(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2025011682
(43)【公開日】2025-01-24
(54)【発明の名称】正極活物質の製造方法、正極活物質及び電池
(51)【国際特許分類】
H01M 4/505 20100101AFI20250117BHJP
H01M 4/525 20100101ALI20250117BHJP
H01M 4/62 20060101ALI20250117BHJP
H01M 10/0562 20100101ALI20250117BHJP
H01M 10/0566 20100101ALI20250117BHJP
H01M 10/052 20100101ALI20250117BHJP
C01G 53/00 20060101ALI20250117BHJP
【FI】
H01M4/505
H01M4/525
H01M4/62 Z
H01M10/0562
H01M10/0566
H01M10/052
C01G53/00 A
【審査請求】有
【請求項の数】12
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023113928
(22)【出願日】2023-07-11
(71)【出願人】
【識別番号】000003207
【氏名又は名称】トヨタ自動車株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100099759
【弁理士】
【氏名又は名称】青木 篤
(74)【代理人】
【識別番号】100123582
【弁理士】
【氏名又は名称】三橋 真二
(74)【代理人】
【識別番号】100092624
【弁理士】
【氏名又は名称】鶴田 準一
(74)【代理人】
【識別番号】100147555
【弁理士】
【氏名又は名称】伊藤 公一
(74)【代理人】
【識別番号】100123593
【弁理士】
【氏名又は名称】関根 宣夫
(74)【代理人】
【識別番号】100133835
【弁理士】
【氏名又は名称】河野 努
(74)【代理人】
【識別番号】100202441
【弁理士】
【氏名又は名称】岩田 純
(72)【発明者】
【氏名】由淵 想
(72)【発明者】
【氏名】吉田 淳
(72)【発明者】
【氏名】森本 勝太
【テーマコード(参考)】
4G048
5H029
5H050
【Fターム(参考)】
4G048AA03
4G048AA04
4G048AB02
4G048AC06
4G048AD03
4G048AE05
5H029AJ06
5H029AK03
5H029AL02
5H029AL03
5H029AL06
5H029AL07
5H029AL08
5H029AL11
5H029AL12
5H029AM03
5H029AM07
5H029AM12
5H029HJ05
5H029HJ07
5H050AA12
5H050BA16
5H050BA17
5H050CA08
5H050CA09
5H050CB02
5H050CB03
5H050CB07
5H050CB08
5H050CB09
5H050CB11
5H050CB12
5H050DA02
5H050HA05
5H050HA07
(57)【要約】
【課題】O2型構造を有し、かつ、固体電池に適用された場合に低い抵抗を有する正極活物質の製造方法を開示する。
【解決手段】本開示の製造方法は、固体電池に用いられる正極活物質の製造方法であって、P2型構造を有するNa含有酸化物粒子を得ること、及び、前記Na含有酸化物粒子のNaの少なくとも一部をLiにイオン交換して、O2型構造を有するLi含有酸化物粒子を得ること、を含み、前記Na含有酸化物粒子が、1.0μm以上3.5μm未満の平均粒子径を有する球状粒子であり、前記Li含有酸化物粒子が、中空単層構造を有する球状粒子であることを特徴とする。
【選択図】
図4
【特許請求の範囲】
【請求項1】
固体電池に用いられる正極活物質の製造方法であって、
P2型構造を有するNa含有酸化物粒子を得ること、及び
前記Na含有酸化物粒子のNaの少なくとも一部をLiにイオン交換して、O2型構造を有するLi含有酸化物粒子を得ること、を含み、
前記Na含有酸化物粒子が、1.0μm以上3.5μm未満の平均粒子径を有する球状粒子であり、
前記Li含有酸化物粒子が、中空単層構造を有する球状粒子である、
製造方法。
【請求項2】
請求項1に記載の製造方法であって、
前記Na含有酸化物粒子が、構成元素として、少なくとも、Mn、Ni及びCoのうちの少なくとも1つの元素と、Naと、Oとを含む、
製造方法。
【請求項3】
固体電池に用いられる正極活物質であって、Li含有酸化物粒子を含み、
前記Li含有酸化物粒子が、O2型構造を有し、
前記Li含有酸化物粒子が、中空単層構造を有する球状粒子であり、
前記Li含有酸化物粒子が、1.0μm以上3.5μm未満の平均粒子径を有する、
正極活物質。
【請求項4】
請求項3に記載の正極活物質であって、
前記Li含有酸化物粒子が、4.5m2/g未満の比表面積を有する、
正極活物質。
【請求項5】
請求項3に記載の正極活物質であって、
前記Li含有酸化物粒子が、構成元素として、少なくとも、Mn、Ni及びCoのうちの少なくとも1つの元素と、Liと、Oとを含む、
正極活物質。
【請求項6】
固体電池であって、正極活物質層、電解質層及び負極活物質層を有し、
前記正極活物質層が、請求項3~5のいずれか1項に記載の正極活物質を含み、
前記正極活物質層が、固体電解質を含む、
固体電池。
【請求項7】
液系電池に用いられる正極活物質の製造方法であって、
P2型構造を有するNa含有酸化物粒子を得ること、及び
前記Na含有酸化物粒子のNaの少なくとも一部をLiにイオン交換して、O2型構造を有するLi含有酸化物粒子を得ること、を含み、
前記Na含有酸化物粒子が、3.5μm以上の平均粒子径を有する球状粒子であり、
前記Li含有酸化物粒子が、中空多層構造を有する球状粒子である、
製造方法。
【請求項8】
請求項7に記載の製造方法であって、
前記Na含有酸化物粒子が、構成元素として、少なくとも、Mn、Ni及びCoのうちの少なくとも1つの元素と、Naと、Oとを含む、
製造方法。
【請求項9】
液系電池に用いられる正極活物質であって、Li含有酸化物粒子を含み、
前記Li含有酸化物粒子が、O2型構造を有し、
前記Li含有酸化物粒子が、中空多層構造を有する球状粒子であり、
前記Li含有酸化物粒子が、3.5μm以上の平均粒子径を有する、
正極活物質。
【請求項10】
請求項9に記載の正極活物質であって、
前記Li含有酸化物粒子が、4.5m2/g以上の比表面積を有する、
正極活物質。
【請求項11】
請求項9に記載の正極活物質であって、
前記Li含有酸化物粒子が、構成元素として、少なくとも、Mn、Ni及びCoのうちの少なくとも1つの元素と、Liと、Oとを含む、
正極活物質。
【請求項12】
液系電池であって、正極活物質層、電解質層及び負極活物質層を有し、
前記正極活物質層が、請求項9~11のいずれか1項に記載の正極活物質を含み、
前記正極活物質層が、液体電解質を含む、
液系電池。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本願は、正極活物質の製造方法、正極活物質及び電池を開示する。
【背景技術】
【0002】
正極活物質としてO2型構造を有するものが知られている。特許文献1に開示されているように、O2型構造を有する正極活物質は、P2型構造を有するNa含有酸化物のNaの少なくとも一部をLiにイオン交換することにより得られる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
O2型構造を有する従来の正極活物質は、固体電池に適用された場合の抵抗に関して改善の余地があり、或いは、液系電池に適用された場合のレート特性に関して改善の余地がある。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本願は上記課題を解決するための手段として、以下の複数の態様を開示する。
<態様1>
固体電池に用いられる正極活物質の製造方法であって、
P2型構造を有するNa含有酸化物粒子を得ること、及び
前記Na含有酸化物粒子のNaの少なくとも一部をLiにイオン交換して、O2型構造を有するLi含有酸化物粒子を得ること、を含み、
前記Na含有酸化物粒子が、1.0μm以上3.5μm未満の平均粒子径を有する球状粒子であり、
前記Li含有酸化物粒子が、中空単層構造を有する球状粒子である、
製造方法。
<態様2>
態様1の製造方法であって、
前記Na含有酸化物粒子が、構成元素として、少なくとも、Mn、Ni及びCoのうちの少なくとも1つの元素と、Naと、Oとを含む、
製造方法。
<態様3>
固体電池に用いられる正極活物質であって、Li含有酸化物粒子を含み、
前記Li含有酸化物粒子が、O2型構造を有し、
前記Li含有酸化物粒子が、中空単層構造を有する球状粒子であり、
前記Li含有酸化物粒子が、1.0μm以上3.5μm未満の平均粒子径を有する、
正極活物質。
<態様4>
態様3の正極活物質であって、
前記Li含有酸化物粒子が、4.5m2/g未満の比表面積を有する、
正極活物質。
<態様5>
態様3又は4の正極活物質であって、
前記Li含有酸化物粒子が、構成元素として、少なくとも、Mn、Ni及びCoのうちの少なくとも1つの元素と、Liと、Oとを含む、
正極活物質。
<態様6>
固体電池であって、正極活物質層、電解質層及び負極活物質層を有し、
前記正極活物質層が、態様3~5のいずれかの正極活物質を含み、
前記正極活物質層が、固体電解質を含む、
固体電池。
<態様7>
液系電池に用いられる正極活物質の製造方法であって、
P2型構造を有するNa含有酸化物粒子を得ること、及び
前記Na含有酸化物粒子のNaの少なくとも一部をLiにイオン交換して、O2型構造を有するLi含有酸化物粒子を得ること、を含み、
前記Na含有酸化物粒子が、3.5μm以上の平均粒子径を有する球状粒子であり、
前記Li含有酸化物粒子が、中空多層構造を有する球状粒子である、
製造方法。
<態様8>
態様7の製造方法であって、
前記Na含有酸化物粒子が、構成元素として、少なくとも、Mn、Ni及びCoのうちの少なくとも1つの元素と、Naと、Oとを含む、
製造方法。
<態様9>
液系電池に用いられる正極活物質であって、Li含有酸化物粒子を含み、
前記Li含有酸化物粒子が、O2型構造を有し、
前記Li含有酸化物粒子が、中空多層構造を有する球状粒子であり、
前記Li含有酸化物粒子が、3.5μm以上の平均粒子径を有する、
正極活物質。
<態様10>
態様9の正極活物質であって、
前記Li含有酸化物粒子が、4.5m2/g以上の比表面積を有する、
正極活物質。
<態様11>
態様9又は10の正極活物質であって、
前記Li含有酸化物粒子が、構成元素として、少なくとも、Mn、Ni及びCoのうちの少なくとも1つの元素と、Liと、Oとを含む、
正極活物質。
<態様12>
液系電池であって、正極活物質層、電解質層及び負極活物質層を有し、
前記正極活物質層が、態様9~11のいずれかの正極活物質を含み、
前記正極活物質層が、液体電解質を含む、
液系電池。
【発明の効果】
【0006】
本開示の正極活物質は、固体電池に適用された場合の抵抗が低い。或いは、本開示の正極活物質は、液系電池に適用された場合のレート特性に優れる。
【図面の簡単な説明】
【0007】
【
図1A】固体電池に用いられる正極活物質の製造方法の流れの一例を示している。
【
図1B】液系電池に用いられる正極活物質の製造方法の流れの一例を示している。
【
図2A】中空単層構造を有する球状粒子の断面形状を概略的に示している。
【
図2B】中空多層構造を有する球状粒子の断面形状を概略的に示している。
【
図2C】中空多層構造を有する球状粒子の断面形状を概略的に示している。
【発明を実施するための形態】
【0008】
1.第1形態
第1形態に係る正極活物質は、固体電池に用いられる。
【0009】
1.1 固体電池に用いられる正極活物質の製造方法
図1Aに示されるように、固体電池に用いられる正極活物質の製造方法は、
S1:P2型構造を有するNa含有酸化物粒子を得ること、及び、
S2:前記Na含有酸化物粒子のNaの少なくとも一部をLiにイオン交換して、O2型構造を有するLi含有酸化物粒子を得ること、を含む。
ここで、前記Na含有酸化物粒子は、1.0μm以上3.5μm未満の平均粒子径を有する球状粒子である。また、
図2Aに示されるように、前記Li含有酸化物粒子は、中空単層構造を有する球状粒子である。
【0010】
本願において、「平均粒子径」とは、特に断りがない限り、レーザー回折・散乱法によって体積基準の粒度分布における積算値50%での粒子径(D50、メジアン径)を意味する。
【0011】
本願において、「球状粒子」とは、円形度が0.80以上である粒子を意味する。球状粒子の円形度は、0.81以上、0.82以上、0.83以上、0.84以上、0.85以上、0.86以上、0.87以上、0.88以上、0.89以上又は0.90以上であってもよい。粒子の円形度は4πS/L2で定義される。ここで、Sは粒子の正投影面積であり、Lは粒子の正投影像の周囲長である。粒子の円形度は、走査型電子顕微鏡(SEM)や透過電子顕微鏡(TEM)や光学顕微鏡によって粒子の外観又は断面形状を観察することにより求めることができる。複数の粒子からなるものである場合、その円形度は、例えば、以下のようにして平均値として測定される。
(1)まず、粒子の粒度分布を測定する。具体的には、レーザー回折・散乱法によって体積基準の粒度分布における積算値10%での粒子径(D10)と、積算値90%での粒子径(D90)とを求める。
(2)粒度分布を測定した粒子の外観について、SEMやTEMや光学顕微鏡により画像観察を行い、当該画像に含まれる粒子のうち、(1)で求めたD10以上、且つ、D90以下の円相当直径(粒子の正投影面積と同じ面積を有する円の直径)を有するものを、任意に100個抽出する。
