するように、前記脱調の検出前に前記モータに供給した電流より小さい電流を前記モータに供給する前記駆動制御信号を生成する
把持装置。
【請求項2】
請求項1に記載の把持装置において、
前記モータは、2相のコイルを有するステッピングモータであって、
前記駆動制御信号生成部は、前記2相のコイルをともに励磁する2相励磁方式により前記駆動制御信号を生成することにより、前記ロータを固定する
把持装置。
【請求項3】
請求項2に記載の把持装置において、
前記駆動制御信号生成部は、前記脱調検出部によって前記脱調が検出された場合に、前記2相励磁方式により前記ロータを1ステップ分回転させた後に、前記ロータを固定する
把持装置。
【請求項4】
請求項1に記載の把持装置において、
前記制御回路は、
前記把持部による前記対象物の把持の有無を判定する把持判定部を更に有し、
前記駆動制御信号生成部は、
前記モータに供給する電流を測定する電流測定部と、
前記モータに供給する電流の基準となる電流基準値を第1値に設定し、前記脱調検出部によって前記脱調が検出された場合に前記電流基準値を前記第1値よりも小さい第2値に設定する電流基準値設定部と、
信号出力部と、を含み、
前記信号出力部は、前記電流測定部によって測定された電流が前記電流基準値を超えないように所定の周期のPWM信号を生成して前記駆動制御信号として出力し、
前記把持判定部は、前記ロータを固定するように前記駆動制御信号が生成されている状態において、1周期の前記PWM信号のデューティ比の、当該1周期より前の周期の前記PWM信号のデューティ比に対する変化量が閾値より大きい場合に、前記把持部による前記対象物の把持が解除されたと判定する
把持装置。
【請求項5】
請求項4に記載の把持装置において、
前記把持判定部は、
前記PWM信号のデューティ比を測定するデューティ比測定部と、
複数の前記周期における前記デューティ比の平均値を算出する平均デューティ比算出部と、
前記デューティ比の平均値と前記デューティ比との差分を算出する差分算出部と、
前記ロータを固定するように前記駆動制御信号が生成されている状態において、前記差分と前記閾値とを比較し、前記差分が前記閾値より大きい場合に、前記把持部による前記対象物の把持が解除されたと判定する判定部と、を含む
把持装置。
【請求項6】
モータと、対象物を把持するための把持部と、前記モータの回転力に応じて前記把持部を駆動するとともに、前記モータの通電が停止した状態において前記把持部が移動することを制限するセルフロック機能を有する駆動機構と、前記モータを駆動するモータ駆動制御装置とを備えた把持装置の制御方法であって、
前記把持部が前記対象物を把持するように前記モータを駆動する第1ステップと、
前記第1ステップによって前記モータを駆動しているときに、前記モータの脱調の有無を判定する第2ステップと、
前記第2ステップにおいて前記脱調が検出された場合に、前記第1ステップによって前記モータを駆動するときに前記モータに供給する電流より小さい電流を前記モータに供給することにより、前記モータのロータを固定する第3ステップと、を含む
制御方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、把持装置および制御方法に関する。
【背景技術】
【0002】
製造現場等では、機械部品や電子部品等の対象物(ワーク)を把持する電動グリッパ等の把持装置が用いられている。一般に、電動グリッパは、対象物を把持する把持部と、モータと、モータの回転力に応じて把持部を駆動する駆動機構とを備えている。
【0003】
近年、セルフロック機能を有する駆動機構を備えた電動グリッパが増えつつある。セルフロック機能は、モータの通電が停止した状態において把持部の移動を制限する機能である(特許文献1参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2020-104188号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、従来の電動グリッパでは、セルフロック機能によって対象物を把持する力が時間の経過とともに低下し、対象物が把持部から脱落するおそれがある。
【0006】
本発明は、上述した課題に鑑みてなされたものであり、把持した対象物の脱落を防止することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明の代表的な実施の形態に係る把持装置は、モータと、対象物を把持するための把持部と、前記モータの回転力に応じて前記把持部を駆動するとともに、前記モータの通電が停止した状態において前記把持部の移動を制限するセルフロック機能を有する駆動機構と、前記モータを駆動するモータ駆動制御装置と、を備え、前記モータ駆動制御装置は、駆動制御信号に基づいて前記モータに電流を供給することにより前記モータを駆動する駆動回路と、駆動指令信号に基づいて前記駆動制御信号を生成する制御回路とを有し、前記制御回路は、前記駆動制御信号を生成する駆動制御信号生成部と、前記モータの脱調を検出する脱調検出部と、を含み、前記駆動制御信号生成部は、前記把持部の駆動を指示する情報を含む前記駆動指令信号が入力された場合に、前記把持部が前記対象物を把持するように前記把持部を駆動する前記駆動制御信号を生成し、前記脱調検出部によって前記モータの脱調が検出された場合に、前記モータのロータを固定するように、前記脱調の検出前に前記モータに供給した電流より小さい電流を前記モータに供給する前記駆動制御信号を生成することを特徴とする。
【発明の効果】
【0008】
本発明に係る把持装置によれば、把持した対象物の脱落を防止することが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
図1】実施の形態に係る把持装置の構成を模式的に示す図である。
図2】実施の形態に係る把持装置におけるモータおよびモータ駆動制御装置の構成を模式的に示す図である。
図3】実施の形態に係る把持装置における制御回路の構成を示すブロック図である。
図4】モータのロータを固定させたときのモータの周辺の等価回路を示す図である。
図5】実施の形態に把持装置によって対象物を把持するときのモータ駆動制御装置による処理の流れを示すフローチャートである。
