(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2025115025
(43)【公開日】2025-08-06
(54)【発明の名称】覚醒状態判別方法及び覚醒状態判別装置
(51)【国際特許分類】
A61B 5/16 20060101AFI20250730BHJP
A61B 5/18 20060101ALI20250730BHJP
A61B 5/026 20060101ALI20250730BHJP
A61B 5/378 20210101ALI20250730BHJP
【FI】
A61B5/16 130
A61B5/18
A61B5/026
A61B5/378
【審査請求】未請求
【請求項の数】11
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2024009324
(22)【出願日】2024-01-25
(71)【出願人】
【識別番号】000003997
【氏名又は名称】日産自動車株式会社
(71)【出願人】
【識別番号】304021417
【氏名又は名称】国立大学法人東京科学大学
(74)【代理人】
【識別番号】100103850
【弁理士】
【氏名又は名称】田中 秀▲てつ▼
(74)【代理人】
【識別番号】100114177
【弁理士】
【氏名又は名称】小林 龍
(74)【代理人】
【識別番号】100066980
【弁理士】
【氏名又は名称】森 哲也
(72)【発明者】
【氏名】劉 権鋒
(72)【発明者】
【氏名】天本 奈々子
(72)【発明者】
【氏名】小谷 泰則
(72)【発明者】
【氏名】大上 淑美
【テーマコード(参考)】
4C017
4C038
4C127
【Fターム(参考)】
4C017AA11
4C017AB06
4C017BC11
4C017BD10
4C038PP05
4C038PQ03
4C038PR01
4C038PS00
4C038PS03
4C127AA03
4C127GG09
4C127GG15
(57)【要約】
【課題】被検者の覚醒状態を短時間でより正確に判別することが可能な覚醒状態判別方法及び覚醒状態判別装置を提供する。
【解決手段】被検者の脳活動信号を測定するステップ(ST1)と、被検者の注意を引く注意対象が出現した場合に、予め設定される一定時間における脳活動信号を抽出するステップ(ST3)と、抽出された脳活動信号の特徴を算出するステップ(ST4)と、算出された脳活動信号の特徴から被検者の覚醒状態を判別するステップと(ST5ないしST7)、を備える。
【選択図】
図2
【特許請求の範囲】
【請求項1】
被検者の脳活動信号を測定するステップと、
前記被検者の注意を引く注意対象が出現した場合に、予め設定される一定時間における前記脳活動信号を抽出するステップと、
抽出された前記脳活動信号の特徴を算出するステップと、
算出された前記脳活動信号の特徴から前記被検者の覚醒状態を判別するステップと、
を備えることを特徴とする覚醒状態判別方法。
【請求項2】
前記被検者の覚醒状態を判別するステップは、
前記被検者における覚醒努力の有無を判別するステップであることを特徴とする請求項1に記載の覚醒状態判別方法。
【請求項3】
前記被検者の前記覚醒努力を判別するに当たって、前記脳活動信号の特徴を算出するステップでは、
抽出された前記脳活動信号において前記覚醒努力が認められる場合と前記覚醒努力が認められない場合とを有意に区別することが可能な前記脳活動信号が測定された特定部位を算出するステップと、
算出された前記特定部位における前記脳活動信号を用いて前記脳活動信号の特徴を算出するステップと、を備え、
前記被検者の前記覚醒努力は、前記特定部位における前記脳活動信号の特徴を基に判別されることを特徴とする請求項2に記載の覚醒状態判別方法。
【請求項4】
前記覚醒努力を判別するステップにおいて前記覚醒努力が認められると判別された場合に、さらに、前記覚醒努力を複数のレベルに区分けするステップを備えることを特徴とする請求項2または請求項3に記載の覚醒状態判別方法。
【請求項5】
前記被検者の覚醒状態を判別するステップは、
前記覚醒努力を判別するステップの後に行われる前記被検者における客観覚醒度を判別するステップであることを特徴とする請求項2に記載の覚醒状態判別方法。
【請求項6】
前記被検者の前記客観覚醒度を判別するに当たって、前記脳活動信号の特徴を算出するステップでは、
抽出された前記脳活動信号において前記客観覚醒度が認められる場合と前記客観覚醒度が認められない場合とを有意に区別することが可能な前記脳活動信号が測定された特定部位を算出するステップと、
算出された前記特定部位における前記脳活動信号を用いて前記脳活動信号の特徴を算出するステップと、を備え、
前記被検者の前記客観覚醒度は、前記特定部位における前記脳活動信号の特徴を基に判別されることを特徴とする請求項5に記載の覚醒状態判別方法。
【請求項7】
前記客観覚醒度を判別するステップにおいて、前記覚醒努力が認められた場合、及び、前記覚醒努力が認められなかった場合のそれぞれの場合に、前記客観覚醒度を複数のレベルに区分けするステップを備えることを特徴とする請求項5または請求項6に記載の覚醒状態判別方法。
【請求項8】
前記被検者の覚醒状態を判別するステップは、
前記覚醒努力を判別するステップの後に行われる前記被検者における主観覚醒度を判別するステップであることを特徴とする請求項2に記載の覚醒状態判別方法。
【請求項9】
前記被検者の前記主観覚醒度を判別するに当たって、前記脳活動信号の特徴を算出するステップでは、
抽出された前記脳活動信号において前記主観覚醒度が認められる場合と前記主観覚醒度が認められない場合とを有意に区別することが可能な前記脳活動信号が測定された特定部位を算出するステップと、
算出された前記特定部位における前記脳活動信号を用いて前記脳活動信号の特徴を算出するステップと、を備え、
前記被検者の前記主観覚醒度は、前記特定部位における前記脳活動信号の特徴を基に判別されることを特徴とする請求項8に記載の覚醒状態判別方法。
【請求項10】
前記主観覚醒度を判別するステップにおいて、前記覚醒努力が認められた場合、及び、前記覚醒努力が認められなかった場合のそれぞれの場合に、前記主観覚醒度を複数のレベルに区分けするステップを備えることを特徴とする請求項8または請求項9に記載の覚醒状態判別方法。
【請求項11】
被検者の注意を引く注意対象が出現したか否かを検出する外界状況検出装置と、
前記被検者の脳活動信号を測定するとともに、前記外界状況検出装置が前記被検者の注意を引く注意対象が出現したことを検出した場合に、予め設定される一定時間における前記脳活動信号を抽出する脳活動検出装置と、
前記脳活動検出装置において抽出された前記脳活動信号の特徴を算出し、算出された前記脳活動信号の特徴から前記被検者の覚醒状態を判別する覚醒度判別装置と、
