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特開2025-12086オーステナイト系ステンレス鋼板、水素ガス配管、バルブ、継手、および計器
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2025012086
(43)【公開日】2025-01-24
(54)【発明の名称】オーステナイト系ステンレス鋼板、水素ガス配管、バルブ、継手、および計器
(51)【国際特許分類】
   C22C 38/00 20060101AFI20250117BHJP
   C22C 38/58 20060101ALI20250117BHJP
   C21D 8/02 20060101ALN20250117BHJP
   C21D 9/46 20060101ALN20250117BHJP
   C21D 1/76 20060101ALN20250117BHJP
【FI】
C22C38/00 302Z
C22C38/58
C21D8/02 D
C21D9/46 Z
C21D1/76 F
C21D1/76 G
【審査請求】未請求
【請求項の数】4
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023114652
(22)【出願日】2023-07-12
(71)【出願人】
【識別番号】503378420
【氏名又は名称】日鉄ステンレス株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002044
【氏名又は名称】弁理士法人ブライタス
(72)【発明者】
【氏名】松本 三月
(72)【発明者】
【氏名】秦野 正治
(72)【発明者】
【氏名】濱田 辰巳
【テーマコード(参考)】
4K032
4K037
【Fターム(参考)】
4K032AA01
4K032AA02
4K032AA04
4K032AA08
4K032AA09
4K032AA13
4K032AA14
4K032AA15
4K032AA17
4K032AA19
4K032AA21
4K032AA22
4K032AA24
4K032AA27
4K032AA29
4K032AA31
4K032AA35
4K032AA36
4K032AA37
4K032AA39
4K032AA40
4K032BA01
4K032CA02
4K032CA03
4K032CB01
4K032CB02
4K032CF01
4K037EA01
4K037EA02
4K037EA04
4K037EA05
4K037EA09
4K037EA10
4K037EA12
4K037EA13
4K037EA14
4K037EA16
4K037EA17
4K037EA18
4K037EA19
4K037EA21
4K037EA23
4K037EA25
4K037EA27
4K037EA31
4K037EA32
4K037EA33
4K037EA35
4K037EA36
4K037EB02
4K037EB05
4K037EB07
4K037EB08
4K037EB09
4K037FA02
4K037FA03
4K037FB00
4K037FB01
4K037FF01
4K037GA08
4K037JA06
(57)【要約】
【課題】予ひずみ付与後の耐水素ガス脆化性に優れたオーステナイト系ステンレス鋼板を提供する。
【解決手段】母材と酸化皮膜とを有し、母材の化学組成が、質量%で、C:0.100%以下、Si:1.0%以下、Mn:8.00~10.00%、P:0.050%以下、S:0.0050%以下、Cr:14.0~18.0%、Mo:1.0%以下、Ni:6.0~9.0%、Cu:1.50%以下、Co:0.01~1.0%、N:0.250%以下、Al:0.10%以下、任意元素、残部:Feおよび不純物であり、M値[=551-462(C+N)-9.2Si-8.1Mn-13.7Cr-29(Ni+Cu)-18.2Mo]が-90~-20を満足し、GDSによって測定される、最表面から20nm深さ位置までのA値[=Cr+4Si+5Mo+10Al]の最大値が30以上であり、酸化皮膜の厚さが3nm以上であり、引張強さが550MPa以上であり、板厚が4.5mm以上である、オーステナイト系ステンレス鋼板。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
母材と、前記母材の表面上に形成された酸化皮膜とを有する鋼板であって、
前記母材の化学組成が、質量%で、
C:0.100%以下、
Si:1.0%以下、
Mn:8.00~10.00%、
P:0.050%以下、
S:0.0050%以下、
Cr:14.0~18.0%、
Mo:1.0%以下、
Ni:6.0~9.0%、
Cu:1.50%以下、
Co:0.01~1.0%、
N:0.250%以下、
Al:0.10%以下、
Nb:0~0.10%、
Ti:0~0.10%、
