IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ デクセリアルズ株式会社の特許一覧

<>
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2025011929
(43)【公開日】2025-01-24
(54)【発明の名称】シリカエアロゲル分散物、シート、膜
(51)【国際特許分類】
   C01B 33/141 20060101AFI20250117BHJP
   C01B 33/148 20060101ALI20250117BHJP
   F16L 59/02 20060101ALN20250117BHJP
【FI】
C01B33/141
C01B33/148
F16L59/02
【審査請求】未請求
【請求項の数】12
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023114356
(22)【出願日】2023-07-12
(71)【出願人】
【識別番号】000108410
【氏名又は名称】デクセリアルズ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100107766
【弁理士】
【氏名又は名称】伊東 忠重
(74)【代理人】
【識別番号】100070150
【弁理士】
【氏名又は名称】伊東 忠彦
(72)【発明者】
【氏名】西尾 健
(72)【発明者】
【氏名】津田 隼輔
(72)【発明者】
【氏名】ヤン ヒー
【テーマコード(参考)】
3H036
4G072
【Fターム(参考)】
3H036AB15
3H036AB23
3H036AC03
3H036AE13
4G072AA25
4G072AA28
4G072BB05
4G072BB15
4G072CC04
4G072CC08
4G072EE01
4G072GG02
4G072GG03
4G072HH19
4G072JJ47
4G072LL06
4G072MM02
4G072MM31
4G072UU07
4G072UU30
(57)【要約】
【課題】不織布を用いなくても自立膜を形成でき、かつ柔軟性を有するシート状の断熱材が得られるシリカエアロゲル粒子分散物を提供すること。
【解決手段】ポリビニルアルコールを含む水溶液にシリカエアロゲル粒子が分散されてなる、シリカエアロゲル分散物。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
ポリビニルアルコールを含む水溶液にシリカエアロゲル粒子が分散されてなる、シリカエアロゲル分散物。
【請求項2】
前記ポリビニルアルコールのけん化度が75mol%以上100mol%以下である、請求項1に記載のシリカエアロゲル分散物。
【請求項3】
前記ポリビニルアルコールのけん化度が85mol%以上92mol%以下である、請求項1に記載のシリカエアロゲル分散物。
【請求項4】
前記ポリビニルアルコールの重合度が200以上4000以下である、請求項1に記載のシリカエアロゲル分散物。
【請求項5】
前記ポリビニルアルコールの重合度が1500以上3500以下である、請求項1に記載のシリカエアロゲル分散物。
【請求項6】
前記ポリビニルアルコールが、カルボン酸により変性されている、請求項1に記載のシリカエアロゲル分散物。
【請求項7】
水性エマルジョンを含有する、請求項1に記載のシリカエアロゲル分散物。
【請求項8】
繊維を含有する、請求項1に記載のシリカエアロゲル分散物。
【請求項9】
消泡剤を含有する、請求項1に記載のシリカエアロゲル分散物。
【請求項10】
請求項1から9のいずれかに記載のシリカエアロゲル分散物で構成されたシート。
【請求項11】
請求項1から9のいずれかに記載のシリカエアロゲル分散物が基材に塗布されてなるシート。
【請求項12】
請求項1から9のいずれかに記載のシリカエアロゲル分散物を印刷してなる膜。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、シリカエアロゲル分散物、シート、および膜に関する。
【背景技術】
【0002】
