(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2025012069
(43)【公開日】2025-01-24
(54)【発明の名称】サイクル数の評価方法及び屋内用鋼部材の耐用年数推定方法
(51)【国際特許分類】
G01N 17/00 20060101AFI20250117BHJP
【FI】
G01N17/00
【審査請求】未請求
【請求項の数】4
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023114608
(22)【出願日】2023-07-12
(71)【出願人】
【識別番号】000006839
【氏名又は名称】日鉄建材株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100120868
【弁理士】
【氏名又は名称】安彦 元
(72)【発明者】
【氏名】浅沼 愛実
【テーマコード(参考)】
2G050
【Fターム(参考)】
2G050AA01
2G050AA02
2G050AA04
2G050BA02
2G050BA09
2G050BA10
2G050CA01
2G050DA03
2G050EA01
2G050EA02
2G050EB01
2G050EB10
(57)【要約】
【課題】腐食環境のサイクルを繰り返して腐食を促進させる腐食促進試験により、屋内用鋼部材の使用限界となるサイクル数を精度良く評価するサイクル数の評価方法及び屋内用鋼部材の耐用年数推定方法を提供する。
【解決手段】実施形態におけるサイクル数の評価方法は、腐食環境のサイクルを繰り返して腐食を促進させる腐食促進試験により、屋内用鋼部材の使用限界となるサイクル数を評価するサイクル数の評価方法であって、前記屋内用鋼部材に所定のサイクル数の腐食促進試験を行い、前記サイクル数に応じた前記屋内用鋼部材の重量を測定し、前記サイクル数と前記屋内用鋼部材の重量の変化の関係を取得し、取得した前記関係を曲線近似した近似式を取得し、前記近似式の極小値となるサイクル数を取得する取得工程と、取得したサイクル数に基づいて、前記屋内用鋼部材の使用限界となる使用限界サイクル数を評価する評価工程と、を備える。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
腐食環境のサイクルを繰り返して腐食を促進させる腐食促進試験により、屋内用鋼部材の使用限界となるサイクル数を評価するサイクル数の評価方法であって、
前記屋内用鋼部材に所定のサイクル数の腐食促進試験を行い、前記サイクル数に応じた前記屋内用鋼部材の重量を測定し、前記サイクル数と前記屋内用鋼部材の重量の変化の関係を取得し、取得した前記関係を曲線近似した近似式を取得し、前記近似式の極小値となるサイクル数を取得する取得工程と、
取得した前記サイクル数に基づいて、前記屋内用鋼部材の使用限界となる使用限界サイクル数を評価する評価工程と、を備えること
を特徴とするサイクル数の評価方法。
【請求項2】
前記評価工程では、前記近似式の極小値となる前記サイクル数と、腐食促進試験のサイクル数の最大値と、のうちの最小値を前記使用限界サイクル数として評価すること
を特徴とする請求項1記載のサイクル数の評価方法。
【請求項3】
前記取得工程では、前記屋内用鋼部材の部位毎に重量を測定し、前記屋内用鋼部材の部位毎に前記関係を取得し、前記屋内用鋼部材の部位毎に前記近似式を取得し、前記屋内用鋼部材の部位毎の前記近似式の極小値となる前記サイクル数を取得し、
前記評価工程では、部位毎に取得した前記サイクル数の最小値を前記使用限界サイクル数として評価すること
を特徴とする請求項1記載のサイクル数の評価方法。
【請求項4】
腐食環境のサイクルを繰り返して腐食を促進させる腐食促進試験により、屋内用鋼部材の耐用年数を推定する屋内用鋼部材の耐用年数推定方法であって、
