(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2025012028
(43)【公開日】2025-01-24
(54)【発明の名称】ポリペプチド
(51)【国際特許分類】
C12N 15/31 20060101AFI20250117BHJP
C12N 15/63 20060101ALI20250117BHJP
C12N 1/15 20060101ALI20250117BHJP
C12N 1/21 20060101ALI20250117BHJP
C12N 5/10 20060101ALI20250117BHJP
C12N 1/19 20060101ALI20250117BHJP
C07K 14/195 20060101ALI20250117BHJP
C12N 15/56 20060101ALN20250117BHJP
C12N 9/40 20060101ALN20250117BHJP
【FI】
C12N15/31
C12N15/63 Z
C12N1/15
C12N1/21
C12N5/10
C12N1/19
C07K14/195
C12N15/56 ZNA
C12N9/40
【審査請求】未請求
【請求項の数】7
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023114550
(22)【出願日】2023-07-12
【公序良俗違反の表示】
(特許庁注:以下のものは登録商標)
1.TWEEN
(71)【出願人】
【識別番号】500409219
【氏名又は名称】学校法人関西医科大学
(74)【代理人】
【識別番号】110000796
【氏名又は名称】弁理士法人三枝国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】赤間 智也
【テーマコード(参考)】
4B065
4H045
【Fターム(参考)】
4B065AA01X
4B065AA57X
4B065AA72X
4B065AA87X
4B065AB01
4B065BA02
4B065CA46
4H045AA10
4H045AA20
4H045AA30
4H045BA10
4H045DA89
4H045EA60
4H045FA74
(57)【要約】
【課題】
本発明は、リコンビナントポリペプチドとして合成可能であり、エンドβガラクトシダーゼを有する新たなポリペプチドを提供することを一課題とする。
【解決手段】
配列番号1で表されるアミノ酸配列の第36番目~第273番目のアミノ酸配列を含むポリペプチド、又は前記ポリペプチドのアミノ酸配列と95%以上の同一性を有するアミノ酸配列を含むポリペプチドによって、課題を解決する。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
配列番号1で表されるアミノ酸配列の第36番目~第273番目のアミノ酸配列を含むポリペプチド、又は前記ポリペプチドのアミノ酸配列と95%以上の同一性を有するアミノ酸配列を含むポリペプチド。
【請求項2】
配列番号1で表されるアミノ酸配列の第36番目~第273番目のアミノ酸配列を含むポリペプチドをコードするポリヌクレオチド、又は前記ポリペプチドのアミノ酸配列と95%以上の同一性を有するアミノ酸配列を含むポリペプチドをコードするポリヌクレオチド。
【請求項3】
請求項2に記載のポリヌクレオチドを含むベクター。
【請求項4】
請求項3に記載のベクターによって形質転換された細胞。
【請求項5】
請求項1に記載のポリペプチドを含む、試薬。
【請求項6】
請求項5に記載の試薬を含む、キット。
【請求項7】
配列番号3で表されるアミノ酸配列の第27番目~第261番目のアミノ酸配列を含むポリペプチド、又は前記ポリペプチドのアミノ酸配列と95%以上の同一性を有するアミノ酸配列を含むポリペプチド。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本明細書には、ポリペプチド、前記ポリペプチドをコードするポリヌクレオチド、前記ポリヌクレオチドを含むベクター、前記ベクターによって形質転換された細胞、前記ポリペプチドを含む試薬、及び前記試薬を含むキットが開示される。
【背景技術】
【0002】
生体に普遍的に見られるポリラクトサミンと呼ばれる糖鎖構造を切断するエンドβガラクトシダーゼは細菌を原料として精製され、糖鎖解析に利用されていた。
非特許文献1には、腸内細菌が産生するエンドβガラクトシダーゼが開示されている。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0003】
【非特許文献1】Crouch et al., Nature Communications volume 11, Article number: 4017 (2020)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
細菌を原料とするため多段階の精製が必要とされ、大量調製が容易でなかった。
本発明は、リコンビナントポリペプチドとして合成可能であり、エンドβガラクトシダーゼを有する新たなポリペプチドを提供することを一課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0005】
項1.
