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特開2025-11579タイヤ成形用金型およびそれを用いたタイヤの製造方法ならびにタイヤ
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2025011579
(43)【公開日】2025-01-24
(54)【発明の名称】タイヤ成形用金型およびそれを用いたタイヤの製造方法ならびにタイヤ
(51)【国際特許分類】
   B29C 33/02 20060101AFI20250117BHJP
   B29C 33/10 20060101ALI20250117BHJP
   B60C 13/00 20060101ALI20250117BHJP
   B29D 30/06 20060101ALI20250117BHJP
   B29C 35/02 20060101ALI20250117BHJP
【FI】
B29C33/02
B29C33/10
B60C13/00 D
B29D30/06
B29C35/02
【審査請求】未請求
【請求項の数】9
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023113769
(22)【出願日】2023-07-11
(71)【出願人】
【識別番号】000006714
【氏名又は名称】横浜ゴム株式会社
(71)【出願人】
【識別番号】522478606
【氏名又は名称】ヨコハマモールド株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001368
【氏名又は名称】清流国際弁理士法人
(74)【代理人】
【識別番号】100129252
【弁理士】
【氏名又は名称】昼間 孝良
(74)【代理人】
【識別番号】100155033
【弁理士】
【氏名又は名称】境澤 正夫
(72)【発明者】
【氏名】井上 広太郎
(72)【発明者】
【氏名】高田 昇
(72)【発明者】
【氏名】大山 敏治
【テーマコード(参考)】
3D131
4F202
4F203
4F215
4F501
【Fターム(参考)】
3D131BC03
3D131BC47
3D131BC51
3D131GA03
3D131HA01
3D131LA28
4F202AH20
4F202CA21
4F202CK43
4F202CP05
4F202CU01
4F202CU02
4F202CU07
4F202CU14
4F202CU20
4F203AA45
4F203AB03
4F203AC03
4F203AH20
4F203AM32
4F203AR12
4F203DA11
4F203DB01
4F203DC01
4F203DL12
4F215AH20
4F215AM32
4F215VP37
4F501TL36
4F501TV11
4F501TV25
(57)【要約】
【課題】優れた排気性を維持しながら外観不良を防止し、且つ優れた空気抵抗低減性能を得ることを可能にしたタイヤ成形用金型およびそれを用いたタイヤの製造方法ならびにタイヤを提供する。
【解決手段】タイヤサイド部の表面に長手方向を有する複数の凸部がタイヤ周方向に間隔を空けて配置されたタイヤを成形するためのタイヤ成形用金型において、凸部を形成するための凹部と、該凹部の内面に開口するように形成されたエア抜き用のスリットとを設ける。
【選択図】図5
【特許請求の範囲】
【請求項1】
タイヤサイド部の表面に長手方向を有する複数の凸部がタイヤ周方向に間隔を空けて配置されたタイヤを成形するためのタイヤ成形用金型において、
前記凸部を形成するための凹部と、該凹部の内面に開口するように形成されたエア抜き用のスリットとを備えることを特徴とするタイヤ成形用金型。
【請求項2】
前記スリットが前記凹部の長手方向に沿って延在することを特徴とする請求項1に記載のタイヤ成形用金型。
【請求項3】
前記スリットが前記凹部の深さが最も大きくなる部位に配置されたことを特徴とする請求項1または2に記載のタイヤ成形用金型。
【請求項4】
