(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2025011846
(43)【公開日】2025-01-24
(54)【発明の名称】障害物接触状態取得システム及び、障害物接触状態取得方法
(51)【国際特許分類】
E21D 9/093 20060101AFI20250117BHJP
【FI】
E21D9/093 F
【審査請求】未請求
【請求項の数】8
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023114211
(22)【出願日】2023-07-12
(71)【出願人】
【識別番号】000000549
【氏名又は名称】株式会社大林組
(74)【代理人】
【識別番号】110000213
【氏名又は名称】弁理士法人プロスペック特許事務所
(74)【代理人】
【識別番号】100171619
【弁理士】
【氏名又は名称】池田 顕雄
(72)【発明者】
【氏名】松原 健太
(72)【発明者】
【氏名】上田 潤
(72)【発明者】
【氏名】大前 慶恵
(72)【発明者】
【氏名】今岡 洋輔
【テーマコード(参考)】
2D054
【Fターム(参考)】
2D054AC02
2D054BA03
2D054BB01
2D054GA15
2D054GA17
2D054GA66
2D054GA83
2D054GA92
(57)【要約】
【課題】障害物の接触状態を、センサの破損を招くことなく効果的に取得する。
【解決手段】筒状のスキンプレート31と、スキンプレート31の前端に設けられたカッターヘッド40と、スキンプレート31内にカッターヘッド40と離間して対向配置された隔壁50とを含むシールド掘進機30に適用され、カッターヘッド40によって掘削される障害物の接触状態を取得する障害物接触状態取得システム10であって、シールド掘進機30の切羽と接触しない部分のうち、地山から伝播されるAE波を受波可能な位置に設置されるAEセンサ20と、AEセンサ20によって取得されるAE信号に基づき、障害物の接触状態を取得する障害物接触状態取得部100,200,210,220,230,240,250,260と、を備えた。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
筒状のスキンプレートと、前記スキンプレートの前端に設けられたカッターヘッドと、前記スキンプレート内に前記カッターヘッドと離間して対向配置された隔壁とを含むシールド掘進機に適用され、前記カッターヘッドによって掘削される障害物の接触状態を取得する障害物接触状態取得システムであって、
前記シールド掘進機の切羽と接触しない部分のうち、地山から伝播されるAE波を受波可能な位置に設置されるAEセンサと、
前記AEセンサによって取得されるAE信号に基づき、前記障害物の接触状態を取得する障害物接触状態取得部と、を備える
ことを特徴とする障害物接触状態取得システム。
【請求項2】
請求項1に記載の障害物接触状態取得システムであって、
前記AEセンサは、
前記カッターヘッドが備えるカッタースポークの内部又は、前記隔壁の前記カッターヘッドとは反対側の後面に設置される
障害物接触状態取得システム。
【請求項3】
請求項1又は2に記載の障害物接触状態取得システムであって、
前記障害物接触状態取得部は、
地山を掘進中に前記AEセンサによって取得されるAE信号の最大振幅及び、又はエネルギーに基づき、掘削対象の地山に障害物が存在するか否かを判定する障害物判定処理を実行する
障害物接触状態取得システム。
【請求項4】
請求項3に記載の障害物接触状態取得システムであって、
前記障害物接触状態取得部は、
前記障害物判定処理によって障害物が存在すると判定した場合に、前記障害物のAE信号の最大振幅及び、又はエネルギーに基づき、前記障害物の種別を判定する種別判定処理をさらに実行する
障害物接触状態取得システム。
【請求項5】
請求項1又は2に記載の障害物接触状態取得システムであって、
前記障害物接触状態取得部は、
地山を掘進中に前記AEセンサによって取得されるAE信号の最大振幅及び、又はエネルギーに基づき、前記シールド掘進機が掘削対象の地山を掘削する際の負荷である掘削負荷を演算する掘削負荷演算処理を実行する
障害物接触状態取得システム。
【請求項6】
請求項5に記載の障害物接触状態取得システムであって、
前記掘削負荷演算処理によって演算した前記掘削負荷が大きいほど、前記シールド掘進機の掘進速度を減速させる掘進速度設定部をさらに備える
障害物接触状態取得システム。
【請求項7】
請求項6に記載の障害物接触状態取得システムであって、
前記掘削負荷演算処理によって演算される前記掘削負荷に基づき、前記シールド掘進機が前記障害物を掘削することが可能であるか否かを判定する掘削可否判定部をさらに備える
障害物接触状態取得システム。
【請求項8】
筒状のスキンプレートと、前記スキンプレートの前端に設けられたカッターヘッドと、前記スキンプレート内に前記カッターヘッドと離間して対向配置された隔壁とを含むシールド掘進機に適用され、前記カッターヘッドによって掘削される障害物の接触状態を取得する障害物接触状態取得方法であって、
前記シールド掘進機の切羽と接触しない部分のうち、地山から伝播されるAE波を受波可能な位置にAEセンサを設置し、
前記AEセンサによって取得されるAE信号に基づき、前記障害物の接触状態を取得する
ことを特徴とする障害物接触状態取得方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、障害物接触状態取得システム及び、障害物接触状態取得方法に関し、特に、シールド掘進機を用いたシールド工事において、掘削対象の障害物の接触状態の取得に好適な技術に関するものである。
【背景技術】
【0002】
近年、シールド工事においては、掘進の支障となる杭や土留め壁などをシールド掘進機によって直接掘削する工事が増えている。また、シールド掘進機の掘進中に、想定していなかった障害物と遭遇する事例も増えている。高強度の障害物の掘削によりカッタービット等が破損すると、シールド掘進機が掘進不能な状態となり、工期の遅延を招くことになる。このため、シールド工事においては、掘削対象の障害物の接触状態を適宜に取得し、取得結果を施工管理や施工対策に適切に反映することが重要となる。
