(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2025011690
(43)【公開日】2025-01-24
(54)【発明の名称】異音診断システム
(51)【国際特許分類】
G10L 25/51 20130101AFI20250117BHJP
G01H 3/00 20060101ALI20250117BHJP
G10L 25/18 20130101ALI20250117BHJP
【FI】
G10L25/51
G01H3/00 A
G10L25/18
【審査請求】未請求
【請求項の数】1
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023113947
(22)【出願日】2023-07-11
(71)【出願人】
【識別番号】000003207
【氏名又は名称】トヨタ自動車株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000110
【氏名又は名称】弁理士法人 快友国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】植田 裕
【テーマコード(参考)】
2G064
【Fターム(参考)】
2G064AA14
2G064AB01
2G064AB02
2G064AB15
2G064CC29
2G064CC43
2G064CC46
2G064DD08
2G064DD14
(57)【要約】
【課題】最大音圧の周波数と発生周波数とが実質的に一致する期間の割合を適切に算出することができる技術を提案する。
【解決手段】異音診断システムは、少なくとも一つのコンピュータを備える。コンピュータは、音スペクトルデータを取得する処理と、車両データを取得する処理と、音スペクトルデータに対して、予想周波数帯と、その異音の有無を評価する時間帯と、を設定する処理と、設定された予想周波数帯及び時間帯において、最大音圧の周波数と、機器が発生する音の発生周波数と、が実質的に一致する期間の割合を算出する処理と、期間の割合が第1所定値を上回るときに、発生周波数が予想周波数帯に含まれる動作モードが記述された時間帯を、設定された時間帯から抽出する処理と、設定された予想周波数及び抽出された時間帯において、最大音圧の周波数と、機器の発生周波数と、が実質的に一致する期間の割合を算出する処理と、を実行する。
【選択図】
図2
【特許請求の範囲】
【請求項1】
車両用の異音診断システムであって、
少なくとも一つのコンピュータを備え、前記コンピュータは、
前記車両で収録された収録音の周波数スペクトルを所定期間に亘って記述する音スペクトルデータを取得する処理と、
前記車両に搭載された機器の動作モードを前記所定期間に亘って記述する車両データを取得する処理と、
前記音スペクトルデータに対して、予想される異音の予想周波数帯と、その異音の有無を評価する時間帯と、を設定する処理と、
前記設定された予想周波数帯及び時間帯において、前記音スペクトルデータに記述された最大音圧の周波数と、前記車両データに記述された動作モードにおいて前記機器が発生する音の発生周波数と、が実質的に一致する期間の割合を算出する処理と、
前記期間の割合が第1所定値を上回るときに、前記車両データにおいて前記機器の前記発生周波数が前記予想周波数帯に含まれる動作モードが記述された時間帯を、前記音スペクトルデータにおける前記設定された時間帯から抽出する処理と、
前記設定された予想周波数及び前記抽出された時間帯において、前記音スペクトルデータに記述された最大音圧の周波数と、前記車両データに記述された動作モードにおける前記機器の前記発生周波数と、が実質的に一致する期間の割合を算出する処理と、
を実行する、異音診断システム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本明細書に開示の技術は、異音診断システムに関する。
【0002】
特許文献1に、車両用の異音診断システムが開示されている。この異音診断システムでは、車両で収録された収録音の周波数スペクトルを所定期間に亘って記述する音スペクトルデータを取得し、音スペクトルデータに対して、予想される異音の予想周波数帯と、その異音の有無を評価する時間帯と、を設定する。異音診断システムは、設定された予想周波数帯及び時間帯を利用して、異音の発生源となる機器の候補を特定する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
異音診断システムの中には、音スペクトルデータと、車両に搭載された機器の動作モードを所定期間に亘って記述する車両データと、を取得する車両診断システムが存在する。このシステムでは、設定された予想周波数帯及び時間帯において、音スペクトルデータに記述された最大音圧の周波数と、車両データに記述された動作モードにおいて機器が発生する音の発生周波数と、が実質的に一致する期間の割合を算出する。
【0005】
車両に搭載された機器の中には、当該機器の動作モードに応じて発生周波数が変化するものがある。そして、車両の走行状態に応じて動作モードが変化する。このため、設定された時間帯には、異音が発生していない時間帯が含まれ得る。このため、設定された時間帯における最大音圧の周波数と発生周波数とが実質的に一致する期間の割合は、異音が発生している可能性が高い時間帯における最大音圧の周波数と発生周波数とが実質的に一致する期間の割合よりも小さくなってしまう。
