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特開2025-11998還元スラグ処理物、還元スラグ処理物含有コンクリート及び還元スラグ処理物の製造方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2025011998
(43)【公開日】2025-01-24
(54)【発明の名称】還元スラグ処理物、還元スラグ処理物含有コンクリート及び還元スラグ処理物の製造方法
(51)【国際特許分類】
   C04B 5/00 20060101AFI20250117BHJP
   C04B 5/06 20060101ALI20250117BHJP
   C04B 18/14 20060101ALI20250117BHJP
   C04B 20/00 20060101ALI20250117BHJP
   C04B 28/02 20060101ALI20250117BHJP
   C04B 40/02 20060101ALI20250117BHJP
【FI】
C04B5/00 Z ZAB
C04B5/00 B
C04B5/00 C
C04B5/06
C04B18/14 F
C04B20/00 B
C04B28/02
C04B40/02
【審査請求】未請求
【請求項の数】7
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023114503
(22)【出願日】2023-07-12
(71)【出願人】
【識別番号】516142403
【氏名又は名称】未来建築研究所株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100088580
【弁理士】
【氏名又は名称】秋山 敦
(74)【代理人】
【識別番号】100195453
【弁理士】
【氏名又は名称】福士 智恵子
(74)【代理人】
【識別番号】100205501
【弁理士】
【氏名又は名称】角渕 由英
(72)【発明者】
【氏名】羽原 俊祐
(72)【発明者】
【氏名】向山 敦
【テーマコード(参考)】
4G112
【Fターム(参考)】
4G112JB03
4G112JC04
4G112JD03
4G112JE06
4G112JG03
4G112JL03
4G112JM00
4G112PA29
4G112PE07
4G112RA02
(57)【要約】
【課題】γCS及び/又はメルビナイトを主成分として多く含む還元スラグ処理物を提供する。
【解決手段】還元スラグ処理物は、電気炉から排出される還元スラグを処理した物であって、γCS及び/又はメルビナイト(3CaO・MgO・2SiO)を主成分とする組成物である。還元スラグ処理物は、0.6mm以下の平均粒子径を有し、かつ、還元スラグ処理物を、JIS標準篩(JIS Z8801-1:2000規定)を用いて篩分したときに、還元スラグ処理物の総重量の80%以上が公称目開き0.6mmの篩を通過する粒度分布を有する。
【選択図】図3
【特許請求の範囲】
【請求項1】
γCS及び/又はメルビナイト(3CaO・MgO・2SiO)を主成分とする還元スラグ処理物であって、
前記還元スラグ処理物が、0.6mm以下の平均粒子径を有し、かつ、
前記還元スラグ処理物を、JIS標準篩(JIS Z8801-1:2000規定)を用いて篩分したときに、前記還元スラグ処理物の総重量の80%以上が公称目開き0.6mmの篩を通過する粒度分布を有することを特徴とする還元スラグ処理物。
【請求項2】
前記還元スラグ処理物の化学組成の合計を100重量%としたときに、CaOが50~70重量%、SiOが25~40重量%、MgOが5~15重量%となり、
前記還元スラグ処理物の総重量の90%以上が公称目開き0.6mmの篩を通過する粒度分布を有することを特徴とする請求項1に記載の還元スラグ処理物。
【請求項3】
前記還元スラグ処理物が、0.3mm以下の平均粒子径を有し、かつ、
前記還元スラグ処理物を、前記JIS標準篩を用いて篩分したときに、前記還元スラグ処理物の総重量の80%以上が公称目開き0.3mmの篩を通過する粒度分布を有することを特徴とする請求項1に記載の還元スラグ処理物。
【請求項4】
前記還元スラグ処理物の化学組成の合計を100重量%としたときに、CaOが50~65重量%、SiOが25~35重量%、MgOが5~10重量%となり、かつ、CaO-SiO-Al(MgO=10重量%)の三成分系状態図においてCSの初晶域の化学組成となり、
前記還元スラグ処理物の総重量の90%以上が公称目開き0.3mmの篩を通過する粒度分布を有することを特徴とする請求項1に記載の還元スラグ処理物。
【請求項5】
請求項1に記載の還元スラグ処理物を含有し、二酸化炭素を固定化させたことを特徴とする還元スラグ処理物含有コンクリート。
【請求項6】
電気炉から排出される還元スラグを用いてγCS(γ-2CaO・SiO)及び/又はメルビナイト(3CaO・MgO・2SiO)を主成分とする還元スラグ処理物を製造する方法であって、
前記還元スラグを成分調整する成分調整工程と、
成分調整された前記還元スラグを徐冷する徐冷工程と、
徐冷された前記還元スラグを分級して、前記還元スラグの分級粉体を得る分級工程と、を含み、
