(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2025011895
(43)【公開日】2025-01-24
(54)【発明の名称】トンネル磁気抵抗センサおよびその製造方法
(51)【国際特許分類】
H10N 50/10 20230101AFI20250117BHJP
H10N 50/20 20230101ALI20250117BHJP
H10N 50/01 20230101ALI20250117BHJP
H01F 10/16 20060101ALI20250117BHJP
【FI】
H10N50/10 M
H10N50/20
H10N50/01
H01F10/16
【審査請求】未請求
【請求項の数】6
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023114308
(22)【出願日】2023-07-12
(71)【出願人】
【識別番号】519062764
【氏名又は名称】スピンセンシングファクトリー株式会社
(71)【出願人】
【識別番号】504157024
【氏名又は名称】国立大学法人東北大学
(74)【代理人】
【識別番号】100143834
【弁理士】
【氏名又は名称】楠 修二
(72)【発明者】
【氏名】中野 貴文
(72)【発明者】
【氏名】藤原 耕輔
(72)【発明者】
【氏名】熊谷 静似
(72)【発明者】
【氏名】大兼 幹彦
【テーマコード(参考)】
5E049
5F092
【Fターム(参考)】
5E049AA01
5E049AA04
5E049BA16
5F092AA08
5F092AA11
5F092AB01
5F092AC12
5F092BB04
5F092BB10
5F092BB17
5F092BB23
5F092BB36
5F092BB43
5F092BC07
5F092BC08
5F092BC18
5F092BE06
5F092BE25
5F092CA25
5F092CA26
(57)【要約】
【課題】耐熱性を向上させることができ、TMR比および感度をより高めることができるトンネル磁気抵抗センサおよびその製造方法を提供する。
【解決手段】磁化方向が固定されている固定層15と、磁化方向が変化可能な自由層13と、非磁性体を含み、固定層15と自由層13との間に配置された障壁層14とを有している。自由層13は、障壁層14の側に配置された第1強磁性層23と、不純物が添加された軟磁性体から成る軟磁性層21とを有している。第1強磁性層23は、CoFeBから成り、軟磁性層21は、母材のCoFeSiBに、不純物としてTi、V、Cr、Zr、Nb、Mo、Hf、Ta、Wのうちの少なくとも1つ以上が添加された軟磁性体から成ることが好ましい。トンネル磁気抵抗センサ10は、固定層15と障壁層14と自由層13とを成膜した後、325℃乃至425℃で熱処理を行うことにより製造される。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
磁化方向が固定されている固定層と、
磁化方向が変化可能な自由層と、
非磁性体を含み、前記固定層と前記自由層との間に配置された障壁層とを有し、
前記自由層は、前記障壁層側に配置された強磁性層と、前記強磁性層の前記障壁層とは反対側に配置され、不純物が添加された軟磁性体から成る軟磁性層とを有することを
特徴とするトンネル磁気抵抗センサ。
【請求項2】
前記強磁性層は、CoFeBから成り、
前記軟磁性層は、母材のCoFeSiBに、前記不純物としてTi、V、Cr、Zr、Nb、Mo、Hf、Ta、Wのうちの少なくとも1つ以上が添加された軟磁性体から成ることを
特徴とする請求項1記載のトンネル磁気抵抗センサ。
【請求項3】
前記軟磁性層は、前記母材に対して、前記不純物を20at%以下で含んでいることを特徴とする請求項2記載のトンネル磁気抵抗センサ。
【請求項4】
前記固定層は、CoFeBから成り、
前記障壁層は、MgOから成ることを
特徴とする請求項2記載のトンネル磁気抵抗センサ。
【請求項5】
前記軟磁性層は、アモルファス構造を成していることを特徴とする請求項1記載のトンネル磁気抵抗センサ。
【請求項6】
請求項1乃至5のいずれか1項に記載のトンネル磁気抵抗センサを製造するためのトンネル磁気抵抗センサの製造方法であって、
前記固定層と前記障壁層と前記自由層とを成膜した後、325℃乃至425℃で熱処理を行うことを
特徴とするトンネル磁気抵抗センサの製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、トンネル磁気抵抗センサおよびその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
