(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2025011923
(43)【公開日】2025-01-24
(54)【発明の名称】歯付円筒体形成方法
(51)【国際特許分類】
B21H 5/02 20060101AFI20250117BHJP
B21H 5/00 20060101ALI20250117BHJP
B21D 22/16 20060101ALI20250117BHJP
B21D 22/26 20060101ALI20250117BHJP
【FI】
B21H5/02
B21H5/00 B
B21D22/16 B
B21D22/26 C
【審査請求】未請求
【請求項の数】3
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023114346
(22)【出願日】2023-07-12
(71)【出願人】
【識別番号】399131563
【氏名又は名称】株式会社カネミツ
(74)【代理人】
【識別番号】100087653
【弁理士】
【氏名又は名称】鈴江 正二
(74)【代理人】
【識別番号】100142376
【弁理士】
【氏名又は名称】吉村 哲郎
(72)【発明者】
【氏名】藤井 直樹
【テーマコード(参考)】
4E137
【Fターム(参考)】
4E137AA08
4E137BB01
4E137CA06
4E137CA24
4E137EA18
4E137FA08
4E137FA22
4E137GA12
4E137GA16
4E137GB20
(57)【要約】
【課題】 円筒体の他端に鍔部が設けられる場合において加工の途中で亀裂が生じる可能性を低くする。
【解決手段】 歯付円筒体形成方法は、素形材形成工程と歯形成工程とを備える。素形材形成工程において、素形材が形成される。その素形材は円筒状の胴部20と鍔部22とを備える。その胴部20が、歯形成区間130と他端区間132とを有している。歯形成工程において、少なくとも他端区間132のうち胴部20の一端側の端が可動状態でありかつ鍔部22が固定された状態で、外周に配置された歯形成用金型108に歯形成区間130が押し付けられることにより、歯形成区間130に対し歯136が形成される。
【選択図】
図5
【特許請求の範囲】
【請求項1】
円筒状の胴部を備える素形材が形成される素形材形成工程を備え、
前記胴部が、
一端に配置される区間である歯形成区間と、
前記歯形成区間よりも他端側に配置される他端区間とを有しており、
前記歯形成区間に対し塑性加工により歯車の歯が形成される歯形成工程を前記素形材形成工程に加えて備えている歯付円筒体形成方法であって、
前記素形材が、前記胴部の前記他端の外縁に配置される鍔部を前記胴部に加えて備え、
前記素形材形成工程が、
一端および他端が開口する筒状部ならびに前記鍔部が形成されるよう金属素材が加工を受ける素材加工工程と、
前記歯形成工程に先立ち前記筒状部に前記他端区間が形成される他端区間形成工程とを有しており、
前記歯形成工程において、少なくとも前記他端区間のうち前記胴部の一端側の端が可動状態でありかつ前記鍔部が固定された状態で、外周に配置された型に前記歯形成区間が押し付けられることにより、前記歯形成区間に対し前記歯が形成されることを特徴とする歯付円筒体形成方法。
【請求項2】
前記歯形成工程において、座屈が防止されるよう前記胴部の他端が支持され少なくとも前記他端区間のうち前記胴部の一端側の端が可動状態でありかつ前記鍔部が固定される状態で、前記胴部の一端側から順次前記外周に配置された型に前記歯形成区間が押し付けられることにより、前記歯形成区間に対し前記歯が形成されることを特徴とする請求項1に記載の歯付円筒体形成方法。
【請求項3】
前記歯形成工程において、前記胴部の他端へ円柱状の部材が挿入されることにより前記胴部の他端が支持されることを特徴とする請求項2に記載の歯付円筒体形成方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、歯付円筒体形成方法に関する。
【背景技術】
【0002】
特許文献1は、歯付円筒体形成方法を開示する。その歯付円筒体形成方法は、素形材形成工程と、歯形成工程とを備える。素形材形成工程において、円筒体が形成されるように金属板が塑性加工を受ける。歯形成工程において、歯形成区間に歯車の歯が形成される。歯形成区間は、円筒体の一端に配置される区間である。歯車の歯は、塑性加工により形成される。素形材形成工程において、歯形成区間、小外径区間、および、段差区間に分かれるように円筒体が形成される。小外径区間は、歯形成区間よりも円筒体の他端側に配置される。小外径区間は、歯形成区間よりも外径が小さい。段差区間は、歯形成区間と小外径区間との間に配置される。段差区間は、歯形成区間と小外径区間との間の段差となる。歯形成工程において、段差区間が支えられ円筒体のうち段差区間よりも円筒体の他端側の部分が宙に浮いた状態で歯形成区間が塑性加工を受ける。特許文献1に開示された歯付円筒体形成方法によれば、加工の途中で亀裂が生じる可能性が低くなる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、特許文献1に開示された発明には、円筒体の他端に鍔部が設けられることによって段差区間を支えることが困難な場合には歯車の歯を形成することが困難になるという問題点がある。
【0005】