前記屋内用鋼部材に所定のサイクル数の腐食促進試験を行い、前記サイクル数に応じた前記屋内用鋼部材の重量を測定し、前記サイクル数と前記屋内用鋼部材の重量の変化の関係を取得し、取得した前記関係を曲線近似した近似式を取得し、前記近似式の極小値となるサイクル数を取得する取得工程と、
取得した前記サイクル数に基づいて、前記屋内用鋼部材の使用限界となる使用限界サイクル数を評価し、
前記使用限界サイクル数に基づいて、前記屋内用鋼部材の耐用年数を推定する評価工程と、を備えること
を特徴とする屋内用鋼部材の耐用年数推定方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、腐食環境のサイクルを繰り返して腐食を促進させる腐食促進試験により、屋内用鋼部材の使用限界となるサイクル数を評価するサイクル数の評価方法及び屋内用鋼部材の耐用年数を推定する屋内用鋼部材の耐用年数推定方法に関する。
【背景技術】
【0002】
胴縁材等の屋内用の鋼部材は、傷のつきにくさ、耐食性の確保の観点からめっき材を用いたニーズが高まっている。めっき材は部材としての耐用年数が100年以上のものもあるが、一方で屋外に設置される建物の耐用年数は、基礎コンクリートの劣化を考慮すると概ね45年程度が妥当であると考えられている。このように、屋内用の鋼部材の耐用年数が、建物の耐用年数と合致しているとは言い難い。また、屋内用の鋼部材は、ユーザの目につきやすいことから、強度等の部材としての機能は確保される程度の腐食であっても、ユーザの不安感に繋がるおそれがある。
【0003】
屋内用の鋼部材の耐用年数については、正確に算出する手法が確立されておらず、めっき付着量から経験則的に耐用年数を算出する手法(非特許文献1参照)により対応しているのが現状である。
【0004】
また、腐食促進試験により鋼部材の外観から耐用年数を推定する手法もある。この手法では、腐食促進試験を行うことにより腐食促進試験のサイクル数と鋼部材の錆の面積との関係を取得し、錆の面積が予め設定した閾値を超えたときのサイクル数に基づいて、鋼部材の耐用年数を推定する。しかしながら、サイクル数の算出に必要な錆の面積を外観から評価するため、錆の面積の評価に主観が入りやすい。加えて、赤錆色の塗料が塗布された部材の場合、赤錆を外観上認識することが難しく、定量的に耐用年数を算出するのが困難である。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0005】
【非特許文献1】財団法人国土開発技術研究センター:鉄骨造構造物の耐久性向上技術(技報堂出版),1986
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
そこで、本発明は、上述した事情に鑑みて案出されたものであり、その目的とするところは、腐食環境のサイクルを繰り返して腐食を促進させる腐食促進試験により、屋内用鋼部材の使用限界となるサイクル数を精度良く評価するサイクル数の評価方法及び屋内用鋼部材の耐用年数推定方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
屋内用鋼部材は、製造されてから所定の期間においては、表面の塗膜等に含まれる水分、油分等の蒸発、剥離等により重量が軽くなると考えられる。一方、屋内用鋼部材は、所定の期間が経過すると、酸素と結びつき赤錆が発生して重量が増加する。そして、屋内用鋼部材は、一度赤錆が発生するとその進展が早い。そこで、本発明者は、腐食促進試験を行ったときの屋内用鋼部材の重量の変化に着目し、重量が減少から増加に転換するときに、赤錆が発生し始めると仮定した。そして、赤錆が発生し始める時期を屋内用鋼部材の寿命ととらえ、腐食促進試験により屋内用鋼部材の使用限界となるサイクル数を評価する方法及び屋内用鋼部材の耐用年数を推定する方法を見出した。
【0008】
