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  • 特開-積層コア 図1
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2025011940
(43)【公開日】2025-01-24
(54)【発明の名称】積層コア
(51)【国際特許分類】
   H02K 1/18 20060101AFI20250117BHJP
   H02K 1/22 20060101ALI20250117BHJP
   H01F 3/02 20060101ALI20250117BHJP
   H01F 27/245 20060101ALI20250117BHJP
【FI】
H02K1/18 B
H02K1/22 Z
H01F3/02
H01F27/245
【審査請求】未請求
【請求項の数】1
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023114394
(22)【出願日】2023-07-12
(71)【出願人】
【識別番号】000003207
【氏名又は名称】トヨタ自動車株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100103894
【弁理士】
【氏名又は名称】家入 健
(72)【発明者】
【氏名】金原 宏
【テーマコード(参考)】
5H601
【Fターム(参考)】
5H601AA02
5H601AA08
5H601CC01
5H601CC15
5H601DD01
5H601EE19
5H601GA02
5H601GC02
5H601GC12
5H601KK12
(57)【要約】
【課題】、鋼板同士の締結力を高めるとともに、モータ動作時のNVの発生を抑制した積層コアを提供する。
【解決手段】鋼板を積層することにより形成される積層コアであって、鋼板2は、積層方向への押圧によって、前記鋼板の板面に凹凸状に形成される第1の球頭部21と、第1の球頭部21に近接した位置で、かつ、第1の球頭部21と同方向の積層方向への押圧によって鋼板の板面に凹凸状に形成される第2の球頭部22と、を有するカシメ部11を備え、カシメ部11は、鋼板2において、第1の球頭部21を形成する際に生じる積層方向への変形の一部と、第2の球頭部22を形成する際に生じる積層方向への変形の一部が、互いに重なり合っている。
【選択図】図2
【特許請求の範囲】
【請求項1】
鋼板を積層することにより形成される積層コアであって、
前記鋼板は、
積層方向への押圧によって、前記鋼板の板面に凹凸状に形成される第1の球頭部と、
前記第1の球頭部に近接した位置で、かつ、前記第1の球頭部と同方向の積層方向への押圧によって前記鋼板の板面に凹凸状に形成される第2の球頭部と、を有するカシメ部を備え、
前記カシメ部は、
前記鋼板において、前記第1の球頭部を形成する際に生じる積層方向への変形の一部と、前記第2の球頭部を形成する際に生じる積層方向への変形の一部が、互いに重なり合っている、
積層コア。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、積層コアに関する。
【背景技術】
【0002】
近年、モータにおいて利用されるローターやステータには、積層コアが利用されている。この積層コアは、複数の鋼板同士をカシメて積層されている。特許文献1には、ステータをカシメることについて記載されており、このカシメの形状は単純平面の押出し形状である。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2001-095181号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
例えば、鋼板同士の締結力を増すためにはカシメ深さを深くすればよいが、深くなりすぎると鋼板の一部が破断してしまう可能性もある。一方で、カシメ深さを浅くして締結力を弱くすると、僅かなアンバランスによって積層間が開いてしまい、この積層コアが利用されているモータの動作時にNV(Noise Vibration)が発生してしまう場合がある。
【0005】
本開示は、鋼板同士の締結力を高めるとともに、モータ動作時のNVの発生を抑制した積層コアを提供するものである。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本開示にかかる積層コアは、鋼板を積層することにより形成される積層コアであって、前記鋼板は、積層方向への押圧によって、前記鋼板の板面に凹凸状に形成される第1の球頭部と、前記第1の球頭部に近接した位置で、かつ、前記第1の球頭部と同方向の積層方向への押圧によって前記鋼板の板面に凹凸状に形成される第2の球頭部と、を有するカシメ部を備え、前記カシメ部は、前記鋼板において、前記第1の球頭部を形成する際に生じる積層方向への変形の一部と、前記第2の球頭部を形成する際に生じる積層方向への変形の一部が、互いに重なり合っている。
これにより、鋼板において、積層方向に深いカシメ部を形成することができる。
【発明の効果】
【0007】
本開示よれば、鋼板同士の締結力を高めるとともに、モータ動作時のNVの発生を抑制した積層コアを提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0008】
