(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2025011773
(43)【公開日】2025-01-24
(54)【発明の名称】回転電気機械およびそれに用いる円環状コイル体並びに回転電気機械への円環状コイル体の取り付け方法
(51)【国際特許分類】
H02K 3/47 20060101AFI20250117BHJP
【FI】
H02K3/47
【審査請求】未請求
【請求項の数】9
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023114087
(22)【出願日】2023-07-11
(71)【出願人】
【識別番号】517221310
【氏名又は名称】コアレスモータ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100091306
【弁理士】
【氏名又は名称】村上 友一
(74)【代理人】
【識別番号】100174609
【弁理士】
【氏名又は名称】関 博
(72)【発明者】
【氏名】白木 学
(72)【発明者】
【氏名】木川 和也
【テーマコード(参考)】
5H604
【Fターム(参考)】
5H604BB01
5H604BB10
5H604BB14
5H604CC01
5H604CC04
5H604CC12
(57)【要約】
【課題】円環状コイル体が長時間使用下でも固定状態(非回転状態)が着実に維持できるようにする。
【解決手段】本発明の回転電気機械は非回転の円環状コイル体18と、コイル体18に磁石26が対向配置されたヨーク20、22を含むロータとを間隙をもって組み合わせ、円環状コイル体18の円環の一端の内側が非回転の固定部材28に篏合されて他端が自由端になるように片持ちに支持され、固定部材28に嵌っている一端部分の外側からも固定具30が円環状に当たるように固定部材28の方向に締めつけており、固定具30は固定部材28とは別体でロータとは間隙をもって配置されている。固定部材28への円環状コイル体18の嵌合に際して接着剤を用いると共に、固定具30は複数の円弧体で構成され、その各円弧体の両端の締結部36にて各円弧体同士を締結して円環状コイル体18を外方から固定部材28の方向に締め付けるように配置されている。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
円環状コイル体とこのコイル体の外周並びに内周に対面配置されるヨークとを備えてなる回転電気機械において、
前記円環状コイル体は固定部材に片持ち支持され、片持ち支持部分はコイル体基端部に嵌合する固定部材とコイル体基端部の外面を前記固定部材に向かって圧接する固定具とによって保持されていることを特徴とする回転電気機械。
【請求項2】
非回転の円環状コイル体と、該コイル体に磁石が対向配置されたヨークを含むロータとを間隙をもって組み合わせ、前記円環状コイル体は円環の一端の内側が非回転の固定部材に嵌合されて他端が自由端になるように片持ちに支持され、前記の固定部材に嵌っている一端部分の外側からも固定具が前記固定部材の方向に前記円環状コイル体に圧接されており、該固定具は前記固定部材とは別体で前記ロータとは間隙をもって配置されていることを特徴とする回転電気機械。
【請求項3】
前記固定具は円環状であり、前記圧接の調整部を備えている請求項2の回転電気機械。
【請求項4】
請求項2において、前記固定部材への前記円環状コイル体の嵌合に際して接着剤を用いると共に、前記固定具は複数の円弧体で構成され、その各円弧体の両端の締結部にて各円弧体同士を締結して前記円環状コイル体を外方から前記固定部材の方向に締め付けるように配置されて前記圧接の調整部としていることを特徴とする回転電気機械。
【請求項5】
請求項2乃至4のいずれかにおいて、前記コイル体の導体は銅線であり、前記固定具は該銅線よりも熱膨張率の低い部材とする回転電気機械。
【請求項6】
請求項2乃至5のいずれかにおいて、前記固定具は非磁性体であることを特徴とするコアレス型の回転電気機械。
【請求項7】
ヨークに付けられた磁石に間隙をもって対向配置される円環状コイル体であって、該円環状コイル体の一端は内側が固定部材に嵌り、外側からは固定具が円環状に当たるように圧接されていることを特徴とする回転電気機械用円環状コイル体。
【請求項8】
請求項7において、前記固定部材への前記円環状コイル体の嵌合に際して接着剤を用いると共に、前記固定具は複数の円弧体で構成され、その各円弧体の両端の締結部にて各円弧体同士を締結して前記円環状コイル体を外方から前記固定部材の方向に締め付けるように配置されることを特徴とする回転電気機械用円環状コイル体。
【請求項9】
