(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2025011482
(43)【公開日】2025-01-24
(54)【発明の名称】車両用リザーブタンクの支持機構
(51)【国際特許分類】
F01P 11/00 20060101AFI20250117BHJP
【FI】
F01P11/00 C
【審査請求】未請求
【請求項の数】4
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023113623
(22)【出願日】2023-07-11
(71)【出願人】
【識別番号】000003207
【氏名又は名称】トヨタ自動車株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001210
【氏名又は名称】弁理士法人YKI国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】野地 祐矢
(57)【要約】
【課題】重力方向とは異なる方向の加速度が車両に発生したときに、リザーブタンクから冷却回路に気泡が混入することを抑制する。
【解決手段】車両用リザーブタンクの支持機構は、リザーブタンク30及び変位装置を備える。リザーブタンク30には、冷媒が貯留される。さらにリザーブタンク30は、冷却回路に接続される。変位装置は、Vアクチュエータ40及びHアクチュエータ42を備える。Vアクチュエータ40及びHアクチュエータ42は、リザーブタンク30の姿勢を可変にする。
【選択図】
図3
【特許請求の範囲】
【請求項1】
冷媒が貯留され、冷却回路に接続される、リザーブタンクと、
前記リザーブタンクの姿勢を可変にする変位装置と、
を備える、車両用リザーブタンクの支持機構。
【請求項2】
請求項1に記載の、車両用リザーブタンクの支持機構であって、
地図データ上に車両の走行経路を設定する、地図データ加工器と、
前記車両の位置を取得する測位器と、
前記変位装置を制御するコントローラと、
を備え、
前記コントローラは、加速度予測器を備え、
前記加速度予測器は、前記車両に対する加減速操作、前記車両の車速、及び、前記走行経路に沿った前記車両の前方の道路情報に基づいて、前記車両に生じる加速度ベクトルを予測し、
さらに前記コントローラは、前記予測された加速度ベクトルに基づいて、前記変位装置の操作量を求める、
車両用リザーブタンクの支持機構。
【請求項3】
請求項1または2に記載の、車両用リザーブタンクの支持機構であって、
前記変位装置は、
鉛直軸周りに回動可能な第一アクチュエータと、
鉛直軸に直交する軸周りに回動可能な第二アクチュエータと、
を備える、車両用リザーブタンクの支持機構。
【請求項4】
請求項3に記載の、車両用リザーブタンクの支持機構であって、
前記リザーブタンクの底壁に、冷媒の出入り口であるポートが形成され、
前記変位装置は、前記予測された加速度ベクトルと前記リザーブタンクの前記底壁とが直交するように、前記リザーブタンクの姿勢を変位させる、
車両用リザーブタンクの支持機構。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本明細書では、車両用リザーブタンクの支持機構が開示される。
【背景技術】
【0002】
リザーブタンクは、車両の冷却回路に接続される。冷却回路を流れる冷媒は、高温になると体積が増加する。冷媒の体積増加に伴い、冷却回路の内圧が増加する。冷却回路の内圧が増加するのに伴い、冷却回路からリザーブタンクに冷媒が流入する。これにより、冷却回路の過圧が抑制される。
【0003】
また、冷媒の温度が低下すると、冷媒の体積が減少する。これに伴い、冷媒回路の内圧が低下する。冷却回路の内圧が低下するのに伴い、リザーブタンクから冷媒回路に冷媒が供給される。これにより、冷却回路の、過度な減圧が抑制される。
【0004】
例えばリザーブタンクには、容積の20%以上50%以下の範囲で冷媒が貯留される。つまりリザーブタンク内には冷媒の他に空気も含まれる。リザーブタンクから冷媒回路に冷媒が流出する際に、気泡が混入すると、冷却効率が低下する。気泡混入を防ぐために、例えば特許文献1では、リザーブタンクの内部が複数の部屋に分割される。そして第1室が入口ポートに接続される。第1室の天井の高さは、リザーブタンクの液面よりも低く設定される。特許文献2では、リザーブタンク内に気液分離室が設けられる。
