(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2025012138
(43)【公開日】2025-01-24
(54)【発明の名称】電動車両の制御装置
(51)【国際特許分類】
B60L 15/20 20060101AFI20250117BHJP
【FI】
B60L15/20 J
【審査請求】未請求
【請求項の数】8
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023114732
(22)【出願日】2023-07-12
(71)【出願人】
【識別番号】000003207
【氏名又は名称】トヨタ自動車株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100083998
【弁理士】
【氏名又は名称】渡邉 丈夫
(74)【代理人】
【識別番号】100096644
【弁理士】
【氏名又は名称】中本 菊彦
(72)【発明者】
【氏名】関口 慶人
(72)【発明者】
【氏名】田端 淳
(72)【発明者】
【氏名】奥田 弘一
【テーマコード(参考)】
5H125
【Fターム(参考)】
5H125AA01
5H125AB01
5H125AC12
5H125BA00
5H125CA01
5H125EE08
5H125EE09
5H125EE41
5H125EE52
(57)【要約】
【課題】車両の安定性および操作性を低下させることなく、変速機を搭載した従来の車両と同様の操作感覚を、適切に、運転者に体感させることが可能な電動車両を提供する。
【解決手段】モータを駆動力源とする電動車両の制御装置において、モータの回転数(または車速)に対するトルク特性が段階的に異なる複数のレンジに分けて要求駆動トルクを設定し、シフト装置により選択されたレンジに応じて設定される要求駆動トルクに基づいてモータの出力トルクを制御するとともに、選択されているレンジから2段階以上異なる他のレンジに切り替えるための連続切り替え操作が行われた場合に、切り替え先のレンジで設定される要求駆動トルクに基づいて、レンジの連続切り替え操作による実際のレンジの切り替えの可否を判断する(ステップS4)。
【選択図】
図8
【特許請求の範囲】
【請求項1】
駆動力源として少なくともモータを備え、要求駆動力に対応して設定される制御目標値に基づいて前記モータを制御する電動車両の制御装置であって、
前記制御目標値は、前記モータの回転数に対するトルク特性が段階的に異なる複数のレンジに分かれて設定されており、
運転者の手動操作に応じて前記複数のレンジのうちのいずれか一つを選択するシフト装置と、
前記シフト装置により選択された前記レンジに応じて設定される前記制御目標値に基づいて前記モータの出力トルクを制御するコントローラと、を備え、
前記コントローラは、
前記シフト装置によって現在選択されている前記レンジから2段階以上異なる他の前記レンジに切り替えるための連続切り替え操作が行われた場合は、切り替え先の前記レンジで設定される前記制御目標値に基づいて、前記連続切り替え操作による前記レンジの切り替えの可否を判断する
ことを特徴とする電動車両の制御装置。
【請求項2】
請求項1に記載の電動車両の制御装置であって、
前記連続切り替え操作は、現在選択されている前記レンジよりも前記制御目標値が大きくなる方向の前記レンジに切り替えるための操作である
ことを特徴とする電動車両の制御装置。
【請求項3】
請求項1または2に記載の電動車両の制御装置であって、
前記コントローラは、
前記連続切り替え操作が行われた際に、切り替え先の前記レンジで設定される前記制御目標値が、前記連続切り替え操作の可否を判断するトルク閾値以下の場合は、前記レンジの切り替えを許可し、
切り替え先の前記レンジで設定される前記制御目標値が、前記トルク閾値よりも大きい場合は、前記レンジの切り替えを拒否する
ことを特徴とする電動車両の制御装置。
【請求項4】
請求項3に記載の電動車両の制御装置であって、
前記トルク閾値は、車速または前記回転数に依存して変化し、
前記コントローラは、
切り替え先の前記レンジで設定される前記制御目標値が、前記連続切り替え操作が行われた際の前記車速または前記回転数に対応する前記トルク閾値以下の場合は、前記レンジの切り替えを許可し、
切り替え先の前記レンジで設定される前記制御目標値が、前記連続切り替え操作が行われた際の前記車速または前記回転数に対応する前記トルク閾値よりも大きい場合は、前記レンジの切り替えを拒否する
ことを特徴とする電動車両の制御装置。
【請求項5】
請求項4に記載の電動車両の制御装置であって、
前記トルク閾値は、前記車速または前記回転数が低いほど、大きくなる
ことを特徴とする電動車両の制御装置。
【請求項6】
請求項1または2に記載の電動車両の制御装置であって、
前記コントローラは、
前記連続切り替え操作が行われた際に、現在の前記制御目標値に対する切り替え先の前記レンジで設定される前記制御目標値の増加割合が、前記連続切り替え操作の可否を判断するトルク段差閾値以下の場合は、前記レンジの切り替えを許可し、
前記増加割合が、前記トルク段差閾値よりも大きい場合は、前記レンジの切り替えを拒否する
ことを特徴とする電動車両の制御装置。
【請求項7】
請求項6に記載の電動車両の制御装置であって、
前記トルク段差閾値は、車速または前記回転数に依存して変化し、
前記コントローラは、
前記増加割合が、前記連続切り替え操作が行われた際の前記車速または前記回転数に対応する前記トルク段差閾値以下の場合は、前記レンジの切り替えを許可し、
前記増加割合が、前記連続切り替え操作が行われた際の前記車速または前記回転数に対応する前記トルク段差閾値よりも大きい場合は、前記レンジの切り替えを拒否する
ことを特徴とする電動車両の制御装置。
【請求項8】
請求項7に記載の電動車両の制御装置であって、
前記トルク段差閾値は、前記車速または前記回転数が低いほど、大きくなる
ことを特徴とする電動車両の制御装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、モータを駆動力源とする電動車両の制御装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
