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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2025011775
(43)【公開日】2025-01-24
(54)【発明の名称】車両の制御装置
(51)【国際特許分類】
   B60L 15/20 20060101AFI20250117BHJP
【FI】
B60L15/20 J
【審査請求】未請求
【請求項の数】1
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023114092
(22)【出願日】2023-07-11
(71)【出願人】
【識別番号】000003207
【氏名又は名称】トヨタ自動車株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100085361
【弁理士】
【氏名又は名称】池田 治幸
(74)【代理人】
【識別番号】100147669
【弁理士】
【氏名又は名称】池田 光治郎
(72)【発明者】
【氏名】川西 裕士
(72)【発明者】
【氏名】田端 淳
(72)【発明者】
【氏名】奥田 弘一
【テーマコード(参考)】
5H125
【Fターム(参考)】
5H125AA01
5H125AC12
5H125BA00
5H125CA01
5H125EE41
(57)【要約】
【課題】駆動装置が自動駆動レンジから手動駆動レンジへ切り換えられる場合に、運転者がトルク不足を覚えることを抑制できる、車両の制御装置を提供する。
【解決手段】(a)車速Vとアクセル開度θaccとで要求駆動トルクTrdemが求められる要求駆動トルクマップMAPtrが記憶されており、(b)車速V及びアクセル開度θaccが同じ場合の要求駆動トルクマップMAPtrに基づいて求められる要求駆動トルクTrdemは、複数のマニュアルレンジのロー側の方がハイ側の方に比べて増加させられており、(c)シフト装置50が手動操作されることにより駆動装置12が自動駆動レンジから複数のマニュアルレンジのうちの一の初期レンジへ切り換えられる場合、切換直前における自動駆動レンジの駆動トルクTrの大きさに応じて、切換直後における初期レンジの駆動トルクTrが大きくなるように初期レンジが設定される。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
電動機及び前記電動機の動力を駆動輪へ伝達する動力伝達装置を含む駆動装置と、前記駆動装置の自動駆動レンジと複数の手動駆動レンジとのうちから一を選択する為に手動操作されるシフト切換装置と、を備えた車両の、制御装置であって、
前記複数の手動駆動レンジ及び前記自動駆動レンジに対して、それぞれ予め定められた、車速とアクセル操作量とで駆動トルクが求められる駆動トルク特性を記憶しており、
前記車速及び前記アクセル操作量が同じ場合の前記駆動トルク特性に基づいて求められる前記駆動トルクは、前記自動駆動レンジに比較して、前記複数の手動駆動レンジの方がいずれも増加させられており、
前記車速及び前記アクセル操作量が同じ場合の前記駆動トルク特性に基づいて求められる前記駆動トルクは、前記複数の手動駆動レンジのロー側の方がハイ側の方に比べて増加させられており、
前記シフト切換装置が手動操作されることにより前記駆動装置が前記自動駆動レンジから前記複数の手動駆動レンジのうちの一の初期レンジへ切り換えられる場合、切換直前における前記自動駆動レンジの前記駆動トルクの大きさに応じて、切換直後における前記初期レンジの前記駆動トルクが大きくなるように前記初期レンジを設定する
ことを特徴とする車両の制御装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、電動機を備えた車両の制御装置に関する。
【背景技術】
【0002】