前記分級工程では、0.6mm以下の平均粒子径を有し、かつ、JIS標準篩(JIS Z8801-1:2000規定)を用いて篩分したときに、総重量の80%以上が公称目開き0.6mmの篩を通過する粒度分布を有する前記分級粉体を得ることを特徴とする還元スラグ処理物の製造方法。
【請求項7】
前記成分調整工程では、前記還元スラグを、CaO-SiO-Al(MgO=10重量%)の三成分系状態図においてCSの初晶域の組成となるように成分調整し、
前記徐冷工程では、成分調整された前記還元スラグを還元雰囲気中で徐冷し、
前記分級工程では、0.3mm以下の平均粒子径を有し、かつ、前記JIS標準篩の篩を用いて篩分したときに、総重量の80%以上が公称目開き0.3mmの篩を通過する粒度分布を有する前記分級粉体を得ることを特徴とする請求項6に記載の還元スラグ処理物の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、還元スラグ処理物、還元スラグ処理物含有コンクリート及び還元スラグ処理物の製造方法に係り、特に、γCS(γ-2CaO・SiO)及び/又はメルビナイト(3CaO・MgO・2SiO)を主成分とする還元スラグ処理物、還元スラグ処理物含有コンクリート及び還元スラグ処理物の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、コンクリートは、原材料としてセメントを大量に使用し、当該セメントの生産過程で化石燃料を利用すること等から、二酸化炭素の排出量が大きい材料とされている。そのため、コンクリートの製造にあたっては、二酸化炭素の排出量を低減することが地球温暖化対策の一環として求められている。
そうしたなかで、二酸化炭素と容易に反応するγCS又はメルビナイトを混和材として使用し、少量の水、セメント及び骨材とともに混練してコンクリート状にし、高濃度の二酸化炭素を吸収させて硬化することで、大量の二酸化炭素を内部に固定したセメント系材料(コンクリート)の発明が提案されている(例えば、特許文献1参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2011-168436号公報
【非特許文献】
【0004】
【非特許文献1】安田僚介ほか「炭酸化を受けたセメント系材料中のCO2含有率評価に向けた分析方法の検討」、セメント・コンクリート論文集、Vol.75、p.442-447、2021年
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
このように、γCS及びメルビナイトは、カーボンニュートラル又はカーボンネガティブの社会を構築するキー材料となりうる。
一方で、γCSの製造にあたっては、例えば、石灰石やケイ石を混合し、成分調整を行った後に1200~1400℃で焼成して製造しており、高価な材料であって大量生産することが難しいといった問題がある。メルビナイトについても同様である。
また、γCSやメルビナイトを製造するにあたって、石灰石の脱炭酸化処理、大量の化石燃料の使用が不可欠となるため、二酸化炭素の吸収量(固定量)以上に二酸化炭素を排出してしまい、カーボンポジティブとなる問題もある。
そのため、γCS又はメルビナイトを主成分とする組成物を効率良く得るとともに、当該組成物の製造にあたって二酸化炭素を排出しない技術が求められていた。
【0006】
ところで、γCS又はメルビナイトに近い化学成分を有する材料として電気炉還元スラグがある。電気炉還元スラグ、電気炉酸化スラグは、製鉄業において主原料となる鉄くずを再生する精錬工程において発生する。現状、電気炉還元スラグは、電気炉酸化スラグと混合され、付加価値の低い土工用材料として利用されている。
そのため、製鉄業及び製鋼・圧延業において電気炉から排出される還元スラグの有効利用、すなわち、付加価値の高い材料への応用が求められていた。
【0007】
本発明は、上記の課題に鑑みてなされたものであり、本発明の目的は、γCS及び/又はメルビナイトを主成分として多く含む還元スラグ処理物、還元スラグ処理物含有コンクリートを提供することにある。
また、本発明の他の目的は、電気炉還元スラグを用いてγCS及び/又はメルビナイトを主成分として多く含む組成物を製造可能な還元スラグ処理物の製造方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者らは、鋭意研究した結果、電気炉から排出される従来の電気炉還元スラグではγCS及び/又はメルビナイトの含有量が比較的少ないところ、平均粒子径0.6mm以下の粒度分布を有する分級粉体を得ることで、従来よりもγCS及び/又はメルビナイトを主成分として多く含む還元スラグ処理物を製造可能であることを見出した。
具体的には、電気炉還元スラグを所定の条件下で成分調整し、徐冷し、分級することで、γCS及び/又はメルビナイトを多く含む還元スラグ処理物を効率良く製造可能であることを見出した。
また、当該製造方法であれば、従来のように化石燃料を使用することなく、二酸化炭素を好適に固定化させることが可能なセメント系材料(コンクリート)を実現することができ、カーボンニュートラル(カーボンネガティブ)の社会を実現可能であることを見出して、本発明をするに至った。
【0009】
