(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2025011954
(43)【公開日】2025-01-24
(54)【発明の名称】押付治具および細胞培養方法
(51)【国際特許分類】
C12M 1/00 20060101AFI20250117BHJP
C12N 5/00 20060101ALI20250117BHJP
【FI】
C12M1/00 C
C12N5/00
【審査請求】未請求
【請求項の数】9
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023114428
(22)【出願日】2023-07-12
(71)【出願人】
【識別番号】000207551
【氏名又は名称】株式会社SCREENホールディングス
(71)【出願人】
【識別番号】517432385
【氏名又は名称】京ダイアグノスティクス株式会社
(71)【出願人】
【識別番号】504132272
【氏名又は名称】国立大学法人京都大学
(74)【代理人】
【識別番号】100135013
【弁理士】
【氏名又は名称】西田 隆美
(72)【発明者】
【氏名】上村 祥文
(72)【発明者】
【氏名】竹村 幸敏
【テーマコード(参考)】
4B029
4B065
【Fターム(参考)】
4B029AA01
4B029AA08
4B029BB11
4B029CC02
4B029DG10
4B029GA03
4B029GB10
4B029HA10
4B065AA90X
4B065AC20
4B065BC41
4B065BD50
4B065CA46
(57)【要約】
【課題】ゲル状培地を用いて細胞を培養する場合に、ゲル状培地を所望の形状に成型できる技術を提供する。
【解決手段】この押付治具2は、上部が開口したカップ状の培養室10を有する培養容器1とともに用いられる。押付治具2は、固定部22と、押付面20とを有する。固定部22は、上部において水平方向に延びる。押付面20は、固定部22よりも下方に配置され、培養室10の底部11と間隔を空けて向かい合う。押付治具2を培養容器1に取り付けた状態において、固定部22は、培養室10の開口の縁部に載置されるとともに、押付面20は、培養室10の底面11と間隔を空けて向かい合う。これにより、ゲル状培地を所望の形状に成型できる。したがって、ゲル状培地による細胞の3次元培養を行う場合に、観察や撮像を行いやすくなる。
【選択図】
図9
【特許請求の範囲】
【請求項1】
上部が開口したカップ状の培養室を有する培養容器とともに用いられる押付治具であって、
上部において水平方向に延びる固定部と、
前記固定部よりも下方に配置され、水平方向に拡がる押付面と、
を有し、
前記押付治具を前記培養容器に取り付けた状態において、前記固定部は、前記培養容器の前記培養室の開口の縁部に載置されるとともに、前記押付面は、前記培養室の底面と間隔を空けて向かい合う、押付治具。
【請求項2】
請求項1に記載の押付治具であって、
筒状に延びる外周面を有し、下端部に前記押付面を有する胴部
をさらに有し、
前記固定部は、前記胴部の上端部から水平方向に延びる、押付治具。
【請求項3】
請求項2に記載の押付治具であって、
前記胴部の下端部の外周部から下方へ延びる脚部
をさらに有する、押付治具。
【請求項4】
請求項2に記載の押付治具であって、
前記胴部は、
上端面に設けられた上部開口と、前記押付面の中央に設けられた下部開口との間において、上下方向に貫通する貫通孔
を有する、押付治具。
【請求項5】
請求項1ないし請求項4のいずれか一項に記載の押付治具であって、
前記培養容器は、複数の前記培養室を有するウェルプレートであり、
複数の前記押付面を有する、押付治具。
【請求項6】
請求項1ないし請求項3のいずれか一項に記載の押付治具を用いた細胞培養方法であって、
a)細胞および液状化ゲルの懸濁液を前記培養室に滴下する工程と、
b)前記押付治具を前記培養容器に固定し、前記押付面を前記懸濁液に接触させる工程と、
c)前記液状化ゲルを固化させて、前記細胞を内包するゲルを得る工程と、
d)前記押付治具を前記培養容器から取り外す工程と、
e)前記培養室に液体培地を滴下し、前記細胞を培養する工程と、