電動機及びその電動機の動力を駆動輪へ伝達する動力伝達装置を含む駆動装置と、その駆動装置の複数のシフトポジション(シフトレンジも同義)のうちから一を選択する為に手動操作されるシフト切換装置と、を備えた車両の、制御装置が知られている。例えば、特許文献1に記載のものがそれである。特許文献1に記載の車両では、前進走行用のシフトレンジとして、自動駆動レンジであるDレンジと、手動駆動レンジであるLレンジと、の2つがある。なお、自動駆動レンジは、駆動装置から駆動輪に伝達される駆動トルクが自動的に切り換えられるレンジであり、手動駆動レンジは、駆動トルクが手動操作によって切り換えられるレンジである。また、特許文献1には、車速とアクセル操作量とで駆動トルクの目標値(要求値も同義)が求められる特性(例えばマップ)がシフトレンジ毎に予め設定されていること、及び、車速及びアクセル操作量が同じであればLレンジのマップはDレンジのマップに比較して駆動トルクの目標値が大きな値となるように設定されていること、が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2009-77585号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ところで、駆動装置が有する手動駆動レンジが複数である場合が考えられる。この場合、自動駆動レンジであるDレンジから複数の手動駆動レンジのうちの一に切り換えられると、切換直後の手動駆動レンジによっては運転者がトルク不足を覚えるおそれがあった。
【0005】
本発明は、以上の事情を背景として為されたものであり、その目的とするところは、駆動装置が自動駆動レンジから手動駆動レンジへ切り換えられる場合に、運転者がトルク不足を覚えることを抑制できる、車両の制御装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明の要旨とするところは、電動機及び前記電動機の動力を駆動輪へ伝達する動力伝達装置を含む駆動装置と、前記駆動装置の自動駆動レンジと複数の手動駆動レンジとのうちから一を選択する為に手動操作されるシフト切換装置と、を備えた車両の、制御装置であって、(a)前記複数の手動駆動レンジ及び前記自動駆動レンジに対して、それぞれ予め定められた、車速とアクセル操作量とで駆動トルクが求められる駆動トルク特性を記憶しており、(b)前記車速及び前記アクセル操作量が同じ場合の前記駆動トルク特性に基づいて求められる前記駆動トルクは、前記自動駆動レンジに比較して、前記複数の手動駆動レンジの方がいずれも増加させられており、(c)前記車速及び前記アクセル操作量が同じ場合の前記駆動トルク特性に基づいて求められる前記駆動トルクは、前記複数の手動駆動レンジのロー側の方がハイ側の方に比べて増加させられており、(d)前記シフト切換装置が手動操作されることにより前記駆動装置が前記自動駆動レンジから前記複数の手動駆動レンジのうちの一の初期レンジへ切り換えられる場合、切換直前における前記自動駆動レンジの前記駆動トルクの大きさに応じて、切換直後における前記初期レンジの前記駆動トルクが大きくなるように前記初期レンジを設定することにある。
【発明の効果】
【0007】
本発明の車両の制御装置によれば、(a)前記複数の手動駆動レンジ及び前記自動駆動レンジに対して、それぞれ予め定められた、車速とアクセル操作量とで駆動トルクが求められる駆動トルク特性が記憶されており、(b)前記車速及び前記アクセル操作量が同じ場合の前記駆動トルク特性に基づいて求められる前記駆動トルクは、前記自動駆動レンジに比較して、前記複数の手動駆動レンジの方がいずれも増加させられており、(c)前記車速及び前記アクセル操作量が同じ場合の前記駆動トルク特性に基づいて求められる前記駆動トルクは、前記複数の手動駆動レンジのロー側の方がハイ側の方に比べて増加させられており、(d)前記シフト切換装置が手動操作されることにより前記駆動装置が前記自動駆動レンジから前記複数の手動駆動レンジのうちの一の初期レンジへ切り換えられる場合、切換直前における前記自動駆動レンジの前記駆動トルクの大きさに応じて、切換直後における前記初期レンジの前記駆動トルクが大きくなるように前記初期レンジが設定される。したがって、切換直前における自動駆動レンジでの駆動トルクとは無関係に手動駆動レンジの初期レンジが設定される場合に比較して、運転者がトルク不足を覚えることが抑制される。
