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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2025001175
(43)【公開日】2025-01-08
(54)【発明の名称】光学部品の製造方法および光学部品
(51)【国際特許分類】
   H01S 3/06 20060101AFI20241225BHJP
   C30B 29/28 20060101ALI20241225BHJP
   C30B 33/06 20060101ALI20241225BHJP
【FI】
H01S3/06
C30B29/28
C30B33/06
【審査請求】有
【請求項の数】7
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023100627
(22)【出願日】2023-06-20
【国等の委託研究の成果に係る記載事項】(出願人による申告)令和5年度、防衛装備庁安全保障技術研究推進制度、産業技術力強化法第17条の適用を受ける特許出願
(71)【出願人】
【識別番号】391049530
【氏名又は名称】株式会社信光社
(74)【代理人】
【識別番号】100095337
【弁理士】
【氏名又は名称】福田 伸一
(74)【代理人】
【識別番号】100174425
【弁理士】
【氏名又は名称】水崎 慎
(74)【代理人】
【識別番号】100203932
【弁理士】
【氏名又は名称】高橋 克宗
(72)【発明者】
【氏名】川嶋 一裕
(72)【発明者】
【氏名】川南 修一
(72)【発明者】
【氏名】望月 圭介
【テーマコード(参考)】
4G077
5F172
【Fターム(参考)】
4G077BC24
4G077FF01
4G077HA02
5F172AE03
5F172AL10
5F172NN06
5F172NS04
(57)【要約】
【課題】接合界面のボイドが極めて少ないYAG単結晶を用いた光学部品の製造方法および光学部品を提供する。
【解決手段】ドープYAG単結晶の表面およびアンドープYAG単結晶の表面を鏡面研磨し、ドープYAG単結晶の表面およびアンドープYAG単結晶の表面のうち、少なくとも何れか一方に、Siおよび2価のイオンとなる元素を含有する酸化物薄膜をコートした後、ドープYAG単結晶の表面とアンドープYAG単結晶の表面とを接触させて熱処理をする。
【選択図】図5
【特許請求の範囲】
【請求項1】
光学活性物質をドープしたイットリウム・アルミニウム・ガーネット単結晶であるドープYAG単結晶の表面、および、光学活性物質をドープしていないイットリウム・アルミニウム・ガーネット単結晶であるアンドープYAG単結晶の表面を、鏡面研磨し、前記ドープYAG単結晶の表面および前記アンドープYAG単結晶の表面のうち、少なくとも何れか一方に、Siを含有する薄膜をコートした後、前記ドープYAG単結晶の表面と前記アンドープYAG単結晶の表面とを接触させ、熱処理をすることを特徴とする光学部品の製造方法。
【請求項2】
請求項1に記載の光学部品の製造方法であって、
前記薄膜が、2価のイオンとなる元素を含有する酸化物薄膜であることを特徴とする光学部品の製造方法。
【請求項3】
請求項1または請求項2に記載の光学部品の製造方法であって、
前記熱処理によって、前記ドープYAG単結晶の表面と前記ドープYAG単結晶の表面との接合部位がCaおよびMgを含有する酸化物薄膜となることを特徴とする光学部品の製造方法。
【請求項4】
請求項1または請求項2に記載の光学部品の製造方法であって、
前記熱処理において、大気中1200℃以上1600℃以下で熱処理した後、O2を含有する雰囲気中で熱間等方圧加圧処理を施すことを特徴とする光学部品の製造方法。
【請求項5】
光学活性物質がドープされたイットリウム・アルミニウム・ガーネット単結晶であるドープYAG単結晶の表面と、光学活性物質がドープされていないイットリウム・アルミニウム・ガーネット単結晶であるアンドープYAG単結晶の表面とが接合された光学部品であって、
前記ドープYAG単結晶と前記アンドープYAG単結晶との接合部位に、Siを含有した薄膜を有することを特徴とする光学部品。
【請求項6】
前記薄膜が、2価のイオンとなる元素を含有する酸化物薄膜であることを特徴とする請求項5に記載された光学部品。
【請求項7】
