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特開2025-11678加熱殺菌された容器詰めコーヒー飲料およびその製造方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2025011678
(43)【公開日】2025-01-24
(54)【発明の名称】加熱殺菌された容器詰めコーヒー飲料およびその製造方法
(51)【国際特許分類】
   A23F 5/24 20060101AFI20250117BHJP
   A23F 5/02 20060101ALI20250117BHJP
【FI】
A23F5/24
A23F5/02
【審査請求】未請求
【請求項の数】10
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023113923
(22)【出願日】2023-07-11
(71)【出願人】
【識別番号】391058381
【氏名又は名称】キリンビバレッジ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100120031
【弁理士】
【氏名又は名称】宮嶋 学
(74)【代理人】
【識別番号】100126099
【弁理士】
【氏名又は名称】反町 洋
(74)【代理人】
【識別番号】100188651
【弁理士】
【氏名又は名称】遠藤 広介
(72)【発明者】
【氏名】木下 亜希子
(72)【発明者】
【氏名】澤 菜月
【テーマコード(参考)】
4B027
【Fターム(参考)】
4B027FB24
4B027FC01
4B027FC02
4B027FE06
4B027FK01
4B027FK18
4B027FQ01
4B027FQ02
4B027FQ04
4B027FQ06
4B027FQ16
4B027FQ17
(57)【要約】
【課題】ゴム様戻り香または後苦みの目立ちやすさを低減した、ロブスタ種コーヒー豆を用いて製造される加熱殺菌された容器詰めコーヒー飲料の提供。
【解決手段】コーヒーチェリーの乾燥前に果肉およびミューシレージの除去処理が施されたロブスタ種コーヒー豆を用いて製造される、加熱殺菌された容器詰めコーヒー飲料。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
コーヒーチェリーの乾燥前に果肉およびミューシレージの除去処理が施されたロブスタ種コーヒー豆を用いて製造される、加熱殺菌された容器詰めコーヒー飲料。
【請求項2】
前記除去処理が水洗式処理である、請求項1に記載の容器詰めコーヒー飲料。
【請求項3】
使用するコーヒー豆全体に占める前記ロブスタ種コーヒー豆の配合比率が25質量%以上である、請求項1または2に記載の容器詰めコーヒー飲料。
【請求項4】
使用するコーヒー豆全体に占める前記ロブスタ種コーヒー豆の配合比率が25質量%以上であり、前記除去処理以外の除去処理が施されたロブスタ種コーヒー豆の配合比率が35質量%以下である、請求項3に記載の容器詰めコーヒー飲料。
【請求項5】
使用するコーヒー豆全体に占める前記ロブスタ種コーヒー豆の配合比率が100質量%である、請求項1または2に記載の容器詰めコーヒー飲料。
【請求項6】
コーヒー固形分濃度が0.3質量%以上である、請求項1または2に記載の容器詰めコーヒー飲料。
【請求項7】
ブラックコーヒーである、請求項1または2に記載の容器詰めコーヒー飲料。
【請求項8】
ロブスタ種コーヒー豆を用いた容器詰めコーヒー飲料を製造する方法であって、コーヒーチェリーの乾燥前に果肉およびミューシレージの除去処理を施す工程を含んでなる、方法。
【請求項9】
ロブスタ種コーヒー豆を用いて製造される加熱殺菌された容器詰めコーヒー飲料において、ゴム様戻り香または後苦みの目立ちやすさを低減する方法であって、前記容器詰めコーヒー飲料の製造過程において、前記ロブスタ種コーヒー豆にコーヒーチェリーの乾燥前に果肉およびミューシレージの除去処理を施す工程を含んでなる、方法。