前記スリットの幅が0.01mm~0.5mmであることを特徴とする請求項1または2に記載のタイヤ成形用金型。
【請求項5】
前記スリットの長さが前記凹部の長さの2%~100%であることを特徴とする請求項1または2に記載のタイヤ成形用金型。
【請求項6】
前記スリットの開口面積が前記凹部の開口面積の0.01%~15%であることを特徴とする請求項1または2に記載のタイヤ成形用金型。
【請求項7】
前記スリットが形成された替え駒と、該替え駒を嵌合させる固定穴とを備えたことを特徴とする請求項1または2に記載のタイヤ成形用金型。
【請求項8】
請求項1または2に記載のタイヤ成形用金型を用いたタイヤの製造方法であって、未加硫状態のタイヤを成形し、該タイヤを前記タイヤ成形用金型内で加硫することを特徴とするタイヤの製造方法。
【請求項9】
タイヤサイド部の表面に長手方向を有する複数の凸部がタイヤ周方向に間隔を空けて配置されたタイヤであって、前記複数の凸部の半数以下の前記凸部の表面にエア抜き用のスリットの痕跡を有することを特徴とするタイヤ。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、タイヤサイド部の表面に長手方向を有する複数の凸部を備えたタイヤを成形するためのタイヤ成形用金型およびそれを用いたタイヤの製造方法ならびにタイヤに関する。
【背景技術】
【0002】
近年、タイヤ付近の空気の流れを変えることで車両の空気抵抗を低減するために、タイヤサイド部の表面に長手方向を有する複数の凸部(所謂「フィン」)を設けることが行われている(例えば、特許文献1を参照)。このようなタイヤを製造するためのタイヤ成形用金型には凸部に対応する凹部が形成されるが、この凹部内に溜まったエアを金型外部に排気し、適切な形状の凸部を得るために、凹部内にベントホール(細い排気孔)を設けることがある。しかしながら、ベントホールを用いて排気を行うと、ベントホールにゴムが流れ込み、凸部の表面に髭状の突起であるスピューが発生する虞がある。このようなスピューは製品タイヤとして出荷される前に切除されるが、スピューを切除しても凸部の表面にスピューを切除した痕跡(カット痕)が残る虞がある。つまり、スピューの根元部分が微細な円柱状の突起として残存する可能性がある。このようなカット痕が存在すると凸部の外観が悪くなり、またカット痕に起因する凸部表面の微細な凹凸により空気抵抗を低減する効果が十分に得られなくなるという問題がある。そのため、優れた排気性を維持しながら外観不良を防止し、且つ優れた空気抵抗低減性能を得るための対策が求められている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2017‐511096号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
本発明の目的は、優れた排気性を維持しながら外観不良を防止し、且つ優れた空気抵抗低減性能を得ることを可能にしたタイヤ成形用金型およびそれを用いたタイヤの製造方法ならびにタイヤを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0005】
上記目的を達成するための本発明のタイヤ成形用金型は、タイヤサイド部の表面に長手方向を有する複数の凸部がタイヤ周方向に間隔を空けて配置されたタイヤを成形するためのタイヤ成形用金型において、前記凸部を形成するための凹部と、該凹部の内面に開口するように形成されたエア抜き用のスリットとを備えることを特徴とする。
【0006】
上記目的を達成するための本発明のタイヤの製造方法は、上記タイヤ成形用金型を用いたタイヤの製造方法であって、未加硫状態のタイヤを成形し、このタイヤを上述の本発明のタイヤ成形用金型内で加硫することを特徴とする。
【0007】
また、上記目的を達成するための本発明のタイヤは、タイヤサイド部の表面に長手方向を有する複数の凸部がタイヤ周方向に間隔を空けて配置されたタイヤであって、前記複数の凸部の半数以下の前記凸部の表面にエア抜き用のスリットの痕跡を有することを特徴とする。
【発明の効果】
【0008】