を有する、細胞培養方法。
【請求項7】
請求項1ないし請求項3のいずれか一項に記載の押付治具を用いた細胞培養方法であって、
A)液状化ゲルを前記培養室に滴下する工程と、
B)前記押付治具を前記培養容器に固定し、前記押付面を前記液状化ゲルに接触させる工程と、
C)前記液状化ゲルを固化させて、細胞を含まないゲルを得る工程と、
D)前記押付治具を前記培養容器から取り外す工程と、
E)前記培養室に細胞と液体培地との懸濁液を滴下し、前記細胞を培養する工程と、
を有する、細胞培養方法。
【請求項8】
請求項4に記載の押付治具を用いた細胞培養方法であって、
p)前記押付治具を前記培養容器に固定する工程と、
q)前記貫通孔を介して、前記押付面の下方に細胞および液状化ゲルの懸濁液を注入する工程と、
r)前記液状化ゲルを固化させて、前記細胞を内包するゲルを得る工程と、
s)前記押付治具を前記培養容器から取り外す工程と、
t)前記培養室に液体培地を滴下し、前記細胞を培養する工程と、
を有する、細胞培養方法。
【請求項9】
請求項4に記載の押付治具を用いた細胞培養方法であって、
P)前記押付治具を前記培養容器に固定する工程と、
Q)前記貫通孔を介して、前記押付面の下方に液状化ゲルを注入する工程と、
R)前記液状化ゲルを固化させて、細胞を含まないゲルを得る工程と、
S)前記押付治具を前記培養容器から取り外す工程と、
T)前記培養室に細胞と液体培地との懸濁液を滴下し、前記細胞を培養する工程と、
を有する、細胞培養方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、細胞を培養する際に用いられる押付治具、および当該押付治具を用いた細胞培養方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、容器内で培養された細胞の薬剤感受性の画像解析が行われている。このような研究において、3次元細胞塊を用いることにより、2次元的に培養された細胞に比べて生体内に近い条件になることから、3次元細胞塊の培養を行うことが求められている。
【0003】
特に、がん細胞に対する抗がん剤の評価においては、2次元培養では腫瘍微小環境が再現できないことから、3次元培養の必要性が高いことが知られている。がん細胞の3次元培養、特にスフェロイド培養では、アガロースゲル、ハイドロゲルといった各種ゲル成分を含むゲル状培地を用いて3次元培養を行う。このように、ゲル状培地を用いて3次元培養を行うことについては、例えば、特許文献1に記載されている。
【0004】
特に、Corning社のゲル状培地「マトリゲル」は、EHSマウス腫瘍細胞から単離された基底膜成分を含んでおり、マトリゲルに包埋されたがん細胞は、部位特有の挙動を示すことがわかっている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
ゲル状培地による細胞の3次元培養を行う場合、ゲル状培地の形状によって観察が行いにくくなる場合がある。例えば、その細胞に特異的なタンパク質の局在を可視化するために、蛍光染色を行う場合には、蛍光物質に励起光を照射し、放出された蛍光を検出する。このとき、ゲルに厚みがあると、励起光の減衰および散乱が生じるため、検出できる蛍光が弱くなる。
【0007】
また、ゲルの厚みが大きい場合、明視野撮像、蛍光撮像に関わらず、Z方向(高さ方向)に細胞が分布するため、Z方向の各位置にフォーカスして画像を取得しようとすると、撮影に多大な時間がかかるという問題が生じる。
【0008】
本発明は、このような事情に鑑みなされたものであり、ゲル状培地を用いて細胞を培養する場合に、ゲル状培地を所望の形状に成型できる技術を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記課題を解決するため、本願の第1発明は、上部が開口したカップ状の培養室を有する培養容器とともに用いられる押付治具であって、上部において水平方向に延びる固定部と、前記固定部よりも下方に配置され、水平方向に拡がる押付面と、を有し、前記押付治具を前記培養容器に取り付けた状態において、前記固定部は、前記培養容器の前記培養室の開口の縁部に載置されるとともに、前記押付面は、前記培養室の底面と間隔を空けて向かい合う。
