(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2025115682
(43)【公開日】2025-08-07
(54)【発明の名称】弾性波フィルタ、フィルタ回路および高周波モジュール
(51)【国際特許分類】
H03H 9/64 20060101AFI20250731BHJP
H03H 9/54 20060101ALI20250731BHJP
H03H 7/46 20060101ALI20250731BHJP
【FI】
H03H9/64 Z
H03H9/54 Z
H03H7/46 A
【審査請求】未請求
【請求項の数】11
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2024010257
(22)【出願日】2024-01-26
(71)【出願人】
【識別番号】000006231
【氏名又は名称】株式会社村田製作所
(74)【代理人】
【識別番号】100189430
【弁理士】
【氏名又は名称】吉川 修一
(74)【代理人】
【識別番号】100190805
【弁理士】
【氏名又は名称】傍島 正朗
(72)【発明者】
【氏名】黒▲柳▼ ▲琢▼真
(72)【発明者】
【氏名】原田 駿
【テーマコード(参考)】
5J097
5J108
【Fターム(参考)】
5J097AA01
5J097AA29
5J097CC05
5J097DD21
5J097DD29
5J097EE08
5J097FF05
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5J097KK02
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5J097KK04
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5J108AA07
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5J108EE04
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5J108EE13
5J108JJ01
(57)【要約】
【課題】低損失性が確保された小型の弾性波フィルタを提供する。
【解決手段】弾性波フィルタ1は、入出力端子110および120を結ぶ直列腕経路に配置された直列腕共振子14と、直列腕経路とグランドとの間に接続された並列腕共振器20と、を備え、直列腕共振子14は第1弾性波共振子であり、並列腕共振器20は、直列腕経路とグランドとの間に直列接続された並列腕共振子24およびインダクタ34を含み、直列腕共振子14および並列腕共振子24は同一の圧電性基板70に形成され、並列腕共振器20の共振周波数frp20は、弾性波フィルタ1の通過帯域の低周波端以下であり、並列腕共振器20の反共振周波数fap20は、上記通過帯域の高周波端以上であり、反共振周波数fap20と上記通過帯域の高周波端との周波数差Δfaは、共振周波数frp20と上記通過帯域の低周波端との周波数差Δfrよりも小さい。
【選択図】
図3A
【特許請求の範囲】
【請求項1】
帯域通過型の弾性波フィルタであって、
第1入出力端子および第2入出力端子を結ぶ直列腕経路に配置された第1直列腕共振器と、
前記直列腕経路とグランドとの間に接続された第1並列腕共振器と、を備え、
前記第1直列腕共振器は、第1弾性波共振子を含み、
前記第1並列腕共振器は、前記直列腕経路とグランドとの間に直列接続された第2弾性波共振子および第1インダクタを含み、
前記第1弾性波共振子および前記第2弾性波共振子は、同一の圧電性基板に形成され、
前記第1並列腕共振器の共振周波数である第1共振周波数は、前記弾性波フィルタの通過帯域の低周波端以下であり、前記第1並列腕共振器の反共振周波数である第1反共振周波数は、前記通過帯域の高周波端以上であり、
前記第1反共振周波数と前記通過帯域の高周波端との周波数差は、前記第1共振周波数と前記通過帯域の低周波端との周波数差よりも小さい、
弾性波フィルタ。
【請求項2】
前記第2弾性波共振子の共振周波数は、前記通過帯域内に位置する、
請求項1に記載の弾性波フィルタ。
【請求項3】
前記第1直列腕共振器を含む複数の直列腕共振器と、
前記第1並列腕共振器を含む複数の並列腕共振器と、を備え、
前記複数の直列腕共振器および前記複数の並列腕共振器のそれぞれは、弾性波共振子を含み、
前記弾性波フィルタが有する全ての前記弾性波共振子は、前記圧電性基板に形成される、
請求項1に記載の弾性波フィルタ。
【請求項4】
前記第1直列腕共振器を含む複数の直列腕共振器と、
前記第1並列腕共振器を含む複数の並列腕共振器と、を備え、
前記第1並列腕共振器は、前記複数の並列腕共振器のうちで前記第1入出力端子に最も近く接続される、
請求項1に記載の弾性波フィルタ。
【請求項5】
前記第2弾性波共振子は前記直列腕経路に接続され、前記第1インダクタはグランドに接続される、
請求項1に記載の弾性波フィルタ。
【請求項6】
前記第2弾性波共振子はグランドに接続され、前記第1インダクタは前記直列腕経路に接続される、
請求項1に記載の弾性波フィルタ。
【請求項7】
請求項1~6のいずれか1項に記載の弾性波フィルタと、
帯域通過型の第1フィルタと、
共通端子、第1選択端子および第2選択端子を有し、前記共通端子と前記第1選択端子との接続および前記共通端子と前記第2選択端子との接続を切り替える第1スイッチ回路と、を備え、
前記弾性波フィルタは、前記第1並列腕共振器および弾性波フィルタ部を有し、
前記第1フィルタは、前記第1並列腕共振器および第1フィルタ部を有し、
前記第1並列腕共振器は前記共通端子に接続され、
前記弾性波フィルタ部は前記第1選択端子に接続され、
前記第1フィルタ部は前記第2選択端子に接続され、
前記第1共振周波数は、前記弾性波フィルタの通過帯域の低周波端および前記第1フィルタの通過帯域の低周波端のうちの低周波側の低周波端以下であり、前記第1反共振周波数は、前記弾性波フィルタの通過帯域の高周波端および前記第1フィルタの通過帯域の高周波端のうちの高周波側の高周波端以上である、
フィルタ回路。
【請求項8】
請求項1~6のいずれか1項に記載の弾性波フィルタと、
入力端子が前記第1入出力端子に接続された低雑音増幅器と、を備える、
高周波モジュール。
【請求項9】
前記低雑音増幅器に含まれる増幅トランジスタの入力端と前記第1入出力端子とを結ぶ経路には、キャパシタが直列配置されていない、
請求項8に記載の高周波モジュール。
【請求項10】
請求項7に記載のフィルタ回路と、
入力端子が前記共通端子と前記第1並列腕共振器との接続点に接続された低雑音増幅器と、を備える、
高周波モジュール。
【請求項11】
前記入力端子と前記接続点とを結ぶ経路には、キャパシタが直列配置されていない、
請求項10に記載の高周波モジュール。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、弾性波フィルタ、フィルタ回路および高周波モジュールに関する。
【背景技術】
【0002】
特許文献1には、帯域通過型のフィルタおよび整合共振器を備えたフィルタモジュールが開示されている。フィルタの通過帯域が整合共振器の共振周波数と反共振周波数との間の範囲に含まれることでフィルタモジュールの通過帯域のインピーダンスを誘導性にすることが可能となる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
特許文献1に開示されたフィルタモジュールでは、整合共振器により通過帯域のインピーダンスを誘導性にできるので、容量性のインピーダンスを有する外部回路と接続された場合の整合損失を低減できる。しかしながら、整合共振器自体の挿入損失を低減できない場合があり、フィルタモジュールの低損失性を確保できない。また、整合共振器が付加されるのでフィルタモジュールが大型化する。
【0005】
そこで、本発明は、上記課題を解決するためになされたものであって、低損失性が確保された小型の弾性波フィルタ、フィルタ回路および高周波モジュールを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記目的を達成するために、本発明の一態様に係る弾性波フィルタは、帯域通過型の弾性波フィルタであって、第1入出力端子および第2入出力端子を結ぶ直列腕経路に配置された第1直列腕共振器と、直列腕経路とグランドとの間に接続された第1並列腕共振器と、を備え、第1直列腕共振器は、第1弾性波共振子を含み、第1並列腕共振器は、直列腕経路とグランドとの間に直列接続された第2弾性波共振子および第1インダクタを含み、第1弾性波共振子および第2弾性波共振子は、同一の圧電性基板に形成され、第1並列腕共振器の共振周波数である第1共振周波数は、弾性波フィルタの通過帯域の低周波端以下であり、第1並列腕共振器の反共振周波数である第1反共振周波数は、通過帯域の高周波端以上であり、第1反共振周波数と通過帯域の高周波端との周波数差は、第1共振周波数と通過帯域の低周波端との周波数差よりも小さい。