B:0~0.0050%、
V:0~0.50%、
W:0~0.50%、
Ca:0~0.0100%、
Mg:0~0.0100%、
Zr:0~0.50%、
Ga:0~0.050%、
Hf:0~0.10%、
REM:0~0.10%、
残部:Feおよび不純物であり、
下記(i)式で算出されるM値が-90以上-20以下を満足し、
グロー放電発光分光分析法を用いて、前記鋼板の最表面から深さ方向において、O、Fe、Cr、Mn、Ni、Mo、Si、AlおよびNの濃度変化を測定し、Oを除いたその他の元素の総量が、質量%で100%となるように換算した場合に、
前記酸化皮膜での測定結果において、下記(ii)式で算出されるA値の最大値が30以上であり、
前記酸化皮膜の厚さが3nm以上であり、
引張強さが550MPa以上であり、
前記鋼板の板厚が4.5mm以上である、
オーステナイト系ステンレス鋼板。
M値=551-462(C+N)-9.2Si-8.1Mn-13.7Cr-29(Ni+Cu)-18.2Mo ・・・(i)
但し、上記(i)式中の各元素記号は、前記母材中に含まれる各元素の含有量(質量%)を表し、含有されない場合はゼロとする。
A値=Cr+4Si+5Mo+10Al ・・・(ii)
但し、上記(ii)式中の各元素記号は、グロー放電発光分光分析法において、各深さ位置において測定される各元素の含有量(質量%)を表し、含有されない場合はゼロとする。
【請求項2】
前記化学組成が、質量%で、
Nb:0.01~0.10%、
Ti:0.01~0.10%、
B:0.0002~0.0050%、
V:0.05~0.50%、
W:0.05~0.50%、
Ca:0.0002~0.0100%、
Mg:0.0002~0.0100%、
Zr:0.01~0.50%、
Ga:0.001~0.050%、
Hf:0.01~0.10%、および
REM:0.01~0.10%、
から選択される1種以上を含有する、
請求項1に記載のオーステナイト系ステンレス鋼板。
【請求項3】
請求項1または請求項2に記載のオーステナイト系ステンレス鋼板を用いた、
水素ガス配管。
【請求項4】
請求項3に記載の水素ガス配管に接続され、
請求項1または請求項2に記載のオーステナイト系ステンレス鋼板を用いた、
バルブ、継手、または計器。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、オーステナイト系ステンレス鋼板、水素ガス配管、バルブ、継手、および計器に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、化石燃料に代わる新たなエネルギー源として、水素ガスが注目されている。水素ガスは、COを排出しないクリーンなエネルギー源である。その一方、水素ガスは、例えば、素材を脆化させる水素脆化を引き起こすことがある。そこで、特許文献1には、耐水素ガス脆化性を向上させたオーステナイト系ステンレス鋼が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2015-196842号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ところで、実際に水素ガスをエネルギー源として使用するためには、水素ガスを輸送するための配管が必要となる。そして、水素ガス配管の素材として、耐水素ガス脆化性に優れたオーステナイト系ステンレス鋼板の厚板が好適に用いられている。
【0005】
厚鋼板から配管を製造する際には、所定の形状への加工に伴い、一定量のひずみを鋼板に導入する必要がある。しかしながら、厚い素材に一定量のひずみを導入して、水素環境で使用すると、水素脆化が生じやすくなるという課題がある。
【0006】
特許文献1に開示されたオーステナイト系ステンレス鋼では、上述した予ひずみ付与後の耐水素ガス脆化性について十分な検討がなされておらず、さらに、改善の余地が残されている。
【0007】
本発明は、上記の課題を解決し、予ひずみ付与後の耐水素ガス脆化性に優れたオーステナイト系ステンレス鋼板、ならびにそれを用いた水素ガス配管、バルブ、継手、および計器を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明は、上記の課題を解決するためになされたものであり、下記のオーステナイト系ステンレス鋼板、水素ガス配管、バルブ、継手、および計器を要旨とする。
【0009】
(1)母材と、前記母材の表面上に形成された酸化皮膜とを有する鋼板であって、
前記母材の化学組成が、質量%で、
C:0.100%以下、
Si:1.0%以下、
Mn:8.00~10.00%、
P:0.050%以下、
S:0.0050%以下、
Cr:14.0~18.0%、
Mo:1.0%以下、
Ni:6.0~9.0%、
Cu:1.50%以下、
Co:0.01~1.0%、
N:0.250%以下、
Al:0.10%以下、
Nb:0~0.10%、
Ti:0~0.10%、