本発明の目的は、円筒体の他端に鍔部が設けられる場合において加工の途中で亀裂が生じる可能性を低くする歯付円筒体形成方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上述された目的を達成するために、本発明のある局面に従うと、歯付円筒体形成方法は、素形材形成工程S300,S304を備える。素形材形成工程S300,S304において、素形材12,16が形成される。その素形材12,16は円筒状の胴部20,26を備える。その胴部20,26が、歯形成区間130,230と他端区間132,232とを有している。歯形成区間130,230は、一端に配置される区間である。他端区間132,232は、歯形成区間130,230よりも他端側に配置される。歯付円筒体形成方法は、歯形成工程S302,S306を素形材形成工程S300,S304に加えて備える。歯形成工程S302,S306において、歯形成区間130,230に対し歯車の歯136,138が形成される。歯車の歯136,138は、塑性加工により形成される。素形材12,16が、鍔部22を胴部20,26に加えて備えている。鍔部22は、胴部20,26の他端の外縁に配置される。素形材形成工程S300,S304が、素材加工工程S320と、他端区間形成工程S322,S342とを有している。素材加工工程S320において、一端および他端が開口する筒状部40ならびに鍔部22が形成されるよう金属素材が加工を受ける。他端区間形成工程S322,S342において、歯形成工程S302,S306に先立ち筒状部40に他端区間132,232が形成される。歯形成工程S302,S306において、少なくとも他端区間132,232のうち胴部20,26の一端側の端が可動状態でありかつ鍔部22が固定された状態で、外周に配置された型108,208に歯形成区間130,230が押し付けられることにより、歯形成区間130,230に対し歯136,138が形成される。
【0007】
歯形成工程S302,S306において歯形成区間130,230に対し歯136,138が形成される際、外周に配置された型108,208に歯形成区間130,230が押し付けられる。外周に配置された型108,208に歯形成区間130,230が押し付けられることに伴い、素形材12,16の各部には応力がかかる。歯形成工程S302,S306において歯形成区間130,230に対し歯136,138が形成される際には少なくとも他端区間132,232のうち胴部20,26の一端側の端が可動状態でありかつ鍔部22が固定された状態である。これにより、外周に配置された型108,208に歯形成区間130,230が押し付けられることに伴い素形材12,16の各部にかかる応力は他端区間132,232のうち可動状態の部分において緩和される。素形材12,16の各部にかかる応力の差異が緩和され、応力自体が緩和されるので、加工の途中で亀裂が生じる可能性が低くされる。
【0008】
また、上述された歯形成工程S302において、次に述べられる状態で、胴部20の一端側から順次外周に配置された型108に歯形成区間130が押し付けられることにより、歯形成区間130に対し歯136が形成されることが望ましい。その状態とは、座屈が防止されるよう胴部20が支持され少なくとも他端区間132のうち胴部20の一端側の端が可動状態でありかつ鍔部22が固定される状態である。
【0009】
座屈が防止されるよう胴部20が支持され少なくとも他端区間132のうち胴部20の一端側の端が可動状態でありかつ鍔部22が固定された状態にある。これにより、少なくとも他端区間132のうち胴部20の一端側の端においてはその変位によって素形材12の各部にかかる応力の差異が緩和される。しかも座屈が防止されるよう胴部20が支持される。応力の差異が緩和されるので、素形材12の各部のいずれかにおいて特に大きな応力がかかる可能性を低くし得る。そのような可能性を低くし得るので、加工の途中で亀裂が生じる可能性を低くし得る。しかも、この状態で、外周に配置された型108に対して胴部20の一端側から歯形成区間130が押し付けられる。これにより、形成される歯車のピッチ円径を大きくすることが可能になる。
【0010】
もしくは、上述された歯形成工程S302において、胴部20の他端へ円柱状の部材が挿入されることにより胴部20の他端が支持されることが望ましい。
【0011】
胴部20の他端が支持されるために胴部20の他端へ円柱状の部材が挿入されると、胴部20の他端のうち特定の箇所の支持が脆弱なことに起因した座屈の発生を防止できる。
【発明の効果】
【0012】
本発明によれば、円筒体の他端に鍔部が設けられている場合において加工の途中で亀裂が生じる可能性が低くなる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【
図1】本発明の第1実施形態にかかる歯付円筒体形成方法の各工程が示されるフローチャートである。
【
図2】本発明の第1実施形態にかかる他端区間段差区間形成装置の構成が示される概念図である。
【
図3】本発明の第1実施形態にかかる歯形成装置の構成が示される概念図である。
【
図4】本発明の第1実施形態にかかる他端区間形成工程を実施中の他端区間段差区間形成装置が示される概念図である。
【
図5】本発明の第1実施形態にかかる歯形成工程を実施中の歯形成装置が示される概念図である。
【
図6】本発明の第1実施形態にかかる歯付円筒体の外観が示される概念図である。
【
図7】本発明の第2実施形態にかかる歯付円筒体形成方法の各工程が示されるフローチャートである。
【
図8】本発明の第2実施形態にかかる他端区間段差区間形成装置の構成が示される概念図である。
【
図9】本発明の第2実施形態にかかる歯形成装置の構成が示される概念図である。
【
図10】本発明の第2実施形態にかかる他端区間形成工程を実施中の他端区間段差区間形成装置が示される概念図である。
【
図11】本発明の第2実施形態にかかる歯形成工程を実施中の歯形成装置が示される概念図である。
【
図12】本発明の第2実施形態にかかる歯付円筒体の外観が示される概念図である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下、図面が参照されつつ、本発明の実施形態が説明される。以下の説明では、同一の部品には同一の符号が付されている。それらの名称および機能は同一である。したがって、それらについての詳細な説明は繰返されない。
