(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2025001159
(43)【公開日】2025-01-08
(54)【発明の名称】異常検出装置、異常検出方法、及びプログラム
(51)【国際特許分類】
B23Q 17/09 20060101AFI20241225BHJP
【FI】
B23Q17/09 A
B23Q17/09 D
【審査請求】未請求
【請求項の数】1
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023100599
(22)【出願日】2023-06-20
(71)【出願人】
【識別番号】520359240
【氏名又は名称】株式会社MAZIN
(74)【代理人】
【識別番号】100115749
【弁理士】
【氏名又は名称】谷川 英和
(74)【代理人】
【識別番号】100121223
【弁理士】
【氏名又は名称】森本 悟道
(72)【発明者】
【氏名】角屋 貴則
(72)【発明者】
【氏名】岡 宏樹
【テーマコード(参考)】
3C029
【Fターム(参考)】
3C029CC02
3C029CC03
3C029DD11
3C029DD12
(57)【要約】
【課題】工作機械で取得されたモータに関連する時系列データにおいて、非加工区間を削除することなく、異常を適切に検出することができるようにする。
【解決手段】異常検出装置2は、工作機械におけるモータに関連する時系列データを受け付ける受付部21と、時系列データから、工作機械において繰り返される加工の1サイクルに応じた基準となる基準時系列データと、1サイクルに応じた異常の検出対象となる検出対象時系列データとを取得する取得部23と、時系列データから取得された基準時系列データ及び検出対象時系列データを、各時間のデータ間の距離の総和が、あらかじめ決められた閾値以下の時間のずれを許容した状態で最小となるように合わせ込む処理部24と、合わせ込み後の基準時系列データと検出対象時系列データとを比較することによって検出対象時系列データの異常を検出する異常検出部25とを備える。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
工作機械における第1のモータに関連する第1の時系列データを受け付ける受付部と、
前記第1の時系列データから、前記工作機械において繰り返される加工の1サイクルに応じた基準となる基準時系列データと、1サイクルに応じた異常の検出対象となる検出対象時系列データとを取得する取得部と、
前記第1の時系列データから取得された基準時系列データ及び検出対象時系列データを、各時間のデータ間の距離の総和が、あらかじめ決められた閾値以下の時間のずれを許容した状態で最小となるように合わせ込む処理部と、
合わせ込み後の基準時系列データと検出対象時系列データとを比較することによって当該検出対象時系列データの異常を検出する異常検出部と、を備えた異常検出装置。
【請求項2】
前記処理部は、前記取得部によって取得された基準時系列データ及び検出対象時系列データに対してアップサンプリングを行った後に両時系列データを合わせ込む、請求項1記載の異常検出装置。
【請求項3】
前記受付部は、前記工作機械における第2のモータに関連する第2の時系列データをも受け付け、
前記取得部は、前記第2の時系列データについても基準時系列データ及び検出対象時系列データを取得し、
前記処理部は、前記第2の時系列データから取得された基準時系列データと検出対象時系列データとについても合わせ込みを行い、
前記異常検出部は、前記第2の時系列データから取得された、合わせ込み後の基準時系列データと検出対象時系列データとを比較することによって当該検出対象時系列データの異常をも検出する、請求項1記載の異常検出装置。
【請求項4】
前記第1の時系列データは、前記工作機械において主軸を回転させる主軸モータの電流のデータであり、
前記第2の時系列データは、サーボモータの電流のデータであり、
前記第1の時系列データのレンジは、前記第2の時系列データのレンジよりも大きく、
前記第1の時系列データの分解能と前記第2の時系列データの分解能とは同じである、請求項3記載の異常検出装置。
【請求項5】
前記閾値は、1サイクルの中で最も短い加工区間の時間よりも短い、請求項1から請求項4のいずれか記載の異常検出装置。
【請求項6】
前記基準時系列データは、前記受付部で受け付けられた、合わせ込みが行われる前の時系列データである、請求項1から請求項4のいずれか記載の異常検出装置。
【請求項7】
受付部と、取得部と、処理部と、異常検出部とを用いて処理される異常検出方法であって、
前記受付部が、工作機械における主軸の回転に関連する第1の時系列データを受け付けるステップと、
前記取得部が、前記第1の時系列データから、前記工作機械において繰り返される加工の1サイクルに応じた基準となる基準時系列データと、1サイクルに応じた異常の検出対象となる検出対象時系列データとを取得するステップと、
前記処理部が、前記第1の時系列データから取得された基準時系列データ及び検出対象時系列データを、各時間のデータ間の距離の総和が、あらかじめ決められた閾値以下の時間のずれを許容した状態で最小となるように合わせ込むステップと、
前記異常検出部が、合わせ込み後の基準時系列データと検出対象時系列データとを比較することによって当該検出対象時系列データの異常を検出するステップと、を備えた異常検出方法。
【請求項8】
コンピュータに、
工作機械における主軸の回転に関連する第1の時系列データを受け付けるステップと、
前記第1の時系列データから、前記工作機械において繰り返される加工の1サイクルに応じた基準となる基準時系列データと、1サイクルに応じた異常の検出対象となる検出対象時系列データとを取得するステップと、
前記第1の時系列データから取得された基準時系列データ及び検出対象時系列データを、各時間のデータ間の距離の総和が、あらかじめ決められた閾値以下の時間のずれを許容した状態で最小となるように合わせ込むステップと、
合わせ込み後の基準時系列データと検出対象時系列データとを比較することによって当該検出対象時系列データの異常を検出するステップと、を実行させるためのプログラム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、工作機械において取得された時系列データに基づいて異常の検出を行う異常検出装置等に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、ワーク及び工具の一方が取り付けられた主軸を回転させ、工具によってワークの切削加工等を行う工作機械において、主軸等を駆動するためのモータの電流を計測し、その電流を用いて、工具の摩耗や破損などの異常を検出することが行われている(例えば、特許文献1参照)。
【0003】
例えば、工具の摩耗が進むと、摩耗していない正常な工具よりも削りにくくなるため、正常な工具と比較して大きな力で削るための制御を工作機械が行うことになり、その結果として、主軸のモータの電流値が正常時よりも増加する。また、工具が折れた場合には、工具がワークに当たらなくなるため、主軸のモータの電流値が正常時よりも低下する。したがって、主軸のモータの電流値を、正常時の電流値と比較することによって、工具の摩耗や工具の破損などの異常を検出することができる。
【0004】
大量生産を行う工作機械では同じ加工が繰り返して行われるため、主軸を駆動するモータの電流値の時系列データから、繰り返される加工の開始から終了までの1サイクルのデータを取得して比較することによって、工具の異常を検出することができる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