【0003】
例えば、特許文献1には、カッターヘッドの前面に、切羽との接触により土質に応じた電気信号を出力する受振センサを設け、該受振センサの出力結果に基づいて土質を判別する技術が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
特許文献1記載の技術において、受振センサは切羽に直接的に接触するように構成されている。このため、シールド掘進機の掘進中に、例えば、金属等の高強度の障害物が切羽に露出した場合に、受振センサが障害物との接触により破損してしまう虞がある。
【0006】
また、特許文献1記載の技術では、受振センサを切羽に当接させるためのスプリングやレバー等がカッターヘッドの前面に設けられている。このため、掘削土砂等がスプリングやレバーに付着して堆積すると、受振センサを切羽に確実に接触させられなくなり、検知精度の低下を招く可能性もある。また、受振センサやスプリング等が破損した場合に、それらを交換するには、作業員がカッターヘッドの前面にアクセスしなければならず、交換作業に時間や労力が掛かるといった課題もある。
【0007】
本開示の技術は、上記事情に鑑みてなされたものであり、掘削対象の障害物の接触状態を、センサの破損を招くことなく効果的に取得することができる技術を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本開示の障害物接触状態取得システムは、
筒状のスキンプレート(31)と、前記スキンプレート(31)の前端に設けられたカッターヘッド(40)と、前記スキンプレート(31)内に前記カッターヘッド(40)と離間して対向配置された隔壁(50)とを含むシールド掘進機(30)に適用され、前記カッターヘッド(40)によって掘削される障害物の接触状態を取得する障害物接触状態取得システム(10)であって、
前記シールド掘進機(30)の切羽と接触しない部分のうち、地山から伝播されるAE波を受波可能な位置に設置されるAEセンサ(20)と、
前記AEセンサ(20)によって取得されるAE信号に基づき、前記障害物の接触状態を取得する障害物接触状態取得部(100,200,210,220,230,240,250,260)と、を備える
ことを特徴とする。
【0009】
本開示の障害物接触状態取得システムの他の態様において、
前記AEセンサ(20)は、
前記カッターヘッド(40)が備えるカッタースポーク(45)の内部又は、前記隔壁(50)の前記カッターヘッド(40)とは反対側の後面に設置されることが好ましい。
【0010】
本開示の障害物接触状態取得システムの他の態様において、
前記障害物接触状態取得部(100,200,210,220,230,240)は、
地山を掘進中に前記AEセンサ(20)によって取得されるAE信号の最大振幅(MA)及び、又はエネルギー(EN)に基づき、掘削対象の地山に障害物が存在するか否かを判定する障害物判定処理を実行する
ことが好ましい。
【0011】
本開示の障害物接触状態取得システムの他の態様において、
前記障害物接触状態取得部(100,200,210,220,230,250)は、
前記障害物判定処理によって障害物が存在すると判定した場合に、前記障害物のAE信号の最大振幅(MA)及び、又はエネルギー(EN)に基づき、前記障害物の種別を判定する種別判定処理をさらに実行する
ことが好ましい。
【0012】
本開示の障害物接触状態取得システムの他の態様において、
前記障害物接触状態取得部(100,200,210,220,230,260)は、
地山を掘進中に前記AEセンサ(20)によって取得されるAE信号の最大振幅(MA)及び、又はエネルギー(EN)に基づき、前記シールド掘進機(30)が掘削対象の地山を掘削する際の負荷である掘削負荷を演算する掘削負荷演算処理を実行する
ことが好ましい。
【0013】
本開示の障害物接触状態取得システムの他の態様は、
前記掘削負荷演算処理によって演算した前記掘削負荷が大きいほど、前記シールド掘進機(30)の掘進速度を減速させる掘進速度設定部(270)をさらに備える
ことが好ましい。
【0014】
本開示の障害物接触状態取得システムの他の態様は、
前記掘削負荷演算処理によって演算される前記掘削負荷に基づき、前記シールド掘進機(30)が前記障害物を掘削することが可能であるか否かを判定する掘削可否判定部(280)をさらに備える
ことが好ましい。
【0015】
本開示の障害物接触状態取得方法は、
筒状のスキンプレート(31)と、前記スキンプレート(31)の前端に設けられたカッターヘッド(40)と、前記スキンプレート(31)内に前記カッターヘッド(40)と離間して対向配置された隔壁(50)とを含むシールド掘進機(30)に適用され、前記カッターヘッド(40)によって掘削される障害物の接触状態を取得する障害物接触状態取得方法であって、
前記シールド掘進機(30)の切羽と接触しない部分のうち、地山から伝播されるAE波を受波可能な位置にAEセンサ(20)を設置し、
前記AEセンサ(20)によって取得されるAE信号に基づき、前記障害物の接触状態を取得する
ことを特徴とする。
【0016】
上記説明においては、本開示の理解を助けるために、実施形態に対応する構成要件に対して、実施形態で用いた符号を括弧書きで添えているが、各構成要件は、前記符号によって規定される実施形態に限定されるものではない。
【発明の効果】
【0017】
本開示の障害物接触状態取得システム及び、障害物接触状態取得方法によれば、掘削対象の障害物の接触状態を、センサの破損を招くことなく効果的に取得することができる。
【図面の簡単な説明】
【0018】
【
図1】本実施形態に係る障害物接触状態取得システムが適用されるシールド掘進機を示す模式的な縦断面図である。
【
図2】本実施形態に係るシールド掘進機のカッターヘッドを示す模式的な正面図である。
【
図3】本実施形態に係るシールド掘進機のカッタースポークを示す模式的な断面図である。
【
図4】変形例の障害物接触状態取得システムが適用されるシールド掘進機を示す模式的な縦断面図である。
【
図5】本実施形態に係るAEセンサを取り付けるための固定治具を示す模式的な斜視図である。