B:0~0.0050%、
V:0~0.50%、
W:0~0.50%、
Ca:0~0.0100%、
Mg:0~0.0100%、
Zr:0~0.50%、
Ga:0~0.050%、
Hf:0~0.10%、
REM:0~0.10%、
残部:Feおよび不純物であり、
下記(i)式で算出されるM値が-90以上-20以下を満足し、
グロー放電発光分光分析法を用いて、前記鋼板の最表面から深さ方向において、O、Fe、Cr、Mn、Ni、Mo、Si、AlおよびNの濃度変化を測定し、Oを除いたその他の元素の総量が、質量%で100%となるように換算した場合に、
前記酸化皮膜での測定結果において、下記(ii)式で算出されるA値の最大値が30以上であり、
前記酸化皮膜の厚さが3nm以上であり、
引張強さが550MPa以上であり、
前記鋼板の板厚が4.5mm以上である、
オーステナイト系ステンレス鋼板。
M値=551-462(C+N)-9.2Si-8.1Mn-13.7Cr-29(Ni+Cu)-18.2Mo ・・・(i)
但し、上記(i)式中の各元素記号は、前記母材中に含まれる各元素の含有量(質量%)を表し、含有されない場合はゼロとする。
A値=Cr+4Si+5Mo+10Al ・・・(ii)
但し、上記(ii)式中の各元素記号は、グロー放電発光分光分析法において、各深さ位置において測定される各元素の含有量(質量%)を表し、含有されない場合はゼロとする。
【0010】
(2)前記化学組成が、質量%で、
Nb:0.01~0.10%、
Ti:0.01~0.10%、
B:0.0002~0.0050%、
V:0.05~0.50%、
W:0.05~0.50%、
Ca:0.0002~0.0100%、
Mg:0.0002~0.0100%、
Zr:0.01~0.50%、
Ga:0.001~0.050%、
Hf:0.01~0.10%、および
REM:0.01~0.10%、
から選択される1種以上を含有する、
上記(1)に記載のオーステナイト系ステンレス鋼板。
【0011】
(3)上記(1)または(2)に記載のオーステナイト系ステンレス鋼板を用いた、
水素ガス配管。
【0012】
(4)上記(3)に記載の水素ガス配管に接続され、
上記(1)または(2)に記載のオーステナイト系ステンレス鋼板を用いた、
バルブ、継手、または計器。
【発明の効果】
【0013】
本発明によれば、予ひずみ付与後の耐水素ガス脆化性に優れたオーステナイト系ステンレス鋼板、ならびにそれを用いた水素ガス配管、バルブ、継手、および計器を得ることができる。
【発明を実施するための形態】
【0014】
本発明者らは、予ひずみ付与後の耐水素ガス脆化性を改善する方法について検討を行い、以下の知見を得た。
【0015】
(a)水素ガスを輸送する配管等に使用される鋼板は、常温から500℃未満程度の温度において、0.1~20MPa程度の圧力の水素ガスに晒されることになる。この際、環境中から鋼中への水素の侵入によって、いわゆる水素脆化が起き、破壊が生じやすくなる。
【0016】
(b)加えて、厚鋼板から配管を製造する際には、引張加工、曲げ加工といった塑性変形による加工が行われる。このような塑性変形が行われることで、厚鋼板に、予ひずみが付与され、水素脆化が生じやすくなる。
【0017】
(c)本発明者らが、鋼中への水素の侵入を抑制する方法について検討を行った結果、水素の侵入抑制には、鋼板表面にCrを主体とする酸化皮膜を形成することが有効であることが分かった。さらに、酸化皮膜中へのSi、MoおよびAlの固溶が有効である。これら元素は、酸化皮膜の緻密性を向上させ水素の侵入を抑制していると考えられる。
【0018】
(d)加えて、予備酸化処理を行い、酸化皮膜の厚さを十分に厚くすることによって、予ひずみが付与された状態においても、水素の侵入を抑制することが可能となる。
【0019】
本発明の一実施形態は上記の知見に基づいてなされたものである。以下、本実施形態の各要件について詳しく説明する。
【0020】
1.全体構成
本実施形態に係るオーステナイト系ステンレス鋼板は、母材と、母材の表面上に形成された酸化皮膜とを有する。
【0021】
2.母材の化学組成
各元素の限定理由は下記のとおりである。なお、以下の説明において含有量についての「%」は、「質量%」を意味する。
【0022】
C:0.100%以下
Cは、オーステナイト相の安定化に有効な元素であり、耐水素ガス脆化性の向上にも寄与する。しかしながら、過剰なCの含有は、Cr系炭化物が粒界析出するのを助長し、破壊の起点を形成しやすくなる。この結果、耐水素ガス脆化性が却って低下する。このため、C含有量は、0.100%以下とする。C含有量は、0.080%以下とするのが好ましく、0.060%以下とするのが好ましい。一方、上記効果を得るためには、C含有量は、0.010%以上とするのが好ましい。
【0023】
Si:1.0%以下
