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  • 特開-モータ装置の製造方法 図1
  • 特開-モータ装置の製造方法 図2
  • 特開-モータ装置の製造方法 図3
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2025011881
(43)【公開日】2025-01-24
(54)【発明の名称】モータ装置の製造方法
(51)【国際特許分類】
   H02K 15/02 20250101AFI20250117BHJP
【FI】
H02K15/02 A
【審査請求】未請求
【請求項の数】1
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023114278
(22)【出願日】2023-07-12
(71)【出願人】
【識別番号】000003207
【氏名又は名称】トヨタ自動車株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100103894
【弁理士】
【氏名又は名称】家入 健
(72)【発明者】
【氏名】金原 宏
【テーマコード(参考)】
5H615
【Fターム(参考)】
5H615AA01
5H615SS04
5H615SS05
5H615SS10
5H615SS16
(57)【要約】
【課題】低コストで実行可能であり、鉄損を抑制した状態でコアを固定することができるモータ装置の製造方法を提供する。
【解決手段】夫々が複数の電磁鋼板31(図1参照)の積層により形成された複数の分割コア21~24(図1参照)と、複数の分割コア21~24を内周側で固定する筒状の外筒リング12と、を有するモータ装置の製造方法であって、外筒リング12は、複数の分割コア21~24を組み合わせて1つのコア11を形成する場合に、電磁鋼板31の積層方向である軸方向において、コア11より長く形成されており、外筒リング12の内周に複数の分割コア21~24を配して1つのコア11を形成する工程と、軸方向において、コア11の端部に配された電磁鋼板31より突出した外筒リング12の端部を加熱する工程と、を含む。
【選択図】図2
【特許請求の範囲】
【請求項1】
夫々が複数の電磁鋼板の積層により形成された複数の分割コアと、前記複数の分割コアを内周側で固定する筒状の外筒リングと、を有するモータ装置の製造方法であって、
前記外筒リングは、前記複数の分割コアを組み合わせて1つのコアを形成する場合に、前記電磁鋼板の積層方向である軸方向において、前記コアより長く形成されており、
前記外筒リングの内周に前記複数の分割コアを配して1つの前記コアを形成する工程と、
前記軸方向において、前記コアの端部に配された電磁鋼板より突出した前記外筒リングの端部を加熱する工程と、を含む、
モータ装置の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、モータ装置の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、モータ装置に利用されるコアの1つ1つが別体で形成されており、互いに組み合わせることによって本来の円形状に形成される分割コアが利用されている。また、このコアは積層させた電磁鋼板により形成されているが、このコアでは、積層させた電磁鋼板の圧延に沿って磁束を流すことにより磁束の低損失を実現できる。ここで、積層された電磁鋼板の圧延に沿って磁束を流すためには、磁束の向きと電磁鋼板の圧延方向を揃える必要があり、この状態を実現するためにコアを分割する必要がある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2013-055723号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
分割コアは、コアとして利用する際に分割コア同士を締結する必要である。本来であれば、分割されたコア同士を溶接することが望ましいが、電磁鋼板が通電してしまい、仮に絶縁被膜が無くなると渦磁束が無くなり渦損が大きくなってしまう。
【0005】
そのため、外筒リングという別部品により、分割されたコアを内部に格納した状態で焼嵌めすることで分割コアが円形状に並んだ状態で固定する方法が知られている。しかしながら、焼嵌め時の高温で電磁鋼板の絶縁被膜が熱影響を受けることや、締め代の管理が難しいという問題があった。ここで締め代は、ヤング率と焼嵌め前後の温度差の乗算により決定されるが、製品や設備を丸ごと温度管理する必要がある。また例えば、夏は室温が高いことから締め代が足りなくなるおそれがあり、逆に、冬は締めすぎてコアの鉄損が大きくなるおそれがある。
【0006】
一方で、外筒リングを用いてコアを固定する際には、積層させた電磁鋼板のうち端部に配された電磁鋼板のみを固定するだけであっても、コアが外筒リングから抜けることはない。そのため、外筒リングを全て加熱するような焼嵌めには加熱の無駄が存在している。さらに、電磁鋼板に過大な応力を付与すると鉄損が大きくなるという問題もある。
【0007】