【図面の簡単な説明】
【0008】
図1】本発明が適用される車両の概略構成を説明する図であるとともに、車両における各種制御の為の制御機能及び制御系統の要部を説明する図である。
図2】シフト切換装置の一例を説明する図である。
図3】要求駆動トルクマップの一例を説明する図である。
図4】Dレンジからマニュアルレンジのうちの一の初期レンジへ切り換える場合における、初期レンジの設定方法について説明する図である。
図5】電子制御装置の制御作動の要部を説明するフローチャートの一例である。
【発明を実施するための形態】
【0009】
以下、本発明の実施例を図面を参照しつつ詳細に説明する。なお、実施例において図は適宜簡略化或いは変形されており、各部の寸法比及び形状等は必ずしも正確に描かれていない。
【実施例0010】
図1は、本発明が適用される車両10の概略構成を説明する図であるとともに、車両10における各種制御の為の制御系統の要部を説明する図である。図1において、車両10は、第1駆動装置12lと、第2駆動装置12rと、第1駆動輪14lと、第2駆動輪14rと、車体に取り付けられたケース16と、を備える。第1駆動装置12lは車両10の前方に向かって左側つまり車幅方向の左側の駆動装置であり、第2駆動装置12rは車幅方向の右側の駆動装置である。第1駆動輪14lは車幅方向の左側の駆動輪であり、第2駆動輪14rは車幅方向の右側の駆動輪である。
【0011】
第1駆動装置12lは、第1電動機MG1と第1動力伝達装置18lとを備える。第2駆動装置12rは、第2電動機MG2と第2動力伝達装置18rとを備える。第1駆動装置12lと第2駆動装置12rとは、基本的には左右対称に構成されている。第1駆動装置12lと第2駆動装置12rとを特に区別しない場合には、駆動装置12と称する。第1駆動輪14lと第2駆動輪14rとを特に区別しない場合には、駆動輪14と称する。第1電動機MG1と第2電動機MG2とを特に区別しない場合には、電動機MGと称する。第1動力伝達装置18lと第2動力伝達装置18rとを特に区別しない場合には、動力伝達装置18と称する。
【0012】
電動機MGは、回転電気機械であって、所謂モータジェネレータである。電動機MGは、車両10に備えられたインバータ30を介して、車両10に備えられたバッテリ32に接続されている。バッテリ32は、電動機MGに対して電力を授受する蓄電装置である。電動機MGは、後述する電子制御装置80によってインバータ30が制御されることにより、電動機MGの出力トルクであるMGトルクTmg[Nm]が制御される。電動機MGは、ケース16内に設けられている。車両10は、走行用の動力源として機能する電動機MGを備えた電動車両である。
【0013】
動力伝達装置18は、ケース16内に、平行軸歯車対であるカウンタギヤ20(第1カウンタギヤ20l、第2カウンタギヤ20r)と、ハイポイドギヤ22(第1ハイポイドギヤ22l、第2ハイポイドギヤ22r)と、を備える。また、動力伝達装置18は、ドライブシャフト24(第1ドライブシャフト24l、第2ドライブシャフト24r)を備える。
【0014】
カウンタギヤ20の一方のギヤの回転軸は、電動機MGのロータ軸に一体的に連結されている。カウンタギヤ20の他方のギヤの回転軸は、ハイポイドギヤ22の一方のギヤの回転軸に一体的に連結されている。ハイポイドギヤ22の他方のギヤの回転軸は、ドライブシャフト24に一体的に連結されている。動力伝達装置18は、電動機MGの動力を、カウンタギヤ20、ハイポイドギヤ22、ドライブシャフト24等を介して駆動輪14へ伝達する。なお、駆動輪14へ伝達される電動機MGのMGトルクTmgは、本発明における「動力」に相当し、「動力」は、駆動力、トルク、及び力と同義である。カウンタギヤ20は、減速装置として機能する。ハイポイドギヤ22は、減速しながら駆動輪14に動力を伝える。なお、駆動輪14は前輪であっても良いし、後輪であっても良い。
