(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2025011571
(43)【公開日】2025-01-24
(54)【発明の名称】ハニカム構造体およびハニカム構造体の製造方法
(51)【国際特許分類】
B01J 35/50 20240101AFI20250117BHJP
B01J 32/00 20060101ALI20250117BHJP
F01N 3/20 20060101ALI20250117BHJP
F01N 3/28 20060101ALI20250117BHJP
F01N 3/08 20060101ALI20250117BHJP
【FI】
B01J35/02 G
B01J32/00
F01N3/20 K
F01N3/28 301P
F01N3/08 C
【審査請求】未請求
【請求項の数】9
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023113758
(22)【出願日】2023-07-11
(71)【出願人】
【識別番号】000004064
【氏名又は名称】日本碍子株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100110847
【弁理士】
【氏名又は名称】松阪 正弘
(74)【代理人】
【識別番号】100136526
【弁理士】
【氏名又は名称】田中 勉
(74)【代理人】
【識別番号】100136755
【弁理士】
【氏名又は名称】井田 正道
(72)【発明者】
【氏名】西川 尚志
(72)【発明者】
【氏名】早瀬 徹
(72)【発明者】
【氏名】山口 浩文
【テーマコード(参考)】
3G091
4G169
【Fターム(参考)】
3G091AA02
3G091AB01
3G091AB14
3G091BA07
3G091BA39
3G091CA04
3G091GA10
3G091GB01Z
3G091GB17X
4G169AA01
4G169AA08
4G169BA10A
4G169BA10B
4G169EA18
4G169EB15X
4G169EB15Y
4G169EE03
4G169FB15
(57)【要約】
【課題】高い耐熱衝撃性を有するハニカム構造体を提供する。
【解決手段】ハニカム構造体1は、筒状部材であり、一方の端面から他方の端面まで延びる複数のセル23が設けられた基材2と、複数のセル23の少なくとも一部である対象セル23aの表面に設けられ、磁性体粒子が互いに結合したコート層3とを備える。コート層3が、Si、AlおよびMgのうち少なくとも1つの元素を添加元素として含む。コート層3において、磁性体粒子の主要構成元素の重量分率の和に対する、添加元素の重量分率の和の比率が、1.7wt%以上である。これにより、高い耐熱衝撃性を有するハニカム構造体1を提供することができる。
【選択図】
図3
【特許請求の範囲】
【請求項1】
ハニカム構造体であって、
筒状部材であり、一方の端面から他方の端面まで延びる複数のセルが設けられた基材と、
前記複数のセルの少なくとも一部である対象セルの表面に設けられ、磁性体粒子が互いに結合したコート層と、
を備え、
前記コート層が、Si、AlおよびMgのうち少なくとも1つの元素を添加元素として含み、
前記コート層において、前記磁性体粒子の主要構成元素の重量分率の和に対する、前記添加元素の重量分率の和の比率が、1.7wt%以上であるハニカム構造体。
【請求項2】
請求項1に記載のハニカム構造体であって、
前記磁性体粒子の前記主要構成元素が、FeおよびCrであるハニカム構造体。
【請求項3】
請求項1に記載のハニカム構造体であって、
前記コート層において、前記添加元素を含む化合物が、前記磁性体粒子の表面に存在するハニカム構造体。
【請求項4】
請求項1ないし3のいずれか1つに記載のハニカム構造体であって、
前記コート層の相対密度が、75~95%であるハニカム構造体。
【請求項5】
請求項1ないし3のいずれか1つに記載のハニカム構造体であって、
前記コート層の厚さが、20~100μmであるハニカム構造体。
【請求項6】
請求項1ないし3のいずれか1つに記載のハニカム構造体であって、
前記対象セルの表面と前記コート層との間の空隙の最大幅が15μm以下であるハニカム構造体。
【請求項7】
請求項1ないし3のいずれか1つに記載のハニカム構造体であって、
前記コート層が、
厚さが局所的に最大となる厚肉部と、
厚さが局所的に最小となる薄肉部と、
を有し、
前記薄肉部の厚さに対する前記厚肉部の厚さの比が2倍以下であるハニカム構造体。
【請求項8】
ハニカム構造体の製造方法であって、
a)筒状部材であり、一方の端面から他方の端面まで延びる複数のセルが設けられた基材を準備する工程と、
b)磁性体粒子および粘土鉱物を含むスラリーを調製する工程と、
c)前記複数のセルの少なくとも一部である対象セルの表面に前記スラリーを塗布する工程と、
d)前記対象セルに塗布された前記スラリーを乾燥および焼成することにより、前記対象セルの前記表面にコート層を形成する工程と、
を備えるハニカム構造体の製造方法。
【請求項9】
請求項8に記載のハニカム構造体の製造方法であって、
