IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ 電気化学工業株式会社の特許一覧

<>
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2025011880
(43)【公開日】2025-01-24
(54)【発明の名称】防錆剤及び防錆処理方法
(51)【国際特許分類】
   C04B 22/08 20060101AFI20250117BHJP
   C04B 28/02 20060101ALI20250117BHJP
   C04B 103/61 20060101ALN20250117BHJP
【FI】
C04B22/08 B
C04B28/02
C04B103:61
【審査請求】未請求
【請求項の数】5
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023114277
(22)【出願日】2023-07-12
(71)【出願人】
【識別番号】000003296
【氏名又は名称】デンカ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100207756
【弁理士】
【氏名又は名称】田口 昌浩
(74)【代理人】
【識別番号】100135758
【弁理士】
【氏名又は名称】伊藤 高志
(74)【代理人】
【識別番号】100119666
【弁理士】
【氏名又は名称】平澤 賢一
(72)【発明者】
【氏名】齋藤 誠
(72)【発明者】
【氏名】中村 瑠奈
(72)【発明者】
【氏名】入内島 克明
【テーマコード(参考)】
4G112
【Fターム(参考)】
4G112MB04
4G112PB07
4G112PC01
(57)【要約】
【課題】発錆するまでの時間を長くし、かつ、流動性を有して施工性が良好な亜硝酸塩を含有する防錆剤及び防錆処理方法を提供する。
【解決手段】セメントを含む結合材と、亜硝酸イオンと、硝酸イオンとを含有し、亜硝酸イオン及び硝酸イオンの合計質量が結合材100質量部に対し、2質量部超30質量部以下であり、亜硝酸イオンと硝酸イオンとの質量比(亜硝酸イオン/硝酸イオン)が0.1以上3以下である、防錆剤。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
セメントを含む結合材と、亜硝酸イオンと、硝酸イオンとを含有し、
前記亜硝酸イオン及び前記硝酸イオンの合計質量が前記結合材100質量部に対し、2質量部超30質量部以下であり、
前記亜硝酸イオンと前記硝酸イオンとの質量比(亜硝酸イオン/硝酸イオン)が0.1以上3以下である、防錆剤。
【請求項2】
前記亜硝酸イオンの含有量が前記結合材100質量部に対し、0.8質量部以上22質量部以下である、請求項1に記載の防錆剤。
【請求項3】
前記硝酸イオンの含有量が前記結合材100質量部に対し、0.8質量部以上22質量部以下である、請求項1に記載の防錆剤。
【請求項4】
塩化物イオンの含有量が前記結合材100質量部に対し、0.04質量部以上3質量部以下である、請求項1に記載の防錆剤。
【請求項5】
請求項1~4のいずれか1項に記載の防錆剤を用いる防錆処理方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、防錆剤およびその防錆処理方法、特に、鉄筋、鉄骨、鋼板、プレストコンクリート内部の鋼線等、コンクリート内部の鋼材の腐食を抑制し、錆の発生を防止する防錆剤およびその防錆処理方法に関する。
【背景技術】
【0002】
コンクリート構造物の補修工事では、劣化した部分を除去し、新たに補修モルタルを打ち継ぐ断面修復工事が行われている。
その際、露出した鉄筋等の鋼材の発錆を防止することを目的に防錆処理が行われている。
【0003】
従来の防錆剤は、無機系では、亜硝酸塩、クロム酸塩、ケイ酸塩、及びリン酸塩等があり、有機系では、有機リン酸エステル、エステル塩、有機酸類、スルホン酸類、アミン類、アルキルフェノール類、メルカプタン類、及びニトロ化合物等が知られている(非特許文献1参照)。
【0004】
断面修復工法を行う場合の鉄筋の防錆剤としては、亜硝酸塩系防錆剤を多く使用しており、直接鉄筋に塗布したり、ポリマーエマルジョンと混合したものを塗布したり、セメントのような水硬性物質と混合したものを塗布したりして使用されている。