【0006】
本明細書では、最大音圧の周波数と発生周波数とが実質的に一致する期間の割合を適切に算出することができる技術を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本技術の第1の態様では、車両用の異音診断システムは、少なくとも一つのコンピュータを備え、前記コンピュータは、前記車両で収録された収録音の周波数スペクトルを所定期間に亘って記述する音スペクトルデータを取得する処理と、前記車両に搭載された機器の動作モードを前記所定期間に亘って記述する車両データを取得する処理と、前記音スペクトルデータに対して、予想される異音の予想周波数帯と、その異音の有無を評価する時間帯とを設定する処理と、前記設定された予想周波数帯及び時間帯において、前記音スペクトルデータに記述された最大音圧の周波数と、前記車両データに記述された動作モードにおいて前記機器が発生する音の発生周波数と、が実質的に一致する期間の割合を算出する処理と、前記期間の割合が第1所定値を上回るときに、前記車両データにおいて前記機器の前記発生周波数が前記予想周波数帯に含まれる動作モードが記述された時間帯を、前記音スペクトルデータにおける前記設定された時間帯から抽出する処理と、前記設定された予想周波数及び前記抽出された時間帯において、前記音スペクトルデータに記述された最大音圧の周波数と、前記車両データに記述された動作モードにおける前記機器の前記発生周波数と、が実質的に一致する期間の割合を算出する処理と、を備える。
【0008】
上記の構成によると、異音診断システムは、期間の割合が第1所定値を上回るときに、機器の発生周波数が予想周波数帯に含まれる動作モードが記述された時間帯を、設定された時間帯から抽出する。これにより、異音が発生していない可能性が高い時間帯を除外することができる。従って、音スペクトルデータに記述された最大音圧の周波数と、車両データに記述された動作モードにおいて機器の発生周波数と、が実質的に一致する期間の割合を精度よく算出することができる。この結果、当該期間の割合を利用することで、異音の発生源となる機器の候補を適切に特定することができる。なお、機械学習を用いて、異音の発生源となる機器の候補を特定してもよい。
【図面の簡単な説明】
【0009】
【発明を実施するための形態】
【0010】
(実施例)
図1の異音診断システム2は、車両で発生している異音の発生源となる機器の候補(以下では、「異音候補」と記載する)を特定するためのシステムである。異音診断システム2は、診断装置4と、記録装置6と、を備えている。診断装置4は、モニタ10と、操作部12と、通信インターフェース14と、制御部20と、を備えている。以下では、インターフェースのことを「I/F」と記載する。通信インターフェース14は、他のデバイス(例えば記録装置6)との通信を実行するためのインターフェースである。制御部20は、CPU、ROM、RAM等のコンピュータによって構成されている。
【0011】
記録装置6は、所定期間における音データ、及び、車両データを記録する。音データは、車両から発生する音に対応するデータである。音データには、車両のロードノイズ、エンジンノイズ、PCUのスイッチングノイズ等が含まれる。車両データには、例えば、車速、エンジン回転数、モータ回転数、制御パターン等が含まれる。制御パターンは、PCUのキャリア周波数に対応する情報である。
【0012】
(特定処理;
図2)
図2を参照して、診断装置4の制御部20によって実行される特定処理について説明する。制御部20は、特定処理を開始するための操作をユーザから受け付ける場合に、
図2の処理を開始する。なお、
図2の開始時点において、制御部20は、記録装置6から、車両で収録された収録音の音データと、車両データと、を受信済みである。
【0013】
S10において、制御部20は、受信済みの音データに対して短時間フーリエ変換を実施することによって、音スペクトルデータを取得する。制御部20は、取得した音スペクトルデータをモニタ10に表示する。
図3の音スペクトルデータ30の縦軸は音の周波数を示し、横軸は時間を示す。また、音スペクトルデータ30中の各画素の色は、音圧レベル(dB)を示している。即ち、音スペクトルデータ30は、音の周波数スペクトルの時間変化を示すデータである。
【0014】
図2のS12において、制御部20は、予想周波数帯と第1評価時間帯とを設定する設定操作をユーザから受け付けることを監視する。予想周波数帯は、予想される異音の周波数帯である。第1評価時間帯は、当該異音の有無を診断する時間帯である。制御部20は、設定操作をユーザから受け付ける場合に、S12でYESと判断して、S14に進む。
図3に示すように、ユーザは、診断装置4の操作部12を操作することによって、予想周波数帯及び第1評価時間帯によって囲まれる矩形領域32を設定することができる。
図3では、周波数F1~周波数F2の周波数帯が予想周波数帯であり、時間T0~時間T6が第1評価時間帯である。
【0015】