【請求項10】
ロブスタ種コーヒー豆を用いて製造される加熱殺菌された容器詰めコーヒー飲料において、香味平坦化の目立ちやすさを低減する方法であって、前記容器詰めコーヒー飲料の製造過程において、前記ロブスタ種コーヒー豆にコーヒーチェリーの乾燥前に果肉およびミューシレージの除去処理を施す工程を含んでなる、方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、加熱殺菌された容器詰めコーヒー飲料およびその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
コーヒー飲料は嗜好品として広く愛好されている。コーヒー飲料で用いられるコーヒー豆の種類は、アラビカ種とロブスタ種(カネフォラ種)に大別され、これら2つの種類から製造されたコーヒーは、異なる香味特性を有することが知られている。アラビカ種コーヒーは、一般的に味、香り、品質も良く、高く評価されることが多いが、ロブスタ種コーヒーは一般的に苦味が強く、独特な麦を焦がしたような香りと、煮出した漢方薬のような不快な風味があり、アラビカ種コーヒーと比べ、硫黄臭、土、カビ、煙臭、フェノール臭、ゴム臭のような好ましくない臭いがあり、アラビカ種コーヒーよりも低く評価されることが多い。そのため、ロブスタ種は比較的安価で流通して容易に入手できるコーヒー豆であるが、アラビカ種をメインにしたブレンドに増量剤的に用いられる場合がほとんどであった。増量剤として使用される場合にも、好ましくない臭いのためにアラビカ種への配合量には制限がある。したがって、その使用範囲を拡げるために、品質改良法が提案されており、例えば、ロブスタ種コーヒー豆抽出液に、スクラロース又はソーマチンを添加する方法(特許文献1)等が提案されている。
【0003】
また、コーヒー飲料のうち、容器詰めコーヒー飲料は、手軽にコーヒー飲料を楽しむことができるといった利便性があり、コーヒー飲料を工業的に生産した容器詰めコーヒー飲料が数多く上市されている。容器詰めコーヒー飲料は、その製造において加熱殺菌処理を行う必要がある。上記ロブスタ種コーヒーを加熱殺菌処理すると、ゴム様戻り香や後苦みが顕著に目立つという問題がある。
【0004】
しかしながら、上記文献には、ロブスタ種コーヒーを加熱殺菌処理した際のゴム様戻り香や後苦みに関しての記載はない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2013-208080号公報
【発明の概要】
【0006】
本発明者らは、今般、加熱殺菌された容器詰めコーヒー飲料において、コーヒーチェリーの乾燥前に果肉およびミューシレージの除去処理が施されたロブスタ種コーヒー豆を用いることにより、ゴム様戻り香または後苦みの目立ちやすさを低減できることを見出した。本発明はこの知見に基づくものである。
【0007】
したがって、本発明は、ゴム様戻り香または後苦みの目立ちやすさを低減した、ロブスタ種コーヒー豆を用いて製造される加熱殺菌された容器詰めコーヒー飲料およびその製造方法を提供する。
【0008】
そして、本発明には、以下の発明が包含される。
(1) コーヒーチェリーの乾燥前に果肉およびミューシレージの除去処理が施されたロブスタ種コーヒー豆を用いて製造される、加熱殺菌された 容器詰めコーヒー飲料。
(2) 前記除去処理が水洗式処理である、(1)に記載の容器詰めコーヒー飲料。
(3) 使用するコーヒー豆全体に占める前記ロブスタ種コーヒー豆の配合比率が25質量%以上である、(1)または(2)に記載の容器詰めコーヒー飲料。
(4) 使用するコーヒー豆全体に占める前記ロブスタ種コーヒー豆の配合比率が25質量%以上であり、前記除去処理以外の除去処理が施されたロブスタ種コーヒー豆の配合比率が35質量%以下である、(3)に記載の容器詰めコーヒー飲料。
(5) 使用するコーヒー豆全体に占める前記ロブスタ種コーヒー豆の配合比率が100質量%である、(1)~(4)のいずれかに記載の容器詰めコーヒー飲料。
