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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2025114898
(43)【公開日】2025-08-06
(54)【発明の名称】コイル部品
(51)【国際特許分類】
   H01F 27/29 20060101AFI20250730BHJP
【FI】
H01F27/29 F
H01F27/29 125
【審査請求】未請求
【請求項の数】7
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2024009114
(22)【出願日】2024-01-25
(71)【出願人】
【識別番号】000006231
【氏名又は名称】株式会社村田製作所
(74)【代理人】
【識別番号】100105957
【弁理士】
【氏名又は名称】恩田 誠
(74)【代理人】
【識別番号】100068755
【弁理士】
【氏名又は名称】恩田 博宣
(74)【代理人】
【識別番号】100085143
【弁理士】
【氏名又は名称】小柴 雅昭
(72)【発明者】
【氏名】五十嵐 啓雄
(72)【発明者】
【氏名】吉田 峻
【テーマコード(参考)】
5E070
【Fターム(参考)】
5E070AA01
5E070AB01
5E070BA03
5E070EA02
5E070EB03
(57)【要約】
【課題】金属端子が接着剤層を介してコアに固着される、コイル部品において、外力が加わった際、接着剤層が破断に至るまでの耐力を向上させ、金属端子のコアに対する引張強度を向上させる。
【解決手段】接着剤の硬化時に接着剤層27に残留する応力を低減するため、金属端子9をコア2に固着するための接着剤層27を、接着剤28および気泡29を含む構成とする。気泡29の大きさは、円相当径で直径300μm以下であることが好ましく、接着剤層27の断面において、気泡29の面積率は2.9%以上かつ27%以下であることが好ましい。
【選択図】図2
【特許請求の範囲】
【請求項1】
コイル導体と、
前記コイル導体を保持するコアと、
前記コイル導体と接続された金属端子と、
前記金属端子を前記コアに固着するための接着剤層と、
を備え、
前記接着剤層は、接着剤および気泡を含む、
コイル部品。
【請求項2】
前記気泡には、窒素、アルゴンおよび空気から選ばれる少なくとも1種のガスが充填される、請求項1に記載のコイル部品。
【請求項3】
前記気泡は、扁平形状のものを含む、請求項1に記載のコイル部品。
【請求項4】
前記気泡の大きさの平均は、円相当径で直径300μm以下である、請求項1に記載のコイル部品。
【請求項5】
前記接着剤層の断面において、前記気泡の面積率は2.9%以上かつ27%以下である、請求項1に記載のコイル部品。
【請求項6】
前記コアは、巻芯部および前記巻芯部の軸線方向における互いに逆の端部にそれぞれ設けられた鍔部を有し、
前記コイル導体は、前記巻芯部のまわりに巻回されたワイヤを含み、
前記ワイヤは、前記金属端子に接続され、
前記金属端子は、前記接着剤層を介して前記鍔部に接合されている、
請求項1に記載のコイル部品。
【請求項7】
前記鍔部は、前記巻芯部の端部を位置させる内側端面と、前記内側端面とは反対方向に向く外側端面とを有し、
前記金属端子は、前記鍔部の前記外側端面において前記接着剤層を介して前記鍔部に接合されている、
請求項6に記載のコイル部品。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、コイル部品に関するもので、特に、コイル導体を保持するコアとコイル導体に接続された金属端子とを備えるコイル部品において、金属端子をコアに固着するための接着剤層についての改良に関するものである。
【背景技術】
【0002】
本開示にとって興味ある技術として、たとえば特開2021-39961号公報(特許文献1)に記載されたものがある。特許文献1には、巻芯部および巻芯部の軸線方向における互いに逆の端部にそれぞれ設けられた鍔部を備えるドラム状のコアと、巻芯部のまわりに巻回されたコイル導体としてのワイヤと、ワイヤに接続された金属板からなる金属端子と、を備え、金属端子がコアの鍔部に接着剤を含む接着剤層を介して固着されている、コイル部品が記載されている。
【0003】