図3は、工作機械の電流センサで取得された主軸を回転させるモータの電流値の時系列データを示す波形図である。
図3で示される期間PE1~PE4は、工作機械において、加工対象であるワークを切削している加工区間である。
図3で示されるように、時系列データには、加工区間と、加工の前後において主軸の回転数を増加させたり、減少させたりする非加工区間とが存在する。
図3からも分かるように、非加工区間における波形は急峻であるため、時間方向において波形に少しでもばらつきが存在する場合には、異常検出のために2個の時系列データを比較する際の両波形の差が大きくなり、異常の検出に関係のない非加工区間の波形の違いに応じて、異常が生じたと誤検出される可能性もある。
【0007】
そのような誤検出を避けるために、非加工区間の波形を削除することも考えられるが、多種多様な工作機械や加工方法がある中で、加工区間の波形と非加工区間の波形とを完全に区別することは難しく、非加工区間の波形を削除することは困難である。また、異常の誤検出を避けるために、異常の検出の閾値をより大きい値に設定することも考えられるが、異常の検出の閾値をより大きくした場合には、異常を見落とす可能性があるという問題もある。
【0008】
本発明は、上記課題を解決するためになされたものであり、非加工区間を削除することなく、異常を適切に検出することができるようにするための異常検出装置等を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記目的を達成するため、本発明の一態様による異常検出装置は、工作機械における第1のモータに関連する第1の時系列データを受け付ける受付部と、第1の時系列データから、工作機械において繰り返される加工の1サイクルに応じた基準となる基準時系列データと、1サイクルに応じた異常の検出対象となる検出対象時系列データとを取得する取得部と、第1の時系列データから取得された基準時系列データ及び検出対象時系列データを、各時間のデータ間の距離の総和が、あらかじめ決められた閾値以下の時間のずれを許容した状態で最小となるように合わせ込む処理部と、合わせ込み後の基準時系列データと検出対象時系列データとを比較することによって検出対象時系列データの異常を検出する異常検出部と、を備えたものである。
【0010】
このような構成により、基準時系列データと検出対象時系列データとを合わせ込むことによって、非加工区間の急峻な波形に関する閾値以下の時間方向のずれを解消することができると共に、加工区間の閾値より大きい時間方向のずれについては時間方向のずれを解消しないようにすることができ、非加工区間の波形の違いに応じて異常が生じたと誤検出される可能性を低減することができ、その結果として、異常を適切に検出することができるようになる。
【0011】
また、本発明の一態様による異常検出装置では、処理部は、取得部によって取得された基準時系列データ及び検出対象時系列データに対してアップサンプリングを行った後に両時系列データを合わせ込んでもよい。
【0012】
このような構成により、2個の時系列データの合わせ込みをより高精度に行うことができるようになる。
【0013】
また、本発明の一態様による異常検出装置では、受付部は、工作機械における第2のモータに関連する第2の時系列データをも受け付け、取得部は、第2の時系列データについても基準時系列データ及び検出対象時系列データを取得し、処理部は、第2の時系列データから取得された基準時系列データと検出対象時系列データとについても合わせ込みを行い、異常検出部は、第2の時系列データから取得された、合わせ込み後の基準時系列データと検出対象時系列データとを比較することによって検出対象時系列データの異常をも検出してもよい。
【0014】
このような構成により、異常検出を行う時系列データを増やすことができ、異常検出の精度を向上させることができる。
【0015】
また、本発明の一態様による異常検出装置では、第1の時系列データは、工作機械において主軸を回転させる主軸モータの電流のデータであり、第2の時系列データは、サーボモータの電流のデータであり、第1の時系列データのレンジは、第2の時系列データのレンジよりも大きく、第1の時系列データの分解能と第2の時系列データの分解能とは同じであってもよい。
【0016】
このような構成により、第1及び第2の時系列データにそれぞれ適したレンジを用いることができ、適切な異常の検出を行うことができると共に、データ量を増やさないようにすることもできる。
【0017】
また、本発明の一態様による異常検出装置では、閾値は、1サイクルの中で最も短い加工区間の時間よりも短くてもよい。
【0018】
このような構成により、異常が生じた際に、異常な波形に合わせ込むことを避けることができる。
【0019】
また、本発明の一態様による異常検出装置では、基準時系列データは、受付部で受け付けられた、合わせ込みが行われる前の時系列データであってもよい。
【0020】
このような構成により、基準時系列データの長さが変化しないようにすることができる。
【0021】
また、本発明の一態様による異常検出方法は、受付部と、取得部と、処理部と、異常検出部とを用いて処理される異常検出方法であって、受付部が、工作機械における主軸の回転に関連する第1の時系列データを受け付けるステップと、取得部が、第1の時系列データから、工作機械において繰り返される加工の1サイクルに応じた基準となる基準時系列データと、1サイクルに応じた異常の検出対象となる検出対象時系列データとを取得するステップと、処理部が、第1の時系列データから取得された基準時系列データ及び検出対象時系列データを、各時間のデータ間の距離の総和が、あらかじめ決められた閾値以下の時間のずれを許容した状態で最小となるように合わせ込むステップと、異常検出部が、合わせ込み後の基準時系列データと検出対象時系列データとを比較することによって検出対象時系列データの異常を検出するステップと、を備えたものである。
【発明の効果】
【0022】
本発明の一態様による異常検出装置等によれば、非加工区間の波形の違いに応じて異常が生じたと誤検出される可能性を低減することができ、その結果として、異常を適切に検出することができるようになる。
【図面の簡単な説明】
【0023】
【
図1】本発明の実施の形態による情報処理システムの構成を示すブロック図
【
図2】同実施の形態による異常検出装置の動作を示すフローチャート
【
図3】同実施の形態における時系列データの一例を示す図
【
図4】同実施の形態における基準時系列データと検出対象時系列データとの一例を示す図
【
図5】同実施の形態における基準時系列データと検出対象時系列データとの合わせ込みについて説明するための図
【
図6】同実施の形態における非加工区間の波形の一例を示す図
【
図7】同実施の形態における加工区間の波形の一例を示す図
【
図8】同実施の形態におけるコンピュータシステムの構成の一例を示す図
【発明を実施するための形態】
【0024】
以下、本発明による異常検出装置、及び異常検出方法について、実施の形態を用いて説明する。なお、以下の実施の形態において、同じ符号を付した構成要素及びステップは同一または相当するものであり、再度の説明を省略することがある。本実施の形態による異常検出装置は、比較対象の2個の時系列データにおいて、閾値以下の時間のずれについては合わせ込みを行った後に比較することによって、異常を適切に検出するものである。
【0025】
