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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2025115034
(43)【公開日】2025-08-06
(54)【発明の名称】制御装置
(51)【国際特許分類】
   F02P 5/15 20060101AFI20250730BHJP
   F02D 45/00 20060101ALI20250730BHJP
   F02D 43/00 20060101ALI20250730BHJP
【FI】
F02P5/15 B
F02D45/00 362
F02D45/00 345
F02D43/00 301K
F02D43/00 301B
【審査請求】未請求
【請求項の数】5
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2024009338
(22)【出願日】2024-01-25
(71)【出願人】
【識別番号】000002967
【氏名又は名称】ダイハツ工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100124729
【弁理士】
【氏名又は名称】谷 和紘
(72)【発明者】
【氏名】木山 栄嗣
【テーマコード(参考)】
3G022
3G384
【Fターム(参考)】
3G022EA03
3G022GA01
3G022GA07
3G022GA09
3G022GA19
3G384AA01
3G384AA28
3G384BA05
3G384BA24
3G384DA49
3G384EB01
3G384EB04
3G384FA06
3G384FA08
3G384FA28
3G384FA58
3G384FA79
3G384FA85
(57)【要約】
【課題】本発明の目的は、緩慢燃焼や失火等の燃焼不良の発生を抑制できる制御装置を提供することである。
【解決手段】本発明は、内燃機関の制御装置である。制御装置は、吸気量の不足による燃焼不良が内燃機関に発生している場合、内燃機関の吸気量を増加させると共に、内燃機関の点火時期を遅角させる。
【選択図】図4
【特許請求の範囲】
【請求項1】
内燃機関の制御装置であって、
前記制御装置は、吸気量の不足による燃焼不良が前記内燃機関に発生している場合、前記内燃機関の吸気量を増加させると共に、前記内燃機関の点火時期を遅角させる、
制御装置。
【請求項2】
前記制御装置は、前記内燃機関の回転速度の変動幅に基づいて、前記燃焼不良の発生の有無を判定する、
請求項1に記載の制御装置。
【請求項3】
前記制御装置は、前記内燃機関の吸気量に基づいて、前記点火時期の遅角量の上限値を決定する、
請求項2に記載の制御装置。
【請求項4】
前記制御装置は、前記変動幅が小さくなるしたがって前記吸気量の増加量および/または前記吸気量の微分値が大きくなるように、前記吸気量の増加量および前記吸気量の微分値を決定する、
請求項2または請求項3に記載の制御装置。
【請求項5】
前記制御装置は、前記内燃機関に吸気量の不足による燃焼不良により吸気量を増加させている場合、前記内燃機関の点火時期をMBT(Minimum Spark Advance for Best Torque)から遅角させる、
請求項1または請求項2に記載の制御装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、内燃機関の制御装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来の内燃機関の制御装置に関する発明としては、例えば、特許文献1に記載のエンジン駆動発電機の制御装置が知られている。このエンジン駆動発電機では、量産ばらつき等に左右されることなく、エンジンの点火時期をMBT(Minimum Spark Advance for Best Torque)に制御可能にすることを目的としている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開平6-241150号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