(3)抽出された100個の粒子について、各々、画像処理によって円形度を求め、その平均値を「粒子の円形度」とみなす。
【0012】
1.1.1 S1
S1においては、P2型構造を有するNa含有酸化物粒子を得る。ここで、S1によって得られるNa含有酸化物粒子は、1.0μm以上3.5μm未満の平均粒子径を有する球状粒子である。
【0013】
P2型構造を有し、所定の平均粒子径を有し、かつ、球状であるNa含有酸化物粒子は、例えば、以下のS1-1、S1-2及びS1-3を経て作製することができる。
S1-1:前駆体粒子を得ること
S1-2:前記前駆体粒子の表面をNa源で被覆して、複合粒子を得ること
S1-3:前記複合粒子を焼成すること
【0014】
S1-1においては、前駆体粒子を得る。前駆体粒子は、例えば、Mn、Ni及びCoのうちの少なくとも1つの元素を含む。前駆体粒子は、少なくとも、Mnと、Ni及びCoのうちの一方又は両方と、を含むものであってもよいし、少なくともMnとNiとCoとを含むものであってもよい。前駆体粒子は、Mn、Ni及びCoのうちの少なくとも1つの元素を含む塩であってもよい。例えば、前駆体粒子は、炭酸塩、硫酸塩、硝酸塩及び酢酸塩のうちの少なくとも1種であってもよい。或いは、前駆体粒子は、塩以外の化合物であってもよい。例えば、前駆体粒子は、水酸化物であってもよい。前駆体粒子は、水和物であってもよい。前駆体粒子は、複数種類の化合物の組み合わせであってもよい。前駆体粒子は、球状粒子である。前駆体粒子のサイズは、目的とするNa含有酸化物粒子の平均粒子径に応じて決定される。
【0015】
S1-1においては、遷移金属イオンと水溶液中で沈殿を形成し得るイオン源と、Mn、Ni及びCoのうちの少なくとも1つの元素を含む遷移金属化合物とを用い、共沈法によって、上記前駆体粒子としての沈殿物を得てもよい。これにより、前駆体粒子としての球状粒子が得られる。「遷移金属イオンと水溶液中で沈殿物を形成し得るイオン源」は、例えば、炭酸ナトリウム、硝酸ナトリウム等のナトリウム塩、水酸化ナトリウム、及び、酸化ナトリウム等から選ばれる少なくとも1種であってもよい。遷移金属化合物は、Mn、Ni及びCoのうちの少なくとも1つの元素を含む上記の塩や水酸化物等であってよい。具体的には、S1-1においては、当該イオン源と当該遷移金属化合物とを各々溶液としたうえで、各々の溶液を滴下・混合することで前駆体粒子としての沈殿物を得てもよい。この際、溶媒としては、例えば、水が用いられる。この際、塩基として各種ナトリウム化合物を用いてもよく、また、塩基性の調整のためにアンモニア水溶液等を加えてもよい。共沈法の場合、例えば、遷移金属化合物の水溶液と、炭酸ナトリウムの水溶液とを準備し、各々の水溶液を滴下して混合することで、前駆体粒子としての沈殿物が得られる。或いは、ゾルゲル法によって前駆体粒子を得ることも可能である。特に共沈法によれば、前駆体粒子としての球状粒子が効率的に得られる。
【0016】
S1-1においては、前駆体粒子が元素Mを含んでいてもよい。元素Mは、B、Mg、Al、K、Ca、Ti、V、Cr、Cu、Zn、Ga、Ge、Sr、Y、Zr、Nb、Mo及びWから選ばれる少なくとも1種である。これら元素Mは、例えば、P2型構造やO2型構造を安定化する機能を有する。元素Mを含む前駆体粒子を得る方法は、特に限定されるものではない。S1-1において共沈法によって前駆体粒子を得る場合、例えば、Mn、Ni及びCoのうちの少なくとも1つを含む遷移金属化合物の水溶液と、炭酸ナトリウムの水溶液と、元素Mの化合物の水溶液とを準備し、各々の水溶液を滴下して混合することで、Mn、Ni及びCoのうちの少なくとも1つの元素とともに元素Mを含む前駆体が得られる。或いは、S1-1において元素Mを添加せず、後述のS1-2及びS1-3においてNaドープ焼成を施す際に、元素Mをドープしてもよい。
【0017】
S1-2においては、S1-1によって得られた前駆体粒子の表面をNa源で被覆して、複合粒子を得る。Na源は、炭酸塩や硝酸塩等のNaを含む塩であってもよいし、酸化ナトリウムや水酸化ナトリウム等の塩以外の化合物であってもよい。S1-2において、前駆体粒子の表面に被覆されるNa源の量は、その後の焼成時のNa消失分を加味して決定されればよい。
【0018】
S1-2において、前駆体粒子の表面に対するNa源の被覆率は、特に限定されるものではない。例えば、S1-2においては、上記の複合粒子が、上記の前駆体粒子の表面の40面積%以上、50面積%以上、60面積%以上又は70面積%以上をNa源で被覆することによって得られるものであってもよい。ここで、S1-1によって得られる前駆体が、球状粒子であり、S1-2によって得られる複合粒子が、前記前駆体粒子の表面の40面積%以上を前記Na源で被覆することによって得られるものである場合、後述のS1-3において、P2型構造を有するNa含有酸化物粒子が球状粒子となり易い。Na源の被覆率が小さいと、複合粒子を焼成した場合に、複合粒子の表面においてP2型結晶が異常成長し易く、Na含有酸化物粒子が板状粒子となり易い。Na源の被覆率が大きい場合、複合粒子を焼成した場合に、P2型結晶の結晶子が小さくなり易く、かつ、Na含有酸化物粒子が前駆体粒子の形状と対応する球状粒子となり易い。
【0019】
S1-2において、上記の前駆体粒子の表面をNa源で被覆する方法は、特に限定されるものではない。上述の通り、前駆体粒子の表面の40面積%以上をNa源で被覆する場合、その方法としては、様々な方法が挙げられる。例えば、転動流動コーティング法やスプレードライ法が挙げられる。すなわち、Na源を溶解したコーティング溶液を準備し、前駆体粒子の表面にコーティング溶液を接触させると同時に、或いは、接触させた後に、乾燥する。コーティングの条件(温度、時間、回数等)を調整することで、前駆体粒子の表面の40面積%以上をNa源で被覆することができる。
【0020】
S1-2においては、前駆体粒子に対してNa源とともにM源が被覆されてもよい。例えば、S1-2においては、S1-1によって得られた前駆体粒子と、Na源と、B、Mg、Al、K、Ca、Ti、V、Cr、Cu、Zn、Ga、Ge、Sr、Y、Zr、Nb、Mo及びWから選ばれる少なくとも1種の元素Mを含むM源とを混合して、複合粒子を得てもよい。M源は、例えば、炭酸塩や硫酸塩等の元素Mを含む塩であってもよいし、酸化物や水酸化物等の塩以外の化合物であってもよい。前駆体粒子に対するM源の量は、焼成後のNa含有酸化物粒子の化学組成に応じて決定されればよい。
【0021】
S1-3においては、S1-2によって得られた複合粒子を焼成することで、P2型構造を有するNa含有酸化物を得る。S1-3は、例えば、以下のS1-3-1、S1-3-2及びS1-3-3を含むものであってもよい。
S1-3-1:前記複合粒子に対して、300℃以上700℃未満の温度で、2時間以上10時間以下の間、予備焼成を施すこと
S1-3-2:前記予備焼成に引き続いて、前記複合粒子に対して、700℃以上1100℃以下の温度で、30分以上48時間以下の間、本焼成を施すこと
S1-3-3:前記本焼成に引き続いて、前記複合粒子を、200℃以上の温度T1から100℃以下の温度T2まで、高速冷却すること
【0022】
S1-3-1においては、前記複合粒子に対して、300℃以上700℃未満の温度で、2時間以上10時間以下の間、予備焼成を施す。S1-3-1においては、上記の複合粒子を任意に成形したうえで、予備焼成を施してもよい。予備焼成は、本焼成未満の温度で行われる。予備焼成を十分に行うことによって、本焼成においてP2相を適切に生成させるとともに、P2相以外の結晶相の生成を抑えることができる。すなわち、S1-3-1において、予備焼成温度が300℃以上700℃未満であり、予備焼成時間が2時間以上10時間以下であることで、複合粒子に対して十分な予備焼成を施すことができ、後述のS1-3-2及びS1-3-3を経て得られるNa含有酸化物粒子において、P2相を適切に生成させるとともに、P2相以外の相の生成を抑えることができる。これにより、S2を経て得られるLi含有酸化物粒子が、O2型構造を有し、中空単層構造を有し、かつ、球状となる。予備焼成温度は、400℃以上700℃未満、450℃以上700℃未満、500℃以上700℃未満、550℃以上700℃未満、又は、550℃以上650℃以下であってもよい。また、予備焼成時間は、2時間以上8時間以下、3時間以上8時間以下、4時間以上8時間以下、5時間以上8時間以下、又は、5時間以上7時間以下であってもよい。予備焼成雰囲気は、特に限定されるものではなく、例えば、酸素含有雰囲気であってもよい。
【0023】
S1-3-2においては、上記の予備焼成に引き続いて、前記複合粒子に対して、700℃以上1100℃以下の温度で、30分以上48時間以下の間、本焼成を施す。S1-3-2において、複合粒子の本焼成温度は、700℃以上1100℃以下であり、好ましくは800℃以上1000℃以下である。本焼成温度が低過ぎると、P2相が生成せず、本焼成温度が高過ぎるとP2相ではなくO3相等が生成し易い。予備焼成温度から本焼成温度に至るまでの昇温条件は、特に限定されるものではない。本焼成時間は、上述の通り、30分以上48時間以下であってよい。ただし、本焼成時間によって、Na含有酸化物粒子の形状が制御され得る。上述したように、複合粒子におけるNa源の被覆率が40面積%以上である場合、当該複合粒子を焼成した場合に、その表面に結晶子の小さなP2型結晶が形成され易い。S1-3-2においては、一のP2型結晶子と他のP2型結晶子とを互いに連結させるようにして、粒子の表面に沿ってP2型結晶を成長させることで、Na含有酸化物粒子の形状が、前駆体粒子の形状と対応するものとなる。例えば、前駆体粒子が球状粒子である場合、Na含有酸化物粒子も球状粒子となる。本焼成時間が短過ぎると、P2相の生成が不十分となる。一方、本焼成時間が長過ぎると、P2相が過剰に成長し、Na含有酸化物粒子が、球状粒子ではなく板状粒子となる。本発明者が確認した限りでは、本焼成時間が30分以上3時間以下である場合に、Na含有酸化物粒子の球状粒子が得られ易い。本焼成後に得られるNa含有酸化物粒子は、表面に複数の結晶子が存在し、かつ、結晶子同士が連結した構造を有していてもよい。
【0024】
S1-3-3においては、上記の本焼成に引き続いて、本焼成後の前記複合粒子(P2型粒子)を、200℃以上の温度T1から100℃以下の温度T2まで、高速冷却(降温速度20℃/min以上で冷却)する。上記の予備焼成や本焼成は、例えば、加熱炉内において行われる。工程S1-3-3においては、例えば、加熱炉内で複合粒子の本焼成を行った後、加熱炉内を200℃以上の任意の温度T1まで冷却し、当該温度T1となった後、加熱炉内から焼成物を取り出し、100℃以下の任意の温度T2まで炉外で高速冷却を行う。温度T1は、200℃以上の任意の温度であり、250℃以上の任意の温度であってもよい。温度T2は、100℃以下の任意の温度であり、50℃以下の任意の温度であってもよく、冷却終了温度であってもよい。温度T1から温度T2に至るまでの間においては、原子振動や分子運動等によってP2型構造の層間に水分が侵入し易い。本焼成後の複合粒子(P2型粒子)を冷却する際、このような水分が侵入し易い温度領域となる時間を短時間とする(すなわち、高速冷却する)ことで、P2型構造の層間への水分の侵入量が少なくなるものと考えられる。この点、工程S1-3-3において、本焼成後の複合粒子を冷却する際、200℃以上の任意の温度T1から100℃以下の任意の温度T2に至るまで、炉外(例えば、炉外のドライ雰囲気)にて放冷を行うことで、温度T1から温度T2に至るまでの間の冷却速度が高速(例えば、20℃/min以上)となり、P2型構造の層間に水分が侵入し難くなり、P2型構造の崩壊等を抑制することができる。結果として、後述するS2において、Naを効率的にLiにイオン交換することができ、S2を経て得られるLi含有酸化物粒子が、O2型構造を有し、中空単層構造を有し、かつ、球状の粒子となる。
【0025】
以上の方法により、P2型構造を有し、かつ、球状のNa含有酸化物粒子が得られる。
【0026】
Na含有酸化物粒子は、結晶構造として、少なくともP2型構造(空間群P63mcに属する)を有する。Na含有酸化物粒子は、P2型構造を有するとともに、P2型構造以外の結晶構造を有していてもよい。P2型構造以外の結晶構造としては、例えば、P2型構造からNaを脱挿入した際に形成される各種結晶構造が挙げられる。Na含有酸化物粒子は、主相としてP2型構造を有するものであってもよい。
【0027】
Na含有酸化物粒子は、例えば、構成元素として、少なくとも、Mn、Ni及びCoのうちの少なくとも1つの元素と、Naと、Oとを含む。特に、構成元素として、少なくとも、Naと、Mnと、Ni及びCoのうちの少なくとも一方と、Oとを含む場合、中でも、構成元素として、少なくとも、Naと、Mnと、Niと、Coと、Oとを含む場合に、後述のS2を経て得られる正極活物質の性能が一層高くなり易い。Na含有酸化物粒子は、NacMnx-pNiy-qCoz-rMp+q+rO2で示される化学組成を有するものであってもよい。ここで、0<c≦1.00、x+y+z=1、かつ、0≦p+q+r<0.17である。また、Mは、B、Mg、Al、K、Ca、Ti、V、Cr、Fe、Cu、Zn、Ga、Ge、Sr、Y、Zr、Nb、Mo及びWから選ばれる少なくとも1種の元素である。Na含有酸化物粒子がこのような化学組成を有する場合、P2型構造がさらに維持され易い。上記化学組成において、cは、0超、0.10以上、0.20以上、0.30以上、0.40以上、0.50以上又は0.60以上であってもよく、かつ、1.00以下、0.90以下、0.80以下又は0.70以下であってもよい。xは、0以上であり、0.10以上、0.20以上、0.30以上、0.40以上又は0.50以上であってもよく、かつ、1.00以下であり、0.90以下、0.80以下、0.70以下、0.60以下又は0.50以下であってもよい。また、yは、0以上であり、0.10以上又は0.20以上であってもよく、かつ、1.00以下であり、0.90以下、0.80以下、0.70以下、0.60以下、0.50以下、0.40以下、0.30以下又は0.20以下であってもよい。また、zは、0以上であり、0.10以上、0.20以上又は0.30以上であってもよく、かつ、1.00以下であり、0.90以下、0.80以下、0.70以下、0.60以下、0.50以下、0.40以下又は0.30以下であってもよい。元素Mは充放電への寄与が小さい。この点、上記の化学組成において、p+q+rが0.17未満であることで、高い充放電容量が確保され易い。p+q+rは、0.16以下、0.15以下、0.14以下、0.13以下、0.12以下、0.11以下又は0.10以下であってもよい。一方で、元素Mが含まれることで、P2型構造やO2型構造が安定化し易い。上記の化学組成において、p+q+rは0以上であり、0.01以上、0.02以上、0.03以上、0.04以上、0.05以上、0.06以上、0.07以上、0.08以上、0.09以上又は0.10以上であってもよい。Oの組成は、ほぼ2であるが、2.0ピッタリとは限らず、不定である。