従って、前記課題は、本発明の還元スラグ処理物によれば、γCS及び/又はメルビナイト(3CaO・MgO・2SiO)を主成分とする還元スラグ処理物であって、前記還元スラグ処理物が、0.6mm以下の平均粒子径を有し、かつ、前記還元スラグ処理物を、JIS標準篩(JIS Z8801-1:2000規定)を用いて篩分したときに、前記還元スラグ処理物の総重量の80%以上が公称目開き0.6mmの篩を通過する粒度分布を有すること、により解決される。
【0010】
このとき、前記還元スラグ処理物の化学組成の合計を100重量%としたときに、CaOが50~70重量%、SiOが25~40重量%、MgOが5~15重量%となり、前記還元スラグ処理物の総重量の90%以上が公称目開き0.6mmの篩を通過する粒度分布を有すると良い。
または、前記還元スラグ処理物が、0.3mm以下の平均粒子径を有し、かつ、前記還元スラグ処理物を、前記JIS標準篩を用いて篩分したときに、前記還元スラグ処理物の総重量の80%以上が公称目開き0.3mmの篩を通過する粒度分布を有すると良い。
または、前記還元スラグ処理物の化学組成の合計を100重量%としたときに、CaOが50~65重量%、SiOが25~35重量%、MgOが5~10重量%となり、かつ、CaO-SiO-Al(MgO=10重量%)の三成分系状態図においてCSの初晶域の化学組成となり、前記還元スラグ処理物の総重量の90%以上が公称目開き0.3mmの篩を通過する粒度分布を有すると良い。
【0011】
また前記課題は、本発明の還元スラグ処理物含有コンクリートによれば、上記還元スラグ処理物を含有し、二酸化炭素を固定化させたこと、によっても解決される。
【0012】
また前記課題は、本発明の還元スラグ処理物の製造方法によれば、電気炉から排出される還元スラグを用いてγCS(γ-2CaO・SiO)及び/又はメルビナイト(3CaO・MgO・2SiO)を主成分とする還元スラグ処理物を製造する方法であって、前記還元スラグを成分調整する成分調整工程と、成分調整された前記還元スラグを徐冷する徐冷工程と、徐冷された前記還元スラグを分級して、前記還元スラグの分級粉体を得る分級工程と、を含み、前記分級工程では、0.6mm以下の平均粒子径を有し、かつ、JIS標準篩(JIS Z8801-1:2000規定)を用いて篩分したときに、総重量の80%以上が公称目開き0.6mmの篩を通過する粒度分布を有する前記分級粉体を得ること、によっても解決される。
【0013】
このとき、前記成分調整工程では、前記還元スラグを、CaO-SiO-Al(MgO=10重量%)の三成分系状態図においてCSの初晶域の組成となるように成分調整し、前記徐冷工程では、成分調整された前記還元スラグを還元雰囲気中で徐冷し、前記分級工程では、0.3mm以下の平均粒子径を有し、かつ、前記JIS標準篩の篩を用いて篩分したときに、総重量の80%以上が公称目開き0.3mmの篩を通過する粒度分布を有する前記分級粉体を得ると良い。
【発明の効果】
【0014】
本発明によれば、γCS及び/又はメルビナイトを主成分として多く含む還元スラグ処理物、還元スラグ処理物含有コンクリートを実現できる。
また、電気炉還元スラグを用いてγCS及び/又はメルビナイトを主成分として多く含む組成物を製造可能な還元スラグ処理物の製造方法を実現できる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
図1】CaO-SiO-Al(MgO=10重量%)の三成分系状態図である。
図2】還元スラグ処理物の粒度分布の結果を示すものである。
図3】平均粒子径が異なる還元スラグ処理物、γCS、メルビナイトの化学組成(%)を示すものである。
図4】平均粒子径が異なる還元スラグ処理物の二酸化炭素固定能(%)を評価した結果を示すものである。
【発明を実施するための形態】
【0016】
以下、本発明の実施形態について図1図4を参照して説明する。
本実施形態は、電気炉から排出される還元スラグを処理した処理物であって、従来よりもγCS及び/又はメルビナイト(3CaO・MgO・2SiO)を主成分として多く含有する「還元スラグ処理物」に関するものである。
また、「還元スラグ処理物含有コンクリート」、「還元スラグ処理物の製造方法」に関するものである。
【0017】
<還元スラグ>
鉄鋼の製造工程には、高炉・転炉法と電気炉法があり、前者からは「高炉スラグ」及び「転炉スラグ」が排出され、後者からは「電気炉スラグ」がそれぞれ排出される。
電気炉では、主原料の鉄スクラップ(鉄くず)に外部から熱を加えて溶解し、酸化精錬及び還元精錬を行い、鋼を製造する。酸化精錬時に生成するスラグを「酸化スラグ」、還元精錬時に生成するスラグを「還元スラグ」と称し、酸化スラグ及び還元スラグを総称して「電気炉スラグ」と呼んでいる。
【0018】
「酸化スラグ」は、溶鋼を撹拌しながら、酸化精錬時において生成されるスラグである。酸化スラグは、金属鉄およびスラグに固溶している鉄酸化物を30%程度含むものであって、比較的密度の高い硬質スラグである。
「還元スラグ」は、酸化精錬後、酸化スラグを排出し、消石灰などを装入し、溶鋼中の酸素を除去する還元精錬時において生成されるスラグである。
