IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ 株式会社フラスクの特許一覧

<図1>
  • 特開-含ホウ素化合物および有機EL素子 図1
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2025012093
(43)【公開日】2025-01-24
(54)【発明の名称】含ホウ素化合物および有機EL素子
(51)【国際特許分類】
   C07F 5/02 20060101AFI20250117BHJP
   C09K 11/06 20060101ALI20250117BHJP
   H10K 50/12 20230101ALI20250117BHJP
   H10K 85/60 20230101ALI20250117BHJP
【FI】
C07F5/02 F CSP
C09K11/06 660
H10K50/12
H10K85/60
【審査請求】未請求
【請求項の数】7
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023114662
(22)【出願日】2023-07-12
(71)【出願人】
【識別番号】518053747
【氏名又は名称】株式会社フラスク
(74)【代理人】
【識別番号】100101878
【弁理士】
【氏名又は名称】木下 茂
(74)【代理人】
【識別番号】100187506
【弁理士】
【氏名又は名称】澤田 優子
(72)【発明者】
【氏名】五十嵐 正拓
【テーマコード(参考)】
3K107
4H048
【Fターム(参考)】
3K107AA01
3K107CC04
3K107CC07
3K107CC21
3K107DD53
3K107DD59
3K107DD66
3K107DD69
3K107FF14
4H048AA01
4H048AB92
4H048BB12
4H048BE56
4H048VA32
4H048VA77
4H048VB10
(57)【要約】      (修正有)
【課題】青色素子の発光材料となる含ホウ素化合物及び有機EL素子を提供する。
【解決手段】式(1)で表される骨格を有する含ホウ素化合物

(Xは-BAr-、-CR1R2-(R1とR2は互いに連結して環を形成、又は各々独立にH、C1~6のアルキルかアルコキシ、アミノ又は原子数5~30のアリール)、-NAr-、-O-、-SiR3R4-(R3とR4は互いに連結して環を形成、又は各々独立にH、C1~6のアルキルかアルコキシ、アミノ又は原子数5~30のアリール)又は-S-。oは1又は2。C1とC2はC、各々Xと隣接するCと共に環を形成してもよい。YはF。0≦m+n≦10(m及びnは0~5の整数)。D1とD2は各々独立にC又はN。ZはH、C1~6のアルキルもしくはアルコキシ、F、又はアミノ)。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記一般式(1)で表される骨格を有する含ホウ素化合物
【化1】
(一般式(1)中、
Xは-BAr-(Arはアリール基である。)、-CR12-(R1およびR2は、それぞれ独立に、水素原子、炭素数1~6のアルキル基、炭素数1~6のアルコキシ基、アミノ基、または核原子数5~30のアリール基である。R1およびR2は、互いに連結して環を形成してもよい。)、-NAr-(Arはアリール基である。)、-O-、-SiR34-(R3およびR4は、それぞれ独立に、水素原子、炭素数1~6のアルキル基、炭素数1~6のアルコキシ基、アミノ基、または核原子数5~30のアリール基である。R3およびR4は互いに連結して環を形成してもよい。)または-S-であり、oは1または2であり、
1およびC2は、炭素原子またはアリール炭素原子であり、C1およびC2はそれぞれXと隣接する炭素原子とともに環を形成してもよく、
Yはフルオロ基であり、0≦m+n≦10(mおよびnは0~5の整数である)であり、
1およびD2は、それぞれ独立に、炭素原子または窒素原子であり、
Zは、水素原子、炭素数1~6のアルキル基、炭素数1~6のアルコキシ基、フルオロ基、またはアミノ基である。)。
【請求項2】
前記一般式(1)中、D1およびD2がいずれも炭素原子であり、Yはフルオロ基であり、1≦m+n≦10(mおよびnは0~5の整数である)であり、Zが炭素数1~6のアルキル基、炭素数1~6のアルコキシ基、フルオロ基、またはアミノ基である請求項1に記載の含ホウ素化合物。
【請求項3】
前記一般式(1)中、D1およびD2のうち少なくとも1つが窒素原子であり、Yはフルオロ基であり、0≦m+n≦10(mおよびnは0~5の整数である)であり、Zが水素原子である請求項1に記載の含ホウ素化合物。
【請求項4】
請求項1~3のいずれか一項に記載の含ホウ素化合物を含有する有機EL素子。
【請求項5】
請求項1~3のいずれか一項に記載の含ホウ素化合物を発光帯域に含有する有機EL素子。
【請求項6】
請求項1~3のいずれか一項に記載の含ホウ素化合物を発光層に含有する有機EL素子。
【請求項7】
請求項1~3のいずれか一項に記載の含ホウ素化合物を発光層に0.1~20wt%含有する有機EL素子。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ドーパント材料として含ホウ素化合物を含む発光層を有する有機EL素子に関する。
【背景技術】
【0002】
有機エレクトロルミネッセンス(EL)素子の実用性を向上させるには、発光効率を上げる必要がある。有機化合物が形成する励起子には、一重項励起子(S1)からの蛍光発光と、三重項励起子(T1)からの燐光発光とがあるが、素子におけるこれらの統計的な生成比率は、ES1:ET1=1:3であるため、蛍光発光を用いる有機EL素子では内部量子効率25%が限界である。
【0003】