図2のS14において、制御部20は、予想周波数帯及び第1評価時間帯における第1割合を算出する。具体的には、制御部20は、単位時間帯毎に、音スペクトルデータを利用して、予想周波数帯及び第1評価時間帯における最大音圧の周波数を算出するとともに、車両データ及び車両諸元を利用して、異音の発生源となり得る機器(以下では、「候補機器」と記載する)が発生する音の発生周波数と、を算出する。車両諸元は、診断装置4に予め記憶されている情報であってもよいし、ユーザによって入力された情報であってもよい。一例であるが、制御部20は、PCUが候補機器である場合、キャリア周波数(車両データ)、モータ回転数(車両データ)、及び、極対数(車両諸元)を利用して、発生周波数を算出する。制御部20は、算出済みの最大音圧の周波数と、算出済みの候補機器の発生周波数と、が実質的に一致する期間の割合を第1割合として算出する。ここで、「実質的に一致」とは、最大音圧の周波数と候補機器の発生周波数とが完全に一致する場合だけではなく、最大音圧の周波数と候補機器の発生周波数との差異が数%である場合も含む。
【0016】
S16において、制御部20は、S14で算出した第1割合が第1所定値(例えば10%)以上であるのか否かを判断する。制御部20は、第1割合が第1所定値以上である場合(S16でYES)に、S20に進む。一方、制御部20は、第1割合が第1所定値未満である場合(S16でNO)に、S30に進む。
【0017】
S20において、制御部20は、第1評価時間帯の中から第2評価時間帯を抽出する抽出処理を実行する。抽出処理は、第1評価時間帯の中から、候補機器の発生周波数が予想周波数帯に含まれる可能性が高い時間帯を抽出するための処理である。具体的には、制御部20は、車両データに含まれる制御パターンと、予想周波数帯と、を利用して、第2評価時間帯を決定する。
図3に示すように、制御部20は、制御パターンと、異音周波数帯と、を関連付けて記憶している。異音周波数帯は、異音周波数帯に関連付けられている制御パターンで車両が動作しているときに異音が発生する可能性のある周波数帯を示す情報である。制御部20は、予想周波数帯と異音周波数帯とが一致する時間帯を第2評価時間帯として決定する。
図3の場合、周波数F1、F2は、それぞれ、6500Hz、8000Hzである。このため、制御部20は、予想周波数帯と、制御パターン「3」に対応する異音周波数帯と、が一致すると判断し、制御パターンが「3」である時間帯を第2評価時間帯として決定する。具体的には、制御部20は、時間T0~T1、T2~T3、T4~T5を第2評価時間帯として決定する。
【0018】
図2のS22において、制御部20は、S14で算出した最大音圧の周波数とS14で算出した候補機器の発生周波数とを利用して、予想周波数帯及び第2評価時間帯における第2割合を算出する。第2割合は、第2評価時間帯のうち、最大音圧の周波数と候補機器の発生周波数とが実質的に一致する期間の割合である。
【0019】
S24において、制御部20は、第2割合が第2所定値(50%)以上であるのか否かを判断する。第2所定値は、第1所定値よりも大きい。制御部20は、第2割合が第2所定値以上である場合(S24でYES)に、S26に進む。一方、制御部20は、第2割合が第2所定値未満である場合(S24でNO)に、S30に進む。
【0020】
S26において、制御部20は、候補機器を異音候補として出力する。一例であるが、制御部20は、候補機器が異音候補であることを示すメッセージをモニタ10に表示する。制御部20は、S26が終了すると、
図2の処理を終了する。
【0021】
S30において、制御部20は、候補機器を異音候補として出力しない。制御部20は、S30が終了すると、
図2の処理を終了する。
【0022】
上述のように、車両用の異音診断システム2は、制御部20(「少なくとも1つのコンピュータ」の一例)を備えている。制御部20は、車両で収録された収録音の周波数スペクトルを所定期間に亘って記述する音スペクトルデータを取得し(
図2のS10)、車両に搭載された機器の動作モードを所定期間に亘って記述する車両データを取得する。制御部20は、音スペクトルデータに対して、予想される異音の予想周波数帯と、その異音の有無を評価する第1評価時間帯とを設定し(S12)、予想周波数帯及び第1評価時間帯において、音スペクトルデータに記述された最大音圧の周波数と、車両データに記述された制御パターンにおいて候補機器が発生する音の発生周波数と、が実質的に一致する期間の割合を算出する(S14)。制御部20は、第1割合が第1所定値を上回るとき(S16でYES)に、車両データにおいて候補機器の発生周波数が予想周波数帯に含まれる制御パターンが記述された時間帯を、音スペクトルデータにおける第1評価時間帯から抽出し(S20)、予想周波数及び第2評価時間帯において、音スペクトルデータに記述された最大音圧の周波数と、車両データに記述された制御パターンにおいて候補機器の発生周波数と、が実質的に一致する第2割合を算出する(S22)。
【0023】
上記の構成によると、異音診断システム2は、第1割合が第1所定値を上回るときに、候補機器の発生周波数が予想周波数帯に含まれる制御パターンが記述された時間帯を、第1評価時間帯から抽出する。これにより、異音が発生していない可能性が高い時間帯(
図3の時間T1~T2、T3~T4、T5~T6)を除外することができる。従って、音スペクトルデータに記述された最大音圧の周波数と、候補機器の発生周波数と、が実質的に一致する期間の割合(即ち第2割合)を精度よく算出することができる。この結果、異音候補を適切に特定することができる。
【符号の説明】
【0024】
2:異音診断システム、4:診断装置、6:記録装置、10:モニタ、12:操作部、14:通信インターフェース、20:制御部、30:音スペクトルデータ、32:矩形領域