(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2025012074
(43)【公開日】2025-01-24
(54)【発明の名称】誘導加熱コイル及び塗装方法
(51)【国際特許分類】
H05B 6/36 20060101AFI20250117BHJP
H05B 6/10 20060101ALI20250117BHJP
H05B 6/44 20060101ALI20250117BHJP
【FI】
H05B6/36 F
H05B6/10 381
H05B6/44
【審査請求】未請求
【請求項の数】5
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023114623
(22)【出願日】2023-07-12
(71)【出願人】
【識別番号】390026088
【氏名又は名称】富士電子工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100100480
【弁理士】
【氏名又は名称】藤田 隆
(72)【発明者】
【氏名】渡邊 弘子
(72)【発明者】
【氏名】中田 佳和
【テーマコード(参考)】
3K059
【Fターム(参考)】
3K059AA08
3K059AB26
3K059AB27
3K059AB28
3K059CD48
3K059CD63
3K059CD78
3K059CD79
(57)【要約】
【課題】アルミ系のワークを誘導加熱して焼き入れ塗装することができる誘導加熱コイルを提供することを課題とする。
【解決手段】塗装途中であってアルミ系のワーク100を加熱する誘導加熱コイル1であって、中央にワークを配置するワーク配置空間18を有し導電線10が複数段に渡って螺旋状に巻かれていて両端が開口する平面形状が略長方形の螺旋コイル部5と、前記開口の少なくとも一方に配され導電線が平面的なループを構成して配された平面コイル部6を有し、前記螺旋コイル部5と前記平面コイル部6が電気的に直列接続されている。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
塗装途中であってアルミ系のワークを加熱する誘導加熱コイルであって、
中央にワークを配置するワーク配置空間を有し導電線が複数段に渡って螺旋状に巻かれていて両端が開口する平面形状が略長方形の螺旋コイル部と、前記開口の少なくとも一方に配され導電線が平面的なループを構成して配された平面コイル部を有し、前記螺旋コイル部と前記平面コイル部が電気的に直列接続されていることを特徴とする誘導加熱コイル。
【請求項2】
前記螺旋コイル部が絶縁材で被覆されていることを特徴とする請求項1に記載の誘導加熱コイル。
【請求項3】
第一給電部と第二給電部を有し、
前記平面コイル部は略平行に配された直線部と、当該直線部の端部同士を接続する接続部を有し、前記直線部の一方が入力線部と出力線部に分かれており、前記第一給電部が前記螺旋コイル部の一方の開口を横切る第一給電線によって前記入力線部に接続され、前記出力線部が前記螺旋コイル部の一端に接続され、前記螺旋コイル部の他端が前記螺旋コイル部の外側にのびる第二給電線によって前記第二給電部に接続されていることを特徴とする請求項1に記載の誘導加熱コイル。
【請求項4】
請求項1に記載の誘導加熱コイルが2基、対向する位置に配置され、ワークが双方の誘導加熱コイルのワーク配置空間に跨って配置されることを特徴とする誘導加熱コイル。
【請求項5】
アルミ系の素材で作られた箱状のワークに塗料を塗布し、当該ワークを請求項1に記載の誘導加熱コイルのワーク配置空間に載置し、誘導加熱コイルに交流を通電して前記ワークを昇温し、前記塗料をワークに焼き付けることを特徴とする塗装方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、アルミ系の素材で作られたワークを焼き付け塗装する際に使用する誘導加熱コイルに関するものである。また本発明は、アルミ系の素材で作られた箱状のワークを塗装する塗装方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
金属に塗膜を形成する方法として、焼き付け塗装が広く知られている。焼き付け塗装は、ワークに焼付硬化型の塗料を塗布し、その後に当該塗料を加熱して硬化させるものである。