そこで、最近では、三重項励起状態の一部を発光に変換可能な材料として、最低三重項励起状態(T1)を最低一重項励起状態(S1)へアップコンバージョンさせる、熱活性化遅延蛍光(TADF)材料を利用した有機EL素子が開発されている。TADF材料は、最低一重項励起状態(S1)と最低三重項励起状態(T1)とのエネルギー差ΔESTが小さくなるように設計して、S1-T1間の遷移(逆項間交差)を容易にし、その最低励起一重項状態からの輻射失活により蛍光を放射する。TADF材料では、この逆項間交差により一重項励起子(S1)に変換することで、生成比率の高い三重項励起子のエネルギー(ET1)も蛍光発光に寄与できるため、通常の蛍光発光材料に比べて高い発光効率を発揮する。
【0004】
このように高い発光効率が期待できるTADF材料については、盛んに研究開発が進められている。しかし、これまでに開発されたTADF材料の中で、良好な青色発光を示すものはごく一部のものに限られている。
【0005】
発光層の発光効率は、発光材料の改良のほかに、発光材料の分子内にエネルギーを閉じ込めるホスト材料の併用によっても改善することができる。例えば、発光材料が青色発光ドーパントである場合、そのドーパント自体の励起エネルギー準位が高いため、それと組み合わせるホスト材料には、より一層高い励起エネルギー準位を有することが求められる。このようなドーパントとホスト材料とを組み合わせて形成される発光層では、ホストに注入された電荷から効率よく励起子を生成することができ、高効率の発光を得ることができる。
【0006】
発光層にドーパントおよびホスト材料としては、例えば、特許文献1に青色発光素子の発光層のドーパントや正孔輸送層の正孔輸送材料となるベンゾキノリジノアクリジン誘導体が報告されている。含窒素複素環化合物が発光層のホストや、正孔輸送層または正孔注入層に使用される報告例もある(特許文献2)。
【0007】
燐光OLEDのホストとして、窒素原子およびホウ素原子を1,4-位に有するアザボリン誘導体を使用した例が報告されている(特許文献3)。ホウ素に由来する電荷輸送性および高い発光性と、酸素原子、窒素原子または硫黄原子の非共有電子対とに着目して、これらの原子を両方とも有する共役系ホウ素化合物が、電荷輸送性および高発光率に寄与し、発光効率や高温下での安定性に優れた有機EL素子を提供できることが報告されている(特許文献4、5、6)。
【0008】
アザボリン誘導体である、酸素原子、窒素原子または硫黄原子を有する共役系ホウ素化合物の他に、共役系ホウ素化合物のホウ素原子をリン原子、ホスホリル基、チオホスホリル基、ケイ素原子、ビスマス原子またはゲルマニウム原子などで置き換えた多環複素環芳香族化合物も報告されている(特許文献7)。
【0009】
特許文献8では、分子内にドナー部位とアクセプター部位とを有し、TADFを放射し、分子内のプロトン移動を可能にする発光材料が、実用上充分な高い量子効率を有し、有機EL素子の発光材料に好適であることが報告されている。
【0010】
その他、有機EL素子に用いる発光材料として、ホウ素原子と、窒素原子および/または酸素原子とを有する青色発光多環芳香族化合物(特許文献9)、コロネン骨格の一部がホウ素原子および硫黄原子で置換された化合物(特許文献10)、1個のホウ素原子とこれに向かい合うように酸素原子または窒素原子を2個有する複素環化合物(特許文献11)、および1個の窒素原子とこれに向かい合うようにホウ素原子を2個有する複素環化合物(特許文献12)などが報告されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0011】
【特許文献1】特表2009-512628号公報
【特許文献2】特表2012-507507号公報
【特許文献3】国際公開第2011/143563号
【特許文献4】国際公開第2017/18326号
【特許文献5】特開2017-126606号公報
【特許文献6】国際公開第2017/195669号
【特許文献7】特開2018-43984号公報
【特許文献8】国際公開第2018/159662号
【特許文献9】特開2020-123721号公報
【特許文献10】中国特許出願公開第113801151号明細書
【特許文献11】国際公開第2020/108899号
【特許文献12】特表2022-527591号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0012】
本発明は、青色発光する新規な含ホウ素化合物と、該含ホウ素化合物を含有する、高い発光効率および寿命耐久性を併せ持つ有機EL素子とを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0013】
本発明の含ホウ素化合物は、下記一般式(1)で表される骨格を有する。
【化1】
【0014】
一般式(1)中、Xは-BAr-(Arはアリール基である。)、-CR12-(R1およびR2は、それぞれ独立に、水素原子、炭素数1~6のアルキル基、炭素数1~6のアルコキシ基、アミノ基、または核原子数5~30のアリール基である。R1およびR2は、互いに連結して環を形成してもよい。)、-NAr-(Arはアリール基である。)、-O-、-SiR34-(R3およびR4は、それぞれ独立に、水素原子、炭素数1~6のアルキル基、炭素数1~6のアルコキシ基、アミノ基、または核原子数5~30のアリール基である。R3およびR4は互いに連結して環を形成してもよい。)または-S-であり、oは1または2であり、C1およびC2は、炭素原子またはアリール炭素原子であり、C1およびC2はそれぞれXと隣接する炭素原子とともに環を形成してもよく、Yはフルオロ基であり、0≦m+n≦10(mおよびnは0~5の整数である)であり、D1およびD2は、それぞれ独立に、炭素原子または窒素原子であり、Zは、水素原子、炭素数1~6のアルキル基、炭素数1~6のアルコキシ基、フルオロ基、またはアミノ基である。
【0015】
前記一般式(1)中、D1およびD2がいずれも炭素原子であり、Yはフルオロ基であり、1≦m+n≦10(mおよびnは0~5の整数である)であり、Zが炭素数1~6のアルキル基、炭素数1~6のアルコキシ基、フルオロ基、またはアミノ基であることが好ましい。
【0016】
前記一般式(1)中、D1およびD2のうち少なくとも1つが窒素原子であり、Yはフルオロ基であり、0≦m+n≦10(mおよびnは0~5の整数である)であり、Zが水素原子であることが好ましい。