特許文献1には、マニュアルトランスミッションを搭載した車両(MT車両)の変速動作を模擬的に再現することを目的とした電気自動車(電動車両)が記載されている。この特許文献1に記載された電動車両は、運転者によって操作されるシフト装置およびクラッチ装置を備えている。シフト装置およびクラッチ装置は、それぞれ、MT車両に搭載されるものを想定した模擬的な装置であり、クラッチ装置は、運転者によるシフト装置の操作に連係して操作される。また、特許文献1に記載された電動車両は、駆動力源のモータの出力トルクを制御するトルク制御部を備えている。トルク制御部は、クラッチ装置の操作量に応じてモータの出力トルクを制御する。それとともに、シフト装置は、モータの回転速度に対するトルク特性が段階的に異なる複数のモード(または、レンジ)から何れか一つのモードを選択するように構成されており、トルク制御部は、シフト装置によって選択されたモードに応じて、モータの出力トルクを制御する。
【0003】
また、特許文献2には、運転者にマニュアル車(MT車両)を運転しているような感覚を与えることを目的とした電動車両が記載されている。この特許文献2に記載された電動車両は、走行用のモータ、運転者によって操作されるシフトレバー、モータに指示するトルク値(要求駆動トルクまたは目標駆動トルク)を規定したトルクマップ、および、そのトルクマップを設定した制御装置を備えている。トルクマップは、複数のシフトポジションのそれぞれに対応する仮想ギア段ごとに設定されている。そして、制御装置は、シフトレバーで選択されたシフトポジションに対応する仮想ギア段のトルクマップを用いてトルク値を決定し、モータの出力トルクを制御する。
【0004】
また、特許文献3に記載された電動車両は、ECU(制御装置)と電気的に接続されたパドルスイッチおよびシフター(シフトレバー等)を備えている。ECUは、アクセルペダルの開度とモータの出力トルクとの関係を規定したトルクマップを用いて、アクセルペダルの開度に応じてモータの出力トルクを制御する。それとともに、ECUは、運転者によるパドルスイッチまたはシフターの操作に基づいて、モータの出力トルク制御に使用するトルクマップを変更する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2021-118569号公報
【特許文献2】特開2020-156260号公報
【特許文献3】特開2022-12205号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
駆動力源として電動車両に搭載されるモータは、発進時や低速走行時から大きなトルクを出力することができる。そのため、駆動トルクを増幅するための変速機を搭載しない電動車両も存在する。上記の各特許文献に記載された電動車両は、いずれも、実際の変速機は搭載していないが、従来と同様のシフト装置やシフトスイッチなどが設けられている。それとともに、モータのトルク特性を異ならせた複数のモードあるいはトルクマップが設定されている。そして、上記の各特許文献に記載された電動車両では、それらのモードあるいはトルクマップが、シフト装置やシフトスイッチ等を用いた運転者の手動操作によって切り替えられることにより、従来と同様の変速機が搭載されていることを仮想している。そのため、特許文献1や特許文献2に記載された電動車両によれば、運転者は、従来の手動変速機を搭載したMT車両と同様の運転操作の感覚や車両の挙動を体感することが可能である。また、特許文献3に記載された電動車両によれば、運転者は、従来の多段変速機を搭載した車両と同様のパドルスイッチやシフトレバー等を用いた手動の変速操作(シーケンシャルシフト)の感覚を体感することが可能である。
【0007】
しかしながら、上記の各特許文献に記載された電動車両のように、複数のモードあるいはトルクマップを設定してモータの出力トルクを制御する場合には、電動車両の安定性が低下してしまうおそれがある。例えば、短時間の間に2段階以上異なるモード(または、レンジ)への切り替え操作、あるいは、レンジを跨ぐ連続した切り替え操作等が行われ、そのような操作に対応してモータのトルク特性が切り替えられると、モータの出力トルクが急変する。すなわち、電動車両の駆動力が急変する。特に、従来の変速機におけるダウンシフトに相当する方向にモードが切り替えられると、駆動力が急激に増大することになり、その結果、タイヤにスリップが生じて、電動車両の挙動が乱れてしまうおそれがある。そのような電動車両の駆動力の急変を回避するために、上記のような2段階以上異なるモードへの切り替え操作や、レンジを跨ぐ連続した切り替え操作を禁止することも考えられる。しかしながら、その場合は、変速機を搭載した従来の車両であれば可能であった切り替え操作の一部が制限されてしまう。そのため、変速機を搭載した従来の車両と比較して、電動車両の操作性が低下してしまう。
【0008】
このように、車両の操作性の低下、および、車両挙動の安定性の低下を招くことなく、従来と同様の変速操作の感覚を運転者に体感させることが可能な電動車両を構成するには、未だ改良の余地があった。
【0009】
この発明は上記の技術的課題に着目して考え出されたものであり、車両の操作性および安定性を低下させることなく、変速機を搭載した従来の車両と同様の操作感覚を、適切に、運転者に体感させることが可能な電動車両を提供することを目的とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0010】
上記の目的を達成するために、この発明は、駆動力源として少なくともモータを備え、要求駆動力に対応して設定される制御目標値に基づいて前記モータを制御する電動車両の制御装置であって、前記制御目標値は、前記モータの回転数に対するトルク特性が段階的に異なる複数のレンジに分かれて設定されており、運転者の手動操作に応じて前記複数のレンジのうちのいずれか一つを選択するシフト装置と、前記シフト装置により選択された前記レンジに応じて設定される前記制御目標値に基づいて前記モータの出力トルクを制御するコントローラと、を備え、前記コントローラは、前記シフト装置によって現在選択されている前記レンジから2段階以上異なる他の前記レンジに切り替えるための連続切り替え操作が行われた場合は、切り替え先の前記レンジで設定される前記制御目標値に基づいて、前記連続切り替え操作による前記レンジの切り替えの可否を判断することを特徴とするものである。
