(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2025011629
(43)【公開日】2025-01-24
(54)【発明の名称】セメント組成物の流動性向上システム、及び、セメント組成物の流動性向上方法
(51)【国際特許分類】
B28C 5/48 20060101AFI20250117BHJP
B01F 23/40 20220101ALI20250117BHJP
B01F 35/222 20220101ALI20250117BHJP
B01F 35/93 20220101ALI20250117BHJP
B01F 31/441 20220101ALI20250117BHJP
B01F 35/90 20220101ALI20250117BHJP
B01F 31/87 20220101ALI20250117BHJP
B01F 31/86 20220101ALI20250117BHJP
B01F 101/28 20220101ALN20250117BHJP
【FI】
B28C5/48
B01F23/40
B01F35/222
B01F35/93
B01F31/441
B01F35/90
B01F31/87
B01F31/86
B01F101:28
【審査請求】未請求
【請求項の数】13
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023113853
(22)【出願日】2023-07-11
(71)【出願人】
【識別番号】000000549
【氏名又は名称】株式会社大林組
(71)【出願人】
【識別番号】000124959
【氏名又は名称】株式会社カイジョー
(74)【代理人】
【識別番号】110000176
【氏名又は名称】弁理士法人一色国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】太田 健司
(72)【発明者】
【氏名】桜井 邦昭
(72)【発明者】
【氏名】藤原 達央
【テーマコード(参考)】
4G035
4G036
4G037
4G056
【Fターム(参考)】
4G035AB43
4G035AE01
4G035AE13
4G035AE15
4G036AB02
4G036AB22
4G037CA03
4G037CA04
4G037EA10
4G056AA06
4G056CC31
(57)【要約】
【課題】セメント組成物の流動性を効率的に短時間で向上させつつ、流動性の持続性を高めること。
【解決手段】骨材を有する流動状態のセメント組成物を収容する第1収容部、及び、媒体を収容する第2収容部を備え、所定方向に長さを有する収容器と、前記セメント組成物に振動を付与する振動付与装置と、前記媒体を介して前記セメント組成物に超音波を照射する超音波照射装置と、を有することを特徴とするセメント組成物の流動性向上システム。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
骨材を有する流動状態のセメント組成物を収容する第1収容部、及び、媒体を収容する第2収容部を備え、所定方向に長さを有する収容器と、
前記セメント組成物に振動を付与する振動付与装置と、
前記媒体を介して前記セメント組成物に超音波を照射する超音波照射装置と、
を有することを特徴とするセメント組成物の流動性向上システム。
【請求項2】
請求項1に記載のセメント組成物の流動性向上システムであって、
前記セメント組成物は、前記第1収容部の前記所定方向の一方側から他方側へ流れ、
前記超音波照射装置は、前記第1収容部の前記所定方向の前記一方側に対応する位置から前記他方側に対応する位置まで、連続して又は間欠的に設けられていることを特徴とするセメント組成物の流動性向上システム。
【請求項3】
請求項1又は2に記載のセメント組成物の流動性向上システムであって、
前記セメント組成物は、前記第1収容部の前記所定方向の一方側から他方側へ流れ、
前記振動付与装置は、前記第1収容部の前記所定方向の前記一方側に設けられていることを特徴とするセメント組成物の流動性向上システム。
【請求項4】
請求項1又は2に記載のセメント組成物の流動性向上システムであって、
流動状態の前記セメント組成物を前記第1収容部に供給する供給装置と、
前記第1収容部から前記セメント組成物を受け入れて打設場所に送り出す送出装置と、
を有することを特徴とするセメント組成物の流動性向上システム。
【請求項5】
請求項4に記載のセメント組成物の流動性向上システムであって、
前記第1収容部は、前記所定方向における前記供給装置側から前記送出装置側に向かって下方に傾斜していることを特徴とするセメント組成物の流動性向上システム。
【請求項6】
請求項4に記載のセメント組成物の流動性向上システムであって、
前記第1収容部の前記セメント組成物を、前記所定方向における前記供給装置側から前記送出装置側に向かって搬送する搬送機構を有することを特徴とするセメント組成物の流動性向上システム。
【請求項7】
請求項1又は2に記載のセメント組成物の流動性向上システムであって、
前記振動付与装置は、振動子によって振動し、且つ前記セメント組成物の面方向に広がる治具を有することを特徴とするセメント組成物の流動性向上システム。
【請求項8】
請求項1又は2に記載のセメント組成物の流動性向上システムであって、
前記媒体を冷却する冷却装置と、前記媒体を循環する循環装置とのうちの、少なくとも一方を有することを特徴とするセメント組成物の流動性向上システム。
【請求項9】
請求項1又は2に記載のセメント組成物の流動性向上システムであって、
前記媒体は脱気液体であることを特徴とするセメント組成物の流動性向上システム。
【請求項10】
骨材を有する流動状態のセメント組成物に振動を付与する振動付与工程と、
媒体を介して前記セメント組成物に超音波を照射する超音波照射工程と、
を有することを特徴とするセメント組成物の流動性向上方法。
【請求項11】
請求項10に記載のセメント組成物の流動性向上方法であって、
前記超音波照射工程は、前記振動付与工程と重複する期間を有することを特徴とするセメント組成物の流動性向上方法。