【
図6】本実施形態に係る情報処理装置のハードウェア構成の一例を示す模式図である。
【
図7】本実施形態に係る情報処理装置のソフトウェア構成の一例を示す模式図である。
【
図8】本実施形態に係る解析データ(AE信号の最大振幅)の一例を示す模式図である。
【
図9】本実施形態に係る解析データ(AE信号のエネルギー)の一例を示す模式図である。
【
図10】本実施形態に係る掘削負荷を演算するためのルックアップテーブルを示す模式図である。
【
図11】本実施形態に係る掘進速度を設定するためのルックアップテーブルを示す模式図である。
【
図12】本実施形態に係る障害物接触状態取得の処理のルーチンを説明するフローチャートである。
【
図13】変形例の情報処理装置のソフトウェア構成の一例を示す模式図である。
【
図14】変形例の障害物接触状態取得の処理のルーチンを説明するフローチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0019】
以下、添付図面に基づいて、本実施形態に係る障害物接触状態取得システム及び、障害物接触状態取得方法について説明する。
【0020】
[全体構成]
図1は、本実施形態に係る障害物接触状態取得システム10が適用されるシールド掘進機30を示す模式的な縦断面図である。
【0021】
シールド掘進機30は、地山や地盤に掘削した掘削坑の内壁に複数のセグメントSを組み立てることによりシールドトンネルTを構築する。以下では、シールド掘進機30の掘進方向を「前方」といい、掘進方向とは反対方向を「後方」という。
【0022】
シールド掘進機30は、円筒状のスキンプレート31と、スキンプレート31の前端に配置されたカッターヘッド40と、スキンプレート31内のカッターヘッド40よりも後方に、カッターヘッド40と離間して対向配置された隔壁50とを備えている。
【0023】
隔壁50には、カッターヘッド40のロータリージョイント41が不図示のベアリング等を介して回転自在に支持されている。また、隔壁50には、回転リング32が不図示のベアリング等を介して回転自在に支持されている。回転リング32は、連結ビーム33を介してカッターヘッド40に一体回転可能に連結されている。
【0024】
スキンプレート31の内部には、回転リング32に不図示のギヤ機構等を介して回転力を伝達可能な複数の駆動モータ35が設けられている。駆動モータ35の回転動力によって回転リング32を回転させると、カッターヘッド40が地山に押し付けられた状態で回転することにより、地山が掘削される。
【0025】
スキンプレート31内のカッターヘッド40と隔壁50との間には、チャンバ55が区画形成されている。チャンバ55内には、カッターヘッド40によって掘削された土砂が、カッターヘッド40の開口部49(
図2参照)を通じて充填される。チャンバ55内の土砂には、不図示の添加装置によって添加材が添加される。添加材は、チャンバ55内の土砂を塑性流動状態の泥土とする。
【0026】
図1に示されるシールド掘進機30は、チャンバ55内に泥土を充填して掘進することにより泥土圧を発生させ、その泥土圧を切羽の土圧に対抗させた状態で掘進を行ういわゆる泥土圧シールド掘進機である。なお、本開示の障害物接触状態取得システム10が適用されるシールド掘進機30は、図示例の泥土圧シールド掘進機に制限されず、泥水式シールド掘削機であってもよい。
【0027】
スキンプレート31の内部には、スクリューコンベア60、ジャッキ64及び、エレクタ68が設けられている。スクリューコンベア60は、チャンバ55の内部から泥土を排出する。ジャッキ64は、スキンプレート31の内周面に周方向に所定の間隔を置いて複数配置されている。ジャッキ64は、既設セグメントSから反力をとることにより、シールド掘進機30を前方に掘進させる。エレクタ68は、セグメントSを保持して周方向に回転することにより、セグメントSをリング状に組み立てる。
【0028】
なお、
図1中の符号BMは、不図示の裏込注入装置によってセグメントSの外周と掘削坑の内壁との間に注入された裏込材を示している。スキンプレート31の後端側には、スキンプレート31と既設セグメントSとの隙間から裏込材BMや地下水等が浸入することを防止するためのテールシール69が設けられている。
【0029】
[カッターヘッド]
カッターヘッド40は、外周リング42と、内周リング43と、中心筒部44と、複数のカッタースポーク45と、センターカッタ46と、複数のカッタービット47と、複数の補助カッタースポーク48(
図2参照)とを備えている。なお、内周リング43及び、補助カッタースポーク48は、カッターヘッド40の径等によっては、備えない場合もある。
【0030】
外周リング42は、スキンプレート31と略同径のリング状に形成されている。内周リング43は、外周リング42よりも小径のリング状に形成されている。中心筒部44は、両端が閉塞(但し、ケーブルや配管等を挿通する部分は除く)された円筒状に形成されている。これら外周リング42、内周リング43及び、中心筒部44は、同心上に配置されている。内周リング43の後端には、連結ビーム33が接続されている。
【0031】
中心筒部44の後面には、ロータリージョイント41が接続されている。また、中心筒部44の外周面には、カッタースポーク45が接続されている。中心筒部44、ロータリージョイント41及び、カッタースポーク45は、中空状に形成されており、その内部にはケーブルC1等を配策するためのスペースが設けられている。
【0032】
図2に示すように、複数のカッタースポーク45は、中心筒部44から外周リング42に亘って放射状に設けられている。カッタースポーク45の前面及び側面には、複数のカッタービット47が取り付けられている。複数の補助カッタースポーク48は、周方向に隣り合うカッタースポーク45の略中間位置に設けられている。補助カッタースポーク48は、内周リング43から外周リング42に亘って設けられている。外周リング42、内周リング43、カッタースポーク45及び、補助カッタースポーク48の間には、掘削土砂を通過させるための複数の開口部49が形成されている。
【0033】