このように、外部との接続のための端子として金属端子を備える構造は、たとえば自動車向けのコモンモードチョークコイルにおいて採用されている。自動車向けのコモンモードチョークコイルにおいては、使用環境下でのヒートサイクルにより、プリント基板への接続のためのはんだにクラックが生じやすいが、端子として金属板からなる金属端子が採用されていると、金属端子自体の変形により、はんだにクラックが生じることをある程度抑制できる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2021-39961号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
特許文献1に記載のコイル部品において、接着剤層を介して金属端子をコアに固着すると、接着剤の硬化時に接着剤層には応力が残留する。特に、接着剤層が厚いほど、この残留応力が大きくなる。残留応力は、外力が加わった際、接着剤層が破断に至るまでの耐力を低下させる原因となる。
【0006】
そこで、本開示の目的は、コイル部品において金属端子をコアに接合する接着剤層に残留する応力を低減しようとすることである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本開示は、コイル導体と、コイル導体を保持するコアと、コイル導体と接続された金属端子と、金属端子をコアに固着するための接着剤を含む接着剤層と、を備える、コイル部品に向けられる。上述した技術的課題を解決するため、本開示は、接着剤層が、接着剤および気泡を含むことを特徴としている。
【発明の効果】
【0008】
本開示によれば、接着剤層が気泡を含むので、硬化前の接着剤と比較して、気体である気泡はより大きな変形能を有する。その結果、硬化中に生じる接着剤の収縮に対応して気泡が膨張し、接着剤部分の残留応力が低減された硬化物としての接着剤層を得ることができる。したがって、接着剤層における接着剤部分の残留応力を小さくすることができるため、接着剤層を強度の高い硬化物とすることができ、よって、金属端子のコアに対する引張強度を向上させることができる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
図1】本開示の一実施形態によるコイル部品1の外観を示す斜視図であり、(A)は比較的上方から見た図、(B)は比較的下方から見た図である。
図2図1に示したコイル部品1における鍔部5への金属端子9の取付け部分を示す、図1の線II-IIに沿う拡大断面図である。
図3】気泡の面積率が異ならされた4つの状態A、B、CおよびDにある接着剤層の断面研磨写真を示す図である。
図4図3に示した気泡の面積率が異なる4つの状態A、B、CおよびDにおける金属端子のコアに対する引張強度を示す図でる。
【発明を実施するための形態】
【0010】
図1および図2を参照して、本開示の一実施形態によるコイル部品1について説明する。図1に示したコイル部品1は、たとえばコモンモードチョークコイルを構成するものである。
【0011】
コイル部品1に備えるコア2は、ドラム状であり、巻芯部3と、巻芯部3の軸線方向AXにおける互いに逆の端部にそれぞれ設けられた鍔部5とを有する。コア2は、好ましくは、フェライトから構成される。なお、コア2は、フェライト以外の非導電性材料、たとえば、アルミナのような非磁性体、またはフェライト粉もしくは金属磁性粉を含有する樹脂などから構成されてもよい。
【0012】
巻芯部3のまわりには、コイル導体としての2本のワイヤ7および8が巻回される。図1において、ワイヤ7および8の主要部の図示は省略されている。
【0013】
ワイヤ7および8の各端部は、金属端子9に接続される。図1に示すように、コイル部品1は4個の金属端子9を備える。4個の金属端子9は、互いに同じまたは対称形状を有している。より詳細には、互いに対称形状の2個の金属端子9が一方の鍔部5において幅方向に並んで配置され、同様に、互いに対称形状の2個の金属端子9が他方の鍔部5において幅方向に並んで配置される。
【0014】
コア2に備える巻芯部3は、たとえば四角形の断面形状を有する四角柱形状をなしている。なお、巻芯部3の断面形状は、四角形のほか、六角形などの多角形であっても、円形、楕円形であっても、これらの組み合わせであってもよい。
【0015】
コア2に備える各鍔部5は、軸線方向AXに対して平行に延びかつ実装時において実装基板側に向けられる底面11と、底面11とは反対方向に向く天面12と、を有している。各鍔部5は、また、底面11から立ち上がる面であって、実装基板に対して直交する方向またはほぼ直交する方向にそれぞれ延びる、巻芯部3の端部を位置させる内側端面13と、内側端面13とは反対方向に向く外側端面14と、内側端面13および外側端面14間を結ぶ第1側面15および第2側面16と、を有している。
【0016】