シリカエアロゲルは、近年、そのユニークな構造から、断熱用途の使用が注目されている。シリカエアロゲルは、その特異的な多孔質構造により、質量の90%程度を空気が占有し、さらにその細孔サイズが空気の平均自由行程より小さいために、細孔内の空気の対流が起きず、熱伝導率が空気より小さいという特徴を有する。この特徴を利用した断熱材技術は、多数知られている。
【0003】
例えば、特許文献1には、特定の量のシリカエアロゲルと水性エマルジョン系バインダーと多糖類を含有する断熱材用塗料が開示されている。また、特許文献2には、シリカエアロゲルと特定の水溶性バインダーとナノファイバーを有する断熱材用塗料が開示されている。これらの断熱材用塗料は、いずれも不織布に塗布された状態で乾燥することで断熱材となる。
【0004】
また、特許文献3には、エアロゲル成分とシリカ粒子を含むエアロゲルパウダーと水と特定の構造の界面活性剤を含む分散液を、断熱材料の用途に用いることが記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特許第6836556号公報
【特許文献2】特許第7121595号公報
【特許文献3】特許第7024191号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
従来のシリカエアロゲルを用いた断熱材では、シリカエアロゲルをシート化する際に不織布が用いられるが、不織布を使用することは、シートの柔軟性を損ない、断熱材の適用範囲を狭める上に、シートの薄膜化を妨げることになる。
【0007】
本発明の課題は、不織布を用いなくても自立膜を形成することができ、かつ柔軟性を有するシート状の断熱材が得られるシリカエアロゲル粒子分散物を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明の一態様は、ポリビニルアルコールを含む水溶液にシリカエアロゲル粒子が分散されてなる、シリカエアロゲル分散物を提供する。
【発明の効果】
【0009】
本発明によれば、不織布を用いなくても自立膜を形成することができ、かつ柔軟性を有するシート状の断熱材が得られるシリカエアロゲル粒子分散物を提供することができる。
【0010】
以下、本発明の実施形態について、詳細に説明する。
【0011】
<シリカエアロゲル分散物>
本発明の実施形態に係るシリカエアロゲル分散物は、ポリビニルアルコールを含む水溶液にシリカエアロゲル粒子が分散された分散物である。
【0012】
シリカエアロゲル粒子は、分散相が気体である微多孔性固体から構成されるシリカゲルの粒子を意味する。一般的に、シリカエアロゲルの内部は、網目状の微細構造を有しており、2nm~20nm程度の粒子状のエアロゲル成分が結合したクラスター構造を有している。このクラスター構造により形成される骨格間には、100nmに満たない細孔がある。これにより、シリカエアロゲルは、三次元的に微細な多孔性の構造が形成されている。
【0013】
シリカエアロゲルは、吸湿によるシリカエアロゲルの性能低下を抑制するため、表面に疎水性基を有する疎水性シリカエアロゲルであることが好ましい。具体的には、シリカエアロゲルは表面に、下記式で表わされる3置換シリル基が結合することにより疎水性となっている。
【0014】
【化1】
式中、R1、R2、R3は同一であっても異なっていてもよく、炭素数1~18のアルキル基、又は炭素数6~18のアリール基から選ばれ、好ましくはメチル基、エチル基、シクロヘキシル基、フェニル基である。
【0015】
シリカエアロゲルは、気孔率の増加に伴って、平均自由行程を阻害する数10nmの空気孔が多くなるので、熱伝導率が小さくなる。シリカエアロゲルの表面に疎水性基を有すると、水性媒体中に分散しても、細孔内への水の染み込みや侵入が防止される。このことは、シリカエアロゲルが膜またはシートの状態においても、シリカエアロゲル本来の高い気孔率を保持できること、ひいては優れた断熱性能を発揮できることを意味する。
【0016】
シリカエアロゲルは、粒子状であり、平均粒子径は1μm以上50μm以下が好ましく、1μm以上25μm以下がより好ましく、1μm以上10μm以下がさらに好ましい。平均粒子径が小さすぎると粒子間隙総合比が増え、シリカエアロゲルのナノサイズ細孔の比率が少なくなる。一方、平均粒子径が大きすぎると、粒子間隙のサイズが大きくなり大きい空隙の間に空気が対流し断熱効果が減るおそれがある。
【0017】