以上のようなエンジン駆動発電機の制御装置の分野では、緩慢燃焼や失火等の燃焼不良の発生を抑制したいという要望がある。
【0005】
そこで、本発明の目的は、緩慢燃焼や失火等の燃焼不良の発生を抑制できる制御装置を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明の第1側面は、
内燃機関の制御装置であって、
前記制御装置は、吸気量の不足による燃焼不良が前記内燃機関に発生している場合、前記内燃機関の吸気量を増加させると共に、前記内燃機関の点火時期を遅角させる、
制御装置である。
【0007】
本発明の第2側面は、
前記制御装置は、前記内燃機関の回転速度の変動幅に基づいて、前記燃焼不良の発生の有無を判定する、
第1側面に記載の制御装置である。
【0008】
本発明の第3側面は、
前記制御装置は、前記内燃機関の吸気量に基づいて、前記点火時期の遅角量の上限値を決定する、
第2側面に記載の制御装置である。
【0009】
本発明の第4側面は、
前記制御装置は、前記変動幅が小さくなるしたがって前記吸気量の増加量および/または前記吸気量の微分値が大きくなるように、前記吸気量の増加量および前記吸気量の微分値を決定する、
第2側面または第3側面に記載の制御装置である。
【0010】
本発明の第5側面は、
前記制御装置は、前記内燃機関に吸気量の不足により吸気量を増加させている場合、前記内燃機関の点火時期をMBT(Minimum Spark Advance for Best Torque)から遅角させる、
第1側面ないし第4側面のいずれかに記載の制御装置である。
【0011】
本発明の第6側面は、
車両は、前記内燃機関、モーター、発電機および1以上の車輪を備えており、
前記発電機は、前記内燃機関により動作させられることにより、電力を発生し、
前記モーターは、前記発電機が発生した電力により、前記車両の前記1以上の車輪に伝達される動力を発生し、
前記内燃機関は、前記1以上の車輪に伝達される動力を発生しない、
第1側面ないし第5側面のいずれかに記載の制御装置である。
【発明の効果】
【0012】
本発明によれば、緩慢燃焼や失火等の燃焼不良の発生を抑制できる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
図1図1は、車両10の概略図である。
図2図2は、内燃機関26を含む車両10の概略図である。
図3図3は、燃焼室容積と圧縮端温度との関係を示したグラフである。
図4図4は、回転速度R、開度φ、点火時期T、吸気量Fおよび吸気圧Pの時間変化を示したグラフである。
図5図5は、回転速度Rの時間変化を示したグラフである。
図6図6は、回転速度Rの時間変化を示したグラフである。
図7図7は、第1テーブルである。
図8図8は、第2テーブルである。
図9図9は、第3テーブルである。
図10図10は、制御装置100が実行するフローチャートを示した図である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
(実施形態)
[車両の構造]
以下に、本発明の一実施形態に係る制御装置100を備える車両10の構造について図面を参照しながら説明する。図1は、車両10の概略図である。図2は、内燃機関26を含む車両10の概略図である。
【0015】
車両10は、例えば、四輪自動車である。車両10は、ハイブリッド車である。本実施形態では、車両10は、シリーズハイブリッド車である。図1に示すように、車両10は、内燃機関26、バッテリ36、発電機50、モーター52、インバータ54、動力伝達装置56、左前車輪58Lおよび右前車輪58R(1以上の車輪)を備えている。
【0016】