セメント類と混合して使用する場合は、亜硝酸塩を長期間鉄筋表面に保持することと、塩化物イオンや酸素の透過性を低減させてより防錆効果を維持することを目的にセメント混和用ポリマーを配合したものを塗布している場合がある。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0005】
【非特許文献1】「IX 防錆剤」、コンクリート混和剤の開発技術、pp.119~134、シーエムシー出版、2000年
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、断面修復工法で多く用いられる亜硝酸塩系防錆剤は、そのまま鉄筋に塗布できるが、塗布して直ぐに断面修復しないと錆が発生することがあった。また、亜硝酸塩系防錆剤は、亜硝酸塩が硬化促進性を発揮することから、亜硝酸塩を添加した後に粘性が上昇し流動性が低下することで、施工性に劣る課題があった。
そこで、本発明は、発錆するまでの時間を長くし、かつ、流動性を有して施工性が良好な亜硝酸塩を含有する防錆剤及び防錆処理方法を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記課題を解決するために鋭意検討したところ、防錆剤に含有する亜硝酸イオン及び硝酸イオンの合計質量、並びに、亜硝酸イオンと硝酸イオンとの質量比を特定することで、上記課題を解決し得ることを見出した。本発明は、以上の知見に基づき完成したものである。本発明は下記のとおりである。
【0008】
[1]セメントを含む結合材と、亜硝酸イオンと、硝酸イオンとを含有し、前記亜硝酸イオン及び前記硝酸イオンの合計質量が前記結合材100質量部に対し、2質量部超30質量部以下であり、前記亜硝酸イオンと前記硝酸イオンとの質量比(亜硝酸イオン/硝酸イオン)が0.1以上3以下である、防錆剤。
[2]前記亜硝酸イオンの含有量が前記結合材100質量部に対し、0.8質量部以上22質量部以下である、[1]に記載の防錆剤。
[3]前記硝酸イオンの含有量が前記結合材100質量部に対し、0.8質量部以上22質量部以下である、[1]又は[2]に記載の防錆剤。
[4]塩化物イオンの含有量が前記結合材100質量部に対し、0.04質量部以上3質量部以下である、[1]~[3]のいずれかに記載の防錆剤。
[5][1]~[4]のいずれかに記載の防錆剤を用いる防錆処理方法。
【発明の効果】
【0009】
本発明は、発錆するまでの時間を長くし、かつ、流動性を有して施工性が良好な亜硝酸塩を含有する防錆剤及び防錆処理方法を提供することができる。
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下、本発明を詳細に説明する。
なお、本発明における部や%は特に規定しない限り質量基準で示す。
【0011】
本発明の実施形態(以後、単に「本実施形態」と称する場合がある。)に係る防錆剤は、セメントを含む結合材と、亜硝酸イオンと、硝酸イオンとを含有する。本実施形態に係る防錆剤は、セメントを含む結合材と、亜硝酸イオン及び硝酸イオンを含む亜硝酸塩水溶液とを混合することで得られ、スラリー状である。
以下に、上記防錆剤の各成分等について説明する。
【0012】
[セメントを含む結合材]
本実施形態に係る防錆剤における結合材は、セメントを含む結合材である。セメントを含む結合材としては、セメントに無機微粉末を混合したものであることが好ましい。
【0013】
(セメント)
結合材に含むセメントとしては特に限定されるものではないが、普通、早強、超早強、低熱、及び中庸熱等の各種ポルトランドセメントや、これらポルトランドセメントに、高炉スラグ、フライアッシュ、又はシリカを混合した各種混合セメント、これらポルトランドセメントに、石灰石粉末や高炉徐冷スラグ微粉末等を混合したフィラーセメント、並びに、都市ゴミ焼却灰や下水汚泥焼却灰を原料として製造した環境調和型セメント(エコセメント)等が挙げられる。これらのセメントは一種を単独で、又は2種以上を組み合わせて使用できる。これらのセメントの中では、食材を容易に含有させられるという観点から、普通ポルトランドセメントが好ましい。
【0014】
本発明で使用するセメントは、製造コストや強度発現性の観点から、セメントのブレーン比表面積値(以下、ブレーン値ともいう)は、2,500cm/g以上7,000cm/g以下であることが好ましく、2,750cm/g以上6,000cm/g以下であることがより好ましく、3,000cm/g以上4,500cm/g以下であることがさらに好ましい。ブレーン値は、JIS R 5201(セメントの物理試験方法)に準拠して求められる。
【0015】
(無機微粉末)