【0010】
本願の第2発明は、第1発明の押付治具であって、筒状に延びる外周面を有し、下端部に前記押付面を有する胴部をさらに有し、前記固定部は、前記胴部の上端部から水平方向に延びる。
【0011】
本願の第3発明は、第2発明の押付治具であって、前記胴部の下端部の外周部から下方へ延びる脚部をさらに有する。
【0012】
本願の第4発明は、第2発明の押付治具であって、前記胴部は、上端面に設けられた上部開口と、前記押付面の中央に設けられた下部開口との間において、上下方向に貫通する貫通孔を有する。
【0013】
本願の第5発明は、第1発明ないし第4発明のいずれか一発明の押付治具であって、前記培養容器は、複数の前記培養室を有するウェルプレートであり、複数の前記押付面を有する。
【0014】
本願の第6発明は、第1発明ないし第3発明のいずれか一発明の押付治具を用いた細胞培養方法であって、a)細胞および液状化ゲルの懸濁液を前記培養室に滴下する工程と、b)前記押付治具を前記培養容器に固定し、前記押付面を前記懸濁液に接触させる工程と、c)前記液状化ゲルを固化させて、前記細胞を内包するゲルを得る工程と、d)前記押付治具を前記培養容器から取り外す工程と、e)前記培養室に液体培地を滴下し、前記細胞を培養する工程と、を有する。
【0015】
本願の第7発明は、第1発明ないし第3発明のいずれか一発明の押付治具を用いた細胞培養方法であって、A)液状化ゲルを前記培養室に滴下する工程と、B)前記押付治具を前記培養容器に固定し、前記押付面を前記液状化ゲルに接触させる工程と、C)前記液状化ゲルを固化させて、細胞を含まないゲルを得る工程と、D)前記押付治具を前記培養容器から取り外す工程と、E)前記培養室に細胞と液体培地との懸濁液を滴下し、前記細胞を培養する工程と、を有する。
【0016】
本願の第8発明は、第4発明の押付治具を用いた細胞培養方法であって、p)前記押付治具を前記培養容器に固定する工程と、q)前記貫通孔を介して、前記押付面の下方に細胞および液状化ゲルの懸濁液を注入する工程と、r)前記液状化ゲルを固化させて、前記細胞を内包するゲルを得る工程と、s)前記押付治具を前記培養容器から取り外す工程と、t)前記培養室に液体培地を滴下し、前記細胞を培養する工程と、を有する。
【0017】
本願の第9発明は、第4発明の押付治具を用いた細胞培養方法であって、P)前記押付治具を前記培養容器に固定する工程と、Q)前記貫通孔を介して、前記押付面の下方に液状化ゲルを注入する工程と、R)前記液状化ゲルを固化させて、細胞を含まないゲルを得る工程と、S)前記押付治具を前記培養容器から取り外す工程と、T)前記培養室に細胞と液体培地との懸濁液を滴下し、前記細胞を培養する工程と、を有する。
【発明の効果】
【0018】
本願の第1発明~第9発明によれば、ゲル状培地を所望の形状に成型できる。これにより、ゲル状培地による細胞の3次元培養を行う場合に、観察や撮像を行いやすくなる。
【図面の簡単な説明】
【0019】
【
図3】従来の細胞培養の様子を示したウェルプレートの部分断面図である。
【
図4】従来の細胞培養の様子を示したウェルプレートの部分断面図である。
【
図5】第1実施形態に係る押付治具の斜視図である。
【
図6】第1実施形態に係る押付治具をウェルに挿入した様子を示した図である。
【
図7】第1実施形態に係る押付治具を用いた第1細胞培養方法の流れを示したフローチャートである。
【
図8】第1細胞培養方法の細胞・ゲル懸濁液滴下工程の様子を示した図である。
【
図9】第1細胞培養方法の押付治具配置工程の様子を示した図である。
【
図10】第1細胞培養方法の細胞培養工程の様子を示した図である。
【
図11】第1実施形態に係る押付治具を用いた第2細胞培養方法の流れを示したフローチャートである。
【
図12】第2細胞培養方法の液状化ゲル滴下工程の様子を示した図である。
【
図13】第2細胞培養方法の押付治具配置工程の様子を示した図である。
【
図14】第2細胞培養方法の細胞・培地懸濁液滴下工程の様子を示した図である。
【
図15】第2細胞培養方法の細胞培養工程の様子を示した図である。
【
図16】第2実施形態に係る押付治具の斜視図である。
【