還元スラグは、高炉スラグのようなCaO-SiO-Al-MgOを主成分とする組成物である。還元スラグ中に含まれるCSがα相又はβ相から低温変態のγ相へ転移すると、γ相がα相、β相よりも密度が低いこと(γ相が低密度であること)から粉状化(砂状化)が起こり、その後のハンドリング性が困難となってしまう(例えば、塩基度CaO/SiOの重量比が約1.5以上のスラグは、その冷却過程において2CaO・SiOの相転移によりα相又はβ相からγ相へ転移する性質がある)。そのため、通常、フッ素系やホウ素系のようなスラグ粉化防止剤を添加し、α相又はβ相からγ相への転移を抑制し、塊状のままで冷却処理されている。
【反応式1】
【0019】
【0020】
例えば、上記反応式1に示す通り、転移温度675℃域でγ相への相転移を起こし、体積が1.12倍程度となり、塊全体で膨張して粉状化が起こり、ハンドリング性が悪いCS材料となる。なお、逆に言えば、電気炉で排出される還元スラグにおいては、γCSが得やすい環境となっている。
一般に、電気炉から排出された還元スラグ(塊状のまま冷却処理されたもの)は、酸化スラグと混合され、未反応遊離石灰(f-CaO)等の未反応成分を水和させる養生を行った後に、路盤材等の土工材料として利用されている。
【0021】
<γCS>
「γCS」は、ダイカルシウムシリケートγ相とも称され、化学組成としてγ-2CaO・SiOで表される材料である。また、図1に示すCaO-SiO-Al(MgO=10重量%)の三成分系状態図において「CS」の結晶領域の組成となっている。
γCSは、二酸化炭素に活性な材料であって、通常は水和活性を有さないものの、コンクリート混和材として利用価値が高い材料である。具体的には、水、少量のセメント及び骨材(細・粗)とともにγCSを混錬し、モルタル・コンクリート状にした後に高濃度(例えば5~20%)の二酸化炭素と接することによって、短期間(例えば5日程度)で通常の強度を有する硬化モルタル・コンクリートを得ることができる。このとき、コンクリート中に大量の二酸化炭素を固定できる。
【0022】
γCSは、一般に、石灰石及びケイ石を粉砕し、ロータリーキルンを用いて1200~1400℃域で焼成したものを粉砕することで得られる。このとき、温度が低いと未反応なCaOが残ってしまい、温度が高いと高温変態のβCSが生成することになる。特に、酸化雰囲気中で処理するほどβCSが残り易くなる。
なお、主原料に石灰石を使用すること、また焼成を行うことによって多量の化石燃料が必要となる。そのため、従来の製造方法では、二酸化炭素を固定するための材料としてγCSを製造しようとしても、γCSを製造した時点で既にカーボンポジティブになっている。
【0023】
図3には、γCSの化学組成(%)が示されている。γCSの化学組成の合計を100重量%としたときに、CaOが65.1重量%、SiOが34.9重量%となっている。
【0024】
<メルビナイト>
「メルビナイト(Merwinite)」は、化学組成として3CaO・MgO・2SiOで表される材料である。また、図1に示す三成分系状態図において「Merwinite」の結晶領域の組成となっている。
メルビナイトは、γCSと同様に二酸化炭素に活性な材料であって、コンクリート混和材として利用価値が高い材料である。
【0025】
図3には、メルビナイトの化学組成(%)が示されている。メルビナイトの化学組成の合計を100重量%としたときに、CaOが51.2重量%、SiOが36.6重量%、MgOが12.2重量%となっている。
【0026】
<還元スラグ処理物>
「還元スラグ処理物」は、γCS及び/又はメルビナイトを主成分とする組成物であって、主要な化学成分としてCaO、SiO、Al、MgOを含むものである。なお、還元スラグ由来の化学成分をさらに含むものであっても良いし、添加剤や調整剤(例えば、精錬補助剤)由来の化学成分をさらに含むものであっても良い。
【0027】
(化学成分)
還元スラグ処理物は、CaO、SiO、Al、MgOの重量%の合計を100重量%とした化学成分においてCaOが45~70重量%、好ましくは50~70重量%、より好ましくは50~65重量%、より好ましくは50~60重量%、より好ましくは50~60重量%となると良い。
CaOが45重量%未満(50重量%未満)になると、有効成分であるγCS及びメルビナイトに含まれるCaOの重量%よりも相当に低くなるため、γCS及び/又はメルビナイトを主成分として高濃度に含む還元スラグ処理物を得られなくなる。また、CaOが70重量%超え(65重量%超え)になると、γCS及びメルビナイトに含まれるCaOの重量%よりも相当に多くなるため、所望の還元スラグ処理物が得られなくなる。
【0028】
また、上記化学成分においてSiOが20~40重量%、好ましくは25~40重量%、より好ましくは25~35重量%、より好ましくは25~30重量%となると良い。
SiOが20重量%未満(25重量%未満)になると、γCS及びメルビナイトに含まれるSiOの重量%よりも相当に低くなるため、所望の還元スラグ処理物を得られなくなる。また、SiOが40重量%超え(35重量%超え)になると、γCS及びメルビナイトに含まれるCaOの重量%よりも相当に多くなるため、所望の還元スラグ処理物が得られなくなる。
【0029】
また、上記化学成分においてAlが1~20重量%、好ましくは1~15重量%、より好ましくは5~15重量%、より好ましくは5~10重量%となると良い。