【0015】
<第1実施形態>
[歯付円筒体形成方法の工程]
図1は、本実施形態にかかる歯付円筒体形成方法の各工程が示されるフローチャートである。
図1に基づいて、本実施形態にかかる歯付円筒体形成方法の各工程が説明される。
【0016】
本実施形態にかかる歯付円筒体形成方法は、素形材形成工程S300と、歯形成工程S302とを備える。素形材形成工程S300において、後述される素形材12が形成される。歯形成工程S302において、塑性加工により後述される歯車の歯136が形成される。本実施形態の場合、素形材12の一端に歯車の歯136が形成される。歯136が形成されると、素形材12は歯形成用金型108から押し出される。
【0017】
本実施形態の場合、素形材形成工程S300が、素材加工工程S320と、他端区間形成工程S322と、段差形成工程S324とを有している。
【0018】
本実施形態の場合、素材加工工程S320において、一端および他端が開口する筒状部40ならびに鍔部22が形成されるよう金属板が塑性加工を受ける。その具体的な手順は周知なのでここではその詳細な説明は繰り返されない。
【0019】
本実施形態の場合、他端区間形成工程S322において、筒状部40のうち他端の端が薄くなるようその筒状部40が塑性加工を受ける。
【0020】
本実施形態の場合、段差形成工程S324において、拡径ローラ74が素形材12のうち次に述べられる箇所を押し均す。その箇所は、他端区間形成工程S322において薄くなった筒状部40の一部区間のうち筒状部40の一端側の端となる箇所である。その後、素形材押出部材78が、鍔部支持部材70から素形材12を押し出す。
【0021】
[歯付円筒体形成方法が実施される際に用いられる装置の構成の説明]
図2は、本実施形態にかかる他端区間段差区間形成装置の構成が示される概念図である。
図2に基づいて、本実施形態にかかる他端区間形成工程S322が実施される際に用いられる装置の構成が説明される。
【0022】
本実施形態の場合、他端区間形成工程S322の実施に用いられる装置は、鍔部支持部材70と、鍔部押さえ部材72,72と、拡径ローラ74,74と、拡径ローラ保持体76と、素形材押出部材78と、図示されない拡径ローラ保持体回転装置と、図示されない上下駆動装置と、図示されない鍔部押さえ駆動装置と、図示されない押出駆動装置とを備える。
【0023】
鍔部支持部材70には、筒状部収容孔90が形成されている。その筒状部収容孔90に、上述された筒状部40が収容される。鍔部支持部材70の上端面92は、上述された鍔部22を支持する。鍔部押さえ部材72は、鍔部22を鍔部支持部材70の上端面92へ押し付ける。これにより、鍔部22が固定されることとなる。
【0024】
拡径ローラ74は、上述された筒状部40の内周面に沿って移動自在となるよう配置される。拡径ローラ74は、拡径ローラ74自身の中心軸を中心に回転自在となっている。拡径ローラ74は、上述された筒状部40を塑性変形させるための部材である。
【0025】
拡径ローラ保持体76は、拡径ローラ74を自転自在に保持する。拡径ローラ保持体76は、力を受けると移動する。これに伴って拡径ローラ74も移動する。さらに、拡径ローラ保持体76は、拡径ローラ保持体76自身の中心軸を中心に回転自在となっている。
【0026】
素形材押出部材78は、鍔部支持部材70の筒状部収容孔90に嵌まった素形材12をその孔から押し出す。
【0027】
拡径ローラ保持体回転装置は、拡径ローラ保持体76が回転するように駆動する。その回転方向は、拡径ローラ保持体76自身の中心軸の周囲を回る方向である。この回転により、拡径ローラ74は公転することとなる。
【0028】
上下駆動装置は、拡径ローラ保持体76が直線方向に移動するよう駆動する。その移動方向は、拡径ローラ保持体76自身の中心軸に沿う方向である。
【0029】
鍔部押さえ駆動装置は、素形材12の鍔部22を鍔部支持部材70の上端面92へ押し付けたりその押し付けを解除したりするよう鍔部押さえ部材72を駆動する。
【0030】
押出駆動装置は、鍔部支持部材70に形成されている上述の筒状部収容孔90から素形材12を押し出すよう素形材押出部材78を駆動する。
【0031】
図3は、本実施形態にかかる歯形成装置の構成が示される概念図である。
図3に基づいて、本実施形態にかかる歯形成工程S302が実施される際に用いられる装置の構成が説明される。
【0032】
本実施形態の場合、歯形成装置は、鍔部支持部材100と、鍔部押さえ部材102,102と、拡径ローラ104,104と、拡径ローラ保持体106と、歯形成用金型108と、座屈防止部材110と、素形材押出部材112と、図示されない拡径ローラ保持体回転装置と、図示されない上下駆動装置と、図示されない鍔部押さえ駆動装置と、図示されない座屈防止部材駆動装置と、図示されない押出駆動装置とを備える。
【0033】
鍔部支持部材100は、素形材12の鍔部22を支持する。鍔部支持部材100には、胴部貫通孔120が形成されている。その胴部貫通孔120を、素形材12の胴部20が貫通する。本実施形態の場合、その貫通の際、その胴部貫通孔120の内周面と胴部20の外周面との間には隙間がある。鍔部支持部材100の上端面122は、素形材12の鍔部22を支持する。鍔部押さえ部材102は、素形材12の鍔部22を鍔部支持部材100の上端面122へ押し付ける。これにより、素形材12の鍔部22が固定されることとなる。
【0034】
拡径ローラ104は、素形材12の胴部20の内周面に沿って移動自在となるよう配置される。拡径ローラ104は、拡径ローラ104自身の中心軸を中心に回転自在となっている。拡径ローラ104は、素形材12の胴部20を塑性変形させるための部材である。
【0035】
拡径ローラ保持体106は、拡径ローラ104を自転自在に保持する。拡径ローラ保持体106は、力を受けると移動する。これに伴って拡径ローラ104も移動する。さらに、拡径ローラ保持体106は、拡径ローラ保持体106自身の中心軸を中心に回転自在となっている。