シリカエアロゲル粒子は、適宜合成したものを使用してもよいし、市販品を使用してもよい。市販品としては、例えば、エアロゲル粒子(キャボット社製、MT-1100)などが挙げられる。
【0018】
シリカエアロゲル粒子の含有量は、特に限定されない。シリカエアロゲル粒子の含有量としては、シリカエアロゲル分散物中の固形分の全質量基準で、例えば20質量%以上80質量%であり、好ましくは30質量%以上70質量%以下、より好ましくは40質量%以上60質量%以下である。エアロゲルの含有量が20質量%以上80質量%であると、優れた断熱性能を発揮することができる。
【0019】
ポリビニルアルコール(以下、PVAという)は、酢酸ビニルモノマーを重合したポリ酢酸ビニルをけん化して得られる、水酸基を有する水溶性の重合体である。
【0020】
PVAのけん化度は、特に限定されないが、好ましくは75mol%以上100mol%以下であり、より好ましくは80mol%以上97mol%以下、さらに好ましくは85mol%以上92mol%以下である。ここで、けん化度は、PVA中のビニルアルコール単位及びビニルエステル単位の総数に対するビニルアルコール単位の数の割合を意味する。
【0021】
PVAの重合度は、特に限定されないが、好ましくはが200以上4000以下であり、より好ましくは400以上4000以下、さらに好ましくは1500以上3500以下である。ここで、PVAの重合度とは、JIS K6726-1994の記載に準じて測定されるPVAの平均重合度を示す。
【0022】
PVAは、カルボン酸により変性(以下、カルボン酸変性という)されていてもよい。ここで、カルボン酸変性されたPVA(以下、カルボン酸変性PVAという)は、PVAの水酸基と不飽和カルボン酸化合物のカルボキシル基とが縮合反応することにより、PVA中にエステル基が生成されたものを示す。
【0023】
カルボン酸変性PVAの変性率は、任意であるが、通常は0.01~40モル%、好ましくは0.1~30モル%の範囲である。ここで、カルボン酸変性PVAの変性率は、カルボン酸変性PVAにおける不飽和カルボン酸化合物の導入率を意味する。カルボン酸変性PVAの変性率は、(不飽和カルボン酸ビニル単位のモル数)/(ビニルアルコール単位のモル数+不飽和カルボン酸ビニル単位のモル数)で表される。
【0024】
ポリビニルアルコールを含む水溶液(以下、ポリビニルアルコール水溶液またはPVA水溶液という)の溶媒は、水または水を含む水系溶媒が好ましい。水としては、イオン交換水、限外濾過水、逆浸透水、蒸留水等の純水、又は超純水を用いることができる。
【0025】
水系溶媒には、水以外に有機溶媒が含まれていてもよい。有機溶媒としては、水との相溶性を有するものであれば特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができ、例えば、メタノール、エタノール、イソプロパノール、ブタノール、エチレングリコール、プロピレングリコール等のアルコール類;ジエチルエーテル、テトラヒドロフラン、1,4-ジオキサン等のエーテル類;アセトン、メチルエチルケトン等のケトン類;酢酸、プロピオン酸等のカルボン酸;アセトニトリル、ジメチルホルムアミド、トリエチルアミン等の窒素含有化合物などが挙げられる。これらは、1種単独で使用してもよいし、2種以上を併用してもよい。
【0026】
ポリビニルアルコール水溶液(PVA水溶液)には、目的に応じて、その他の成分が任意に含まれていてもよい。その他の成分としては、例えば、界面活性剤、重合体、キレート剤、ビルダー、有機酸、pH調整剤、溶剤、消泡剤、殺菌剤、防腐剤、着色料、香料などが挙げられる。
【0027】
PVA水溶液の濃度は、特に限定されない。PVA水溶液の濃度は、PVA水溶液中のPVAの含有量を示すが、例えば3質量%以上20質量%以下であり、好ましくは5質量%以上15質量%以下、より好ましくは8質量%以上13質量%以下である。PVA水溶液の濃度が3質量%以上20質量%以下であると、PVAの膜を形成しやすくなる。
【0028】
本実施形態のシリカエアロゲル分散物は、水性エマルジョンが任意に含まれていてもよい。ここで、水性エマルジョンは、水または水を含む水系溶媒に樹脂のモノマーあるいは低分子量樹脂を分散または溶解させたものを示す。なお、水系溶媒には、上述の水以外に有機溶媒が含まれていてもよい水系溶媒を用いることができる。