【0028】
第1形態においては、後述のS2において、Na含有酸化物粒子として、1.0μm以上3.5μm未満の平均粒子径を有する球状粒子を用いる。球状のNa含有酸化物粒子は、例えば、上述の通り、球状の前駆体粒子を用いて複合粒子を作製し、かつ、複合粒子の焼成条件を調整することによって作製することができる。ここで、3.5μm未満の平均粒子径を有し、かつ、球状である前駆体粒子を用いることによって、1.0μm以上3.5μm未満の平均粒子径を有し、かつ、球状のNa含有酸化物粒子が得られる。或いは、ランダムなサイズを有する前駆体粒子を用いて球状のNa含有酸化物粒子の製造した後、気流分級や篩分け等を行い、1.0μm以上3.5μm未満の平均粒子径を有する球状のNa含有酸化物粒子を回収してもよい。
【0029】
Na含有酸化物粒子の平均粒子径は、1.0μm以上3.5μm未満であり、1.2μm以上3.3μm以下、又は、1.4μm以上3.0μm以下であってもよい。Na含有酸化物粒子の平均粒子径が1.0μm以上3.5μm未満であることで、後述のS2を経て得られるLi含有酸化物粒子が中空単層構造を有するものとなる。Na含有酸化物粒子が小さ過ぎると、Li含有酸化物粒子において中空構造が得られない。
【0030】
1.1.2 S2
S2においては、S1で得られたNa含有酸化物粒子のNaの少なくとも一部をLiにイオン交換して、O2型構造を有するLi含有酸化物粒子を得る。ここで、S2によって得られるLi含有酸化物粒子は、中空単層構造を有する球状粒子である。
【0031】
S2において、イオン交換には、例えば、ハロゲン化リチウムを含む水溶液を用いる方法と、ハロゲン化リチウムとその他のリチウム塩との混合物(例えば、溶融塩)を用いる方法とがある。P2型構造が水の侵入により壊れやすいものである観点、及び、結晶性の観点から、上記の2つの方法のうち、溶融塩を用いる方法が好ましい。すなわち、上述のP2型構造を有するNa含有酸化物粒子と当該溶融塩とを混合して溶融塩の融点以上の温度に加熱することで、イオン交換により、Na含有酸化物粒子のNaの少なくとも一部をLiに置換することができる。
【0032】
S2において、溶融塩を構成するハロゲン化リチウムは、塩化リチウム、臭化リチウム及びヨウ化リチウムのうちの少なくとも1つであることが好ましい。溶融塩を構成するその他のリチウム塩は、硝酸リチウムであることが好ましい。溶融塩を用いることで、ハロゲン化リチウムやその他のリチウム塩を単独で用いる場合よりも融点が低くなり、より低温でのイオン交換が可能となる。
【0033】
S2において、イオン交換における温度は、例えば、上記の溶融塩の融点以上、かつ、600℃以下、500℃以下、400℃以下又は300℃以下であってもよい。イオン交換における温度が高過ぎると、O2型構造ではなく、安定相であるO3型構造が生成し易い。一方で、イオン交換にかかる時間を短時間とする観点からは、イオン交換における温度はできるだけ高温であるとよい。
【0034】
S2においては、球状のNa含有酸化物粒子のNaの少なくとも一部をLiにイオン交換することで、イオン半径の大きなNaがイオン半径の小さなLiに置換され、結晶構造における層間距離が短くなって収縮が起きる。このようなイオン交換時の収縮によって、粒子の内部に空隙が生じる。Na含有酸化物粒子のサイズが小さい場合、当該収縮によって粒子の中心部分に空隙が生じ、結果として中空単層構造が得られるものと考えられる。一方、Na含有酸化物粒子のサイズが大きい場合、当該収縮によって、粒子の内部において周方向に亀裂が入り、結果として多数の「殻」が生じ、後述する中空多層構造が得られるものと考えられる。尚、Na含有酸化物粒子が球状以外の形状である場合、粒子の内部に均一な収縮が起きず、適切な中空構造は得られない。
【0035】
以上の方法により、O2型構造を有し、中空単層構造を有し、球状粒子であり、かつ、1.0μm以上3.5μm未満の平均粒子径を有するLi含有酸化物粒子が得られる。当該Li含有酸化物粒子は、固体電池の正極活物質として用いられる。
【0036】
1.2 固体電池に用いられる正極活物質
第1形態に係る固体電池に用いられる正極活物質は、Li含有酸化物粒子を含む。ここで、前記Li含有酸化物粒子は、O2型構造を有する。また、
図2Aに示されるように、前記Li含有酸化物粒子は、中空単層構造を有する球状粒子である。また、前記Li含有酸化物粒子は、1.0μm以上3.5μm未満の平均粒子径を有する。
【0037】
1.2.1 結晶構造
第1形態に係るLi含有酸化物粒子は、結晶構造として、少なくともO2型構造(空間群P63mcに属する)を有する。一実施形態に係るLi含有酸化物粒子は、O2型構造を有するとともに、O2型構造以外の結晶構造を有していてもよい。O2型構造以外の結晶構造としては、例えば、O2型構造からLiを脱挿入した際に形成されるT♯2型構造(空間群Cmcaに属する)やO6型構造(空間群R-3mに属し、c軸長が2.5nm以上3.5nm以下、典型的には2.9nm以上3.0nm以下であって、同じく空間群R-3mに属するO3型構造とは異なる)等が挙げられる。一実施形態に係るLi含有酸化物粒子は、主相としてO2型構造を有するものであってもよい。一実施形態に係るLi含有酸化物粒子は、主相としてO2型構造以外の構造(例えば、O6型構造)を有するものであってもよい。Li含有酸化物粒子は、その充放電状態によっても、主相となる結晶構造が変化し得る。
【0038】
1.2.2 結晶子
第1形態に係るLi含有酸化物粒子は、複数の結晶子を有する多結晶であってもよい。例えば、一実施形態に係るLi含有酸化物粒子は、その表面が複数の結晶子によって構成されていてもよい。言い換えれば、Li含有酸化物粒子は、その表面において、複数の結晶子同士が連結した構造を有していてもよい。Li含有酸化物粒子の表面が複数の結晶子によって構成される場合、表面に結晶粒界が存在することとなる。ここで、結晶粒界は、インターカレーションの入口及び出口となる場合がある。すなわち、Li含有酸化物粒子が、複数の結晶子を有する多結晶である場合、インターカレーションの出入り口が多くなって反応抵抗が低下する効果、リチウムイオンの移動距離が短くなって拡散抵抗が減少する効果、充放電時の膨張収縮量の絶対量が少なくなり、割れが発生し難くなる効果、などが期待できる。結晶子のサイズは、大きくても小さくてもよいが、結晶子のサイズが小さいほうが、結晶粒界が多くなり、上述の有利な効果が発揮され易いものと考えられる。例えば、Li含有酸化物粒子を構成する結晶子の直径が、1μm未満であると、より高い性能が得られ易い。尚、「結晶子」や「結晶子の直径」は、走査型電子顕微鏡(SEM)や透過電子顕微鏡(TEM)によってLi含有酸化物粒子の表面を観察することにより求めることができる。すなわち、Li含有酸化物粒子の表面を観察し、結晶粒界によって囲まれる1つの閉じられた領域が観察された場合、当該領域を「結晶子」とみなす。当該結晶子について最大のフェレ径を求め、これを「結晶子の直径」とみなす。或いは、結晶子の直径は、EBSDやXRDによって求めることもできる。例えば、結晶子の直径は、XRDパターンの回折線の半値幅からシェラーの式に基づいて求めることができる。Li含有酸化物粒子は、いずれかの方法により特定された結晶子の直径が1μm未満であると、より高い性能が発揮され易い。Li含有酸化物粒子を構成する結晶子は、当該粒子の表面に露出する第1面を有していてもよく、当該第1面は、平面状であってもよい。すなわち、Li含有酸化物粒子の表面は、複数の平面が連結された構造を有していてもよい。上述の通り、Li含有酸化物粒子を製造する際、一の結晶子と他の結晶子とが互いに連結するまで、粒子の表面において結晶子を成長させることで、平面状の第1面を有する結晶子が得られ易い。
【0039】
1.2.3 化学組成
第1形態に係るLi含有酸化物粒子は、例えば、構成元素として、少なくとも、Mn、Ni及びCoのうちの少なくとも1つの元素と、Liと、Oとを含む。Li含有酸化物粒子は、特に、構成元素として、少なくとも、Liと、Mnと、Ni及びCoのうちの一方又は両方と、Oとを含む場合、中でも、構成元素として、少なくとも、Liと、Mnと、Niと、Coと、Oとを含む場合に、より高い性能が得られ易い。Li含有酸化物粒子は、LiaNabMnx-pNiy-qCoz-rMp+q+rO2(ここで、0<a≦1.00、0≦b≦0.20、x+y+z=1、かつ、0≦p+q+r<0.17であり、元素Mは、B、Mg、Al、K、Ca、Ti、V、Cr、Fe、Cu、Zn、Ga、Ge、Sr、Y、Zr、Nb、Mo及びWから選ばれる少なくとも1種である。)で示される化学組成を有するものであってもよい。Li含有酸化物粒子がこのような化学組成を有する場合、O2型構造が維持され易い。上記化学組成において、aは、0超であり、0.10以上、0.20以上、0.30以上、0.40以上、0.50以上又は0.60以上であってもよく、かつ、1.00以下であり、0.90以下、0.80以下又は0.70以下であってもよい。上記化学組成において、bは、0以上、0.01以上、0.02以上又は0.03以上であってもよく、かつ、0.20以下、0.15以下又は0.10以下であってもよい。また、xは、0以上であり、0.10以上、0.20以上、0.30以上、0.40以上又は0.50以上であってもよく、かつ、1.00以下であり、0.90以下、0.80以下、0.70以下、0.60以下又は0.50以下であってもよい。また、yは、0以上であり、0.10以上又は0.20以上であってもよく、かつ、1.00以下であり、0.90以下、0.80以下、0.70以下、0.60以下、0.50以下、0.40以下、0.30以下又は0.20以下であってもよい。また、zは、0以上であり、0.10以上、0.20以上又は0.30以上であってもよく、かつ、1.00以下であり、0.90以下、0.80以下、0.70以下、0.60以下、0.50以下、0.40以下又は0.30以下であってもよい。元素Mは充放電への寄与が小さい。この点、上記の化学組成において、p+q+rが0.17未満であることで、高い充放電容量が確保され易い。p+q+rは、0.16以下、0.15以下、0.14以下、0.13以下、0.12以下、0.11以下又は0.10以下であってもよい。一方で、元素Mが含まれることで、O2型構造が安定化し易い。上記の化学組成において、p+q+rは0以上であり、0.01以上、0.02以上、0.03以上、0.04以上、0.05以上、0.06以上、0.07以上、0.08以上、0.09以上又は0.10以上であってもよい。Oの組成は、ほぼ2であるが、2.0ピッタリとは限らず、不定である。
【0040】
1.2.4 中空単層構造
第1形態に係るLi含有酸化物粒子は、中空単層構造を有する。
図2Aに示されるように、「中空単層構造」とは、粒子の断面形状において、外殻1aを有し、かつ、当該外殻の内側が中空(空隙)である構造を意味する。外殻1aの表面は、例えば、複数の結晶子によって構成され得る。Li含有酸化物粒子において、外殻1aは、複数の結晶子が粒子の外周に沿って連なるように構成されたものであってもよい。外殻1aを構成する結晶子のサイズは、大きくても小さくてもよいが、結晶子のサイズが小さいほうが、粒子表面の粒界が多くなり、上述の有利な効果が発揮され易い。また、外殻1aを構成する結晶子は、粒子表面に露出する第1面を有していてもよく、当該第1面は、平面状であってもよい。結晶子のサイズについては上述の通りである。外殻1aの外形(外周形状)は、上述の通り、球状である。一方、外殻1aの内形(内周形状)は特に限定されず、外形と対応する形状であってよい。ただし、外殻1aの外形と内形とは、互いに平行である必要はない。外殻1aの外形及び内形ともに、凹凸を有していてもよい。また、外殻1aは、空隙や隙間を有していてもよい。すなわち、外殻1aを構成する結晶子は、空隙や隙間等の欠陥を有していてもよい。さらに、外殻1aは厚みを有し得る。外殻1aの厚みは、例えば、Li含有酸化物粒子の直径(断面形状における円相当直径)の5%以上50%未満、又は、5%以上45%以下であってもよい。外殻1aの内側に存在する空隙の大きさ(空隙率)は、特に限定されるものではない。
【0041】
図2Aに示されるように、第1形態に係るLi含有酸化物粒子は、コアシェル構造を有するものともいえる。すなわち、一実施形態に係るLi含有酸化物粒子は、シェル(殻)と当該シェルの内側に配置されるコア(空隙)とを有し得る。「シェル(殻)」については、上述した通りである。一方、「コア」は、その全体が空隙であってよい。
【0042】
1.2.5 球状粒子