図3に示されるように、カッタースポーク45は、例えば、中空断面構造を有する矩形枠状に形成されており、前面プレート45Aと、一対の側面プレート45B,45Cと、後面プレート45Dとを含む。なお、カッタースポーク45は、矩形枠状に限定されず、断面円形状等であってもよい。
図1及び
図3に示されるように、前面プレート45Aの切羽とは反対側の面(後面)には、AEセンサ20が取り付けられている。なお、
図4に示されるように、AEセンサ20は、隔壁50のチャンバ55とは反対側の面(後面)に取り付けることも可能である。
【0034】
[AEセンサ]
ここで、AEとは、アコースティック・エミッション(Acoustic Emission)の略であり、物体にき裂や摩耗等が発生した際に、物体から放射される1次的現象としての弾性波(以下、AE波という)である。AEセンサ20は、不図示の圧電素子を備えており、物体から放射されるAE波を受波し、圧電素子によって電圧信号(以下、AE信号という)として出力する。すなわち、AEセンサ20は、AE信号を物体に破壊等が生じる前段階の兆候として検知することができる。このため、AEセンサ20を用いれば、2次的現象を検知する加速度センサや振動センサ等を用いる場合に比べ、地山に存在する障害物をより早期に検知することが可能になる。
【0035】
図1に示す例において、AEセンサ20は、カッタースポーク45内の径方向外側に位置するように取り付けられている。このように、AEセンサ20をカッタースポーク45内のロータリージョイント41から離れた径方向外側に配置することで、ロータリージョイント41のベアリング等から発せられる回転音の影響を効果的に低減することが可能になる。また、AEセンサ20を、シールド掘進機30の切羽に最も近いカッタースポーク45内に配置することで、地山から伝播されるAE波を高感度に受波することも可能になる。また、AEセンサ20をカッタースポーク45内に配置することで、AEセンサ20が切羽との接触により破損することも確実に防止することが可能になる。
【0036】
図4に示す変形例において、AEセンサ20は、隔壁50の径方向外側に位置するように取り付けられている。このように、AEセンサ20を隔壁50の径方向外側に配置することで、駆動モータ35の駆動音やギヤの噛合音等の影響を効果的に低減することが可能になる。また、AEセンサ20を、スキンプレート31内のち、切羽に比較的近い隔壁50に配置することで、地山から伝播されるAE波を効果的に受波することも可能になる。また、AEセンサ20を隔壁50に配置することで、AEセンサ20が切羽との接触により破損することも確実に防止することが可能になる。また、AEセンサ20を隔壁50に配置することで、作業員はAEセンサ20の取り付け作業や交換作業を容易に行うことも可能になる。
【0037】
なお、
図4に示す例において、駆動モータ35は、隔壁50の半径方向の中間位置に設けられているが、シールド掘進機のタイプによっては、駆動モータ35が隔壁50の外周側、或は、中心側に配置される場合もある。駆動モータ35が、隔壁50の外周側に配置される場合、AEセンサ20は、隔壁50の中心側に取り付ければよい。また、駆動モータ35が、隔壁50の中心側に配置される場合、AEセンサ20は、
図4に示す例と同様、隔壁50の径方向外側に取り付ければよい。
【0038】
AEセンサ20は、地山に存在する障害物の検知感度を高めるために、所定の周波数帯域に共振ピークを有する共振型AEセンサを用いることが好ましい。例えば、地山に存在する障害物の種類(代表的な金属やコンクリート等)を予め把握できている場合、AEセンサ20は、当該障害物が放射するAE波の周波数帯域に共振ピークを有する共振型AEセンサを用いることが望ましい。一方、地山に存在する障害物の種類を把握していない状態で掘進を行う場合もある。このような場合、AEセンサ20は、数十kHz~百kHzの周波数帯域に共振ピークを有する共振型AEセンサを用いてもよく、或は、共振ピークが異なる複数の共振型AEセンサを設置することも可能である。
【0039】
なお、AEセンサ20は、共振型AEセンサに限定されず、掘削対象の地山の状態や障害物の種別によっては、広帯域で計測が可能ないわゆる広帯域型AEセンサを用いることも可能である。
【0040】
[固定治具]
図5は、AEセンサ20をカッタースポーク45の前面プレート45A又は隔壁50の後面に取り付けるための固定治具90を示す模式的な斜視図である。
【0041】
AEセンサ20は、円筒状のケース21と、ケース21の開口を塞ぐ円板状の受波面22と、ケース21に設けられたコネクタ23とを備えている。受波面22の背面には、AE波をAE信号に変換するための不図示の圧電素子が設けられている。コネクタ23には、ケーブルC1(
図1,
図4参照)が接続される。
【0042】
固定治具90は、互いに略直角に交わる第1板部91A及び第2板部91Bを有する略L字状のアングル材91と、ホルダ92と、アングル材91に固定された一対のマグネット95,96とを備えている。ホルダ92は、スプリング94を介して第1板部91Aに取り付けられており、第2板部91Bの面方向に移動可能に設けられている。ホルダ92は、略直方体状をなしており、AEセンサ20を受容するための凹部93を有する。凹部93の開口幅は、ケース21の外径よりも大きく形成されている。AEセンサ20のケース21は、受波面22が凹部93の底部とは反対を向くように、凹部93に挿入される。
【0043】
AEセンサ20のケース21を凹部93内に挿入すると、一対のマグネット95,96は、受波面22を挟んで離間対向する。各マグネット95,96をカッタースポーク45の前面プレート45A又は隔壁50の後面に吸着させると、これらの面に対して、AEセンサ20は、ホルダ92を介してスプリング94の付勢力によって押さえつけられる。この状態において、AEセンサ20の受波面22は切羽に向けられる。すなわち、作業員は、固定治具90の各マグネット95,96を磁力によってカッタースポーク45の前面プレート45A又は隔壁50の後面に固定するのみで、AEセンサ20を所望の設置位置に容易に取り付けられるように構成されている。
【0044】
[情報処理装置]
再び、
図1及び、
図4を参照し、AEセンサ20には、ケーブルC1を介して増幅器70が接続されている。