【0007】
また、本発明の一態様に係るフィルタ回路は、上記弾性波フィルタと、帯域通過型の第1フィルタと、共通端子、第1選択端子および第2選択端子を有し、共通端子と第1選択端子との接続および共通端子と第2選択端子との接続を切り替える第1スイッチ回路と、を備え、弾性波フィルタは、第1並列腕共振器および弾性波フィルタ部を有し、第1フィルタは、第1並列腕共振器および第1フィルタ部を有し、第1並列腕共振器は共通端子に接続され、弾性波フィルタ部は第1選択端子に接続され、第1フィルタ部は第2選択端子に接続され、第1共振周波数は、弾性波フィルタの通過帯域の低周波端および第1フィルタの通過帯域の低周波端のうちの低周波側の低周波端以下であり、第1反共振周波数は、弾性波フィルタの通過帯域の高周波端および第1フィルタの通過帯域の高周波端のうちの高周波側の高周波端以上である。
【0008】
また、本発明の一態様に係る高周波モジュールは、上記弾性波フィルタと、入力端子が第1入出力端子に接続された低雑音増幅器と、を備える。
【発明の効果】
【0009】
本発明によれば、低損失性が確保された小型の弾性波フィルタ、フィルタ回路および高周波モジュールを提供することが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【
図1】実施の形態に係る弾性波フィルタおよび高周波モジュールの回路構成図である。
【
図2A】実施の形態に係る弾性波フィルタを構成する弾性波共振子の第1例を模式的に表す平面図および断面図である。
【
図2B】実施の形態に係る弾性波フィルタを構成する弾性波共振子の第2例を模式的に表す断面図である。
【
図2C】実施の形態に係る弾性波フィルタを構成する弾性波共振子の第3例を模式的に表す断面図である。
【
図3A】実施の形態に係る弾性波フィルタの通過帯域近傍帯域の通過特性および第1並列腕共振器のインピーダンス特性を示すグラフである。
【
図3B】実施の形態に係る弾性波フィルタの広域の第1並列腕共振器のインピーダンス特性を示すグラフである。
【
図4】実施の形態に係る弾性波フィルタのインピーダンス特性を示すアドミタンスチャートである。
【
図5】実施の形態の変形例1に係る弾性波フィルタの回路構成図である。
【
図6A】実施の形態の変形例2に係るフィルタ回路および高周波モジュールの回路構成図である。
【
図6B】実施の形態の変形例2に係るフィルタ回路を構成する各フィルタの通過特性および第1並列腕共振器のインピーダンス特性を模式的に示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下、本開示の実施の形態について、図面を用いて詳細に説明する。なお、以下で説明する実施の形態は、いずれも包括的または具体的な例を示すものである。以下の実施の形態で示される数値、形状、材料、構成要素、構成要素の配置および接続形態などは、一例であり、本発明を限定する主旨ではない。以下の実施の形態における構成要素のうち、独立請求項に記載されていない構成要素については、任意の構成要素として説明される。また、図面に示される構成要素の大きさまたは大きさの比は、必ずしも厳密ではない。
【0012】
なお、各図は、本発明を示すために適宜強調、省略、または比率の調整を行った模式図であり、必ずしも厳密に図示されたものではなく、実際の形状、位置関係、および比率とは異なる場合がある。各図において、実質的に同一の構成に対しては同一の符号を付しており、重複する説明は省略または簡素化される場合がある。
【0013】
本開示の回路構成において、「接続される」とは、接続端子および/または配線導体で直接接続される場合だけでなく、整合素子またはスイッチ回路を介して電気的に接続される場合も含む。「AおよびBの間に接続される」とは、AおよびBの間でAおよびBの両方に接続されることを意味する。
【0014】
本発明において、「端子」とは、要素内の導体が終了するポイントを意味する。なお、要素間の導体のインピーダンスが十分に低い場合には、端子は単一のポイントだけでなく、要素間の導体上の任意のポイント(ノード)または導体全体と解釈される。
【0015】
また、本開示の回路素子配置において、「回路素子Aが経路Bに直列配置される」とは、回路素子Aの信号入力端および信号出力端が、経路Bの少なくとも一部を構成する2つの配線のそれぞれに接続されていることを意味する。なお、2つの配線の少なくとも一方は、電極や端子であってもよい。
【0016】
以下の各図において、x軸およびy軸は、モジュール基板の主面と平行な平面上で互いに直交する軸である。具体的には、平面視においてモジュール基板が矩形状を有する場合、x軸は、モジュール基板の第1辺に平行であり、y軸は、モジュール基板の第1辺と直交する第2辺に平行である。また、z軸は、モジュール基板の主面に垂直な軸であり、その正方向は上方向を示し、その負方向は下方向を示す。
【0017】
また、「平行」および「垂直」などの要素間の関係性を示す用語、「矩形」などの要素の形状を示す用語、ならびに、数値範囲は、厳格な意味のみを表すのではなく、実質的に同等な範囲、例えば数%程度の誤差をも含むことを意味する。
【0018】
また、本発明の部品配置において、「モジュール基板の平面視」とは、z軸正側からxy平面に物体を正投影して見ることを意味する。「Aは平面視においてBと重なる」とは、xy平面に正投影されたAの領域の少なくとも一部が、xy平面に正投影されたBの領域の少なくとも一部と重なることを意味する。また、「AがBおよびCの間に配置される」とは、B内の任意の点とC内の任意の点とを結ぶ複数の線分のうちの少なくとも1つがAを通ることを意味する。
【0019】
本発明の部品配置において、「部品が基板に配置される」とは、部品が基板の主面上に配置されること、および、部品が基板内に配置されることを含む。「部品が基板の主面上に配置される」とは、部品が基板の主面に接触して配置されることに加えて、部品が主面と接触せずに当該主面の上方に配置されること(例えば、部品が主面と接触して配置された他の部品上に積層されること)を含む。また、「部品が基板の主面上に配置される」は、主面に形成された凹部に部品が配置されることを含んでもよい。「部品が基板内に配置される」とは、部品がモジュール基板内にカプセル化されることに加えて、部品の全部が基板の両主面の間に配置されているが部品の一部が基板に覆われていないこと、および、部品の一部のみが基板内に配置されていることを含む。
【0020】
また、以下の実施の形態において、フィルタの通過帯域は、当該通過帯域内における挿入損失の最小値から3dB大きい2つの周波数間の周波数帯域と定義される。
【0021】
なお、弾性波共振器とは、(1)弾性波共振子および当該弾性波共振子に並列接続された回路(または回路素子)で構成された共振回路(弾性波共振子と回路(または回路素子)との並列接続回路)、(2)弾性波共振子および当該弾性波共振子の2つの入出力端の一方のみに接続された回路(または回路素子)で構成され、上記弾性波共振子と上記回路(または回路素子)とを接続する接続ノードには、他の回路(および他の回路素子)ならびにグランドが接続されていない構成を有する共振回路(弾性波共振子と回路(または回路素子)との直列接続回路)、(3)互いに並列接続された複数の弾性波共振子で構成された共振回路(分割共振子の並列接続回路)、ならびに(4)互いに直列接続された複数の弾性波共振子で構成され、当該複数の弾性波共振子間を接続する接続ノードには、当該複数の弾性波共振子以外の回路(および回路素子)ならびにグランドは接続されていない構成を有する共振回路(分割共振子の直列接続回路)、のいずれかと定義される。
【0022】
また、本開示の実施の形態において、共振帯域幅とは、弾性波共振子の反共振周波数と共振周波数との周波数差を意味する。
【0023】
なお、上記実施の形態および変形例において示された共振周波数および反共振周波数は、例えば、弾性波共振子または弾性波共振器が他の回路素子と接続されていない状態で、弾性波共振子または弾性波共振器の2つの入出力電極にRFプローブを接触させ、ネットワークアナライザ等で反射特性(インピーダンス特性)を測定することで導出される。
【0024】