金属端子9は、たとえばリン青銅やタフピッチ銅などの銅系合金からなる金属板を加工することにより製造される。金属端子9の材料となる金属板には、好ましくは、錫めっきが施される。金属板は、たとえば0.10mm以上かつ0.15mm以下の厚みを有する。
【0017】
金属端子9の各々は、鍔部5の底面11に沿って延びる基底部20と、基底部20から、鍔部5の底面11と外側端面14とが交差する稜線部分21を覆う屈曲部22を介して連結され、鍔部5の外側端面14に沿って延びる立上がり部23と、を有している。さらに、金属端子9の各々には、基底部20から延びる接続片24が形成されている。
【0018】
ワイヤ7および8の各端部は、金属端子9の接続片24に接続される。この接続には、たとえばレーザ溶接が適用される。図1には、レーザ溶接によって形成された半球状に盛り上がる溶接塊部25が図示されている。レーザ溶接以外に、熱圧着によってワイヤ7および8の各端部が、金属端子9の接続片24に接続されてもよく、その他の方法によって接続されていてもよい。
【0019】
ワイヤ7および8は、通常、断面円形であり、線状の中心導体と、中心導体の周面を覆う電気絶縁性樹脂からなる絶縁皮膜とを有する。中心導体の径は、たとえば28μm以上かつ50μm以下である。また、絶縁皮膜の厚みは、たとえば3μm以上かつ6μm以下である。中心導体は、たとえば、銅、銀、金などの良導電性金属からなる。絶縁皮膜は、たとえば、ポリウレタン、ポリアミドイミド、ポリエステル、ポリイミドからなる。
【0020】
2本のワイヤ7および8は、図1において図示を省略したが、巻芯部3のまわりに同方向に螺旋状に巻回される。より具体的には、2本のワイヤ7および8は、いずれか一方を内層側に、いずれか他方を外層側に、というように2層巻きにされても、巻芯部3の軸線方向において各々のターンが交互に配列されかつ互いに同方向に並んだ状態で巻くバイファイラ巻きにされてもよい。
【0021】
金属端子9の、鍔部5への取付け部分は、図2によく示されている。金属端子9は、接着剤層27を介して鍔部5に接合されている。より具体的には、金属端子9は、鍔部5の外側端面14において接着剤層27を介して鍔部5に固着されている。
【0022】
接着剤層27を構成する接着剤は、主剤と硬化剤とを含むエポキシ樹脂が一般的である。たとえば、ビスフェノールAまたはFを主剤とし、アミンまたはジシアンジアミドを硬化剤とした、一液性エポキシ樹脂が用いられる。接着剤には、さらに、着色剤としてカーボンが入っていても、充填剤としてシリカ等の無機固形物が入っていてもよく、それ以外に適宜の添加剤が入っていてもよい。
【0023】
接着剤は、熱硬化において収縮することが知られている。熱硬化における収縮は接着剤層27の内部の残留応力を増大する要因となり、外力が加わった際に破断に至るまでの耐力が低下する。そのため、接着剤層27の内部の残留応力は小さい方が好ましい。
【0024】
接着剤層27の内部の残留応力を低減するため、図2に模式的に示されているように、接着剤層27は、接着剤28に加えて、気泡29を含んでいる。このように接着剤層27が接着剤28および気泡29を含む状態は、たとえば、硬化前の液状の段階で、接着剤28に気体を注入しながら攪拌することによって得られる。攪拌方法としては、たとえばプラネタリーミキサが用いられる。注入される気体、すなわち気泡29に充填される気体としては、たとえば窒素、アルゴン等の不活性ガスが好ましく、あるいは、主に窒素、酸素、アルゴンおよび二酸化炭素の混合物である空気であってもよい。ここでいう空気とは、地球の大気を構成している気体のことである。窒素、アルゴン等の不活性ガスは接着剤の酸化を抑制することができるという利点がある。また、空気は安価であるという利点がある。
【0025】
気泡29は、潰れた球のような扁平形状のものを含むことが好ましい。特に、気泡29の扁平形状を与える長径方向は、接着剤層27の厚み方向に垂直な方向に向いていることがより好ましい。後述する図3において、接着剤層27に含まれる気泡29が白っぽい像として示されているが、図3は厚み方向に垂直な方向の断面研磨写真を示しているので、気泡29が有する扁平形状は当該写真では視認が困難である。
【0026】
接着剤層27を接着面と平行に研磨して現れた断面上での気泡29の大きさは、円相当径で直径300μm以下であることが好ましい。300μmを超えると、接着剤層27とこれに接する金属端子9およびコア2の各々との接着面積の減少度合いが大きくなり、接着強度の低下が懸念される。
【0027】