磁気抵抗効果素子を利用した磁気センサとして、トンネル磁気抵抗(TMR)素子のTMR効果等を利用したトンネル磁気抵抗センサ(TMRセンサ)があり、その一つとして、例えば、CoFeB/MgO/CoFeBの三層構造から成る磁気トンネル接合(MTJ)素子を、優れた軟磁気特性を示すCoFeSiB層と組み合わせたトンネル磁気抵抗センサが、本発明者等により開発されている(例えば、非特許文献1、2、特許文献1、2参照)。このトンネル磁気抵抗センサは、MTJ素子の大きなTMR比とCoFeSiB層の小さな異方性磁界とが同時に得られるため、人間の生体磁場を検出可能な程に高い感度を有している(例えば、非特許文献3乃至6参照)。
【0003】
また、従来、GIGSセンサのヨークに利用する軟磁性材料であるアモルファスCoFeSiB薄膜に、不純物元素としてTa、Hfを添加したとき、その結晶化温度が向上し、熱処理後にも軟磁気特性が維持されることが報告されている(例えば、非特許文献7参照)。また、アモルファスCoFeB薄膜に、Ta、Hfを添加しても、その結晶化温度が向上することが報告されている(例えば、非特許文献8乃至10参照)。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0004】
【非特許文献1】D. Kato, M. Oogane, K. Fujiwara, T. Nishikawa, H. Naganuma, and Y. Ando, “Fabrication of Magnetic Tunnel Junctions with Amorphous CoFeSiB Ferromagnetic Electrode for Magnetic Field Sensor Devices”, Appl. Phys. Express, 2013, 6, 103004
【非特許文献2】T. Nakano, K. Fujiwara, S. Kumagai, Y. Ando, and M. Oogane, “TaFeB spacer for soft magnetic composite free layer in CoFeB/MgO/CoFeB-based magnetic tunnel junction”, Appl. Phys. Lett. 2023, 122, 072405
【非特許文献3】K. Fujiwara, M. Oogane, A. Kanno, M. Imada, J. Jono, T. Terauchi, T. Okuno, Y. Aritomi, M. Morikawa, M. Tsuchida, N. Nakasato, and Y. Ando, “Magnetocardiography and magnetoencephalography measurements at room temperature using tunnel magneto-resistance sensors”, Appl. Phys. Express, 2018, 11, 023001
【非特許文献4】M. Oogane, K. Fujiwara, A. Kanno, T. Nakano, H. Wagatsuma, T. Arimoto, S. Mizukami, S. Kumagai, H. Matsuzaki, N. Nakasato, and Y. Ando, “Sub-pT magnetic field detection by tunnel magneto-resistive sensors”, Appl. Phys. Express, 2021, 14, 123002
【非特許文献5】A. Kanno, N. Nakasato, M. Oogane, K. Fujiwara, T. Nakano, T. Arimoto, H. Matsuzaki, and Y. Ando, “Scalp attached tangential magnetoencephalography using tunnel magneto-resistive sensors”, Sci. Rep., 2022, 12, 6106
【非特許文献6】K. Kurashima, M. Kataoka, T. Nakano, K. Fujiwara, S. Kato, T. Nakamura, M. Yuzawa, M. Masuda, K. Ichimura, S. Okatake, Y. Moriyasu, K. Sugiyama, M. Oogane, Y. Ando, S. Kumagai, H. Matsuzaki, and H. Mochizuki, “Development of Magnetocardiograph without Magnetically Shielded Room Using High-Detectivity TMR Sensors”, Sensors, 2023, 23, 646