を備えることを特徴とする覚醒状態判別装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明の実施の形態は、覚醒状態判別方法及び覚醒状態判別装置に関する。
【背景技術】
【0002】
特許文献1には、運転者の脳活動状態を測定して測定されたデータを基に運転者の眠気を判断し、眠気が判断された場合には、運転者に対してアラートを通知する眠気警告システムが開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、上記特許文献1における眠気警告システムにおいて運転者の眠気を判断するに当たって用いられるデータは、例えば60分といった長い時間にわたって脳活動状態が測定された結果取得されるものである。
【0005】
このように長時間にわたって脳活動状態が測定される間に、眠気を示すデータが取得されるが、その際、人の生理活動に伴う影響が眠気を示すデータに及ぼされる可能性も考えられる。このような生理活動による影響を受けると、眠気を示すデータの正確性が担保できない。また、長時間の測定を必要とすることから、運転者の眠気をリアルタイムで分析することは困難である。
【0006】
本発明は上記課題を解決するためになされたものであり、本発明の目的は、被検者の覚醒状態を短時間でより正確に判別することが可能な覚醒状態判別方法及び覚醒状態判別装置を提供するものである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
実施の形態における覚醒状態判別方法は、被検者の脳活動信号を測定するステップと、被検者の注意を引く注意対象が出現した場合に、予め設定される一定時間における脳活動信号を抽出するステップと、抽出された脳活動信号の特徴を算出するステップと、算出された脳活動信号の特徴から被検者の覚醒状態を判別するステップと、を備える。
【発明の効果】
【0008】
本発明はこのような構成を採用したことから、被検者の覚醒状態を短時間でより正確に判別することが可能な覚醒状態判別方法及び覚醒状態判別装置を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
【
図1】本発明の実施の形態における覚醒状態判別装置の全体構成を示すブロック図である。
【
図2】本発明の実施の形態における覚醒状態判別方法の全体の流れを示すフローチャートである。
【
図3】本発明の実施の形態において覚醒努力の有無を判別する際に用いる脳活動信号の特徴を算出する流れを示すフローチャートである。
【
図4】本発明の実施の形態において覚醒努力の有無を判別する流れを示すフローチャートである。
【
図5】本発明の実施の形態において覚醒努力が認められた場合に、当該覚醒努力のレベルを区分けする処理の流れを示すフローチャートである。
【
図6】本発明の実施の形態において客観覚醒度を判別する際に用いる脳活動信号の特徴を算出する流れを示すフローチャートである。
【
図7】本発明の実施の形態において覚醒努力が認められた場合の客観覚醒度のレベルを区分けする流れを示すフローチャートである。
【
図8】本発明の実施の形態において覚醒努力が認められない場合の客観覚醒度のレベルを区分けする処理の流れを示すフローチャートである。
【
図9】本発明の実施の形態において主観覚醒度を判別する際に用いる脳活動信号の特徴を算出する流れを示すフローチャートである。
【
図10】本発明の実施の形態において覚醒努力が認められた場合の主観覚醒度のレベルを区分けする流れを示すフローチャートである。
【
図11】本発明の実施の形態において覚醒努力が認められない場合の主観覚醒度のレベルを区分けする処理の流れを示すフローチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下、本発明の実施の形態について図面を参照して詳細に説明する。なお、各図面は模式的なものであって、現実のものとは異なる場合がある。また、以下に示す本発明の実施形態は、本発明の技術的思想を具体化するための装置や方法を例示するものであって、本発明の技術的思想は、構成部品の構造、配置等を下記のものに特定するものではない。本発明の技術的思想は、特許請求の範囲に記載された請求項が規定する技術的範囲内において、種々の変更を加えることができる。
【0011】
図1は、本発明の実施の形態における覚醒状態判別装置Aの全体構成を示すブロック図である。覚醒状態判別装置Aは、被検者の覚醒状態を被検者から得られたデータを基に判別する装置である。ここで被検者として想定されるのは、例えば、車や電車、飛行機等の移動体を運転、操縦する者である。
【0012】
覚醒状態判別装置Aは、外界状況検出装置1と、脳活動検出装置2と、覚醒度判別装置3と、を備えている。外界状況検出装置1は、被検者を取り巻く環境(外界の状況)を検出するための装置である。本発明の実施の形態における外界状況検出装置1は、外部監視装置11と、注意対象判別装置12とを備えている。
【0013】
外部監視装置11は、被検者の外界を監視する装置である。ここでの外界とは、例えば、被検者の周囲の環境や被検者が向いている方向の環境を示している。また、外部監視装置11が取得する環境の情報としては、例えば、被検者が視覚や聴覚といった、五感で捉えることができる情報であれば足りる。外部監視装置11としては、例えば、視覚の観点から考えた場合、様々な種類のカメラといった撮像装置を挙げることができる。また、被検者の眼であっても良い。
【0014】
注意対象判別装置12は、外部監視装置11によって監視されている被検者の外界の状況において、被検者の注意を引くイベント(注意対象)が生じたか否かを判別する装置である。上述したように、外部監視装置11は被検者の周囲の環境を監視していることから、監視している環境の中で、被検者が注意を引く物や動き等(注意対象)が出現した場合に、その注意対象が出現したことを把握する。
【0015】
脳活動検出装置2は、被検者の脳活動を検出する装置である。脳活動検出装置2が検出する被検者の脳活動については、被検者の脳活動信号から把握される。ここで脳活動信号は、例えば脳血流や脳神経信号から把握される。脳活動検出装置2は、脳活動信号測定装置21と、脳活動信号抽出装置22とを備えている。
【0016】
脳活動信号測定装置21は、被検者の頭部に取り付けられて、被検者の脳活動信号を測定する。脳活動信号は、被検者に脳活動信号測定装置21が装着されている間、常に測定される。
【0017】
被検者の覚醒状態(以下、当該「覚醒状態」については、適宜「覚醒度」とも表す)の判別には、このように脳活動信号が用いられる。脳において身体の覚醒水準(覚醒状態)の情報が提供される部位は島皮質という部位である。例えば身体の覚醒水準が低下すると、島皮質に伝わり、これが主観的に眠気として把握されることになる。しかしながら、島皮質は脳の深部にあり直接測定することができない。