図1は、本実施の形態による情報処理システム100の構成を示すブロック図である。本実施の形態による情報処理システム100は、工作機械1と、異常検出装置2とを備える。工作機械1と異常検出装置2とは、有線または無線によって接続されていてもよい。
【0026】
工作機械1は、ワークに対する加工を繰り返して行うものである。工作機械1は、例えば、NC旋盤であってもよく、マシニングセンタであってもよい。NC旋盤では、ワークの取り付けられた主軸が回転され、回転されているワークに工具を当接させ、ワークと工具とを相対的に移動させることによって切削などの加工が行われる。また、NC旋盤における工具の切り替えは、例えば、ターレットを回転させることによって行われる。一方、マシニングセンタである工作機械1では、工具の取り付けられた主軸が回転され、回転している工具をワークに当接させ、ワークと工具とを相対的に移動させることによって切削などの加工が行われる。マシニングセンタにおける工具の切り替えは、例えば、オートツールチェンジャ(ATC)によって行われる。
【0027】
工作機械1は、一例として、
図1で示されるように、工作機械1の第1のモータに関連する第1の時系列データを取得するための第1のセンサ11と、第1のモータとは異なる第2のモータに関連する第2の時系列データを取得するための第2のセンサ12とを有していてもよい。モータに関連する時系列データとは、例えば、モータの回転に関連する時系列データであってもよい。工作機械1の第1及び第2のモータは、例えば、主軸を回転させるスピンドルモータであってもよく、ワークまたは工具を移動させるためのサーボモータであってもよい。スピンドルモータは、例えば、ワークを回転させてもよく、ミーリング加工等で用いられる工具を回転させてもよい。また、サーボモータは、例えば、X軸、Y軸、Z軸、A軸、B軸、C軸などのサーボモータであってもよい。本実施の形態では、第1の時系列データが、電流計である第1のセンサ11によって取得された、主軸を回転させる主軸モータの電流の時系列データであり、第2の時系列データが、電流計である第2のセンサ12によって取得された、ワークまたは工具を移動させるためのサーボモータの電流の時系列データである場合について主に説明するが、後述するように、第1及び第2の時系列データは、それら以外の時系列データであってもよい。また、第1の時系列データのみについて異常の検出を行う場合には、第2の時系列データは取得されなくてもよい。この場合には、工作機械1は、第2のセンサ12を有していなくてもよい。また、3個以上の時系列データについて異常の検出を行う場合には、工作機械1は、3個以上の時系列データをそれぞれ取得するための3個以上のセンサを有していてもよい。工作機械1において取得される2以上の時系列データは、同期していることが好適である。本実施の形態では、第1の時系列データについてのみ異常の検出が行われる場合について主に説明し、第1及び第2の時系列データについて異常の検出が行われる場合については後述する。
【0028】
異常検出装置2は、受付部21と、記憶部22と、取得部23と、処理部24と、異常検出部25と、出力部26とを備える。異常検出装置2は、例えば、パーソナルコンピューターなどの汎用の装置であってもよく、時系列データを用いて異常の検出を行うための専用の装置であってもよい。
【0029】
受付部21は、工作機械1における第1のモータに関連する第1の時系列データを受け付ける。受付部21は、一例として、工作機械1における第2のモータに関連する第2の時系列データをも受け付けてもよい。受け付けられた第1及び第2の時系列データは、記憶部22に蓄積されてもよい。受付部21は、第1及び第2の時系列データを、例えば、リアルタイムで受け付けてもよく、一定または不定の時間間隔ごとに受け付けてもよい。第1及び第2の時系列データがリアルタイムで受け付けられる場合には、例えば、工作機械1から各時点の信号を受け付けて記憶部22に蓄積することによって、記憶部22において、第1及び第2の時系列データが構成されてもよい。この場合であっても、受付部21によって、第1及び第2の時系列データを構成する各信号が繰り返して受け付けられるため、結果として、受付部21によって第1及び第2の時系列データが受け付けられたことになる。
【0030】
受付部21は、例えば、有線または無線の通信回線を介して送信された情報を受信してもよい。本実施の形態では、工作機械1から送信された第1及び第2の時系列データが受付部21で受信される場合について主に説明する。なお、受付部21は、受け付けを行うためのデバイス(例えば、モデムやネットワークカードなど)を含んでもよく、または含まなくてもよい。また、受付部21は、ハードウェアによって実現されてもよく、または所定のデバイスを駆動するドライバ等のソフトウェアによって実現されてもよい。
【0031】
記憶部22では、第1及び第2の時系列データが記憶される。記憶部22では、それ以外の情報が記憶されてもよい。例えば、第1及び第2の時系列データから取得された基準時系列データや、検出対象時系列データなどが記憶部22で記憶されてもよい。記憶部22は、不揮発性の記録媒体によって実現されることが好適であるが、揮発性の記録媒体によって実現されてもよい。記録媒体は、例えば、半導体メモリや磁気ディスクなどであってもよい。
【0032】
図3は、主軸モータの電流である第1の時系列データを示す波形図である。
図3において、横軸は時間であり、縦軸は電流である。
図3で示される波形は、主軸の加速または減速に応じたピークを含んでいる。
図3では、第1の時系列データが1サイクル分の時系列データである場合について示しているが、第1の時系列データは、さらに長い時系列データであってもよいことは言うまでもない。上記したように、期間PE1~PE4は、それぞれ加工区間に対応している。加工区間は、例えば、ワークに1つ以上の工具を用いた切削加工が連続して行われる期間であってもよい。また、加工区間の間の非加工区間において、工作機械1では、工具の切り替えが行われる。
【0033】
取得部23は、第1の時系列データから、工作機械1において繰り返される加工の1サイクルに応じた基準となる基準時系列データと、加工の1サイクルに応じた異常の検出対象となる検出対象時系列データとを取得する。取得部23は、第1の時系列データに含まれる各1サイクルの範囲を特定できるものとする。ここで、1サイクルは、工作機械1において、加工対象に対する複数の工程を有する加工の開始から終了までの期間である。取得部23は、例えば、第1の時系列データにおいて、1サイクルの開始時点を特定し、その開始時点からあらかじめ決められた時間後である1サイクルの終了時点を特定することによって、1サイクルの範囲を特定してもよい。1サイクルの開始時点の特定は、一例として、主軸モータが回転を始めた時点を特定することによって行われてもよい。そして、取得部23は、特定した1サイクルの範囲に応じた時系列データを、第1の時系列データから抽出することによって、基準時系列データや検出対象時系列データを取得してもよい。
【0034】
