(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2025001176
(43)【公開日】2025-01-08
(54)【発明の名称】メンタルヘルス不調の改善用組成物
(51)【国際特許分類】
A23L 33/10 20160101AFI20241225BHJP
A61P 25/18 20060101ALI20241225BHJP
A61K 33/00 20060101ALI20241225BHJP
A61P 25/24 20060101ALI20241225BHJP
A23L 2/52 20060101ALI20241225BHJP
【FI】
A23L33/10
A61P25/18
A61K33/00
A61P25/24
A23L2/00 F
A23L2/52
【審査請求】未請求
【請求項の数】5
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023100629
(22)【出願日】2023-06-20
(71)【出願人】
【識別番号】596126465
【氏名又は名称】アサヒ飲料株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100094569
【弁理士】
【氏名又は名称】田中 伸一郎
(74)【代理人】
【識別番号】100103610
【弁理士】
【氏名又は名称】▲吉▼田 和彦
(74)【代理人】
【識別番号】100109070
【弁理士】
【氏名又は名称】須田 洋之
(74)【代理人】
【識別番号】100119013
【弁理士】
【氏名又は名称】山崎 一夫
(74)【代理人】
【識別番号】100111796
【弁理士】
【氏名又は名称】服部 博信
(74)【代理人】
【識別番号】100196405
【弁理士】
【氏名又は名称】小松 邦光
(72)【発明者】
【氏名】渡辺 恭介
(72)【発明者】
【氏名】水野 敬
(72)【発明者】
【氏名】渡辺 恭良
(72)【発明者】
【氏名】小杉 亘
(72)【発明者】
【氏名】水野 征一
【テーマコード(参考)】
4B018
4B117
4C086
【Fターム(参考)】
4B018LB08
4B018MD01
4B018ME14
4B117LC04
4B117LK04
4B117LL09
4B117LP11
4C086AA01
4C086AA02
4C086HA16
4C086MA01
4C086MA04
4C086MA16
4C086MA52
4C086NA14
4C086ZA12
4C086ZA18
(57)【要約】
【課題】本発明は、水中に溶解している炭酸ガスの新たな用途を提供することを目的としている。
【解決手段】本発明のメンタルヘルス不調の改善用組成物は、水中に溶解した炭酸ガスをメンタルヘルス不調の改善の有効成分として含んでいる。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
水中に溶解した炭酸ガスをメンタルヘルス不調の改善の有効成分として含む、メンタルヘルス不調の改善用組成物。
【請求項2】
前記炭酸ガスの溶解量が、3.5ガスボリューム(GV)以上である、請求項1に記載の組成物。
【請求項3】
前記メンタルヘルス不調が、抑うつ症状を含む、請求項1又は2に記載の組成物。
【請求項4】
飲料の形態である、請求項1又は2に記載の組成物。
【請求項5】
炭酸水の形態である、請求項1又は2に記載の組成物。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、メンタルヘルス不調の改善用組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