【0018】
一方で島皮質と強い連結関係にある(島皮質の変化に影響を受ける)のが中前頭回である。中前頭回は外部からの刺激に反応する。そしてもし覚醒状態が変化したら、島皮質に影響があり、さらに連結関係にある中前頭回に影響が出る。そこで直接調べることができない島皮質に代わり、連結関係の強い中前頭回を調べることにより、島皮質が受けた覚醒状態の影響を推定する。そのために、中前頭回における脳活動信号を測定して、覚醒状態を把握する。
【0019】
また、脳活動信号抽出装置22は、脳活動信号測定装置21が被検者の脳活動信号を測定している際に、注意対象判別装置12が注意対象の出現を把握した場合に、予め設定される一定時間における脳活動信号を抽出する。
【0020】
ここで予め設定されている一定時間とは、例えば、注意対象が出現した時を基準として、その後の何秒間といった時間のことである。すなわち、例えば、注意対象が出現した時をゼロとした時に、その後の、例えば、5秒から8秒の間のことである。
【0021】
被検者の覚醒度を判別するに当たって、被検者における酸化ヘモグロビンの量の変化と覚醒度との間には何らかの相関関係を把握することができる。そして当該相関関係については、上述した例えば、5秒から8秒の間においても把握できることから、本発明の実施の形態において、予め設定されている一定時間として設定するものである。
【0022】
この一定時間については、一定時間とされる時間の開始の時間と終了の時間とを任意に設定することができる。また、一定時間の開始の時間についても、注意対象が出現した時を基準として、その後どのくらいの間隔を空けて開始されるかについても任意に設定することができる。
【0023】
一方で、当該一定時間を長く設定してしまうと被検者の覚醒状態を判別するための時間が長時間にわたることになり、外乱が含まれ正答率が低下する。そこで、例えば、上述したような時間に設定されることによって、被検者の覚醒度の判別において、外乱が少なく正答率を高くすることが可能となる。また、リアルタイムな判別を可能にする。
【0024】
このように脳活動信号抽出装置22は、注意対象が出現したことをトリガとして一定時間における脳活動信号を抽出する。すなわち、脳活動信号抽出装置22は、脳活動信号測定装置21が被検者の脳活動信号を測定している間、常にその測定結果を受信している。このような状態において、注意対象判別装置12が注意対象の出現を判別した場合、注意対象判別装置12は注意対象が出現したことを脳活動信号抽出装置22に報知する。
【0025】
脳活動信号抽出装置22は、当該脳活動信号測定装置21からの注意対象が出現したことを表す信号を受信すると、注意対象が出現した時をゼロとして、予め設定されている一定時間における脳活動信号を抽出する。
【0026】
なおここでは、脳活動信号抽出装置22が注意対象判別装置12から注意対象が出現したことを表す信号を直接受信している。但し、例えば、脳活動信号測定装置21が被検者の脳活動信号を測定している際に、注意対象判別装置12から注意対象が出現したことを表す信号を受信する処理を行っても良い。この場合、脳活動信号測定装置21が脳活動信号抽出装置22に注意対象が出現したことを示す信号を送信する。
【0027】
覚醒度判別装置3は、測定された被検者の脳活動信号を用いて、被検者の覚醒度を判別する装置である。ここで判別される「覚醒度(覚醒状態)」としては、「覚醒努力」、「客観覚醒度」、及び、「主観覚醒度」の3つの種類を挙げることができる。
【0028】
「覚醒努力」は、被検者が眠気を感じた場合に、被検者が自身を覚醒させるために取る努力のことである。被検者が、例えば、頭を振ったり、意識的なあくびをして口を大きく動かす、或いは、意識的に深呼吸を行う、といった行為を取った場合には、被検者は覚醒努力を行っていると判別される。一方で、例えば、被検者において体の動作や口の動きが少ない、表情の変化が乏しい、といった場合には、被検者は覚醒努力を行っていないと判別される。
【0029】
「客観覚醒度」とは、第三者が被検者をみて評価する被検者の覚醒度を示している。一方「主観覚醒度」とは、被検者自らが評価する自身の覚醒度を示している。覚醒度のレベルとしては、例えば、全く眠くなさそう、といったレベルから寝ているというレベルまで複数の段階に分かれている。これら各レベルにおいて定められている被検者の体の動きや顔の表情といった複数の指標を用いて「客観覚醒度」及び「主観覚醒度」が判別される。
【0030】
覚醒度判別装置3は、算出部31と、記憶部32と、比較部33と、判別部34と、から構成される。算出部31は、脳活動信号抽出装置22によって抽出された脳活動信号を受信して、被検者の覚醒度を判別する際に用いる脳活動信号を算出する。
【0031】
ここで脳については、組織構造が同じであるとされる領域をまとめて示した、例えば、ブロードマンエリア(Brodmann Areas)と言われる領域に分けることができる。これらの領域においては、例えば被検者が眠気を感じた場合において測定される脳活動信号はそれぞれ異なる。例えば、被検者の眠気を判別する際に用いられる酸化ヘモグロビンの量についても、領域によって増加する場合、或いは、減少する場合がある。
【0032】
そこで予め全ての領域、或いは、領域ごとに、そして3種類の覚醒度ごとに、例えば、被検者が眠い状態にある場合、或いは、眠くない状態(覚醒した状態)における酸化ヘモグロビンの量の増減の傾向を把握しておく。このことで、算出される脳活動信号がいずれの領域における脳活動信号であるかが把握されれば、被検者の覚醒度も把握することができる。
【0033】
換言すれば、被検者の覚醒度を判別する際に測定された脳活動信号としてどの領域における脳活動信号を用いるかの選択も可能となる。すなわち、例えば、全ての領域に関する脳活動信号を用いて、当該脳活動信号の特徴を基に被検者の覚醒度を把握することが可能である。
【0034】
そしてさらに、被検者の覚醒度が高い場合と低い場合との差が有意に認められる脳活動信号が測定される領域を被検者の覚醒度の判別に利用することで、さらに精度の高い判別を行うことも可能である。この場合算出部31は、特に上述した一定の時間において被検者の覚醒の有無における脳活動信号の間に有意な差が認められる領域(以下、このような領域を「特定部位」と表す)を算出し、特定部位における脳活動信号の特徴を算出する。
【0035】
算出部31が特定部位を算出する方法としては種々の方法が考えられるが、例えば、以下の2つの方法を採用することができる。すなわち算出部31は、まず脳活動信号抽出装置22によって抽出された脳活動信号を解析する。これは抽出された全ての脳活動信号から得られる特徴を被検者の覚醒度の判別に用いるか、或いは、特定部位における脳活動信号から得られる特徴を用いるかの判断を行うものである。
【0036】
