(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2025116550
(43)【公開日】2025-08-08
(54)【発明の名称】無線通信装置及び無線通信システム
(51)【国際特許分類】
H04B 1/04 20060101AFI20250801BHJP
H01Q 3/36 20060101ALI20250801BHJP
H01Q 21/06 20060101ALI20250801BHJP
H04B 10/2575 20130101ALI20250801BHJP
H04W 16/28 20090101ALI20250801BHJP
H04W 88/08 20090101ALI20250801BHJP
G02F 1/061 20060101ALI20250801BHJP
H04B 7/024 20170101ALI20250801BHJP
【FI】
H04B1/04 Z
H01Q3/36
H01Q21/06
H04B10/2575 120
H04W16/28
H04W88/08
G02F1/061
H04B7/024
【審査請求】未請求
【請求項の数】8
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2024011037
(22)【出願日】2024-01-29
(71)【出願人】
【識別番号】000006231
【氏名又は名称】株式会社村田製作所
(74)【代理人】
【識別番号】110000914
【氏名又は名称】弁理士法人WisePlus
(72)【発明者】
【氏名】西田 翼
【テーマコード(参考)】
2K102
5J021
5K060
5K067
5K102
【Fターム(参考)】
2K102AA21
2K102BA02
2K102DA04
2K102DD01
2K102EA02
2K102EA16
2K102EA21
2K102EB20
2K102EB22
5J021AA05
5J021AA09
5J021AA11
5J021AB03
5J021DB03
5J021FA06
5J021FA13
5J021FA26
5J021GA02
5J021HA05
5J021JA07
5K060CC04
5K060DD04
5K060HH37
5K060JJ21
5K060KK03
5K067AA42
5K067EE10
5K067EE32
5K067EE37
5K067KK02
5K067KK03
5K102AA15
5K102AB13
5K102AH02
5K102AH21
5K102PH01
(57)【要約】 (修正有)
【課題】簡易な構成でビームフォーミングが可能な無線通信装置及び無線通信システムを提供する。
【解決手段】無線通信システム1において、無線通信装置100は、可変レンズとして作動するトランスミットアレー110、基地局装置200からの送信用光信号TxOSを、トランスミットアレーに放射する送信部120、トランスミットアレーに到来する受信用無線信号を受信して、受信用光信号RxOSを、基地局装置へ送る受信部130及びトランスミットアレーを制御する個別に制御するコントローラー141を含む制御部140を備える。送信部は、送信用光信号を送信用電気信号に変換する受光素子121、送信用電気信号を増幅する送信用増幅器122及び増幅した送信用電気信号を放射する送信アンテナ123を含む。受信部は、受信用無線信号を、発光素子132からの光信号で変調して、受信用光信号を生成するアンテナ一体型電気光学変調器131を含む。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
複数のアンテナ素子を含み、可変レンズとして作動するトランスミットアレーと、
基地局装置からの送信用光信号を取り込み、前記送信用光信号に対応する送信用無線信号を前記トランスミットアレーに放射する送信部と、
前記トランスミットアレーに到来する受信用無線信号を受信して、前記受信用無線信号に対応する受信用光信号を前記基地局装置へ送る受信部と、
前記トランスミットアレーを制御する制御部と、を備え、
前記送信部は、前記送信用光信号を送信用電気信号に変換する受光素子と、前記送信用電気信号を増幅する送信用増幅器と、前記送信用増幅器で増幅された前記送信用電気信号に対応する前記送信用無線信号を放射する送信アンテナと、を含み、
前記受信部は、前記受信用無線信号に基づいて、発光素子からの光信号を変調して前記受信用光信号を生成するアンテナ一体型電気光学変調器を含み、
前記アンテナ一体型電気光学変調器は、前記発光素子からの光信号を伝送する光導波路と、前記光導波路に沿って配置され、前記受信用無線信号を受信する受信アンテナと、を含み、