【0005】
特許文献3には、流体アクティブサスペンションが開示される。このサスペンションは、空気ばねとリザーブタンクを備える。リザーブタンクから空気ばねへの空気の供給量が、バルブによって制御される。このサスペンションでは、当該サスペンションに生じた上下加速度を打ち消すように、空気の供給量及び排出量が定められる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2020-159318号公報
【特許文献2】特開2015-28336号公報
【特許文献3】特開平6-99711号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
ところで、高速旋回時や急加減速時に、重力方向とは異なる方向の加速度が車両に発生する。例えば水平方向の加速度が車両に発生する。このとき、
図10の上段から下段のように、冷媒102の液面103が偏る。液面103から冷媒ポート101の一部が露出することで気泡が混入するおそれがある。
【0008】
そこで本明細書では、車両用リザーブタンクの支持機構が開示される。重力方向とは異なる方向の加速度が車両に発生したときに、この支持機構は、冷却回路に気泡が混入することを抑制可能である。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本明細書では、車両用リザーブタンクの支持機構が開示される。この支持機構は、リザーブタンク及び変位装置を備える。リザーブタンクには、冷媒が貯留される。さらにリザーブタンクは、冷却回路に接続される。変位装置は、リザーブタンクの姿勢を可変にする。
【0010】
上記構成によれば、車両に生じる加速度ベクトルに対応して、リザーブタンクの姿勢を変えることが出来る。
【0011】
また上記構成において、車両用リザーブタンクの支持機構は、地図データ加工器、測位器、及びコントローラを備えてよい。地図データ加工器は、地図データ上に車両の走行経路を設定する。測位器は、車両の位置を取得する。コントローラは、変位装置を制御する。コントローラは、加速度予測器を備える。車両に対する加減速操作、車速、及び、走行経路に沿った車両の前方の道路情報に基づいて、加速度予測器は、車両に生じる加速度ベクトルを予測する。さらに、予測された加速度ベクトルに基づいて、コントローラは、変位装置の操作量を求める。
【0012】
上記構成によれば、車両に生じる加速度ベクトルが予め算出される。加速度ベクトルの予測値に基づいて、リザーブタンクの姿勢を変位させることで、冷却回路への気泡混入が抑制される。
【0013】
また上記構成において、変位装置は、第一アクチュエータ及び第二アクチュエータを備えてもよい。第一アクチュエータは、鉛直軸周りに回動可能である。第二アクチュエータは、鉛直軸に直交する軸周りに回動可能である。
【0014】
上記構成によれば、リザーブタンクが球面軌跡上に変位可能となる。
【0015】
また上記構成において、リザーブタンクの底壁に、冷媒の出入り口であるポートが形成されてよい。この場合、予測された加速度ベクトルとリザーブタンクの底壁とが直交するように、変位装置は、リザーブタンクの姿勢を変位させる。
【0016】
上記構成によれば、車両に加速度が生じた際に、リザーブタンクの底壁に対して平行に冷媒の液面が保持される。
【発明の効果】
【0017】
本明細書に係る車両用リザーブタンクの支持機構は、重力方向とは異なる方向の加速度が車両に発生したときに、冷却回路への気泡混入が抑制可能である。
【図面の簡単な説明】
【0018】
【
図1】車両に搭載された冷却回路を例示する斜視図である。
【
図3】本実施形態に係る、リザーブタンクの支持機構を例示する、システム図である。
【
図4】リザーブタンク姿勢コントローラのハードウェア構成を例示する図である。
【
図5】車両に生じる、いわゆる横Gを予測するプロセスを説明する平面図である。
【
図6】加速度ベクトルの合成について説明する図である。
【
図7】
図6で合成された加速度ベクトルに基づいて、リザーブタンクの姿勢制御を行う例を示す、斜視図である。
【
図8】加速度ベクトルの合成の別例について説明する図である。
【
図9】
