IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ 日本精工株式会社の特許一覧

特開2025-12077密封装置及び密封装置付き軸受ユニット
<>
  • 特開-密封装置及び密封装置付き軸受ユニット 図1
  • 特開-密封装置及び密封装置付き軸受ユニット 図2
  • 特開-密封装置及び密封装置付き軸受ユニット 図3
  • 特開-密封装置及び密封装置付き軸受ユニット 図4
  • 特開-密封装置及び密封装置付き軸受ユニット 図5
  • 特開-密封装置及び密封装置付き軸受ユニット 図6
  • 特開-密封装置及び密封装置付き軸受ユニット 図7
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2025012077
(43)【公開日】2025-01-24
(54)【発明の名称】密封装置及び密封装置付き軸受ユニット
(51)【国際特許分類】
   F16C 33/78 20060101AFI20250117BHJP
   F16C 19/18 20060101ALI20250117BHJP
   F16J 15/3256 20160101ALI20250117BHJP
   F16J 15/3232 20160101ALI20250117BHJP
【FI】
F16C33/78 D
F16C19/18
F16J15/3256
F16J15/3232 201
【審査請求】未請求
【請求項の数】5
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023114632
(22)【出願日】2023-07-12
(71)【出願人】
【識別番号】000004204
【氏名又は名称】日本精工株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002000
【氏名又は名称】弁理士法人栄光事務所
(72)【発明者】
【氏名】村田 曜平
(72)【発明者】
【氏名】元田 智弘
【テーマコード(参考)】
3J006
3J043
3J216
3J701
【Fターム(参考)】
3J006AE04
3J006AE12
3J006AE34
3J006AE41
3J006AE42
3J006CA01
3J043AA17
3J043CA02
3J043CB13
3J043DA01
3J043HA01
3J216AA01
3J216AB03
3J216BA16
3J216CA02
3J216CB03
3J216CB07
3J216CC03
3J216CC14
3J216CC15
3J216CC33
3J216CC39
3J216CC41
3J216DA01
3J216DA11
3J216DA18
3J216GA09
3J701AA03
3J701AA32
3J701AA43
3J701AA54
3J701BA73
3J701EA01
3J701EA49
3J701EA63
3J701FA38
3J701GA02
3J701XB03
3J701XB26
3J701XB31
3J701XB50
(57)【要約】
【課題】潤滑剤の保持性と低トルク化を両立した密封装置付き軸受ユニットを提供する。
【解決手段】密封装置15は、弾性材料からなるシールリップ19a,19b,19cと、シールリップ19a,19b,19cが摺接する金属製の相手部材(スリンガ17)とで構成されるとともに、相手部材(スリンガ17)における、少なくともシールリップ19a,19b,19cとの摺接領域の面上に、相手部材(スリンガ17)の表面よりも窪んだ凹部21と、相手部材(スリンガ17)の表面よりも突出して凹部21を取り囲む凸部22とで構成されるディンプル20が複数形成されている。また、密封装置付き軸受ユニット10は、上記密封装置15を備える。
【選択図】図2
【特許請求の範囲】
【請求項1】
外輪と内輪との間に、複数の転動体を転動自在に保持するとともに、潤滑剤を充填し、密封装置にて封止した密封装置付き軸受ユニットに組み込まれる前記密封装置であって、
前記密封装置は、弾性材料からなるシールリップと、前記シールリップが摺接する金属製の相手部材とで構成されるとともに、
前記相手部材における、少なくとも前記シールリップとの摺接領域の面上に、該相手部材の表面よりも窪んだ凹部と、該相手部材の表面よりも突出して前記凹部を取り囲む凸部とで構成されるディンプルが複数形成されていることを特徴とする密封装置。
【請求項2】
前記凸部の頂部と前記凹部の最深部との高低差の平均値が、25μm以下であることを特徴とする請求項1に記載の密封装置。
【請求項3】