【0011】
また、この発明における前記連続切り替え操作は、現在選択されている前記レンジよりも前記制御目標値が大きくなる方向(すなわち、前記モータの回転数に対応する出力トルクが大きくなる方向)の前記レンジに切り替えるための操作であってもよい。
【0012】
また、この発明における前記コントローラは、前記連続切り替え操作が行われた際に、切り替え先の前記レンジで設定される前記制御目標値が、前記連続切り替え操作の可否を判断するトルク閾値以下の場合は、前記レンジの切り替えを許可し、切り替え先の前記レンジで設定される前記制御目標値が、前記トルク閾値よりも大きい場合は、前記レンジの切り替えを拒否するように構成してもよい。
【0013】
また、この発明における前記トルク閾値は、車速または前記回転数に依存して変化する設定であってもよく、この発明における前記コントローラは、切り替え先の前記レンジで設定される前記制御目標値が、前記連続切り替え操作が行われた際の前記車速または前記回転数に対応する前記トルク閾値以下の場合は、前記レンジの切り替えを許可し、切り替え先の前記レンジで設定される前記制御目標値が、前記連続切り替え操作が行われた際の前記車速または前記回転数に対応する前記トルク閾値よりも大きい場合は、前記レンジの切り替えを拒否するように構成してもよい。
【0014】
また、この発明における前記トルク閾値は、前記車速または前記回転数が低いほど、大きくなる設定であってもよい。
【0015】
また、この発明における前記コントローラは、前記連続切り替え操作が行われた際に、現在の前記制御目標値に対する切り替え先の前記レンジで設定される前記制御目標値の増加割合が、前記連続切り替え操作の可否を判断するトルク段差閾値以下の場合は、前記レンジの切り替えを許可し、前記増加割合が、前記トルク段差閾値よりも大きい場合は、前記レンジの切り替えを拒否するように構成してもよい。
【0016】
また、この発明における前記トルク段差閾値は、車速または前記回転数に依存して変化する設定であってもよく、この発明における前記コントローラは、前記増加割合が、前記連続切り替え操作が行われた際の前記車速または前記回転数に対応する前記トルク段差閾値以下の場合は、前記レンジの切り替えを許可し、前記増加割合が、前記連続切り替え操作が行われた際の前記車速または前記回転数に対応する前記トルク段差閾値よりも大きい場合は、前記レンジの切り替えを拒否するように構成してもよい。
【0017】
そして、この発明における前記トルク段差閾値は、前記車速または前記回転数が低いほど、大きくなる設定であってもよい。
【発明の効果】
【0018】
この発明で制御の対象とする電動車両は、少なくとも1基のモータを駆動力源とし、そのモータの出力トルクにより駆動力を発生して走行する。モータの出力トルクは、要求駆動力に対応して設定される制御目標値に基づいて制御される。制御目標値は、言い換えると、目標駆動トルク、あるいは、要求駆動トルクであり、例えばマップの形態で、モータのトルク特性が段階的に異なる複数のレンジに分かれて設定されている。それら複数のレンジは、運転者によって手動操作されるシフト装置により、選択的に設定される。したがって、この発明の電動車両の制御装置では、シフト装置によってレンジを切り替えることにより、モータのトルク特性、および、そのトルク特性に基づいて設定する制御目標値を変更することができる。例えば、標準的なトルク特性のレンジから、低回転数で大きなトルクを出力するトルク特性のレンジに切り替えることができる。そのため、変速機を用いない電動車両であっても、手動変速機や多段変速機を搭載した従来の車両と同様の変速操作の感覚を、運転者に体感させることが可能である。
【0019】
更に、この発明の電動車両の制御装置では、運転者によるシフト装置の連続切り替え操作が行われた場合に、その連続切り替え操作によるレンジの実際の切り替えを許可するか否かが判断される。連続切り替え操作は、シフト装置で現在選択されているレンジから2段階以上異なる他のレンジに切り替える操作であり、例えば、所定の短時間の間に、連続する他のレンジを飛ばして、連続しない更に他のレンジに切り替える操作、あるいは、隣り合う他のレンジを跨いで更に他のレンジに切り替えるような操作である。そのような連続切り替え操作によってレンジが切り替えられると、モータのトルク特性が大きく変更されるので、そのモータの出力トルクによって発生する駆動力も大きく変動する。その結果、ショックが発生したり、タイヤがスリップしたりして、電動車両の挙動が乱れてしまうおそれがある。そこで、この発明の電動車両の制御装置では、シフト装置の連続切り替え操作が行われた場合に、切り替え先のレンジで設定される予定の制御目標値を基に、その連続切り替え操作によるレンジの切り替えの可否が判断される。例えば、切り替え先のレンジで設定される制御目標値が所定の閾値(トルク閾値)よりも大きい場合、あるいは、現在の制御目標値に対する切り替え先のレンジで設定される制御目標値の増加割合が所定の閾値(トルク段差閾値)よりも大きい場合は、電動車両の挙動が乱れてしまう可能性があると判断され、連続切り替え操作によるレンジの切り替えが拒否される。切り替え先のレンジで設定される制御目標値がトルク閾値以下である場合、あるいは、現在の制御目標値に対する切り替え先のレンジで設定される制御目標値の増加割合がトルク段差閾値以下である場合は、電動車両の挙動が乱れてしまう可能性はないと判断され、連続切り替え操作によるレンジの切り替えが許可される。そのため、連続切り替え操作によるレンジの実際の切り替えは、電動車両の挙動が乱れてしまうおそれのない安定した状態で適切に実施される。そして、上記のようなシフト装置を用いたレンジの切り替え操作により、変速機を搭載した車両の変速操作を模擬的に再現することができる。
【0020】
したがって、この発明の電動車両の制御装置によれば、車両の操作性および安定性を共に低下させることなく、変速機を搭載した従来の車両と同様の操作感覚を、適切に、運転者に体感させることができる。