無機微粉末としては、例えば、高炉水砕スラグ等の急冷スラグ微粉末、フライアッシュ、シリカフューム、及びライスハスクアッシュ(籾殻灰)や、石灰石微粉末、珪石微粉末、砕石微粉末、スラグ除冷微粉末等が挙げられ、中でも、石灰石微粉末が好ましい。
【0016】
無機微粉末の粉末度は、特に限定されるものではないが、通常、ブレーン値で3,000cm/g以上9,000cm/g程度の範囲にある。石灰石微粉末の粉末度は、特に限定されるものではないが、3,000cm/g以上9,000cm/g以下であることが好ましく、3,250cm/g以上8,000cm/g以下であることがより好ましく、3,500cm/g以上7,000cm/g以下であることがさらに好ましい。
【0017】
セメントを含む結合材と無機微粉末の配合割合は、特に限定されるものではないが、セメントを含む結合材100質量部に対し、無機微粉末30質量部以上80質量部以下が好ましく、35質量部以上75質量部以下が好ましく、40質量部以上70質量部以下がさらに好ましい。セメントを含む結合材と無機微粉末の配合割合が上記範囲内であることで、練り混ぜ抵抗性が低くなり、作業性が向上する。
【0018】
[亜硝酸イオン]
本発明で使用する亜硝酸イオンは、亜硝酸及び亜硝酸塩で供給される。亜硝酸塩としては、例えば、リチウム塩、ナトリウム塩、カリウム塩、カルシウム塩等のアルカリ及びアルカリ土類金属塩、並びにアンモニウム塩等が挙げられるが特にこれらに制限されない。亜硝酸塩は、無水塩でも含水塩でもよい。また、亜硝酸塩は、そのまま供給してもよく、媒体と混合しやすいように水で希釈して供給してもよい。
【0019】
本実施形態に係る防錆剤における亜硝酸イオンの含有量は、結合材100質量部に対し、0.8質量部以上22質量部以下であることが好ましく、1.2質量部以上20質量部以下であることが好ましく、1.6質量部以上19.6質量部以下であることがさらに好ましく、2質量部以上19.2質量部以下であることがよりさらに好ましい。亜硝酸イオンの含有量が上記範囲内であることで、防錆効果を十分に発揮し、発錆するまでの時間が長くなり、かつ、流動性を有して施工性が向上する。
防錆剤における亜硝酸イオンの含有量を上記範囲内とするためには、防錆剤を調製する際に使用する亜硝酸塩水溶液における亜硝酸イオンの含有量を調整すればよい。
【0020】
[硝酸イオン]
本発明で使用する硝酸イオンは、硝酸及び硝酸塩で供給される。硝酸塩としては、例えば、リチウム塩、ナトリウム塩、カリウム塩、カルシウム塩等のアルカリ及びアルカリ土類金属塩、アルミニウム塩、鉄塩、銅塩、ニッケル塩、マグネシウム塩、亜鉛塩、マンガン塩、並びにアンモニウム塩等が挙げられるが特にこれらに制限されない。硝酸塩は、無水塩でも含水塩でもよい。また、硝酸塩は、そのまま供給してもよく、媒体と混合しやすいように水で希釈して供給してもよい。
【0021】
本実施形態に係る防錆剤における硝酸イオンの含有量は、結合材100質量部に対し、0.8質量部以上22質量部以下であることが好ましく、1.2質量部以上20質量部以下であることが好ましく、1.4質量部以上16質量部以下であることがより好ましく、1.6質量部以上12質量部以下であることがさらに好ましく、1.8質量部以上8質量部以下であることがよりさらに好ましい。硝酸イオンの含有量が上記範囲内であることで、防錆効果を十分に発揮し、発錆するまでの時間が長くなり、かつ、流動性を有して施工性が向上する。
防錆剤における硝酸イオンの含有量は、スラリー状の防錆剤の上澄み液を採取し、陰イオンクロマトグラフィーにより測定することで得られる。
防錆剤における硝酸イオンの含有量を上記範囲内とするためには、防錆剤を調製する際に使用する亜硝酸塩水溶液における硝酸イオンの含有量を調整すればよい。
【0022】
本実施形態に係る防錆剤における亜硝酸イオン及び硝酸イオンの合計質量は、結合材100質量部に対し、2質量部超30質量部以下である。亜硝酸イオン及び硝酸イオンの合計質量が2質量部以下であると、防錆効果が不十分となり、発錆するまでの時間が短くなる。また、亜硝酸イオン及び硝酸イオンの合計質量が30質量部超であると、流動性が低下して施工性が劣る。亜硝酸塩水溶液中の亜硝酸イオン及び硝酸イオンの合計質量は、結合材100質量部に対し、5質量部以上27質量部以下であることが好ましく、7質量部以上25質量部以下であることがより好ましく、10質量部以上22質量部以下であることがさらに好ましい。
【0023】