焼き付け塗装における塗料の昇温には、電気ヒータ等の熱源が利用されている。
即ち、塗料を塗布したワークを電気ヒータに近づけて塗料を加熱し、硬化させる。
また特許文献1には、誘導加熱によってワークを昇温して塗料を加熱、硬化させる方策が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
特許文献1に開示された塗装方法は、自動車を塗装の対象とするものであり、塗装対象の素材は鉄系材料である。鉄系材料のワークを高周波磁束にさらすと、内部に渦電流が発生し、渦電流損失によってワークが昇温する。また鉄系材料のワークを高周波磁束にさらすと、ヒステリシス損失によっても昇温する。
この様に鉄系材料は、誘導加熱しやすい素材である。
特許文献1では、被塗装物の周囲に誘導加熱コイルを移動させ、該被塗装物に塗布された塗料を焼き付けている。
【0005】
これ対してアルミ系材料は、ヒステリシス損失が無く、誘導加熱には不向きな素材である。
そのため、特許文献1に開示された様な誘導加熱コイルでは、アルミ系材料に塗布された塗料を硬化させるのに十分な温度にワークを昇温することが困難である。
【0006】
本発明は、上記した問題に注目し、アルミ系のワークを誘導加熱して焼き入れ塗装することができる誘導加熱コイルを提供することを課題とするものである。また本発明は、アルミ系の素材で作られた箱状のワークを焼き付け塗装する塗装方法を提供することを課題とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記した課題を解決するための態様は、塗装途中であってアルミ系のワークを加熱する誘導加熱コイルであって、
中央にワークを配置するワーク配置空間を有し導電線が複数段に渡って螺旋状に巻かれていて両端が開口する平面形状が略長方形の螺旋コイル部と、前記開口の少なくとも一方に配され導電線が平面的なループを構成して配された平面コイル部を有し、前記螺旋コイル部と前記平面コイル部が電気的に直列接続されていることを特徴とする誘導加熱コイルである。
【0008】
対象となるワークは、アルミ系の素材で作られており、塗料が塗布されている。ワークは、ワーク配置空間に配される。その結果、ワークの周面が誘導加熱コイルの螺旋コイル部に囲まれる。また平面コイル部によってワークの端面が覆われる。誘導加熱コイルに交流電流を通電すると誘導加熱コイルによって交番磁界が発生し、ワークの5面が本態様の誘導加熱コイルが発生する交番磁界にさらされる。
その結果、ワークの各表面に渦電流が生じ、ジュール熱によってワークが発熱して表面の塗料を硬化させる。
本態様が対象とするワークはアルミ系の素材で作られているが、本態様の誘導加熱コイルによると、ワークの全体に渦電流を発生させることができるので、ワークを塗料が硬化する温度まで昇温することができる。
【0009】
上記した態様において、前記螺旋コイル部が絶縁材で被覆されていることが望ましい。
【0010】
本態様によると、螺旋コイル部の導電線がワークに直接接触することを防ぐことができ、ワークと螺旋コイル部の距離を小さくすることができる。
【0011】
上記した各態様において、第一給電部と第二給電部を有し、前記平面コイル部は略平行に配された直線部と、当該直線部の端部同士を接続する接続部を有し、前記直線部の一方が入力線部と出力線部に分かれており、前記第一給電部が前記螺旋コイル部の一方の開口を横切る第一給電線によって前記入力線部に接続され、前記出力線部が前記螺旋コイル部の一端に接続され、前記螺旋コイル部の他端が前記螺旋コイル部の外側にのびる第二給電線によって前記第二給電部に接続されていることが望ましい。
【0012】
本態様の誘導加熱コイルによると、ワークをまんべんなく昇温させることができる。
【0013】
前記した誘導加熱コイルが2基、対向する位置に配置され、ワークが双方の誘導加熱コイルのワーク配置空間に跨って配置されることが望ましい。
【0014】
本態様によると、ワークの全周が誘導加熱コイルで覆われる。
【0015】
塗装方法に関する態様は、アルミ系の素材で作られた箱状のワークに塗料を塗布し、当該ワークを前記いずれかに記載の誘導加熱コイルのワーク配置空間に載置し、誘導加熱コイルに交流を通電して前記ワークを昇温し、前記塗料をワークに焼き付けることを特徴とする。
【0016】