前記凸部の開口の前記摺接領域に対する面積比で10~60%であることを特徴とする請求項1に記載の密封装置。
【請求項4】
前記凸部の開口の前記摺接領域に対する面積比で10~60%であることを特徴とする請求項2に記載の密封装置。
【請求項5】
外輪と内輪との間に、複数の転動体を転動自在に保持するとともに、潤滑剤を充填し、密封装置にて封止した密封装置付き軸受ユニットであって、
前記密封装置が、請求項1~4の何れか1項に記載の密封装置であることを特徴する密封装置付き軸受ユニット。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、例えば自動車の車輪懸架部における軸受ユニットのように、固定側部材と回転側部材との間を密封することが必要とされる部位に介装される密封装置を備える軸受ユニット(密封装置付き軸受ユニット)に関する。また、本発明は、上記密封装置付き軸受ユニットに組み込まれる密封装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来より、自動車などの車両の車輪懸架部における軸受ユニット等の固定側部材と回転側部材との間に介装され、グリースや潤滑油(以下、まとめて「潤滑剤」ともいう。)を封止するともに、水や塵埃の浸入を防止する密封装置が知られている。また、今日では、車両の低燃費化を図るための対策が種々講じられており、軸受ユニットにおいても、回転トルクの低減化が求められている。
【0003】
例えば、特許文献1では、芯金に固着されたシールリップにおけるスリンガとの摺接面に凹凸が付与された密封装置が開示されている。また、特許文献2では、スリンガにおけるシールリップが摺接する側の面に別部材を設け、別部材でシールリップとの摺接面を構成するとともに、別部材におけるシールリップとの摺接面が粗面化された密封装置が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2012-193835号公報
【特許文献2】特開2010-107035号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、特許文献1に記載の密封装置では、スリンガではなくシールリップの方に凹凸が形成されているが、シールリップは軟質材料のため摩耗しやすく、形成した凹凸が摩耗に伴って消滅して効果を維持できない懸念がある。また、特許文献2に記載の密封装置では、シールリップではなくスリンガ側である別部材の表面を粗面化しているが、粗面の凹部の深さや凹部の大きさが一様ではないため、潤滑剤の保持性や密封性が十分ではなくなり、更にはそれぞれの凹部での潤滑剤の流動挙動が異なり、トルクも一様で無くなるため、低トルク化を十分に図ることができない懸念もある。
【0006】
本発明はこのような状況に鑑みてなされたものであり、潤滑剤の保持性と低トルク化を両立した密封装置付き軸受ユニットを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明の上記目的は、密封装置に係る下記[1]の構成により達成される。
【0008】
[1] 外輪と内輪との間に、複数の転動体を転動自在に保持するとともに、潤滑剤を充填し、密封装置にて封止した密封装置付き軸受ユニットに組み込まれる前記密封装置であって、
前記密封装置は、弾性材料からなるシールリップと、前記シールリップが摺接する金属製の相手部材とで構成されるとともに、
前記相手部材における、少なくとも前記シールリップとの摺接領域の面上に、該相手部材の表面よりも窪んだ凹部と、該相手部材の表面よりも突出して前記凹部を取り囲む凸部とで構成されるディンプルが複数形成されていることを特徴とする密封装置。
【0009】
また、密封装置に係る本発明の好ましい実施形態は、以下の[2]~[3]に関する。
【0010】
[2] 前記凸部の頂部と前記凹部の最深部との高低差の平均値が、25μm以下であることを特徴とする[1]に記載の密封装置。
[3] 前記凸部の開口の前記摺接領域に対する面積比で10~60%であることを特徴とする[1]又は[2]に記載の密封装置。
【0011】
本発明の上記目的は、密封装置付き軸受ユニットに係る下記[4]の構成により達成される。
【0012】
[4] 外輪と内輪との間に、複数の転動体を転動自在に保持するとともに、潤滑剤を充填し、密封装置にて封止した密封装置付き軸受ユニットであって、
前記密封装置が、[1]~[3]の何れか1つに記載の密封装置であることを特徴する密封装置付き軸受ユニット。
【発明の効果】
【0013】
本発明によれば、潤滑剤の保持性と低トルク化を両立した密封装置付き軸受ユニットを提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