Siは、脱酸に有効な元素であり、耐水素ガス脆化性の向上にも寄与する。しかしながら、Siを過剰に含有させると、σ相などの金属間化合物の生成を助長し、熱間加工性および靭性を低下させる。このため、Si含有量は、1.0%以下とする。Si含有量は、0.70%以下とするのが好ましく、0.50%以下とするのがより好ましい。一方、上記効果を得るためには、Si含有量は、0.30%以上とするのが好ましい。
【0024】
Mn:8.00~10.00%
Mnは、オーステナイト相の安定化に有効な元素であり、耐水素ガス脆化性の向上に寄与する。また、強度を向上させる効果を有する。このため、Mn含有量は、8.00%以上とする。Mn含有量は、8.50%以上とするのが好ましい。しかしながら、Mnを過剰に含有させると、水素脆化感受性の高いε相の生成を助長し、却って耐水素ガス脆化性を低下させる。このため、Mn含有量は、10.00%以下とする。Mn含有量は、9.50%以下とするのが好ましく、9.00%以下とするのがより好ましい。
【0025】
P:0.050%以下
Pは、不純物として鋼に含有される元素であり、偏析を生じさせ、耐水素ガス脆化性を低下させる。このため、P含有量は、0.050%以下とする。P含有量は、0.040%以下とするのが好ましく、0.030%以下とするのがより好ましい。一方、Pを過剰に低減すると、製造コストの増加に繋がることから、P含有量は、0.010%以上とするのが好ましい。
【0026】
S:0.0050%以下
Sは、不純物として鋼に含有される元素であり、MnSを形成し、耐水素ガス脆化性を低下させる。このため、S含有量は、0.0050%以下とする。S含有量は、0.0040%以下とするのが好ましく、0.0030%以下とするのがより好ましい。しかしながら、S含有量を過剰に低減すると、製造コストが増加する。このため、S含有量は、0.0002%以上含有することが好ましい。
【0027】
Cr:14.0~18.0%
Crは、ステンレス鋼において一定量含有させる元素であり、耐食性を向上させる効果を有する。このため、Cr含有量は、14.0%以上とする。Cr含有量は、14.5%以上とするのが好ましく、15.0%以上とするのがより好ましい。しかしながら、Crはフェライト形成元素である。したがって、Crを過剰に含有させると、オーステナイト相を不安定化させ、耐水素ガス脆化性を低下させる。このため、Cr含有量は、18.0%以下とする。Cr含有量は、17.5%以下とするのが好ましく、16.5%以下とするのがより好ましい。
【0028】
Mo:1.0%以下
Moは、強度を向上させる効果を有する。しかしながら、過剰に含有させると、δフェライト相の生成を促進させ、耐水素ガス脆化性を低下させる。このため、Mo含有量は、1.0%以下とする。Mo含有量は、0.70%以下とするのが好ましく、0.50%以下とするのがより好ましい。一方、Mo含有量を過剰に低減すると、溶解原料の制約を招き、製造コストが増加する。このため、Mo含有量は、0.01%以上とするのが好ましく、0.05%以上とするのが好ましい。
【0029】
Ni:6.0~9.0%
Niは、Mnとともに、耐水素ガス脆化性を確保するために必要な元素である。このため、Ni含有量は、6.0%以上とする。Ni含有量は、6.5%以上とするのが好ましく、7.0%以上とするのがより好ましい。しかしながら、過剰にNiを含有させると、製造コストが増加する。また、偏析が生じやすくなる。このため、Ni含有量は、9.0%以下とする。Ni含有量は、8.5%以下とするのが好ましく、7.6%以下とするのがより好ましい。
【0030】
Cu:1.50%以下
Cuは、スクラップ等の原料から混入する元素であり、オーステナイト相の安定化に有効な元素である。その一方、Cuは、低融点元素であり、粒界に偏析し、破壊の起点を生じやすくする。このため、Cu含有量は、1.50%以下とする。Cu含有量は、1.00%以下とするのが好ましく、0.50%以下とするのが好ましい。しかしながら、Cu含有量を過剰に低減すると、溶解原料の制約を招き、製造コストが増加する。このため、Cu含有量は、0.01%以上とするのが好ましく、0.05%以上とするのが好ましい。
【0031】
Co:0.01~1.0%
Coは、耐食性を向上させ、オーステナイト相を安定化させる効果を有する。特に、板厚が厚い場合、耐水素ガス脆化性を向上させる効果を有する。このため、Co含有量は、0.01%以上とする。Co含有量は、0.05%以上であるのが好ましく、0.10%以上であるのがより好ましい。しかしながら、Coを過剰に含有させると、靭性および加工性が低下する。このため、Co含有量は、1.0%以下とする。Co含有量は、0.70%以下とするのが好ましい。
【0032】
N:0.250%以下
Nは、MnおよびNiと同様に、耐水素ガス脆化性の向上に有効な元素である。しかしながら、Nが過剰に含有されると、溶製時のブローホール等、内部欠陥が発生する場合があり、却って、耐水素ガス脆化性が低下しやすくなる。このため、N含有量は、0.250%以下とする。N含有量は、0.200%以下とするのが好ましく、0.100%以下とするのがより好ましい。一方、上記効果を得るためには、N含有量は、0.010%以上とするのが好ましい。