本発明に係るサイクル数の評価方法は、腐食環境のサイクルを繰り返して腐食を促進させる腐食促進試験により、屋内用鋼部材の使用限界となるサイクル数を評価するサイクル数の評価方法であって、前記屋内用鋼部材に所定のサイクル数の腐食促進試験を行い、前記サイクル数に応じた前記屋内用鋼部材の重量を測定し、前記サイクル数と前記屋内用鋼部材の重量の変化の関係を取得し、取得した前記関係を曲線近似した近似式を取得し、前記近似式の極小値となるサイクル数を取得する取得工程と、取得した前記サイクル数に基づいて、前記屋内用鋼部材の使用限界となる使用限界サイクル数を評価する評価工程と、を備えることを特徴とする。
【0009】
本発明に係る屋内用鋼部材の耐用年数推定方法は、腐食環境のサイクルを繰り返して腐食を促進させる腐食促進試験により、屋内用鋼部材の耐用年数を推定する屋内用鋼部材の耐用年数推定方法であって、前記屋内用鋼部材に所定のサイクル数の腐食促進試験を行い、前記サイクル数に応じた前記屋内用鋼部材の重量を測定し、前記サイクル数と前記屋内用鋼部材の重量の変化の関係を取得し、取得した前記関係を曲線近似した近似式を取得し、前記近似式の極小値となるサイクル数を取得する取得工程と、取得した前記サイクル数に基づいて、前記屋内用鋼部材の使用限界となる使用限界サイクル数を評価し、前記使用限界サイクル数に基づいて、前記屋内用鋼部材の耐用年数を推定する評価工程と、を備えることを特徴とする。
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、腐食環境のサイクルを繰り返して腐食を促進させる腐食促進試験により、屋内用鋼部材の使用限界となるサイクル数を精度良く評価するサイクル数の評価方法及び屋内用鋼部材の耐用年数推定方法を提供できる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【
図1】
図1は、サイクル数と屋内用鋼部材の重量の変化の関係の一例を示す。
【
図2】
図2は、重工業地帯における屋内用鋼部材の塗装材の膜厚と耐用年数の推定結果の関係を示す。
【
図3】
図3は、都市地帯における屋内用鋼部材の塗装材の膜厚と耐用年数の推定結果の関係を示す。
【
図4】
図4は、供試体1~4について、重量の変化の関係から推定した耐用年数と、錆の面積率の関係から推定した耐用年数との関係を示す。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下、本発明を適用したサイクル数の評価方法及び屋内用鋼部材の耐用年数推定方法を実施するための形態について、図面を参照しながら詳細に説明する。
【0013】
屋内用鋼部材の耐用年数推定方法は、腐食促進試験により、屋内用鋼部材の使用限界となるサイクル数を評価するサイクル数の評価方法を用いて、屋内用鋼部材の耐用年数を推定する。
【0014】
サイクル数の評価方法は、腐食促進試験により、屋内用鋼部材の使用限界となるサイクル数を評価する。
【0015】
腐食促進試験は、腐食環境のサイクルを繰り返して腐食を促進させる。腐食促進試験は、例えばJASOM609-91(自動車用材料腐食試験方法)に準拠した複合サイクル試験が用いられる。腐食促進試験は、例えば塩水噴霧環境と、乾燥環境と、湿潤環境と、を1サイクルとして、所定のサイクル数繰り返し、内部に設置された屋内用鋼部材の腐食を促進させる。塩水噴霧環境は、例えば2時間、温度35℃、5%の塩水を噴霧する環境である。乾燥環境は、例えば4時間、温度60℃、湿度20%~30%の環境である。湿潤環境は、例えば2時間、温度50℃、湿度が95%以上の環境である。非特許文献2(作本好文、野村広正、松本雅充、二宮淳、宮尾俊明、坂本義仁,亜鉛めっき薄板軽量形鋼の耐久性に関する実験的研究,日本建築学会構造系論文集,2001年2月,第540号,p.133-140)によれば、複合サイクル試験は、屋外暴露を模擬する腐食促進試験として有用で信頼性が高い方法であるとされている。