図17】第2実施形態に係る押付治具をウェルに挿入した様子を示した図である。
【
図18】第2実施形態に係る押付治具を用いた第3細胞培養方法の流れを示したフローチャートである。
【
図19】第2実施形態に係る押付治具を用いた第4細胞培養方法の流れを示したフローチャートである。
【
図20】第1変形例に係る押付治具の斜視図である。
【
図21】第1変形例に係る押付治具をウェルに挿入した様子を示した図である。
【
図22】第2変形例に係る押付治具の斜視図である。
【
図23】第3変形例に係る押付治具およびウェルプレートの縦断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0020】
以下、本発明の好適な実施形態について、図面を参照しつつ説明する。
【0021】
<1.ウェルプレートの構成>
図1は、培養容器の一例であるウェルプレート1の斜視図である。
図2は、ウェルプレート1の縦断面図である。このウェルプレート1は、複数のウェル(凹部)10を有する略板状の容器である。ウェルプレート1の材料には、例えば、光を透過する透明な樹脂が使用される。
図1に示すように、複数のウェル10は、ウェルプレート1の上面に、規則的に配列されている。本実施形態では、上面視におけるウェル10の形状が、円形である。ただし、上面視におけるウェル10の形状は、矩形等の他の形状であってもよい。
【0022】
各ウェル10内には、液体培地やゲル状培地とともに、観察対象となる生体試料が保持される。これにより、各ウェル10内において、細胞等の生体試料が培養される。
【0023】
図3および
図4は、従来の細胞の3次元培養の様子を示したウェルプレート1の部分断面図である。
図3および
図4において、1つのウェル10の付近の様子が示されている。
図3および
図4に示すように、ウェル10は、底面11と側面12とを有する。底面11は、上下方向に対して垂直に広がる平坦な面である。側面12は、底面11の周縁部から上方へ向けて延びる、円筒状の面である。なお、ウェルプレート1の成型時に金型からの離型を容易とするために、側面12は、上方へ向かうにつれて僅かに拡径するテーパ状となっていてもよい。
【0024】
このようなウェルプレート1において、ゲル状培地を用いて細胞9を3次元培養する従来の手順の一例を説明する。以下では、液状化したゲル状培地を「液状化ゲル」、細胞と液状化ゲルとの懸濁液を「細胞・ゲル懸濁液」と称する。
【0025】
ゲル状培地を用いて細胞を3次元培養する際には、まず、細胞・ゲル懸濁液をウェル10の底面11上に滴下する。その後、液状化ゲルを固化させて、ゲル状培地91を得る。その後、液体培地92をウェル10内に滴下し、ウェル10を液体培地92で満たす。そして、この状態で細胞9が培養される。
【0026】
ゲル状培地91には、例えば、アガロースゲル、ハイドロゲルといった各種ゲル成分を含むゲル状培地が用いられる。本実施形態では、ゲル状培地91として、Corning社のゲル状培地「マトリゲル」を用いる。マトリゲルは、-20℃で固体となり、0~4℃付近で液状化し、37℃で固化してゲル状となる。このため、液状化ゲルの温度は0~4℃付近であり、液状化ゲルをインキュベータ内で加温することにより、固化してゲル状となる。
【0027】
液体培地92には、例えば、DMEM(ダルベッコ改変イーグル培地)、RPMI(ロズウェルパーク記念研究所培地)、生理食塩水などが用いられる。細胞9は、単一の細胞であってもよく、あるいは、複数の細胞により形成される細胞塊(スフェロイド)であってもよい。
【0028】
上記の手順で細胞9を培養する場合、液状化ゲルは、流動性はあるものの、粘性があるため、底面11と平行に平らに拡がらない。また、液状化ゲルが側面12に接触すると、メニスカスを形成する。このため、液状化ゲルの厚みを一定とすることが難しい。
【0029】
<2.第1実施形態>
<2-1.押付治具の構成>
続いて、本発明の第1実施形態に係る押付治具2について説明する。
図5は、第1実施形態に係る押付治具2の斜視図である。
図6は、押付治具2の使用時におけるウェルプレート1および押付治具2の部分断面図である。
【0030】