内燃機関26は、ガソリンを燃料として動力を発生する。内燃機関26は、後述する発電機50を動作させる動力を発生する。内燃機関26は、左前車輪58Lおよび右前車輪58R(1以上の車輪)に伝達される動力を発生しない。内燃機関26は、4サイクルのエンジンである。なお、内燃機関26は、1以上の気筒を備えるエンジンであるが、一般的には、複数の気筒を備えるエンジンである。内燃機関26が複数の気筒を備えるエンジンである場合、複数の気筒は、1列に並んでいたり、2列に並んでいたり、4列に並んでいたりする。
【0017】
発電機50は、内燃機関26に接続されている。発電機50は、内燃機関26により動作させられることによって、電力を発生する。発電機50は、例えば、交流発電機である。
【0018】
バッテリ36は、発電機50が発生した電力を蓄積する。バッテリ36は、充電可能および放電可能な2次電池である。バッテリ36は、例えば、リチウムイオン電池、全固体電池である。
【0019】
モーター52は、発電機50が発生した電力により、車両10の左前車輪58Lおよび右前車輪58R(1以上の車輪)に伝達される動力を発生する。本実施形態では、モーター52は、バッテリ36が蓄積している電力により車両10を走行させる動力を発生する。バッテリ36が蓄積している電力は、発電機50が発生した電力である。ただし、バッテリ36は、発電機50が発生した電力に加えて、車両10が減速する際に発生する電力を蓄積していてもよい。モーター52は、例えば、交流モーターである。
【0020】
インバータ54は、モーター52を制御する。本実施形態では、インバータ54は、発電機50が発生する交流電流を直流電流に変換して、直流電流をバッテリ36に供給する。これにより、バッテリ36は、発電機50が発生した電力により充電される。また、インバータ54は、バッテリ36が発生する直流電流を交流電流に変換して、交流電流をモーター52に供給する。モーター52は、インバータ54から供給される交流電流により動作する。
【0021】
モーター52が発生した動力は、動力伝達装置56に伝達される。動力伝達装置56は、モーター52が発生した動力を左前車輪58Lおよび右前車輪58Rに伝達する。このような動力伝達装置56は、例えば、減速機および差動装置である。
【0022】
また、図2に示すように、車両10は、内燃機関26に加えて、インジェクタ31、電子スロットル32、クランク角センサ38、スロットルポジションセンサ42、制御装置100、記憶装置102、吸気経路R1および排気経路R2をさらに備えている。また、内燃機関26は、ピストン27、クランクシャフト29および点火プラグ30を備えている。
【0023】
吸気経路R1は、空気が通過する経路である。吸気経路R1には、インジェクタ31が設けられている。インジェクタ31は、燃料を噴射する。これにより、吸気経路R1において混合気が形成される。吸気経路R1は、内燃機関26の吸気ポートに接続されている。そのため、混合気は、吸気経路R1から吸気ポートを介して内燃機関26の燃焼室に流入する。
【0024】
内燃機関26では、混合気が燃焼されることにより、ピストン27が上下動する。そして、ピストン27の上下動が、クランクシャフト29の回転に変換される。これにより、内燃機関26は、動力を発生する。この際、内燃機関26は、排気を発生する。
【0025】
排気経路R2は、内燃機関26の排気ポートに接続されている。排気経路R2は、内燃機関26から流出する排気が通過する経路である。
【0026】
電子スロットル32は、吸気経路R1を通過する空気の量(以下、吸気量)を調整する弁である。電子スロットル32は、吸気経路R1に設けられている。電子スロットル32は、後述する制御装置100の制御により、吸気経路R1を開閉する。
【0027】
クランク角センサ38は、内燃機関26のクランクシャフト29の角度を示すクランク角信号bを生成する。クランク角信号bは、制御装置100に対して出力される。制御装置100は、クランク角信号bに基づいて、内燃機関26の回転速度Rを算出できる。
【0028】
