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  • 特開-耐水紙体の製造方法および耐水紙体 図1
  • 特開-耐水紙体の製造方法および耐水紙体 図2
  • 特開-耐水紙体の製造方法および耐水紙体 図3
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2025011752
(43)【公開日】2025-01-24
(54)【発明の名称】耐水紙体の製造方法および耐水紙体
(51)【国際特許分類】
   D21H 17/53 20060101AFI20250117BHJP
   D21H 19/28 20060101ALI20250117BHJP
【FI】
D21H17/53
D21H19/28
【審査請求】未請求
【請求項の数】7
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023114048
(22)【出願日】2023-07-11
(71)【出願人】
【識別番号】523264172
【氏名又は名称】谷川 巧
(74)【代理人】
【識別番号】100111349
【弁理士】
【氏名又は名称】久留 徹
(72)【発明者】
【氏名】谷川 巧
【テーマコード(参考)】
4L055
【Fターム(参考)】
4L055AC00
4L055AG56
4L055AG82
4L055AG99
4L055BE08
4L055EA16
4L055EA32
4L055FA19
4L055GA50
(57)【要約】
【課題】ポリ乳酸の材料比率を小さくできるようにするとともに、生分解速度を早められるようにした耐水紙体の製造方法などを提供する。
【解決手段】パルプ繊維2とポリ乳酸の粉体3と分散剤を液体4に混合させて、撹拌機5で分散させるように混合させる。そして、パルプ繊維2とポリ乳酸の粉体3を分散させた液体4を平面状に均し、ローラー6で水分を搾り取いて、乾燥させた後、ポリ乳酸の粉体3をパルプ繊維2内で加熱溶融させて、パルプ繊維2を互いに結合させる。
【選択図】図3
【特許請求の範囲】
【請求項1】
パルプ繊維と、生分解性樹脂の粉体と、を混合させる工程と、
当該パルプ繊維と生分解性樹脂を混合させた後に、生分解性樹脂を加熱溶融させる工程と、
を備えた耐水紙体の製造方法。
【請求項2】
パルプ繊維と、生分解性樹脂の粉体と、分散剤と、を液体に混入させる工程と、
撹拌機を用いてパルプ繊維と生分解性樹脂の粉体を分散させる工程と、
当該パルプ繊維と生分解性樹脂の粉体を分散させた液体を平面状にした後、液体を搾り取る工程と、
当該液体を除去した後に、前記生分解性樹脂の粉体を加熱溶融させる工程と、
を備えて製造するようにしたことを特徴とする耐水紙体の製造方法。
【請求項3】
パルプ繊維を混入させた液体を平面状にする工程と、
当該平面状にしたパルプ繊維に対して、生分解性樹脂の粉体、あるいは、生分解性樹脂の粉体を含有した液体を噴霧させる工程と、
当該生分解性樹脂の粉体を噴霧させた後、前記液体を搾り取る工程と、
当該液体を除去した後に、前記生分解性樹脂の粉体を加熱溶融させる工程と、
を備えて製造するようにしたことを特徴とする耐水紙体の製造方法。
【請求項4】
前記生分解性樹脂の粉体の平均粒子径が、5μmから50μmの大きさの範囲内である精求項1または2に記載の防水紙体の製造方法。
【請求項5】
前記パルプ繊維に対して生分解性樹脂の粉体が、5重量パーセントから15重量パーセントの範囲内に混合されるものである精求項1または2に記載の防水紙体の製造方法。
【請求項6】
さらに、発泡ポリ乳酸の粉体を塗布させるようにした精求項1または2に記載の防水紙体の製造方法。
【請求項7】
パルプ繊維で構成されたパルプ層と、
当該パルプ層内で溶融させた生分解性樹脂と、
を備えて構成される防水紙体。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、パルプ繊維を用いて製造されるシート製品や糸などの紙体に関するものであって、防水性を高めるとともに、廃棄する際には、生分解速度を早められるようにした耐水紙体の製造方法などに関するものである。