前記制御部は、前記トランスミットアレーの各アンテナ素子が送受信する電波の位相を個別に制御するコントローラーを含み、
前記送信アンテナ及び前記受信アンテナは、前記トランスミットアレーが形成することが可能な集光面に、それぞれ離れた位置で配置されている、無線通信装置。
【請求項2】
前記コントローラーは、前記トランスミットアレーの各アンテナ素子が送受信する電波の位相を個別に制御するための制御用光信号を前記基地局装置から取り込む、請求項1に記載の無線通信装置。
【請求項3】
前記制御部は、前記トランスミットアレーの焦点位置を、送信時には前記送信アンテナに合わせ、受信時には前記受信アンテナに合わせる、請求項1又は2に記載の無線通信装置。
【請求項4】
前記送信アンテナ及び前記受信アンテナとの間隔は、前記トランスミットアレーが形成するビームスポットサイズよりも大きい、請求項1又は2に記載の無線通信装置。
【請求項5】
前記送信アンテナと前記受信アンテナとの間隔は、動作周波数帯の波長λ以上である、請求項1又は2に記載の無線通信装置。
【請求項6】
前記アンテナ一体型電気光学変調器は、基板をさらに含み、
前記基板の内部には、前記光導波路が前記基板の主面に沿って延びるように設けられている、請求項1又は2に記載の無線通信装置。
【請求項7】
前記光導波路は、電気光学分子を含む電気光学ポリマーで構成されている、請求項1又は2に記載の無線通信装置。
【請求項8】
請求項1又は2に記載の無線通信装置と、基地局装置と、前記無線通信装置及び前記基地局装置を接続する光伝送部材と、を備える、無線通信システム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、無線通信装置及び無線通信システムに関する。
【背景技術】
【0002】
無線通信システムでは、無線信号の波形情報を光ファイバーで伝送するRoF(Radio over Fiber)という技術が採用されている。RoFとしては、D-RoF(Digital Radio over Fiber)と、A-RoF(Analog Radio over Fiber)とが知られている。
【0003】
D-RoFは、無線信号の波形情報をデジタル信号に変換してから光ファイバーで伝送する技術である。しかしながら、D-RoFには、以下の問題があると考えられる。
(1)デジタル信号を伝送する際の伝送容量が大きいため、次世代の大容量通信に光通信が追い付かない。
(2)DSP(Digital Signal Processing)等の様々な処理がRU(Radio Unit)で行われるため、高周波数帯の無線通信を実現するためにRUを増やそうとすると、その分コストが増加する。
(3)RUでの処理に係る消費電力が大きい。
【0004】
これに対して、A-RoFは、無線信号の波形情報をそのままアナログ信号として光ファイバーで伝送する技術である。A-RoFでは、D-RoFと異なり、RUで様々な処理を行う必要がなく、例えば、DSPを行う必要がない。このことから、D-RoFで考えられる上記の問題を解決するために、D-RoFに代えてA-RoFを採用して、RUの機能をDU(Distributed Unit)又はCU(Centralized Unit)に集約することにより、アンテナ素子を集約局から分離してRUを簡略化しつつ、RUに係るコスト及び消費電力を低減することが検討されている。
【0005】
その一方で、高周波数帯の無線通信システムでは、電波の伝搬距離が短くなるため、ビームフォーミングが必要となる。しかしながら、上記のとおり、A-RoFによってRUの簡略化を行った場合、アンテナ素子でのビームフォーミングをどのように行うかが課題となる。
【0006】
上記の課題に対して、アンテナ素子が形成するビームを集約局側から遠隔に制御する技術が提案されている。特許文献1には、ビームフォーマーとして光学レンズを使用して信号の送受信を行う無線通信に関する技術が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】米国特許出願公開第2022/0166137号明細書
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
特許文献1に記載されている技術では、アンテナ素子が形成するビームを集約局側から遠隔に制御することができるものの、アンテナ素子ごとに光通信路が必要となる。したがって、多重化のためには、光ファイバーの本数が増加してシステム全体の構成が複雑になる、という問題がある。
【0009】