【0017】
本発明の有機EL素子は、前記含ホウ素化合物を含有する。
本発明の有機EL素子は、前記含ホウ素化合物を発光帯域に含有する。
本発明の有機EL素子は、前記含ホウ素化合物を発光層に含有する。
本発明の有機EL素子は、前記含ホウ素化合物を発光層に0.1~20wt%含有する。
【発明の効果】
【0018】
本発明の含ホウ素化合物は、分子内にホウ素原子と窒素原子とを含む縮合複素環構造を持つ新規化合物である。前記新規化合物は、大きなHOMO-LUMO間のギャップと、高い三重項エネルギー(ET1)とを有する。また、三重項励起状態(T1)と一重項励起状態(S1)とのエネルギー差が小さく、熱活性化遅延蛍光(TADF)を示すため、有機EL素子の発光材料として有用である。
【0019】
前記含ホウ素化合物を青色ドーパントとして発光層に用いた有機EL素子は、従来の青色素子に比べて、発光効率と寿命が大きく向上する。
【図面の簡単な説明】
【0020】
図1】本発明の一実施形態に係る有機EL素子を示す概略断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0021】
以下、本発明について、詳細に説明する。
本発明の含ホウ素化合物は下記一般式(1)で表される骨格を有する。
【化2】
【0022】
一般式(1)中、Xは-BAr-(Arはアリール基である。)、-CR12-(R1およびR2は、それぞれ独立に、水素原子、炭素数1~6のアルキル基、炭素数1~6のアルコキシ基、アミノ基、または核原子数5~30のアリール基である。R1およびR2は、互いに連結して環を形成してもよい。)、-NAr-(Arはアリール基である。)、-O-、-SiR34-(R3およびR4は、それぞれ独立に、水素原子、炭素数1~6のアルキル基、炭素数1~6のアルコキシ基、アミノ基、または核原子数5~30のアリール基である。R3およびR4は互いに連結して環を形成してもよい。)または-S-である。oは1または2である。
【0023】
Xは-BAr-、-NAr-、-CR12-、-SiR34-、エーテル結合(-O-)、またはスルフィド結合(-S-)である。
前記-NAr-および-BAr-において、Arは核原子数5~30のアリール基である。核原子数5~30のアリール基は、R1~R4が核原子数5~30のアリール基である場合の具体例と同じである。
前記-NAr-の具体例は、フェニルアミノ基、ナフチルアミノ基およびピリジニルアミノ基などである。
前記-BAr-の具体例は、フェニルボラニル基、ナフチルボラニル基およびピリジニルボラニル基などである。
【0024】
-CR12-中、R1およびR2は、それぞれ独立に、水素原子、炭素原子数1~6のアルキル基、炭素原子数1~6のアルコキシ基、アミノ基、または核原子数5~30のアリール基である。
-SiR34-中、R3およびR4は、それぞれ独立に、水素原子、炭素原子数1~6のアルキル基、炭素原子数1~6のアルコキシ基、アミノ基、または核原子数5~30のアリール基である。
【0025】
炭素数1~6のアルキル基には、直鎖または分岐を含むアルキル基が挙げられる。具体的には、メチル基、エチル基、プロピル基、イソプロピル基、n-ブチル基、イソブチル基、s-ブチル基、t-ブチル基、n-ペンチル基、ネオペンチル基、イソペンチル基、s-ペンチル基、3-ペンチル基、t-ペンチル基、n-ヘキシル基、2-メチルペンチル基、3-メチルペンチル基、2,2-ジメチルブチル基、および2,3-ジメチルブチル基等がある。
【0026】
炭素数1~6のアルコキシ基には、直鎖または分岐を含むアルキル基が挙げられる。具体的には、メトキシ基、エトキシ基、プロピロキシ基、イソプロピロキシ基、n-ブトキシ基、イソブトキシ基、s-ブトキシ基、t-ブトキシ基、n-ペントキシ基、ネオペントキシ基、イソペントキシ基、s-ペントキシ基、3-ペントキシ基、t-ペントキシ基、n-ヘキソキシ基、2-メチルペントキシ基、3-メチルペントキシ基、2,2-ジメチルブトキシ基、および2,3-ジメチルブトキシ基等がある。
【0027】
核原子数5~30のアリール基には、単環式または縮合多環式でかつ置換基を有していてもよい芳香族炭化水素基または複素芳香族化合物基が挙げられる。具体的には、フェニル基、1-ナフチル基、2-ナフチル基、p-メトキシフェニル基、p-t-ブチルフェニル基、p-トリル基、m-トリル基、o-トリル基、ペンタフルオロフェニル基、フェナンスリル基、ピレニル基、フルオレニル基、フルオランテニル基、ピリジル基、キノキサニル基、ピロール基、インドリル基、カルバゾリル基、イミダゾリル基、ベンズイミダゾリル基、フラニル基、ベンゾフラニル基、ジベンゾフラニル基、チオフェニル基、ベンゾチオフェニル基、ジベンゾチオフェニル基、ベンゾオキサゾリル基、およびベンゾチオキサゾリル基等がある。
【0028】
-CR12-および-SiR34-において、R1およびR2、または、R3およびR4は、互いに連結して、4~8員環、好ましくは5~6員環を形成してもよい。5~6員環は、具体的には、シクロペンチル環やシクロヘキシル基である。
oはXの個数を表す。oは1または2の整数である。
【0029】
1およびC2は、炭素原子またはアリール炭素原子である。アリール炭素原子は、具体的には、炭素原子数6~10のアリール基を有する炭素原子である。アリール基はフェニル基が好ましい。
1およびC2はそれぞれXと隣接する炭素原子とともに環を形成してもよく、例えば、下記構造式に示すような環を形成してもよい。
【化3】
【0030】
Yはフルオロ基である。m+nはフルオロ基の個数を表す。m+nは0以上10以下の整数であり、mおよびnはそれぞれ0~5の整数である。1≦m+n≦10であり、かつ、mおよびnはそれぞれ0~5の整数であることが好ましい。
【0031】
1およびD2は、それぞれ独立に、炭素原子または窒素原子である。D1およびD2のいずれか一方が炭素原子または窒素原子であってもよいし、両方とも炭素原子または窒素原子であってもよい。なお、D1およびD2の間にある炭素原子を窒素原子とし、D1およびD2のいずれか一方または両方を窒素原子または炭素原子とした場合、青色発光が得られない。