配列番号1で表されるアミノ酸配列の第36番目~第273番目のアミノ酸配列を含むポリペプチド、又は前記ポリペプチドのアミノ酸配列と95%以上の同一性を有するアミノ酸配列を含むポリペプチド。
項2.
配列番号1で表されるアミノ酸配列の第36番目~第273番目のアミノ酸配列を含むポリペプチドをコードするポリヌクレオチド、又は前記ポリペプチドのアミノ酸配列と95%以上の同一性を有するアミノ酸配列を含むポリペプチドをコードするポリヌクレオチド。
項3.
項2に記載のポリヌクレオチドを含むベクター。
項4.
項3に記載のベクターによって形質転換された細胞。
項5.
項1に記載のポリペプチドを含む、試薬。
項6.
項5に記載の試薬を含む、キット。
項7.
配列番号3で表されるアミノ酸配列の第27番目~第261番目のアミノ酸配列を含むポリペプチド、又は前記ポリペプチドのアミノ酸配列と95%以上の同一性を有するアミノ酸配列を含むポリペプチド。
【発明の効果】
【0006】
エンドβガラクトシダーゼを有する新たなポリペプチドを提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0007】
【
図3】ポリラクトサミン糖鎖の分解試験の結果を示す。
【
図4】各種EBGaseのケラタン硫酸分解活性を示す。
【発明を実施するための形態】
【0008】
1.ポリペプチド
ある実施形態は、ポリペプチドに関する。
ポリペプチドは、以下の(A)又は(B)であり得る:
【0009】
ポリペプチドA:下記配列番号1で表されるアミノ酸配列の第36番目~第273番目のアミノ酸配列を含むポリペプチド(以下、「野生型ポリペプチドA」と表記する場合がある)、又は前記ポリペプチドのアミノ酸配列と所定値以上の同一性を有するアミノ酸配列を含むポリペプチド(以下、「変異型ポリペプチドA」と表記する場合がある)、
MKRFLVLSCSVAISALFFHACSFSDDSMIDAPLTRADAVSEKIVFQDDFNQADSIPDRNKWSLCKKGSPAWSKYLSESYDQAYVHDGKLVLVAEKVNGVYKTGGVQSLGKAEFQYGKIEICARFTKTAKGGWPAIWMMPAKPVYSGWPACGEIDIMEQLNHDGIVYQTIHSHYKNDLGFTKPVPTKTVSYNKGQFNIFGIEWTPEALTFKVNGATTLVYPNLHLADESVKKQWPFDTSFYLILNYALGGPGTWPGTITDSELPAKMEIDWVKVSQPTGR(配列番号1)
【0010】
ポリペプチドB:下記配列番号3で表されるアミノ酸配列の第27番目~第261番目のアミノ酸配列を含むポリペプチド(以下、「野生型ポリペプチドB」と表記する場合がある)、又は前記ポリペプチドのアミノ酸配列と所定値以上の同一性を有するアミノ酸配列を含むポリペプチド(以下、「変異型ポリペプチドB」と表記する場合がある)、
MKMKTKTFLALFCLLCISSGFSSCQRHSSDQWKLVWEDNFDQKTGFDPQVWSKIPRGKSDWNNYMTDFDSCFDMRDGNMVLRGIINYSQPNDTAPYLTGGIYTKGKKAFSNGRLEIRAKLNGARGEWPAIWMLPIDAPWPMGGEIDIMERLNHDTIAYQTIHTNYTYNLGIKDNPLSHSVGAINPDDYNVYSVEMYPDSIAFYINDTHTFTYPRIETDKEGQFPFDQPFYLLIDMQLGGSWVGAVDPKELPVEMYVDWVRFYQKEK(配列番号3)。
【0011】
