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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2025011805
(43)【公開日】2025-01-24
(54)【発明の名称】黄砂の飛来状態判定システム
(51)【国際特許分類】
   G01W 1/00 20060101AFI20250117BHJP
   G01N 27/72 20060101ALI20250117BHJP
【FI】
G01W1/00 A
G01N27/72
【審査請求】未請求
【請求項の数】6
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023114140
(22)【出願日】2023-07-12
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第2項適用申請有り 1.第39回エアロゾル科学・技術研究討論会 講演要旨集のウェブサイト:https://sites.google.com/view/jaast39ko/home,講演要旨集のパスワード配信日:令和4年7月27日 2.集会名:第39回エアロゾル科学・技術研究討論会,開催日:令和4年8月3日,開催場所:慶應義塾大学日吉キャンパス(神奈川県横浜市港北区日吉4丁目1-1)及びZoomによるWEB開催
【国等の委託研究の成果に係る記載事項】(出願人による申告)平成30年度、国立研究開発法人科学技術振興機構、戦略的創造研究推進事業「エアロゾルの生体内ダイナミクスの解明」委託研究、産業技術力強化法第17条の適用を受ける特許出願
(71)【出願人】
【識別番号】504160781
【氏名又は名称】国立大学法人金沢大学
(71)【出願人】
【識別番号】305060567
【氏名又は名称】国立大学法人富山大学
(74)【代理人】
【識別番号】100114074
【弁理士】
【氏名又は名称】大谷 嘉一
(74)【代理人】
【識別番号】100222324
【弁理士】
【氏名又は名称】西野 千明
(72)【発明者】
【氏名】松木 篤
(72)【発明者】
【氏名】土屋 望
(72)【発明者】
【氏名】川▲崎▼ 一雄
【テーマコード(参考)】
2G053
【Fターム(参考)】
2G053AB01
2G053BA04
2G053CA01
2G053CB21
(57)【要約】
【課題】磁化強度を利用して黄砂の飛来状態を判定できるシステムの提供を目的とする。
【解決手段】大気中のエアロゾルの磁化強度とSPM濃度の散布図を用いた領域の区分作成部と、測定データのプロット領域によって、黄砂と汚染を識別して大気中における黄砂の飛来状態を判定する判定部とを備える、黄砂の飛来状態判定システム。
【選択図】 図5
【特許請求の範囲】
【請求項1】
大気中のエアロゾルの磁化強度とSPM濃度の散布図を用いた領域の区分作成部と、
測定データのプロット領域によって、黄砂と汚染を識別して大気中における黄砂の飛来状態を判定する判定部とを備える、黄砂の飛来状態判定システム。
【請求項2】
前記領域の区分作成部は大気中のエアロゾルの鉛同位体比に基づいて、黄砂領域と汚染領域を区分する、請求項1に記載の黄砂の飛来状態判定システム。
【請求項3】
前記領域の区分作成部は黄砂領域と汚染領域を基準線Aで区分し、該基準線Aは磁化強度をy軸、SPM濃度をx軸としたとき、{y=(8.1~8.2)×10-3x+a}で表される、請求項1に記載の黄砂の飛来状態判定システム。
【請求項4】
前記黄砂領域は、さらに大規模黄砂領域とバックグラウンド黄砂領域が補助線Bで区分され、該補助線Bは{y=目視観測による黄砂観測日の大気中のエアロゾルの磁化強度}で表される、請求項3に記載の黄砂の飛来状態判定システム。
【請求項5】
さらに、大気中のエアロゾルの磁気データとSPMデータを取得する取得部を備え、前記領域の区分作成部は該磁気データとSPMデータに基づいて、磁化強度とSPM濃度をプロットする、請求項1~4に記載の黄砂の飛来状態判定システム。
【請求項6】
さらに、前記判定部による判定結果に基づき、黄砂の飛来状態を示す情報を表示する表示部を備える、請求項1~4に記載の黄砂の飛来状態判定システム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、黄砂の飛来状態判定システムに関する。
【背景技術】
【0002】
黄砂は呼吸器系や循環器系疾患、アレルギー症状等の健康被害が懸念されている飛来物質であり、従来、目視観測やレーザ光線を利用したライダー装置での観測が行われている。
目視観測は定量性や客観性に課題があり、近年は、目視観測を行っている気象台の観測地点が減少傾向にある。
また、レーザ光照射による散乱光を計測し解析するライダー装置は、散乱光計測の制御や干渉部の調整が難しく、例えば特許文献1には、LEDやレーザを光源として、観測精度の向上を目指した装置の開発が試みられている。
【0003】
一方、磁化強度を得られる磁気測定は、迅速かつ非破壊検査手法であり、例えば非特許文献1に示すように、金属汚染の指標を得るための手段として有用である。
本発明者らは、黄砂中に磁性粒子(例えば、酸化鉄(マグネタイト)等)が含まれることから、磁化強度に着目した。
磁性粒子は、様々な人為活動で生じる汚染(例えば、工場排気や自動車排気に含まれる微粒子、産業活動等で生じる粉塵、ちり、埃等)とも関連があるため、黄砂と汚染を識別することが黄砂の観測には重要である。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2022-012708号公報
【非特許文献】
【0005】
【非特許文献1】Beckwith, et al., 1986, Heavy metal and magnetic relationships for urban source sediments. Physics of the Earth and Planetary Interiors, 42(1-2), 67-75.