【0015】
図2は、シフト切換装置の一例を説明する図である。車両10は、図2の(a)に示すように、運転者によって複数の操作ポジションPOSopのうちのいずれかへ操作される不図示の操作部材を有するシフト装置50を備える。シフト装置50は、駆動装置12の複数のシフトポジション(シフトレンジRshも同義)を択一的に切り換える為に手動操作されるシフト切換装置の一例である。シフト装置50は、本発明における「シフト切換装置」に相当する。操作ポジションPOSopは、駆動装置12における動力伝達状態の選択状態を表す信号であり、例えばP、R、D、+、-操作ポジション等を含んでいる。シフトレンジRshは、駆動装置12の動力伝達状態を表しており、例えばP、R、D、3、2、Lレンジ等を含んでいる。P(パーキング)操作ポジションは、駆動装置12がニュートラル状態とされ且つ駆動輪14とともに回転する回転部材が回転不能に機械的に固定された、駆動装置12のPレンジの選択状態を表す。R(後進走行)操作ポジションは、後進走行を可能とする駆動装置12のRレンジの選択状態を表す。D(前進走行)操作ポジションは、前進走行を可能とする駆動装置12のDレンジの選択状態を表す。+操作ポジションは、前進走行を可能とする駆動装置12のD、3、2、Lレンジつまり前進走行レンジにおいて、シフトレンジRshをハイ側(高車速側)つまりハイレンジ側へ切り換える選択状態を表す。ハイレンジ側への切り換えは、例えばシフトレンジRshをLレンジから2レンジに切り換えたり、2レンジから3レンジに切り換えたりするアップレンジである。-操作ポジションは、前進走行レンジにおいて、シフトレンジRshをロー側(低車速側)つまりローレンジ側へ切り換える選択状態を表す。ローレンジ側への切り換えは、例えばシフトレンジRshをDレンジから3レンジに切り換えたり、3レンジから2レンジに切り換えたりするダウンレンジである。3、2、Lレンジは、+、-操作ポジションへの手動操作によって選択されるマニュアルレンジである。なお、Dレンジは、本発明における「自動駆動レンジ」に相当する。マニュアルレンジは、本発明における「手動駆動レンジ」に相当する。
【0016】
車両10は、図2の(b)に示すように、ステアリング52がマニュアルレンジを選択するマニュアル操作装置54を備えていても良い。マニュアル操作装置54は、シフトレンジRsh特にはマニュアルレンジを択一的に切り換える為に手動操作されるシフト切換装置の一例である。マニュアル操作装置54は、ステアリング52の表つまり運転者側に-スイッチ56が左右に設けられている。マニュアル操作装置54は、ステアリング52の裏に+スイッチ58が左右に設けられている。-スイッチ56はシフト装置50の-操作ポジションと同等の機能を有しており、+スイッチ58はシフト装置50の+操作ポジションと同等の機能を有している。-スイッチ56や+スイッチ58の各操作は、例えばDレンジ中に有効とされ、その操作によってマニュアルレンジが切り換えられる。
【0017】
図1に戻る。車両10は、電動機MGなどの制御に関連する車両10の制御装置を含むコントローラとしての電子制御装置80を備える。電子制御装置80は、例えばCPU、RAM、ROM、入出力インターフェース等を備えた所謂マイクロコンピュータを含んで構成されている。電子制御装置80は、RAMの一時記憶機能を利用しつつ予めROMに記憶されたプログラムに従ってCPUが信号処理を行うことにより車両10の各種制御を行う。なお、電子制御装置80は、本発明における「制御装置」に相当する。
【0018】