前記粘土鉱物が、モンモリロナイト、セピオライト、ヘクトライト、ハロイサイトおよびアタパルジャイトからなる群から選択される少なくとも1つを含むハニカム構造体の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ハニカム構造体およびハニカム構造体の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、電磁誘導により被加熱物を加熱する誘導加熱という手法が知られている。誘導加熱は、磁性材料または導電材料を含む被加熱物の近傍に誘導加熱コイルを配置し、当該誘導加熱コイルにより磁界を発生させることで行われる。例えば、柱状の被加熱物を加熱する場合、被加熱物の外周を囲む誘導加熱コイルが設けられる。磁界を発生させる際に誘導加熱コイルに流す電流は、例えば、高周波インバータからの交流電流を変圧器で増幅することにより得られる。誘導加熱は、被加熱物を非接触で加熱できることから、熱伝導性の低い材料を加熱する場合や、熱接触が容易でない条件で対象物を加熱する場合に特に有用である。また、熱伝導による間接加熱と比較して、自己発熱による直接加熱であるため、エネルギー効率もよい。
【0003】
また、誘導加熱により触媒担体を加熱する技術も知られている。例えば、特許文献1の触媒担体では、複数のセルが設けられたセラミックス基材において、選択されたセルの内部空間に金属粒子が導入される。当該金属粒子は、固着材により互いに固着しつつセラミックス基材に対して固着される。当該金属粒子は、磁界の変化に応じて発熱する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
ところで、基材のセルの表面(内周面)に、磁性体粒子を含むコート層を設ける場合、コート層の厚さが不均一になることがある。例えば、セルの断面形状が略正方形である場合、磁性体粒子を含むスラリーの塗布の際におけるスラリーの表面張力の影響等により、セルの角部におけるコート層の厚さが、他の部分よりも大きくなる。また、焼成収縮の影響により、角部の表面とコート層との間に大きな空隙が発生する。この場合に、耐熱衝撃性評価を行うと、コート層とセル表面との接触部と、非接触部(上記空隙)との境界で応力集中が生じ、基材にクラックが発生する。このように、コート層を設けたハニカム構造体の耐熱衝撃性が低くなる。
【0006】
本発明は上記課題に鑑みなされたものであり、高い耐熱衝撃性を有するハニカム構造体を提供することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0007】
態様1の発明は、ハニカム構造体であって、筒状部材であり、一方の端面から他方の端面まで延びる複数のセルが設けられた基材と、前記複数のセルの少なくとも一部である対象セルの表面に設けられ、磁性体粒子が互いに結合したコート層とを備え、前記コート層が、Si、AlおよびMgのうち少なくとも1つの元素を添加元素として含み、前記コート層において、前記磁性体粒子の主要構成元素の重量分率の和に対する、前記添加元素の重量分率の和の比率が、1.7wt%以上である。
【0008】
態様2の発明は、態様1のハニカム構造体であって、前記磁性体粒子の前記主要構成元素が、FeおよびCrである。
【0009】
態様3の発明は、態様1または2のハニカム構造体であって、前記コート層において、前記添加元素を含む化合物が、前記磁性体粒子の表面に存在する。
【0010】
態様4の発明は、態様1ないし3のいずれか1つのハニカム構造体であって、前記コート層の相対密度が、75~95%である。
【0011】
態様5の発明は、態様1ないし4のいずれか1つのハニカム構造体であって、前記コート層の厚さが、20~100μmである。
【0012】
態様6の発明は、態様1ないし5のいずれか1つのハニカム構造体であって、前記対象セルの表面と前記コート層との間の空隙の最大幅が15μm以下である。
【0013】
態様7の発明は、態様1ないし6のいずれか1つのハニカム構造体であって、前記コート層が、厚さが局所的に最大となる厚肉部と、厚さが局所的に最小となる薄肉部とを有し、前記薄肉部の厚さに対する前記厚肉部の厚さの比が2倍以下である。
【0014】
態様8の発明は、ハニカム構造体の製造方法であって、a)筒状部材であり、一方の端面から他方の端面まで延びる複数のセルが設けられた基材を準備する工程と、b)磁性体粒子および粘土鉱物を含むスラリーを調製する工程と、c)前記複数のセルの少なくとも一部である対象セルの表面に前記スラリーを塗布する工程と、d)前記対象セルに塗布された前記スラリーを乾燥および焼成することにより、前記対象セルの前記表面にコート層を形成する工程とを備える。
【0015】
態様9の発明は、態様8のハニカム構造体の製造方法であって、前記粘土鉱物が、モンモリロナイト、セピオライト、ヘクトライト、ハロイサイトおよびアタパルジャイトからなる群から選択される少なくとも1つを含む。
【発明の効果】
【0016】
本発明によれば、高い耐熱衝撃性を有するハニカム構造体を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0017】
【
図3】対象セルおよびその近傍を示す断面図である。
【
図5】平面部におけるコート層を示す断面図である。
【
図8】ハニカム構造体の製造の流れを示す図である。
【
図9】対象セルにスラリーを塗布する様子を示す図である。
【
図10A】コート層の厚さが20μm未満である対象セルを示すSEM画像である。
【
図10B】コート層の厚さが20μm以上である対象セルを示すSEM画像である。
【
図11A】薄肉部に対する厚肉部の厚さの比が2倍よりも大きい対象セルを示すSEM画像である。