もし被検者の覚醒度を判別するに当たって抽出された全ての脳活動信号を用いる場合には、算出部31は、これら全ての脳活動信号の例えば、平均値を脳活動信号の特徴として算出する。
【0037】
なお、脳活動信号として脳血流信号を用いる場合には、上述したように平均値を求める。一方、脳活動信号として、例えば脳波や脳磁といった脳神経信号を用いることも可能である。この場合には、脳活動信号抽出装置22は、まず一定時間における脳波の信号である脳神経信号を抽出する。そして算出部31は、抽出された脳神経信号と標準血流動態反応関数(例えば、多重ガンマ関数)と畳み込む処理を行い、脳血流信号を算出する。その上で、算出された脳血流信号の平均値を算出する。
【0038】
これに対して、特定部位における脳活動信号を利用する場合には、算出部31は、脳活動信号を基に、被検者の覚醒度(「覚醒努力」、「客観覚醒度」、「主観覚醒度」)ごとに、それぞれの有無が判別可能な有意差が認められるか否かを確認する。そして、覚醒度の有無について判別可能な有意差が認められる部位を、覚醒度を判別するために用いる特定部位として算出する。
【0039】
そして、算出された特定部位における脳活動信号を用いて、算出部31はその特徴を算出する。なお、この特定部位は、「覚醒努力」、「客観覚醒度」、「主観覚醒度」ごとに異なる場合があることから、それぞれの覚醒度を算出する度に算出される。
【0040】
また、算出部31が脳活動信号抽出装置22において抽出された脳活動信号を解析して特定部位を算出する方法としては、例えば、加算平均方法やGLM(General Linear Model)法を用いることが可能である。
【0041】
このうち、例えば加算平均方法について説明すると、注意対象が出現した時点を0秒とした場合に、その前5秒、その後10秒までの合計15秒間の脳活動信号を抽出し、注意対象が出現する前の5秒間の平均値をゼロとする。一方、注意対象が出現した後の10秒間の脳活動信号について加算平均を行い、「覚醒努力」、「客観覚醒度」、「主観覚醒度」における実験条件の差を確認する。そして、それぞれの覚醒度において、実験条件の差が反映されている部位を抽出して、それぞれの特定部位を算出する。
【0042】
また、GLM法を用いる場合は、抽出された全ての脳活動信号をGLM法で解析した結果において、脳における各部位の「覚醒努力」、「客観覚醒度」、「主観覚醒度」のリグレッサに対して標準偏回帰係数の値が有意に0よりも大きいか算出する。その上で、もし0よりも有意に大きな値が算出された場合には、当該部位をそれぞれの特定部位として算出する。
【0043】
記憶部32は、後述するように、例えば、覚醒努力が認められる場合において、覚醒努力のレベルを区分けする際に用いられる、例えば、予め実験等によって把握される努力閾値を記憶している。また、客観覚醒度や主観覚醒度のレベルを区分けする際に用いられる種々の閾値についても記憶されている。
【0044】
比較部33は、被検者の覚醒度を判別する際に用いられる脳活動信号の値と上述した、各種閾値との比較を行う。ここで各種閾値としたのは、被検者の覚醒度である「覚醒努力」、「客観覚醒度」、「主観覚醒度」において用いられる閾値が異なるからである。例えば、覚醒努力の有無を判別する閾値は、例えば、上述した努力閾値である。
【0045】
当該努力閾値については、例えば、測定された脳活動信号と外界状況検出装置1が取得した外界の状況の変化とを対応付ける。すなわち、注意対象が出現していない場合における脳活動信号と注意対象が出現した場合において予め設定される一定時間における脳活動信号とをそれぞれ取得する。
【0046】
その上で算出部31は、覚醒努力が認められる場合の脳活動信号と覚醒努力が認められない場合における脳活動信号について、それぞれ平均を取り、覚醒努力ありの場合の平均値と覚醒努力なしの平均値との平均を努力閾値として設定する。そして設定された努力閾値を用いて、後述するように比較部33が覚醒努力の有無の判別に必要な比較処理を実行する。
【0047】
さらに、被検者の覚醒度には様々な段階が認められる。すなわち、例えば覚醒努力を例に挙げると、覚醒努力が認められる場合であっても、覚醒努力のレベルが高い場合と低い場合とが考えられる。また、このように覚醒努力のレベルが高い場合、低い場合の2つに区分けするだけではなく、当該レベルについて3つ以上のレベルに区分けすることも可能である。
【0048】
そしてこのように覚醒努力のレベルを区分けする場合にも、上述したように、閾値を用いて、比較部33や場合によっては判別部34が比較を行うことによって被検者の覚醒度のレベルの区分けが行われる。同様に、客観覚醒度や主観覚醒度のレベルを区分けする際に用いられる種々の閾値についても、例えば、算出部31によって脳活動信号を用いて設定される。
【0049】
なお、努力閾値や客観覚醒度と主観覚醒度のそれぞれにおいて用いられる種々の閾値について、実験結果を基に設定されても良い。或いは、例えば、各特定部位における客観覚醒度と主観覚醒度それぞれについての酸化ヘモグロビン量の時間経過に伴う推移の傾向を基に、予め複数のレベルに区分けしておき、それぞれの閾値を設定しても良い。
【0050】
この場合、算出部31によって算出された脳活動信号の値がどの位置に該当するかを比較部33が比較して、最終的に判別部34によって覚醒努力のレベルが判別される。なお、これらの閾値については、上述した記憶部32に記憶されており、比較部33や判別部34が被検者の覚醒度を判別する際に用いられる。
【0051】
なお、覚醒度のうち、覚醒努力については、覚醒努力が認められる場合にのみレベルの区分けがされる。これは覚醒努力が認められない場合に覚醒努力のレベルを区分けする必要はないからである。
【0052】
一方、客観覚醒度、及び、主観覚醒度の場合、覚醒努力の有無に拘わらずそのレベルを区分けすることができる。すなわち、覚醒努力が認められる場合はもちろんのこと、覚醒努力が認められない場合であっても被検者によって覚醒努力がされていないだけで、客観覚醒度や主観覚醒度のレベルを判別することは可能だからである。
【0053】
比較部33において脳活動信号と閾値との比較が行われると、当該比較結果に基づいて、判別部34が被検者の覚醒度、或いは、各覚醒度において設定されているレベルを判別する。本発明の実施の形態においては特に示していないが、例えば、判別部34によって判別された被検者の覚醒度については、必要に応じて被検者等に報知されても良い。
【0054】
[動作]
次に、被検者の覚醒度を判別する処理の流れについて説明する。なお、以下においては、まず覚醒度の判別処理における大まかな流れについて説明する。その後、覚醒努力、客観覚醒度、主観覚醒度におけるそれぞれの判別処理の流れについて説明する。
【0055】
図2は、本発明の実施の形態における覚醒状態判別方法の全体の流れを示すフローチャートである。まず被検者の脳活動信号が測定される(ST1)。これは上述した通り、被検者の頭部に装着された脳活動検出装置2の脳活動信号測定装置21によって測定される。