図8で合成された加速度ベクトルに基づいて、リザーブタンクの姿勢制御を行う例を示す、斜視図である。
【
図10】冷却回路に気泡が入り込むときの従来例を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0019】
以下に、実施形態に係る、車両用リザーブタンクの支持機構が、図面を用いて説明される。以下で説明する形状、材料、個数、及び数値は、説明のための例示である。これらの要素は、車両用リザーブタンクの支持機構の仕様に応じて適宜変更できる。また以下ではすべての図面において同等の要素には同一の符号が付される。
【0020】
また
図1、
図2、
図6-
図9では、各構成の位置や方向を表すために、直交座標系が用いられる。この直交座標系は、FR軸、RW軸、及びUP軸からなる。FR軸は、車両前後方向軸である。RWは、車幅方向軸である。UP軸は、車両上下方向軸である。FR軸は、車両前方を正方向とする。RW軸は、車両右側を正方向とする。UP軸は、上方を正方向とする。
【0021】
<冷却回路>
図1には、車両10の前方部分が例示される。
図1には、モノコック構造のボディシェルが例示される。エンジンコンパートメント12には、パワートレイン20が配置される。パワートレイン20は、駆動源とトランスミッションを備える。駆動源は例えば内燃機関や回転電機である。さらにパワートレイン20は、高電圧回路素子を備える。高電圧回路素子は、回転電機を制御する。例えば高電圧回路素子として、インバータやDC/DCコンバータが、パワートレイン20に配置される。加えてパワートレイン20には、ウォータージャケット(図示せず)が形成される。ウォータージャケットは、冷媒の流路である。駆動源や高電圧回路素子の近傍にウォータージャケットが配置される。なお、冷却対象は駆動源や高電圧回路素子に限定されない。例えばバッテリ等の発熱する車載部品が、冷却対象に含まれ得る。
【0022】
エンジンコンパートメント12の前方には、ラジエータ22が配置される。例えばラジエータ22は、ラジエータサポート16に支持される。ラジエータ22及びパワートレイン20は、インレットパイプ24及びアウトレットパイプ26によって接続される。
【0023】
ラジエータ22で冷やされた冷媒は、ウォーターポンプ(図示せず)により、インレットパイプ24からパワートレイン20に送られる。冷却後の冷媒は、アウトレットパイプ26からラジエータ22に戻される。
【0024】
さらにラジエータ22は、リザーブタンク30に接続される。例えばラジエータ22とリザーブタンク30とはホース45で接続される。後述されるように、変位装置であるVアクチュエータ40及びHアクチュエータ42によって、リザーブタンク30が変位する。この変位に追従できるように、ホース45はゴム等の可撓性材料から構成される。またリザーブタンク30からラジエータ22までの最短距離に対して十分な余裕を持って、ホース45の長さが定められる。
【0025】
リザーブタンク30には、冷媒36(
図7参照)が貯留される。リザーブタンク30は、例えば直方体形状の容器である。リザーブタンク30の底壁32にはポート34が開口される。ポート34は冷媒36の出入り口である。このポート34にホース45の上端が接続される。ホース45を介して、リザーブタンク30が冷却回路に接続される。なお、リザーブタンク30は、直方体形状に限定されない。例えば円柱形状や凹凸面を含む立体形状であってもよい。
【0026】
車両10において、冷却回路は、パワートレイン20、及びラジエータ22を含む。さらにこれらの機器を接続する、インレットパイプ24及びアウトレットパイプ26が、冷却回路に含まれる。
【0027】
冷媒36は、いわゆるクーラント液である。クーラント液は、エチレングリコール等の低融点の液体を主成分とする。冷却回路内の冷媒の温度が上昇すると、冷媒36の体積が増加する。冷媒36の体積増加に伴って冷却回路の内圧が増加する。このとき、冷媒36の一部がホース45を経由してリザーブタンク30に流入する。これにより冷却回路の過圧が抑制される。なお、冷媒36はクーラント液に限定されない。例えば冷媒36には、油などの液体が含まれる。
【0028】
冷却回路内の冷媒36の温度が低下すると、冷媒36の体積が減少する。冷媒36の体積減少に伴って冷却回路の内圧が低下する。このとき、冷媒36の一部がホース45を経由してラジエータ22に流入する。これにより冷却回路の過度な減圧が抑制される。