【
図11B】薄肉部に対する厚肉部の厚さの比が2倍以下である対象セルを示すSEM画像である。
【発明を実施するための形態】
【0018】
図1は、誘導加熱装置4の構成を示す断面図である。誘導加熱装置4は、自動車等のエンジンから排出される排気ガスの流路9に設けられる。誘導加熱装置4は、排気ガス浄化部41と、コイル部42と、固定部材43とを備える。排気ガス浄化部41は、触媒担体であるハニカム構造体1と、ハニカム構造体1に担持された触媒とを備える。ハニカム構造体1は、筒状部材であり、流路9に沿って延びる複数のセル23(後述の
図2参照)を有する。排気ガスは当該複数のセル23内を流れる。排気ガス浄化部41における触媒は、例えば、貴金属系触媒であってよく、貴金属を用いない触媒であってもよい。ハニカム構造体1の詳細については後述する。
【0019】
コイル部42は、螺旋状に形成された導電線であり、ハニカム構造体1の周囲を囲む。固定部材43は、排気ガス浄化部41およびコイル部42を流路9内に固定する。コイル部42は、図示省略の交流電源に接続されており、交流電流がコイル部42に流れることにより、コイル部42の周囲に周期的に変化する磁界が生じる。後述するように、ハニカム構造体1の内部には、磁性体粒子が含まれており、磁界の変化に応じてハニカム構造体1が昇温する。ハニカム構造体1の昇温により、触媒の温度も上昇し、触媒反応が促進される。
【0020】
図2は、ハニカム構造体1を簡略化して示す平面図である。既述のように、ハニカム構造体1は、一方向に長い筒状部材であり、
図2では、ハニカム構造体1の長手方向(
図1中の左右方向であり、
図2の紙面に垂直な方向である。)における一方の端面を示している。以下の説明におけるハニカム構造体1は、触媒を未だ担持していない状態である。
【0021】
ハニカム構造体1は、基材2と、コート層3とを備える。基材2は、多孔質の焼結体により形成される筒状部材であり、長手方向における2つの端面29(
図1参照)を有する。基材2は、筒状外壁21と、隔壁22とを備える。筒状外壁21は、長手方向に延びる筒状の部位である。長手方向に垂直な筒状外壁21の断面形状は、例えば略円形である。当該断面形状は、多角形等の他の形状であってもよい。
【0022】
隔壁22は、筒状外壁21の内部に設けられ、当該内部を複数のセル23に仕切る格子状の部位である。複数のセル23はそれぞれ、長手方向に延びる空間である。各セル23は、一方の端面29から他方の端面29まで延びる。既述の触媒は、セル23内に導入される。長手方向に垂直な各セル23の断面形状は、例えば略正方形である。当該断面形状は、多角形または円形等の他の形状であってもよい。複数のセル23は、原則として同じ断面形状を有する。複数のセル23には、異なる断面形状のセル23が含まれてもよい。基材2は、内部が隔壁22により複数のセル23に仕切られたセル構造体である。
【0023】
筒状外壁21および隔壁22はそれぞれ、多孔質の部位である。筒状外壁21および隔壁22は、例えば、コージェライト等のセラミックスにより形成される。筒状外壁21および隔壁22の材料は、コージェライト以外のセラミックスであってもよく、セラミックス以外の材料であってもよい。典型的には、当該材料は、絶縁性を有する。
【0024】
筒状外壁21および隔壁22を含む基材2の気孔率は、例えば20%以上であり、好ましくは30%以上である。基材2の気孔率は、例えば80%以下であり、好ましくは70%以下である。基材2の開気孔率は、例えば40%以上であり、好ましくは55%以上である。基材2の開気孔率は、例えば65%以下である。基材2の気孔率および開気孔率は、アルキメデス法により測定可能である。
【0025】
基材2の平均細孔径は、例えば5μm以上であり、好ましくは8μm以上である。基材2の平均細孔径は、例えば30μm以下であり、好ましくは25μm以下である。当該平均細孔径は、水銀ポロシメータにより測定可能である。基材2の表面開口率は、例えば20%以上であり、好ましくは25%以上である。基材2の表面開口率は、例えば60%以下であり、好ましくは50%以下である。当該表面開口率は、基材2の表面のうち気孔が開口する領域の面積の割合であり、当該表面のSEM(走査型電子顕微鏡)画像を画像解析することにより求めることができる。SEM画像は、例えば500倍で撮影される。
【0026】
基材2のセル密度(すなわち、長手方向に垂直な断面における単位面積当たりのセル23の数)は、例えば10セル/cm
2以上であり、好ましくは20セル/cm
2以上であり、より好ましくは30セル/cm
2以上である。セル密度は、例えば200セル/cm
2以下であり、好ましくは150セル/cm
2以下である。
図2では、セル23の大きさを実際よりも大きく、セル23の数を実際よりも少なく描いている。セル23の大きさおよび数等は、様々に変更されてよい。
【0027】
コート層3は、多孔質の焼結体であり、複数のセル23のうち一部のセル23a(以下、「対象セル23a」という。)に設けられる。コート層3は、対象セル23aの全周に亘っており、典型的には、対象セル23aの表面(すなわち、内周面)のほぼ全体を覆う。コート層3が設けられる複数の対象セル23aは、均等に分散して配置されることが好ましい。
