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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2025011444
(43)【公開日】2025-01-24
(54)【発明の名称】浮体式洋上風力発電施設の施工方法
(51)【国際特許分類】
   B63B 77/10 20200101AFI20250117BHJP
   B63B 35/00 20200101ALI20250117BHJP
   B63B 73/20 20200101ALI20250117BHJP
   B63B 73/30 20200101ALI20250117BHJP
   B63B 75/00 20200101ALI20250117BHJP
   F03D 13/25 20160101ALI20250117BHJP
【FI】
B63B77/10
B63B35/00 T
B63B73/20
B63B73/30
B63B75/00
F03D13/25
【審査請求】未請求
【請求項の数】4
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023113565
(22)【出願日】2023-07-11
(71)【出願人】
【識別番号】000219406
【氏名又は名称】東亜建設工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001368
【氏名又は名称】清流国際弁理士法人
(74)【代理人】
【識別番号】100129252
【弁理士】
【氏名又は名称】昼間 孝良
(74)【代理人】
【識別番号】100155033
【弁理士】
【氏名又は名称】境澤 正夫
(72)【発明者】
【氏名】川又 義徳
(72)【発明者】
【氏名】加藤 大
(72)【発明者】
【氏名】迫 大介
【テーマコード(参考)】
3H178
【Fターム(参考)】
3H178AA03
3H178AA26
3H178AA43
3H178BB77
3H178CC02
3H178CC22
3H178DD61X
3H178DD67X
(57)【要約】
【課題】岸壁に浮体式洋上風力発電施設の搭載拠点を整備しなくとも、設置対象海域に係留した状態での浮体の喫水が20m以下の浮体式洋上風力発電施設を効率的に施工できる方法を提供する。
【解決手段】水深が8m以上20m以下の海域に仮設の水上構造物10を構築し、風力発電装置3を形成するナセルハブ5、ブレード6およびタワー4の組立部品を水上構造物10まで輸送し、組立部品を水上構造物10上に仮置きする。浮体2を水上構造物10の近傍に海上輸送して海底SBに着底させた状態にする。水上構造物10の近傍に停船させた自己昇降式船20のクレーン23を使用して、浮体2に対して風力発電装置3の組立部品を順次設置して、浮体2上に風力発電装置3が立設された組立体9を製造する。その後、組立体9を設置対象海域まで海上輸送して、設置対象海域において組立体9を係留する。
【選択図】図6
【特許請求の範囲】
【請求項1】
設置対象海域において係留される浮体と、前記浮体上に立設された風力発電装置とを有して、前記浮体を前記設置対象海域に係留した状態で、水面から前記浮体の下端までの喫水が20m以下となる浮体式洋上風力発電施設の施工方法において、
水深が8m以上20m以下の海域に仮設の水上構造物を構築し、
前記風力発電装置を構成するナセルハブ、ブレードおよびタワーの組立部品を前記水上構造物まで輸送して、前記組立部品を前記水上構造物上に仮置きし、前記浮体を前記水上構造物の近傍まで海上輸送して海底に着底させた状態とし、
前記水上構造物の近傍に停船させた自己昇降式台船のクレーンを使用して、前記浮体に対して前記組立部品を順次設置して、前記浮体上に前記風力発電装置が構築された組立体を製造し、
その後、前記組立体を前記海底から浮上させて前記設置対象海域まで海上輸送し、前記設置対象海域において前記組立体を係留することを特徴とする浮体式洋上風力発電施設の施工方法。
【請求項2】
前記水上構造物として、前記海域に桟橋または浮体式構造物を構築する請求項1に記載の浮体式洋上風力発電施設の施工方法。
【請求項3】
前記自己昇降式台船を使用して、前記浮体に対して前記組立部品を順次設置する際に、前記水上構造物上に仮置きしていた前記組立部品の少なくとも一部を前記自己昇降式台船に積み替え、その積み替えた前記組立部品を前記浮体に対して設置する請求項1または2に記載の浮体式洋上風力発電施設の施工方法。
【請求項4】
前記水上構造物を防波堤の内側の海域に構築する請求項1または2に記載の浮体式洋上風力発電施設の施工方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、浮体式洋上風力発電施設の施工方法に関し、さらに詳しくは、岸壁に浮体式洋上風力発電施設の搭載拠点(基地港湾)を整備しなくとも、設置対象海域に係留した状態での浮体の喫水が20m以下の浮体式洋上風力発電施設を効率的に施工できる浮体式洋上風力発電施設の施工方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