【非特許文献7】M. Jimbo, Y. Fujiwara, and T. Shimizu, “Improvement of thermal stability of amorphous CoFeSiB thin films”, J. Appl. Phys., 2015, 117, 17A313
【非特許文献8】J.P. Pellegren and V.M. Sokalski, “Thickness and Interface-Dependent Crystallization of CoFeB Alloy Thin Films”, IEEE Trans. Magn., 2015, 51, 3400903
【非特許文献9】Y. Choi, T. Nakatani, J.C. Read, M.J. Carey, D.A. Stewart, and J.R. Childress, “Enhancement of current-perpendicular-to-plane giant magnetoresistance by insertion of amorphous ferromagnetic underlayer in Heusler alloy-based spin-valve structures”, Appl. Phys. Express, 2017, 10, 013006
【非特許文献10】M. Rasly, T. Nakatani, J. Li, H. Sepehri-Amin, H. Sukegawa, and Y. Sakuraba, “Magnetic, magnetoresistive and low-frequency noise properties of tunnel magnetoresistance sensor devices with amorphous CoFeBTa soft magnetic layers”, J. Phys. D. Appl. Phys., 2021, 54, 095002
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2020-136551号公報
【特許文献2】特開2020-136552号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
トンネル磁気抵抗センサでは、製造時の熱処理温度を高くすると、例えばMTJ素子のCoFeB/MgOの界面における固相エピタキシーが促進されるため、TMR比が高くなると共に、センサの感度も高くなることが期待できる。しかしながら、非特許文献1乃至6や、特許文献1および2に記載のトンネル磁気抵抗センサでは、製造時に、CoFeSiB層にその結晶化温度(~300℃)を超える高温の熱処理を施すと、軟磁気特性を失い、異方性磁界が増大して、センサの感度が低下してしまうため、熱処理温度を高くするのには限界があるという課題があった。
【0007】
本発明は、このような課題に着目してなされたもので、耐熱性を向上させることができ、TMR比および感度をより高めることができるトンネル磁気抵抗センサおよびその製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記目的を達成するために、本発明に係るトンネル磁気抵抗センサは、磁化方向が固定されている固定層と、磁化方向が変化可能な自由層と、非磁性体を含み、前記固定層と前記自由層との間に配置された障壁層とを有し、前記自由層は、前記障壁層側に配置された強磁性層と、前記強磁性層の前記障壁層とは反対側に配置され、不純物が添加された軟磁性体から成る軟磁性層とを有することを特徴とする。
【0009】
本発明に係るトンネル磁気抵抗センサは、自由層の軟磁性層に不純物を添加することにより、軟磁性層の結晶化温度を高めることができ、耐熱性を向上させることができる。このため、製造時の熱処理温度を高めることができ、固定層と障壁層との界面や、障壁層と自由層との界面の固相エピタキシーを促進して、TMR比をより高めることができる。また、自由層の軟磁性層の異方性磁界を低減して、軟磁気特性をさらに向上させることができるため、感度をより高めることができる。
【0010】
本発明に係るトンネル磁気抵抗センサで、前記強磁性層は、CoFeBから成り、前記軟磁性層は、母材のCoFeSiBに、前記不純物としてTi、V、Cr、Zr、Nb、Mo、Hf、Ta、Wのうちの少なくとも1つ以上が添加された軟磁性体から成ることが好ましい。この場合、TMR比および感度を特に高めることができる。また、この場合、軟磁性層は、不純物を多く含むほど、TMR比および感度が高くなるため、母材に対して、不純物を10at%以下で含んでいてもよく、15at%以下で含んでいてもよく、さらに20at%以下で含んでいてもよい。