制御装置100は、ECU(Engine Control Unit)である。制御装置100は、内燃機関26、点火プラグ30、インジェクタ31および電子スロットル32を制御する。記憶装置102は、ROM(Read Only Memory)およびRAM(Randam Access Memory)の組み合わせである。記憶装置102は、制御装置100が実行するプログラムを記憶している。
【0029】
制御装置100には、車速信号a、クランク角信号b、アクセル開度信号c、吸気温・吸気圧信号d、冷却水温信号eおよび大気圧信号fが入力される。
【0030】
車速信号aは、車両10の実車速を検出する車速センサから出力される。アクセル開度信号cは、アクセルペダルの踏込量または電子スロットル32の開度をアクセル開度(いわば、要求されるエンジン負荷率)として検出するセンサから出力される。吸気温・吸気圧信号dは、吸気経路R1内の吸気温および吸気圧を検出する温度・圧力センサから出力される。冷却水温信号eは、内燃機関26の温度を示唆する冷却水温を検出する水温センサから出力される。大気圧信号fは、大気圧を検出する大気圧センサから出力される。
【0031】
制御装置100は、車速信号a、クランク角信号b、アクセル開度信号c、吸気温・吸気圧信号d、冷却水温信号eおよび大気圧信号fに基づいて、内燃機関26の目標回転速度Rtを算出すると共に内燃機関26の気筒に充填されるベース吸気量Fbを推算する。そして、制御装置100は、内燃機関26の目標回転速度Rtおよびベース吸気量Fbに基づき、燃料噴射量、燃料噴射時期、燃料噴射圧、ベース点火時期Tbを決定する。そして、制御装置100は、燃料噴射量、燃料噴射時期、燃料噴射圧、ベース点火時期Tbに基づいて、点火信号h、燃料噴射信号iおよび開度制御信号jを生成する。
【0032】
点火信号hは、イグナイタに対して出力される。イグナイタは、点火信号hに基づいて、点火プラグ30に火花を発生させる。燃料噴射信号iは、インジェクタ31に対して出力される。インジェクタ31は、燃料噴射信号iに基づいて、燃料を噴射する。開度制御信号jは、電子スロットル32に対して出力される。電子スロットル32は、開度制御信号jに基づいて、スロットルバルブを開閉する。
【0033】
[制御装置100の動作]
次に、制御装置100の動作について図面を参照しながら説明する。図3は、燃焼室容積と圧縮端温度との関係を示したグラフである。
【0034】
車両10は、シリーズハイブリッド車である。シリーズハイブリッド車では、内燃機関26が発生した動力は、発電機50に伝達され、左前車輪58Lおよび右前車輪58Rに伝達されない。このようなシリーズハイブリッド車では、燃費の向上のために、内燃機関26の軽負荷領域において、点火プラグ30はMBTにおいて点火される。
【0035】
しかしながら、点火プラグ30がMBTにおいて点火されると、以下に説明するように、緩慢燃焼や失火等の燃焼不良の発生がしやすい。内燃機関が発生する動力のみにより走行する車両では、軽負荷領域において、点火プラグの点火時期がMBTより遅角される。点火時期がMBTより遅角されると、内燃機関の出力が低下する。そこで、このような内燃機関では、燃料の噴射量および吸気量を増加させている。
【0036】
一方、シリーズハイブリッド車では、前記の通り、燃費の向上のために、内燃機関26の軽負荷領域において、点火プラグ30はMBTにおいて点火される。そのため、シリーズハイブリッド車での吸気量は、内燃機関が発生する動力のみにより走行する車両での吸気量より少ない。したがって、シリーズハイブリッド車での圧縮上死点における燃焼室内の混合気の温度(圧縮端温度)は、内燃機関が発生する動力のみにより走行する車両での圧縮端温度より低い。したがって、シリーズハイブリッド車におけるMBTでの点火では、緩慢燃焼や失火等の燃焼不良が発生しやすい。
【0037】
ところで、内燃機関26において燃費の向上のために実効圧縮比を低くすることが提案されている。具体的には、内燃機関26に可変バルブタイミング機構が設けられる。そして、吸気バルブが圧縮下死点より後に閉じられる。これにより実効圧縮比が低下し、ポンピングロスが低減される。その結果、内燃機関26の燃費が向上する。