【0032】
Zは、水素原子、炭素数1~6のアルキル基、炭素数1~6のアルコキシ基、フルオロ基、またはアミノ基である。炭素数1~6のアルキル基および炭素数1~6のアルコキシ基は、R1~R4が炭素数1~6のアルキル基および炭素数1~6のアルコキシ基である場合の具体例と同じである。
【0033】
本発明の含ホウ素化合物は、具体的には、下記構造式を有する化合物である。
【化4】
【0034】
本発明の含ホウ素化合物はπ共役系が拡張した構造を有する。π共役系を持つ分子は可視領域に光吸収帯を有し、その多くが色素として機能し得ることが知られている。しかしながら、π共役系が拡張すると、HOMOは上昇し、LUMOは低下して、HOMO-LUMO間のギャップ(バンドギャップEg)が小さくなる。一方、本発明の含ホウ素化合物は、一般式(1)に示すように、芳香環中にホウ素原子とこれに対向するように窒素原子とを有するため、芳香族性が低く、共役系が拡張しても、HOMO-LUMO間のギャップの減少が抑えられる。
【0035】
本発明の含ホウ素化合物は、高い三重項励起エネルギー(ET)を有する。また、前記含ホウ素化合物では、ヘテロ元素、特にホウ素原子の電子的な摂動により、三重項励起状態(ET)におけるSOMO1およびSOMO2が局在化し、両軌道間の交換相互作用が小さくなるため、一重項励起状態(ES)と三重項励起状態(ET)とのエネルギーギャップ(ΔEST)が小さく、熱活性化遅延蛍光(TADF)を示す。
【0036】
本発明の含ホウ素化合物は、ホウ素原子および窒素原子を含む環構造を複数の芳香環で取り囲んだ嵩高い構造を有するため、比較的剛直であり、回転や折れ曲がりが適度に抑制された構造を有する。このような構造を有することで、本発明の含ホウ素化合物は、分子全体のねじれ振動を伴うS1-S0遷移(励起一重項状態(S1)から基底状態(S0)への遷移)においても、その振動エネルギーが非常に小さく、半値幅の極めて狭い、すなわち色純度の高い発光スペクトルが得られる。
なお、既知の有機青色発光材料(DABNA-1)についての報告にあるように、本発明の含ホウ素化合物においても、ホウ素原子と窒素原子の多重共鳴効果による影響でS1-S0遷移が伸縮振動を伴うことはないと考えられる。
【0037】
本発明の含ホウ素化合物のうち、FS2MeではS1(HOMO→LUMO)の励起状態への励起ピークが3.09eVでS1-S0遷移の振動子強度(f)は0.1473であり、FD2AではS1が3.11eVでS1-S0遷移の振動子強度(f)は0.1374であることから、純度の高い青色発光スペクトルが得られることがわかる。
【0038】
本発明では、含ホウ素化合物の分子に付加する官能基を検討して電子的性質を変えることにより、バンドギャップEgを調節するとともに、一重項-三重項エネルギーギャップ(ΔEST)をできるだけ小さくして、いったん三重項励起状態(ET)に移ったエネルギーを、再び一重項励起状態(ES)に戻すことを可能とし、高効率の青色蛍光を取り出すことが可能である。
【0039】
本発明の含ホウ素化合物は、例えば、以下に示す方法により製造することができる。一例として、本発明の含ホウ素化合物の1つである化合物BD1の製造方法を一例に示す。
【化5】
【0040】
四つ口フラスコに化合物1-1 4.13g(10mmol)、4,6-ジブロモピリミジン 2.38g(10mmol)、ナトリウム-tert-ブトキシド 2.88g(30mmol)、脱水トルエン 1000mLを入れて窒素雰囲気下に、ビス(ジベンジリデンアセトン)パラジウム(0) 230mg(0.4mmol)およびトリ-tert-ブチルホスホニウムテトラフルオロボラート 93mg(0.32mmol)を添加して一晩還流撹拌を行う。反応混合物を精製して、化合物1-2を2.20g(4.5mmol)、収率45%で得る。
次いで二つ口フラスコに化合物1-2 1.10g(2.25mmol)および脱水ジクロロベンゼン 20mlを入れて、さらに1M 三臭化ホウ素溶液 9ml(9mmol)を滴下した後、バス温180℃にて2時間撹拌する。その後、反応混合物をさせながらジイソプロピルエチルアミン 2.35ml(13.5mmol)を滴下し5分撹拌後、室温で30分間撹拌する。120℃に昇温し一晩加熱撹拌して反応を終了する。精製後、化合物BD1を290mg(0.58mmol)、収率26%で得る。なお、化合物BD1は、電界脱離質量分析(FD-MS)で同定する。
なお、本発明の含ホウ素化合物は、前記の方法に限られず、種々の公知の方法で製造することができる。
【0041】
本発明の有機EL素子は、前記含ホウ素化合物を用いて形成される。前記含ホウ素化合物は、有機EL素子の発光帯域に含まれる。発光帯域とは正孔と電子が再結合し、発光が生じている領域であるが、多くの場合、発光層5がそれに該当する。
【0042】
有機EL素子は、電極間に有機層を一層または二層以上積層した構造であり、例えば、「陽極1/正孔注入層2/正孔輸送層3/発光層5/電子輸送層7/電子注入層8/陰極9」、「陽極1/正孔輸送層3/発光層5/電子輸送層7/電子注入層8/陰極9」、「陽極1/正孔注入層2/発光層5/電子輸送層7/電子注入層8/陰極9」、「陽極1/正孔注入層2/正孔輸送層3/発光層5/電子注入層8/陰極9」、「陽極1/正孔注入層2/正孔輸送層3/発光層5/電子輸送層8/陰極9」、「陽極1/発光層5/電子輸送層7/電子注入層8/陰極9」、「陽極1/正孔輸送層3/発光層5/電子注入層8/陰極9」、「陽極1/正孔輸送層3/発光層5/電子輸送層7/陰極9」、「陽極1/正孔注入層2/発光層5/電子注入層8/陰極9」、「陽極1/正孔注入層2/発光層5/電子輸送層7/陰極9」、「陽極1/発光層5/電子輸送層7/陰極9」、および「陽極1/発光層5/電子注入層8/陰極9」の構成態様がある。本発明の実施例では、図1に示すように、前記構成に電子障壁層4および正孔障壁層6を追加した「陽極1/正孔注入層2/正孔輸送層3/電子障壁層4/発光層5/正孔障壁層6/電子輸送層7/電子注入層8/陰極9」がこの順に積層した構造を示している。なお、有機層とは、電極1、9以外の層、すなわち、正孔注入層2、正孔輸送層3、電子障壁層4、発光層5、正孔障壁層6、電子輸送層7、および電子注入層8等を指す。
