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  • 特開-車両の制御装置 図1
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2025011823
(43)【公開日】2025-01-24
(54)【発明の名称】車両の制御装置
(51)【国際特許分類】
   B60W 10/08 20060101AFI20250117BHJP
   B60K 6/48 20071001ALI20250117BHJP
   B60W 20/14 20160101ALI20250117BHJP
   B60L 50/60 20190101ALI20250117BHJP
   B60L 50/16 20190101ALI20250117BHJP
   B60L 58/12 20190101ALI20250117BHJP
   B60L 7/14 20060101ALI20250117BHJP
【FI】
B60W10/08 900
B60K6/48 ZHV
B60W20/14
B60L50/60
B60L50/16
B60L58/12
B60L7/14
【審査請求】未請求
【請求項の数】1
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023114163
(22)【出願日】2023-07-12
(71)【出願人】
【識別番号】000003207
【氏名又は名称】トヨタ自動車株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001210
【氏名又は名称】弁理士法人YKI国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】星野 優
【テーマコード(参考)】
3D202
5H125
【Fターム(参考)】
3D202AA08
3D202BB15
3D202CC58
3D202DD45
3D202DD46
3D202EE00
5H125AA01
5H125AC08
5H125AC12
5H125CB02
5H125CD06
5H125EE25
5H125EE27
(57)【要約】
【課題】実回生電力量が制限される状況においても、目標回生電力量を制御することでエンジンをオンさせる頻度を少なくする車両の制御装置を実現する。
【解決手段】車両の制御装置は、エンジン14と、前記エンジン14の回転軸の運動エネルギーを利用して回生発電を行うモータ16と、前記回生発電により充電されるバッテリ18と、前記モータ16を冷却するモータ冷却回路20と、を備え、前記バッテリ18の充電状態を示すSOC値が所定値より高い、かつ、前記バッテリ18の温度および前記モータ冷却回路20の水温が所定の温度より低い場合に、目標回生電力量を小さくするように制御する、ことを特徴とする。
【選択図】図3
【特許請求の範囲】
【請求項1】
エンジンと、
前記エンジンの回転軸の運動エネルギーを利用して回生発電を行うモータと、
前記回生発電により充電されるバッテリと、
前記モータを冷却するモータ冷却回路と、
を備え、
前記バッテリの充電状態を示すSOC値が所定値より高い、かつ、前記バッテリの温度および前記モータ冷却回路の水温が所定の温度より低い場合に、目標回生電力量を小さくするように制御する、
ことを特徴とする車両の制御装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、車両の制御装置に関し、特に、車両の回生電力の制御に関する。
【背景技術】
【0002】
ハイブリッド車においては、排気ガスの排出量を抑えるため、また、燃費の向上のため、エンジンをオンさせずに電気のみで走行するモード(以下、適宜、「EVモード」と称する。)を維持させる技術が提案されている。
【0003】
例えば、特許文献1には、急カーブかつ急勾配な下り坂の走行中において回生ブレーキからエンジンブレーキに切り替えられる可能性があるときに、そのような切り替えを防止するハイブリッド車両用制御装置が開示されている。特許文献1では、回生ブレーキからエンジンブレーキに切り替えられる可能性があるような地点に車両が到達する前に、クラッチによりエンジンと駆動輪とを予め接続することで、下り坂の途中などでの回生ブレーキからエンジンブレーキへの切り替えが防止できるとされている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2018-020663号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