【背景技術】
【0002】
近年、プラスチック削減などの環境対策の観点から、コップやストローなどのプラスチック製品が、生分解可能な紙を使用した製品に移行しつつある。
【0003】
しかしながら、紙製品は水分を長時間含むと柔らかくなってしまうため、形状を保つことが困難である。このため、現在では、表面にポリ乳酸をコーティングして耐水性を保てるようにした製品が用いられている(特許文献1など)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2020-32015号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、このように使用されるポリ乳酸は、トウモロコシなどを原料として生成されるものであるため、トウモロコシなどの原価が高騰すると、材料費が高くなってしまうといった問題がある。
【0006】
また、ポリ乳酸で紙をコーティングした製品を廃棄する際には、肥料として再利用されることも多いが、このように肥料として用いる場合、生分解速度が遅くなるため、肥料として使用するのに長時間を要するといった問題がある。
【0007】
そこで、本発明は上記課題に着目してなされたもので、生分解性樹脂の材料比率を小さくできるようにするとともに、生分解速度を早められるようにした耐水紙体の製造方法などを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
すなわち、本発明は上記課題を解決するために、パルプ繊維と、生分解性樹脂の粉体とを混合させる工程と、当該パルプ繊維と生分解性樹脂を混合させた後に、生分解性樹脂を加熱溶融させる工程と、を備えて耐水紙体を製造するようにしたものである。
【0009】
このようにすれば、表裏に生分解性樹脂をコーティングする必要がなくなるため、生分解性樹脂の比率を抑えてコストを低減させることができるとともに、生分解速度を早めることができるようになる。
【0010】
また、このような一例として、パルプ繊維と、生分解性樹脂の粉体と、分散剤と、を液体に混入させる工程と、撹拌機を用いてパルプ繊維と生分解性樹脂の粉体を分散させる工程と、当該パルプ繊維と生分解性樹脂の粉体を分散させた液体を平面状にした後、液体を搾り取る工程と、当該液体を搾り取った後、前記生分解性樹脂を加熱溶融させる工程と、を備えて製造する。
【0011】
このようにすれば、パルプ繊維の内部に生分解性樹脂の粉体を混入させた状態で生分解性樹脂を溶融させるため、パルプ繊維を強く結合させて、製品を強くすることができるようになる。
【0012】
もしくは、パルプ繊維を混入させた液体を平面状にする工程と、当該平面状にしたパルプ繊維に対して、生分解性樹脂の粉体、あるいは生分解性樹脂の粉体を含有した液体を噴霧させる工程と、当該生分解性樹脂の粉体を噴霧させた後、前記液体を搾り取る工程と、当該液体を除去した後、前記生分解性樹脂を加熱溶融させる工程と、によって耐水紙体を製造することもできる。
【0013】
このようにすれば、生分解性樹脂の粉体が液体内で先に凝集してしまうことがなくなるため、均一に生分解性樹脂を分散させて溶融させることができるようになる。
【0014】
また、このように使用される生分解性樹脂の粉体として、平均粒子径が5μmから50μmの大きさのものを用いる。
【0015】
このような粉体を用いれば、パルプ繊維内に生分解性樹脂を混合させ易くすることができ、パルプ繊維の結合を強くすることができるようになる。
【0016】
さらに、前記生分解性樹脂の粉体を、前記パルプ繊維に対して5重量パーセントから15重量パーセントの範囲内で混合させるようにする。
【0017】
このような割合で混合させれば、耐水性を確保することができるとともに、生分解速度も早めることができるようになる。
【0018】
また、このような発明において、さらに、発泡ポリ乳酸の粉体を表面に塗布する。
【0019】
このように構成すれば、表面を粗面状にすることができ、皮革の風味を出すことができるとともに、食器などとして使用する場合は、食器を持った際における熱伝導性を低減させることもできるようになる。