【0029】
リザーブタンク30からラジエータ22に冷媒が送られる際に、ホース45に気泡が混入するおそれがある。例えば車両10にいわゆる横Gが発生し、冷媒36の液面が偏る場合に、気泡がホース45に混入し得る。なお横Gとは、車幅方向の加速度を指す。
【0030】
そこで、車両10には、リザーブタンク30の支持機構が配置される。後述されるように、カーブ走行時等に、重力方向とは異なる方向の加速度が車両10に入力される。これに備えて、変位装置(Vアクチュエータ40及びHアクチュエータ42)がリザーブタンク30の姿勢を変える。その結果、冷却回路に気泡が混入することが抑制される。
【0031】
<リザーブタンクの支持>
図2には、リザーブタンク30の周辺構造が例示される。
図2を参照して、本実施形態に係る、リザーブタンク30の支持機構は、リザーブタンク30、Vアクチュエータ40、Hアクチュエータ42、ロッド41、アーム43、及びブラケット46を備える。さらに
図3を参照して、支持機構は、リザーブタンク姿勢コントローラ50、ナビゲーションECU60、ブレーキセンサ71、アクセルセンサ73、車速センサ74、加速度センサ75、及び測位器76を備える。
【0032】
図2を参照して、リザーブタンク30は、ブラケット46、ロッド41、及びアーム43に支持される。ブラケット46は車体に固定される。例えばブラケット46は、車両の骨格部品に支持される。例えばブラケット46は、インサイドパネル14及びアッパーフレーム18に支持される。例えばブラケット46は、溶接やボルト締結により、インサイドパネル14及びアッパーフレーム18に締結される。
【0033】
ブラケット46の車幅方向外側端部が、インサイドパネル14及びアッパーフレーム18に支持される。ブラケット46の、車幅方向内側端部は、ロッド41の上端に接続される。ロッド41にはVアクチュエータ40が設けられる。Vアクチュエータ40及びHアクチュエータ42は、纏めて変位装置とも呼ばれる。この変位装置は、リザーブタンク30の姿勢を可変にする。
【0034】
Vアクチュエータ40は、鉛直軸C1を回転軸として回動可能である。以下では適宜、Vアクチュエータ40は「第一アクチュエータ」とも記載される。例えばVアクチュエータ40はサーボモータから構成される。Vアクチュエータ40が360°以上回転すると、ホース45の捻じれに繋がる。そこで、Vアクチュエータ40の動作角は、例えば360°未満に制限される。
【0035】
例えば
図2に示されるように、アーム43の長手方向が車両前後軸(FR軸)と平行となる。このときのVアクチュエータ40の回動角が、0°に設定される。
【0036】
Vアクチュエータ40の下方には、アーム43が接続される。アーム43は側面視(RW軸視)でC字形状である。アーム43の下端には、Hアクチュエータ42及びリザーブタンク30が接続される。
【0037】
Hアクチュエータ42は、回転軸C2周りに回動可能である。回転軸C2は、鉛直軸C1とは直交する。例えば回転軸C2は、水平方向に延伸する。以下では適宜、Hアクチュエータ42は「第二アクチュエータ」とも記載される。例えばHアクチュエータ42は、サーボモータから構成される。また、ホース45の捻じれを抑制するために、Hアクチュエータ42の動作角は、360°未満に制限される。
【0038】
例えば
図2に例示されるように、リザーブタンク30が鉛直姿勢となる。このときのHアクチュエータ42の回動角が、0°に設定される。
【0039】
リザーブタンク30は、Hアクチュエータ42とともに回動する。またリザーブタンク30は、アーム43に対して回動する。リザーブタンク30は、冷媒36を貯留する。そして底壁32にはポート34が設けられる。ポート34は冷媒の出入り口である。
【0040】
Vアクチュエータ40が鉛直軸C1を中心に回動する。また、Hアクチュエータ42が回動軸C2を中心に回動する。両者の回動が組み合わせられて、リザーブタンク30が変位される。例えば、リザーブタンク30の軌跡は、球面上を移動するような軌跡となる。
【0041】