【0016】
屋内用鋼部材は、例えば胴縁材等の屋内で使用される鋼部材である。屋内用鋼部材は、例えば軽量形鋼や角パイプで構成される。屋内用鋼部材は、表面に塗装材、めっき材等の表面保護材が塗布される。
【0017】
屋内用鋼部材の耐用年数推定方法とサイクル数の評価方法は、取得工程と、評価工程とを備える。
【0018】
取得工程では、屋内用鋼部材に所定のサイクル数の腐食促進試験を行い、サイクル数に応じた屋内用鋼部材の重量を測定し、サイクル数と屋内用鋼部材の重量の変化の関係を取得し、取得した関係を曲線近似した近似式を取得する。取得工程では、近似式の極小値となるサイクル数を取得する。
【0019】
取得工程では、屋内用鋼部材の部位毎に重量を測定し、屋内用鋼部材の部位毎にサイクル数と屋内用鋼部材の重量の変化の関係を取得し、屋内用鋼部材の部位毎に近似式を取得し、屋内用鋼部材の部位毎の近似式の極小値となるサイクル数を取得してもよい。
【0020】
評価工程では、取得したサイクル数に基づいて、屋内用鋼部材の使用限界となる使用限界サイクル数C1を評価する。
【0021】
評価工程では、近似式の極小値となるサイクル数と、腐食促進試験のサイクル数の最大値と、のうちの最小値を使用限界サイクル数C1として評価してもよい。評価工程では、部位毎に取得したサイクル数の最小値を使用限界サイクル数C1として評価してもよい。
【0022】
そして、評価工程では、使用限界サイクル数C1に基づいて、屋内用鋼部材の耐用年数を推定する。耐用年数は、例えば以下の数式(1)により推定できる。
【0023】
耐用年数=(使用限界サイクル数C1/屋外暴露1年と同等のサイクル数C0)×係数α
・・・(1)
【0024】
数式(1)における屋外暴露1年と同等のサイクル数C0は、非特許文献2を参照して設定した。屋外暴露1年と同等のサイクル数C0は、屋外暴露1年と同等の腐食促進試験のサイクル数であり、屋外暴露される地域区分に応じて異なる。屋外暴露される地域区分は、例えば重工業地帯、都市地帯、海岸地帯、田園地帯、山間地帯、乾燥地帯等である。
【0025】
数式(1)における係数αは、屋外の耐用年数を屋内の耐用年数に換算するための係数である。これは、腐食促進試験が屋外暴露を模擬した試験であることから、係数αにより試験結果を屋内暴露に換算できる。係数αは、非特許文献1のp.90に記載の露出度係数BXを参照して設定した。本発明は屋内用の鋼部材が対象であることから、露出状況を非露出の常時乾燥である露出度係数BX4を参照し、屋内用鋼部材がめっき材の場合の係数αを8.0とし、屋内用鋼部材が塗装材の場合の係数αを6.0とした。
【0026】
以下、腐食促進試験のサイクル数を耐用年数の関係を表1に示す。表1中の※1は、非特許文献1を参照して設定した値であり、表1中の※2は、非特許文献2を参照して設定した値である。表1における年間平均腐食速度は、非特許文献2のp.140の記載を参照した。非特許文献2のp.135によれば、1サイクルあたりの腐食量は3.33(g/m2/サイクル)であるところ、表1における屋外暴露1年と同等のサイクル数C0は、表1における年間平均腐食速度を、1サイクルあたりの腐食量である3.33(g/m2/サイクル)で除して算出される。例えば、重工業地帯における屋外暴露1年と同等のサイクル数C0は、年間平均腐食速度である34(g/m2/年)を3.33(g/m2/サイクル)で除した結果である10.2(サイクル/年)となる。そして、屋外を想定した場合の建物耐用年数を45年としたときの必要サイクル数は、めっき材及び塗装材ともに、重工業地帯における屋外暴露1年と同等のサイクル数C0である10.2(サイクル/年)に、45(年)を乗じて459サイクルであると算出できる。そして、屋内を想定した場合の建物耐用年数を45年としたときの必要サイクル数は、屋外を想定した場合の建物耐用年数を45年としたときの必要サイクル数である459(サイクル)を、めっき材における係数αである8.0で除して57.4(サイクル)と算出できる。同様に、塗装材の場合には、459サイクルを塗装材における係数αである6.0で除して76.5(サイクルと)算出できる。
