(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2025011672
(43)【公開日】2025-01-24
(54)【発明の名称】圧力タンクユニット及びその製造方法
(51)【国際特許分類】
B60K 15/03 20060101AFI20250117BHJP
F17C 1/00 20060101ALI20250117BHJP
【FI】
B60K15/03 E
F17C1/00 B
【審査請求】未請求
【請求項の数】5
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023113911
(22)【出願日】2023-07-11
(71)【出願人】
【識別番号】000003207
【氏名又は名称】トヨタ自動車株式会社
(71)【出願人】
【識別番号】308013436
【氏名又は名称】小島プレス工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000110
【氏名又は名称】弁理士法人 快友国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】藤江 勇宜
(72)【発明者】
【氏名】上田 直樹
(72)【発明者】
【氏名】丹羽 亮介
(72)【発明者】
【氏名】藤井 勇輔
(72)【発明者】
【氏名】安藤 幸司
【テーマコード(参考)】
3D038
3E172
【Fターム(参考)】
3D038CA17
3D038CB01
3D038CC20
3E172AA02
3E172AA05
3E172AB01
3E172BA01
3E172BB05
3E172BB12
3E172BB17
3E172BC01
3E172BC04
3E172BD03
3E172CA13
3E172CA14
3E172DA36
(57)【要約】
【課題】分割された複数の保護部材であっても、タンクの損傷を防止し得る技術を提供する。
【解決手段】車両に搭載される圧力タンクユニットは、中心軸に沿って延びる円筒部と円筒部の端部に設けられたドーム部とを備えるタンクと、ドーム部を覆うとともに、中心軸に対する周方向に分割された複数の保護部材と、を備える。複数の保護部材の各々は、周方向において、隣接する他の二つの保護部材の間に位置する本体部分と、隣接する他の二つの保護部材の一方にオーバラップするオーバラップ部分と、隣接する他の二つの保護部材の他方のオーバラップ部分にオーバラップされた被オーバラップ部分と、を備える。
【選択図】
図3
【特許請求の範囲】
【請求項1】
車両に搭載される圧力タンクユニットであって、
中心軸に沿って延びる円筒部と前記円筒部の端部に設けられたドーム部とを備えるタンクと、
前記ドーム部を覆うとともに、前記中心軸に対する周方向に分割された複数の保護部材と、
を備え、
前記複数の保護部材の各々は、
前記周方向において、隣接する他の二つの保護部材の間に位置する本体部分と、
前記隣接する前記他の二つの保護部材の一方にオーバラップするオーバラップ部分と、
前記隣接する前記他の二つの保護部材の他方の前記オーバラップ部分にオーバラップされた被オーバラップ部分と、を備える、
圧力タンクユニット。
【請求項2】
前記複数の保護部材の各々は、前記ドーム部に対向する内面を有し、
前記内面には、前記本体部分と前記オーバラップ部分との境界に沿って、段差が設けられている、請求項1に記載の圧力タンクユニット。
【請求項3】
前記複数の保護部材の各々は、同一形状を有する共通部品である、請求項1又は2に記載の圧力タンクユニット。
【請求項4】
請求項1に記載の圧力タンクユニットの製造方法であって、
前記タンクの外側に、複数の治具を前記周方向に沿って等間隔で配列する配列工程と、
前記複数の治具のそれぞれに、前記複数の保護部材の対応する一つを取り付ける取付工程と、
前記複数の保護部材が取り付けられた前記複数の治具を、前記複数の保護部材が前記タンクに接触するまで、前記タンクに向けて移動させる移動工程と、
を備え、
前記移動工程では、前記複数の保護部材の各々から前記中心軸までの各距離が、同じ距離に維持される、
製造方法。
【請求項5】
前記移動工程では、前記複数の治具を径方向に沿って同じ速度で移動させる、請求項4に記載の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本明細書が開示する技術は、圧力タンクユニット及びその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