図6】実施の形態に把持装置によって対象物を把持した後のモータ駆動制御装置による処理の流れを示すフローチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下、本発明の実施の形態の具体例について図を参照して説明する。なお、以下の説明において、各実施の形態において共通する構成要素には同一の参照符号を付し、繰り返しの説明を省略する。また、図面は模式的なものであり、各要素の寸法の関係、各要素の比率などは、現実と異なる場合があることに留意する必要がある。図面の相互間においても、互いの寸法の関係や比率が異なる部分が含まれている場合がある。
【0011】
図1は、実施の形態に係る把持装置1の構成を模式的に示す図である。
【0012】
図1において、互いに直交するX軸、Y軸およびZ軸からなる三次元座標系(XYZ直交座標系)が設定され、把持装置1が当該三次元座標系に配置された場合が一例として示されている。なお、図面の紙面に対して垂直な座標軸であるY軸について、座標軸の丸の中に黒丸印を示す場合は紙面に対して手前側が正方向であることを示している。図1において、X軸方向は、後述する把持部7が対象物200を把持または解放するために移動する方向である。
【0013】
把持装置1は、例えば、機械部品や電子部品等のワークを対象物として把持し、所望の位置に搬送して取り付けるために用いられる装置であり、所謂電動グリッパである。具体的には、把持装置1は、後述する指部9_1と指部9_2の間に対象物200を把持する。
【0014】
図1に示すように、把持装置1は、把持部7、駆動機構6、モータ5、およびモータ駆動制御装置2を備えている。
【0015】
把持部7は、対象物200を把持するための機構である。把持部7は、モータ5の回転力を動力として動作可能に構成されている。把持部7は、例えば、移動部8_1,8_2と指部9_1,9_2とを有している。移動部8_1,8_2は、後述する駆動機構6に連結され、駆動機構6によってX軸方向に相対移動可能に構成されている。すなわち、移動部8_1と移動部8_2とは、X軸方向において互いに逆向きに移動する。
【0016】
指部9_1,9_2は、移動部8_1,8_2の移動により、対象物200を把持または解放する。指部9_1,9_2は、移動部8_1,8_2からZ軸方向の正側に突出するように配置されている。指部9_1,9_2は、例えば、板状に形成されている。
指部9_1の一端側は、図示されない保持機構(例えばねじ等)によって移動部8_1に固定され、指部9_2の一端側は、図示されない保持機構(例えばねじ等)によって移動部8_2に固定されている。詳細は後述するが、指部9_1,9_2は、移動部8_1,8_2のX方向の移動に伴ってX方向に移動することにより、指部9_1,9_2のそれぞれの他端側において、対象物200を把持または解放する。
【0017】
なお、図1において、把持装置1が対象物200を把持する際の基準となる位置を中心位置Pとする。
【0018】
モータ5は、把持部7を駆動するための動力源である。モータ5は、例えば、ステッピングモータである。モータ5は、後述するように、モータ駆動制御装置2から電力が供給されて動作する。本実施の形態では、一例として、モータ5がA相およびB相のコイルを有する2相ステッピングモータであるとする。なお、モータ5の構成の詳細については後述する。
【0019】
駆動機構6は、モータ5の回転力を把持部7に伝達することにより把持部7を駆動する機構である。駆動機構6は、例えば、歯車、ウォームギヤ、およびカム等の機械部品(不図示)が組み合わさって構成されている。駆動機構6は、モータ5の出力軸と把持部7の移動部8_1,8_2との間に接続されている。駆動機構6は、モータ5の回転運動を直線運動に変換する。すなわち、駆動機構6は、モータ5の回転力に応じて、移動部8_1および移動部8_2をX軸方向に相対移動させる。
【0020】
駆動機構6は、モータ5の通電が停止した状態において把持部7の移動を制限するセルフロック機能を有している。具体的には、駆動機構6は、モータ5の通電が停止した状態において、移動部8_1,8_2が把持している対象物200を解放する方向、すなわち移動部8_1,8_2が互いに離れる方向に移動することを制限する。例えば、駆動機構6は、公知のウォームギヤを用いた反転防止機構によりセルフロック機能を実現している。
【0021】
上述したように、駆動機構6は、モータ5から伝達された回転運動を、駆動機構6に連結された把持部7の移動部8_1,8_2(指部9_1,9_2)をX軸方向に移動させる直線運動に変換する。例えば、モータ5が所定の方向に回ったとき、駆動機構6は、移動部8_1をX軸方向の正側に移動し、移動部8_2をX軸方向の負側に移動する。すなわち、移動部8_1と移動部8_2とは、中心位置Pに向かって互いに近づく方向に移動する。これにより、移動部8_1と移動部8_2との間隔が狭くなり、移動部8_1に固定された指部9_1と移動部8_2に固定された指部9_2との間に対象物200を挟んで把持することが可能となる。
【0022】
また、例えば、モータ5が所定の方向と反対方向に回ったとき、駆動機構6は、移動部8_1がX軸方向の負側に移動し、移動部8_2がX軸方向の正側に移動する。すなわち、移動部8_1と移動部8_2とは、中心位置Pから互いに遠ざかる方向に移動する。これにより、移動部8_1と移動部8_2との間隔が広くなるので、移動部8_1に固定された指部9_1と移動部8_2に固定された指部9_2との間で把持されていた対象物200を解放することが可能となる。
【0023】
なお、把持部7による対象物200の把持は、指部9_1と指部9_2との間に対象物200を挟む方法に限定されない。例えば、対象物200が環状である場合には、環状の対象物200の内周側に指部9_1,9_2を夫々挿入し、対象物200の内周側から外周側に向かって指部9_1,9_2を互いに遠ざける方向に移動させることによって、対象物200を把持してもよい。
【0024】
モータ駆動制御装置2は、モータ5を駆動する装置である。以下、モータ5およびモータ駆動制御装置2の構成について、図を用いて説明する。
【0025】
図2は、実施の形態に係る把持装置1におけるモータ5およびモータ駆動制御装置2の構成を模式的に示す図である。
【0026】
上述したように、モータ5は、2相ステッピングモータである。図2に示されるように、モータ5は、例えば、ロータ50と、A相のコイル51aと、B相のコイル51bと、2相のステータ(図示せず)とを有している。
【0027】