アミノ酸配列の同一性を表す所定値は、例えば、95%、96%、97%、98%、99%、又は99.6%である。野生型ポリペプチドAのアミノ酸配列に対しては変異型ポリペプチドAのアミノ酸配列は、1~11アミノ酸残基の欠失、置換、挿入を含み得る。野生型ポリペプチドBのアミノ酸配列に対しては変異型ポリペプチドBのアミノ酸配列は、1~11アミノ酸残基の欠失、置換、挿入を含み得る。また、本実施形態のポリペプチドは、前述したアミノ酸残基の欠失、置換、挿入とは独立して、ポリペプチドのN末端側、又はC末端側に、ペプチドタグを備えていてもよい。ペプチドタグとして、ヒスチジン(6×His)タグ、ヘモアグルチニンタグ、FLAG(登録商標)タグ、Mycタグ、V5タグ、Sタグ、Eタグ、T7タグ、VSV-Gタグ、HSVタグ、CBD(Chitin Binding Domain)タグ、CBP(Calmodulin Binding Peptide)タグ、GST(Glutathione-S-transferase)タグ、MBP(Maltose Binding Protein)タグ、Thioredoxin(Trx)タグ等を挙げることができる。
【0012】
ポリペプチドは、エンドβガラクトシダーゼ(以下、「EBGase」と表記することもある)活性を有する。
【0013】
エンドβガラクトシダーゼ活性は、以下のイムノブロット、レクチンブロット等により確認することができる。
ポリペプチドと、EBGaseの基質となるポリラクトサミン、又は硫酸化ポリラクトサミン、あるいはポリラクトサミン、又は硫酸化ポリラクトサミンを含む細胞成分と混合する。混合物を、例えばpH5.0~6.0の30mM~60mMの酢酸ナトリウム水溶液中で、例えば35℃~38℃にて、2時間~24時間反応させる。続いて反応液をSDS-PAGE等の界面活性剤存在下、かつ還元条件下で電気泳動し、ウェスタンブロッティングにて反応後のEBGase基質をナイロン、PVDF等のメンブレンに転写する。メンブレン上のEBGase基質の可視化は、EBGase基質に結合可能な抗体を使ってEBGase基質に直接法又は間接法よりホースラディッシュペルオキシダーゼ等の標識物質を結合させ、標識物質の存在を標識物質と反応可能な基質を加えることにより行うことができる。あるいは、EBGase基質に結合可能な抗体に替えて、EBGase基質に結合可能なレクチンを使用してもよい。
【0014】
メンブレン上のEBGase基質を可視化した際、EBGaseによって分解される前のEBGaseの基質に由来するシグナルは、メンブレン上でサンプルアプライ位置から電気泳動の終点方向にスメア状に検出される。一方、EBGaseによって分解されたEBGaseの基質に由来するシグナルは、検出されないか、短鎖状に検出される。
【0015】
2.ポリヌクレオチド
ある実施形態は、ポリヌクレオチドに関する。ポリヌクレオチドは、上記1.において述べたポリペプチドA、又はポリペプチドBをコードする。
ポリヌクレオチドは、DNAであってもRNAであってもよい。また、ポリヌクレオチドは、一本鎖であっても、二本鎖であってもよい。
【0016】
ポリペプチドAをコードするポリヌクレオチドとして、好ましくは下記配列番号2で表されるヌクレオチド配列の第106番目から第819番目のヌクレオチド配列を含むポリヌクレオチドである、
ATGAAAAGATTTCTTGTCTTATCATGCAGTGTTGCCATATCGGCACTTTTCTTCCATGCTTGTTCGTTTTCTGATGATTCAATGATCGATGCGCCTCTGACAAGGGCGGATGCAGTTTCGGAGAAGATCGTTTTCCAAGATGATTTCAACCAGGCAGATAGTATTCCTGATAGAAATAAATGGAGTTTGTGTAAGAAGGGAAGCCCGGCCTGGAGCAAATATTTATCCGAAAGCTATGATCAGGCTTATGTACACGATGGAAAATTAGTGTTGGTTGCCGAAAAAGTGAACGGAGTATATAAGACAGGAGGAGTGCAATCATTGGGTAAAGCGGAATTTCAATATGGTAAGATAGAGATATGCGCCCGTTTCACCAAGACGGCAAAGGGCGGATGGCCTGCCATCTGGATGATGCCTGCCAAACCCGTTTACAGTGGATGGCCTGCTTGCGGTGAAATAGATATTATGGAACAGTTGAATCATGATGGCATTGTATATCAGACAATTCACAGTCATTATAAAAATGATCTGGGATTCACTAAGCCTGTTCCGACAAAAACAGTGTCTTACAATAAAGGGCAATTCAATATATTTGGTATCGAGTGGACTCCCGAAGCTCTTACTTTTAAGGTGAATGGAGCTACTACTTTAGTTTATCCTAACTTGCACTTGGCTGATGAGAGCGTCAAAAAGCAGTGGCCGTTCGACACCTCTTTTTATTTGATTTTAAATTATGCCTTGGGTGGTCCCGGAACTTGGCCCGGTACTATAACGGATAGTGAATTGCCTGCAAAGATGGAGATTGACTGGGTAAAAGTGAGTCAGCCTACGGGACGCTGA(配列番号2)。
【0017】
ポリペプチドBをコードするポリヌクレオチドとして、好ましくは下記配列番号4で表されるヌクレオチド配列の第79番目から第783番目のヌクレオチド配列を含むポリヌクレオチドである、
ATGAAAATGAAAACAAAAACATTTCTCGCTCTTTTCTGCCTGTTGTGTATCAGTTCAGGCTTTTCATCGTGCCAACGTCATTCATCCGACCAGTGGAAATTGGTTTGGGAAGATAATTTCGACCAGAAAACAGGTTTTGATCCACAGGTCTGGAGTAAAATACCACGTGGCAAATCAGACTGGAATAACTATATGACCGACTTCGATTCCTGTTTCGACATGCGTGACGGCAATATGGTGCTGCGAGGCATCATCAATTACAGCCAGCCCAATGATACAGCACCCTATCTGACCGGAGGAATCTACACCAAAGGGAAAAAAGCATTCAGCAACGGACGCCTCGAAATACGCGCCAAACTGAACGGTGCACGTGGTGAGTGGCCAGCCATCTGGATGCTCCCGATAGATGCTCCCTGGCCGATGGGTGGAGAAATCGATATCATGGAACGTCTGAATCACGATACAATCGCTTATCAGACTATACATACCAATTATACGTACAATCTGGGTATCAAAGACAATCCGTTATCACACTCCGTAGGTGCGATCAATCCCGACGACTACAATGTATATTCAGTAGAAATGTATCCGGACAGCATTGCATTCTATATCAATGACACACATACTTTCACCTATCCCCGCATCGAAACAGACAAAGAAGGGCAGTTTCCTTTCGACCAGCCTTTCTATCTACTGATCGACATGCAGTTGGGTGGCTCGTGGGTAGGGGCTGTAGACCCGAAAGAACTTCCGGTGGAGATGTATGTAGATTGGGTAAGATTCTATCAGAAAGAGAAATAG(配列番号4)。
【0018】
3.ベクター
ある実施形態は、上記2.において述べたポリヌクレオチドを含むベクターに関する。
ベクターの基本骨格として、プラスミド、ファージ、トランスポゾン、ウイルスを挙げることができる。ベクターの基本骨格は、ポリペプチドを発現させる宿主細胞に依存する。好ましくは、大腸菌においてポリペプチドの発現が可能なプラスミドを使用することが好ましい。大腸菌においてポリペプチドの発現が可能なプラスミドとして、例えばpETベクター、pBSIIベクター、pUCベクターを挙げることができる。
【0019】
ポリヌクレオチドは、ポリヌクレオチドにコードされているポリペプチドを宿主細胞内、又は無細胞タンパク質発現系において発現可能なプロモーターの下流に挿入される。
ベクターに含まれるポリヌクレオチドは、一般的にはDNAであり、一本鎖であるか二本鎖はベクターの基本骨格に依存する。
【0020】
4.ベクターによって形質転換された細胞