【0036】
歯形成用金型108には、歯形成区間収容孔126が形成されている。その歯形成区間収容孔126に、素形材12の胴部20のうち後述される歯形成区間130が収容される。その歯形成区間収容孔126の内周面には、歯車の歯の形の凹凸が形成されている。
【0037】
座屈防止部材110は、素形材12の胴部20の他端に挿入される。本実施形態の場合、座屈防止部材110は円柱状の部材である。座屈防止部材110は、歯形成用金型108に嵌まった素形材12が加工を受けている間にその加工に伴なう座屈が防止されるよう胴部20を支持する。
【0038】
素形材押出部材112は、歯形成用金型108に嵌まった素形材12を歯形成用金型108の歯形成区間収容孔126から押し出す。なお、本実施形態の場合、上述された拡径ローラ保持体106は素形材押出部材112の中央に形成されている円筒状空間を貫通する。
【0039】
拡径ローラ保持体回転装置は、拡径ローラ保持体106が回転するように駆動する。その回転方向は、拡径ローラ保持体106自身の中心軸の周囲を回る方向である。この回転により、拡径ローラ104は公転することとなる。
【0040】
上下駆動装置は、拡径ローラ保持体106が直線方向に移動するよう駆動する。その移動方向は、拡径ローラ保持体106自身の中心軸に沿う方向である。
【0041】
鍔部押さえ駆動装置は、素形材12の鍔部22を鍔部支持部材100の上端面122へ押し付けたりその押し付けを解除したりするよう鍔部押さえ部材102を駆動する。
【0042】
座屈防止部材駆動装置は、胴部20の他端に出入りするよう座屈防止部材110を駆動する。
【0043】
押出駆動装置は、歯形成用金型108に形成されている孔から素形材12を押し出すよう素形材押出部材112を駆動する。
【0044】
[歯付円筒体形成方法が実施されている際の各工程における動作の説明]
図4は、本実施形態にかかる他端区間形成工程S322を実施中の他端区間段差区間形成装置が示される概念図である。
図5は、本実施形態にかかる歯形成工程S302を実施中の歯形成装置が示される概念図である。
図1乃至
図5に基づいて、本実施形態にかかる歯付円筒体形成方法が実施される際の各工程の具体的内容が説明される。
【0045】
歯付円筒体形成方法を実施する者(以下「実施者」と称される)は、一端および他端が開口する筒状部40ならびに鍔部22が形成されるよう金属板に対して塑性加工を施す(S320)。後工程により、筒状部40の一端には歯車の歯136が形成されることとなる。鍔部22は、筒状部40の他端の外縁に配置される。本実施形態の場合、鍔部22の形状は円環状である。この塑性加工が施された金属板が本実施形態にかかる物品10となる。
【0046】
次いで、実施者は、その物品10を他端区間段差区間形成装置に取付ける。より具体的には、実施者は、他端区間段差区間形成装置の鍔部支持部材70に形成されている筒状部収容孔90へ、その物品10の筒状部40を挿入する。これに伴い、その物品10の鍔部22が鍔部支持部材70の上端面92に載せられる。
【0047】
他端区間段差区間形成装置にその物品10が取付けられると、実施者は、鍔部押さえ部材72がその物品10の鍔部22を鍔部支持部材70の上端面92へ押し付けるよう、他端区間段差区間形成装置を制御する。これにより、その物品10の鍔部22は鍔部支持部材70の上端面92へ押し付けられる。この押し付けにより、その物品10の固定が完了する。
【0048】
その物品10の固定が完了すると、実施者は、拡径ローラ保持体76ひいては拡径ローラ74がその物品10の筒状部40の他端に近づくよう、図示されない上下駆動装置を制御する。
図4のうち一点鎖線を境界とする左側に、拡径ローラ74がその物品10の筒状部40の他端へ近づきつつある状況が示されている。
【0049】
拡径ローラ保持体76ひいては拡径ローラ74がその物品10の筒状部40の他端に近づくと、実施者は、拡径ローラ保持体76が回転するよう、図示されない拡径ローラ保持体回転装置を制御する。さらに、実施者は、拡径ローラ保持体76ひいては拡径ローラ74がその物品10の筒状部40の内部に進入するよう、図示されない上下駆動装置を制御する。これらの制御に伴い、拡径ローラ74は筒状部40の内部に進入する。
【0050】
進入の結果として筒状部40の内周面に拡径ローラ74が接触すると、摩擦力を受けた拡径ローラ74は自転し始める。その自転に伴い、拡径ローラ74によって筒状部40は鍔部支持部材70に形成された筒状部収容孔90の内周面に押付けられる。これにより、筒状部40の肉厚のうち拡径ローラ74が接触した箇所のものは薄くなる。
【0051】
引き続き拡径ローラ保持体76が回転しながら筒状部40の奥へ進むと、筒状部40のうち肉厚が薄くなった区間が次第に拡がる。その後、拡径ローラ保持体76が所定の位置まで進むと、実施者は、拡径ローラ保持体76がそれ以上奥へ進まないように図示されない上下駆動装置を制御する。これにより、筒状部40の他端側には肉厚が薄くなった区間が形成されることとなる。本実施形態の場合、その薄くなった他端の端が他端区間132となる。その結果、歯形成工程S302に先立ち他端区間132が形成されることとなる(S322)。
【0052】
それ以上奥へ進まなくなった拡径ローラ保持体76はそのまま回転を続ける。これにより、拡径ローラ74が筒状部40のうち次に述べられる箇所を押し均すこととなる。その箇所は、上述の他端区間132のうち筒状部40の一端側の端となる箇所である。