図1図1は、本発明に係る密封装置付き軸受ユニットの一実施形態を示す断面図である。
図2図2は、図1に示す密封装置付き軸受ユニットにおける密封装置を示す拡大図である。
図3図3は、本発明に係る密封装置において、スリンガの摺接領域に形成したディンプルを示す拡大断面図である。
図4図4は、表面粗さ計を用いてスリンガの摺接領域を線状に走査して得られる断面の一例である。
図5図5は、ディンプルの高低差を説明するための模式図である。
図6図6は、ディンプルの開口径を説明するための模式図である。
図7図7は、実施例及び比較例の結果を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0015】
本発明の一実施形態に係る密封装置及び密封装置付き軸受ユニットについて、以下に説明する。なお、本実施形態は本発明の一例を示したものであって、本発明は本実施形態に限定されるものではない。また、本実施形態には種々の変更又は改良を加えることが可能であり、その様な変更又は改良を加えた形態も本発明に含まれ得る。
【0016】
本実施形態において、密封装置付き軸受ユニットには制限はなく、例えば図1に示す密封装置付き軸受ユニット10を挙げることができる。図示されるように、固定輪である外輪11と、回転輪である内輪12と、外輪11及び内輪12により画成された環状隙間に転動自在に配置され、且つ保持器14により円周方向に等間隔に保持された複数の転動体である玉13と、環状隙間の開口端部に配設された密封装置15と、を備えている。
【0017】
図2に示すように、密封装置15は、外輪11の内周面に固定された弾性材料からなるシール部材16と、シール部材16よりも開口端部外側に配置され、且つ内輪12の外周面に固定されたスリンガ17と、を備えている。なお、密封装置15は、シール部材16とスリンガ17とで構成され、スリンガ17が本発明でいう「相手部材」に相当する。そして、シール部材16とスリンガ17との摺接によって、環状隙間の開口端部を塞ぎ、埃等の異物が軸受内部に侵入することを防止するとともに、軸受内部に充填された潤滑剤が軸受外部に漏洩することを防止している。
【0018】
シール部材16は、例えば断面略L字形の円環状に形成された芯金18により、同じく断面略L字形の円環状に形成されたゴムシール19(弾性材料)を補強して構成されており、ゴムシール19の先端部分が分岐して、複数のシールリップ19a,19b,19cとし、スリンガ17の表面に摺接させている。
【0019】
また、スリンガ17は、フェライト系ステンレス(SUS430等)、マルテンサイト系ステンレス(SUS410等)等の金属板からなり、内輪12に外嵌される円筒部17aと、円筒部17aの軸方向端部に湾曲部17bを介して連設され、半径方向外方に広がるように形成された鍔状のフランジ部17cを有する。
【0020】
本実施形態では、スリンガ17のシール部材16との摺接領域(ここでは、シールリップ19a,19b,19cと、それらと摺接する円筒部17a、湾曲部17b、フランジ部17cの各摺接領域の表面)に、ディンプル20を複数形成するが、図3に拡大断面図で示すように、ディンプル20は、スリンガ表面17Aよりも窪んだ凹部21と、スリンガ表面17Aよりも突出して凹部21を取り囲む凸部22とで構成される。
【0021】
なお、軸受は回転に伴い、幅方向(図1の左右方向)や径方向(図1の上下方向)に微妙に動き、シール部材16も弾性変形したり、摩耗したりするため、シール部材16のスリンガ17との摺接領域も点ではなく、面、すなわちある程度の広がりを有する。そのため、摺接領域は、シール部材16とスリンガ17との摺接が想定される範囲となる。
【0022】
凹部21は、図示のように個々に独立しており、上面視でほぼ等間隔にて格子状に形成されていてもよいし、不規則に分布して形成されていてもよい。また、凸部22は、凹部21の全周を包囲してもよいし、部分的に包囲してもよい。
【0023】
凸部22で囲まれた凹部21が存在することにより、潤滑剤が凹部21の内部21aに入り込んで潤滑剤の保持性が向上するとともに、凹部21の内部21aにて潤滑剤の圧力変化が起こり、キャビテーションが発生する。そして、キャビテーションが発生している領域では、せん断抵抗が少なくなり、結果としてトルクが低減する。また、凸部22の、凹部21とは反対側の斜面22aにもキャビテーションが発生し、凹部21の内部21aでのキャビテーションと相俟ってトルクがより低減する。
【0024】