ところで、車両の走行状態などに基づく実回生電力量が、回生発電によって発電すべき目標回生電力量(すなわち、モータの回生電力量の目標値である目標回生電力量)に達している場合には、回生ブレーキによってエンジンブレーキ相当の制動力が車両に付与されるため、車両のEV走行は維持される。一方、バッテリへの過剰な充電が懸念されるなど一定の状況の下では、バッテリの保護のために、実回生電力の生成が制限される。その結果、実回生電力量が目標回生電力量に達していないため、回生ブレーキからエンジンブレーキに切り替えられる。すなわち、エンジンブレーキの使用を目的としてエンジンがオンの状態となる。
【0006】
上記のように、回生ブレーキが不可能な状況では、エンジンがオンの状態となり、環境および燃費の点から望ましくない。そこで、本明細書では、実回生電力量が制限される状況においても、目標回生電力量を制御することでエンジンをオンさせる頻度を少なくできる車両の制御装置を実現する。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本明細書で開示する車両の制御装置は、エンジンと、前記エンジンの回転軸の運動エネルギーを利用して回生発電を行うモータと、前記回生発電により充電されるバッテリと、前記モータを冷却するモータ冷却回路と、を備え、前記バッテリの充電状態を示すSOC値が所定値より高い、かつ、前記バッテリの温度および前記モータ冷却回路の水温が所定の温度より低い場合に、目標回生電力量を小さくするように制御する、ことを特徴とする。
【発明の効果】
【0008】
本明細書で開示の車両の制御装置によれば、一定の条件の下で目標回生電力量を小さくするよう制御するため、目標回生電力量に対して実回生電力量が下回る状態を回避できる。すなわち、回生ブレーキからエンジンブレーキへの切り替えを防止でき、その結果、エンジンブレーキの使用を目的としてエンジンがオンの状態になることを抑制できる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
図1】車両の制御装置の構成を概念的に示すブロック図である。
図2】車速と必要回生電力量との関係を示すグラフである。
図3】車両の制御装置における処理の一例を示すフローチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下、図面を参照して車両の制御装置について説明する。
【0011】
図1は、車両の制御装置の構成を概念的に示すブロック図である。図1に示すように、車両10には、車両10の制御装置としての制御部12が設けられている。本例において、車両10は、エンジンおよび走行用のバッテリと、回生ブレーキシステムと、を備えるプラグインハイブリッド車(PHEV)である。また、車両10の制御装置は、エンジン14と、モータ16と、バッテリ18と、モータ冷却回路20と、電力変換器22と、動力変換部24と、出力軸26と、をさらに備える。
【0012】
制御部12は、回生電力の制御を含む車両10の走行の制御を行い、各種演算処理を行うCPUと、制御用のプログラムやデータが記憶されたメモリと、を少なくとも有する電子制御ユニットである。制御部12は、車両10の制御装置が備える各部の動作を制御する。例えば、制御部12は、エンジン14およびモータ16の駆動を制御する。また、例えば、制御部12は、電力変換器22を制御して、モータ16とバッテリ18との間での電力の授受量を調整し、さらに動力変換部24を制御して、エンジン14、モータ16、および、出力軸26の間の動力の授受を制御する。
【0013】
エンジン14は、車両10の動力源として機能するとともに、発電用の動力源としても機能する。
【0014】
モータ16は、動力変換部24を介し出力軸26を回転駆動するとともに、出力軸26の回転軸の運動エネルギーを電気エネルギーに変換して回生発電を行う発電機としても機能する。さらに、モータ16は、動力変換部24を介しエンジン14の駆動力を受け入れることによって発電することもできる。
【0015】
バッテリ18は、車両10が備える各種の電気デバイスに電力を供給する。すなわち、バッテリ18は、電力供給源として機能する部材である。また、バッテリ18は、回生電力によって充電することができる。
【0016】