【0043】
基板には、透明かつ平滑であって、少なくとも70%以上の全光線透過率を有するものが用いられ、具体的には、フレキシブルな透明基板である、数μm厚のガラス基板や特殊な透明プラスチック等が用いられる。
【0044】
基板上に形成される、陽極1、正孔注入層2、正孔輸送層3、電子障壁層4、発光層5、正孔障壁層6、電子輸送層7、電子注入層8、陰極9といった薄膜は、真空蒸着法または塗布法で積層される。真空蒸着法を用いる場合、通常10-3Pa以下に減圧した雰囲気で、蒸着物を加熱して行う。各層の膜厚は、層の種類や使用する材料によって異なるが、通常、陽極1および陰極9は100nm程度、発光層5を含む他の有機層は50nm未満である。
【0045】
陽極1には、仕事関数が大きく、また全光線透過率は通常80%以上である材料が用いられる。具体的には、陽極1から発光した光を透過させるため、酸化インジウムスズ(ITO)や酸化亜鉛(ZnO)等の透明導電性セラミックス、ポリチオフェン-ポリスチレンスルホン酸(PEDOT-PSS)やポリアニリン等の透明導電性高分子、その他の透明導電性材料が用いられる。
【0046】
陽極1から正孔を効率良く発光層に輸送するために陽極と発光層5の間に、正孔注入層2や正孔輸送層3が設けられる。
正孔注入層2を形成する正孔注入材料には、例えば、(ポリ(アリーレンエーテルケトン)含有トリフェニルアミン(KLHIP:PPBI)、1,4,5,8,9,11-ヘキサアザトリフェニレンヘキサカルボニトリル(HATCN)およびPEDOT-PSS等が挙げられる。これらの材料からなる正孔注入層2はポリマーバッファー層とも呼ばれ、有機EL素子の駆動電圧を下げる効果を発揮する。
【0047】
正孔輸送層3は、陽極1と発光層5との間に設けられ、陽極1から正孔を効率良く発光層に輸送するための層である。正孔輸送材料には、イオン化ポテンシャルが小さいもの、すなわち、HOMOから電子が励起されやすく、正孔が生成されやすいものが用いられる。例えば、ポリ(9,9-ジオクチルフルオレン-アルト-N-(4-ブチルフェニル)ジフェニルアミン)(TFB)、4,4’-シクロヘキシリデンビス[N,N-ビス(4-メチルフェニル)ベンゼンアミン](TAPC)、N,N’-ジフェニル-N,N’-ジ(m-トリル)ベンジジン(TPD)、N,N’-ジ(1-ナフチル)-N,N’-ジフェニルベンジジン(NPD)、N4,N4”-ビス(4-ジベンゾフラニル)-N4,N4”,2',3',5',6'-ヘキサフェニル-[1,1':4',1”-ターフェニル]-4,4”-ジアミン(4DBFHPB)、4,4’,4’’-トリ-9-カルバゾリルトリフェニルアミン(TCTA)および4,4’,4’’-トリス[フェニル(m-トリル)アミノ]トリフェニルアミン)等が挙げられる。
【0048】
発光層5には、有機EL素子で用いられる他の発光層と同様に、ドーパントおよびホストからなる発光材料を用いることが好ましい。
ドーパントには、本発明の一般式で表される含ホウ素化合物が用いられる。
ドーパントの添加量は、ドーパントおよびホストの合計中、0.1~20wt%が好ましい。
ホストには、正孔輸送層3や電子輸送層7からの電荷注入障壁を最小限にし、電荷を発光層5に閉じ込め、かつ、発光励起子の消光を防ぐものであれば、公知の材料を広く用いることができる。ホストには、例えば、下記構造式を有するアントラセン誘導体を用いることができる。
【0049】
【化6】
【0050】
【化7】
【0051】
ホストの添加量は、発光層5用材料全体の50~99.9wt%が好ましく、80~95wt%がより好ましい。
【0052】
発光層5と正孔輸送層3との間には、適宜、電子障壁層4を設けてもよい。電子障壁層4を設けることで、電子を発光層内に閉じ込めて、発光層における電荷の再結合確率を高め、発光効率を向上させることができる。電電子障壁層4を形成する電子障壁材料には、ビス(ビフェニル-4-イル)(3’-(9H-カルバゾル-9-イル)ビフェニル-4-イル)アミン等のアミン誘導体等が用いられる。
【0053】
陰極9から電子を効率良く発光層5に輸送するために、陰極9と発光層5の間に、正孔障壁層6や電子輸送層7が設けられる。電子輸送層7を形成する電子輸送材料には、例えば、1,4-ビス(1,10-フェナントロリン-2-イル)ベンゼン(DPB)、2,9-ビス(ナフタレン-2-イル)-4,7-ジフェニル-1,10-フェナントロリン(NBPhen)、8-ヒドロキシキノリノラトリチウム(Liq)、4,6-ビス(3,5-ジ(ピリジン-3-イル)フェニル)-2-メチルピリミジン(B3PymPm)、4,6-ビス(3,5-ジ(ピリジン-4-イル)フェニル)-2-フェニルピリミジン(B4PyPPm)、2-(4-ビフェニリル)-5-(p-t-ブチルフェニル)-1,3,4-オキサジアゾール(tBu-PBD)、1,3-ビス[5-(4-t-ブチルフェニル)-2-[1,3,4]オキサジアゾリル]ベンゼン(OXD-7)、3-(ビフェニル-4-イル)-5-(4-t-ブチルフェニル)-4-フェニル-4H-1,2,4-トリアゾール(TAZ)、バソクプロイン(BCP)、1,3,5-トリス(1-フェニル-1H-ベンズイミダゾール-2-イル)ベンゼン(TPBi)および3-(4-ビフェニリル)-4-フェニル-5-(4-t-ブチルフェニル)-1,2,4-トリアゾール(TAZ)等が挙げられる。これらのうち、DPBおよびLiqの混合層等が好ましい。
【0054】
正孔障壁層6は、正孔を発光層5内に閉じ込めて、発光層5における電荷の再結合確率を高め、発光効率を向上させるための層である。正孔障壁層6を形成する正孔障壁材料には、ベンゾチオフェン-トリフェニルトリアジン(DBT-TRZ)および1-(3’-(4-ジベンゾフラン-4-イル)ビフェニル-3-イル)-3,5-ジフェニルトリアジン等が用いられる。正孔障壁層6および電子輸送層7の膜厚は、通常3~50nmであり、目的の設計に応じて適宜変更できる。