【0038】
しかしながら、実効圧縮比が低くなると、内燃機関26の吸気量が減少する。そのため、圧縮上死点における燃焼室内の混合気の温度(圧縮端温度)がさらに低くなる。したがって、シリーズハイブリッド車の内燃機関26において、実効圧縮比を低くすると、緩慢燃焼や失火等の燃焼不良がさらに発生しやすい。
【0039】
一般的な内燃機関では、軽負荷領域において点火プラグがMBTで点火されたときに緩慢燃焼や失火等の燃焼不良が発生することを、内燃機関の設計により抑制していた。しかしながら、内燃機関の燃焼室の容積は、図3に示すように、製造誤差によりばらつきを有する。燃焼室の容積が諸元値より大きくなると、圧縮比が下がるので、圧縮端温度が低下する。燃焼室の容積が諸元値より小さくなると、圧縮比が上がるので、圧縮端温度が上昇する。そして、燃焼室の容積がばらつきの上限値である場合、圧縮端温度が低くなりすぎて、燃焼不良が発生する。このように、燃焼室の容積にばらつきが発生するので、内燃機関の設計により燃焼不良の発生を抑制することは難しい。そこで、本願発明者は、以下に説明する制御装置100に想到した。
【0040】
ここで、図4は、回転速度R、開度φ、点火時期T、吸気量Fおよび吸気圧Pの時間変化を示したグラフである。図5および図6は、回転速度Rの時間変化を示したグラフである。図5では、燃焼不良が発生していない。図6では、燃焼不良が発生している。図7は、第1テーブルである。図8は、第2テーブルである。図9は、第3テーブルである。
【0041】
図4の時刻t0~t1において、吸気量の不足による燃焼不良が内燃機関26に発生している。一方、図4の時刻t4以降では、吸気量の不足による燃焼不良が内燃機関26に発生していない。図4のAおよびBの拡大図に示すように、吸気量の不足による燃焼不良が内燃機関26に発生しているときの回転速度Rの変動幅w1は、吸気量の不足による燃焼不良が内燃機関26に発生していないときの回転速度Rの変動幅w2より小さい。以下に理由について説明する。
【0042】
図5に示すように、吸気量の不足による燃焼不良が内燃機関26に発生していない場合、回転速度Rは、1サイクルの間に減少した後に増加する。特に、回転速度Rは、膨張行程において増加する。一方、図6に示すように、吸気量の不足による燃焼不良(失火)が内燃機関26に発生している場合、回転速度Rは、1サイクルの間に減少する。特に、回転速度Rは、膨張行程において減少する。その結果、吸気量の不足による燃焼不良が内燃機関26に発生しているときの回転速度Rの変動幅w1は、吸気量の不足による燃焼不良が内燃機関26に発生していないときの回転速度Rの変動幅w2より小さい。
【0043】
そこで、制御装置100は、内燃機関26の回転速度Rの変動幅wに基づいて、吸気量の不足による燃焼不良の発生の有無を判定できる。すなわち、制御装置100は、回転速度Rの変動幅wが所定幅w0より小さいか否かを判定する。そして、回転速度Rの変動幅wが所定幅w0より小さい場合、制御装置100は、吸気量の不足による燃焼不良が内燃機関26に発生していると判定する。回転速度Rの変動幅wが所定幅w0以上である場合、制御装置100は、吸気量の不足による燃焼不良が内燃機関26に発生していないと判定する。
【0044】
図4の時刻t1~t2において、制御装置100は、吸気量の不足による燃焼不良が内燃機関26に発生している場合、内燃機関26の吸気量Fを増加させる。具体的には、制御装置100は、電子スロットル32の開度φを増加させる。制御装置100は、ベース開度φbに開度補正量Δφを加算する。これにより、吸気量Fは、ベース吸気量Fbに増加量ΔFが加算された値になる。吸気量Fが増加すると燃焼室の圧縮端温度が上昇するので、吸気量の不足による燃焼不良の問題が解消される。
【0045】