(6) コーヒー固形分濃度が0.3質量%以上である、(1)~(5)のいずれかに記載の容器詰めコーヒー飲料。
(7) ブラックコーヒーである、(1)~(6)のいずれかに記載の容器詰めコーヒー飲料。
(8) ロブスタ種コーヒー豆を用いた容器詰めコーヒー飲料を製造する方法であって、コーヒーチェリーの乾燥前に果肉およびミューシレージの除去処理を施す工程を含んでなる、方法。
(9) ロブスタ種コーヒー豆を用いて製造される加熱殺菌された容器詰めコーヒー飲料において、ゴム様戻り香または後苦みの目立ちやすさを低減する方法であって、前記容器詰めコーヒー飲料の製造過程において、前記ロブスタ種コーヒー豆にコーヒーチェリーの乾燥前に果肉およびミューシレージの除去処理を施す工程を含んでなる、方法。
(10) ロブスタ種コーヒー豆を用いて製造される加熱殺菌された容器詰めコーヒー飲料において、香味平坦化の目立ちやすさを低減する方法であって、前記容器詰めコーヒー飲料の製造過程において、前記ロブスタ種コーヒー豆にコーヒーチェリーの乾燥前に果肉およびミューシレージの除去処理を施す工程を含んでなる、方法。
【0009】
本発明によれば、ロブスタ種コーヒー豆を用いて製造される加熱殺菌された容器詰めコーヒー飲料において、ゴム様戻り香または後苦みの目立ちやすさを低減することが可能となる。さらに、本発明は、ロブスタ種コーヒー豆を用いて製造される加熱殺菌された容器詰めコーヒー飲料において、香味平坦化の目立ちやすさを低減する上で有利である。
【発明の具体的説明】
【0010】
本明細書において「コーヒー飲料」とは、特に断りがない限り、コーヒー成分を原料として製造される飲料を意味する。コーヒー飲料には、1977年に制定された「コーヒー飲料等の表示に関する公正競争規約」に記載されているような、コーヒー成分を原料とした飲料およびこれに糖類、乳製品、乳化された食用油脂その他の可食物を添加して容器に密封した飲料が包含される。また、「飲用乳の表示に関する公正競争規約」によれば、重量百分率で乳固形分3.0%以上の成分を含有するものについては「乳飲料」として扱われるが、かかる「乳飲料」も本発明の「コーヒー飲料」に包含されるものとする。また、カフェインを90%以上除去したコーヒーである「カフェインレスコーヒー」に関しても、本発明のコーヒー飲料に包含されるものとする。
【0011】
本明細書において「コーヒー成分」とは、コーヒー豆由来の成分を含有する液のことをいい、例えば、コーヒー抽出液、すなわち、焙煎、粉砕されたコーヒー豆を水や温水、熱水等を用いて抽出した液が挙げられる。また、コーヒー抽出液を濃縮したコーヒーエキス、コーヒー抽出液を乾燥したインスタントコーヒー等を、水や温水、熱水等で適量に調整した液も、コーヒー成分として挙げられる。
【0012】
本明細書において、「ゴム様戻り香」とは、コーヒーを口に含んだときに喉の奥から鼻に抜けて感じられるゴム様の口中香をいい、「後苦み」とは、コーヒーを飲み込んだ後口中に残る苦味をいう。ゴム様戻り香または後苦みの目立ちやすさを低減するとは、加熱殺菌処理を施されてもゴム様戻り香または後苦みが目立ちにくくなっていることをいう。また、「香味平坦化」とは、加熱殺菌処理前にはトップ~ミドル~ラストにおいて香味の抑揚(起伏)があるが、加熱殺菌処理後には香味の抑揚(起伏)がなくなり香味が単調になること、言い換えれば、加熱殺菌処理後にはトップ~ミドル~ラストにおける香味の質・強さの変化が乏しくなることをいう。したがって、香味平坦化の目立ちやすさを低減するとは、加熱殺菌処理を施されても香味の抑揚の乏しさが目立ちにくくなっていることをいう。
【0013】
容器詰めコーヒー飲料
本発明の容器詰めコーヒー飲料は、コーヒーチェリーの乾燥前に果肉およびミューシレージの除去処理が施されたロブスタ種コーヒー豆を用いて製造され、加熱殺菌された飲料である。
【0014】
本発明に用いられるロブスタ種コーヒー豆は、コーヒーチェリーの乾燥前に果肉およびミューシレージの除去処理が施されていればよく、特に制限されるものではない。