円環状コイル体の一端の内側に該円環状コイル体の位置決めを行う固定部材を嵌めて接着固定し、しかる後に該円環状コイル体の外側から前記固定部材接着面方向に前記円環状コイル体を圧接する固定具を取り付ける、回転電気機械への円環状コイル体の取り付け方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は回転電気機械に関し、特に円環状のコイルを用いたコアレス型に好適な回転電気機械とそれに用いる円環状コイル体並びに回転電気機械への円環状コイル体の取り付け方法に関する。
【背景技術】
【0002】
コアレスモータは、コアドモータに比べて高出力、高効率、消費電流が小さいことで知られる。そして本発明者は非回転の円環状コイル体とロータを組み合わせたコアレスモータを従来から開発し提案してきている(特許文献1)。特許文献1のコアレスモータは円環状コイル体が非回転で片持ちに支持され、その円環の内側に例えばギア機構などの構造物を内蔵できるようにしている。そしてこの円環状コイル体はインナーヨークとアウターヨークに間隙をもって挟まれ、インナーヨークかアウターヨークのいずれか一方若しくは両方についてコイル体対向面に永久磁石がコイル体とは間隙をもって固定されている。そしてインナーヨークとアウターヨーク並びに永久磁石がロータを構成している。尚、ロータの動きとケーシングが連動するホイルインタイプのものと、ケーシングが固定されたタイプのものがある。
【0003】
ところで円環状コイル体の形成方法として特許文献2のものが知られている。これは巻き方に伴う重量のアンバランス対策としてコイル体の形成方法を提案したものである。但しこの特許文献1には円環状コイル体を非回転で用いる場合のケーシングへの固定の仕方について開示されていない。
【0004】
片持ちの円環状コイル体を非回転で用いる場合のケーシングへの固定方法としては円環状コイル体の取り付け位置を正確に規定する必要があり(ずれるとヨークや磁石(つまりロータ部材)に接触する事故を招く)、そのために円環の内側から固定部材にて固定する。しかしながら長時間の回転電気機械使用下において磁力や発熱による固定部材とコイル体との離間(例えば接着剤固定で有れば接着剤の劣化等により接着強度低下)が発生する不安がある。円環状コイルが非回転である場合には取り越し苦労かも知れないし、このような事故が発生した事実を本発明者は知らないが、回転体を扱う上で安全に安全を重ねたい。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特許第6589215号公報
【特許文献2】特開2019-54628号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
そこで本発明者は円環状コイル体が長時間使用下でも固定状態(非回転状態)が着実に維持できるようにした回転電気機械とそれに用いる円環状コイル体並びに回転電気機械への円環状コイル体の取り付け方法を提供することを目的とする。
【0007】
本発明の回転電気機械は、円環状コイル体とこのコイル体の外周並びに内周に対面配置されるヨークとを備えてなる回転電気機械において、前記円環状コイル体は固定部材に片持ち支持され、片持ち支持部分はコイル体基端部に嵌合する固定部材とコイル体基端部の外面を前記固定部材に向かって圧接する固定具とによって保持されていることを特徴とする。
【0008】
また、本発明は、非回転の円環状コイル体と、該コイル体に磁石が対向配置されたヨークを含むロータとを間隙をもって組み合わせ、前記円環状コイル体は円環の一端の内側が非回転の固定部材に嵌合されて他端が自由端になるように片持ちに支持され、前記の固定部材に嵌っている一端部分の外側からも固定具が円環状に当たるように前記固定部材の方向に締められており、該固定具は前記固定部材とは別体で前記ロータとは間隙をもって配置されていることを特徴とする。
【0009】
尚、前記固定具は円環状であり、前記圧接の調整部を備えているとよい。前記固定部材への前記円環状コイルの嵌合に際して接着剤を用いると共に、前記固定具は複数の円弧体で構成され、その各円弧体の両端の締結部にて各円弧体同士を締結して前記円環状コイル体を外方から前記固定部材の方向に締め付けるように配置されることが好ましい。前記コイル体の導体は銅線であり、前記固定具は該銅線よりも熱膨張率の低い部材とすればよい。あるいは、前記固定具は非磁性体であることを特徴とする。前記固定部材はアルミ製が軽量化と強度の観点で実用的であり、前記固定具は非磁性体例えばステンレスが望ましい。
【0010】
本発明の回転電気機械用円環状コイル体は、ヨークに付けられた磁石に間隙をもって対向配置される円環状コイル体であって、該円環状コイル体の一端は内側が固定部材に嵌り、外側からは固定具が円環状に当たるように締められていることを特徴とする。前記固定部材への前記円環状コイルの嵌合に際して接着剤を用いると共に、前記固定具は複数の円弧体で構成され、その各円弧体の両端の締結部にて各円弧体同士を締結して前記円環状コイル体を外方から前記固定部材の方向に締め付けるように配置されることが好ましい。