本開示は、低コストで実行可能であり、鉄損を抑制した状態でコアを固定することができるモータ装置の製造方法を提供するものである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本開示にかかるモータ装置の製造方法は、夫々が複数の電磁鋼板の積層により形成された複数の分割コアと、前記複数の分割コアを内周側で固定する筒状の外筒リングと、を有するモータ装置の製造方法であって、前記外筒リングは、前記複数の分割コアを組み合わせて1つのコアを形成する場合に、前記電磁鋼板の積層方向である軸方向において、前記コアより長く形成されており、前記外筒リングの内周に前記複数の分割コアを配して1つの前記コアを形成する工程と、前記軸方向において、前記コアの端部に配された電磁鋼板より突出した前記外筒リングの端部を加熱する工程と、を含む。
これにより、外筒リングの端部への加熱に応じてこの端部側が内径方向に倒れ込むことにより、外筒リングの内周に配されたコアを固定することができる。
【発明の効果】
【0009】
本開示よれば、低コストで実行可能であり、鉄損を抑制した状態でコアを固定することができるモータ装置の製造方法を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
図1】本開示にかかるモータ装置の図である。
図2】本開示にかかるモータ装置の製造方法の流れを示す図である。
図3】本開示にかかる外筒リングの上下両方を縮径させたモータ装置の図である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
実施の形態1
以下、図面を参照して本実施の形態にかかるモータ装置について説明する。図1は、モータ装置1の構成の一例を示した図であり、図1(a)はモータ装置1の上面図であり、図1(b)はモータ装置1を側方からの視点で示した断面図である。また、図1(c)は、後述するモータ装置1の下部がTAケース2に対して固定された状態の一例を、側方からの視点の断面で示した図である。
【0012】
モータ装置1は、コア11と、コア11を内周に配する外筒リング12と、を備える。なお図1(a)及び図1(b)に示すように、コア11を形成している積層鋼板の積層方向である軸方向は上下方向(Z方向)であるものとし、コア11及び外筒リング12の径方向をXY方向とする。なお、X方向、Y方向及びZ方向は互いに直交する方向であって、X方向及びY方向は水平方向である。なお以下では、上下方向のことを高さと記載する場合がある。
【0013】
コア11は、複数の分割コアの組み合わせにより構成されている。例えば、コア11を構成する分割コアを、分割コア21~24として説明する。コア11は、分割コア21~24を組み合わせることにより、1つのコア11を構成している。なお以下では、コア11の径の長さは240mmであるものとして説明する。
【0014】
ここでは、分割コア21~24は、夫々が軸方向に積層された電磁鋼板31により形成されている。これにより、分割コア21~24の組み合わせによって構成されたコア11も、電磁鋼板31が積層されて構成されているものとする。また、コア11の軸方向における端部のうち、利用時に上側に配される端部を上端部11a、下側に配される端部を下端部11bとして説明する。
【0015】
外筒リング12は、複数のコアを内周側で固定する筒状であって、分割コア21~24を組み合わせて1つのコア11を形成する場合に、電磁鋼板31の積層方向である軸方向において、コア11より長く形成されている。なお、外筒リング12の軸方向における端部のうち、利用時に上側に配される端部を上端部12a、下側に配される端部を下端部12bとして説明する。
【0016】
ここでは図1(b)及び図1(c)に示すように、コア11の下端部11bと、外筒リング12の下端部12bの高さが揃うように配された場合に、コア11の上端部11aより上方に、外筒リング12の上端部12aが配される。このようにして、外筒リング12は、コア11の電磁鋼板31の積層方向である軸方向において、コア11より長く形成されているとともに、コア11の上端部11aより上方に突出している。
【0017】
なお以下では、外筒リング12の内周の径の長さは240mmであるものとして説明する。この場合、外筒リング12の周の長さは753.6mmである。
【0018】
さらに、外筒リング12は、内周面の一部において周方向に沿って捨てビード部41が形成されている。典型的には、捨てビード部41は、外筒リング12の内周にコア11が配された際に、外筒リング12の内周に周方向に延在して形成されている。なお、捨てビード部41は、後述するように外筒リング12の上端部12aが加熱された場合に、収縮する。
【0019】
次に、図2を参照して、モータ装置1の製造方法の一例について説明する。図2(a)~図2(c)は、モータ装置1の製造の工程を示したモータ装置1の上面図及び側面からの視点の断面図である。なお図2では、コア11は1つのコアであるものとして、電磁鋼板31の記載や分割コア21~24の記載は省略する。
【0020】
図2(a)に示すように、外筒リング12の内周にコア11を挿入する。ここで、外筒リング12の内径とコア11の外径の値がほぼ同じ長さで合って、クリアランスは小さいほうが望ましい。
【0021】
次に、図2(b)に示すように、外筒リング12ごとモータ装置1を上下反転し、下方に配されている外筒リング12の上端部12aの加熱を行う。ここで、モータ装置1の上下反転は、上端部12aの加熱としてアーク溶接を実行した場合に、スパッタがコア11に付着して錆びることを防止するために行うものである。