本発明は、上記の問題を解決するためになされたものであり、簡易な構成でビームフォーミングが可能な無線通信装置を提供することを目的とする。さらに、本発明は、本発明の無線通信装置を用いた無線通信システムを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明の無線通信装置は、複数のアンテナ素子を含み、可変レンズとして作動するトランスミットアレーと、基地局装置からの送信用光信号を取り込み、上記送信用光信号に対応する送信用無線信号を上記トランスミットアレーに放射する送信部と、上記トランスミットアレーに到来する受信用無線信号を受信して、上記受信用無線信号に対応する受信用光信号を上記基地局装置へ送る受信部と、上記トランスミットアレーを制御する制御部と、を備える。上記送信部は、上記送信用光信号を送信用電気信号に変換する受光素子と、上記送信用電気信号を増幅する送信用増幅器と、上記送信用増幅器で増幅された上記送信用電気信号に対応する上記送信用無線信号を放射する送信アンテナと、を含む。上記受信部は、上記受信用無線信号に基づいて、発光素子からの光信号を変調して上記受信用光信号を生成するアンテナ一体型電気光学変調器を含む。上記アンテナ一体型電気光学変調器は、上記発光素子からの光信号を伝送する光導波路と、上記光導波路に沿って配置され、上記受信用無線信号を受信する受信アンテナと、を含む。上記制御部は、上記トランスミットアレーの各アンテナ素子が送受信する電波の位相を個別に制御するコントローラーを含む。上記送信アンテナ及び上記受信アンテナは、上記トランスミットアレーが形成することが可能な集光面に、それぞれ離れた位置で配置されている。
【0011】
本発明の無線通信システムは、本発明の無線通信装置と、基地局装置と、上記無線通信装置及び上記基地局装置を接続する光伝送部材と、を備える。
【発明の効果】
【0012】
本発明によれば、簡易な構成でビームフォーミングが可能な無線通信装置を提供することができる。さらに、本発明によれば、本発明の無線通信装置を用いた無線通信システムを提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【
図1】
図1は、本発明の一実施形態に係る無線通信装置を用いた無線通信システムの一例を示す模式図である。
【
図2】
図2は、アンテナ一体型電気光学変調器の一例を模式的に示す斜視図である。
【
図3】
図3は、送信時におけるトランスミットアレーのレンズパターンの一例を示す模式図である。
【
図4】
図4は、受信時におけるトランスミットアレーのレンズパターンの一例を示す模式図である。
【
図5】
図5は、本発明の別の実施形態に係る無線通信装置を用いた無線通信システムの一例を示す模式図である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下、本発明の無線通信装置について説明する。なお、本発明は、以下の構成に限定されるものではなく、本発明の要旨を逸脱しない範囲において適宜変更されてもよい。また、以下において記載する個々の好ましい構成を複数組み合わせたものもまた本発明である。
【0015】
本明細書において、要素間の関係性を示す用語(例えば「垂直」、「平行」、「直交」等)及び要素の形状を示す用語は、厳格な意味のみを表す表現ではなく、実質的に同等な範囲、例えば数%程度の差異をも含むことを意味する表現である。
【0016】
以下に示す図面は模式図であり、その寸法、縦横比の縮尺等は実際の製品と異なる場合がある。図中、同一又は相当部分には同一符号を用いることとする。また、各図において、同一要素には同一符号を付して重複する説明を省略する。
【0017】
図1は、本発明の一実施形態に係る無線通信装置を用いた無線通信システムの一例を示す模式図である。
【0018】
図1に示す無線通信システム1は、無線通信装置100と、基地局装置200と、無線通信装置100及び基地局装置200と接続する光伝送部材300と、を備える。
【0019】
無線通信装置100は、例えば、RRU(Remote Radio Unit)である。
【0020】
基地局装置200は、例えば、RU(Radio Unit)である。
【0021】
光伝送部材300は、例えば、光ファイバーである。光伝送部材300は、各々、1本の光ファイバーであってもよく、複数本の光ファイバーを束ねて構成される光ファイバーケーブルであってもよい。
【0022】
図1に示すように、無線通信装置100は、トランスミットアレー110と、送信部120と、受信部130と、制御部140と、を備える。
【0023】