【図面の簡単な説明】
【0021】
【
図1】
図1は、この発明で制御対象にする電動車両の構成(駆動系統および制御系統)を模式的に示すブロック図である。
【
図2】
図2は、一般的なモータのトルク特性を示す図である。
【
図3】
図3は、車速(または、モータの回転数)およびアクセルペダルの操作量に応じたモータの要求駆動トルクを算出するためのマップのイメージを示す図である。
【
図4】
図4は、アクセルペダルの操作量が50%のときに対応する要求駆動トルクを算出するためのマップのイメージを示す図である。
【
図5】
図5は、シフトレバーおよびシフトゲートから構成されるマニュアル操作部を有したシフト装置のイメージを示す図である。
【
図6】
図6は、ステアリングホイールに設けられたマニュアル操作部を有するシフト装置のイメージを示す図である。
図6の(a)は、ステアリングホイールに設けられたシフトスイッチを示し、
図6の(b)は、ステアリングホイールに設けられたパドルスイッチを示す図である。
【
図7】
図7は、マニュアル操作部を有するシフト装置によって実施される、(シーケンシャルシフトに相当する)レンジの切り替え操作のイメージを示す図である。
【
図8】
図8は、この発明の電動車両の制御装置で実行される制御の一例を説明するためのフローチャートである。
【
図9】
図9は、
図8のフローチャートで示す制御を実行した場合に、レンジの切り替え状態を示すタイムチャートである。
【
図10】
図10は、
図8のフローチャートで示す制御を実行する場合に用いられるトルク閾値のイメージを示す図である。
【
図11】
図11は、
図8のフローチャートで示す制御を実行する場合に用いられるトルク段差閾値のイメージを示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0022】
この発明の実施形態を、図を参照して説明する。なお、以下に示す実施形態は、この発明を具体化した場合の一例に過ぎず、この発明を限定するものではない。
【0023】
図1に、この発明の実施形態で制御対象にする電動車両の駆動系統および制御系統の一例を概略的に示してある。
図1に示す電動車両(以下、車両)Veは、駆動力源としてモータ(Motor)1を搭載した電気自動車である。また、車両Veは、シフト装置2、検出部3、および、コントローラ(ECU)4を備えている。
【0024】
なお、この発明の実施形態で制御対象にする車両Veは、駆動力源として、モータ1の他に、1基または複数のモータ(図示せず)を備えていてもよい。あるいは、モータ1およびエンジン(図示せず)を駆動力源とした“ハイブリッド車両”であってもよい。また、車両Veは、
図1に示すように、モータ1の出力トルクを、例えば、減速機構(図示せず)やデファレンシャルギヤ5などを介して前輪(駆動輪)6に伝達し、前輪6で駆動力を発生させる前輪駆動車であってもよい。あるいは、車両Veは、モータ1の出力トルクを、例えばプロペラシャフト(図示せず)等を介して後輪7に伝達し、後輪7で駆動力を発生させる後輪駆動車(図示せず)であってもよい。あるいは、車両Veは、トランスファ機構(図示せず)を設けて、モータ1の出力トルクを前輪6および後輪7の両方に伝達し、それら前輪6および後輪7の両方で駆動力を発生させる四輪駆動車(図示せず)であってもよい。
【0025】
モータ1は、例えば、永久磁石式の同期モータ、あるいは、誘導モータなどによって構成されている。モータ1は、少なくとも、電力が供給されることにより駆動されてトルクを出力する原動機としての機能を有している。また、モータ1は、外部からトルクを受けて駆動されることによって電力を発生する発電機として機能させてもよい。すなわち、モータ1は、原動機としての機能と発電機としての機能とを兼ね備えたいわゆるモータ・ジェネレータであってもよい。モータ1には、インバータ(図示せず)を介して、バッテリ(図示せず)が接続されている。したがって、バッテリに蓄えられている電力をモータ1に供給し、モータ1を原動機として機能させて、駆動トルクを出力することができる。また、駆動輪6から伝達されるトルクによってモータ1を発電機として機能させて、その際に発生する回生電力をバッテリに蓄えることもできる。そして、モータ1は、後述するコントローラ4によって出力回転数や出力トルクが電気的に制御される。例えば、運転者によるアクセルペダル(図示せず)の操作量および車速から要求駆動力が算出され、その要求駆動力に対応して設定される要求駆動トルク(すなわち、モータ1の制御目標値)に基づいて、モータ1の出力トルクが制御される。なお、要求駆動トルクは、後述するように、例えばマップの形態で、モータ1のトルク特性が段階的に異なる複数のレンジに分かれて設定されている。そして、後述するシフト装置2によっていずれか一つのレンジが選択され、その選択されたレンジに対応する要求駆動トルクが設定される。
【0026】
図2に示すように、モータ1は、特有のトルク特性を有している。
図2では、縦軸を要求駆動トルクとし、横軸を車速として、モータ1のトルク特性を示している。横軸の車速は、モータ1から駆動輪6の間のギヤ比を考慮すると、モータ1の回転数と考えてもよい。また、
図2の実線は、モータ1の出力制限がない場合のトルク特性を示し、点線は、モータ1の出力制限がある場合のトルク特性を示している。モータ1の出力制限は、例えば、モータ1の温度が所定の上限温度よりも高い場合、あるいは、逆に、モータ1の温度が所定の下限温度よりも低い場合などに、モータ1を保護するために、モータ1の負荷を軽減するためのものである。また、例えば、バッテリのSOCが低い場合や、バッテリの温度が低い場合に、バッテリの放電制限が行われることにより、モータ1は、上記のような出力制限がかけられた場合と同等の状態になる。
【0027】
また、モータ1は、例えば、
図3に示すようなマップに基づいて、要求駆動トルクが設定される。
図3に示すマップは、上記の
図2で示したモータ1のトルク特性を基にして、車速(または、モータ1の回転数)、および、アクセルペダルの操作量に応じた、要求駆動トルクを示している。なお、