図2の例では、各対象セル23aと他の一の対象セル23aとの間に、コート層3が設けられない少なくとも1つのセル23が存在する。これにより、全てのセル23にコート層3を形成する場合に比べて、ハニカム構造体1の急速な昇温が可能となり、到達温度も高くなる。実際、300個のセルを有するハニカム構造体において、隣り合わないように略等間隔に位置する9個、21個、45個、61個のセルのみにコート層を形成した場合、全てのセルにコート層を形成した場合よりも急速な昇温が可能となり、到達温度も高くなることが確認されている。ハニカム構造体1の設計によっては、全てのセル23が対象セル23aであってもよい。
【0028】
図3は、1つの対象セル23aおよびその近傍を示す断面図であり、長手方向に垂直な断面を示す。本明細書における「断面」は、特に言及する場合を除き、ハニカム構造体1の長手方向に垂直な断面である。
図3の例では、長手方向に垂直な各セル23,23aの断面形状は、略正方形である。各セル23,23aの内周面は、4個の角部231と、4個の平面部232とを有する。各セル23,23aにおいて互いに隣接する2つの角部231は、平面部232により接続される。各角部231は、格子状の隔壁22の交差部により形成され、平面部232は、隔壁22における交差部間の部位(リブとも呼ばれる。)により形成される。
【0029】
図4は、角部231におけるコート層3を示す断面図であり、
図5は、平面部232におけるコート層3を示す断面図である。コート層3は、焼結により磁性体粒子31が互いに結合して形成された層である。
図4および
図5では、磁性体粒子31を円にて模式的に示す。磁性体粒子31は、微細な粒子状であればよく、磁性体の小片も磁性体粒子として捉えられる。
【0030】
磁性体粒子31は、例えば、金属粒子である。好ましい磁性体粒子31は、フェライト系ステンレス鋼により形成され、Fe(鉄)およびCr(クロム)を主要構成元素として含む。ここで、主要構成元素は、磁性体粒子31の構成元素のうち3wt%以上の元素である。磁性体粒子31は、誘導加熱が可能な他の材料により形成されてもよい。例えば、マルテンサイト系ステンレス鋼、オーステナイト系ステンレス鋼、インバー、および、スーパーインバー等が利用可能である。磁性体粒子31は、金属粒子以外であってもよい。
【0031】
コート層3は、Si、AlおよびMgのうち少なくとも1つの元素を添加元素として含む。添加元素は、磁性体粒子31の主要構成元素に含まれない元素である。添加元素は、原則として磁性体粒子31に含まれない元素であるが、不純物等として不可避的に磁性体粒子31に含まれる場合がある。後述するように、コート層3の形成では、添加元素を含む原料が、磁性体粒子31と共に用いられる。これにより、コート層3において、磁性体粒子31の主要構成元素の重量分率の和に対する、添加元素の重量分率の和の比率(以下、「磁性体粒子に対する添加元素の比率」という。)が、1.7wt%以上となる。各元素の重量分率は、コート層3の重量に対する当該元素の重量の割合である。
【0032】
例えば、磁性体粒子31がフェライト系ステンレス鋼の粒子であり、添加元素を含む原料がモンモリロナイトである場合、磁性体粒子31の主要構成元素は、FeおよびCrであり、添加元素は、Si、AlおよびMgの全てを含む。この場合、磁性体粒子に対する添加元素の比率は、FeおよびCrの重量分率の和に対する、Si、AlおよびMgの重量分率の和の比率である。例えば、コート層3が、Mgを含まない場合、添加元素は、SiおよびAlのみであり、コート層3が、Alを含まない場合、添加元素は、SiおよびMgのみである。
【0033】
後述するように、コート層3において、磁性体粒子に対する添加元素の比率が1.7wt%以上であるハニカム構造体1では、耐熱衝撃性が向上する。磁性体粒子に対する添加元素の比率を取得する際には、コート層3の断面に対して、EDS(エネルギー分散型X線分析装置)を用いて測定が行われ、磁性体粒子31の各主要構成元素の重量分率、および、各添加元素の重量分率が求められる。そして、添加元素の重量分率の和を、磁性体粒子31の主要構成元素の重量分率の和で割ることにより、磁性体粒子に対する添加元素の比率が取得される。
【0034】
典型的には、添加元素を含む化合物が、磁性体粒子31の表面に存在する。磁性体粒子31の表面は、コート層3の外縁を形成する磁性体粒子31の表面のみならず、コート層3の内部に形成される細孔と磁性体粒子31との界面を含む。当該化合物は、例えば、磁性体粒子31の主要構成元素を含まない。当該化合物が、磁性体粒子31の主要構成元素のいずれかを含んでいてもよい。例えば、コート層3の断面に対してEDSを用いて元素マッピングを行うことにより、添加元素を含む化合物が、磁性体粒子31の表面に存在するか否かを確認することが可能である。添加元素は、磁性体粒子31間の界面に存在してもよく、磁性体粒子31の結晶相に固溶していてもよい。
【0035】
コート層3の相対密度は、例えば、75%以上であり、好ましくは、80%以上である。これにより、磁性体粒子31の連結性が確保され、誘導加熱によるハニカム構造体1の到達温度を高くすることが可能となる。コート層3の相対密度が過度に大きい場合、コート層3の熱膨張量が大きくなり、ハニカム構造体1の耐熱衝撃性に影響を及ぼす可能性がある。コート層3の相対密度は、例えば、95%以下であり、好ましくは、90%以下である。コート層3の相対密度を取得する際には、角部231におけるコート層3の断面を示すSEM画像(500倍)が取得され、コート層3のみを含む算出範囲(