【0015】
コーヒー豆(生豆)は、熱帯産地において、収穫されたコーヒーチェリーから果肉等が除去された後、輸入される。上記除去方法には、自然乾燥式処理(以下、乾燥式やナチュラルともいう)や水洗式処理(ウォッシュドともいう)等が存在する。乾燥式では、収穫したコーヒーチェリーを天日乾燥した後、脱殻して種皮、果肉をむき、さらに篩にかけて生豆を取る。一方、水洗式処理は、例えば、初めに果肉とミューシレージと呼ばれる粘液質を、果肉除去機械とミューシレージ除去機械を用いて水洗しながら取り除いた後に、パーチメントコーヒーの状態で乾燥・脱殻する方法が挙げられる。上記機械を用いた水洗による除去は、具体的には、果肉除去機械を用いて、果肉を水洗しながら剥ぎ取り除去した後、ミューシレージ除去機械を用いて、ミューシレージを水洗しながら除去するものである。本発明のコーヒーチェリーの乾燥前の果肉およびミューシレージの除去処理(以下、本発明の除去処理ともいう)は、好ましくは、水洗式処理である。ここで、水洗式処理におけるミューシレージの除去方法には、上述のように、ミューシレージを機械により除去する方法とともに、発酵によりミューシレージを除去する方法も含まれ、ミューシレージが乾燥前に除去されるのであれば方法は問わない。
【0016】
本発明の容器詰めコーヒー飲料における、当該容器詰めコーヒー飲料の製造に使用するコーヒー豆全体に占める、本発明の除去処理が施されたロブスタ種コーヒー豆の配合比率は特に制限されるものではなく、そのコーヒー飲料の種類や、所望の効果の程度に応じて、当業者により適宜決定される。例えば、当業者であれば、本発明の除去処理が施されたロブスタ種コーヒー豆を様々な配合比率で含有するコーヒー飲料のサンプルを実際に調製し、各サンプルについて所望の効果を確認することにより、そのコーヒー飲料の製造に最適な上記コーヒー豆の量を見出すことができる。
【0017】
本発明の好ましい実施態様によれば、容器詰めコーヒー飲料の製造に使用するコーヒー豆全体に占める、本発明の除去処理が施されたロブスタ種コーヒー豆の配合比率は、例えば、25質量%以上が挙げられ、より好ましくは、30質量%以上とされる。本発明の容器詰めコーヒー飲料の製造に使用するコーヒー豆全体に占める、本発明の除去処理が施されたロブスタ種コーヒー豆の配合比率の上限は、特に制限されるものではないが、上記ロブスタ種コーヒー豆の配合比率が多ければそれだけ強い効果が得られるため、100質量%が好ましい。ここで、本発明の除去処理が施されたロブスタ種コーヒー豆以外のコーヒー豆としては、特に制限されるものではないが、アラビカ種豆、本発明の除去処理以外の除去処理(例えば、乾燥式処理等のコーヒーチェリー乾燥後の果肉およびミューシレージの除去処理)が施されたロブスタ種コーヒー豆等が挙げられる。本発明の別の好ましい実施態様によれば、本発明の除去処理が施されたロブスタ種コーヒー豆以外のコーヒー豆として、本発明の除去処理以外の除去処理(例えば、乾燥式処理)が施されたロブスタ種コーヒー豆を用いる場合、容器詰めコーヒー飲料の製造に使用するコーヒー豆全体に占める、本発明の除去処理が施されたロブスタ種コーヒー豆の配合比率が25質量%以上であり、本発明の除去処理以外の除去処理が施されたロブスタ種コーヒー豆の配合比率が35質量%以下であることが挙げられ、より好ましくは、本発明の除去処理が施されたロブスタ種コーヒー豆の配合比率が30質量%以上であり、本発明の除去処理以外の除去処理が施されたロブスタ種コーヒー豆の配合比率が30質量%以下とされる。本発明の別の好ましい実際態様によれば、本発明の除去処理が施されたロブスタ種コーヒー豆以外のコーヒー豆として、本発明の除去処理以外の除去処理が施されたロブスタ種コーヒー豆を用いる場合、本発明の除去処理以外の除去処理が施されたロブスタ種コーヒー豆に対する本発明の除去処理が施されたロブスタ種コーヒー豆の配合比率(すなわち、本発明の除去処理が施されたロブスタ種コーヒー豆/本発明の除去処理以外の除去処理が施されたロブスタ種コーヒー豆)としては、例えば、80質量%以上が挙げられ、より好ましくは90質量%以上とされ、さらに好ましくは100質量%とされる。