取得部23は、例えば、第1の時系列データにおいて、先頭から1サイクルごとに時系列データを取得してもよい。そして、工具の摩耗の異常が検出される場合には、第1の時系列データの1番目の1サイクルに対応する時系列データが基準時系列データとなり、2番目以降の最新の1サイクルに対応する時系列データが検出対象時系列データとなってもよい。工具の破損の異常が検出される場合には、第1の時系列データのN番目の1サイクルに対応する時系列データが、基準時系列データとなり、N+1番目の1サイクルに対応する時系列データが、検出対象時系列データとなってもよい。Nは1以上の整数である。このようにすることで、工具の摩耗の影響を受けることなく、工具の破損を検出することができるようになる。なお、基準時系列データや検出対象時系列データは、適宜、記憶部22に蓄積されてもよい。例えば、破損の異常が検出される場合には、第1の時系列データのN+1番目の1サイクルに対応する検出対象時系列データが、次の破損の異常の検出時には、基準時系列データとして用いられることになる。したがって、取得部23は、第1の時系列データのN+1番目の1サイクルに対応する検出対象時系列データを取得した後に、そのN+1番目の1サイクルに対応する時系列データを記憶部22に蓄積し、次の破損の検出時には、そのN+1番目の1サイクルに対応する時系列データを、記憶部22から基準時系列データとして読み出してもよい。このように、基準時系列データの取得は、例えば、基準時系列データの記憶部22からの読み出しであってもよい。
【0035】
処理部24は、第1の時系列データから取得された基準時系列データ及び検出対象時系列データを、各時間のデータ間の距離の総和が、あらかじめ決められた閾値以下の時間のずれを許容した状態で最小となるように合わせ込む。この閾値は、例えば、非加工区間の急峻な波形については適切に合わせ込むことができると共に、異常が発生している際の加工区間の波形の相違については合わせ込みを行わないような値に設定されることが好適である。閾値は、一例として、1サイクルの中で最も短い加工区間の時間よりも短くてもよい。このような閾値が用いられることによって、例えば、異常が生じた際にも、異常な波形に合わせ込むことを避けることができる。閾値は特に限定されないが、例えば、5秒以下であってもよく、3秒以下であってもよく、1秒以下であってもよい。また、この閾値は、例えば、0.1秒以上であってもよく、0.5秒以上であってもよい。以下、この合わせ込みの処理について説明する。
【0036】
基準時系列データをPとし、検出対象時系列データをQとすると、P,Qは、以下のようになる。なお、piは、基準時系列データPにおける時間iのデータであり、qjは、検出対象時系列データQにおける時間jのデータである。時間を示すインデックスi、jは、基準時系列データP、及び検出対象時系列データQにおいて、それぞれi=1,2,…,m、j=1,2,…,nのように、1からmの整数値、及び1からnの整数値を取るものとする。m、nは、それぞれ1以上の整数である。なお、i、jは、大きい値ほど、後の時間になるものとする。基準時系列データP及び検出対象時系列データQは、両方とも1サイクルに応じた時系列データであるため、理想的には、両者に含まれるデータの個数は同じになるが(すなわち、m=n)、実際には、数個程度ずれることもある(すなわち、m≠n)。
P={p1,p2,…,pm}
Q={q1,q2,…,qn}
【0037】
D(P,Q)を、基準時系列データP及び検出対象時系列データQに関する各時間のデータ間の距離が最小となる組み合わせにおける、その距離の総和とする。ただし、その総和は、あらかじめ決められた閾値以下の時間のずれを許容した状態で算出されるものとする。すなわち、その閾値以下の時間のずれの合わせ込みが、基準時系列データP及び検出対象時系列データQについて行われることになる。また、基準時系列データP及び検出対象時系列データQに関する各時間のデータ間の距離が最小となる組み合わせでは、基準時系列データP及び検出対象時系列データQのそれぞれの時間は、昇順または降順となっているものとする。すなわち、ある組み合わせが(pi,qj)である場合に、他の組み合わせ(pi+1,qα)、(pβ,qj+1)において、α≧jであり、β≧iであるとする。なお、α、βは整数である。そのD(P,Q)は、次式のようになる。
D(P,Q)=f(m,n)
【0038】
ここで、f(i,j)は、次式のようになる。ただし、上記のように、あらかじめ決められた閾値以下の時間のずれのみが許容されるため、│i-j│≦Mである。Mは、1以上の整数である。Mが大きいほど、より大きい時間のずれが許容されることになる。
f(i,j)=d(pi,qj)+min{f(i,j-1),f(i-1,j),f(i-1,j-1)}
【0039】
ここで、d(pi,qj)は、時間iのデータpiと、時間jのデータqjとの距離であり、例えば、d(pi,qj)=│pi-qj│のように、両データの差の絶対値であってもよく、d(pi,qj)=(pi-qj)2のように、両データの差の二乗であってもよく、両データの差の絶対値を引数とするその他の増加関数の値であってもよい。
【0040】
上記のようにして求めた総和D(P,Q)は、次式のように、距離d(pi,qj)をd(p1,q1)からd(pm,qn)まで、合わせ込みによって対応することになったデータの組に対して加算した結果となっている。
D(P,Q)=d(p1,q1)+…+d(pm,qn)
【0041】
上式の右辺に含まれる距離d(pi,qj)において距離が算出されているデータpiとデータqjとの組が、それぞれ合わせ込みによって対応することになったデータの組である。したがって、処理部24による基準時系列データP及び検出対象時系列データQの合わせ込みは、合わせ込みによって対応することになったデータの時間の組(i,j)を取得することであってもよい。
【0042】
上記の合わせ込みの処理について、具体的な波形図を用いて説明する。
図4は、基準時系列データP、及び検出対象時系列データQを示す波形図である。
図5は、基準時系列データPに含まれる各データp
1,p
2,…,p
12、及び検出対象時系列データQに含まれる各データq
1,q
2,…,q
12をマトリックス状に並べた図である。
図4、
図5では、説明の便宜上、m=n=12としているが、実際には、m、nはさらに大きい値である。また、上記したように、m、nは異なっていてもよい。
【0043】
例えば、M=2とすると、│i-j│≦2の時間のずれのみが許容されることになるため、データp
iと、データq
jとは、
図5においてハッチングの行われていない白色の升目に応じた対応のみが許容されることになる。そして、その白色の升目のすべてについて、データ間の距離d(p
i,q
j)を算出し、
図5の白色の升目において、左下の(p
1,q
1)の升目から、右上の(p
12,q
12)の升目までを結ぶルートが通る各升目に対応する距離d(p
i,q
j)の総和の最小値がD(P,Q)となる。その総和の最小値D(P,Q)に含まれる各距離d(p
i,q
j)に対応するデータp
iと、データq
jとの組み合わせを升目に配置された黒丸で示すと、
図5で示されるようになる。また、総和の最小値D(P,Q)に含まれる各距離d(p
i,q
j)に対応するデータの組(p
i,q
j)は、
図4では、両データを細い線分でつなぐことによって示している。
【0044】
図4、
図5の例では、k=1~5では、それぞれデータp
kはデータq
kに対応しており、データp
6はデータq
6、q
7に対応しており、k=7~10では、データp
kはデータq
k+1に対応しており、データp
11、p
12はデータq
12に対応していることが示されている。一例として、このデータp
iと、データq
jとの対応関係を示す情報が、基準時系列データPと検出対象時系列データQとの合わせ込みの結果であってもよい。また、処理部23によって、検出対象時系列データを、基準時系列データに合わせ込むように変更した結果が取得されてもよい。
【0045】
検出対象時系列データを、基準時系列データに合わせ込むように変更するとは、検出対象時系列データに含まれる各データq
jを、そのデータに対応する基準時系列データに含まれるデータp