【0056】
また、脳活動信号測定装置21による脳活動信号の測定中は、外界状況検出装置1の外部監視装置11によって被検者の周囲の環境が監視される。また、注意対象判別装置12は、注意対象が出現したか否かを判別している(ST2)。
【0057】
すなわち、脳活動信号測定装置21による脳活動信号の測定は、被検者に装着されている間常に行われているが、注意対象判別装置12においても注意対象が出現したか否かを常時判別している。そのため、注意対象が出現しない場合(ST2のNO)には、注意対象判別装置12は引き続き注意対象が出現するか否かの判別を行う。
【0058】
一方、注意対象判別装置12が注意対象が出現したと判別した場合には(ST2のYES)、脳活動信号抽出装置22に対して注意対象が出現したことを報知する。
【0059】
脳活動信号抽出装置22では、注意対象判別装置12からの当該報知を受信したことをもって脳活動信号を抽出する。具体的には、脳活動信号測定装置21によって測定されている脳活動信号の中から、注意対象が出現したことを基準として、例えば上述したような一定の期間における脳活動信号を抽出する(ST3)。
【0060】
脳活動信号抽出装置22によって抽出された脳活動信号については、覚醒度判別装置3に送信される。送信された脳活動信号については、算出部31において受信され、抽出された脳活動信号の特徴が算出される(ST4)。その後、後述するように、覚醒努力の有無が判別され(ST5)、客観覚醒度の判別(ST6)、主観覚醒度の判別(ST7)と進み、被検者の覚醒度の判別処理が行われる。
【0061】
なお、ここでは、覚醒努力、客観覚醒度、主観覚醒度の順に覚醒度の判別処理が行われることを前提に説明する。但し、客観覚醒度と主観覚醒度の判別の順番については、この順番ではなく、主観覚醒度が客観覚醒度よりも先に判別されても良く、或いは、並行して判別されても良い。
【0062】
次に、覚醒努力の判別処理の流れについて説明する。
図3は、本発明の実施の形態において覚醒努力の有無を判別する際に用いる脳活動信号の特徴を算出する流れを示すフローチャートである。また、
図4は、本発明の実施の形態において覚醒努力の有無を判別する流れを示すフローチャートである。
【0063】
脳活動信号抽出装置22において抽出された脳活動信号を受信した算出部31は、抽出された脳活動信号の解析を行う(ST11)。これは上述したように送信されてきた脳活動信号のうち、被検者の覚醒度を判別するに当たってどの脳活動信号を用いるかを決定するために行われる処理である。
【0064】
算出部31では、もし覚醒努力の有無を判別するに当たって、脳活動信号抽出装置22によって抽出された全ての脳活動信号を使用する場合には(ST12のYES)、抽出された脳活動信号を用いてその特徴を算出する(ST13)。この特徴の算出の方法については、上述したように、例えば、全ての脳活動信号の値を平均した値を特徴として算出する。
【0065】
一方、抽出された全ての脳活動信号を使用せず特定部位における脳活動信号を使用する場合には(ST12のNO)、算出部31は、上述した加算平均法やGLM法といった算出手段を用いて特定部位を算出する(ST14)。
【0066】
具体的には、まず覚醒努力の有無を判別可能な有意差が認められるか、全ての脳活動信号を確認する(ST15)。そして覚醒努力の有無を判別可能な程度に有意差が認められる部位を、覚醒努力の有無を判別する際に用いる特定部位として算出する(ST16)。その上で、算出部31は、算出された特定部位における脳活動信号を用いてその特徴を示す値を算出する(ST17)。
【0067】
算出された脳活動信号の特徴を示す値は、算出部31から比較部33へと送信される。比較部33では、受信した脳活動信号の特徴を示す値と閾値とを用いて比較を行う(
図4のST21)。その際、比較部33は、記憶部32から閾値(努力閾値)を取得する。
【0068】
なお、ここで取得される努力閾値は、例えば、全ての脳活動信号を用いて特徴を示す値が算出された場合は、同じように全ての脳活動信号を用いて設定される閾値である。一方、特定部位における脳活動信号を用いてその特徴を示す値が算出された場合には、当該特定部位に関して設定されている努力閾値が用いられる。
【0069】
比較部33において脳活動信号の特徴を示す値と努力閾値とを比較し(ST22)、比較結果を判別部34に送信する。もし脳活動信号の特徴を示す値が努力閾値よりも大きな値である場合には(ST22のYES)、判別部34は、被検者は覚醒努力を行っている(覚醒努力あり)と判定する(ST23)。
【0070】
一方、脳活動信号の特徴を示す値が努力閾値以下である場合には(ST22のNO)、判別部34は、被検者は覚醒努力を行っていない(覚醒努力なし)と判定する(ST24)。以上により、覚醒努力の有無の判別処理が完了する。
【0071】
上述したように、覚醒努力が認められる場合には、さらに、被検者によって行われている覚醒努力のレベルが区分けされても良い。
図5は、本発明の実施の形態において覚醒努力が認められた場合において、当該覚醒努力のレベルを区分けする処理の流れを示すフローチャートである。
【0072】
このように覚醒努力のレベルが区分けされるのは、覚醒努力あり、と判別部34によって判定された場合に限定されるので、
図5においてはこの前提となるステップST23の判別処理を破線で示している。
【0073】
なお、当該覚醒努力のレベルを区分けする処理については、引き続き判別部34が行う。或いは、一旦覚醒努力の有無が判別部34によって判定された後、覚醒努力のレベルを区分けする場合には、改めてその情報が比較部33に送信されて、比較部33において閾値との比較がされた後、改めて判別部34に比較結果が送信される処理とされても良い。以下の説明においては、判別部34によって覚醒努力のレベルの区分けがされる場合を例に挙げて説明する。
【0074】
判別部34では、まず記憶部32にアクセスして、覚醒努力のレベルを判別するために用いられる閾値を取得する。ここでは、便宜上「第1のレベル閾値」と「第2のレベル閾値」と表す。
【0075】
第1のレベル閾値は、被検者によって行われている覚醒努力のレベルが低いか否かを判別するために用いられる閾値である。また、第2のレベル閾値は、被検者によって行われた覚醒努力のレベルが高いレベルにあるのか否かを判別するために用いられる。
【0076】
判別部34では、脳活動信号の特徴を示す値と第1のレベル閾値とを比較する(ST31)。その結果、脳活動信号の特徴を示す値が第1のレベル閾値よりも大きな値である場合には(ST31のYES)、判別部34は当該覚醒努力のレベルは低いと判定する(ST32)。
【0077】
一方、脳活動信号の特徴を示す値が第1のレベル閾値以下であると判定した場合には(ST31のNO)、さらに脳活動信号の特徴を示す値と第2のレベル閾値とを比較する(ST33)。