また、上記化学成分においてMgOが1~20重量%、好ましくは5~15重量%、より好ましくは5~10重量%となると良い。
つまりは、還元スラグ処理物が、上記化学成分においてCaOが50~70重量%、SiOが25~40重量%、MgOが5~15重量%、各成分の合計が100重量%となると好ましい。より好ましくは、CaOが50~65重量%、SiOが25~35重量%、MgOが5~10重量%になるとより好ましい。
【0030】
上記化学成分であれば、γCS及び/又はメルビナイトを主成分(主要生成物)とし、当該主成分を高濃度に含む還元スラグ処理物を得ることができる。
このとき、SiO及びAlの両方の成分を多くし、γCS及び/又はメルビナイトの化学組成により近づける(近似させる)ことで、γCS及びメルビナイトを多く含む還元スラグ処理物を得ることができる。
また、SiOの成分をAlの成分よりも多くすることで、γCS及びメルビナイトを多く含む還元スラグ処理物を得ることができる。
また、MgOの成分をAlの成分よりも多くすることで、メルビナイトを多く含む還元スラグ処理物を得ることができる。
【0031】
(結晶状態)
還元スラグ処理物は、図1に示すCaO-SiO-Al(MgO=10重量%)の三成分系状態図において「CS」の結晶領域又は「メルビナイト」の結晶領域の組成となっていると良い。より好ましくは、「CS」の初晶域の組成となっていると良い。
そうすることで、γCS及び/又はメルビナイトを主成分(主要生成物)とし、当該主成分を多く含む還元スラグ処理物を得ることができる。
ここで、MgO=10重量%となっているが、特に限定されるものではなく、上述した通り、MgOが1~20重量%、好ましくは5~15重量%となっていれば良い。
なお、還元スラグ処理物は、必ずしも「CS」又は「メルビナイト」の結晶領域の組成となっていなくても良い。例えば、図1に示す三成分系状態図において「CS」又は「メルビナイト」の結晶領域周辺の組成となっていても良い。あるいは、結晶状態に寄らず、上記化学組成を有する還元スラグ処理物であれば良い。その場合であっても、γCS及び/又はメルビナイトを主成分とする還元スラグ処理物を得ることができる。
【0032】
(粒子径及び粒度分布)
還元スラグ処理物は、0.6mm以下の平均粒子径を有し、より好ましくは0.3mm以下の平均粒子径を有し、より好ましくは0.105mm以下の平均粒子径を有すると良い。なお、γCS及び/又はメルビナイトの含有量が若干少なくなるものの、還元スラグ処理物は、1.2mm以下の平均粒子径を有しても良い。
理由として、低温相のγCSは、高温変態のCS(α相、β相)よりも低密度の結晶であり、粉状化が進みやすく、微粉部分(微細粒子)に多く含まれるという特徴があるためである。つまりは、微細粒子に有効成分(γCSやメルビナイト)が多く含まれるため、平均粒子径が小さい還元スラグ処理物を回収することで、有効成分を高濃度に含む還元スラグ処理物を得ることができる。
なお、還元スラグ処理物の平均粒子径の下限は特に定めていないものの、例えば還元スラグ処理物が、0.01mm以上であり0.6mm以下の平均粒子径を有し、好ましくは、0.02mm以上であり0.6mm以下の平均粒子径を有し、より好ましくは0.02mm以上であり0.3mm以下の平均粒子径を有すると良い。0.044mm以上であり0.6mm以下の平均粒子径を有しても良い。
【0033】
「平均粒子径」は、例えば下記式のように、後述の粒度分布測定において得られた各粒径範囲の粒子の重量割合Rn(%)と各中心粒径Dn(mm)から算出することができる。
平均粒子径={Σ(Dn・Rn)}/100
【0034】
還元スラグ処理物の粒度分布としては、還元スラグ処理物をJIS標準篩(JIS Z8801-1:2000規定)の公称目開き0.105~20mmの篩を用いて篩分(分級)した際の値である。また、公称目開き0.105mm以下の場合には、減圧吸引式乾式篩い分け装置(エアージェットシーブ)を用いて篩分(分級)した際の値である。
粒度分布の具体的な測定方法の詳細については、後述の実施例において説明する。
【0035】
還元スラグ処理物は、0.6mm以下の平均粒子径を有し、かつ、還元スラグ処理物をJIS標準篩を用いて篩分したときに、還元スラグ処理物が公称目開き0.6mmの篩を通過する粒度分布を有すると良い。
好ましくは、0.3mm以下の平均粒子径を有し、かつ、還元スラグ処理物をJIS標準篩を用いて篩分したときに、還元スラグ処理物が公称目開き0.6mmの篩を通過する粒度分布を有すると良い。
すなわち、0.6mm以上(0.3mm以上)のスラグ粒子を除いた(極力除いた)還元スラグ処理物を得ることが好ましい。
篩分したときに、還元スラグ処理物の総重量の70%以上、好ましくは80%以上、より好ましくは90%以上、より好ましくは100%が、公称目開き0.6mm(0.3mm)の篩を通過する粒度分布を有していると良い。なお、総重量の100%とは、必ずしも純度100%を意味しなくても良い。
【0036】
言い換えれば、還元スラグ処理物の0.6mm以下の粒子含有率が70~100重量%、好ましくは80~100重量%、より好ましくは90~100重量%、より好ましくは100重量%であると良い。