本発明のタイヤ成形用金型は、上記のように、タイヤサイド部の表面に長手方向を有する複数の凸部がタイヤ周方向に間隔を空けて配置されたタイヤを製造するためのものであるが、凸部を成形するための凹部内に溜まったエアを金型外部に排気するために、従来のベントホールではなくスリットを設けているので、排気性を良好に維持しながら外観不良を防止することができる。即ち、従来のベントホールでは、ベントホールにゴムが流れ込んでスピューが発生する虞があり、スピューを切除してもカット痕(微細な円柱状の突起として残存するスピューの根元部分)が存在する可能性があったが、スリットは微細な隙間であるためゴムが流れ込みにくく、またスリット内に流れ込んだゴムに起因してスリットの痕跡が残存しても、微細な幅の線状の痕跡が残るだけであるため、外観を損なうことは無く、外観不良を防止することができる。
【0009】
また、本発明のタイヤの製造方法は上述の本発明のタイヤ成形用金型を用いているため、加硫時に金型内(特に凹部内)に残存するエアはスリットを介して効率的に金型外に排気できる。このとき、スリットは前述のように微細な隙間であるためゴムが実質的に流れ込まず、またスリット内に流れ込んだゴムに起因してスリットの痕跡が残存しても、タイヤにおいては微細な幅の線状の痕跡が残るだけであるため、外観を損なうことは無く、外観不良を防止することができる。
【0010】
更に、本発明のタイヤ成形用金型により製造されたタイヤ(本発明のタイヤ)は、前述のようにタイヤサイド部の表面に長手方向を有する複数の凸部を備えるので、車両の走行時に回転移動する凸部が空気を乱流化させてタイヤの周辺の空気の流れのよどみを改善し、車両の空気抵抗を低減することができる。このとき、凸部の表面にエア抜き用のスリットの痕跡が残存しても、スリットの痕跡は前述のように微細な幅の線状の痕跡であるので、スリットの痕跡によって凸部の形状が損なわれることはなく、空気抵抗低減性能を良好に発揮することができる。
【0011】
本発明のタイヤ成形用金型においては、スリットが凹部の長手方向に沿って延在することが好ましい。このように凸部の長手方向とスリットの痕跡(線状の痕跡)の延在方向が揃うことでスリットの痕跡が目立ちにくくなり、外観不良を防止するには有利になる。
【0012】
本発明のタイヤ成形用金型においては、スリットが凹部の深さが最も大きくなる部位に配置されることが好ましい。このように凹部内の最も空気が残存しやすい位置にスリットを配置することで、排気性を向上するには有利になる。
【0013】
本発明のタイヤ成形用金型においては、スリットの幅が0.01mm~0.5mmであることが好ましい。このようにスリットの幅を十分に薄くすることで、外観不良を防止し、且つ空気抵抗低減性能を向上するには有利になる。尚、本発明において「スリットの幅」とはスリットの短手方向に沿って測定した長さである。
【0014】
本発明のタイヤ成形用金型においては、スリットの長さが凹部の長さの2%~100%であることが好ましい。このように凹部に対して適度な長さのスリットを設けることで、排気性を確保しながら、外観不良を防止し、且つ空気抵抗低減性能を向上するには有利になる。尚、本発明において「スリットの長さ」とはスリットの長手方向に沿って測定した長さである。
【0015】
本発明のタイヤ成形用金型においては、スリットの開口面積が凹部の開口面積の0.01%~15%であることが好ましい。このように凹部に対して適度な長さのスリットを設けることで、排気性を確保しながら、外観不良を防止し、且つ空気抵抗低減性能を向上するには有利になる。
【0016】
本発明のタイヤ成形用金型においては、スリットが形成された替え駒と、この替え駒を嵌合させる固定穴とを備えた使用にすることもできる。また、この仕様においては、固定穴の側面に当接する替え駒の表面が、嵌合時に当接する固定穴の側面に対して窪むことでスリットが形成されることが好ましい。この仕様では、加硫後の金型を清掃する際に、スリット内の清掃が容易になり、生産性を高めることができる。
【図面の簡単な説明】
【0017】
図1】本発明の実施形態に係るタイヤの一例を示す子午線断面図である。
図2】本発明の実施形態に係るタイヤの一例を示す側面図である。