図4中に符号A1を付す線にて囲む範囲)が設定される。続いて、SEM画像において、磁性体粒子31を示す白い領域と、他の領域とを区別可能な程度の閾値にて算出範囲A1が二値化され、白い領域の面積比率がコート層3の相対密度として取得される。
【0036】
後述するコート層3の形成では、対象セル23aの表面(内周面)にスラリーが塗布される。
図3に示すように、対象セル23aの断面形状が略正方形である場合、スラリーの表面張力の影響により、互いに隣接する2つの角部231の間の中央(平面部232の中央)において、コート層3の厚さが局所的に最小となり、当該中央に位置するコート層3の部位が薄肉部37となる。また、角部231では、コート層3の厚さが局所的に最大となり、角部231に位置するコート層3の部位が厚肉部36となる。以下の説明では、単に「コート層3の厚さ」という場合、平面部232における薄肉部37の厚さを意味する。
【0037】
コート層3の厚さ(すなわち、薄肉部37の厚さ)は、例えば、20μm以上であり、好ましくは、30μm以上である。これにより、誘導加熱によるハニカム構造体1の到達温度を高くすることが可能となる。コート層3の厚さが過度に大きい場合、コート層3の形成に係るコストが増大する。コート層3の厚さは、例えば、100μm以下であり、好ましくは、80μm以下である。薄肉部37の厚さを測定する際には、互いに隣接する2つの角部231の間の中央(平面部232の中央)においてコート層3の断面を示すSEM画像(500倍)が取得される。そして、SEM画像においてコート層3の両面に沿う平行線L1,L2が設定され(
図5参照)、平行線L1,L2間の距離D1が、薄肉部37の厚さとして測定される。なお、SEM画像が示すコート層3の表面に、異常な凹部または凸部が存在する場合には、当該凹部または凸部を除いた状態で、当該表面に沿う平行線L1,L2が設定される。
【0038】
また、厚肉部36の厚さは、薄肉部37の厚さよりも過度に大きくならないことが好ましい。薄肉部37の厚さに対する厚肉部36の厚さの比は2倍以下であることが好ましく、1.8倍以下であることがより好ましい。このように、コート層3の厚さの均一性が向上したハニカム構造体1では、厚さの不均一性に起因する耐熱衝撃性の低下を抑制することができる。厚肉部36の厚さを測定する際には、
図6に模式的に示すように、角部231においてコート層3の断面を示すSEM画像(500倍)が取得される。続いて、SEM画像において平面部232に対する傾斜角が45°となり、かつ、厚肉部36の外周に接する接線L3が設定され、接線L3と厚肉部36の内周との最短距離D3が、厚肉部36の厚さとして測定される。
【0039】
なお、対象セル23aの断面形状が、略正方形以外の略正多角形である場合、典型的には、コート層3において角部に対向する部位が厚肉部となり、互いに隣接する2つの厚肉部の間の中央の部位が薄肉部となる。対象セル23aの断面形状が円形である場合も、コート層3の形成手法によっては、厚さが局所的に(例えば、円周を4等分した各範囲にて)最大となる厚肉部と、厚さが局所的に最小となる薄肉部とが生じる。いずれの場合も、薄肉部の厚さに対する厚肉部の厚さの比が2倍以下であることにより、耐熱衝撃性をより確実に向上することができる。
【0040】
既述のように、コート層3は焼結体であるため、焼成収縮により対象セル23aの角部231の表面とコート層3との間に空隙239(以下、「角部空隙239」という。)が発生する場合がある。角部空隙239の幅は、例えば、15μm以下であり、好ましくは、12μm以下である。後述する耐熱衝撃性評価では、コート層3とセル表面との接触部と、非接触部(上記角部空隙239)との境界で応力集中が生じるため、角部空隙239の幅が小さいハニカム構造体1では、耐熱衝撃性をより確実に向上することができる。角部空隙239の幅は、0であってもよい。角部231以外の位置においても、対象セル23aの表面とコート層3との間に空隙が発生する可能性があるが、対象セル23aの断面形状が略正方形である場合、角部空隙239の幅が、対象セル23aの表面とコート層3との間の空隙の最大幅となる。
【0041】
角部空隙239の幅を測定する際には、
図7に模式的に示すように、角部231においてコート層3の断面を示すSEM画像(500倍)が取得される。続いて、SEM画像において平面部232に対する傾斜角が45°となり、かつ、角部231(対象セル23aの内周面)に接する接線L4が設定され、接線L4と厚肉部36の外周との最短距離D4が、角部空隙239の幅として測定される。対象セル23aの断面形状が略正方形以外(多角形、円形等)である場合も、対象セル23aの表面とコート層3との間の空隙の最大幅が15μm以下であるハニカム構造体1では、耐熱衝撃性をより確実に向上することができる。
【0042】
次に、ハニカム構造体1の製造の一例について説明する。
図8は、ハニカム構造体1の製造の流れを示す図である。ハニカム構造体1の製造では、まず、基材2が準備される(ステップS11)。基材2では、一方の端面29から他方の端面29まで延びる複数のセル23が設けられる(
図1および
図2参照)。基材2の製造方法としては公知の様々な方法が用いられてよい。典型的には、坏土の押出成形、乾燥および焼成により、基材2が製造される。
【0043】