海域に潜水状態或いは半潜水状態で係留される浮体の上に風力発電装置を立設した構造の浮体式洋上風力発電施設は、浮体の構造毎に、スパー型、セミサブ型、TLP(テンションレグプラットフォーム)型、バージ(コンクリート製)型に分類されている。例えば、スパー型の浮体式洋上風力発電施設は、高さが50m~100m程度の柱形状のスパー型浮体の大部分を潜水させた状態とし、その1本の巨大なスパー型浮体の上に風力発電装置を立設している(例えば、特許文献1参照)。設置対象海域に係留した状態でのスパー型の浮体の喫水は50m~100m程度である。一方で、スパー型以外のセミサブ型、TLP型、バージ型の浮体式洋上風力発電施設では、浮体を半潜水状態で海上に浮かべた状態とし、設置対象海域に係留した状態でのセミサブ型の浮体、TLP型の浮体、バージ型の浮体の喫水はそれぞれ、20m以下である。具体的には、例えば、セミサブ型の浮体式洋上風力発電施設では、高さが20m~40m程度の複数のコラムとコラムどうしを連結する連結体(所謂、フーチング部材等)とを有するセミサブ型の浮体を半潜水状態で海上に浮かべた状態とし、浮体の1ヶ所のコラム上に風力発電装置を立設している。
【0003】
一般的なスパー型の浮体式洋上風力発電装置の施工方法では、岸壁などの陸上においてスパー型の浮体と風力発電装置を構成するタワーとを横に倒した状態で接続し、スパー型の浮体とタワーの一体物をそのまま横に倒した状態で半潜水台船に積み込み、水深が100m以上の海域まで運搬する。そして、水深が100m以上の海域でスパー型の浮体とタワーの一体物を進水させ、スパー型の浮体のバラスト水の調整を行うことで、横に倒していた一体物を起こして立てた状態にする。その後、立てた状態の一体物を設置対象海域まで曳航し、水深が100m以上の設置対象海域において一体物を係留する。次いで、固定式起重機船を使用してタワーの上部にナセルハブを設置して、ナセルハブにブレードを設置することで、スパー型の浮体式洋上風力発電装置の施工が完了する。
【0004】
特許文献1に記載の発明では、タワーの中途に屈曲部を設けている点と、陸上でタワーに風車(ナセルハブおよびブレード)を設置する点で一般的な施工方法とは異なるが、特許文献1に記載の発明においても、スパー型の浮体(基礎)と風力発電装置のタワーの一体物を陸上で組立てている。
【0005】
浮体式洋上風力発電施設を構成する浮体と風力発電装置はサイズが非常に大きく重量も非常に大きい。そのため、浮体とタワーの一体物を、陸上で長距離輸送することは困難である。そのため、一般的な施工方法や特許文献1に記載の発明のように、浮体とタワーの一体物を陸上で製造する場合には、岸壁などの陸地に、浮体と風力発電装置の組立部品を搭載するスペースや、一体物の製造を行うスペースを確保する必要がある。しかし、一般的な岸壁では多くの場合、地盤が一体物の荷重に耐え得る強度を有していない。そのため、浮体式洋上風力発電施設の搭載拠点(基地港湾)を岸壁に整備するには、岸壁やエプロンに対して地耐力を向上させる地盤改良工事などの大規模な工事が必要となり、比較的多くのコストや労力や時間を要するという問題がある。さらに、岸壁に浮体式洋上風力発電施設の搭載拠点としての広大なスペースを確保することが困難な場合もある。
【0006】
また、スパー型の浮体式洋上風力発電施設の一般的な施工方法では、水深が100m以上の海域で横に倒していたスパー型の浮体とタワーの一体物を起こして立てた状態にする作業が必要となる。特許文献1に記載の構築方法においても、ヒンジ開閉手段によってタワーのヒンジから後方の部分とスパー型の浮体(基礎)を横倒しの状態から直立状態に変化させる必要がある。それ故、従来提案されている施工方法では、海上において高度で煩雑な作業が必要になるという問題もある。このように、従来提案されている施工方法には様々な問題があり、改善の余地がある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開2012-202250号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明の目的は、岸壁に浮体式洋上風力発電施設の搭載拠点(基地港湾)を整備しなくとも、設置対象海域に係留した状態での浮体の喫水が20m以下の浮体式洋上風力発電施設を効率的に施工できる浮体式洋上風力発電施設の施工方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記目的を達成するため本発明の浮体式洋上風力発電施設の施工方法は、設置対象海域において係留される浮体と、前記浮体上に立設された風力発電装置とを有して、前記浮体を前記設置対象海域に係留した状態で、水面から前記浮体の下端までの喫水が20m以下となる浮体式洋上風力発電施設の施工方法において、水深が8m以上20m以下の海域に仮設の水上構造物を構築し、前記風力発電装置を構成するナセルハブ、ブレードおよびタワーの組立部品を前記水上構造物まで輸送して、前記組立部品を前記水上構造物上に仮置きし、前記浮体を前記水上構造物の近傍まで海上輸送して海底に着底させた状態とし、前記水上構造物の近傍に停船させた自己昇降式台船のクレーンを使用して、前記浮体に対して前記組立部品を順次設置して、前記浮体上に前記風力発電装置が構築された組立体を製造し、その後、前記組立体を前記海底から浮上させて前記設置対象海域まで海上輸送し、前記設置対象海域において前記組立体を係留することを特徴とする。
【発明の効果】
【0010】