図3は、後述する要求駆動トルクのレンジが、“Dレンジ”(標準的な走行レンジ)の場合に算出される要求駆動トルクを示している。
【0028】
そして、上記のようなモータ1の要求駆動トルクは、例えば、
図4に示すようなマップの形態で、モータ1のトルク特性が段階的に異なる複数のレンジに分かれて設定されている。
図4は、例えば、アクセルペダルの操作量が50%のときに対応する要求駆動トルクの複数のレンジを示している。
図4に示す例では、下から順に、“Dレンジ”、“3レンジ”、“2レンジ”、および、“Lレンジ(1レンジ)”で設定される要求駆動トルクを示してある。“Dレンジ”は、通常の走行時に、標準的な要求駆動トルクを設定するレンジである。“3レンジ”は、“Dレンジ”よりも1段階大きい要求駆動トルクを設定するレンジである。“2レンジ”は、“3レンジ”よりも1段階大きい要求駆動トルクを設定するレンジである。そして、“Lレンジ”は、“2レンジ”よりも1段階大きい要求駆動トルクを設定するレンジである。
【0029】
要するに、この発明の実施形態における電動車両の制御装置では、モータ2の出力トルクを制御する際の制御目標値、すなわち、要求駆動トルクを算出するために、上記の
図3、
図4に示すようなマップ、すなわち、駆動トルクマップが設けられている。駆動トルクマップは、車速(または、モータ2の回転数)に対するモータ2のトルク特性を設定したマップである。そして、上記のようなモータ2のトルク特性がアクセルペダルの操作量(運転者による駆動力要求量)に応じて段階的に異なる駆動トルクマップが、複数のレンジに分かれて設定されている。
【0030】
シフト装置2は、運転者によって手動操作され、上記のように複数段階に分かれて設定されたモータ1のトルク特性のレンジから、いずれか一つのレンジを選択する。すなわち、複数のレンジに分かれて設定された駆動トルクマップから、いずれか一つのレンジに対応する駆動トルクマップが選択される。この発明の実施形態における車両Veは、実際には、従来のエンジン車両に設けられているような変速機を搭載していない。そのため、車両Veは、本来は、変速機の変速操作を行うための“シフト装置”を必要としない。このシフト装置2、および、上記のように複数段階に分けられたトルク特性のレンジ、および、駆動トルクマップは、実際の変速機の変速操作を行うためのものではなく、電動車両Veであっても、従来と同様の、手動操作による変速の感覚を運転者が体感できるようにするために、模擬的に設けられている。
【0031】
具体的には、シフト装置2は、マニュアル操作部2aを有している。マニュアル操作部2aは、運転者の手動操作によって動作し、複数段階のレンジからいずれか一つのレンジを選択する。シフト装置2は、マニュアル操作部2aによって選択されたレンジに対応するスイッチ信号を出力する。スイッチ信号は、後述するコントローラ4に送信される。
【0032】
マニュアル操作部2aは、例えば、
図5に示すような、シフトレバー2bおよびシフトゲート2c,2dから構成される。
図5に示すシフト装置2は、従来の自動変速機(多段変速機)を搭載した車両で用いられている既存の“シフト装置”と同様の構成であり、
図5の左側に示すシフトゲート2cで、シフトレバー2bを移動させることにより、“ドライブ(D)レンジ”、“リバース(R)レンジ”、および、“パーキング(P)レンジ”のいずれかを選択する。また、シフト装置2は、
図5の右側に示すシフトゲート2dで、シフトレバー2bをアップ(+)側に移動させることにより、要求駆動トルクが小さくなる方向のレンジに1段シフトする。すなわち、従来の変速機におけるアップシフトに相当するレンジの切り替えが行われる。一方、シフトレバー2bをダウン(-)側に移動させることにより、要求駆動トルクが大きくなる方向のレンジに1段シフトする。すなわち、従来の変速機におけるダウンシフトに相当するレンジの切り替えが行われる。
【0033】
また、マニュアル操作部2aは、例えば、
図6に示すような、ステアリングホイール8に設けられたシフトスイッチ2e,2f、あるいは、ステアリングホイール8に設けられたパドルスイッチ2g,2hなどから構成される。
図6に示すシフト装置2は、従来の自動変速機(多段変速機)を搭載した車両で用いられている既存の“シフトスイッチ”、あるいは、既存の“パドルスイッチ”と同様の構成である。
図6の(a)に示すシフトスイッチ(+スイッチ)2eは、例えば、ステアリングホイール8のスポーク部8aの裏側に設けられており、このシフトスイッチ2eを1回操作する(ONにする)ことにより、要求駆動トルクが小さくなる方向のレンジに1段シフトする。すなわち、従来の変速機におけるアップシフトに相当するレンジの切り替えが行われる。また、
図6の(a)に示すシフトスイッチ(-スイッチ)2fは、例えば、ステアリングホイール8のスポーク部8aの表側に設けられており、このシフトスイッチ2fを1回操作する(ONにする)ことにより、要求駆動トルクが大きくなる方向のレンジに1段シフトする。すなわち、従来の変速機におけるダウンシフトに相当するレンジの切り替えが行われる。同様に、
図6の(b)に示すパドルスイッチ(UPスイッチ)2gを1回操作する(ONにする)ことにより、要求駆動トルクが小さくなる方向のレンジに1段シフトする。すなわち、従来の変速機におけるアップシフトに相当するレンジの切り替えが行われる。また、
図6の(b)に示すパドルスイッチ(DOWNスイッチ)2hを1回操作する(ONにする)ことにより、要求駆動トルクが大きくなる方向のレンジに1段シフトする。すなわち、従来の変速機におけるダウンシフトに相当するレンジの切り替えが行われる。
【0034】
上記の
図5、
図6に示すようなマニュアル操作部2aを有するシフト装置2では、例えば、
図7に示すようなイメージで、レンジの切り替えが行われる。これは、従来の自動変速機(多段変速機)をマニュアルモードで操作する際の、いわゆるシーケンシャルシフトと同様の切り替え操作である。