続いて、コート層形成用のスラリーが調製される(ステップS12)。スラリーの調製では、磁性体の粉末である磁性体粒子と、粘土鉱物の粉末と、分散媒(ここでは、水)とが秤量され、容器内にて混合される。磁性体粒子として、既述の材料の粉末が利用可能である。粘土鉱物は、層状鉱物であり、好ましくは、モンモリロナイト、セピオライト、ヘクトライト、ハロイサイトおよびアタパルジャイトからなる群から選択される少なくとも1つを含む。粘土鉱物を含むスラリーでは、粘土鉱物を含まない場合に比べて、せん断強度(ずり強度)および粘度が高くなる。
【0044】
磁性体粒子に対する粘土鉱物の添加量は、4vol%以上であることが好ましい。これにより、形成されるコート層3において、既述の角部空隙239の幅を小さくするとともに、薄肉部37の厚さに対する厚肉部36の厚さの比を小さくすることが可能となる。磁性体粒子に対する粘土鉱物の添加量は、9vol%以下であることが好ましく、これにより、スラリーの粘度が過度に高くなることが防止される。コート層3に含まれる既述の添加元素は、原則として、上記粘土鉱物に由来する元素である。本実施の形態では、スラリーに含まれる原料のうち、粘土鉱物以外の原料は、添加元素をほとんど含まない。
【0045】
スラリーが調製されると、基材2の対象セル23aの表面にスラリーが塗布される(ステップS13)。スラリーの塗布の際には、基材2は、複数のセル23が上下方向を向くように直立しており、
図9に示すように、基材2の上部および下部に、上治具81および下治具82がそれぞれ取り付けられる。詳細には、上治具81は、略円筒状部材であり、基材2の直径よりも僅かに大きい内径を有する。上治具81の内周面の下部には、環状の溝部が設けられ、当該溝部には環状のゴムチューブ811が配置される。上治具81は、基材2の上部に嵌め込まれ、ゴムチューブ811を介して基材2の外周面に接触する。下治具82は、略円環状部材であり、基材2の直径よりも僅かに小さい内径を有する。下治具82の上面において、内周近傍の部位にはシリコンOリング821が設けられる。基材2は、下治具82上に載置され、基材2の下側端面29の外周部が、シリコンOリング821を介して下治具82に接触する。
【0046】
基材2に上治具81および下治具82が取り付けられると、上治具81の内部に所定量のスラリーが流し込まれ、基材2の上側端面29上にスラリーが充填される。このとき、基材2には、上側端面29を覆う被覆材(図示省略)が設けられており、当該被覆材において対象セル23aに対向する部分に孔が形成されている。したがって、スラリーは、対象セル23aのみに流入可能である。続いて、基材2の下側端面29側の空間が、ポンプにより真空吸引される。これにより、対象セル23aにおける上側端面29側の開口からスラリーが対象セル23a内に流入し、対象セル23aの表面(内周面)にスラリーが塗布される。対象セル23aを通過したスラリーは、下側端面29側の開口から外部に流出する。対象セル23aに対するスラリーの塗布が完了すると、基材2から上治具81および下治具82が取り外される。
【0047】
続いて、対象セル23aに塗布されたスラリーの乾燥が行われる。既述のように、粘土鉱物を含むスラリーではせん断強度が高いため、角部231においてスラリーが表面張力により凝集することが抑制される。すなわち、乾燥後におけるスラリーの厚さの均一性(対象セル23aの周方向における均一性)が高くなる。スラリーの塗布および乾燥は、複数回繰り返されてもよい。その後、真空雰囲気下において焼成(熱処理)が行われる。焼成温度は、例えば、1050~1250℃である。焼成時間は、例えば、5~70分である。これにより、対象セル23aの表面にコート層3が形成され、ハニカム構造体1が製造される(ステップS14)。上記焼成温度および焼成時間は一例に過ぎず、適宜変更されてよい。なお、スラリーに含まれる粘土鉱物は、焼成により分解すると考えられ、ハニカム構造体1では、粘土鉱物そのままの状態としては、ほとんど存在しない。
【0048】
次に、表1を参照しつつ本発明に係るハニカム構造体の実施例1~9、および、比較例1~2について説明する。
【0049】
【0050】
<ハニカム構造体の作製>
(実施例1~9)
磁性体粒子であるステンレス鋼(SUS430)粉末、粘土鉱物であるモンモリロナイト、および、イオン交換水を秤量した。表1では、各実施例1~9における、ステンレス鋼粉末に対するモンモリロナイトの量[vol%]を「モンモリロナイト添加量」の欄に示し、ステンレス鋼粉末およびモンモリロナイトに対する水の量[重量部]を「水比」の欄に示す。これらをZrO
2玉石(φ5mm)と共に容器に入れ、自転公転方式ミキサーを用いて混合してスラリーを調製した。続いて、内部が隔壁により複数のセルに仕切られた基材を準備した。
図9を参照して説明したように、基材の上部および下部に上治具および下治具をそれぞれ取り付け、各セルの表面にスラリーを塗布した。その後、スラリーを乾燥した。表1では、スラリーの塗布および乾燥の繰り返し回数を、「コート回数」の欄に示す。続いて、真空雰囲気下において焼成を行った。表1では、焼成温度および焼成時間を「焼成スケジュール」の欄に示す。昇温速度は、500℃/hrとした。以上の処理により、実施例1~9のハニカム構造体を得た。
【0051】
(比較例1~2)
ステンレス鋼(SUS430)粉末、水溶性バインダ、増粘剤、および、イオン交換水を秤量した。比較例1~2では、モンモリロナイトをスラリーに添加しなかった。これらをZrO2玉石(φ5mm)と共に容器に入れ、自転公転方式ミキサーを用いて混合してスラリーを調製した。スラリーの塗布および乾燥は、実施例1~9と同様にして行った。その後、基材を大気雰囲気下において180℃で4時間保持し、続いて、450℃で6時間保持することにより、脱脂を行った。脱脂後、実施例1~9と同様にして焼成を行い、比較例1~2のハニカム構造体を得た。