【0018】
本発明の容器詰めコーヒー飲料の「コーヒー固形分」は、コーヒー豆から抽出された可溶性の固形分をいう。本発明において、コーヒー飲料のコーヒー固形分濃度(質量%)は、20℃における糖用屈折計示度(Brix)により求めることができる。具体的には、コーヒー飲料のコーヒー固形分濃度(質量%)は、コーヒー飲料を20℃で糖用屈折計を用いて測定されたBrix値(質量%)である。かかる糖用屈折計としては、市販の糖用屈折計(例えば、RX-5000α、アタゴ社製)を用いることができる。
【0019】
本発明の容器詰めコーヒー飲料のコーヒー固形分濃度は、特に制限されるものではないが、例えば、0.3質量%以上が挙げられ、好ましくは0.4質量%以上、より好ましくは0.5質量%以上とされる。また、コーヒー固形分濃度の上限値は特に限定されるものではないが、コーヒー飲料の嗜好性の観点から、好ましくは2.5質量%以下、より好ましくは2.0質量%以下とすることができる。
【0020】
本発明の容器詰めコーヒー飲料は、後述の殺菌前のコーヒー調合液のpHを、例えば、5~9、好ましくは6~8に調整することができる。本発明の容器詰めコーヒー飲料が、例えば、ブラックコーヒーまたは乳入りコーヒーの場合、殺菌前のコーヒー調合液のpHは5~7.5の範囲内とすることができる。飲料のpHは市販のpHメーターを使用して容易に測定することができる。
【0021】
本発明の容器詰めコーヒー飲料におけるコーヒー飲料は、コーヒー成分のみを含んでいてもよいし、上記成分以外に、任意成分をさらに含んでいてもよい。かかる任意成分としては、乳成分(例えば、牛乳)、香料、乳化剤、甘味料(例えば、砂糖等の糖類)、食物繊維、無機塩類、保存料、酸味料、酸化防止剤、増粘安定剤等が挙げられ、好ましくは、無機塩類、乳成分であり、より好ましくは、無機塩類である。任意成分の濃度は、その種類や純度、好み等に応じて適宜設定できるが、例えば、乳成分の場合、コーヒー飲料に対して1~30質量%が挙げられ、好ましくは、5~20質量%である。
【0022】
本発明の好ましい実施態様によれば、容器詰めコーヒー飲料におけるコーヒー飲料は、ゴム様戻り香または後苦みの目立ちやすさを低減するという本発明の効果をより多く享受する観点から、ブラックコーヒーである。かかるブラックコーヒーは、実質的に乳成分を含まないコーヒーをいう。ここで、乳成分とは、コーヒー飲料にミルク風味やミルク感を付与するために添加する成分を指し、主に乳、牛乳および乳製品のことをいう。例えば、生乳、牛乳、特別牛乳、部分脱脂乳、脱脂乳、加工乳、乳飲料等が挙げられ、乳製品としては、クリーム、濃縮ホエイ、濃縮乳、脱脂濃縮乳、無糖れん乳、加糖脱脂れん乳、全粉乳、脱脂粉乳、クリームパウダー、ホエイパウダー、バターミルクパウダー、調整粉乳、乳清ミネラル等が挙げられる。上記ブラックコーヒーは、甘味料の有無を問わず、無糖ブラック、加糖ブラックおよび微糖ブラック等であってもよいが、より好ましくは無糖ブラックである。
【0023】
本発明の別の好ましい実施態様によれば、ブラックコーヒーは、必要に応じて、無機塩類および/または香料を含んでいてもよい。
【0024】
本発明の容器詰めコーヒー飲料における加熱殺菌処理の方法は特に限定されず、例えば、各地の法規(日本にあっては食品衛生法)に従って行えばよい。具体的には、後述の調合液を缶等の容器に充填した後、レトルト処理を行うレトルト殺菌法や、高温で短時間殺菌した後、無菌条件下で殺菌処理された容器に充填する方法(UHT殺菌法)が挙げられる。加熱殺菌処理の程度としては必要に応じて適宜選択すればよいが、レトルト殺菌法では、通常110~130℃で1~30分間程度、好ましくは120~125℃、4~20分間程度の条件である。また、UHT殺菌法では、通常120~150℃で1~120秒間程度、好ましくは130~145℃で30~120秒間程度の条件である。