図3図2のX部を抽出して示す凸部の模式図である。
図4】タイヤ加硫装置の一例を示す説明図である。
図5】本発明の実施形態に係るタイヤ加硫用金型の凹部を模式的に示す正面図である。
図6】本発明の実施形態に係るタイヤ加硫用金型の凹部を模式的に示す説明図である。
図7】本発明の別の実施形態に係るタイヤ加硫用金型の凹部を模式的に示す説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0018】
以下、本発明の構成について添付の図面を参照しながら詳細に説明する。
【0019】
図1は、本発明のタイヤ加硫用金型で製造されるタイヤ(以下、「本発明のタイヤ」と言う)の一例を示す。図1のタイヤは空気入りタイヤであり、路面に当接するトレッド部1と、このトレッド部1の両側に配置された一対のサイドウォール部2と、サイドウォール部2のタイヤ径方向内側に配置された一対のビード部3とを備えている。図1において、符号CLはタイヤ赤道を示す。尚、図1は子午線断面図であるため描写されないが、トレッド部1、サイドウォール部2、ビード部3は、それぞれタイヤ周方向に延在して環状を成しており、これにより空気入りタイヤのトロイダル状の基本構造が構成される。以下、図1を用いた説明は基本的に図示の子午線断面形状に基づくが、各タイヤ構成部材はいずれもタイヤ周方向に延在して環状を成すものである。
【0020】
図1のタイヤにおいては、左右一対のビード部3間にはカーカス層4が装架されている。カーカス層4は、タイヤ径方向に延びる複数本の補強コードを含み、各ビード部3に配置されたビードコア5の廻りにタイヤ幅方向内側から外側に折り返されている。また、ビードコア5の外周上にはビードフィラー6が配置され、このビードフィラー6がカーカス層4の本体部と折り返し部とにより包み込まれている。一方、トレッド部1におけるカーカス層4の外周側には複数層(図1では2層)のベルト層7が埋設されている。各ベルト層7は、タイヤ周方向に対して傾斜する複数本の補強コードを含み、かつ層間で補強コードが互いに交差するように配置されている。これらベルト層7において、補強コードのタイヤ周方向に対する傾斜角度は例えば10°~40°の範囲に設定されている。更に、ベルト層7の外周側には少なくとも1層(図1では2層)のベルト補強層8が設けられている。ベルト補強層8は、タイヤ周方向に配向する有機繊維コードを含む。ベルト補強層8において、有機繊維コードはタイヤ周方向に対する角度が例えば0°~5°に設定されている。
【0021】
図2は、本発明のタイヤの側面図である。図2に示すように、本発明のタイヤのタイヤサイド部(サイドウォール部2)の表面には、長手方向を有する複数の凸部9(フィン)がタイヤ周方向に間隔を空けて設けられている。凸部9は、図示の例のようにタイヤ最大幅位置よりもタイヤ径方向内側(ビード部3側)に設けても、図示との例と逆にタイヤ最大幅位置よりもタイヤ径方向外側(トレッド部1側)に設けてもよく、サイドウォール部2のタイヤ径方向の任意の位置に設けることができる。凸部9は、タイヤサイド部と一体的に成形された突起である。図示の例では、タイヤサイド部の表面においてタイヤ周方向およびタイヤ径方向に交差して延在する突条として形成されている。図示の例では、凸部9は、空気入りタイヤ1の側面視で湾曲して形成されているが、この形状に限定されず、直線状に形成されていても、屈曲して形成されていても、S字状に形成されていても、蛇行して構成されていても、ジグザグ状に形成されていてもよい。
【0022】
このようにタイヤサイド部の表面に長手方向を有する複数の凸部9を備えることで、車両の走行時に回転移動する凸部9が空気を乱流化させてタイヤの周辺の空気の流れのよどみを改善し、車両の空気抵抗を低減することができる。複数の凸部9は、タイヤ幅方向両側のタイヤサイド部の少なくとも一方に設けると良い。特に、車両装着時に車両に対して外側になるタイヤサイド部に設けることが好ましい。
【0023】