または、還元スラグ処理物において0.3mm以上で0.6mm以下の粒子含有率が10~30重量%であって、0.3mm以下の粒子含有率が70~90重量%であって、0.6mm超えの粒子含有率が5%以下、好ましくは0%であると良い。
あるいは、0.105mm以上で0.6mm以下の粒子含有率が40~60重量%であって、0.105mm以下の粒子含有率が40~60重量%であって、0.6mm超えの粒子含有率が5%以下、好ましくは0%であると良い。
【0037】
上記のように、「化学成分」、「結晶状態」、「平均粒子径」及び「粒度分布(粒子含有率)」を適宜設定することで、γCS及び/又はメルビナイトを高濃度に含む還元スラグ処理物を得ることができる。
【0038】
<還元スラグ処理物含有コンクリート>
「還元スラグ処理物含有コンクリート」は、上記還元スラグ処理物を含有し、二酸化炭素を固定化させたコンクリートである。
具体的には、水及びセメントと、骨材(細・粗)と、混和材としての還元スラグ処理物とを混練し、モルタル・コンクリート状にした後に高濃度(例えば5~20%)の二酸化炭素に養生させることで還元スラグ処理物含有コンクリートを得ることができる。
上記還元スラグ処理物含有コンクリート中には二酸化炭素が大量に固定されており、当該二酸化炭素の固定量が多くなるほど、コンクリートの圧縮強度が高くなる。
【0039】
<還元スラグ処理物の製造方法>
上記還元スラグ処理物は、電気炉から排出される還元スラグを成分調整する「成分調整工程」と、成分調整された還元スラグを徐冷する「徐冷工程」と、徐冷された還元スラグを分級して、還元スラグの分級粉体を得る「分級工程」と、を少なくとも含む工程を経て製造される。
本製造方法によって行われる「成分調整工程」、「徐冷工程」、「分級工程」について、以下、詳しく説明する。なお、その他の工程については公知な技術を適宜採用して良い。
【0040】
「成分調整工程」では、電気炉で生成される還元スラグを、上記化学組成となるようにCaO、SiO、Al、MgOの化学成分を成分調整する。
詳しく説明すると、Al、MgOの成分の増加を抑えて、CaO、SiOを主成分となるように、電気炉内に精錬補助剤を添加して還元スラグの成分調整を行う。精錬補助剤としては、例えばMn合金、FeOあるいは製鋼スラグ等が挙げられる。
なお、上記精錬補助剤の添加以外の調整手段によって還元スラグの化学成分を成分調整することとしても良い。
電気炉内においては還元雰囲気が保持されると良い。
【0041】
また「成分調整工程」では、CaO-SiO-Al(MgO=10重量%)の三成分系状態図において「CSの初晶域」の組成となるように成分調整すると良い。
詳しく説明すると、電気炉で生成された還元スラグは、図1に示す三成分系状態図において「CS」の初晶域に近い化学組成を有することが分かっている。そこで、当該還元スラグの化学組成をCS(CaO:65%、SiO:35%)の組成点に近づくように、電気炉内に例えば消石灰、ドロマイト及び/又はシリカ質原料等を添加して還元スラグを成分調整する。そうすることで、還元スラグをCSの初晶域内となるように成分調整することができる。
なお、電気炉の耐火物保護のためにMgOの供給が必要となる。当該MgOを供給することで、γCSに加えてメルビナイトを共存して得ることができる。
【0042】
「徐冷工程」では、成分調整された還元スラグを、電気炉内において還元雰囲気中で徐冷し、電気炉から取り出した後には、400~800℃の範囲において20℃/分以下の温度勾配で徐冷する。
詳しく説明すると、炉内で還元雰囲気を保持するために、例えばもみ殻等で上面を覆い、断熱保温状態を保持する。また、冷風を送風することや水散布を行うことは控えることとする。なお、上記以外の保持手段によって還元雰囲気を保持することとしても良い。
このように還元雰囲気を保持することで、鉄等の金属イオンが金属に還元され、還元スラグ内に固溶することを抑制できる。γCS及び/又はメルビナイトを多く含む還元スラグ処理物を効率良く得ることができる。
なお、γCSは、αCS及びβCSよりも不純物の固溶限(固溶限界)が小さい。そのため、還元スラグ中に含まれるCSを低温変態のγ相へ転移させた状態にすることで、還元スラグ内に固溶することがより抑制され、不純物の少ない還元スラグ処理物をえることができる。
【0043】
また「徐冷工程」では、β相からγ相への転移温度(約675℃)前後において加温操作や断熱操作等を行い、温度勾配を緩やかにすることで、γCSを多く含む還元スラグ処理物を得ることができる。仮に、冷却が早いと、βCSの含有量が増加し、γCSの含有量が減少してしまう。
そのため、具体的には、電気炉から取り出した後に、650~700℃の範囲、好ましくは600~750℃の範囲、より好ましくは600~800℃の範囲、より好ましくは500~800℃の範囲、より好ましくは400~800℃の範囲において緩やかな温度勾配で徐冷すると良い。
また、上記温度範囲において30℃/分以下、好ましくは20℃/分以下、より好ましくは15℃/分以下、より好ましくは10℃/分以下の温度勾配で徐冷すると良い。
【0044】
また「徐冷工程」では、成分調整された還元スラグに含まれるγCSをαCS及び/又はβCSへ転移促進させるスラグ粉化防止剤を添加しないと良い。