本発明は、設置対象海域に係留した状態での浮体の喫水が20m以下の浮体式洋上風力発電施設の施工方法であり、スパー型を除くその他の型(セミサブ型、TLP型、バージ型)の浮体式洋上風力発電施設の施工に採用できる。本発明によれば、水深が8m以上20m以下の比較的浅い海域に仮設の水上構造物を構築するので、水上構造物の構築に要するコストや労力や時間は比較的少ない。風力発電装置の組立部品は水上構造物上に仮置きするので、岸壁に組立部品をまとめて仮置きするような浮体式洋上風力発電施設の搭載拠点を整備する必要もない。また、水上構造物を水深が8m以上20m以下の海域に構築することで、水上構造物の近傍に自己昇降式台船を停船させることが可能であり、水上構造物の近傍の海底に浮体を容易に着底させることができる。波浪の影響を受けない自己昇降式台船のクレーンを使用し、さらに、浮体を海底に着底させていることで、浮体に対して風力発電装置の組立部品を順次設置して、浮体上に風力発電装置が構築された組立体を製造する作業を非常に安定した状態で効率的に行える。組立体を製造した後には、組立体を海底から浮上させて設置対象海域まで海上輸送し、設置対象海域において組立体を係留するだけで浮体式洋上風力発電施設の施工が完了する。それ故、本発明では、岸壁に浮体式洋上風力発電施設の搭載拠点を整備しなくとも、設置対象海域に係留した状態での浮体の喫水が20m以下の浮体式洋上風力発電施設(スパー型を除くその他の型の浮体式洋上風力発電施設)を効率的に施工できる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
図1】本発明で施工するセミサブ型の浮体式洋上風力発電施設を正面視で模式的に例示する説明図である。
図2】海域に仮設の水上構造物として桟橋を構築し、運搬船によって海上輸送した風力発電装置の組立部品を水上構造物上に仮置きした状態を平面視で模式的に例示する説明図である。
図3図2の水上構造物を側面視で模式的に例示する説明図である。
図4図2の水上構造物を構築している海域を平面視で模式的に例示する説明図である。
図5図2の状態から水上構造物の近傍に自己昇降式台船を停船させた状態を平面視で模式的に例示する説明図である。
図6】水上構造物上に仮置きしていた風力発電装置の組立部品の一部を自己昇降式台船に積み替えた状態を側面視で模式的に例示する説明図である。
図7図6の状態から、水上構造物に対する自己昇降式台船の停船位置を変えるとともに、海上輸送したセミサブ型の浮体を桟橋の近傍の海底に着底させた状態を平面視で模式的に例示する説明図である。
図8図7の状態から、自己昇降式台船に積み替えていたタワーの分割部材とナセルハブを、浮体に対して設置した状態を側面視で模式的に例示する説明図である。
図9図8の状態からナセルハブにブレードを装着した状態を平面視で模式的に例示する説明図である。
図10】浮体上にタワーとナセルハブとブレードを設置した組立体を組立てエリアから移動させて、水上構造物上に新たに仮置きした風力発電装置の組立部品の一部を自己昇降式台船に積み替えた状態を平面視で模式的に例示する説明図である。
図11図10の状態から水上構造物に対する自己昇降式台船の停船位置を変えるとともに、新たに海上輸送した浮体を水上構造物の近傍の海底に着底させた状態を平面視で模式的に例示する説明図である。
図12図11の状態から3基の組立体の製造が完了した状態を平面視で模式的に例示する説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下、本発明の浮体式洋上風力発電施設の施工方法を、図に示した実施形態に基づいて説明する。
【0013】
図1に例示するように、浮体式洋上風力発電施設1は、設置対象海域において係留される浮体2と、浮体2上に立設された風力発電装置3とを有する。設置対象海域において浮体2は、係留索7やアンカー8等を用いて海底SBに対して係留される。図1に例示するように、本発明は、浮体2を設置対象海域に係留した状態で、水面から浮体2の下端までの喫水DFが20m以下となる浮体式洋上風力発電施設1の施工方法である。言い換えると、本発明は、スパー型を除くその他の型(セミサブ型、TLP型、バージ型)の浮体式洋上風力発電施設1の施工に採用できる。本発明は、特にセミサブ型の浮体式洋上風力発電施設1の施工に適している。
【0014】
この実施形態では、セミサブ型の浮体式洋上風力発電施設1を施工する場合を例示する。図1に例示するように、セミサブ型の浮体2は、海域において所定の喫水DFまで沈められて半潜水状態で係留される。風力発電装置3は、上下方向に延在するタワー4の上部にナセルハブ(ナセルとハブの一体物)5が設置されていて、ナセルハブ5に複数のブレード6が放射状に配設された構造になっている。ナセルハブ5の内部には、発電機やブレーキ装置、増速機(ギアボックス)などが内蔵されていて、発電機に接続された電力ケーブルはタワー4の内側に配設されている。
【0015】
この実施形態では、3枚のブレード6を有し、タワー4が3本の分割部材4aで構成されている風力発電装置3を例示している。風力発電装置3が備えるブレード6の枚数やブレード6の構造、タワー4を構成する分割部材4aの本数などはこの実施形態に限定されない。例えば、ブレード6を複数の部材を連結した構造にしてもよいし、タワー4を1本の長尺の部材で構成してもよい。
【0016】