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明は、磁化強度を利用して黄砂の飛来状態を判定できるシステムの提供を目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明に係る黄砂の飛来状態判定システムは、大気中のエアロゾルの磁化強度とSPM濃度の散布図を用いた領域の区分作成部と、測定データのプロット領域によって、黄砂と汚染を識別して大気中における黄砂の飛来状態を判定する判定部とを備える。
【0008】
ここで、大気中のエアロゾルの「磁化強度」とは、大気中のエアロゾルをサンプリングした試料の試料磁化強度(Am2)をサンプリング時の積算流量を用いて規格化した磁化強度(A/m)をいい、「SPM濃度」は、浮遊粒子状物質(粒径10μm以下)の濃度(μg/m3)をいう。
例えば、サンプリングされた試料の磁化強度とSPM濃度から、y軸が磁化強度(A/m)、x軸がSPM濃度(μg/m3)の散布図が得られる。
この散布図上で区分された領域に対し、測定データ(黄砂の飛来状態を知りたい日等の試料の磁化強度とSPM濃度)のプロットが、黄砂又は汚染領域であるかを判定する。
【0009】
本発明において、前記領域の区分作成部は大気中のエアロゾルの鉛同位体比に基づいて、黄砂領域と汚染領域を区分するものであってもよい。
磁化強度、SPM濃度及び鉛同位体比の3要素を利用することで、より黄砂の飛来状態を精度よく判定できる。
【0010】
本発明において、前記領域の区分作成部は黄砂領域と汚染領域を基準線Aで区分し、該基準線Aは磁化強度をy軸、SPM濃度をx軸としたとき、{y=(8.1~8.2)×10-3x+a}で表されるものであってもよい。
基準線Aで黄砂領域と汚染領域が区分されることで、測定データのプロットがいずれの領域であるかを把握しやすい。
また、前記黄砂領域は、さらに大規模黄砂領域とバックグラウンド黄砂領域が補助線Bで区分され、該補助線Bは{y=目視観測による黄砂観測日の大気中のエアロゾルの磁化強度}で表されるものであってもよい。
補助線Bは、目視観測できる黄砂量の「大規模黄砂領域」と、目視観測できない黄砂量の「バックグラウンド黄砂領域」を区分する。
これにより、「バックグラウンド黄砂領域」にプロットがある場合には、目視観測では難しい黄砂の飛来を知ることができ、より感度よく黄砂を観測できる。
【0011】
本発明において、さらに、大気中のエアロゾルの磁気データとSPMデータを取得する取得部を備え、前記領域の区分作成部は該磁気データとSPMデータに基づいて、磁化強度とSPM濃度をプロットするものであってもよい。
大気中のエアロゾルの「磁気データ」とは、例えば、パルス磁化機や磁力計を用いた磁気測定によって得られる試料の磁気モーメント(M)や試料磁化強度(Am2)、サンプリング時の積算流量を含み、「SPMデータ」は、例えば、国立研究開発法人国立環境研究所が提供するSPMデータであってもよい。
本発明において、さらに、前記判定部による判定結果に基づき、黄砂の飛来状態を示す情報を表示する表示部を備えるものであってもよい。
これにより、視覚的に黄砂の飛来状態を把握しやすい。
【0012】
本発明の一態様においては、例えば、大気中のエアロゾルの磁化強度とSPM濃度の散布図を用いた領域の区分作成ステップと、測定データのプロット領域によって、黄砂と汚染を識別して大気中における黄砂の飛来状態を判定する判定ステップとを備える、黄砂の飛来状態判定方法であってもよい。
この黄砂の飛来状態判定方法は、さらに、大気中のエアロゾルの磁気データとSPMデータを取得する取得ステップを備えてもよく、判定ステップによる判定結果に基づき、黄砂の飛来状態を示す情報を表示する表示ステップを備えてもよい。
【発明の効果】
【0013】
本発明によれば、磁化強度を利用して黄砂の飛来状態を判定でき、定量性や客観性等に優れた黄砂の飛来状態判定システムを提供できる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
図1】本実施例における試料の磁化強度とSPM濃度を、時間との関係で示す。
図2】試料の磁化強度とSPM濃度の関係を示す。
図3】黄砂標準試料(CJ-2)の試料磁化強度と質量の関係を示す。
図4】エアロゾルの起源と鉛同位対比の関係を示す。
図5図2を、さらに鉛同位体比測定によってマーク分けした結果を示す。
【発明を実施するための形態】
【0015】
<大気中のエアロゾルのサンプリング>