接着剤層27を接着面と平行に研磨して現れた断面において、気泡29の面積率は2.9%以上かつ27%以下であることが好ましい。気泡29の面積率が2.9%未満であると、気泡29の占有割合が低すぎるため、残留応力を緩和しきれないことがあるからである。他方、気泡29の面積率が27%を超えると、接着剤28の硬化過程における気泡29の熱による膨張量が無視できなくなり、気泡29の制御が困難となり、接着剤層27を再現性良く製造することが困難となるからである。
【0028】
コイル部品1は、図1に示されるように、2つの鍔部5の各天面12間に渡された天板31をさらに備えていてもよい。天板31は、コア2の場合と同様、好ましくは、フェライトから構成される。また、天板31は、フェライト以外の非導電性材料、たとえば、アルミナのような非磁性体、またはフェライト粉もしくは金属磁性粉を含有する樹脂などから構成されてもよい。
【0029】
天板31は、図示しない接着剤によって、2つの鍔部5の各天面12に接着される。これによって、天板31は、コア2と協働して閉磁路を形成することができる。接着剤としては、たとえば、エポキシ系樹脂からなるもの、あるいはこれにシリカフィラーを含有したものが用いられる。
【0030】
次に、本開示の効果を確認するために実施した実験例について説明する。
【0031】
接着剤として、ビスフェノールAを主剤とし、アミンを硬化剤とした、一液性エポキシ樹脂を用いた。接着剤の硬化前の液状状態において、窒素ガスを注入しながらプラネタリーミキサで攪拌することによって、接着剤中に気泡を含ませた。そして、気泡および接着剤を含む接着剤層を形成した、図2に示すような構造を有する試料を得た。なお、試料における接着剤層は、いずれも、接着面の面積が4.0×10μmであり、厚みは30μmであった。
【0032】
ここで、気泡を含む接着剤を得るための上記攪拌条件を変えることによって、接着剤が形成しようとする接着剤層の気泡面積率および気泡直径ならびに引張強度が異なる試料を得た。
【0033】
なお、気泡面積率および気泡直径は、それぞれ、接着剤層を接着面と平行に研磨して現れた断面上での気泡についての面積率および直径であるが、これら気泡面積率および気泡直径の測定に供された試料は、接着剤層の断面が露出する状態に処理された状態にあるので、この試料自体を引張強度の測定に供することができない。したがって、この実験例では、所定の攪拌条件で処理された接着剤を用意し、その中から気泡面積率および気泡直径の測定に供される試料と引張強度の測定に供される試料とを選び出した。すなわち、気泡面積率および気泡直径の測定に供される試料と引張強度の測定に供される試料とは、共通の攪拌条件で処理された接着剤であるので、気泡面積率、気泡直径および引張強度が実質的に同じであると推定される。
【0034】
表1には、測定により求められた「気泡面積率」、「気泡直径」および「引張強度」が示されている。「気泡面積率」、「気泡直径」および「引張強度」のいずれについても、サンプル数は10であり、その平均値が示されている。
【0035】
図3には、接着面に平行な方向、すなわち、接着剤層の厚み方向に垂直な方向の断面研磨写真が示されている。図3において、接着剤層に含まれる気泡が白っぽい像として示されていて、そのまわりの黒っぽい領域が接着剤を示している。図3における「状態A」、「状態B」、「状態C」および「状態D」は、それぞれ、表1における「状態A」、「状態B」、「状態C」および「状態D」に相当している。
【0036】
表1に示すように、「気泡面積率」は、「状態A」の接着剤層では0%、「状態B」の接着剤層では2.9%、「状態C」の接着剤層では14%、「状態D」の接着剤層では27%であった。
【0037】
「気泡面積率」は、接着剤層の接着面の面積に対する、接着剤層の厚み方向の中央かつ厚み方向に垂直な方向の断面に現れた気泡が占める面積の比率であり、観察面において、気泡を画像処理ソフトによる輝度値の2値化により計算された。なお、「気泡面積率」を求めるための断面画像の撮影時において、気泡と識別できない面積のものは、気泡と見なさなかった。より具体的には、接着剤層の接着面の円相当径の1%未満の直径の気泡は、気泡と見なさなかった。この実験例の場合、接着剤層の接着面の面積が4.0×10μmであるので、円相当径が710μmであり、その1%は7.1μmである。したがって、直径が7.1μm未満の気泡は、「気泡面積率」を求めるための気泡とは見なさなかった。
【0038】
「気泡直径」は、「気泡面積率」を求めた断面と同一の断面である、接着剤層の厚み方向の中央かつ厚み方向に垂直な方向の断面に現れた直径が7.1μm以上の気泡の円相当径の平均を求めたものである。「気泡直径」を求める場合も同様に、直径が7.1μm未満の気泡は、「気泡直径」を求めるための気泡とは見なさなかった。
【0039】
