(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2025011620
(43)【公開日】2025-01-24
(54)【発明の名称】ガラス物品の製造装置および製造方法
(51)【国際特許分類】
C03B 5/42 20060101AFI20250117BHJP
【FI】
C03B5/42
【審査請求】未請求
【請求項の数】6
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023113842
(22)【出願日】2023-07-11
(71)【出願人】
【識別番号】000232243
【氏名又は名称】日本電気硝子株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100107423
【弁理士】
【氏名又は名称】城村 邦彦
(74)【代理人】
【識別番号】100120949
【弁理士】
【氏名又は名称】熊野 剛
(74)【代理人】
【識別番号】100168550
【弁理士】
【氏名又は名称】友廣 真一
(72)【発明者】
【氏名】玉村 周作
(72)【発明者】
【氏名】櫻林 達
(57)【要約】
【課題】異物欠陥がガラス物品に発生するのを抑制する。
【解決手段】ガラス物品の製造装置1は、溶融ガラスGmを移送する移送管14と、移送管14を外周側に配置されて移送管14を保持する保持レンガ24とを備える。移送管14は、管状部16と、管状部16の端部16aに設けられたフランジ部17とを備え、管状部16の端部16aおよびフランジ部17は、保持レンガ24から露出している。保持レンガ24から露出する部分において、フランジ部17を内部に収容した状態で、管状部16の端部16aを外側から覆うカバー部材28が設けられている。
【選択図】
図2
【特許請求の範囲】
【請求項1】
溶融ガラスを移送する移送管と、前記移送管の外周側に配置されて前記移送管を保持する保持レンガとを備えるガラス物品の製造装置であって、
前記移送管は、管状部と、管状部の端部に設けられたフランジ部とを備え、前記管状部の端部および前記フランジ部は、前記保持レンガから露出しており、
前記保持レンガから露出する部分において、前記フランジ部を内部に収容した状態で、前記管状部の前記端部を外側から覆うカバー部材を備えることを特徴とするガラス物品の製造装置。
【請求項2】
前記保持レンガを内部に収容して固定するケーシングを備え、
前記カバー部材が、前記ケーシングに沿って配置されている請求項1に記載のガラス物品の製造装置。
【請求項3】
前記移送管は、気体を流通させて前記フランジ部を冷却する冷却装置を有し、
前記フランジ部の冷却に使用された前記気体が、前記カバー部材と前記移送管との間の空間に排出される請求項1又は2に記載のガラス物品の製造装置。
【請求項4】
前記フランジ部は、第一フランジ部と、前記第一フランジ部と向き合わせて配置された第二フランジ部とを備え、
前記第一フランジ部の冷却に使用された前記気体の排出方向と、前記第二フランジ部の冷却に使用された前記気体の排出方向とが、互いに異なる請求項3に記載のガラス物品の製造装置。
【請求項5】
前記カバー部材が、耐熱布からなる請求項1又は2に記載のガラス物品の製造装置。
【請求項6】
請求項1又は2に記載のガラス物品の製造装置が備える移送管を用いて溶融ガラスを移送する工程を備えるガラス物品の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、板ガラス等のガラス物品の製造装置および製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
ガラス物品の製造装置は、ガラス溶融炉で生成された溶融ガラスを成形装置まで供給するために、溶融ガラスを移送する移送管と、移送管の外周側に配置されて移送管を保持する保持レンガとを備える(例えば特許文献1、2を参照)。通常、ガラス物品の製造装置は、移送管と保持レンガとからなる組を複数組備えており、隣接する各組の移送管の端部同士が連結された構成とされている。
【0003】
各移送管は、管状部と、管状部の端部に設けられたフランジ部とを備える。管状部の長手方向の中間部は、保持レンガによって周囲が囲まれている。一方、管状部の長手方向の端部およびフランジ部は、保持レンガによって周囲が囲まれることなく保持レンガから露出している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2014-19629号公報