凸部9の具体的な形状は特に限定されないが、例えば図3に示すように、異なる方向を向いた複数の面(図示の例では2つの面)とこれら面の境界に位置する稜線とからなる立体形状であるとよい。稜線に直交する任意の位置における凸部の断面では、稜線上の点が凸部の頂点となる。このように複数の面と稜線を有した形状とすることで、タイヤ周辺の空気を効率的に乱流化することができ、車両の空気抵抗を低減するには有利になる。
【0024】
本発明は、上記のようにタイヤサイド部の表面に複数の凸部9が設けられたタイヤと、このタイヤを成形するためのタイヤ成形用金型と、このタイヤ成形用金型を用いたタイヤの製造方法に関する。そのため、本発明のタイヤの基本構造は、上記のようにタイヤサイド部の表面に複数の凸部9が設けられていれば上記の例に限定されない。また、本発明のタイヤは、上記のようにタイヤサイド部の表面に複数の凸部9が設けられていれば非空気式タイヤであってもよい。
【0025】
図4は本発明のタイヤ加硫用金型(以下、単に「金型」と言う場合がある。)を含むタイヤ加硫装置の一例を示す。タイヤ加硫装置は、タイヤTの外表面を成形する金型10と、空気入りタイヤTの内側に挿入される筒状のブラダー20とを備えている。また、このタイヤ加硫装置は、ブラダー20内にスチーム等の加熱加圧媒体を供給する不図示の加熱加圧媒体供給手段や金型10を加熱する不図示の加熱手段を具備している。尚、本発明は、タイヤサイド部に形成される凸部に関するので、サイドウォール部を成形するための成形面を有していれば、タイヤ加硫装置は図例の例に限定されない。
【0026】
金型10は、タイヤのサイドウォール部を成形するための一対のサイドプレート11(下側サイドプレート11A及び上側サイドプレート11B)と、空気入りタイヤTのビード部を成形するための一対のビードリング12(下側ビードリング12A及び上側ビードリング12B)と、空気入りタイヤTのトレッド部を成形するための複数のセクター13から構成され、その金型10の内側で空気入りタイヤTを加硫成形するようになっている。
【0027】
不図示の加熱加圧媒体供給手段は、所定の温度及び圧力に調整されたスチームと、所定の圧力に調整された窒素ガスとを加熱加圧媒体として適時供給するようになっている。このような加熱加圧媒体がブラダー20内に導入されると、その圧力に基づいて空気入りタイヤTが内側から金型10の内面に向かって押圧される。なお、加熱加圧媒体としてスチームのみを用いることも可能である。
【0028】
不図示の加熱手段は、金型10を構成する下側サイドプレート11、上側サイドプレート12及びセクター13に付設されていて、その加熱手段により金型10を加熱することにより、空気入りタイヤTの加硫が行われるようになっている。
【0029】
このように構成されるタイヤ加硫装置において、本発明のタイヤ成形用金型(金型10)、特にサイドウォール部を成形するための一対のサイドプレート11(下側サイドプレート11A及び上側サイドプレート11B)の少なくとも一方には、図5,6に示すように、タイヤにおける凸部9(フィン)を形成するための凹部30が設けられている。凸部は前述のように長手方向を有する形状であり、タイヤサイド部の表面に複数がタイヤ周方向に間隔を空けて配置されるので、凹部30も同様に、金型10(サイドプレート11)のサイドウォール部2を成形するための表面に、複数個がタイヤ周方向に間隔を空けて配置される。
【0030】
本発明のタイヤ成形用金型においては、この凹部30内に、凹30部の内面に開口するように形成されたエア抜き用のスリット31が設けられている。スリット31は、図6に示すように、金型10(サイドプレート11)を貫通し、タイヤ成形用金型内の排気機構(不図示)やタイヤ成形用金型の外部まで到達し、タイヤ成形時に金型内に残留したエアを排出する。図示の例では、スリット31は凹部30の長手方向に沿って延在している。このように、従来のベントホール(細い円筒状の排気孔)ではなくスリット31を設けているので、排気性を良好に維持しながら外観不良を防止することができる。即ち、従来のベントホールでは、ベントホールにゴムが流れ込んでスピューが発生する虞があり、スピューを切除してもカット痕(微細な円柱状の突起として残存するスピューの根元部分)が存在する可能性があったが、スリット31は微細な隙間であるためゴムが殆ど流れ込まず、またスリット31内に流れ込んだゴムに起因してスリット31の痕跡が形成されたとしても、微細な幅の線状の痕跡が残るだけであるため、外観を損なうことは無く、外観不良を防止することができる。