【0027】
【0028】
以下、発明例を挙げて説明する。
【0029】
表2に、発明例で用いた供試体1~7の屋内用鋼部材の概要を示す。供試体1~7では、塗装材として、鉛・クロムフリーさび止めペイント JIS K 5674 1種と、JIS K 5674 2種と、の少なくとも何れかを塗布した。
【0030】
【0031】
c形鋼ではウェブ面とコーナー部との各部位を切り出した試験片とし、角パイプでは平板部とコーナー部とシーム部の各部位を切り出した試験片とし、各試験片について検討をした。
【0032】
発明例では、供試体1~7の屋内用鋼部材に所定のサイクル数の腐食促進試験を行い、サイクル数に応じた屋内用鋼部材の重量を測定した。屋内用鋼部材の重量は、試験開始前、2回、5回、11回、20回、41回、62回、83回の各サイクル数において測定した。そして、サイクル数と屋内用鋼部材の重量の変化の関係を取得した。すなわち、c形鋼ではウェブ面とコーナー部との各部位について、角パイプでは平板部とコーナー部とシーム部の各部位について、それぞれ重量を測定し、サイクル数と屋内用鋼部材の重量の変化の関係を取得した。そして、サイクル数と屋内用鋼部材の重量の変化の関係を2次曲線により曲線近似した近似式を取得した。取得した近似式の極小値となるサイクル数を取得した。なお、腐食促進試験の前に、供試体1~7の屋内用鋼部材の各部位毎に表面の塗装材の膜厚を測定した。
【0033】
図1は、サイクル数と屋内用鋼部材の重量の変化の関係の一例を示す。
図1に示すプロットから、サイクル数と屋内用鋼部材の重量の変化の関係を2次曲線により曲線近似した近似式を取得すればよい。横軸であるサイクル数Xとし、縦軸である重量の変化Yとし、係数aとし、近似式Y=a(X-p)
2+qとしたとき、近似式の極小値qとなるサイクル数pを取得すればよい。
【0034】
次に、取得した近似式の極小値となるサイクル数に基づいて、屋内用鋼部材の使用限界となる使用限界サイクル数を評価する。屋内用鋼部材の部位毎に近似式の極小値となるサイクル数を算出し、部位毎に算出したサイクル数の最小値を使用限界サイクル数として評価した。なお、発明例では、腐食促進試験のサイクル数を83回実施したため、近似式の極小値となるサイクル数が腐食促進試験のサイクル数の最大値である83回を超える場合には、サイクル数の最大値である83回を使用限界サイクル数C1とした。すなわち、極小値となるサイクル数と、腐食促進試験のサイクル数の最大値と、のうちの最小値を使用限界サイクル数C1とした。なお、建物の耐用年数は、一般的に45年程度と評価され、建物の部材についても建物と同様の耐用年数があれば十分と考えられる。そのため、本試験ではサイクル数の最大値を83回とした。これは、腐食環境として最も厳しい条件である重工業地帯における約49年に相当するサイクル数である。このように、サイクル数の最大値を設定することで、赤錆の発生の有無によらずに腐食促進試験を終了できる。このため、使用限界サイクル数の評価及び屋内用鋼部材の耐用年数の推定に必要な腐食促進試験を短縮化できる。
【0035】
そして、使用限界サイクル数C1に基づいて、屋内用鋼部材の耐用年数を推定した。耐用年数は、上記の数式(1)を用いた。供試体1~7では、塗装材を塗布したため、数式(1)における係数αを6.0とした。屋外暴露される地域区分としては、重工業地帯の場合と都市地帯の場合の2ケースについて、屋内用鋼部材の耐用年数を推定した。表1を参照し、重工業地帯の場合、屋外暴露1年と同等のサイクル数C0を10.2とし、都市地帯の場合、屋外暴露1年と同等のサイクル数C0を4.5とした。
【0036】
