(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2025011707
(43)【公開日】2025-01-24
(54)【発明の名称】駆動装置
(51)【国際特許分類】
H02P 27/06 20060101AFI20250117BHJP
【FI】
H02P27/06
【審査請求】未請求
【請求項の数】1
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023113970
(22)【出願日】2023-07-11
(71)【出願人】
【識別番号】000003207
【氏名又は名称】トヨタ自動車株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000017
【氏名又は名称】弁理士法人アイテック国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】竹谷 文明
【テーマコード(参考)】
5H505
【Fターム(参考)】
5H505AA16
5H505BB10
5H505CC04
5H505DD08
5H505EE59
5H505HB01
5H505JJ03
5H505JJ17
5H505LL22
5H505LL24
5H505LL43
(57)【要約】
【課題】バッテリの低温時にバッテリの昇温を促進する。
【解決手段】駆動装置は、バッテリと、モータと、バッテリからの電力ラインに取り付けられてモータに三相交流を印加するインバータと、モータに印加される三相交流の電流を検出する電流センサと、インバータを制御する制御装置と、を備える。制御装置は、バッテリの低温時には、バッテリに流れる電流に電流センサの誤差成分に応じた脈動成分が生じるようにインバータを制御する。
【選択図】
図2
【特許請求の範囲】
【請求項1】
バッテリと、モータと、前記バッテリからの電力ラインに取り付けられて前記モータに三相交流を印加するインバータと、前記モータに印加される三相交流の電流を検出する電流センサと、前記インバータを制御する制御装置と、を備える駆動装置であって、
前記制御装置は、前記バッテリの低温時には、前記バッテリに流れる電流に前記電流センサの誤差成分に応じた脈動成分が生じるように前記インバータを制御する、
ことを特徴とする駆動装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、駆動装置に関し、詳しくは、バッテリとモータとインバータと制御装置とを備える駆動装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、この種の駆動装置としては、バッテリからの直流電流をコンバータによって昇圧してモータを駆動するインバータに供給する駆動装置において、バッテリの低温時には、コンバータを通常より低いスイッチング周波数で動作させるものが提案されている(例えば、特許文献1参照)。この駆動装置では、上記制御によりバッテリを通過するリプル電流の振幅を増大させてバッテリの昇温を促進している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、バッテリからの直流電流を昇圧してモータを駆動するインバータに供給するコンバータを備えない駆動装置では、コンバータを有しないから、コンバータを通常より低いスイッチング周波数で動作させることによってバッテリの昇温を促進することができない。
【0005】
本開示の駆動装置は、バッテリの低温時にバッテリの昇温を促進することを主目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本開示の駆動装置は、上述の主目的を達成するために以下の手段を採った。
【0007】
本開示の駆動装置は、
バッテリと、モータと、前記バッテリからの電力ラインに取り付けられて前記モータに三相交流を印加するインバータと、前記モータに印加される三相交流の電流を検出する電流センサと、前記インバータを制御する制御装置と、を備える駆動装置であって、
前記制御装置は、前記バッテリの低温時には、前記バッテリに流れる電流に前記電流センサの誤差成分に応じた脈動成分が生じるように前記インバータを制御する、
ことを特徴とする。
【0008】
本開示の駆動装置では、バッテリの低温時には、バッテリに流れる電流に、電流センサの誤差成分に応じた脈動成分が生じるようにインバータを制御する。モータに印加される三相交流の電流を検出する電流センサには、オフセット成分とゲイン成分の誤差成分があるが、こうした誤差成分がある状態でも制御破綻しないようにインバータを制御することができる。このため、電流センサの許容誤差成分の範囲内でバッテリに流れる電流に脈動成分が生じるようにインバータを制御することも可能となる。このようにバッテリに流れる電流に脈動成分が生じるようにインバータを制御することにより、バッテリの昇温を促進することができる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