また、本開示において、「バンド」とは、無線アクセス技術(RAT:Radio Access Technology)を用いて構築される通信システムのために、標準化団体など(例えば3GPP(登録商標)、IEEE(Institute of Electrical and Electronics Engineers)等)によって予め定義された周波数バンドのアップリンク動作バンドおよびダウンリンク動作バンドの少なくとも一方を意味する。本実施の形態では、通信システムとしては、例えばLTE(Long Term Evolution)システム、5G(5th Generation)-NR(New Radio)システム、およびWLAN(Wireless Local Area Network)システム等を用いることができるが、これらに限定されない。なお、周波数バンドのアップリンク動作バンドとは、当該周波数バンドのうちのアップリンク用に指定された周波数範囲を意味する。また、周波数バンドのダウンリンク動作バンドとは、当該周波数バンドのうちのダウンリンク用に指定された周波数範囲を意味する。
【0025】
(実施の形態)
[1 弾性波フィルタ1および高周波モジュール100の回路構成]
図1は、実施の形態に係る弾性波フィルタ1および高周波モジュール100の回路構成図である。同図に示すように、高周波モジュール100は、弾性波フィルタ1と、低雑音増幅器2と、インダクタ31と、を備える。
【0026】
低雑音増幅器2は、インダクタ31を介して弾性波フィルタ1に接続されている、具体的には、低雑音増幅器2の入力端子130は、インダクタ31を介して弾性波フィルタ1の入出力端子120に接続されている。低雑音増幅器2は、例えば、電界効果トランジスタ(FET:Field Effect Transistor)またはバイポーラトランジスタ(Bipolar Transistor)である増幅トランジスタを含み、当該増幅トランジスタの入力端であるゲート(またはベース)がインダクタ31を介して入出力端子120に接続され、ドレイン(またはコレクタ)が出力端子140に接続され、ソース(またはエミッタ)がインダクタを介してグランドに接続される。さらに、上記増幅トランジスタのゲート(またはベース)には、直流バイアス電圧(直流バイアス電流)が供給される。上記構成により、低雑音増幅器2は、ゲート(またはベース)に直流バイアス電圧(直流バイアス電流)が供給されることで、弾性波フィルタ1を通過した高周波信号を増幅して出力端子140へ出力する。また、低雑音増幅器2の入力インピーダンスは、容量性かつ高インピーダンスとなる。
【0027】
インダクタ31は、一端が弾性波フィルタ1の入出力端子120に接続され、他端が低雑音増幅器2の入力端子130に接続され、弾性波フィルタ1と低雑音増幅器2とのインピーダンス整合をとるための回路素子である。なお、インダクタ31は、本実施の形態に係る高周波モジュール100に必須の構成要素ではない。
【0028】
弾性波フィルタ1は、帯域通過型のフィルタ(バンドパスフィルタ)であって、直列腕共振子11、12、13および14と、並列腕共振子21、22、23および24と、インダクタ34と、入出力端子110および120と、を備える。
【0029】
直列腕共振子11~14のそれぞれは、弾性波共振子を含む弾性波共振器であり、入出力端子110(第2入出力端子)および入出力端子120(第1入出力端子)を結ぶ直列腕経路に配置される。直列腕共振子11は、直列腕共振子11のみで1つの直列腕共振器(弾性波共振器)を構成し、直列腕共振子12は、直列腕共振子12のみで1つの直列腕共振器(弾性波共振器)を構成し、直列腕共振子13は、直列腕共振子13のみで1つの直列腕共振器(弾性波共振器)を構成している。直列腕共振子11~14のそれぞれは、第1弾性波共振子の一例であり、また、第1直列腕共振器の一例である。
【0030】
直列腕共振子11~14のそれぞれは、入出力端子110から順に、直列腕共振子11、12、13および14の順に接続されている。
【0031】
並列腕共振子21~23のそれぞれは、弾性波共振子を含む弾性波共振器であり、上記直列腕経路とグランドとの間に接続される。並列腕共振子21は、直列腕共振子11および12の接続点とグランドとの間に接続される。並列腕共振子22は、直列腕共振子12および13の接続点とグランドとの間に接続される。並列腕共振子23は、直列腕共振子13および14の接続点とグランドとの間に接続される。並列腕共振子21は、並列腕共振子21のみで1つの並列腕共振器(弾性波共振器)を構成し、並列腕共振子22は、並列腕共振子22のみで1つの並列腕共振器(弾性波共振器)を構成し、並列腕共振子23は、並列腕共振子23のみで1つの並列腕共振器(弾性波共振器)を構成している。
【0032】
互いに直列接続された並列腕共振子24およびインダクタ34は、弾性波共振子を含む弾性波共振器であり、並列腕共振器20を構成する。並列腕共振器20は、直列腕共振子14および入出力端子120の接続点とグランドとの間に接続される。より具体的には、並列腕共振子24は入出力端子110および120を結ぶ直列腕経路に接続され、インダクタ34はグランドに接続される。並列腕共振子24は第2弾性波共振子の一例であり、インダクタ34は第1インダクタの一例であり、並列腕共振器20は第1並列腕共振器の一例である。
【0033】
並列腕共振器20は、共振周波数frp20(第1共振周波数)および反共振周波数fap20(第1反共振周波数)を有する。並列腕共振子24は、共振周波数frp24および反共振周波数fap24を有する。インダクタ34が並列腕共振子24に直列接続されることで、並列腕共振器20の共振周波数frp20が並列腕共振子24の共振周波数frp24に対して低周波側にシフトする。つまり、インダクタ34が並列腕共振子24に直列接続されることで、並列腕共振器20の共振帯域幅(fap20-frp20)は、並列腕共振子24の共振帯域幅(fap24-frp24)よりも広くなる。
【0034】
直列腕共振子11~14および並列腕共振子21~24は、同一の圧電性基板70に形成されている。これにより、弾性波フィルタ1を小型化できる。なお、弾性波フィルタ1が有する全ての弾性波共振子が同一の圧電性基板70に形成されていなくてもよく、直列腕共振子11~14の少なくとも1つおよび並列腕共振子24が、同一の圧電性基板70に形成されていてもよい。これによれば、各弾性波共振子が異なる圧電性基板に形成された場合と比較して、弾性波フィルタ1を小型化できる。
【0035】
なお、直列腕共振子11~14および並列腕共振子21~23のそれぞれ(弾性波共振器)は、1つの弾性波共振子のみを有するが、直列腕共振子11~14および並列腕共振子21~23のそれぞれは、例えば、(1)弾性波共振子と、当該弾性波共振子に並列接続されたキャパシタおよびインダクタの少なくとも1つを含む回路とで構成された共振器、(2)弾性波共振子と、当該弾性波共振子に直列接続されたキャパシタおよびインダクタの少なくとも1つを含む回路とで構成された共振器、(3)並列接続された複数の弾性波共振子で構成された共振器、ならびに(4)直列接続された複数の弾性波共振子で構成された共振器、のいずれかであってもよい。
【0036】
また、本実施の形態に係る弾性波フィルタ1は、直列腕共振子11~14のうちの少なくとも1つおよび並列腕共振器20を備えていればよく、その他の弾性波共振子はなくてもよい。また、本実施の形態に係る弾性波フィルタ1は、ラダー型のフィルタを構成する直列腕共振器および並列腕共振器の他、縦結合型共振器、キャパシタおよびインダクタの少なくとも1つを備えてもよい。
【0037】
[2 弾性波共振子の構造]
次に、弾性波フィルタ1を構成する弾性波共振子(直列腕共振子および並列腕共振子)の構造について例示する。
【0038】
図2Aは、実施の形態に係る弾性波フィルタ1を構成する弾性波共振子の第1例を模式的に表す平面図および断面図である。同図には、弾性波フィルタ1を構成する複数の弾性波共振子のそれぞれの基本構造が例示されている。なお、
図2Aに示された弾性波共振子60は、弾性波フィルタ1を構成する弾性表面波共振子の典型的な構造を説明するためのものであって、電極を構成する電極指の本数および長さなどは、これに限定されない。
【0039】
弾性波共振子60は、圧電性基板50と、櫛形電極60aおよび60bとで構成されている。
【0040】
図2Aの(a)に示すように、圧電性基板50の上には、互いに対向する一対の櫛形電極60aおよび60bが形成されている。櫛形電極60aは、互いに平行な複数の電極指61aと、複数の電極指61aを接続するバスバー電極62aとで構成されている。また、櫛形電極60bは、互いに平行な複数の電極指61bと、複数の電極指61bを接続するバスバー電極62bとで構成されている。複数の電極指61aおよび61bは、弾性波伝搬方向(X軸方向)と直交する方向に沿って形成されている。
【0041】
また、複数の電極指61aおよび61b、ならびに、バスバー電極62aおよび62bで構成されるIDT電極54は、
図2Aの(b)に示すように、密着層540と主電極層542との積層構造となっている。
【0042】