モータ冷却回路20は、モータ16を冷却する回路である。より詳しくは、モータ冷却回路20には、電動モータによって作動される電動式のウォータポンプ(図示なし)によって冷却水が循環される。そして、モータ冷却回路20は、内部を循環する冷却水により、作動時に発熱するモータ16を冷却し、モータ16の温度を所定温度に維持する。なお、モータ冷却回路20の冷却水をバッテリ18に循環させ、バッテリ18を冷却できるようにしてもよい。
【0017】
電力変換器22は、バッテリ18の直流電力を、モータ16の駆動に適した交流電力に変換するインバータである。なお、電力変換器22は、バッテリ18の出力電圧を昇圧する昇圧コンバータを含んでもよい。
【0018】
動力変換部24は、エンジン14、モータ16、および、出力軸26の間の動力(すなわち、駆動力)の授受を制御する。例えば、動力変換部24は、遊星歯車機構を含み、動力の伝達を制御したり、クラッチを含みエンジン14の接続を解除したりできるようにするとよい。
【0019】
出力軸26は、所定のギアなどを介し駆動輪に接続される。車両10の力行時には、エンジン14またはモータ16の駆動力が出力軸26を介し駆動輪に伝達されて車両10が走行し、制動時には、出力軸26の駆動力によりモータ16が発電することによって回生ブレーキによる制動力が車両10に付与される。また、モータ16の発電によって得られた回生電力は、バッテリ18に充電される。さらに、出力軸26をエンジン14に接続させ、エンジン14によるエンジンブレーキにより制動を行うこともできる。
【0020】
次に、図2を参照して、必要回生電力量について説明する。図2は、車速と必要回生電力量との関係を示すグラフである。図2において、「高SOC値・低温時」とは、バッテリ18のSOC値が高く、バッテリ18の温度およびモータ冷却回路20の水温が低い場合を指す。例えば、高SOC値としてはバッテリ18の充電率が70%以上、低温としては5℃以下、などの所定値(すなわち、閾値)を設定しておき、判定が行われるとよい。なお、充電に制限がかかる条件は、車両やバッテリによっても異なるため、上記の閾値についても車両によって個別に設定するとよい。「通常時」とは、バッテリ18のSOC値が所定値以下であり、バッテリ18の温度またはモータ冷却回路20の水温が、予め定める所定温度以上である場合を指す。ここで、図2の「必要回生電力量」とは、惰性走行時などにおいて、エンジンブレーキ相当の減速を回生制動で行う場合に必要な回生電力量である。車速が大きくなるにしたがって、必要回生電力量は大きくなる。
【0021】
ここで、バッテリ18のSOC値が高い場合、過充電を避けるなどのため、回生電力の受け入れ量が小さくなる。また、バッテリ18は、低温時にはバッテリ18の劣化を避けるため、回生電力の受け入れ量が小さい。例えば、リチウムイオン電池では、低温時には充電により金属リチウムが発生し易いため、大電流での充電ができない。そのため、低温時においては、適正な充電電流が小さく、回生電力の受け入れに限界がある。
【0022】
したがって、バッテリ18が「高SOC値・低温時」の場合には、上記のような制限によって、実際に行える実回生電力量が目標回生電力量を下回ることが多くなる。実回生電力量が目標回生電力量を下回った場合、制御部12は、エンジン14を始動し、動力変換部24により出力軸26をエンジン14に接続する。これによって、エンジン14によるエンジンブレーキにより車両10が減速される。
【0023】
そこで、本例においては、高SOC値・低温時には、目標回生電力量を小さく設定し、目標とする回生制動力を小さくする。図2に示すように、高SOC値・低温時は、通常時と比較して、必要回生電力量が低い。例えば、車両10の始動時には、バッテリ18の温度およびモータ冷却回路20の水温は、一般に車両10が走行中の場合に比べて低温である。また、車両10の始動時などの低温時(以下、適宜、「低温始動時」と称する。)にはモータ16などのフリクションが大きいため減速度を確保し易い。したがって、低温始動時には、回生制動による制動力が、通常時に比べて小さくてよい。
【0024】