【発明の効果】
【0020】
本発明によれば、パルプ繊維と、生分解性樹脂の粉体とを混合させる工程と、当該パルプ繊維と生分解性樹脂を混合させた後に、生分解性樹脂を加熱溶融させる工程と、を備えて耐水紙体を製造するようにしたので、表裏に生分解性樹脂をコーティングする必要がなくなり、生分解性樹脂の比率を抑えてコストを低減させることができるとともに、生分解速度を早めることができるようになる。
【図面の簡単な説明】
【0021】
図1】本発明の一実施の形態を示す耐水紙体の製造工程を示す図
図2】他の実施の形態における耐水紙体の製造工程を示す図
図3】同形態における製造工程のフローを示す図
【発明を実施するための形態】
【0022】
以下、本発明の一実施の形態について図面を参照しながら説明する。
【0023】
この実施の形態における耐水性紙体1は、シート状あるいは糸状に構成されるものであって、紙を構成するパルプ繊維2と、このパルプ繊維2の中に混合される生分解性樹脂の粉体3とを備え、パルプ繊維2の中に生分解性樹脂の粉体3を均一に分散させた状態で、加熱溶融させて耐水性を持たせるとともに、製品を廃棄する際に、生分解速度を早められるようにしたものである。以下、本実施の形態について詳細に説明する。
【0024】
まず、パルプ繊維2は、広葉樹や針葉樹などの木材チップから抽出された繊維や、古紙から抽出された繊維によって構成される。このとき、木材チップから新たなパルプ繊維2を抽出する場合は、木材チップを粉砕し、機械的工程や化学的工程によってパルプ繊維2を抽出する。また、古紙を使用する場合は、回収した古紙を水で溶かして異物やインクなどを除去し、パルプ繊維2を抽出する。なお、このようなパルプ繊維2としては、平均繊維長が0.5mmから5mm、直径1nmから5nm程度、比重1.5程度のものが用いられる。
【0025】
一方、生分解性樹脂は、微生物の働きによって分解する樹脂であって、ポリ乳酸(PLA)や、ポリヒドロキシアルカノエート(PHA)などのようなバイオ由来の樹脂が用いられる。なお、ここでは、生分解性樹脂としてポリ乳酸を用いて説明するものとする。このポリ乳酸は、サトウキビやトウモロコシなどを原料として作られるものであって、微生物による生分解性を有するものである。このポリ乳酸は、燃焼時に排出される二酸化炭素量が、プラスチックに比べて著しく少なく、さらに、原料である植物の成長時に、大気中の二酸化炭素を吸収するので、地球温暖化の原因となる二酸化炭素を大幅に削減できるものである。このため、ここでは、地球温暖化対策としてポリ乳酸を用いるようにしている。
【0026】
このポリ乳酸は、通常、紙の表面にコーティングされるものであるが、ここでは、粉状にし、これをパルプ繊維2に混入させて使用される。このとき、粉体3の平均粒子径としては、5μmから50μmの範囲内の大きさとしておき、パルプ繊維2の中に均一に分散させるようにしておく。
【0027】
このパルプ繊維2とポリ乳酸は、図1に示すように、水などの液体4に投入され、撹拌機5で混合される。このとき、パルプ繊維2の比重は1.5程度であり、また、ポリ乳酸の比重は1.25程度であるため、比重の相違や、また、ポリ乳酸の極性によって、ポリ乳酸の粉体3が凝集してしまう可能性がある。そのため、分散剤を投入して撹拌機5でポリ乳酸を均一に液体4内で分散させるようにする。
【0028】
また、このようなポリ乳酸をパルプ繊維2に混入させる際の割合としては、ポリ乳酸の割合を少なくすれば、原価を低くすることができるが、耐水性が悪くなってしまう。一方、ポリ乳酸の割合を大きくすれば、耐水性を高くすることができるが、原価が高くなってしまう。一方、ストローや紙製食器などは、数分から、長くても1時間程度耐水性能を維持していれば良いため、ポリ乳酸の混合割合として、パルプ繊維2に対して5重量パーセントから15重量パーセントの割合で混合させるようにしておく。
【0029】
このようにポリ乳酸とパルプ繊維2を混合させた液体4から耐水紙体1を製造する場合、まず、図1および図3に示すように、ポリ乳酸とパルプ繊維2を液体4に投入させて、分散剤とともに撹拌機5で混合させる(ステップS1)。そして、これらのポリ乳酸とパルプ繊維2を均一に分散させた状態で、平面状に均し(ステップS2)、そこからローラー6などを用いて液体4の水分を搾り取っていく(ステップS3)。