押付治具2は、ウェルプレート1のように、上部が開口したカップ状の培養室(ウェル10)を有する培養容器とともに用いられる。本実施形態の押付治具2は、ウェルプレート1の1つのウェル10に対して用いられる。
【0031】
押付治具2は、胴部21と、固定部22とを有する。押付治具2は、例えば、アクリル樹脂や、PDMS(ポリジメチルシロキサン)等の樹脂や弾性材料により一体成型される。押付治具2の材料には、PDMSのように離型性に優れていて、120℃以上の耐熱性を有する材料を用いることが好ましい。耐熱性を有する材料により形成されていれば、押付治具2をオートクレーブ処理することができる。また、PDMSのような弾性材料を用いる場合、精度の観点から、JIS K6253に規定されるタイプAデュロメータにより測定される硬さが50度以上であることが好ましい。
【0032】
胴部21は、上下に延びる円柱状の部位である。胴部21の径は、ウェル10の径よりも小さい。このため、胴部21をウェル10内に挿入することができる。胴部21は、その下端部に押付面20を有する。すなわち、押付面20は、胴部21の円形の下端面である。押付面20は、固定部22よりも下方に配置され、水平方向に拡がる。
【0033】
なお、本実施形態では、ウェル10の上下方向から見た断面が円形であり、押付面20も円形であるが、本発明はこれに限られない。押付面20の形状は、ウェル10の形状によって適宜変更しうる。
【0034】
固定部22は、押付治具2の上部において水平方向に延びる部位である。具体的には、固定部22は、胴部21の上端部から水平方向に円環状に延びるフランジである。
【0035】
押付治具2をウェルプレート1に取り付けた状態において、固定部22は、ウェル10の上部の開口の縁部に載置される。また、胴部21の長さは、ウェル10の深さよりも少し小さい。これにより、押付治具2をウェルプレート1に取り付けた状態において、押付面20は、ウェル10の底部と上下方向に間隔を空けて向かい合う。
【0036】
<2-2.第1細胞培養方法>
続いて、第1実施形態に係る押付治具2を用いた第1細胞培養方法について、
図7~
図10を参照しつつ説明する。
図7は、押付治具2を用いた第1細胞培養方法の流れを示したフローチャートである。
図8は、第1細胞培養方法の細胞・ゲル懸濁液滴下工程(ステップS101)の様子を示した図である。
図9は、第1細胞培養方法の押付治具配置工程(ステップS102)の様子を示した図である。
図10は、第1細胞培養方法の細胞培養工程(ステップS105)の様子を示した図である。
【0037】
この第1細胞培養方法では、まず、液状化したゲル培地81に細胞9を混和させた細胞・ゲル懸濁液82を、ウェル10内に適量滴下する(ステップS101:細胞・ゲル懸濁液滴下工程)。このとき、液状化したゲル培地81に混和される細胞9には、細胞塊が含まれてもよい。また、このとき、液状化したゲル培地81の温度は、0~4℃である。これにより、
図8に示すように、ウェル10の底面11上に細胞・ゲル懸濁液82がドーム状に載置される。
【0038】
次に、押付治具2をウェルプレート1に固定し、押付面20を細胞・ゲル懸濁液82に接触させる(ステップS102:押付治具配置工程)。これにより、
図9に示すように、細胞・ゲル懸濁液82の上面が押付面20によって平らに成型される。
【0039】
続いて、押付治具2をウェルプレート1に固定したまま、液状化ゲル81を固化させ、細胞9を内包するゲル状培地91を得る(ステップS103:ゲル固化工程)。具体的には、ウェルプレート1をインキュベータ内に載置し、ウェルプレート1を約37℃まで加温する。その後、押付治具2をウェルプレート1から取り外す(ステップS104:押付治具取外し工程)。これにより、ウェル10の底面11上に、一定の厚みを有し、細胞9を内包するゲル状培地91が形成される。
【0040】
その後、
図10に示すように、ウェル10内に液体培地92を滴下し、ゲル状培地91に内包された状態の細胞9を培養する(ステップS105:細胞培養工程)。このようにすれば、平らに成型されたゲル状培地91の内部で、細胞9が3次元的に培養される。
【0041】