【0055】
電子注入層8を形成する電子注入材料には、例えば、フッ化リチウム(LiF)および2-ヒドロキシ-(2,2’)-ビピリジニル-6-イル-フェノラトリチウム(Libpp)等が挙げられる。
【0056】
陰極9には、仕事関数が低く(4eV以下)、かつ、化学的に安定なものが用いられる。具体的には、Al、AlLi等のAlとアルカリ金属との合金、AlCa合金、またはMgAg合金等の陰極材料が用いられる。これらの陰極材料は、例えば、抵抗加熱蒸着法、電子ビーム蒸着法、スパッタリング法、またはイオンプレーティング法により成膜される。
【実施例0057】
以下、本発明を実施例に基づいてさらに具体的に説明するが、本発明は下記実施例により制限されるものではない。
[含ホウ素化合物の合成]
〔実施例1〕含ホウ素化合物BD1の合成
(i)化合物1-2の合成
【化8】
窒素導入管を付した1000mL四つ口フラスコに化合物1-1 4.13g(10mmol)、4,6-ジブロモピリミジン 2.38g(10mmol)、ナトリウム-tert-ブトキシド 2.88g(30mmol)、脱水トルエン 1000mLを加え、1時間窒素バブリングした。次いで、ビス(ジベンジリデンアセトン)パラジウム(0) 230mg(0.4mmol)、トリ-tert-ブチルホスホニウムテトラフルオロボラート 93mg(0.32mmol)を加え一晩還流撹拌を行った。反応混合物をTLCにて原料の消失を確認した。反応混合物をトルエンで抽出、brine洗浄、MgSO4にて乾燥後、溶媒を留去した。得られた残渣をシリカゲルカラムクロマトグラフィーで精製して、化合物1-2を2.20g(4.5mmol)、収率45%で得た。
【0058】
(ii)化合物BD1(含ホウ素化合物)の合成
【化9】
脱気した50mL二口フラスコに化合物1-2 1.10g(2.25mmol)および脱水ジクロロベンゼン 20mlを加え溶解させた。そこへ1M 三臭化ホウ素溶液 9ml(9mmol)を滴下し5分間そのまま撹拌し、その後、バス温180℃にて2時間撹拌した。その後、0℃になるように氷浴させジイソプロピルエチルアミン 2.35ml(13.5mmol)を滴下し、そのまま5分撹拌した後、室温にて30分間撹拌した。その後、120℃に昇温し一晩加熱撹拌した。室温まで放冷後、シリカゲルにてショートカラムを行った。得られた残渣をシリカゲルカラムクロマトグラフィーおよび再結晶にて精製を行い、化合物BD1を290mg(0.58mmol)、収率26%で得た。
得られた化合物BD1はFD-MS(電界脱離質量分析)の測定により、m/Z=496の質量スペクトルが観測されたので化合物BD1を記載の構造の化合物と同定した。
【0059】
〔実施例2〕含ホウ素化合物BD2の合成
(i)化合物2-2の合成
【化10】
撹拌子を備えた300mL四つ口フラスコに化合物2-1 7.76g(20.0mmol)、アニリン 4.48g(48mmol)、ナトリウム-tert-ブトキシド 10.76g(112mmol)、脱水トルエン 200mlを加え1時間窒素バブリングした。そこにトリス(ジベンジリデンアセトン)ジパラジウム(0) 740mg(0.80mmol)、(±)―BINAP 1.12g(1.8mmol)を加え一晩還流撹拌を行った。反応混合物をTLCにて原料の消失を確認した。セライトろ過にて不溶物をろ別し、ろ液を濃縮した。得られた残渣をシリカゲルカラムクロマトグラフィーで精製して、化合物2-2を8.18g(16.4mmol)、収率82%で得た。
【0060】
(ii)化合物2-3の合成
【化11】
窒素導入管を付した1000mL四つ口フラスコに化合物2-2 4.99g(10mmol)、4,6-ジブロモピリミジン 2.38g(10mmol)、ナトリウム-tert-ブトキシド 2.88g(30mmol)、脱水トルエン 1000mLを加え1時間窒素バブリングした。次いで、ビス(ジベンジリデンアセトン)パラジウム(0) 230mg(0.4mmol)、トリ-tert-ブチルホスホニウムテトラフルオロボラート 93mg(0.32mmol)を加え一晩還流撹拌を行った。反応混合物をTLCにて原料の消失を確認した。反応混合物をトルエンで抽出、brine洗浄、MgSO4にて乾燥後、溶媒を留去した。得られた残渣をシリカゲルカラムクロマトグラフィーで精製して、化合物2-3を2.41g(4.2mmol)、収率42%で得た。
【0061】
(iii)化合物BD2(含ホウ素化合物)の合成
【化12】
脱気した50mL二口フラスコに化合物2-3 1.29g(2.25mmol)および脱水ジクロロベンゼン 20mlを加え溶解させた。そこへ1M 三臭化ホウ素溶液 9ml(9mmol)を滴下し5分間そのまま撹拌し、その後、バス温180℃にて2時間撹拌した。その後、0℃になるように氷浴させジイソプロピルエチルアミン 2.35ml(13.5mmol)を滴下し、そのまま5分撹拌した後、室温にて30分間撹拌した。その後、120℃に昇温し一晩加熱撹拌した。室温まで放冷後、シリカゲルにてショートカラムを行った。得られた残渣をシリカゲルカラムクロマトグラフィーおよび再結晶にて精製を行い、化合物BD2を275mg(0.47mmol)、収率21%で得た。
得られた化合物BD2はFD-MS(電界脱離質量分析)の測定により、m/Z=582の質量スペクトルが観測されたので化合物BD2を記載の構造の化合物と同定した。
【0062】
〔実施例3〕含ホウ素化合物BD3の合成
(i)化合物2-4の合成
【化13】
窒素導入管を付した1000mL四つ口フラスコに化合物2-2 4.99g(10mmol)、1,3-ジブロモ-5-フルオロベンゼン 2.54g(10mmol)、ナトリウム-tert-ブトキシド 2.88g(30mmol)、脱水トルエン 1000mLを加え1時間窒素バブリングした。次いで、ビス(ジベンジリデンアセトン)パラジウム(0) 230mg(0.4mmol)、トリ-tert-ブチルホスホニウムテトラフルオロボラート 93mg(0.32mmol)を加え一晩還流撹拌を行った。反応混合物をTLCにて原料の消失を確認した。反応混合物をトルエンで抽出、brine洗浄、MgSO4にて乾燥後、溶媒を留去した。得られた残渣をシリカゲルカラムクロマトグラフィーで精製して、化合物2-4を2.54g(4.3mmol)、収率43%で得た。