タワー4の長手方向の長さ(高さ)は80m~150m程度であり、タワー4の幅(太さ)は5m~15m程度である。タワー4の重量は1000t~2000t程度である。それぞれの分割部材4aの長手方向の長さ(高さ)は25m~50m程度であり、それぞれの分割部材4aの重量は300t~700t程度である。ナセルハブ5は高さが8m~15m程度であり、長手方向の長さが15m~25m程度、幅が7m~15m程度である。ナセルハブ5の重量は、600t~1000t程度である。一枚のブレード6の長手方向の長さは80m~150m程度であり、一枚のブレード6の重量は50t~90t程度である。
【0017】
セミサブ型の浮体2は、上下方向に延在する柱形状の複数のコラム2aと、コラム2aどうしを連結する連結体2b(所謂、フーチング部材)とを有している。この実施形態では、連結体2bが平面視で十字形状の連結部と、連結部の4カ所の端部にそれぞれ設けられた平面視で多角形状の支持部とを有する構造になっていて、4カ所の支持部の上にそれぞれコラム2aが立設されている。セミサブ型の浮体2を構成する1本のコラム2aには、タワー4の下部を挿設可能な係合穴が設けられていて、1本のコラム2aの上に風力発電装置3が立設される構成になっている。
【0018】
浮体2は内部にバラスト水を貯水できる構造になっていて、バラスト水の貯水量を調整することで、浮体2に作用させる浮力の大きさを調整できる構成になっている。セミサブ型の浮体2の平面視での長さと幅はそれぞれ60m~100m程度であり、セミサブ型の浮体2のコラム2aがある位置の高さは25m~50m程度である。なお、浮体2の構造、具体的には、セミサブ型の浮体2の場合には、コラム2aの形状や構造、連結体2bの形状や構造、連結体2bに立設されるコラム2aの数や配置、風力発電装置3が立設されるコラム2aの位置などは、この実施形態の構成に限定されず、他にも様々な構成の浮体2を採用することができる。この実施形態では、セミサブ型の浮体2を例示しているが、TLP型の浮体式洋上風力発電施設1を施工する場合には公知のTLP型の浮体2を使用し、バージ型の浮体式洋上風力発電施設1を施工する場合には公知のバージ型の浮体2を使用する。
【0019】
以下に、本発明の浮体式洋上風力発電施設1の施工方法の作業手順を説明する。
【0020】
図2および図3に例示するように、本発明では、水深DW(海面位置WLから海底SBまでの深さ)が8m以上20m以下の海域に仮設の水上構造物10を構築する。この実施形態では、仮設の水上構造物10として、海域に桟橋を構築する場合を例示する。本発明では、仮設の水上構造物10として、海域に浮体式構造物(フロート)を構築することもできる。本発明では、その後、クレーンを備えた運搬船40(具体的には例えば、LOLO船等)等を使用して、風力発電装置3を構成するナセルハブ5、ブレード6およびタワー4の組立部品を水上構造物10まで輸送し、運搬船40のクレーン等を使用して組立部品を水上構造物10上に仮置きする。風力発電装置3の組立部品は水上構造物10まで海上輸送することが好ましいが、岸壁に近い海域に水上構造物10を構築する場合には、例えば、水上構造物10に配置したクレーン30や岸壁に配置したクレーンを使用して、岸壁から水上構造物10に組立部品を輸送(荷役)することもできる。また、例えば、ヘリコプターや大型のドローンなどの飛行体を使用して、水上構造物10に組立部品を輸送してもよい。この実施形態では、運搬船40によって風力発電装置3の組立部品とともに移動式のクレーン30を海上輸送し、水上構造物10にクレーン30を配置している。
【0021】
水上構造物10は、波浪の影響が小さい穏やかな水域に構築することが好ましい。図4に例示するように、好ましくは、湾などに設置されている防波堤50の内側の海域に水上構造物10を構築するとよい。ここでいう防波堤50の内側の海域は、防波堤50によって波浪の影響が軽減されている海域を示している。水上構造物10は、好ましくは、浮体式洋上風力発電施設1を設ける設置対象海域や、風力発電装置3の組立部品を運搬船40に積み込む岸壁60に近い海域に構築するとよい。
【0022】
図3に例示するように、水上構造物10として桟橋を構築する場合には、例えば、海底SBに打設する複数の支持杭11や、支持杭11どうしの間に架け渡す複数の桁材12、桟橋の上部の天板を形成する複数の甲板材13、支持杭11どうしの連結を補強する複数のブレース14などを用いて桟橋を構築する。支持杭11には例えば、H形鋼等の型鋼や鋼管杭などを使用する。桁材12とブレース14には例えば、H形鋼等の型鋼などを使用する。甲板材13には例えば、覆工板などを使用する。
【0023】
水上構造物10として海域に浮体式構造物を構築する場合には、海域に浮体式構造物の土台となる係留設備を設置する。その後、海底SBに対して係留されている係留設備の上に浮体式構造物の上部の天板を構成するフロートを固定することで浮体式構造物を構築する。水上構造物10の構築に使用する部材は、運搬船40などの船舶を使用して水上構造物10の構築対象エリアまで輸送する。海域での水上構造物10の構築方法は特に限定されず、公知の方法で構築すればよい。
【0024】