このように、押付治具2を用いることにより、液状化ゲル81を、所望の形状に成型して固化させることができる。これにより、ゲル状培地91を一定の厚みにすることができる。その結果、培養した細胞9のZ方向の分布範囲を所定の範囲内とすることができる。したがって、培養した細胞9の撮像および観察を行いやすくなる。
【0042】
<2-3.第2細胞培養方法>
続いて、第1実施形態に係る押付治具2を用いた第2細胞培養方法について、
図11~
図15を参照しつつ説明する。
図11は、押付治具2を用いた第2細胞培養方法の流れを示したフローチャートである。
図12は、第2細胞培養方法の液状化ゲル滴下工程(ステップS201)の様子を示した図である。
図13は、第2細胞培養方法の押付治具配置工程(ステップS202)の様子を示した図である。
図14は、第2細胞培養方法の細胞・液体培地懸濁液滴下工程(ステップS205)の様子を示した図である。
図15は、第2細胞培養方法の細胞培養工程(ステップS206)の様子を示した図である。
【0043】
この第2細胞培養方法では、まず、液状化したゲル培地81を、ウェル10内に適量滴下する(ステップS201:液状化ゲル滴下工程)。このとき、液状化したゲル培地81の温度は、0~4℃である。これにより、
図12に示すように、ウェル10の底面11上に液状化したゲル培地81がドーム状に載置される。
【0044】
次に、押付治具2をウェルプレート1に固定し、押付面20を液状化したゲル培地81に接触させる(ステップS202:押付治具配置工程)。これにより、
図13に示すように、液状化したゲル培地81の上面が押付面20によって平らに成型される。
【0045】
続いて、押付治具2をウェルプレート1に固定したまま、液状化ゲル81を固化させ、ゲル状培地91を得る(ステップS203:ゲル固化工程)。具体的には、ウェルプレート1をインキュベータ内に載置し、ウェルプレート1を約37℃まで加温する。その後、押付治具2をウェルプレート1から取り外す(ステップS104:押付治具取外し工程)。これにより、ウェル10の底面11上に、一定の厚みを有するゲル状培地91が形成される。
【0046】
その後、
図14に示すように、ウェル10内に、細胞9を液体培地92に混和させた細胞・液体培地懸濁液83を滴下する(ステップS205:細胞・液体培地懸濁液滴下工程)。そして、そのまま静置することにより、
図15のように、細胞・液体培地懸濁液83中の細胞9が沈み、ゲル状培地91の上面に載る。その状態で細胞9を培養することにより、平らに成型されたゲル状培地91の上面付近で、細胞9が3次元的に培養される(ステップS206:静置・細胞培養工程)。
【0047】
このように、押付治具2を用いることにより、液状化ゲル81を、所望の形状に成型して固化させることができる。これにより、ゲル状培地91を一定の厚みにすることができる。その結果、培養した細胞9のZ方向の分布範囲を所定の範囲内とすることができる。したがって、培養した細胞9の撮像および観察を行いやすくなる。
【0048】
<3.第2実施形態>
<3-1.押付治具の構成>
続いて、本発明の第2実施形態に係る押付治具2Aについて説明する。
図16は、第2実施形態に係る押付治具2Aの斜視図である。
図17は、押付治具2Aの使用時におけるウェルプレート1および押付治具2Aの部分断面図である。以下では、第2実施形態に係る押付治具2Aについて、主に、第1実施形態に係る押付治具2との相違点について説明する。それ以外の点については、第1実施形態に係る押付治具2と同様である。
【0049】
押付治具2Aは、胴部21Aと、固定部22Aとを有する。胴部21Aは、上下に延びる円柱状の部位である。胴部21Aは、その下端部に押付面20Aを有する。すなわち、押付面20は、胴部21Aの円形の下端面である。胴部21Aは、その上端面に設けられた上部開口211Aと、下端面である押付面20Aの中央に設けられた下部開口212Aとを有する。また、胴部21Aは、上部開口211Aと下部開口212Aとの間において、胴部21Aを上下方向に貫通する貫通孔210Aを有する。
【0050】
この押付治具2Aは、貫通孔210Aを有することにより、ウェルプレート1に押付治具2Aを取り付けた状態で、ウェル10の底面11上に液体等を滴下することが可能である。このため、ウェルプレート1に押付治具2Aを取り付けた後に、液状化したゲル培地81や、細胞・ゲル懸濁液82をウェル10の底面11上に滴下することができる。