このようなトルク低減作用をより効果的に発現するために、凹部21の最深部と凸部22の頂部との高低差の平均値を25μm以下にすることが好ましく、22μm以下にすることがより好ましく、20μm以下にすることが更に好ましい。なお、上記高低差及びその平均値は、次のようにして求められる。
【0025】
図4は、表面粗さ計を用いてスリンガ17の摺接領域を線状に走査して得られる断面の一例である。この断面において、大きく窪んでいる部分がディンプル20の凹部21であり、その左右両側の突出している部分がディンプル20の凸部22である。そして、図5に示すように、あるディンプル20において、凹部21の最深部と図中左側の凸部22の頂部との高低差をa1、凹部21の最深部と図中右側の凸部22の頂部との高低差をa2とするとき、ディンプル20の高低差を「(a1+a2)/2」とする。そして、一走査分の個々のディンプル20の高低差を求め、それらの平均値を算出する。
【0026】
また、ディンプル20は、凸部22の開口面積の摺接領域に対する面積比で10~60%が好ましい。上記面積比が10%未満では、トルクの低減が十分に得られないおそれがある。一方、上記面積比が60%を超えると、個々の凸部22の開口面積が大きくなり、それに伴って高さも高くなり、シールリップ19a,19b,19cを摩耗させて密封性が低下する可能性がある。
【0027】
なお、上記面積比は、図6に示すように、図4に示した断面において、あるディンプル20の左右両側の凸部22の頂部間の距離d1を求め、その円相当面積を算出してディンプル20の開口面積とする。そして、一走査分の個々のディンプル20の開口面積を求め、それらの合計を算出し、一走査分の長さを一辺とする正方形の面積との比を面積比として算出する。
【0028】
ただし、凸部22はシールリップ19a,19b,19cと接触するため、ディンプル20の凸部22が高くなるほどシールリップ19a,19b,19cの摩耗量が大きくなる。凹部21は、レーザ照射や、突起を有する型を押し付けて転写するなどして形成されるが、レーザ照射では、スリンガ表面17Aのレーザ光が照射された部分が溶融して凹部21を形成するとともに、溶融物が凹部21の開口周辺に溶出して凝固することで凸部22が形成される。また、突起を有する型を押し付ける場合は、スリンガ表面17Aの突起が押し込まれた部分が塑性変形して凹部21を形成するとともに、凹部21の開口周辺が隆起することで凸部22が形成される。したがって、ディンプル20の凹部21が深いほど、凸部22が高くなりやすい。また、開口面積が大きくなるほど、凸部22が高くなりやすい。そこで、レーザ光の照射強度や型の押圧力により、高低差や開口面積を上記の範囲に調整することができる。
【0029】
また、スリンガ表面17Aは金属であるが、樹脂等の軟質被膜が存在してもよい。軟質被膜は、例えばレーザ加工によりディンプル20を形成する際に、融点の差で母材金属と軟質被膜との2重の突起ができ、よりキャビテーションが発生しやすくなる。また、軟質被膜はシールリップ19a,19b,19cへの攻撃性が低いため、シールリップ19a,19b,19cの摩耗が抑えられて密封効果が長続きする。
【実施例0030】
以下の実施例により、本発明の効果を検証した。
【0031】
(実施例1~4及び比較例1)
図1に示すような、シール部材とスリンガとを備える玉軸受ユニットを作製し、トルク試験を行った。シール部材には、外径φ75mm、内径φ61mmで、3つのシールリップを備えゴムシールを用いた。また、潤滑剤には、ウレアグリースを用いた。
【0032】
スリンガはSUS430製であり、実施例1~4には、表1に示すディンプルを形成した。なお、ディンプルの開口径及び高低差は、表面粗さ計で求めた平均値とし、80μmのピッチにて等間隔で格子状に形成した。また、比較例1は、ディンプル無しとした。
【0033】
そして、玉軸受を1000rpmの回転数にて回転させ、トルクを測定した。
【0034】
結果を表1及び図7に示すが、本発明に従うディンプルを形成した実施例1~4では、比較例1に比べて大きくトルクが低減していることがわかる。
【0035】
【表1】
【符号の説明】
【0036】
10 密封装置付き軸受ユニット
11 外輪
12 内輪
13 玉(転動体)
14 保持器
15 密封装置
16 シール部材
17 スリンガ
17a (スリンガの)円筒部
17b (スリンガの)湾曲部
17c (スリンガの)フランジ部
17A スリンガ表面
18 芯金
19 ゴムシール
19a,19b,19c シールリップ
20 ディンプル
21 凹部
22 凸部
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7