図1に示す例において、ケーブルC1は、カッタースポーク45、中心筒部44及び、ロータリージョイント41の内部空間に配策される。増幅器70は、AEセンサ20から入力されるアナログのAE信号を増幅させるとともに、増幅したアナログ信号をデジタル信号に変換する。なお、AEセンサ20が増幅器を内蔵している場合、増幅器70は省略すればよい。増幅器70は、ケーブルC2を介して情報処理装置100に接続されている。
【0045】
情報処理装置100は、増幅器70から入力されるAE信号に基づき、シールド掘進機30の前方の地山に障害物が存在するかを判定するための装置であり、例えば、コンピュータやサーバ等によって構成される。なお、情報処理装置100を設置する場所は、図示例のシールド掘進機30内に限定されず、現場から離れた遠隔の事務所などに設置してもよい。また、情報処理装置100は、タブレット端末やスマートフォンなどの携帯端末によって構成することも可能である。
【0046】
情報処理装置100は、各種プログラムや記憶装置等を備えている。情報処理装置100が備える各種プログラムは、主に、地山に障害物が存在するかを判定する判定処理を実行する。情報処理装置100の記憶装置には、各種プログラムが処理に用いるデータ等が格納される。
【0047】
[情報処理装置のハードウェア構成]
図6は、本実施形態に係る情報処理装置100のハードウェア構成の一例を示す模式図である。情報処理装置100は、CPU(Central Processing Unit)101、ROM(Read Only Memory)102、RAM(Random Access Memory)103を備えている。CPU101、ROM102、RAM103は、いわゆるマイクロコンピュータを形成する。また、情報処理装置100は、補助記憶装置104、ネットワークIF105、操作装置107、表示装置108を備えている。
【0048】
CPU101は、補助記憶装置104に格納された各種プログラムを実行する。ROM102は、不揮発性メモリであって、補助記憶装置104に格納された各種プログラムをCPU101が実行するために必要なデータ等を記憶する。RAM102は、揮発性メモリであって、補助記憶装置104に格納された各種プログラムがCPU101によって実行される際に展開される作業領域を提供する。補助記憶装置104は、各種プログラムや各種プログラムが実行される際に用いられるデータ等を記憶する補助記憶デバイスである。
【0049】
ネットワークIF105は、情報処理装置100がネットワークを介して他の装置等と互いに通信するための通信デバイスである。操作装置107は、現場の作業員等が情報処理装置100に対して各種指示や設定を行うための入力デバイスである。表示装置108は、後述する解析データや障害物判定結果、掘削負荷等の各種表示画面を表示するための表示デバイスである。
【0050】
[情報処理装置のソフトウェア構成]
図7は、本実施形態に係る情報処理装置100のソフトウェア構成の一例を示す模式図である。
【0051】
図7に示すように、情報処理装置100は、計測データ取得部200と、計測データ記憶部210と、解析処理部220と、解析データ記憶部230と、障害物判定部240と、種別判定部250と、機械学習モデル255と、掘削負荷演算部260と、掘進速度設定部270とを備えている。計測データ取得部200、計測データ記憶部210、解析処理部220、解析データ記憶部230、障害物判定部240、種別判定部250、掘削負荷演算部260は、本開示の障害物接触状態取得部の一例である。
【0052】
計測データ取得部200は、シールド掘進機30の掘進中にAEセンサ20から増幅器70を介して逐次入力されるAE信号を取得し、取得したAE信号を計測データとして計測データ記憶部210に記憶する。ここで、計測データには、AEセンサ20が検出するAE信号に加え、AEセンサ20がAE信号を検出した時刻である計測時刻、AE信号を検出した際の掘進速度、トルク等が含まれる。計測データ取得部200は、AEセンサ20から取得したAE信号を計測時刻、掘進速度、トルク等と紐付けて計測データ記憶部210に記憶する。
【0053】
解析処理部220は、計測データ記憶部210に記憶された計測データに基づき、AE信号の特性として最大振幅(AE波形の中心から最大変位までの振幅値)及び、エネルギー(AE波形の積分値)を演算する。また、解析処理部220は、演算したAE信号の最大振幅及び、エネルギーを計測時刻、掘進速度、トルク等と紐付けて解析データとして解析データ記憶部230に記憶する。解析データ記憶部230に記憶された解析データは、表示装置108に表示することができる。表示装置108は、シールド掘進機30の掘進中、解析データをリアルタイムに表示してもよく、或いは、作業員による操作装置107の操作に応じて表示してもよい。
【0054】
図8及び、
図9は、シールド掘進機30の掘進中に取得される計測データに基づいて演算した解析データの一例を説明する模式図である。
図8の縦軸はAE信号の最大振幅を示し、
図9の縦軸はAE信号のエネルギーを示している。また、
図8及び、
図9の横軸は経過時間を示している。
図8及び、
図9において、実線はシールド掘進機30が地山を掘進している区間の解析データ(以下、「地山区間解析データ」という)であり、破線はシールド掘進機30が立坑から発進して立坑壁を掘進している区間の解析データ(以下、「立坑壁区間解析データ」という)である。なお、シールド工事によっては、立坑から発進しない場合もあるが、以下では、便宜的にシールド掘進機30は、立坑から発進する場合を一例に説明する。
【0055】
図8及び、
図9に示されるように、立坑壁区間解析データは、地山区間解析データに比べ、最大振幅及びエネルギーが何れも大きい値を示している。すなわち、掘削対象物の強度が高いほど、AE信号の最大振幅やエネルギーは大きくなることがわかる。本実施形態の障害物接触状態取得システム10は、このようなAE信号の特性に基づき、掘削対象の地山の状態を取得する。
【0056】
再び
図7を参照し、障害物判定部240は、シールド掘進機30の掘進中に逐次取得される現在の計測データから演算した解析データと、解析データ記憶部230に記憶した解析データ(好ましくは、直前の解析データ)とに基づき、地山に障害物が存在するか否かを判定する障害物判定を実行する。