密着層540は、圧電性基板50と主電極層542との密着性を向上させるための層であり、材料として、例えば、Tiが用いられる。主電極層542は、材料として、例えば、Cuを1%含有したAlが用いられる。保護層55は、櫛形電極60aおよび60bを覆うように形成されている。保護層55は、主電極層542を外部環境から保護する、周波数温度特性を調整する、および、耐湿性を高めるなどを目的とする層であり、例えば、二酸化ケイ素を主成分とする誘電体膜である。
【0043】
なお、密着層540、主電極層542および保護層55を構成する材料は、上述した材料に限定されない。さらに、IDT電極54は、上記積層構造でなくてもよい。IDT電極54は、例えば、Ti、Al、Cu、Pt、Au、Ag、Pdなどの金属または合金から構成されてもよく、また、上記の金属または合金から構成される複数の積層体から構成されてもよい。また、保護層55は、形成されていなくてもよい。
【0044】
次に、圧電性基板50の積層構造について説明する。
【0045】
図2Aの(c)に示すように、圧電性基板50は、高音速支持基板51と、低音速膜52と、圧電膜53とを備え、高音速支持基板51、低音速膜52および圧電膜53がこの順で積層された構造を有している。圧電性基板50は、弾性波フィルタ1の圧電性基板70の一例である。
【0046】
圧電膜53は、例えばθ°YカットX伝搬LiTaO3圧電単結晶または圧電セラミックス(X軸を中心軸としてY軸からθ°回転した軸を法線とする面で切断したリチウムタンタレート単結晶、またはセラミックスであって、X軸方向に弾性表面波が伝搬する単結晶またはセラミックス)からなる。なお、各フィルタの要求仕様により、圧電膜53として使用される圧電単結晶の材料およびカット角θが適宜選択される。
【0047】
高音速支持基板51は、低音速膜52、圧電膜53ならびにIDT電極54を支持する基板である。高音速支持基板51は、さらに、圧電膜53を伝搬する表面波および境界波などの弾性波よりも、高音速支持基板51中のバルク波の音速が高速となる基板であり、弾性表面波を圧電膜53および低音速膜52が積層されている部分に閉じ込め、高音速支持基板51より下方に漏れないように機能する。高音速支持基板51の材料としては、例えば、窒化アルミニウム、タンタル酸リチウム、ニオブ酸リチウム、水晶などの圧電体、アルミナ、サファイア、マグネシア、窒化ケイ素、炭化ケイ素、ジルコニア、コージライト、ムライト、ステアタイト、フォルステライト、スピネル、サイアロンなどのセラミック、酸化アルミニウム、酸窒化ケイ素、DLC(ダイヤモンドライクカーボン)、ダイヤモンドなどの誘電体、もしくはシリコンなどの半導体、または上記材料を主成分とする材料を用いることができる。なお、上記スピネルには、Mg、Fe、Zn、Mnなどから選ばれる1以上の元素と酸素とを含有するアルミニウム化合物が含まれる。上記スピネルの例としては、MgAl2O4、FeAl2O4、ZnAl2O4、MnAl2O4を挙げることができる。
【0048】
低音速膜52は、圧電膜53を伝搬するバルク波よりも、低音速膜52中のバルク波の音速が低速となる膜であり、圧電膜53と高音速支持基板51との間に配置される。この構造と、弾性波が本質的に低音速な媒質にエネルギーが集中するという性質とにより、弾性表面波エネルギーの圧電膜53外への漏れが抑制される。低音速膜52の材料としては、例えば、ガラス、酸化ケイ素、酸窒化ケイ素、酸化リチウム、酸化タンタル、もしくは酸化ケイ素にフッ素、炭素やホウ素を加えた化合物などの誘電体、または上記材料を主成分とする材料を用いることができる。
【0049】
なお、圧電性基板50の上記積層構造によれば、圧電基板を単層で使用している従来の構造と比較して、共振周波数および反共振周波数におけるQ値を大幅に高めることが可能となる。すなわち、Q値が高い弾性波共振子を構成し得るので、当該弾性波共振子を用いて、挿入損失が小さいフィルタを構成することが可能となる。
【0050】
なお、高音速支持基板51は、支持基板と、圧電膜53を伝搬する表面波および境界波などの弾性波よりも、伝搬するバルク波の音速が高速となる高音速膜とが積層された構造を有していてもよい。この場合、高音速膜の材料としては、高音速支持基板51の材料と同じ材料を用いることができる。また、支持基板の材料としては、例えば、窒化アルミニウム、タンタル酸リチウム、ニオブ酸リチウム、水晶などの圧電体、アルミナ、サファイア、マグネシア、窒化ケイ素、炭化ケイ素、ジルコニア、コージライト、ムライト、ステアタイト、フォルステライトなどのセラミック、ダイヤモンド、ガラスなどの誘電体、シリコン、窒化ガリウムなどの半導体、もしくは樹脂、または上記材料を主成分とする材料を用いることができる。
【0051】
なお、本明細書において、「材料の主成分」とは、当該材料に占める割合が50重量%を超える成分をいう。上記主成分は、単結晶、多結晶およびアモルファスのうちいずれかの状態、もしくは、これらが混在した状態で存在していてもよい。
【0052】
図2Bは、実施の形態に係る弾性波フィルタ1を構成する弾性波共振子の第2例を模式的に表す断面図である。
図2Aに示した弾性波共振子60では、IDT電極54が、圧電膜53を有する圧電性基板50上に形成された例を示したが、当該IDT電極54が形成される基板は、
図2Bに示すように、圧電体層の単層からなる圧電単結晶基板57であってもよい。
【0053】
圧電単結晶基板57は、例えば、LiNbO3の圧電単結晶で構成されている。本例に係る弾性波共振子は、LiNbO3の圧電単結晶基板57と、IDT電極54と、圧電単結晶基板57上およびIDT電極54上に形成された保護層58と、で構成されている。圧電単結晶基板57は、弾性波フィルタ1の圧電性基板70の一例である。
【0054】
上述した圧電膜53および圧電単結晶基板57は、弾性波フィルタの要求通過特性などに応じて、適宜、積層構造、材料、カット角、および、厚みを変更してもよい。上述したカット角以外のカット角を有するLiTaO3圧電基板などを用いた弾性波共振子であっても、上述した圧電膜53を用いた弾性波共振子60と同様の効果を奏することができる。
【0055】
また、IDT電極54が形成される基板は、支持基板と、エネルギー閉じ込め層と、圧電膜とが、この順で積層された構造を有していてもよい。圧電膜上にIDT電極54が形成される。圧電膜は、例えば、LiTaO3圧電単結晶または圧電セラミックスが用いられる。支持基板は、圧電膜、エネルギー閉じ込め層、およびIDT電極54を支持する基板である。
【0056】
エネルギー閉じ込め層は1層または複数の層からなり、その少なくとも1つの層を伝搬するバルク弾性波の速度は、圧電膜近傍を伝搬する弾性波の速度よりも大きい。例えば、エネルギー閉じ込め層は、低音速層と、高音速層との積層構造となっていてもよい。低音速層は、圧電膜を伝搬する弾性波の音速よりも、低音速層中のバルク波の音速が低速となる膜である。高音速層は、圧電膜を伝搬する弾性波の音速よりも、高音速層中のバルク波の音速が高速となる膜である。なお、支持基板を高音速層としてもよい。
【0057】
また、エネルギー閉じ込め層は、音響インピーダンスが相対的に低い低音響インピーダンス層と、音響インピーダンスが相対的に高い高音響インピーダンス層とが、交互に積層された構成を有する音響インピーダンス層であってもよい。
【0058】
ここで、弾性波共振子60を構成するIDT電極54の電極パラメータについて説明する。
【0059】
弾性波共振子の波長とは、
図2Aの(b)に示すIDT電極54を構成する複数の電極指61aまたは61bの繰り返し周期である波長λで規定される。また、電極指ピッチは、波長λの1/2であり、櫛形電極60aおよび60bをそれぞれ構成する電極指61aおよび61bのライン幅をWとし、隣り合う電極指61aと電極指61bとの間のスペース幅をSとした場合、(W+S)で定義される。また、IDT電極54のデューティーは、電極指61aおよび61bのライン幅占有率であり、電極指61aおよび61bのそれぞれのライン幅とスペース幅との加算値に対する当該ライン幅の割合であり、W/(W+S)で定義される。また、IDT電極54の交叉幅は、電極指61aおよび電極指61bを弾性波伝搬方向(X軸方向)から見た場合に重複する電極指の長さである。
【0060】
なお、IDT電極54において、隣り合う電極指間の間隔が一定でない場合には、IDT電極54の電極指ピッチは、IDT電極54の平均電極指ピッチで定義される。IDT電極54の平均電極指ピッチは、IDT電極54に含まれる電極指61a、61bの総本数をNi本とし、IDT電極54の、弾性波伝搬方向における一方端に位置する電極指と他方端に位置する電極指との中心間距離をDiとすると、Di/(Ni-1)と定義される。
【0061】
また、
図2Cは、実施の形態に係る弾性波フィルタ1を構成する弾性波共振子の第3例を模式的に表す断面図である。