【0022】
ここでアーク溶接は、TIG、MIG、MAGのいずれでもよく、あるいはレーザ照射によるものであっても良い。すなわち、外筒リング12の上端部12aを加熱して、捨てビード部41を一度溶融させて冷却し、収縮させることが出来れば溶接方法は何でもよい。なお、この加熱は、外筒リング12の上端部12aのうち、コア11を形成している電磁鋼板31に熱が伝わらない部分で行われる。
【0023】
ここで図2(c)は、モータ装置1が元の状態となるように、図2(b)の状態から再度上下反転させた図である。図2(c)に示すように、外筒リング12では、捨てビード部41が加熱により縮むことにより、上端部12a側が内径側に向かって倒れる。このとき上端部12aでは、加熱されていない部分も共ズレで倒れる倒れ込み状態となる。
【0024】
具体的には、外筒リング12は、溶接により周方向に0.75mm縮んだ状態となることで径方向に0.24mm縮んだ状態となり、上端部12aが内径側に向かって倒れ込み状態となる。
【0025】
このときコア11には、外筒リング12の上端部12aの倒れ込みが伝播し、外筒リング12からコア11に向けて圧縮応力が発生する。コア11は、外筒リング12からのこの圧縮応力を受けて、外筒リング12との間で固定されるとともに、分割コア21~24同士も固定される。
【0026】
このように、外筒リング12の一端部側を溶融させて熱収縮させることで、この端部が内径側に倒れ込み、分割コア21~24を固定することができる。言い換えると、外筒リング12の上端部12aへの加熱に応じて、上端部12a側が内径方向に倒れ込むことにより、外筒リング12の内周に配されたコア11を固定することができる。
【0027】
したがって、低コストで実行可能であり、鉄損を抑制した状態でコアを固定することができるモータ装置の製造方法を提供することができる。
【0028】
なお、外筒リング12の上端部12aへの加熱は、捨てビード部41の溶融量が少なくなるレーザ溶接に比べて、TIGのようなアーク溶接を行う方が望ましい。ただし、外筒リング12の上端部12aは高温となるため、その熱がコア11に伝播しないように、コア11の上端部11aから十分に離れた部分を溶接する必要がある。一例として、コア11の電磁鋼板31の絶縁被膜は200℃程度の温度までは問題無いため、この温度以上とならない状態で外筒リング12の上端部12aを加熱できればよい。
【0029】
また、外筒リング12では、捨てビード部41の溶融量が多いほど、コア11に対する固定力が発生する。したがって作業者は、外筒リング12からコア11への必要となる固定力の大きさから、アーク溶接の溶け込み深さの調整をすることができる。なお、アーク溶接にかかる電圧や電流の大きさの調整についても同様であり、作業者は、必要となる固定力の大きさに基づいて、最適な溶接条件となるように電圧や電流を調整できる。
【0030】
なお、図1図2において、捨てビード部41は、外筒リング12の上端部12aから、コア11の上端部11aまで上下方向に長く設けられているように記載したが、捨てビード部41の配置はこれらに限られない。
【0031】
例えば捨てビード部41は、固定力が小さくて良いのであれば、内周の360°のうちの120°だけ等限定的な長さで設けておき、溶接による縮径を行っても良い。極論として外筒リング12は、捨てビード部41を用いた縮径に際して、点付けの溶接のみとすることも可能である。
【0032】
なお、本発明は上記実施の形態に限られたものではなく、趣旨を逸脱しない範囲で適宜変更することが可能である。すなわち上記の記載は、説明の明確化のため、適宜、省略及び簡略化がなされており、当業者であれば、実施形態の各要素を、本発明の範囲において容易に変更、追加、変換することが可能である。
【0033】
図2では外筒リング12の上端部12aのみを加熱して内径方向に収縮させるものとして説明したが、図3に示すように、外筒リング12の上端部12aの下端部12bの両方について加熱して、内径方向にそれぞれ縮管させることも可能である。
【0034】
この場合には、外筒リング12の上端部12a及び下端部12bのそれぞれを溶接したものを、アルミダイカスト製のTAケース2に圧入固定して利用することができる。さらに、これに樹脂を注型して樹脂でくるんだ状態として、モータ装置として利用することができる。
【0035】
なお、分割コア21~24については、締め代が5~10μm程度あれば十分であるが、コアの大きさやモータ振動の大きさによって更なる固定力を求められることが考えられるが、この場合には締め代を増やすなどの対応を行うことができる。締め代は、締まり嵌めでもよく、中間嵌めでもよく、製品に応じて任意に変更可能である。
【0036】
また、分割コア21~24を組み合わせて形成した1つのコア11として外筒リング12内に配しておき、外筒リング12を加熱してコア11を固定するものとして説明したが、コア11については、分割コアではない1体のコアであっても良い。
【符号の説明】
【0037】
1 モータ装置
2 TAケース
11 コア
12 外筒リング
21~24 分割コア
31 電磁鋼板
41 捨てビード部
図1
図2
図3