上述の通り、O2型構造を有するLi含有酸化物粒子は、P2型構造を有するNa含有酸化物粒子のNaの少なくとも一部をLiにイオン交換することにより得られる。ここで、P2型構造は、六方晶系であり、Naイオンの拡散係数が大きく、特定の方向に結晶成長し易い。特に、P2型構造を構成する遷移金属元素として、Mn、Ni及びCoのうちの少なくとも1つが含まれる場合に、特定の方向へと板状に結晶成長し易い。そのため、従来においては、P2型構造を有するNa含有酸化物粒子として、結晶の成長方向が特定の方向に偏った、アスペクト比の大きな板状のものしか製造できず、結果として、O2型構造を有するLi含有酸化物粒子についても、板状のものしか製造できなかった。また、P2型構造の板状成長は、原理原則であり、回避不可能と考えられていた。そのため、従来のO2型Li含有酸化物粒子については、板状であることを前提として、その化学組成や結晶構造を制御することで、活物質としての性能を向上させていた。
【0043】
これに対し、
図2Aに示されるように、第1形態に係るLi含有酸化物粒子は、球状粒子である。球状のLi含有酸化物粒子は、球状でないLi含有酸化物粒子(例えば、上述の板状粒子)と比較して、結晶子の成長が抑制され易くなり、結晶子が小さくなり易いというメリットがある。すなわち、Li含有酸化物粒子が球状である場合、結晶子サイズの低減によって反応抵抗が低下し、内部の拡散抵抗が低下し易い。さらに、球状化によって屈曲度が低減され、正極活物質層に適用された場合に層内のリチウムイオン伝導抵抗が低下するものと考えられる。結果として、球状のLi含有酸化物粒子は、球状でないLi含有酸化物粒子と比較して、抵抗が低くなり、かつ、優れたレート特性を有するものとなり易い。
【0044】
1.2.6 平均粒子径
第1形態に係るLi含有酸化物粒子は、1.0μm以上3.5μm未満の平均粒子径を有する。Li含有酸化物粒子の平均粒子径は、1.2μm以上3.3μm以下、又は、1.4μm以上3.0μm以下であってもよい。上述の通り、Li含有酸化物粒子の平均粒子径が1.0μm以上3.5μm未満であれば、Li含有酸化物粒子が中空単層構造を有するものとなり、固体電池に適用された場合に低い抵抗を有するものとなる。尚、Li含有酸化物粒子があまりに小さ過ぎると、粒子同士の凝集等が生じ易くなる。Li含有酸化物粒子の平均粒子径が1.0μm以上であることで、このような凝集の問題も生じ難い。
【0045】
1.2.7 比表面積
第1形態に係るLi含有酸化物粒子の比表面積は、特に限定されるものではない。ただし、固体電池の正極活物質として用いることを想定した場合、Li含有酸化物粒子の比表面積が小さいほど、Li含有酸化物粒子の内部の空隙等が少なく、イオン伝導パスが確保され易くなるものと考えられる。この点、Li含有酸化物粒子が、中空単層構造を有し、球状粒子であり、かつ、1.0μm以上3.5μm未満の平均粒子径を有する場合において、当該Li含有酸化物粒子が、4.5m2/g未満の比表面積を有するものである場合、固体電池用の正極活物質としてより高い性能が期待できる。当該Li含有酸化物粒子の比表面積は、1.0m2/g以上4.5m2/g未満、2.0m2/g以上4.0m2/g以下、又は、2.5m2/g以上3.5m2/g以下であってもよい。
【0046】
1.2.8 補足
第1形態に係る正極活物質は、上記のLi含有酸化物粒子のみからなるものであってもよいし、上記のLi含有酸化物粒子とともに、これ以外の正極活物質(その他の正極活物質)を含むものであってもよい。本開示の技術による効果を一層高める観点からは、正極活物質全体に占めるその他の正極活物質の割合は少量であってよい。例えば、正極活物質の全体を100質量%として、上記のLi含有酸化物粒子の含有量が、50質量%以上100質量%以下、60質量%以上100質量%以下、70質量%以上100質量%以下、80質量%以上100質量%以下、90質量%以上100質量%以下、95質量%以上100質量%以下、又は、99質量%以上100質量%以下であってもよい。
【0047】
1.3 固体電池
第1形態に係る正極活物質は、固体電池の正極活物質として用いられる。「固体電池」とは、固体電解質を含む電池を意味する。固体電池は、固体電解質とともに液体成分を含むものであってもよいし、液体成分を含まない全固体電池であってもよい。また、固体電池に含まれる電解質は、そのすべてが固体電解質であってもよいし、固体電解質と液体電解質との組み合わせであってもよい。
図3に示されるように、一実施形態に係る固体電池100は、正極活物質層10、電解質層20及び負極活物質層30を有する。ここで、正極活物質層10は、上記の第1形態に係る正極活物質を含む。また、正極活物質層10は、固体電解質を含む。
【0048】
1.3.1 正極活物質層
正極活物質層10は、少なくとも上記の第1形態に係る正極活物質と固体電解質とを含み、さらに任意に、その他の電解質、導電助剤及びバインダー等を含んでいてよい。さらに、正極活物質層10はその他に各種の添加剤を含んでいてもよい。正極活物質層10における正極活物質、電解質、導電助剤及びバインダー等の各々の含有量は、目的とする電池性能に応じて適宜決定されればよい。例えば、正極活物質層10全体(固形分全体)を100質量%として、正極活物質の含有量が40質量%以上、50質量%以上又は60質量%以上であってもよく、100質量%以下又は90質量%以下であってもよい。正極活物質層10の形状は、特に限定されるものではなく、例えば、略平面を有するシート状の正極活物質層10であってもよい。正極活物質層10の厚みは、特に限定されるものではなく、例えば、0.1μm以上又は1μm以上であってもよく、2mm以下又は1mm以下であってもよい。
【0049】
1.3.1.1 正極活物質
正極活物質については、上述の通りである。すなわち、正極活物質層10は、正極活物質として少なくとも上記のLi含有酸化物粒子を含む。上述の通り、正極活物質は、上記のLi含有酸化物粒子のみからなるものであってもよいし、上記のLi含有酸化物粒子とともに、これ以外の正極活物質(その他の正極活物質)を含むものであってもよい。本開示の技術による効果を一層高める観点からは、正極活物質全体に占めるその他の正極活物質の割合は少量であってよい。例えば、正極活物質の全体を100質量%として、上記のLi含有酸化物粒子の含有量が、50質量%以上100質量%以下、60質量%以上100質量%以下、70質量%以上100質量%以下、80質量%以上100質量%以下、90質量%以上100質量%以下、95質量%以上100質量%以下、又は、99質量%以上100質量%以下であってもよい。
【0050】
その他の正極活物質は、固体電池の正極活物質として公知のものをいずれも採用可能である。その他の正極活物質は、例えば、上記のLi含有酸化物以外の各種のリチウム化合物、単体硫黄及び硫黄化合物等から選ばれる少なくとも1種であってもよい。その他の正極活物質としてのリチウム化合物は、少なくとも1種の元素Mと、Liと、Oとを含むLi含有酸化物であってもよい。元素Mは、例えば、Mn、Ni、Co、Al、Mg、Ca、Sc、V、Cr、Cu、Zn、Ga、Ge、Y、Zr、Sn、Sb、W、Pb、Bi、Fe及びTiから選ばれる少なくとも1つであってもよく、Mn、Ni、Co、Al、Fe及びTiからなる群より選ばれる少なくとも1種であってもよい。より具体的には、その他の正極活物質としてのLi含有酸化物は、コバルト酸リチウム、ニッケル酸リチウム、マンガン酸リチウム、ニッケルコバルト酸リチウム、ニッケルマンガン酸リチウム、コバルトマンガン酸リチウム、ニッケルコバルトマンガン酸リチウム(Li1±αNixCoyMnzO2±δ(例えば、0<x<1、0<y<1、0<z<1、x+y+z=1))、スピネル系リチウム化合物(Li1+xMn2-x-yMyO4(MはAl、Mg、Co、Fe、Ni及びZnから選ばれる一種以上)で表わされる組成の異種元素置換Li-Mnスピネル等)、ニッケルコバルトアルミニウム酸リチウム(例えば、Li1±αNipCoqAlrO2±δ(例えば、p+q+r=1))、チタン酸リチウム、リン酸金属リチウム(LiMPO4等、MはFe、Mn、Co及びNiから選ばれる一種以上)等から選ばれる少なくとも1種であってもよい。特に、その他の正極活物質が、構成元素として、少なくとも、Ni、Co及びMnのうちの少なくとも一つと、Liと、Oとを含むLi含有酸化物を含む場合に、電池の性能が一層高まり易い。或いは、その他の正極活物質が、構成元素として、少なくとも、Ni、Co及びAlのうちの少なくとも一つと、Liと、Oとを含むLi含有酸化物を含む場合にも、電池の性能が一層高まり易い。その他の正極活物質は1種のみが単独で用いられてもよいし、2種以上が組み合わされて用いられてもよい。その他の正極活物質の形状は、電池の正極活物質として一般的な形状であればよい。その他の正極活物質は、例えば、粒子状であってもよい。その他の正極活物質は、中実であってもよく、空隙を有するものであってもよく、例えば、多孔質であってもよいし、中空のものであってもよい。その他の正極活物質は、一次粒子であってもよいし、複数の一次粒子が凝集した二次粒子であってもよい。その他の正極活物質の平均粒子径D50は、例えば1nm以上、5nm以上又は10nm以上であってもよく、また500μm以下、100μm以下、50μm以下又は30μm以下であってもよい。
【0051】
1.3.1.2 保護層
正極活物質の表面には、イオン伝導性の保護層が形成されていてもよい。すなわち、正極活物質層10は、正極活物質と保護層との複合体を含んでいてもよく、当該複合体において正極活物質の表面の少なくとも一部が保護層によって被覆されていてもよい。これにより、例えば、正極活物質と他の電池材料(後述の硫化物固体電解質等)との反応等が抑制され易くなる。イオン伝導性の保護層は、各種のイオン伝導性化合物を含み得る。イオン伝導性化合物は、例えば、イオン伝導性酸化物及びイオン伝導性ハロゲン化物等から選ばれる少なくとも1種であってもよい。
【0052】
イオン伝導性酸化物は、例えば、B、C、Al、Si、P、S、Ti、La、Zr、Nb、Mo、Zn及びWから選ばれる少なくとも1種の元素と、Liと、Oとを含むものであってもよい。イオン伝導性酸化物は、Nを含む酸窒化物であってもよい。より具体的には、イオン伝導性酸化物は、Li3BO3、LiBO2、Li2CO3、LiAlO2、Li4SiO4、Li2SiO3、Li3PO4、Li2SO4、Li2TiO3、Li4Ti5O12、Li2Ti2O5、Li2ZrO3、LiNbO3、Li2MoO4、Li2WO4、LiPON、Li2O-LaO2、Li2O-ZnO2等から選ばれる少なくとも1種であってもよい。イオン伝導性酸化物は、各種のドープ元素によって一部の元素が置換されたものであってもよい。
【0053】
イオン伝導性ハロゲン化物は、例えば、後述のハロゲン化物固体電解質として例示された各種化合物のうちの少なくとも1種であってもよい。イオン伝導性のハロゲン化物は、例えば、Mg、Ca、Sr、Ba、Zn、Sn、Al、Sc、Ga、Bi、Sb、Zr、Hf、Ti、Ta、Nb、W、Y、Gd、Tb及びSmからなる群より選択される少なくとも1種の元素と、Cl、Br、I及びFからなる群より選択される少なくとも1種のハロゲン元素と、Liとを含んでもよい。イオン伝導性のハロゲン化物は、Ti、Al、Gd、Ca、Zr及びYからなる群より選択される少なくとも1種と、Cl、Br、I及びFからなる群より選択される少なくとも1種と、Liとを含んでもよい。また、イオン伝導性のハロゲン化物は、Ti及びAlからなる群より選択される少なくとも1種の元素と、Cl、Br、I及びFからなる群より選択される少なくとも1種の元素と、Liとを含んでもよい。また、イオン伝導性のハロゲン化物は、例えば、LiとTiとAlとFとの複合ハロゲン化物であってもよい。
【0054】
正極活物質の表面に対する保護層の被覆率(面積率)は、例えば、70%以上であってもよく、80%以上であってもよく、90%以上であってもよい。保護層の厚さは、例えば、0.1nm以上又は1nm以上であってもよく、100nm以下又は20nm以下であってもよい。
【0055】
1.3.1.2 電解質
正極活物質層10は、固体電解質を含む。固体電解質としては、公知のものを用いればよい。固体電解質は、無機固体電解質であっても、有機ポリマー電解質であってもよい。特に、無機固体電解質は、イオン伝導性及び耐熱性に優れる。無機固体電解質としては、例えば、酸化物固体電解質、硫化物固体電解質、及び、イオン結合性の無機固体電解質などが挙げられる。無機固体電解質の中でも、硫化物固体電解質、さらにその中でも構成元素として少なくともLi、S及びPを含む硫化物固体電解質の性能が高い。或いは、無機固体電解質の中でも、イオン結合性の固体電解質、さらにその中でも構成元素として少なくともLi、Y及びハロゲン(Cl、Br、I及びFのうちの少なくとも1つ)を含む固体電解質の性能が高い。固体電解質は、非晶質であってもよいし、結晶であってもよい。固体電解質は粒子状であってもよい。固体電解質の平均粒子径(D50)は、例えば10nm以上10μm以下であってもよい。固体電解質の25℃におけるイオン伝導度は、例えば、1×10-5S/cm以上、1×10-4S/cm以上、又は、1×10-3S/cm以上であってもよい。固体電解質は1種のみが単独で用いられてもよいし、2種以上が組み合わされて用いられてもよい。
【0056】
酸化物固体電解質は、ランタンジルコン酸リチウム、LiPON、Li1+XAlXGe2-X(PO4)3、Li-SiO系ガラス、Li-Al-S-O系ガラス等から選ばれる1種以上であってもよい。また、酸化物固体電解質と液体電解質とが組み合わされた場合、イオン伝導性が改善され得る。
【0057】
硫化物固体電解質は、ガラス系硫化物固体電解質(硫化物ガラス)であってもよく、ガラスセラミックス系硫化物固体電解質であってもよく、結晶系硫化物固体電解質であってもよい。硫化物ガラスは、非晶質である。硫化物ガラスは、ガラス転移温度(Tg)を有するものであってもよい。また、硫化物固体電解質が結晶相を有する場合、結晶相としては、例えば、Thio-LISICON型結晶相、LGPS型結晶相、アルジロダイト型結晶相が挙げられる。硫化物固体電解質は粒子状であってもよい。硫化物固体電解質の平均粒子径(D50)は、例えば10nm以上100μm以下であってもよい。