電子制御装置80には、車両10に備えられた各種センサ等(例えば-スイッチ56、+スイッチ58、車速センサ60、MG1回転速度センサ62、MG2回転速度センサ64、アクセル開度センサ66、操作ポジションセンサ68など)による検出値に基づく各種信号等(例えば-スイッチ(ダウンレンジ)信号Sdr、+スイッチ(アップレンジ)信号Sur、車速V[km/h]、MG1回転速度Nmg1[rpm]、MG2回転速度Nmg2[rpm]、運転者によるアクセル操作量としてのアクセル開度θacc[%]、操作ポジションPOSopなど)が、それぞれ入力される。電子制御装置80からは、車両10に備えられた各装置(例えばインバータ30など)に各種指令信号(例えばMG制御信号Smgなど)が、それぞれ出力される。なお、アクセル開度θaccは、本発明における「アクセル操作量」に相当する。
【0019】
電子制御装置80は、例えば要求駆動トルクマップMAPtrを記憶している。電子制御装置80は、要求駆動トルクマップMAPtrに実際のアクセル開度θacc及び車速Vを適用することで、運転者による車両10に対する駆動トルクTr[Nm]の要求量である要求駆動トルクTrdemを算出する。要求駆動トルクマップMAPtrは、予め実験的に或いは設計的に求められて記憶された、すなわち予め定められた、要求駆動トルクTrdemを求める為の関係である。要求駆動トルクマップMAPtrは、車速Vとアクセル開度θaccとで要求駆動トルクTrdemが求められる「駆動トルク特性」であって、駆動装置12のシフトレンジRsh毎に異なる駆動トルク特性が設定されている。なお、要求駆動トルクマップMAPtrは、本発明における「駆動トルク特性」に相当する。電子制御装置80は、要求駆動トルクTrdemを実現するようにMG制御信号Smgを出力する。なお、電子制御装置80が要求駆動トルクTrdemが実現されるように駆動トルクTrを制御することから、駆動トルクTrは要求駆動トルクTrdemと同義である。
【0020】
図3は、要求駆動トルクマップMAPtrの一例を説明する図である。図3の(a)は、例えばDレンジの場合に用いられる要求駆動トルクマップMAPtrである。図3の(a)において、要求駆動トルクマップMAPtrは、横軸を車速Vとし、縦軸を要求駆動トルクTrdemとする二次元座標上に、車速Vとアクセル開度θaccとで変化させられる要求駆動トルクTrdemを求める為の予め定められた関係である。
【0021】
図3の(b)は、例えばアクセル開度θaccが50[%]である場合において、Dレンジ及びマニュアルレンジ(3、2、Lレンジ)の場合に各々用いられる要求駆動トルクマップMAPtrである。図3の(b)において、太線で示されたものがDレンジの場合の要求駆動トルクマップMAPtrであって、基準となるものである。マニュアルレンジでの要求駆動トルクマップMAPtrは、基準となるDレンジでの要求駆動トルクマップMAPtrに対して、車速Vが同じであれば要求駆動トルクTrdemの設定が大きくされている。マニュアルレンジでの要求駆動トルクマップMAPtrでは、車速Vが同じであれば、ローレンジ側(Lレンジ側)ほど要求駆動トルクTrdemが順に大きな設定とされている。図示はしていないが、シフトレンジRsh毎の要求駆動トルクマップMAPtrの設定は、アクセル開度θaccが50[%]以外の場合も同様の傾向である。すなわち、Dレンジでの走行中における要求駆動トルクマップMAPtrと同じアクセル開度θaccに対応した、マニュアルレンジでの走行中における要求駆動トルクマップMAPtrが複数(Lレンジ用、2レンジ用、3レンジ用)用意されている。このように、要求駆動トルクマップMAPtrでは、車速V及びアクセル開度θaccが同じときの要求駆動トルクTrdemはローレンジ側の方がハイレンジ側の方に比べて増加させられている。
【0022】
電子制御装置80の電動機制御部88(図1参照)は、シフト装置50やマニュアル操作装置54によって選択されたシフトレンジRshに合わせて要求駆動トルクマップMAPtrを切り換える。例えば、Dレンジのときに、シフト装置50の-操作ポジションへの手動操作又はマニュアル操作装置54の-スイッチ56の手動操作、つまりダウンレンジ操作が1回行われると、3レンジ用の要求駆動トルクマップMAPtrが用いられ、更に、ダウンレンジ操作が1回行われると、2レンジ用の要求駆動トルクマップMAPtrが用いられる。また、2レンジのときに、シフト装置50の+操作ポジションへの手動操作又はマニュアル操作装置54の+スイッチ58の手動操作、つまりアップレンジ操作が1回行われると、3レンジ用の要求駆動トルクマップMAPtrが用いられる。