【0057】
具体的には、障害物判定部240は、現在の解析データのAE信号の最大振幅MA(以下、現在最大振幅MAn)と、直前の解析データのAE信号の最大振幅MA(以下、直前最大振幅MAn-1)とを比較し、現在最大振幅MAnが直前最大振幅MAn-1よりも所定量A1以上大きい第1障害物条件(MAn-MAn-1≧A1)が成立するかを判定する。また、障害物判定部250は、現在の解析データのAE信号のエネルギーEN(以下、現在エネルギーENn)と、直前の解析データのAE信号のエネルギーEN(以下、直前エネルギーENn-1)とを比較し、現在エネルギーENnが第2直前エネルギーENn-1よりも所定量A2以上大きい第2障害物条件(ENn-ENn-1≧A2)が成立するかを判定する。ここで、所定量A1,A2は、特に限定されないが、例えば、AE信号に含まれるノイズ等の影響を除去できる値等を考慮して設定すればよい。
【0058】
障害物判定部240は、第1障害物条件又は、第2障害物条件の少なくとも一方の条件が成立する場合、掘削対象の地山に「障害物が存在する」と判定する。一方、障害物判定部240は、第1障害物条件及び、第2障害物条件が何れも成立しない場合、掘削対象の地山に「障害物は存在しない」と判定する。障害物判定部240は、判定結果を表示装置108に逐次表示する。これにより、現場の作業員は、掘削対象の地山に障害物が存在するか否かをリアルタイムに把握することが可能になる。
【0059】
種別判定部250は、障害物判定部240によって障害物と判定された物体の種別(例えば、金属、コンクリート等)を、機械学習モデル255によって判定する種別判定を実行する。機械学習モデル255は、物体の種別と、物体が発するAE信号の最大振幅及びエネルギーとを関連付けた教師データに基づいて予め学習済のモデルである。図示例において、機械学習モデル255は、情報処理装置100に設けられているが、ネットワークIF105を介して通信可能な外部のサーバ装置等に設けられてもよい。
【0060】
種別判定部250は、障害物判定部240によって障害物と判定された物体の解析データの最大振幅MA及びエネルギーENを機械学習モデル255に入力し、機械学習モデル255から出力される結果を取得することにより、障害物の種別を判定する。また、種別判定部250は、判定した障害物の種別を表示装置108に表示する。これにより、現場の作業員は、掘削対象の地山に存在する障害物の種別をリアルタイムに把握することが可能になる。
【0061】
掘削負荷演算部260は、現在の解析データのAE信号に基づき、シールド掘進機30が掘削対象の地山(障害物判定部240によって障害物と判定された物体が存在する場合は、当該障害物)を掘削する場合の負荷である掘削負荷DLを演算する。掘削負荷DLを演算する手法は、特に限定されず、例えば、現在の解析データの最大振幅MA、エネルギーEN、掘進速度等を入力値として含むモデル式に基づいて算出することができる。また、掘削負荷DLの演算は、モデル式を用いる手法に限定されず、例えば、
図10に示すような、対象物体から放射されるAE信号の最大振幅MAと掘削負荷DLとの関係を、掘進速度毎に定めた複数のルックアップテーブルTB1_1、TB1_2・・・・TB1_nを情報処理装置100の記憶部に格納しておき、当該ルックアップテーブルを用いることより演算することも可能である。具体的には、ルックアップテーブルTB1_1、TB1_2・・・・TB1_nにおいて、最大振幅MAが大きくなるに従い、掘削負荷DLも増加するように設定されている。掘削負荷演算部260は、現在の解析データの最大振幅MA及び、掘進速度等に基づきルックアップテーブルTB1_1、TB1_2・・・・TB1_nを参照することにより、掘削対象の地山(障害物を含む)を掘削するのに要求される掘削負荷DLを演算する。
【0062】
なお、ルックアップテーブルTB1_1、TB1_2・・・・TB1_nは、AE信号のエネルギーENと、掘削負荷DLとの関係を定めたテーブルを用いることもできる。また、掘削負荷演算部260は、は、種別判定部250が障害物の種別を判定できた場合、種別の判定結果に基づいて、掘削負荷DLを演算してもよい。
【0063】
掘進速度設定部270は、シールド掘進機30が掘削対象の地山(障害物を含む)を掘削するのに最適な掘進速度を設定する。具体的には、情報処理装置100の記憶部には、
図11に示すような、掘削対象物から放射されるAE信号の最大振幅MAと、最適な掘進速度Vとの関係を定めたルックアップテーブルTB2が格納されている。ルックアップテーブルTB2において、最大振幅MAが大きくなるに従い、掘進速度Vは減速するように設定されている。
【0064】
掘進速度設定部270は、まず、掘削負荷演算部260により演算される掘削負荷DLが所定の閾値負荷DLVよりも大きいか否かを判定する。ここで、閾値負荷DLVは、例えば、シールド掘進機30が現在の掘進速度を維持しても掘削対象を確実に掘削できる負荷を基準に設定すればよい。掘進速度設定部270は、掘削負荷DLが閾値負荷DLV以下の場合、掘削負荷に異常なしと判定する。この場合、掘進速度設定部270の設定を行わない。すなわち、現在の掘進速度が維持される。
【0065】
一方、掘進速度設定部270は、掘削負荷DLが閾値負荷DLVよりも大きい場合、掘削負荷を大きいと判定、言い換えれば、現在の掘進速度では掘削不可と判定する。この場合、掘進速度設定部270は、現在の解析データの最大振幅MAに基づき、ルックアップテーブルTB2を参照することにより、最適な掘進速度Vを決定する。すなわち、掘削対象物の強度が高くなるほど掘進速度Vが減速され、掘削トルクも減少するように設定される。これにより、カッタービット47の破損を効果的に防止することが可能となる。カッタービット47の破損が防止されることで、シールド掘進機30が掘進不能になることを未然に防止でき、工期の遅延も確実に防止することが可能になる。
【0066】
なお、ルックアップテーブルTB2は、AE信号のエネルギーENと、最適な掘進速度Vとの関係を定めたテーブルを用いることもできる。また、掘進速度設定部270は、種別判定部250が障害物の種別を判定できた場合、種別の判定結果に基づいて、最適な掘進速度Vを決定してもよい。