炭酸ガスが水中に溶解している炭酸水は、レストランや家庭で広く飲用されており、その生理作用についても多くの研究がなされている。例えば、食前の炭酸水の飲用で満腹感をきたすこと、炭酸水の飲用で胃の活性化や心拍変動が生じること、炭酸水の口腔内刺激により足先温の低下や心拍変動が生じること、そして、炭酸水の飲用で精神的疲労を伴う作業における作業効率を上昇させる可能性があることが知られている(非特許文献1~4)。また、炭酸水の長期的な摂取による血圧降下作用、認知機能向上作用、尿酸値低下作用、及び、ビリルビン値低下作用も知られている(特許文献1~3)。他方、抑うつ症状改善作用を有する有効成分としてラクトバチルス・ガセリが知られているが(特許文献4)、そのような作用は炭酸水については報告されていない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2022-041377号公報
【特許文献2】特開2022-041378号公報
【特許文献3】特開2022-041379号公報
【特許文献4】特開2020-196701号公報
【非特許文献】
【0004】
【非特許文献1】Cuomo R.他、「The role of a pre-load beverage on gastric volume and food intake:comparison between non-caloric carbonated and non-carbonated beverage」、Nutrition Journal、Vol.10、114(2011)
【非特許文献2】Wakisaka S.他、「The Effects of Carbonated Water upon Gastric and Cardiac activities and Fullness in Healthy Young Women」、Journal of Nutritional Science and Vitaminology、Vol.58、pp.333-338(2012)
【非特許文献3】高木絢加他、「炭酸水による口腔への刺激が深部・末梢体温に及ぼす作用‐Sham-feeding(偽飲)による口腔内刺激を用いた評価」、日本栄養・食糧学会誌、Vol.67、No.1、pp.19-25(2014)
【非特許文献4】渡辺恭介他、「健常成人の急性精神的疲労に対する炭酸水の抗疲労効果」、第15回日本疲労学会総会(2019年)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
水中に溶解している炭酸ガスの生理作用については依然として不明確な点も多く、特に長期的にこれを摂取したときの生理作用は十分には検討されていない。そこで、本発明は、水中に溶解している炭酸ガスの生理作用をより詳細に検討し、その新たな用途を提供することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明者らは、上記課題を解決すべく鋭意検討した結果、水中に溶解している炭酸ガスがメンタルヘルス不調の改善作用を有することを見出し、本発明を完成させた。すなわち、本発明は、以下に示すメンタルヘルス不調の改善用組成物を提供するものである。
〔1〕水中に溶解した炭酸ガスをメンタルヘルス不調の改善の有効成分として含む、メンタルヘルス不調の改善用組成物。
〔2〕前記炭酸ガスの溶解量が、3.5ガスボリューム(GV)以上である、前記〔1〕に記載の組成物。
〔3〕前記メンタルヘルス不調が、抑うつ症状を含む、前記〔1〕又は〔2〕に記載の組成物。
〔4〕飲料の形態である、前記〔1〕~〔3〕のいずれか1項に記載の組成物。
〔5〕炭酸水の形態である、前記〔1〕~〔3〕のいずれか1項に記載の組成物。
【発明の効果】
【0007】
本発明に従えば、水中に溶解した炭酸ガスを含む炭酸水などを摂取することによりメンタルヘルス不調を改善することができる。炭酸水は安全な飲料であることが知られているので、その継続的な摂取によりメンタルヘルス不調を予防又は軽減し、健康の増進を図ることが期待できる。
【発明を実施するための形態】
【0008】
以下、本発明をさらに詳細に説明する。
本発明のメンタルヘルス不調の改善用組成物は、水中に溶解した炭酸ガス(二酸化炭素又はCO2ともいう。)をメンタルヘルス不調の改善の有効成分として含んでいる。前記炭酸ガスを溶解させる水は、経口摂取できるものである限り当技術分野で通常使用される水を特に制限されることなく採用することができる。例えば、前記水は、純水、イオン交換水、ろ過水、井水、天然水、ミネラルウォーター、水道水、又はそれらの混合水などであってもよい。