水上構造物10は少なくとも1基分の風力発電装置3を構成する組立部品を仮置き可能な広さとし、運搬船40や後に説明する自己昇降式台船20(以下、SEP船20という)が接岸できる構造にする。図2に例示するように、水上構造物10は風力発電装置3を構成するブレード6の一部がはみ出す広さであってもよい。水上構造物10は少なくとも1基分の風力発電装置3の組立部品の重量に耐え得る構造にする。図3に例示するように、海面位置WLから水上構造物10の上面までの高さHは例えば、1m以上10m以下に設定するとよい。この実施形態では、平面視で長方形状の水上構造物10を例示しているが、水上構造物10は前述した条件を満たしていればよく、この実施形態とは構造や形状が異なる水上構造物10を構築してもよい。
【0025】
水上構造物10の平面視での長手方向の長さは例えば50m以上250m以下、幅は例えば40m以上60m以下に設定するとよい。水上構造物10の耐荷重は例えば1t/m2以上15t/m2以下に設定するとよい。水上構造物10は全ての範囲を同じ耐荷重に設定してもよいが、風力発電装置3の組立部品を載置する範囲と載置しない範囲とで異なる耐荷重に設定することもできる。また、風力発電装置3のそれぞれの組立部品の仮置きエリア毎に異なる耐荷重に設定することもできる。具体的には、水上構造物10において、ナセルハブ5を載置するエリアの耐荷重は例えば8t/m2以上12t/m2以下、タワー4の分割部材4aを載置するエリアの耐荷重は例えば3t/m2以上8t/m2以下、ブレード6を載置するエリアの耐荷重は例えば1t/m2以上5t/m2以下に設定するとよい。
【0026】
図2に例示するように、この実施形態では、水上構造物10に対する運搬船40の係留に使用する設備として、水上構造物10の近傍に仮設の係留設備15と仮設の防衝設備16を設けている。なお、図2図4以外の図面では係留設備15と防衝設備16は省略して図示していない。
【0027】
図2および図3に例示するように、この実施形態では、水上構造物10にナセルハブ5を支持する架台を設けて、その架台の上にナセルハブ5を載置している。また、水上構造物10にタワー4を構成するそれぞれの分割部材4aを支持する架台を設けて、その架台の上に分割部材4aを横に倒した状態で載置している。この実施形態では、3本の分割部材4aを横に並べて配置している。さらに、水上構造物10に3枚のブレード6を上下に離間させた状態で搭載できる構造の架台を設けて、3枚のブレード6を上下に並べて配置している。それぞれのブレード6は横に倒した状態で配置していて、ブレード6の一部は水上構造物10から突出した状態になっている。ナセルハブ5と分割部材4aは比較的重量が大きいため、互いに上下に重ねずに配置することが好ましい。ブレード6はサイズが大きく、比較的軽量であるため、複数のブレード6を上下に並べて配置するとよい。
【0028】
水上構造物10上に風力発電装置3の組立部品を仮置きし終えた後には、運搬船40を水上構造物10から離岸させる。その後、図5に例示するように、水上構造物10の近傍にSEP船20を停船させる。そして、図6に例示するように、水上構造物10上に仮置きしていた風力発電装置3の組立部品の一部または全部を、SEP船20に搭載されているクレーン23を使用してSEP船20に積み替える。
【0029】
この実施形態では、SEP船20の船側を水上構造物10の側部に沿わせる向きで停船させ、SEP船20のクレーン23を使用して水上構造物10上に仮置きしていた3本の分割部材4aとナセルハブ5をSEP船20に積み替えている。SEP船20にはそれぞれの分割部材4aを上下方向に立てた状態で搭載する架台を設けていて、水上構造物10からSEP船20に分割部材4aを積み替える際に、クレーン23によって横に倒されていた分割部材4aを立てた状態にして、SEP船20上に搭載している。
【0030】
図5および図6に例示するように、SEP船20は、水上を移動可能な台船本体(プラットフォーム)21と、台船本体21に対して上下方向に相対移動可能な複数の昇降用脚(レグ)22と、台船本体21に搭載された大型のクレーン23とを備えている。台船本体21に推進装置を備えた自航式のSEP船20を使用することが好ましいが、推進装置を備えずに曳航して移動させる非自航式のSEP船20を使用することもできる。
【0031】
図6に例示するように、SEP船20を停船させる際には、海域に浮かんだ状態の台船本体21に対してそれぞれの昇降用脚22を下向きに相対移動させて、それぞれの昇降用脚22の下端を海底SBに着底させた状態にする。その状態からそれぞれの昇降用脚22に対して台船本体21を上向きに相対移動させることで、台船本体21を海面より高い位置に移動させ、昇降用脚22によって台船本体21を中空に支持した状態にする。台船本体21を波浪の届かない高さまで上昇させることで、台船本体21が波浪の影響を受けない状態になる。
【0032】
SEP船20が昇降用脚22によって停船できる水深は、概ね40m以下である。本発明では、水深DWが8m以上20m以下の海域に水上構造物10を構築するため、水上構造物10の近傍にSEP船20を安定した状態で停船させることができる。なお、水上構造物10の近傍の海底SBの地盤がSEP船20を安定して停船させるために十分な強度を有していない場合には、予め水上構造物10の近傍の海底SBの強度を高める簡易な地盤改良などを行うとよい。
【0033】