【0052】
<コート層の測定>
実施例1~9および比較例1~2のハニカム構造体に対して、磁性体粒子に対する添加元素の比率、コート層の厚さ、コート層の相対密度、角部空隙の幅、および、薄肉部に対する厚肉部の厚さの比を測定した。磁性体粒子に対する添加元素の比率の取得では、鏡面研磨したコート層の断面に対して、EDSおよびRaySpec社製のDX200s Digital Pulse Processorを用いて測定を行い、磁性体粒子の各主要構成元素の重量分率、および、各添加元素の重量分率を求めた。そして、添加元素の重量分率の和を、磁性体粒子の主要構成元素の重量分率の和で割ることにより、磁性体粒子に対する添加元素の比率を取得した。ここでは、磁性体粒子の主要構成元素は、FeおよびCrであり、添加元素は、Si、AlおよびMgであるため、表1では、磁性体粒子に対する添加元素の比率を「(Si+Al+Mg)/(Fe+Cr)」と記している。
【0053】
比較例1~2では、スラリーがモンモリロナイトを含まないが、Si、AlおよびMgのうち少なくとも1つの元素が不純物等として不可避的に含まれるため、(Si+Al+Mg)/(Fe+Cr)が0wt%よりも大きく、かつ、1.7wt%未満となった。一方、スラリーがモンモリロナイトを含む実施例1~9では、いずれも(Si+Al+Mg)/(Fe+Cr)が1.7wt%以上となった。
【0054】
コート層の厚さ、コート層の相対密度、角部空隙の幅、および、薄肉部に対する厚肉部の厚さの比の測定では、SEM(JEOL社製のJSM-IT500)を用いてSEM画像(倍率500倍)を取得し、Media Cybernetics社製の画像解析ソフト「Image-pro Premier 9.3」を用いて画像解析を行った。
図5を参照して説明したように、薄肉部を示すSEM画像において薄肉部の両面に沿う平行線間の距離を、コート層の厚さとして測定した。
図10Aでは、コート層の厚さが20μm未満である対象セルのSEM画像を示し、
図10Bでは、コート層の厚さが20μm以上である対象セルのSEM画像を示す。
図4を参照して説明したように、厚肉部を示すSEM画像においてコート層のみを含む算出範囲を設定し、磁性体粒子と他の領域とを区別可能な程度の閾値にて算出範囲を二値化し、磁性体粒子を示す領域の面積比率をコート層の相対密度として取得した。
【0055】
図7を参照して説明したように、厚肉部を示すSEM画像において平面部に対する傾斜角が45°となり、かつ、角部に接する接線を設定し、当該接線と厚肉部の外周との最短距離を、角部空隙の幅として測定した。
図6を参照して説明したように、厚肉部を示すSEM画像において、平面部に対する傾斜角が45°となり、かつ、厚肉部の外周に接する接線を設定し、当該接線と厚肉部の内周との最短距離を、厚肉部の厚さとして測定した。そして、厚肉部の厚さを既述のコート層の厚さ(薄肉部の厚さ)で除することにより、薄肉部に対する厚肉部の厚さの比を求めた。
図11Aでは、角部空隙の幅が15μmよりも大きく、かつ、薄肉部に対する厚肉部の厚さの比が2倍よりも大きい対象セルのSEM画像を示し、
図11Bでは、角部空隙の幅が15μm以下であり、かつ、薄肉部に対する厚肉部の厚さの比が2倍以下である対象セルのSEM画像を示す。
【0056】
<誘導加熱特性評価>
図12に示すように、誘導加熱コイル71の内部にハニカム構造体1を配置した。誘導加熱コイル71を周波数100kHz、電力0.5kWの条件で180秒間駆動し、ハニカム構造体1の内部に設けた熱電対72で到達温度を計測した。表1のように、実施例1~5、7~9および比較例1~2のハニカム構造体では、いずれも到達温度が390℃以上となった。一方、コート層の厚さが20μm未満である実施例6のハニカム構造体では、到達温度が210℃であった。
【0057】
<耐熱衝撃性評価>
700℃に保持した炉底昇降炉を用い、ハニカム構造体を載せた炉底を上下動することにより評価を行った。具体的には、炉底を上昇端に位置させ、ハニカム構造体を炉内に配置した状態で10分間保持した。その後、炉底を下降端に位置させ、ハニカム構造体を炉外(室温雰囲気)に配置し、ブロアーの風を5分間当てた。上記冷熱サイクルを100サイクル行い、その後、ハニカム構造体の外観を観察した。表1では、ハニカム構造体においてクラックが確認された場合に評価結果を×とし、クラックが確認されない場合に評価結果を○とした。実施例1~9のハニカム構造体では、耐熱衝撃性の評価結果が○であるのに対し、比較例1~2のハニカム構造体では、耐熱衝撃性の評価結果が×であった。なお、耐熱衝撃性の評価結果が○であるハニカム構造体は、熱衝撃に対する繰り返し耐久性も有しているといえる。
【0058】
<コート層についての考察>
スラリーが粘土鉱物を含まない比較例1~2のハニカム構造体では、スラリーの塗布直後において、表面張力による角部へのスラリーの凝集が発生しやすく、スラリーの厚さが、角部において過度に厚くなり、平面部において過度に薄くなる。スラリーの焼成では、焼成収縮により、対象セルの角部の表面とコート層との間に大きな空隙が発生する。その結果、耐熱衝撃性評価では、コート層とセル表面との接触部と、非接触部(上記空隙)との境界で応力集中が生じ、基材にクラックが発生しやすくなると考えられる。