前記酸化物薄膜に、2価のイオンとなる前記元素として、CaおよびMgが何れも含まれたことを特徴とする請求項6に記載された光学部品。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、YAG(イットリウム・アルミニウム・ガーネット)単結晶からなるレーザー利得媒質や蛍光発光素子などの光学部品の製造方法および光学部品に関する。
【背景技術】
【0002】
レーザー加工等の分野において、小型、高出力、高ビーム品質のレーザーが望まれている。最近ではレーザーダイオード(LD)を励起光源とする固体レーザーが普及してきている。中でもネオジム(Nd)やイッテルビウム(Yb)をドープしたイットリウム・アルミニウム・ガーネット(以下、「YAG」と記す。)結晶は、固体レーザー材料として利用が進んでいる。
【0003】
固体レーザーにおいて出力レーザービームの高出力化を実現するためには、レーザー利得材料である固体中に発生する熱の排熱が大きな問題となっている。
局所的な発熱を効果的に分散させる方法として、光学活性物質をドープしたレーザー結晶とドープしていない結晶を接合することが提案され、拡散接合法や直接接合法が考案されている(特許文献1)。
【0004】
また、レーザー媒質の構造に関する研究も進められ、ディスク型のレーザー利得材料を用いた方式が知られている。レーザー利得材料を薄いディスク形状とすることで、外部からの励起光の受光面を大きくとることができ、ディスク面全体で均一に冷却することが可能となる。中でも反射型(アクティブミラー型)の構造は、薄膜ディスクの一方の表面に反射膜を施すことでヒートシンクや流体による冷却が可能になることから注目されている。通常アクティブミラー型の構造体は、光学活性物質をドープした薄膜ディスクと光学活性物質をドープしていない材料とを接合することにより、機械的強度や熱の分散性を向上させている(特許文献2)。
【0005】
レーザー媒質を冷却するための手段として、伝熱部材との接合方法について数多くの技術が提案されている。たとえば、特許文献3では、接合面を酸素プラズマで処理した後、不活性ガスの原子ビームを照射し、表面活性接合をする技術が開示されている。ここで開示されている技術によれば、酸化物であるレーザー媒質のYAGと、酸化物であって伝熱部材となるサファイアとを接合することも可能であることが示されている。またこの中で、レーザー媒質が多結晶である場合は、レーザー媒質と空間の界面近傍に生じる電界集中によってレーザー媒質が破壊されやすく、光損傷閾値が単結晶に比べて低いこと、その対策として端面に透明単結晶を表面活性接合することで光損傷閾値を高めることが可能なことが示されている(特許文献3、[0027])。
【0006】
また、電子部品の分野においても各種の接合技術が開示されており、たとえば特許文献4では、真空中でアモルファス酸化物薄膜を形成し、接合界面に原子拡散を伴った化学結合を生じさせる原子拡散接合法が提案されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特許第4374415号公報
【特許文献2】特許第5330801号公報
【特許文献3】特許第6245587号公報
【特許文献4】特許第7131778号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
固体レーザー用の媒質としてYAG単結晶や、多結晶体であるYAGセラミックスが使用されている。YAGセラミックスは、大型化が容易で比較的安価に製造できるという利点があるものの、粒界が存在することからレーザー損傷閾値が低くなること、単結晶に比べて熱伝導率が低いこと、特に低温では単結晶に比べて熱伝導率が小さいこと、などの理由により、高出力レーザーではYAG単結晶を用いることが好ましい。
【0009】
また、レーザー媒質と放熱部材を接合する技術として、多結晶体の場合はレーザー媒質と放熱材の原料粉末を接触させ同時に焼結することにより接合する方法も提案されているが、YAG単結晶を使用したレーザー媒質では、光学活性物質をドープしたYAG単結晶とドープしないYAG単結晶を結晶育成後に加工して、接合することが必要となる。そのため接合界面を平坦に鏡面研磨して接合することが求められるが、どうしても接合後の界面にボイドが残ることがある。高出力レーザーではこの微小なボイドが影響することも考えられるため、接合界面にボイドのない単結晶の接合体が望まれている。