【0058】
硫化物固体電解質は、例えば、Li元素、X元素(Xは、P、As、Sb、Si、Ge、Sn、B、Al、Ga、Inの少なくとも一種である)、及び、S元素を含有するものであってもよい。また、硫化物固体電解質は、O元素およびハロゲン元素の少なくとも一方をさらに含有していてもよい。また、硫化物固体電解質は、S元素をアニオン元素の主成分として含有するものであってもよい。
【0059】
硫化物固体電解質は、例えば、Li2S-P2S5、Li2S-P2S5-LiI、Li2S-P2S5-GeS2、Li2S-P2S5-Li2O、Li2S-P2S5-Li2O-LiI、Li2S-P2S5-LiI-LiBr、Li2S-SiS2、Li2S-SiS2-LiI、Li2S-SiS2-LiBr、Li2S-SiS2-LiCl、Li2S-SiS2-B2S3-LiI、Li2S-SiS2-P2S5-LiI、Li2S-B2S3、Li2S-P2S5-ZmSn(ただし、m、nは正の数。Zは、Ge、Zn、Gaのいずれか。)、Li2S-GeS2、Li2S-SiS2-Li3PO4、Li2S-SiS2-LixMOy(ただし、x、yは正の数。Mは、P、Si、Ge、B、Al、Ga、Inのいずれか。)から選ばれる少なくとも1種であってもよい。
【0060】
硫化物固体電解質の組成は、特に限定されないが、例えば、xLi2S・(100-x)P2S5(70≦x≦80)、yLiI・zLiBr・(100-y-z)(xLi2S・(1-x)P2S5)(0.7≦x≦0.8、0≦y≦30、0≦z≦30)等が挙げられる。或いは、硫化物固体電解質は、一般式:Li4-xGe1-xPxS4(0<x<1)で表される組成を有していてもよい。上記一般式において、Geの少なくとも一部は、Sb、Si、Sn、B、Al、Ga、In、Ti、Zr、V及びNbの少なくとも一つで置換されていてもよい。上記一般式において、Pの少なくとも一部は、Sb、Si、Sn、B、Al、Ga、In、Ti、Zr、V及びNbの少なくとも一つで置換されていてもよい。上記一般式において、Liの一部は、Na、K、Mg、Ca及びZnの少なくとも一つで置換されていてもよい。上記一般式において、Sの一部は、ハロゲン(F、Cl、Br及びIの少なくとも一つ)で置換されていてもよい。或いは、硫化物固体電解質は、Li7-aPS6-aXa(Xは、Cl、Br及びIの少なくとも一種であり、aは、0以上、2以下の数である)で表される組成を有していてもよい。aは、0であってもよく、0より大きくてもよい。後者の場合、aは、0.1以上であってもよく、0.5以上であってもよく、1以上であってもよい。また、aは、1.8以下であってもよく、1.5以下であってもよい。
【0061】
イオン結合性の固体電解質は、例えば、Mg、Ca、Sr、Ba、Zn、Sn、Al、Sc、Ga、Bi、Sb、Zr、Hf、Ti、Ta、Nb、W、Y、Gd、Tb及びSmからなる群より選択される少なくとも1種の元素を含んでもよい。これらの元素は、水中でカチオンを生成し得る。また、イオン結合性固体電解質材料は、例えば、さらに、Cl、Br、I及びFからなる群より選択される少なくとも1種のハロゲン元素を含んでもよい。これらの元素は、水中でアニオンを生成し得る。イオン結合性の固体電解質は、Gd、Ca、Zr及びYからなる群より選択される少なくとも1種と、Cl、Br、I及びFからなる群より選択される少なくとも1種と、Liとを含んでもよい。また、イオン結合性の固体電解質は、LiとYとを含み、かつ、Cl、Br、I及びFからなる群より選択される少なくとも1種を含んでもよい。より具体的には、イオン結合性の固体電解質は、LiとYとClとBrとを含むものであってもよく、LiとCaとYとGdとClとBrとを含むものであってもよく、又は、LiとZrとYとClとを含むものであってもよい。さらに具体的には、イオン結合性の固体電解質は、Li3YBr2Cl4、Li2.8Ca0.1Y0.5Gd0.5Br2Cl4、及び、Li2.5Y0.5Zr0.5Cl6のうちの少なくとも1種であってもよい。
【0062】
イオン結合性の固体電解質は、ハロゲン化物固体電解質であってもよい。ハロゲン化物固体電解質は、イオン伝導性に優れる。ハロゲン化物固体電解質としては、例えば、式(A):
LiαMβXγ ・・・(A)
で示される組成を有するものであってもよい。ここで、α、β及びγは、それぞれ独立して0より大きい値であり、Mは、Li以外の金属元素及び半金属元素からなる群より選択される少なくとも1種であり、Xは、Cl、Br及びIからなる群より選ばれる少なくとも1種である。尚、「半金属元素」は、B、Si、Ge、As、Sb及びTeからなる群から選択される少なくとも1種であってもよい。また、「金属元素」は、(i)周期表第1族から第12族中に含まれるすべての元素(ただし、水素を除く)および(ii)周期表第13族から第16族に含まれるすべての元素(ただし、B、Si、Ge、As、Sb、Te、C、N、P、O、SおよびSeを除く。)を含むものであってもよい。金属元素は、ハロゲン化物イオンと共に無機化合物を形成し、カチオンとなり得る。
【0063】
式(A)において、Mは、Y(すなわち、イットリウム)を含んでもよい。Yを含むハロゲン化物固体電解質は、LiaMebYcX6(ここで、a+mb+3c=6、c>0、Meは、Li及びY以外の金属元素及び半金属元素からなる群より選択される少なくとも1種であり、mはMeの価数である)で示される組成を有するものであってもよい。Meは、例えば、Mg、Ca、Sr、Ba、Zn、Sc、Al、Ga、Bi、Zr、Hf、Ti、Sn、Ta及びNbからなる群より選択される少なくとも1つであってもよい。
【0064】
ハロゲン化物固体電解質は、式(A1):Li6-3dYdX6で示される組成を有するものであってもよい。式(A1)において、Xは、Cl、Br及びIからなる群より選択される1種以上の元素である。dは、0<d<2を満たすものであってもよく、d=1であってもよい。ハロゲン化物固体電解質は、式(A2):Li3-3δY1+δCl6で示される組成を有するものであってもよい。式(A2)において、0<δ≦0.15であってもよい。ハロゲン化物固体電解質は、式(A3):Li3-3δY1+δBr6で示される組成を有するものであってもよい。式(A3)において、0<δ≦0.25であってもよい。ハロゲン化物固体電解質は、式(A4):Li3-3δ+aY1+δ-aMeaCl6-x-yBrxIyで示される組成を有するものであってもよい。式(A4)において、Meは、Mg、Ca、Sr、Ba及びZnからなる群より選択される少なくとも1種であってもよい。式(A4)においては、例えば、-1<δ<2、0<a<3、0<(3-3δ+a)、0<(1+δ-a)、0≦x≦6、0≦y≦6および(x+y)≦6が満たされる。ハロゲン化物固体電解質は、式(A5):Li3-3δY1+δ-aMeaCl6-x-yBrxIyで示される組成を有するものであってもよい。式(A5)において、Meは、Al、Sc、Ga及びBiからなる群より選択される少なくとも1種であってもよい。式(A5)において、-1<δ<1、0<a<2、0<(1+δ-a)、0≦x≦6、0≦y≦6、かつ、(x+y)≦6であってもよい。ハロゲン化物固体電解質は、式(A6):Li3-3δ-aY1+δ-aMeaCl6-x-yBrxIyで示される組成を有するものであってもよい。式(A6)において、Meは、Zr、Hf及びTiからなる群より選択される少なくとも1種であってもよい。式(A6)において、-1<δ<1、0<a<1.5、0<(3-3δ-a)、0<(1+δ-a)、0≦x≦6、0≦y≦6、かつ、(x+y)≦6であってもよい。ハロゲン化物固体電解質は、式(A7):Li3-3δ-2aY1+δ-aMeaCl6-x-yBrxIyで示される組成を有するものであってもよい。式(A7)において、Meは、Ta及びNbからなる群より選択される少なくとも1種であってもよい。式(A7)において、-1<δ<1、0<a<1.2、0<(3-3δ-2a)、0<(1+δ-a)、0≦x≦6、0≦y≦6、かつ、(x+y)≦6であってもよい。
【0065】
イオン結合性の固体電解質は、錯体水素化物固体電解質であってもよい。錯体水素化物固体電解質は、LiイオンとHを含む錯イオンとから構成され得る。Hを含む錯イオンは、例えば、非金属元素、半金属元素及び金属元素のうちの少なくとも1つを含む元素Mと、当該元素Mに結合したHと、を有するものであってもよい。また、Hを含む錯イオンは、中心元素としての元素Mと、当該元素Mを取り巻くHとが共有結合を介して互いに結合していてもよい。また、Hを含む錯イオンは、(MmHn)α-で表されるものであってもよい。この場合のmは任意の正の数字であり、nやαはmや元素Mの価数等に応じて任意の正の数字を採り得る。元素Mは錯イオンを形成し得る非金属元素や金属元素であればよい。例えば、元素Mは、非金属元素としてB、C及びNのうちの少なくとも1つを含んでいてもよく、Bを含んでいてもよい。また、例えば、元素Mは、金属元素として、Al、Ni及びFeのうちの少なくとも1つを含んでいてもよい。特に錯イオンがBを含む場合や、C及びBを含む場合に、より高いイオン伝導性が確保され易い。Hを含む錯イオンの具体例としては、(CB9H10)-、(CB11H12)-、(B10H10)2-、(B12H12)2-、(BH4)-、(NH2)-、(AlH4)-、及び、これらの組み合わせが挙げられる。特に、(CB9H10)-、(CB11H12)-、又は、これらの組み合わせを用いた場合に、より高いイオン伝導性が確保され易い。すなわち、錯体水素化物固体電解質は、Li、C、B及びHを含むものであってもよい。
【0066】
正極活物質層10は、液体電解質(電解液)を含んでいてもよいし、含んでいなくてもよい。電解液は、キャリアイオンとしてのリチウムイオンを含む液体である。電解液は水系電解液であっても非水系電解液であってもよい。電解液の組成は公知のものと同様とすればよい。電解液は、水又は非水系溶媒にリチウム塩を溶解させたものであってもよい。非水系溶媒としては、例えば、各種のカーボネート系溶媒が挙げられる。リチウム塩としては、例えば、リチウムアミド塩やLiPF6等が挙げられる。
【0067】
1.3.1.3 導電助剤
正極活物質層10に含まれ得る導電助剤としては、例えば、気相法炭素繊維(VGCF)やアセチレンブラック(AB)やケッチェンブラック(KB)やカーボンナノチューブ(CNT)やカーボンナノファイバー(CNF)等の炭素材料;ニッケル、チタン、アルミニウム、ステンレス鋼等の金属材料が挙げられる。導電助剤は、例えば、粒子状又は繊維状であってもよく、その大きさは特に限定されるものではない。導電助剤は1種のみが単独で用いられてもよいし、2種以上が組み合わされて用いられてもよい。
【0068】
1.3.1.4 バインダー
正極活物質層10に含まれ得るバインダーとしては、例えば、ブタジエンゴム(BR)系バインダー、ブチレンゴム(IIR)系バインダー、アクリレートブタジエンゴム(ABR)系バインダー、スチレンブタジエンゴム(SBR)系バインダー、ポリフッ化ビニリデン(PVdF)系バインダー、ポリテトラフルオロエチレン(PTFE)系バインダー、ポリイミド(PI)系バインダー等が挙げられる。バインダーは1種のみが単独で用いられてもよいし、2種以上が組み合わされて用いられてもよい。
【0069】
1.3.1.5 その他
正極活物質層10は、上記の各成分以外に、各種の添加剤を含んでいてもよい。例えば、分散剤や潤滑剤等である。
【0070】
1.3.2 電解質層
電解質層20は正極活物質層10と負極活物質層30との間に配置される。電解質層20は、固体電解質及び電解液のうちの一方又は両方を含み得る。電解質層20は、さらに任意にバインダー等を含んでいてもよい。電解質層20における電解質とバインダー等との含有量は特に限定されない。或いは、電解質層20は、電解質を保持するとともに、正極活物質層10と負極活物質層30との接触を防止するためのセパレータ等を有するものであってもよい。電解質層20の厚みは特に限定されるものではなく、例えば、0.1μm以上又は1μm以上であってもよく、2mm以下又は1mm以下であってもよい。
【0071】
電解質層20は、1つの層からなるものであってもよいし、複数の層からなるものであってもよい。例えば、電解質層20は、正極活物質層10側に配置された第1層と、負極活物質層30側に配置された第2層を備えるものであってよく、第1層が第1電解質を含み、第2層が第2電解質を含むものであってもよい。第1電解質と第2電解質とは、互いに異なる種類のものであってもよい。第1電解質及び第2電解質は、各々、上記の酸化物固体電解質、硫化物固体電解質及びイオン結合性の固体電解質から選ばれる少なくとも1種であってもよい。例えば、第1層がイオン結合性の固体電解質を含み、第2層がイオン結合性の固体電解質及び硫化物固体電解質のうちの少なくとも1種を含むものであってもよい。
【0072】
電解質層20に含まれる電解質としては、上述の正極活物質層10に含まれ得る電解質として例示されたもの(固体電解質及び/又は液体電解質)の中から適宜選択されればよい。また、電解質層20に含まれ得るバインダーについても、上述の正極活物質層10に含まれ得るバインダーとして例示したものの中から適宜選択されればよい。電解質やバインダーは、各々、1種のみが単独で用いられてもよいし、2種以上が組み合わされて用いられてもよい。セパレータは、公知のものでよく、例えば、ポリエチレン(PE)、ポリプロピレン(PP)、ポリエステル及びポリアミド等の樹脂からなるもの等が挙げられる。セパレータは、単層構造であってもよく、複層構造であってもよい。複層構造のセパレータとしては、例えばPE/PPの2層構造のセパレータ、又は、PP/PE/PP若しくはPE/PP/PEの3層構造のセパレータ等を挙げることができる。セパレータは、セルロース不織布、樹脂不織布、ガラス繊維不織布といった不織布からなるものであってもよい。