図2Cには、弾性波フィルタ1の弾性波共振子として、バルク弾性波共振子が示されている。同図に示すように、バルク弾性波共振子は、例えば、支持基板65と、下部電極66と、圧電体層67と、上部電極68と、を有しており、支持基板65、下部電極66、圧電体層67、および上部電極68がこの順で積層された構成となっている。
【0062】
支持基板65は、下部電極66、圧電体層67、および上部電極68を支持するための基板であり、例えば、シリコン基板である。なお、支持基板65は、下部電極66と接触する領域に、空洞が設けられている。これにより、圧電体層67を自由に振動させることが可能となる。支持基板65は、弾性波フィルタ1の圧電性基板70の一例である。
【0063】
下部電極66は、支持基板65の一方面上に形成されている。上部電極68は、支持基板65の一方面上に形成されている。下部電極66および上部電極68は、材料として、例えば、Cuを1%含有したAlが用いられる。
【0064】
圧電体層67は、下部電極66と上部電極68との間に形成されている。圧電体層67は、例えば、ZnO(酸化亜鉛)、AlN(窒化アルミニウム)、PZT(チタン酸ジルコン酸鉛)、KN(ニオブ酸カリウム)、LN(リチウムニオベイト)、LT(リチウムタンタレート)、水晶、およびLiBO(ホウ酸リチウム)の少なくとも1つを主成分とする。
【0065】
上記積層構成を有するバルク弾性波共振子は、下部電極66と上部電極68との間に電気的なエネルギーを印加することで圧電体層67内にてバルク弾性波を誘発して共振を発生させるものである。このバルク弾性波共振子により生成されるバルク弾性波は、下部電極66と上部電極68との間を、圧電体層67の膜面に垂直な方向に伝搬する。つまり、バルク弾性波共振子は、バルク弾性波を利用した共振子である。
【0066】
[3 弾性波フィルタ1の共振特性および通過特性]
まず、1つの直列腕共振子および1つの並列腕共振子で構成されたラダー型バンドパスフィルタの基本的な動作原理について説明しておく。
【0067】
並列腕共振子は共振周波数frpおよび反共振周波数fap(>frp)を有し、直列腕共振子は共振周波数frsおよび反共振周波数fas(>frs>frp)を有する。上記共振特性を有する直列腕共振子および並列腕共振子において、一般的には、並列腕共振子の反共振周波数fapと直列腕共振子の共振周波数frsとを近接させる。これにより、並列腕共振子のインピーダンスが0に近づく共振周波数frp近傍は、低周波側阻止域となる。また、これより周波数が増加すると、反共振周波数fap近傍で並列腕共振子のインピーダンスが高くなり、かつ、共振周波数frs近傍で直列腕共振子のインピーダンスが0に近づく。これにより、反共振周波数fap~共振周波数frsの近傍では、直列腕経路である信号経路において信号通過域となる。これにより、弾性波共振子の電極パラメータおよび電気機械結合係数を反映した通過帯域を形成することが可能となる。さらに、周波数が高くなり、反共振周波数fas近傍になると、直列腕共振子のインピーダンスが高くなり、高周波側阻止域となる。
【0068】
また、直列腕共振子および並列腕共振子のそれぞれにおいて、共振周波数よりも低周波側の周波数帯域では、共振子のインピーダンスは容量性(C性)を示し、共振周波数よりも高周波側かつ反共振周波数よりも低周波側の周波数帯域では、共振子のインピーダンスは誘導性(L性)を示す。また、反共振周波数よりも高周波側の周波数帯域では、共振子のインピーダンスは容量性を示す。
【0069】
なお、共振帯域幅が所望の通過帯域幅よりも広い場合、並列腕共振子の反共振周波数は通過帯域の高域端よりも高く、直列腕共振子の共振周波数は通過帯域の低域端よりも低くてもよい。共振周波数から反共振周波数までの周波数範囲である共振帯域の少なくとも一部が弾性波フィルタ1の通過帯域と重なる共振子は、弾性波フィルタ1の通過帯域の形成に寄与する共振子と定義される。
【0070】
次に、弾性波フィルタ1のインピーダンス特性および通過特性について説明する。
【0071】
図3Aは、実施の形態に係る弾性波フィルタ1の通過帯域近傍帯域の通過特性および並列腕共振器20のインピーダンス特性を示すグラフである。
図3Bは、実施の形態に係る広域の並列腕共振器20のインピーダンス特性を示すグラフである。
【0072】
図3Aに示すように、並列腕共振子24の共振周波数frp24は、上記通過帯域内に位置する。一方、並列腕共振器20の共振周波数frp20は、弾性波フィルタ1の通過帯域の低周波端以下であり、並列腕共振器20の反共振周波数fap20は、上記通過帯域の高周波端以上である。また、反共振周波数fap20と上記通過帯域の高周波端との周波数差Δfaは、共振周波数frp20と上記通過帯域の低周波端との周波数差Δfrよりも小さい。
【0073】
なお、
図3Aには図示していないが、直列腕共振子11~14のうちの少なくとも1つの共振周波数は、上記通過帯域内に位置し、並列腕共振子21~23のうちの少なくとも1つの反共振周波数は、上記通過帯域内に位置する。これによれば、ラダー型の弾性波フィルタ1の挿入損失を低減できる。
【0074】
ラダー型の弾性波フィルタにおいて、直列腕共振器の共振周波数および並列腕共振器の反共振周波数を通過帯域内に位置させることで、低損失かつ急峻な通過特性を実現できる。このため、通過帯域では、弾性波フィルタのインピーダンスは少なくとも容易性となる傾向にある。このため、低雑音増幅器2のような入力インピーダンスが容量性である容量性回路を弾性波フィルタと接続する場合、容量性回路と弾性波フィルタとの間に誘導性の整合回路を配置することで基準インピーダンスにて双方の整合をとることが可能となる。
【0075】
これに対して、本実施の形態に係る弾性波フィルタ1の構成によれば、通過帯域を形成する直列腕共振子11~14および並列腕共振子21~23と同一の圧電性基板70に形成された並列腕共振子24は、共振周波数frp24および反共振周波数fap24の少なくともいずれかが通過帯域内に位置する可能性が高い。しかし、並列腕共振子24にインダクタ34を直列接続することで、並列腕共振器20の共振帯域幅を拡張して、並列腕共振器20の共振周波数frp20と反共振周波数fap20との間に上記通過帯域が位置するように調整されている。これにより、並列腕共振器20の上記通過帯域におけるインピーダンスは誘導性となり、上記容量性回路と弾性波フィルタ1との間に誘導性の整合回路を設けることなく、上記容量性回路と弾性波フィルタ1とをインピーダンス整合させることが可能となる。また、高インピーダンスを有する反共振周波数fap20を、低インピーダンスを有する共振周波数frp20よりも上記通過帯域に近く位置させることで、通過帯域の信号を入出力端子110から入出力端子120へ低損失で伝送できる。さらに、
図3Bに示すように、並列腕共振器20はDC(直流)領域において高インピーダンスを有する。これにより、低雑音増幅器2に供給される直流バイアス電圧(直流バイアス電流)が弾性波フィルタ1側へ漏洩することを防止できるので、弾性波フィルタ1と低雑音増幅器2の増幅トランジスタの入力端とを結ぶ経路にDCカット用のキャパシタを直列配置する必要がない。よって、整合損失および挿入損失の双方が低減された低損失かつ小型の弾性波フィルタ1を提供できる。
【0076】
図4は、実施の形態に係る弾性波フィルタ1のインピーダンス特性を示すアドミタンスチャートである。
図4の(a)に示すように、ノードB(直列腕共振子14と並列腕共振器20との接続ノード)から入出力端子110側を見た通過帯域のインピーダンス(
図4の(a)の太実線)は基準インピーダンス近傍に位置している。つまり、並列腕共振器20が付加されない弾性波フィルタのインピーダンスは基準インピーダンス近傍に位置している。並列腕共振器20が付加されていない状態で、容量性の入力インピーダンスを有する低雑音増幅器2が入出力端子120に接続された場合、弾性波フィルタおよび低雑音増幅器2を含む高周波モジュールのインピーダンスは基準インピーダンスから逸脱する。
【0077】
これに対して、
図4の(b)に示すように、ノードA(入出力端子120)から入出力端子110側を見た通過帯域のインピーダンス(
図4の(b)の太実線)は、ノードBにおけるインピーダンスに対して並列腕共振器20の誘導性インピーダンスが付加されることで、等コンダクタンス円上を反時計回りに移動するため、誘導性かつ低インピーダンスとなる。
【0078】
これによれば、誘導性インピーダンスを有する弾性波フィルタ1と容量性インピーダンスを有する低雑音増幅器2とが接続された構成を有する高周波モジュール100のインピーダンスを基準インピーダンスに近づけることが可能となる。よって、弾性波フィルタ1および高周波モジュール100の整合損失を低減できる。
【0079】