図7に示すように、“Dレンジ”、“3レンジ”、“2レンジ”、および、“Lレンジ(1レンジ)”の四段階のレンジが設定されている場合、例えば、“Dレンジ”から、シフトスイッチ(-スイッチ)2fまたはパドルスイッチ(DOWNスイッチ)2hが1回操作されることにより、1段階、要求駆動トルクが大きくなる“3レンジ”が選択され、シフトスイッチ2fまたはパドルスイッチ2hが2回操作されることにより、2段階、要求駆動トルクが大きくなる“2レンジ”が選択され、シフトスイッチ2fまたはパドルスイッチ2hが3回操作されることにより、3段階、要求駆動トルクが大きくなる“Lレンジ”が選択される。反対に、“Lレンジ”から、シフトスイッチ(+スイッチ)2eまたはパドルスイッチ(UPスイッチ)2gが1回操作されることにより、1段階、要求駆動トルクが小さくなる“2レンジ”が選択され、シフトスイッチ2eまたはパドルスイッチ2gが2回操作されることにより、2段階、要求駆動トルクが小さくなる3レンジ”が選択され、シフトスイッチ2eまたはパドルスイッチ2gが3回操作されることにより、3段階、要求駆動トルクが小さくなる“Dレンジ”が選択される。
【0035】
更に、シフト装置2は、例えば、前述した特許文献1に記載されているような、MT車両に搭載されるものを想定した模擬的な“シフト装置”であってもよい。そのような従来のMT車両用の“シフト装置”を想定したシフト装置2では、シフトレバー(図示せず)は、いわゆるHパターンと呼ばれるシフトパターン(あるいは、シフトゲート)をトレースして動作するように構成される。例えば、6段変速の“シフト装置”を想定したシフト装置2では、運転者によって操作されるシフトレバーの位置に応じて、第1速ポジションから第6速ポジション、および、リバース(R)ポジションが選択的に設定される。また、そのような従来のMT車両用の“シフト装置”を想定したシフト装置2では、運転者は、例えば、第6速ポジションに相当するレンジから、第4速ポジションに相当するレンジに切り替えるような、いわゆる飛び変速操作に相当する切り替え操作を行うことが可能である。なお、車両Veは、上記のような従来のMT車両用の“シフト装置”を想定したシフト装置2と併せて、MT車両に搭載されるものを想定した模擬的な“クラッチ装置”を設けてもよい。そして、従来のMT車両の運転操作と同様に、それらシフト装置2と“クラッチ装置”とが連係して操作されるように構成してもよい。
【0036】
この発明の実施形態における電動車両の制御装置では、上記のようなシーケンシャルシフトに相当するレンジの切り替え操作において、現在選択されているレンジから2段階以上異なる他のレンジに切り替えるための切り替え操作、あるいは、MT車両用の“シフト装置”における飛び変速操作に相当するレンジの切り替え操作を、連続切り替え操作と定義している。そして、後述するように、この発明の実施形態における電動車両の制御装置は、上記のような連続切り替え操作が行われた場合に、その連続切り替え操作による切り替え先のレンジで設定される予定の要求駆動トルクに基づいて、実際のレンジの切り替えの可否を判断するように構成されている。
【0037】
検出部3は、車両Veを制御する際に必要な各種のデータや情報を取得するための機器あるいは装置であり、例えば、電源部、マイクロコンピュータ、センサー、および、入出力インターフェース等を含んでいる。特に、この発明の実施形態における検出部3は、車両Veの走行状態、モータ1の運転状態、および、シフト装置2の作動状態等をそれぞれ検出するとともに、モータ1を制御するための各種データを検出する。具体的には、検出部3は、車速を検出する車速センサー3a、運転者によるアクセルペダルの操作量(踏み込み量、踏み込み角度等)を検出するアクセルペダルセンサー3b、運転者によるシフト装置2の操作位置を検出するシフトポジションセンサー3c、および、モータ1の回転数を検出するモータ回転数センサー(または、レゾルバ)3dなどを有している。その他に、検出部3は、例えば、バッテリー(図示せず)の充電状態(SOC)を検出するSOCセンサー3e、バッテリーの温度を検出するバッテリー温度センサー3fなどを有している。そして、検出部3は、後述するコントローラ4と電気的に接続されており、上記のような各種センサーや機器・装置等の検出値または算出値に応じた電気信号を検出データとしてコントローラ4に出力する。
【0038】
コントローラ4は、例えば、マイクロコンピュータを主体にして構成される電子制御装置であり、この発明の実施形態におけるコントローラ4は、車両Veを制御するとともに、特に、駆動力源としてのモータ1の出力トルクを制御する。コントローラ4には、上記の検出部3で検出または算出された各種データ等が入力される。コントローラ4は、入力された各種データおよび予め記憶させられているデータや計算式等を使用して演算を行う。そして、コントローラ4は、その演算結果を制御指令信号として出力し、上記のように、モータ1の出力トルクを制御するように構成されている。なお、
図1では一つのコントローラ4が設けられた例を示しているが、コントローラ4は、制御する装置や機器毎に、あるいは、制御内容毎に、複数設けられていてもよい。
【0039】
前述したように、この発明の実施形態における電動車両の制御装置は、車両Veの安定性および操作性を低下させることなく、運転者が、従来と同様の手動操作による変速の感覚を体感できるように構成されている。そのためにコントローラ4で実行される制御の一例を、
図8のフローチャートに示してある。
【0040】
この
図8のフローチャートで示す制御は、車両Veが走行する際に実行される。なお、この発明の実施形態における車両Veは、上記のように、変速機を備えた従来の車両の変速操作を模擬的に体感することを可能にした構成である。例えば、シフト装置2のマニュアル操作部2aを用いた模擬的な変速操作を可能にするマニュアルモードと、一般的な電動車両として運転操作する通常モードとを選択的に設定できるように構成してもよい。その場合、この
図8のフローチャートで示す制御は、マニュアルモードが選択された状態で車両Veが走行する際に実行される。
【0041】
図8のフローチャートにおいて、先ず、ステップS1では、DOWNスイッチ信号の入力があるか否かが判断される。DOWNスイッチ信号は、マニュアル操作部2aが操作された場合にONになってコントローラ4に入力される信号である。例えば、前述したシフトスイッチ(-スイッチ)2fまたはパドルスイッチ(DOWNスイッチ)2hが1回操作された場合にコントローラ4に入力される信号である。具体的には、