【0023】
車両10は、予め設定された複数の運転モード、例えばノーマルモードとスポーツモード(パワーモード)とを選択可能である。ノーマルモードは、スポーツモードに比較して動力性能の向上よりも電費の低減(=走行可能距離)を重視した走行モード、すなわちスポーツモードに比較して動力性能の向上よりも電費の低減を優先した状態での運転を可能とする運転モードの制御様式である。スポーツモードは、ノーマルモードに比較して電費の低減よりも動力性能の向上を重視した走行モード、すなわちノーマルモードに比較して電費の低減よりも動力性能の向上を優先した状態での運転を可能とする運転モードの制御様式である。
【0024】
図1に戻る。電子制御装置80は、切換操作判定部82、データ取得部84、初期レンジ設定部86、及び電動機制御部88を、機能的に有する。
【0025】
切換操作判定部82は、車両10がDレンジで走行中であるか否かを判定するとともに、車両10がDレンジで走行中である場合においてDレンジからマニュアルレンジへ切り換えるシフト装置50の手動操作がされたか否かを判定する。
【0026】
Dレンジからマニュアルレンジへ切り換えるシフト装置50の手動操作がされたと切換操作判定部82が判定した場合、データ取得部84は、Dレンジで走行中の駆動トルクTr(=要求駆動トルクTrdem)、運転モード、及び必要に応じて路面の摩擦係数μを含む、走行データを取得する。具体的には、Dレンジで走行中の駆動トルクTrは、Dレンジにおける要求駆動トルクマップMAPtrに実際の車速Vとアクセル開度θaccを適用して取得される。例えば、氷雪道や砂利道など滑りやすい低μ路での走行中において駆動輪14がスリップしないように制御するトラクションコントロールシステムが車両10に搭載されている場合に、駆動輪14が空転状態から空転しない状態へ変化した時点での駆動トルクTr及び車重に基づいて路面の摩擦係数μが算出される。
【0027】
Dレンジでの走行データをデータ取得部84が取得すると、初期レンジ設定部86は、走行データに基づいて複数のマニュアルレンジのうちから一のレンジを初期レンジに設定する。Dレンジで走行中の駆動トルクTr(=要求駆動トルクTrdem)の大きさに応じて、切り換えられたマニュアルレンジでの駆動トルクTr(=要求駆動トルクTrdem)が大きくなる初期レンジが設定される。初期レンジとは、シフト装置50が手動操作されることにより駆動装置12がDレンジから複数のマニュアルレンジのうちの一のレンジに切り換えられる場合におけるその切り換えられるその一のレンジである。すなわち、初期レンジは、Dレンジからマニュアルレンジに切り換えられた直後のレンジである。
【0028】
図4は、Dレンジからマニュアルレンジのうちの一の初期レンジへ切り換える場合における、初期レンジの設定方法について説明する図である。図4に示すように、Dレンジで走行中の駆動トルクTrが駆動トルク判定値Tr_jdg1[Nm]未満である場合には、それに応じて初期レンジの駆動トルクTrが小さくなるように、3レンジが初期レンジに設定される。Dレンジで走行中の駆動トルクTr(=要求駆動トルクTrdem)が駆動トルク判定値Tr_jdg2(>Tr_jdg1)[Nm]以上である場合には、それに応じて初期レンジの駆動トルクTrが大きくなるように、Lレンジが初期レンジに設定される。Dレンジで走行中の駆動トルクTrが駆動トルク判定値Tr_jdg1以上且つ駆動トルク判定値Tr_jdg2未満である場合には、それに応じて初期レンジの駆動トルクTrが設定されるように、2レンジが初期レンジに設定される。マニュアルレンジのうち設定された初期レンジにおける駆動トルクTrは、Dレンジで走行中の駆動トルクTrよりもいずれも大きいものとなっている。駆動トルク判定値Tr_jdg1,Tr_jdg2は、それぞれDレンジからマニュアルレンジに切り換えられた場合に運転者がトルク不足を覚えないように、実験的に或いは設計的に予め定められた所定の判定値である。また、駆動トルク判定値Tr_jdg1,Tr_jdg2は、それぞれDレンジからマニュアルレンジに切り換えられた場合に運転者がトルク変化が大きすぎることによる違和感を覚えないように、実験的に或いは設計的に予め定められた所定の判定値でもある。このように、切換直前におけるDレンジで走行中の駆動トルクTrの大きさに応じて、切換直後におけるマニュアルレンジで走行中の駆動トルクTrが大きくなるように初期レンジが設定される。