コイル51a,51bは、それぞれ、ステータ(不図示)を励磁する素子である。コイル51aは、正極の端子APと負極の端子ANを有する。コイル51bは、正極の端子BPと負極の端子BNとを有する。コイル51aの端子APおよび端子ANと、コイル51bの端子BPおよび端子BNとは、駆動回路4を構成するインバータ回路40a,40bにそれぞれ接続されている。
【0028】
コイル51a,51bは、インバータ回路40a,40bによって駆動される。これにより、コイル51a,51bには、互いに位相が異なる電流Ia,Ibが流れる。例えば、コイル51a,51bには、互いに位相が90度ずれた電流Ia,Ibが流れる。
【0029】
なお、以下の説明において、コイル51aとコイル51bとを区別しない場合には、単に、「コイル51」と表記する。
【0030】
ロータ50は、円周方向に沿って、S極50sとN極50nとが交互に反転するように、単極または多極着磁された永久磁石を備えている。なお、図2では、一例として、ロータ50が2極である場合が示されている。
【0031】
ステータ(不図示)は、ロータ50の周囲に、ロータ50の外周部に近接して配置されている。ロータ50は、コイル51a,51bのそれぞれに流れる電流Ia,Ibの位相が周期的に切り替えられることにより、回転する。ロータ50には、出力軸(不図示)が接続されており、ロータ50の回転力により、出力軸が駆動される。出力軸には駆動機構6が連結されている。
【0032】
図2に示すように、モータ駆動制御装置2は、例えば,上位装置100との間で通信を行う。モータ駆動制御装置2は、上位装置100から受信した駆動指令信号Scに基づいて、モータ5の各相のコイル51a,51bの通電状態を制御することにより、モータ5の回転および停止を制御して、把持装置1全体の動作を制御する。モータ駆動制御装置2がモータ5を駆動することにより、上述したように、モータ5の出力軸に接続された駆動機構6を介してモータ5の回転力が把持部7に伝達される。これにより、把持部7による対象物200の把持と解放が制御される。
【0033】
図2に示すように、モータ駆動制御装置2は、例えば、制御回路3と駆動回路4とを含む。
【0034】
制御回路3は、上位装置100から送信された駆動指令信号Scに基づいて、モータ5のA相のコイル51aを励磁するための駆動制御信号Sdaと、モータ5のB相のコイル51bを励磁するための駆動制御信号Sdbとをそれぞれ生成して駆動回路4に供給することにより、モータ5を目標回転位置まで回転させる。以下の説明において、駆動制御信号Sdaと駆動制御信号Sdbとを区別しない場合には、駆動制御信号Sdaおよび駆動制御信号Sdbを「駆動制御信号Sd」と表記する。なお、制御回路3の詳細については後述する。
【0035】
駆動回路4は、駆動制御信号Sdに基づいてモータ5に電流を供給することによりモータ5を駆動する回路である。駆動回路4は、例えば、インバータ回路40a,40b、電流検出回路41a,41b、および電圧検出回路42を含む。
【0036】
インバータ回路40a,40bは、駆動制御信号Sda,Sdbに基づいて、モータ5に駆動電力を供給する。インバータ回路40a,40bは、例えば、駆動対象のコイル51a,51b毎に対応して設けられている。例えば、図2に示すように、A相のコイル51aを駆動するためのインバータ回路40aとB相のコイル51bを駆動するためのインバータ回路40bとが設けられている。インバータ回路40a,40bは、例えば、Hブリッジ回路によって構成されている。
【0037】
図2に示すように、インバータ回路40aは、A相のコイル51aの正極の端子APとコイル51aの負極の端子ANとに接続されている。インバータ回路40bは、B相のコイル51bの正極の端子BPとコイル51bの負極の端子BNとに接続されている。
【0038】
インバータ回路40aは、制御回路3から出力された駆動制御信号Sdaに基づいて、端子APと端子ANとの間に電圧Vaを印加することにより、コイル51aに電流Iaを流す。インバータ回路40bは、制御回路3から出力された駆動制御信号Sdbに基づいて、端子BPと端子BNとの間に電圧Vbを印加することにより、コイル51bに電流Ibを流す。
【0039】
例えば、図2に示すように、A相のコイル51aの端子APから端子ANに電流+Iaを流す“A相(+)励磁期間”には、インバータ回路40aが、例えば、コイル51aの端子ANに対して端子APに“+Va”の電圧を印加する。一方、A相のコイル51aの端子ANから端子APに電流-Iaを流す“A相(-)励磁期間”には、インバータ回路40aが、コイル51aの端子ANに対して端子APに“-Va”の電圧を印加する。B相のコイル51bの端子BPから端子BNに電流+Ibを流す“B相(+)励磁期間”には、インバータ回路40bが、例えば、コイル51bの端子BNに対して端子BPに“+Vb”の電圧を印加する。B相のコイル51bの端子BNから端子BPに電流-Ibを流す“B相(-)励磁期間”には、インバータ回路40bが、コイル51bの端子BNに対して端子BPに“-Vb”の電圧を印加する。
【0040】
電流検出回路41a,41bは、コイル51a,51bに流れる電流Ia,Ibを検出する回路である。電流検出回路41a,41bは、例えば、シャント抵抗を含む。シャント抵抗は、例えば、コイル51a,51b毎に設けられ、インバータ回路40a,40bのグラウンド電位側または電源電圧側にインバータ回路40a,40bと直列に接続される。A相側の電流検出回路41aは、シャント抵抗の両端の電圧をA相のコイル電流Iaの測定値を表す電流検出信号Siaとして出力する。B相側の電流検出回路41bは、シャント抵抗の両端の電圧をB相のコイル電流Ibの測定値を表す電流検出信号Sibとして出力する。
【0041】
電圧検出回路42は、モータ5のコイル51a,51bの電圧を検出する回路である。例えば、電圧検出回路42は、A相のコイル51aにおける正極の端子APおよび負極の端子ANの電圧をそれぞれ検出し、制御回路3に入力可能な大きさの電圧Vap,Vanにそれぞれ変換して出力する。同様に、電圧検出回路42は、B相のコイル51bにおける正極の端子BPおよび負極の端子BNの電圧をそれぞれ検出し、制御回路3に入力可能な大きさの電圧Vbp,Vbnにそれぞれ変換して出力する。電圧検出回路42は、例えば、抵抗分圧回路等の公知の回路を含んで構成されている。なお、電圧検出回路42から出力される電圧Vap,Van,Vbp,Vbnを総称して電圧Vbefと表記する場合がある。