水上構造物10上に仮置きしていた風力発電装置3の組立部品の一部または全部をSEP船20に積み替えた後には、SEP船20の昇降用脚22を海底SBから離間させてSEP船20を海上で移動可能な状態にする。そして、図7に例示するように、SEP船20の船首側または船尾側を水上構造物10の側部に沿うように、SEP船20を移動させて、SEP船20を再び水上構造物10の近傍で停船させる。そして、図7および図8に例示するように、浮体2を水上構造物10の近傍に海上輸送して海底SBに着底させた状態にする。浮体2は、風力発電装置3を立設するコラム2aが水上構造物10側およびSEP船20側に位置する向きで配置することが好ましい。
【0034】
浮体2は、海上輸送時にはバラスト水の貯水量を比較的少ない状態にして海上に浮かべた状態とし、曳船などを使用して水上構造物10の近傍まで曳航する。浮体2を水上構造物10の近傍まで移動させた後には、浮体2にバラスト水を注水することで、浮体2を徐々に沈めて、浮体2の底部を海底SBに着底させた状態にする。浮体2を着底させる海底SBの地盤が平坦でない場合には、浮体2を水上構造物10の近傍に配置する以前に予め海底SBの地盤を平坦に整地または養生しておくとよい。好ましくは、図8に例示するように、浮体2を着底させる海底SBの上に土嚢などを配設して、浮体2を着底させる平坦なマウンドを形成しておき、そのマウンドの上に浮体2を着底させるとよい。
【0035】
本発明では、水深DWが8m以上20m以下の海域に水上構造物10を構築していることで、セミサブ型の浮体2や、TLP型の浮体2、バージ型の浮体2を、水上構造物10の近傍まで曳航することができる。また、それぞれの型の浮体2を海底SBに着底させた状態で、浮体2に対する風力発電装置3の組立作業を行うことができる。言い換えると、水深DWが8m未満の海域では水深DWが浅すぎるため、浮体2を水上構造物10の近傍まで曳航することが難しくなる。水深DWが20mを超える海域では水深DWが深すぎるため、浮体2を海底SBに着底させた状態では、浮体2に対する風力発電装置3の組立作業を行うことが難しくなる。
【0036】
その後、図8および図9に例示するように、水上構造物10の近傍に停船させたSEP船20のクレーン23を使用して、浮体2に対して風力発電装置3の組立部品を順次設置して、浮体2上に風力発電装置3が構築された組立体9を製造する。
【0037】
より詳しくは、SEP船20のクレーン23を使用して、SEP船20に積み替えておいたタワー4の根元部を構成する分割部材4aを浮体2の1本のコラム2aの係合穴に挿設する。次いで、クレーン23を使用して、SEP船20に積み替えておいたタワー4の中間部を構成する分割部材4aを、根元部を構成する分割部材4aの上に連結し、中間部を構成する分割部材4aの上にタワー4の上端部を構成する分割部材4aを連結することで、コラム2a上にタワー4を構築する。次いで、クレーン23を使用して、SEP船20に積み替えておいたナセルハブ5をタワー4の上部に設置する。その後、クレーン23を使用して、ナセルハブ5にそれぞれのブレード6を装着することで、浮体2上に風力発電装置3が立設された組立体9を製造する。
【0038】
ブレード6の設置作業では、タワーの分割部材4aやナセルハブ5の設置作業と同様に、SEP船20のクレーン23を使用して、それぞれのブレード6を水上構造物10からSEP船20に積み替えた後に、それぞれのブレード6をナセルハブ5に設置してもよいし、積み替え作業を行わずに、クレーン23を使用して水上構造物10に仮置きしておいたブレード6を直接ナセルハブ5に設置してもよい。
【0039】
その後、水上構造物10に配置したクレーン30等を使用して、風力発電装置3の電気設備や電気配線等のセッティング(所謂、プレアセンブリー)を行う。その後、風力発電装置3の電気設備の試験(所謂、プレコミッショニング)を行う。水上構造物10において複数の組立体9を並行して製造しない場合には、浮体2を最初に着底させた組立てエリアでそのままプレアセンブリーとプレコミッショニングを行う。
【0040】
そして、風力発電装置3に異常がないことを確認した後に、浮体2のバラスト水の貯水量を低減させ、組立体9を海底SBから浮上させる。そして、組立体9を海上に浮かべた状態で曳船などを使用して、組立体9を設置対象海域まで曳航により海上輸送する。その後、図1に例示するように、設置対象海域において組立体9(浮体2)を係留索7やアンカー8等を用いて海底SBに対して係留する。その後、風力発電装置3に対して海底ケーブルを接続し、浮体式洋上風力発電施設1の最終運転確認(所謂、最終コミッショニング)を実施する。以上により、浮体式洋上風力発電施設1の施工が完了する。
【0041】
図10に例示するように、水上構造物10において複数の組立体9を並行して製造する場合には、浮体2を最初に着底させた組立てエリアでブレード6の設置作業までを行い、組立体9を製造する。その後、組立体9を海底SBから浮上させ、その組立体9を海上に浮かべた状態で、曳船などを使用して浮体2を最初に着底させた組立てエリアから離間した水上構造物10の他方側の海域に移動させる。そして、その移動させた組立体9を水上構造物10の近傍の海底SBに着底させた状態とし、水上構造物10に配置したクレーン30等を使用して、組立体9に対して、前述したプレアセンブリーとプレコミッショニングを行う。
【0042】