【0063】
(ii)化合物BD3(含ホウ素化合物)の合成
【化14】
脱気した50mL二口フラスコに化合物2-4 1.33g(2.25mmol)および脱水ジクロロベンゼン 20mlを加え溶解させた。そこへ1M 三臭化ホウ素溶液 9ml(9mmol)を滴下し5分間そのまま撹拌し、その後、バス温180℃にて2時間撹拌した。その後、0℃になるように氷浴させジイソプロピルエチルアミン 2.35ml(13.5mmol)を滴下し、そのまま5分撹拌した後、室温にて30分間撹拌した。その後、120℃に昇温し一晩加熱撹拌した。室温まで放冷後、シリカゲルにてショートカラムを行った。得られた残渣をシリカゲルカラムクロマトグラフィーおよび再結晶にて精製を行い、化合物BD3を417mg(0.70mmol)、収率31%で得た。
得られた化合物BD3はFD-MS(電界脱離質量分析)の測定により、m/Z=598の質量スペクトルが観測されたので化合物BD3を記載の構造の化合物と同定した。
【0064】
〔実施例4〕含ホウ素化合物BD4の合成
(i)化合物3-2の合成
【化15】
窒素導入管を付した1000mL四つ口フラスコに化合物3-1 2.00g(10mmol)、1,3-ジブロモ-5-クロロベンゼン 2.70g(10mmol)、ナトリウム-tert-ブトキシド 2.88g(30mmol)、脱水トルエン 1000mLを加え1時間窒素バブリングした。次いで、トリス(ジベンジリデンアセトン)ジパラジウム(0) 366mg(0.4mmol)、JohnPhos 95mg(0.32mmol)を加え一晩還流撹拌を行った。反応混合物をTLCにて原料の消失を確認した。反応混合物をトルエンで抽出、brine洗浄、MgSO4にて乾燥後、溶媒を留去した。得られた残渣をシリカゲルカラムクロマトグラフィーで精製して、化合物3-2を988mg(3.2mmol)、収率32%で得た。
【0065】
(ii)化合物3-3の合成
【化16】
撹拌子を備えた50mL四つ口フラスコに化合物3-2 988mg(3.2mmol)、4-ブロモフルオロベンゼン 1.34g(7.7mmol)、ナトリウム-tert-ブトキシド 1.72g(17.9mmol)、脱水トルエン 30mlを加え1時間窒素バブリングした。そこにトリス(ジベンジリデンアセトン)ジパラジウム(0) 117mg(0.13mmol)、JohnPhos 78mg(0.26mmol)を加え一晩還流撹拌を行った。反応混合物をTLCにて原料の消失を確認した。セライトろ過にて不溶物をろ別し、ろ液を濃縮した。得られた残渣をシリカゲルカラムクロマトグラフィーで精製して、化合物3-3を1.54g(3.1mmol)、収率97%で得た。
【0066】
(iii)化合物3-4の合成
【化17】
撹拌子を備えた50mL四つ口フラスコに化合物3-3 1.54g(3.1mmol)、ジフェニルアミン 630mg(3.7mmol)、ナトリウム-tert-ブトキシド 890mg(9.3mmol)、脱水トルエン 30mlを加え1時間窒素バブリングした。そこにトリス(ジベンジリデンアセトン)ジパラジウム(0) 117mg(0.13mmol)、トリ-tert-ブチルホスホニウムテトラフルオロボラート 75mg(0.26mmol)を加え一晩還流撹拌を行った。反応混合物をTLCにて原料の消失を確認した。セライトろ過にて不溶物をろ別し、ろ液を濃縮した。得られた残渣をシリカゲルカラムクロマトグラフィーで精製して、化合物3-4を1.85g(2.9mmol)、収率95%で得た。
【0067】
(iv)化合物BD4(含ホウ素化合物)の合成
【化18】
脱気した50mL二口フラスコに化合物3-4 1.42g(2.25mmol)および脱水ジクロロベンゼン 20mlを加え溶解させた。そこへ1M 三臭化ホウ素溶液 9ml(9mmol)を滴下し5分間そのまま撹拌し、その後、バス温180℃にて2時間撹拌した。その後、0℃になるように氷浴させジイソプロピルエチルアミン 2.35ml(13.5mmol)を滴下し、そのまま5分撹拌した後、室温にて30分間撹拌した。その後、120℃に昇温し一晩加熱撹拌した。室温まで放冷後、シリカゲルにてショートカラムを行った。得られた残渣をシリカゲルカラムクロマトグラフィーおよび再結晶にて精製を行い、化合物BD4を502mg(0.79mmol)、収率35%で得た。
得られた化合物BD4はFD-MS(電界脱離質量分析)の測定により、m/Z=637の質量スペクトルが観測されたので化合物BD4を記載の構造の化合物と同定した。
【0068】
〔実施例5〕含ホウ素化合物BD5の合成
(i)化合物4-2の合成
【化19】
撹拌子を備えた300mL四つ口フラスコに化合物4-1 1.86g(20mmol)、1-ブロモ-3-クロロベンゼン 4.59g(24mmol)、ナトリウム-tert-ブトキシド 11.53g(120mmol)、脱水トルエン 200mlを加え1時間窒素バブリングした。そこにトリス(ジベンジリデンアセトン)ジパラジウム(0) 732mg(0.8mmol)、JohnPhos 477mg(1.6mmol)を加え一晩還流撹拌を行った。反応混合物をTLCにて原料の消失を確認した。セライトろ過にて不溶物をろ別し、ろ液を濃縮した。得られた残渣をシリカゲルカラムクロマトグラフィーで精製して、化合物4-2を4.27g(13.6mmol)、収率68%で得た。
【0069】
(ii)化合物4-3の合成
【化20】
撹拌子を備えた200mL四つ口フラスコに化合物4-2 4.27g(13.6mmol)、2,4-ジフルオロアニリン 4.21g(32.6mmol)、ナトリウム-tert-ブトキシド 7.32g(76.2mmol)、脱水トルエン 140mlを加え、1時間窒素バブリングした。そこにトリス(ジベンジリデンアセトン)ジパラジウム(0) 498mg(0.54mmol)、トリ-tert-ブチルホスホニウムテトラフルオロボラート 313mg(1.08mmol)を加え一晩還流撹拌を行った。反応混合物をTLCにて原料の消失を確認した。セライトろ過にて不溶物をろ別し、ろ液を濃縮した。得られた残渣をシリカゲルカラムクロマトグラフィーで精製して、化合物4-3を5.16g(10.3mmol)、収率76%で得た。