トランスミットアレー110は、複数のアンテナ素子を含む無給電アンテナアレーである。トランスミットアレー110では、例えば、プリント基板に複数のアンテナ素子が形成され、各アンテナ素子にダイオードのような制御素子が実装される。制御素子はバラクタダイオードや液晶であってもよい。それぞれのアンテナ素子は、制御素子のためのバイアス電圧印加用配線を備えていてもよい。後述するように、トランスミットアレー110は、可変レンズとして作動する。
【0024】
送信部120は、基地局装置200からの送信用光信号TxOSを取り込み、送信用光信号TxOSに対応する送信用無線信号(後述の
図3参照)をトランスミットアレー110に放射する。
【0025】
具体的には、送信部120は、受光素子121と、送信用増幅器122と、送信アンテナ123と、を含む。
【0026】
受光素子121は、送信用光信号TxOSを送信用電気信号TxESに変換する。受光素子121は、例えば、フォトダイオード(PD)である。
【0027】
送信用増幅器122は、送信用電気信号TxESを増幅する。送信用増幅器122は、例えば、パワーアンプ(PA)である。
【0028】
送信アンテナ123は、送信用増幅器122で増幅された送信用電気信号TxESに対応する送信用無線信号を放射する。送信アンテナ123の構成は特に限定されない。
【0029】
受信部130は、トランスミットアレー110に到来する受信用無線信号(後述の
図4参照)を受信して、受信用無線信号に対応する受信用光信号RxOSを基地局装置200へ送る。
【0030】
具体的には、受信部130は、アンテナ一体型電気光学変調器131を含む。
【0031】
アンテナ一体型電気光学変調器131は、受信用無線信号に基づいて、発光素子132からの光信号を変調して受信用光信号RxOSを生成する。発光素子132は、例えば、レーザーダイオード(LD)である。
【0032】
図2は、アンテナ一体型電気光学変調器の一例を模式的に示す斜視図である。
【0033】
図2に示すように、アンテナ一体型電気光学変調器131は、発光素子132(
図1参照)からの光信号を伝送する光導波路133と、光導波路133に沿って配置され、受信用無線信号を受信する受信アンテナ134と、を含む。アンテナ一体型電気光学変調器131は、基板135をさらに含んでもよい。
【0034】
アンテナ一体型電気光学変調器131は、以下のようにして、受信アンテナ134で受信した無線信号を用いて光信号を電気光学効果で変調する変調器として機能する。
【0035】
アンテナ一体型電気光学変調器131において、発光素子132(
図1参照)からの光信号が光導波路133に伝送される。一方、受信アンテナ134は、各々、無線信号を受信する。この際、受信アンテナ134で生じる共振現象によって電場が増大し、この電場が生じる場所を通る光導波路133において電気光学効果が発生する。光導波路133において電気光学効果が発生すると、光導波路133に伝送される光信号に対する光導波路133の屈折率が変化するため、光信号には電場の大きさに応じた位相の変化が生じる。このようにして、アンテナ一体型電気光学変調器131は、受信アンテナ134が受信した無線信号を用いて、光導波路133に伝送される光信号を電気光学効果で変調する。つまり、アンテナ一体型電気光学変調器131は、電気光学効果を利用して、受信アンテナ134が受信した無線信号を、光導波路133に伝送される光信号に直接重畳させる。
【0036】
受信アンテナ134の構成は特に限定されない。
図2に示す例では、各々の受信アンテナ134は、光導波路133が延びる方向に垂直な方向に隣り合う2つの平面電極134a及び平面電極134bにより構成され、平面電極134aと平面電極134bとの間(
図2では受信アンテナ134の中央)にギャップが形成されている。例えば、平面電極134a及び平面電極134bは、ともに四角形状であり、ギャップを挟んで対称となるように配置されている。ギャップが短いほど、平面電極134aと平面電極134bとが対向する辺の近傍における電界を強めることができる。
【0037】
制御部140は、トランスミットアレー110を制御する。
【0038】
制御部140は、トランスミットアレー110のビームパターンのメインローブ方向を可変とすることを目的とし、トランスミットアレー110の各アンテナ素子が送受信する電波の位相を個別に制御するコントローラー141を含む。コントローラー141は、例えば、各アンテナ素子に備えられたダイオードへの印加電圧を変更するための回路を含む。
【0039】
コントローラー141は、トランスミットアレー110によってビームパターンのメインローブ方向を切り替えるための制御を行う制御用光信号CtOSを基地局装置200から取り込むことが好ましい。すなわち、基地局装置200からの制御用光信号により、トランスミットアレー110の各アンテナ素子が送受信する電波の位相が個別に制御されることが好ましい。