図4のうち一点鎖線を境界とする右側に、拡径ローラ74が筒状部40の内周面に段差を形成した状況が示されている。段差の形成が完了すると、実施者は、拡径ローラ保持体76ひいては拡径ローラ74が筒状部40から抜け出すよう、図示されない上下駆動装置を制御する。本実施形態の場合、このようにして押し均された箇所が段差区間134となる。筒状部40のうち、その押し均された箇所よりも筒状部40の一端側の部分が、歯形成区間130となる。本実施形態の場合、その押し均しが完了すると、物品10は素形材12となる。筒状部40は胴部20となる。
【0053】
拡径ローラ保持体76ひいては拡径ローラ74が素形材12の胴部20から抜け出すと、実施者は、素形材押出部材78を駆動するよう押出駆動装置を制御する。その制御を受けた素形材押出部材78は、鍔部支持部材70に形成されている筒状部収容孔90から素形材12を押し出す(S324)。
【0054】
他端区間段差区間形成装置から素形材12が押し出されると、実施者は、素形材12を歯形成装置に取付ける。より具体的には、実施者は、歯形成装置の鍔部支持部材100に形成されている胴部貫通孔120へ、素形材12の胴部20を挿入する。これに伴い、素形材12の鍔部22が鍔部支持部材100の上端面122に載せられる。また、胴部20の一端側は歯形成用金型108に形成されている歯形成区間収容孔126の内部に進入する。
【0055】
歯形成装置に素形材12が取付けられると、実施者は、鍔部押さえ部材102が素形材12の鍔部22を鍔部支持部材100の上端面122へ押し付けるよう、鍔部押さえ駆動装置を制御する。これにより、素形材12の鍔部22は鍔部支持部材100の上端面122へ押し付けられる。素形材12の鍔部22が押し付けられると、実施者は、胴部20の他端に座屈防止部材110が進入するよう座屈防止部材駆動装置を制御する。座屈防止部材110の進入により、素形材12の固定が完了する。その結果、この時点で、少なくとも他端区間132のうち胴部20の一端側の端が可動状態でありかつ鍔部22が固定された状態となる。また、胴部20の他端へ円柱状の座屈防止部材110が挿入されることにより、座屈が防止されるよう胴部20が支持されることとなる。
【0056】
素形材12の固定が完了すると、実施者は、拡径ローラ保持体106ひいては拡径ローラ104が素形材12の胴部20の一端に近づくよう、図示されない上下駆動装置を制御する。
図5のうち一点鎖線を境界とする左側に、拡径ローラ104が素形材12の胴部20の一端に近づきつつある状況が示されている。
【0057】
拡径ローラ保持体106ひいては拡径ローラ104が素形材12の胴部20の一端に近づくと、実施者は、拡径ローラ保持体106が回転するよう図示されない拡径ローラ保持体回転装置を制御する。さらに、実施者は、拡径ローラ保持体106ひいては拡径ローラ104が素形材12の胴部20の内部に進入するよう、図示されない上下駆動装置を制御する。これらの制御に伴い、拡径ローラ104は胴部20の内部に進入する。
【0058】
進入の結果として胴部20の内周面に拡径ローラ104が接触すると、摩擦力を受けた拡径ローラ104は自転し始める。その自転と並行して、胴部20の歯形成区間130は歯形成用金型108の歯形成区間収容孔126に押付けられる。これにより、歯形成用金型108の歯形成区間収容孔126の形状に合わせて胴部20の一端側が変形する。
【0059】
引き続き拡径ローラ保持体106が回転しながら胴部20の奥へ進むと、胴部20のうち歯形成用金型108に押付けられた区間が次第に拡がる。これにより、胴部20の歯形成区間130が歯形成用金型108に押付けられることとなる。
図5のうち一点鎖線を境界とする右側に、拡径ローラ104が素形材12の胴部20の一端ひいては歯形成区間130を歯形成用金型108の歯形成区間収容孔126に押付けつつある状況が示されている。その後、拡径ローラ保持体106が胴部20の一端側の端まで進むと、実施者は、拡径ローラ104が胴部20を貫通しないように図示されない上下駆動装置を制御する。これにより、歯形成用金型108は、胴部20の歯形成区間130に歯車の歯136を形成することとなる。
【0060】
歯車の歯136が形成されると、実施者は、拡径ローラ保持体106ひいては拡径ローラ104が素形材12の胴部20から抜け出すよう、図示されない上下駆動装置を制御する。
【0061】
拡径ローラ保持体106ひいては拡径ローラ104が素形材12の胴部20から抜け出すと、実施者は、素形材押出部材112を駆動するよう押出駆動装置を制御する。その制御を受けた素形材押出部材112は、歯形成用金型108から素形材12を押し出す(S302)。これにより、本実施形態にかかる歯付円筒体14が完成する。
図6は、本実施形態にかかる歯付円筒体14の外観が示される概念図である。素形材12の歯形成区間130であった箇所に歯136が形成されている。
【0062】
[本実施形態にかかる歯付円筒体形成方法の効果]
本実施形態にかかる歯付円筒体形成方法によれば、歯形成工程S302において歯形成区間130に対し歯136が形成される際、外周に配置された歯形成用金型108に歯形成区間130が押し付けられる。外周に配置された歯形成用金型108に歯形成区間130が押し付けられることに伴い、素形材12の各部には応力がかかる。歯形成工程S302において歯形成区間130に対し歯136が形成される際には少なくとも他端区間132のうち胴部20の一端側の端が可動状態でありかつ鍔部22が固定された状態である。これにより、外周に配置された歯形成用金型108に歯形成区間130が押し付けられることに伴い素形材12の各部にかかる応力は他端区間132において緩和される。素形材12の各部にかかる応力の差異が緩和され、応力自体が緩和されるので、加工の途中で亀裂が生じる可能性が低くされる。
【0063】