【0009】
水中に前記炭酸ガスを溶解させる方法は、特に限定されるものではなく、例えば、前記水に前記炭酸ガスを圧入することで溶解(いわゆるカーボネーション)してもいいし、自然の力で炭酸ガスを溶解させても(すなわち炭酸ガスを含有する天然水を使用しても)よい。このように水中に溶解した炭酸ガスは、メンタルヘルス不調の改善の有効成分として利用することができる。前記炭酸ガスの溶解量は、メンタルヘルス不調を改善するのに有効な量である限り特に制限されないが、例えば、約1.0ガスボリューム(GV)以上であってもよく、好ましくは約1.5GV以上、約3.5GV以上、又は約4GV以上である。前記炭酸ガスの溶解量がこのような範囲であると、メンタルヘルス不調の改善作用がより良好に発揮される。また、前記炭酸ガスの溶解量は、約6.0GV以下とすることができる。
【0010】
ここで、ガスボリューム[GV]とは、1気圧、20℃における、メンタルヘルス不調の改善用組成物の体積に対する、メンタルヘルス不調の改善用組成物中に溶解している炭酸ガスの体積の比を指す。ガスボリュームは、例えば、市販の測定器(京都電子工業製ガスボリューム測定装置GVA-500A)を用いて測定することができる。より具体的には、試料を20℃とした後、ガス内圧力計を取り付け、一度活栓を開いてガス抜き(スニフト)操作を行い、直ちに活栓を閉じてから激しく振とうし、圧力が一定になった時の値から算出することで、その試料のガスボリュームの値を得ることができる。
【0011】
ある態様では、本発明のメンタルヘルス不調の改善用組成物は、経口的に摂取される経口組成物であってもよい。前記メンタルヘルス不調の改善用組成物の具体的な形態は、特に限定されないが、例えば、医薬組成物、医薬部外品、飲食品、又は飼料などであってもよく、当該飲食品は、例えば、一般食品、保健機能食品(特定保健用食品、栄養機能食品、又は機能性表示食品など)、又は特別用途食品(病者用食品、乳幼児用食品、又は妊産婦・授乳婦用食品など)であってもよい。さらに具体的には、前記メンタルヘルス不調の改善用組成物は、液剤、エリキシル剤、及びリモナーゼ剤などの形態であってもよく、炭酸水(発泡水又はスパークリングウォーターともいう。)、果汁入り炭酸飲料、無果汁炭酸飲料、炭酸入りノンアルコール飲料(炭酸入りアルコールテイスト飲料)、及び炭酸入りアルコール飲料などの飲料の形態であってもよいが、炭酸水であることが好ましい。
【0012】
ここで、炭酸水とは、実質的に糖類を含有しない無糖炭酸飲料を指す。健康増進法に基づく栄養表示基準においては、飲料100mLあたり0.5g未満であれば無糖と表示することができる。本明細書においても当該規定と同様に、糖類の含有量が100mLあたり0.5g未満を無糖炭酸飲料という。好ましい無糖炭酸飲料は、飲料100mLあたり糖類の含有量が0.0gである。
【0013】
本発明のメンタルヘルス不調の改善用組成物の摂取量は、特に限定されないが、例えば、成人に液体の前記経口組成物を摂取させる場合、1回約100~約500mL好ましくは1回約300~約500mLを、1日約1~約3回好ましくは1日約2~約3回摂取させてもよい。また、本発明のメンタルヘルス不調の改善用組成物は、単回摂取によって使用してもよいが、より効率的なメンタルヘルス不調の改善作用の発揮のためには、2日以上の継続的な摂取によって使用することが好ましく、約28日以上の継続的な摂取によって使用することが特に好ましい。
【0014】