【0030】
そして、ある程度水分を搾り取った後、最終的に使用される製品に適した厚みにして(ステップS4)、これを乾燥させる(ステップS5)。
【0031】
そして、このように乾燥させた後に、表面から加熱装置7によって加熱を行い、ポリ乳酸の粉体3を加熱溶融させる(ステップS6)。
【0032】
すると、パルプ繊維2は、溶融したポリ乳酸の粉体3によって包み込まれ、パルプ繊維2の結合を強くしてシートの強度を保つことができるようになる。
【0033】
そして、このようにポリ乳酸を加熱溶融させた後、そのシートをカットし、ストローや食器、あるいは、内装材などとして加工する。このとき、シートから糸を生成する場合は、シートを細くカットし、そのカットされた細いシートを撚って糸を生成する。
【0034】
なお、シートから糸を生成する場合は、その糸の長手方向に沿ってパルプ繊維2を配列させておく必要があるため、流水中にパルプ繊維2を入れて繊維の方向を揃えておき、その状態で、パルプ繊維2とポリ乳酸の粉体3を平面状に均して、水分の搾り取りや、ポリ乳酸の加熱溶融を行う。そして、その後、その繊維の長手方向に沿って、シートをカットし、撚糸を生成するようにするとよい。
【0035】
また、このような耐水紙体1を自動車などの内装材などとして使用する場合は、人工皮革としての風合いを出したい場合もある。このような場合は、ポリ乳酸を加熱溶融させてシート状にした後、そのシートの表面に発泡ポリ乳酸を塗布し、再び、加熱溶融させるようにする。あるいは、ある程度水分を搾り取った状態で、発泡ポリ乳酸の粉体3を塗布し、乾燥させた後、ポリ乳酸の粉体3を加熱溶融させる。
【0036】
このように上記実施の形態によれば、パルプ繊維2とポリ乳酸の粉体3とを混合させる工程と、当該パルプ繊維2とポリ乳酸を混合させた後に、ポリ乳酸を加熱溶融させる工程とを備えて耐水紙体1を製造するようにしたので、表裏にポリ乳酸のコーティングを行う必要がなくなり、ポリ乳酸の比率を抑えてコストを低減させることができるとともに、生分解速度を早めることができるようになる。
【0037】
なお、本発明は上記実施の形態に限定されることなく、種々の態様で実施することができる。
【0038】
例えば、上記実施の形態では、液体4にパルプ繊維2とポリ乳酸の粉体3と分散剤を入れて混合させるようにしたが、図2に示すように、パルプ繊維2を含む液体4を平面状に均し、その表面からポリ乳酸の粉体3を噴霧器8で噴霧させるようにしてもよい。また、平面状に均した状態でポリ乳酸の粉体3を噴霧した場合は、液体4中でポリ乳酸の粉体3が凝集してしまう可能性がある場合、ローラー6で液体4を搾り取った後に、その表面にポリ乳酸の粉体3を噴霧させるようにしてもよい。
【0039】
また、上記実施の形態では、シート状の耐水紙体1を製造する場合について説明したが、皿などのような立体物を製造する場合は、ある程度液体4を搾り取った状態で型枠の中に入れ、その状態でパルプ繊維2中のポリ乳酸の粉体3を加熱溶融させて形状を保てるようにしてもよい。
【0040】
さらに、上記実施の形態では、分散剤とともにポリ乳酸の粉体3を混入させる方法や、あるいは、ポリ乳酸の粉体3を上から噴霧させる方法を用いたが、これ以外に、ポリ乳酸を液体4に分散させた状態で、その液体4をパルプ繊維2の上から噴霧器8で噴霧させるようにしてもよい。
【0041】
また、このようにポリ乳酸の粉体3を上から噴霧させるようにした場合、パルプ繊維2の内部にポリ乳酸の粉体3が浸透しない可能性があるため、振動などによってポリ乳酸の粉体3を浸透させる方法や、あるいは、先に比重の小さいポリ乳酸の粉体3を下層に塗布しておき、その上からパルプ繊維2を混入させた液体4を載せて、振動などでポリ乳酸の粉体3を内部に浸透させるようにしてもよい。
【符号の説明】
【0042】
1・・・耐水紙体
2・・・パルプ繊維
3・・・ポリ乳酸の粉体
4・・・液体
5・・・撹拌機
6・・・ローラー
7・・・加熱装置
8・・・噴霧器
図1
図2
図3