Vアクチュエータ40及びHアクチュエータ42のそれぞれに、エンコーダ(図示せず)が設けられていてよい。エンコーダは、Vアクチュエータ40及びHアクチュエータ42の、一回転内の絶対位置を検出する。例えばVアクチュエータ40及びHアクチュエータ42の分解能が1000p/revである場合に、エンコーダもこれと同様の分解能を備える。この分解能では、1回転(1rev)が1000パルスに分解される。
【0042】
<支持機構のシステム構成>
図3には、リザーブタンク30の支持機構のシステム構成が例示される。この支持機構は、リザーブタンク姿勢コントローラ50、ナビゲーションECU60、ブレーキセンサ71、アクセルセンサ73、車速センサ74、加速度センサ75、及び測位器76を備える。
【0043】
リザーブタンク姿勢コントローラ50は、変位装置(Vアクチュエータ40及びHアクチュエータ42)を制御する。リザーブタンク姿勢コントローラ50は、コンピュータから構成される。
図4には、リザーブタンク姿勢コントローラ50のハードウェア構成が例示される。リザーブタンク姿勢コントローラ50は、入出力コントローラ50E、CPU50A、RAM50B、ROM50C、及びストレージデバイス50Dを備える。これらの機器は、内部バス50Fにより相互に通信可能となっている。
【0044】
入出力コントローラ50Eは、車両10の各種センサから出力された信号を受信する。また入出力コントローラ50Eは、Vアクチュエータ40及びHアクチュエータ42に対する駆動指令を送信する。例えば駆動指令は、パルス信号である。例えば入出力コントローラ50Eは、時計回りの回転を指令するパルス信号出力(CW_OUT)と、反時計回りの回転を指令するパルス信号出力(CCW_OUT)を備える。さらにCW_OUT出力と、CCW_OUT出力が、Vアクチュエータ40及びHアクチュエータ42のそれぞれに対して設定される。
【0045】
CPU50Aは、入出力コントローラ50Eから受信した信号を基に演算を実行して、変位装置(すなわちVアクチュエータ40及びHアクチュエータ42)への駆動指令を生成する。RAM50B、ROM50C、ストレージデバイス50D等の記憶素子には、制御プログラムやセンサが検出したデータ等が記憶される。
【0046】
ストレージデバイス50DまたはROM50Cに記憶された制御プログラムをCPU50Aが実行する。これにより、リザーブタンク姿勢コントローラ50には、
図3に例示されるような機能ブロックが構成される。すなわちリザーブタンク姿勢コントローラ50は、加速度予測器52及び駆動信号生成器54を備える。
【0047】
加速度予測器52は、ナビゲーションECU60と協働して、加速度の予測値を算出する。この算出プロセスは後述される。駆動信号生成器54は、加速度予測器52により算出された加速度と、Vアクチュエータ40及びHアクチュエータ42の現在位置に基づいて、駆動指令を生成する。変位角θv,θhは、後述される
図6、
図8を用いて説明される。
【0048】
また加速度予測器52は、複数の車載センサから信号を受信する。例えば加速度予測器52には、ブレーキセンサ71からブレーキペダル70の踏み込み量が送信される。また加速度予測器52には、アクセルセンサ73からアクセルペダル72の踏み込み量が送信される。また加速度予測器52には、車速センサ74から車両10の速度値(車速)が送信される。
【0049】
さらに加速度予測器52には、加速度センサ75から加速度の現在値が送信される。加速度センサ75は、例えばFR軸方向、WR軸方向、UP軸方向の直交する3成分の加速度を検出可能となっている。
【0050】
ナビゲーションECU60は、コンピュータから構成される。例えばナビゲーションECUは、
図4に例示されたものと同様に、入出力コントローラ、CPU、RAM、ROM、及びストレージデバイスを備える。
【0051】
ストレージデバイスまたはROMに記憶された制御プログラムをCPUが実行する。これにより、ナビゲーションECU60には、
図3に例示されるような機能ブロックが構成される。すなわちナビゲーションECU60は、地図データ加工器62及び地図データストレージデバイス64を備える。
【0052】
地図データストレージデバイス64には、道路地図データが記憶される。道路地図データは、車道の曲線半径R(
図5参照)及び標高が含まれる。曲線半径Rは、後述される加速度予測に用いられる。また道路の標高データから、道路の凹凸構造が把握できる。つまり道路の凹凸箇所を通過するときに、車両10に発生する上下方向の加速度が予測できる。