【特許文献2】特開2019-108258号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、移送管のうち、管状部の端部およびフランジ部が保持レンガから露出することに起因して、製造されるガラス物品で異物欠陥(例えば酸化スズブツ)が発生する場合がある。
【0006】
ここで、異物欠陥の発生原因は、次のように推測される。つまり、保持レンガから露出した管状部の端部およびフランジ部に対応する位置において、移送管の内部に空気層が形成される場合がある。そして、この空気層には、移送管の内部を移送される溶融ガラスから一部の成分(例えばSnO2)が揮発する場合がある。しかしながら、保持レンガから露出した移送管の端部およびフランジ部は、特に冬場などでは外気によって冷却されやすい。その結果、空気層に揮発したSnO2等の成分が冷却固化して溶融ガラスに混入し、酸化スズブツ等の異物欠陥がガラス物品に発生すると考えられる。なお、SnO2は、例えば、清澄剤として溶融ガラス中に添加される。
【0007】
本発明は、異物欠陥がガラス物品に発生するのを抑制することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
(1) 上記の課題を解決するために創案された本発明は、溶融ガラスを移送する移送管と、移送管の外周側に配置されて移送管を保持する保持レンガとを備えるガラス物品の製造装置であって、移送管は、管状部と、管状部の端部に設けられたフランジ部とを備え、管状部の端部およびフランジ部は、保持レンガから露出しており、保持レンガから露出する部分において、フランジ部を内部に収容した状態で、管状部の端部を外側から覆うカバー部材を備えることを特徴とする。
【0009】
このようにすれば、保持レンガから露出した移送管の管状部およびフランジ部が、カバー部材によって保温される。そのため、保持レンガから露出した移送管の管状部およびフランジ部の外気による冷却を抑制し、ガラス物品に異物欠陥が発生するのを抑制できる。
【0010】
(2) 上記(1)の構成において、保持レンガを内部に収容して固定するケーシングを備え、カバー部材が、ケーシングに沿って配置されていることが好ましい。
【0011】
このようにすれば、カバー部材を容易に配置することができる。また、カバー部材と移送管との間に適度な空間を形成することができる。
【0012】
(3) 上記(1)又は(2)の構成において、移送管は、気体を流通させてフランジ部を冷却する冷却装置を有し、フランジ部の冷却に使用された気体が、カバー部材と移送管との間の空間に排出されることが好ましい。
【0013】
このようにすれば、冷却装置による冷却により、フランジ部の熱損耗を抑制できる。また、フランジ部の冷却に使用された気体は、比較的高温になる。そのため、フランジ部の冷却に使用された気体をカバー部材と移送管との間の空間に排出すると、保持レンガから露出した移送管の管状部およびフランジ部の保温効果を高めることができる。
【0014】
(4) 上記(3)の構成において、フランジ部は、第一フランジ部と、第一フランジ部と向き合わせて配置された第二フランジ部とを備え、第一フランジ部の冷却に使用された気体の排出方向と、第二フランジ部の冷却に使用された気体の排出方向とが、互いに異なることが好ましい。
【0015】
このようにすれば、カバー部材と移送管との間の空間の温度が均一になりやすく、保持レンガから露出した移送管の管状部およびフランジ部の保温効果が安定する。
【0016】
(5) 上記(1)~(4)のいずれかの構成において、カバー部材が、耐熱布からなることが好ましい。
【0017】
このようにすれば、カバー部材に適度な通気性を確保できるため、外気の流入を防止しながら、冷却に使用された気体をカバー部材の外側に排出できる。そのため、カバー部材と移送管との間の空間に、冷却に使用された気体が過剰に供給される事態を防止できる。
【0018】
(6) 上記の課題を解決するために創案された本発明は、ガラス物品の製造方法であって、上記(1)~(5)のいずれかの構成を備えたガラス物品の製造装置が備える移送管を用いて溶融ガラスを移送する工程を備えることを特徴とする。
【0019】
このようにすれば、既に述べた対応する構成と同様の作用効果を享受できる。
【発明の効果】
【0020】
本発明によれば、異物欠陥がガラス物品に発生するのを抑制できる。
【図面の簡単な説明】
【0021】
【
図1】本発明の第一実施形態に係るガラス物品の製造装置を示す側面図である。