図1】本開示にかかる積層コアの上面図である。
図2】本開示にかかるカシメ部の形状を示した図である。
図3】本開示にかかるカシメ部の材料の流入及び流出方向を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0009】
実施の形態1
以下、図面を参照して本実施の形態に係る積層コアについて説明する。図1は、積層コア1の上面図である。言い換えると、図1は、積層コア1の積層方向の端部に配されている鋼板2を上面方向の視点で示した図である。なおここでは、積層コア1について積層方向は上下方向であって、Z方向あるいは高さと記載する場合がある。また、この積層方向に直角である水平の方向を径方向とし、XY方向として説明する場合がある。
【0010】
図1に示すように、典型的には、積層コア1は軸心や巻線を挿入するための複数の孔が形成されているとともに、上下方向に積層された鋼板同士をカシメるための複数のカシメ部11が形成されている。なお図1に示すように、典型的には鋼板には、鋼板の中心部を中心とする同一円周上に複数のカシメ部11が形成されている。
【0011】
図2は、カシメ部11の形状の一例を示した図である。具体的には、図2(a)は、カシメ部11及びその近傍を径方向からの視点で示した断面図であって、後述する球頭パンチ31,32により鋼板2を押圧してカシメ部11を形成する状態を示している。また、図2(b)は、鋼板2に形成されるカシメ部11及びその近傍について、鋼板2の板面を上方向からの視点で示した平面図である。なお、図2(c)は、図2(a)に示した球頭パンチ31,32が設けられている装置3の全体の概略を示した側面図である。
【0012】
図2(a)及び図2(b)に示すように、カシメ部11は、第1の球頭部21と第2の球頭部22は互いに近接して形成される。例えば、図2(c)に示すように、カシメ部11を形成する装置には、上下に稼働する上型3aと固定部である下型3bが設けられているとともに、上型3aには2つの球頭パンチが並列して設けられている。第1の球頭部21と第2の球頭部22は、上型3aの下降により、積層方向である下方向に向けて同時に同方向に押圧されて、鋼板2の板面に凹凸状に形成される。
【0013】
カシメ部11は、第1の球頭部21と第2の球頭部22が近接していることから、鋼板2において、第1の球頭部21を形成する際に生じる積層方向への変形の一部と、第2の球頭部22を形成する際に生じる積層方向への変形の一部が、互いに重なり合った状態として形成される。すなわち、第1の球頭部21の縁部周辺のうち第2の球頭部22寄りの箇所と、第2の球頭部22の縁部周辺のうち第1の球頭部21寄りの箇所が、互いに重なり合う。
【0014】
典型的には、図2(a)に示すように、カシメ部11が形成されている箇所より外側の所定の位置をA部、第1の球頭部21と第2の球頭部22の間であって上下方向に最も高い位置をB部とした場合に、B部の高さがA部の高さより低くなるように、第1の球頭部21と第2の球頭部22の形成によって発生したZ方向への凹凸の変化の一部どうしが重なり合っている。
【0015】
ここで、球頭パンチ31,32が設けられている装置によるカシメ部11を形成する動作と、カシメ部11を形成することにより発生する材料の流出および周囲からの材料の流入について説明する。
【0016】
図3は、球頭パンチ31,32により鋼板2の板面が押圧された場合に、鋼板2を構成している材料のカシメ部11への流入や流出の方向について示した図である。図3(a)は、カシメ部11及びその近傍を径方向からの視点で示した断面図であって材料の移動を矢印で示しており、図3(b)は、カシメ部11及びその周囲について図2(b)と同様に上面からの視点で示した図であって、材料の移動方向を矢印で示している。
【0017】
ここでは、第1の球頭部21と第2の球頭部22が連続している方向かつ水平な方向をX方向とし、さらに、水平方向においてX方向に対して直角である方向をY方向として説明する。また以下では、第1の球頭部21と第2の球頭部22を間であるB点が鋼板2の中心であって、鋼板2の内側であるものとして説明する。
【0018】
ここで鋼板2では、カシメ部11を形成するために球頭パンチ31,32により押圧を行うと、周囲からカシメ部11に材料が流入する。
【0019】
より具体的には、図3(a)に示すように、球頭パンチ31が鋼板2を押圧すると、X方向外側であるa方向から第1の球頭部21に材料が流入する。同様に、球頭パンチ32が鋼板2を押圧すると、第2の球頭部22には、X方向外側であるd方向から材料が流入する。
【0020】
さらに同様に図3(b)に示すように、Y方向について、第1の球頭部21には外側であるb方向及びf方向から材料が流入し、第2の球頭部22には外側であるc方向及びe方向から材料が流入する。すなわち、第1の球頭部21や第2の球頭部22に向けて、周囲から材料が流入する。
【0021】
一方で、このとき第1の球頭部21と第2の球頭部22の間の位置であるB部では、第1の球頭部21側と第2の球頭部22側の両方に材料が流れる力が働き、X方向に伸ばされて平面ひずみの状態となる。
【0022】