特許文献1には、円筒部とドーム部とを備えるタンクと、タンクを覆う保護部材と、を備える圧力タンクユニットが開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
保護部材は、プラスチックといった柔軟性を有する材料で構成されており、外部からタンクへの衝撃を吸収する。特許文献1の保護部材は、ドーム部の全体を覆う単一の部材で構成されている。これに対して、保護部材の設計自由度を高めるために、保護部材を周方向に沿って複数に分割することが検討されている。しかしながら、保護部材を周方向に沿って分割すると、分割された保護部材の間に隙間が生じて、そこからタンクの表面が露出するおそれがある。本明細書は、この問題を解決し得る技術を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本明細書が開示する圧力タンクユニットは、中心軸に沿って延びる円筒部と円筒部の端部に設けられたドーム部とを備えるタンクと、ドーム部を覆うとともに、中心軸に対する周方向に分割された複数の保護部材と、を備える。複数の保護部材の各々は、周方向において、隣接する他の二つの保護部材の間に位置する本体部分と、隣接する他の二つの保護部材の一方にオーバラップするオーバラップ部分と、隣接する他の二つの保護部材の他方のオーバラップ部分にオーバラップされた被オーバラップ部分と、を備える。
【0006】
上記した圧力タンクユニットでは、複数の保護部材の各々は、隣接する他の二つの保護部材の一方にオーバラップするオーバラップ部分と、隣接する他の二つの保護部材の他方のオーバラップ部分にオーバラップされた被オーバラップ部分とを備える。即ち、一つの保護部材と、隣接する他の保護部材と、は、オーバラップ部分と被オーバラップ部分とが径方向で重なることによって隣接して配置される。このような構成によると、複数の保護部材であっても、一つの保護部材と他の一つの保護部材との間に隙間を生じることなくタンクのドーム部を覆うことができる。したがって、分割された複数の保護部材であっても、タンクの損傷を防止することができる。
【図面の簡単な説明】
【0007】
【
図3】圧力タンクユニットのドーム部の断面図を示す。
【発明を実施するための形態】
【0008】
本技術の一実施形態において、複数の保護部材の各々は、ドーム部に対向する内面を有してよい。また、内面には、本体部分とオーバラップ部分との境界に沿って、段差が設けられていてよい。このような構成によると、段差によって、オーバラップ部分とタンクとの間に空間が生じる。この空間に、隣接する保護部材の被オーバラップ部分が入り込むことによって、オーバラップ部分と被オーバラップ部分とが互いに干渉することなく、径方向で重なりやすくなる。
【0009】
本技術の一実施形態において、複数の保護部材の各々は、同一形状を有する共通部品であってよい。このような構成によると、設計及び製造にかかるコストを比較的に低くすることができる。
【0010】
また、本明細書は、圧力タンクユニットの製造方法を開示する。製造方法は、タンクの外側に、複数の治具を周方向に沿って等間隔で配列する配列工程と、複数の治具のそれぞれに、複数の保護部材の対応する一つを取り付ける取付工程と、複数の保護部材が取り付けられた複数の治具を、複数の保護部材がタンクに接触するまで、タンクに向けて移動させる移動工程と、を備えてよい。移動工程では、複数の保護部材の各々から中心軸までの各距離が、同じ距離に維持されてよい。このような構成によると、オーバラップ部分と被オーバラップ部分とを干渉させることなく、タンクの表面に複数の保護部材を配置することができる。
【0011】
本技術の一実施形態において、移動工程では、複数の治具を径方向に沿って同じ速度で移動させてよい。このような構成によると、比較的に簡素な構成や制御によって、複数の保護部材の各々から中心軸までの各距離を同じ距離に維持しながら、複数の治具を移動させることができる。なお、各治具の移動方法は、必ずしも径方向に平行でなくてもよく、径方向に対して角度を成してもよい。即ち、各治具は、放射状の経路に限られず、渦状の経路に沿って移動してもよい。
【実施例0012】
(圧力タンクユニットの構成)