【0029】
水性エマルジョンとしては、例えば、ウレタン樹脂、アクリル樹脂、スチレン/アクリル共重合樹脂、エチレン、バーサティック酸ビニルエステル、エチレン性不飽和カルボン酸、塩化ビニル、(メタ)アクリル酸アルキルエステル等と酢酸ビニルとを共重合した酢酸ビニル共重合樹脂等の樹脂エマルションが挙げられる。これらは、1種単独で使用してもよいし、2種以上を併用してもよい。
【0030】
水性エマルジョンの含有量は、特に限定されないが、例えば、固形分濃度が質量比で30%以上60%以下の水性エマルジョンの含有量がシリカエアロゲル分散物中に好ましくは5質量%以上30質量%以下であり、より好ましくは10質量%以上25質量%以下、さらに好ましくは13質量%以上23質量%以下である。
【0031】
本実施形態のシリカエアロゲル分散物は、繊維が任意に含まれていてもよい。ここで、繊維は、平均繊維径(略円形断面の場合は直径、矩形断面の場合は該矩形断面と同じ断面積を有する円の直径)に対する平均繊維長の比(アスペクト比)が10以上の物体を示す。
【0032】
繊維の平均繊維長は、特に限定されないが、シリカエアロゲル分散物から得られる製品の強度を高める点で、50μm以上1500μm以下であることが好ましく、100μm以上1000μm以下であることがより好ましく、150μm以上700μm以下であることがさらに好ましい。
【0033】
繊維の繊維径は、特に限定されないが、シリカエアロゲル分散物から得られる製品の強度を高める点で、1μm以上100μm以下であることが好ましく、3μm以上50μm以下であることがより好ましく、5μm以上15μm以下であることがさらに好ましい。
【0034】
繊維としては、例えば、ガラス繊維、炭素繊維、金属繊維などの無機繊維、ポリエステル系繊維、ポリベンゾオキサゾール繊維、アクリル系繊維、ポリアミド系繊維などの合成繊維などが例示できる。これらは、1種単独で使用してもよいし、2種以上を併用してもよい。これらの中でも、シリカエアロゲル分散物から得られる製品の強度を高める点で、ガラス繊維、炭素繊維などの無機繊維、ポリエステル系繊維、ポリアミド系繊維などの合成繊維が好ましく、より好ましくはガラス繊維である。
【0035】
繊維の含有量は、特に限定されないが、例えば、シリカエアロゲル分散物中に好ましくは0.1質量%以上10質量%以下、より好ましくは0.5質量%以上5質量%以下、さらに好ましくは1質量%以上3質量%以下である。
【0036】
本実施形態のシリカエアロゲル分散物には、消泡剤が含有されていることが好ましい。ここで、消泡剤は、泡ができるのを防ぐため、あるいはできた泡を消すために添加する添加剤を示す。ポリビニルアルコール水溶液にシリカエアロゲルを分散させる場合、結果として多量の気泡を取り込んだホイップ状の分散物となる場合が多いため、このような消泡剤を用いることで、これらの気泡の発生を防ぐまたは消すことができる。
【0037】
消泡剤は、動植物油系、脂肪酸系、ポリエーテル系、アセチレン系、フッ素系、シリコーン系、鉱物油系、リン酸エステル系等の消泡剤が挙げられる。これらは、1種単独で使用してもよいし、2種以上を併用してもよい。これらの中でも、ポリエーテル系またはアセチレン系の消泡剤が好ましく、アセチレン系の消泡剤がより好ましい。
【0038】
アセチレン系消泡剤としては、アセチレングリコール類、そのアルキレンオキサイド付加物及びアセチレンアルコール類が挙げられる。
【0039】
これらの具体例としては、例えば、サーフィノール104(日信化学工業社製、サーフィノールは登録商標、以下同じ。)、サーフィノール420、サーフィノール440、サーフィノール465、オルフィンB(日信化学工業社製、オルフィンは登録商標、以下同じ)、オルフィンAF-103、オルフィンPD-002W、オルフィンAF-300、オルフィンSPC、オルフィンE1004などが挙げられる。
【0040】
消泡剤の含有量は、特に限定されないが、シリカエアロゲル分散物に対して0.01質量%以上5.0質量%以下であることが好ましく、より好ましくは0.5質量%以上4.0質量%以下、さらに好ましくは0.1~3.0%とすることが望ましい。消泡剤の含有量が0.01%未満であると、消泡剤の効果を十分に発揮することができない場合があり、一方、5.0質量%を越えると、乾燥膜の特性に影響を与えるおそれがある。