【0053】
地図データ加工器62は、車両10の走行経路を地図データ上に設定する。例えば車両10の目的地が、運転者等によりナビゲーションECU60に入力される。地図データ加工器62は、車両の現在値から目的地までの経路を算出する。算出された走行経路が地図データ上に設定される。
【0054】
測位器76は、車両10の位置を取得する。測位器76は、例えば衛星測位システム(GlobalNavigation Satellite System)の受信器である。車両10の現在位置情報は、地図データ加工器62に送信される。
【0055】
地図データにおいて、車両10の現在位置が、走行経路上にセットされる。これにより、走行経路に沿った車両10の前方の道路情報が得られる。道路情報には上述した曲線半径Rや凹凸状況が含まれる。これらの道路情報に基づいて、加速度予測器52は、車両10に生じる加速度を予測する。
【0056】
<リザーブタンクの姿勢制御>
加速度予測器52は、所定時間後に車両10に生じる加速度ベクトルを算出(予測)する。例えば加速度予測器52は、1秒後に車両10に生じる加速度ベクトルを算出する。以下に説明されるように、加速度予測器52は、車両10に対する加減速操作、車両10の車速、及び、走行経路に沿った車両10の前方の道路情報に基づいて、車両10に生じる加速度ベクトルを予測する。
【0057】
図5を参照して、直線道路80を走行する車両10の前方にカーブ82が配置される。車両10がカーブ82を走行する際に、車両10にはいわゆる横Gが発生する。横Gは車幅方向の加速度を指す。
【0058】
加速度予測器52は、地図データから、カーブ82の曲線半径R1を取得する。さらに加速度予測器52は、車速センサ74から実車速Vaを取得する。横Gすなわち車幅方向加速度a1は、以下の数式(1)から求められる。
【0059】
a1=Va2/R1 [m2/s] (1)
【0060】
さらに加速度予測器52は、加速度センサ75から重力方向(UP軸方向)の加速度a0を取得する。ここで、重力方向の加速度a0は、現在時と予測時とで変化しないと仮定される。
【0061】
加速度予測器52は、
図6に例示されるように、横Gの加速度ベクトルa1と、重力方向の加速度ベクトルa0から、合成加速度ベクトルa2を求める。合成加速度ベクトルa2は、予測時点(例えば1秒後)において車両10に発生する加速度ベクトルを示す。
【0062】
駆動信号生成器54は、合成加速度ベクトルa2に基づいて、変位装置(Vアクチュエータ40及びHアクチュエータ42)の操作量を求める。すなわち駆動信号生成器54は、合成加速度ベクトルa2と、UP軸との角度θ
H1を求める。角度θ
Hは、Hアクチュエータ42の変位角に対応する。また駆動信号生成器54は、合成加速度ベクトルa2と、RW軸との角度θ
V1を求める。角度θ
Vは、Vアクチュエータ40の変位角に対応する。
図6の例では、θ
V1は0°である。
【0063】
図2には、いわゆるオリジナルポジションのVアクチュエータ40及びHアクチュエータ42が例示される。このとき、Vアクチュエータ40の角度θ
Vは0°である。同様に、Hアクチュエータ42の角度θ
Hは0°である。
【0064】
駆動信号生成器54は、Vアクチュエータ40の現在角度θV0とHアクチュエータ42の現在角度θH0を、エンコーダ(図示せず)から取得する。さらに駆動信号生成器54は、現在角度θV0と予測角度θV1との差分ΔθVを求める。また駆動信号生成器54は、現在角度θH0と予測角度θH1との差分ΔθHを求める。
【0065】
次に駆動信号生成器54は、ΔθV及びΔθHに基づいた駆動信号を生成する。ΔθVに基づいた駆動信号は、Vアクチュエータ40に送信される。ΔθHに基づいた駆動信号は、Hアクチュエータ42に送信される。
【0066】
駆動信号がVアクチュエータ40及びHアクチュエータ42に送信された後の、リザーブタンク30の姿勢が、
図7に例示される。この例では、θ
V=0°であるため、Vアクチュエータ40の角度位置は、オリジナルポジションに維持される。一方で、Hアクチュエータ42の角度位置は、オリジナルポジションから時計回りに回動した位置となる。
【0067】