なお、本実施の形態に係る弾性波フィルタ1において、第1並列腕共振器(並列腕共振器20)は、複数の並列腕共振器のうちで入出力端子120に最も近く接続されている。
【0080】
これによれば、通過帯域が誘導性インピーダンスを示す共振器が、容量性インピーダンスを示す低雑音増幅器2の入力端子130に最も近く配置されるので、弾性波フィルタ1と低雑音増幅器2とのインピーダンス整合を高効率かつ高精度に合わせることが可能となる。
【0081】
なお、第1並列腕共振器は、複数の並列腕共振器のうちで入出力端子120に最も近く接続されていなくてもよく、入出力端子110から直列腕共振子14までの直列腕経路上のノードに接続されていてもよい。
【0082】
[4 変形例1に係る弾性波フィルタ1Aの構成]
図5は、実施の形態の変形例1に係る弾性波フィルタ1Aの回路構成図である。同図に示すように、変形例1に係る弾性波フィルタ1Aは、帯域通過型のフィルタ(バンドパスフィルタ)であって、直列腕共振子11、12、13および14と、並列腕共振子21、22、23および24と、インダクタ34と、入出力端子110および120と、を備える。本変形例に係る弾性波フィルタ1Aは、実施の形態に係る弾性波フィルタ1と比較して、並列腕共振器20Aの構成が異なる。以下、本変形例に係る弾性波フィルタ1Aについて、実施の形態に係る弾性波フィルタ1と同じ構成については説明を省略し、異なる構成を中心に説明する。
【0083】
互いに直列接続された並列腕共振子24およびインダクタ34は、弾性波共振子を含む弾性波共振器であり、並列腕共振器20Aを構成する。並列腕共振器20Aは、直列腕共振子14および入出力端子120の接続点とグランドとの間に接続される。より具体的には、インダクタ34は入出力端子110および120を結ぶ直列腕経路に接続され、並列腕共振子24はグランドに接続される。並列腕共振子24は第2弾性波共振子の一例であり、インダクタ34は第1インダクタの一例であり、並列腕共振器20Aは第1並列腕共振器の一例である。
【0084】
並列腕共振器20Aは、共振周波数frp20A(第1共振周波数)および反共振周波数fap20A(第1反共振周波数)を有する。並列腕共振子24は、共振周波数frp24および反共振周波数fap24を有する。インダクタ34が並列腕共振子24に直列接続されることで、並列腕共振器20Aの共振周波数frp20Aが並列腕共振子24の共振周波数frp24に対して低周波側にシフトする。つまり、インダクタ34が並列腕共振子24に直列接続されることで、並列腕共振器20Aの共振帯域幅(fap20A-frp20A)は、並列腕共振子24の共振帯域幅(fap24-frp24)よりも広くなる。
【0085】
並列腕共振子24の共振周波数frp24は、上記通過帯域内に位置する。一方、並列腕共振器20Aの共振周波数frp20Aは、弾性波フィルタ1Aの通過帯域の低周波端以下であり、並列腕共振器20Aの反共振周波数fap20Aは、上記通過帯域の高周波端以上である。また、反共振周波数fap20Aと上記通過帯域の高周波端との周波数差Δfaは、共振周波数frp20Aと上記通過帯域の低周波端との周波数差Δfrよりも小さい。
【0086】
これによれば、並列腕共振子24にインダクタ34を直列接続することで、並列腕共振器20Aの共振帯域幅を拡張して、並列腕共振器20Aの共振周波数frp20Aと反共振周波数fap20Aとの間に上記通過帯域が位置するように調整されている。これにより、並列腕共振器20Aの上記通過帯域におけるインピーダンスは誘導性となり、弾性波フィルタ1Aに接続される容量性回路と弾性波フィルタ1Aとの間に誘導性の整合回路を設けることなく、上記容量性回路と弾性波フィルタ1Aとをインピーダンス整合させることが可能となる。また、高インピーダンスを有する反共振周波数fap20Aを、低インピーダンスを有する共振周波数frp20Aよりも上記通過帯域に近く位置させることで、通過帯域の信号を入出力端子110から入出力端子120へ低損失で伝送できる。さらに、並列腕共振器20AはDC(直流)領域において高インピーダンスを有する。これにより、低雑音増幅器2に供給される直流バイアス電圧(直流バイアス電流)が弾性波フィルタ1A側へ漏洩することを防止できるので、弾性波フィルタ1Aと低雑音増幅器2との間にDCカット用のキャパシタを配置する必要がない。よって、整合損失および挿入損失の双方が低減された低損失かつ小型の弾性波フィルタ1Aを提供できる。
【0087】
[5 変形例2に係るフィルタ回路3および高周波モジュール100Bの構成]
図6Aは、実施の形態の変形例2に係るフィルタ回路3および高周波モジュール100Bの回路構成図である。同図に示すように、高周波モジュール100Bは、フィルタ回路3と、低雑音増幅器2と、インダクタ31と、を備える。本変形例に係る高周波モジュール100Bは、実施の形態に係る高周波モジュール100と比較して、弾性波フィルタ1がフィルタ回路3に置き換わった点のみが異なる。以下、本変形例に係る高周波モジュール100Bについて、実施の形態に係る高周波モジュール100と異なるフィルタ回路3を中心に説明する。
【0088】
フィルタ回路3は、並列腕共振器20と、フィルタ部40A、40Bおよび40Cと、スイッチ回路80と、入出力端子111、112、113および120と、を備える。
【0089】
並列腕共振器20は、互いに直列接続された並列腕共振子24およびインダクタ35を含む弾性波共振器である。並列腕共振器20は、スイッチ回路80および入出力端子120の接続点とグランドとの間に接続される。並列腕共振子24は第2弾性波共振子の一例であり、インダクタ35は第1インダクタの一例であり、並列腕共振器20は第1並列腕共振器の一例である。
【0090】
並列腕共振器20は、共振周波数frp20(第1共振周波数)および反共振周波数fap20(第1反共振周波数)を有する。並列腕共振子24は、共振周波数frp24および反共振周波数fap24を有する。インダクタ35が並列腕共振子24に直列接続されることで、並列腕共振器20の共振周波数frp20が並列腕共振子24の共振周波数frp24に対して低周波側にシフトする。つまり、インダクタ35が並列腕共振子24に直列接続されることで、並列腕共振器20の共振帯域幅(fap20-frp20)は、並列腕共振子24の共振帯域幅(fap24-frp24)よりも広くなる。
【0091】
フィルタ部40Aは、弾性波フィルタ部の一例であり、一端がスイッチ回路80の選択端子80bに接続され、他端が入出力端子111に接続されている。フィルタ部40Aは、実施の形態に係る弾性波フィルタ1の並列腕共振器20を除く回路構成を有し、直列腕共振子11、12、13および14と、並列腕共振子21、22、23と、を備える。つまり、スイッチ回路80で分離されたフィルタ部40Aおよび並列腕共振器20は、実施の形態に係る弾性波フィルタ1と同じ回路構成を有する。
【0092】
フィルタ部40Bは、第1フィルタ部の一例であり、一端がスイッチ回路80の選択端子80cに接続され、他端が入出力端子112に接続されている。フィルタ部40Bは、弾性波共振子、インダクタおよびキャパシタの少なくともいずれかを有する。フィルタ部40Bおよび並列腕共振器20(第1並列腕共振器)は、スイッチ回路80で接続されることにより帯域通過型の第1フィルタを構成する。
【0093】
フィルタ部40Cは、一端がスイッチ回路80の選択端子80dに接続され、他端が入出力端子113に接続されている。フィルタ部40Cは、弾性波共振子、インダクタおよびキャパシタの少なくともいずれかを有する。フィルタ部40Cおよび並列腕共振器20(第1並列腕共振器)は、スイッチ回路80で接続されることによりバンドパスフィルタを構成する。
【0094】
フィルタ部40Aが有する全ての弾性波共振子(直列腕共振子11~14および並列腕共振子21~23)と、並列腕共振器20が有する並列腕共振子24とは、同一の圧電性基板70に形成されている。これによれば、フィルタ回路3を小型化できる。
【0095】
なお、フィルタ部40Bおよび40Cが弾性波共振子を有する場合には、フィルタ部40Bおよび40Cが有する弾性波共振子も圧電性基板70に形成されてもよい。
【0096】
スイッチ回路80は、第1スイッチ回路の一例であり、スイッチ181、182、183、184、185および186と、共通端子80a、選択端子80b(第1選択端子)、選択端子80c(第2選択端子)および選択端子80dと、を有し、共通端子80aと選択端子80bとの接続、共通端子80aと選択端子80cとの接続、および共通端子80aと選択端子80dとの接続を切り替える。スイッチ181は、一端が共通端子80aに接続され、他端が選択端子80bに接続されている。スイッチ183は、一端が共通端子80aに接続され、他端が選択端子80cに接続されている。スイッチ185は、一端が共通端子80aに接続され、他端が選択端子80dに接続されている。スイッチ182は、一端がスイッチ181の他端と選択端子80bとの接続点に接続され、他端がグランドに接続されている。スイッチ184は、一端がスイッチ183の他端と選択端子80cとの接続点に接続され、他端がグランドに接続されている。スイッチ186は、一端がスイッチ185の他端と選択端子80dとの接続点に接続され、他端がグランドに接続されている。