【0010】
本発明はこのような課題を考慮してなされたものであり、接合界面のボイドが極めて少ないYAG単結晶を用いた光学部品の製造方法および光学部品を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
上記目的を達成するために、本発明に係る光学部品の製造方法は、光学活性物質をドープしたイットリウム・アルミニウム・ガーネット単結晶であるドープYAG単結晶の表面、および、光学活性物質をドープしていないイットリウム・アルミニウム・ガーネット単結晶であるアンドープYAG単結晶の表面を、鏡面研磨し、前記ドープYAG単結晶の表面および前記アンドープYAG単結晶の表面のうち、少なくとも何れか一方に、Siを含有する薄膜をコートした後、前記ドープYAG単結晶の表面と前記アンドープYAG単結晶の表面とを接触させ、熱処理をすることを特徴とする
【0012】
本発明に係る光学部品の製造方法は、前記薄膜が、2価のイオンとなる元素を含有する酸化物薄膜であることを特徴とする。
【0013】
本発明に係る光学部品の製造方法は、前記熱処理によって、前記ドープYAG単結晶の表面と前記ドープYAG単結晶の表面との接合部位がCaおよびMgを含有する酸化物薄膜となることを特徴とする。
【0014】
本発明に係る光学部品の製造方法は、前記熱処理において、大気中1200℃以上1600℃以下で熱処理した後、O2を含有する雰囲気中で熱間等方圧加圧処理を施すことを特徴とする。
【0015】
本発明に係る光学部品は、光学活性物質がドープされたイットリウム・アルミニウム・ガーネット単結晶であるドープYAG単結晶の表面と、光学活性物質がドープされていないイットリウム・アルミニウム・ガーネット単結晶であるアンドープYAG単結晶の表面とが接合された光学部品であって、前記ドープYAG単結晶と前記アンドープYAG単結晶との接合部位に、Siを含有した薄膜を有することを特徴とする。
【0016】
本発明に係る光学部品は、前記薄膜が、2価のイオンとなる元素を含有する酸化物薄膜であることを特徴とする。
【0017】
本発明に係る光学部品は、前記酸化物薄膜に、2価のイオンとなる前記元素として、CaおよびMgが何れも含まれたことを特徴とする。
【0018】
本発明では、Nd、Yb、Ceなどの光学活性物質をドープしたYAG単結晶(ドープYAG単結晶)とドープをしていないYAG単結晶(アンドープYAG単結晶)を接合したレーザー媒質の製造方法に関して、接合界面におけるボイドを次の手段により減少できることを見出した。すなわち、ドープYAG単結晶とアンドープYAG単結晶の接合面を鏡面研磨した後、スパッタリングなどの方法でSiを含有する薄膜を少なくともいずれかの表面にコートした後、接合面を密着させて熱処理することで、接合界面にボイドの少ないレーザー媒質を製造できることを見出した。
Siを含有する薄膜をコートすることで、熱処理中にSiはイオンとしてYAG単結晶中に拡散し、接合界面付近での原子の移動を活発にすることで、界面のボイドを減少させることが可能となった。
【0019】
Siを含有する薄膜がSiの場合には、熱処理中に酸化されSiはイオン化して拡散する。そのためSi膜でも接合界面のボイドを減少させることができるが、熱処理中に酸化されるのでSiの酸化膜をコートする方が好ましい。
本発明において、Siを含有する薄膜の組成を、Mg、Ca、Fe、Mnなどの2価のイオンから選択される少なくとも一つ以上と、Siなどの4価のイオンとを含む酸化物の組成とすることができる。Siは4価のイオンでYAG結晶中の3価のYやAlイオンと置換することによって拡散するが、その際、2価のMgやCa等と共存することによって電荷が補償され、より置換しやすく、拡散が進みボイドが減少するものと考えられる。これら2価のイオンとSiはYAG結晶中に拡散してガーネット構造を形成することから、光学的不均一相も減少すると考えられる。
【0020】
さらに、薄膜の組成をMg、CaおよびSiを含む酸化物とすることで、ボイドを減少させることが可能となる。MgとCaが共存することで、界面付近の拡散を促進し、アモルファス相の存在によるボイドの除去が進むと考えられる。
【0021】