また、状態A~Dの各々における金属端子のコアに対する引張強度を測定した。その結果が表1の「引張強度」および図4に示されている。図4では、サンプル数10についての引張強度の平均値と分布状態が示されている。引張強度は、図2を参照しながら説明すると、コア2を適宜のホルダ(図示せず。)で固定しながら、金属端子9に矢印Lで示す方向の力を加え、この力を徐々に大きくし、金属端子9がコア2によって保持し得なくなった時点での力を示している。なお、金属端子9がコア2によって保持し得なくなる現象は、接着剤層27自体の厚みの範囲内での破断による場合(凝集破壊)と、接着剤層27とコア2または金属端子9との界面での分断による場合(界面破壊)と、があり得るが、この実験例では両者の混合破壊が生じていた。
【0040】
【表1】
【0041】
表1および図4からわかるように、気泡を含まない状態Aの接着剤層に比べて、気泡を含む状態B、状態Cおよび状態Dの接着剤層によれば、引張強度が向上している。これは、状態Aの接着剤層に比べて、状態B、状態Cおよび状態Dの接着剤層の方が、残留応力が小さくなったためである。
【0042】
また、気泡を含む状態B、状態Cおよび状態Dの間で比較すると、「気泡面積率」が大きくなるほど、「気泡直径」が大きくなり、「引張強度」が大きくなっている。なお、「気泡面積率」は際限なく、より大きい方が好ましいのではなく、後述するように、27%以下であることが好ましい。
【0043】
表1に示したデータから、気泡の大きさは円相当径で直径300μm以下であることが好ましいことが読み取れ、気泡面積率は2.9%以上かつ27%以下であることが好ましいことが読み取れる。
【0044】
以上、本開示に係るコイル部品を、コモンモードチョークコイルに関する実施形態に基づいて説明したが、この実施形態は、例示的なものであり、その他種々の変形例が可能である。したがって、コイル部品に備えるワイヤの本数およびワイヤの巻回方向、ならびに金属端子の個数等は、コイル部品の機能に応じて変更され得る。
【0045】
また、上述した実施形態では、コイル導体としてワイヤ7および8を備えていたが、本開示は、ワイヤに代えて導体膜からなるコイル導体を備えるコイル部品にも適用され得る。
【0046】
また、上述した実施形態では、コアとして、巻芯部3および巻芯部3の軸線方向における互いに逆の端部にそれぞれ設けられた鍔部5を有するドラム状のコアを備えていたが、本開示は、単なる板状等、他の形状のコアを備えるコイル部品、さらには積層構造を有するコイル部品にも適用され得る。
【0047】
また、上述した実施形態では、金属端子9をコア2に固着する接着剤として、エポキシ樹脂を含むものが例示されたが、本開示は、他の組成からなる接着剤についても同様に適用され得る。
【0048】
また、本明細書に記載の各実施形態は、例示的なものであり、異なる実施形態間において、構成の部分的な置換または組み合わせが可能である。
【0049】
本開示の実施態様には、次のようなものがある。
【0050】
<1>
コイル導体と、
前記コイル導体を保持するコアと、
前記コイル導体と接続された金属端子と、
前記金属端子を前記コアに固着するための接着剤層と、
を備え、
前記接着剤層は、接着剤および気泡を含む、
コイル部品。
【0051】
<2>
前記気泡には、窒素、アルゴンおよび空気から選ばれる少なくとも1種のガスが充填される、<1>に記載のコイル部品。
【0052】
<3>
前記気泡は、扁平形状のものを含む、<1>または<2>に記載のコイル部品。
【0053】
<4>
前記気泡の大きさの平均は、円相当径で直径300μm以下である、<1>ないし<3>のいずれかに記載のコイル部品。
【0054】
<5>
前記接着剤層の断面において、前記気泡の面積率は2.9%以上かつ27%以下である、<1>ないし<4>のいずれかに記載のコイル部品。
【0055】
<6>
前記コアは、巻芯部および前記巻芯部の軸線方向における互いに逆の端部にそれぞれ設けられた鍔部を有し、
前記コイル導体は、前記巻芯部のまわりに巻回されたワイヤを含み、
前記ワイヤは、前記金属端子に接続され、
前記金属端子は、前記接着剤層を介して前記鍔部に接合されている、
・ ないし<5>のいずれかに記載のコイル部品。
【0056】
<7>
前記鍔部は、前記巻芯部の端部を位置させる内側端面と、前記内側端面とは反対方向に向く外側端面とを有し、
前記金属端子は、前記鍔部の前記外側端面において前記接着剤層を介して前記鍔部に接合されている、
<6>に記載のコイル部品。
【符号の説明】
【0057】
1 コイル部品
2 コア
3 巻芯部
5 鍔部
7,8 ワイヤ
9 金属端子
13 内側端面
14 外側端面
27 接着剤層
28 接着剤
29 気泡
AX 軸線方向
図1
図2
図3
図4