【請求項12】
請求項10又は11に記載のセメント組成物の流動性向上方法であって、
前記超音波照射工程において、超音波を照射する時間は600秒以下であることを特徴とするセメント組成物の流動性向上方法。
【請求項13】
請求項10又は11に記載のセメント組成物の流動性向上方法であって、
前記振動付与工程において、前記セメント組成物に振動を付与する時間は60秒未満であることを特徴とするセメント組成物の流動性向上方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、セメント組成物の流動性向上システム、及び、セメント組成物の流動性向上方法に関する。
【背景技術】
【0002】
特許文献1には、フレッシュコンクリート、フレッシュモルタル及びフレッシュセメントペーストのいずれかである材料に対して、水等の媒体を介して超音波を照射することで、材料の流動性が向上することを確認する試験が開示されている。また、超音波を照射しない材料に比べて、超音波照射を行った材料の方が、フロー性状が維持される試験結果も示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
特許文献1に開示されている試験では1.5リットル程度の少量の材料(セメントペースト)を対象としている。そのため、超音波照射装置の出力が100~600W程度と小さく、超音波の照射時間も3~5分程度と短くとも、材料の流動性を向上させることができていた。しかし、実際の施工現場等では多量のセメント組成物の流動性を向上させなければならない。そのためには非常に大きな超音波のエネルギーが必要となり、超音波照射装置を大型化したり、長時間に亘り超音波を照射したりしなければならない。そのため、セメント組成物に超音波を照射することで流動性の持続性を高められるものの、現実に実装することが困難であった。
【0005】
本発明は、かかる課題に鑑みなされたものであって、その主な目的は、セメント組成物の流動性を効率的に短時間で向上させつつ、流動性の持続性を高めることである。
【課題を解決するための手段】
【0006】
かかる目的を達成するために本発明は、
骨材を有する流動状態のセメント組成物を収容する第1収容部、及び、媒体を収容する第2収容部を備え、所定方向に長さを有する収容器と、
前記セメント組成物に振動を付与する振動付与装置と、
前記媒体を介して前記セメント組成物に超音波を照射する超音波照射装置と、
を有することを特徴とするセメント組成物の流動性向上システムである。
本発明の他の特徴については、本明細書の記載により明らかにする。
【発明の効果】
【0007】
本発明によれば、セメント組成物の流動性を効率的に短時間で向上させつつ、流動性の持続性を高めることができる。
【図面の簡単な説明】
【0008】
【
図2】流動性向上システム1の一部の概略断面図である。
【
図4】
図4Aは試験装置40の概略断面図であり、
図4Bは試験装置40の概略上面図である。
【
図5】セメントペーストを試料とした試験1の結果を示すグラフである。
【
図6】モルタルを試料とした試験2の結果を示すグラフである。
【
図7】モルタルを試料とした試験2の結果を示すグラフである。
【
図8】コンクリートを試料とした試験3の結果を示すグラフである。
【
図9】流動性向上システム1の変形例の説明図である。
【
図11】セメント組成物2の流動性向上方法のフローを示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0009】
以下、本発明の好適な実施形態について詳細に説明する。ただし、本発明は以下の実施形態に限定されるものではない。
(態様1)
骨材を有する流動状態のセメント組成物を収容する第1収容部、及び、媒体を収容する第2収容部を備え、所定方向に長さを有する収容器と、前記セメント組成物に振動を付与する振動付与装置と、前記媒体を介して前記セメント組成物に超音波を照射する超音波照射装置と、を有することを特徴とするセメント組成物の流動性向上システムである。
【0010】
態様1によれば、振動付与装置によりセメント組成物の凝集を解きつつ、セメント組成物に超音波を付与できる。したがって、振動付与装置と超音波照射装置の一方のみを作用させる場合に比べて、セメント組成物の流動性を効率的に短時間で向上させることができる。また、セメント組成物に超音波を付与することで、流動性の持続性を高めることができる。
【0011】
(態様2)態様1に記載のセメント組成物の流動性向上システムであって、
前記セメント組成物は、前記第1収容部の前記所定方向の一方側から他方側へ流れ、前記超音波照射装置は、前記第1収容部の前記所定方向の前記一方側に対応する位置から前記他方側に対応する位置まで、連続して又は間欠的に設けられている。
【0012】
態様2によれば、セメント組成物が所定方向に流れて移動する期間に、超音波を付与でき、流動性を向上させることができる。
【0013】
(態様3)態様1又は2に記載のセメント組成物の流動性向上システムであって、
前記セメント組成物は、前記第1収容部の前記所定方向の一方側から他方側へ流れ、前記振動付与装置は、前記第1収容部の前記所定方向の前記一方側に設けられている。
【0014】
態様3によれば、セメント組成物が流れ始めた段階で、振動付与装置による振動を付与できる。ゆえに、凝集が解かれたセメント組成物に超音波を付与しやすくなり、より効率的にセメント組成物の流動性を向上させることができる。
【0015】
(態様4)態様1~3の何れかに記載のセメント組成物の流動性向上システムであって、
流動状態の前記セメント組成物を前記第1収容部に供給する供給装置と、前記第1収容部から前記セメント組成物を受け入れて打設場所に送り出す送出装置と、を有する。
【0016】
態様4によれば、セメント組成物が供給装置から送出装置に移動する期間を利用して、セメント組成物の流動性を向上させることができる。
【0017】
(態様5)態様4に記載のセメント組成物の流動性向上システムであって、
前記第1収容部は、前記所定方向における前記供給装置側から前記送出装置側に向かって下方に傾斜している。
【0018】