また、本例においては、温度に応じて変化する適正回生電力(すなわち、バッテリ18が問題なく受け入れることができる回生電力の上限値)を設定する。そして、車両の制動に必要な制動力に対応する目標回生電力量を算出し、この目標回生電力量が適正回生電力を上回るか否かを判定する。ここで、目標回生電力量が適正回生電力量を上回る場合には、回生制動で必要な制動力を得ることができないため、エンジン14を始動し、エンジンブレーキおよび機械ブレーキが用いられる。しかし、エンジンブレーキおよび機械ブレーキに比べて、制動力を電力に変換してバッテリ18を充電できる回生制動を使用する方が本来は望ましい。そのため、本例においては、効果的なブレーキである回生制動を用いるべく、制御部12が回生電力の制御を行うものとする。この制御部12が行う回生電力の制御について説明するために、図3を参照する。図3は、車両の制御装置における処理の一例を示すフローチャートである。
【0025】
まず、制御部12は、バッテリ18の充電状態を表す指標であるSOC値を取得し、SOC値と予め定めた所定値とを比較する(S10)。当該所定値とは、電池特性上、バッテリ18を好ましい状態に維持するために定めた値である。SOC値と所定値との比較の結果、SOC値が所定値より大きい場合(S10でYes)、処理はステップS12に移行する。一方、SOC値が所定値以下の場合(S10でNo)、処理はステップS18に移行する。ここで、SOC値が所定値より大きい場合とは、バッテリ18の充電が過剰となり得る状態であって、バッテリ18の保護(すなわち、Li析出の抑制)のために何らかの対策、すなわち、何らかの制御が必要となる場合である。当該制御については後述する。
【0026】
次に、制御部12は、バッテリ18の温度を取得し、バッテリ18の温度と予め定めた所定温度とを比較する(S12)。両温度の比較の結果、バッテリ18の温度が所定温度より低い場合(S12でYes)、処理はステップS14に移行する。一方、バッテリ18の温度が所定温度以上の場合(S12でNo)、処理はステップS18に移行する。
【0027】
次に、制御部12は、モータ冷却回路20の水温を取得し、モータ冷却回路20の水温と予め定めた所定温度とを比較する(S14)。両温度の比較の結果、モータ冷却回路20の水温が所定温度より低い場合(S14でYes)、処理はステップS16に移行する。一方、モータ冷却回路20の水温が所定温度以上の場合(S14でNo)、処理はステップS18に移行する。
【0028】
上述したように、SOC値が所定値より大きくバッテリ18の充電が過剰となり得る状態では、車両10の制御装置において何らかの制御が必要となる。そこで、車両10の制御装置においては、実回生電力の生成が制限される。すなわち、かかる状態においては、回生電力の生成が不要と判断される。ここで、回生電力の生成が不要と判断されるのは、バッテリ18の温度が所定温度より低い場合(すなわち、S12でYesの場合)、および、モータ冷却回路20の水温が所定温度より低い場合(すなわち、S14でYesの場合)も同様である。そこで、制御部12は、回生電力の生成が不要と判断された場合には(すなわち、上述したフローチャートにおいて、処理がステップS16に移行した場合には)、目標回生電力量を小さくするよう制御する(S16)。一方、上述したフローチャートにおいて、処理がステップS18に移行した場合には、目標回生電力量を変える必要はないため、制御は行わない(S18)。
【0029】
以上のように、制御部12は、一定の条件の下で目標回生電力量を小さくするよう制御するため、目標回生電力量に対して実回生電力量が下回る状態を回避できる。すなわち、回生ブレーキからエンジンブレーキへの切り替えを防止でき、その結果、エンジンブレーキの使用を目的としてエンジンがオンの状態になることを抑制できる。
【0030】
なお、これまでの説明は一例であり、本明細書で開示する車両の制御装置においては、一定の条件の下で目標回生電力量を小さくするよう制御する構成であればよく、その他の構成は、適宜、変更されてもよい。実施形態においては、モータ冷却回路20はモータ16を冷却することとしているが、これに限らない。例えば、モータ冷却回路20は、主にギア、モータ、および、インバータといった車両10を走行させるために必要な主要部品である走行ユニットを一つにまとめてパッケージ化したe-Axleなどを水冷で冷却する回路であってもよい。また、実施形態においては、低温始動時に目標回生電力量を小さくするが、バッテリの温度とモータ冷却回路の水温とが低い場合であれば、目標回生電力量の制御は車両10の始動時に限らない。
【符号の説明】
【0031】
10 車両、12 制御部、14 エンジン、16 モータ、18 バッテリ、20 モータ冷却回路、22 電力変換器、24 動力変換部、26 動力軸。
図1
図2
図3