このようなリザーブタンク30の変位により、加速度予測器52が予測した加速度ベクトルa2に対して、リザーブタンク30の底壁32は直交する。したがって、底壁32上の冷媒36の液面は偏らずに、ポート34は冷媒に覆われる。これにより、ポート34への気泡の混入が抑制される。
【0068】
図8には、
図6とは異なる、加速度ベクトルの合成例が示される。この例では、
図5において、カーブ82に入る直前に、車両10のブレーキペダル70(
図3参照)が踏まれたときの例が示される。
【0069】
加速度予測器52は、
図6の例と同様に、横Gすなわち車幅方向加速度a1を算出する。さらに加速度予測器52は、加速度センサ75から重力方向(UP軸方向)の加速度a0を取得する。
【0070】
次に加速度予測器52は、ブレーキセンサ71からブレーキペダル70の踏み込み量を取得する。さらに
図8を参照して、加速度予測器52は、踏み込み量に基づいて、減速の反作用として生じる減速加速度a3を求める。次に加速度予測器52は、加速度ベクトルa0,a1,a3を合成した合成加速度ベクトルa4を求める。
【0071】
駆動信号生成器54は、合成加速度ベクトルa4と、UP軸との角度θH2を求める。また駆動信号生成器54は、合成加速度ベクトルa4と、RW軸との角度θV2を求める。
【0072】
次に駆動信号生成器54は、Vアクチュエータ40の現在角度θV0と、Hアクチュエータ42の現在角度θH0を、エンコーダ(図示せず)から取得する。さらに駆動信号生成器54は、現在角度θV0と予測角度θV2との差分ΔθVを求める。また駆動信号生成器54は、現在角度θH0と予測角度θH2との差分ΔθHを求める。次に駆動信号生成器54は、ΔθV及びΔθHに基づいた駆動信号を生成する。ΔθVに基づいた駆動信号はVアクチュエータ40に送信される。ΔθHに基づいた駆動信号はHアクチュエータ42に送信される。
【0073】
Vアクチュエータ40及びHアクチュエータ42によって、リザーブタンク30が
図9に例示されるように変位される。この変位により、加速度予測器52が予測した加速度ベクトルa4に対して、リザーブタンク30の底壁32(
図7参照)は直交する。したがって、底壁32上の冷媒36の液面は偏らずに、ポート34は冷媒に覆われる。これにより、ポート34への気泡の混入が抑制される。
【0074】
なお、上述の説明では、リザーブタンク30の姿勢制御として、いわゆる予測制御が実行された。これに加えて、フィードバック制御が実行されてもよい。例えば加速度予測器52は、予測された加速度成分と、車両10に生じた実加速度成分を合成してもよい。そして合成された加速度ベクトルに基づいて、Vアクチュエータ40及びHアクチュエータ42の操作量が求められる。
【0075】
また上述の実施形態では、車両10がカーブ82を走行するときのリザーブタンク30の変位制御が例示されたが、本実施形態に係る支持機構は、この形態には限定されない。例えば、アクセルペダル72(
図3参照)の踏み込みによる、いわゆる加速Gを加速度予測器52が予測してもよい。また、車両10の進行方向前方の、路面の凹凸形状に基づいて、いわゆる突き上げによる加速度を、加速度予測器52が予測してもよい。加えてこれらの組合せによる加速度を、加速度予測器52が予測してもよい。予測された加速度と、重力加速度に基づいた合成加速度ベクトルに基づいて、駆動信号生成器54は、Vアクチュエータ40及びHアクチュエータ42に対する駆動信号を生成する。
【0076】
また、上述の実施形態では、リザーブタンクの姿勢を可変にする変位装置として、Vアクチュエータ40(第一アクチュエータ)とHアクチュエータ42(第二アクチュエータ)が例示された。しかしながら、本実施形態に係る変位装置は、この例には限定されない。例えば変位装置は、直交する2つの軸を回転軸とするアクチュエータを備える。
【符号の説明】
【0077】
10 車両、22 ラジエータ、30 リザーブタンク、32 底壁、34 ポート、36 冷媒、40 Vアクチュエータ(変位装置)、42 Hアクチュエータ(変位装置)、50 リザーブタンク姿勢コントローラ、52 加速度予測器、54 駆動信号生成器、60 ナビゲーションECU、62 地図データ加工器、64 地図データストレージデバイス、70 ブレーキペダル、71 ブレーキセンサ、72 アクセルペダル、73 アクセルセンサ、74 車速センサ、75 加速度センサ、76 測位器。