【0078】
その結果、脳活動信号の特徴を示す値が第2のレベル閾値よりも大きな値である場合には(ST33のYES)、判別部34は当該覚醒努力のレベルは中程度と判定する(ST34)。一方、脳活動信号の特徴を示す値が第2のレベル閾値以下であると判定した場合には(ST33のNO)、判別部34は当該覚醒努力のレベルは高いと判定する(ST35)。
【0079】
次に、客観覚醒度の判別処理の流れについて説明する。
図6は、本発明の実施の形態において客観覚醒度を判別する際に用いる脳活動信号の特徴を算出する流れを示すフローチャートである。
【0080】
脳活動信号抽出装置22において抽出された脳活動信号を受信した算出部31は、抽出された脳活動信号の解析を行う(ST41)。これは上述したように送信されてきた脳活動信号のうち、被検者の覚醒度を判別するに当たってどの脳活動信号を用いるかを決定するために行われる処理である。
【0081】
算出部31では、もし客観覚醒度の有無を判別するに当たって、脳活動信号抽出装置22によって抽出された全ての脳活動信号を使用する場合には(ST42のYES)、抽出された脳活動信号を用いてその特徴を算出する(ST43)。この特徴の算出の方法については、上述したように、例えば、全ての脳活動信号の値を平均した値を特徴として算出する。
【0082】
一方、抽出された全ての脳活動信号を使用せず特定部位における脳活動信号を使用する場合には(ST42のNO)、算出部31は、上述した加算平均法やGLM法といった算出手段を用いて特定部位を算出する(ST44)。
【0083】
具体的には、まず客観覚醒度を判別可能な有意差が認められるか、全ての脳活動信号を確認する(ST45)。そして客観覚醒度を判別することが可能な程度に有意差が認められる部位を、客観覚醒度を判別する際に用いる特定部位として算出する(ST46)。その上で、算出部31は、算出された特定部位における脳活動信号を用いてその特徴を示す値を算出する(ST47)。
【0084】
この状態においては、既に覚醒努力の有無については判別されている。そして客観覚醒度については、客観覚醒度の有無を判別するのではなく、客観覚醒度のレベルを区分けする。そこで、覚醒努力が認められる場合を前提として客観覚醒度のレベルを区分けする。また、同様に、覚醒努力が認められない場合を前提として客観覚醒度のレベルと区分けする。
【0085】
さらに、上述したように、客観覚醒度のレベルを区分けする場合に用いられる脳活動信号については、全ての脳活動信号を用いてその特徴を示す値を用いる場合と算出された特定部位における脳活動信号を用いてその特徴を示す値が算出された場合とがある。
【0086】
図7は、本発明の実施の形態において覚醒努力が認められた場合の客観覚醒度のレベルを区分けする流れを示すフローチャートである。また、
図8は、本発明の実施の形態において覚醒努力が認められない場合の客観覚醒度のレベルを区分けする処理の流れを示すフローチャートである。
【0087】
上述したように、客観覚醒度のレベルが区分けされるのは、覚醒努力あり、或いは、覚醒努力なし、のいずれの場合も考えられる。そこでまず、判別部34によって覚醒努力あり、と判定された場合における客観覚醒度のレベルの区分け処理の流れについて
図7を用いて説明する。そのため、この前提となる判別部34におけるステップST23で示される判別処理を破線で示している。
【0088】
なお、当該客観覚醒度のレベルを区分けする処理については、引き続き判別部34が行う場合、比較部33によって行われる場合のいずれの場合も考えられるのは上述した通りである。以下の説明においては、これまで同様、判別部34によって客観覚醒度のレベルの区分けがされる場合を例に挙げて説明する。
【0089】
判別部34では、まず記憶部32にアクセスして、客観覚醒度のレベルを判別するために用いられる閾値を取得する。ここでは、便宜上「第3のレベル閾値」と「第4のレベル閾値」と表す。
【0090】
第3のレベル閾値は、被検者の客観覚醒度のレベルが高いか否かを判別するために用いられる閾値である。また、第4のレベル閾値は、被検者の客観覚醒度のレベルが低いレベルにあるのか否かを判別するために用いられる。
【0091】
判別部34では、脳活動信号の特徴を示す値と第3のレベル閾値とを比較する(ST51)。その結果、脳活動信号の特徴を示す値が第3のレベル閾値よりも大きな値である場合には(ST51のYES)、判別部34は当該客観覚醒度のレベルは高いと判定する(ST52)。
【0092】
一方、脳活動信号の特徴を示す値が第3のレベル閾値以下であると判定した場合には(ST51のNO)、さらに脳活動信号の特徴を示す値と第4のレベル閾値とを比較する(ST53)。
【0093】
その結果、脳活動信号の特徴を示す値が第4のレベル閾値よりも大きな値である場合には(ST53のYES)、判別部34は当該客観覚醒度のレベルは中程度と判定する(ST54)。一方、脳活動信号の特徴を示す値が第4のレベル閾値以下であると判定した場合には(ST53のNO)、判別部34は当該客観覚醒度のレベルは低いと判定する(ST55)。
【0094】
次に、判別部34によって覚醒努力が認められない、と判別された場合における客観覚醒度のレベルの区分け処理の流れについて
図8を用いて説明する。そのため、この前提となる判別部34におけるステップST24で示される判別処理を破線で示している。
【0095】
判別部34では、まず記憶部32にアクセスして、客観覚醒度のレベルを判別するために用いられる閾値を取得する。ここでは、便宜上「第5のレベル閾値」と「第6のレベル閾値」と表す。
【0096】
第5のレベル閾値は、被検者の客観覚醒度のレベルが高いか否かを判別するために用いられる閾値である。また、第6のレベル閾値は、被検者の客観覚醒度のレベルが低いレベルにあるのか否かを判別するために用いられる。
【0097】
判別部34では、脳活動信号の特徴を示す値と第5のレベル閾値とを比較する(ST61)。その結果、脳活動信号の特徴を示す値が第5のレベル閾値よりも大きな値である場合には(ST61のYES)、判別部34は当該客観覚醒度のレベルは高いと判定する(ST62)。
【0098】
一方、脳活動信号の特徴を示す値が第5のレベル閾値以下であると判定した場合には(ST61のNO)、さらに脳活動信号の特徴を示す値と第6のレベル閾値とを比較する(ST63)。
【0099】
その結果、脳活動信号の特徴を示す値が第6のレベル閾値よりも大きな値である場合には(ST63のYES)、判別部34は当該客観覚醒度のレベルは中程度と判定する(ST64)。一方、脳活動信号の特徴を示す値が第6のレベル閾値以下であると判定した場合には(ST63のNO)、判別部34は当該客観覚醒度のレベルは低いと判定する(ST65)。
【0100】