本発明において、前記熱処理は、大気中、1200℃以上、1600℃以下の温度で行うことが好ましい。YAG単結晶は、還元雰囲気中で熱処理すると酸素欠損が生じることがあるため、酸化雰囲気である大気中で熱処理することが好ましい。熱処理温度は、1200℃より低温ではSi、Mg、Caなどのイオンが十分に拡散せず、1600℃より高温ではボイドが逆に成長することがあるからである。さらに、大気中での熱処理後に、熱間等方圧加圧(HIP:Hot Isostatic Pressing)処理を行うことがより好ましい。HIP処理は、YAGの還元を防止する雰囲気が望ましく、O2を含有する雰囲気、たとえばAr+O2雰囲気で行うとよい。圧力や温度は通常用いられる条件でよく、たとえば1500℃、200MPaの条件で処理するとよい。HIP処理を行うことで、接合界面のボイドはさらに減少する。
【発明の効果】
【0022】
本発明により、接合界面にボイドのない単結晶材料からなるレーザー媒質接合体などの光学部品の提供が可能となった。
【図面の簡単な説明】
【0023】
図1】本発明の実施形態に対する比較例の接合体破断面のSEM写真
図2】本発明の実施形態に係る光学部品の製造方法によって作製された光学部品の実施例1の接合体破断面のSEM写真
図3】本発明の実施形態に係る光学部品の製造方法によって作製された光学部品の実施例2の接合体破断面のSEM写真
図4】本発明の実施形態に係る光学部品の製造方法によって作製された光学部品の実施例3の接合体破断面のSEM写真
図5】本発明の実施形態に係る光学部品の製造方法によって作製された光学部品の実施例4の接合体破断面のSEM写真
図6】本発明の実施形態に係る光学部品の製造方法によって作製された光学部品の実施例5の接合体破断面のSEM写真
図7】本発明の実施形態に係る光学部品の製造方法によって作製された光学部品の実施例6の接合体破断面のSEM写真
【発明を実施するための形態】
【0024】
以下、本発明の実施形態について詳細に説明する。
固体レーザーの媒質として、Nd:YAG単結晶やYb:YAG単結晶とアンドープYAG単結晶の接合体が有用である。これらのYAG単結晶は、チョクラルスキー法などの方法で育成することができる。しかし、チョクラルスキー法で育成した単結晶は、イリジウムなどの貴金属をるつぼに使用することから製造コストが高く、大型の結晶育成が困難であった。しかし発明者らは、イリジウムるつぼを使用しない大型の結晶を育成する技術を開発し(特開2023-056860、特開2023-056861)、比較的安価に大型のYAG単結晶を製造することが可能となった。
【0025】
育成した単結晶を円板状に加工し、接合面を表面粗さ(Ra)が0.5nm以下になるように鏡面研磨する。接合面は平坦な方が望ましいが、たとえばφ50mmのエリアで、<λ/2(λ=633nm)の平坦度であれば接合が可能で、それほど特別な研磨を必要としない。
【0026】
研磨したドープYAG単結晶または研磨したアンドープYAG単結晶の少なくともどちらか一方に、スパッタリングなどの方法でSiを含有する薄膜をコーティングする。したがって、ドープYAG単結晶の接合面に薄膜をコーティングし、一方で、アンドープYAG単結晶の接合面に薄膜をコーティングしない場合や、アンドープYAG単結晶の接合面に薄膜をコーティングし、一方で、ドープYAG単結晶の接合面に薄膜をコーティングしない場合や、ドープYAG単結晶の接合面に薄膜をコーティングし、アンドープYAG単結晶の接合面にも薄膜をコーティングする場合の何れであってもよい。
【0027】
コーティングは、スパッタリング以外にも、真空蒸着法、気相成長法などの方法が利用できる。薄膜はSiを含有すればよく、Si膜、Siの酸化膜が比較的容易に成膜できるため好ましい。Siと同時に、Mg、Ca、Mn、Feなどの2価のイオンとなる元素のうち、少なくとも一つ以上を含む薄膜がより好ましい。これらの薄膜は蒸着材やターゲットの入手、熱処理時の酸化などを考慮すると、酸化物薄膜であることが望ましい。
【0028】
SiはYAGセラミックスの焼結助剤として有効であることが知られており、接合界面での拡散を活発化することでボイドの除去に効果があると考えられる。Siは4価のイオンであるがYAG単結晶中のYイオンやAlイオンは3価であるため、Siと同時に2価のMgやCa等を同時に含む薄膜とすることで、電荷の補償が可能となり、YAG単結晶中への拡散、置換がより促進されるためボイドの減少に有効であると考えられる。2価のイオンと4価のイオンが共存することでYAG単結晶と同じガーネット構造を形成することが可能となり、光学的に不均質な層を極力薄くすることができる。