本実施形態に係る防錆剤は、亜硝酸イオンと硝酸イオンとの質量比(亜硝酸イオン/硝酸イオン)は、0.1以上3以下である。亜硝酸イオンと硝酸イオンとの質量比が0.1未満であり、3超であると、防錆効果が不十分となり、発錆するまでの時間が短くなり、流動性が低下して施工性が劣る。これらの観点より、亜硝酸イオンと硝酸イオンとの質量比は、0.15以上2.9以下であることが好ましく、0.2以上2.8以下であることがより好ましく、0.25以上2.7以下であることがさらに好ましい。
【0024】
本実施形態に係る防錆剤における塩化物イオンの含有量は、結合材100質量部に対し、0.04質量部以上3質量部以下であることが好ましく、0.08質量部以上2.5質量部以下であることがより好ましく、0.12質量部以上2質量部以下であることがよりさらに好ましい。防錆剤における塩化物イオンの濃度が上記範囲内であることで、初期の防錆効果を得ることができる。
【0025】
[骨材]
防錆剤に、さらに、骨材として、砂を用い、砂を適度に混合してモルタルとして使用することも可能である。
骨材の含有割合は、結合材100質量部に対して、50~350質量部が好ましく、70~200質量部であることがより好ましい。骨材の含有割合が上記範囲内であることで、初期ひび割れ抵抗性をより高めることができるようになる。
【0026】
[その他の添加剤]
本実施形態に係る防錆剤には、セメント以外の水硬性物質であるアルカリにより刺激され硬化するポゾラン物質、急硬性を付与することができるカルシウムアルミネート類、これらの混合物を品質に悪影響を与えない範囲で併用可能である。
また、本実施形態に係る防錆剤には品質に悪影響を与えない範囲で、炭酸カルシウム、珪酸マグネシウム、スラグ粉末、クレー粉、カーボンブラック、界面活性剤、繊維類、増粘剤、粘土鉱物、凝結促進剤、凝結遅延剤、防水剤、減水剤、消泡剤、急硬材、気泡剤、顔料、ガス発砲物質、膨張材、収縮低減剤、及びエチレンジアミン四酢酸ナトリウム等のキレート化剤、水溶性含硫黄有機化合物又はその塩、香料、消臭剤、抗菌剤、防腐剤等の各種添加剤を併用することが可能である。
【0027】
本実施形態に係る防錆処理方法は上記のいずれかに記載の防錆剤を用いる防錆処理方法である。
本実施形態に係る防錆処理方法は、特に限定されるものではないが、本実施形態に係る防錆剤がスラリー状であるので、例えば、防錆処理の対象物である鉄筋等に噴霧機を用いて吹き付けてもよく、刷毛で塗りつけてもよい。
【実施例0028】
以下、本発明の実験例に基づいて、本発明をさらに説明するが、本発明はこれらに限定されるものではない。
【0029】
[実験例1]
表1に示すように、防錆剤に含有する亜硝酸イオン及び硝酸イオンの合計質量、並びに、亜硝酸イオンと硝酸イオンとの質量比となる配合で防錆剤を調製した。得られた防錆剤100質量部に対して、水/防錆剤比が一定(水/防錆剤比:50%)となるように水を加えて防錆剤を調製した。
調製した防錆剤についての流動性、及び調製した防錆剤を用いて発錆するまでの時間について試験した。以下に、その結果を表1に示す。
【0030】
[使用材料]
・セメント:普通ポルトランドセメント(市販品)
・無機微粉末:石灰石微粉末、ブレーン値4,000cm/g
・亜硝酸イオン:亜硝酸カルシウム(市販品)
・硝酸イオン:硝酸カルシウム(市販品)
・塩化物イオン:塩化ナトリウム(市販品)
・水:水道水
【0031】
[測定方法]
<流動性>
JISフロー:JIS R 5201に準拠。
<発錆するまでの時間>
D16の鉄筋(JIS規格品のSD295)の表面に、調製した防錆剤を塗布量が略150g/mとなるように刷毛で塗布し、防錆剤が塗布された鉄筋を、温度20℃、相対湿度100%の恒温高湿室に設置し、塗布したときから鉄筋に錆が目視で確認されるまでの時間を計測した。試験数を1つの例につき3個とし、計測した時間の平均値を発錆するまでの時間とした。
【0032】
【表1】
【0033】
表1の結果より、防錆剤に含有する亜硝酸イオン及び硝酸イオンの合計質量、並びに、亜硝酸イオンと硝酸イオンとの質量比を特定することで、流動性を80mm以上に高めることができ、発錆までの時間を50時間以上に長くすることができることが分かった。
【産業上の利用可能性】
【0034】
本発明の防錆剤は、防錆剤に含有する亜硝酸イオン及び硝酸イオンの合計質量、並びに、亜硝酸イオンと硝酸イオンとの質量比を特定することで、流動性が上がり、発錆までの時間を向上でき、鉄筋、鉄骨、鋼板、プレストコンクリート内部の鋼線等、コンクリート内部の鋼材の腐食抑制、錆の発生防止等、広範囲に利用できる。