大気中のエアロゾルは、ハイボリウムエアサンプラー(AH-600F、柴田科学株式会社製、700L/min)及びPM2.5分粒装置(柴田科学株式会社製)を用いて、空気動力学径が2.5μmより粗大な粒子を、石英繊維フィルタ(QR-100、アドバンテック東洋株式会社製)上に捕集した。
上記粗大粒子を対象としたのは、黄砂の粒径分布のピークが4~5μm付近にみられるためである。
【0016】
本サンプリングは、金沢大学能登学舎(37.45°N、137.36°E)の3階屋上をサンプリング地点とし、2014年8月から2016年3月のサンプリング期間中、およそ1週間毎にサンプリング(フィルタ交換)を実施した。
本サンプリング地点は、石川県能登半島先端に位置して都市部から離れており、中国大陸等から長距離輸送されたエアロゾルの観測に適している。
【0017】
<大気中のエアロゾルの磁化強度>
上記捕集したフィルタは、その一部(5本ある短冊のうち1本)を切り取り、プラスチックキューブ(夏原技研株式会社製)に詰めて試料とした。
パルス磁化機(PM9、Magnetic Measurements)を用いて、上記試料に1.2Tの外部磁場を印加して飽和等温残留磁化を獲得させ、これをSQUID磁力計(750、2G Enterprises)で測定した。
上記磁力計による測定では、3軸(X、Y、Z軸)の磁気モーメント(M)が得られるため、(Msample)2 = MX 2 + MY 2 + MZ 2 からMsample(emu)を算出した。
次に、試料磁化強度Msample(emu)= 103 Msample(Am2)を求めた。
これを、サンプリング時の積算流量(700L/min×時間、m3)で規格化し、試料の磁化強度(A/m)を算出した。
【0018】
<大気中のエアロゾルのSPM濃度>
国立研究開発法人国立環境研究所(環境展望台、https://tenbou.nies.go.jp/download/)が提供する「大気汚染常時監視データ」より、石川県羽咋市(36.53°N、136.46°E、本サンプリング地点より約80km)における本サンプリング期間中のSPMデータを入手し、平均したSPM濃度(μg/m3)を算出した。
【0019】
<大気中のエアロゾルの磁化強度とSPM濃度>
図1に、上記試料の磁化強度とSPM濃度を、時間との関係で示す。
ここで、平成29年3月環境省「平成27年度黄砂飛来状況調査報告書」には、目視観測による黄砂、煙霧観測日に関する記載がある。
例えば、2015年4月18日、25日に石川県金沢市が黄砂観測地点として、2015年7月30日、8月1日、4日、5日に金沢が煙霧観測地点として挙げられている。
図1中、上記目視観測による黄砂、煙霧観測期間をおよそ枠で囲ったところ、黄砂観測期間には磁化強度が、煙霧観測期間にはSPM濃度が増大する傾向がみられた。
以下、「汚染」とは、主に「煙霧」をいい、例えば、煙霧には、工場排気や自動車排気に含まれる微粒子、産業活動等で生じる粉塵、ちり、埃等が含まれる。
【0020】
図2に、上記試料の磁化強度とSPM濃度の散布図を示す。
試料の磁化強度とSPM濃度のプロットのうち、目視観測(観測地点が金沢又は全国のいずれかの地点)による黄砂観測日のプロットを着色した。
着色されたプロットは、およそ高い磁化強度であることがわかる。
【0021】
<黄砂標準試料>
参考として、黄砂標準試料CJ-2(Nishikawa, M., et al., 2000, Preparation and evaluation of certified reference materials for Asian mineral dust. Global Environ. Res., 4, 103-113.参照)の試料磁化強度を調べた。
具体的には、上記磁気測定方法にて黄砂標準試料CJ-2(質量0~0.6g)の磁気モーメントを得て、試料磁化強度(Am2)を求めた。
図3に、黄砂標準試料CJ-2の試料磁化強度と質量の関係を示す。
試料磁化強度と質量に強い相関関係(R2=1)がみられたことからも、磁化強度が黄砂量の指標となることがわかる。
【0022】
<大気中のエアロゾルの鉛同位体比>
次に、大気中のエアロゾルの鉛同位体比を測定した。
鉛同位体比は、例えば、東アジア都市部と黄砂起源地のエアロゾルで異なる値を示すことが報告されており、エアロゾルの起源に依存することが知られている。
以下に、先行文献例を示す。
東アジア都市部
・Bollhoefer, A. and Rosman, K.J.R., 2001, Isotopic source signatures for atmospheric lead: The Northern Hemisphere. Geochimica et Cosmochimica Acta, 65, 1727-1740.