態様5によれば、セメント組成物の重力によってセメント組成物を所定方向に流すことができる。
【0019】
(態様6)態様4又は5に記載のセメント組成物の流動性向上システムであって、
前記第1収容部の前記セメント組成物を、前記所定方向における前記供給装置側から前記送出装置側に向かって搬送する搬送機構を有する。
【0020】
態様6によれば、セメント組成物を所定方向に搬送できる。セメント組成物が所定方向に流れる速度を調整しやすく、振動や超音波を付与する時間を調整しやすくなる。
【0021】
(態様7)態様1~6の何れかに記載のセメント組成物の流動性向上システムであって、
前記振動付与装置は、振動子によって振動し、且つ前記セメント組成物の面方向に広がる治具を有する。
【0022】
態様7によれば、面方向の広範囲に亘るセメント組成物に、治具を介して、振動子の振動を付与できる。ゆえに、セメント組成物の流動性をより確実に向上させることができる。
【0023】
(態様8)態様1~7の何れかに記載のセメント組成物の流動性向上システムであって、
前記媒体を冷却する冷却装置と、前記媒体を循環する循環装置とのうちの、少なくとも一方を有する。
【0024】
態様8によれば、媒体の温度を下げたり、超音波照射装置の稼働熱による媒体の温度上昇を抑制したりできる。ゆえに、媒体の密度を高めることができ、超音波をより効率的にセメント組成物に伝搬できる。
【0025】
(態様9)態様1~8の何れかに記載のセメント組成物の流動性向上システムであって、
前記媒体は脱気液体である。
【0026】
態様9によれば、媒体の密度を高めることができ、超音波をより効率的にセメント組成物に伝搬できる。
【0027】
(態様10)
骨材を有する流動状態のセメント組成物に振動を付与する振動付与工程と、媒体を介して前記セメント組成物に超音波を照射する超音波照射工程と、を有することを特徴とするセメント組成物の流動性向上方法である。
【0028】
態様10によれば、振動付与装置によりセメント組成物の凝集を解きつつ、セメント組成物に超音波を付与できる。したがって、振動付与工程と超音波照射工程の一方のみを実施する場合に比べて、セメント組成物の流動性を効率的に短時間で向上させることができる。また、セメント組成物に超音波を付与することで、流動性の持続性を高めることができる。
【0029】
(態様11)態様10に記載のセメント組成物の流動性向上方法であって、
前記超音波照射工程は、前記振動付与工程と重複する期間を有する。
【0030】
態様11によれば、振動付与工程により凝集が解かれているセメント組成物に超音波を照射できる。ゆえに、セメント組成物の流動性をより効率的に向上させることができる。
【0031】
(態様12)態様10又は11に記載のセメント組成物の流動性向上方法であって、
前記超音波照射工程において、超音波を照射する時間は600秒以下である。
【0032】
態様12によれば、超音波を照射する時間が600秒よりも長い場合に比べて、省エネルギー化を図ることができる。また、照射時間を必要以上に長くしないことで、セメント組成物の流動性を向上させつつ、材料分離(骨材の沈降、凝集)を抑制できる。
【0033】
(態様13)態様10~12の何れかに記載のセメント組成物の流動性向上方法であって、
前記振動付与工程において、前記セメント組成物に振動を付与する時間は60秒未満である。
【0034】
態様13によれば、振動を付与する時間が60秒以上である場合に比べて、省エネルギー化を図ることができる。また、振動の付与時間を必要以上に長くしないことで、セメント組成物の流動性を向上させつつ、材料分離(骨材の沈降、凝集)を抑制できる。
【0035】
<<<実施形態>>>
===流動性向上システム1の概要===
図1は流動性向上システム1の全体斜視図である。
図2は流動性向上システム1の一部の概略断面図である。
図3は振動付与装置20の斜視図である。セメント組成物の流動性向上システム1は、収容器10と、振動付与装置20と、超音波照射装置30とを有する。
【0036】
収容器10は、骨材を有する流動状態のセメント組成物2を収容する第1収容部11、及び、媒体3を収容する第2収容部12を備える。また、収容器10は、所定方向に延在して、所定方向に長さを有する。
図1に例示する第1収容部11は、所定方向に直交する幅方向に対向する一対の壁部と底部で囲われ、上方が開口した部位である。第2収容部12は、第1収容部11の下方に位置して、媒体3を密閉可能な箱形状の部位である。
【0037】
流動状態とは、セメント組成物が固まる前の状態を意味する。また、骨材を有するセメント組成物としては、コンクリート、モルタル等を例示できる。
【0038】
コンクリートは、セメント、水、細骨材、粗骨材、混和剤及び必要に応じて混和材を構成材料として含むものである。本実施形態に係るコンクリートにおいて、水とセメントの質量比(W/C)が、0.1~0.65であることが好ましく、0.35~0.55であることがより好ましく、0.40~0.50であることがさらに好ましい。また骨材(細骨材及び粗骨材)とセメントの質量比((S+G)/C)が、0.5~4.0であることが好ましく、0.6~3.5であることがより好ましく、0.8~3.0であることがさらに好ましい。
【0039】
モルタルは、セメント、水、細骨材、混和剤及び必要に応じて混和材を構成材料として含むものである。本実施形態に係るモルタルにおいて、水とセメントの質量比(W/C)が、0.1~0.65であることが好ましく、0.35~0.55であることがより好ましく、0.40~0.50であることがさらに好ましい。また細骨材とセメントの質量比(S/C)が、0.5~4.0であることが好ましく、0.6~3.5であることがより好ましく、0.8~3.0であることがさらに好ましい。
【0040】
セメントとしては、特に限定されず、公知慣用のものを用いればよく、例えば、ポルトランドセメント(普通ポルトランドセメント、早強ポルトランドセメント、超早強ポルトランドセメント、中庸熱ポルトランドセメント、低熱ポルトランドセメント等)、混合セメント(高炉セメント、シリカセメント、フライアッシュセメント等を混ぜ合わせたセメント等)、エコセメント、特殊セメント(白色ポルトランドセメント、アルミナセメント、超速硬セメント、グラウト用セメント、油井セメント等)等が挙げられる。これらのセメントは、1種を単独で用いてもよく、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0041】