【
図2】第一移送管および第二移送管の連結部周辺を示す断面図である。
【
図7】本発明の第二実施形態に係るガラス物品の製造装置の隣接する移送管の連結部周辺を示す断面図である。
【
図8】本発明の第三実施形態に係るガラス物品の製造装置の隣接する移送管の連結部周辺を示す断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0022】
以下、本発明を実施するための形態について図面を参照しながら説明する。なお、各実施形態において対応する構成要素には同一符号を付すことにより、重複する説明を省略する場合がある。各実施形態において構成の一部分のみを説明している場合、当該構成の他の部分については、先行して説明した他の実施形態の構成を適用することができる。また、各実施形態の説明において明示している構成の組み合わせばかりではなく、特に組み合わせに支障が生じなければ、明示していなくても複数の実施形態の構成同士を部分的に組み合わせることができる。
【0023】
(第一実施形態)
図1に示すように、第一実施形態に係るガラス物品の製造装置1は、上流端に配置されてガラス原料を加熱して溶融ガラスGmを生成する溶融炉2と、溶融炉2から流出した溶融ガラスGmを下流側に向かって移送する移送装置3と、移送装置3から供給される溶融ガラスGmを用いてガラスリボンGrを成形する成形装置4とを備える。
【0024】
移送装置3は、上流側から順に、清澄槽5と、撹拌槽6と、ポット7とを備える。清澄槽5の流入部5aは、上流連結パイプ8を介して溶融炉2の流出部2bに連結されている。清澄槽5の流出部5bは、中流連結パイプ9を介して撹拌槽6の流入部6aに連結されている。撹拌槽6の流出部6bは、冷却パイプ10を介してポット7の流入部7aに連結されている。
【0025】
清澄槽5は、溶融炉2で生成された溶融ガラスGmに清澄処理を施すものである。撹拌槽6は、清澄処理を施された溶融ガラスGmを撹拌して均質化処理を施すものである。冷却パイプ10は、均質化処理が施された溶融ガラスGmを冷却してその粘度などの調整を行うものである。ポット7は、冷却された溶融ガラスGmの粘度や流量などのさらなる調整を行うものである。なお、撹拌槽6は、移送装置3の移送経路に複数個を配置してもよい。
【0026】
成形装置4は、オーバーフローダウンドロー法により溶融ガラスGmを流下させて帯状に成形する成形体11と、成形体11に溶融ガラスGmを導く大径の導入パイプ12とを備える。導入パイプ12には、移送装置3のポット7から小径のパイプ13を経て溶融ガラスGmが供給される。
【0027】
帯状に成形されたガラスリボンGrは、徐冷炉を通過した後に切断装置によって所定寸法に切断され、ガラス物品としての板ガラスとされる。板ガラスは、例えば、厚みが0.01~2mmであって、液晶ディスプレイや有機ELディスプレイなどのディスプレイのガラス基板やカバーガラスに利用される。なお、成形装置4は、ストットダウンドロー法などの他のダウンドロー法を実行するものであってもよく、フロート法などのダウンドロー法以外の方法を実行するものであってもよい。
【0028】
板ガラスの材質としては、例えば、ケイ酸塩ガラス、シリカガラス、ホウ珪酸ガラス、ソーダライムガラス、アルミノ珪酸塩ガラス、無アルカリガラス、アルミノシリケートガラスなどが用いられる。
【0029】
無アルカリガラスは、ガラス組成として、質量%で、SiO2 50~70%、Al2O3 12~25%、B2O3 0~12%、Li2O+Na2O+K2O(Li2O、Na2OおよびK2Oの合量) 0~1%未満、MgO 0~8%、CaO 0~15%、SrO 0~12%、BaO 0~15%、SnO2 0.01~1.5%を含有することが好ましい。このようなガラス組成であれば、ディスプレイ用のガラス基板に好適である。
【0030】
アルミノシリケートガラスは、ガラス組成として、質量%で、SiO2 40%~70%、Al2O3 10%~30%、B2O3 0%~3%、Na2O 5%~25%、K2O 0%~5.5%、Li2O 0.1%~10%、MgO 0%~5.5%、P2O5 2%~10%、SnO2 0.01~1.5%を含有することが好ましい。このようなガラス組成であれば、イオン交換性能と耐失透性を高いレベルで両立しやすくなり、化学強化用ガラス、特にディスプレイ用のカバーガラスに好適である。
【0031】