・Lee, S., et al., 2022, Characterization of trace elements and Pb isotopes in PM2.5 and isotopic source identification during haze episodes in Seoul, Korea. Atmospheric Pollution Research, 13, 101442.
・Mukai, H., et al., 2001, Regional characteristics of sulfur and lead isotope ratios in the atmosphere at several Chinese urban sites. Environmental Science and Technology, 35, 1064-1071.
・Nakano, T., et al., 2006, Determination of seasonal and regional variation in the provenance of dissolved cations in rain in Japan based on Sr and Pb isotopes. Atmospheric Environment, 40, 7409-7420.
黄砂起源地
・Bory, A. J. M., et al., 2014, A Chinese imprint in insoluble pollutants recently deposited in central greenland as indicated by lead isotopes. Environmental Science and Technology, 48(3), 1451-1457.
・Jones, C.E., et al., 2000, Eolian inputs of lead to the North Pacific. Geochimica et Cosmochimica Acta, 64, 1405-1416.
・Schleicher, N.J., et al., 2020, A Global Assessment of Copper, Zinc, and Lead Isotopes in Mineral Dust Sources and Aerosols. Frontiers in Earth Science, 8, 167.
【0023】
図4に、先行文献に基づいたエアロゾルの起源と鉛同位体比の関係を示す。
本サンプリングについても、その鉛同位体比を測定し、先行文献で示された起源ごとの鉛同位体比(図4)と比較することで、大気中のエアロゾルの起源を確認した。
【0024】
上記補集したフィルタの残り(5本ある短冊のうち4本)を切り取り、80℃のホットプレート上で5%酢酸(10mL)に12時間溶解させ、遠心分離及びろ過によって、上澄み(溶解成分)と沈殿物(残渣成分)を分離した。
上記酢酸への溶解は、汚染物質の多くを除去し、残渣成分において黄砂の鉛同位体比を識別しやすくするためである。
分離後、超純水洗浄した残渣成分を、140℃のホットプレート上で硝酸(0.5mL)とフッ酸(1mL)の混酸に1~2日ほど溶解し、蒸発乾固させた。
次に、2mol/L塩酸(0.7mL)を加えて12時間ほど放置し、再度、蒸発乾固後、3.5mol/L硝酸(5mL)を加えて超音波洗浄機で30分処理し、ホットプレート上で加熱溶解させて原液を得た。
この原液を、適宜1%硝酸で希釈して、鉛同位体比測定用試料とした。
【0025】
上記試料をカラム分離し、二重収束型マルチコレクタICP-MS(NEPTUNE、Thermo Fisher Scientific)を用いて、鉛同位体比を測定した。
なお、標準試料には、NIST-SRM981を使用し、206Pb/204Pb=16.9245±0.0096(2σ,n=29)、207Pb/204Pb=15.4786±0.0091(2σ,n=29)、208Pb/204Pb=36.663±0.021(2σ,n=29)であった。
また、一部の試料に対しては、標準試料にNMIJ CRM 3681-aを使用した。
NMIJ CRM 3681-a値は、206Pb/204Pb=18.05359±0.00094(2σ,n=10)、207Pb/204Pb=15.5888±0.0016(2σ,n=10)、208Pb/204Pb=37.9536±0.0023(2σ,n=10)であることを確認している。