また、本実施形態にかかる歯付円筒体形成方法によれば、座屈が防止されるよう胴部20が支持され少なくとも他端区間132のうち胴部20の一端側の端が可動状態でありかつ鍔部22が固定された状態にある。これにより、少なくとも他端区間132のうち胴部20の一端側の端においてはその変位によって素形材12の各部にかかる応力の差異が緩和される。しかも座屈が防止されるよう胴部20が支持される。応力の差異が緩和されるので、素形材12の各部のいずれかにおいて特に大きな応力がかかる可能性を低くし得る。そのような可能性を低くし得るので、加工の途中で亀裂が生じる可能性を低くし得る。しかも、この状態で、外周に配置された歯形成用金型108に対して胴部20の一端側から歯形成区間130が押し付けられる。これにより、形成される歯車のピッチ円径を大きくすることが可能になる。
【0064】
また、本実施形態にかかる歯付円筒体形成方法によれば、胴部20の他端が支持されるために胴部20の他端へ円柱状の座屈防止部材110が挿入される。これにより、胴部20の他端のうち特定の箇所の支持が脆弱なことに起因した座屈の発生を防止できる。
【0065】
<第2実施形態>
[歯付円筒体形成方法の工程]
図7は、本実施形態にかかる歯付円筒体形成方法の各工程が示されるフローチャートである。
図7に基づいて、本実施形態にかかる歯付円筒体形成方法の各工程が説明される。
【0066】
本実施形態にかかる歯付円筒体形成方法は、素形材形成工程S304と、歯形成工程S306とを備える。
【0067】
素形材形成工程S304において、後述される素形材16が形成される。歯形成工程S306において、塑性加工により後述される歯車の歯138が形成される。本実施形態の場合、素形材16の一端に歯車の歯138が形成される。歯138が形成されると、素形材16は歯形成用金型208から押し出される。
【0068】
本実施形態の場合、素形材形成工程S304が、素材加工工程S320と、他端区間形成工程S342と、段差形成工程S344とを有している。
【0069】
本実施形態の場合、他端区間形成工程S342において、筒状部40のうち他端の端が薄くなるようその筒状部40が塑性加工を受ける。
【0070】
本実施形態の場合、段差形成工程S344において、拡径ローラ74が素形材16のうち次に述べられる箇所を押し均す。その箇所は、他端区間形成工程S342において薄くなった筒状部40の一部区間のうち筒状部40の一端側の端となる箇所である。その後、素形材押出部材78が、鍔部支持部材170から素形材16を押し出す。
【0071】
[歯付円筒体形成方法が実施される際に用いられる装置の構成の説明]
図8は、本実施形態にかかる他端区間段差区間形成装置の構成が示される概念図である。
図8に基づいて、本実施形態にかかる他端区間段差区間形成装置の構成が説明される。
【0072】
本実施形態の場合、他端区間段差区間形成装置は、鍔部支持部材170と、鍔部押さえ部材72と、拡径ローラ74と、拡径ローラ保持体176と、素形材押出部材78と、図示されない拡径ローラ保持体回転装置と、図示されない上下駆動装置と、図示されない鍔部押さえ駆動装置と、図示されない押出駆動装置とを備える。
【0073】
鍔部支持部材170は、物品10の鍔部22を支持する。鍔部支持部材170には筒状部収容孔190が形成されている。物品10の筒状部40はその筒状部収容孔190に収容される。その筒状部収容孔190は第1実施形態にかかる鍔部支持部材70に形成されている筒状部収容孔90と形状が異なる。鍔部支持部材170に形成されている筒状部収容孔190の内径は、筒状部40の一端側に対向する箇所の内径が小さく、筒状部40の他端側に対向する箇所の内径が大きい。これにより、鍔部支持部材170に形成されている筒状部収容孔190へ筒状部40が進入すると、その他端側の外周面と鍔部支持部材170に形成されている筒状部収容孔190の内周面との間に隙間が形成される。また、本実施形態の場合、鍔部支持部材170に形成されている筒状部収容孔190の内径のうち筒状部40の一端側に対向する箇所の内径は、第1実施形態にかかる鍔部支持部材70に形成されている筒状部収容孔90の内径に等しい。なお、物品10の鍔部22は鍔部支持部材170の上端面192に載せられる。
【0074】
拡径ローラ保持体176は、拡径ローラ74を自転自在に保持する。拡径ローラ保持体176は、力を受けると移動する。これに伴って拡径ローラ74も移動する。さらに、拡径ローラ保持体176は、拡径ローラ保持体176自身の中心軸を中心に回転自在となっている。本実施形態にかかる拡径ローラ保持体176と第1実施形態にかかる拡径ローラ保持体76との相違点は、拡径ローラ74が配置される位置である。これにより、拡径ローラ保持体176の回転に伴う拡径ローラ74の公転の半径は、第1実施形態にかかる拡径ローラ保持体76の回転に伴う拡径ローラ74の公転の半径よりも大きくなっている。
【0075】
なお、本実施形態にかかる他端区間段差区間形成装置は、その他の点については第1実施形態にかかる他端区間段差区間形成装置と同様である。したがって、ここではその詳細な説明は繰り返されない。
【0076】
図9は、本実施形態にかかる歯形成装置の構成が示される概念図である。
図9に基づいて、本実施形態にかかる歯形成工程S306が実施される際に用いられる装置の構成が説明される。
【0077】
本実施形態の場合、歯形成装置は、鍔部支持部材200と、鍔部押さえ部材102,102と、拡径ローラ204,204と、拡径ローラ保持体206と、歯形成用金型208と、素形材押出部材212と、図示されない拡径ローラ保持体回転装置と、図示されない上下駆動装置と、図示されない鍔部押さえ駆動装置と、図示されない押出駆動装置とを備える。
【0078】
鍔部支持部材200は、素形材16の鍔部22を支持する。第1実施形態にかかる鍔部支持部材100と同様に、鍔部支持部材200には、素形材16の胴部26が隙間を空けて貫通する胴部貫通孔420が形成されている。その胴部貫通孔420は、第1実施形態にかかる鍔部支持部材100に形成されている胴部貫通孔120に比べて内径が小さい。これにより、鍔部支持部材200に形成されている胴部貫通孔420の内周面とその中へ進入する胴部20の外周面との間に形成される隙間は、第1実施形態におけるその隙間より狭い。