iの時間のデータとすることであってもよい。例えば、データq
jと、データp
iとが対応している場合には、データq
jを時間iのデータとしてもよい。また、複数のデータq
j,q
j+1がデータp
iに対応している場合には、その複数のデータq
j,q
j+1の代表値を、時間iのデータとしてもよい。代表値は、例えば、平均値、最大値、最小値などであってもよい。また、データq
jが複数のデータp
i,p
i+1に対応している場合には、データq
jを時間iと時間i+1のデータとしてもよい。例えば、
図4、
図5の例では、処理部23は、検出対象時系列データQについて、次のように変更を行ってもよい。ここで、変更後の検出対象時系列データをQ
c={q
c
1,q
c
2,…,q
c
n}としている。
q
c
k=q
k (k=1~5)
q
c
6=q
6及びq
7の代表値
q
c
k=q
k+1 (k=7~11)
q
c
12=q
12
【0046】
なお、基準時系列データと検出対象時系列データとの合わせ込みは、相対的なものであるため、処理部23は、検出対象時系列データを基準時系列データに合わせ込んでもよく、基準時系列データを検出対象時系列データに合わせ込んでもよい。すなわち、合わせ込みのために、検出対象時系列データが時間方向にずらされてもよく、基準時系列データが時間方向にずらされてもよい。また、例えば、検出対象時系列データを基準時系列データに合わせ込んだ場合には、検出対象時系列データの全体の長さが伸縮することがある。そのため、その伸縮後の検出対象時系列データを次の基準時系列データとして用いると、さらに伸縮が行われる可能性があり、サイクルを重ねるごとに時系列データの長さが変化する可能性がある。したがって、基準時系列データとしては、オリジナルの時系列データ、すなわち受付部21で受け付けられた、合わせ込みが行われる前の時系列データが用いられることが好適である。そのため、例えば、検出対象時系列データを基準時系列データに合わせ込む場合であっても、合わせ込み前の検出対象時系列データを記憶部22で記憶しておき、次のサイクルでは、その合わせ込み前の検出対象時系列データを記憶部22から読み出して、基準時系列データとして用いてもよい。
【0047】
異常検出部25は、合わせ込み後の基準時系列データと検出対象時系列データとを比較することによって、その検出対象時系列データの異常を検出する。合わせ込み後の基準時系列データと検出対象時系列データとを比較するとは、例えば、基準時系列データ、及び検出対象時系列データの一方を他方に合わせ込むように変更した後に、両時系列データを比較することであってもよく、両時系列データを比較する際に、合わせ込みの結果によって示される対応関係に応じてデータを比較することであってもよい。
【0048】
上記した基準時系列データP、及び合わせ込み後の検出対象時系列データQcの例の場合には、異常検出部25は、例えば、基準時系列データP={p1,p2,…,pn}と、合わせ込み後の検出対象時系列データQc={qc
1,qc
2,…,qc
n}とを用いて、異常の検出を行ってもよい。異常検出部25は、例えば、工具の摩耗に関する異常を検出してもよく、工具の破損に関する異常を検出してもよく、その両方の異常を検出してもよい。異常検出部25は、例えば、合わせ込み後の基準時系列データと、検出対象時系列データとを比較し、両者の差が閾値より大きい場合に異常を検出し、そうでない場合に異常を検出しなくてもよい。
【0049】
合わせ込み後の2個の時系列データの比較は、例えば、加工の工程ごとに行われてもよい。すなわち、1サイクルを、工具の切り替えタイミングごとに複数に分割した区間ごとに、時系列データに関する異常検出のための比較が行われてもよい。工具の切り替えタイミングは、例えば、工作機械1における工具切替用モータの電流値などを用いて検出されてもよい。例えば、工具切替用モータの電流値によって、工具切替用モータが動作したことを検出した時点を、工具の切替時点としてもよい。工具切替用モータの動作状況を示す時系列データは、例えば、工作機械1において取得され、異常検出装置2に渡されてもよい。そして、異常検出装置2において、その時系列データを用いた工具の切替時点の検出が行われてもよい。また、合わせ込み後の2個の時系列データの比較は、例えば、各時系列データから特徴量を取得し、その取得した特徴量を比較することによって行われてもよい。特徴量は特に限定されないが、例えば、平均値、中央値、最小値、最大値などの代表値であってもよく、分散、標準偏差などの統計量であってもよく、時系列データの波形の形状の特徴を示す情報であってもよく、時系列データの特徴を示すその他の特徴量であってもよい。
【0050】
出力部26は、異常検出部25によって異常が検出された際に、その異常の検出に関する出力を行ってもよい。異常の検出に関する出力は、例えば、異常が検出されたことを示す情報の出力であってもよく、異常の検出に応じて行われる制御に応じた指示、例えば、工作機械1の停止の指示などの出力であってもよい。異常検出部25によって、工具の摩耗の異常と、工具の破損の異常との両方が検出される場合には、例えば、検出された異常の内容に応じて、異なる出力が行われてもよい。一例として、工具の摩耗の異常が検出された場合には、その旨を示す情報が出力され、工具の破損の異常が検出された場合には、工作機械1を停止するためのコマンドが工作機械1に出力されてもよい。
【0051】
ここで、この出力は、例えば、表示デバイス(例えば、液晶ディスプレイや有機ELディスプレイなど)への表示でもよく、所定の機器への通信回線を介した送信でもよく、プリンタによる印刷でもよく、スピーカによる音声出力でもよく、記録媒体への蓄積でもよく、他の構成要素への引き渡しでもよい。なお、出力部26は、出力を行うデバイス(例えば、表示デバイスやプリンタなど)を含んでもよく、または含まなくてもよい。また、出力部26は、ハードウェアによって実現されてもよく、または、それらのデバイスを駆動するドライバ等のソフトウェアによって実現されてもよい。
【0052】
次に、異常検出装置2の動作について
図2のフローチャートを用いて説明する。
(ステップS101)受付部21は、第1の時系列データを受け付けたかどうか判断する。そして、第1の時系列データを受け付けた場合には、ステップS102に進み、そうでない場合には、ステップS103に進む。
【0053】
(ステップS102)受付部21は、受け付けた第1の時系列データを記憶部22に蓄積する。そして、ステップS101に戻る。
【0054】
(ステップS103)取得部23は、異常の検出を行うかどうか判断する。そして、異常の検出を行う場合には、ステップS104に進み、そうでない場合には、ステップS101に戻る。なお、取得部23は、例えば、異常の検出を行うと、所定の期間ごとに判断してもよい。その所定の期間は、例えば、工作機械1において繰り返される加工の周期であってもよい。また、本実施の形態では、異常を検出するタイミングを取得部23が判断する場合について主に説明するが、異常を検出するタイミングは、例えば、異常検出部25によって判断されてもよい。
【0055】
(ステップS104)取得部23は、基準時系列データを取得する。なお、工具の摩耗及び破損の異常の両方が検出される場合には、それぞれの異常検出に対応する基準時系列データが取得されてもよい。
【0056】
(ステップS105)取得部23は、検出対象時系列データを取得する。
【0057】
(ステップS106)処理部24は、基準時系列データと、検出対象時系列データとの合わせ込みを行う。なお、2個の基準時系列データが取得された場合には、それぞれについて、検出対象時系列データとの合わせ込みが行われてもよい。