【0025】
上述のとおり、本発明のコーヒー飲料は、加熱殺菌処理を経て製造されるロブスタ種コーヒー豆を用いたコーヒー飲料に伴うゴム様戻り香または後苦みの目立ちやすさを低減する効果を奏することから、容器詰めコーヒー飲料として好適に提供される。本発明のコーヒー飲料に使用される容器は、殺菌方法や保存方法に合わせて適宜選択すればよく、一般の飲料と同様にポリエチレンテレフタレートを主成分とする成形容器(いわゆるPETボトル)、金属缶、金属箔やプラスチックフィルムと複合された紙容器、瓶等である。本発明のコーヒー飲料の容量は、特に限定されないが、例えば100mL~1000mLであり、好ましくは150mL~800mLである。
【0026】
容器詰めコーヒー飲料の製造方法
本発明の容器詰めコーヒー飲料の製造方法は、コーヒー豆としてロブスタ種コーヒー豆を用い、コーヒーチェリーの乾燥前に果肉およびミューシレージの除去処理を施す工程を含んでなる。
【0027】
本発明の一つの実施態様によれば、本発明の容器詰めコーヒー飲料は、コーヒー豆としてコーヒーチェリーの乾燥前に果肉およびミューシレージの除去処理が施されたロブスタ種コーヒー豆を用いる以外は、通常の容器詰めコーヒー飲料の製造方法に従って製造することができる。例えば、ロブスタ種コーヒー豆について、収穫したコーヒーチェリーを水槽に入れ異物等を選別除去した後、乾燥前に果肉およびミューシレージの除去処理を施しパーチメントコーヒーを得る(除去処理工程)。次いで、パーチメントコーヒーを乾燥し脱殻し、生豆を得る(乾燥・脱殻工程)。得られた生豆を焙煎する(焙煎工程)。焙煎コーヒー豆を所望により他の焙煎コーヒー豆(例えば、水洗式処理以外の除去処理が施されたロブスタ種コーヒー豆や他の種類のコーヒー豆)とブレンドする。その後、粉砕、抽出を行いコーヒー抽出液を得る(以下、抽出工程ともいう)。得られた抽出液を所望のコーヒー固形分濃度となるように希釈し、所望により任意成分を配合してコーヒー調合液を得る(以下、調合工程ともいう)。コーヒー調合液を缶に充填して加熱殺菌し容器詰めコーヒー飲料を製造することができる。
【0028】
本発明の容器詰めコーヒー飲料の製造方法において、コーヒー豆を焙煎する方法は、特に限定されないが、焙煎方式、焙煎温度、焙煎環境等を適宜設定することができる。焙煎方式としては、例えば、直火式、熱風式、半熱風式等が挙げられる。焙煎コーヒーの焙煎度は、特に限定されないが、例えば、ライト、シナモン、ミディアム、ハイ、シティ、フルシティ、フレンチ、イタリアン等が挙げられる。焙煎コーヒーの焙煎度は、L値を用いて表現してもよく、当業者は、豆のL値を適宜選択することができる。L値としては、例えば、10~30が挙げられ、好ましくは14~25である。L値は、例えば、日本電色工業社製の色差計により測定することができる。
【0029】
本発明の容器詰めコーヒー飲料の製造方法において、焙煎コーヒー豆は、コーヒー固形分の抽出効率の向上の観点から、コーヒー固形分が抽出される前に粉砕されていることが好ましい。焙煎コーヒー豆の粉砕は、ロールミル等の一般的な粉砕機を用いて行うことができる。粉砕度は特に限定されるものではなく、粗挽き、中粗挽き、中挽き、中細挽き、細挽きなどの種々の形状の焙煎コーヒー豆を用いることができる。
【0030】
本発明の容器詰めコーヒー飲料の製造方法における抽出工程では、コーヒー抽出液は、焙煎コーヒー豆に加熱した水を接触させてコーヒー固形分を抽出させることにより得られる。抽出温度については、特に制限はないが、例えば、80~100℃が挙げられ、好ましくは95~100℃である。抽出時間については、特に制限はないが、例えば、1~60分が挙げられ、好ましくは2~45分である。抽出時の圧力条件については特に制限はないが特に、豆表面に存在する香気成分を効率よく抽出するため、抽出時の圧力は常圧であることが好ましい。抽出に用いる水には特に制限はないが、イオン交換水、天然水等が挙げられる。抽出に用いる水の量については、特に制限はないが、例えば、粉砕した豆の5~40倍量が挙げられ、好ましくは8~20倍量である。抽出方法は、一般的にコーヒーを淹れる際に用いられる方法や、インスタントコーヒーを製造する際に、焙煎コーヒー豆の粉砕物からコーヒー固形分を抽出する際に用いられる方法により行うことができる。具体的には、ドリップ式、エスプレッソ式、サイフォン式、パーコレーター式、コーヒープレス(フレンチプレス)式、高圧抽出、連続高圧抽出等のいずれを用いて行ってもよい。