この際、制御装置100は、変動幅wが小さくなるしたがって吸気量のおよび吸気量の微分値F’が大きくなるように、吸気量の増加量ΔFおよび吸気量の微分値F’を決定する。すなわち、制御装置100は、変動幅wが小さくなるしたがって開度補正量Δφおよび開度φの微分値φ’が大きくなるように、開度補正量Δφおよび開度φの微分値φ’を決定する。開度φの微分値φ’は、図4の時刻t1~t2における開度φの微分値(開度φの傾き)である。そこで、記憶装置102は、図7に示す第1テーブルを記憶している。図7に示す第1テーブルには、変動幅wと開度補正量Δφと微分値φ’との関係が示されている。なお、図7に示す第1テーブルは、水温、吸気温およびバルブタイミング毎に準備されており、車両10の製造時に学習される。図7では、以下の式(1)~(3)が成立している。
【0046】
w1>w2>w3>w4>w5>… ・・・(1)
Δφ1<Δφ2<Δφ3<Δφ4<Δφ5<… ・・・(2)
φ’1<φ’2<φ’3<φ’4<φ’5<… ・・・(3)
【0047】
制御装置100は、クランク角信号bに基づいて変動幅wを算出し、算出した変動幅wに対応する開度補正量Δφおよび微分値φ’を決定する。
【0048】
ただし、図4の時刻t1~t3に示すように、吸気量Fが増加すると、回転速度Rが上昇する。そこで、図4の時刻t3~t4に示すように、制御装置100は、吸気量Fの不足による燃焼不良により吸気量Fを増加させている場合、内燃機関26の点火時期をベース点火時期Tbから遅角させる。ベース点火時期Tbは、MBTである。これにより、燃焼室の燃焼中の圧力のピーク値が低下する。その結果、内燃機関26の出力が低下し、回転速度Rが低下する。その結果、回転速度Rは、目標回転速度Rtに近づく。
【0049】
この際、制御装置100は、回転速度Rと目標回転速度Rtとの差ΔRの大きさに基づいて、遅角量ΔTを決定する。すなわち、制御装置100は、差ΔRが大きくなるしたがって遅角量ΔTが大きくなるように、遅角量ΔTを決定する。そこで、記憶装置102は、図8に示す第2テーブルを記憶している。図8に示す第2テーブルには、差ΔRと遅角量ΔTとの関係が示されている。なお、図8に示す第2テーブルは、水温、吸気温およびバルブタイミング毎に準備されており、車両10の製造時に学習される。図8では、以下の式(4)~(5)が成立している。
【0050】
ΔR1<ΔR2<ΔR3<ΔR4<ΔR5<… ・・・(4)
ΔT1<ΔT2<ΔT3<ΔT4<ΔT5<… ・・・(5)
【0051】
制御装置100は、クランク角信号bに基づいて差ΔRを算出し、算出したΔRに対応する遅角量ΔTを決定する。なお、制御装置100は、点火時期Tをベース点火時期Tbから進角させない。
【0052】
ところで、制御装置100が決定した遅角量ΔTが大きすぎる場合がある。この場合、膨張行程において燃焼が進行するので焼室の温度が時間経過と共に低下する。そして、燃焼室の温度が混合気を着火させるのに必要な温度を燃焼中に下回る。その結果、内燃機関26に燃焼不良が発生する。
【0053】
そこで、図4の時刻t1~t2に示すように、制御装置100は、内燃機関26の吸気量Fに基づいて、点火時期の遅角量ΔTの上限値TGを決定する。これにより、内燃機関26に燃焼不良が発生することが抑制される。この際、制御装置100は、吸気量Fが大きくなるしたがって上限値TGが大きくなるように、上限値TGを決定する。そこで、記憶装置102は、図9に示す第3テーブルを記憶している。図9に示す第3テーブルには、吸気量Fと上限値TGとの関係が示されている。図9では、以下の式(6)~(7)が成立している。
【0054】
F1<F2<F3<F4<F5<… ・・・(6)
TG1<TG2<TG3<TG4<TG5<… ・・・(7)
【0055】
制御装置100は、吸気温・吸気圧信号dに基づいて吸気量Fを算出し、算出した吸気量Fに対応する上限値TGを決定する。
【0056】
次に、制御装置100が実行する具体的な処理について図面を参照しながら説明する。図10は、制御装置100が実行するフローチャートを示した図である。制御装置100は、記憶装置102が記憶しているプログラムを読み出すことにより、図10のフローチャートを実行する。