【0058】
(ステップS107)異常検出部25は、合わせ込み後の基準時系列データと検出対象時系列データとを比較し、異常があるかどうか判断する。そして、異常がある場合には、ステップS108に進み、そうでない場合には、ステップS101に戻る。この異常の検出は、例えば、工具の摩耗の検出であってもよく、工具の破損の検出であってもよく、その両方であってもよい。また、異常検出部25は、合わせ込み後の基準時系列データと、検出対象時系列データとに閾値を超える差がある場合に、異常を検出してもよい。
【0059】
(ステップS108)出力部26は、異常の検出に関する出力を行う。そして、ステップS101に戻る。なお、工具の摩耗の異常が検出された場合には、出力部26は、例えば、工具が摩耗した旨を出力してもよい。また、工具の破損が検出された場合には、出力部26は、工作機械1を停止する旨の指示を工作機械1に出力してもよい。
【0060】
なお、工作機械1において取得された第1の時系列データを異常検出装置2がリアルタイムで受け付ける場合には、ステップS101、S102の処理と、その他の処理とは、並列して行われてもよい。また、
図2のフローチャートにおける処理の順序は一例であり、同様の結果を得られるのであれば、各ステップの順序を変更してもよい。また、
図2のフローチャートにおいて、電源オフや処理終了の割り込みにより処理は終了する。
【0061】
次に、本実施の形態による異常検出装置2の動作について、具体例を用いて説明する。工作機械1における加工が開始されると、それに応じて第1のセンサ11によって第1の時系列データが取得され、その第1の時系列データがリアルタイムで異常検出装置2に送信される。異常検出装置2の受付部21は、その第1の時系列データを受信して、記憶部22に蓄積する(ステップS101、S102)。
【0062】
取得部23は、記憶部22に蓄積された第1の時系列データに2個のサイクルが含まれた時点で、異常の検出を行うと判断し、第1の時系列データから、1番目の1サイクルに対応する基準時系列データと、2番目の1サイクルに対応する検出対象時系列データとを取得して、処理部24に渡す(ステップS103~S105)。基準時系列データと、検出対象時系列データとを受け取ると、処理部24は、両者を合わせ込み、その結果を異常検出部25に渡す(ステップS106)。例えば、
図6で示されるように、この合わせ込みによって、非加工区間における検出対象時系列データQは、基準時系列データPに重なるように時間方向にずらされることになり、両時系列データの差は小さくなる。一方、例えば、
図7で示されるように、この合わせ込みによって、加工区間における検出対象時系列データQは、閾値以下だけ時間方向にずれている箇所は、実線の矢印で示されるように基準時系列データPに重なるように時間方向にずらされることになるが、閾値を超えて時間方向にずれている箇所は、破線の矢印で示されるように基準時系列データPに重なるように時間方向にずらされることはない。したがって、異常が発生しており、基準時系列データPと大きく異なっている検出対象時系列データQの部分については、合わせ込み後においても、両者の差が残ることになるため、異常を適切に検出することができるようになる。
【0063】
異常検出部25は、処理部24から、合わせ込み後の基準時系列データと検出対象時系列データとを受け取ると、異常の検出を行う。この異常の検出は、例えば、工具の摩耗の検出であってもよく、工具の破損の検出であってもよく、その両方であってもよい。工具の摩耗及び破損の少なくとも一方の異常が検出された場合には、異常検出部25は、摩耗及び/または破損の異常がある旨を出力部26に渡す(ステップS107)。異常がある旨を受け取ると、出力部26は、それに応じた出力を行う(ステップS108)。出力部26は、例えば、摩耗の異常が検出された場合に、そのことを工作機械1の操作者に出力してもよい。工具の摩耗について知った操作者は、例えば、工作機械1の工具を交換してもよい。また、出力部26は、例えば、破損の異常が検出された場合に、工作機械1を停止するための指示を工作機械1に出力すると共に、工作機械1の操作者に、破損の異常が検出された旨を出力してもよい。工具の破損に応じて工作機械1が停止されることにより、例えば、工具の破損に応じて想定外の事態が発生することを予防することができる。また、工具の破損について知った操作者は、例えば、工作機械1の工具を交換して、加工を再開させてもよい。
【0064】
以上のように、本実施の形態による異常検出装置2によれば、基準時系列データと検出対象時系列データとを、各時間のデータ間の距離の総和が、あらかじめ決められた閾値以下の時間のずれを許容した状態で最小となるように合わせ込むことによって、非加工区間の急峻な波形に関する閾値以下の時間方向のずれを解消することができると共に、加工区間の閾値より大きい時間方向のずれについては時間方向のずれを解消しないようにすることができる。その結果、非加工区間の波形の違いに応じて異常が生じたと誤検出される可能性を低減することができ、異常を適切に検出することができるようになる。
【0065】
なお、本実施の形態において、処理部24は、取得部23によって取得された基準時系列データ及び検出対象時系列データに対してアップサンプリングを行った後に両時系列データを合わせ込んでもよい。アップサンプリングを行うことによって、アップサンプリング前よりもサンプリング周期をより短くすることによって、基準時系列データPと、検出対象時系列データQとに含まれるデータの個数nを増やすことができ、より精度の高い合わせ込みを実現することができるようになる。特に、非加工区間のように変化の大きい箇所については、アップサンプリングによってデータを補間することによって、基準時系列データPに含まれるデータと、検出対象時系列データQに含まれるデータとの差をより小さくすることができ、両時系列データの合わせ込みによって、より高精度にずれを補正することができるようになる。
【0066】
また、異常検出装置2は、第1の時系列データについての異常の検出のみでなく、第2の時系列データについても異常の検出を行ってもよい。この場合には、異常検出装置2において、第1及び第2の時系列データのそれぞれについて、独立して合わせ込みの処理と、異常検出の処理とが行われてもよい。この場合には、例えば、受付部21は、工作機械1における第2のモータに関連する第2の時系列データをも受け付けてもよい。また、取得部23は、第2の時系列データについても基準時系列データ及び検出対象時系列データを取得してもよい。この処理も、第1の時系列データから基準時系列データ及び検出対象時系列データを取得する際と同様に、第2の時系列データにおいて、1サイクルごとの時系列データの取得を行うことによって行われてもよい。また、処理部24は、第2の時系列データから取得された基準時系列データと検出対象時系列データとについても合わせ込みを行ってもよい。この合わせ込みの処理も、第1の時系列データから取得された基準時系列データと検出対象時系列データとの合わせ込みと同様に行われてもよい。また、異常検出部25は、第2の時系列データから取得された、合わせ込み後の基準時系列データと検出対象時系列データとを比較することによって、その検出対象時系列データの異常をも検出してもよい。この異常の検出も、第1の時系列データから取得された、合わせ込み後の基準時系列データと検出時系列データとを比較することによる異常の検出と同様に行われてもよい。第2の時系列データは、一例として、サーボモータの電流の時系列データであってもよい。この場合には、例えば、サーボモータの電流を用いて、異常を検出することができるようになる。