【
図1】本開示の実施形態としての駆動装置を搭載する電気自動車20の構成の概略を示す構成図である。
【
図2】電子制御ユニット50により実行される低温時脈動処理の一例を示すフローチャートである。
【
図3】インバータ34を通常制御したときと脈動制御したときのバッテリ電流の時間変化の一例を模式的に示す説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0010】
次に、本開示を実施するための形態(実施形態)について説明する。
図1は、本開示の実施形態としての駆動装置を搭載する電気自動車20の構成の概略を示す構成図である。図示するように、実施形態の電気自動車20は、走行用のモータ32と、インバータ34と、バッテリ36と、電子制御ユニット50とを備える。
【0011】
モータ32は、三相交流電動機として構成されており、回転子コアに永久磁石が埋め込まれた回転子と、固定子コアに三相コイルが巻回された固定子とを備える。モータ32の回転子は、駆動輪22a,22bにデファレンシャルギヤ24を介して連結された駆動軸26に接続されている。
【0012】
インバータ34は、モータ32の駆動に用いられる。インバータ34は、電力ライン38を介してバッテリ36に接続されており、6つのスイッチング素子としてのトランジスタT11~T16と、6つのトランジスタT11~T16のそれぞれに並列に接続された6つのダイオードD11~D16とを有する。トランジスタT11~T16は、それぞれ、電力ライン38の正極側ラインと負極側ラインとに対してソース側とシンク側になるように2つずつペアで配置されている。各ペアの2つのトランジスタの接続点は、それぞれ、モータ32の対応する相(U相、V相、W相)のコイルに接続されている。したがって、インバータ34に電圧が作用しているときに、電子制御ユニット50によって、対となるトランジスタT11~T16のオン時間の割合が調節されることにより、三相コイルに回転磁界が形成され、モータ32が回転駆動される。
【0013】
バッテリ36は、リチウムイオン二次電池やニッケル水素二次電池として構成されており、電力ライン38を介してインバータ34に接続されている。電力ライン38には、平滑用のコンデンサ39が取り付けられている。
【0014】
電子制御ユニット50は、CPU、ROM、RAM、フラッシュメモリ、入出力ポートを有するマイクロコンピュータとして構成されている。電子制御ユニット50は、回転位置センサ32aからのモータ32の回転子の回転位置θm、電流センサ32u,32vからのモータ32のU相、V相の相電流Iu,Iv、電圧センサ36aからのバッテリ36の電圧Vb、電流センサ36bからのバッテリ36の電流Ib、温度センサ36cからのバッテリ36の温度Tb、電圧センサ39aからの電力ライン38(コンデンサ39)の電圧VLを入力する。スタートスイッチ60からのスタート信号、シフトポジションセンサ62からのシフトレバー61の操作位置であるシフトポジションSP、アクセルペダルセンサ64からのアクセルペダル63の踏込量であるアクセル開度Acc、ブレーキペダルセンサ66からのブレーキペダル65の踏込量であるブレーキペダルポジションBP、車速センサ67からの車速Vも入力する。
【0015】
電子制御ユニット50は、インバータ34のトランジスタT11~T16に制御信号を出力する。電子制御ユニット50は、回転位置θmに基づいてモータ32の電気角θeや回転数Nmを演算したり、相電流Iu,Ivと電気角θeとに基づいてモータ32の出力トルクTmを推定したりしている。出力トルクTmの推定は、例えば、モータ32の各相の電流の総和が値0とであるとして、モータ32の電気角θeを用いてU相、V相の相電流Iu,Ivをd軸、q軸の電流Id,Iqに座標変換(3相-2相変換)し、電流Id,Iqと出力トルクTmとの予め定められた関係にd軸、q軸の電流Id,Iqを適用して出力トルクTmを導出することにより行なわれる。
【0016】
実施形態の電気自動車20では、電子制御ユニット50は、走行に要求される(駆動軸26に要求される)走行要求トルクTd*をモータ32のトルク指令Tm*に設定し、モータ32がトルク指令Tm*で駆動されるようにインバータ34のトランジスタT11~T16を制御する。ここで、走行要求トルクTd*は、アクセル開度Accおよび車速Vに基づいて設定される。インバータ34の制御は、例えば、パルス幅変調(PWM)制御により行なわれる。
【0017】