【0011】
本発明はコアレスタイプやスロットレスタイプに適する。
固定具は前述のように複数個の円弧体を組み合わせるならばコイル体端部にねじ込むような作業でコイル体を傷つける心配がない。コイル体には絶縁被膜があるので、これを損傷しかねないからである。尚、円弧体の個数は2つとし半円弧の組み合わせ体にし、該半円弧体の両端は半円弧体同士の締結部と成し、この締結部を螺旋などの調整具にて締結することが望ましく、そうすれば組み立てコストの低減も図れる。かくして円環状コイルの一端の固定部材への締め付け具合が調整できる。
【発明の効果】
【0012】
本発明により、円環状コイル体が長時間使用下でも固定状態(非回転状態)が着実に安心して維持できるという効果がある。尚、コイル体の主体は一般に銅材であり、固定部材は回転電気機械の軽量化等の観点からアルミ材であるので両部材を接着剤で固定していたとしても両部材の物性の違いで離間の危惧があるところ、円環の外からも固定具で抑えて円環の一端を挟んで固定するので確実な固定ができる。また、固定具がステンレスなどの非磁性体であれば回転電気機械の運用に悪影響の懸念が無い。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【
図1】本発明の回転電気機械の一例の断面図である。
【
図2】
図1の回転電気機械に組み込む固定部材付き円環状コイル体の一例の斜視図である。
【
図3】
図2の円環状コイル体の一例の斜視図である。
【
図5】
図1例示における補強リングの斜視図である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下、本発明の実施例を図面に従って説明する。
図1に回転電気機械の一例の断面図を示す。この回転電気機械は、外郭を構成する円筒型ケーシング10と、その開口を覆うケーシング蓋12とを有し、中心部に回転軸14を貫通させている。回転軸14はケーシング10とケーシング蓋12とにベアリング16を介し、回転出力をなすように構成されている。なお、ケーシング10は円筒には限定されない。
【0015】
ケーシング10の内部には、円環状コイル体18がステータとして配置されるとともに、円環状コイル体18の外周面と内周面にそれぞれ対面するアウターヨーク20とインナーヨーク22がロータとして配置されている。すなわち、回転軸14と直交するように端板24がケーシング蓋12に近接して配置され、これは回転軸14に固着されている。この端板24にはケーシング10の底部に向けて回転軸14を中心とする円筒形のアウターヨーク20と、これよりも少し小径のインナーヨーク22が設けられている。そして、両者の隙間に入り込むように円環状コイル体18がステータとして円筒型ケーシング10の底部から立ち上げられ、ヨーク20,22の円筒隙間に位置し、回転するヨーク20,22との相対的な回転ができるようにされている。ヨーク20,22の円環状コイル体18と対面する位置には磁石26が配置され、その極性によりロータとしてのヨーク20,22が回転可能となっている。
【0016】
この例ではケーシング10が非回転で回転軸14が回転し、回転軸14に連動するロータ(アウターヨーク20,インナーヨーク22、端板24)が回転し、回転軸14はケーシング10にベアリング16で支持されている。符号12はケーシング10の蓋の部分である。ロータ(アウターヨーク20,インナーヨーク22、端板24)は軸方向に二重円筒のように形成されて、外側がアウターヨーク20、内側がインナーヨーク22となっている。この例では各ヨーク20、22のコイル体側に面して磁石26が配置されているが、磁石26の配置は両ヨークでなく片方側のヨークでも良い。また、コアレスモータではなくスロットレスに適用するならばアウターヨーク20相当部が円環状コイル体18に接合されていることになり、本発明はそのような形態にも適用される。
【0017】
かかる円環状コイル体18は非回転であり、非回転部材、本例ならばケーシング10に間接的に固定されるが、その際の固定手段が固定部材28になる。そして円環状コイル体18の外側からも固定具30が当接されている。尚、符号32はヨーク用スペーサであり、符号34は補強リングである。補強リング34は片持ち支持された円環状コイル体18の自由端の変形を防止する機能を有している。固定部材28と固定具30とは別体である。
【0018】
図1の円環状コイル体18の固定部材28及び固定具30との組み合わせ方について
図2にて説明する。この図の例では固定具30は半円弧体2つから成り、両半円弧体の各両端部に外方へ折れた締結部36がフランジの如く形成されて、その締結部36にて螺着されている。その螺着の程度で円環状コイル体18への締め付け調整も行える。図示の固定部材28はアルミ材であり、コイル体18の内側に嵌め込まれる際に接着固定もされている。固定具30はステンレスを用いている。ステンレスは非磁性体であり、磁界形成において障害にならないが、コイル体18の外方に突出しているので、回転電気機械組み立てに際してはヨークや磁石と機械構造的に干渉しないように間隙を形成する。