【0011】
本発明に係るトンネル磁気抵抗センサで、前記固定層は、CoFeBから成り、前記障壁層は、MgOから成ることが好ましい。また、本発明に係るトンネル磁気抵抗センサで、前記軟磁性層は、アモルファス構造を成していることが好ましい。これらの場合にも、TMR比および感度を特に高めることができる。
【0012】
本発明に係るトンネル磁気抵抗センサの製造方法は、本発明に係るトンネル磁気抵抗センサを製造するためのトンネル磁気抵抗センサの製造方法であって、前記固定層と前記障壁層と前記自由層とを成膜した後、325℃乃至425℃で熱処理を行うことを特徴とする。
【0013】
本発明に係るトンネル磁気抵抗センサの製造方法は、自由層の軟磁性層に不純物が添加されているため、不純物が添加されていない軟磁性層の結晶化温度よりも高い325℃乃至425℃で熱処理を行うことができる。このため、固定層と障壁層との界面や、障壁層と自由層との界面の固相エピタキシーを促進することができ、トンネル磁気抵抗センサのTMR比をより高めることができる。また、自由層の軟磁性層の異方性磁界を低減して、軟磁気特性をさらに向上させることができるため、トンネル磁気抵抗センサの感度をより高めることができる。
【発明の効果】
【0014】
本発明によれば、耐熱性を向上させることができ、TMR比および感度をより高めることができるトンネル磁気抵抗センサおよびその製造方法を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【
図1】本発明の実施の形態のトンネル磁気抵抗センサの縦断面図である。
【
図2】本発明の実施の形態のトンネル磁気抵抗センサの、自由層の軟磁性層(CoFeSiB)
1-xTa
xに対し、(a)x=0.0 at.%のときの熱処理温度ごとの磁化曲線、(b)x=4.1 at.%のときの熱処理温度ごとの磁化曲線、(c)x=7.9 at.%のときの熱処理温度ごとの磁化曲線、(d)飽和磁化M
sとxとの関係を示すグラフ、(e)異方性磁場H
kとxとの関係を示すグラフ、(f)一軸磁気異方性定数K
uと飽和磁化M
sとの関係を示すグラフである。
【
図3】本発明の実施の形態のトンネル磁気抵抗センサの、自由層の軟磁性層の(CoFeSiB)
1-xTa
xに対し、(a)x=0.0 at.%の熱処理前(As depo.)および500℃での熱処理後のXRDスペクトル、(b)x=7.9 at.%の熱処理前(As depo.)および500℃での熱処理後のXRDスペクトル、(c)x=7.9 at.%の熱処理前のAFM(原子間力顕微鏡)像である。
【
図4】本発明の実施の形態のトンネル磁気抵抗センサに対し、(a)自由層の軟磁性層(CoFeSiB)
1-xTa
xのxが、x=0.0 at.%のときの熱処理温度ごとの磁気抵抗曲線、(b)x=2.8 at.%のときの熱処理温度ごとの磁気抵抗曲線、(c)x=0.0 at.%の熱処理温度が325℃のとき、および、x=2.8, 4.1, 5.9 at.%の熱処理温度が400℃のときの磁気抵抗曲線、(d) (c)から求めた感度Sおよび、その最大値S
max(挿入図)を示すグラフである。
【
図5】本発明の実施の形態のトンネル磁気抵抗センサに対し、(a)x=0.0 at.%の熱処理温度が400℃のときの走査型透過電子顕微鏡(STEM)像、(b)x=2.8 at.%の熱処理温度が400℃のときのSTEM像、(c) (a)の一部を拡大したSTEM像および、(a)のアスタリスクの位置でのNBDパターン(挿入図)、(d) (b)の一部を拡大したSTEM像および、(b)のアスタリスクの位置でのNBDパターン(挿入図)である。
【発明を実施するための形態】
【0016】
以下、図面に基づいて、本発明の実施の形態について説明する。
図1乃至
図5は、本発明の実施の形態のトンネル磁気抵抗センサ(TMRセンサ)を示している。
図1に示すように、トンネル磁気抵抗センサ10は、基板11と下部電極層12と自由層13と障壁層14と固定層15と上部電極層16とを有している。
【0017】
トンネル磁気抵抗センサ10は、物理蒸着法であるスパッタリングや分子線エピタキシャル成長法(MBE法)などにより、基板11の上に、下部電極層12、自由層13、障壁層14、固定層15、上部電極層16の順番で成膜して形成されている。
【0018】
基板11は、Siウエハや熱酸化膜付きSiウエハから成っている。下部電極層12は、基板11の表面に設けられている。下部電極層12は、導電性の材料であれば、いかなるものから成っていてもよい。下部電極層12は、例えば、Cu、Ta、Ruや、それらの積層構造から成っている。