本発明のメンタルヘルス不調の改善用組成物は、対象者のメンタルヘルス不調を軽減するため又は対象者におけるメンタルヘルス不調の発生を予防するために使用することができる。本明細書に記載の「メンタルヘルス不調」とは、精神及び行動の障害に分類される精神障害や自殺願望、あるいはストレスや強い悩み、不安などの心身の健康、社会生活及び生活の質に影響を与える可能性のある精神的及び行動上の問題を含む疾患又は状態をいう。具体的には、前記メンタルヘルス不調は、抑うつ症状、神経過敏に感じる状態、絶望的だと感じる状態、そわそわ落ち着かなく感じる状態、気分が沈み込んでいる状態、気分が晴れない状態、何をするのも骨折りだと感じる状態、自分は価値のない人間だと感じる状態、及び/又は、気分がさえない状態などを含んでもよく、あるいはうつ病及び不安障害などの精神疾患を含んでもよい。本発明のメンタルヘルス不調の改善用組成物は、このような疾患又は状態の予防又は軽減に有用であり得る。このため、前記メンタルヘルス不調の改善用組成物には、例えば、以下のような表示を付してもよい。
・一時的な不安感が気になる方に
・一時的な気分の落ち込みが気になる方に
・一時的な困惑感が気になる方に
【0015】
抑うつ症状などのメンタルヘルス不調の程度は、当技術分野で通常使用される方法で測定することができ、水中に溶解した炭酸ガスの摂取前後で測定値を比較することで改善度合いを評価することができる。例えば、自記式質問票K6(K6質問票)を用いて、抑うつ症状などのメンタルヘルス不調の程度を測定してもよい。K6質問票は、(1)「神経過敏に感じましたか」、(2)「絶望的だと感じましたか」、(3)そわそわ落ち着かなく感じましたか」、(4)「気分が沈み込んで、何か起こっても気が晴れないように感じましたか」、(5)「何をするのも骨折りだと感じましたか」、及び(6)「自分は価値のない人間だと感じましたか」という6つの質問への回答を採点することにより、心理的ストレスを含む何らかの精神的な問題の程度を表す指標として利用されているものである。
【0016】
本発明のメンタルヘルス不調の改善用組成物は、本発明の目的を損なわない限り、当技術分野で通常使用される任意の不活性成分、例えば、薬学的又は食品的に許容される溶剤、緩衝剤、甘味料、酸味料、香料、消泡剤、及び酸化防止剤などの添加剤をさらに含んでもよい。また、本発明のメンタルヘルス不調の改善用組成物は、本発明の目的を損なわない限り、当技術分野で通常使用される追加の有効成分をさらに含んでもよく、当該追加の有効成分は、メンタルヘルス不調の改善作用を有する成分であってもいいし、他の作用を有する成分であってもよい。
【0017】
以下、実施例により本発明を具体的に説明するが、本発明の範囲はこれら実施例に限定されるものではない。
【実施例0018】
〔試験例〕
水に対して常法によってカーボネーションを行い、4.5GVの炭酸水を調製した。この炭酸水には、他の有効成分及び不活性成分は添加されていない。炭酸水の抑うつ症状に対する効果を、二重盲検クロスオーバー比較試験により検討した。
【0019】
具体的には、同意説明を受けた40名の被験者を20名ずつの2群に分け、1~2週間の炭酸水を摂取しない期間の後に、1か月の間、炭酸水又は0GVの対照の水を、1回300mLずつ、1日2回(午前及び午後)摂取させた。そして、1か月の無摂取期間の後に、最初に炭酸水を摂取した群の被験者には対照の水を、最初に対照の水を摂取した群の被験者には炭酸水を、最初の飲料と同様の条件で1か月の間摂取させた。それぞれの飲料の各摂取期間前後で、自記式質問票K6により抑うつ症状の得点を測定し、2要因分散分析及びShaffer法による多重比較を行った。抑うつ症状の得点の測定日には、被験者は炭酸水を摂取しなかった。結果を表1に示す。
【0020】
【0021】
炭酸水を1か月間摂取すると、摂取期間の前と比較して、抑うつ症状の得点が有意に低下した。一方、対照の水を摂取しても、抑うつ症状の得点に有意な変化は認められなかった。また、飲料条件及び飲用前後の主効果は有意ではなかったが、交互作用は統計学的有意であった。抑うつ症状の得点の測定日には炭酸水を摂取させていなかったので、本試験で確認された効果は、炭酸水の長期摂取による生理作用を示していると考えられる。
【0022】
以上より、水中に溶解した炭酸ガスを含む炭酸水などを摂取することによりメンタルヘルス不調を改善できることが分かった。したがって、炭酸水の継続的な摂取によりメンタルヘルス不調を予防又は軽減し、健康の増進を図ることが期待できる。