【0059】
これに対し、実施例1~9では、粘土鉱物であるモンモリロナイトをスラリーに添加することにより、スラリーがビンガム流体となり、静止状態でせん断応力を作用させる。すなわち、せん断応力が降伏値を超えるまでスラリーが流動せず、スラリーの塗布直後において、表面張力による角部へのスラリーの凝集が抑制される。また、スラリーにモンモリロナイトを添加することにより、乾燥後焼成前における磁性体粒子の相対密度が高くなることが判っており、焼成収縮量が小さくなる。さらに、焼成中にモンモリロナイトが分解してガスを発生することが確認されており、当該ガスの発生によりコート層に閉気孔が生成されやすくなり、磁性体粒子の過度な緻密化が抑制される。この点においても、焼成収縮量が小さくなる。その結果、比較例1~2に比べて、角部におけるコート層の密着性が向上して角部とコート層との間の空隙が小さくなり、耐熱衝撃性評価における応力集中によるクラックの発生が抑制されると考えられる。
【0060】
実施例6のハニカム構造体では、コート層の厚さが小さい(20μm未満)ため、誘導加熱特性評価における到達温度が大幅に低くなった。したがって、到達温度を高くするには、コート層の厚さが20μm以上であることが好ましいといえる。実施例7のハニカム構造体では、コート層の厚さが50μmであるが、到達温度が400℃未満となり、比較的低くなった。この原因は、実施例7では、コート層の相対密度が小さい(75%未満)ことから、磁性体粒子同士の連結性が低く、渦電流が流れにくいためであると考えられる。換言すると、到達温度を高くするには、コート層の相対密度を75%以上として、磁性体粒子の充填率を高くすることが好ましいといえる。
【0061】
以上に説明したように、ハニカム構造体1は、筒状部材であり、一方の端面29から他方の端面29まで延びる複数のセル23が設けられた基材2と、複数のセル23の少なくとも一部である対象セル23aの表面に設けられ、磁性体粒子31が互いに結合したコート層3とを備える。コート層3が、Si、AlおよびMgのうち少なくとも1つの元素を添加元素として含む。コート層3において、磁性体粒子31の主要構成元素の重量分率の和に対する、添加元素の重量分率の和の比率が、1.7wt%以上である。これにより、高い耐熱衝撃性(熱衝撃に対する繰り返し耐久性も含む。)を有するハニカム構造体1を提供することができる。
【0062】
好ましくは、対象セル23aの表面とコート層3との間の空隙の最大幅が15μm以下である、および/または、対象セル23aにおいて、薄肉部37の厚さに対する厚肉部36の厚さの比が2倍以下である。これにより、ハニカム構造体1の耐熱衝撃性をより確実に向上することができる。
【0063】
好ましくは、コート層3の相対密度が、75~95%である、および/または、コート層3の厚さが、20~100μmである。これにより、誘導加熱において、ハニカム構造体1の到達温度を高くすることができる。
【0064】
好ましくは、磁性体粒子31の主要構成元素が、FeおよびCrである。このような磁性体粒子31では、電気抵抗率と透磁率のバランスがよく、加熱効率が向上する。また、磁性体粒子31がCrを含むことにより、耐食性に優れたコート層3が得られる。
【0065】
好ましくは、コート層3において、添加元素を含む化合物が、磁性体粒子31の表面に存在する。これにより、当該化合物により磁性体粒子31同士の焼結をある程度阻害し、磁性体粒子31を含むコート層3の構造(すなわち、磁性体粒子31の連結性、コート層3の外形や相対密度等)を制御することが可能となる。
【0066】
ハニカム構造体1の製造方法は、複数のセル23が設けられた基材2を準備する工程(ステップS11)と、磁性体粒子および粘土鉱物を含むスラリーを調製する工程(ステップS12)と、複数のセル23の少なくとも一部である対象セル23aの表面にスラリーを塗布する工程(ステップS13)と、対象セル23aに塗布されたスラリーを乾燥および焼成することにより、対象セル23aの表面にコート層3を形成する工程(ステップS14)とを備える。これにより、高い耐熱衝撃性を有するハニカム構造体1を提供することができる。
【0067】
好ましくは、上記粘土鉱物が、モンモリロナイト、セピオライト、ヘクトライト、ハロイサイトおよびアタパルジャイトからなる群から選択される少なくとも1つを含む。これにより、ハニカム構造体1の耐熱衝撃性をより確実に向上することができる。
【0068】
上記ハニカム構造体1およびハニカム構造体1の製造方法では様々な変形が可能である。
【0069】
ハニカム構造体1において高い耐熱衝撃性が実現されるのであれば、コート層3の相対密度が、75~95%の範囲外であってもよく、コート層3の厚さが、20~100μmの範囲外であってもよい。また、対象セル23aの表面とコート層3との間の空隙の最大幅が15μmより大きくてもよく、厚肉部36の厚さが薄肉部37の厚さの2倍より大きくてもよい。
【0070】
ハニカム構造体1は、
図8の製造方法以外の方法により製造されてもよい。ハニカム構造体1は、触媒担体以外の用途に用いられてもよい。
【0071】
上記実施の形態および各変形例における構成は、相互に矛盾しない限り適宜組み合わされてよい。
【符号の説明】
【0072】
1 ハニカム構造体
2 基材
3 コート層
23 セル
23a 対象セル
29 (基材の)端面
31 磁性体粒子
36 厚肉部
37 薄肉部
239 角部空隙
S11~S14 ステップ