【0041】
本実施形態のシリカエアロゲル分散物では、上述のように、PVAを含む水溶液にシリカエアロゲル粒子が分散されていることで、不織布を用いなくても自立膜を形成することができる。また、このようなシリカエアロゲル分散物を用いて得られるシートは、不織布が用いられないことで、柔軟性が損なわれずに断熱性を有する。そのため、本実施形態のシリカエアロゲル分散物は、断熱材のシート化または薄膜化に有用である。
【0042】
本実施形態のシリカエアロゲル分散物では、上述のように、PVAのけん化度が75mol%以上100mol%以下であると、シリカエアロゲル分散物を用いて得られるシートまたは膜の熱伝導率を低減することができる。また、PVAのけん化度が85mol%以上92mol%以下であると、シートまたは膜の熱伝導率をさらに低減することができる。そのため、実施形態のシリカエアロゲル分散物は、得られるシートまたは膜の断熱性を向上させることができる。
【0043】
本実施形態のシリカエアロゲル分散物では、上述のように、PVAの重合度が200以上4000以下であると、シリカエアロゲル分散物を用いて得られるシートまたは膜の熱伝導率を低減することができる。また、PVAの重合度が1500以上3500以下であると、このようなシートまたは膜の熱伝導率をさらに低減することができる。そのため、実施形態のシリカエアロゲル分散物は、得られるシートまたは膜の断熱性を向上させることができる。
【0044】
本実施形態のシリカエアロゲル分散物では、上述のように、PVAがカルボン酸により変性されていることで、シリカエアロゲル分散物を用いて得られるシートまたは膜の熱伝導率をさらに低減することができる。そのため、実施形態のシリカエアロゲル分散物は、得られるシートまたは膜の断熱性をさらに向上させることができる。
【0045】
本実施形態のシリカエアロゲル分散物は、上述のように、水性エマルジョンを含有することで、シリカエアロゲル分散物中で水性エマルジョンがバインダーとなって、シリカエアロゲルが分離しにくくなる。また、シリカエアロゲル分散物からシートまたは膜を製造する際のシリカエアロゲル分散物の塗工性を向上させることができる。
【0046】
また、このような水性エマルジョンを含む効果により、その結果、PVAを含むことによる、シリカエアロゲル分散物を用いて得られるシートまたは膜の断熱性の低下を抑制し、また機械的強度の低下を抑制し、さらにシートまたは膜の外観の低下を抑制することができる。
【0047】
本実施形態のシリカエアロゲル分散物は、上述のように、繊維を含有することで、シリカエアロゲル分散物を用いて得られるシートまたは膜の機械的強度を向上させることができる。
【0048】
本実施形態のシリカエアロゲル分散物は、上述のように、消泡剤を含有することで、PVA水溶液にシリカエアロゲルを分散させることにより生じる気泡を、抑制することができる。その結果、シリカエアロゲル分散物からシートまたは膜を製造する際のシリカエアロゲル分散物の塗工性を向上させることができる。
【0049】
また、このような消泡剤を含む効果により、得られるシートまたは膜に気泡が残りにくいため、シートまたは膜の断熱性の低下を抑制し、また機械的強度の低下を抑制し、さらにシートまたは膜の外観の低下を抑制することができる。
【0050】
<シート>
本発明の実施形態に係るシートは、上述のシリカエアロゲル分散物で構成されている。すなわち、本実施形態のシートは、上述のポリビニルアルコールを含む水溶液にシリカエアロゲル粒子が分散されたシリカエアロゲル分散物で構成されている。
【0051】
シートの厚みは、特に制限されず、例えば10μm以上5000μm以下であり、好ましくは50μm以上5000μm以下、より好ましくは100μm以上5000μm以下である。
【0052】
シートを製造する態様は、特に制限されない。例えば、上述のシリカエアロゲル分散物を、シリコーン剥離処理された離型フィルムに塗布し、乾燥した後、離型フィルムから剥離することでシートが得られる。
【0053】
本実施形態のシートは、上述のシリカエアロゲル分散物で構成されているため、本実施形態のシリカエアロゲル分散物の効果が得られる。具体的には、不織布を用いなくても自立膜を形成することができ、柔軟性が損なわれずに断熱性を有するシートが得られる。