骨材としては、特に限定されず、公知慣用のものを用いればよく、例えば、天然骨材(川砂や川砂利、陸砂や陸砂利、山砂や山砂利、海砂等)、人工骨材(砕石や砕砂、人工軽量骨材、高炉スラグ骨材等)、再生骨材等を挙げることができる。これらの骨材は、1種を単独で用いてもよく、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
細骨材としては、目開き10mmの篩を通過し、かつ、目開き5mmの篩を85質量%以上通過する骨材を用いることができる。また粗骨材としては、目開き5mmの篩を85質量%以上とどまる骨材を用いることができる。
【0042】
混和剤としては、特に限定されず、公知慣用のものを用いればよく、例えば、AE剤、減水剤、AE減水剤、高性能AE減水剤、流動化剤等の化学混和剤が挙げられる。
【0043】
また混和材としては、特に限定されず、公知慣用のものを用いればよく、例えば、高炉スラグ微粉末、フライアッシュ、シリカヒューム、石灰石微粉末等の砕石粉、スラッジ粉、廃コンクリート微粉末、膨張剤等が挙げられる。
【0044】
振動付与装置20は、セメント組成物2に振動を付与する装置である。
図3に示すように、振動付与装置20は、振動子21によって振動し、且つセメント組成物2の面方向に広がる治具22を有する。
【0045】
振動子21としては、コンクリートの締固め作業時に利用されることの多い棒状バイブレータを例示するが、これに限定されるものではない。振動子21の振動方向は特に限定されず、例えばセメント組成物2の表面に対して水平方向に振動してもよいし、垂直方向に振動してもよい。また、振動子21の数は1つに限らず複数であってもよい。治具22は、格子状の鉄筋であり、所定方向に間隔を空けて配された複数の鉄筋221と、所定方向に直交する幅方向に間隔を空けて配された複数の鉄筋221とを有する。また治具22の中央部には、治具22に振動子21を連結するための連結治具222が設けられている。振動子21(棒状バイブレータ)の先端部は、連結治具222に挿入固定されて、治具22の格子状の面に対して立設する。
【0046】
超音波照射装置30は、第2収容部12の内部(底部)に配置され、第2収容部12に収容されている水等の媒体3を介して、第1収容部11に収容されているセメント組成物2に超音波を間接的に照射する。超音波照射装置としては、超音波振動を振動するランジュバン型振動子(BL振動子)と超音波を発振する超音波発振器31を用いる装置を例示できるが、特に限定されることなく、別の方式で超音波振動を発振させる装置であってもよい。超音波照射装置30は、超音波発振器31とケーブルで接続されており、超音波発振器31により、超音波の周波数、振幅、出力、オンオフを制御可能とする。
【0047】
===試験===
図4Aは試験装置40の概略断面図であり、
図4Bは試験装置40の概略上面図である。実際に試験装置40を作製して、流動状態のセメント組成物2の流動性についての試験を行った。
【0048】
試験装置40は、
図1に例示した流動性向上システム1と同様に、収容器41と、振動付与装置42と、超音波照射装置43とを有する。収容器41は、上方が開放されつつ凹んだ容器であり、その凹んだ部位が、セメント組成物2を収容する第1収容部411となる。第1収容部411を四方から囲う側壁部と底部は中空であり、その中空の空間が、媒体3を収容する第2収容部412となる。振動付与装置42は、
図3の振動付与装置20と同様に、振動子421と、振動子421に連結された格子状の鉄筋から成る治具422とを有する。超音波照射装置43は、第2収容部421の底部に設けられている。
【0049】
なお、振動子421としては、エクセン社製の軽便バイブレータE32D(振動数200~250Hz)を利用した。超音波照射装置43としては、株式会社カイジョー製のフェニックス プラス26kHz 1200Wを利用した。
図4Bに示すように第1収容部411の所定方向×幅方向の長さ(B1×B2)は430mm×430mmとした。第2収容部412に収容する媒体3として常温の水道水又は脱気水を利用した。
【0050】
[試験1.セメントペーストの流動性]
図5はセメントペーストを試料とした試験1の結果を示すグラフである。先ず、骨材の材質、形状や大きさのばらつきなどの影響を排除するため、骨材が混合されていないセメントペーストを試料として選定した。普通ポルトランドセメントを使用し、水とセメントの質量比(W/C)が0.45である流動状態のセメントペースト3リットルを第1収容部411に供給した。なお、試料は必要になるごとに新たに3リットルずつ作製することを繰り返した(試験2も同様である)。
【0051】
そして、
図5に示す各条件でセメントペーストに振動や超音波を付与する前後でのフロー値の増加量(変化量)を測定した。フロー値はJIS R 5201「セメントの物理試験方法」を参考にして測定した。
【0052】
その結果、振動付与装置42の振動のみを5秒付与する場合と、超音波照射装置43による超音波(100kHz)のみを60秒照射する場合に比べて、振動付与装置42の振動を5秒付与すると共に、同じ周波数(100kHz)の超音波を60秒照射する方が、フロー値の増加量が大きくなる結果が得られた。つまり、振動付与装置42のみ或いは超音波照射装置43のみで流動化させる場合に比べて、振動付与装置42と超音波照射装置43を併用することで、フロー値の増加量が大きくなり、セメントペーストの流動性の向上効果が高くなることが分かった。なお、振動付与装置42と超音波照射装置43を併用する場合は両装置42、43の起動を同時に開始して、超音波照射装置43の方が長く超音波を照射するようにした(以下に説明する他の試験も同様である)。また、今回の試験では、超音波照射装置43の超音波発振器44の出力は1200Wで行った。