【0040】
その場合、コントローラー141は、例えば、制御用光信号CtOSを電流信号に変換する受光素子(フォトダイオード等)と、電流信号を電圧信号に変換する電流電圧変換素子と、トランスミットアレー110に印加する直流電圧を制御する集積回路(IC)と、を含む。
【0041】
無線通信装置100では、送信アンテナ123及び受信アンテナ134は、トランスミットアレー110が形成することが可能な集光面に、それぞれ離れた位置で配置されている。
【0042】
上述のとおり、トランスミットアレー110の各アンテナ素子が放射する電波の位相は個別に制御される。それぞれの位相に特定の分布をつけることで、トランスミットアレー110は可変レンズとして作動する。位相分布は、例えば、特定の焦点距離を持つ双曲線関数で表される。
【0043】
したがって、トランスミットアレー110の各アンテナ素子が送受信する電波の位相を個別に制御することにより、トランスミットアレー110の焦点位置を、送信時には送信アンテナ123に合わせ、受信時には受信アンテナ134に合わせることができる。
【0044】
具体的には、制御部140が、トランスミットアレー110の焦点位置を、送信時には送信アンテナ123に合わせ、受信時には受信アンテナ134に合わせる。
【0045】
図3は、送信時におけるトランスミットアレーのレンズパターンの一例を示す模式図である。
【0046】
図3に示すように、送信時には、トランスミットアレー110によって形成される仮想的な送信レンズ111Txの送信用焦点位置112Txが送信アンテナ123に合わされる。これにより、送信アンテナ123から放射される送信用無線信号TxRSの電波をコリメートすることができる。したがって、送信アンテナ123から放射される送信用無線信号TxRSの電波を高利得で送り出すことができる。
【0047】
図4は、受信時におけるトランスミットアレーのレンズパターンの一例を示す模式図である。
【0048】
図4に示すように、受信時には、トランスミットアレー110によって形成される仮想的な受信レンズ111Rxの受信用焦点位置112Rxがアンテナ一体型電気光学変調器131の受信アンテナ134(
図2参照)に合わされる。これにより、トランスミットアレー110に到来する受信用無線信号RxRSの電波を集束させてアンテナ一体型電気光学変調器131へ集光することができる。
【0049】
このように、送信アンテナ123及び受信アンテナ134を、トランスミットアレー110が形成することが可能な集光面に、それぞれ離れた位置で配置することにより、トランスミットアレー110が形成するビームスポットによる空間的な送信/受信の分離が可能となる。
【0050】
さらに、トランスミットアレー110の特徴として、送信時及び受信時での各々の焦点位置において、レンズパターンを変化させることで、ビームを傾けることができる。これにより、送信部120及び受信部130にビームフォーミング機能を設けることなく、トランスミットアレー110を配置するだけでビームフォーミングを実行することが可能となる。
【0051】
以上より、
図1に示す無線通信装置100では、トランスミットアレー110、送信部120、受信部130、制御部140という簡易な構成で、送信時及び受信時の両方においてビームフォーミングを実行することができる。
【0052】
そのため、例えば、無線通信装置100では、2次元のビーム走査を行う場合であっても、装置を複雑化する必要がない。
【0053】
さらに、無線通信装置100では、基地局装置200からビームフォーミングを実行するために必要な光伝送部材300が、送信用、受信用、制御用の3本に抑えることができる。
【0054】
また、受信部130にアンテナ一体型電気光学変調器131を用いることで、受信用増幅器が不要となる。そのため、RRU部分の消費電力を低下させることができる。
【0055】
無線通信装置100において、送信アンテナ123及び受信アンテナ134との間隔は、トランスミットアレー110が形成するビームスポットサイズよりも大きいことが好ましい。また、送信アンテナ123と受信アンテナ134との間隔は、動作周波数帯の波長λ以上であることが好ましい。
【0056】
無線通信装置100では、例えば、送信時には受信部130の発光素子132の電源を落としてもよい。その場合、より干渉を分離することができる。また、受信時には送信部120の受光素子121のバイアス電圧を抑えてもよい。その場合、より干渉を除去することができる。
【0057】