【0019】
アルミ材の固定部材28に対してコイル体18の主材料は銅なので物性特に熱膨張差が生じ、長期間の使用において両部材間に剥離の作用が懸念される。そこで接着剤であるが、コイル体18は仕様過程で発熱し、その温度次第では接着剤の溶融や劣化も懸念される。固定具30はこれらの懸念を払拭するものである。尚、円環状コイル体18の固定の仕方としては実開昭60-62878号開示のように固定部材側に円環状の凹みを付けてこの凹みに円環状コイル体18の一端を嵌め込むことも考えられるが、コイル体18の一端には幅寸法差があって固定位置に微差を招き、更に線材構成であれば嵌め込み作業が難しい。また、特開2004-32842号公報のように円環状コイル体18の外面全部を樹脂でコーティングして補強層に見立てる事例があったが、これはコーティングによってコイル体18を外部からの塵等から守る保護層にしたに過ぎないから円環状コイル体18の厳格な位置固定には寄与しない。そもそもそのようなコーティングは磁石やヨークとの間隙を維持する為に極薄であるから円環状コイル体18の固定部材28からの離間を規制するには至らない。尚、本発明はこのような保護層との併用を否定するものではない。
【0020】
円環状コアレスモータを高速回転で長時間動作させた場合を想定するならば確実に正確な位置に固定してかつ位置が長時間ぶれないようにする必要がある。本実施態様では締結部36が外方にはみ出していること、及びそもそも固定具30のリング体がコイル体18の外方に突出しているが、これらはロータ側との組み立てに際して干渉しないように間隙が形成されるよう寸法位置を決めれば良い。この円環状コイル体は導線を編み込んだタイプと銅板で形成したタイプがあり、配線の自由度や銅の渦電流損の観点から導線編み込み式、特にリッツ線方式が好ましい。
【0021】
図3は
図1,
図2の例に用いる円環状コイル体18の一例であり、符号181は夫々がコイル(所謂亀甲巻)であり、符号182はコイル体の仮想中心軸である。このコイル181の重ね方については色々な案が考えられるが代表的なのは本発明者が既に提案している特許第6948748号や特許第6989204号のものである。これらの事例は亀甲一つでコイル一つになり、それが3相であれば3枚ずれて重なっている。尚、亀甲型に拘るものでなく、例えば複数本の線材をS字のように蛇行させながら円環に仕上げても良く、その場合は構成する本数がコイル数に匹敵する。いずれにせよコイル線材で構成することは銅板に比べて銅渦電流損がなくなる。尚、この線材にリッツ線を用いれば銅渦電流損は一層低減できる。
【0022】
図4には
図2の円環状固定具30を示している。このように本例では半割のリング二つを締結部36にて合わせて円環にしており、締結部36同士を螺着締結することで固定具30自体だけでなく円環状リング体18の固定部材28への締め付け調整も行っている。
【0023】
図5は円環状リング体18の自由端用の補強リング34であり、円環状コイル体18の自由端側に嵌合されて円環状コイル体18の円環形状維持に貢献している。
【0024】
以上の実施例ではケーシングが非回転で内部のロータが回転するのに対してロータに対峙する円環状コイル体が非回転の場合を説明した為、円環状コイルの固定部材がケーシングに固定されているが、中心軸は回転する場合も非回転の場合も適用できる。また、ケーシングが回転する所謂ホイルインタイプであればケーシングは内部ギア機構を介してロータの動作に連動して回転(ギア機構によってはロータ回転方向と逆向き)するものの軸が非回転となれば固定部材は軸に固定されれば円環状コイル体も非回転になる。
【0025】
円環状コイル体を用いた回転電気機械はコイル体内部(正確にはインナーヨークの内側)に空間が形成できるのでギア等の機構を挿入できる。勿論、これらの機器を挿入する場合はロータやコイル体と接触事故が起きぬよう間隙が形成される。
【0026】
本発明はモータにも発電機にも適用でき、コイル体は線材でも銅板タイプにも適用される。また、本発明は円環状コイル体を用いるものであればコアレスタイプには限定されずスロットレスにも適用される。
【産業上の利用可能性】
【0027】
本発明はモータや発電機の如きロータの回転する回転電気機械においてコイルが円環状で非回転のタイプの回転電気機械である。
【符号の説明】
【0028】
10……円筒型ケーシング、
12……ケーシング蓋、
14……回転軸、
16……ベアリング、
18……円環状コイル体、
20……アウターヨーク、
22……インナーヨーク、
24……端板、
26……磁石、
28……固定部材、
30……固定具、
32……ヨーク用スペーサ、
34……補強リング、
36……締結部