図1は、実施例の圧力タンクユニット10の概略図を示す。圧力タンクユニット10は、タンク12と、複数の第1保護部材14と、複数の第2保護部材16とを備える。圧力タンクユニット10は、例えば、燃料電池車両(図示省略)に搭載される。タンク12は、燃料電池車両が発電をするために用いる高圧の水素ガスを貯留する。すなわち、タンク12は、高圧流体を貯蔵するタンクである。なお、本実施例で説明する技術は、水素ガスを貯留する圧力タンクユニット10に限られず、他の種類の圧縮流体を貯蔵する圧力タンクユニットにも採用することができる。
【0013】
タンク12は、中心軸CLに沿って延びる円筒形状を有する円筒部18と、円筒部18の一端部に設けられる第1ドーム部20と、円筒部18の他端部に設けられる第2ドーム部22とを有する。
【0014】
タンク12は、ライナ24と、FRP(Fiber Reinforced Plastics)層26と、二つの口金28、29とを備える。ライナ24は、最内層であって、水素を収容する内部空間を形成する。ライナ24は、例えばポリアミドのようなプラスチックであって、ガスバリア性の高い材料によって作製されてよい。
【0015】
FRP層26は、ライナ24の外側に配置される層である。FRP層26は、繊維材料で構成された長尺のフィラメントに、熱硬化性プラスチック(例えば、エポキシ樹脂)又は熱可塑性プラスチックを含浸させることによって構成されてよい。FRP層26は、例えばCFRP(Carbon Fiber Reinforced Plastics)やGFRP(Glass Fiber Reinforced Plastics)であってよい。即ち、繊維材料は、炭素繊維であってもよいし、ガラス繊維であってもよい。
【0016】
口金28、29は、金属で構成されるボスであり、第1口金28と第2口金29とを有する。第1口金28は、第1ドーム部20の中央に設けられており、中心軸CL上に位置している。第2口金29は、第2ドーム部22の中央に設けられており、中心軸CL上に位置している。第1口金28は、タンク12の内部と外部とを連通する貫通孔28aを有する。タンク12内の水素ガスは、貫通孔28aを介して、外部に放出されたり、外部から充填されたりする。
【0017】
複数の第1保護部材14は、第1ドーム部20を覆っており、複数の第2保護部材16は、第2ドーム部22を覆っている。複数の第1保護部材14及び複数の第2保護部材16は、プラスチックといった柔軟性を有する材料で構成されており、外部からタンク12への衝撃を吸収する。一例ではあるが、本実施例の第1保護部材14及び第2保護部材16は、ポリプロピレンで構成されている。
【0018】
図2は、圧力タンクユニット10を、第1ドーム部20側から見た斜視図を示す。なお、
図2において、第1口金28は図示省略されている。
図2に示されるように、複数の第1保護部材14は、全体で、中心軸CLに対する周方向に沿って、分割された分割構造を有する。特に限定されないが、複数の第1保護部材14の各々は、同一形状を有する共通部品である。これにより、設計及び製造にかかるコストを比較的に低くすることができる。複数の第1保護部材14の数は、特に限定されず、8~12個であってもよく、8個未満であってもよく、13個以上であってもよい。
【0019】
図3に示されるように、複数の第1保護部材14の各々は、本体部分30と、オーバラップ部分32と、被オーバラップ部分34と、段差36と、を備える。本体部分30は、周方向において、隣接する他の二つの第1保護部材14、14の間に位置する。本体部分30は、円周に沿って湾曲した構造である。本体部分30の表面30aには、リブ38が設けられている。リブ38は、第1保護部材14の強度や衝撃吸収率を向上させるために設けられてよい。リブ38の形状や数は特に限定されず、例えば、複数のリブが本体部分30の表面30aに設けられていてもよい。特に限定されないが、本体部分30の厚みT1は、例えば6mmであってよい。
【0020】
オーバラップ部分32は、本体部分30の右端部に配置される。オーバラップ部分32は、隣接する他の第1保護部材14の左端部(即ち、被オーバラップ部分34)にオーバラップする。特に限定されないが、オーバラップ部分32の厚みT2は、例えば2mmであってよく、長さL1は、12mmであってよい。
【0021】