図9のタイムチャートに、時刻t1から時刻t2までの期間で示す時間Ts1以上、シフトスイッチ2fまたはパドルスイッチ2hが操作された場合に、DOWNスイッチ信号の入力ありと判断される。時間Ts1は、シフトスイッチ2fまたはパドルスイッチ2hが操作されたことを確認するための時間である。
【0042】
未だ、DOWNスイッチ信号の入力がないことにより、このステップS1で“No”と判断された場合は、以降の各ステップの制御を実行することなく、この
図8のフローチャートで示すルーチンを一旦終了する。
【0043】
それに対して、DOWNスイッチ信号の入力があったことにより、ステップS1で“Yes”と判断された場合には、ステップS2へ進む。
【0044】
ステップS2では、ダウンレンジが実施される。ダウンレンジは、現在選択されているレンジから、要求駆動トルクが大きくなる方向のレンジへの切り替えである。
図9のタイムチャートに示す例では、DOWNスイッチ信号の入力が確認された時刻t2以降に、現在選択されている“Dレンジ”から、要求駆動トルクが1段階大きくなる“3レンジ”へのレンジの切り替えが実施される。
【0045】
続いて、ステップS3では、連続DOWNスイッチ信号の入力があるか否かが判断される。連続DOWNスイッチ信号は、上記のようなDOWNスイッチ信号が連続した信号であり、この発明の実施形態における連続切り替え操作の有無を判定するための信号である。具体的には、
図9のタイムチャートに、時刻t3から時刻t4までの期間で示す時間Ti以上、シフトスイッチ2fまたはパドルスイッチ2hの操作がOFFになった後に、時刻t5から時刻t6までの期間で示す時間Ts2以上、再び、シフトスイッチ2fまたはパドルスイッチ2hが操作された場合に、連続DOWNスイッチ信号の入力ありと判断される。すなわち、運転者によるレンジの連続切り替え操作があったと判断される。時間Tiは、シフトスイッチ2fまたはパドルスイッチ2h操作がOFFになったことを確認するための時間である。また、時間Ts2は、シフトスイッチ2fまたはパドルスイッチ2hが、上記のように再度操作されたことを確認するための時間である。
【0046】
なお、運転者によるレンジの連続切り替え操作は、シフトスイッチ2fまたはパドルスイッチ2hが、所定時間以上連続して操作された場合に、連続切り替え操作ありと判断されてもよい。例えば、
図9のタイムチャートに示す例で、時刻t1から時刻t6で示す期間(すなわち、時間Ts1と時間Tiと時間Ts2を合計した時間)以上、シフトスイッチ2fまたはパドルスイッチ2hの操作が継続された場合に、連続切り替え操作ありと判断される。
【0047】
未だ、連続DOWNスイッチ信号の入力がないことにより、このステップS3で“No”と判断された場合は、以降の各ステップの制御を実行することなく、この
図8のフローチャートで示すルーチンを一旦終了する。
【0048】
それに対して、連続DOWNスイッチ信号の入力があったこと、すなわち、運転者によるレンジの連続切り替え操作が行われたことにより、ステップS3で“Yes”と判断された場合には、ステップS4へ進む。
【0049】
なお、前述したように、従来のMT車両用の“シフト装置”を模擬したシフト装置2を用いた場合は、例えば、第6速ポジションに相当するレンジから、第4速ポジションに相当するレンジに切り替えるような、いわゆる飛び変速操作に相当するレンジの切り替え操作を、連続切り替え操作とする。したがって、上記のステップS3では、従来のMT車両用の“シフト装置”を模擬したシフト装置2において、上記のような飛び変速操作に相当するレンジの切り替え操作が行われた場合は、連続DOWNスイッチ信号の入力ありと判断される。
【0050】
ステップS4では、連続DOWNスイッチ信号が許可範囲内であるか否かが判断される。言い換えると、連続DOWNスイッチ信号の受け付けの可否が判断される。具体的には、切り替え先のレンジで設定される予定の要求駆動トルク(制御目標値)に基づいて、連続切り替え操作によるレンジの実際の切り替えを許可するか否かが判断される。例えば、
図10に示すように、連続切り替え操作の可否を判断するための閾値としてトルク閾値が設定されている。そして、上記のような連続切り替え操作によって切り替えられる(切り替え先の)レンジで設定される予定の要求駆動トルクが、トルク閾値以下の場合は、そのレンジの切り替えが許可される。切り替え先のレンジで設定される予定の要求駆動トルクが、トルク閾値よりも大きい場合は、そのレンジの切り替えが拒否される(不許可とされる)。言い換えると、切り替え先のレンジで設定される予定の要求駆動トルクが、車速またはモータ1の回転数を考慮して設定された切り替え許可判定領域内であれば、連続切り替え操作によるレンジの実際の切り替えが許可される。
【0051】
この場合のトルク閾値は、例えば、実車による走行実験やシミュレーションなどの結果を基に、車速またはモータ1の回転数に対応して、予め設定されている。具体的には、トルク閾値は、
図10に示すように、車速が低いほど、大きくなるように設定されている。なお、モータ1は、車両Veの駆動力源として駆動トルクを出力する場合、車速に依存して回転数が増減する。そのため、車速またはモータ1の回転数のいずれかをパラメータとして、上記のようなトルク閾値を設定することができる。
【0052】
また、この発明の実施形態では、上記のようなトルク閾値に替えて、トルク段差閾値を用いて、連続切り替え操作の可否を判断することもできる。例えば、
図11に示すように、連続切り替え操作の可否を判断するための閾値としてトルク段差閾値が設定されている。そして、現在の要求駆動トルクに対して、上記のような連続切り替え操作によって切り替えられる(切り替え先の)レンジで設定される予定の要求駆動トルクの増加割合(いわゆる、トルク段差)が、トルク段差閾値以下の場合は、そのレンジの切り替えが許可される。切り替え先のレンジで設定される予定の要求駆動トルクの増加割合が、トルク段差閾値よりも大きい場合は、そのレンジの切り替えが拒否される(不許可とされる)。言い換えると、切り替え先のレンジで設定される予定の要求駆動トルクの増加割合が、車速またはモータ1の回転数を考慮して設定された切り替え許可判定領域内であれば、連続切り替え操作によるレンジの実際の切り替えが許可される。