詳しく説明すると、従来は、冷却後の還元スラグのハンドリング性を上げるため、CSのβ相からγ相への転移に伴うスラグの粉状化を抑制すべく、ホウ酸ナトリウム等のスラグ粉化防止剤を添加している。しかしながら、本実施形態では、γCSを多く含む還元スラグ処理物を効率良く得ることを目的としている。そのため、敢えてスラグ粉化防止剤を添加せず、還元スラグの徐冷を行うと良い。
なお、スラグ粉化防止剤としては、ホウ酸ナトリウムに限られず、フッ素系やホウ素系の粉化防止剤、その他のスラグ粉化防止剤であっても良く、当該スラグ粉化防止剤を添加しないこととすると良い。あるいは、γCSへの転移を防止するための添加剤、調整剤を添加しないと良い。
【0045】
なお、「徐冷工程」では、成分調整された還元スラグを、電気炉内において還元雰囲気中で徐冷するところ、電気炉から取り出した後には、必ずしも還元雰囲気中で徐冷することとしなくても良い。すなわち、電気炉外では酸化雰囲気中で徐冷することにしても良い。
また、電気炉内では通常の冷却を行い、電気炉外では徐冷を行うことにしても良い。
【0046】
「分級工程」では、徐冷された還元スラグを分級して、還元スラグの分級粉体を得る。
詳しく説明すると、徐冷された還元スラグを常温の状態で多段階の篩を用いて篩分(分級)を行い、所望の平均粒子径及び粒度分布を有する分級粉体を得る。なお、目開き0.105mm以下の篩分、すなわち0.044mm(45μm)、0.088mm(90μm)の篩分を行う際には、減圧吸引式乾式篩い分け装置(エアージェットシーブ)による篩分を行うと良い。
例えば、公称目開き0.105mm(106μm)、0.15mm(150μm)、0.3mm(300μm)、0.6mm(600μm)、1.2mm(1.18mm)、2.4mm(2.36mm)、5mm(4.75mm)、10mm(9.5mm)、20mm(19mm)の各段階のJIS標準篩を公称目開きの小さな篩から大きな篩を下から上に順次重ねて取り付けたロータップ型の篩振とう機を用いると良い。当該篩振とう機の最上段の篩に、還元スラグ処理物を投入し、10分間振とう処理し、各篩上に残った分級粉体を回収することで、所望の分級粉体を得ることができる。例えば、0.3mm以下又は0.6mm以下の平均粒子径(粒度分布)を有する分級粉体を得ることができる。
なお、分級工程では種々の分級方法を採用することができる。例えば、篩分け法のほか、気流分級法(重力分級法、慣性分級法、遠心分級法)等を採用しても良い。
【0047】
以上のように、「成分調整工程」と、「徐冷工程」と、「分級工程」と、その他の処理工程とを経て、電気炉から生成される還元スラグから、γCS及び/又はメルビナイトを主成分とする還元スラグ処理物を効率良く製造することができる。
特に、本製造方法により、電気炉から排出される還元スラグを直接処理して還元スラグ処理物を得ることが可能である。
【実施例0048】
以下、本発明の実施例について詳しく説明する。なお、本発明は本実施例に限定されるものではない。
【0049】
<実施例:還元スラグ処理物>
上記還元スラグ処理物の製造方法に基づいて、下記(1)化学組成、(2)結晶状態、(3)冷却方法、(4)粉化防止材の添加有無、(5)酸化還元雰囲気の条件としながら、電気炉から排出される還元スラグを用いて還元スラグ処理物を作製した。そして、当該還元スラグ処理物を分級し、平均粒子径が異なる還元スラグ処理物を得た。
【0050】
(1)化学組成について、合計を100重量%としたときに、CaOが40~60重量%、SiOが20~30重量%、MgOが5~10重量%となるように還元スラグを成分調整した。
(2)結晶状態について、図1に示す三成分系状態図において太枠で示したCSの初晶域の組成となるように調整した。
(3)冷却方法について、炉内でもみ殻を上面に覆い、断熱保温状態を保って還元スラグを冷却した。なお、冷風を送風することや水散布を行うことはしなかった。このとき、還元スラグを、400~800℃の範囲において20℃/分以下の温度勾配で徐冷した。
(4)粉化防止材の添加有無について、γCSの生成に伴う粉状化を抑制するためのスラグ粉化防止剤(ホウ酸ナトリウム)を添加しないこととした。
(5)酸化還元雰囲気について、還元雰囲気を保持しながら還元スラグを徐冷した。
【0051】
<粒度分布の測定結果>
図2は、上記条件の下で得られた還元スラグ処理物の「粒度分布の測定結果」を示すものである。なお、予め20mmを超えるスラグ処理物については除くこととした。
公称目開き1.2mmの篩を通過したもの(平均粒子径1.2mm以下のもの)は、総重量の61%であった。公称目開き0.6mmの篩を通過したもの(平均粒子径0.6mm以下のもの)は、総重量の49%であった。公称目開き0.105mmの篩を通過したもの(平均粒子径0.105mm以下のもの)は、総重量の22%であった。「粒度分布」の測定結果から、比較的微粉末が多いことが分かった。
【0052】
<還元スラグ処理物、γC2S、メルビナイトの化学組成>
上記条件の下で得られた還元スラグ処理物を分級し、平均粒子径が異なる還元スラグ処理物を得た。そして、当該還元スラグ処理物の「化学組成」を測定した。γC2S、メルビナイトの「化学組成」についても測定した。