ある実施形態は、上記3.において述べたベクターによって形質転換された細胞に関する。細胞は、ベクターの宿主細胞になり得る限り制限されない。例えば、細胞は、細菌細胞、真菌細胞、植物細胞、昆虫細胞、哺乳類細胞等であり得る。細胞として好ましくは、大腸菌、枯草菌、酵母、シアノバクテリアである。
細胞にベクターを導入することにより、ベクターによって形質転換された細胞を作製することができる。細胞へのベクターの導入方法は、公知である。
【0021】
5.試薬
ある実施形態は、試薬に関する。
試薬は、上記1.おいて述べたポリペプチドを含む。
試薬は、乾燥状態であっても、水溶液であってもよい。試薬は、ポリペプチドの他、リン酸緩衝液等のバッファー成分;β-メルカプトエタノール、DTT等の安定化剤;アルブミン等の保護剤;ポリオキシエチレン(20)ソルビタンモノラウレート、ポリオキシエチレン(10)オクチルフェニルエーテル等の界面活性剤、アジ化ナトリウム等の防腐剤等の少なくとも一つを含んでいてもよい。
【0022】
6.キット
ある実施形態は、キットに関する。
キットは、上記4.において述べた試薬の他、上記1.において述べた、EBGase基質を含む基質試薬を含んでいてもよい。基質試薬は、EBGase基質のほか、リン酸緩衝液等のバッファー成分;β-メルカプトエタノール、DTT等の安定化剤;アルブミン等の保護剤;ポリオキシエチレン(20)ソルビタンモノラウレート、ポリオキシエチレン(10)オクチルフェニルエーテル等の界面活性剤、アジ化ナトリウム等の防腐剤等の少なくとも一つを含んでいてもよい。
【実施例0023】
以下に実施例を示して本発明についてより詳細に説明する。しかし、本発明は、実施例に限定して解釈されるものではない。
【0024】
1.EBGase
図1に、Bacteroides fragilisゲノムから発見された本発明のendo-beta-galactosidase (EBGase)である配列番号1で示されるアミノ酸配列を有するEBGase(以下、「EBGase_TGR」とも表記する)と配列番号3で示されるアミノ酸配列を有するEBGase(以下、「EBGase_KEK」とも表記する)と、非特許文献1に記載のEBGaseである、EBGase_GDK、及びEBGase_QWKの系統樹を示す。
図1において酵素名に続く数値は相同性を示す。
【0025】
2.EBGaseによるケラタン硫酸糖鎖の分解の確認
(1)EBGase処理
野生型マウス(WT)、Chst1ノックアウトマウス(Chst1 KO)、Chst5ノックアウトマウス(Chst5 KO)、Chst1/5ダブルノックアウトマウス(Chst1/5 KO)から採取した角膜から抽出したマウス角膜抽出物10μgに対しEBGase-TGRを1μgを加え、50 mM 酢酸ナトリウム pH5.5で最終容量40μLにて37℃で2時間反応させたのち、SDSサンプルバッファーと還元剤を加えて70℃10分加温して反応を停止させた。このうちの1/4を電気泳動の1レーンに使用しSDS-PAGEを行った。
【0026】
ヒト赤血球膜抽出物(Ery. ghost)は40μgに対しEBGase-TGRを2μgを加え、50 mM 酢酸ナトリウム pH5.5で最終容量60μLにて37℃で2時間反応させたのち、SDSサンプルバッファーと還元剤を加えて70℃10分加温して反応を停止させた。このうちの1/4をSDS-PAGE 1レーンに使用しSDS-PAGEを行った。SDS-PAGEはThermoFisherのBoltシステムを用いて電気泳動を行なった。
【0027】
(2)ケラタン硫酸のウェスタンブロットによる検出