【0029】
好適には、Dレンジからマニュアルレンジへの運転者の手動操作履歴に応じて駆動トルク判定値Tr_jdg1,Tr_jdg2が学習されるものであっても良い。例えば、運転者の手動操作によりDレンジからマニュアルレンジへ切り換えられてから所定の期間内に運転者が-スイッチ56が押された場合には、駆動トルク判定値Tr_jdg1,Tr_jdg2がそれぞれ小さくなるように学習される、すなわち初期レンジがマニュアルレンジのローレンジ側が設定されやすくなるように学習される。
【0030】
例えば、運転モードがスポーツモードである場合には、運転モードがノーマルモードである場合に比較して、駆動トルク判定値Tr_jdg1,Tr_jdg2はそれぞれ小さい値とされる。例えば、運転モードがノーマルモードである場合には、初期レンジとして3レンジが必ず設定されるように、駆動トルク判定値Tr_jdg1,Tr_jdg2がそれぞれ大きい値とされても良い。すなわち、車両10の運転モードがスポーツモードである場合には、切換直前におけるDレンジで走行中の駆動トルクTrの大きさに応じて、切換直後におけるマニュアルレンジで走行中の駆動トルクTrが大きくなるように初期レンジが設定される一方、車両10の運転モードがノーマルモードである場合には、初期レンジがマニュアルレンジのうち最もハイ側の3レンジに設定される。
【0031】
また、車両10が低μ路を走行していることによりトラクションコントロールシステムが作動している場合には、車両10がスリップしないように、駆動トルク判定値Tr_jdg1,Tr_jdg2はそれぞれ大きい値とされる。例えば、車両10が低μ路を走行中は、初期レンジがマニュアルレンジのうち最もハイ側の3レンジに設定される。
【0032】
図1に戻る。初期レンジ設定部86が初期レンジを設定すると、電動機制御部88は、Dレンジから複数のマニュアルレンジのうちから初期レンジに設定された一のレンジに、シフトレンジRshを切り換える制御を実行する。
【0033】
ところで、シフト装置50が手動操作されることにより駆動装置12がDレンジから複数のマニュアルレンジのうちの一の初期レンジへ切り換えられる場合、要求駆動トルクマップMAPtrの切り換えが行われる。この要求駆動トルクマップMAPtrの切り換えに伴う駆動トルク段差ΔTr[Nm]によっては、Dレンジからマニュアルレンジへ切り換える手動操作を行ったのに反応がないように感じる可能性があり運転者がトルク不足を覚えるおそれがあった。駆動トルク段差ΔTrは、切換直前におけるDレンジでの要求駆動トルクマップMAPtrに基づく駆動トルクTrと、切換直後における初期レンジでの要求駆動トルクマップMAPtrに基づく駆動トルクTrと、の差である。本実施例では、切換直前におけるDレンジで走行中の駆動トルクTrの大きさに応じて、切換直後におけるマニュアルレンジで走行中の駆動トルクTrが大きくなるように初期レンジが設定されるため、運転者がトルク不足を覚えることが抑制される。
【0034】
図5は、電子制御装置80の制御作動の要部を説明するフローチャートの一例である。図5のフローチャートは、繰り返し実行される。
【0035】