【0051】
<3-2.第3細胞培養方法>
続いて、第2実施形態に係る押付治具2Aを用いた第3細胞培養方法について、
図11を参照しつつ説明する。
図18は、押付治具2Aを用いた第3細胞培養方法の流れを示したフローチャートである。
【0052】
この第3細胞培養方法では、まず、押付治具2Aをウェルプレート1に固定する(ステップS301:押付治具配置工程)。このとき、ウェル10の底面11と押付治具2Aの押付面20Aとの間の空間には、何も配置されていない。
【0053】
次に、液状化したゲル培地81に細胞9を混和させた細胞・ゲル懸濁液82を、マイクロピペット等を用いて、貫通孔210Aを介して、ウェル10の底面11と押付治具2Aの押付面20Aとの間の空間に注入する(ステップS302:細胞・ゲル懸濁液注入工程)。これにより、細胞・ゲル懸濁液82が、ウェル10の底面11と押付治具2Aの押付面20Aとの間の空間を満たす。すなわち、細胞・ゲル懸濁液82の上面は押付治具2Aの押付面20Aに沿って平らに成型される。このとき、細胞・ゲル懸濁液82の温度は、0~4℃である。
【0054】
続いて、押付治具2Aをウェルプレート1に固定したまま、液状化ゲル81を固化させ、細胞9を内包するゲル状培地91を得る(ステップS303:ゲル固化工程)。具体的には、ウェルプレート1をインキュベータ内に載置し、ウェルプレート1を約37℃まで加温する。その後、押付治具2Aをウェルプレート1から取り外す(ステップS304:押付治具取外し工程)。これにより、ウェル10の底面11上に、一定の厚みを有し、細胞9を内包するゲル状培地91が形成される。
【0055】
その後、ウェル10内に液体培地92を滴下し、ゲル状培地91に内包された状態の細胞9を培養する(ステップS305:細胞培養工程)。このようにすれば、平らに成型されたゲル状培地91の内部で、細胞9が3次元的に培養される。
【0056】
このように、本実施形態の押付治具2Aを用いることにより、先に押付治具2Aをウェルプレート1に固定してから、ウェル10内に細胞・ゲル懸濁液82を注入できる。
【0057】
また、本実施形態でも、液状化ゲル81を、所望の形状に成型して固化させることができる。これにより、ゲル状培地91を一定の厚みにすることができる。その結果、培養した細胞9のZ方向の分布範囲を所定の範囲内とすることができる。したがって、培養した細胞9の撮像および観察を行いやすくなる。
【0058】
<3-3.第4細胞培養方法>
続いて、第2実施形態に係る押付治具2Aを用いた第4細胞培養方法について、
図19を参照しつつ説明する。
図19は、押付治具2Aを用いた第4細胞培養方法の流れを示したフローチャートである。
【0059】
この第4細胞培養方法では、まず、押付治具2Aをウェルプレート1に固定する(ステップS401:押付治具配置工程)。このとき、ウェル10の底面11と押付治具2Aの押付面20Aとの間の空間には、何も配置されていない。
【0060】
次に、液状化したゲル培地81を、マイクロピペット等を用いて、貫通孔210Aを介して、ウェル10の底面11と押付治具2Aの押付面20Aとの間の空間に注入する(ステップS402:ゲル注入工程)。これにより、液状化したゲル培地81が、ウェル10の底面11と押付治具2Aの押付面20Aとの間の空間を満たす。すなわち、液状化したゲル培地81の上面は押付治具2Aの押付面20Aに沿って平らに成型される。このとき、液状化したゲル培地81の温度は、0~4℃である。
【0061】
続いて、押付治具2Aをウェルプレート1に固定したまま、液状化ゲル81を固化させ、ゲル状培地91を得る(ステップS403:ゲル固化工程)。具体的には、ウェルプレート1をインキュベータ内に載置し、ウェルプレート1を約37℃まで加温する。その後、押付治具2Aをウェルプレート1から取り外す(ステップSA04:押付治具取外し工程)。これにより、ウェル10の底面11上に、一定の厚みを有するゲル状培地91が形成される。
【0062】