【0073】
1.3.3 負極活物質層
負極活物質層30は、少なくとも負極活物質を含む。また、負極活物質層30は、任意に、電解質、導電助剤、バインダー及び各種の添加剤等を含んでいてもよい。負極活物質層30における各成分の含有量は、目的とする電池性能に応じて適宜決定されればよい。例えば、負極活物質層30の固形分全体を100質量%として、負極活物質の含有量が40質量%以上、50質量%以上、60質量%以上又は70質量%以上であってもよく、100質量%以下、100質量%未満、95質量%以下又は90質量%以下であってもよい。或いは、負極活物質層30全体を100体積%として、負極活物質と、任意に電解質、導電助剤、バインダーとが合計で85体積%以上、90体積%以上又は95体積%以上含まれていてもよく、残部は空隙であってもその他の成分であってもよい。負極活物質層30の形状は、特に限定されるものではなく、例えば、略平面を有するシート状であってもよい。負極活物質層30の厚みは、特に限定されるものではなく、例えば、0.1μm以上、1μm以上、10μm以上又は30μm以上であってもよく、2mm以下、1mm以下、500μm以下又は100μm以下であってもよい。
【0074】
負極活物質は、電池の負極活物質として公知のものをいずれも採用可能である。公知の活物質のうち、リチウムイオンを吸蔵放出する電位(充放電電位)が上記の正極活物質と比べて卑な電位である種々の物質が採用され得る。例えば、SiやSi合金や酸化ケイ素等のシリコン系活物質;グラファイトやハードカーボン等の炭素系活物質;チタン酸リチウム等の各種酸化物系活物質;金属リチウムやリチウム合金等が採用され得る。中でも、負極活物質層30が負極活物質としてのSiを含む場合に、固体電池100の性能が高まり易い。負極活物質は、1種のみが単独で用いられてもよいし、2種以上が組み合わされて用いられてもよい。負極活物質の形状は、電池の負極活物質として一般的な形状であればよい。例えば、負極活物質は粒子状であってもよい。負極活物質粒子は、一次粒子であってもよいし、複数の一次粒子が凝集した二次粒子であってもよい。負極活物質粒子の平均粒子径(D50)は、例えば1nm以上、5nm以上、又は10nm以上であってもよく、また500μm以下、100μm以下、50μm以下、又は30μm以下であってもよい。或いは、負極活物質はリチウム箔等のシート状(箔状、膜状)であってもよい。すなわち、負極活物質層30が負極活物質のシートからなるものであってもよい。
【0075】
負極活物質層30に含まれ得る電解質としては、例えば、上述の固体電解質、電解液又はこれらの組み合わせが挙げられる。負極活物質層30に含まれ得る導電助剤は、例えば、上述の正極活物質層に含まれ得る導電助剤として例示したものの中から適宜選択されればよい。負極活物質層30に含まれ得るバインダーは、例えば、上述の正極活物質層に含まれ得るバインダーとして例示したものの中から適宜選択されればよい。電解質や導電助剤やバインダーは、各々、1種のみが単独で用いられてもよいし、2種以上が組み合わされて用いられてもよい。
【0076】
1.3.4 正極集電体
図3に示されるように、固体電池100は、正極活物質層10と接触する正極集電体40を備えていてもよい。正極集電体40は、電池の正極集電体として一般的なものをいずれも採用可能である。また、正極集電体40は、箔状、板状、メッシュ状、パンチングメタル状、及び、発泡体等から選ばれる少なくとも1種の形状を有していてもよい。正極集電体40は、金属箔又は金属メッシュによって構成されていてもよい。特に、金属箔が取扱い性等に優れる。正極集電体40は、複数枚の箔からなっていてもよい。正極集電体40を構成する金属としては、Cu、Ni、Cr、Au、Pt、Ag、Al、Fe、Ti、Zn、Co、V、Mg、Pb、Ge、In、Sn、Zr、及び、ステンレス鋼等から選ばれる少なくとも1種が挙げられる。特に、酸化耐性を確保する観点等から、正極集電体40がAlを含むものであってもよい。正極集電体40は、その表面に、抵抗を調整すること等を目的として、何らかのコート層を有していてもよい。例えば、正極集電体40は、炭素コート層を有していてもよい。また、正極集電体40は、金属箔や基材に上記の金属がめっき又は蒸着されたものであってもよい。また、正極集電体40が複数枚の金属箔からなる場合、当該複数枚の金属箔間に何らかの層を有していてもよい。正極集電体40の厚みは特に限定されるものではない。例えば、0.1μm以上又は1μm以上であってもよく、1mm以下又は100μm以下であってもよい。
【0077】
1.3.5 負極集電体
図3に示されるように、固体電池100は、負極活物質層30と接触する負極集電体50を備えていてもよい。負極集電体50は、電池の負極集電体として一般的なものをいずれも採用可能である。また、負極集電体50は、箔状、板状、メッシュ状、パンチングメタル状、及び、発泡体等であってよい。負極集電体50は、金属箔又は金属メッシュであってもよく、或いは、カーボンシートであってもよい。特に、金属箔が取扱い性等に優れる。負極集電体50は、複数枚の箔やシートからなっていてもよい。負極集電体50を構成する金属としては、Cu、Ni、Cr、Au、Pt、Ag、Al、Fe、Ti、Zn、Co、V、Mg、Pb、Ge、In、Sn、Zr、及び、ステンレス鋼等から選ばれる少なくとも1種が挙げられる。特に、還元耐性を確保する観点及びリチウムと合金化し難い観点から、負極集電体50がCu、Ni及びステンレス鋼から選ばれる少なくとも1種の金属を含むものであってもよい。負極集電体50は、その表面に、抵抗を調整すること等を目的として、何らかのコート層を有していてもよい。例えば、負極集電体50は、炭素コート層を有していてもよい。負極集電体50は、炭素コート層を有するアルミニウム箔であってもよい。また、負極集電体50は、金属箔や基材に上記の金属がめっき又は蒸着されたものであってもよい。また、負極集電体50が複数枚の金属箔からなる場合、当該複数枚の金属箔の間に何らかの層を有していてもよい。負極集電体50の厚みは特に限定されるものではない。例えば、0.1μm以上又は1μm以上であってもよく、1mm以下又は100μm以下であってもよい。
【0078】
1.3.6 その他の構成
固体電池100は、上記の構成のほか、電池として一般的な構成を備えていてもよい。例えば、タブや端子等である。固体電池100は、上記の各構成が外装体の内部に収容されたものであってもよい。外装体は、電池の外装体として公知のものをいずれも採用可能である。また、複数の固体電池100が、任意に電気的に接続され、また、任意に重ね合わされて、組電池とされていてもよい。この場合、公知の電池ケースの内部に当該組電池が収容されてもよい。固体電池100の形状としては、例えば、コイン型、ラミネート型、円筒型、及び角型等を挙げることができる。
【0079】
固体電池100は、上記の特定の正極活物質を用いることを除き、公知の方法を応用することで製造することができる。例えば以下のようにして製造することができる。ただし、固体電池100の製造方法は、以下の方法に限定されるものではなく、例えば、乾式成形等によって各層が形成されてもよい。
(1)正極活物質層を構成する正極活物質等を溶媒に分散させて正極層用スラリーを得る。この場合に用いられる溶媒としては、特に限定されるものではなく、水や各種有機溶媒を用いることができる。ドクターブレード等を用いて正極層用スラリーを正極集電体の表面に塗工し、その後乾燥させることで、正極集電体の表面に正極活物質層を形成し、正極とする。
(2)負極活物質層を構成する負極活物質等を溶媒に分散させて負極層用スラリーを得る。この場合に用いられる溶媒としては、特に限定されるものではなく、水や各種有機溶媒を用いることができる。ドクターブレード等を用いて負極層用スラリーを負極集電体の表面に塗工し、その後乾燥させることで、負極集電体の表面に負極活物質層を形成し、負極とする。
(3)負極と正極とで電解質層(固体電解質層又はセパレータ)を挟み込むように各層を積層し、負極集電体、負極活物質層、電解質層、正極活物質層及び正極集電体をこの順に有する積層体を得る。積層体には必要に応じて端子等のその他の部材を取り付ける。
(4)積層体を電池ケースに収容し、電池ケース内に、任意の電解液とともに積層体を密封することで、固体電池とする。
【0080】
2.第2形態
第2形態に係る正極活物質は、液系電池に用いられる。
【0081】
2.1 液系電池に用いられる正極活物質の製造方法
図1Bに示されるように、液系電池に用いられる正極活物質の製造方法は、
S1:P2型構造を有するNa含有酸化物粒子を得ること、及び、
S2:前記Na含有酸化物粒子のNaの少なくとも一部をLiにイオン交換して、O2型構造を有するLi含有酸化物粒子を得ること、を含む。
ここで、前記Na含有酸化物粒子は、3.5μm以上の平均粒子径を有する球状粒子である。また、
図2Bに示されるように、前記Li含有酸化物粒子は、中空多層構造を有する球状粒子である。
【0082】
2.1.1 S1
S1においては、P2型構造を有するNa含有酸化物粒子を得る。ここで、S1によって得られるNa含有酸化物粒子は、3.5μm以上の平均粒子径を有する球状粒子である。第2形態におけるS1は、Na含有酸化物粒子の平均粒子径が異なること以外は、第1形態におけるS1と同様である。すなわち、第2形態におけるS1は、上記のS1-1、S1-2及びS1-3を含むものであってよい。例えば、3.5μm以上の平均粒子径を有し、かつ、球状である前駆体粒子を用いることによって、3.5μm以上の平均粒子径を有し、かつ、球状のNa含有酸化物粒子が得られる。或いは、ランダムなサイズを有する前駆体粒子を用いて球状のNa含有酸化物粒子の製造した後、気流分級や篩分け等を行い、3.5μm以上の平均粒子径を有する球状のNa含有酸化物粒子を回収してもよい。
【0083】
上述の通り、第2形態におけるS1によって得られるNa含有酸化物粒子は、平均粒子径が異なることを除いて、第1形態におけるS1によって得られるNa含有酸化物粒子と同様であってよい。すなわち、Na含有酸化物粒子は、結晶構造として、少なくともP2型構造(空間群P63mcに属する)を有する。Na含有酸化物粒子は、P2型構造を有するとともに、P2型構造以外の結晶構造を有していてもよい。P2型構造以外の結晶構造としては、例えば、P2型構造からNaを脱挿入した際に形成される各種結晶構造が挙げられる。Na含有酸化物粒子は、主相としてP2型構造を有するものであってもよい。また、Na含有酸化物粒子は、例えば、構成元素として、少なくとも、Mn、Ni及びCoのうちの少なくとも1つの元素と、Naと、Oとを含む。特に、構成元素として、少なくとも、Naと、Mnと、Ni及びCoのうちの少なくとも一方と、Oとを含む場合、中でも、構成元素として、少なくとも、Naと、Mnと、Niと、Coと、Oとを含む場合に、後述のS2を経て得られる正極活物質の性能が一層高くなり易い。Na含有酸化物粒子は、NacMnx-pNiy-qCoz-rMp+q+rO2で示される化学組成を有するものであってもよい。ここで、0<c≦1.00、x+y+z=1、かつ、0≦p+q+r<0.17である。また、Mは、B、Mg、Al、K、Ca、Ti、V、Cr、Fe、Cu、Zn、Ga、Ge、Sr、Y、Zr、Nb、Mo及びWから選ばれる少なくとも1種の元素である。Na含有酸化物粒子がこのような化学組成を有する場合、P2型構造がさらに維持され易い。上記化学組成において、cは、0超、0.10以上、0.20以上、0.30以上、0.40以上、0.50以上又は0.60以上であってもよく、かつ、1.00以下、0.90以下、0.80以下又は0.70以下であってもよい。xは、0以上であり、0.10以上、0.20以上、0.30以上、0.40以上又は0.50以上であってもよく、かつ、1.00以下であり、0.90以下、0.80以下、0.70以下、0.60以下又は0.50以下であってもよい。また、yは、0以上であり、0.10以上又は0.20以上であってもよく、かつ、1.00以下であり、0.90以下、0.80以下、0.70以下、0.60以下、0.50以下、0.40以下、0.30以下又は0.20以下であってもよい。また、zは、0以上であり、0.10以上、0.20以上又は0.30以上であってもよく、かつ、1.00以下であり、0.90以下、0.80以下、0.70以下、0.60以下、0.50以下、0.40以下又は0.30以下であってもよい。元素Mは充放電への寄与が小さい。この点、上記の化学組成において、p+q+rが0.17未満であることで、高い充放電容量が確保され易い。p+q+rは、0.16以下、0.15以下、0.14以下、0.13以下、0.12以下、0.11以下又は0.10以下であってもよい。一方で、元素Mが含まれることで、P2型構造やO2型構造が安定化し易い。上記の化学組成において、p+q+rは0以上であり、0.01以上、0.02以上、0.03以上、0.04以上、0.05以上、0.06以上、0.07以上、0.08以上、0.09以上又は0.10以上であってもよい。Oの組成は、ほぼ2であるが、2.0ピッタリとは限らず、不定である。
【0084】
Na含有酸化物粒子の平均粒子径は、3.5μm以上である。当該平均粒子径は、3.5μm以上20.0μm以下、3.5μm以上10.0μm以下、又は、3.5μm以上5.0μm以下であってもよい。Na含有酸化物粒子の平均粒子径が3.5μm以上であることで、後述のS2を経て得られるLi含有酸化物粒子が中空多層構造を有するものとなる。
【0085】
2.1.2 S2
S2においては、S1で得られたNa含有酸化物粒子のNaの少なくとも一部をLiにイオン交換して、O2型構造を有するLi含有酸化物粒子を得る。ここで、S2によって得られるLi含有酸化物粒子は、中空多層構造を有する球状粒子である。第2形態におけるS2は、Na含有酸化物粒子の平均粒子径が異なること以外は、第1形態におけるS2と同様である。
【0086】