SDS-PAGEを行ったのち、ThermoFisherのBoltシステムに従ってPVDF膜上にタンパク質を転写した。この膜を5%スキムミルクを含むTBS-0.05% Tween-20(TBST)にて室温1時間ブロッキングを行い、TBSTで一度洗浄したのち、5%スキムミルク-TBSTで500倍に希釈した抗ケラタン硫酸抗体R-10G(東京化成)と室温で1時間反応させた。この膜をTBSTで5分おきに3回洗浄したのち、0.3%スキムミルク-TBSTで1000倍に希釈したHRP標識した抗マウスIgG抗体(R&D)と室温で30分反応させた。その後膜をTBSTで5分おきに3回洗浄し、HRP発光試薬(Immobilon Forte, Merck)と室温で1分反応させ、発光検出器(Vilver Fusion Solo S)にて検出した。
【0028】
(3)ポリラクトサミンのレクチンブロットによる検出
上記の方法で作製したPVDF膜を5%ウシ血清アルブミン(BSA)を含むTBSTにて室温1時間ブロッキングを行い、さらに20 μg/mL卵白アビジン(Sigma)と5%BSAを含むTBSTで室温で30分ブロッキングを行った。この膜をTBSTで一度洗浄したのち、40 μMビオチン(Sigma)と5%BSAを含むTBSTで500倍に希釈したビオチン標識トマトレクチン(LEL, Vector)と室温で1時間反応させた。この膜をTBSTで5分おきに3回洗浄したのち、TBSTで2000倍に希釈したHRP標識Streptavidin(Merck)と室温で30分反応させた。そののち膜をTBSTで5分おきに3回洗浄し、HRP発光試薬(Immobilon Forte, Merck-Millipore)と室温で1分反応させ、発光検出器(Vilver Fusion Solo S)にて検出した。
【0029】
(4)結果
EBGaseの基質であるケラタン硫酸糖鎖の分解試験の結果を
図2に示す。EBGase処理を行ってないWTマウス角膜抽出物、Chst1 KOマウス角膜抽出物では、ケラタン硫酸糖鎖に由来するスメアなシグナルが検出された。Chst5 KOマウス角膜抽出物、Chst1/5 KOマウス角膜抽出物は、ケラタン硫酸糖鎖を生体内で合成できないため、EBGase処理を行っていない場合であってもケラタン硫酸糖鎖に由来するシグナルは検出されていない。EBGase処理を行ったWTマウス角膜抽出物、Chst1 KOマウス角膜抽出物では、ケラタン硫酸糖鎖に由来するスメアなシグナルが消失していた。このことから、EBGase-TGRにはEBGase活性があることが示された。
【0030】
EBGaseのもう一つの基質であるポリラクトサミン糖鎖の分解試験の結果を
図3に示す。EBGase処理を行っていないEry. ghostでは、赤血球膜上にある長鎖ポリラクトサミンに由来するスメアなシグナルが検出された。一方EBGase処理を行ったEry. ghostでは、赤血球膜上にある長鎖ポリラクトサミンがEBGaseにより分解され、短い分子量成分となっていた。このことからも、EBGase-TGRにはEBGase活性があることが示された。
【0031】
3.各種EBGaseの発現と酵素活性の確認
バクテリアゲノム中に発見した6種類のEBGase酵素と見られる遺伝子配列を大腸菌の発現ベクターであるpET28aに組み込み、そのベクター中のT7プロモーターを利用してin vitro遺伝子発現系であるPUREfrex2.0(GeneFrontier)にてキットのプロトコールに従ってタンパク質を発現させた。この反応液1 μLとウシ胎仔血清16 μgを50 mM 酢酸ナトリウム pH5.5で最終容量20 μLにて37℃で、1時間、又は一晩反応させたのち、上記のウェスタンブロット(検出抗体としてR-10Gの代わりに295-6Bを使用した)によりケラタン硫酸の有無を確認した。
【0032】
結果を
図4に示す。
図4中GDK、GKL、KEK、NKK、TGR、QWKは、各EBGaseを示し、GDKsやGKLsなど最後に「s」がついている酵素は膜結合領域が除かれている組換え体(「soluble」の意味)である。60 kDa以上のスメアなシグナルがGDK、TGR、GDKs、KEKs、TGRs、QWKsのEBGaseによって消失していることから、これらのタンパク質にはEBGase活性があることが確認された。