その後、ウェル10内に、細胞9を液体培地92に混和させた細胞・液体培地懸濁液83を滴下する(ステップS405:細胞・液体培地懸濁液滴下工程)。そして、そのまま静置することにより、細胞・液体培地懸濁液83中の細胞9が沈み、ゲル状培地91の上面に載る。その状態で細胞9を培養することにより、平らに成型されたゲル状培地91の上面付近で、細胞9が3次元的に培養される(ステップS406:静置・細胞培養工程)。
【0063】
このように、押付治具2Aを用いることにより、液状化ゲル81を、所望の形状に成型して固化させることができる。これにより、ゲル状培地91を一定の厚みにすることができる。その結果、培養した細胞9のZ方向の分布範囲を所定の範囲内とすることができる。したがって、培養した細胞9の撮像および観察を行いやすくなる。
【0064】
<4.変形例>
以上、本発明の一実施形態について説明したが、本発明は、上記の実施形態に限定されるものではない。
【0065】
<4-1.第1変形例>
図20は、第1変形例に係る押付治具2Bの斜視図である。
図21は、第1変形例に係る押付治具2Bの使用時の様子を示した部分断面図である。
【0066】
図20および
図21に示すように、押付治具2Bは、胴部21Bと、固定部22Bとに加えて、脚部23Bを有する。胴部21Bおよび固定部22Bの構成は、第1実施形態に係る押付治具2と同様であるため、説明を省略する。
【0067】
脚部23Bは、胴部21Bの下端部の外周部から下方へ延びる。第1変形例に係る押付治具2Bでは、脚部23Bは、押付面20Bの外周から下方へ延びる円筒状の部位である。
【0068】
第1実施形態に係る押付治具2においては、ウェルプレート1や押付治具2の製造誤差等により、ウェル10の底面11と押付面20との間隔が想定よりも小さくなってしまう可能性がある。その場合、押付治具2をウェル10内に挿入した際に、先に底面11上に滴下された液状化されたゲル状培地81または細胞・ゲル懸濁液82が側面12に接触し、さらに側面12に沿って上方へ伝わる虞がある。この場合、ゲル状培地91のZ方向の分布範囲を所定の範囲内とすることができなくなってしまう。
【0069】
第1変形例に係る押付治具2Bでは、脚部23Bがあることにより、ウェル10の底面11と押付面20Bとの間隔が脚部23Bの長さよりも小さくなることを抑制できる。その結果、ゲル状培地91が側面12に接触するのを抑制できる。
【0070】
<4-2.第2変形例>
図22は、第2変形例に係る押付治具2Cの斜視図である。この押付治具2Cも、第1変形例に係る押付治具2Cと同様、脚部23Cを有する。ただし、この押付治具2Cの脚部23Cは、胴部21Cの下端部の外周部のうち、周方向に間隔を空けた数カ所から下方へ延びる。このように、脚部23Cは、筒状に繋がったものでなくてもよい。
【0071】
<4-3.第3変形例>
図23は、第3変形例に係る押付治具2Dの斜視図である。この押付治具2Dは、複数のウェル10のそれぞれに挿入される複数の胴部21Dと、単一の固定部22Dとを有する。固定部22Dは、ウェルプレート1の上面に沿って板状に拡がり、複数の胴部21Dのそれぞれの上端部と接続されている。そして、各胴部21Dはそれぞれ下端部に押付面20Dを有する。すなわち、この押付治具2Dは、同時に複数のウェル10の底面11と間隔を空けて配置される複数の押付面20Dを有する。このように、押付治具2Dは、複数のウェル10に同時に使用できるものであってもよい。
【0072】
<4-4.他の変形例>
また、上記の実施形態では、複数のウェル(培養室)10を有するウェルプレート1について説明した。しかしながら、本発明の培養容器は、1つの凹部を有するシャーレ(ペトリディッシュ)やビーカーであってもよい。
【0073】
また、上記の実施形態や変形例に登場した各要素を、矛盾が生じない範囲で、適宜に組み合わせてもよい。
【符号の説明】
【0074】
1 ウェルプレート(培養容器)
2,2A,2B,2C,2D 押付治具
9 細胞
10 ウェル(培養室)
11 底面
12 側面
20,20A,20B,20D 押付面
21,21A,21B,21D 胴部
22,22A,22B,22D 固定部
23B,23C :脚部
81 液状化ゲル
82 細胞・ゲル懸濁液
83 細胞・液体培地懸濁液
91 ゲル状培地
92 液体培地
210A 貫通孔
211A 上部開口
212A 下部開口