「化学組成」の測定にあたっては、リガク社製の蛍光X線分析装置(機種名:ZSX PrimusIV)を用いて、ファンダメンタルパラメータ法により測定した。
【0053】
図3は、分級前の還元スラグ処理物と、平均粒子径0.6mm以下、0.3mm以下、0.6mm超えで5.0mm以下それぞれの還元スラグ処理物と、γCSと、メルビナイトとの「化学組成(%)」の結果を示すものである。
なお、平均粒子径0.6mm以下の還元スラグ処理物を「実施例1」とし、平均粒子径0.3mm以下の還元スラグ処理物を「実施例2」とし、平均粒子径0.6mm超えで5.0mm以下の還元スラグ処理物を「実施例3」とした。また、篩前の還元スラグ処理物を「コントロール」とした。
【0054】
図3の測定結果を見ると、「実施例1(粒子径0.6mm以下)」については、「コントロール(篩前)」よりもCaO及びSiOの含量が多く含まれ、「γCS」及び「メルビナイト」の化学組成に近くなることが分かった。
また、「実施例2(粒子径0.3mm以下)」については、「実施例1」よりもCaO及びSiOの含量が多く含まれ、「γCS」及び「メルビナイト」の化学組成により近くなることが分かった。
他方で、「実施例3(粒子径0.6-5.0mm)」については、「コントロール」よりもCaO及びSiOの含量が少なくなり、「γCS」及び「メルビナイト」の化学組成から遠ざかることが分かった。
【0055】
上記結果から、還元スラグ処理物のうち粒子径が0.6mm以下のものに、「γCS」及び「メルビナイト」が多く含まれること(濃縮されていること)が示された。また、還元スラグ処理物のうち粒子径が0.3mm以下のものに、「γCS」及び「メルビナイト」がより濃縮されていることが示された。
このことは、「γCS」が相転移において低密度の結晶であり、粉状化が進み易い物質であり、微粉体に多く含まれることを特徴付ける結果となった。
【0056】
<二酸化炭素固定能の評価試験>
実施例1~3の還元スラグ処理物を用いて、二酸化炭素固定能(二酸化炭素含有率)を評価する試験を行った。
具体的には、各実施例の還元スラグ処理物をすり鉢を用いて粉砕し、粉砕されたスラグ粒子が0.3mm以下となるように調整した。そして、還元スラグ処理物5.0gと水(上水道水)2.5gをスチロール瓶(胴径30mm)に入れ、スパチュラで混練りした。そして、温度40℃、相対湿度60%、二酸化炭素濃度20%の養生槽に入れて、毎日2.5gの水を添加しながら一定期間、湿空養生を行った。
養生(炭酸化養生)から1日後、3日後、5日後にそれぞれ試料を取り出し、粗砕して105℃で24時間、乾燥を行った。乾燥後に粉砕してクーロメータ法により二酸化炭素固定能(%)を測定した。参考値として、γCSを用いたときの二酸化炭素固定能(%)も測定した。
【0057】
(クーロメータ法)
三角フラスコに入れた試料に塩酸を加えて、スターラーで攪拌し、発生する二酸化炭素ガスを窒素でクーロメータ(日本アンス社製、2000S-CAT型)内の吸収液へ導入させた。吸収液を中和状態に保持するために電極へ流す電気量からカーボン量を測定し、下記式により二酸化炭素固定能(%)に換算した。

CO={(A-B)×3.664÷S}÷10000
CO:CO固定能(%) ※CO含有率とも称する。
A :測定試料のカーボン量(μg)
B :空の三角フラスコを測定した際のカーボン量(μg)
S :試料の量(g)

なお、より具体的には、非特許文献1を参考にして試料を作製し、クーロメータ法により二酸化炭素固定能(%)を測定した。
【0058】
実施例1~3の還元スラグ処理物及びγCSの二酸化炭素固定能(%)の評価結果をまとめたものを図4に示す。
図4の評価結果を見ると、「実施例1(粒子径0.6mm以下)」、「実施例2(粒子径0.3mm以下)」は、「実施例3(粒子径0.6-5.0mm)」よりも高い二酸化炭素固定能(%)を示すことが分かった。
また、「実施例2(粒子径0.3mm以下)」は、「実施例1(粒子径0.6mm以下)」よりも高い二酸化炭素固定能(%)を示すことが分かった。
これら結果から、平均粒子径が小さい還元スラグ処理物ほど(細かい粉末であるほど)、「γCS」の二酸化炭素固定能に近い値を示すことが分かった。また、「γCS」を高濃度に含むことが示唆された。
【0059】
図4の評価結果を見ると、「γCS」の二酸化炭素固定能を100としたときに、「実施例1」の二酸化炭素固定能は75~77の値を示すことが分かった(1日目:76.9、3日目:76.2、7日目:75.0)。また、「実施例2」の二酸化炭素固定能は83~93の値を示すことが分かった(1日目:92.3、3日目:85.7、7日目:83.3)。
すなわち、実施例の還元スラグ処理物は、「γCS」と同様に安定した二酸化炭素固定能を発揮することが分かった。また、平均粒子径が小さい還元スラグ処理物ほど(細かい粉末であるほど)、「γCS」の二酸化炭素固定能に近い値を示すことが分かった。
【0060】
このように、上記還元スラグ処理物の製造方法について、「化学組成」、「結晶状態」、「冷却方法」、「粉化防止材の添加有無」、「酸化還元雰囲気」の諸条件を最適化するほか、「平均粒子径」及び「粒度分布(粒子含有率)」を最適化することで、γCS及び/又はメルビナイトを高濃度に含む還元スラグ処理物を効率良く製造することが可能であることが分かった。
図1
図2
図3
図4