図1に示す具体的な一例では、下部電極層12は、Ta/Ru/Taから成っている。
【0019】
自由層13は、下部電極層12の基板11とは反対側の表面に設けられている。自由層13は、下部電極層12の上に、軟磁性層21と第1非磁性層22と第1強磁性層23とを、この順番で積層した構造を有している。軟磁性層21は、外部からの磁束の影響を受けて磁化方向が変化可能になっている。軟磁性層21は、不純物が添加されたアモルファス構造の軟磁性体から成り、30nm~200nm程度の層厚を有することが好ましい。
図1に示す具体的な一例では、軟磁性層21は、母材のCoFeSiBに、不純物としてTaが添加された軟磁性体から成り、層厚が100nmである。なお、不純物は、Taに限らず、例えば、Ti、V、Cr、Zr、Nb、Mo、Hf、Wであってもよい。また、不純物は、母材に対して、20at%以下で含んでいることが好ましい。
【0020】
第1非磁性層22は、軟磁性層21と第1強磁性層23とを磁気的に結合すると共に、軟磁性層21を第1強磁性層23の結晶構造から切り離すために設けられている。第1非磁性層22は、例えば、Ta、Mo、W、Ruなどの非磁性体や、それらを含む合金の非磁性体から成り、0.2~1nm程度の層厚を有することが好ましい。
図1に示す具体的な一例では、第1非磁性層22は、Taから成り、層厚が0.2nmである。
【0021】
第1強磁性層23は、外部からの磁束の影響を受けて磁化方向が変化可能になっている。第1強磁性層23は、例えば、CoFeBなどの強磁性体から成り、1~5nm程度の層厚を有することが好ましい。
図1に示す具体的な一例では、第1強磁性層23は、CoFeBから成り、層厚が3nmである。
【0022】
障壁層14は、自由層13の下部電極層12とは反対側の表面、すなわち自由層13の第1強磁性層23の第1非磁性層22とは反対側の表面に設けられている。障壁層14は、例えば、MgO、Mg-Al-O、AlOx等の絶縁材料から成っており、1nm~5nm程度の層厚を有することが好ましい。
図1に示す具体的な一例では、障壁層14は、MgOから成っている。
【0023】
固定層15は、障壁層14の自由層13とは反対側の表面に、自由層13との間に障壁層14を挟むよう設けられている。固定層15は、障壁層14の上に、第2強磁性層24と第2非磁性層25と第3強磁性層26と固定化促進層27とを、この順番で積層した構造を有している。第2強磁性層24は、磁化方向が固定されている。第2強磁性層24は、例えば、CoFeBなどの強磁性体から成り、1nm~5nm程度の層厚を有することが好ましい。
図1に示す具体的な一例では、第2強磁性層24は、CoFeBから成り、層厚が3nmである。
【0024】
第2非磁性層25は、第2強磁性層24と第3強磁性層26とを磁気的に結合すると共に、第2強磁性層24を第3強磁性層26の結晶構造から切り離すために設けられている。第2非磁性層25は、例えば、IrやRuなどの非磁性体から成り、0.2~1nm程度の層厚を有することが好ましい。また、第2非磁性層25は、例えば、第2強磁性層24の上部にTa、Mo、W等からなる非磁性層を設け、その上にCoFe等の強磁性層を配置し、さらにその上にIrやRuなどの非磁性層を設けた構造であってよい。
図1に示す具体的な一例では、第2非磁性層25は、Ruから成り、層厚が0.9nmである。
【0025】
第3強磁性層26は、磁化方向が固定されている。第3強磁性層26は、例えば、CoFeなどの強磁性体から成り、1nm~5nm程度の層厚を有することが好ましい。
図1に示す具体的な一例では、第3強磁性層26は、CoFeから成り、層厚が2nmである。
【0026】
固定化促進層27は、第3強磁性層26の固定化を促進するために設けられている。固定化促進層27は、例えば、IrMn、PtMnなどの反強磁性体から成り、5nm~20nm程度の層厚を有している。
図1に示す具体的な一例では、固定化促進層27は、IrMnから成り、層厚が10nmである。
【0027】
上部電極層16は、固定化促進層27の第3強磁性層26とは反対側の表面に設けられている。上部電極層16は、導電性の材料であれば、いかなるものから成っていてもよい。上部電極層16は、例えば、Ta、Ru、Ptや、それらの積層構造から成っている。
図1に示す具体的な一例では、上部電極層16は、Ta/Ruから成っている。
【0028】
トンネル磁気抵抗センサ10は、本発明の実施の形態のトンネル磁気抵抗センサの製造方法により、所望の結晶構造を得るために、各層の成膜後に熱処理を行っている。熱処理温度は、不純物が添加されていない軟磁性層の結晶化温度よりも高い、325℃乃至425℃である。