【0067】
次に、
図12に示すフローチャートに基づいて、情報処理装置100のCPU101が実行する障害物接触状態取得の処理のルーチンを説明する。本ルーチンは、例えば、シールド掘進機30が立坑から発進すると開始される。なお、シールド工事によっては、立坑から発進しない場合もある。このような場合、本ルーチンは後述するステップS120から処理を開始すればよい。また、本ルーチンは、地山に支障物が存在することを事前調査等で予め把握しており、シールド掘進機30に当該障害物を切削可能なカッタービット47が装備されている場合を一例に説明する。
【0068】
ステップS100では、情報処理装置100は、シールド掘進機30が立坑壁を掘進中にAEセンサ20から送信されるAE信号に基づき、計測データを取得する。次いで、ステップS105では、情報処理装置100は、ステップS100で取得した計測データに基づき、立坑壁区間解析データを演算し、記憶する。
【0069】
ステップS110では、情報処理装置100は、シールド掘進機30が立坑壁を貫通したか否かを判定する。シールド掘進機30が立坑壁を貫通したかは、シールド掘進機30が発進を開始してからの掘進距離に基づいて判定してもよく、或いは、AE信号の最大振幅MA及び、又はエネルギーENが立坑壁掘削時よりも減少したかに基づいて判定してもよい。シールド掘進機30が立坑壁を貫通した場合(Yes)、情報処理装置100は、ステップS120の処理に進む。一方、シールド掘進機30が立坑壁を貫通していない場合(No)、情報処理装置100は、ステップS100の処理に戻る。
【0070】
ステップS120では、情報処理装置100は、シールド掘進機30が掘削対象の地山(障害物を含む)を掘進中にAEセンサ20から送信されるAE信号に基づき、計測データを取得する。次いで、ステップS125では、情報処理装置100は、ステップS120で取得した計測データに基づき、解析データを演算する。
【0071】
ステップS130では、情報処理装置100は、ステップS125で演算した解析データを直前の解析データとして記憶する。
【0072】
ステップS140では、情報処理装置100は、シールド掘進機30が掘削対象の地山(障害物を含む)を掘進中にAEセンサ20から送信されるAE信号に基づき、現在の計測データを取得する。次いで、ステップS145では、情報処理装置100は、ステップS140で取得した計測データに基づき、現在の解析データを演算する。
【0073】
ステップS150では、情報処理装置100は、ステップS145で演算した現在の解析データと、ステップS130で記憶した直前の解析データとを比較する障害物判定を実行する。具体的には、現在最大振幅MAnが直前最大振幅MAn-1よりも所定量A1以上大きい第1障害物条件又は、現在エネルギーENnが直前エネルギーENn-1よりも所定量A2以上大きい第2障害物条件の少なくとも一方が成立するか否かを判定する。
【0074】
第1障害物条件又は、第2障害物条件の少なくとも一方の条件が成立する場合(Yes)、情報処理装置100は、ステップS160の処理に進み、掘削対象の地山に障害物が存在すると判定する。一方、第1障害物条件及び、第2障害物条件が何れも成立しない場合(No)、情報処理装置100は、ステップS155の処理に進み、掘削対象の地山に障害物は存在しないと判定し、ステップS120の処理に戻る。
【0075】
情報処理装置100は、ステップS160の処理にて、掘削対象の地山に障害物が存在すると判定すると、ステップS162の処理に進む。ステップS162では、情報処理装置100は、ステップS140で取得した現在の解析データの最大振幅MA及びエネルギーENに基づき、障害物の種別を判定する種別判定を実行し、ステップS166の処理に進む。
【0076】
ステップS166では、情報処理装置100は、ステップS140で取得した現在の解析データに基づき、掘削対象の地山(障害物を含む)を掘削する場合の負荷である掘削負荷DLを演算する。
【0077】
ステップS170では、情報処理装置100は、ステップS166で演算した掘削負荷DLと所定の閾値負荷DLVとを比較する。具体的には、対象物体の掘削負荷DLが所定の閾値負荷DLVよりも大きい場合(Yes)、情報処理装置100は、ステップS175処理に進み、掘削負荷を大きいと判定する。一方、対象物体の掘削負荷DLが所定の閾値負荷DLV以下の場合(No)、情報処理装置100は、ステップS180の処理に進み、掘削負荷に異常なしと判定し、ステップS120の処理に戻る。
【0078】
ステップS175の処理にて掘削負荷を大きいと判定すると、情報処理装置100は、ステップS176の処理に進み、シールド掘進機30が障害物を掘削するのに最適な掘進速度Vを設定する掘進速度設定処理を実行し、ステップS120の処理に戻る。以降、シールドトンネルTの工事が完了するまでの間、情報処理装置100は、ステップS140以降の各処理を繰り返し実行する。
【0079】
以上詳述した本実施形態によれば、AEセンサ20は、カッタースポーク45の前面プレート45Aの後面、又は、隔壁50の後面に設置される。すなわち、AEセンサ20を、切羽と接触させることなく、且つ、AE波を効果的に受波できる位置に設置するように構成されている。これにより、AEセンサ20が障害物等との接触により破損することを確実に防止することが可能になる。また、障害物の検知にAEセンサ20を用いることで、2次的現象を検知する加速度センサや振動センサ等を用いる場合に比べ、地山に存在する障害物をより早期に検知することも可能になる。
【0080】
また、本実施形態によれば、情報処理装置100は、AEセンサ20によって取得されるAE信号の最大振幅MAやエネルギーENに基づいて、シールド掘進機30が掘削対象の地山(障害物を含む)を掘削する際の掘削負荷DLを演算するとともに、掘削負荷DLに応じた最適な掘進速度Vを設定する。すなわち、障害物等の掘削に適した掘進速度Vを掘進管理に反映できるように構成されている。これにより、障害物の掘削によってカッタービット47が破損することを確実に抑止できるようになり、シールド掘進機30の掘進不能による工期の遅延も効果的に防止することが可能になる。