【0067】
また、第1のモータが主軸を回転させる主軸モータである場合には、第1の時系列データは、第1のモータの電流のデータ、第1のモータのトルクのデータ、工作機械1によるワークの加工時に切削動力計によって測定された、主軸によって回転される回転対象物に当接する非回転物体に掛かる負荷のデータ、第1のモータの非回転部分に取り付けられた加速度センサによって測定された加速度のデータ、非回転物体に取り付けられたAEセンサによって取得された測定データ、及びワークの加工音を含む音響データの少なくともいずれかであってもよい。
【0068】
第1の時系列データが主軸モータのトルクのデータを含む場合には、第1のセンサ11は、例えば、主軸モータの回転軸に設けられたトルクセンサを含んでもよい。モータの電流値とトルクとは相関があるため、トルクを用いても、電流値と同様に主軸の回転状況について把握することができる。また、第1の時系列データが非回転物体に掛かる負荷のデータを含む場合には、第1のセンサ11は、主軸によって回転される回転対象物に当接する非回転物体が固定された切削動力計を含んでもよい。工作機械1がNC旋盤である場合には、例えば、回転対象物はワークであり、非回転物体は工具であってもよい。工作機械1がマシニングセンタである場合には、例えば、回転対象は工具であり、非回転物体はワークであってもよい。切削動力計によって取得された非回転物体に掛かる負荷のデータによって、加工時の主軸の回転状況について把握することができる。また、第1の時系列データが加速度のデータを含む場合には、第1のセンサ11は、主軸モータの非回転部分に取り付けられた加速度センサを含んでもよい。主軸モータの回転に応じて発生する振動を加速度のデータによって検出することができるため、加速度を用いても、主軸の回転状況について把握することができる。また、第1の時系列データがAEセンサによって取得された測定データを含む場合には、第1のセンサ11は、非回転物体に取り付けられたAEセンサを含んでもよい。非回転物体に取り付けられたAEセンサによって取得された測定データによって、加工時の主軸の回転状況について把握することができる。また、第1の時系列データが音響データを含む場合には、第1のセンサ11は、ワークの加工音を取得可能な位置に配置されたマイクロフォンを含んでもよい。ワークの加工音を音響データによって、加工時の主軸の回転状況について把握することができる。このような主軸の回転に関連する第1の時系列データを用いて主軸の回転状況について把握することができるため、そのような第1の時系列データを用いて、異常を検出することができる。
【0069】
また、第1のモータがワークまたは工具を移動させるためのサーボモータである場合には、第1の時系列データは、第1のモータの電流のデータ、第1のモータのトルクのデータ、第1のモータの非回転部分に取り付けられた加速度センサによって測定された加速度のデータ、第1のモータの回転に応じて生じる音を含む音響データの少なくともいずれかであってもよい。
【0070】
第1の時系列データがサーボモータのトルクのデータを含む場合には、第1のセンサ11は、例えば、サーボモータの回転軸に設けられたトルクセンサを含んでもよい。また、第1の時系列データが加速度のデータを含む場合には、第1のセンサ11は、サーボモータの非回転部分に取り付けられた加速度センサを含んでもよい。サーボモータの回転に応じて発生する振動を加速度のデータによって検出することができるため、加速度を用いても、サーボモータの回転状況について把握することができる。また、第1の時系列データが音響データを含む場合には、第1のセンサ11は、第1のモータの回転に応じて生じる音を取得可能な位置に配置されたマイクロフォンを含んでもよい。サーボモータの回転によって生じる音を含む音響データによって、サーボモータの回転状況について把握することができる。また、第1の時系列データを用いてサーボモータの回転状況について把握することができるため、第1の時系列データを異常の検出に用いることができることになる。例えば、工具が摩耗している場合には、加工時にワークまたは工具を移動するためにより大きな力が必要となり、工具が破損している場合には、ワークと工具が当接しなくなるため、ワークまたは工具をより小さい力で移動させることができるようになるため、サーボモータの回転に関連する第1の時系列データを用いることによっても、異常を検出することができる。また、第1の時系列データは、異常の検出に用いることができるのであれば、第1のモータに関連するその他の時系列データであってもよい。
【0071】
なお、第1の時系列データが、工作機械1において主軸を回転させる主軸モータの電流のデータであり、第2の時系列データが、工作機械1のサーボモータの電流のデータである場合には、第1の時系列データを取得する第1のセンサ11のレンジは、第2の時系列データを取得する第2のセンサ12のレンジよりも大きくてもよく、また、第1及び第2のセンサ11,12の分解能は同じであってもよい。すなわち、第1の時系列データのレンジは第2の時系列データのレンジよりも大きくてもよく、また、第1の時系列データの分解能と、第2の時系列データの分解能とは同じであってもよい。センサや時系列データのレンジは、最小値から最大値までの幅である。通常、スピンドルモータの電流のレンジの方が、サーボモータの電流のレンジよりも大きくなる。一例として、スピンドルモータの電流のレンジは、0~120(A)であり、サーボモータの電流のレンジは、0~10(A)であってもよい。この例では、第1の時系列データのレンジが、第2の時系列データのレンジの12倍になってもよい。また、第1及び第2のセンサ11,12の分解能、すなわち第1及び第2の時系列データの分解能は、両者ともにRビットであってもよい。Rは、任意の正の整数であれば特に限定されないが、通常、8以上であることが好適である。このようにすることで、第1及び第2の時系列データに適したレンジにすることができ、適切な異常の検出を行うことができると共に、データ量を増やさないようにすることもできる。なお、データ量が増えても問題ない場合には、一例として、第1及び第2の時系列データのレンジを合わせた上で、第2の時系列データの分解能を第1の時系列データの分解能よりも高くしてもよい。この場合には、一例として、第2の時系列データのレンジも、0~120(A)にされてもよい。一方、第2の時系列データの分解能は、一例として、第1の時系列データの分解能の12倍にされてもよい。
【0072】
また、第2のモータがワークまたは工具を移動させるためのサーボモータである場合には、第2の時系列データは、第2のモータの電流のデータ、第2のモータのトルクのデータ、第2のモータの非回転部分に取り付けられた加速度センサによって測定された加速度のデータ、第2のモータの回転に応じて生じる音を含む音響データの少なくともいずれかであってもよい。第2の時系列データは、例えば、第2のセンサ12によって取得されてもよい。また、第2の時系列データは、異常の検出に用いることができるのであれば、第2のモータに関連するその他の時系列データであってもよい。
【0073】
また、異常検出装置2は、例えば、3個以上の時系列データを受け付けて、それぞれの時系列データについて、合わせ込みや異常の検出を行ってもよい。3個以上の時系列データは、例えば、工作機械1における主軸のモータに関連する時系列データと、工作機械1における複数のサーボモータにそれぞれ関連する複数の時系列データとを含んでいてもよい。
【0074】