【0057】
まず、制御装置100は、車速信号a、クランク角信号b、アクセル開度信号c、吸気温・吸気圧信号d、冷却水温信号eおよび大気圧信号fに基づいて、内燃機関26の目標回転速度Rtを算出する(ステップS1)と共に、内燃機関26の気筒に充填されるベース吸気量Fbを推算する(ステップS2)。
【0058】
次に、制御装置100は、内燃機関26の目標回転速度Rtおよびベース吸気量Fbに基づき、燃料噴射量、燃料噴射時期、燃料噴射圧、ベース点火時期Tbおよびベース開度φbを決定する(ステップS3)。本実施形態では、ベース点火時期Tbは、MBTである。
【0059】
次に、制御装置100は、燃料噴射量、燃料噴射時期、燃料噴射圧、ベース点火時期Tbおよびベース開度φbにより、インジェクタ31、点火プラグ30および電子スロットル32を制御する(ステップS4)。より詳細には、制御装置100は、燃料噴射量、燃料噴射時期、燃料噴射圧、ベース点火時期Tbおよびベース開度φbに基づいて、点火信号h、燃料噴射信号iおよび開度制御信号jを生成する。点火信号hは、イグナイタに対して出力される。イグナイタは、点火信号hに基づいて、点火プラグ30に火花を発生させる。燃料噴射信号iは、インジェクタ31に対して出力される。インジェクタ31は、燃料噴射信号iに基づいて、燃料を噴射する。開度制御信号jは、電子スロットル32に対して出力される。電子スロットル32は、開度制御信号jに基づいて、スロットルバルブを開閉する。
【0060】
次に、制御装置100は、吸気量の不足による燃焼不良が内燃機関26に発生しているか否かを判定する(ステップS5)。ステップS5では、制御装置100は、内燃機関26の回転速度Rの変動幅wが所定幅w0より小さいか否かを判定する。回転速度Rの変動幅wが所定幅w0より小さい場合、制御装置100は、燃焼不良が内燃機関26に発生していると判定する。この後、本処理はステップS6に進む。回転速度Rの変動幅wが所定幅w0以上である場合、制御装置100は、燃焼不良が内燃機関26に発生していないと判定する。この後、本処理はステップS1に戻る。
【0061】
燃焼不良が内燃機関26に発生している場合、制御装置100は、回転速度Rの変動幅wに基づいて、開度補正量Δφおよび微分値φ’を決定する(ステップS6)。ステップS6では、制御装置100は、図7に示す第1テーブルを参照して、回転速度Rの変動幅wに対応する開度補正量Δφおよび微分値φ’を決定する。
【0062】
次に、制御装置100は、吸気温・吸気圧信号dに基づいて吸気量Fを算出し、算出した吸気量Fに対応する上限値TGを決定する(ステップS7)。ステップS7では、制御装置100は、図9に示す第3テーブルを参照して、吸気量Fに対応する上限値TGを決定する。
【0063】
次に、制御装置100は、開度φがベース開度φbと開度補正量Δφとの合計値となるように、電子スロットル32を制御する(ステップS8)。この際、制御装置100は、開度φが微分値φ’で変化するように電子スロットル32を制御する。
【0064】
次に、制御装置100は、目標回転速度Rtと回転速度Rとの差ΔRの大きさに基づいて、遅角量ΔTを決定する(ステップS9)。ステップS9では、制御装置100は、図8に示す第2テーブルを参照して、差ΔRに対応する遅角量ΔTを決定する。
【0065】
次に、制御装置100は、遅角量ΔTが上限値TGより大きいか否かを判定する(ステップS10)。遅角量ΔTが上限値TGより大きくない場合、本処理はステップS11に進む。遅角量ΔTが上限値TGより大きい場合、本処理はステップS12に進む。
【0066】
遅角量ΔTが上限値TGより大きくない場合、制御装置100は、遅角量ΔTを用いて点火時期を制御する(ステップS11)。具体的には、制御装置100は、ベース点火時期Tbに対して遅角量ΔTだけ遅角させた時期において点火プラグ30に火花を発生させる。この後、本処理は終了する。
【0067】