【0031】
本発明の容器詰めコーヒー飲料の製造方法における上記調合工程では、上述のコーヒー固形分濃度となるようにコーヒー抽出液を水(例えば、常温水)で希釈し、必要により乳成分、無機塩類といった任意成分を配合しコーヒー調合液を得ることができる。
【0032】
また、上記調合工程で得られた調合液を、上述のように加熱殺菌処理し、容器に充填することができる。加熱殺菌処理は、調合液を容器に充填する前であっても後であってもよい。
【0033】
ゴム様戻り香または後苦みの目立ちやすさを低減する方法
本発明の別の態様によれば、ロブスタ種コーヒー豆を用いて製造される加熱殺菌された容器詰めコーヒー飲料において、ゴム様戻り香または後苦みの目立ちやすさを低減する方法が提供され、該方法は、前記容器詰めコーヒー飲料の製造過程において、前記ロブスタ種コーヒー豆にコーヒーチェリーの乾燥前に果肉およびミューシレージの除去処理を施す工程を含んでなる。
【0034】
香味平坦化の目立ちやすさを低減する方法
本発明のさらに別の態様によれば、ロブスタ種コーヒー豆を用いて製造される加熱殺菌された容器詰めコーヒー飲料において、香味平坦化の目立ちやすさを低減する方法が提供され、該方法は、前記容器詰めコーヒー飲料の製造過程において、前記ロブスタ種コーヒー豆にコーヒーチェリーの乾燥前に果肉およびミューシレージの除去処理を施す工程を含んでなる。
【実施例0035】
以下の例に基づいて本発明を具体的に説明するが、本発明はこれらの例に限定されるものではない。
【0036】
実施例1:コーヒー缶詰め飲料サンプルの調製
ロブスタ種(ベトナムロブスタ)のコーヒー豆を用いてサンプルを調製した。まず、収穫後のコーヒーチェリーを用いて、表1に記載の乾燥前処理工程を経てロブスタ種コーヒー生豆(乾燥式生豆、水洗式生豆)を製造した。
【表1】
【0037】
得られたロブスタ種コーヒー生豆をL値が19となる条件で焙煎した。アラビカ種(ブラジル)コーヒー生豆も上記と同条件で焙煎した。その後、表2に記載の配合比率でブレンドした。ブレンド豆を各試験区とも同条件で粉砕し、各々98℃熱水で約15倍量抽出し、抽出液を得た。得られた抽出液のコーヒー固形分濃度は糖用屈折計(RX-5000α、アタゴ社製)を用いて測定した。
試験区1~3において、表2に記載のコーヒー固形分濃度となるように上記抽出液を常温の水で希釈し、無機塩類を添加してpH調整の上、ブラックコーヒー調合液を得た。得られたブラックコーヒー調合液のpHは約7であった。ブラックコーヒー調合液を、SOT缶(stay-on-tab缶)に充填して、121℃5分間の条件でレトルト殺菌し、ブラックコーヒー缶詰め飲料サンプルを得た。
また、試験区4においては、表2に記載のコーヒー固形分濃度となるように上記抽出液および牛乳を常温の水で希釈し、無機塩類を添加してpH調整の上、乳入りコーヒー調合液を得た。得られた乳入りコーヒー調合液のpHは約7であった。その後、上記乳入りコーヒー調合液を、SOT缶に充填して、124℃20分間の条件でレトルト殺菌し、乳入りコーヒー缶詰め飲料サンプルを得た。
【0038】
実施例2:コーヒー缶詰め飲料サンプルの官能評価試験
実施例1で得られたコーヒー缶詰め飲料サンプルについて、コーヒーの香味を熟知している訓練された5名のパネルによる官能評価を行った。官能評価の評価項目は、評価1として「対照サンプルと比較した際の、香味平坦化の目立ちにくさ」および、評価2として「対照サンプルと比較した際の、ゴム様戻り香、後苦みの目立ちにくさ」とした。以下にそれぞれの具体的な評価基準を示す。