本態様の塗装方法によると、ワークの表面に強固な塗膜を形成させることができる。
【発明の効果】
【0017】
本発明の誘導加熱コイルおよび塗装方法によると、アルミ系のワークを誘導加熱して焼き入れ塗装することができる。
【図面の簡単な説明】
【0018】
【
図1】本発明の実施形態のワーク及び誘導加熱コイルの斜視図である。
【
図2】
図1の誘導加熱コイルを各部に分けた分解斜視図である。
【
図3】ワークを誘導加熱コイルの中に入れた状態を示す断面図である。
【
図4】本発明の他の実施形態のワーク及び誘導加熱コイルの斜視図である。
【発明を実施するための形態】
【0019】
以下、本発明の実施形態について説明する。
本実施形態で使用するワーク100は、アルミ系の素材で作られた箱である。
図1に示す様に、ワーク100たる箱は、アルミニウムまたはアルミニウムを含む合金で成形されたものである。ワーク100は、概ね直方体であり、5面が覆われており一面だけが開放されている。便宜上、ワーク100を正面板101、背面板102、左右側面板103、105及び天面板106と称する。
ワーク100は、塗装途中の半製品であり、各面に塗料110が塗布されている。なお塗料110は液体に限定されるものではなく、粉体であってもよい。
【0020】
誘導加熱コイル1は、大きく本体部2と給電側部材3に分かれている。本体部2は、螺旋コイル部5と、平面コイル部6によって構成されている。また給電側部材3は、第一給電部30と、第二給電部32と、第一給電線40と、第二給電線41とによって構成されている。
【0021】
本体部2は、一連の導電線10によって構成されている。本体部2を構成する導電線10は、いずれも管状であって内部が中空である。
図2に示す様に、本体部2の螺旋コイル部5は、立体形状が略直方体であり両端が開放されている。即ち螺旋コイル部5は、4周面が覆われていて図面の上下の面が開放されている。説明の便宜上、図面上側の開口を上部側開口16と称し、図面下側の開口を下部側開口17と称する。
螺旋コイル部5は、長方形であっていずれも同じ大きさ及び形状のループ部11が巻き重ねられたものであり、平面形状は中央に四角形の開口12を有する長方形である。
即ち、螺旋コイル部5は、平面視が長方形のループ部11が縦に複数段重ねられ、各段のループ部11が電気的に直列に接続されたものである。
図3に示す様に、螺旋コイル部5の導電線10は、前記した様に管状であって内部は中空である。螺旋コイル部5の導電線10の外部には絶縁材15が設けられている。
ループ部11は、少しの間隔を開けて重ねられている。ループ部11は、絶縁材15を介して密に重ねられていてもよい。
螺旋コイル部5は、中央部に空間があり、当該空間がワーク配置空間18として機能する。
【0022】
平面コイル部6は、平面形状が長円状のワンターンコイルである。
即ち平面コイル部6は、略平行に配された第一直線部20と、第二直線部21を有し、第一直線部20と、第二直線部21の端部同士を接続する円弧状の接続部23、25を有している、
平面コイル部6は、螺旋コイル部5の一方の開口(上部側開口16)を覆う位置に配されている。即ち平面コイル部は、螺旋コイル部5の一方の開口(上部側開口16)を蓋する位置にある。
【0023】
平面コイル部6の第一直線部20は二分割されており、一方が入力線部27であり、他方が出力線部28である。
【0024】
第一給電部30と第二給電部32はいずれも銅板であり、絶縁材33を挟んで対向している。
第一給電線40と第二給電線41は、いずれも管状であって内部が中空である。第一給電線40と第二給電線41には配管接続部材43、45が接続されている。
第一給電線40は、第一給電部30と平面コイル部6の入力線部27を接続する部材である。即ち第一給電線40は、螺旋コイル部5の一方の開口(上部側開口16)を横切って入力線部27に接続されている。
第二給電線41は螺旋コイル部5の下端と、第二給電部32を接続する部材である。第二給電線41は、螺旋コイル部5の外側に張出しており、螺旋コイル部5の開口(下部側開口17)とは重ならない。
【0025】
誘導加熱コイル1は、電気的には、第一給電部30と第二給電部32の間に、平面コイル部6と螺旋コイル部5が直列接続されたものである。