表3に、供試体1~7における、試験開始前の塗装材の膜厚と、使用限界サイクル数C1と、耐用年数の推定結果を示す。
【0037】
各部位毎に取得した使用限界サイクル数C1に基づき、屋内用鋼部材の各部位毎の耐用年数を推定し、推定した屋内用鋼部材の各部位毎の耐用年数の最小値を屋内用鋼部材の耐用年数として推定した。
【0038】
表3に示すように、例えば重工業地帯における供試体1のウェブ面の使用限界サイクル数C1は83.0回であり、数式(1)に基づき推定した耐用年数は、48.8年である。同様に、重工業地帯における供試体1のコーナー部の使用限界サイクル数C1は52.7回であり、数式(1)に基づき推定した耐用年数は、30.7年である。したがって、推定した屋内用鋼部材の各部位毎の耐用年数の最小値である30.7年を重工業地帯における供試体1の屋内用鋼部材の耐用年数として推定した。
【0039】
【0040】
表3に示すように、供試体1~7では、コーナー部の耐用年数が他の部位の耐用年数に比べて低い傾向にあった。これは、コーナー部では、均等に塗装するのが平板に比べて困難であること、成形加工時の黒皮表面の剥がれやすさ等が起因していると想定される。
【0041】
目標耐用年数を屋内45年とした場合、重工業地帯ではおおよそ塗装材の膜厚60μm程度を確保する必要があることを確認した。一方、同じ耐用年数でも都市地帯を対象とすると、50μm程度で十分であり、錆止め塗装1回塗りでも適用可能であった。
【0042】
図2は、重工業地帯における屋内用鋼部材の塗装材の膜厚と耐用年数の推定結果の関係を示し、
図3は、都市地帯における屋内用鋼部材の塗装材の膜厚と耐用年数の推定結果の関係を示す。一般に塗装材の膜厚が厚いほど耐用年数が長くなるとされているところ、
図2及び
図3に示すように、発明例においても塗装材の膜厚が厚いほど耐用年数が長くなる傾向が確認できた。このため、本発明によれば、屋内用鋼部材の耐用年数を精度良く評価できる。
【0043】
次に、比較例として、発明例の屋内用鋼部材と同種の屋内用鋼部材(上記の供試体1~4)について、腐食促進試験を行い、従来の手法である錆の面積率に基づき耐用年数を推定した。比較例においても、c形鋼ではウェブ面とコーナー部との各部位を切り出した試験片とし、角パイプでは平板部とコーナー部とシーム部の各部位を切り出した試験片とし、各試験片について検討をした。
【0044】
比較例では、供試体1~4の屋内用鋼部材に所定のサイクル数の腐食促進試験を行い、サイクル数に応じた屋内用鋼部材の画像を撮像して錆の面積率を算出した。供試体1~4では、試験開始前、2回、5回、11回、20回、41回、62回、83回の各サイクル数において、屋内用鋼部材の錆の面積率を測定した。錆の面積率は、画像解析ソフトWinROOFを用いて算出した。そして、錆の面積率が0.5%を超えたときのサイクル数(使用限界サイクル数C2とする)から耐用年数を推定した。錆の面積率の許容値を0.5%としたのは、非特許文献3(一般社団法人日本鋼構造協会,鋼構造物塗膜調査マニュアル,平成30年2月1日,p.28)によれば、錆の面積率が0.5%以下の場合、「錆がわずかに認められるが、塗膜は機能を維持している状態」とみなせることによる。錆の面積率の算出に際し、赤錆のみを対象とし、白錆は対象外とした。
【0045】
なお、比較例においても、腐食促進試験のサイクル数を83回実施したため、サイクル数が83回の場合に錆の面積率が0.5%を超えなかった場合には、サイクル数の最大値である83回を使用限界サイクル数C2とした。
【0046】
そして、使用限界サイクル数C2に基づいて、屋内用鋼部材の耐用年数を推定した。耐用年数は、以下の数式(2)を用いた。供試体1~4では、塗装材を塗布したため、数式(2)における係数αを6.0とした。比較例においても、屋外暴露される地域区分としては、重工業地帯の場合、都市地帯の場合と、の2ケースについて、屋内用鋼部材の耐用年数を推定した。表1を参照し、重工業地帯の場合、屋外暴露1年と同等のサイクル数C0を10.2とし、都市地帯の場合、屋外暴露1年と同等のサイクル数C0を4.5とした。