上述の通り、S2においては、球状のNa含有酸化物粒子のNaの少なくとも一部をLiにイオン交換することで、イオン交換時の収縮によって粒子の内部に空隙が生じる。上述の通り、Na含有酸化物粒子のサイズが大きい場合、当該収縮によって、粒子の内部において周方向に亀裂が入り、結果として多数の「殻」が生じ、中空多層構造が得られるものと考えられる。
【0087】
以上の方法により、O2型構造を有し、中空多層構造を有し、球状粒子であり、かつ、3.5μm以上の平均粒子径を有するLi含有酸化物粒子が得られる。当該Li含有酸化物粒子は、液系電池の正極活物質として用いられる。
【0088】
2.2 液系電池に用いられる正極活物質
第2形態に係る液系電池に用いられる正極活物質は、Li含有酸化物粒子を含む。ここで、前記Li含有酸化物粒子は、O2型構造を有する。また、
図2Bに示されるように、前記Li含有酸化物粒子は、中空多層構造を有する球状粒子である。また、前記Li含有酸化物粒子は、3.5μm以上の平均粒子径を有する。
【0089】
2.2.1 結晶構造、結晶子及び化学組成
第2形態に係るLi含有酸化物粒子の結晶構造、結晶子及び化学組成については、上記第1形態と同様であってよい。すなわち、第2形態に係るLi含有酸化物粒子は、O2型構造を有し、O2型構造とともに他の結晶構造を有していてもよい。また、第2形態に係るLi含有酸化物粒子は、複数の結晶子を有する多結晶であってもよい。また、第2形態に係るLi含有酸化物粒子は、例えば、構成元素として、少なくとも、Mn、Ni及びCoのうちの少なくとも1つの元素と、Liと、Oとを含む。Li含有酸化物粒子は、特に、構成元素として、少なくとも、Liと、Mnと、Ni及びCoのうちの一方又は両方と、Oとを含む場合、中でも、構成元素として、少なくとも、Liと、Mnと、Niと、Coと、Oとを含む場合に、より高い性能が得られ易い。Li含有酸化物粒子は、LiaNabMnx-pNiy-qCoz-rMp+q+rO2(ここで、0<a≦1.00、0≦b≦0.20、x+y+z=1、かつ、0≦p+q+r<0.17であり、元素Mは、B、Mg、Al、K、Ca、Ti、V、Cr、Fe、Cu、Zn、Ga、Ge、Sr、Y、Zr、Nb、Mo及びWから選ばれる少なくとも1種である。)で示される化学組成を有するものであってもよい。Li含有酸化物粒子がこのような化学組成を有する場合、O2型構造が維持され易い。上記化学組成において、aは、0超であり、0.10以上、0.20以上、0.30以上、0.40以上、0.50以上又は0.60以上であってもよく、かつ、1.00以下であり、0.90以下、0.80以下又は0.70以下であってもよい。上記化学組成において、bは、0以上、0.01以上、0.02以上又は0.03以上であってもよく、かつ、0.20以下、0.15以下又は0.10以下であってもよい。また、xは、0以上であり、0.10以上、0.20以上、0.30以上、0.40以上又は0.50以上であってもよく、かつ、1.00以下であり、0.90以下、0.80以下、0.70以下、0.60以下又は0.50以下であってもよい。また、yは、0以上であり、0.10以上又は0.20以上であってもよく、かつ、1.00以下であり、0.90以下、0.80以下、0.70以下、0.60以下、0.50以下、0.40以下、0.30以下又は0.20以下であってもよい。また、zは、0以上であり、0.10以上、0.20以上又は0.30以上であってもよく、かつ、1.00以下であり、0.90以下、0.80以下、0.70以下、0.60以下、0.50以下、0.40以下又は0.30以下であってもよい。元素Mは充放電への寄与が小さい。この点、上記の化学組成において、p+q+rが0.17未満であることで、高い充放電容量が確保され易い。p+q+rは、0.16以下、0.15以下、0.14以下、0.13以下、0.12以下、0.11以下又は0.10以下であってもよい。一方で、元素Mが含まれることで、O2型構造が安定化し易い。上記の化学組成において、p+q+rは0以上であり、0.01以上、0.02以上、0.03以上、0.04以上、0.05以上、0.06以上、0.07以上、0.08以上、0.09以上又は0.10以上であってもよい。Oの組成は、ほぼ2であるが、2.0ピッタリとは限らず、不定である。
【0090】
2.2.2 中空多層構造
第2形態に係るLi含有酸化物粒子は、中空多層構造を有する。
図2Bに示されるように、「中空多層構造」とは、粒子の断面形状において、外殻1aを有し、少なくとも1つの内殻1b又は中実部1cを有する構造を意味する。
図2Cに示されるように、中実部1cが存在せずに空隙となっていてもよい。第2形態に係るLi含有酸化物粒子は、多重の殻1a、1bを有していてもよく、或いは、外殻1aと中実部1cとを有していてもよく、この場合、少なくとも一の殻と他の殻との間や殻と中実部との間に空隙が存在し得る。Li含有酸化物粒子が多重の殻1a、1bを有する場合、各々の殻の外側と内側とが液体と接触し得ることから、Li含有酸化物粒子と液体との接触面積が増大し易い。例えば、Li含有酸化物粒子の内部に電解液が行き渡った際、粒子と電解液との接触面積が増大し易い。尚、「多重の殻を有する」とは、一の殻の内側に、さらに他の殻が存在することを意味する。ここで、一の殻と他の殻とは、部分的に接触していてもよいし、部分的に結合していてもよい。ただし、一の殻とそれよりも内側の他の殻との間に、周方向に沿って空隙が存在していたとしても、一の殻の内周の50%以上が、それよりも内側の他の殻の外周に結合している場合、当該一の殻と他の殻とを別々の殻(多層)とはみなさずに、当該一の殻と他の殻とで一つの殻(単層)が構成されているものとみなす。
【0091】
第2形態に係るLi含有酸化物粒子において、外殻1aの表面は、例えば、複数の結晶子によって構成され得る。Li含有酸化物粒子において、外殻1aは、複数の結晶子が粒子の外周に沿って連なるように構成されたものであってもよい。外殻1aを構成する結晶子のサイズは、大きくても小さくてもよいが、結晶子のサイズが小さいほうが、粒子表面の粒界が多くなり、有利な効果が発揮され易い。また、外殻1aを構成する結晶子は、粒子表面に露出する第1面を有していてもよく、当該第1面は、平面状であってもよい。結晶子のサイズについては上述の通りである。外殻1aの外形(外周形状)は、上述の通り、球状である。一方、外殻1aの内形(内周形状)は特に限定されず、外形と対応する形状であってよい。ただし、外殻1aの外形と内形とは、互いに平行である必要はない。外殻の外形及び内形ともに、凹凸を有していてもよい。また、外殻1aは、空隙や隙間を有していてもよい。すなわち、外殻1aを構成する結晶子は、空隙や隙間等の欠陥を有していてもよい。さらに、外殻1aは厚みを有し得る。外殻1aの厚みは、例えば、Li含有酸化物粒子の直径(断面形状における円相当直径)の5%以上40%以下、又は、5%以上30%以下であってもよい。外殻1aの内側に存在する空隙の大きさ(空隙率)は、特に限定されるものではない。内殻1bの外形(外周形状)は、外殻1aの内周形状と対応する形状であってもよいし、外殻1aの内周形状とは異なる形状であってもよい。内殻1bの内形(内周形状)は特に限定されず、外形と対応する形状であってよい。内殻1bの外形と内形とは、互いに平行である必要はない。内殻1bの外形及び内形ともに、凹凸を有していてもよい。また、内殻1bは、空隙や隙間を有していてもよい。すなわち、内殻1bを構成する結晶子は、空隙や隙間等の欠陥を有していてもよい。さらに、内殻1bは厚みを有し得る。内殻1bの厚みは、例えば、Li含有酸化物粒子の直径(断面形状における円相当直径)の5%以上40%以下、又は、5%以上30%以下であってもよい。外殻1aと内殻1bとの間に存在する空隙の形状や大きさ、内殻1bの内側に存在する中実部1c又は空隙の形状や大きさは、特に限定されるものではない。また、粒子全体としての空隙率も特に限定されるものではない。
【0092】
図2Bに示されるように、第2形態に係るLi含有酸化物粒子においては、断面構造において、上記の外殻1aの内壁に沿って空隙が存在する。空隙は外殻1aの内壁の全周に亘って連続的に存在していてもよいし、外殻1aの内壁の一部に沿って連続的又は断続的に存在していてもよい。例えば、空隙は、外殻1aの内側全周の50%以上に亘って存在し得る。空隙の大きさは、特に限定されるものではない。上述したように、殻は液体透過性を有し得ることから、粒子の外部から殻を介して粒子の内部へと透過した液体が、殻の内壁に沿って存在する空隙へと充填され、殻の内壁と接触し得る。すなわち、殻の内壁に沿って空隙が存在する場合、空隙が存在しない場合よりも、粒子と液体との接触面積が増大し易い。例えば、Li含有酸化物粒子の内部に電解液が行き渡った際、粒子と電解液との接触面積が増大し易い。
【0093】
図2Bに示されるように、第2形態に係るLi含有酸化物粒子は、コアシェル構造を有するものともいえる。すなわち、一実施形態に係るLi含有酸化物粒子は、シェル(外殻)と当該シェルの内側に配置されるコア(内殻又は中実部、及び、空隙)とを有し得る。
【0094】
2.2.3 球状粒子
図2Bに示されるように、第2形態に係るLi含有酸化物粒子は、球状粒子である。上述の通り、球状のLi含有酸化物粒子は、球状でないLi含有酸化物粒子と比較して、結晶子の成長が抑制され易くなり、結晶子が小さくなり易いというメリットがある。すなわち、Li含有酸化物粒子が球状である場合、結晶子サイズの低減によって反応抵抗が低下し、内部の拡散抵抗が低下し易い。さらに、球状化によって屈曲度が低減され、正極活物質層に適用された場合に層内のリチウムイオン伝導抵抗が低下するものと考えられる。結果として、球状のLi含有酸化物粒子は、球状でないLi含有酸化物粒子と比較して、抵抗が低くなり、かつ、優れたレート特性を有するものとなり易い。
【0095】
2.2.4 平均粒子径
第2形態に係るLi含有酸化物粒子は、3.5μm以上の平均粒子径を有する。Li含有酸化物粒子の平均粒子径は、3.5μm以上20.0μm以下、3.5μm以上10.0μm以下、又は、3.5μm以上5.0μm以下であってもよい。上述の通り、Li含有酸化物粒子の平均粒子径が3.5μm以上であれば、Li含有酸化物粒子が中空多層構造を有するものとなり、液系電池に適用された場合に優れたレート特性を有するものとなる。
【0096】
2.2.5 比表面積
第2形態に係るLi含有酸化物粒子の比表面積は、特に限定されるものではない。ただし、液系電池の正極活物質として用いることを想定した場合、Li含有酸化物粒子の比表面積が大きいほど、電解液との接触界面が増加して、イオン伝導パスが確保され易くなるものと考えられる。この点、Li含有酸化物粒子が、中空多層構造を有し、球状粒子であり、かつ、3.5μm以上の平均粒子径を有する場合、当該Li含有酸化物粒子は、4.5m2/g以上の比表面積を有するものであってもよい。当該Li含有酸化物粒子の比表面積は、4.5m2/g以上10.0m2/g以下、4.5m2/g以上8.0m2/g以下、又は、4.5m2/g以上6.5m2/g以下であってもよい。
【0097】
2.2.6 補足
第2形態に係る正極活物質は、第1形態と同様に、上記のLi含有酸化物粒子のみからなるものであってもよいし、上記のLi含有酸化物粒子とともに、これ以外の正極活物質(その他の正極活物質)を含むものであってもよい。本開示の技術による効果を一層高める観点からは、正極活物質全体に占めるその他の正極活物質の割合は少量であってよい。例えば、正極活物質の全体を100質量%として、上記のLi含有酸化物粒子の含有量が、50質量%以上100質量%以下、60質量%以上100質量%以下、70質量%以上100質量%以下、80質量%以上100質量%以下、90質量%以上100質量%以下、95質量%以上100質量%以下、又は、99質量%以上100質量%以下であってもよい。
【0098】
2.3 液系電池
第2形態に係る正極活物質は、液系電池の正極活物質として用いられる。「液系電池」とは、液体電解質(電解液)を含む電池を意味する。液系電池に含まれる電解質は、そのすべてが液体電解質であってもよいし、液体電解質と固体電解質との組み合わせであってもよい。
図3に一実施形態に係る液系電池の構成を概略的に示す。
図3に示されるように、一実施形態に係る液系電池100は、正極活物質層10、電解質層20及び負極活物質層30を有する。ここで、正極活物質層10は、上記の第2形態に係る正極活物質を含む。また、正極活物質層10は、液体電解質を含む。
【0099】
液系電池100に備えられる正極活物質層10、電解質層20及び負極活物質層30は、正極活物質として上記の第2形態に係る正極活物質を有し、電解質として液体電解質を含むこと以外は、固体電池100に備えられるものと同様であってよい。液系電池100の構成については自明であることから、ここでは詳細な説明を省略する。
【0100】
3.車両
本開示の固体電池又は液系電池は、例えば、ハイブリッド車(HEV)、プラグインハイブリッド車(PHEV)及び電気自動車(BEV)から選ばれる少なくとも1種の車両において好適に使用され得る。すなわち、本開示の技術は、車両であって、本開示の固体電池及び液系電池のうちの一方又は両方を有するもの、としての側面も有する。
【0101】
4.効果
以上の通り、第1形態に係る正極活物質は、固体電池に適用された場合の抵抗が低い。また、第2形態に係る正極活物質は、液系電池に適用された場合のレート特性に優れる。
【実施例0102】
以上の通り、正極活物質の製造方法、正極活物質及び電池等の一実施形態について説明したが、本開示の技術は、その要旨を逸脱しない範囲で上記の実施形態以外に種々変更が可能である。以下、実施例を示しつつ、本開示の技術についてさらに詳細に説明するが、本開示の技術は以下の実施例に限定されるものではない。
【0103】
1.正極活物質の作製
1.1 正極活物質A
1.1.1 前駆体粒子a1の作製