次に、主観覚醒度の判別処理の流れについて説明する。
図9は、本発明の実施の形態において主観覚醒度を判別する際に用いる脳活動信号の特徴を算出する流れを示すフローチャートである。
【0101】
脳活動信号抽出装置22において抽出された脳活動信号を受信した算出部31は、抽出された脳活動信号の解析を行う(ST71)。これは上述したように送信されてきた脳活動信号のうち、被検者の覚醒度を判別するに当たってどの脳活動信号を用いるかを決定するために行われる処理である。
【0102】
算出部31では、もし主観覚醒度無を判別するに当たって、脳活動信号抽出装置22によって抽出された全ての脳活動信号を使用する場合には(ST72のYES)、抽出された脳活動信号を用いてその特徴を算出する(ST73)。この特徴の算出の方法については、上述したように、例えば、全ての脳活動信号の値を平均した値を特徴として算出する。
【0103】
一方、抽出された全ての脳活動信号を使用せず特定部位における脳活動信号を使用する場合には(ST72のNO)、算出部31は、上述した加算平均法やGLM法といった算出手段を用いて特定部位を算出する(ST74)。
【0104】
具体的には、まず主観覚醒度を判別可能な有意差が認められるか、全ての脳活動信号を確認する(ST75)。そして主観覚醒度を判別可能な有意差が認める部位を、主観覚醒度を判別する際に用いる特定部位として算出する(ST76)。その上で、算出部31は、算出された特定部位における脳活動信号を用いてその特徴を示す値を算出する(ST77)。
【0105】
この状態においては、既に覚醒努力の有無については判別されている。そして主観覚醒度については、主観覚醒度の有無を判別するのではなく、主観覚醒度のレベルを区分けする。そこで、覚醒努力が認められる場合を前提として主観覚醒度のレベルを区分けする。また、同様に、覚醒努力が認められない場合を前提として主観覚醒度のレベルと区分けする。
【0106】
さらに、上述したように、主観覚醒度のレベルを区分けする場合に用いられる脳活動信号については、全ての脳活動信号を用いてその特徴を示す値を用いる場合と算出された特定部位における脳活動信号を用いてその特徴を示す値が算出された場合とがある。
【0107】
図10は、本発明の実施の形態において覚醒努力が認められた場合の主観覚醒度のレベルを区分けする流れを示すフローチャートである。また、
図11は、本発明の実施の形態において覚醒努力が認められない場合の主観覚醒度のレベルを区分けする処理の流れを示すフローチャートである。
【0108】
上述したように、主観覚醒度のレベルが区分けされるのは、覚醒努力あり、或いは、覚醒努力なし、のいずれの場合も考えられる。そこでまず、判別部34によって覚醒努力あり、と判定された場合における主観覚醒度のレベルの区分け処理の流れについて
図10を用いて説明する。そのため、この前提となる判別部34におけるステップST23で示される判別処理を破線で示している。
【0109】
なお、当該主観覚醒度のレベルを区分けする処理については、引き続き判別部34が行う場合、比較部33によって行われる場合のいずれの場合も考えられるのは上述した通りである。以下の説明においては、これまで同様、判別部34によって主観覚醒度のレベルの区分けがされる場合を例に挙げて説明する。
【0110】
判別部34では、まず記憶部32にアクセスして、主観覚醒度のレベルを判別するために用いられる閾値を取得する。ここでは、便宜上「第7のレベル閾値」と「第8のレベル閾値」と表す。
【0111】
第7のレベル閾値は、被検者の主観覚醒度のレベルが高いか否かを判別するために用いられる閾値である。また、第8のレベル閾値は、被検者の主観覚醒度のレベルが低いレベルにあるのか否かを判別するために用いられる。
【0112】
判別部34では、脳活動信号の特徴を示す値と第7のレベル閾値とを比較する(ST81)。その結果、脳活動信号の特徴を示す値が第7のレベル閾値よりも大きな値である場合には(ST81のYES)、判別部34は当該主観覚醒度のレベルは高いと判定する(ST82)。
【0113】
一方、脳活動信号の特徴を示す値が第7のレベル閾値以下であると判定した場合には(ST81のNO)、さらに脳活動信号の特徴を示す値と第8のレベル閾値とを比較する(ST83)。
【0114】
その結果、脳活動信号の特徴を示す値が第8のレベル閾値よりも大きな値である場合には(ST83のYES)、判別部34は当該主観覚醒度のレベルは中程度と判定する(ST84)。一方、脳活動信号の特徴を示す値が第8のレベル閾値以下であると判定した場合には(ST83のNO)、判別部34は当該主観覚醒度のレベルは低いと判定する(ST85)。
【0115】
次に、判別部34によって覚醒努力が認められない、と判別された場合における客観覚醒度のレベルの区分け処理の流れについて
図11を用いて説明する。そのため、この前提となる判別部34におけるステップST24で示される判別処理を破線で示している。
【0116】
判別部34では、まず記憶部32にアクセスして、主観覚醒度のレベルを判別するために用いられる閾値を取得する。ここでは、便宜上「第9のレベル閾値」と「第10のレベル閾値」と表す。
【0117】
第9のレベル閾値は、被検者の主観覚醒度のレベルが高いか否かを判別するために用いられる閾値である。また、第10のレベル閾値は、被検者の主観覚醒度のレベルが低いレベルにあるのか否かを判別するために用いられる。
【0118】
判別部34では、脳活動信号の特徴を示す値と第9のレベル閾値とを比較する(ST91)。その結果、脳活動信号の特徴を示す値が第9のレベル閾値よりも大きな値である場合には(ST91のYES)、判別部34は当該主観覚醒度のレベルは高いと判定する(ST92)。
【0119】
一方、脳活動信号の特徴を示す値が第9のレベル閾値以下であると判定した場合には(ST91のNO)、さらに脳活動信号の特徴を示す値と第10のレベル閾値とを比較する(ST93)。
【0120】
その結果、脳活動信号の特徴を示す値が第10のレベル閾値よりも大きな値である場合には(ST93のYES)、判別部34は当該主観覚醒度のレベルは中程度と判定する(ST94)。一方、脳活動信号の特徴を示す値が第10のレベル閾値以下であると判定した場合には(ST93のNO)、判別部34は当該主観覚醒度のレベルは低いと判定する(ST95)。
【0121】
[実施例の効果]
(1)本発明の実施の形態に係る覚醒状態判別方法は、被検者の脳活動信号を測定するステップと、被検者の注意を引く注意対象が出現した場合に、予め設定される一定時間における脳活動信号を抽出するステップと、抽出された脳活動信号の特徴を算出するステップと、算出された脳活動信号の特徴から被検者の覚醒状態を判別するステップと、を備える。
【0122】