【0054】
本実施形態のシートは、シリカエアロゲル分散物が基材に塗布されたものでもよい。基材は、シリカエアロゲル分散物が塗布されるフィルム状またはシート状の部材を示す。
【0055】
基材の材料は、特に限定されず、例えば、不織布、紙、編物、織物等の繊維材料、樹脂フィルム等が用いられる。基材の材料としては、これらの中でも、不織布が好適に用いられる。不織布は、例えば、綿、麻、羊毛、パルプ等の天然繊維、ポリエステル、レーヨン、ポリアクリル酸等の合成繊維等である。これらは、1種を単独で用いてもよく、又は2種以上を併用してもよい。これらの中でも、ポリエステル等の合成繊維が好適に用いられる。
【0056】
シリカエアロゲル分散物を基材に塗布する態様は、特に限定されない。例えば、シリカエアロゲル分散物をポリエステル不織布等の基材にバーコーター等で塗布したものを乾燥することで、シリカエアロゲル分散物が基材に塗布されたシートが得られる。
【0057】
本実施形態のシートは、シリカエアロゲル分散物が基材に塗布されていることで、本実施形態のシリカエアロゲル分散物を用いることによるシートの断熱性と強度の向上に加え、基材が用いられることによってシートの機械的強度をさらに向上させることができる。
【0058】
<膜>
本発明の実施形態に係る膜は、上述のシリカエアロゲル分散物が印刷されたものである。すなわち、本実施形態の膜は、上述のポリビニルアルコールを含む水溶液にシリカエアロゲル粒子が分散されたシリカエアロゲル分散物で構成されている。
【0059】
膜の厚みは、特に制限されず、例えば0.1μm以上1000μm以下であり、好ましくは1μm以上500μm以下、より好ましくは10μm以上100μm以下である。
【0060】
シリカエアロゲル分散物を印刷する態様は、特に限定されない。例えば、上述のシートを製造する場合と同様に、シリカエアロゲル分散物を、シリコーン剥離処理された離型フィルムに印刷し、乾燥した後、離型フィルムから剥離することで、膜が得られる。
【0061】
本実施形態の膜は、上述のシリカエアロゲル分散物を印刷して構成されているため、本実施形態のシリカエアロゲル分散物の効果が得られる。具体的には、不織布を用いなくても自立膜を形成することができ、柔軟性が損なわれずに断熱性を有するシートが得られる。
【実施例0062】
以下、本実施形態について、さらに実験例を用いて説明する。また、各種の試験及び評価は、下記の方法に従う。なお、以下において、「部」又は「%」は、特に断りのない限り、質量基準である。
【0063】
[ポリビニルアルコール水溶液の調製]
ポリビニルアルコール(PVA)として、下記の表1に示されるポリビニルアルコールを準備し、各ポリビニルアルコール100部に対し、蒸留水900部を混合し、80℃で5時間撹拌溶解し、各ポリビニルアルコールの10%水溶液を調製した。
【表1】
【0064】
表1中、K-05、K-17C、B-20、B-33、H-17、H-24はデンカ社製のデンカポバール(登録商標)の品番であり、KL-05、KH-17は三菱ケミカル社製のゴーセノール(登録商標)の品番であり、3-88、5-88、25-88KLは、クラレ社製のクラレポバール(登録商標)の品番である。なお、25-88KLは、カルボン酸変性されたポリビニルアルコール(PVA)である。
【0065】
[実施例1-1]
(PVA水溶液によるシリカエアロゲル分散液の調製)
K-05の10%水溶液100部に、平均粒径8μmのシリカエアロゲル粒子(キャボットコーポレーション社製、ENOVA(登録商標)MT1100)10部と、消泡剤(日信化学工業社製、オルフィン(登録商標)AF-300)0.25部を加え、遊星撹拌装置(シンキー社製、あわとり練太郎(登録商標)ARV-200)を用い、2000rpmで10分間混合を行い、シリカエアロゲル分散液を調製した。
【0066】
[実施例1-2~1-11]
実施例1-1と同様にして、表1に示されるポリビニルアルコール(PVA)について、それぞれの10%水溶液を用い、シリカエアロゲル分散液を調製した。なお、分散物が高粘度であったものは、表2に示されるように、適宜蒸留水を追加して分散を行った。
【0067】
[比較例1-1]