被オーバラップ部分34は、本体部分30の左端部に配置される。被オーバラップ部分34は、隣接する他の第1保護部材14の右端部(即ち、オーバラップ部分32)にオーバラップされる。特に限定されないが、被オーバラップ部分34の厚みT3は、例えば2mmであってよく、長さL2は、12mmであってよい。また、オーバラップ部分32と被オーバラップ部分34とが径方向に重なり合った重層部分42の長さL3は、例えば、6mmであってよい。
【0022】
このような構成によると、隣接する二つの第1保護部材14の間では、一方の第1保護部材14のオーバラップ部分32と、他方の第1保護部材14の被オーバラップ部分34とが径方向において重なり合う。これにより、隣接する二つの第1保護部材14の間において、タンク12を露出するような隙間は形成されない。したがって、分割された複数の第1保護部材14であっても、タンク12の損傷を防止することができる。
【0023】
図3に示されるように、オーバラップ部分32と本体部分30との境界には、当該境界に沿って、段差36が設けられている。段差36は、第1保護部材14の内面14aに設けられている。このような構成によると、段差36によって、オーバラップ部分32とタンク12との間に空間40が生じる。この空間40に、隣接する第1保護部材14の被オーバラップ部分34が入り込むことによって、オーバラップ部分32と被オーバラップ部分34とが互いに干渉することなく、径方向で重なりやすくなる。
【0024】
以上、第1ドーム部20を覆う複数の第1保護部材14について説明したが、第2ドーム部22を覆う複数の第2保護部材16(
図1参照)についても、同様の構成を有する。
【0025】
(圧力タンクユニットの製造方法)
図4及び
図5を参照して、圧力タンクユニット10の製造方法を説明する。本実施例では、特に、圧力タンクユニット10が8つの第1保護部材14を備えるとして、タンク12に8つの第1保護部材14を組み付けるための一連の工程について説明する。まず、
図4(A)に示されるように、タンク12の第1ドーム部20の外側に、第1保護部材14と同数の治具44(即ち、8つの治具44)を配列する配列工程を実行する。配列工程では、複数の治具44は、周方向に沿って等間隔で配列される。
【0026】
次いで、
図4(B)に示されるように、8つの治具44のそれぞれに、8つの第1保護部材14の対応する一つを取り付ける取付工程を実行する。このとき、各々の第1保護部材14の内面14aには、接着剤又は粘着テープといった接合材(図示省略)が設けられている。なお、この接合材については、第1保護部材14に代えて、又は加えて、タンク12の表面に設けられてもよい。
【0027】
次いで、
図4(C)に示されるように、第1保護部材14がそれぞれ取り付けられた8つの治具44を、それぞれの第1保護部材14がタンク12に接触するまで、タンク12に向けて移動させる移動工程を実行する。
図5に示されるように、8つの治具44のそれぞれは、複数の第1保護部材14の各々から中心軸CLまでの各距離を、同じ距離に維持するように移動する。その結果、オーバラップ部分32と被オーバラップ部分34とを干渉させることなく、タンク12の表面12aに複数の第1保護部材14を配置することができる。各々の第1保護部材14は、接合材を介してタンク12の表面に接合され、タンク12に対して固定される。
【0028】
詳細な説明は省略するが、複数の第2保護部材16についても、複数の第1保護部材14と同様に、複数の治具を用いてタンク12に対して組み付けられる。このとき、第2保護部材16の組み付けは、第1保護部材14の組み付けと同時に行われてもよいし、それとは前後して行われてもよい。
【0029】
上述したように、移動工程において、8つの治具44のそれぞれは、複数の第1保護部材14の各々から中心軸CLまでの各距離を、同じ距離に維持するように移動する。即ち、8つの治具44は、径方向に沿って同じ速度で移動する。このような構成によると、8つの治具44を比較的に簡素な構成や制御にすることができる。なお、8つの治具44の移動方法は、必ずしも径方向に平行でなくてもよく、径方向に対して角度を成してもよい。即ち、8つの治具44の各々は、放射状の経路に限られず、渦状の経路に沿って移動してもよい。
10:圧力タンクユニット、 12:タンク、 14:保護部材、 16:保護部材、 18:円筒部、 20、22:ドーム部、 24:ライナ、 26:FRP層、 28:口金、 28a:貫通孔、 30:本体部分、 32:オーバラップ部分、 34:被オーバラップ部分、36:段差、 38:リブ、 40:空間、 42:重層部分、 44:治具、CL:中心軸