【0042】
なお、電圧検出回路42は、アナログ/デジタル変換回路を有していてもよい。例えば、電圧検出回路42は、検出した電圧Vap,Van,Vbp,Vbnをデジタル信号にそれぞれ変換して出力してもよい。
【0043】
制御回路3は、上位装置100からの駆動指令信号Scに基づいて、モータ5の駆動を制御するため駆動制御信号Sdを生成する回路である。ここで、駆動指令信号Scは、モータ5の目標とする状態を指示する情報を含む。例えば、駆動指令信号Scは、モータ5の回転速度を指定する情報、およびモータ5の目標となる回転角度(目標回転位置)を指定する情報等を含む。目標回転位置を指定する情報は、例えば、目標回転位置までの移動量(目標移動量)に相当するモータ5の駆動ステップ数(パルス数)を指定する情報であってもよい。
【0044】
制御回路3は、例えば、CPU(Central Processing Unit)等のプロセッサ、ROM(Read Only Memory)やRAM(Random Access Memory)等の各種メモリ、タイマ、カウンタ、A/D変換回路、入出力I/F回路、およびクロック生成回路等の構成要素(ハードウェア要素)を有し、各構成要素がバスや専用線を介して互いに接続されたプログラム処理装置(例えば、マイクロコントローラ:MCU(Micro Control Unit))である。制御回路3は、メモリとして、例えば、フラッシュメモリやEEPROM(Electrically Erasable Programmable Read-Only Memory)等の書き換え可能な不揮発性の記憶装置を有している。例えば、上記不揮発の記憶装置に対して、後述する、電流基準値Ithとして設定可能な第1値I1および第2値I2、脱調判定閾値Vth、および把持判定閾値dDth等が書き換え可能になっている。
【0045】
なお、本実施の形態において、制御回路3は、例えば、IC(集積回路)としてパッケージ化されているが、これに限られるものではない。なお、制御回路3と駆動回路4とが一つにパッケージ化されていてもよい。
【0046】
制御回路3は、モータ5のコイル51a,51bの通電を切り替えることにより、把持部7による対象物200を把持する動作と対象物200を解放する動作を制御する機能を有している。また、制御回路3は、対象物200を把持した状態において、モータ5のロータ50を固定するようにモータ5を制御することにより、駆動機構6のセルフロック機能を補助する機能を有している。更に、制御回路3は、駆動制御信号SdとしてのPWM信号のデューティ比の変化を監視することにより、把持部7による対象物200の把持の有無を判定する機能を有している。以下、これらの機能を実現するための制御回路3の具体的な構成例について、図3を用いて説明する。
【0047】
図3は、実施の形態に係る把持装置1における制御回路3の構成を示すブロック図である。
【0048】
制御回路3は、上述した各機能を実現するための機能ブロックとして、駆動制御信号生成部12、脱調検出部17、把持判定部18、および記憶部23を有している。これらの機能ブロックは、例えば、上述したMCU内のプロセッサが、メモリに記憶されているプログラムに従って各種演算を実行するとともに、タイマおよびカウンタ、A/D変換回路および入出力I/F回路等の周辺回路を制御することによって、実現される。なお、これらの機能ブロックの一部または全部が専用のハードウェア回路によって実現されていてもよい。また、制御回路3は、上記機能に加えて、他の機能を実現するための機能ブロックを有していてもよい。
【0049】
記憶部23は、制御回路3による把持装置1の統括的な制御に必要なデータ等を記憶するための機能部である。例えば、記憶部23には、モータ5のコイル51の通電切替の基準となる電流基準値Ithに関する情報である第1値I1および第2値I2と、モータ5の脱調の発生を検出するための基準となる脱調判定閾値Vthの情報と、把持部7による対象物200の把持の有無を判定するための基準となる把持判定閾値dDthの情報等が記憶されている。なお、これらの情報の詳細については、後述する。
【0050】
脱調検出部17は、モータ5の脱調を検出する機能部である。
具体的には、脱調検出部17は、記憶部23に記憶されている脱調判定閾値Vthとモータ5のコイル51a,51bにおいて発生した逆起起電圧とに基づいて、モータ5の脱調が発生したか否かを判定する。脱調検出部17は、モータ5の脱調を検出した場合に、脱調検出信号Szを出力する。
【0051】
ここで、脱調検出部17による脱調判定に用いるモータ5のコイル51a,51bの逆起電圧の測定方法について説明する。
【0052】
一般に、ステッピングモータが回転しているとき、非励磁相のコイルには逆起電圧が発生する。例えば、1相励磁方式によってステッピングモータを駆動する場合、A相のコイル51aが励磁されているA相励期間では、非励磁相であるB相のコイル51bに逆起電圧が発生する。一方、B相のコイル51bが励磁されているB相励磁期間では、非励磁相であるA相のコイル51aに逆起電圧が発生する。
【0053】
そこで、脱調検出部17は、A相のコイル51aが非励磁である期間において、電圧検出回路42によって検出された電圧Vap,Vanに基づいて、端子APと端子ANの間の電圧をコイル51aの逆起電圧Vapnとして監視する。同様に、脱調検出部17は、B相のコイル51bが非励磁である期間において、電圧検出回路42によって検出された電圧Vbp,Vbnに基づいて、端子BPと端子BNの間の電圧をコイル51bの逆起電圧Vbpnとして監視する。
【0054】
一般に、ステッピングモータにおいて、脱調が発生した場合に非励磁のコイルに発生する逆起電圧は、ステッピングモータが正常に動作している場合に非励磁のコイルに発生する逆起電圧に比べて小さくなる。そこで、脱調検出部17は、逆起電圧Vapn,Vbpnと記憶部23に記憶されている脱調判定閾値Vthとを比較する。脱調検出部17は、逆起電圧Vapn,Vbpnが脱調判定閾値Vthより小さい場合に、モータ5の脱調が発生していると判定して脱調検出信号Szを出力し、逆起電圧Vapn,Vbpnが脱調判定閾値Vth以上である場合に、モータ5の脱調が発生していないと判定する。
【0055】
なお、脱調検出部17による脱調の判定方法は上述の例に限定されず、その他の公知の手法を採用することもできる。例えば、モータ5の駆動中にモータ5の回転速度を監視し、回転速度が所定の閾値より低くなった場合に、脱調が発生したと判定してもよい。