【0031】
スリット31は、上記のように開口部における幅が微細な隙間であるが、スリット31の幅wは好ましくは0.01mm~0.5mm、より好ましくは0.02mm~0.05mmであるとよい。このようにスリット31の幅が十分に小さいことでスリット31内にゴムが実質的に流れ込まなくなり、またスリット31内に流れ込んだゴムに起因してスリットの痕跡が残存しても、微細な幅の線状の痕跡が残るだけになるので、外観を損なうことは無く、外観不良を防止することができる。スリット31の幅wが0.01mmよりも小さいと排気性を十分に確保することが難しくなる。また、スリット31が薄すぎるため金型の製造(スリット31の加工)が困難になる。スリット31の幅wが0.5mmを超えるとスリット31内にゴムが流れ込みやすくなりスリット31の痕跡が残存しやすくなる。
【0032】
従来のベントホールと同等以上の排気性を確保するには、スリット31が十分に開口しているとよい。スリット31としての微細な幅を維持しながら開口面積を確保する観点から、スリット31は十分長さを有するとよい。具体的には、スリット31の長さL1が凹部の長さL0の好ましくは2%~100%、より好ましくは5%~30%であるとよい。このように凹部30に対して適度な長さのスリット31を設けることで、排気性を確保しながら、外観不良を防止し、且つ空気抵抗低減性能を向上するには有利になる。スリット31の長さL1が凹部30の長さL0の2%未満ではスリット31の開口面積を十分に確保できず排気性能を良好に維持することが難しくなる。スリット31の長さL1が凹部30の長さL0の100%を超えると、スリット31が凹部30を超えて延在することになるので金型の製造(スリット31の加工)が困難になる。
【0033】
スリット31の幅および長さが上記の関係を満たすことに加えて、更にスリット31の開口面積が凹部30の開口面積の好ましくは0.01%~15%、より好ましくは0.1%~5%であるとよい。このように凹部30に対して適度な広さのスリット31を設けることで、排気性を確保しながら、外観不良を防止し、且つ空気抵抗低減性能を向上するには有利になる。スリット31の開口面積が凹部30の開口面積の0.01%未満であると排気性を十分に確保することが難しくなる。スリット31の開口面積が凹部30の開口面積の15%を超えるとスリット31の痕跡が大きくなる虞があり、タイヤを製造したときにタイヤの凸部9の外観や凸部9による空気的高低減効果が低下する虞がある。
【0034】
スリット31は凹部30の内面であれば任意の位置に設けることができるが、図示の例のように、凹部30の長手方向に沿って延在していることが好ましい。このようにスリット31を設けることで、タイヤにおいては凸部9の長手方向とスリット31の痕跡(線状の痕跡)の延在方向が揃うので、スリット31の痕跡が目立ちにくくなり、外観不良を防止するには有利になる。また、成形時のゴム流れを考慮すると、スリット31は凹部30の最深部(深さが最も大きくなる部位)に配置することが好ましい。このように凹部30内の最も空気が残存しやすい位置(最深部)にスリット31を配置することで、排気性を向上するには有利になる。
【0035】
図5,6に示した凹部30は、図2,3に示した凸部9を成形することを意図したものであり、凸部9の2つの面を成形するための2つの成形面を備えている。これら2つの成形面が連結する境界線が凸部9における稜線に対応し、凹部30においては最深部となる。このような凹部30の場合、スリット31は稜線に対応する境界線上に配置することが好ましい。これにより、タイヤにおいてはスリット31の痕跡が凸部9の稜線と実質的に同化し、外観不良を防止するには有利になる。
【0036】