【0053】
さらに、超音波照射装置43の周波数を38kHzに下げて、振幅を大きくした場合の試験を行った。この場合も、振動付与装置42と超音波照射装置43を併用することで、フロー値の増加量が大きくなり、セメントペーストの流動性の向上効果が高くなった。また、同じように振動付与装置42と超音波照射装置43を併用する場合であっても、超音波の周波数を下げて、振幅を大きくすることで、フロー値の増加量が大きくなり、セメントペーストの流動性の向上効果がより高くなることが分かった。
【0054】
[試験2.モルタルの流動性]
図6及び
図7はモルタルを試料とした試験2の結果を示すグラフである。次に、水とセメント(普通ポルトランドセメント)の質量比(W/C)が0.45であり、細骨材(木更津産陸砂、表乾密度2.59g/cm
3)とセメントの質量比(S/C)が1.0である流動状態のモルタル3リットルを第1収容部411に供給した。
【0055】
そして、
図6及び
図7に示す各条件でモルタルに振動や超音波を付与する前後でのフロー値の増加量を測定した。フロー値はJIS A 1171「ポリマーセメントモルタルの試験方法」を参考にして測定した。
【0056】
図6に示すように、細骨材を含むモルタルにおいても、セメントペースト(
図5)と同様の結果が得られた。つまり、振動付与装置42のみ或いは超音波照射装置43のみで流動化させる場合に比べて、振動付与装置42と超音波照射装置43を併用することで、フロー値の増加量が大きくなり、モルタルの流動性の向上効果が高くなる。換言すると、振動付与装置42と超音波照射装置43を併用することで、所望の流動性を得るために超音波を付与する時間を短くすることができる。また、
図6の結果から、超音波照射装置43の照射条件(周波数(38kHz)、振幅)が同じである場合、60秒照射するよりも300秒照射する方が、すなわち照射時間を長くすることで、フロー値の増加量が大きく、流動性が向上する結果が得られた。
【0057】
また、振動付与装置42のみを使用する場合、モルタルが瞬時に流動化することが確認できたが、振動時間を1秒から10秒に長くしても、フローの増加量が殆ど変わらず、また流動性も微増に留まった。また、振動付与装置42の振動時間を長くしていくと、細骨材が沈降や凝集するなどの材料分離の現象が目視にて確認された。
【0058】
超音波照射装置43のみを使用する場合、
図7に示すように、照射時間を300秒、600秒と長くしていくと、フローの増加量が大きくなり、モルタルの流動性が向上することが分かった。ただし、600秒以上の照射時間では、照射時間を長くしても、フローの増加量が殆ど変わらない結果が得られた。また、超音波の照射時間も長くしていくと、材料分離の現象が生じることが確認された。
【0059】
[試験3.コンクリートの流動性]
図8はコンクリートを試料とした試験3の結果を示すグラフである。次に、水とセメント(普通ポルトランドセメント)の質量比(W/C)が0.55であり、スランプが10cmである流動状態のコンクリートを40リットル製造し、そのうちの15リットルを第1収容部411に供給した。なお、細骨材(木更津産陸砂、表乾密度2.59g/cm
3)とセメントの質量比(S/C)は2.59であり、粗骨材(青梅産砕石、表乾密度2.71g/cm
3)とセメントの質量比(G/C)は3.07である。
【0060】
そして、
図8に示す各条件でモルタルに振動や超音波を付与する前後でのスランプの増加量を測定した。スランプはJIS A 1101:2020「コンクリートのスランプ試験方法」を参考にして測定した。
【0061】
図8の結果から、細骨材及び粗骨材を含むコンクリートにおいても、超音波照射装置43のみで流動化させる場合に比べて、振動付与装置42と超音波照射装置43を併用することで、スランプ値の増加量が大きくなり、コンクリートの流動性の向上効果が高くなる結果が得られた。換言すると、振動付与装置42と超音波照射装置43を併用することで、所望の流動性を得るために超音波を付与する時間を短くすることができる。
【0062】
さらに、超音波照射装置43の照射条件(周波数(26kHz)、振幅)が同じであっても、媒体3によって流動性の向上効果が異なることが分かった。
図8に示すように、26kHzの超音波を常温の水道水(媒体3)を介してコンクリートに180秒間照射するよりも、26kHzの超音波を常温の脱気水(媒体3)を介してコンクリートに短い時間(60秒間)照射する方が、スランプ値の増加量が大きく、流動性がより向上する結果が得られた。
【0063】
===流動性向上システム1による流動性の向上について===
前述したように、
図1、
図2に例示した流動性向上システム1は、骨材を有する流動状態のセメント組成物2を収容する第1収容部11、及び、媒体3を収容する第2収容部12を備え、所定方向に長さを有する収容器10と、セメント組成物2に振動を付与する振動付与装置20と、媒体3を介してセメント組成物2に超音波を照射する超音波照射装置30と、を有する。
【0064】
振動付与装置20は、自身が振動し、セメント組成物2に挿入されて、セメント組成物2を直接的に振動させる。そのため、振動付与装置20の作用によりセメント組成物2は瞬時に流動化する。しかし、振動付与装置20を停止すると同時に、セメント組成物2の流動性も低下してしまう。
【0065】
一方、セメント組成物2に超音波を照射して、超音波振動を付与する場合、セメント組成物2の流動性が向上するとともに、その流動性の持続性が高まることが確認されている。しかし、実工事で使用される多量のセメント組成物の流動性を超音波照射装置30のみで向上させようとすると、非常に大きな超音波のエネルギーが必要となる。
【0066】
これに対して本実施形態の流動性向上システム1によれば、流動状態のセメント組成物2に振動を付与しつつ、超音波も照射できる。そのため、振動付与装置20によって瞬間的にセメント組成物2の凝集を解きつつ、超音波を付与できるので、超音波のみを付与する場合に比べて、小さな超音波エネルギーでセメント組成物2の流動性を向上させることができる。実際に行った前述の試験1~3においても振動付与装置2と超音波照射装置3を併用することで、セメント組成物の流動性がより向上することを確認できている。したがって、超音波照射装置30を小型化したり、超音波の照射時間を短くしたりできる。