【0079】
拡径ローラ204は、素形材16の胴部26の内周面に沿って移動自在となるよう配置される。拡径ローラ204は、拡径ローラ204自身の中心軸を中心に回転自在となっている。拡径ローラ204は、素形材16の胴部26を塑性変形させるための部材である。本実施形態にかかる拡径ローラ204は第1実施形態にかかる拡径ローラ104に比べ外径が小さい。本実施形態にかかる拡径ローラ204は第1実施形態にかかる拡径ローラ104に比べ低い。つまり、拡径ローラ204自身の中心軸方向における一端から他端までの距離が短い。これは本実施形態にかかる拡径ローラ204が第1実施形態にかかる拡径ローラ104ほど胴部26に形成される歯138のピッチ円を大きくしないためである。
【0080】
拡径ローラ保持体206は、拡径ローラ204を自転自在に保持する。拡径ローラ保持体206は、力を受けると移動する。これに伴って拡径ローラ204も移動する。本実施形態にかかる拡径ローラ保持体206と第1実施形態にかかる拡径ローラ保持体106との相違点は、拡径ローラ204が配置される位置である。これにより、拡径ローラ保持体206の回転に伴う拡径ローラ204の公転の半径は、第1実施形態にかかる拡径ローラ保持体106の回転に伴う拡径ローラ104の公転の半径よりも小さくなっている。
【0081】
歯形成用金型208には、歯形成区間収容孔426が形成されている。その歯形成区間収容孔426に、素形材16の胴部26のうち歯形成区間230が収容される。その歯形成区間収容孔426の内周面には、歯車の歯の形の凹凸が形成されている。その凹凸へ歯形成区間230が押し付けられることにより、歯形成用金型208は、素形材16の胴部26の外周に歯車の歯138を形成することとなる。
【0082】
素形材押出部材212は、歯形成用金型208に嵌まった素形材16を歯形成用金型208の歯形成区間収容孔426から押し出す。
【0083】
なお、本実施形態にかかる歯形成装置は、その他の点については第1実施形態にかかる歯形成装置と同様である。したがって、ここではその詳細な説明は繰り返されない。
【0084】
[歯付円筒体形成方法が実施されている際の各工程における動作の説明]
図10は、本実施形態にかかる他端区間形成工程S342を実施中の他端区間段差区間形成装置が示される概念図である。
図11は、本実施形態にかかる歯形成工程S306を実施中の歯形成装置が示される概念図である。
図7乃至
図11に基づいて、本実施形態にかかる歯付円筒体形成方法が実施される際の各工程の具体的内容が説明される。
【0085】
実施者は、金属素材に対する塑性加工により物品10を形成する(S320)。物品10が形成されると、実施者は、その物品10を他端区間段差区間形成装置に取付ける。より具体的には、実施者は、他端区間段差区間形成装置の鍔部支持部材170に形成されている筒状部収容孔190へ、物品10の筒状部40を挿入する。これに伴い、物品10の鍔部22が鍔部支持部材170の上端面192に載せられる。
【0086】
他端区間段差区間形成装置に物品10が取付けられると、実施者は、鍔部押さえ部材72が物品10の鍔部22を鍔部支持部材170の上端面192へ押し付けるよう、図示されない鍔部押さえ駆動装置を制御する。これにより、物品10の鍔部22は鍔部支持部材170の上端面192へ押し付けられる。この押し付けにより、物品10の固定が完了する。
【0087】
物品10の固定が完了すると、実施者は、拡径ローラ保持体176ひいては拡径ローラ74が物品10の筒状部40の他端に近づくよう、図示されない上下駆動装置を制御する。
図10のうち一点鎖線を境界とする左側に、拡径ローラ74が物品10の筒状部40の他端へ近づきつつある状況が示されている。
【0088】
拡径ローラ保持体176ひいては拡径ローラ74が物品10の筒状部40の他端に近づくと、実施者は、拡径ローラ保持体176が回転するよう図示されない拡径ローラ保持体回転装置を制御する。さらに、実施者は、拡径ローラ保持体176ひいては拡径ローラ74が物品10の筒状部40の内部に進入するよう、図示されない上下駆動装置を制御する。これらの制御に伴い、拡径ローラ74は筒状部40の内部に進入する。
【0089】
進入の結果として筒状部40の内周面に拡径ローラ74が接触すると、摩擦力を受けた拡径ローラ74は自転し始める。その自転に伴い、拡径ローラ74によって筒状部40は鍔部支持部材170に形成された筒状部収容孔190の内周面に押付けられる。これにより、筒状部40の肉厚のうち拡径ローラ74が接触した箇所のものは薄くなる。さらに、筒状部40のうち他端側の内径と外径とが大きくなる。
【0090】
引き続き拡径ローラ保持体176が回転しながら筒状部40の奥へ進むと、筒状部40のうち肉厚が薄くなった区間が次第に拡がる。その後、拡径ローラ保持体176が所定の位置まで進むと、実施者は、拡径ローラ保持体176がそれ以上奥へ進まないように図示されない上下駆動装置を制御する。これにより、筒状部40の他端側には肉厚が薄くなった区間が形成されることとなる。本実施形態の場合、その薄くなった他端の端が他端区間232となる。その結果、歯形成工程S306に先立ち他端区間232が形成されることとなる(S342)。
【0091】
それ以上奥へ進まなくなった拡径ローラ保持体176はそのまま回転を続ける。これにより、拡径ローラ74が筒状部40のうち次に述べられる箇所を押し均すこととなる。その箇所は、上述の他端区間232のうち筒状部40の一端側の端となる箇所である。
図10のうち一点鎖線を境界とする右側に、拡径ローラ74が筒状部40の内周面に段差を形成した状況が示されている。段差の形成が完了すると、実施者は、拡径ローラ保持体176ひいては拡径ローラ74が筒状部40から抜け出すよう、図示されない上下駆動装置を制御する。本実施形態の場合、このようにして形成された箇所が段差区間234となる。筒状部40のうち、その押し均された箇所よりも筒状部40の一端側の部分が、歯形成区間230となる。本実施形態の場合、その押し均しが完了すると、物品10は素形材16となる。筒状部40は胴部26となる。