また、上記実施の形態において、各処理または各機能は、単一の装置または単一のシステムによって集中処理されることによって実現されてもよく、または、複数の装置または複数のシステムによって分散処理されることによって実現されてもよい。
【0075】
また、上記実施の形態において、各構成要素間で行われる情報の受け渡しは、例えば、その情報の受け渡しを行う2個の構成要素が物理的に異なるものである場合には、一方の構成要素による情報の出力と、他方の構成要素による情報の受け付けとによって行われてもよく、または、その情報の受け渡しを行う2個の構成要素が物理的に同じものである場合には、一方の構成要素に対応する処理のフェーズから、他方の構成要素に対応する処理のフェーズに移ることによって行われてもよい。
【0076】
また、上記実施の形態において、各構成要素が実行する処理に関係する情報、例えば、各構成要素が受け付けたり、取得したり、選択したり、生成したり、送信したり、受信したりした情報や、各構成要素が処理で用いる閾値や数式、アドレス等の情報等は、上記説明で明記していなくても、図示しない記録媒体において、一時的に、または長期にわたって保持されていてもよい。また、その図示しない記録媒体への情報の蓄積を、各構成要素、または、図示しない蓄積部が行ってもよい。また、その図示しない記録媒体からの情報の読み出しを、各構成要素、または、図示しない読み出し部が行ってもよい。
【0077】
また、上記実施の形態において、各構成要素等で用いられる情報、例えば、各構成要素が処理で用いる閾値やアドレス、各種の設定値等の情報がユーザによって変更されてもよい場合には、上記説明で明記していなくても、ユーザが適宜、それらの情報を変更できるようにしてもよく、または、そうでなくてもよい。それらの情報をユーザが変更可能な場合には、その変更は、例えば、ユーザからの変更指示を受け付ける図示しない受付部と、その変更指示に応じて情報を変更する図示しない変更部とによって実現されてもよい。その図示しない受付部による変更指示の受け付けは、例えば、入力デバイスからの受け付けでもよく、通信回線を介して送信された情報の受信でもよく、所定の記録媒体から読み出された情報の受け付けでもよい。
【0078】
また、上記実施の形態において、異常検出装置2に含まれる2以上の構成要素が通信デバイスや入力デバイス等を有する場合に、2以上の構成要素が物理的に単一のデバイスを有してもよく、または、別々のデバイスを有してもよい。
【0079】
また、上記実施の形態において、各構成要素は専用のハードウェアにより構成されてもよく、または、ソフトウェアにより実現可能な構成要素については、プログラムを実行することによって実現されてもよい。例えば、ハードディスクや半導体メモリ等の記録媒体に記録されたソフトウェア・プログラムをCPU等のプログラム実行部が読み出して実行することによって、各構成要素が実現され得る。その実行時に、プログラム実行部は、記憶部や記録媒体にアクセスしながらプログラムを実行してもよい。なお、上記実施の形態における異常検出装置2を実現するソフトウェアは、以下のようなプログラムである。つまり、このプログラムは、コンピュータに、工作機械における主軸の回転に関連する第1の時系列データを受け付けるステップと、第1の時系列データから、工作機械において繰り返される加工の1サイクルに応じた基準となる基準時系列データと、1サイクルに応じた異常の検出対象となる検出対象時系列データとを取得するステップと、第1の時系列データから取得された基準時系列データ及び検出対象時系列データを、各時間のデータ間の距離の総和が、あらかじめ決められた閾値以下の時間のずれを許容した状態で最小となるように合わせ込むステップと、合わせ込み後の基準時系列データと検出対象時系列データとを比較することによって検出対象時系列データの異常を検出するステップと、を実行させるためのプログラムである。
【0080】
なお、プログラムにおいて、情報を受け付けるステップや、情報を出力するステップなどでは、ハードウェアでしか行われない処理、例えば、情報を受け付けるステップにおけるモデムやインターフェースカードなどで行われる処理は少なくとも含まれない。
【0081】
また、このプログラムは、サーバなどからダウンロードされることによって実行されてもよく、所定の記録媒体(例えば、CD-ROMなどの光ディスクや磁気ディスク、半導体メモリなど)に記録されたプログラムが読み出されることによって実行されてもよい。また、このプログラムは、プログラムプロダクトを構成するプログラムとして用いられてもよい。
【0082】
また、このプログラムを実行するコンピュータは、単数であってもよく、複数であってもよい。すなわち、集中処理を行ってもよく、または分散処理を行ってもよい。
【0083】
図8は、上記プログラムを実行して、上記実施の形態による異常検出装置2を実現するコンピュータシステム900の構成を示す図である。
図8において、コンピュータシステム900は、コンピュータ901と、キーボード902と、マウス903と、モニタ904とを備える。コンピュータ901は、CD-ROMドライブ905と、MPU(Micro Processing Unit)911と、ブートアッププログラム等のプログラムを記憶するためのROM912と、MPU911に接続され、アプリケーションプログラムの命令を一時的に記憶すると共に、一時記憶空間を提供するRAM913と、アプリケーションプログラム、システムプログラム、及びデータを記憶するハードディスク914と、MPU911、ROM912等を相互に接続するバス915とを備える。なお、コンピュータ901は、LANやWAN等への接続を提供する図示しないネットワークカードを含んでいてもよい。
【0084】
コンピュータシステム900に、上記実施の形態による異常検出装置2の機能を実行させるプログラムは、CD-ROM921に記憶されて、CD-ROMドライブ905に挿入され、ハードディスク914に転送されてもよい。これに代えて、そのプログラムは、図示しないネットワークを介してコンピュータ901に送信され、ハードディスク914に記憶されてもよい。プログラムは実行の際にRAM913にロードされる。なお、プログラムは、CD-ROM921、またはネットワークから直接、ロードされてもよい。また、CD-ROM921に代えて他の記録媒体(例えば、DVD等)を介して、プログラムがコンピュータシステム900に読み込まれてもよい。
【0085】
プログラムは、コンピュータ901に、上記実施の形態による異常検出装置2の機能を実行させるオペレーティングシステム(OS)、またはサードパーティプログラム等を必ずしも含んでいなくてもよい。プログラムは、制御された態様で適切な機能やモジュールを呼び出し、所望の結果が得られるようにする命令の部分のみを含んでいてもよい。コンピュータシステム900がどのように動作するのかについては周知であり、詳細な説明は省略する。
【0086】
また、以上の実施の形態は、本発明を具体的に実施するための例示であって、本発明の技術的範囲を制限するものではない。本発明の技術的範囲は、実施の形態の説明ではなく、特許請求の範囲によって示されるものであり、特許請求の範囲の文言上の範囲及び均等の意味の範囲内での変更が含まれることが意図される。
【符号の説明】
【0087】
1 工作機械
2 異常検出装置
21 受付部
22 記憶部
23 取得部
24 処理部
25 異常検出部
26 出力部
【手続補正書】
【提出日】2023-07-11
【手続補正1】
【補正対象書類名】特許請求の範囲
【補正対象項目名】全文
【補正方法】変更
【補正の内容】
【特許請求の範囲】
【請求項1】
異常検出装置。