図2に示す例では、アンテナ一体型電気光学変調器131において、1本の光導波路133が設けられている。光導波路133の数は特に限定されず、1本であってもよいし、2本以上であってもよい。
【0058】
図2に示す例では、光導波路133は、基板135の主面側から見たときに直線状に延びているが、基板135の主面側から見たときに曲がって延びていてもよい。その場合、光導波路133は、折れ線状に曲がっていてもよいし、曲線状に曲がっていてもよい。
【0059】
光導波路133は、電気光学材料で構成されていることが好ましい。
【0060】
電気光学材料は、電場が印加されることにより、光に対する屈折率が変化した上で光の位相の変化を引き起こす電気光学効果を発揮する。
【0061】
光導波路133は、電気光学材料として、電気光学分子を含む電気光学ポリマーで構成されていることが好ましい。
【0062】
電気光学ポリマーは、電気光学効果を発揮可能なポリマーである。
【0063】
電気光学ポリマーとしては、例えば、マトリックスポリマー及び電気光学分子が混合されたゲスト・ホスト型の電気光学ポリマー、ベースポリマーの側鎖に電気光学分子が共有結合した側鎖型の電気光学ポリマー、ベースポリマーの主鎖中に電気光学分子が共有結合した主鎖型の電気光学ポリマー、マトリックスポリマー間若しくはベースポリマー間、又は、マトリックスポリマー若しくはベースポリマーと電気光学分子等との間で架橋したクロスリンク型の電気光学ポリマー、モレキュラーガラス型の電気光学ポリマー等が挙げられる。
【0064】
マトリックスポリマーは、電気光学ポリマーの母体となるポリマーである。マトリックスポリマーは、ゲスト・ホスト型の電気光学ポリマーのホストとなる有機ポリマーを含む。
【0065】
ベースポリマーは、電気光学ポリマーの基本骨格となるポリマーである。ベースポリマーは、側鎖型の電気光学ポリマー、主鎖型の電気光学ポリマー、又は、クロスリンク型の電気光学ポリマーにおけるポリマーの主鎖となる有機ポリマーを含む。
【0066】
マトリックスポリマー及びベースポリマーとしては、光学材料として用いるために散乱が生じない透明なポリマーが好ましく、例えば、(メタ)アクリレート系ポリマー、ポリアミド、ポリイミド、ポリカーボネート、ポリジシクロペンタニルメタクリレート、ポリアダマンチルメタクリレート、シクロオレフィンポリマー、シクロオレフィンコポリマー、ポリノルボルネン、ポリスチレン、ポリエチレン、ポリメチルペンテン、ポリプロピレン、ポリビニルアルコール、ポリエチレンテレフタレート、ポリサルフォン、ポリエーテルサルフォン、ポリエステル、ポリオレフィン、ポリフェニレンサルファイド、ポリウレア、シリコン系樹脂、エポキシ系樹脂、フッ素樹脂等が挙げられる。マトリックスポリマー及びベースポリマーとしては、これらの有機ポリマーが、1種類のみで用いられてもよいし、複数種類で併用されてもよい。
【0067】
電気光学分子は、電気光学効果を発揮可能な化合物である。
【0068】
電気光学分子は、共役系の化学構造を有し、更に、分子内に電子供与性基及び電子求引性基を有する化合物であることが好ましい。
【0069】
共役系の化学構造としては、例えば、ベンゼン、ナフタレン、アントラセン、ペリレン、ビフェニル、インデン、スチルベン等の芳香族化合物、フラン、ピラン、ピロール、イミダゾール、ピラゾール、チオフェン、チアゾール、ピリジン、ピリダジン、ピリミジン、ピラジン、キノリン、クマリン等の複素環式化合物、これらの化合物同士が炭素-炭素不飽和結合又は窒素-窒素不飽和結合を介して結合した化合物等が挙げられる。
【0070】
電子供与性基としては、例えば、アルキル基、アリール基又はアシル基で置換されてもよいアミノ基、アルコキシ基、アリルオキシ基、チオエーテル基等が挙げられる。
【0071】
電子求引性基としては、例えば、ニトロ基、シアノ基、ジシアノビニル基、トリシアノビニル基、ハロゲン原子、カルボニル基、スルホン基、ペルフルオロアルキル、トリシアノビニルフラン、トリシアノフラン等が挙げられる。
【0072】
光導波路133は、電気光学材料として、例えば、ニオブ酸リチウム(LiNbO3)、タンタル酸リチウム(LiTaO3)、リン酸チタン酸カリウム(KTiOPO4:KTP)等の光学的異方性を有する強誘電体で構成されていてもよい。
【0073】
受信アンテナ134は、基板135の主面上に設けられていることが好ましい。
【0074】
図2に示す例では、3つの受信アンテナ134が設けられている。受信アンテナ134の数は、複数であれば3つに限定されず、2つであってもよいし、4つ以上であってもよい。
【0075】
基板135の内部には、光導波路133が基板135の主面に沿って延びるように設けられていることが好ましい。
【0076】