【0092】
拡径ローラ保持体176ひいては拡径ローラ74が素形材16の胴部26から抜け出すと、実施者は、素形材押出部材78を駆動するよう押出駆動装置を制御する。その制御を受けた素形材押出部材78は、鍔部支持部材170に形成されている筒状部収容孔190から素形材16を押し出す(S324)。
【0093】
他端区間段差区間形成装置から素形材16が押し出されると、実施者は、素形材16を歯形成装置に取付ける。より具体的には、実施者は、歯形成装置の鍔部支持部材200に形成されている胴部貫通孔420へ、素形材16の胴部26を挿入する。これに伴い、素形材16の鍔部22が鍔部支持部材200の上端面422に載せられる。また、胴部26の一端側は歯形成用金型208に形成されている歯形成区間収容孔426の内部に進入する。
【0094】
歯形成装置に素形材16が取付けられると、実施者は、鍔部押さえ部材102が素形材16の鍔部22を鍔部支持部材200の上端面422へ押し付けるよう、鍔部押さえ駆動装置を制御する。これにより、素形材16の鍔部22は鍔部支持部材200の上端面422へ押し付けられる。素形材16の鍔部22が押し付けられると、実施者は、拡径ローラ保持体206ひいては拡径ローラ204が素形材16の胴部26の他端に近づくよう、図示されない上下駆動装置を制御する。
図11のうち一点鎖線を境界とする左側に、拡径ローラ204が素形材16の胴部26の他端へ近づきつつある状況が示されている。
【0095】
拡径ローラ保持体206ひいては拡径ローラ204が素形材16の胴部26の他端に近づくと、実施者は、拡径ローラ保持体206が回転するよう図示されない拡径ローラ保持体回転装置を制御する。さらに、実施者は、拡径ローラ保持体206ひいては拡径ローラ204が素形材16の胴部26の内部に進入するよう、図示されない上下駆動装置を制御する。これらの制御に伴い、拡径ローラ204は胴部26の内部に進入する。
【0096】
胴部26の内部に進入した拡径ローラ204は、胴部26の他端区間232を通過して段差区間234に接触する。胴部26の段差区間234に拡径ローラ104が接触すると、摩擦力を受けた拡径ローラ204は自転し始める。その自転と並行して、胴部26は歯形成用金型208の歯形成区間収容孔426に押付けられる。これにより、歯形成用金型208の歯形成区間収容孔426の形状に合わせて胴部26の一端側が変形する。
【0097】
引き続き拡径ローラ保持体206が回転しながら胴部26の奥へ進むと、胴部26のうち歯形成用金型208に押付けられた区間が次第に拡がる。これにより、胴部26の歯形成区間230が歯形成用金型208に押付けられることとなる。
図11のうち一点鎖線を境界とする右側に、拡径ローラ204が素形材16の胴部26の一端ひいては歯形成区間230を歯形成用金型208の歯形成区間収容孔426に押付けつつある状況が示されている。その後、拡径ローラ保持体206が胴部26の一端側の端まで進むと、実施者は、拡径ローラ204が胴部26を貫通しないように図示されない上下駆動装置を制御する。これにより、胴部26の歯形成区間230には歯車の歯138が形成されることとなる。
【0098】
歯車の歯138が形成されると、実施者は、拡径ローラ保持体206ひいては拡径ローラ204が素形材16の胴部26から抜け出すよう、図示されない上下駆動装置を制御する。
【0099】
拡径ローラ保持体206ひいては拡径ローラ204が素形材16の胴部26から抜け出すと、実施者は、素形材押出部材212を駆動するよう押出駆動装置を制御する。その制御を受けた素形材押出部材212は、歯形成用金型208から素形材16を押し出す(S306)。これにより、本実施形態にかかる歯付円筒体18が完成する。
図12は、本実施形態にかかる歯付円筒体18の外観が示される概念図である。素形材16の歯形成区間230であった箇所に歯138が形成されている。
【0100】
[本実施形態にかかる歯付円筒体形成方法の効果]
本実施形態にかかる歯付円筒体形成方法によれば、歯形成工程S306において歯形成区間230に対し歯138が形成される際、外周に配置された歯形成用金型208に歯形成区間230が押し付けられる。外周に配置された歯形成用金型208に歯形成区間230が押し付けられることに伴い、素形材16の各部には応力がかかる。歯形成工程S306において歯形成区間230に対し歯138が形成される際には少なくとも他端区間232のうち胴部26の一端側の端が可動状態でありかつ鍔部22が固定された状態である。これにより、外周に配置された歯形成用金型208に歯形成区間230が押し付けられることに伴い素形材16の各部にかかる応力は他端区間132において緩和される。素形材16の各部にかかる応力の差異が緩和され、応力自体が緩和されるので、加工の途中で亀裂が生じる可能性が低くされる。
【0101】
今回開示された実施形態はすべての点で例示である。本発明の範囲は上述した実施形態に基づいて制限されるものではない。もちろん、本発明の趣旨を逸脱しない範囲で種々の設計変更がされてもよい。
【符号の説明】
【0102】
10…物品
12,16…素形材
14,18…歯付円筒体
20,26…胴部
22…鍔部
40…筒状部
70,100,170,200…鍔部支持部材
72,102…鍔部押さえ部材
74,104,204…拡径ローラ
76,106,176,206…拡径ローラ保持体
78,112,212…素形材押出部材
90,190…筒状部収容孔
92,122,192,422…上端面
108,208…歯形成用金型
110…座屈防止部材
120,420…胴部貫通孔
126,426…歯形成区間収容孔
130,230…歯形成区間
132,232…他端区間
134,234…段差区間
136,138…歯