移送装置3の清澄槽5、撹拌槽6、ポット7、上流連結パイプ8、中流連結パイプ9および冷却パイプ10は、いずれも、移送管で構成される。移送装置3の移送経路で隣接する2つの移送管は、端部同士が互いに連結されている。なお、清澄槽5、撹拌槽6、ポット7、上流連結パイプ8、中流連結パイプ9および冷却パイプ10のそれぞれは、一本の移送管で構成されていてもよいが、複数本の移送管を連結して構成されてもよい。以下、これらの移送管について詳細に説明する。
【0032】
図2は、移送装置3の移送経路で隣接する2つの移送管を示す。ここで、上流側に位置する移送管を第一移送管14、下流側に位置する移送管を第二移送管15とする。
図2では、第一移送管14の下流側端部と、第二移送管15の上流側端部との連結部周辺を例示している。
【0033】
第一移送管14および第二移送管15の具体例としては、次のようなものが挙げられる。例えば、(1)第一移送管14が上流連結パイプ8、第二移送管15が清澄槽5である場合、(2)第一移送管14が清澄槽5、第二移送管15が中流連結パイプ9である場合などである。あるいは、清澄槽5、上流連結パイプ8、中流連結パイプ9および冷却パイプ10を複数本の移送管を連結して構成する場合、例えば、第一移送管14が清澄槽5の上流側の一部、第二移送管15が清澄槽5の下流側の一部である場合などである。
【0034】
第一移送管14は、管状部16と、管状部16の長手方向の一端(上流側端部)および他端(下流側端部16a)にそれぞれ設けられたフランジ部(第一フランジ部)17と、電極部18と、フランジ部17を冷却する冷却装置19とを備える。同様に、第二移送管15は、管状部20と、管状部20の長手方向の一端部(上流側端部20a)および他端部(下流側端部)にそれぞれ設けられたフランジ部(第二フランジ部)21と、電極部22と、フランジ部21を冷却する冷却装置23とを備える。
【0035】
管状部16,20は、例えば円管状をなす。管状部16,20は、白金、白金合金、強化白金、強化白金合金などで構成される。溶融ガラスGmは、管状部16,20の内部を下流側へと移送される。
【0036】
フランジ部17,21は、例えば円板状をなす。フランジ部17,21は、管状部16,20の外周部の全周を囲むように形成される。本実施形態では、第一移送管14のフランジ部17は、管状部16の外周部に設けられた円環状の内側フランジ部17aと、内側フランジ部17aの外周部に設けられた円管状の外側フランジ部17bとを備える。第二移送管15のフランジ部21は、管状部16の外周部に設けられた円環状の内側フランジ部21aと、内側フランジ部21aの外周部に設けられた円管状の外側フランジ部21bとを備える。内側フランジ部17a,21aは、白金、白金合金、強化白金、強化白金合金などにより構成される。外側フランジ部17b,21bは、ニッケル、ニッケル合金などにより構成される。
【0037】
電極部18,22は、例えば板状をなす。電極部18,22は、ニッケル、ニッケル合金などにより構成される。本実施形態では、電極部18,22は、フランジ部17,21(外側フランジ部17b,21b)に取り付けられている。本実施形態では、第一移送管14の電極部18は、フランジ部17から上方に突出するように設けられ、第二移送管15の電極部22は、フランジ部21から下方に突出するように設けられている。なお、電極部18,22の突出方向は、特に限定されない。電極部18,22は、後述するカバー部材28を貫通するとともに、カバー部材28の外側で図示しない電線に接続されている。
【0038】
第一移送管14および第二移送管15は、第一移送管14の下流側端部に設けられたフランジ部17と、第二移送管15の上流側端部に設けられたフランジ部21とを互いに向き合わせた状態で連結されている。
【0039】
第一移送管14の管状部16の長手方向の中間部16bは、保持レンガ24によって保持されている。保持レンガ24は、管状部16の外周部の全周を囲むように配置されている。保持レンガ24は、金属製のケーシング25の内部に収容された状態で、ケーシング25に固定されている。一方、第一移送管14の管状部16の下流側端部16aおよびフランジ部17は、保持レンガ24から下流側に突出した状態で、保持レンガ24から露出している。第一移送管14の管状部16の下流側端部16aの長さ(管状部16の露出部の長さ)は、例えば1~50mである。なお、図示しないが、第一移送管14の管状部16の上流側端部および上流側端部に設けられたフランジ部も、保持レンガ24から上流側に突出した状態で、保持レンガ24から露出している。
【0040】