【0067】
以上のように、本実施形態の流動性向上システム1によれば、セメント組成物2の流動性を効率的に短時間で向上させることができるので、短時間に多量のセメント組成物2の流動性を向上させなければならない実工事にも実装できる。また、セメント組成物2に超音波を付与することで、セメント組成物2の流動性の持続性が高まる。ゆえに、セメント組成物2の打設場所(型枠内)にセメント組成物2が均一に行き渡りやすくなる。
【0068】
さらに、骨材を有するセメント組成物2の場合、振動や超音波を付与する時間を短くすることで、骨材の沈降、凝集(すなわち材料分離)の問題を抑制できる。よって、材料が均一化されたセメント組成物2を打設場所に送出できる。
【0069】
また、第1収容部11の底部に超音波照射装置30を取り付けて、第1収容部11に直接的に超音波を発振するのではなく、媒体3を介して超音波をセメント組成物2に伝搬する。そのため、第1収容部11の損傷を抑制できる。
【0070】
なお、超音波の周波数は、セメント組成物の組成に応じて適宜決定するとよい。照射される超音波の周波数としては、10~200kHzが好ましく、15~100kHzがより好ましく、19~50kHzがさらに好ましい。超音波の周波数が上記数値範囲内であることにより、セメント組成物2の流動性を向上させることができる。
【0071】
照射される超音波の振幅としては、5~50μmが好ましく、5~40μmがより好ましく、5~35μmがさらに好ましく、6~30μmが特に好ましい。超音波の振幅が上記数値範囲の下限値以上であることにより、セメント組成物2の流動性をより短時間で向上させることができ、また上記数値範囲の上限値以下であることにより、セメント組成物において骨材が沈降・凝集するリスクをより低減することができる。
【0072】
超音波照射装置30で使用する超音波発振器31の出力は、10~3000Wが好ましく、対象となるセメント組成物2の質量に応じて適宜設定するとよい。つまり処理するセメント組成物2の質量が増える程、超音波の出力も増大させるとよい。出願人による試験では10~20リットルのセメント組成物2に対して1200Wの出力で評価し、流動性が向上することを確認できている。また超音波の照射時間としては、0.1~30分が好ましく、0.1~10分がより好ましい。
【0073】
また、超音波を伝搬する媒体3として、水を例示するが、これに限定されない。媒体3は、水以外の液体や、ゲル状物質等であってもよい。また、第2収容部12は媒体3が第1収容部11に接触する形状及び配置であればよい。また、第1収容部11は内部のセメント組成物2に超音波を伝搬可能な材質で形成されていればよく、鋼やその他の金属材料を例示できる。また、
図2の断面図では第1収容部11の下方にのみ媒体3が設けられているが、第1収容部11を幅方向に区画する側壁部の内部にも媒体3を充填して、幅方向からも超音波を照射してもよい。
【0074】
また、
図1、
図2に例示する収容器10は、所定方向に長さを有し、セメント組成物2は、第1収容部11の所定方向の一方側から他方側へ流れる。さらに、超音波照射装置30は、第1収容部11の所定方向の一方側に対応する位置から他方側に対応する位置まで、連続して又は間欠的に設けられていることが望ましい。
図2では所定方向に連続して延在する超音波照射装置30を例示するが、超音波照射装置30が所定方向に間隔を空けて複数配置されていてもよい。
【0075】
上記によれば、セメント組成物2が所定方向の一方側から他方側に流れる期間に、超音波を照射でき、セメント組成物2の流動性を向上させることができる。この場合、セメント組成物2が所定方向に流れる時間(速度や第1収容部11の所定方向の長さ)によって、超音波の照射時間を調整できる。
【0076】
なお、第1収容部11の所定方向の一方側又は他方側に対応する位置とは、第1収容部11を所定方向に3分割したときの一方側又は他方側の端部とする。その一方側の端部の何れかの位置から他方側の端部の何れかの位置まで、超音波照射装置30が配されていればよい。
【0077】
また、
図1の収容器10は、所定方向に直交する幅方向よりも所定方向に長く延在しているが、これに限らない。
図4に例示する収容器41のように所定方向と幅方向の長さが同じか、或いは所定方向の長さが幅方向の長さよりも短い収容器であってもよい。また、セメント組成物2は所定方向に流れなくともよく、
図4に例示する収容器41内のセメント組成物2のように、貯留された状態で振動や超音波が付与されてもよい。
【0078】
また、セメント組成物2が第1収容部11の所定方向の一方側から他方側へ流れる場合、振動付与装置20は、第1収容部11の所定方向の一方側に設けられていることが望ましい。具体的には、所定方向における第1収容部11の中央よりも一方側(上流側)に、振動付与装置20が設けられていることが望ましい。
【0079】
そうすることで、セメント組成物2が第1収容部11を流れ始めた段階で、振動付与装置20による振動をセメント組成物2に付与できる。そのため、振動付与装置20により瞬間的に凝集が解かれたセメント組成物2に超音波を照射できる。ゆえに、振動付与前の比較的に流動性の低いセメント組成物2に超音波を照射する場合に比べて、超音波による流動性の向上効果を高めることができる。また、振動付与装置20により流動性が向上した状態が、超音波の照射により維持されやすくなる。
【0080】
さらには振動付与装置20と超音波照射装置30が所定方向において重複していることが好ましい。そうすることで、振動付与装置20によってセメント組成物2に振動を付与すると同時に、超音波を照射できる。ゆえに、振動付与装置20によって凝集が解かれている状態のセメント組成物2に超音波を照射できるので、超音波による流動性の向上効果をより高めることができる。
【0081】
ただし上記に限定されることなく、第1収容部11の所定方向の中央や他方側(下流側)に振動付与装置20が設けられていてもよい。また、振動付与装置20と超音波照射装置30が所定方向にずれて配置されていてもよい。