ポリビニルアルコール(PVA)の代わりにヒドロキシプロピルメチルセルロース(信越化学工業社製、メトローズ(登録商標)65SH-1500)の5%水溶液を用いた以外は、実施例1-1と同様に、シリカエアロゲル分散液を調製した。
【0068】
上記の実施例1-1~1-11および比較例1-1の配合を表2に示す。
【0069】
【表2】
【0070】
[実施例2-1]
(PVA水溶液と水性エマルジョンによるシリカエアロゲル分散液の調製)
K-05の10%水溶液40部に、平均粒径8μmのシリカエアロゲル粒子(キャボットコーポレーション社製、ENOVA(登録商標)MT1100)10部と、消泡剤(日信化学工業社製、オルフィン(登録商標)AF-300)0.25部を加え、遊星撹拌装置(シンキー社製、あわとり練太郎(登録商標)ARV-200)を用い、2000rpmで10分間混合を行い、シリカエアロゲル粒子をK-05水溶液に分散した。この分散液に水性エマルジョンである固形分濃度46%のシリコーンアクリルエマルジョン(日信化学工業社製、シャリーヌ(登録商標)E-370)13部を加え、1000rpmで5分間さらに分散させて、シリカエアロゲル分散液を調製した。
【0071】
[実施例2-2~2-14]
実施例2-1と同様にして、実施例2-2~2-14のシリカエアロゲル分散液を調製した。
【0072】
[比較例2-1]
実施例2-1と同様にして、比較例2-1のシリカエアロゲル分散液を調製した。
【0073】
[実施例3-1]
(ガラス繊維を含有したシリカエアロゲル分散物の調製)
25-88KLの10%水溶液40部に、平均粒径8μmのシリカエアロゲル粒子(キャボットコーポレーション社製、ENOVA(登録商標)MT1100)10部と、消泡剤(日信化学工業社製、サーフィノール(登録商標)AF-300)0.25部を加え、さらに蒸留水10部を加えたのち、遊星撹拌装置(シンキー社製、あわとり練太郎(登録商標)ARV-200)を用い、2000rpmで10分間混合を行い、シリカエアロゲルを25-88KL水溶液に分散した。その後、ガラス繊維(旭ファイバーグラス社製、MF20JH1-20、平均繊維長:200μm、繊維径:10μm)1部を加え、さらに2000rpmで10分間分散した。この分散液に固形分濃度55.6%の接着剤(サイデン化学社製、サイビノール(登録商標)UC-809)10.8部を加え、1000rpmで5分間さらに分散させて、シリカエアロゲル分散液を調製した。
【0074】
[実施例3-2及び3-3]
(PET繊維およびナイロン繊維を含有したシリカエアロゲル分散物の調製)
ガラス繊維1部をPET繊維(新ニッセン社製、PET繊維、平均繊維長:514μm、繊維径:12~13μm)あるいはナイロン繊維(新ニッセン社製、ナイロン繊維、平均繊維長:402μm、繊維径:9~10μm)のそれぞれ2部に変更した以外は、実施例3-1と同様にして、シリカエアロゲル分散液を調製した。
【0075】
上記で実施した実施例2-1~2-14および比較例2-1、実施例3-1~3-3の配合を表3および表4に示す。
【0076】
【表3】
【0077】
【表4】
【0078】
次に、下記のとおり、得られたシリカエアロゲル分散液の評価を実施した。
【0079】
(柔軟性の評価)
得られたシリカエアロゲル分散物を、250×250mmの正方形形状の穴をあけたメタルマスクを用いて、シリコーン剥離処理された50μm厚みのPETフィルムに、乾燥後の膜厚が概ね100μmとなるように印刷した。乾燥は60℃で15分行い、その後さらに130℃で1時間行った。得られたシートを離型フィルムから剥離し、20mm×250mmの短冊状にカットしたサンプルを用い、以下の方法によりシートの柔軟性を評価した。
【0080】
(柔軟性評価方法)
直径が20mm、10mm、5mm、2mmのステンレス製の棒を用意し、これに上記短冊状にカットしたサンプルを巻き付け、割れの生じる直径を確認した。柔軟性の評価基準は以下のとおりである。評価が3点以上であれば実用に耐えるものとする。
【0081】
[評価基準]
5点:いずれの径でも割れが生じない
4点:2mmの径の棒に巻き付けると割れる
3点:5mmの径の棒に巻き付けると割れる
2点:10mmの径の棒に巻き付ける割れる
1点:20mmの径の棒に巻き付けると割れる
【0082】
(熱伝導率の評価)