スリット31は金型10(サイドプレート11)に直接設けてもよいが、図7に示すように、金型10を金型本体10Aと、スリット31が形成された替え駒10Bとを含む構造にし、金型本体10Aに替え駒10Bを嵌合させる固定穴とを備えた仕様にすることもできる。替え駒10Bは、金型本体10Aに設けられた固定穴に着脱可能に挿入される部品であり、替え駒10Bを固定穴に嵌合させることで金型10の成形面が構成される。尚、図7は替え駒10Bが金型本体10Aの固定穴に嵌合された状態を示す。この仕様においては、替え駒10Bの任意の位置にスリット31を設けることができるが、図示の例のように、固定穴の側面に当接する替え駒10Bの表面が、嵌合時に当接する固定穴の側面に対して窪むことでスリット31が形成される仕様にすることが好ましい。このような構成にすることで、加硫後の金型10を清掃する際に、スリット31内の清掃が容易になり、生産性を高めることができる。
【0037】
スリット31は、金型10に直接設ける場合も、上記のように替え駒10Bを用いる場合も、上述の寸法の微細な隙間を加工できる方法であれば任意の方法(例えばワイヤー加工、レーザー加工など)で設けることができる。
【0038】
上述のタイヤ成形用金型を用いてタイヤを製造する際には、一般的な方法、即ち未加硫状態のタイヤを成形し、この未加硫タイヤを上述のタイヤ成形用金型内で加硫することでタイヤを製造することができる。これにより製造されたタイヤ(本発明のタイヤ)は、タイヤサイド部(サイドウォール部2)の表面に長手方向を有する複数の凸部9を備える。このとき凸部9を成形する際の凹部30内のエア抜きは前述のスリット31によって行われ、スリット31は微細な隙間であるためゴムが殆ど流れ込まないため、本発明のタイヤでは基本的に凸部9の表面にエア抜きに起因する痕跡は形成されない。スリット31内に流れ込んだゴムに起因してスリット31の痕跡が形成されたとしても、一部の凸部9だけに微細な幅の線状の痕跡が残るのみである。言い換えると、本発明のタイヤは、複数の凸部9の半数以下の凸部9の表面にエア抜き用のスリット31の痕跡を有する。スリット31の痕跡が形成されても、前述のようにスリット31の痕跡は微細な幅の線状の痕跡であるので、スリット31の痕跡によって凸部9の形状が損なわれることはなく、凸部9による空気抵抗低減性能を良好に発揮することができる。
【0039】
以下、実施例によって本発明を更に説明するが、本発明の範囲はこれらの実施例に限定されるものではない。
【実施例0040】
タイヤサイズが165/50R16 75Vであり、図1および2に例示する構造を有するタイヤを製造するにあたって、タイヤ成形用金型について、凹部内のエアの排気方法、スリットの向き、スリット/ベントホールの配置、スリット/ベントホールの幅、スリット/ベントホールの長さ、スリット/ベントホールの開口面積、スリット/ベントホールの形成方法を、それぞれ表1のように異ならせた(従来例1、比較例1、実施例1~7)。
【0041】
表1において、「排気方法」の欄については、凹部内のエアを排気するための排気孔としてベントホールまたはスリットのいずれを用いたかを記載した。「スリットの向き」の欄について、スリットが凹部の長手方向または短手方向のいずれに沿って延在するかを記載した(ベントホールの開口端は円形なので延在する向きは定義されない)。「スリット/ベントホールの配置」の欄について、凹部内におけるスリットまたはベントホールの配置位置を記載した。「スリット/ベントホールの幅」の欄については、スリットまたはベントホールの幅を記載した。尚、ベントホールの幅とは実質的にベントホールの直径である。「スリット/ベントホールの長さ」の欄については、スリットまたはベントホールの長さを記載した。尚、ベントホールの長さも実質的にベントホールの直径である。この欄については、凹部の長さに対する割合も併記した。「スリット/ベントホールの形成方法」の欄は、スリットまたはベントホールを金型に直接設けた場合を「直打」、スリットまたはベントホールが形成された替え駒を用いた場合を「替え駒」と表示した。尚、従来例1はベントホールやスリットを設けていない(凹部内に排気機構を備えない)例であるため表の各項目に数値等は示されていない。
【0042】