【0029】
次に、作用について説明する。
トンネル磁気抵抗センサ10は、自由層13の軟磁性層21に不純物を添加することにより、軟磁性層21の結晶化温度を高めることができ、耐熱性を向上させることができる。このため、製造時の熱処理温度を高めることができ、固定層15と障壁層14との界面や、障壁層14と自由層13との界面の固相エピタキシーを促進して、TMR比をより高めることができる。また、自由層13の軟磁性層21の異方性磁界を低減して、軟磁気特性をさらに向上させることができるため、感度をより高めることができる。
【実施例0030】
自由層13の軟磁性層21の(CoFeSiB)1-xTax (以下では、「CoFeSiB(Ta)」ともいう)を製造して、磁気特性等を調べた。試験試料として、基板11として熱酸化されたSi(100)基板を用い、その上に、スパッタリング法により、Ta (5)/CoFeSiB(Ta) (30)/Ta (2) の順に各層を成膜した。なお、括弧内の数字は、膜厚(単位;nm)である。また、軟磁性層21CoFeSiB(Ta)を成膜する際には、ターゲットとしてCo70.5Fe4.5Si15B10を用いたコスパッタ法により、Taの含有率xを変えたものを5種類製造した。製造した各試験試料は、x=0.0, 2.8, 4.1, 5.9, 7.9 at.%である。また、各層を成膜後、一軸の磁気異方性を誘導するために、300℃~500℃で磁場中熱処理を行った。
【0031】
各試験試料について、振動試料型磁力計(VSM)により、磁化困難軸に平行な面内磁場での磁化曲線(M-H曲線)を求めた。x=0.0, 4.1, 7.9 at.%の各試験試料の、熱処理温度が300℃および400℃のときの磁化曲線を、それぞれ
図2(a)~(c)に示す。
図2(a)に示すように、x=0.0 at.%の試験試料では、熱処理温度が300℃のとき、保磁力H
cが0.7 Oe、異方性磁場H
kが9.3 Oeであり、軟磁気特性を有していたが、熱処理温度が400℃のときには、保磁力が690 Oeとなり、軟磁気特性が失われていることが確認された。
【0032】
図2(b)に示すように、x=4.1 at.%の試験試料では、熱処理温度が300℃のとき、異方性磁場H
kが2.6 Oeと小さくなっており、また、熱処理温度が400℃のとき、異方性磁場H
kが10 Oe程度であるが、保磁力が小さくなっており、いずれも軟磁気特性を有していることが確認された。
図2(c)に示すように、x=7.9 at.%の試験試料では、熱処理温度にかかわらず、異方性磁場H
kが1 Oe以下で非常に小さくなっており、磁気異方性がほとんど消滅していることが確認された。
【0033】
各試験試料の磁化曲線から、飽和磁化M
s、異方性磁場H
k、および一軸磁気異方性定数K
u(=M
s×H
k/2)を求め、
図2(d)~(f)に示す。
図2(d)に示すように、飽和磁化M
sは、熱処理温度にかかわらず、Taの含有率xが大きくなるのに従って、直線状に低下していくことが確認された。
図2(e)に示すように、異方性磁場H
kも、熱処理温度にかかわらず、Taの含有率xが大きくなるのに従って、低下していくことが確認された。また、その低下速度は、熱処理温度が400℃のときの方が、300℃のときよりも大きいことから、Taの増加と共に、急速に耐熱性が向上していくことが確認された。また、
図2(f)に示すように、一軸磁気異方性定数K
uは、熱処理温度にかかわらず、飽和磁化M
sが低下するのに従って、対数スケールで直線状に小さくなっていくことが確認された。
【0034】
次に、x=0.0 at.%および7.9 at.%の試験試料の、熱処理前(As depo.)、500℃での熱処理後のものに対して、X線回折法による測定を行った。それぞれのXRDスペクトルを、
図3(a)および(b)に示す。
図3(a)および(b)に示すように、Taを含んでいないもの(x=0.0 at.%)と、Taを含んでいるもの(x=7.9 at.%)との間には、明確な違いは認められなかった。また、Taの含有率xの値や熱処理温度にかかわらず、2θ=44°~49°の間に、ブロードなピークが認められていることから、軟磁性層21のCoFeSiB(Ta)は、アモルファスまたはナノ結晶質の構造を有していると考えられる。
【0035】
x=7.9 at.%の熱処理前の試験試料のAFM(原子間力顕微鏡)像を、
図3(c)に示す。
図3(c)に示すように、軟磁性層21CoFeSiB(Ta)の表面は、非常になめらかであり、算術平均表面粗さ(R
a)および二乗平均平方根表面粗さ(R
q)は、それぞれ0.16 nmおよび0.20 nmであることが確認された。この値は、Taを含んでいない試験試料(x=0.0 at.%)の表面粗さと、ほぼ同じ値である。