第二移送管15の管状部20の長手方向の中間部20bは、保持レンガ26によって保持されている。保持レンガ26は、管状部20の外周部の全周を囲むように配置されている。保持レンガ26は、金属製のケーシング27の内部に収容されている。一方、第二移送管15の管状部20の上流側端部およびフランジ部21は、保持レンガ26から上流側に突出した状態で、保持レンガ26から露出している。第二移送管15の管状部20の上流側端部の長さ(管状部20の露出部の長さ)は、例えば1~50mmである。なお、図示しないが、第二移送管15の管状部20の下流側端部および下流側端部に設けられたフランジ部も、保持レンガ26から下流側に突出した状態で、保持レンガ26から露出している。
【0041】
保持レンガ24,26から露出した部分において、第一移送管14の管状部16の下流側端部16aと、第二移送管15の管状部20の上流側端部20aとは、カバー部材28によって覆われている。この状態で、カバー部材28は、フランジ部17,21を内部に収容した状態で、管状部16,20の端部16a,20aの全周囲を取り囲むように配置されている。
【0042】
本実施形態では、カバー部材28は、第一移送管14のケーシング25と、第二移送管15のケーシング27との間に架け渡された状態で、それぞれのケーシング25,27に沿って配置されている。より具体的には、カバー部材28は、ケーシング25,27の周方向に沿って巻かれることで配置されている。
【0043】
カバー部材28は、空間Sが間に介在するように、管状部16,20の端部16a,20aおよびフランジ部17,21から離れて配置されている。空間Sは、閉鎖空間である。空間Sへの外気の侵入は、カバー部材28によって防止される。そのため、空間Sによって、管状部16,20の端部16a,20aおよびフランジ部17,21が保温される。したがって、
図3に示すように、保持レンガ24,26から露出した部分において、第一移送管14および第二移送管15の内部に空気層Aが形成されたとしても、空気層Aが外気によって不当に冷却されることがない。その結果、空気層Aの冷却に起因する酸化スズブツ等の異物欠陥が板ガラスに発生するのを抑制できる。なお、空気層Aは、例えば、第一移送管14の管状部16とフランジ部17との連結部の内面や、第二移送管15の管状部20とフランジ部21との連結部の内面が外側に湾曲している場合に形成されやすい。
【0044】
カバー部材28は、金属板、耐熱布などで構成される。ただし、耐熱布の場合、金属板に比べて、空間Sの隙間を埋めやすく保温性を高めやすいという利点がある。耐熱布としては、例えば、ガラスクロスが挙げられる。
【0045】
図4および
図5に示すように、第一移送管14の冷却装置19は、空気等の冷却用の気体Cを流通させる冷却流路29を有する。冷却流路29は、外側フランジ部17bの内部に形成されている。冷却流路29は、互いに独立した流路を構成する第一冷却流路29aおよび第二冷却流路29bを備える。冷却流路29を構成する流路の数や形状は、特に限定されず、フランジ部17の寸法に応じて適宜設定できる。また、冷却流路29は、フランジ部17の内部ではなく、配管などによって表面に形成されていてもよい。
【0046】
第一冷却流路29aおよび第二冷却流路29bは、気体Cの流入口30および流出口31を備える。各冷却流路29a,29bの流入口30は、外側フランジ部17bの上部に設けられている。流入口30の位置は、特に限定されず、外側フランジ部17bの側部又は下部に設けられていてもよい。各冷却流路29a,29bの流入口30には、気体Cを移送する冷却用配管32が接続されている。冷却用配管32は、カバー部材28を貫通するとともに、カバー部材28の外部において図示しない気体供給源に接続されている。
【0047】
各冷却流路29a,29bの流出口31は、外側フランジ部17bの上部に設けられており、フランジ部17の冷却に使用された使用済み気体(排ガス)Cxを上方に噴射する。つまり、流出口31から空間S内に排出される使用済み気体Cxの排出方向は、上向きである。
【0048】
図6に示すように、第二移送管15の冷却装置23は、第一移送管14の冷却装置19と実質的に同じ構成を備える。つまり、第二移送管15の冷却装置23は、外側フランジ部21bの内部に形成され、空気等の冷却用の気体Cを流通させる冷却流路33を有する。冷却流路33は、互いに独立した流路を構成する第一冷却流路33aおよび第二冷却流路33bを備える。冷却流路33を構成する流路の数や形状は、特に限定されず、フランジ部21の寸法に応じて適宜設定できる。また、冷却流路33は、フランジ部21の内部ではなく、配管などによって表面に形成されていてもよい。