【0056】
駆動制御信号生成部12は、駆動制御信号Sd(Sda,Sdb)を生成する機能部である。駆動制御信号生成部12は、駆動指令信号Scに基づいて、モータ5のロータ50を目標回転位置(目標移動量)まで移動させるために、所定の励磁方式に基づく所定のタイミングでA相のコイル51aおよびB相のコイル51bの励磁と非励磁とを切り替えるように、駆動制御信号Sda,Sdbを生成する。ここで、所定の励磁方式とは、例えば、1相励磁方式、1-2相励磁方式、2相励磁方式、およびマイクロステップ方式のうち何れか一つである。
【0057】
駆動制御信号生成部12は、把持部7の駆動を指示する駆動指令信号Scが入力された場合に、把持部7が対象物200を把持するように把持部7を駆動する駆動制御信号Sda,Sdbを生成する。
【0058】
また、駆動制御信号生成部12は、脱調検出部17によってモータ5の脱調が検出された場合に、モータ5のロータ50を固定するように、脱調の検出前にモータ5に供給した電流より小さい電流をモータ5に供給する駆動制御信号Sda,Sdbを生成する。具体的には、駆動制御信号生成部12は、脱調検出部17によって脱調が検出された場合に、例えば、2相のコイル51a,51bをともに励磁する2相励磁方式により駆動制御信号Sda,Sdbを生成して、モータ5のロータ50を固定する。例えば、駆動制御信号生成部12は、脱調検出部17によって脱調が検出された場合に、2相励磁方式によりロータ50を1ステップ分回転させた後に、ロータ50を固定する。ここで、1ステップは、モータ5の駆動のための制御単位である。
【0059】
ここで、駆動制御信号Sda,Sdbは、例えば、PWM信号である。本実施の形態において、PWM信号の1周期、すなわち、一つのPWM信号が生成される周期を「PWM周期」とも称する。
【0060】
駆動制御信号生成部12は、例えば、駆動指令取得部13、電流基準値設定部14、電流測定部15、および信号出力部16を有している。
【0061】
駆動指令取得部13は、上位装置100から送信された駆動指令信号Scに含まれる情報を取得して解析し、信号出力部16に対して指示を与える機能部である。例えば、対象物200の把持を指示する情報を含む駆動指令信号Scが制御回路3に入力された場合に、駆動指令取得部13は、モータ5を所定の方向に回転させるように駆動制御信号Sdを生成することを電流基準値設定部14および信号出力部16に指示する。また、例えば、対象物200の解放を指示する情報を含む駆動指令信号Scが制御回路3に入力された場合に、駆動指令取得部13は、モータ5を所定の方向と反対の方向に回転させるように駆動制御信号Sdを生成することを電流基準値設定部14および信号出力部16に指示する。
【0062】
更に、脱調検出部17によって脱調が判定された場合に、駆動指令取得部13は、モータ5のロータ50を固定することを指示することを、電流基準値設定部14および信号出力部16に指示する。例えば、対象物200の把持を指示する情報を含む駆動指令信号Scが制御回路3に入力され、モータ5を所定の方向に回転させるように駆動制御信号Sdを生成することを指示した後に、脱調検出信号Szが出力された場合に、駆動指令取得部13は、後述する電流基準値Ithを第2値I2に変更することを電流基準値設定部14に指示するとともに、ロータ50を固定することを信号出力部16に指示する。
【0063】
電流測定部15は、電流検出回路41a,41bから出力された電流検出信号Sia,Sibに基づいて、各相のコイル電流Ia,Ibの測定値を算出して出力する機能部である。例えば、電流検出信号Sia,Sibがアナログ信号である場合、電流測定部15は、電流検出信号Siaの電圧をデジタル値に変換し、A相のコイル電流Iaの測定値として出力する。また、電流測定部15は、電流検出信号Sibの電圧をデジタル値に変換し、B相のコイル電流Ibの測定値として出力する。電流測定部15は、例えば、PWM周期毎に、A相のコイル電流Iaの測定値とB相のコイル電流Ibの測定値とをそれぞれ出力する。
【0064】
なお、電流検出回路41a,41bから出力される電流検出信号Sia,Sibがデジタル値である場合には、電流測定部15は、電流検出信号Sia,Sibとしてのデジタル値をコイル電流Ia,Ibの測定値として出力すればよい。
【0065】
電流基準値設定部14は、モータ5に供給する電流(各相のコイル電流Ia,Ib)の基準となる電流基準値Ithを設定する機能部である。
例えば、モータ5を所定の方向またはその反対の方向に回転させるように駆動制御信号Sdを生成することを駆動指令取得部13から指示された場合に、電流基準値設定部14は、電流基準値Ithを第1値I1に設定する(Ith=I1)。第1値I1の情報は、例えば、記憶部23に記憶されている。
【0066】
なお、電流基準値設定部14は、把持装置1(制御回路3)の起動時に、第1値I1を電流基準値Ithの初期値として設定してもよい。
【0067】
また、電流基準値設定部14は、脱調検出部17によってモータ5の脱調が検出された場合に、電流基準値Ithを第1値I1よりも小さい第2値I2に設定する(Ith=I2)。第2値I2は、例えば、第1値I1と同様に記憶部23に記憶されている。ここで、第2値I2は、例えば、第1値I1の10分の1以下に設定することが好ましい。例えば、第1値I1が500mAである場合、第2値I2は30mAに設定してもよい。
【0068】
信号出力部16は、駆動指令取得部13からの指示に応じて、所定の周期のPWM信号を生成し、駆動制御信号Sdとして出力する。具体的には、モータ5を所定の方向またはその反対の方向に回転させることを駆動指令取得部13から指示された場合には、所定の励磁方式に基づいて周期的に励磁相が切り替わる(コイル51a,51bが転流する)ように、駆動制御信号Sda,Sdbを生成する。また、モータ5のロータ50を固定することを駆動指令取得部13から指示された場合には、2相励磁方式により、ロータ50が回転しないように、2相のコイル51a,51bをともに励磁する駆動制御信号Sda,Sdbを生成する。
【0069】
具体的には、信号出力部16は、以下に示す方法により、駆動制御信号Sdを生成する。