【0033】
Al:0.10%以下
Alは、有効な脱酸元素であることに加え、低融点元素の粒界偏析を抑制して、粒界を強化する効果を有する。しかしながら、Alは、フェライト形成元素である。このため、Alが過剰に含有されると、オーステナイト相が不安定化する。このため、Al含有量は、0.10%以下とする。Al含有量は、0.05%以下であるのが好ましい。一方、上記効果を得るためには、Al含有量は、0.01%以上であるのが好ましい。
【0034】
上記の元素に加えて、さらに、Nb、Ti、B、V、W、Ca、Mg、Zr、Ga、Hf、およびREMから選択される1種以上を、以下に示す範囲において含有させてもよい。各元素の限定理由について説明する。
【0035】
Nb:0~0.10%
Nbは、炭窒化物を形成し、結晶粒を微細化し、粒界を強化する効果を有する。このため、必要に応じて含有させてもよい。しかしながら、Nbを過剰に含有させると、熱間圧延時の製造性および加工性が低下する。このため、Nb含有量は、0.10%以下とする。Nb含有量は、0.07%以下とするのが好ましい。一方、上記効果を得るためには、Nb含有量は、0.01%以上とするのが好ましい。
【0036】
Ti:0~0.10%
Tiは、炭窒化物を形成し、結晶粒を微細化し、粒界を強化する効果を有する。このため、必要に応じて含有させてもよい。しかしながら、Tiを過剰に含有させると、熱間圧延時の製造性が低下する。このため、Ti含有量は、0.10%以下とする。Ti含有量は、0.070%以下とするのが好ましく、0.050%以下とするのがより好ましく、0.020%以下とするのがさらに好ましい。一方、上記効果を得るためには、Ti含有量は、0.001%以上とするのが好ましい。
【0037】
B:0~0.0050%
Bは、粒界を強化し、強度を向上させる効果を有する。このため、必要に応じて含有させてもよい。しかしながら、Bを過剰に含有させてもその効果が飽和する。このため、B含有量は、0.0050%以下とする。B含有量は、0.0030%以下とするのが好ましい。一方、上記効果を得るためには、B含有量は、0.0002%以上とするのが好ましい。
【0038】
V:0~0.50%
Vは、鋼中に固溶または炭窒化物として析出し、強度を向上させる効果を有する。このため、必要に応じて含有させてもよい。しかしながら、Vを過剰に含有させると、炭窒化物が過剰に形成し、熱間圧延時の製造性を低下させる。このため、V含有量は、0.50%以下とするのが好ましい。V含有量は、0.30%以下とするのが好ましい。一方、上記効果を得るためには、V含有量は、0.05%以上とするのが好ましい。
【0039】
W:0~0.50%
Wは、強度および耐食性を向上させる効果を有する。このため、必要に応じて含有させてもよい。しかしながら、Wを過剰に含有させると、製造コストが増加する。このため、W含有量は、0.50%以下とする。W含有量は、0.30%以下とするのが好ましい。一方、上記効果を得るためには、W含有量は、0.05%以上とするのが好ましい。
【0040】
Ca:0~0.0100%
Caは、低融点元素の粒界偏析を抑制して、粒界を強化する効果を有する。このため、必要に応じて含有させてもよい。しかしながら、Caを過剰に含有させると、偏析が生じやすくなり、破壊の起点になりやすくなる。このため、Ca含有量は、0.0100%以下とする。Ca含有量は、0.0050%以下とするのが好ましい。一方、上記効果を得るためには、Ca含有量は、0.0002%以上とするのが好ましい。
【0041】
Mg:0~0.0100%
Mgは、低融点元素の粒界偏析を抑制して、粒界を強化する効果を有する。このため、必要に応じて含有させてもよい。しかしながら、Mgを過剰に含有させると、介在物が多量に形成し、破壊の起点になりやすくなる。このため、Mg含有量は、0.0100%以下とする。Mg含有量は、0.0050%以下とするのが好ましい。一方、上記効果を得るためには、Mg含有量は、0.0002%以上とするのが好ましい。
【0042】
Zr:0~0.50%
Zrは、脱酸効果を有する。また、耐食性を向上させる効果を有する。このため、必要に応じて含有させてもよい。しかしながら、Zrを過剰に含有させると、靭性および加工性が低下する。また、介在物が多量に形成し、破壊の起点になりやすくなる。このため、Zr含有量は、0.50%以下とする。Zr含有量は、0.30%以下とするのが好ましい。一方、上記効果を得るためには、Zr含有量は、0.01%以上とするのが好ましい。
【0043】
Ga:0~0.050%
Gaは、熱間加工性を向上させる効果を有する。このため、必要に応じて、含有させてもよい。しかしながら、Gaを過剰に含有させると、製造性を低下させる。このため、Ga含有量は、0.050%以下とする。Ga含有量は、0.030%以下とするのが好ましい。一方、上記効果を得るためには、Ga含有量は、0.001%以上とするのが好ましい。