(1)MnSO4・5H2O、NiSO4・6H2O、CoSO4・7H2Oを目的の組成比となるように秤量し、1.2mol/Lの濃度となるように蒸留水に溶解させて、第1溶液を得た。また、別の容器にNa2CO3を1.2mol/Lの濃度となるように蒸留水に溶解させて、第2溶液を得た。
(2)反応容器(邪魔板あり)に1000mLの純水を入れ、ここに、500mLの第1溶液と、500mLの第2溶液とを、各々、約4mL/minの速度で滴下した。
(3)滴下終了後、室温にて撹拌速度150rpmで1時間撹拌して、生成物を得た。
(4)生成物を純水で洗浄し、遠心分離機で固液分離して、沈殿物を回収した。
(5)得られた沈殿物を120℃で一晩乾燥させ、乳鉢粉砕後に気流分級にて粗大粒子a1-1と微粒子a1-2とに分けた。ここで、粗大粒子a1-1及び微粒子a1-2ともに、Mn、Ni及びCoを含む複合塩である。粗大粒子a1-1は、4.0μmの平均粒子径D50を有し、かつ、球状粒子であった。また、微粒子a1-2は、1.8μmの平均粒子径D50を有し、かつ、球状粒子であった。
(6)前駆体粒子a1として、粗大粒子a1-1を用いた。
【0104】
1.1.2 複合粒子a2の作製
(1)1150g/LとなるようにNa2CO3と蒸留水を秤量した後、完全に溶解するまでスターラーを用いて撹拌することで、Na2CO3水溶液を作製した。
(2)上記のNa2CO3水溶液と、上記の前駆体粒子a1とを、後述の焼成後における組成がNa0.7Mn0.5Ni0.2Co0.3O2となるように秤量・混合することで、スラリーを得た。
(3)上記のスラリーをスプレードライによって気流乾燥させて、複合粒子a2を得た。具体的には、スプレードライ装置DL410を用いて、スラリー送液速度30mL/min、入口温度200℃、循環風量0.8m3/min、噴霧圧力0.3MPaの条件で、上記のスラリーを気流乾燥させて、前駆体粒子a1の表面をNa2CO3で被覆し、複合粒子a2を得た。当該複合粒子a2においては、前駆体粒子a1の表面の77面積%がNa2CO3で被覆されていた。
【0105】
1.1.3 複合粒子a2の焼成
複合粒子a2をアルミナ坩堝に入れ、大気雰囲気下で焼成を行い、P2型構造を有するNa含有酸化物粒子a3を得た。焼成条件は、以下の(1)~(7)の通りである。
(1)大気雰囲気の加熱炉に上記の複合粒子a2を含むアルミナ坩堝を設置する。
(2)加熱炉内を室温(25℃)から600℃まで115分で昇温させる。
(3)加熱炉内を600℃で360分保持し、予備焼成を行う。
(4)予備焼成後、加熱炉内を600℃から900℃まで100分で昇温させる。
(5)加熱炉内を900℃で60分保持し、本焼成を行う。
(6)本焼成後、加熱炉内を900℃から250℃まで120分で降温させる。
(7)250℃で加熱炉からアルミナ坩堝を取り出し、炉外のドライ雰囲気にて放冷し、10分で25℃にまで到達させる。
【0106】
放冷後の焼成物をドライ雰囲気下で乳鉢を用いて粉砕することで、P2型構造を有するNa含有酸化物粒子a3(P2型粒子a3)を得た。P2型粒子a3は、3.2μmの平均粒子径D50を有し、かつ、球状粒子であった。
【0107】
1.1.4 イオン交換
(1)LiNO3とLiClとを50:50のモル比となるように秤量し、イオン交換に必要な最低Li量の10倍となるモル比にて、上記のP2型粒子a3と混合して、混合物を得た。
(2)アルミナるつぼを用いて、大気雰囲気下、280℃で1h、イオン交換を行い、Li含有酸化物を含む生成物を得た。
(3)生成物に残存した塩を純水で洗浄し、真空ろ過にて固液分離し、沈殿物を得た。
(4)得られた沈殿物を120℃で一晩乾燥させ、正極活物質Aを得た。
【0108】
1.2 正極活物質B
1.2.1 前駆体粒子b1の作製
前駆体粒子b1として、上記の微粒子a1-2を用いた。
【0109】
1.2.2 複合粒子b2の作製及び焼成
前駆体粒子a1に替えて前駆体粒子b1を用いたこと以外は、上記と同様にして複合粒子b2を作製し、当該複合粒子b2を焼成して、P2型構造を有するNa含有酸化物粒子b3(P2型粒子b3)を得た。P2型粒子b3は、1.8μmの平均粒子径D50を有し、かつ、球状粒子であった。
【0110】
1.2.3 イオン交換
P2型粒子a3に替えてP2型粒子b3を用いたこと以外は、上記と同様にしてイオン交換を行い、正極活物質Bを得た。
【0111】
1.3 正極活物質C
1.3.1 前駆体粒子c1の作製
(1)MnSO4・5H2O、NiSO4・6H2O、CoSO4・7H2Oを目的の組成比となるように秤量し、2mol/Lの濃度となるように蒸留水に溶解させて、第1溶液を得た。また、別の容器にNa2CO3を2mol/Lの濃度となるように蒸留水に溶解させて、第2溶液を得た。
(2)反応容器(邪魔板あり)に1000mLの純水を入れ、ここに、900mLの第1溶液と、900mLの第2溶液とを、各々、約4mL/minの速度で滴下した。
(3)滴下終了後、室温にて撹拌速度150rpmで1時間撹拌して、生成物を得た。
(4)生成物を純水で洗浄し、遠心分離機で固液分離して、沈殿物を回収した。
(5)得られた沈殿物を120℃で一晩乾燥させ、乳鉢粉砕後に気流分級にて粗大粒子c1-1と微粒子c1-2とに分けた。ここで、粗大粒子c1-1及び微粒子c1-2ともに、Mn、Ni及びCoを含む複合塩である。粗大粒子c1-1は、4.8μmの平均粒子径D50を有し、かつ、球状粒子であった。
(6)前駆体粒子c1として、粗大粒子c1-1用いた。
【0112】
1.3.2 複合粒子c2の作製及び焼成
前駆体粒子a1に替えて前駆体粒子c1を用いたこと以外は、上記と同様にして複合粒子c2を作製し、当該複合粒子c2を焼成して、P2型構造を有するNa含有酸化物粒子c3(P2型粒子c3)を得た。P2型粒子c3は、4.3μmの平均粒子径D50を有し、かつ、球状粒子であった。
【0113】
1.3.3 イオン交換
P2型粒子a3に替えてP2型粒子c3を用いたこと以外は、上記と同様にしてイオン交換を行い、正極活物質Cを得た。
【0114】
1.4 正極活物質D
1.4.1 前駆体粒子d1の作製
前駆体粒子d1として、上記の微粒子a1-2を用いた。
【0115】
1.4.2 複合粒子d2の作製
前駆体粒子d1とNa2CO3とを、Na0.7Mn0.5Ni0.2Co0.3O2の組成となるように秤量した。秤量した前駆体粒子d1とNa2CO3とを、乳鉢を用いて混合することにより、複合粒子d2を得た。当該複合粒子d2においては、前駆体粒子d1の表面の22面積%がNa2CO3で被覆されていた。
【0116】
1.4.3 複合粒子d2の焼成
複合粒子a2に替えて複合粒子d2を用いたこと以外は、上記と同様にして複合体粒子d2を焼成して、P2型構造を有するNa含有酸化物粒子d3(P2型粒子d3)を得た。P2型粒子d3は、1.3μmの平均粒子径D50を有し、かつ、板状粒子であった。
【0117】
1.4.4 イオン交換
P2型粒子a3に替えてP2型粒子d3を用いたこと以外は、上記と同様にしてイオン交換を行い、正極活物質Dを得た。
【0118】
2.正極活物質の評価
2.1 元素分析及び結晶構造の同定
正極活物質A~Dの各々について、元素分析を行ったところ、目標組成が得られていた。また、X線回折測定を行ったところ、正極活物質A~DのいずれについてもO2型構造を有するものであった。
【0119】
2.2 平均粒子径及び比表面積の測定
正極活物質A~Dの各々について、平均粒子径D50及びBET比表面積を測定した。平均粒子径D50は、レーザー回折・散乱法によって体積基準の粒度分布における積算値50%での粒子径(メジアン径)である。また、BET比表面積は、ガス吸着法を用いて測定した。具体的には、比表面積/細孔分布測定装置(マイクロメリティックス、Tristar)を用いて、吸着ガスを窒素とした定容法による測定を実施した。すなわち、液体窒素中に試料が入ったガラス管を浸漬させ、管内を真空引きし、その後、相対圧(=吸着平衡圧/飽和蒸気圧)を変化させ、吸着窒素量を測定した。測定された吸着窒素量及び相対圧より、BET比表面積を求めた。
【0120】
2.3 形状の観察
正極活物質A~Dの外観及び断面形状をSEMによって観察した。
図4に、断面形状についてのSEM像を示す。正極活物質Aは、中空単層構造を有する球状粒子であった。正極活物質Bは、中空単層構造を有する球状粒子であった。正極活物質Cは、中空多層構造を有する球状粒子であった。正極活物質Dは、板状粒子であった。
【0121】
3.評価用セルの作製
3.1 固体電池の作製
各々の正極活物質を用いて固体電池を作製した。固体電池の作製手順は以下の通りである。
(1)正極活物質と、硫化物固体電解質A(アルジロダイト型硫化物固体電解質)と、PVDFと、VGCFとを、正極活物質:硫化物固体電解質A:PVDF:VGCF=82.1:14.9:0.6:2.4(質量比)となるように秤量、混合することで、正極合材を得た。
(2)負極活物質(Li15Si4、及び、Si単体)と、硫化物固体電解質B(Li2S-P2S5-LiI-LiBr)と、PVDFと、VGCFとを、Li15S4:Si単体:硫化物固体電解質B:PVDF:VGCF=30.5:50.7:15.5:0.9:2.4(質量比)となるように秤量、混合することで、負極合材を得た。
(3)硫化物固体電解質Bと、アクリレートブタジエンゴム(ABR)とを、硫化物固体電解質B:ABR=99.4:0.6(質量比)となるように秤量、混合することで、電解質合材を得た。
(4)マコールシリンダーに上記の電解質合材を入れ、9.8kNで1分間プレスし、電解質層を形成した。その後、電解質層の一方側に上記の正極合材を入れ、19.6kNで1分間プレスして、正極活物質層を形成した。さらにその後、電解質層の他方側に上記の負極合材を入れ、58kNで3分間プレスして、負極活物質層を形成した。最後に、各層の積層方向両端に集電体を配置して、固体電池を得た。
【0122】
3.2 液系電池の作製
各々の正極活物質を用いて液系電池を作製した。液系電池の作製手順は以下の通りである。
(1)正極活物質と、導電助剤としてのアセチレンブラック(AB)と、バインダーとしてのポリフッ化ビニリデン(PVdF)とを、質量比で、正極活物質:AB:PVdF=85:10:5となるように秤量し、N-メチル-2-ピロリドンに分散混合して、正極合材スラリーを得た。正極合材スラリーをアルミニウム箔上に塗工し、120℃で一晩真空乾燥させることで、正極活物質層と正極集電体との積層物である正極を得た。
(2)トリフルオロプロピレンカーボネート(TFPC)とトリフルオロエチルメチルカーボネート(TFEMC)とをTFPC:TFEMC=30vol%:70vol%の比率で混合した混合溶媒に対して、LiPF6を濃度1Mで溶解させて、電解液を得た。
(3)負極として金属リチウム箔を用意した。
(4)正極、電解液及び負極を用いて、液系電池としてのコインセル(CR2032)を作製した。
【0123】
4.セルの評価
4.1 固体電池の放電容量の測定
上記の固体電池について、25℃に保持した恒温槽において、電圧範囲1.8-4.6V、0.1Cレート(1C=220mA/g)で充放電を行い、放電容量を測定した
【0124】
4.2 固体電池のDCIR抵抗の測定
上記の固体電池について、25℃に保持した恒温槽において、電圧範囲1.8-4.6V、0.1Cレート(1C=220mA/g)で充放電を2回繰り返し、その後、SOC50%状態において、3C相当電流を10s印加することで、DCIR抵抗を測定した。
【0125】
4.3 液系電池
各々のコインセルについて、25℃に保持した恒温槽において、電圧範囲2.0-4.8V、0.1Cレート又は3Cレート(1C=220mA/g)で充放電し、0.1Cにおける容量及び3Cにおける容量を各々測定した。
【0126】
5.評価結果
下記表1及び2に、正極活物質の評価結果を示す。また、下記表1に固体電池の評価結果を示す。また、下記表2に液系電池の評価結果を示す。
【0127】
【0128】
【0129】
表1に示される結果から明らかなように、正極活物質A及びBは、固体電池に適用された場合において低い抵抗を有するものといえる。また、表2に示される結果から明らかなように、正極活物質Cは、液系電池に適用された場合において優れたレート特性を有するものといえる。
【0130】
6.補足
尚、上記の実施例では、共沈法によって前駆体粒子を得る場合を例示したが、前駆体粒子はこれ以外の方法によって得ることもできる。また、上記の実施例では、スプレードライによって前駆体粒子の表面をNa源でコートして複合粒子を得る場合を例示したが、複合粒子はこれ以外の方法によって得ることもできる。また、上記の実施例では、P2型構造を有するNa含有酸化物やO2型構造を有するLi含有酸化物として、所定の化学組成を有するものを例示したが、Na含有酸化物やLi含有酸化物の化学組成はこれに限定されるものではない。また、Na含有酸化物やLi含有酸化物は、Mn、Ni及びCo以外の元素Mがドープされていてもよい。元素Mについては、実施形態において説明した通りである。
【0131】
7.まとめ
以上の通り、Li含有酸化物を含む正極活物質において、当該Li含有酸化物が、以下の要件(1)~(3)を満たす場合、固体電池に適用した場合の抵抗が低くなる。
(1)前記Li含有酸化物粒子が、O2型構造を有する。
(2)前記Li含有酸化物粒子が、中空単層構造を有する球状粒子である。
(3)前記Li含有酸化物粒子が、1.0μm以上3.5μm未満の平均粒子径を有する。
【0132】
一方、Li含有酸化物を含む正極活物質において、当該Li含有酸化物が、以下の要件(4)~(6)を満たす場合、液系電池に適用した場合のレート特性に優れる。
(4)前記Li含有酸化物粒子が、O2型構造を有する。
(5)前記Li含有酸化物粒子が、中空多層構造を有する球状粒子である。
(6)前記Li含有酸化物粒子が、3.5μm以上の平均粒子径を有する。
【0133】
また、上記要件(1)~(3)を満たすLi含有酸化物粒子や、上記要件(4)~(6)を満たすLi含有酸化物粒子は、例えば、イオン交換前のP2型粒子のサイズによって作り分けることができる。