【0081】
ここで、加速度センサを用いる従来技術としては、例えば、特開平9-209688号公報に、シールド掘進機の隔壁に音波センサとしての加速度センサを取り付け、音(聴覚)と波形信号とに基づき地盤状況を監視する技術が提案されている(以下、従来例1)。また、特開2019-027121号公報に、カッタービットに振動加速度センサを設置し、加速度波形に基づいて切羽面の地盤の土質を判定する技術が提案されている(以下、従来例2)。
【0082】
従来例1の場合、作業員が掘削音に常時注意を払わなければならず、労力が掛かることに加え、人の聴覚による個人差が判定結果に影響するといった課題がある。また、従来例2の場合、障害物が振動加速度センサを設置したカッタービットに接触しなければ加速度波形を検知することができず、さらには、振動加速度センサを設置したカッタービットが破損した場合には、加速度波形の検知ができなくなるといった課題がある。
【0083】
これに対し、本実施形態の障害物接触状態取得システム10によれば、可聴域よりも高い高周波領域のAE波を検知するAEセンサ20を用いて障害物を検知するため、従来例1のような作業員が掘削音に注意を払う必要はなく、作業員の労力を確実に低減することができる。また、AEセンサ20は、カッタースポーク45の内部や隔壁50の後面といった切羽と接触しない部分に設けられるため、従来例2のような破損による検知不能も効果的に防止することが可能になる。
【0084】
[変形例]
例えば、
図12に示すフローチャートでは、地山に支障物が存在することを事前調査等で予め把握している場合を一例に説明したが、掘削対象の地山に想定外の障害物が存在する場合もある。このような場合、
図13に示すように、情報処理装置100は、掘削負荷演算部260が演算する掘削負荷DLに基づき、障害物が切削可能であるか否かを判定する掘削可否判定部280をさらに備えてもよい。
【0085】
図14は、情報処理装置100が掘削可否判定部280を備える場合の障害物接触状態取得の処理のルーチンを説明する変形例のフローチャートである。なお、
図14に示すステップS100~S180の各処理は、
図12に示す処理と同様のため、説明は省略する。
【0086】
情報処理装置100は、ステップS175の処理にて掘削負荷を大きいと判定すると、ステップS200の処理に進み、ステップS166で演算した掘削負荷DLが所定の上限負荷DLmを超えているか否かを判定する。掘削負荷DLが上限負荷DLmを超えていない場合(No)、情報処理装置100は、ステップS176の処理に進み、掘削速度設定処理を実行する。一方、掘削負荷DLが上限負荷DLmを超えている場合(Yes)、情報処理装置100は、ステップS210の処理に進み障害物を切削不可能と判定する。
【0087】
ステップS220では、情報処理装置100は、処理を中断し、次いで、ステップS230では、情報処理装置100は、再開要求を受け付けたか否かを判定する。再開要求は、例えば、障害物に対して何らかの対策が施された後に、作業員が操作装置107を操作することにより入力すればよい。再開要求を受け付けた場合(Yes)、情報処理装置100は、ステップS120の処理に戻る。一方、再開要求を受け付けていない場合(No)、情報処理装置100は、ステップS220の処理に戻り、処理の中断を継続する。
【0088】
変形例によれば、掘削負荷DLに基づいて障害物が切削可能であるか否かを判定し、切削不可能と判定した場合には、障害物に対して何らかの対策が施されるまでは処理を中断するように構成されている。これにより、シールド掘進機30が想定外の障害物と遭遇した場合においても、カッタービット47等の破損を事前に防止することが可能になる。
【0089】
[その他]
なお、本開示は、上述の実施形態に限定されるものではなく、本開示の趣旨を逸脱しない範囲で、適宜変形して実施することが可能である。
【0090】
例えば、上記実施形態において、AEセンサ20は、
図3に示されるように、カッタースポーク45の前面プレート45Aの後面に設置するものとして説明したが、AEセンサ20の受波面22を切羽側に向けた状態で取り付けることができれば、カッタースポーク45の内部の他の部分に設置することも可能である。
【0091】
また、上記実施形態の変形例として、AEセンサ20は、
図4に示されるように、隔壁50の後面に設置するものとして説明したが、切羽に接触せず、且つ、地山から伝播されるAE波を受波可能な位置であれば、隔壁50以外の部分に設置することも可能である。
【0092】
また、上記実施形態において、情報処理装置100は、障害物判定等の各処理を、AE信号の最大振幅MA及び、エネルギーENに基づいて実行するものとして説明したが、最大振幅MA又はエネルギーENの何れか一方のみに基づいて実行することも可能である。また、最大振幅MAやエネルギーENのみならず、AE信号から得られるRMS(実効値)を用いることも可能である。
【符号の説明】
【0093】
10…障害物接触状態取得システム,20…AEセンサ,21…ケース,22…受波面,23…コネクタ,30…シールド掘進機,31…スキンプレート,32…回転リング,33…連結ビーム,35…駆動モータ,40…カッターヘッド,41…ロータリージョイント,42…外周リング,43…内周リング,44…中心筒部,45…カッタースポーク,45A…前面プレート,46…センターカッタ,47…カッタービット,48…補助カッタースポーク,49…開口部,50…隔壁,55…チャンバ,60…スクリューコンベア,64…ジャッキ,68…エレクタ,69…テールシール,70…増幅器,90…固定治具,91…アングル材,92…ホルダ,93…凹部,95,96…マグネット,100…情報処理装置,101…CPU,102…ROM,103…RAM,104…補助記憶装置,105…ネットワークIF,107…操作装置,108…表示装置,200…計測データ取得部,210…計測データ記憶部,220…解析処理部,230…解析データ記憶部,240…障害物判定部,250…種別判定部,255…機械学習モデル,260…掘削負荷演算部,270…掘進速度設定部,280…掘削可否判定部,S…セグメント,BM…裏込材,C1,C2…ケーブル