【0070】
(iii)化合物4-4の合成
【化21】
窒素導入管を付した1000mL四つ口フラスコに化合物4-3 5.00g(10mmol)、3,5-ジブロモトルエン 2.50g(10mmol)、ナトリウム-tert-ブトキシド 2.88g(30mmol)、脱水トルエン 1000mLを加え1時間窒素バブリングした。次いで、ビス(ジベンジリデンアセトン)パラジウム(0) 230mg(0.4mmol)、トリ-tert-ブチルホスホニウムテトラフルオロボラート 93mg(0.32mmol)を加え一晩還流撹拌を行った。反応混合物をTLCにて原料の消失を確認した。反応混合物をトルエンで抽出、brine洗浄、MgSO4にて乾燥後、溶媒を留去した。得られた残渣をシリカゲルカラムクロマトグラフィーで精製して、化合物4-4を2.23g(3.8mmol)、収率38%で得た。
【0071】
(iv)化合物BD5(含ホウ素化合物)の合成
【化22】
脱気した50mL二口フラスコに化合物4-4 1.32g(2.25mmol)および脱水ジクロロベンゼン 20mlを加え溶解させた。そこへ1M 三臭化ホウ素溶液 9ml(9mmol)を滴下し5分間そのまま撹拌し、その後、バス温180℃にて2時間撹拌した。その後、0℃になるように氷浴させジイソプロピルエチルアミン 2.35ml(13.5mmol)を滴下し、そのまま5分撹拌した後、室温にて30分間撹拌した。その後、120℃に昇温し一晩加熱撹拌した。室温まで放冷後、シリカゲルにてショートカラムを行った。得られた残渣をシリカゲルカラムクロマトグラフィーおよび再結晶にて精製を行い、化合物BD5を442mg(0.74mmol)、収率33%で得た。
得られた化合物BD5はFD-MS(電界脱離質量分析)の測定により、m/Z=595の質量スペクトルが観測されたので化合物BD5を記載の構造の化合物と同定した。
【0072】
[素子の作製および評価]
〔実施例6〕
スパッタリングにより180nmの厚さに製膜したITOを150nmまで研磨して得られる26mm×28mm×0.7mmのガラス基板((株)オプトサイエンス製)を透明支持基板とした。
この透明支持基板を市販の蒸着装置((株)昭和真空製)の基板ホルダーに固定し、HATCN(HIM;正孔注入材料)を入れたモリブデン製蒸着用ボート、α-NPD(HTM;正孔輸送材料)を入れたモリブデン製蒸着用ボート、EBL(電子障壁材料)を入れたモリブデン製蒸着用ボート、BH1(ホスト)を入れたモリブデン製蒸着用ボート、実施例1で合成した化合物BD1を入れたモリブデン製蒸着用ボート、HBL(正孔障壁材料)を入れたモリブデン製蒸着用ボート、NBPhen(ETM;電子輸送材料)を入れたモリブデン製蒸着用ボート、LiFを入れたモリブデン製蒸着用ボート、およびアルミニウムを入れたタングステン製蒸着用ボートを装着した。それぞれの材料の構造式を以下に示す。
【0073】
【化23】
【0074】
透明支持基板のITO膜の上に順次、下記各層を形成した。真空槽を5×10-4Paまで減圧し、まずHIMが入った蒸着用ボートを加熱して膜厚5nmになるように蒸着して正孔注入層2を形成した。次いでHTMが入った蒸着用ボートを加熱して膜厚105nmになるように蒸着して正孔輸送層3を形成した。更にEBLが入った蒸着用ボートを加熱して膜厚20nmになるように蒸着して電子障壁層4を形成した。
次にBH1が入った蒸着用ボートと化合物BD1が入った蒸着用ボートを同時に加熱して膜厚25nmになるように蒸着して発光層5を形成した。BH1と化合物BD1の重量比がおよそ97対3になるように蒸着速度を調整した。
次にHBLが入った蒸着用ボートを加熱して膜厚20nmになるように蒸着して正孔障壁層6を形成した。次いでETMが入った蒸着用ボートを加熱して膜厚10nmになるように蒸着して電子輸送層7を形成した。
各層の蒸着速度は0.01~2nm/秒であった。
【0075】
その後、電子注入層8の材料であるLiFが入った蒸着用ボートを加熱して膜厚1nmになるように0.01~0.1nm/秒の蒸着速度で蒸着した。次いで、アルミニウムが入った蒸着用ボートを加熱して100nmになるように0.01~2nm/秒の蒸着速度で蒸着することにより陰極9を形成し、有機EL素子を得た。
ITO電極を陽極1、LiF/アルミニウム電極を陰極9として直流電圧を印加すると青色発光が得られた。
これを初期輝度1000nitで定電流駆動した時に、輝度が95%になるまでの時間を測定した。
【0076】
〔実施例7〕
化合物BD1の代わりに、実施例2で合成した化合物BD2を用いた以外は実施例6と全く同様に素子を作製した。
【0077】
〔実施例8〕
化合物BD1の代わりに、実施例3で合成した化合物BD3を用いた以外は実施例6と全く同様に素子を作製した。
【0078】
〔実施例9〕
化合物BD1の代わりに、実施例4で合成した化合物BD4を用いた以外は実施例6と全く同様に素子を作製した。
【0079】
〔実施例10〕
化合物BD1の代わりに、実施例5で合成した化合物BD5を用いた以外は実施例6と全く同様に素子を作製した。
【0080】
〔比較例1〕
化合物BD1の代わりに、下記構造式で表される化合物を用いた以外は実施例6と全く同様に素子を作製した。
【化24】
【0081】
ITO電極を陽極、LiF/アルミニウム電極を陰極として直流電圧を印加すると青色発光が得られた。
これを初期輝度1000nitで定電流駆動した時に、輝度が95%になるまでの時間を測定した。
【表1】
本発明の化合物は公知技術に比較して短波長化し長寿命な青色発光を維持することが分かった。
【符号の説明】
【0082】
1 陽極
2 正孔注入層
3 正孔輸送層
4 電子障壁層
5 発光層
6 正孔障壁層
7 電子輸送層
8 電子注入層
9 陰極
図1