【0029】
さらに、薄膜の組成をMg、CaおよびSiを含む酸化物とすることで、ボイドを減少させることが可能となる。Mgは比較的容易にYAG単結晶中に拡散するが、Caは界面付近に留まる傾向が電子顕微鏡観察でも確認できており、Caが存在することでSiも界面付近に留まり、アモルファス相を形成すると考えられる。MgとSiのYAG結晶中への拡散と界面付近のアモルファス相の存在により、界面のボイドが減少すると考えられる。アモルファス相は、熱処理の進行中にイオンの拡散が進みYAGと同じガーネット相を形成し、光学的に不均質な層を薄くすることが可能である。
【0030】
なお、ドープYAG単結晶とアンドープYAG単結晶との接合体の接合部位に、Mg、CaおよびSiを含む酸化物薄膜が存在していればよいため、このような酸化物薄膜を形成するための方法には、様々なものが含まれる。例えば、ドープYAG単結晶およびアンドープYAG単結晶の何れか片方の表面に、予めMg、CaおよびSiを含む薄膜をコートし、もう片方の表面には薄膜をコートせずに、両表面を接合する場合の他、ドープYAG単結晶およびアンドープYAG単結晶の何れか片方の表面に、予めMgおよびSiを含む薄膜をコートし、もう片方の表面に、予めCaおよびSiを含む薄膜をコートした後、両表面を接合する場合や、ドープYAG単結晶およびアンドープYAG単結晶の何れか片方の表面に、予めSiを含む薄膜をコートし、もう片方の表面に、予めCaおよびMgを含む薄膜をコートした後、両表面を接合する場合などがある。後述するとおり、薄膜の厚みは、数十nm程度であるため、1300℃以上程度で液相が生じることから、(仮に、液相でなかったとしても)容易に拡散する。よって、少なくともドープYAG単結晶およびアンドープYAG単結晶の何れかの表面の薄膜に、これらの元素が含まれていれば、結果的に両者の接合部位に、Mg、CaおよびSiを含む酸化物薄膜が形成される。
【0031】
薄膜の厚みは、数原子層から数十nm程度が良く、数nm程度の厚みが最も望ましい。数nm程度の膜厚があることで界面付近での拡散が促進され多少の凹凸は緩和され良好な接合が形成されるからである。数十nmよりも厚い場合には、アモルファス相が残存することで光学的不均質部分が厚くなるので好ましくない。
【0032】
ドープYAG単結晶とアンドープYAG単結晶の接合面を密着させ、大気中、1200℃~1600℃で熱処理することで接合する。1200℃未満ではコートした薄膜の元素が十分に拡散することができず、およそ1300℃以上の温度で液相が生成し拡散が活性化する。逆に1600℃を超える高温ではボイドが成長することがあるので高温での熱処理を必要としない。熱処理の際、接合面を密着させる目的で重石程度の荷重をかけるとよい。ホットプレスなどの高圧は必要ではなく、0.1kPa以上10kPa以下の軽い荷重で十分である。
【0033】
本実施形態では、熱処理による接合の後、HIP処理を施すことがより好ましい。薄膜をコートした後接合することで、界面のボイドを減少させることが可能であるが、条件によってはボイドが残ることもある。このボイドをHIP処理によりさらに減少させることができる。HIP処理の条件は、酸化雰囲気が望ましい。YAGは還元雰囲気で処理すると酸素欠損ができるため、追加の酸化処理が必要なためである。具体的にはAr+O2ガスの雰囲気が好ましい。温度は1500℃以下でよい。HIP装置も汎用的なものが使用できるし、薄膜成分の拡散には1500℃は十分な温度だからである。圧力は装置の標準的な条件でよく、たとえば200MPaの圧力で処理すればよい。
【0034】
<実施例>
以下、比較例および実施例について説明する(下表1参照)。
比較例の試料作製手順について説明する。まず、ドープYAG単結晶として、光学活性物質であるNdを1at%ドープした単結晶を(111)面が接合面になるように、φ50mm×1.5mmに加工し接合面を鏡面研磨する。他方、アンドープYAG単結晶を(111)面が接合面になるように、φ50mm×5mmに加工し接合面を鏡面研磨する。これらの結晶の接合面同士を密着させ、1500℃、10h熱処理することによって、接合体を作製した。接合体を加工し、接合界面の破断面を走査型電子顕微鏡(SEM)で観察した。
【0035】