【0053】
この場合のトルク段差閾値も、例えば、実車による走行実験やシミュレーションなどの結果を基に、車速またはモータ1の回転数に対応して、予め設定されている。具体的には、トルク段差閾値は、
図11に示すように、車速が低いほど、大きくなるように設定されている。
【0054】
なお、上記のようなトルク閾値またはトルク段差閾値は、車両Veの走行モードに応じて変更してもよい。例えば、車両Veが、標準的な走行モード(ノーマルモード)に加えて、スポーツモードを選択的に設定できる構成であった場合に、スポーツモードでは、ノーマルモードと比較し、トルク閾値またはトルク段差閾値を大きくしてもよい。すなわち、上記のような切り替え許可判定領域を拡大してもよい。スポーツモードは、ノーマルモードと比較して、より動的な加速特性で走行することを可能にした走行モードである。したがって、スポーツモードでは、車両Veの快適性や安定性よりも、車両Veの操作性や動力性能および走行性能の向上を重視し、上記のようにトルク閾値またはトルク段差閾値がより大きな値に設定される。トルク閾値またはトルク段差閾値を大きくして、切り替え許可判定領域を拡大することにより、レンジの切り替えが許可されやすくなる。そのため、車両Veが、要求駆動トルクが大きくなる状況で走行する場合であっても、連続切り替え操作によるレンジの切り替えが実施されやすくなり、車両Veの操作性が向上する。
【0055】
連続DOWNスイッチ信号が許可範囲内である、すなわち、連続切り替え操作によるレンジの実際の切り替えが許可されたことにより、ステップS4で“Yes”と判断された場合には、ステップS5へ進む。
【0056】
ステップS5では、更なるダウンレンジ、すなわち、いわゆる飛びレンジが実施される。この場合の飛びレンジは、現在選択されているレンジから、要求駆動トルクが2段階以上大きくなる方向のレンジへの切り替えである。
図9のタイムチャートに示す例では、時刻t6で連続DOWNスイッチ信号の受け付けが許可され、その時刻t6以降に、現在選択されている“Dレンジ”から、“3レンジ”を飛ばして、要求駆動トルクが2段階大きくなる“2レンジ”へのレンジの切り替えが実施される。
【0057】
続いて、ステップS5では、従前のステップS3と同じく、連続DOWNスイッチ信号の入力があるか否かが判断される。連続DOWNスイッチ信号の入力があったこと、すなわち、運転者によるレンジの連続切り替え操作が再度行われたことにより、このステップS3で“Yes”と判断された場合は、ステップS4に戻り、従前と同様の制御が実行される。
【0058】
それに対して、連続DOWNスイッチ信号の入力がないことにより、ステップS5で“No”と判断された場合には、以降の制御を実行することなく、この
図8のフローチャートで示すルーチンを一旦終了する。
【0059】
一方、連続DOWNスイッチ信号が許可範囲外である、すなわち、連続切り替え操作によるレンジの実際の切り替えが拒否されたことにより、上述のステップS4で“No”と判断された場合には、ステップS7へ進む。
【0060】
ステップS7では、連続DOWNスイッチ信号の受け付けが不可とされる。すなわち、連続切り替え操作によるレンジの切り替えの拒否が確定される。
図9のタイムチャートに示す例では、時刻t6で連続DOWNスイッチ信号の受け付けが不可とされ、その時刻t6以降に、現在選択されている“Dレンジ”から、“2レンジ”への切り替え(飛びレンジ)は実施されずに、要求駆動トルクが1段階だけ大きくなる“3レンジ”へのレンジの切り替えが実施される。その後、この
図8のフローチャートで示すルーチンを一旦終了する。
【0061】
このように、この発明の実施形態における電動車両の制御装置では、運転者によるシフト装置2の連続切り替え操作が行われた場合に、その連続切り替え操作によるレンジの実際の切り替えを許可するか否かが判断される。例えば、切り替え先のレンジで設定される要求駆動トルクがトルク閾値よりも大きい場合、あるいは、現在の要求駆動トルクに対する切り替え先のレンジで設定される要求駆動トルクの増加割合がトルク段差閾値よりも大きい場合は、車両Veの挙動が乱れてしまう可能性があると判断され、連続切り替え操作によるレンジの切り替えが拒否される。切り替え先のレンジで設定される要求駆動トルクがトルク閾値以下である場合、あるいは、現在の要求駆動トルクに対する切り替え先のレンジで設定される要求駆動トルクの増加割合がトルク段差閾値以下である場合は、車両Veの挙動が乱れてしまう可能性はないと判断され、連続切り替え操作によるレンジの切り替えが許可される。そのため、連続切り替え操作によるレンジの実際の切り替えは、車両Veの挙動が乱れてしまうおそれのない安定した状態で適切に実施される。そして、上述したようなシフト装置2を用いたレンジの切り替え操作により、変速機を搭載した車両の変速操作を模擬的に再現することができる。
【0062】
したがって、この発明の実施形態における電動車両の制御装置によれば、車両Veの操作性および安定性を共に低下させることなく、変速機を搭載した従来の車両と同様の操作感覚を、適切に、運転者に体感させることができる。
【符号の説明】
【0063】
1 モータ(駆動力源)
2 シフト装置
2a (シフト装置の)マニュアル操作部
2b (マニュアル操作部の)シフトレバー
2c,2d (マニュアル操作部の)シフトゲート
2e,2f (マニュアル操作部の)シフトスイッチ
2g,2h (マニュアル操作部の)パドルスイッチ
3 検出部
3a (検出部の)車速センサー
3b (検出部の)アクセルペダルセンサー
3c (検出部の)シフトポジションセンサー
3d (検出部の)モータ回転数センサー(または、レゾルバ)
3e (検出部の)SOCセンサー
3f (検出部の)バッテリー温度センサー
4 コントローラ(ECU)
5 デファレンシャルギヤ
6 駆動輪(前輪)
7 後輪
8 ステアリングホイール
8a (ステアリングホイールの)スポーク部
Ve 車両(電動車両)