【0049】
第一冷却流路33aおよび第二冷却流路33bは、気体Cの流入口34および流出口35を備える。各冷却流路33a,33bの流入口34は、外側フランジ部21bの下部に設けられている。流入口34の位置は、特に限定されず、外側フランジ部21bの側部又は上部に設けられていてもよい。各冷却流路33a,33bの流入口34には、気体Cを移送する冷却用配管36が接続されている。冷却用配管36は、カバー部材28を貫通するとともに、カバー部材28の外部において図示しない気体供給源に接続されている。
【0050】
各冷却流路33a,33bの流出口35は、外側フランジ部21bの下部に設けられており、フランジ部21の冷却に使用された使用済み気体(排ガス)Cxを下方に噴射する。つまり、流出口35から空間S内に排出される使用済み気体Cxの排出方向は、下向きである。したがって、空間S内で、第一移送管14の冷却装置19の使用済み気体Cxの排出方向と、第二移送管15の冷却装置23の使用済み気体Cxの排出方向とが、互いに異なっている。
【0051】
冷却に使用された使用済み気体Cxは、比較的高温となり、外気よりも高温であるため、各冷却装置19,23から空間S内に供給すれば、空間Sの保温性が上がる。その結果、保持レンガ24,26から露出した管状部16,20の端部16a,20aおよびフランジ部17,21の不当な温度低下を抑制できる。空間Sの温度は、例えば、100~500℃であることが好ましい。
【0052】
また、空間S内で、第一移送管14の冷却装置19の使用済み気体Cxの排出方向と、第二移送管15の冷却装置23の使用済み気体Cxの排出方向とが、互いに異なるため、使用済み気体Cxが空間S内に満遍なく充満し、空間Sの保温効果が均一になる。なお、第一移送管14の冷却装置19の使用済み気体Cxの排出方向と、第二移送管15の冷却装置19の使用済み気体Cxの排出方向とは、空間S内で互いに向きが異なっていれば、各排出方向の向きは特に限定されない。
【0053】
さらに、カバー部材28を耐熱布で構成した場合、カバー部材28に適度な通気性が確保される。空間S内に使用済み気体Cxを排出すれば、空間S内の圧力が、カバー部材28の外部の圧力に比べて相対的に高くなりやすい。その結果、カバー部材28を通して、空間S内に排出した使用済み気体Cxをカバー部材28の外部に徐々に排出することができ、空間S内の圧力が過度に上昇するのを防止できる。なお、カバー部材28が通気性を有する場合でも、空間S内の圧力がカバー部材28の外部の圧力に比べて相対的に高い状態では、外気が空間S内に侵入する事態は抑制される。
【0054】
次に、以上のように構成された製造装置1を用いたガラス物品の製造方法を説明する。
【0055】
本製造方法は、溶解工程、溶融ガラス移送工程、成形工程、徐冷工程、切断工程を備える。
【0056】
溶解工程では、溶融炉2内に供給されたガラス原料が加熱され、溶融ガラスGmが生成される。
【0057】
溶融ガラスGmは、SnO2を0.01~1.5質量%で含有することが好ましい。このようにすれば、溶融ガラス移送工程に含まれる清澄工程において、溶融ガラスGmの脱泡が容易となる。
【0058】
溶融ガラス移送工程では、溶融炉2の溶融ガラスGmを、上流連結パイプ8、中流連結パイプ9および冷却パイプ10を介して、清澄槽5、撹拌槽6、ポット7、そして成形体11へと順次移送する。つまり、溶融ガラス移送工程は、清澄工程と、均質化工程と、状態調整工程とを含む。清澄工程では、清澄槽5において、ガラス原料に配合された清澄剤の作用により溶融ガラスGmから気体(泡)が発生する。この気体は、清澄槽5から外部に排出される。均質化工程では、撹拌槽6において、溶融ガラスGmが撹拌されて均質化される。状態調整工程では、冷却パイプ10およびポット7において、溶融ガラスGmの状態(例えば粘度や流量)が調整される。
【0059】
さらに、溶融ガラス移送工程では、
図2および
図5に示すように、保持レンガ24,26から露出した管状部16,20の端部16a,20aおよびフランジ部17,21を保温するカバー部材28が配置されているため、製造される板ガラスに異物欠陥が発生するのを抑制できる。
【0060】
清澄槽5の流出部5bにおける溶融ガラスGmの温度は、清澄槽5の流入部5aにおける溶融ガラスGmの温度よりも高く、例えば1300℃以上となる。つまり、清澄槽5の流出部5bにおいて、溶融ガラスGmの温度が高温となって異物欠陥の発生原因となるSnO2等の揮発が特に生じやすい。したがって、清澄槽5と、中流連結パイプ9との連結部周辺にカバー部材28を配置することが好ましい。