【0082】
また、流動性向上システム1は、
図1に示すように、流動状態のセメント組成物2を第1収容部11に供給する供給装置である生コンクリート車50(アジテータ車、ミキサー車)と、第1収容部11からセメント組成物2を受け入れて打設場所に送り出す送出装置であるポンプ車60とを有することが望ましい。
【0083】
そうすることで、セメント組成物2が生コンクリート車50からポンプ車60に移動する期間に、セメント組成物2に振動及び超音波を付与でき、セメント組成物2の流動性を向上させることができる。そして、流動性が向上し且つその持続性の高いセメント組成物2を打設場所に送出できる。
【0084】
また、
図2に示すように、第1収容部11は、所定方向における生コンクリート車50側(一方側)からポンプ車60側(他方側)に向かって下方に傾斜していることが望ましい。
【0085】
そうすることで、重力によってセメント組成物2を所定方向に流すことができ、ポンプ車60にセメント組成物2を搬送できる。この場合、後述の
図9に例示する搬送機構70がなくとも、セメント組成物2を所定方向に流すことができ、流動性向上システム1の構成を簡素化できる。
【0086】
図9は、流動性向上システム1の変形例の説明図である。流動性向上システム1は、第1収容部11のセメント組成物2を、所定方向における生コンクリート車50側(一方側)からポンプ車60側(他方側)に向かって搬送する搬送機構70を有していてもよい。
図9では、搬送機構70として、第1収容部11の底部を搬送ベルト71とした搬送機構70を例示する。搬送ローラー72の回転により移動する搬送ベルト71によって、セメント組成物2を所定方向に搬送できる。
【0087】
このように流動性向上システム1が搬送機構70を備えることで、セメント組成物2を所定方向に流すことができ、その間に、セメント組成物2に振動及び超音波を付与できる。この場合、
図9に示すように収容器10が水平方向に沿っていてもよい。また、
図2に示す傾斜した収容器10に搬送機構70を設けてもよい。また、搬送機構70によってセメント組成物2を搬送する速度を調整できる。したがって、第1収容部11を流れるセメント組成物2に超音波を照射する時間を調整でき、セメント組成物2の流動性を調整しやすくなる。
【0088】
図3に示すように、振動付与装置20は、振動子21(例えば棒状バイブレータ)を有し、その振動子21によって振動する治具22であり、且つセメント組成物2の面方向に広がる治具22を有することが望ましい。
【0089】
棒状バイブレータ等の振動子21のみでセメント組成物2に振動を付与しても良いが、その場合、振動子21の周囲のセメント組成物2には振動が付与されるが、振動子21から離れた領域のセメント組成物2に振動が伝搬し難くなってしまう。そのため、振動子21に直交する面方向に広がる治具22を利用することで、セメント組成物2の面方向(表面に沿う方向)の広範囲に亘るセメント組成物2に治具22を接触させることができ、治具22を介して振動を伝搬できる。
【0090】
なお、
図3では鉄筋が格子状に配された治具22を例示するが、治具22の形状や材質等は特に限定されず、面方向に振動を伝搬できるものであればよい。また、
図1に示すように、治具22の幅方向の長さは、第1収容部11の幅方向(所定方向に直交する方向)の長さと同程度であることが望ましい。そうすることで、第1収容部11を流れる幅方向の位置に関係なく、セメント組成物2に振動を付与できる。
【0091】
図10A及び
図10Bは流動性向上システム1の変形例の説明図である。実工事においては、長時間に亘り、生コンクリート車50から第1収容部11にセメント組成物2が供給されることが多い。第1収容部11を流れ続けるセメント組成物2に対して超音波を照射すると、超音波照射装置30の稼働時間も長くなり、発熱し、媒体3の温度も上昇してしまう。流体では、一般的に、温度が上昇すると膨張して密度が低下する。そうすると、媒体3が伝搬する超音波振動が軽減し、超音波の照射効率が低下してしまう。
【0092】
そこで、流動性向上システム1は、媒体3を冷却する冷却装置81と、媒体3を循環する循環装置82とのうちの、少なくとも一方を有するとよい。そうすることで、超音波照射装置30の稼働熱によって媒体3の温度が上昇してしまうことを抑制でき、媒体3の密度低下を抑制できる。ゆえに、超音波振動が軽減し難く、セメント組成物2に効率的に超音波を伝搬することができる。したがって、セメント組成物2の流動性をより向上させたり、超音波照射装置30のサイズや超音波発振器31の出力を小さくしたり、超音波の照射時間を短くしたりできる。
【0093】
図10Aは冷却装置81を有する流動性向上システム1の一例を示す。
図10Aの冷却装置81では、冷却水や冷媒を流す流路管811が第2収容部12内に設けられている。流路管811によって、第2収容部12内の媒体3の温度を下げることができる。冷却装置81の構成は特に限定されるものではなく、例えば、圧縮器と凝縮器と膨張弁と蒸発器から成る冷却サイクルを備える装置や、氷等で冷却された冷却水をポンプで流路管811に流す装置等を例示できる。
【0094】
図10Bは循環装置82を有する流動性向上システム1の一例を示す。循環装置82は、第2収容部12内の媒体3を排出する排出流路821と、排出流路821を流れた媒体3を貯蔵するタンク822と、ポンプ823と、ポンプ823によってタンク822から第2収容部12へ流れる媒体3の供給流路824とを有する。第2収容部12から排出された媒体3の温度は超音波照射装置3から離れている間に下がり、第2収容部12に供給する媒体3の温度を下げることができる。ただし循環装置82の構成は
図10Bに例示するものに限定されるものではない。
【0095】
また、超音波照射装置30を長時間稼働しない場合であっても、冷却装置81により媒体3の温度を下げることで、媒体3の密度を高めることができ、セメント組成物2に効率的に超音波を伝搬することができる。媒体3の温度は、媒体3が凍る温度よりも高い温度から常温未満の範囲であることが望ましい。媒体3が水である場合、4℃(厳密には3.98℃)であるときに最大密度となるため、媒体3を4℃程度にすることが望ましい。