実施例の試料作製方法について説明する。実施例1~実施例3では、アンドープYAG単結晶を、(111)面が接合面になるように10×10×1mmに加工し接合面を鏡面研磨する。このアンドープYAG単結晶の接合面に、表1に示すように、SiO2膜、MgSiO3膜、CaSiO3膜を厚み約10nmになるように、スパッタリングでコートした。薄膜をコートしたアンドープYAG単結晶の接合面同士を密着させ、大気中で1500℃、10h熱処理することで接合体を作製した。実施例4~実施例6については、さらに、Ar+O2雰囲気中、1500℃、5h、200MPaの圧力でHIP処理を行った。これらの試料の接合部の破断面をSEMで観察した。
【0036】
【表1】
【0037】
図1に比較例の接合体破断面のSEM写真を示す。界面に微小なボイドがいくつか存在するのが確認できる。図2図7に実施例1~実施例6の接合体破断面のSEM写真を示す。実施例1および実施例3では、ボイドが僅かに存在しているが個数は大幅に減少している。実施例2、実施例4~実施例6については、観察試料中にボイドは確認できないか、比較例と比べて明らかにボイドが少なかった。なお、実施例1~実施例6は、アンドープYAG単結晶同士の接合体であるが、ドープYAG単結晶をアンドープYAG単結晶に替えても、接合面における薄膜による作用効果は同じであるため、本実施形態の実施例とした。接合体をドープYAG単結晶とアンドープYAG単結晶とで構成する理由は、専ら、局所的な発熱の拡散に便宜であるためであり、薄膜をコートすることや薄膜による作用効果は、ドープYAG単結晶とアンドープYAG単結晶とで違いがない。したがって、ドープYAG単結晶とアンドープYAG単結晶との接合体であっても、実施例1~実施例6と同等の結果が得られるし、ボイドは当然に抑制される。
【0038】
以上、本発明の実施形態を詳述したが、本発明は上記実施形態に限定されるものではない。そして本発明は、特許請求の範囲に記載された事項を逸脱することがなければ、種々の設計変更を行うことが可能である。
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
【手続補正書】
【提出日】2024-05-29
【手続補正1】
【補正対象書類名】特許請求の範囲
【補正対象項目名】全文
【補正方法】変更
【補正の内容】
【特許請求の範囲】
【請求項1】
光学活性物質をドープしたイットリウム・アルミニウム・ガーネット単結晶であるドープYAG単結晶の表面、および、光学活性物質をドープしていないイットリウム・アルミニウム・ガーネット単結晶であるアンドープYAG単結晶の表面を、鏡面研磨し、前記ドープYAG単結晶の表面および前記アンドープYAG単結晶の表面のうち、少なくとも何れか一方に、Siを含有する接合用の薄膜をコートした後、前記ドープYAG単結晶の表面と前記アンドープYAG単結晶の表面とを接触させ、熱処理をすることで、前記ドープYAG単結晶の表面と前記アンドープYAG単結晶の表面との接合部位のボイドを抑制することを特徴とする光学部品の製造方法。
【請求項2】
請求項1に記載の光学部品の製造方法であって、
前記薄膜が、2価のイオンとなる元素を含有する酸化物薄膜であることを特徴とする光学部品の製造方法。
【請求項3】
請求項1または請求項2に記載の光学部品の製造方法であって、
前記熱処理によって、前記ドープYAG単結晶の表面と前記ドープYAG単結晶の表面との接合部位がCaおよびMgを含有する酸化物薄膜となることを特徴とする光学部品の製造方法。
【請求項4】
請求項1または請求項2に記載の光学部品の製造方法であって、
前記熱処理において、大気中1200℃以上1600℃以下で熱処理した後、O2を含有する雰囲気中で熱間等方圧加圧処理を施すことを特徴とする光学部品の製造方法。
【請求項5】
光学活性物質がドープされたイットリウム・アルミニウム・ガーネット単結晶であるドープYAG単結晶の表面と、光学活性物質がドープされていないイットリウム・アルミニウム・ガーネット単結晶であるアンドープYAG単結晶の表面とが接合された光学部品であって、
前記ドープYAG単結晶と前記アンドープYAG単結晶との接合部位に、Siを含有した接合用の薄膜を有することで、前記結合部位のボイドが抑制されていることを特徴とする光学部品。
【請求項6】
前記薄膜が、2価のイオンとなる元素を含有する酸化物薄膜であることを特徴とする請求項5に記載された光学部品。
【請求項7】
前記酸化物薄膜に、2価のイオンとなる前記元素として、CaおよびMgが何れも含まれたことを特徴とする請求項6に記載された光学部品。