PWM制御では、最初に、モータ32の各相の電流の総和が値0とであるとして、モータ32の電気角θeを用いてU相、V相の相電流Iu,Ivをd軸、q軸の電流Id,Iqに座標変換(3相-2相変換)する。続いて、トルク指令Tm*に基づいてd軸、q軸の電流指令Id*,Iq*を設定し、d軸、q軸の電流指令Id*,Iq*と電流Id,Iqとの差分が打ち消されるようにd軸、q軸の電圧指令Vd*,Vq*を演算する。そして、モータ32の電気角θeを用いてd軸、q軸の電圧指令Vd*,Vq*を各相の電圧指令Vu*,Vv*,Vw*に座標変換(2相-3相変換)し、この電圧指令Vu*,Vv*,Vwと搬送波電圧との比較によってトランジスタT11~T16のPWM信号を生成してトランジスタT11~T16のスイッチング制御を行なう。
【0018】
なお、駆動装置としては、、モータ32と、電流センサ32u,32vと、インバータ34と、バッテリ36と、電子制御ユニット50とが相当する。
【0019】
次に、実施形態の電気自動車20の動作、特に、バッテリ36の低温時にバッテリ36の昇温を促進する際の動作について説明する。
図2は、電子制御ユニット50により実行される低温時脈動処理の一例を示すフローチャートである。
【0020】
低温時脈動処理が実行されると、電子制御ユニット50は、まず、温度センサ36cからのバッテリ温度Tbを入力し(ステップS100)、バッテリ温度Tbが閾値Tref未満であるか否かを判定する(ステップS110)。ここで、閾値Trefは、バッテリ36が低温状態であるか否かを判定する閾値であり、例えば0℃や-5℃などを用いることができる。
【0021】
ステップS110でバッテリ温度Tbが閾値Tref以上であると判定したときには、バッテリ36は低温状態にはないと判断し、インバータ34の通常制御(PWM制御)を実行し(ステップS120)、本処理を終了する。インバータ34の通常制御(PWM制御)については上述した。
【0022】
ステップS110でバッテリ温度Tbが閾値Tref未満であると判定したときには、バッテリ36は低温状態にあると判断し、電流センサ32u,32vの許容誤差成分の範囲内でバッテリ36に流れる電流に脈動成分が生じるようにインバータ34を制御するインバータ脈動制御を実行し(ステップS130)、本処理を終了する。インバータ脈動制御としては、PWM制御において、U相、V相の相電流Iu,Ivに対して許容誤差成分の範囲内で脈動成分を重畳することにより実行することができる。
【0023】
図3にインバータ34を通常制御したときと脈動制御したときのバッテリ電流の時間変化の一例を模式的に示す。図示するように、インバータ34を通常制御したときにはバッテリ36に流れる電流は一定であるが、インバータ34を脈動制御するとバッテリ36に流れる電流が脈動するようになる。これにより、バッテリ36の昇温を促進することができる。
【0024】
以上説明した実施形態の電気自動車20に搭載した駆動装置では、バッテリ36は低温状態にあるときには、電流センサ32u,32vの許容誤差成分の範囲内でバッテリ36に流れる電流に脈動成分が生じるようにインバータ34を制御するインバータ脈動制御を実行する。これにより、バッテリ36の昇温を促進することができる。
【0025】
実施形態では、駆動装置は電気自動車20に搭載されるものとしたが、駆動装置はハイブリッド車に搭載されるものとしてもよく、燃料電池車に搭載されるものとしてもよい。また、駆動装置は、車両に搭載されないものとしても構わない。
【0026】
実施形態の主要な要素と課題を解決するための手段の欄に記載した発明の主要な要素との対応関係について説明する。実施形態では、バッテリ36が「バッテリ」に相当し、モータ32が「モータ」に相当し、インバータ34が「インバータ」に相当し、電流センサ32u,32vが「電流センサ」に相当し、電子制御ユニット50が「制御装置」に相当する。
【0027】
なお、実施形態の主要な要素と課題を解決するための手段の欄に記載した発明の主要な要素との対応関係は、実施形態が課題を解決するための手段の欄に記載した発明を実施するための形態を具体的に説明するための一例であることから、課題を解決するための手段の欄に記載した発明の要素を限定するものではない。即ち、課題を解決するための手段の欄に記載した発明についての解釈はその欄の記載に基づいて行なわれるべきものであり、実施形態は課題を解決するための手段の欄に記載した発明の具体的な一例に過ぎないものである。
【0028】
以上、本開示を実施するための形態について実施形態を用いて説明したが、本開示はこうした実施形態に何等限定されるものではなく、本開示の要旨を逸脱しない範囲内において、種々なる形態で実施し得ることは勿論である。
【産業上の利用可能性】
【0029】
本開示は、電動車両の製造産業などに利用可能である。
【符号の説明】
【0030】
20 電気自動車、22a,22b 駆動輪、32 モータ、32u,32v 電流センサ、34 インバータ、36 バッテリ、36c 温度センサ、50 電子制御ユニット。