信号出力部16は、PWM周期毎に、電流測定部15によって取得したコイル電流Ia,Ibの測定値と、電流基準値設定部14によって設定された電流基準値Ithとを比較する。例えば、A相励磁期間において、信号出力部16は、1つのPWM周期が開始されたタイミングで、コイル電流Iaの測定値と電流基準値Ithとの比較処理を開始する。コイル電流Iaの測定値が電流基準値Ithより低い場合に、信号出力部16は、駆動制御信号Sdaを第1論理レベル(例えば、ハイレベル)にし、コイル電流Iaの測定値が電流基準値Ith以上となった場合に、信号出力部16は、駆動制御信号Sdaを第1論理レベルの反対の第2論理レベル(例えば、ローレベル)にする。その後、信号出力部16は、そのPWM周期が終了するまで、コイル電流Iaの測定値と電流基準値Ithの大小関係に関わらず、駆動制御信号Sdaを第2論理レベルに維持する。そして、一つのPWM周期が終了し、次のPWM周期が開始されたとき、信号出力部16は、再びコイル電流Iaの測定値と電流基準値Ithの比較処理を開始して次の周期の駆動制御信号Sda(PWM信号)を生成する。
【0070】
B相励磁期間においても同様に、信号出力部16は、PWM周期毎にコイル電流Ibの測定値と電流基準値Ithとの比較処理を行うことにより、駆動制御信号SdbとしてのPWM信号を生成する。
【0071】
このように、信号出力部16は、各相のコイル電流Ia,Ibと電流基準値Ithとの比較処理を各相のPWM周期毎に繰り返し行うことにより、駆動制御信号Sda,SdbとしてPWM信号をそれぞれ生成する。インバータ回路40aは、例えば、入力された駆動制御信号Sdaが第1論理レベル(例えばハイレベル)であるときに駆動対象のコイル51aを励磁し、駆動制御信号Sdaが第2論理レベル(例えばローレベル)であるときに駆動対象のコイル51aを励磁せずに回生させる。同様に、インバータ回路40bは、例えば、入力された駆動制御信号Sdbが第1論理レベル(例えばハイレベル)であるときに駆動対象のコイル51bを励磁し、駆動制御信号Sdbが第2論理レベル(例えばローレベル)であるときに駆動対象のコイル51bを励磁せずに回生させる。
これにより、モータ5のコイル電流Ia,Ibが電流基準値Ithを超えないように制限しながら、モータ5を駆動することができる。
【0072】
把持判定部18は、把持部7による対象物200の把持の有無を判定する機能部である。把持判定部18は、駆動制御信号Sda,SdbとしてのPWM信号のデューティ比の変化量に基づいて、把持部7による対象物200の把持の有無を判定する。
【0073】
以下、把持判定部18による、対象物200の把持の有無の判定方法について説明する。
【0074】
図4は、モータ5のロータ50を固定させたときのモータ5の周辺の等価回路を示す図である。
【0075】
図4には、一例として、A相のコイルLaの周辺の等価回路が示されている。図4において、LaはA相のコイル51aのインダクタンスを表し、Raはコイル51aの抵抗成分を表し、VaはコイルLa間の電圧を表し、EはコイルLaにおいて発生する逆起電圧を表している。
【0076】
上述したように、対象物200を把持した後、駆動制御信号生成部12は、2相励磁方式によりA相のコイル51aおよびB相のコイル51bを励磁してロータ50を固定(ロック)するとともに、コイル電流Ia,Ibが電流基準値Ith(=I2)を超えないように(一定になるように)、駆動制御信号Sda,Sdbを生成する。ロータ50が固定されている期間では、A相のコイル51aにおいてコイル電流Iaが変化しないため、逆起電圧が発生しない(E=0)。したがって、以下の式(1)が成立する。
【0077】
【数1】
【0078】
上述したように、ロータ50が固定されている期間では、モータ5が2相励磁されている。そのため、把持している対象物200が脱落した場合には、ロータ50の位置が変化し、コイル51a,51bに逆起電圧が発生する。一方で、この期間において、コイル電流Iaは、電流基準値Ith(=I2)を超えないように(一定になるように)制御されている。そのため、把持している対象物200が脱落した場合であってもコイル電流Iaが一定に保たれることにより、以下の式(2)が成立する。
【0079】
【数2】
【0080】
ここで、駆動制御信号Sdaのデューティ比をDxとし、インバータ回路40a,40bに供給される電源電圧をVsourceとしたとき、コイル51a間の電圧Vaは、下記式(3)で表される。
【0081】
【数3】
【0082】
上記式(2)および式(3)により、駆動制御信号Sdaのデューティ比Dxは下記式(4)によって表される。
【0083】
【数4】
【0084】
上述したように、対象物200が把持されているときは逆起電圧E=0であり、把持している対象物200が脱落したときは逆起電圧E≠0となる。したがって、式(4)より、対象物200の脱落の前後において逆起電圧Eが変化することにより、駆動制御信号Sdaのデューティ比Dxが変化することが理解される。
【0085】
そこで、把持判定部18は、ロータ50を固定するように駆動制御信号Sda,SdbとしてのPWM信号が生成されている状態において、1周期のPWM信号のデューティ比の当該1周期より前の周期のPWM信号のデューティ比に対する変化量が閾値より大きい場合に、把持部7による対象物200の把持が解除されたと判定する。
【0086】
より具体的には、把持判定部18は、デューティ比測定部19、平均デューティ比算出部20、差分算出部21、および判定部22を含む。
【0087】
デューティ比測定部19は、駆動制御信号SdとしてのPWM信号のデューティ比Dxを測定する。デューティ比測定部19は、例えば、PWM周期(1周期)毎に、駆動制御信号Sdのデューティ比Dxを測定し、記憶部23に記憶する。なお、2相励磁によってモータ5を駆動している場合には、A相の駆動制御信号SdaとB相の駆動制御信号Sdbの少なくとも一方のデューティ比を測定すればよい。また、記憶部23には、後述する平均デューティ比の算出に必要な複数の周期分のデューティ比の測定値が記憶される。
【0088】
平均デューティ比算出部20は、デューティ比測定部19によるデューティ比の測定結果に基づいて、複数のPWM周期におけるデューティ比の平均値Davを算出する。例えば、平均デューティ比算出部20は、1つのPWM周期が開始されるとき、そのPWM周期より前の複数のPWM周期(例えば10周期)の駆動制御信号Sdのデューティ比の平均値(平均デューティ比)Davを算出し、記憶部23に記憶する。なお、平均デューティ比Davの算出方法としては、平均値を算出するための公知の計算方法を採用することができる。