【0097】
上記構成において、入出力端子111から入出力端子120へ高周波信号を伝送する場合には、スイッチ181、184および186が導通状態となり、スイッチ182、183および185が非導通状態となり、フィルタ部40Aおよび並列腕共振器20が接続される。また、入出力端子112から入出力端子120へ高周波信号を伝送する場合には、スイッチ183、182および186が導通状態となり、スイッチ184、181および185が非導通状態となる。また、入出力端子113から入出力端子120へ高周波信号を伝送する場合には、スイッチ185、182および184が導通状態となり、スイッチ186、181および183が非導通状態となる。
【0098】
なお、本変形例に係るフィルタ回路3において、フィルタ部40Cはなくてもよく、この場合には、入出力端子113、選択端子80d、スイッチ185および186はなくてもよい。
【0099】
図6Bは、実施の形態の変形例2に係るフィルタ回路3を構成する各フィルタの通過特性および並列腕共振器20のインピーダンス特性を模式的に示す図である。同図に示すように、高周波側から順に、フィルタ部40Aおよび並列腕共振器20で形成される通過帯域、フィルタ部40Bおよび並列腕共振器20で形成される通過帯域、ならびにフィルタ部40Cおよび並列腕共振器20で形成される通過帯域が位置している。
【0100】
なお、上記3つの通過帯域の周波数の高低は上記順に限定されず、また、上記3つの通過帯域は、少なくとも一部重なっていてもよい。
【0101】
図6Bに示すように、並列腕共振器20の共振周波数frp20は、上記3つの通過帯域のうちの最も低周波側の通過帯域の低周波端以下であり、並列腕共振器20の反共振周波数fap20は、上記3つの通過帯域のうちの最も高周波側の通過帯域の高周波端以上である。
【0102】
これによれば、通過帯域を形成するフィルタ部40Aの直列腕共振子11~14および並列腕共振子21~23と同一の圧電性基板70に形成された並列腕共振子24は、共振周波数frp24および反共振周波数fap24の少なくともいずれかが通過帯域内に位置する可能性が高い。しかし、並列腕共振子24にインダクタ35を直列接続することで、並列腕共振器20の共振帯域幅を拡張して、並列腕共振器20の共振周波数frp20と反共振周波数fap20との間に上記3つの通過帯域が位置するように調整されている。これにより、並列腕共振器20の上記3つの通過帯域におけるインピーダンスは誘導性となり、入出力端子120に接続される低雑音増幅器2(容量性回路)とフィルタ回路3との間に誘導性の整合回路を設けることなく、低雑音増幅器2とフィルタ回路3とをインピーダンス整合させることが可能となる。また、並列腕共振器20はDC(直流)領域において高インピーダンスを有する。これにより、低雑音増幅器2に供給される直流バイアス電圧(直流バイアス電流)がフィルタ回路3側へ漏洩することを防止できるので、フィルタ回路3と低雑音増幅器2とを結ぶ経路にDCカット用のキャパシタを直列配置する必要がない。よって、低損失かつ小型のフィルタ回路3および高周波モジュール100Bを提供できる。
【0103】
[6 効果など]
以上のように、本実施の形態に係る弾性波フィルタ1は、入出力端子110および120を結ぶ直列腕経路に配置された直列腕共振子14と、直列腕経路とグランドとの間に接続された並列腕共振器20と、を備え、直列腕共振子14は第1弾性波共振子であり、並列腕共振器20は、直列腕経路とグランドとの間に直列接続された並列腕共振子24およびインダクタ34を含み、直列腕共振子14および並列腕共振子24は同一の圧電性基板70に形成され、並列腕共振器20の共振周波数frp20は、弾性波フィルタ1の通過帯域の低周波端以下であり、並列腕共振器20の反共振周波数fap20は、上記通過帯域の高周波端以上であり、反共振周波数fap20と上記通過帯域の高周波端との周波数差Δfaは、共振周波数frp20と上記通過帯域の低周波端との周波数差Δfrよりも小さい。
【0104】
これによれば、上記通過帯域を形成する直列腕共振子14と同一の圧電性基板70に形成された並列腕共振子24は、共振周波数frp24および反共振周波数fap24の少なくともいずれかが通過帯域内に位置する可能性が高い。しかし、並列腕共振子24にインダクタ34を直列接続することで、並列腕共振器20の共振帯域幅を拡張して、並列腕共振器20の共振周波数frp20と反共振周波数fap20との間に上記通過帯域が位置するように調整されている。これにより、並列腕共振器20の上記通過帯域におけるインピーダンスは誘導性となり、弾性波フィルタ1に接続される容量性インピーダンスを有する低雑音増幅器2と弾性波フィルタ1との間に誘導性の整合回路を設けることなく、上記容量性回路と弾性波フィルタ1とをインピーダンス整合させることが可能となる。また、高インピーダンスを有する反共振周波数fap20を、低インピーダンスを有する共振周波数frp20よりも上記通過帯域に近く位置させることで、通過帯域の信号を入出力端子110から入出力端子120へ低損失で伝送できる。さらに、並列腕共振器20はDC(直流)領域において高インピーダンスを有するので、低雑音増幅器2に供給される直流バイアス電圧(直流バイアス電流)が弾性波フィルタ1側へ漏洩することを防止できるので、弾性波フィルタ1と低雑音増幅器2とを結ぶ経路にDCカット用のキャパシタを直列配置する必要がない。よって、整合損失および挿入損失の双方が低減された低損失かつ小型の弾性波フィルタ1を提供できる。
【0105】
また例えば、弾性波フィルタ1において、並列腕共振子24の共振周波数frp24は、上記通過帯域内に位置する。
【0106】
これによれば、並列腕共振子24の共振帯域幅が上記通過帯域よりも小さいことが想定されるが、並列腕共振子24にインダクタ34が直列接続されることで、並列腕共振器20の共振帯域幅を広くできる。これにより、小型の並列腕共振子24を用いて、並列腕共振器20の上記通過帯域のインピーダンスを誘導性とすることが可能となる。
【0107】
また例えば、弾性波フィルタ1において、弾性波フィルタ1が有する全ての弾性波共振子は、圧電性基板70に形成される。
【0108】
これによれば、弾性波フィルタ1を小型化できる。
【0109】
また例えば、弾性波フィルタ1は、複数の直列腕共振器と、複数の並列腕共振器と、を備え、並列腕共振器20は上記複数の並列腕共振器のうちで入出力端子120に最も近く接続される。
【0110】
これによれば、通過帯域が誘導性インピーダンスを示す並列腕共振器20が、複数の並列腕共振器のうちで、容量性インピーダンスを示す低雑音増幅器2の入力端子130に最も近く配置されるので、弾性波フィルタ1と低雑音増幅器2とのインピーダンス整合を高効率かつ高精度に合わせることが可能となる。
【0111】
また例えば、弾性波フィルタ1において、並列腕共振子24は直列腕経路に接続され、インダクタ34はグランドに接続される。
【0112】
これによれば、並列腕共振子24と直列腕共振子14とを1枚の圧電性基板70に形成するにあたり、並列腕共振子24と直列腕共振子14とを接続する配線、および、並列腕共振子24とインダクタ34とを接続する配線を短くできる。よって、弾性波フィルタ1を低損失化できる。
【0113】
また例えば、変形例1に係る弾性波フィルタ1Aにおいて、並列腕共振子24はグランドに接続され、インダクタ34は直列腕経路に接続される。
【0114】
また例えば、変形例2に係るフィルタ回路3は、弾性波フィルタ1(または1A)と、帯域通過型の第1フィルタと、共通端子80a、選択端子80bおよび80cを有し、共通端子80aと選択端子80bとの接続および共通端子80aと選択端子80cとの接続を切り替えるスイッチ回路80と、を備え、弾性波フィルタ1は並列腕共振器20およびフィルタ部40Aを有し、第1フィルタは並列腕共振器20およびフィルタ部40Bを有し、並列腕共振器20は共通端子80aに接続され、フィルタ部40Aは選択端子80bに接続され、フィルタ部40Bは選択端子80cに接続され、共振周波数frp20は、弾性波フィルタ1の通過帯域の低周波端および第1フィルタの通過帯域の低周波端のうちの低周波側の低周波端以下であり、反共振周波数fap20は、弾性波フィルタ1の通過帯域の高周波端および第1フィルタの通過帯域の高周波端のうちの高周波側の高周波端以上である。
【0115】