得られたシリカエアロゲル分散物を、乾燥後の膜厚が500μmとなるように、前述と同様に印刷した。乾燥は、まず30℃で15時間放置後に60℃で1時間行い、さらに130℃で1時間行った。得られたシートを離型フィルムから剥離し、200mm×200mmのサイズにカットし、6枚積層することで厚みを3mmとして、熱伝導率測定装置(NETZSCH社製、HFM(登録商標)-446)を用い、2枚の板(加熱板と冷却板)との間に積層シートを挟んで、加熱板加熱時の熱伝導率を測定した。実用上好ましい値は、0.04W/mK以下とした。結果を表5~表7に示す。
【0083】
【表5】
【0084】
【表6】
【0085】
【表7】
【0086】
表5~表7より、実施例(実施例1-1~1-11、実施例2-1~2-14、実施例3-1~3-3)のシリカエアロゲル分散物は、柔軟なシートを作製可能であり、さらに熱伝導率が低く抑えられており、断熱性能が高いことが分かる。一方、比較例(比較例1-1、比較例2-1)で用いたヒドロキシプロピルメチルセルロースによる分散物は、柔軟性は問題ないものの、熱伝導率が高く、断熱性能は悪いことが分かる。
【0087】
また、ポリビニルアルコール(PVA)のけん化度が87~90mоl%のものがもっとも熱伝導率が低く抑えられ、また、重合度が1800~3300のものがもっとも熱伝導率が低く抑えられることが分かる。
【0088】
[実施例4-1~4-3]
実施例2-9、2-10、2-11で調製したシリカエアロゲル分散物のそれぞれを、ポリエステル不織布(日本バイリーン社製、OL-150S)にバーコーターで塗布し、60℃で15分、その後130℃で1時間乾燥を行い、厚さ100μmのシートを作成した。上述と同様に、柔軟性の評価を行った。結果を表8に示す。
【0089】
【表8】
【0090】
表8より、不織布への適用も可能であることが分かる。
【0091】
[実施例5-1~5-3]
実施例2-12、2-13、2-14で調製したシリカエアロゲル分散物のそれぞれを、250×250mmの正方形形状の穴をあけたメタルマスクを用いて、表面未処理の188μm厚みのPETフィルムに、乾燥後の膜厚が概ね100μmとなるように印刷した。乾燥は60℃で15分行い、その後さらに130℃1時間行った。得られたシートのPETに対する密着性を、JIS-K5600に準じてクロスカット法により評価した。実用上は1点以下であることが望ましい。結果を表9に示す。
【0092】
【表9】
【0093】
表9より、印刷膜としての適用性もあることが分かる。
【0094】
以上に開示された実施形態は、例えば、以下の態様を含む。
(付記1)
ポリビニルアルコールを含む水溶液にシリカエアロゲル粒子が分散されてなる、シリカエアロゲル分散物。
(付記2)
前記ポリビニルアルコールのけん化度が75mol%以上100mol%以下である、付記1に記載のシリカエアロゲル分散物。
(付記3)
前記ポリビニルアルコールのけん化度が85mol%以上92mol%以下である、付記1に記載のシリカエアロゲル分散物。
(付記4)
前記ポリビニルアルコールの重合度が200以上4000以下である、付記1から3のいずれかに記載のシリカエアロゲル分散物。
(付記5)
前記ポリビニルアルコールの重合度が1500以上3500以下である、付記1から3のいずれかに記載のシリカエアロゲル分散物。
(付記6)
前記ポリビニルアルコールが、カルボン酸により変性されている、付記1から5のいずれかに記載のシリカエアロゲル分散物。
(付記7)
水性エマルジョンを含有する、付記1から6のいずれかに記載のシリカエアロゲル分散物。
(付記8)
繊維を含有する、付記1から7のいずれかに記載のシリカエアロゲル分散物。
(付記9)
消泡剤を含有する、付記1から7のいずれかに記載のシリカエアロゲル分散物。
(付記10)
付記1から9のいずれかに記載のシリカエアロゲル分散物で構成されたシート。
(付記11)
付記1から9のいずれかに記載のシリカエアロゲル分散物が基材に塗布されてなるシート。
(付記12)
付記1から9のいずれかに記載のシリカエアロゲル分散物を印刷してなる膜。
【0095】
以上、本発明の実施形態について説明したが、本発明は特定の実施形態に限定されるものではなく、特許請求の範囲に記載された発明の範囲内において、種々の変形、変更が可能である。