【0089】
差分算出部21は、駆動制御信号Sdのデューティ比の平均デューティ比Davと駆動制御信号Sdのデューティ比Dxとの差分dDを算出する。例えば、差分算出部21は、平均デューティ比Davからデューティ比Dxを除算して得られた値の絶対値(=|Dav-Dx|)を差分dDとして記憶部23に記憶する。
【0090】
判定部22は、ロータ50を固定するように駆動制御信号Sdが生成されている状態において、差分dDと把持判定閾値dDthとを比較する。把持判定閾値dDthは、把持部7による対象物200の把持の有無を判定するための閾値であり、記憶部23に記憶されている。
【0091】
例えば、判定部22は、差分dDが把持判定閾値dDthより大きい場合に、把持部7による対象物200を把持が解除されたと判定する。判定部22は、差分dDが把持判定閾値dDth以下である場合に、把持部7によって対象物200が把持されていると判定する。なお、判定部22は、対象物200の把持の有無を示す判定信号Soを上位装置100に送信してもよい。
【0092】
次に、把持装置1による対象物200を把持するときの処理の流れについて説明する。
【0093】
図5は、実施の形態に把持装置1によって対象物200を把持するときのモータ駆動制御装置2による処理の流れを示すフローチャートである。
【0094】
把持装置1の起動後、モータ駆動制御装置2において、駆動制御信号生成部12の電流基準値設定部14が電流基準値Ithを第1値I1に設定する(Ith=I1)。その後、例えば、対象物200を把持することを指示する情報を含む駆動指令信号Scがモータ駆動制御装置2に入力された場合、モータ駆動制御装置2は、対象物200を把持するためのモータ5の駆動を開始する。
【0095】
先ず、モータ駆動制御装置2は、モータ5(ロータ50)を所定の方向に回転させるようにモータ5を駆動する(ステップS1)。具体的には、駆動制御信号生成部12が、所定の励磁方式に基づくタイミングでA相のコイル51aとB相のコイル51bの励磁と非励磁を切り替えるように駆動制御信号Sdを生成することにより、把持部7の指部9_1,9_2が中心位置Pに向かって移動する。
【0096】
モータ駆動制御装置2は、モータ5の駆動の開始とともに、モータ5の脱調の判定処理を開始する(ステップS2)。具体的には、脱調検出部17が脱調の有無を判定する処理を開始する。
【0097】
脱調検出部17が、上述した手法により、モータ5において脱調が発生したか否かを判定する(ステップS3)。脱調の発生が検出されていない場合(ステップS3:NO)、モータ駆動制御装置2は、引き続き、モータ5を所定の方向に回転させる(ステップS1)。
【0098】
一方、脱調の発生が検出された場合(ステップS3:YES)、モータ駆動制御装置2は、把持部7によって対象物200が把持されたと判定する(ステップS4)。次に、モータ駆動制御装置2は、把持部7によって対象物200を把持した状態を維持するために、駆動機構6のセルフロック機能を補助するためのモータ駆動制御を開始する。
【0099】
具体的には、先ず、駆動制御信号生成部12が、モータ5のロータ50を1ステップ分回転させるように、2相励磁方式により駆動制御制御信号Sda,Sdbを生成する(ステップS5)。これにより、モータ5の最大トルクが発揮されるので、把持部7が対象物200を確実に把持することができる。次に、駆動制御信号生成部12が、電流基準値設定部14によって電流基準値Ithを第2値I2に変更する(ステップS6)。そして、駆動制御信号生成部12が、ロータ50を固定するように、A相のコイル51aおよびB相のコイル51bをともに励磁する駆動制御制御信号Sda,Sdbを生成する(ステップS7)。これにより、駆動機構6によるセルフロック機能に加えてモータ5のロータ50が固定されるので(ロータロック機能)、把持部7によって対象物200を把持した状態をより安定させることが可能となる。
【0100】
次に、対象物200を把持した後の把持装置1の処理の流れについて説明する。
【0101】
図6は、実施の形態に把持装置1によって対象物200を把持した後のモータ駆動制御装置2による処理の流れを示すフローチャートである。
【0102】
把持装置1において、駆動機構6によるセルフロック機能およびモータ5のロータロック機能によって対象物200を把持した状態において、モータ駆動制御装置2は、把持部7による対象物200の把持の有無を判定する把持判定処理を実行する。
【0103】
具体的には、先ず、把持判定部18の平均デューティ比算出部20が、上述した手法により、現在のPWM周期より前の複数のPMW周期における駆動制御信号Sdのデューティ比の平均値(平均デューティ比)Davを算出する(ステップS11)。
【0104】
次に、把持判定部18のデューティ比測定部19が、その時点での駆動制御信号Sdのデューティ比Dxを測定する(ステップS12)。なお、ステップS11およびステップS12においてデューティ比の測定対象の駆動制御信号は、励磁されているコイル51に対応する駆動制御信号Sdであればよい。すなわち、本実施の形態では、A相のコイル51aとB相のコイル51bがともに励磁されているため、A相の駆動制御信号SdaとB相の駆動制御信号Sdbの少なくとも一方のデューティ比を測定し、その平均値を算出すればよい。
【0105】
次に、把持判定部18の差分算出部21が、上述した手法により、ステップS12において測定したデューティ比DxとステップS11において算出した平均デューティ比Davとの差分ΔdDを算出する(ステップS13)。
【0106】
次に、把持判定部18の判定部22が、ステップS13において算出した差分ΔdDと把持判定閾値dDthとを比較する(ステップS14)。差分ΔdDが把持判定閾値dDth以下の場合には(ステップS14:NO)、判定部22は、把持部7によって対象物200を把持した状態であると判定する(ステップS16)。その後、モータ駆動制御装置2は、ステップS1に戻り、上述した把持判定処理を再び実行する。
【0107】
一方、差分ΔdDが把持判定閾値dDthより大きい場合には(ステップS14:YES)、判定部22は、把持部7から対象物200が脱落した状態(解放状態)であると判定する(ステップS15)。その後、モータ駆動制御装置2は、例えば、把持した対象物200が脱落したこと示す判定信号Soを上位装置100に送信する。