【0044】
Hf:0~0.10%
Hfは、強度を向上させ、耐水素ガス脆化性を向上させる効果を有する。このため、必要に応じて、含有させてもよい。しかしながら、Hfを過剰に含有させると、加工性が低下する。このため、Hf含有量は、0.10%以下とする。Hf含有量は、0.07%以下とするのが好ましい。一方、上記効果を得るためには、Hf含有量は、0.01%以上とするのが好ましい。
【0045】
REM:0~0.10%
REMは、熱間加工性を向上させる効果を有する。また、耐食性を向上させる効果も有する。このため、必要に応じて含有させてもよい。しかしながら、REMを過剰に含有させると、その効果が飽和するばかりか熱間加工性が低下する。このため、REM含有量は、0.10%以下とする。REM含有量は、0.07%以下とするのが好ましい。一方、上記効果を得るためには、REM含有量は、0.01%以上とするのが好ましい。
【0046】
REMは、Sc、Yおよびランタノイドの合計17元素を指し、上記REM含有量はこれらの元素の合計含有量を意味する。REMは、工業的には、ミッシュメタルの形で添加されることが多い。
【0047】
本実施形態の化学組成において、残部はFeおよび不純物である。ここで「不純物」とは、オーステナイト系ステンレス鋼板を工業的に製造する際に、鉱石、スクラップ等の原料、製造工程の種々の要因によって混入する成分であって、本実施形態に悪影響を与えない範囲で許容されるものを意味する。
【0048】
M値
下記(i)式で算出されるM値は、オーステナイト系ステンレス鋼板において、γ相の安定性を示す指標である。本実施形態のオーステナイト系ステンレス鋼板では、耐水素ガス脆化性を向上させるため、M値を-90以上-20以下とする。
M値=551-462(C+N)-9.2Si-8.1Mn-13.7Cr-29(Ni+Cu)-18.2Mo ・・・(i)
但し、上記(i)式中の各元素記号は、母材中に含まれる各元素の含有量(質量%)を表し、含有されない場合はゼロとする。
【0049】
M値を-20以下とすることで、γ相の安定性を確保し、α′相への変態が生じるのを抑制し、耐水素ガス脆化性を向上させることが可能となる。M値は-30以下とするのがより好ましく、-40以下とするのがさらに好ましい。
【0050】
一方、M値を-90未満とするためには多量の添加元素が必要になり、合金コストが増加する。このため、M値は-90以上とする。M値は-80以上とするのがより好ましく、-70以上とするのがさらに好ましい。
【0051】
2.酸化皮膜
上述のように、鋼中への水素の侵入を抑制するためには、Crを主体とし、かつSi、MoおよびAlが固溶した酸化皮膜を所定以上の厚さで形成することが重要である。すなわち、予ひずみ付与後の耐水素ガス脆化性を向上させるためには、酸化皮膜の化学組成および厚さの制御が重要となる。
【0052】
本発明において、酸化皮膜の化学組成および厚さは、グロー放電発光分光分析法(GDS)により測定する。具体的には、GDSを用いて鋼板の最表面から深さ方向において、O、Fe、Cr、Mn、Ni、Mo、Si、AlおよびNの濃度変化を測定し、Oを除いたその他の元素の総量が、質量%で100%となるように換算する。
【0053】
上記の観点から、本実施形態においては、酸化皮膜での測定結果において、(i)式で算出されるA値の最大値を30以上とするとともに、酸化皮膜の厚さを3nm以上とする。
【0054】
A値
A値は、酸化皮膜の水素侵入を抑制する能力の指標となる値である。本実施形態のオーステナイト系ステンレス鋼板では、耐水素ガス脆化性を向上させるため、鋼板の最表面から20nmの深さ位置までの領域の各深さ位置において算出されるA値の最大値を30以上とする。
A値=Cr+4Si+5Mo+10Al ・・・(ii)
但し、上記(ii)式中の各元素記号は、グロー放電発光分光分析法において、各深さ位置において測定される各元素の含有量(質量%)を表し、含有されない場合はゼロとする。
【0055】
酸化皮膜は、通常、母材の化学組成に応じて、FeおよびCrの酸化物で主に構成される。本発明者らの検討の結果、製造条件の適正化により、Cr酸化物の比率を向上させ、かつSi、MoおよびAlを酸化皮膜中に固溶させることが可能であることを見出した。
【0056】
A値の最大値が30未満では、Fe酸化物の比率が過剰であり、鋼中への水素侵入を抑制する効果が十分には得られない。A値の最大値は、35以上とするのが好ましく、40以上とするのがより好ましく、45以上とするのがさらに好ましい。A値の最大値は高いほど好ましいため、上限を設ける必要はないが、80が実質的に製造可能な上限となる。
【0057】
酸化皮膜の厚さ