さらにこのとき、B部の位置におけるY方向外側であるg方向及びh方向側から、B部に向けて材料が流入する。このB部へのY方向の材料の流入は、第1の球頭部21へのb方向及びf方向からの材料の流入、及び、第2の球頭部22へのc方向及びe方向からの材料の流入により促されることにより行われる。
【0023】
したがって、B部ではX方向に材料の流出が行われる状態であるとともに、Y方向に材料の流入が行われる状態である。
【0024】
ここでB部におけるX方向の平面ひずみだけで考えた場合には、B部では成形限界の外の領域、すなわち破断が生じるような板厚減少を生じる状態となる。一方で、Y方向については、g方向及びh方向側からB部に向けて、X方向のひずみによる板厚減少以上の材料が流入される状態となる。したがって鋼板2は、B部で破断を生じることなく、Z方向に深い凹凸形状を有するカシメ部11を形成することができる。
【0025】
このようにして、鋼板2において、積層方向に大きく突出する凹凸状のカシメ部11を形成し、積層した鋼板2同士の締結力を強化することができる。したがって、モータを高出力化した場合であっても、NVの発生が抑制された積層コアを提供することができる。
【0026】
なお、本発明は上記実施の形態に限られたものではなく、趣旨を逸脱しない範囲で適宜変更することが可能である。すなわち上記の記載は、説明の明確化のため、適宜、省略及び簡略化がなされており、当業者であれば、実施形態の各要素を、本発明の範囲において容易に変更、追加、変換することが可能である。
【0027】
上記の積層コア1は、モータに利用されるロータコアとして用いることが最適事例である。これは、ロータは回転動作を行うため、積層される鋼板2同士に強い締結力が必要となるからである。
【0028】
一方で、積層コア1は、ステータコアであってもよい。但しこの場合には、勘合長さが長くなり、それだけカシメ部における渦損が大きくなる背反があることから、上述したように第1の球頭部21と第2の球頭部22の一部が重なり合うカシメ部11を形成する場合であっても、カシメ部11をZ方向に深く形成し過ぎないように大きさを調整する必要がある。
【0029】
なお、ロータにおける渦損はトルクに対する寄与が小さく、ステータの2%程度と無視できる程度である。したがってこの点においても、Z方向に凹凸が大きいカシメ部11が形成される上述の積層コア1は、ロータコアとしての利用が適している。
【0030】
また、この積層コア1が利用されるモータとしては、磁石埋込式であるIPM(Interior Permanent Magnet)モータが最適である。しかしながら、上述のカシメ部11の形成は、誘導モータのロータや、アウターロータのモータ、アキシャルギャップモータにも適用可能である。すなわち、鋼板が積層された状態で利用される回転体であれば、鋼板どうしで強い締結力が必要であるため、第1の球頭部21と第2の球頭部22の一部どうしが重なり合うカシメ部11を形成することが有効である。
【0031】
また、鋼板2には電磁鋼板を利用することが最適であるが、近年では、低損失なアモルファス箔の適用が検討されている。ここで、アモルファス箔は非常に硬く延性に欠けるという特徴があり、そのため現状ではアモルファス箔において、第1の球頭部21と第2の球頭部22の一部が重なり合う状態でZ方向に深いカシメ部11を設けることは困難である。しかしながら、将来的に延性を有したアモルファス箔が開発された場合には、第1の球頭部21と第2の球頭部22の一部どうしを重ね合わせたカシメ部11を設けて、板同士の締結力を強固にすることができる。
【0032】
また、上述したモータは車両等において利用される駆動用モータに限られず、ワイパーの駆動用のモータ等のスポット的に使うモータに利用される積層コアに、利用することができる。例えば、これらのスポット的に利用されるモータには、SPC(Steel Plate Cold:冷延鋼板)を使ったモータも存在し、このSPCは電磁鋼板と同等以上の延性を有しているため、第1の球頭部21と第2の球頭部22の一部どうしを重ね合わせたカシメ部11を形成することができる。このように、上記で説明した鋼板2は電磁鋼板に限られず、適宜変更可能である。
【0033】
また、第1の球頭部21と第2の球頭部22のR寸法やカシメ深さ等の寸法については、任意に設定することができる。
【0034】
また、1つのカシメ部11は、2つの球頭部21、22を近接させた状態で形成するものとして説明したが、1つのカシメ部11を構成する球頭部の個数は2つに限られず、例えば3個や4個等であっても良い。
【0035】
ここで、1つのカシメ部11を構成する球頭部の個数を増やした場合には、それだけ勘合長が長くなることから、鋼板2どうしでより強固な締結が可能となる。その一方で、1つのカシメ部11を構成する球頭部の個数を増やすと、周囲からのカシメ部11への材料の流入が促進されるため、カシメ部11の周囲に配されている磁石挿入用の孔などが変寸されやすくなる。
【0036】
したがって、1つのカシメ部11は、2つの球頭部21、22によって構成されていることが最適である場合が多いが、鋼板2の状態に応じて、1つのカシメ部11を構成する球頭部の個数を適宜変更することができる。
【符号の説明】
【0037】
1 積層コア
2 鋼板
11 カシメ部
21 第1の球頭部
22 第2の球頭部
31 球頭パンチ
図1
図2
図3