図10に例示するように、組立体9の移動や、その組立体9に対するプレアセンブリーやプレコミッショニングを行っている間に、運搬船40によって次に製造する組立体9を構成する風力発電装置3の組立部品を海上輸送し、組立部品を水上構造物10に仮置きする。そして、図11に例示するように、上述した同様の作業手順で、水上構造物10に仮置きしていた組立部品の一部または全部をSEP船20に積み替える作業、次に製造する組立体9を構成する浮体2を水上構造物10の近傍に海上輸送して海底SBに着底させる作業、SEP船20のクレーン23を使用して浮体2に対して風力発電装置3の組立部品を順次設置する作業を行うことで、2基目の組立体9を製造する。
【0043】
図12に例示するように、製造した組立体9は、浮体2を最初に着底させたエリアから離間した水上構造物10の他方側の海域に順次移動させて順次プレアセンブリーとプレコミッショニングを行うことで、水上構造物10において複数の組立体9を並行して製造する。プレコミッショニングを行えた組立体9は順次、設置対象海域に搬送して係留する。
【0044】
製造拠点としての水上構造物10の利用を終えた後には、海域から水上構造物10を撤去する。そして、水上構造物10として桟橋を構築していた場合には、支持杭11を挿設していた海底SBの穴を埋め戻すことで、海底SBの状態を、水上構造物10を構築する前の状態に復元する。
【0045】
上述したように、本発明は、設置対象海域に係留した状態での浮体2の喫水が20m以下の浮体式洋上風力発電施設の施工方法であり、スパー型を除くその他の型(セミサブ型、TLP型、バージ型)の浮体式洋上風力発電施設1の施工に採用できる。本発明では、水深DWが8m以上20m以下の比較的浅い海域に仮設の水上構造物10を構築するので、水上構造物10の構築に要するコストや労力や時間は比較的少ない。この実施形態のように、水上構造物10として桟橋を構築する場合には、比較的浅い海域であるため、海底SBに打設する支持杭11の長さは比較的短く、桟橋の構築に要するコストや労力や時間は比較的少ない。水上構造物10として浮体式構造物を構築する場合にも、比較的浅い海域であるため、浮体式構造物を構成する係留設備を海底SBに対して係留する作業も比較的簡易に行うことができ、浮体式構造物の構築に要するコストや労力や時間は比較的少ない。
【0046】
本発明では、風力発電装置3の組立部品を水上構造物10まで輸送して、組立部品を水上構造物10上に仮置きするので、岸壁に組立部品をまとめて仮置きするような浮体式洋上風力発電施設1の搭載拠点を整備する必要もない。即ち、浮体式洋上風力発電施設1の搭載拠点を陸地に整備するには、岸壁の地耐力を向上させる地盤改良工事などの大規模な工事が必要となり、比較的多くのコストや労力や時間を要するが、本発明ではそのような岸壁の大規模な工事を行う必要がなく、岸壁背後に広大なスペースを確保する必要もない。水深DWが比較的浅い海域なため、水上構造物10の設置場所を港湾区域内で確保しやすいというメリットもある。
【0047】
また、本発明では、水上構造物10を水深DWが8m以上20m以下の海域に構築することで、水上構造物10の近傍にSEP船20を停船させることが可能であり、水上構造物10の近傍の海底SBに浮体2を容易に着底させることができる。波浪の影響を受けないSEP船20のクレーン23を使用し、さらに、浮体2を海底SBに着底させていることで、浮体2に対して風力発電装置3の組立部品を順次設置して、浮体2上に風力発電装置3が構築された組立体9を製造する作業を非常に安定した状態で効率的に行える。
【0048】
組立体9を製造した後には、組立体9を設置対象海域まで海上輸送し、設置対象海域において浮体2を係留するだけで浮体式洋上風力発電施設1の施工が完了する。即ち、本発明では設置対象海域において煩雑で高度な作業を行う必要もない。
【0049】
それ故、本発明では、岸壁に浮体式洋上風力発電施設1の搭載拠点を整備しなくとも、設置対象海域に係留した状態での浮体2の喫水が20m以下の浮体式洋上風力発電施設1(スパー型を除くその他の型の浮体式洋上風力発電施設1)を効率的に施工できる。また、本発明では、比較的浅い海域に仮設の水上構造物10を構築するので、製造拠点としての水上構造物10の利用を終えた後には、水上構造物10を比較的簡易に撤去することができる。また、海底SBの状態を、水上構造物10を構築する前の状態に復元する作業も比較的簡易に行うことができる。
【0050】
また、本発明では、風力発電装置3の組立部品を仮置きする水上構造物10を設けることで、組立体9の製造を行う海域に風力発電装置3の組立部品を輸送する作業を、自己昇降式台船23以外の運搬船40で行うことが可能になる。それ故、複数の組立体9を製造する場合にも、自己昇降式台船23によって風力発電装置3の組立部品を海上輸送する必要がなくなり、自己昇降式台船23を風力発電装置3の組立て作業に効率よく活用できる。自己昇降式台船23は特殊な船舶で、国内に存在する船数が少ないため、自己昇降式台船23を風力発電装置3の組立て作業に効率的に活用して、浮体式洋上風力発電施設を効率よく施工できることは当業者にとって非常に大きなメリットである。また、水上構造物10を設けることで、運搬船40は、風力発電装置3の組立部品を水上構造物10に仮置きした後に、速やかに次の輸送に移行できる。それ故、水上構造物10を設けることで運搬船40の稼働率も向上させることができる。
【0051】