これら空気入りタイヤについて、下記の評価方法により、外観不良、空気抵抗、作業性を評価し、その結果を表1に併せて示した。
【0043】
外観不良防止性
各タイヤ成形用金型によりそれぞれ100本のタイヤを加硫し、得られたタイヤの凸部に外観不良(型付け不良による美観の悪化)が発生した本数を計測し、外観不良の発生率を求めた。評価結果は、測定値の逆数を用いて、従来例1の値を100とする指数にて示した。この指数値が大きいほど外観不良防止性に優れることを意味する。
【0044】
低空気抵抗性
各タイヤ成形用金型により製造された試験タイヤをそれぞれリムサイズ16×4.5Jのホイールに組み付けて、タイヤ内圧を230kPaとし、試験車両に装着し、JIS D1012に準拠して、惰行走行中の車速を測定して多点回帰法より走行抵抗を算出した。評価結果は、従来例1の値を100とする指数にて示した。この指数値が大きいほど空気抵抗が低く、低空気抵抗性に優れることを意味する。
【0045】
作業性
各タイヤ成形用金型によりタイヤを加硫した後に金型(排気機構)を清掃する所要時間を測定した。評価結果は、測定値の逆数を用いて比較例1の値を100とする指数にて示した。この指数値が大きいほど金型の清掃の所要時間が短く、作業性に優れることを意味する。尚、従来例1は前述のように凹部内に排気機構を備えないので作業性の試験は行っていない。
【0046】
【表1】
【0047】
表1から明らかなように、実施例1~7のタイヤは、従来例1と比較して外観不良を防止しながら、空気低能を低減し、且つ比較例1と同等以上の良好な作業性を発揮した。一方、比較例1は、ベントホールによる排気が行われるため従来例1と比較して外観不良を防止したが、ベントホールに起因するスピューを切除した痕跡(カット痕)が凸部(フィン)の表面に存在するため低空気抵抗性を改善する効果は得られなかった。
【0048】
本開示は、以下の発明を包含する。
発明[1] タイヤサイド部の表面に長手方向を有する複数の凸部がタイヤ周方向に間隔を空けて配置されたタイヤを成形するためのタイヤ成形用金型において、
前記凸部を形成するための凹部と、該凹部の内面に開口するように形成されたエア抜き用のスリットとを備えることを特徴とするタイヤ成形用金型。
発明[2] 前記スリットが前記凹部の長手方向に沿って延在することを特徴とする発明[1]に記載のタイヤ成形用金型。
発明[3] 前記スリットが前記凹部の深さが最も大きくなる部位に配置されたことを特徴とする発明[1]または[2]に記載のタイヤ成形用金型。
発明[4] 前記スリットの幅が0.01mm~0.5mmであることを特徴とする発明[1]~[3]のいずれかに記載のタイヤ成形用金型。
発明[5] 前記スリットの長さが前記凹部の長さの2%~100%であることを特徴とする発明[1]~[4]のいずれかに記載のタイヤ成形用金型。
発明[6] 前記スリットの開口面積が前記凹部の開口面積の0.01%~15%であることを特徴とする発明[1]~[5]のいずれかに記載のタイヤ成形用金型。
発明[7] 前記スリットが形成された替え駒と、該替え駒を嵌合させる固定穴とを備えたことを特徴とする発明[1]~[6]のいずれかに記載のタイヤ成形用金型。
発明[8] 発明[1]~[7]のいずれかに記載のタイヤ成形用金型を用いたタイヤの製造方法であって、未加硫状態のタイヤを成形し、該タイヤを前記タイヤ成形用金型内で加硫することを特徴とするタイヤの製造方法。
発明[9] タイヤサイド部の表面に長手方向を有する複数の凸部がタイヤ周方向に間隔を空けて配置されたタイヤであって、前記複数の凸部の半数以下の前記凸部の表面にエア抜き用のスリットの痕跡を有することを特徴とするタイヤ。
【符号の説明】
【0049】
1 トレッド部
2 サイドウォール部
3 ビード部
4 カーカス層
5 ビードコア
6 ビードフィラー
7 ベルト層
8 ベルト補強層
9 凸部(フィン)
10 金型
11 サイドプレート
12 ビードリング
13 セクター
20 ブラダー
30 凹部
31 スリット
CL タイヤ赤道
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7