【0108】
以上、実施の形態に係る把持装置1は、上述したように、対象物200を把持するための把持部7と、把持部7をモータ5の回転力に応じて駆動するとともに、モータ5の通電が停止した状態において把持部7の移動を制限するセルフロック機能を有する駆動機構6と、モータ5を駆動するモータ駆動制御装置2と、を備えている。モータ駆動制御装置2は、上述したように、把持部7の駆動を指示する駆動指令信号Scが入力された場合に、把持部7が対象物200を把持するようにモータ5を駆動し、モータ5の脱調が検出された場合に、脱調の検出前にモータ5に供給した電流より小さい電流をモータ5に供給して、モータ5のロータ50を固定する。
【0109】
これによれば、上述したように、把持部7が対象物200を把持するように動作を開始した後にモータ5の脱調を検出することによって、把持部7によって対象物200を把持したことを検出することができる。そして、脱調検出後に、モータ5のロータ50を固定することにより、駆動機構6のセルフロック機能を補助することができるので、より安定して、対象物200を把持することが可能となる。すなわち、本実施の形態に係る把持装置1によれば、把持した対象物200の脱落を確実に防止することが可能となる。
また、脱調検出後にロータ50を固定するときにモータ5に供給する電流を、ロータ50を回転させているときの電流よりも小さい値に設定することにより、消費電力を抑えつつ、セルフロック機能を補助することが可能となる。
【0110】
また、把持装置1において、モータ駆動制御装置2は、上述したように、脱調検出後にロータ50を固定するときに、ステッピングモータであるモータ5の2相のコイル51a,51bをともに励磁する(2相励磁)。これによれば、モータ5においてより大きなトルクを発生させてロータ50を固定することができるので、把持した対象物200の脱落をより確実に防止することが可能となる。
【0111】
また、モータ駆動制御装置2は、上述したように、ロータ50を固定するように駆動制御信号Sdを生成している状態において、駆動制御信号SdとしてのPWM信号の1周期のデューティ比の、当該1周期より前の周期のデューティ比に対する変化量が把持判定閾値より大きい場合に、把持部7による対象物200の把持が解除されたと判定する。
【0112】
従来の電動グリッパ等の把持装置において、把持装置内のステッピングモータをオープンループで制御する場合には、把持装置から対象物が脱落したことを検出することは困難であり、対象物が脱落したことを検出するために、ロードセル等のセンサを別途設ける必要があった。
【0113】
これに対し、本実施の形態に係る把持装置1は、上述したように、駆動機構6のセルフロック機能が働いているときに、ロータ50を固定するようにPWM信号(駆動制御信号Sd)によってモータ5を駆動しつつ、PWM信号のデューティ比を監視し、デューティ比の変化量が把持判定閾値より大きくなったか否かを判定する。これによれば、把持している対象物200が脱落したときに発生した逆起電圧によるPWM信号のデューティ比の変化を検出することにより対象物200の脱落の有無を検出することができるので、例えば、ステッピングモータをオープンループで制御する場合であってもロードセル等のセンサを別途設ける必要がない。
【0114】
また、把持装置1において、モータ駆動制御装置2は、ロータ50を固定するように駆動制御信号Sdが生成されている状態において、複数の周期におけるPWM信号(駆動制御信号Sd)のデューティ比の平均値(平均デューティ比Dav)と1周期におけるPWM信号のデューティ比(Dx)との差分dDを算出し、差分dDと把持判定閾値dDthとを比較し、差分dDが把持判定閾値dDthより大きい場合に、把持部7による対象物200の把持が解除されたと判定する。
これによれば、把持している対象物200が脱落したときに発生した逆起電圧によるPWM信号のデューティ比の変化を確実に検出することができるので、把持している対象物200の脱落の有無の検出の精度の向上が期待できる。
【0115】
≪実施の形態の拡張≫
以上、本発明者によってなされた発明を実施の形態に基づいて具体的に説明したが、本発明はそれに限定されるものではなく、その要旨を逸脱しない範囲において種々変更可能であることは言うまでもない。
【0116】
例えば、上記実施の形態において、把持部7によって対象物200を把持するように把持部7を駆動するとき、マイクロステップ方式によってコイル電流Ia,Ibを正弦波状に変化させてモータ5を所定の方向に回転させる場合には、第1値I1も正弦波状に変化することになる。この場合には、第2値I2は、第1値I1が取り得る最大値(正弦波のピーク値)より十分に小さく設定すればよい。
【0117】
上記実施の形態においてモータ5(ステッピングモータ)の相数は、2相に限定されない。また、モータ5は、ステッピングモータに限られず、例えば、ブラシレスDCモータであってもよい。
【0118】
また、上述のフローチャートは、動作を説明するための一例を示すものであって、これに限定されない。すなわち、フローチャートの各図に示したステップは具体例であって、このフローに限定されるものではない。例えば、一部の処理の順番が変更されてもよいし、各処理間に他の処理が挿入されてもよいし、一部の処理が並列に行われてもよい。
【符号の説明】
【0119】
1…把持装置、2…モータ駆動制御装置、3…制御回路、4…駆動回路、5…モータ(ステッピングモータ)、6…駆動機構、7…把持部、8_1,8_2…移動部、9_1,9_2…指部、12…駆動制御信号生成部、13…駆動指令取得部、14…電流基準値設定部、15…電流測定部、16…信号出力部、17…脱調検出部、18…把持判定部、19…デューティ比測定部、20…平均デューティ比算出部、21…差分算出部、22…判定部、23…記憶部、40a,40b…インバータ回路、41a,41b…電流検出回路、42…電圧検出回路、50…ロータ、50s…S極、50n…N極、51a,51b…コイル、100…上位装置、200…対象物、Dx…デューティ比、Dav…平均デューティ比、dD…差分、Ia,Ib…コイル電流、Ith…電流基準値、I1…第1値、I2…第2値、Sc…駆動指令信号、Sd,Sda,Sdb…駆動制御信号、Sia,Sib…電流検出信号、So…判定信号、Vap,Van,Vbp,Vbn,Vbef…電圧、Vth…脱調判定閾値、100…上位装置。
図1
図2
図3
図4
図5
図6