【0096】
また、流動性向上システム1は、冷却装置81と循環装置82の両方を備えてもよい。図示しないが、例えば
図10Bの循環装置82におけるタンク822に貯蔵されている媒体3を冷却装置によって冷却してもよい。そうすることで、第2収容部12に供給する媒体3の温度をより確実に下げることができる。
【0097】
また、媒体3は脱気水(溶存気体を除去した脱気液体)であることが望ましい。そうすることで、例えば媒体3が水道水である場合に比べて、媒体3の密度を高めることができ、セメント組成物2に効率的に超音波を伝搬することができる。したがって、セメント組成物2の流動性をより向上させたり、超音波照射装置30のサイズや超音波発振器31の出力を小さくしたり、超音波の照射時間を短くしたりできる。なお、媒体3を脱気水とするために、例えば、第2収容部12に脱気水を密封したり、
図10Bに示す媒体3の循環経路に脱気装置を設けたりするとよい。
【0098】
以上のように、超音波を伝搬する媒体3は、低温(常温未満)であり、脱気水であることが望ましい。そうすることで、セメント組成物2の流動性をより向上させることができる。脱気水により流動性が向上することは
図8の試験3の結果においても確認されている。
【0099】
===セメント組成物2の流動性向上方法===
図11は、セメント組成物2の流動性向上方法のフローを示す図である。
本実施形態のセメント組成物2の流動性向上方法は、骨材を有する流動状態のセメント組成物2に振動を付与する振動付与工程(S02)と、水等の媒体3を介して、前記セメント組成物2に超音波を照射する超音波照射工程(S02)と、を有する。
【0100】
そうすることで、振動付与工程のみ或いは超音波照射工程のみを有する場合に比べて、小さな超音波エネルギーでセメント組成物2の流動性を向上させることができる。したがって、超音波照射装置30を小型化したり、超音波の照射時間を短くしたりできる。また、超音波照射工程により、セメント組成物2の流動性の持続性が高まる。
【0101】
また、流動状態のセメント組成物2に振動や超音波を付与する。そのため、振動付与工程及び超音波照射工程の前に、工場で既に練り上げられている流動状態のセメント組成物2を、
図2の第1収容部11などの収容器に供給する供給工程(S01)を備えるとよい。そうすることで、既に流動状態であるセメント組成物2の流動性をさらに向上させることができる。
【0102】
そして、振動付与工程及び超音波照射工程により流動性が向上したセメント組成物2は、収容器から、ポンプ車や打設場所に向けて送出されるとよい。そうすることで、流動性が向上したセメント組成物2を打設場所に送出できる。
【0103】
さらに、超音波照射工程は、振動付与工程と重複する期間を有することが望ましい。そうすることで、セメント組成物2に振動と超音波を同時に付与できる。つまり、振動付与工程によって凝集が解かれている状態のセメント組成物2に、超音波を照射でき、超音波による流動性の向上効果をより高めることができる。
【0104】
好ましくは、超音波照射工程の前半において、振動付与工程も同時に実施されるとよい。そうすることで、凝集が解かれている状態のセメント組成物2に、より長く超音波を照射できる。ただし上記に限定されることなく、超音波照射工程と振動付与工程が重複せずに、ずれて実施されてもよいし、超音波照射工程の後半において振動付与工程が実施されてもよい。
【0105】
また、超音波照射工程において、超音波を照射する時間は600秒以下であることが望ましい。そうすることで、超音波を照射する時間が600秒よりも長い場合に比べて、省エネルギー化を図ることができる。また、
図7の試験2において、600秒よりも長く超音波を照射しても、モルタルの流動性が向上し難い結果が得られた。そのため、超音波の照射時間を600秒以下にすることで、セメント組成物2の流動性を向上させつつ、照射時間を必要以上に長くすることによるセメント組成物2の材料分離(骨材の凝集や沈降)を抑制できる。
【0106】
また、振動付与工程において、セメント組成物2に振動を付与する時間は60秒未満であることが望ましい。そうすることで、振動を付与する時間が60秒以上である場合に比べて、省エネルギー化を図ることができる。また、
図6の試験2において、振動付与装置42によって1秒間振動させた場合と10秒間振動させた場合とで、装置停止後のセメント組成物2の流動性が殆ど変わらないという結果が得られた。そのため、振動の付与時間を60秒未満にすることで、セメント組成物2の流動性を向上させつつ、振動時間を必要以上に長くすることによるセメント組成物2の材料分離を抑制できる。
【0107】
その他、前述の流動性向上システム1と同様に、セメント組成物2の流動性向上方法においても、超音波を伝搬する媒体3は、低温(常温未満)であり、脱気水であることが望ましい。そのために、振動付与工程や超音波照射工程を実行すると共に、媒体3を冷却したり、媒体3を循環したりする工程を有していてもよい。また、生コンクリート車50からポンプ車60に向けてセメント組成物2を流す期間に、振動付与工程及び超音波照射工程を実行してもよい。
【0108】
以上、上記の実施形態は、本発明の理解を容易にするためのものであり、本発明を限定して解釈するためのものではない。本発明は、その趣旨を逸脱することなく、変更、改良され得ると共に、本発明にはその等価物が含まれることは言うまでもない。
【符号の説明】
【0109】
1 流動性向上システム、
2 セメント組成物、3 媒体、
10 収容器、
11 第1収容部、12 第2収容部、
20 振動付与装置、
21 振動子、22 治具、
30 超音波照射装置、
31 超音波発振器、
40 試験装置(流動性向上システム)、
41 収容器、
411 第1収容部、412 第2収容部、
42 振動付与装置、
421 振動子、422 治具、
43 超音波照射装置、
44 超音波発振器、
50 供給装置、
60 送出装置、
70 搬送機構、
81 冷却装置、82 循環装置、