【0026】
測定した本サンプリングの鉛同位体比と、先行文献による鉛同位体比(図4)を比較した結果、本サンプリングを「ローカル(Local)」、「汚染(Pollution)」、「黄砂+汚染(AD-Pollution)」、「黄砂(AD)」の4つの起源に分類した。
図2に示すプロットのうち、鉛同位対比を測定した試料のプロットを、上記4つの起源がわかるようにマーク分けした結果を、図5に示す。
なお、「ローカル」は、エアロゾル中の鉛含有量が低く、主に土壌由来と予想されるが、図4に示すように「ローカル」の近似直線Lが「フィルタブランク」に近いことから、フィルタ由来の鉛同位体比の寄与も大きいと考えられる。
【0027】
図5において、黄砂領域(a)(b)と汚染領域(c)を基準線Aで区分した。
基準線Aは、鉛同位体比測定で分類した「黄砂(AD)」と「汚染(Pollution)」のプロットを隔てる直線であり、「y=(8.1~8.2)×10-3x+a」(y軸が磁化強度、x軸がSPM濃度)で表すことができる。
なお、基準線Aの傾きである「(8.1~8.2)×10-3」は好ましい値をいう。
例えば、サンプリング数を増やして磁化強度、SPM濃度及び鉛同位体比を機械学習等させていくことで、基準線Aの傾きをより精度よく算出してもよく、若干の変動があってもよい。
また、本実施例はa=0としたが、必ずしもこれに限定されるわけではない。
図5において、さらに黄砂領域を、大規模黄砂領域(a)とバックグラウンド黄砂領域(b)に補助線Bで区分した。
補助線Bは、「y=目視観測による黄砂観測日の大気中のエアロゾルの磁化強度」で表されるものであってもよい。
【0028】
確認のため、図5に*1、*2、*3で示すプロット(サンプリング日)について、後方流跡線解析と比較した。
後方流跡線解析は、アメリカ海洋大気庁が提供するHYSPLIT Trajectory Model(https://www.ready.noaa.gov/HYSPLIT_traj.php)のarchive trajectoriesを使用した。
なお、本サンプリング期間中のサンプリング日の正午を起点に、72時間遡って空気の流入経路を解析し、起点座標には、本サンプリング地点(37.45°N、137.36°E)における地上1000mを入力した。
その結果、後方流跡線解析からも同様の結果が得られた。
【0029】
以上の知見に基づき、本発明者らは、磁化強度を利用して黄砂の飛来状態を判定できるシステムを考案した。
【0030】
黄砂の飛来状態判定システムは、大気中のエアロゾルの磁化強度とSPM濃度の散布図を用いた領域の区分作成部と、測定データのプロット領域によって、黄砂と汚染を識別して大気中における黄砂の飛来状態を判定する判定部とを備える。
領域の区分作成部は、例えば、過去データ(過去にサンプリングされた複数の試料の磁化強度とSPM濃度)を蓄積して散布図を得ることで、領域の区分精度が高まる。
測定データ(例えば、黄砂の飛来状態を知りたい日等の磁化強度とSPM濃度)は、特異地(例えば、顕著な鉄含有エアロゾルの排出が懸念される製鉄所の敷地近傍や、自動車道路沿い等)でのサンプリングでないことが好ましい。
一例として、領域の区分作成部は大気中のエアロゾルの鉛同位体比に基づいて、黄砂領域と汚染領域を区分するものであってもよい。
別の一例として、領域の区分作成部は黄砂領域と汚染領域を基準線Aで区分するものであってもよく、さらに黄砂領域が、大規模黄砂領域とバックグラウンド黄砂領域を補助線Bで区分するものであってもよい。
判定部は、例えば、測定データのプロットが、黄砂又は汚染領域であるかを判定する。
黄砂の飛来状態判定システムは、さらに、大気中のエアロゾルの磁気データとSPMデータを取得する取得部を備えてもよい。
例えば、領域の区分作成部は、取得部で取得した磁気データとSPMデータに基づいて、磁化強度とSPM濃度を算出し、プロットするものであってもよい。
なお、取得部は磁気データを取得するために、さらに磁気測定部を備えてもよい。
黄砂の飛来状態判定システムは、さらに、判定部による判定結果に基づき、黄砂の飛来状態を示す情報を表示する表示部を備えるものであってもよい。
表示部は、散布図のほかに、エアロゾルの起源や基準線A、補助線B等を表示することが好ましい。
図1
図2
図3
図4
図5