基板135は、1つの層のみで構成されていてもよいし、複数の層で構成されていてもよい。
【0077】
基板135は、例えば、受信アンテナ134側に向かって順に、支持基材136と、電気光学層137と、を含んでもよい。この場合、光導波路133は、支持基材136と電気光学層137との間に設けられていることが好ましい。また、受信アンテナ134は、支持基材136とは反対側の電気光学層137の表面に設けられていることが好ましい。
【0078】
支持基材136の構成材料は、例えば、シリコン、ガラス等の無機材料であってもよいし、シクロオレフィンポリマー、シクロオレフィンコポリマー等の有機材料であってもよい。支持基材136は、これらの材料のうち、1種類のみを含んでいてもよいし、複数種類を含んでいてもよい。
【0079】
支持基材136は、少なくとも受信アンテナ134側の主面が、シクロオレフィンポリマー等の誘電率が低い材料で構成されていることが好ましい。この場合、光導波路133は、支持基材136の受信アンテナ134側の主面上に設けられていることが好ましい。
【0080】
支持基材136は、1つの層のみで構成されていてもよいし、複数の層で構成されていてもよい。
【0081】
電気光学層137の構成材料としては、例えば、ニオブ酸リチウム(LiNbO3)、タンタル酸リチウム(LiTaO3)、リン酸チタン酸カリウム(KTiOPO4:KTP)等の光学的異方性を有する強誘電体が挙げられる。
【0082】
電気光学層137は、1つの層のみで構成されていてもよいし、複数の層で構成されていてもよい。
【0083】
図2には示されていないが、アンテナ一体型電気光学変調器131は、グランド電極をさらに備えてもよい。
【0084】
グランド電極は、受信アンテナ134が設けられた基板135の主面とは反対側の主面に設けられていてもよいし、基板135の内部に設けられていてもよい。いずれの場合においても、グランド電極と受信アンテナ134との間に光導波路133が位置する。
【0085】
グランド電極の構成材料は、受信アンテナ134の構成材料と同じであってもよいし、異なっていてもよい。
【0086】
上記の実施形態では、受信部がアンテナ一体型電気光学変調器を含んでいるが、例えば、以下の無線通信装置のように、受信部は、アンテナ一体型電気光学変調器に代えて、受信用無線信号を受信して受信用電気信号を生成する受信アンテナと、上記受信用電気信号を増幅する受信用増幅器と、上記受信用増幅器で増幅された上記受信用電気信号に基づいて、発光素子からの光信号を変調して受信用光信号を生成する電気光学変調器と、を含んでもよい。
【0087】
複数のアンテナ素子を含み、可変レンズとして作動するトランスミットアレーと、
基地局装置からの送信用光信号を取り込み、上記送信用光信号に対応する送信用無線信号を上記トランスミットアレーに放射する送信部と、
上記トランスミットアレーに到来する受信用無線信号を受信して、上記受信用無線信号に対応する受信用光信号を上記基地局装置へ送る受信部と、
上記トランスミットアレーを制御する制御部と、を備え、
上記送信部は、上記送信用光信号を送信用電気信号に変換する受光素子と、上記送信用電気信号を増幅する送信用増幅器と、上記送信用増幅器で増幅された上記送信用電気信号に対応する上記送信用無線信号を放射する送信アンテナと、を含み、
上記受信部は、上記受信用無線信号を受信して受信用電気信号を生成する受信アンテナと、上記受信用電気信号を増幅する受信用増幅器と、上記受信用増幅器で増幅された上記受信用電気信号に基づいて、発光素子からの光信号を変調して受信用光信号を生成する電気光学変調器と、を含み、
上記制御部は、上記トランスミットアレーの各アンテナ素子が送受信する電波の位相を個別に制御するコントローラーを含み、
上記送信アンテナ及び上記受信アンテナは、上記トランスミットアレーが形成することが可能な集光面に、それぞれ離れた位置で配置されている、無線通信装置。
【0088】
図5は、本発明の別の実施形態に係る無線通信装置を用いた無線通信システムの一例を示す模式図である。
【0089】
図5に示す無線通信システム1Aは、無線通信装置100Aと、基地局装置200と、無線通信装置100及び基地局装置200と接続する光伝送部材300と、を備える。
【0090】
無線通信システム1Aは、無線通信装置100の代わりに無線通信装置100Aを備えることを除いて、無線通信システム1と共通の構成を有する。
【0091】
図5に示すように、無線通信装置100Aは、トランスミットアレー110と、送信部120と、受信部130Aと、制御部140と、を備える。
【0092】
無線通信装置100Aは、受信部130の代わりに受信部130Aを備えることを除いて、無線通信装置100と共通の構成を有する。