このような判別方法を採用することによって、被検者の覚醒状態を短時間でより正確に判別することが可能となる。すなわち、注意対象が出現した後、短時間の脳活動信号を基に被検者の覚醒状態を判別するため、外乱が少なく正答率を高くすることが可能となる。また、リアルタイムに判別することもできる。
【0123】
(2)上記(1)において、被検者の覚醒状態を判別するステップは、被検者における覚醒努力の有無を判別するステップである。被検者の覚醒状態(覚醒度)を測る指標としては「覚醒努力」、「客観覚醒度」、及び「主観覚醒度」があり、本発明の実施の形態における覚醒状態判別方法では客観覚醒度や主観覚醒度の他、覚醒努力の有無についても判別可能である。そこで、客観覚醒度や主観覚醒度を判別する前提として覚醒努力を判別する。
【0124】
(3)上記(2)における覚醒状態判別方法において、被検者の覚醒努力を判別するに当たって、脳活動信号の特徴を算出するステップでは、抽出された脳活動信号において覚醒努力が認められる場合と覚醒努力が認められない場合とを有意に区別することが可能な脳活動信号が測定された特定部位を算出するステップと、算出された特定部位における脳活動信号を用いて脳活動信号の特徴を算出するステップと、を備え、被検者の覚醒努力は、特定部位における脳活動信号の特徴を基に判別されることを特徴とする。
【0125】
被検者の覚醒努力を判別するに当たって、測定された全ての脳活動信号の特徴を用いるだけではなく、特定部位を算出した上で、当該特定部位における脳活動信号の特徴を用いる。この処理を行うことによって、より覚醒努力の有無を的確に判別することができ、正答率の向上を図ることができる。
【0126】
(4)上記(2)または(3)における覚醒努力を判別するステップにおいて、覚醒努力が認められると判別された場合に、さらに、覚醒努力を複数のレベルに区分けするステップを備える。覚醒努力の有無のみならず、覚醒努力が認められる場合において覚醒努力のレベルを区分けすることによって、より詳細に覚醒努力の状態を判別することができ、正答率の向上を図ることができる。
【0127】
(5)上記(2)ないし(4)のいずれかにおける被検者の覚醒状態を判別するステップは、覚醒努力を判別するステップの後に行われる被検者における客観覚醒度を判別するステップである。覚醒努力の有無を判別した後、被検者の客観覚醒度も判別することで、より被検者の覚醒状態を判別することができる。
【0128】
(6)上記(5)における覚醒状態判別方法において、被検者の客観覚醒度を判別するに当たって、脳活動信号の特徴を算出するステップでは、抽出された脳活動信号において客観覚醒度が認められる場合と客観覚醒度が認められない場合とを有意に区別することが可能な脳活動信号が測定された特定部位を算出するステップと、算出された特定部位における脳活動信号を用いて脳活動信号の特徴を算出するステップと、を備え、被検者の客観覚醒度は、特定部位における脳活動信号の特徴を基に判別される。
【0129】
被検者の客観覚醒度を判別するに当たって、測定された全ての脳活動信号の特徴を用いるだけではなく、特定部位を算出した上で、当該特定部位における脳活動信号の特徴を用いる。この処理を行うことによって、より客観覚醒度を的確に判別することができ、正答率の向上を図ることができる。
【0130】
(7)上記(5)または(6)における客観覚醒度を判別するステップにおいて、覚醒努力が認められた場合、及び、覚醒努力が認められなかった場合のそれぞれの場合に、客観覚醒度を複数のレベルに区分けするステップを備える。
【0131】
客観覚醒度について、覚醒努力の有無に拘わらずそのレベルを複数に区分けすることによって、より詳細な客観覚醒度の状態を把握することが可能となり、正答率の向上を図ることができる。
【0132】
(8)上記(2)ないし(4)のいずれかにおける被検者の覚醒状態を判別するステップは、覚醒努力を判別するステップの後に行われる被検者における主観覚醒度を判別するステップである。覚醒努力の有無を判別した後、被検者の主観覚醒度も判別することで、より被検者の覚醒状態を判別することができ、正答率の向上を図ることができる。
【0133】
(9)上記(8)における覚醒状態判別方法において、被検者の主観覚醒度を判別するに当たって、脳活動信号の特徴を算出するステップでは、抽出された脳活動信号において主観覚醒度が認められる場合と主観覚醒度が認められない場合とを有意に区別することが可能な脳活動信号が測定された特定部位を算出するステップと、算出された特定部位における脳活動信号を用いて脳活動信号の特徴を算出するステップと、を備え、被検者の主観覚醒度は、特定部位における脳活動信号の特徴を基に判別される。
【0134】
被検者の主観覚醒度を判別するに当たって、測定された全ての脳活動信号の特徴を用いるだけではなく、特定部位を算出した上で、当該特定部位における脳活動信号の特徴を用いる。この処理を行うことによって、より主観覚醒度を的確に判別することができ、正答率の向上を図ることができる。
【0135】
(10)上記(8)または(9)における主観覚醒度を判別するステップにおいて、覚醒努力が認められた場合、及び、覚醒努力が認められなかった場合のそれぞれの場合に、主観覚醒度を複数のレベルに区分けするステップを備える。
【0136】
主観覚醒度について、覚醒努力の有無に拘わらずそのレベルを複数に区分けすることによって、より詳細な主観覚醒度の状態を把握することが可能となり、正答率の向上を図ることができる。
【0137】
(11)覚醒状態判別装置は、被検者の注意を引く注意対象が出現したか否かを検出する外界状況検出装置と、被検者の脳活動信号を測定するとともに、外界状況検出装置が被検者の注意を引く注意対象が出現したことを検出した場合に、予め設定される一定時間における脳活動信号を抽出する脳活動検出装置と、脳活動検出装置において抽出された脳活動信号の特徴を算出し、算出された脳活動信号の特徴から被検者の覚醒状態を判別する覚醒度判別装置と、を備える。
【0138】
このような構成を採用する覚醒状態判別装置を用いて被検者の覚醒状態を判別することによって、短時間でより正確に判別することが可能となる。すなわち、注意対象が出現した後、短時間の脳活動信号を基に被検者の覚醒状態を判別するため、外乱が少なく正答率を高くすることが可能となる。また、リアルタイムに判別することもできる。
【0139】
また、覚醒状態を示す指標として、覚醒努力、客観覚醒度、主観覚醒度をそれぞれ判別することができる。特に特定部位が算出され、当該特定部位における脳活動信号が判別に用いられることによって、特定部位ごとの覚醒努力、客観覚醒度、主観覚醒度をそれぞれ判別することができる。
【符号の説明】
【0140】
1・・・外界状況検出装置、11・・・外部監視装置、12・・・注意対象判別装置、2・・・脳活動検出装置、21・・・脳活動信号測定装置、22・・・脳活動抽出装置、3・・・覚醒度判定装置、31・・・算出部、32・・・記憶部、33・・・比較部、34・・・判別部、A・・・覚醒状態判別装置