即ち第一給電部30は第一給電線40によって平面コイル部6の入力線部27に接続され、入力線部27は接続部23の一端に接続され、接続部23の第二直線部21の一端に接続され、第二直線部21の他端は接続部25の一端に接続され、接続部25の他端は出力線部28の一端に接続されている。
また出力線部28の他端は、螺旋コイル部5の上端に接続され、螺旋コイル部5の下端は、第二給電線41の一端に接続され、第二給電線41の他端に第二給電部32が接続されている。
【0026】
次に、誘導加熱コイル1を使用した塗装方法について説明する。
ワーク100は、別途の塗布工程により、表面に塗料110が塗布されている。
そしてワーク100を誘導加熱コイル1のワーク配置空間18に配置する。
実際には、誘導加熱コイル1は図示しない昇降装置に保持されていて上下方向に昇降する。そして誘導加熱コイル1の下にワーク100を設置して誘導加熱コイル1を降下し、ワーク配置空間18にワーク100を入れる。
本実施形態では、誘導加熱コイル1の下部には開口(下部側開口17)があるから、誘導加熱コイル1を降下させる際に誘導加熱コイル1がワーク100に衝突することはない。
【0027】
ワーク100が誘導加熱コイル1のワーク配置空間18に収容された状態は
図3の通りであり、ワーク100の正面板101、背面板102、左右側面板103、105に、誘導加熱コイル1の螺旋コイル部5の内面が近接した状態で対向する。またワーク100の天面板106に誘導加熱コイル1の平面コイル部6が対向する。
本実施形態では、螺旋コイル部5を構成する導電線10に絶縁材15があるので、ワーク100の正面板101、背面板102、左右側面板103、105に誘導加熱コイル1の導電線10が直接的に接することがなく、ショートすることはない。そのため螺旋コイル部5とワーク100との距離を極めて小さくすることができる。
【0028】
この状態で、第一給電部30と第二給電部32を介して誘導加熱コイル1に高周波電流が通電される、また配管接続部材43、45を介して誘導加熱コイル1に冷却水が通水される。
その結果、誘導加熱コイル1に高周波磁界が発生し、内部のワーク100に渦電流が生じて発熱する。そしてワーク100の表面の塗料110が加熱されて硬化する。
【0029】
本態様の誘導加熱コイル1は、ワーク100との距離が小さいので、素材がアルミ系であってもワーク100の表面を昇温することができる。また本態様の誘導加熱コイル1によると、ワーク100の5面(正面板101、背面板102、左右側面板103、105、天面板106)を同時に昇温することができるので、直接的な昇温が不十分な部分があったとしても周囲からの熱伝導によって補われ、全体を焼き入れ塗装可能な温度に至らせることができる。
【0030】
以上説明した実施形態では、一つの誘導加熱コイル1によってワーク100を昇温するが、
図4に示す様に二つの誘導加熱コイル1によってワーク100を昇温してもよい。
図4に示す加熱装置50は、二つの誘導加熱コイル1を対向して配置したものであり、図示しない移動装置によって二つの誘導加熱コイル1を近接・離反することができる。
図4に示す加熱装置50では、ワーク100は、双方の誘導加熱コイル1のワーク配置空間18に跨って配置される。即ちワーク100の約半分の領域は、誘導加熱コイル1のワーク配置空間18にあり、ワーク100の他の半分の領域は、他の誘導加熱コイル1のワーク配置空間18にある。
本実施形態によると、一方の誘導加熱コイル1の平面コイル部6と他方の誘導加熱コイル1の平面コイル部6が対向する位置にあり、ワーク100の6面が誘導加熱コイル1で覆われる。
図4に示した実施形態では、二つの誘導加熱コイル1は同じ大きさであるが、両者が異なっていてもよい。即ち一方の誘導加熱コイル1の螺旋コイル部5の巻き数と、他方の誘導加熱コイル1の螺旋コイル部5の巻き数が異なっていてもよい。
【0031】
以上説明した実施形態では、平面コイル部6は、平面形状が長円状のワンターンコイルであるが、渦巻き状のコイルであってもよい。
【符号の説明】
【0032】
1 誘導加熱コイル
5 螺旋コイル部
6 平面コイル部
10 導電線
15 絶縁材
16 上部側開口
17 下部側開口
18 ワーク配置空間
20 第一直線部
21 第二直線部
23 接続部
25 接続部
27 入力線部
28 出力線部
30 第一給電部
32 第二給電部
40 第一給電線
41 第二給電線
100 ワーク
110 塗料