上述のように、予ひずみが付与された状態においても、水素の侵入を抑制するためには、酸化皮膜の厚さを十分に厚くする必要がある。そのような観点から、本実施形態においては、酸化皮膜の厚さが3nm以上とする。酸化皮膜の厚さは5nm以上であるのが好ましく、10nm以上であるのがより好ましく、20nm以上であるのがさらに好ましい。
【0058】
GDSによる分析は、表面疵が少ない領域から選んだ任意の1点において行う。測定点において、鋼板の最表面から50nm深さ位置までスパッタリングしながら、0.8~1.2nmのピッチで、O、Fe、Cr、Mn、Ni、Mo、Si、AlおよびNの各元素濃度を測定する。これにより、各深さ位置における上記元素の含有量(質量%)をそれぞれ求める。この際、Oを除いたその他の元素の総量が、質量%で100%となるように換算する。また、GDSによる分析を鋼板の最表面から1000nm深さ位置においても行い、同様に各元素の含有量を求める。
【0059】
次に、得られたCrの濃度プロファイルを参照し、Cr含有量が最大となる深さ位置を特定する。そして、最大となるCr含有量と最表面から1000nm深さ位置におけるCr含有量との平均値を算出する。続いて、Cr含有量が最大となる深さ位置から深さ方向(母材側)にCr含有量を確認し、Cr含有量が初めて上記平均値を下回った深さ位置を母材と酸化皮膜との境界と定義する。当該結果に基づき、酸化皮膜の厚さを求める。加えて、酸化皮膜と特定された領域の各深さ位置において、上記のA値を算出し、算出された全ての測定値から、A値の最大値を求める。
【0060】
GDSの測定装置としては、例えば、堀場製作所製のGD-Profiler2の装置を用い、測定条件は35W、アルゴン圧600Pa、周波数100Hz、測定径4mmφとすることができる。
【0061】
3.機械的特性
本実施形態のオーステナイト系ステンレス鋼板は、550MPa以上の引張強さを有する。それによって、水素ガス配管等として用いた場合に十分な強度を確保することが可能となる。引張強さは570MPa以上であるのが好ましい。なお、引張強さの測定は、JIS Z 2241:2022に準拠して行う。測定に際しては、板厚中心位置から長手方向が鋼板の圧延方向と直交するように採取された、JIS Z 2241:2022に規定されるJIS14B号試験片または14A号試験片を用いる。より具体的には、板厚が5mm以下の場合には、試験片の厚さは元厚とし、板厚が5mm超12mm未満の場合には、5mmまで減厚して、14B号試験片とする。一方、板厚が12mm以上の場合には、丸棒の14A号試験片とする。
【0062】
4.板厚
本実施形態のオーステナイト系ステンレス鋼板の板厚は、4.5mm以上とする。板厚を上記範囲とすることで、液化水素貯槽に要求される強度を担保することができるからである。板厚は、10mm以上とするのが好ましく、20mm以上とするのがより好ましい。より大型の液化水素貯槽に使用する場合には、板厚が30mm以上とするのが好ましい。なお、板厚の上限は、特に、限定されないが、通常、100mmとなる。
【0063】
5.用途
本実施形態のオーステナイト系ステンレス鋼板は、予ひずみ付与後の耐水素ガス脆化性に優れているため、水素ガス配管の素材として用いることが好ましい。また、本実施形態のオーステナイト系ステンレス鋼板は、水素ガス配管に接続されるバルブ、継手、または計器の素材としても好適に用いることができる。なお、水素ガスは、圧縮ガスまたは液化水素が気化したガスのいずれであってもよく、水素ガスの圧力は、例えば、0.1~20MPaの範囲内であり、温度は、例えば、常温から500℃未満である。
【0064】
6.製造方法
本実施形態のオーステナイト系ステンレス鋼板の好ましい製造方法について説明する。本実施形態のオーステナイト系ステンレス鋼板は、例えば、以下のような製造方法により、安定して製造することができる。
【0065】
上記化学組成を有するステンレス鋼を溶製し、スラブなどの鋼片を製造する。次に、鋼片を所定の温度に加熱して熱間圧延を行う(熱間圧延工程)。熱間圧延における加熱温度は、1050~1250℃の範囲とし、圧下率を40%以上とするのが好ましい。熱間圧延の際の加熱温度と圧下率を上記範囲とすることで、所望する板厚に制御しやすくなるからである。
【0066】
熱間圧延工程に続いて、デスケーリング工程および予備酸化工程を行う。デスケーリング工程では、熱間圧延の際に生成したスケールを酸洗または研磨によって除去する。酸洗を行う場合は、例えば、40~80℃の硝フッ酸水溶液中に1~30分浸漬すればよい。また、研磨を行う場合には、金属面が確認できるまで研磨を行えばよい。
【0067】
デスケーリング工程に続く予備酸化工程では、大気もしくはLNGの雰囲気中、または、大気、LNGおよび水素から選択される2種以上の混合雰囲気中において、100℃以上500℃以下の温度範囲で1~24h加熱を行う。デスケーリング工程に続いて予備酸化工程を行うことによって、A値の最大値を30以上とするとともに、酸化皮膜の厚さを3nm以上とすることができる。