水上構造物10を防波堤50の内側の海域に構築すると、波浪の影響が少ない海域で水上構造物10を構築できるので、水上構造物10の構築に要する労力を低減するには有利になる。また、海底SBに着底させた状態の浮体2や浮体2に設置したタワー4に波浪による水圧が作用するリスクが低くなるので、浮体2やタワー4にかかる負荷を低減するにも有利になる。なお、本発明では、波浪の影響が小さい穏やかな水域であれば、例えば、水上構造物10を防波堤50の外側の海域や防波堤50が設けられていない海域に構築することもできる。この実施形態では、水上構造物10として桟橋を構築する場合を例示したが、水上構造物10として海域に浮体式構造物を構築する場合にも桟橋を構築する場合と同様の効果を奏することができる。
【0052】
風力発電装置3の組立部品はそれぞれサイズと重量が大きく、タワー4の上部を構成する分割部材4aやナセルハブ5、ブレード6を設置する高さは比較的高い位置になる。そのため、SEP船20のクレーン30と水上構造物10と浮体2との相対的な位置関係や、SEP船20のクレーン30のサイズによっては、クレーン30によって水上構造物10上に仮置きしている組立部品を浮体2上の設置位置まで直接移動させることが困難な場合や、水上構造物10上に仮置きしている組立部品を浮体2上の設置位置まで直接移動させるとクレーン23のバランスが安定せずにクレーン23に大きな負荷がかかる場合がある。
【0053】
そのような場合には、この実施形態のように、SEP船20のクレーン23を使用して、水上構造物10上に仮置きしていた組立部品の少なくとも一部をSEP船20に積み替え、その積み替えた組立部品を浮体2に対して設置する構成にすると、SEP船20のクレーン23によって風力発電装置3の組立て作業をより安定した状態で円滑に行うことができる。
【0054】
特に、この実施形態のように、水上構造物10上に仮置きしていたタワー4の分割部材4aを、SEP船20に立てた状態で積み替えておくと、SEP船20に搭載している分割部材4aをクレーン23で吊上げて浮体2まで移動させる際の分割部材4aの動揺を少なくすることができ、分割部材4aの設置作業を円滑に行うには有利になる。
【0055】
また、水上構造物10上に仮置きしていた組立部品の少なくとも一部をSEP船20に積み替えることで、水上構造物10上に、次に製造する組立体9を構成する風力発電装置3の組立部品を仮置きできるスペースを速やかに確保できる。それ故、複数の組立体9を並行して製造する場合には非常に有効である。
【0056】
なお、本発明では、可能な場合にはSEP船20のクレーン23を使用して、水上構造物10上に仮置きしている風力発電装置3の組立部品を浮体2に対して直接設置してもよい。
【0057】
上述したように、水深が8m以上20m以下の海域に仮設した水上構造物10とSEP船20を使用する本発明は、スパー型を除くその他の型の浮体式洋上風力発電施設1の施工に適した方法であり、スパー型の浮体式洋上風力発電施設を施工する場合とは着想が大きく異なっている。
【0058】
その理由としては、例えば、一般的な施工方法や特許文献1に記載の発明のように、スパー型の浮体式洋上風力発電装置を陸上で製造する場合には、岸壁などの陸地に浮体式洋上風力発電装置の製造拠点を整備する必要がある。
【0059】
また、例えば、一般的な構造のスパー型の浮体と風力発電装置の組立体を海域で製造する場合には、高さが50m~100m程度のスパー型の浮体を水中に立てた状態で配置する必要があり、水深が100m~200m程度の深い海域にスパー型の浮体を配置することになる。水深が100m~200m程度の深い海域では、SEP船20の昇降用脚22を海底SBに着底させることはできない。それ故、スパー型の浮体式洋上風力発電施設の施工では、SEP船20を有効に活用することはできない。また、水深が100m~200m程度の深い海域に、仮設の水上構造物を構築するには多くのコストや労力や時間を要し、水上構造物にはSEP船20に搭載されているような大型のクレーンを設置する必要がある。また、水深が深い海域では、水上構造物を撤去する作業や海底SBの状態を復元する作業にも多くのコストと労力を要することになる。
【0060】
このように、本発明はスパー型を除くその他の型の浮体式洋上風力発電施設1の特徴を考慮して見出した施工方法であり、スパー型の浮体式洋上風力発電施設を施工する場合とは技術的思想が大きく異なっている。なお、上記では、セミサブ型の浮体式洋上風力発電施設1を施工する場合を例示したが、TLP型の浮体式洋上風力発電施設やバージ型の浮体式洋上風力発電施設を施工する場合にも、同様の施工方法で同様の効果を奏することができる。
【符号の説明】
【0061】
1 浮体式洋上風力発電施設
2 浮体
2a コラム
2b 連結体
3 風力発電装置
4 タワー
4a 分割部材
5 ナセルハブ
6 ブレード
7 係留索
8 アンカー
9 組立体
10 水上構造物
11 支持杭
12 桁材
13 甲板材
14 ブレース
15 係留設備
16 防衝設備
20 自己昇降式台船(SEP船)
21 台船本体
22 昇降用脚
23 (自己昇降式台船に搭載されている)クレーン
30 (桟橋に配置される)クレーン
40 運搬船
50 防波堤
60 岸壁
SB 海底
WL 海面位置
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11
図12