遅角量ΔTが上限値TGより大きい場合、制御装置100は、上限値TGを用いて点火時期を制御する(ステップS12)。具体的には、制御装置100は、ベース点火時期Tbに対して上限値TGだけ遅角させた時期において点火プラグ30に火花を発生させる。この後、本処理は終了する。
【0068】
[効果]
制御装置100によれば、緩慢燃焼や失火等の燃焼不良の発生を抑制できる。より詳細には、制御装置100は、吸気量の不足による燃焼不良が内燃機関26に発生している場合、内燃機関26の吸気量を増加させる。これにより、吸気量Fは、ベース吸気量Fbに増加量ΔFが加算された値になる。吸気量Fが増加すると燃焼室の圧縮端温度が上昇するので、吸気量の不足による燃焼不良の問題が解消される。
【0069】
ただし、吸気量Fが増加すると、回転速度Rが上昇する。そこで、制御装置100は、内燃機関26の点火時期を遅角させる。これにより、燃焼室の圧力のピーク値が低下する。その結果、内燃機関26の出力が低下し、回転速度Rが低下する。その結果、回転速度Rは、目標回転速度Rtに近づく。
【0070】
制御装置100によれば、既存のセンサからの信号を用いて、緩慢燃焼や失火等の燃焼不良の発生を抑制できる。したがって、制御装置100によれば、内燃機関26の設計を変更したり、新たなセンサを追加したりする必要がない。
【0071】
制御装置100によれば、以下の理由によっても、緩慢燃焼や失火等の燃焼不良の発生を抑制できる。より詳細には、制御装置100が決定した遅角量ΔTが大きすぎる場合がある。この場合、膨張行程において燃焼が進行するときに燃焼室の温度が時間経過と共に低下する。そして、燃焼室の温度が混合気を着火させるのに必要な温度を燃焼中に下回る。その結果、内燃機関26に燃焼不良が発生する。
【0072】
そこで、制御装置100は、内燃機関26の吸気量Fに基づいて、点火時期の遅角量ΔTの上限値TGを決定する。これにより、燃焼不良が内燃機関26に発生することが抑制される。
【0073】
(その他の実施形態)
本発明に係る制御装置は、制御装置100に限らず、その要旨の範囲内において変更可能である。
【0074】
なお、燃料は、ガソリン以外であってもよい。燃料は、ガソリン以外の炭化水素燃料であってもよいし、バイオエタノール燃料等のアルコール燃料であってもよい。
【0075】
なお、自動車は、三輪自動車であってもよいし、二輪自動車であってもよい。二輪自動車は、コーナーの進行方向と同方向に車体が傾斜するリーン車両である。三輪自動車は、リーン車両であってもよいし、コーナーの進行方向と逆方向にロールする車両であってもよい。
【0076】
なお、制御装置100は、内燃機関に吸気量の不足による燃焼不良が発生しているか否かを、内燃機関26の回転速度の変動幅以外の情報に基づいて判定してもよい。また、制御装置100は、内燃機関に吸気量の不足による燃焼不良が発生しているか否かを、点火プラグ30の電極に流れるイオン電流から燃焼状態を診断(特開平11-036971号公報)してもよいし、内燃機関26と直結する発電機50のトルク値から診断してもよい。
【0077】
なお、制御装置100は、軽負荷領域において図10のフローチャートを実行している。軽負荷領域とは、例えば、内燃機関26がアイドリング状態で運転している負荷領域である。しかしながら、制御装置100は、軽負荷領域以外の領域において図10のフローチャートを実行してもよい。
【0078】
なお、内燃機関26は、2サイクルのエンジンであってもよい。
【符号の説明】
【0079】
10:車両
26:内燃機関
27:ピストン
29:クランクシャフト
30:点火プラグ
31:インジェクタ
32:電子スロットル
36:バッテリ
38:クランク角センサ
42:スロットルポジションセンサ
50:発電機
52:モーター
54:インバータ
56:動力伝達装置
58L:左前車輪
58R:右前車輪
100:制御装置
102:記憶装置
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10