これによれば、通過帯域を形成するフィルタ部40Aの直列腕共振子14と同一の圧電性基板70に形成された並列腕共振子24は、共振周波数frp24および反共振周波数fap24の少なくともいずれかが通過帯域内に位置する可能性が高い。しかし、並列腕共振子24にインダクタ35を直列接続することで、並列腕共振器20の共振帯域幅を拡張して、並列腕共振器20の共振周波数frp20と反共振周波数fap20との間に弾性波フィルタ1の通過帯域および第1フィルタの通過帯域が位置するように調整される。これにより、並列腕共振器20の上記2つの通過帯域におけるインピーダンスは誘導性となり、入出力端子120に接続される低雑音増幅器2(容量性回路)とフィルタ回路3との間に誘導性の整合回路を設けることなく、低雑音増幅器2とフィルタ回路3とをインピーダンス整合させることが可能となる。また、並列腕共振器20はDC(直流)領域において高インピーダンスを有する。これにより、低雑音増幅器2に供給される直流バイアス電圧(直流バイアス電流)がフィルタ回路3側へ漏洩することを防止できるので、フィルタ回路3と低雑音増幅器2とを結ぶ経路にDCカット用のキャパシタを直列配置する必要がない。よって、低損失かつ小型のフィルタ回路3を提供できる。
【0116】
また例えば、実施の形態に係る高周波モジュール100は、弾性波フィルタ1と、入力端子130が入出力端子120に接続された低雑音増幅器2と、を備える。
【0117】
これによれば、低雑音増幅器2に供給される直流バイアス電圧(直流バイアス電流)が弾性波フィルタ1側へ漏洩することを防止できるので、弾性波フィルタ1と低雑音増幅器2とを結ぶ経路にDCカット用のキャパシタを直列配置する必要がない。よって、整合損失および挿入損失の双方が低減された低損失かつ小型の高周波モジュール100を提供できる。
【0118】
また例えば、高周波モジュール100において、低雑音増幅器2に含まれる増幅トランジスタの入力端と入出力端子120とを結ぶ経路には、キャパシタが直列配置されていない。
【0119】
これによれば、高周波モジュール100を小型化できる。
【0120】
また例えば、変形例2に係る高周波モジュール100Bは、フィルタ回路3と、入力端子130が共通端子80aと並列腕共振器20との接続点に接続された低雑音増幅器2と、を備える。
【0121】
これによれば、低雑音増幅器2に供給される直流バイアス電圧(直流バイアス電流)がフィルタ回路3側へ漏洩することを防止できるので、フィルタ回路3と低雑音増幅器2とを結ぶ経路にDCカット用のキャパシタを直列配置する必要がない。よって、整合損失および挿入損失の双方が低減された低損失かつ小型の高周波モジュール100Bを提供できる。
【0122】
また例えば、高周波モジュール100Bにおいて、低雑音増幅器2の入力端子130と上記接続点とを結ぶ経路には、キャパシタが直列配置されていない。
【0123】
これによれば、高周波モジュール100Bを小型化できる。
【0124】
(その他の実施の形態)
以上、本発明に係る弾性波フィルタ、フィルタ回路および高周波モジュールについて、実施の形態および変形例を挙げて説明したが、本発明は、上記実施の形態および変形例に限定されるものではない。上記実施の形態および変形例に対して本発明の主旨を逸脱しない範囲で当業者が思いつく各種変形を施して得られる変形例や、本発明に係る弾性波フィルタ、フィルタ回路および高周波モジュールを内蔵した各種機器も本発明に含まれる。
【0125】
また、例えば、上記実施の形態および変形例に係る弾性波フィルタ、フィルタ回路および高周波モジュールにおいて、各構成要素の間に、インダクタおよびキャパシタなどの整合素子、ならびにスイッチ回路が接続されていてもかまわない。
【0126】
以下に、上記実施の形態および変形例に基づいて説明した弾性波フィルタ、フィルタ回路および高周波モジュールの特徴を示す。
【0127】
<1>
帯域通過型の弾性波フィルタであって、
第1入出力端子および第2入出力端子を結ぶ直列腕経路に配置された第1直列腕共振器と、
前記直列腕経路とグランドとの間に接続された第1並列腕共振器と、を備え、
前記第1直列腕共振器は、第1弾性波共振子を含み、
前記第1並列腕共振器は、前記直列腕経路とグランドとの間に直列接続された第2弾性波共振子および第1インダクタを含み、
前記第1弾性波共振子および前記第2弾性波共振子は、同一の圧電性基板に形成され、
前記第1並列腕共振器の共振周波数である第1共振周波数は、前記弾性波フィルタの通過帯域の低周波端以下であり、前記第1並列腕共振器の反共振周波数である第1反共振周波数は、前記通過帯域の高周波端以上であり、
前記第1反共振周波数と前記通過帯域の高周波端との周波数差は、前記第1共振周波数と前記通過帯域の低周波端との周波数差よりも小さい、弾性波フィルタ。
【0128】
<2>
前記第2弾性波共振子の共振周波数は、前記通過帯域内に位置する、<1>に記載の弾性波フィルタ。
【0129】
<3>
前記第1直列腕共振器を含む複数の直列腕共振器と、
前記第1並列腕共振器を含む複数の並列腕共振器と、を備え、
前記複数の直列腕共振器および前記複数の並列腕共振器のそれぞれは、弾性波共振子を含み、
前記弾性波フィルタが有する全ての前記弾性波共振子は、前記圧電性基板に形成される、<1>または<2>に記載の弾性波フィルタ。
【0130】
<4>
前記第1直列腕共振器を含む複数の直列腕共振器と、
前記第1並列腕共振器を含む複数の並列腕共振器と、を備え、
前記第1並列腕共振器は、前記複数の並列腕共振器のうちで前記第1入出力端子に最も近く接続される、<1>または<2>に記載の弾性波フィルタ。
【0131】
<5>
前記第2弾性波共振子は前記直列腕経路に接続され、前記第1インダクタはグランドに接続される、<1>~<4>のいずれかに記載の弾性波フィルタ。
【0132】
<6>
前記第2弾性波共振子はグランドに接続され、前記第1インダクタは前記直列腕経路に接続される、<1>~<4>のいずれかに記載の弾性波フィルタ。
【0133】
<7>
<1>~<6>のいずれかに記載の弾性波フィルタと、
帯域通過型の第1フィルタと、
共通端子、第1選択端子および第2選択端子を有し、前記共通端子と前記第1選択端子との接続および前記共通端子と前記第2選択端子との接続を切り替える第1スイッチ回路と、を備え、
前記弾性波フィルタは、前記第1並列腕共振器および弾性波フィルタ部を有し、
前記第1フィルタは、前記第1並列腕共振器および第1フィルタ部を有し、
前記第1並列腕共振器は前記共通端子に接続され、
前記弾性波フィルタ部は前記第1選択端子に接続され、
前記第1フィルタ部は前記第2選択端子に接続され、
前記第1共振周波数は、前記弾性波フィルタの通過帯域の低周波端および前記第1フィルタの通過帯域の低周波端のうちの低周波側の低周波端以下であり、前記第1反共振周波数は、前記弾性波フィルタの通過帯域の高周波端および前記第1フィルタの通過帯域の高周波端のうちの高周波側の高周波端以上である、フィルタ回路。
【0134】
<8>
<1>~<6>のいずれかに記載の弾性波フィルタと、
入力端子が前記第1入出力端子に接続された低雑音増幅器と、を備える、高周波モジュール。
【0135】
<9>
前記低雑音増幅器に含まれる増幅トランジスタの入力端と前記第1入出力端子とを結ぶ経路には、キャパシタが直列配置されていない、<8>に記載の高周波モジュール。
【0136】
<10>
<7>に記載のフィルタ回路と、
入力端子が前記共通端子と前記第1並列腕共振器との接続点に接続された低雑音増幅器と、を備える、高周波モジュール。
【0137】
<11>
前記入力端子と前記接続点とを結ぶ経路には、キャパシタが直列配置されていない、<10>に記載の高周波モジュール。
【産業上の利用可能性】
【0138】
本発明は、マルチバンド化された周波数規格に適用できる低損失の弾性波フィルタ、フィルタ回路および高周波モジュールとして、携帯電話などの通信機器に広く利用できる。
【符号の説明】
【0139】
1、1A 弾性波フィルタ
2 低雑音増幅器
3 フィルタ回路
11、12、13、14 直列腕共振子
20、20A 並列腕共振器
21、22、23、24 並列腕共振子
31、34、35 インダクタ
40A、40B、40C フィルタ部
50、70 圧電性基板
51 高音速支持基板
52 低音速膜
53 圧電膜
54 IDT電極
55、58 保護層
57 圧電単結晶基板
60 弾性波共振子
60a、60b 櫛形電極
61a、61b 電極指
62a、62b バスバー電極
65 支持基板
66 下部電極
67 圧電体層
68 上部電極
80 スイッチ回路
80a 共通端子
80b、80c、80d 選択端子
100、100B 高周波モジュール
110、111、112、113、120 入出力端子
130 入力端子
140 出力端子
181、182、183、184、185、186 スイッチ
540 密着層
542 主電極層