【0061】
成形工程では、溶融ガラス移送工程を経た溶融ガラスGmが成形体11に供給される。成形体11は、溶融ガラスGmをオーバーフロー溝から溢れ出させ、その側壁面に沿って流下させる。成形体11は、流下させた溶融ガラスGmを下端部で合流させることで、帯状のガラスリボンGrを成形する。
【0062】
その後、帯状のガラスリボンGrは、徐冷炉による徐冷工程、切断装置による切断工程を経て、所定寸法の板ガラスが切り出される。以上により、異物欠陥に起因する欠陥が極めて少ない高品質な板ガラスが完成する。
【0063】
(第二実施形態)
図7に示すように、本発明の第二実施形態に係るガラス物品の製造装置1および製造方法では、カバー部材28によって形成された空間S内で、第一移送管14の冷却装置19の使用済み気体Cxの排出方向と、第二移送管15の冷却装置23の使用済み気体Cxの排出方向とが、同じ向き(図示例は上向き)となっている。このような場合でも、空間S内の保温性は向上し、保持レンガ24,26から露出した管状部16,20の端部16a,20aおよびフランジ部17,21の不当な温度低下を抑制できる。
【0064】
(第三実施形態)
図8に示すように、本発明の第三実施形態に係るガラス物品の製造装置1および製造方法では、カバー部材28によって形成された空間S内で、第一移送管14の外周面および第二移送管15の外周面に、保温部材としてのブランケット37を配置している。このようにすれば、ブランケット37によって、保持レンガ24,26から露出した管状部16,20の端部16a,20aおよびフランジ部17,21の保温性をさらに高めることができる。なお、ブランケット37は、第一移送管14の外周面、および、第二移送管15の外周面のうちの一方のみに配置してもよい。
【0065】
ブランケット37としては、例えば、耐火性繊維材料からなるブランケットを使用できる。具体的には、1000℃以上(好ましくは1300℃以上)の温度に耐え得る耐熱性を備え、かつ、伸縮性を有するブランケットを使用できる。一例を挙げると、アルミナ繊維、シリカ繊維、ジルコニア繊維、および、これらの混紡繊維等で構成されたブランケットを使用できる。
【0066】
なお、本発明は、上記実施形態の構成に限定されるものではなく、上記した作用効果に限定されるものでもない。本発明は、本発明の要旨を逸脱しない範囲で種々の変更が可能である。
【0067】
上記の実施形態において、第一移送管14の冷却装置19の使用済み気体Cxおよび第二移送管15の冷却装置23の使用済み気体Cxの少なくとも一方を、配管等を用いてカバー部材28の外部に直接排出するようにしてもよい。換言すれば、冷却装置19,23の使用済み気体Cxは、空間Sに供給しなくてもよい。つまり、カバー部材28によって、外気を遮断するだけでも、保持レンガ24,26から露出した管状部16,20の端部16a,20aおよびフランジ部17,21の不当な温度低下を抑制できる。
【0068】
上記の実施形態において、第一移送管14の電極部18および第二移送管15の電極部22の少なくとも一方を冷却する冷却装置を設けてもよい。電極部18,22の冷却装置は、フランジ部17,21の冷却装置を兼ねていてもよい。例えば、フランジ部17,21に気体Cを供給するための冷却用配管を電極部18,22の表面に密着させれば、電極部18,22およびフランジ部17,21を同時に冷却することができる。
【0069】
上記の実施形態では、ガラス物品が板ガラスである場合を説明したが、これに限定されない。ガラス物品は、例えば、帯状のガラスリボンをロール状に巻き取ったガラスロール、光学ガラス部品、ガラス管、ガラスブロック、ガラス繊維などであってもよい。
【符号の説明】
【0070】
1 製造装置
2 溶融炉
3 移送装置
4 成形装置
5 清澄槽
6 撹拌槽
7 ポット
8 上流連結パイプ
9 中流連結パイプ
10 冷却パイプ
11 成形体
14 第一移送管
15 第二移送管
16,20 管状部
17,21 フランジ部
18,22 電極部
19,23 各冷却装置
24,26 保持レンガ
25,27 ケーシング
28 カバー部材
29,33 冷却流路
30,34 流入口
31,35 流出口
32,36 冷却用配管
37 ブランケット
C 気体
Cx 使用済み気体(排ガス)
Gm 溶融ガラス
Gr ガラスリボン
S 空間