【0047】
耐用年数=(使用限界サイクル数C2/屋外暴露1年と同等のサイクル数C0)×係数α
・・・(2)
【0048】
表4に、供試体1~4における、使用限界サイクル数C2と、耐用年数の推定結果を示す。
【0049】
【0050】
表3と表4を参照し、
図4に、供試体1~4について、重量の変化の関係から推定した耐用年数(発明例)と、錆の面積率の関係から推定した耐用年数(比較例)と、の関係を示す。
図4に示すように、発明例である重量の変化の関係から推定した耐用年数は、比較例である錆の面積率の関係から推定した耐用年数よりも短い傾向にあるものの、相関があることが看取される。このため、本発明によれば、屋内用鋼部材の耐用年数を精度良く評価できる。
【0051】
このように、腐食促進試験により屋内用鋼部材の使用限界となるサイクル数を評価する際に、腐食促進試験において屋内用鋼部材の重量が減少から増加に転換するとき(極小値となるとき)に、赤錆が発生し始めると仮定した。そして、赤錆が発生し始める時期を屋内用鋼部材の寿命と捉えることで、使用限界サイクル数を精度良く評価できる。また、使用限界サイクル数は、定量的に測定できる重量の変化に基づいて評価できるため、使用限界サイクル数を定量的に評価できる。
【0052】
本発明では、屋内用鋼部材に所定のサイクル数の腐食促進試験を行い、サイクル数に応じた屋内用鋼部材の重量を測定し、サイクル数と屋内用鋼部材の重量の変化の関係を取得し、取得した関係を曲線近似した近似式を取得し、近似式の極小値となるサイクル数を取得する取得工程と、取得したサイクル数に基づいて、屋内用鋼部材の使用限界となる使用限界サイクル数を評価する評価工程と、を備える。これにより、使用限界サイクル数を定量的に評価できる。このため、使用限界サイクル数を精度良く評価できる。
【0053】
本発明では、評価工程では、近似式の極小値となるサイクル数と、腐食促進試験のサイクル数の最大値と、のうちの最小値を使用限界サイクル数として評価する。これにより、使用限界サイクル数を安全側で評価できる。
【0054】
本発明では、取得工程では、屋内用鋼部材の部位毎に重量を測定し、屋内用鋼部材の部位毎に関係を取得し、屋内用鋼部材の部位毎に近似式を取得し、屋内用鋼部材の部位毎の近似式の極小値となるサイクル数を取得し、評価工程では、部位毎に取得したサイクル数の最小値を使用限界サイクル数として評価する。これにより、使用限界サイクル数を部位毎に定量的に評価できる。このため、使用限界サイクル数を更に精度良く評価できる。
【0055】
本発明では、屋内用鋼部材に所定のサイクル数の腐食促進試験を行い、サイクル数に応じた屋内用鋼部材の重量を測定し、サイクル数と屋内用鋼部材の重量の変化の関係を取得し、取得した関係を曲線近似した近似式を取得し、近似式の極小値となるサイクル数を取得する取得工程と、取得したサイクル数に基づいて、屋内用鋼部材の使用限界となる使用限界サイクル数を評価し、使用限界サイクル数に基づいて、屋内用鋼部材の耐用年数を推定する。これにより、屋内用鋼部材の耐用年数を定量的に評価できる。このため、屋内用鋼部材の耐用年数を精度良く評価できる。
【0056】
以上、この発明の実施形態を説明したが、この実施形態は例として提示したものであり、発明の範囲を限定することは意図していない。さらに、この発明は、上記の実施形態の他、様々な新規な形態で実施することができる。したがって、上記の実施形態は、この発明の要旨を逸脱しない範囲で、種々の省略、置き換え、変更が可能である。このような新規な形態や変形は、この発明の範囲や要旨に含まれるとともに、特許請求の範囲に記載された発明、及び特許請求の範囲に記載された発明の均等物の範囲に含まれる。