【0093】
受信部130Aは、トランスミットアレー110に到来する受信用無線信号(
図4参照)を受信して受信用電気信号RxESを生成する受信アンテナ134と、受信用電気信号RxESを増幅する受信用増幅器138と、受信用増幅器138で増幅された受信用電気信号RxESに基づいて、発光素子132からの光信号を変調して受信用光信号RxOSを生成する電気光学変調器139と、を含む。受信用増幅器138は、例えば、低雑音増幅器(LNA)である。
【0094】
無線通信装置100Aでは、送信アンテナ123及び受信アンテナ134は、トランスミットアレー110が形成することが可能な集光面に、それぞれ離れた位置で配置されている。これにより、無線通信装置100Aにおいても、無線通信装置100と同様の効果が得られる。
【0095】
本明細書には、以下の内容が開示されている。
【0096】
<1>
複数のアンテナ素子を含み、可変レンズとして作動するトランスミットアレーと、
基地局装置からの送信用光信号を取り込み、上記送信用光信号に対応する送信用無線信号を上記トランスミットアレーに放射する送信部と、
上記トランスミットアレーに到来する受信用無線信号を受信して、上記受信用無線信号に対応する受信用光信号を上記基地局装置へ送る受信部と、
上記トランスミットアレーを制御する制御部と、を備え、
上記送信部は、上記送信用光信号を送信用電気信号に変換する受光素子と、上記送信用電気信号を増幅する送信用増幅器と、上記送信用増幅器で増幅された上記送信用電気信号に対応する上記送信用無線信号を放射する送信アンテナと、を含み、
上記受信部は、上記受信用無線信号に基づいて、発光素子からの光信号を変調して上記受信用光信号を生成するアンテナ一体型電気光学変調器を含み、
上記アンテナ一体型電気光学変調器は、上記発光素子からの光信号を伝送する光導波路と、上記光導波路に沿って配置され、上記受信用無線信号を受信する受信アンテナと、を含み、
上記制御部は、上記トランスミットアレーの各アンテナ素子が送受信する電波の位相を個別に制御するコントローラーを含み、
上記送信アンテナ及び上記受信アンテナは、上記トランスミットアレーが形成することが可能な集光面に、それぞれ離れた位置で配置されている、無線通信装置。
【0097】
<2>
上記コントローラーは、上記トランスミットアレーの各アンテナ素子が送受信する電波の位相を個別に制御するための制御用光信号を上記基地局装置から取り込む、<1>に記載の無線通信装置。
【0098】
<3>
上記制御部は、上記トランスミットアレーの焦点位置を、送信時には上記送信アンテナに合わせ、受信時には上記受信アンテナに合わせる、<1>又は<2>に記載の無線通信装置。
【0099】
<4>
上記送信アンテナ及び上記受信アンテナとの間隔は、上記トランスミットアレーが形成するビームスポットサイズよりも大きい、<1>~<3>のいずれか1つに記載の無線通信装置。
【0100】
<5>
上記送信アンテナと上記受信アンテナとの間隔は、動作周波数帯の波長λ以上である、<1>~<4>のいずれか1つに記載の無線通信装置。
【0101】
<6>
上記アンテナ一体型電気光学変調器は、基板をさらに含み、
上記基板の内部には、上記光導波路が上記基板の主面に沿って延びるように設けられている、<1>~<5>のいずれか1つに記載の無線通信装置。
【0102】
<7>
上記光導波路は、電気光学分子を含む電気光学ポリマーで構成されている、<1>~<6>のいずれか1つに記載の無線通信装置。
【0103】
<8>
<1>~<7>のいずれか1つに記載の無線通信装置と、基地局装置と、上記無線通信装置及び上記基地局装置を接続する光伝送部材と、を備える、無線通信システム。
【符号の説明】
【0104】
1、1A 無線通信システム
100、100A 無線通信装置
110 トランスミットアレー
111Rx 受信レンズ
111Tx 送信レンズ
112Rx 受信用焦点位置
112Tx 送信用焦点位置
120 送信部
121 受光素子
122 送信用増幅器
123 送信アンテナ
130、130A 受信部
131 アンテナ一体型電気光学変調器
132 発光素子
133 光導波路
134 受信アンテナ
134a、134b 平面電極
135 基板
136 支持基材
137 電気光学層
138 受信用増幅器
139 電気光学変調器
140 制御部
141 コントローラー
200 基地局装置
300 光伝送部材
CtOS 制御用光信号
RxES 受信用電気信号
RxOS 受信用光信号
RxRS 受信用無線信号
TxES 送信用電気信号
TxOS 送信用光信号
TxRS 送信用無線信号