【0039】
評価1「対照サンプルと比較した際の、香味平坦化の目立ちにくさ」について、以下の5段階の評価基準(0.1点刻み)で点数付け評価した。
非常に目立ちにくい 5点
目立ちにくい 4点
やや目立ちにくい 3点
目立ちやすい 2点
非常に目立ちやすい 1点
ここで、「香味平坦化」が目立ちにくいとは、加熱殺菌処理を施されても香味の抑揚の乏しさが目立ちにくくなっていることを意味する。
【0040】
評価2「対照サンプルと比較した際の、ゴム様戻り香、後苦みの目立ちにくさ」について、以下の5段階の評価基準(0.1点刻み)で点数付け評価した。
非常に目立ちにくい 5点
目立ちにくい 4点
やや目立ちにくい 3点
目立ちやすい 2点
非常に目立ちやすい 1点
ここで、「ゴム様戻り香」または「後苦み」が目立ちにくいとは、加熱殺菌処理を施されてもゴム様戻り香または後苦みが目立ちにくくなっていることを意味する。
【0041】
評価1および2ともに、各試験区における缶充填前のレトルト殺菌を施していないコーヒー飲料サンプルを対照サンプルとして用いた。すなわち、対照サンプルは各試験区のブラックコーヒー調合液や乳入りコーヒー調合液である。
ここで、評価1の場合、各試験区のサンプルがその対照サンプルに対してほぼ変化していない場合には、香味平坦化が非常に目立ちにくいといえるため、「非常に目立ちにくい」(5点)となる。一方、「目立ちやすい」(2点)は、対照サンプルと比較しなくても試験区のサンプル単独で変化をしていることが分かる程度をいう。評価2の評価基準も評価1と同様である。
【0042】
下記表2に、各試験区のコーヒー缶詰め飲料サンプルにおける、ロブスタ種コーヒー豆、アラビカ種(ブラジル)コーヒー豆の配合比率、コーヒー固形分濃度および牛乳の配合比率と共に、評価1および評価2の官能評価結果をまとめて示す。官能評価結果のスコアは、平均値±標準偏差として示す。
【表2】
【0043】
表2に示される結果から、試験区1-1(乾燥式)と試験区1-2(水洗式)を比較すると、試験区1-2は試験区1-1に比して官能評価結果が良好であった。試験区1-2では、対照サンプルと比較してゴム様戻り香や後苦みが目立ちにくくなっていた。さらに、試験区1-2では、対照サンプルと比較して香味平坦化も目立ちにくくなっていた。したがって、水洗式処理を施したロブスタ種を使用すると好ましいことが分かる。
【0044】
表2に示される結果から、試験区2-3のロブスタ種の水洗式処理が施された豆の配合比率と、試験区2-1、2-2の豆の配合比率とを比較すると、試験区2-3は試験区2-1および試験区2-2に比して官能評価結果が良好であった。試験区2-3では、対照サンプルと比較してゴム様戻り香や後苦みが目立ちにくくなっており、香味平坦化も目立ちにくくなっていた。したがって、ロブスタ種の水洗式処理が施された豆の配合比率が30質量%以上とするとより好ましいことが分かる。
【0045】
表2に示される結果から、コーヒー固形分濃度を0.5質量%とした試験区3-1(乾燥式)と試験区3-2(水洗式)を比較すると、試験区3-2は試験区3-1に比して官能評価結果が良好であった。試験区3-2では、対照サンプルと比較してゴム様戻り香や後苦みが目立ちにくくなっており、香味平坦化も目立ちにくくなっていた。したがって、コーヒー豆として、コーヒーチェリーの乾燥前に果肉およびミューシレージの除去処理が施されたロブスタ種コーヒー豆を用いた場合、コーヒー固形分濃度が0.5質量%であってもより好ましいことが分かる。
【0046】
表2に示される結果から、コーヒー飲料として乳入りコーヒー缶詰め飲料を用いた試験区4-1(乾燥式)と試験区4-2(水洗式)を比較すると、試験区4-2は試験区4-1に比して官能評価結果が良好であった。試験区4-2では、対照サンプルと比較してゴム様戻り香や後苦みが目立ちにくくなっており、香味平坦化も目立ちにくくなっていた。したがって、乳入りコーヒー飲料であっても効果が認められることが分かる。