【0068】
以下、実施例によって本発明に係るオーステナイト系ステンレス鋼板をより具体的に説明するが、本実施形態はこれらの実施例に限定されるものではない。
【実施例0069】
表1に示す化学組成のステンレス鋼を溶製し、スラブを製造した。その後、スラブを1050~1250℃の範囲で加熱し、熱間圧延を行った。熱間圧延後に、表2に示す条件でデスケーリング工程および予備酸化工程を行い、オーステナイト系ステンレス鋼板を得た。なお、表中における「LNG」とは、LNG燃焼模擬雰囲気を意味し、1%O-72%N-10%CO-17%HOの雰囲気とした。
【0070】
【表1】
【0071】
【表2】
【0072】
酸化皮膜の化学組成および厚さの測定
得られた各オーステナイト系ステンレス鋼板について、GDSによる分析を表面疵が少ない範囲から選んだ任意の1点において行った。測定点において、鋼板の最表面から50nm深さ位置までスパッタリングしながら、1nm程度のピッチで、O、Fe、Cr、Mn、Ni、Mo、Si、AlおよびNの各元素濃度を測定し、各深さ位置における上記元素の含有量(質量%)をそれぞれ求めた。この際、Oを除いたその他の元素の総量が、質量%で100%となるように換算した。また、GDSによる分析を鋼板の最表面から1000nm深さ位置においても行い、同様に各元素の含有量を求めた。
【0073】
次に、得られたCrの濃度プロファイルを参照し、Cr含有量が最大となる深さ位置を特定し、最大となるCr含有量と最表面から1000nm深さ位置におけるCr含有量との平均値を算出した。続いて、Cr含有量が最大となる深さ位置から深さ方向(母材側)にCr含有量を確認し、Cr含有量が初めて上記平均値を下回った深さ位置を母材と酸化皮膜との境界とした。当該結果に基づき、酸化皮膜の厚さを求めた。加えて、酸化皮膜と特定された領域の各深さ位置において、上記のA値を算出し、算出された全ての測定値から、A値の最大値を求めた。
【0074】
GDSの測定装置として、堀場製作所製のGD-Profiler2の装置を用い、測定条件は35W、アルゴン圧600Pa、周波数100Hz、測定径4mmφとした。
【0075】
強度評価試験
強度を評価するため、引張試験を行った。引張強さ(TS)の測定は、JIS Z 2241:2022に準拠して行った。測定に際しては、板厚中心位置から長手方向が鋼板の圧延方向と直交するように採取された、JIS Z 2241:2022に規定される丸棒の14A号試験片を用いた。
【0076】
耐水素ガス脆化性評価試験
耐水素ガス脆化性を評価するため、引張試験を行った。鋼板の板厚1/2位置から、長手方向が圧延方向と直交するように、平行部の断面の厚さが15mm、幅が20mmであり、長さが80mmの引張試験片を採取した。板厚が15mm未満の場合は、平行部の断面の厚さが元の板厚、幅が20mmであり、長さが80mmの引張試験片を採取した。この試験片の平行部の変位が16mmになるまで引張速度を1.2mm/minとして大気中で引っ張り、20%の予ひずみを加えた。
【0077】
予ひずみを加えた試験片の平行部から、平行部の直径が6mm、原評点距離が30mmの丸棒引張試験片を作製した。この引張試験片に対して、表2に示した予備酸化条件において、再度加熱を行った。その後、加熱した引張試験片を圧力容器内に配置し、圧力容器内を水素ガスで置換し、その後、加熱および昇圧をすることで、10MPa、300℃の環境下で100時間保持した。
【0078】
続いて圧力容器から取り出した試験片に対して、直ちに常温・大気環境において、破断まで、引張応力を加えて、試験を行った。なお、引張速度は0.2%耐力まで0.09mm/min、以降1.2mm/minとした。なお、各試験片について、後述するRTS(相対引張強さ)とREL(相対破断伸び)を算出するため、加熱したままの引張試験片についても引張強さおよび破断伸びを、別途、測定した。
【0079】
得られた試験結果に対し、RTS(相対引張強さ)とREL(相対破断伸び)とで評価した。なお、RTSおよびRELは、以下の式から算出される。
RTS=大気中予ひずみ+加熱処理+水素チャージ後の常温・大気中の引張強さ÷大気中予ひずみ+加熱処理後の常温・大気中の引張強さ
REL=大気中予ひずみ+加熱処理+水素チャージ後の常温・大気中の引張強さ÷大気中予ひずみ+加熱処理後の常温・大気中の破断伸び
【0080】
上記RTSが0.95以上の場合、耐水素ガス脆化性が良好であると判断し、〇と記載した。また、上記RTSが0.95以上でかつ、RELが0.95以上である場合、耐水素ガス脆化性がさらに良好であると判断し、◎と記載した。結果を表2に併せて記載する。
【産業上の利用可能性】
【0081】
本実施形態のオーステナイト系ステンレス鋼板は、予ひずみ付与後の耐水素ガス脆化性に優れることから、水素ガス配管、ならびにそれに接続して用いられるバルブ、継手、および計器の素材として好適である。