まず、切換操作判定部82の機能に対応するステップ(以下、ステップを省略する)S10において、車両10がDレンジで走行中であるか否かが判定される。S10の判定がYESである場合、切換操作判定部82の機能に対応するS20において、車両10がDレンジで走行中である場合においてDレンジからマニュアルレンジへ切り換えられるシフト装置50の手動操作がされたか否かが判定される。S20の判定がYESの場合、データ取得部84の機能に対応するS30において、Dレンジで走行中の駆動トルクTr、運転モード、及び必要に応じて路面の摩擦係数μを含む走行データが取得される。S30の実行後、初期レンジ設定部86の機能に対応するS40において、S30で取得された走行データに基づいて複数のマニュアルレンジのうちから一のレンジが初期レンジに設定される。S40の実行後、電動機制御部88の機能に対応するS50において、Dレンジから複数のマニュアルレンジのうちから初期レンジに設定された一のレンジに、シフトレンジRshが切り換えられる。S50の実行後、S10及びS20のいずれかの判定がNOの場合、図5のフローチャートはリターンとなる。
【0036】
本実施例によれば、(a)複数のマニュアルレンジ及びDレンジに対して、それぞれ予め定められた、車速Vとアクセル開度θaccとで要求駆動トルクTrdemが求められる要求駆動トルクマップMAPtrが記憶されており、(b)車速V及びアクセル開度θaccが同じ場合の要求駆動トルクマップMAPtrに基づいて求められる要求駆動トルクTrdemは、Dレンジに比較して、複数のマニュアルレンジの方がいずれも増加させられており、(c)車速V及びアクセル開度θaccが同じ場合の要求駆動トルクマップMAPtrに基づいて求められる要求駆動トルクTrdemは、複数のマニュアルレンジのロー側の方がハイ側の方に比べて増加させられており、(d)シフト装置50が手動操作されることにより駆動装置12がDレンジから複数のマニュアルレンジのうちの一の初期レンジへ切り換えられる場合、切換直前におけるDレンジの駆動トルクTrの大きさに応じて、切換直後における初期レンジの駆動トルクTrが大きくなるように初期レンジが設定される。したがって、切換直前におけるDレンジでの駆動トルクTrとは無関係にマニュアルレンジの初期レンジが設定される場合に比較して、運転者がトルク不足を覚えることが抑制される。このように、シフトレンジRshがDレンジからマニュアルレンジに切り換えられる場合、切換直後の駆動トルクTrを切換直前の駆動トルクTrに対して大きくすることができ、マニュアルレンジへの切換時における実際の駆動トルク段差ΔTrが適切に得られる。これにより、Dレンジからマニュアルレンジへ切り換える手動操作時の応答感を良くすることができる。
【0037】
なお、上述したのは本発明の実施例であり、本発明はその趣旨を逸脱しない範囲において当業者の知識に基づいて種々の変更、改良を加えた態様で実施することができる。
【0038】
前述の実施例では、車両10は動力源である電動機MGに電力を供給するバッテリ32を有する電気自動車であったが、本発明はこの態様に限らない。例えば、動力源である電動機MGに電力を供給する燃料電池を有する燃料電池車、動力源である電動機MGに電力を供給するエンジンを有するレンジェクステンダーEVにも本発明を適用することができる。
【0039】
前述の実施例では、車両10は自動変速機を備えていなかったが、本発明はこの態様に限らない。例えば、自動変速機を備えた車両において、初期レンジの設定は、要求駆動トルクマップMAPtrの切り換えに替えて、或いは、要求駆動トルクマップMAPtrの切り換えとともに自動変速機の変速段の切り換えにより、初期レンジが設定される態様であっても良い。
【0040】
前述の実施例では、前進走行レンジであるDレンジ(=本発明における「自動駆動レンジ」)からマニュアルレンジに切り換えられる態様であったが、本発明は、後進走行レンジであるRレンジからマニュアルレンジに切り換えられる態様に適用されても良い。
【符号の説明】
【0041】
10:車両、12:駆動装置、14:駆動輪、50:シフト装置(シフト切換装置)、80:電子制御装置(制御装置)、MAPtr:要求駆動トルクマップ(駆動トルク特性)、MG:電動機、Tr:駆動トルク、V:車速、θacc:アクセル開度(アクセル操作量)
図1
図2
図3
図4
図5